説明

ヒートシール用フィルム及び包装袋

【課題】香り成分に対する優れた非収着性を有するヒートシール用フィルム、及びこのフィルムから成形される保香性の高い包装袋を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、エチレン−ビニルアルコール共重合体を含む熱融着層を備え、上記エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン含有量が20モル%以上70モル%以下、ケン化度が90モル%以上であり、上記熱融着層の温度23℃、相対湿度50%における平衡水分率が0.5質量%以上5.0質量%以下であるヒートシール用フィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートシール用フィルム及び包装袋に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、「EVOH」ともいう。)は、透明性、ガスバリア性、保香性、耐溶剤性、耐油性、ヒートシール性等に優れており、かかる特性を生かして、食品包装材料、工業薬品包装材料、農薬包装材料、医薬品包装材料等としてのヒートシール用フィルムに用いられている。このようなヒートシール用フィルムは、包装袋やその他ボトル等の容器などに成形加工される。EVOHの上記各種特性のうち、特に保香性、言い換えると香り成分の非収着性を利用し、香気成分や薬効成分を含有した食品、飲料、嗜好品、医薬品、化粧品、香料、トイレタリー製品等の包装袋において、最内層にEVOHを含む樹脂層を備えるものが広く採用されている。
【0003】
このようなEVOHを含む樹脂層を備える包装容器に係る技術としては、例えば、裏面(最内)層にEVOHを用いて表面層にポリオレフィン系樹脂を用いた紙容器(特開平1−218823号公報参照)、特定の条件を満足する2種のEVOHを最内層に用いたガスバリア性多層容器(特開平3−112654号公報、特開平3−112655号公報等参照)、特定の貯蔵弾性率を備えるEVOHからなる層を最内層に有する容器(特開2001−192011号公報参照)等が提案されている。
【0004】
しかしながら、食品、香料、嗜好品等の保存の際の保香性に係る要請は高く、上記いずれのEVOHを含む層を有する容器等においても、これらの保香性が十分に満足されるものであるとは言えず、改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−218823号公報
【特許文献2】特開平3−112654号公報
【特許文献3】特開平3−112655号公報
【特許文献4】特開2001−192011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこれらの不都合に鑑みてなされたものであり、香り成分に対する優れた非収着性を有するヒートシール用フィルム、及びこのフィルムから成形される保香性の高い包装袋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた発明は、
エチレン−ビニルアルコール共重合体を含む熱融着層を最外層に備え、
上記エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン含有量が20モル%以上70モル%以下、ケン化度が90モル%以上であり、
上記熱融着層の温度23℃、相対湿度50%における平衡水分率が0.5質量%以上5.0質量%以下であるヒートシール用フィルムである。
【0008】
当該ヒートシール用フィルムは、上記範囲のエチレン含有量及びケン化度を有するEVOHを含む熱融着層を最外層に備え、この熱融着層が上記範囲の平衡水分率を有することで、香り成分に対する優れた非収着性を発揮することができる。特に、当該ヒートシール用フィルムにおいては、熱融着層が上記範囲の平衡水分率を有するため、この熱融着層中に一定量の水分を含有することができ、その結果、熱融着層におけるEVOHの分子鎖間の空隙に水分子が配置する構造を採ることができる。従って、当該ヒートシール用フィルムによれば水分子によって熱融着層における空隙を小さくすることで香り成分の吸着を効果的に抑えることができる。特に、水分子の配置により極性が高まっている熱融着層表面が、炭化水素系化合物に代表される低極性の香り成分の収着を極めて効果的に抑制するため、優れた非収着性を発揮することができる。なお、当該ヒートシール用フィルムは、この熱融着層が少なくとも一方の最外層にあれば、多層であっても単層であってもよい。
【0009】
当該ヒートシール用フィルムは、2層以上の層構造を有し、少なくとも一方の最外層が上記熱融着層からなるとよい。ヒートシール用フィルムをこのような多層構造体とすることで、機械的な物性を改善したり、種々の機能性を付与したりすることができる。
【0010】
上記熱融着層の水分率が0.1質量%以上4.0質量%以下であるとよい。水分率を上記範囲とすることで、ヒートシール時における熱融着層中の水分の気化によるフィルムの発泡を防ぎ、ヒートシール性を向上させると共に、外観不良を防ぐことができる。
【0011】
上記熱融着層を30℃から300℃まで10℃/分の昇温速度にて測定した示差走査熱量分析において、上記EVOHの融解を示す吸熱ピークの半値幅が5.0℃以上20.0℃以下であるとよい。当該ヒートシール用フィルムによれば、このように融解温度に特定の幅を有するEVOHを用いることで、低温でのヒートシールによるシール強度を高め、また、ヒートシール時の減肉を抑えることができる。
【0012】
上記エチレン−ビニルアルコール共重合体の溶解性パラメーター(SP値)が11.0以上、融点が170℃以下であり、上記熱融着層の密度が1.10g/cm以上、厚みが2μm以上100μm以下であるとよい。当該ヒートシール用フィルムによれば、溶解性パラメーターが11.0以上のEVOHを用い、かつ、熱融着層の密度を1.10g/cm以上とすることで、非収着性をさらに高めることができる。また、当該ヒートシール用フィルムは、融点170℃以下のEVOHを用いることで、ヒートシール性をより高めることができる。さらに、当該ヒートシール用フィルムによれば、熱融着層の厚みを上記範囲とすることで、非収着性とヒートシール性とを高いレベルで両立させることを可能とする。
【0013】
上記エチレン−ビニルアルコール共重合体が末端カルボン酸単位及びラクトン環単位を有し、
エチレン単位、ビニルアルコール単位及びビニルエステル単位の合計量に対する上記末端カルボン酸単位及びラクトン環単位の合計量が0.05モル%以上0.30モル%以下であるとよい。EVOHの末端が特定の量のカルボン酸単位及びラクトン環単位を有することで低温でのヒートシール時におけるヒートシール強度をさらに高めることができる。
【0014】
上記熱融着層が金属塩を含み、この熱融着層における金属塩の含有量が金属元素換算で1ppm以上10,000ppm以下であるとよい。当該ヒートシール用フィルムによれば、熱融着層に金属塩を含むことで、極性がさらに高まり、低極性の香り成分の非収着性をさらに高めることができる。
【0015】
上記熱融着層がホウ素化合物を含有し、このホウ素化合物の含有量が50ppm以上2,000ppm以下であるとよい。熱融着層に上記範囲のホウ素化合物を含有させることで、当該ヒートシール用フィルムは、ヒートシール時に架橋が進行し、ヒートシール強度をさらに高めることができる。
【0016】
当該ヒートシール用フィルムは、上述のように優れた非収着性を有しており、包装袋用として好適に用いることができる。
【0017】
当該ヒートシール用フィルムにおいて、上記熱融着層同士を対面させ、熱板式ヒートシーラーを用いて温度185℃、圧力0.1MPaの条件で1秒間圧着して得られるヒートシールの強度が10N/15mm以上であるとよい。当該ヒートシール用フィルムは、ヒートシールにより優れたヒートシール強度を得ることができ、高い保香性を備える包装袋用のヒートシール用フィルムとして好適に用いることができる。
【0018】
上記課題を解決するためになされた別の発明は、当該ヒートシール用フィルムから成形され、このヒートシール用フィルムの熱融着層を内側とし、この熱融着層をヒートシールして得られる包装袋である。当該包装袋によれば、優れた強度でヒートシールされておりさらに内面に香り成分の非収着性に優れる熱融着層を備えているため、優れた保香性を発揮することができる。
【0019】
上記ヒートシール時における熱融着層の水分率が0.1質量%以上4.0質量%以下であるとよい。ヒートシール時における熱融着層の水分率を上記範囲とすることにより、ヒートシールの際の発泡が抑えられるため、シール部分の外観が優れた包装袋を得ることができる。
【0020】
当該包装袋がジッパーを有するとよい。このようにジッパーを備えた包装袋によれば、包装袋の再密封が可能となり、内容物の保存性を向上することができる。
【0021】
当該包装袋においては、包装される内容物が菓子、茶葉、コーヒー、香辛料及び煙草からなる群より選択される少なくとも1種であるとよい。当該包装袋は、上述のように優れた保香性を備えているため、特に保香性が必要とされる上記食品等の包装袋として好適である。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明のヒートシール用フィルムは香り成分に対する優れた非収着性を有している。従って、このヒートシール用フィルムを用いた包装袋は保香性が極めて高く、そのため、例えば菓子、茶葉、コーヒー、香辛料、煙草等の保香性が重要である食品等の包装袋として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態をヒートシール用フィルム及び包装袋の順に詳述する。
【0024】
<ヒートシール用フィルム>
本発明のヒートシール用フィルムは、EVOHを含む熱融着層を備えている。当該ヒートシール用フィルムは、この熱融着層の単層フィルムであっても、2層以上の層構造を有する多層フィルムであってもよい。但し、多層フィルムの場合は、少なくとも一方の最外層が上記熱融着層からなる。
【0025】
当該ヒートシール用フィルム全体の厚みとしては、特に限定されず、層の数や用途等によって適宜設定されるが、例えば多層フィルムの場合は、2μm以上1mm以下程度である。当該ヒートシール用フィルムの厚みを上記範囲とすることで、機械強度、ガスバリア性、柔軟性及び加工性に優れるフィルムを得ることができる。
【0026】
<熱融着層>
上記熱融着層は、上述のとおり必須成分としてEVOHを含み、好適な成分として金属塩、ホウ素化合物、リン酸化合物及びカルボン酸並びにその他の任意成分を含んでいてもよい。各成分の詳細については後述する。
【0027】
上記熱融着層の温度23℃、相対湿度50%における平衡水分率としては0.5質量%以上5.0質量%以下とされており、1.0質量%以上3.5質量%以下が好ましい。当該ヒートシール用フィルムによれば、熱融着層が上記範囲の平衡水分率を有するため、この熱融着層中に一定量の水分を含有することができ、この結果、熱融着層におけるEVOHの分子鎖間の空隙に水分子が配置する構造を採ることができる。従って、当該ヒートシール用フィルムによれば、水分子によって熱融着層における空隙を小さくすることで香り成分の吸着を効果的に抑えることができる。特に、水分子の配置により極性が高まっている熱融着層表面が、炭化水素系化合物に代表される低極性の香り成分の収着を極めて効果的に抑制するため、優れた非収着性を発揮することができる。
【0028】
熱融着層における平衡水分率が上記下限未満の場合は、熱融着層中に存在できる水分子の量が不足し、非収着性の向上が十分に発揮されない。逆に、この平衡水分率が上記上限を超えると、ヒートシール時において熱融着層が発泡し、外観不良となるなど、ヒートシール性が低下しやすくなる。さらに、この平衡水分率が上記上限を超えると、熱融着層が水分により膨潤し、香り成分が収着されやすくなる。
【0029】
なお、熱融着層における平衡水分率の調整は、後述するEVOHのエチレン含有量及びケン化度の調整や、添加剤の配合等によって行うことができる。また、平衡水分率は、JIS−L1015−2010の8.3「平衡水分率」の測定法に準拠して求められる値である。
【0030】
また、熱融着層の水分率としては0.1質量%以上4.0質量%以下が好ましく、0.2質量%以上3.0質量%以下がさらに好ましい。熱融着層の水分率を上記範囲とすることで、香り成分の非収着性とヒートシール性とを高いレベルで両立させることができる。この水分率が上記下限未満の場合は、水分子による熱融着層表面の極性の上昇が小さく、特に低極性の香り成分に対する非収着性の向上が十分に発揮されない。一方、この水分率が上記上限を超えると、ヒートシール時において、熱融着層中の水分の気化により発泡が生じやすくなり、ヒートシール性が低下したり、外観が低下したりするおそれがある。また、この水分率が上記上限を超えると、熱融着層が水分により膨潤し、香り成分が収着されやすくなる。なお、この熱融着層の水分率としては、特にヒートシール時においてこの範囲とすることが好ましい。
【0031】
上記熱融着層の密度としては、1.10g/cm以上が好ましく、さらに1.20g/cm以下が好ましい。熱融着層の密度を上記下限以上とすることで、層中の空隙が減少し、その結果、この空隙に香り成分が吸着することを抑えることができるため、香り成分の非収着性がより向上することとなる。なお、熱融着層の密度が上記上限を超えると、柔軟性や成形性が低下するなどの不都合が生じるおそれがある。
【0032】
上記熱融着層の厚みとしては、2μm以上100μm以下が好ましく、5μm以上60μm以下がさらに好ましい。熱融着層の厚みを上記範囲とすることで、当該ヒートシール用フィルムの非収着性とヒートシール性とを高いレベルで両立させることが可能となる。この厚みが上記下限未満の場合は、層が薄すぎるためにヒートシールによっても十分なシール強度を有する接着を行うことができず、成形性が低下したり、得られる包装袋の強度が低下したりする場合がある。逆に、この厚みが上記上限を超える場合は、熱融着層中に吸着される香り成分の量が増加するため、収着性が高まり、得られる包装袋の保香性が低下したり、屈曲によってピンホールが発生したりするおそれがある。ここで、層の厚みとは、当該ヒートシール用フィルムを幅方向に5分割し、その中心部の厚みを測定し、5点の厚みを平均することにより得られる。
【0033】
<EVOH>
上記熱融着層に含まれるEVOHは、主構造単位として、エチレン単位及びビニルアルコール単位を有する。なお、このEVOHとしては、エチレン単位及びビニルアルコール単位以外に他の構造単位を1種類又は複数種含んでいてもよい。また、後述するエチレン含有量、ケン化度、変性の有無又は変性の種類等が異なる2種以上のEVOHを混合して用いてもよい。
【0034】
このEVOHは、通常、エチレンとビニルエステルとを重合し、得られるエチレン−ビニルエステル共重合体をケン化して得られる。
【0035】
EVOHのエチレン含有量(すなわち、EVOH中の単量体単位の総数に対するエチレン単位の数の割合)の下限としては、20モル%であり、25モル%が好ましく、30モル%が特に好ましい。一方、EVOHのエチレン含有量の上限としては、70モル%であり、60モル%がより好ましく、50モル%が特に好ましい。EVOHのエチレン含有量が上記下限より小さいと、当該ヒートシール用フィルムの低温でのヒートシール性や溶融成形性が低下する。逆に、EVOHのエチレン含有量が上記上限を超えると、当該ヒートシール用フィルムの非収着性が低下することとなる。ここで、EVOHがエチレン含有量の異なる2種類以上のEVOHの配合物からなる場合には、配合質量比から算出される平均値をエチレン含有量とする。
【0036】
EVOHのケン化度(すなわち、EVOH中のビニルアルコール単位及びビニルエステル単位の総数に対するビニルアルコール単位の数の割合)の下限としては、90モル%であり、95モル%が好ましく、99モル%が特に好ましい。一方、EVOHのケン化度の上限としては100.0モル%が好ましい。EVOHのケン化度が上記下限より小さいと香り成分の非収着性が低く、また熱安定性が不十分となるため、溶融成形時にゲル・ブツが生じやすくなる。ここで、EVOHがケン化度の異なる2種類以上のEVOHの配合物からなる場合には、配合質量比から算出される平均値をケン化度とする。
【0037】
EVOHは、エチレン単位及びビニルアルコール単位以外の構造単位を有していてもよい。このような構造単位としては、例えば、下記構造単位(Ia)、(Ib)及び(Ic)を挙げることができる。
【0038】
【化1】

【0039】
式(Ia)中、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基又は水酸基を表す。また、R、R及びRのうちの一対が結合していてもよい(但し、R、R及びRのうちの一対が共に水素原子の場合は除く)。また、上記炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基は、水酸基、カルボキシル基又はハロゲン原子を有していてもよい。
【0040】
【化2】

【0041】
式(Ib)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基又は水酸基を表す。また、RとR又はRとRとは結合していてもよい(但し、RとR又はRとRが共に水素原子の場合は除く)。また、上記炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基は、水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基又はハロゲン原子を有していてもよい。
【0042】
【化3】

【0043】
式(Ic)中、R、R及びR10は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基又は水酸基を表す。また、R、R及びR10のうちの一対が結合していてもよい(但し、R、R及びR10のうちの一対が共に水素原子の場合は除く)。また、上記炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基は、水酸基、カルボキシル基又はハロゲン原子を有していてもよい。
【0044】
上記構造単位(Ia)、(Ib)及び(Ic)において、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基としてはアルキル基、アルケニル基等が挙げられ、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基としてはシクロアルキル基、シクロアルケニル基等が挙げられ、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基としてはフェニル基等が挙げられる。
【0045】
上記構造単位(Ia)を含む変性EVOHは、例えばケン化を完全に行わず、部分的にエステル基を残すことにより合成される。なお、構造単位(Ia)を生成するためのビニルエステルとしては、酢酸ビニルが代表的なものとしてあげられるが、その他のビニルエステルとしてプロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどの脂肪酸ビニルエステルが挙げられる。
【0046】
上記構造単位(Ib)を含む変性EVOHの合成方法については、特に限定されないが、エチレン−ビニルアルコール共重合体に一価エポキシ化合物を反応させることにより合成することができる。この一価エポキシ化合物としては、例えば、1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、エポキシプロパン、エポキシエタン、グリシドール等を挙げることができる。
【0047】
なお、構造単位(Ib)を含む変性EVOHは、具体的にはWO02/092643号公報に記載の方法等によって製造することができる。
【0048】
上記構造単位(Ic)を含む変性EVOHの合成方法については、特に限定されないが、ビニルエステル系モノマー及びエチレンを共重合しエチレン−ビニルエステル共重合体を製造する際に構造単位(Ic)が誘導されるモノマーを加え共重合した後、得られた共重合体をケン化する方法が挙げられる。構造単位(Ic)が誘導されるモノマーとしては、プロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセンなどのアルケン系モノマー、3−プロペン−1−オール、3−アシロシキ−1−プロペン、3−アシロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−オール−1−ブテン、4−アシロキシ−1−ブテン−3−オール、3−アシロキシ−2−メチル−1−ブテン、3−アシロキシ−4−メチル−1−ブテン、4−アシロキシ−2−メチル−1−ブテン、4−アシロキシ−3−メチル−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−2−メチル−1−ブテン、4−ペンテン−2−オール、5−ペンテン−1−オール、4,5−ジヒドロキシ−1−ペンテン、4−アシロキシ−1−ペンテン、5−アシロキシ−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−1−ペンテン、4−ヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、5−ヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、4,5−ジヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、5,6−ジヒドロキシ−1−ヘキセン、4−ヒドロキシ−1−ヘキセン、5−ヒドロキシ−1−ヘキセン、6−ヒドロキシ−1−ヘキセン、4−アシロキシ−1−ヘキセン、5−アシロキシ−1−ヘキセン、6−アシロキシ−1−ヘキセン、5,6−ジアシロキシ−1−ヘキセンなどのビニルエステル系モノマーが挙げられる。
【0049】
また、上記構造単位(Ia)、(Ib)又は(Ic)を含む変性EVOHは目的が阻害されない範囲であれば、他の共重合成分、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの不飽和カルボン酸またはそのエステル;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシラン系化合物;不飽和スルホン酸またはその塩;アルキルチオール類;N−ビニルピロリドンなどのビニルピロリドンなどを含んでいてもよい。
【0050】
また、本発明に用いられるEVOHとしては、末端にカルボン酸単位及びラクトン環単位を有するものが好ましい。この末端カルボン酸単位及びラクトン環単位の合計量のエチレン単位、ビニルアルコール単位及びビニルエステル単位の合計量に対する比率としては0.05モル%以上0.30モル%以下が好ましく、0.07モル%以上0.20モル%以下がさらに好ましい。EVOHの末端が少量のカルボン酸単位及びラクトン環単位を有することで、、カルボン酸及びラクトン環と水酸基との反応が起こり、特に低温でのヒートシール時におけるヒートシール強度をより高めることができる。なお、この末端カルボン酸単位及びラクトン環単位の含有量が上記上限を超えると、カチオン性の香り成分を吸着しやすくなるため、非収着性が低下するおそれがある。
【0051】
末端カルボン酸単位及びラクトン環単位の含有量は、重合時における組成や温度などの条件により制御することができる。また、エチレンとビニルエステルとの共重合反応において、3−メルカプトプロピオン酸等のメルカプト基含有カルボン酸を添加する方法や、EVOHを過酸化水素で酸化処理する方法等によっても、末端カルボン酸単位及びラクトン環単位の含有量を制御することが可能である。
【0052】
本発明に用いるEVOHの溶解性パラメーター(SP値)の下限としては、11.0が好ましく、11.5がさらに好ましい。一方、この溶解性パラメーターの上限としては、15.0が好ましく、14.0がさらに好ましい。EVOHの溶解性パラメーターを上記範囲とすることで、特に収着を抑えたいリモネン、テルピネン等の炭化水素系の香り成分との相溶性を下げることができ、これらの成分の非収着性を高めることができる。なお、この溶解性パラメーターが上記上限を超えると、極性を有する香り成分との相溶性が高まり、その結果、これらの成分の非収着性が低下する場合がある。ここで溶解性パラメーターとは、FEDORS法で求めた値であり、単位は(cal/cm1/2である。
【0053】
本発明に用いるEVOHの融点の上限としては、170℃が好ましく、168℃がさらに好ましい。EVOHの融点を上記上限以下とすることで、ヒートシール性をさらに高めることができる。一方、このEVOHの融点の下限としては、特に限定されないが耐熱性を向上させる点から150℃が好ましく、155℃がさらに好ましい。
【0054】
本発明に用いる熱融着層を30℃から300℃まで10℃/分の昇温速度にて測定した示差走査熱量分析において、EVOHの融解を示す吸熱ピークの半値幅は5.0℃以上20.0℃以下であることが好ましく、7.0℃以上18.0℃以下であることがさらに好ましい。当該ヒートシール用フィルムによれば、このように融解温度に特定の幅を有するEVOHを用いることで、低温でのヒートシールによるシール強度を高め、また、ヒートシール時の減肉を抑えることができる。
【0055】
また、この値は、例えば熱融着層に含まれるEVOHのエチレン含有量、ケン化度、質量平均分子量、数平均分子量や、熱融着層の水分含有量や添加物を調整することで、制御することができる。
【0056】
次に、EVOHの製造方法を具体的に説明する。エチレンとビニルエステルとの共重合方法としては、特に限定されず、例えば溶液重合、懸濁重合、乳化重合、バルク重合のいずれであってもよい。また、連続式、回分式のいずれであってもよい。
【0057】
重合に用いられるビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどの脂肪酸ビニルなどを用いることができる。
【0058】
上記重合において、共重合成分として、上記成分以外にも共重合し得る単量体、例えば上記以外のアルケン;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸又はその無水物、塩、又はモノ若しくはジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸又はその塩;アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどを少量共重合させることもできる。また、共重合成分として、ビニルシラン化合物を0.0002モル%以上0.2モル%以下含有することができる。ここで、ビニルシラン化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメトキシシランなどが挙げられる。この中で、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが好適に用いられる。
【0059】
重合に用いられる溶媒としては、エチレン、ビニルエステル及びエチレン−ビニルエステル共重合体を溶解し得る有機溶剤であれば特に限定されない。そのような溶媒として、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール;ジメチルスルホキシドなどを用いることができる。その中で、反応後の除去分離が容易である点で、メタノールが特に好ましい。
【0060】
重合に用いられる触媒としては、例えば2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビス−(2−シクロプロピルプロピオニトリル)等のアゾニトリル系開始剤;イソブチリルパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカノエイト、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエイト、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物系開始剤などを用いることができる。
【0061】
重合温度としては、20〜90℃であり、好ましくは40〜70℃である。重合時間としては、2〜15時間であり、好ましくは3〜11時間である。重合率は、仕込みのビニルエステルに対して10〜90%であり、好ましくは30〜80%である。重合後の溶液中の樹脂分は、5〜85%であり、好ましくは20〜70%である。
【0062】
所定時間の重合後又は所定の重合率に達した後、必要に応じて重合禁止剤を添加し、未反応のエチレンガスを蒸発除去した後、未反応のビニルエステルを除去する。未反応のビニルエステルを除去する方法としては、例えば、ラシヒリングを充填した塔の上部から上記共重合体溶液を一定速度で連続的に供給し、塔下部よりメタノール等の有機溶剤蒸気を吹き込み、塔頂部よりメタノール等の有機溶剤と未反応ビニルエステルの混合蒸気を留出させ、塔底部より未反応のビニルエステルを除去した共重合体溶液を取り出す方法などが採用される。
【0063】
次に、上記共重合体溶液にアルカリ触媒を添加し、上記共重合体をケン化する。ケン化方法は、連続式、回分式のいずれも可能である。このアルカリ触媒としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アルカリ金属アルコラートなどが用いられる。
【0064】
ケン化の条件としては、例えば回分式の場合、共重合体溶液濃度が10〜50%、反応温度が30〜65℃、触媒使用量がビニルエステル構造単位1モル当たり0.02〜1.0モル、ケン化時間が1〜6時間である。
【0065】
ケン化反応後のEVOHは、アルカリ触媒、酢酸ナトリウムや酢酸カリウムなどの副生塩類、その他不純物を含有するため、これらを必要に応じて中和、洗浄することにより除去することが好ましい。ここで、ケン化反応後のEVOHを、イオン交換水等の金属イオン、塩化物イオン等をほとんど含まない水で洗浄する際、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等を一部残存させてもよい。
【0066】
<他の熱可塑性樹脂>
熱融着層には、EVOH以外に、他の熱可塑性樹脂がブレンドされて含有していてもよい。この他の熱可塑性樹脂としては特に限定されず、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリケトン等が挙げられる。また、各種の共重合体を使用することもできる。
【0067】
EVOHとそれ以外の熱可塑性樹脂とをブレンドする方法は、特に限定されるものではない。樹脂ペレットをドライブレンドしてそのまま溶融成形に供することもできるし、より好適にはバンバリーミキサー、単軸又は二軸押出機等で溶融混練し、ペレット化してから溶融成形に供することもできる。
【0068】
上記熱融着層において、ガスバリア性や非収着性を向上させる点から、EVOHの少なくとも一部を架橋していてもよい。この熱融着層中のEVOHは、空気中長時間放置することにより架橋させることが可能であるが、通常、電子線、X線、γ線、紫外線、可視光線等を照射するか、加熱することにより、架橋を行うことが好ましい。
【0069】
<他の成分>
以下、上記熱融着層にEVOH以外の成分として含まれる各成分(好適成分としての金属塩、ホウ素化合物、リン酸化合物及びカルボン酸並びにその他の任意成分)について説明する。
【0070】
<金属塩>
当該ヒートシール用フィルムによれば、熱融着層に金属塩を含むことで、極性がさらに高まり、低極性の香り成分の非収着性をさらに高めることができる。また、熱融着層に金属塩を含むことで、層間接着性及びヒートシール性が向上する。
【0071】
金属塩としては、特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩又はアルカリ土類塩が層間接着性をより高める点で好ましい。この中でも、アルカリ金属塩が更に好ましい。
【0072】
アルカリ金属塩としては、特に限定されないが、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどの脂肪族カルボン酸塩、芳香族カルボン酸塩、リン酸塩、金属錯体等が挙げられる。このアルカリ金属塩としては、具体的には、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、エチレンジアミン四酢酸のナトリウム塩等が挙げられる。この中でも、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、リン酸ナトリウムが、入手容易である点から特に好ましい。
【0073】
アルカリ土類金属塩としては、特に限定されないが、例えば、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ベリリウムなどの酢酸塩又はリン酸塩が挙げられる。この中でも、マグネシウム又はカルシウムの酢酸塩又はリン酸塩が、入手容易である点から特に好ましい。かかるアルカリ土類金属塩を含有させると、溶融成形時における熱劣化した樹脂の成形機のダイ付着量を低減できるという利点もある。
【0074】
金属塩の熱融着層中の含有量(金属元素換算含有量)の下限としては、1ppmが好ましく、5ppmがより好ましく、10ppmがさらに好ましく、20ppmが特に好ましい。一方、この金属塩の含有量の上限としては、10,000ppmが好ましく、5,000ppmがより好ましく、1,000ppmがさらに好ましく、500ppmが特に好ましい。金属塩の含有量が上記下限より小さいと、十分な極性上昇が発現せず、低極性の香り成分に対する非収着性が十分に向上しない。逆に、金属塩の含有量が上記上限を超えると、極性が高い香り成分が吸着しやすくなったり、得られるフィルムの着色が激しくなり、外観が悪化したりするおそれがある。
【0075】
<ホウ素化合物>
また、熱融着層中にホウ素化合物を含有することで、ヒートシール時に架橋構造が形成されヒートシール強度がさらに向上する。詳細には、EVOH等からなる樹脂組成物にホウ素化合物を添加した場合、EVOH等とホウ素化合物との間にキレート化合物が生成すると考えられ、かかるEVOH等を用いることによって、通常のEVOH等よりも熱安定性の改善、機械的性質を向上させることが可能であり、上記したキレート構造がEVOHの高分子鎖間で架橋的に生成することにより、ヒートシール強度をさらに向上することができる。このホウ素化合物としては、特に限定されるものではなく、例えばホウ酸類、ホウ酸エステル、ホウ酸塩、水素化ホウ素類等が挙げられる。具体的には、ホウ酸類としては、例えばオルトホウ酸(HBO)、メタホウ酸、四ホウ酸等が挙げられ、ホウ酸エステルとしては、例えばホウ酸トリエチル、ホウ酸トリメチルなどが挙げられ、ホウ酸塩としては、上記各種ホウ酸類のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ砂などが挙げられる。これらの中でもオルトホウ酸が好ましい。
【0076】
ホウ素化合物の熱融着層における含有量(ホウ素化合物換算)の下限としては、50ppmが好ましく、100ppmがさらに好ましい。一方、ホウ素化合物の含有量の上限としては、2,000ppmが好ましく、1,800ppmがより好ましく、1,600ppmがさらに好ましい。ホウ素化合物の含有量が上記下限より小さいとホウ素化合物を添加することによる強度の向上効果が得られないおそれがある。逆にホウ素化合物の含有量が上記上限を超えると、ゲル化しやすく、成形不良となるおそれがある。
【0077】
<リン酸化合物>
熱融着層中にリン酸化合物を含有することで、当該ヒートシール用フィルムの溶融成形時の熱安定性及びヒートシール性を改善することができる。また、熱融着層の極性が高まるため、低極性の香り成分に対する非収着性が向上する。リン酸化合物としては、特に限定されず、例えばリン酸、亜リン酸等の各種の酸やその塩等が挙げられる。リン酸塩としては、例えば第1リン酸塩、第2リン酸塩、第3リン酸塩のいずれの形で含まれていてもよく、その対カチオン種としても特に限定されないが、アルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンが好ましい。特に、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素ナトリウム又はリン酸水素カリウムが、熱安定性改善効果が高い点で好ましい。
【0078】
リン酸化合物の熱融着層中の含有量(リン酸根換算含有量)の下限としては、1ppmが好ましく、10ppmがより好ましく、30ppmがさらに好ましい。一方、リン酸化合物の含有量(リン酸根換算含有量)の上限としては、10,000ppmが好ましく、1,000ppmがより好ましく、300ppmがさらに好ましい。リン酸化合物の含有量が上記下限より小さいと、溶融成形時の着色が激しくなるおそれがある。特に、熱履歴を重ねるときにその傾向が顕著であるために、当該ヒートシール用フィルムが回収性に乏しいものとなるおそれがある。逆に、リン酸化合物の含有量が上記上限を超えると、成形物のゲル・ブツが発生し易くなるおそれがある。
【0079】
<カルボン酸>
熱融着層中にカルボン酸を含有することで、熱融着層を形成する樹脂組成物のpHを制御し、ゲル化を防止して熱安定性を改善する効果がある。また、熱融着層の極性が高まるため、低極性の香り成分に対する非収着性が向上する。カルボン酸としては25℃におけるpKaが3.5以上であるものが好ましい。特に、カルボン酸としては、コストなどの観点から酢酸又は乳酸が好ましい。
【0080】
カルボン酸の熱融着層中の含有量の下限としては1ppmが好ましく、10ppmがより好ましく、50ppmがさらに好ましい。一方、カルボン酸の含有量の上限としては、10,000ppmが好ましく、1,000ppmがより好ましく、500ppmがさらに好ましい。このカルボン酸の含有量が上記下限より小さいと、溶融成形時に着色が発生するおそれがある。逆に、カルボン酸の含有量が上記上限を超えると、ヒートシールの際の接着性が不充分となるおそれがある。
【0081】
<その他の成分>
上記熱融着層には、必要に応じて、その他の各種成分(添加剤)を含有することができる。このような添加剤の例としては、酸化防止剤、可塑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、フィラー等を挙げることができ、これらを本発明の作用効果が阻害されない範囲でブレンドすることができる。各添加剤の具体的な例としては以下のようなものが挙げられる。
【0082】
酸化防止剤:2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4’−チオビス(6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’−チオビス(6−t−ブチルフェノール)など。
【0083】
紫外線吸収剤:エチレン−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンなど。
【0084】
可塑剤:フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、ワックス、流動パラフィン、リン酸エステルなど。
【0085】
帯電防止剤:ペンタエリスリットモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、硫酸化ポリオレフィン類、ポリエチレンオキシド、カーボワックスなど。
【0086】
滑剤:エチレンビスステアロアミド、ブチルステアレートなど。
【0087】
着色剤:カーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドン、インドリン、アゾ系顔料、ベンガラなど。
【0088】
充填剤:グラスファイバー、アスベスト、バラストナイト、ケイ酸カルシウムなど。
【0089】
<他の層>
当該ヒートシール用フィルムが多層構造の場合、上記熱融着層以外の層としては、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、各種共重合体等の樹脂の他、紙、アルミニウム等の金属、シリカやアルミナなどの金属酸化物などを使用することができる。またこの他の層はこれらの材料からなる層を組み合わせたものでもよい。
【0090】
当該ヒートシール用フィルムにおける具体的な多層構造としては、例えば、熱融着層/金属層/ポリエステル層からなる3層構造を挙げることができる。このように、当該ヒートシール用フィルムにおける他の層として金属層を備えることで、包装袋等として用いた際の非収着性やガスバリア性をさらに高めることができる。さらに、他の具体的な多層構造としては、例えば、熱融着層/ポリアミド層/ポリエステル層、熱融着層/ポリアミド層/ポリオレフィン層、熱融着層/紙層/ポリオレフィン層などを挙げることができる。
【0091】
なお、他の各層の厚みとしては特に限定されず、例えば2μm以上200μm以下程度である。
【0092】
<ヒートシール用フィルムの製造方法>
本発明のヒートシール用フィルムの製造方法としては特に限定されず、単層又は多層フィルムの公知の製造方法、例えば、押出法、共押出法、ドライラミネート法、押出コーティング法、共押出コーティング法等を採用することができる。具体的には、当該ヒートシール用フィルムが多層である場合は、熱融着層及び他の層を共押出する方法、他の層上に、熱融着層を押出コーティングする方法、熱融着層からなるフィルムと、他の層からなるフィルムとをドライラミネートする方法等が例示される。多層フィルムの場合は、積層する際に必要に応じて接着剤や接着性樹脂を使用することもできる。なお、熱融着層又は樹脂から形成される場合の他の層は、一軸延伸又は二軸延伸により配向していてもよい。また、当該ヒートシール用フィルムに、上記の金属や金属酸化物を積層する場合は、公知の蒸着法を使用することができる。
【0093】
<ヒートシール用フィルムの用途・性能等>
本発明のヒートシール用フィルムは、上述のように優れた非収着性を有しており、包装袋用として好適に用いることができる。
【0094】
当該ヒートシール用フィルムにおいて、上記熱融着層同士を対面させ、熱板式ヒートシーラーを用いて温度185℃、圧力0.1MPaの条件で1秒間圧着して得られるヒートシール強度が10N/15mm以上であるとよい。なお、対面させる熱融着層同士は同じであってもよいし異なっていてもよい。当該ヒートシール用フィルムは、ヒートシールにより優れたヒートシール強度を得ることができ、高い保香性を備える包装袋用のヒートシール用フィルムとして好適に用いることができる。なお、このヒートシール強度はJIS−Z1707に準拠して測定した値である。
【0095】
<包装袋>
当該ヒートシール用フィルムは、熱融着層同士を重ねてヒートシールすることにより、この熱融着層を内側とした容器及び包装体(袋、カップ、チューブ、トレー、ボトル等)とすることができる。上述のように、本発明のヒートシール用フィルムは、高い強度でヒートシールされることができ、また、熱融着層が香り成分の非収着性に優れているため、これから得られる上記包装袋等は優れた保香性を発揮することができる。
【0096】
ヒートシールする方法としては特に限定されず、公知の方法を用いることができ、例えば熱板式ヒートシーラー、インパルスシーラー、超音波シーラー、摩擦熱シーラー、誘電加熱シーラー等によりヒートシールする方法があげられる。ヒートシールする際の温度としては、特に限定されるものではないが、熱融着層の融点以上、(融点+30℃)以下であることがヒートシール強度と外観不良防止の点から好ましい。ヒートシールする圧力としては、特に限定されるものではないが、0.01MPa以上1.0MPa以下であることがヒートシール強度と外観不良防止の点から好ましい。ヒートシールする時間としては、特に限定されるものではないが、0.05秒以上5秒以下であることが、ヒートシール強度と生産性の点から好ましい。
【0097】
当該ヒートシール用フィルムをヒートシールして包装袋等を成形する際の、当該ヒートシール用フィルムの熱融着層の水分率としては、上述の通り、0.1質量%以上4質量%以下が好ましく、0.2質量%以上3質量%以下がさらに好ましい。ヒートシールの際の熱融着層の水分率を上記範囲とすることで、シール部分の外観の維持や、シール強度の低下を抑えることができる。この水分率が上記上限を超えると、ヒートシールの際に、熱融着層中の水分の気化により発泡が生じやすくなり、その結果、ヒートシール部分の外観が低下したり、ヒートシール性が低下したりするおそれがある。また、この水分率が上記下限以下の場合には、包装袋等を成形した直後の非収着性が低下する場合がある。仮に成形直後に内容物を充填した場合には、内容物由来の香気成分が上記熱融着層に収着されやすくなる。
【0098】
当該包装袋がジッパーを有するとよい。このようにジッパーを備えた包装袋によれば、一旦開封した後も再度密封することができるため、開封後の長期保存も可能となるとともに、この包装袋の繰り返しの使用を可能とする。
【0099】
当該包装袋において、ヒートシール用フィルムとジッパーとの接合方法としては、特に限定されないが、例えば、ヒートシール用フィルムにおける熱融着層とジッパーとをヒートシールによって接着する方法などを挙げることができる。
【0100】
当該包装袋における内容物(被包装物)としては、香り成分を含有した例えば食品、飲料、医薬品、化粧品、香料、トイレタリー製品等が挙げられ、特に、菓子、茶葉、コーヒー、香辛料及び煙草からなる群より選択される少なくとも1種であるとよい。当該包装袋は、上述のように優れた保香性を備えているため、特に保香性が必要とされる上記食品等の包装袋として好適である。
【実施例】
【0101】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0102】
〔1〕EVOHのエチレン含有量
H−NMR測定により求めた。すなわち、各実施例及び比較例に記載のEVOH樹脂ペレットをジメチルスルホキシド(DMSO)−dに溶解し、500MHzのH−NMR(日本電子株式会社製、GX−500)を用いて80℃で測定し、エチレン単位、ビニルアルコール単位及びビニルエステル単位のメチンプロトン(0.6〜2.1ppmのピーク強度比よりエチレン含有量を算出した。
【0103】
〔2〕EVOHのケン化度
H−NMR測定により求めた。すなわち、各実施例及び比較例に記載のEVOH樹脂ペレットをDMSO−dに溶解し、500MHzのH−NMR(日本電子株式会社製、GX−500)を用いて80℃で測定し、ビニルエステル単位の側鎖部位プロトン、ビニルアルコール単位のメチンプロトン(3.15〜4.15ppm)のピーク強度比より算出した。
【0104】
〔3〕EVOHの融点
示差走査熱量分析により求めた。すなわち、各実施例及び比較例に記載のEVOH樹脂ペレットについて、JIS−K7121に準じて、30℃から220℃まで10℃/分の速度にて昇温した後100℃/分で30℃まで急冷して再度30℃から220℃まで10℃/分の昇温速度にて示差走査熱量分析(セイコー電子工業株式会社製示差走査熱量計(DSC)RDC220/SSC5200H型)を実施した。温度の校正にはインジウムと鉛を用いた。2ndランのチャートから上記JISでいう融解ピーク温度(Tpm)を求め、これを融点とした。
【0105】
〔4〕EVOHの末端カルボン酸単位及びラクトン環単位含有量
H−NMR測定により求めた。すなわち、各実施例及び比較例に記載のEVOH樹脂ペレットを水/メタノール溶媒に溶解し、500MHzのH−NMR(日本電子株式会社製、GX−500)Hを用いて80℃で測定し、0.7〜2.0ppmのメチレン水素の積分値(I)、2.2〜2.5ppmのピークの積分値(I)、2.5〜2.65ppmのピークの積分値(I)を用いて、下記式により末端カルボン酸単位及びラクトン環単位含有量の算出を行った。ここで積分値(I)、(I)は末端カルボン酸単位及びラクトン環単位由来のピークに関するものである。なお、下記式に記載のEtとはエチレン含有量である。
末端カルボン酸単位及びラクトン環単位含有量(モル%)
=(Et+100)・(2I+I)/{200I+(2I+I)/2}
【0106】
〔5〕熱融着層中のの金属塩含有量
ICP発光分光分析により求めた。すなわち、各実施例及び比較例に記載の熱融着層を凍結粉砕により粉砕し、得られた粉末10gとイオン交換水50mLを100mL共栓付き三角フラスコに投入し、冷却コンデンサーを付けて、95℃で10時間撹拌、加熱抽出し、得られた抽出液2mLを、イオン交換水8mLで希釈した抽出液を、ICP発光分光分析装置(パーキンエルマー製 「Optima4300DV」)により含有金属分析を行い、金属イオン含有量を定量し金属塩の含有量を算出した。
【0107】
〔6〕熱融着層の中のホウ素化合物含有量
原子吸光分析により求めた。すなわち、各実施例及び比較例に記載の熱融着層100gを磁性ルツボに入れ、電気炉内で灰化させ、得られた灰分を0.01規定の硝酸水溶液200mLに溶解し、原子吸光分析によって定量し、ホウ素化合物換算でのホウ素化合物の含有量を得た。
【0108】
〔7〕熱融着層の水分率
重量測定法により求めた。各実施例及び比較例に記載のヒートシール用フィルムが単層フィルムの場合には、200×200mmに切り出した時の質量を(Wc)とし、その後熱風乾燥器にて120℃−2時間加熱した後の質量を(Wd)とし、下記の数式により熱融着層の水分率を求めた。各実施例及び比較例に記載のヒートシール用フィルムが多層フィルムの場合は、熱融着層を剥離して熱融着層の単層フィルムとし、その水分率を上記と同様に求めた。
水分率(wt%)={Wc−Wd}÷Wd×100
【0109】
〔8〕熱融着層の平衡水分率
各実施例及び比較例に記載のヒートシール用フィルムの熱融着層における平衡水分率は、JIS−L1015−2010の8.3「平衡水分率」の測定法に準拠して求めた。単層フィルムの場合はフィルム全体として、多層フィルムの場合は、熱融着層を剥離して熱融着層の単層フィルムとし、、その平衡水分率を求めた。
【0110】
〔9〕示差走査熱量分析における融解を示す吸熱ピークの半値幅
示差走査熱量分析により求めた。すなわち、各実施例及び比較例に記載のヒートシール用フィルムの熱融着層について、JIS−K7121に準じて、30℃から300℃まで10℃/分の昇温速度にて示差走査熱量分析(セイコー電子工業株式会社製示差走査熱量計(DSC)RDC220/SSC5200H型)を実施し、横軸に温度をとったDSC曲線(上記JISで定義)のグラフにおいて、熱融着層中のEVOHの融解由来する吸熱ピークの頂点とベースラインの差をAとした際に、当該吸熱ピークの頂点前後においてベースラインとの差が(A/2)となる2つの温度を求め、その差を算出することにより得た。
【0111】
〔10〕熱融着層の密度
密度勾配管により求めた。すなわち、各実施例及び比較例に記載のヒートシール用フィルムの熱融着層の密度は、25℃に保持したn−ヘキサン/四塩化炭素混合液を充填した密度勾配管を使用し、5mm×5mmのフィルム状試料の密度を測定した。単層の場合はフィルム全体として、多層フィルムの場合は、熱融着層を剥離して熱融着層の単層フィルムとし、その密度を求めた。
【0112】
[実施例1]
エチレン含有量48モル%、ケン化度99.9モル%以上、溶解性パラメーター(SP値)12.0(cal/cm1/2、融点160.0℃、末端カルボン酸単位及びラクトン環単位含有量0.17モル%であるEVOHを含み、金属(アルカリ金属及びアルカリ土類金属)塩含有量80ppm及びホウ素化合物含有量500ppmのEVOH樹脂ペレットを、ダイ幅450mmのTダイを用いて単層製膜し、水分率が0.2質量%である実施例1のヒートシール用フィルム(厚さ30μm)を得た。
【0113】
得られたヒートシール用フィルム(熱融着層)は、金属(アルカリ金属及びアルカリ土類金属)塩含有量80ppm及びホウ素化合物含有量500ppmであり、温度23℃、相対湿度50%における平衡水分率は1.9質量%であり、30℃から300℃まで10℃/分の昇温速度にて測定した示差走査熱量分析(DSC)におけるEVOHの融解を示す吸熱ピークの半値幅は11.1℃であり、密度は1.12g/cmであった。
【0114】
[実施例2]
エチレン含有量44モル%、ケン化度99.9モル%以上、溶解性パラメーター(SP値)12.2(cal/cm1/2、融点165.0℃、末端カルボン酸単位及びラクトン環単位含有量0.17モル%であるEVOHを含み、金属(アルカリ金属及びアルカリ土類金属)塩含有量105ppm及びホウ素化合物含有量1,400ppmのEVOH樹脂ペレット80質量部と、接着性高密度ポリエチレン(三菱化学株式会社製「モディックH511」)20質量部をドライブレンドし、ダイ幅450mmのTダイを用いて単層製膜し、水分率が0.2質量%である実施例2のヒートシール用フィルム(厚さ30μm)を得た。
【0115】
得られたヒートシール用フィルム(熱融着層)は、金属(アルカリ金属及びアルカリ土類金属)塩含有量84ppm及びホウ素化合物含有量1120ppmであり、温度23℃、相対湿度50%における平衡水分率は2.0質量%であり、30℃から300℃まで10℃/分の昇温速度にて測定した示差走査熱量分析(DSC)におけるEVOHの融解を示す吸熱ピークの半値幅は8.5℃であり、密度は1.10g/cmであった。
【0116】
[実施例3〜15、17及び18並びに比較例1〜5]
上記各物性が表1に記載の物性値としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3〜15、17及び18並びに比較例1〜5のヒートシール用フィルム(厚さ30μm)を製造した。表1中「−」は、測定していないことを示す。なお、水分率は、得られた各フィルムを湿度及び温度が異なる所定の環境下に7日間保存することで、異なる値を有するものとした。
【0117】
なお、実施例18においては、実施例5で用いたEVOH樹脂ペレットとナイロン(宇部興産株式会社製「UBEナイロン−1022FDX23」)との共押出による2層フィルムとした(各層の厚みは共に30μm)。また、比較例1は樹脂としてポリエチレンを、比較例5は樹脂としてポリビニルアルコールを用いた。
【0118】
[実施例16]
エチレン含有量32モル%、ケン化度99.9モル%以上、溶解性パラメーター(SP値)13.0(cal/cm1/2、融点183.0℃、末端カルボン酸単位及びラクトン環単位含有量0.18モル%であるEVOHを含み、金属(アルカリ金属及びアルカリ土類金属)塩含有量205ppm及びホウ素化合物含有量400ppmのEVOH樹脂ペレットを、ダイ幅450mmのTダイを用いて単層製膜した後、テンター延伸機にて縦方向3倍、横方向3倍に延伸し水分率が0.3質量%である実施例16のヒートシール用フィルム(厚さ20μm)を得た。
【0119】
得られたヒートシール用フィルム(熱融着層)は、金属(アルカリ金属及びアルカリ土類金属)塩含有量205ppm及びホウ素化合物含有量400ppmであり、温度23℃、相対湿度50%における平衡水分率は3.0質量%であり、30℃から300℃まで10℃/分の昇温速度にて測定した示差走査熱量分析(DSC)におけるEVOHの融解を示す吸熱ピークの半値幅は6.0℃であり、密度は1.19g/cmであった。
【0120】
[評価]
(ヒートシール性)
得られた各ヒートシール用フィルムを重ね合わせ、熱板式ヒートシーラー(ヒライ商事株式会社製バッグシーラーHBS−280)を用いて温度185℃、圧力0.1MPaの条件で1秒間圧着させた。なお、実施例18のヒートシール用フィルムにおいては、熱融着層同士を重ね合わせて同様に行った。
【0121】
ヒートシールされたフィルムの幅15mm当たりのヒートシール強度(N/15mm)を引張試験機により測定した。なお、シール強度測定の際の引張速度は300mm/分とした。結果を表1に示す。
【0122】
また、ヒートシールされた部分の外観を目視にて以下の基準で評価した。
○:優れた外観を有する
△:減肉や発泡がわずかに生じており、外観がやや悪い
×:減肉や発泡が目立つなど、外観が悪い
【0123】
(香り成分非収着性)
得られた各フィルムを10cm角に切り、0.1mLのd−リモネンを添加した500mLガラス瓶中に放置した。ガラス瓶中の気相部は、温度23℃、相対湿度50%とした。各実施例及び比較例のフィルムで2つずつ試料を準備し、1時間及び1週間後にそれぞれフィルムを取り出して、水洗した後、被験者10人による官能評価を行った。フィルムに残る香りの強度が弱い方から1として、1〜5の5段階評価を行った。10人の平均値を取り、小数点以下は四捨五入した。なお、それぞれの放置時間において、最も臭気の強いものを5、最も臭気の弱いものを1と相対評価しているため、1時間後と1週間後における例えば評価「3」に対応する臭いの強度は異なる。ここで、1時間後の非収着性は、加工時(ヒートシール時)の水分率に依存し、1週間後の非収着性は平衡水分率に依存すると考えられる。
【0124】
【表1】

【0125】
表1の結果から示されるように、実施例1〜18のヒートシール用フィルムは、ヒートシール性及び香り成分の非収着性に優れていることが示される。
【産業上の利用可能性】
【0126】
以上のように、本発明のヒートシール用フィルムは、香り成分の非収着性に優れているため、食品、香料、嗜好品等の包装袋用のフィルム等として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−ビニルアルコール共重合体を含む熱融着層を最外層に備え、
上記エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン含有量が20モル%以上70モル%以下、ケン化度が90モル%以上であり、
上記熱融着層の温度23℃、相対湿度50%における平衡水分率が0.5質量%以上5.0質量%以下であるヒートシール用フィルム。
【請求項2】
2層以上の層構造を有し、
少なくとも一方の最外層が上記熱融着層からなる請求項1に記載のヒートシール用フィルム。
【請求項3】
上記熱融着層の水分率が0.1質量%以上4.0質量%以下である請求項1又は請求項2に記載のヒートシール用フィルム。
【請求項4】
上記熱融着層を30℃から300℃まで10℃/分の昇温速度にて測定した示差走査熱量分析において、上記エチレン−ビニルアルコール共重合体の融解を示す吸熱ピークの半値幅が5.0℃以上20.0℃以下である請求項1、請求項2又は請求項3に記載のヒートシール用フィルム。
【請求項5】
上記エチレン−ビニルアルコール共重合体の溶解性パラメーター(SP値)が11.0以上、融点が170℃以下であり、
上記熱融着層の密度が1.10g/cm以上、厚みが2μm以上100μm以下である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のヒートシール用フィルム。
【請求項6】
上記エチレン−ビニルアルコール共重合体が末端カルボン酸単位及びラクトン環単位を有し、
エチレン単位、ビニルアルコール単位及びビニルエステル単位の合計量に対する上記末端カルボン酸単位及びラクトン環単位の合計量が0.05モル%以上0.30モル%以下である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のヒートシール用フィルム。
【請求項7】
上記熱融着層が金属塩を含み、
この熱融着層における金属塩の含有量が金属元素換算で1ppm以上10,000ppm以下である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のヒートシール用フィルム。
【請求項8】
上記熱融着層がホウ素化合物を含有し、
この熱融着層におけるホウ素化合物の含有量が50ppm以上2,000ppm以下である請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のヒートシール用フィルム。
【請求項9】
包装袋用である請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のヒートシール用フィルム。
【請求項10】
上記熱融着層同士を対面させ、熱板式ヒートシーラーを用いて温度185℃、圧力0.1MPaの条件で1秒間圧着して得られるヒートシールの強度が10N/15mm以上である請求項9に記載のヒートシール用フィルム。
【請求項11】
請求項9又は請求項10に記載のヒートシール用フィルムから形成され、このヒートシール用フィルムの熱融着層を内側とし、この熱融着層をヒートシールして得られる包装袋。
【請求項12】
上記ヒートシール時における熱融着層の水分率が0.1質量%以上4.0質量%以下である請求項11に記載の包装袋。
【請求項13】
ジッパーを有する請求項11又は請求項12に記載の包装袋。
【請求項14】
包装される内容物が菓子、茶葉、コーヒー、香辛料及び煙草からなる群より選択される少なくとも1種である請求項11、請求項12又は請求項13に記載の包装袋。

【公開番号】特開2012−41076(P2012−41076A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185521(P2010−185521)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】