説明

ヒンジ

【課題】部品点数の増加を伴わず、かつ外部に突出した部分を形成せずに回動角度の上限値および下限値を規制することが可能なヒンジを提供する。
【解決手段】ヒンジ100に、収容室14が内部に形成されるケース10と、ケース10に回動可能に支持されたときに延長部22およびカム部23が収容室14に収容されるアーム20と、収容室14に収容され、ケース10の内周面に当接しつつ移動可能なスライダ40と、収容室14に収容され、スライダ40を付勢してスライダ40をカム部23に当接させることによりアーム20にトルクを付与する巻きバネ50と、を具備し、延長部22に形成された第一回動規制面22aおよび第二回動規制面22bがケース10の内周面に当接することによりケース10に対するアーム20の回動角度θの上限値および下限値を規制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二つの部材を回動可能に連結するヒンジに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複写機、ファクシミリ、スキャナー等、オフィスで使用される事務機器の本体と原稿読み取り部に載置された原稿を原稿読み取り部に密着させて当該原稿読み取り部に対する原稿の位置を保持する原稿圧着板とを回動可能に連結するヒンジが知られている。
【0003】
このようなヒンジの多くは、内部に空間が形成されるとともに事務機器の本体に固定されるケース状の第一部材、カムを備えるとともに原稿圧着板に固定される第二部材、第一部材および第二部材を回動可能に連結する回動軸、第一部材の内部に形成された空間に移動可能に収容されるスライダ、および第一部材の内部に形成された空間に収容されるとともにスライダを第二部材のカムに当接する方向に付勢する巻きバネを具備する。
このようなヒンジは、巻きバネの付勢力で原稿圧着板の重量を支えることにより事務機器の本体に対する原稿圧着板の回動角度(開閉角度)を任意の角度で保持し(フリーストップ機能)、ひいては作業者が原稿圧着板を回動(開閉)させて原稿読み取り部へ原稿を載置する作業を容易にしている。
【0004】
また、第一部材に対する第二部材の回動角度の上限値および下限値のいずれか一方、または両方を規制する機能を備えるヒンジも知られている。例えば特許文献1から特許文献5に記載の如くである。
【0005】
特許文献1に記載のヒンジの場合、上記第二部材に対応する部材において外部に露出している部分に突起(回動停止部および後方突起部)が形成され、上記第一部材に対応する部材が当該突起に当接することにより第一部材に対する第二部材の回動角度の上限値および下限値が規制される。
特許文献2に記載のヒンジの場合、上記第二部材に対応する部材において外部に露出している部分に突起(カム係合部)が形成され、上記スライダに対応する部材が当該突起に当接することにより第一部材に対する第二部材の回動角度の上限値が規制される。
特許文献3および特許文献4に記載のヒンジの場合、上記第二部材に対応する部材において外部に露出している部分に段差(特許文献3においてはストッパー部、特許文献4においては回転規制部)が形成され、上記第一部材に対応する部材が当該段差に当接することにより第一部材に対する第二部材の回動角度の上限値が規制される。
特許文献5に記載のヒンジの場合、上記第一部材に対応する部材にストッパーシャフトが軸支され、上記第二部材に対応する部材がストッパーシャフトに当接することにより第一部材に対する第二部材の回動角度の上限値が規制される。
【0006】
しかし、特許文献1から特許文献4に記載のヒンジの場合、上記突起(あるいは段差)はヒンジの外部に露出し、回動軸の半径方向に突出しているため、ヒンジの外形寸法が大きくなる傾向がある。
【0007】
また、特許文献1から特許文献4に記載のヒンジの場合、第一部材および第二部材を回動可能に連結する回動軸から第一部材に対する第二部材の回動角度の上限値を規制するための突起(あるいは段差)までの距離が小さい。
そのため、これらのヒンジにより回動可能に連結される二つの部材の間(例えば事務機器の本体および原稿圧着板の間)に大きな外力(過負荷)が作用した場合、上記突起(あるいは段差)には非常に大きなトルクが作用する。
上記突起あるいは段差の変形または破損を防止するためには(a)非常に強度が高い材料(例えば、いわゆるエンジニアリングプラスチック、炭素繊維強化型の樹脂材料等)を用いてヒンジを構成する部品を製造する、あるいは(b)上記突起、段差あるいはこれらの周囲の肉厚を大きくすることによりこれらの強度を向上させる、といった対策をとらなければならず、ヒンジの大型化および製造コストの上昇の原因となる。
【0008】
また、特許文献5に記載のヒンジの場合、第一部材に対する第二部材の回動角度の上限値を規制するために別部品を追加するため、ヒンジを構成する部品点数が増加し、ヒンジの製造コストが上昇する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−266055号公報
【特許文献2】特開2008−268522号公報
【特許文献3】特開2010−282158号公報
【特許文献4】特開2009−071804号公報
【特許文献5】特開2010−271628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は以上の如き状況に鑑みて為されたものである。すなわち、本発明が解決しようとする問題は、部品点数の増加を伴わず、かつ外部に突出した部分(突起、段差等)を形成せずに回動角度の上限値および下限値を規制することが可能なヒンジを提供すること、である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下に上記課題を解決するための手段を説明する。
【0012】
即ち、請求項1においては、
内周面に囲まれた空間が内部に形成され、一端部が閉塞されるとともに他端部が開口し、第一連結対象物または第二連結対象物のいずれか一方に固定される第一固定部材と、
前記第一固定部材の他端部に回動可能に支持されるとともに前記第一連結対象物または前記第二連結対象物のいずれか他方に固定される本体部、一端部が前記本体部に連なるとともに前記第一固定部材の内部に形成された空間に収容される延長部、ならびに、前記延長部の他端部に連なるとともに前記第一固定部材の内部に形成された空間に収容されるカム部、を備える第二固定部材と、
前記第一固定部材の内部に形成された空間に収容され、前記第一固定部材の内周面に当接しつつ前記第一固定部材の他端部から突出する突出方向および前記第一固定部材の内部の空間に没入する没入方向に移動可能なスライド部材と、
前記第一固定部材の内部に形成された空間に収容され、前記スライド部材を前記突出方向に付勢して前記スライド部材を前記カム部に当接させることにより前記第一固定部材に対して回動するトルクを前記第二固定部材に付与する付勢部材と、
を具備し、
前記延長部には第一回動規制面および第二回動規制面が形成され、
前記第一回動規制面が前記第一固定部材の内周面に当接することにより前記第一固定部材に対する前記第二固定部材の回動角度の上限値が規制され、
前記第二回動規制面が前記第一固定部材の内周面に当接することにより前記第一固定部材に対する前記第二固定部材の回動角度の下限値が規制されるものである。
【0013】
請求項2においては、
前記第一回動規制面、前記第二回動規制面、前記第一固定部材の内周面において前記第一回動規制面に対向する部分、および前記第一固定部材の内周面において前記第二回動規制面に対向する部分、は前記第一固定部材に対する前記第二固定部材の回動軸の軸線方向に対して平行な平面である。
【0014】
請求項3においては、
前記第一固定部材において前記第一回動規制面が当接する部分、前記第二回動規制面が当接する部分、およびこれらを繋ぐ部分の肉厚は、前記第一固定部材における他の部分の肉厚よりも大きいものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、部品点数の増加を伴わず、かつ外部に突出した部分を形成せずにヒンジの回動角度の上限値および下限値を規制することが可能である、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るヒンジの実施の一形態を具備するスキャナーを示す左側面図。
【図2】(a)本発明に係るヒンジの実施の一形態を示す左前上方から見た斜視図、(b)本発明に係るヒンジの実施の一形態を示す右後下方から見た斜視図。
【図3】(a)本発明に係るヒンジの実施の一形態を示す正面図、(b)本発明に係るヒンジの実施の一形態を示す背面図。
【図4】(a)本発明に係るヒンジの実施の一形態を示す平面図、(b)本発明に係るヒンジの実施の一形態を示す底面図。
【図5】(a)本発明に係るヒンジの実施の一形態を示す左側面図(回動角度θ=0°)、(b)本発明に係るヒンジの実施の一形態を示す右側面図(回動角度θ=0°)。
【図6】本発明に係るヒンジの実施の一形態を示す左側面断面図(図3(a)のA−A矢視断面図、回動角度θ=0°)。
【図7】本発明に係るヒンジの実施の一形態におけるケースを示す左前上方から見た斜視図、(b)本発明に係るヒンジの実施の一形態におけるケースを示す右後下方から見た斜視図。
【図8】本発明に係るヒンジの実施の一形態におけるケースの内周面を示す左前上方から見た斜視図、(b)本発明に係るヒンジの実施の一形態におけるアームを示す左側面図。
【図9】本発明に係るヒンジの実施の一形態におけるアームを示す左前上方から見た斜視図、(b)本発明に係るヒンジの実施の一形態におけるアームを示す右後下方から見た斜視図。
【図10】本発明に係るヒンジの実施の一形態におけるスライダを示す左前上方から見た斜視図、(b)本発明に係るヒンジの実施の一形態におけるスライダを示す右後下方から見た斜視図。
【図11】(a)本発明に係るヒンジの実施の一形態における回動ピンを示す左前上方から見た斜視図、(b)本発明に係るヒンジの実施の一形態における巻きバネを示す左前上方から見た斜視図。
【図12】本発明に係るヒンジの実施の一形態を示す左側面断面図(回動角度θ=30°)。
【図13】本発明に係るヒンジの実施の一形態を示す左側面断面図(回動角度θ=43°)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では図1を用いて本発明に係るヒンジの実施の一形態であるヒンジ100を具備するスキャナー1について説明する。スキャナー1は事務機器の一種であり、スキャナー本体2、原稿圧着板3およびヒンジ100を具備する。
【0018】
スキャナー本体2は本発明に係る第一連結対象物の実施の一形態である。「第一連結対象物」は本発明に係るヒンジにより回動可能に連結される二つの物品の一方を指す。
スキャナー本体2は原稿読み取り装置、制御装置、表示装置および入力装置を具備する。スキャナー本体2の原稿読み取り装置はスキャナー本体2の上面に配置される。スキャナー本体2の原稿読み取り装置はスキャナー本体2の上面に載置された原稿を読み取る(原稿の画像情報を生成する)。スキャナー本体2の制御装置はスキャナー1の各部の動作、より詳細にはスキャナー本体2の原稿読み取り装置の動作を制御する。スキャナー本体2の制御装置はスキャナー本体2の原稿読み取り装置が生成した画像情報を記憶すること、および当該画像情報をスキャナー本体2に接続された回線(例えば、インターネット回線等)を通じて他の機器(パーソナルコンピュータ等)に送信することが可能である。スキャナー本体2の表示装置は例えば液晶パネルからなり、スキャナー1の動作状況等に係る情報を表示する。スキャナー本体2の入力装置はボタン、スイッチ等からなり、作業者がスキャナー1に対する指示等を入力する際に操作される。スキャナー本体2の表示装置および入力装置はスキャナー本体2の前上部に配置される。
【0019】
原稿圧着板3は本発明に係る第二連結対象物の実施の一形態である。「第二連結対象物」は本発明に係るヒンジにより回動可能に連結される二つの物品の他方を指す。
原稿圧着板3は板状の部材であり、スキャナー本体2の原稿読み取り装置の上に載置された原稿をスキャナー本体2の原稿読み取り装置に向かって押さえつける(圧着する)ことにより、原稿がスキャナー本体2の原稿読み取り装置に対して動くことを防止する。
【0020】
「事務機器」は、少なくとも原稿を読み取る(原稿の画像情報を取得する)機能を具備する装置を指す。「原稿」は、シート状物(紙、樹脂製のシート等)のシート面(広い面)に文章、書画、写真等が記されたものを指す。事務機器の具体例としては以下の(a)〜(d)等が挙げられる。
(a)原稿を読み取る機能および読み取った原稿に係る画像情報を他の機器(例えば、パーソナルコンピュータ)に送信する機能を具備するスキャナー。
(b)原稿を読み取る機能、読み取った原稿に係る画像情報を通信回線を介して他の機器に送信する機能および他の機器から取得した画像情報をプリントアウトする機能を具備するファクス。
(c)原稿を読み取る機能および読み取った原稿に係る画像情報をプリントアウトする機能を具備するコピー機(プリンタ)。
(d)上記スキャナー、ファクス、およびコピー機としての機能を兼ねる複合機。
なお、本発明に係るヒンジは事務機器を構成する二つの部品(事務機器の本体および原稿圧着板)を連結する用途に限定されない(本発明に係る第一連結対象物および第二連結対象物は事務機器を構成する二つの部品に限定されない)。例えば、本発明に係るヒンジは便器および便座、自動車の車体およびボンネットを回動可能に連結する用途等、種々の用途に適用可能である。
【0021】
以下では、図1から図13を用いて本発明に係るヒンジの実施の一形態であるヒンジ100について説明する。
ヒンジ100はスキャナー本体2および原稿圧着板3を回動可能に連結する。
図2から図6に示す如く、ヒンジ100はケース10、アーム20、回動ピン30、スライダ40および巻きバネ50を具備する。
【0022】
以下では「スキャナー本体2に対する原稿圧着板3の回動角度」および「ケース10に対するアーム20の回動角度」を同期させ、これらの回動角度をいずれも「回動角度θ」と定義し、これを用いて説明する。
本実施形態では原稿圧着板3がスキャナー本体2に対して閉じているときに回動角度θが0°であり、原稿圧着板3がスキャナー本体2に対して開く方向に回動したとき(図1において時計回りに回動したとき)に回動角度θが増加する(正の値となる)。
また、本実施形態における回動角度θの最小値(θmin)は0°であり、回動角度θの最大値(θmax)は43°である(0°=θmin≦θ≦θmax=43°)。
以下では便宜上、回動角度θ=0°のときの姿勢に基づいてヒンジ100が具備する各部材を説明する。
【0023】
以下では図1、図6、図7および図8の(a)を用いて本発明に係る第一固定部材の実施の一形態であるケース10の詳細について説明する。
図6および図7に示す如く、ケース10は筒部11、回動支持部12およびブラケット部13を備える。
【0024】
筒部11はケース10の下半部を成す概ね円筒形状の部分である。筒部11の内部には空間が形成される。筒部11の一端部(筒部11の下端部であり、ひいてはケース10の一端部)は閉塞されている。筒部11の内部の空間は内壁面11aおよび底面11bにより囲まれる。底面11bには概ね円筒形状のバネ突起11cが形成される。
【0025】
回動支持部12はケース10の上半部を成す概ね角筒形状の部分である。回動支持部12の内部には空間が形成される。回動支持部12の一端部(下端部)は筒部11の他端部(上端部)に連なり、回動支持部12の内部の空間と筒部11の内部の空間とは連通している。回動支持部12の他端部(本実施形態の場合、回動支持部12の上端部および回動支持部12の前面の上半部であり、ひいてはケース10の他端部)は開口している。
回動支持部12の内部の空間は前壁面12a、後壁面12b、左壁面12cおよび右壁面12dにより囲まれる。回動支持部12には軸支孔12e・12fが形成される。軸支孔12eは回動支持部12の左上端部において回動支持部12の外周面から左壁面12cまで貫通する。軸支孔12fは回動支持部12の右上端部において回動支持部12の外周面から右壁面12dまで貫通する。
【0026】
ブラケット部13は上下一対の板面を有する板状の部分である。ブラケット部13は回動支持部12の右前下端部に連なっており、回動支持部12の前方に突出している。
ブラケット部13には固定孔13aが形成される。固定孔13aはブラケット部13の上下一対の板面を貫通する。
【0027】
ケース10の内部には収容室14が形成される。本実施形態の収容室14は筒部11の内部に形成された空間および回動支持部12の内部に形成された空間を合わせたものである。収容室14は「本発明に係る第一固定部材の内部に形成された空間」の実施の一形態である。「内壁面11a、底面11b、前壁面12a、後壁面12b、左壁面12cおよび右壁面12dを合わせたもの」は収容室14を囲む内周面であり、本発明に係る第一固定部材の内周面の実施の一形態である。
【0028】
図8の(a)に示す如く、収容室14を囲む内周面にはガイド15a・15b・15c・15d・15e・15fが形成される。ガイド15a・15b・15c・15d・15e・15fはいずれも上下方向に延びた形状の突起(突条)であり、それぞれ前壁面12aの左右中央部、後壁面12bの左右中央部、左壁面12cの前半部、左壁面12cの後半部、右壁面12dの前半部、右壁面12dの後半部に配置される。
【0029】
図1に示す如く、筒部11をスキャナー本体2の上面後部に形成された穴(不図示)に差し込み、ブラケット部13の固定孔13aを貫通させたネジ(不図示)をスキャナー本体2の上面後部に形成されたネジ穴(不図示)にねじ込むことにより、ケース10がスキャナー本体2に固定される。
【0030】
本実施形態の場合、樹脂材料を射出成形し、筒部11、回動支持部12およびブラケット部13を一体的に成形することによりケース10が製造されるが、本発明に係る第一固定部材の製造方法はこれに限定されない。例えば、金属板を適宜折り曲げる、あるいはアルミニウム合金等で鋳造する、といった方法により第一固定部材を製造しても良い。
【0031】
以下では図1、図6、図8の(b)および図9を用いて本発明に係る第二固定部材の実施の一形態であるアーム20の詳細について説明する。
図8の(b)および図9に示す如く、アーム20は本体部21、延長部22およびカム部23を備える。本実施形態の場合、樹脂材料を射出成形し、本体部21、延長部22およびカム部23を一体的に成形することにより、アーム20が製造される。
【0032】
図8の(b)に示す如く、本実施形態の本体部21はアーム20において境界線5よりも上方となる部分に相当し、アーム20の主たる構造体を成す部分である。本体部21の形状は概ね前後方向に延びたブロック状である。
本体部21には固定孔21aおよびネジ穴21bが形成される。固定孔21aは本体部21の後上部において本体部21を左右方向に貫通する。ネジ穴21bは本体部21の上面に開口し、ネジ穴21bの内周面には雌ネジが形成される。
【0033】
図8の(b)に示す如く、本実施形態の延長部22はアーム20において境界線5および境界線6で挟まれる部分に相当し、本体部21に連なる部分である。より詳細には、延長部22の一端部(上端部)は本体部21の後下部に連なり、延長部22の他端部(下端部)は延長部22の一端部(上端部)の後下方に配置される。延長部22の形状は側面視で(換言すれば、固定孔21aの軸線方向から見て)延長部22の一端部(上端部)から延長部22の他端部(下端部)に向かって先細った概ね三角形状である。
延長部22の前下部には第一回動規制面22aが形成され、延長部22の後下部には第二回動規制面22bが形成される。第一回動規制面22aおよび第二回動規制面22bはいずれも固定孔21aの軸線方向(ひいては、ケース10に対するアーム20の回動軸たる回動ピン30の軸線方向)に平行な平面である。
【0034】
図8の(b)に示す如く、本実施形態のカム部23はアーム20において境界線6よりも下方となる部分に相当し、延長部22の他端部(下端部)に連なる部分である。カム部23にはカム面23aが形成される。カム面23aはカム部23の前面、下面および後面を兼ねる曲面である。カム部23の前端部は第一回動規制面22aの後端部(下端部)に連なり、カム部23の前端部は第二回動規制面22bの下端部に連なる。
【0035】
以下では図4の(a)および図11の(a)を用いて本発明に係る回動軸の実施の一形態である回動ピン30の詳細について説明する。回動ピン30はケース10およびアーム20を回動可能に連結する。図11の(a)に示す如く、回動ピン30は胴体部31および頭部32を備える。本実施形態の回動ピン30は金属材料からなる。
【0036】
胴体部31は回動ピン30の胴体を成す略円柱形状の部分である。胴体部31の一端部(右端部)にはカシメ穴31aが形成される。カシメ穴31aが形成されることにより、胴体部31の一端部(右端部)には薄肉部(略円筒形状の部分)が形成される。
頭部32は胴体部31の他端部(左端部)に連なる略円盤形状の部分である。頭部32の外径(直径)は胴体部31の外径(直径)よりも大きい。
【0037】
図4の(a)に示す如く、回動ピン30の胴体部31は左側から右側に向かって順に軸支孔12e、固定孔21aおよび軸支孔12fを貫通し、胴体部31の一端部(右端部)はケース10の回動支持部12の右側方に突出し、頭部32はケース10の回動支持部12の左側面に当接する。本実施形態では軸支孔12e・12fの内径(直径)が胴体部31の外径(直径)よりも僅かに大きく、かつ固定孔21aの内径(直径)が胴体部31の外径(直径)よりも僅かに小さい。従って、回動ピン30はケース10に対して回動可能に軸支され、アーム20に対して回動ピン30の軸線方向(本実施形態では、左右方向)に移動不能かつ回転不能に固定される。
頭部32の外径(直径)は軸支孔12eよりも大きい。また、回動ピン30が軸支孔12e、固定孔21aおよび軸支孔12fを貫通した状態で胴体部31の一端部(右端部)に形成された薄肉部を回動ピン30の半径方向(回動ピン30の軸線方向に垂直な方向)に押し広げるようにカシメる(塑性変形させる)ことにより、カシメられた部分の外径(直径)は軸支孔12fの内径(直径)よりも大きくなる。
このように、回動ピン30はケース10およびアーム20を回動可能に連結し、ケース10およびアーム20に対して脱落不能に支持される。
【0038】
図6に示す如く、アーム20の本体部21が回動ピン30によりケース10の他端部(上端部)に回動可能に支持されているとき、アーム20の延長部22およびカム部23はケース10の収容室14に収容される。延長部22およびカム部23がケース10の収容室14に収容されているとき、第一回動規制面22aは前壁面12aに対向し、第二回動規制面22bは後壁面12bに対向する。
従って、前壁面12aは「ケース10の収容室14を囲む内周面において第一回動規制面22aに対向する部分」に相当し、後壁面12bは「ケース10の収容室14を囲む内周面において第二回動規制面22bに対向する部分」に相当する。
【0039】
図1に示す如く、アーム20の本体部21を原稿圧着板3の後端部に形成された固定穴(不図示)に差し込み、原稿圧着板3の後端部に形成された貫通孔(不図示)を貫通したネジ(不図示)をネジ穴21b(図2の(a)参照)にねじ込むことにより、本体部21、ひいてはアーム20が原稿圧着板3に固定される。
【0040】
以下では図6および図10を用いて本発明に係るスライド部材の実施の一形態であるスライダ40の詳細について説明する。
図10に示す如く、スライダ40はスライダ本体41、ガイド42a〜42jおよびバネ突起43を備える。
スライダ本体41はスライダ40の主たる構造体を成す部分である。本実施形態のスライダ本体41は前面、後面、上面、下面、左側面、右側面を有するブロック状である。本実施形態ではスライダ本体41の上面はカム当接面41aを成す。カム当接面41aは前下がりの傾斜を有する曲面である。
ガイド42a〜42jは上下方向に延びた形状の突起(突条)である。ガイド42a・42bはそれぞれスライダ本体41の前面の左端部および右端部に配置される。ガイド42c・42dはそれぞれスライダ本体41の後面の左端部および右端部に配置される。ガイド42e・42f・42gはそれぞれスライダ本体41の左側面の前端部、前後中央部および後端部に配置される。ガイド42h・42i・42jはそれぞれスライダ本体41の右側面の前端部、前後中央部および後端部に配置される。
バネ突起43は概ね円筒形状の突起であり、スライダ本体41の下面に形成される。
【0041】
図6に示す如く、スライダ40はケース10の収容室14に収容される。また、スライダ40がケース10の収容室14に収容されたとき、スライダ40の外周面はケース10の内周面に当接し、スライダ40はケース10の他端部からケース10の外部に突出する方向である「突出方向(本実施形態では上方)」および収容室14に没入する没入する方向である「没入方向(本実施形態では、下方)」に移動(摺動)することが可能である。
なお、ケース10の内周面に形成されたガイド15a〜15f(図8の(a)参照)とスライダ40(スライダ本体41)の外周面に形成されたガイド42a〜42j(図10参照)とが嵌合することにより、ケース10に対するスライダ40の左右方向および前後方向(突出方向および没入方向に垂直な方向)への移動および回転は規制される。
【0042】
本実施形態の場合、樹脂材料を射出成形し、スライダ本体41、ガイド42a〜42jおよびバネ突起43を一体的に成形することによりスライダ40が製造されるが、本発明に係るスライド部材の製造方法はこれに限定されない。例えば、アルミニウム合金等で鋳造することにより第一固定部材を製造しても良い。
【0043】
以下では、図6および図11の(b)を用いて巻きバネ50の詳細について説明する。
巻きバネ50は本発明に係る付勢部材の実施の一形態である。本実施形態の巻きバネ50は金属材料からなり、圧縮バネ(圧縮された状態で使用されるバネ)である。
図6に示す如く、巻きバネ50はケース10の収容室14に収容される。ケース10の収容室14に収容された巻きバネ50の一端部(下端部)は底面11bに当接するとともにバネ突起11cに嵌合し、巻きバネ50の他端部(上端部)はスライダ40のスライダ本体41の下面に当接するとともにバネ突起43に嵌合する。
巻きバネ50はスライダ40を「突出方向(ケース10の他端部からケース10の外部に突出する方向)」に付勢し、スライダ40のカム当接面41aをアーム20のカム部23のカム面23aに当接させる。その結果、巻きバネ50の付勢力(圧縮される方向に弾性変形した巻きバネ50が元の形状に戻ろうとする力)はスライダ40を経てアーム20に伝達され、アーム20はケース10に対して左側面視で時計回りに回動する方向に付勢され(図6参照)、ひいては原稿圧着板3はスキャナー本体2に対して開く方向に付勢される(図1参照)。
このように、巻きバネ50は「アーム20がケース10に対して左側面視で時計回りに回動するトルク(ひいては、原稿圧着板3がスキャナー本体2に対して開く方向に回動するトルク)」をアーム20に付与する。
【0044】
以下では、図6、図12および図13を用いてケース10に対してアーム20が回動するとき(ひいては、スキャナー本体2に対して原稿圧着板3が回動するとき)のヒンジ100の挙動について説明する。
【0045】
図6に示す如く、ケース10に対するアーム20の回動角度θが0°のとき、第二回動規制面22bは後壁面12b、すなわちケース10の収容室14を囲む内周面において第二回動規制面22bに対向する部分に当接する。
その結果、アーム20はケース10に対してそれ以上左側面視で反時計回りに回動することが出来ない。言い換えれば、第二回動規制面22bが後壁面12bに当接することによりケース10に対するアーム20の回動角度θの下限値(θmin)が「0°」に規制される。
【0046】
図12に示す如く、図6に示す状態からアーム20がケース10に対して左側面視で時計回りに30°だけ回動したとき(θ=30°のとき)、アーム20の延長部22およびカム部23はケース10の収容室14に収容された状態を保持しつつ回動ピン30を中心として左側面視で時計回りに回動し、図6に示す状態よりも前方となる位置に配置される。
その結果、カム部23のカム面23aとスライダ40のカム当接面41aとが当接する位置は前方に移動し、スライダ40は上方に移動し、巻きバネ50がアーム20に付与するトルクは小さくなる。
【0047】
図13に示す如く、図12に示す状態からアーム20がケース10に対して左側面視で時計回りに13°だけ回動したとき(θ=43°のとき)、アーム20の延長部22およびカム部23はケース10の収容室14に収容された状態を保持しつつ回動ピン30を中心として左側面視で時計回りに回動し、図12に示す状態よりも更に前方となる位置に配置される。
その結果、カム部23のカム面23aとスライダ40のカム当接面41aとが当接する位置は更に前方に移動し、スライダ40は上方に移動し、巻きバネ50がアーム20に付与するトルクは小さくなる。
【0048】
また、ケース10に対するアーム20の回動角度θが43°のとき、第一回動規制面22aは前壁面12a、すなわちケース10の収容室14を囲む内周面において第一回動規制面22aに対向する部分に当接する(本実施形態の場合、厳密には、第一回動規制面22aは前壁面12aに形成されたガイド15aの後面に当接する)。
その結果、アーム20はケース10に対してそれ以上左側面視で時計回りに回動することが出来ない。言い換えれば、第一回動規制面22aが前壁面12aに当接することによりケース10に対するアーム20の回動角度θの上限値(θmax)が「43°」に規制される。
【0049】
以上の如く、本実施形態のヒンジ100の場合、アーム20のうちケース10の収容室14に収容されている部分である延長部22に形成された第一回動規制面22aおよび第二回動規制面22bがそれぞれ前壁面12aおよび後壁面12bに当接することにより、ケース10に対するアーム20の回動角度θの上限値(θmax)および下限値(θmin)が規制される。
従って、ヒンジ100の部品点数の増加を伴わず、かつヒンジ100の外部に突起、段差等の突出した部分を形成せずにケース10に対するアーム20の回動角度を規制することが可能である。
また、このことは第一固定部材に対する第二固定部材の回動角度を規制可能なヒンジにおける美観の向上、および外観形状の自由度の向上に寄与する。
【0050】
また、本実施形態のヒンジ100の場合、第一回動規制面22a、第二回動規制面22b、前壁面12aおよび後壁面12bはいずれもケース10に対するアーム20の回動軸たる回動ピン30の軸線方向に平行な平面である。
従って、第一回動規制面22aが前壁面12aに当接するとき、および第二回動規制面22bが後壁面12bに当接するとき、いずれも当接する面積を大きくすることが可能であり、アーム20に作用するトルクがケース10およびアーム20の局所に集中することを防止し、ヒンジ100の耐久性の向上(長寿命化)に寄与する。
【0051】
図6および図8の(a)に示す如く、本実施形態のヒンジ100の場合、ケース10において第一回動規制面22aが当接する部分(より詳細には、前壁面12aの上半部に対応する部分)、第二回動規制面22bが当接する部分(より詳細には、後壁面12bの上下中央部に対応する部分)およびこれらを繋ぐ部分(より詳細には、左側面12cおよび右側面12dの上下中途部に対応する部分)の肉厚(ケース10の内周面から外周面までの厚さ)はケース10における他の部分の肉厚よりも大きい。すなわち、ケース10において第一回動規制面22aが当接する部分、第二回動規制面22bが当接する部分およびこれらを繋ぐ部分により、ケース10には他の部分よりも肉厚が大きいリング状の部分が形成される。
このように構成することにより、第一回動規制面22aが前壁面12aに当接した状態で原稿圧着板3(ひいてはアーム20)に回動角度θを大きくする方向の外力(過負荷)が作用した場合、あるいは第二回動規制面22bが後壁面12bに当接している状態で原稿圧着板3(ひいてはアーム20)に回動角度θを小さくする方向の外力(過負荷)が作用した場合であっても上記リング状の部分は十分な強度を有するので、ケース10の耐久性の向上(ひいては長寿命化)に寄与する。
【0052】
本実施形態ではケース10がスキャナー本体2に固定され、アーム20が原稿圧着板3に固定されるが、本発明はこれに限定されない。
すなわち、本発明に係る第一固定部材および第二固定部材のうち、いずれか一方が第一連結対象物に固定され、いずれか他方(第一固定部材および第二固定部材のうち第一連結対象物に固定されなかった方の部材)が第二連結対象物に固定されれば良い。
【符号の説明】
【0053】
1 スキャナー(事務機器)、2 スキャナー本体(第一連結対象物)、3 原稿圧着板(第二連結対象物)、10 ケース(第一固定部材)、12a 前壁面(内周面)、12b 後壁面(内周面)、14 収容室(第一固定部材の内部に形成された空間)、20 アーム(第二固定部材、21 本体部、22 延長部、22a 第一回動規制面、22b 第二回動規制面、23 カム部、30 回動ピン(回動軸)、40 スライダ(スライド部材)、50 巻きバネ(付勢部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に囲まれた空間が内部に形成され、一端部が閉塞されるとともに他端部が開口し、第一連結対象物または第二連結対象物のいずれか一方に固定される第一固定部材と、
前記第一固定部材の他端部に回動可能に支持されるとともに前記第一連結対象物または前記第二連結対象物のいずれか他方に固定される本体部、一端部が前記本体部に連なるとともに前記第一固定部材の内部に形成された空間に収容される延長部、ならびに、前記延長部の他端部に連なるとともに前記第一固定部材の内部に形成された空間に収容されるカム部、を備える第二固定部材と、
前記第一固定部材の内部に形成された空間に収容され、前記第一固定部材の内周面に当接しつつ前記第一固定部材の他端部から突出する突出方向および前記第一固定部材の内部の空間に没入する没入方向に移動可能なスライド部材と、
前記第一固定部材の内部に形成された空間に収容され、前記スライド部材を前記突出方向に付勢して前記スライド部材を前記カム部に当接させることにより前記第一固定部材に対して回動するトルクを前記第二固定部材に付与する付勢部材と、
を具備し、
前記延長部には第一回動規制面および第二回動規制面が形成され、
前記第一回動規制面が前記第一固定部材の内周面に当接することにより前記第一固定部材に対する前記第二固定部材の回動角度の上限値が規制され、
前記第二回動規制面が前記第一固定部材の内周面に当接することにより前記第一固定部材に対する前記第二固定部材の回動角度の下限値が規制される、
ヒンジ。
【請求項2】
前記第一回動規制面、前記第二回動規制面、前記第一固定部材の内周面において前記第一回動規制面に対向する部分、および前記第一固定部材の内周面において前記第二回動規制面に対向する部分、は前記第一固定部材に対する前記第二固定部材の回動軸の軸線方向に対して平行な平面である、
請求項1に記載のヒンジ。
【請求項3】
前記第一固定部材において前記第一回動規制面が当接する部分、前記第二回動規制面が当接する部分、およびこれらを繋ぐ部分の肉厚は、前記第一固定部材における他の部分の肉厚よりも大きい、
請求項1または請求項2に記載のヒンジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−47544(P2013−47544A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186055(P2011−186055)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(592264101)下西技研工業株式会社 (108)
【Fターム(参考)】