説明

ビアホール用導電性組成物

本発明は、導電性金属と媒体とを含有する、電子回路基板中に形成されたビアホールに充填するための導電性組成物に関する。ただし、導電性金属の含有率は、57容積%以上であり、かつ導電性組成物は、組成物に外圧が加えられた時に流動性が増大する塑性流体である。本発明の目的は、ビアホールから空気の閉込めを排除することである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック基板またはガラス基板などに設けられたビアホールの充填に使用される導電性組成物に関し、より特定的には、ビアホール中に導電性組成物を印刷する時に空気の閉込めを防止しうる導電性組成物に関する。そのほかに、本発明は、この導電性組成物を用いた電子部品と、そうした電子デバイスの製造方法と、に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性金属が充填されるビアホールと呼ばれる部位は、垂直方向(両方向もしくは積層方向)の導通性または熱伝導性を改良すべく、単層回路基板中または複数の回路基板が積層された積層回路基板中に形成される。こうしたビアホールの形成に用いられる典型的なプロセスの一例は、(1)導電性ペーストを調製することと、(2)ビアホールに対応する孔が形成された部位中に導電性ペーストを充填することと、(3)ペーストを乾燥および焼成することと、を含む。
【0003】
ビアホール用導電性ペーストに関する技術の例は、特開2003−324268号公報である。特開2003−324268号公報の例では31.3〜47.6容積%の導電性金属(Ag)を含有するペーストが使用される。
【0004】
ペーストは、典型的には、スクリーン印刷により充填される。図1(従来技術)に示されるように、導電性ペースト10は、メタルマスク30を介して基板20の孔中に充填される。ペーストは、ある程度の粘度を有するので、ペーストが供給される時、孔の側壁に沿って孔中に流入して空気を閉じ込める可能性がある。この状態のままスキージー40を用いてペーストを孔中に押し込んだ場合、空気が中に閉じ込められたままペーストが孔中に充填されるので、エアボイド50が形成される。こうした空気の閉込めは、大きい直径を有する孔の場合、とくに顕著である。
【0005】
したがって、ビアホールの印刷時、導電性ペーストにより空気がビアホール中に閉じ込められる。このため、基板の焼成後、ボイドやピンホールのような構造欠陥を生じる。これらの欠陥は、導電性および熱伝導性ならびに焼成表面の平滑性に有害な影響を及ぼす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、基板中のビアホールに充填するための、高充填密度の金属粉末を含む高固形分含有率の導電性組成物を提供することである。ただし、基板上には電子回路が形成されており、導電性組成物は、ビアホールから空気の閉込めを排除しうるものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、導電性金属と媒体とを含む、電子回路基板中に形成されたビアホールに充填するための導電性組成物に関する。ただし、導電性金属の含有率は、57容積%以上であり、かつ導電性組成物は、組成物に外圧が加えられた時に流動性が増大する塑性流体である。導電性金属は、一般的には、金、銀、銅、パラジウム、白金、ニッケル、およびアルミニウムからなる群から選択される金属、またはそれらの合金である。
【0008】
本発明のもう1つの態様は、貫通孔が形成された電子回路基板を作製する工程と、導電性金属と媒体とを含有する導電性組成物を貫通孔中に充填する工程であって、導電性金属の含有率は、57容積%以上であり、かつ導電性組成物は、組成物に外圧が加えられた時に流動性が増大する塑性流体である工程と、電子回路基板を焼成する工程と、を含む、電子デバイスの製造方法に関する。
【0009】
本発明のもう1つの態様は、以上に述べた電子デバイスの製造方法に従って製造された電子デバイスに関する。
【0010】
本発明に係る導電性組成物を用いれば、印刷プロセス時のビアホール中への空気の閉込めが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】エアボイドが形成される機構を示す概略図である(従来技術)。
【図2】低温共焼成セラミック多層回路基板の形態の本発明に係る電子デバイスの例を模式的に示す長手方向断面図である。
【図3】低温共焼成セラミック多層回路基板の形態の本発明に係る電子デバイスの製造プロセスを説明するための図である(第1の工程)。
【図4】低温共焼成セラミック多層回路基板の形態の本発明に係る電子デバイスの製造プロセスを説明するための図である(第2の工程)。
【図5】低温共焼成セラミック多層回路基板の形態の本発明に係る電子デバイスの製造プロセスを説明するための図である(第3の工程)。
【図6】比較例1の焼成後の表面プロファイルを示す顕微鏡写真である。
【図7】実施例4の焼成後の表面プロファイルを示す顕微鏡写真である。
【図8】実施例6の焼成後の表面プロファイルを示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、電子回路基板中に形成されたビアホールに充填するための導電性組成物である。この導電性組成物は、導電性金属と媒体とを含有する。ただし、導電性金属の含有率は、57容積%以上であり、かつ組成物は、組成物に外圧が加えられた時に流動性が増大する塑性流体である。
【0013】
本発明に係る導電性組成物の各成分について以下に説明を行う。
【0014】
1.導電性金属
導電性金属は、好ましくは、導電性粉末である。金属のタイプにとくに限定を加えるものではないが、低温共焼結セラミック(LTCC)基板に適用する場合、導電性金属粉末は、好ましくは、高導電率を有する金属粉末、たとえば、金、銀、銅、パラジウム、白金、ニッケル、およびアルミニウムからなる群から選択する金属、またはそれらの合金およびそれらの混合物である。
【0015】
導電性金属粉末の平均粒子直径にとくに限定を加えるものではないが、一実施形態では、それは0.1〜10μmであり、好ましくは0.8〜8μm、より好ましくは1〜6μmである。この範囲内の粒子直径を有する導電性金属粉末を使用することにより、ビアホール内の空気の閉込めは効果的に抑制される。
【0016】
スフェアやフレークのような種々の形状を導電性金属粉末の形状に使用することが可能であるが、それは好ましくは球状である。球状導電性金属粉末を使用した場合、ペースト中の導電性金属が57容積%を超えたとしても外圧を加えた場合に流動性が保持されるうえに、印刷および乾燥の後の充填密度を増大させることが可能である。
【0017】
2.媒体
媒体のタイプにとくに限定を加えるものではない。使用可能な媒体の例としては、バインダー樹脂(たとえば、エチルセルロース樹脂、アクリル樹脂、ロジン変性樹脂、またはポリビニルブチラール樹脂)と有機溶媒(たとえば、ブチルカルビトールアセテート(BCA)、テルピネオール、エステルアルコール、BC、またはTPO)との有機混合物が挙げられる。
【0018】
本発明に係る導電性組成物は、高含有率の導電性金属を有することにより特徴付けられ、その結果として、本発明に係る組成物は、組成物に外圧が加えられた時に流動性が増大する塑性流体になる。さらに、本明細書中では、「塑性流体」とは、組成物に外圧が加えられた時に流動性が増大する塑性を有する流体を意味する。本発明では、「塑性流体」という用語は、特定的には、通常の印刷時などに組成物を電子回路基板上に非擾乱状態で放置した場合には流動性を示さないが物理的圧力や熱エネルギーのような外圧が加えられる場合には流動性を示す流体を意味する。流動性の有無が温度に依存する場合、本出願では、25℃で流動性があることを「流動性を有する」と定義する。
【0019】
本発明に係る導電性組成物は、以上で定義したような塑性流体である。本発明に係る導電性組成物が塑性流体になる理由は明らかでないが、以下の因子が関与していると考えられる。
【0020】
本発明に係る導電性組成物(an electrically conductive)中の導電性金属の含有率を増加させた場合、組成物の挙動は流体の挙動に変化する。すなわち、低含有率の導電性金属の場合、導電性金属は媒体中に分散された状態である。一方、導電性金属の含有率が高い場合、十分な量の媒体が導電性金属粉末の周りに存在しない。たとえば、所定の含有率に等しいかもしくはそれよりも多い導電性金属を含有する導電性組成物は、導電性金属粉末中の間隙に充填する媒体が不足する。そのような状態では、組成物中の導電性金属粉末間の相互接触の可能性が増大し、非擾乱状態で放置した時に流動性が失われる。一方、導電性金属粉末間の相互接触に伴う結合強度は弱いので、組成物は、外圧が加えられた場合に容易に流動性になることが可能であり、それにより、流動性を示す組成物を生じる。したがって、たとえば、本発明に係る導電性組成物は、通常の導電性組成物よりも高い導電性金属含有率を有するので、スキージーのような充填具により外圧を加えた結果として組成物をビアホール中に充填する時に流動性を示す。
【0021】
一般的には、導電性組成物をビアホール中に充填する時、空気がビアホール中に容易に閉じ込められる。しかしながら、本発明に係る導電性組成物を使用すれば、基板上に置かれている時は組成物は固体状態であり、スキージーなどを用いて組成物をビアホール中に充填する時は外圧により流動性を生じるので、それにより、空気を内部に閉じ込めることなく孔の上側から孔の底部に組成物を充填することが可能になる。したがって、孔中への空気の閉込めは著しく低減される。
【0022】
このようにして本発明に係る導電性組成物が塑性流体の挙動を示すようにしうる導電性金属の含有率は、57容積%以上である。さらに、本出願で参照される含有率は、導電性組成物の全体積を基準にした値として決定される。
【0023】
導電性金属の含有率は、好ましくは57〜75容積%、より好ましくは60〜72容積%、さらにより好ましくは63〜70容積%である。導電性金属の含有率が過度に低い場合、ビアホール中への空気の閉込めを減少させる効果は低下する。導電性金属の含有率が過度に高い場合、導電性組成物に外圧を加えたとしても流動性を確保することは困難になる。
【0024】
本発明に係る組成物の充填密度は、組成物を乾燥させる場合、好ましくは50%以上である。充填密度が50%未満である場合、焼成時の金属粉末の収縮が増大し、ビアホールの壁と導電性組成物との間に亀裂を生じる。それに加えて、大きい焼成収縮が原因で、焼成後、十分な量の導体をビアホール中に確保することができない。
【0025】
本発明に係る導電性組成物はまた、導電性粉末および有機媒体に加えて他の成分を含みうる。たとえば、好ましくは、無機酸化物、無機酸化物の複合酸化物、または金属レジネートが含まれる。これら化合物が本発明に係る組成物中に含有される場合、導電性金属の焼成収縮を制御することが可能である。たとえば、この組成物をセラミックグリーンシートと共に共焼成する場合、導電性金属の焼成収縮とセラミックグリーンシートの焼成収縮とを一致させることにより、亀裂や離層のような構造欠陥を防止することが可能である。
【0026】
無機酸化物の例としては、Al23、SiO2、TiO2、MnO、MgO、ZrO2、CaO、BaO、およびCo23からなる群から選択される900℃以下の温度で融解しない酸化物が挙げられる。無機酸化物の複合酸化物の例としては、BaTiO3、CaTiO3、およびMgTiO3が挙げられる。金属レジネート(metal resonates)の例としては、Pt、Pd、Rh、Mn、Ti、Zr、Ca、およびCoの金属レジネート(metal resonates)が挙げられる。
【0027】
無機酸化物、無機酸化物の複合酸化物、および金属レジネート(metal resonates)の含有率は、組成物の全重量を基準にして、好ましくは0.1〜10wt%、より好ましくは0.2〜5wt%であり、かつ導電性金属の合計含有率は57容積%以上である。無機酸化物および無機酸化物の複合酸化物は、典型的には導電性ではなくかつ焼成時に金属の焼結を抑制するので、過剰に含有される場合、導電性に有害な作用を及ぼす危険性がある。
【0028】
一方、10wt%以下で含有されていたとしても、粒子直径が大きいその場合、導電性金属の焼結を抑制する作用は低下する。したがって、無機酸化物、無機酸化物の複合酸化物、および金属レジネートの平均粒子直径は、好ましくは0.03〜5μm、より好ましくは0.03〜2μmである。
【0029】
本発明に係る導電性組成物の他の成分の一例は、ガラス粉末である。ガラス粉末は、焼成後のセラミックスと焼成された組成物との間の接着強度を改良するために含まれる。ガラス粉末の含有率は、組成物の全重量を基準にして、好ましくは0.1〜10wt%、より好ましくは0.2〜5wt%である。上述の無機酸化物などと同様の理由で、ガラス粉末の平均粒子直径は、好ましくは0.1〜5μm、より好ましくは0.3〜3μmである。
【0030】
本発明に係る導電性組成物は、所望により、三本ロールミルなどを用いて以上に述べた成分のそれぞれを混合することにより製造される。
【0031】
本発明に係る電子デバイスについて以下に説明を行う。
【0032】
本発明に係る電子デバイスの例を図2に示す。図2は、本発明の一実施形態としての低温共焼成セラミック多層回路基板の例を模式的に示す長手方向断面図である。さらに、本発明は、図2に示される実施形態に限定されるものではなく、それどころか、ビアホールを有する任意の電子デバイスに適用可能である。たとえば、本発明は、LTCC以外のプロセスにより製造される電子デバイスに適用可能である。
【0033】
図2に示されるように、電子デバイスは、複数の層の形態で積層された所定の寸法の基板102、104、および106を有し、かつ各基板中の所定の位置にビアホール108および110が設けられている。それに加えて、抵抗ならびに配線パターン112aおよび112bのような種々のタイプの回路素子が各基板の片側または両側に形成されており、かつ実装素子116が実装ランド114上に実装されている。ビアホール108および110には、ビア導体118が充填されている。このビア導体は、以上に述べた本発明に係る導電性組成物である。
【0034】
本発明に係るこの電子デバイスでは、セラミックスのほかにガラスなどを基板材料に使用することが可能である。セラミックスに使用可能な材料の例としては、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭化ケイ素、および窒化シリコンが挙げられる。公知のシリカ系ガラスをガラスに使用することが可能である。これらの材料で構成された基板は、典型的には、グリーンシートを焼成することにより取得可能である。
【0035】
図2に示される構成の例では、より長い直径を有するビアホール108は、実装素子116から熱を散逸させるためのサーマルビアであり、一方、より短い直径を有するビアホール110は、層間で配線パターン112aおよび112bを相互接続するためのビアホールである。
【0036】
本発明に係る導電性組成物を使用した結果として、本発明に係る電子デバイスのビアホール中への空気の閉込めを抑制しつつペーストをビアホール中に充填することが可能であるので、ビアホール中に充填された材料の導電性、熱伝導性、および表面平滑性を改良することが可能である。
【0037】
次に、本発明に係る電子デバイスの製造プロセスについて説明を行う。電子デバイスを製造するための本発明に係る方法は、貫通孔が形成された電子回路基板を作製する工程と、導電性金属と媒体とを含有する導電性組成物を貫通孔中に充填する工程であって、導電性組成物中の導電性金属の含有率は、57容積%以上であり、かつ導電性組成物は、外圧が加えられた時に流動性が増大する塑性流体である工程と、この導電性組成物が充填された電子回路基板を焼成する工程と、を含む。
【0038】
図3〜5を参照しながら電子デバイスの一実施形態としての低温共焼成セラミック多層電子回路基板の製造プロセスについて以下に説明を行う。
【0039】
最初に、本実施形態の製造プロセスの第1の工程について説明を行う(図3参照)。第1の工程では、貫通孔が形成された電子回路基板を作製する。さらに、本明細書中では、「電子回路基板」という用語は、貫通孔が形成されたグリーンシートまたは貫通孔および回路パターンが形成されたグリーンシートのような焼成前の基板を含む概念を意味する。
【0040】
最初に、ドクターブレード法などにより低温共焼成セラミックス用スラリーをテープの形態に成形し、次に、テープを所定の寸法にカットして低温共焼成セラミックスグリーンシート202を作製する(図3A)。
【0041】
低温共焼成セラミックスの例としては、50〜65wt%のCaO−SiO2−Al23−B23系ガラスと50〜35wt%のアルミナとの混合物が挙げられる。使用可能な低温共焼成セラミック材料の他の例としては、800〜1000℃で焼成可能な材料、たとえば、MgO−SiO2−Al23−B23系ガラスとアルミナとの混合物、SiO2−B23系ガラスとアルミナとの混合物、PbO−SiO2−B23系ガラスとアルミナとの混合物、およびコージェライト系結晶化ガラスが挙げられる。
【0042】
次に、貫通孔として機能するビアホール204および206をこのグリーンシート202の所定の位置に穿孔する(図3B)。
【0043】
さらに、貫通孔として機能するこれらのビアホールを形成する方法の例としては、(i)穿孔により指定のサイズの貫通孔をグリーンシート中に形成してから焼成する方法、および(ii)レーザー形成、サンドブラスト加工、または電子ビーム形成などによりビアホールとして機能するように貫通孔を焼成された電子回路基板中に形成する方法が挙げられる。
【0044】
ペースト組成物用貫通孔のサイズにとくに限定を加えるものではないが、好ましくは、基板表面に平行な平面内の貫通孔の表面積が0.25mm2以上であるようなサイズである。より特定的には、円形貫通孔の場合、組成物に対しては1mm以上の比較的大きい直径が好ましい。この理由は、このような大きい直径を有する貫通孔中にペーストを充填する場合、空気の閉込めがとくに起こりやすいが、本発明に係る製造プロセスを用いれば、こうした空気の閉込めを効果的に抑制しうることにある。図3に示される構成では、大きい直径の貫通孔204は、実装素子の熱を散逸させるためのサーマルビアを形成するための貫通孔であり、一方、小さい直径の貫通孔206は、層間配線パターンを接続するためのビアホールである。
【0045】
低温共焼成セラミック多層回路基板の方式でグリーンシートを積層する場合、ビアホールは、配線パターンを接続するように穿孔される。したがって、グリーンシート中の同一位置に貫通孔を設ける必要はない。さらに、サーマルビアの方式で熱を散逸させるための貫通孔は、好ましくは、熱拡散効率の観点からすべて同一位置に穿孔される。
【0046】
上述の方法により貫通孔が形成されたグリーンシートは、積層される層の数に等しい数だけ形成される(図3C)。図3は、3層のグリーンシート202a、202b、および202cを形成する場合の例を示している。
【0047】
次に、第2の工程について説明を行う(図4参照)。第2の工程では、形成された貫通孔204および206中に導電性組成物を充填する。導電性組成物の充填は、典型的には、印刷により行われる。
【0048】
低温共焼成セラミック多層回路基板の場合、グリーンシート202の貫通孔204および206の充填は、製造コストを削減するという観点から配線パターンの印刷と同時に行うことが可能である。さらに、最上層配線パターン208a、内層配線パターン208b、最下層配線パターン208c、貫通孔204および206の充填部分、ならびに素子実装ランド214を図4に示す。この場合、積層時、グリーンシート202bは内層として機能し、一方、配線パターン208bは内層配線パターンとして機能する。さらに、グリーンシート202cの積層時、グリーンシート202bに接触する側のグリーンシート202cの配線パターン208bもまた、内層配線パターン208bとして機能する。
【0049】
同時印刷工程では、貫通孔204および206に充填するためにかつ配線パターン208aおよび208bの印刷を行うために印刷パターンが形成されたスクリーンマスク216をグリーンシート202上に配置し、このスクリーンマスクに導電性組成物218を供給し、そしてスクリーンマスクの上側表面に沿ってスキージー220を摺動させて貫通孔204および206に充填すると同時に配線パターン208aおよび208bの印刷を行う。これは、各グリーンシート202a、202b、および202cに対して行われる(図4A)。
【0050】
さらに、貫通孔204および206の充填と同時に最下側層のグリーンシート202cの上側表面上の内層配線パターン208bを印刷し(図4A、工程(i))、その後、この最下側グリーンシート202cの下側表面上に最下層配線パターン208cを印刷する(図4A、工程(ii))。この最下層配線パターン208cの印刷は、後述されるグリーンシート202a、202b、および202cの積層または焼成の後で行うことが可能である。一方、配線パターン以外の導体パターン、たとえば、素子実装ランド214は、好ましくは、貫通孔204および206の充填と同時に最上層配線パターン208aを印刷する時に最上側グリーンシート202aの上側表面上に同時に形成される。さらに、最上層配線パターン208aおよび素子実装ランド214などの印刷は、後述されるグリーンシート202cの積層または焼成の後で行うことが可能である。上述のプロセスでは、本発明に係る導電性組成物は、最上層配線パターン208a、内層配線パターン208b、最下層配線パターン208c、および素子実装ランド214の上にコーティングして貫通孔204および206(図4B)中に充填することが可能である。
【0051】
焼成工程の形態の第3の工程について以下に説明を行う(図5参照)。
【0052】
最初に、第2の工程の終了後、得られたグリーンシートのそれぞれを積層しかつプレスして一体化する(図5A)。グリーンシート202a、202b、および202cからなる各層を積層し、この積層体を、たとえば、60〜150℃かつ0.1〜30MPa(好ましくは1〜10MPa)の条件下でホットプレスすることにより一体化して単一ユニットにする。
【0053】
次に、焼成を行う(図5中の矢印)。より特定的には、たとえば、800〜1000℃(好ましくは900℃)で20分間保持する条件下でグリーンシート積層体202を焼成することが可能である。最上層配線パターンさらには内層配線パターンおよび最下層配線パターン208a、208b、および208cの形態に充填された導電性組成物218と同時にグリーンシート積層体202を焼成して、低温共焼成セラミック多層回路基板(図5B)を製造する。
【0054】
最上層配線パターン、内層配線パターン、および最下層配線パターン208a、208b、および208cの形態にかつ貫通孔204および206中に充填された導電性組成物218が、焼成時に酸化しない貴金属系(たとえば、Ag系またはAu系)導電性組成物を用いて印刷されている場合、空気中(酸化性雰囲気中)で焼成することが可能である。一方、酸化を受けやすいCu系組成物のような金属系被酸化性導電性組成物を用いて配線パターンが印刷されかつ貫通孔が充填されている場合、好ましくは、導電性組成物の酸化を防止するために窒素ガスのような不活性雰囲気(非酸化性雰囲気)中で焼成する。
【0055】
さらに、焼成工程では、グリーンシート積層体202の両側にアルミナグリーンシートを積層し、かつ圧力を加えながら焼成することにより、低温共焼成セラミック多層回路基板を製造することが可能である。この加圧焼成法は、両側にアルミナグリーンシートが積層された積層体に圧力を加えながら800〜1000℃で焼成することと、続いて、焼成された基板の両側からブラスト処理などによりアルミナグリーンシートの残留物を除去することと、を含む。この加圧焼成法は、焼成に起因する基板の収縮を抑制することにより基板の寸法確度を改良しうるという利点を提供する。
【0056】
焼成後、必要に応じて実装素子を実装して図2に示されるような電子デバイスを製造することが可能である。
【0057】
LTCC以外の用途での乾燥条件および焼成条件は、使用される基板および用途を考慮して公知の知見を参照しながら適切に設定可能である。たとえば、セラミック基板またはガラス基板を電子回路基板に使用する場合、印刷法を用いて組成物を充填および印刷した後、好ましくは、70〜200℃の範囲内の温度で組成物を5〜60分間乾燥させ、次に、20〜120分間の範囲内の全ベーキング時間でベルトオーブン中またはボックスオーブン中などで焼成し、そして450〜900℃の範囲内の最高温度で5〜30分間保持する。
【0058】
本発明に係る導電性組成物を用いて製造された電子デバイスは、種々の用途で使用され、その例としては、セル式電話の高周波回路およびLEDのヒートシンク回路が挙げられる。
【実施例】
【0059】
以下に本発明についてその実施例を介してより詳細な説明を行うが、これらの実施例は、本発明を例示したものにすぎず、なんら本発明を限定するものではない。
【0060】
本実施例では、使用した基板材料、導電性組成物の各材料、基板の印刷および乾燥、ならびに評価結果は、以下に記載のとおりである。
【0061】
(1)基板
0.6mmの厚さを有する2インチのAl23(96%)基板(京セラ製の基板)を基板に使用した。
【0062】
(2)ビアホール形成
一辺が2.8mmの大きさの正方形ビアホールおよび一辺が1.0mmの大きさの正方形ビアホールをサンドブラスティングにより上述のAl23基板中に形成した。
【0063】
(3)導電性組成物
表1に示された組成を有する各実施例および各比較例の導電性組成物を調製した。以下に示された銀密度および媒体密度を用いて導電性組成物を調製し、組成物中の金属(銀)成分の体積を計算した。
【0064】
(a)銀密度:10.5g/cm3
(b)セルロース密度または媒体密度:1.0g/cm3
三本ロールミルを用いて各材料を混練することにより導電性組成物を調製した。
【0065】
(4)印刷
導電性組成物を上述の基板ビアホール中に充填し、以下に示された条件下で乾燥させた。
【0066】
印刷:150μmの厚さを有するステンレス鋼メタルマスクを使用
Newlong自動印刷機を使用
ウレタン(硬度:70)スキージーを使用
乾燥:箱型乾燥機を用いて80℃で30分間乾燥させた。
「粘性材料」とみなされた組成物は、本明細書中では、25℃で外力を加えずに流動性を有していた粉末と媒体とを含むレオロジー組成物として定義される。
【0067】
(5)基板評価法
導電性組成物を用いて印刷されかつ乾燥された基板のビアホール中のエアボイドの存在を光学顕微鏡(倍率:20倍)で観察した。
【0068】
【表1】

【0069】
実施例2−1は、100wt%の実施例2を基準にして1wt%のAl23(粒子直径:1μm)を含有するサンプルである。
【0070】
実施例5−1は、100wt%の実施例5を基準にして1wt%のAl23(粒子直径:1μm)を含有するサンプルである。
Al23密度:4.0g/cm3
【0071】
<基板評価基準>
以上の表中の基板を以下に示された基準に基づいて評価した。
OK:1mm2の単位表面積あたり100μm以上の直径を有するエアボイドは1個以下でありかつ400μm以上の直径を有するエアボイドはない。
限界:1mm2の単位表面積あたり100μm以上の直径を有するエアボイドは1個超であるが2個未満でありかつ400μm以上の直径を有するエアボイドはない。
NG:1mm2の単位表面積あたり100μm以上の直径を有するエアボイドは2個以上でありかつ400μm以上の直径を有するエアボイドは1個以上である。
【0072】
それに加えて、以上の結果に基づいて、媒体のタイプにかかわらず所定以上の銀含有率(容積%)を有する導電性組成物では、本発明の効果が観測された。したがって、本発明に係る導電性組成物の塑性流動性は、導電性粒子の体積パーセントによって決まると考えられる。
【0073】
それに加えて、図6〜8は、焼成後の比較例1、実施例4、および実施例6の組成物のそれぞれの表面プロファイルを金属の電子顕微鏡写真により観察した結果を示している。
【0074】
これらの顕微鏡写真の結果から明らかなように、本発明に係る組成物は、エアボイドの形成を有意に抑制することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性金属と媒体とを含む、電子回路基板中に形成されたビアホールに充填するための導電性組成物であって、前記導電性金属の含有率が、57容積%以上であり、かつ前記導電性組成物が、前記組成物に外圧が加えられた時に流動性が増大する塑性流体である、導電性組成物。
【請求項2】
前記導電性金属が、金、銀、銅、パラジウム、白金、ニッケル、およびアルミニウムからなる群から選択される金属、またはそれらの合金である、請求項1に記載の導電性組成物。
【請求項3】
前記導電性金属が、0.8〜8μmの平均粒子直径を有する球状粉末である、請求項1に記載の導電性組成物。
【請求項4】
前記組成物を乾燥させた場合の充填密度が50%以上である、請求項1に記載の導電性組成物。
【請求項5】
前記組成物の全重量を基準にして0.1〜10wt%で、Al23、SiO2、TiO2、MnO、MgO、ZrO2、CaO、BaO、およびCo23からなる群から選択される900℃以下の温度で融解しない無機酸化物、それらの複合酸化物、または金属レジネートをさらに含む、請求項1に記載の導電性組成物。
【請求項6】
前記無機酸化物または前記複合酸化物の平均粒子直径が0.03〜5μmである、請求項5に記載の導電性組成物。
【請求項7】
前記組成物の全重量を基準にして0.1〜10wt%でガラス粉末をさらに含む、請求項1に記載の導電性組成物。
【請求項8】
前記ガラス粉末の平均粒子直径が0.1〜5μmである、請求項7に記載の導電性組成物。
【請求項9】
貫通孔が形成された電子回路基板を作製する工程と、
導電性金属と媒体とを含む導電性組成物を前記貫通孔中に充填する工程であって、前記導電性金属の含有率は、57容積%以上であり、かつ前記導電性組成物は、前記組成物に外圧が加えられた時に流動性が増大する塑性流体である工程と、
前記導電性組成物で充填された前記電子回路基板を焼成する工程と、
を含む、電子デバイス(electronic devise)の製造方法。
【請求項10】
前記基板の平面に平行な平面内の前記貫通孔の面積が0.25mm2以上である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項9に記載の方法により製造された電子デバイス。
【請求項12】
前記媒体が、バインダー樹脂と有機溶媒との有機混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記媒体が、エチルセルロース樹脂、アクリル樹脂、ロジン変性樹脂、およびポリビニルブチラール樹脂からなる群から選択されるバインダー樹脂である、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記有機溶媒が、ブチルカルビトールアセテート、テルピネオール、エステルアルコール、BC、およびTPOからなる群から選択される、請求項12に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【図3(c)】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−525544(P2010−525544A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506150(P2010−506150)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際出願番号】PCT/US2007/010030
【国際公開番号】WO2008/133612
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】