説明

ビタミンE誘導体を有効成分とする抗サイトカイン介在疾患剤

【課題】炎症性サイトカインが介在して発症または悪化する疾患、特に敗血症性ショック、急性臓器障害や臓器不全、虚血再還流によって生じる各種臓器障害の予防または治療に有効な医薬組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】下記一般式で示される水溶性ビタミンE誘導体またはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする:


〔式中、RおよびRは、同一または異なって、水素原子またはメチル基を示し、RおよびRは、異なって、水素原子であるか、またはS結合したSH化合物若しくはそのエステル(但し、システアミンは除く。)を示し、Rは水酸基、N−置換アミノ酸またはそのエステル(但し、アミノエタンスルホン酸、アミノエタンスルフィン酸は除く。)またはアミン化合物を示す〕。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にTNF−α及びIL−6等のサイトカインが介在して発症または悪化する疾患(サイトカイン介在疾患)の予防及び治療に有効な抗サイトカイン介在疾患剤に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの病態においてサイトカインの増加はその病態悪化に密接な関係があることが示されている。サイトカインの種類としては多数存在するが、腫瘍壊死因子α(以下、「TNF−α」という)は、様々な細胞への刺激(例えば、リポ多糖体(LPS))または外部細胞性ストレス(例えば、浸透圧ショックおよび過酸化物)に応答して、単球およびマクロファージを含む様々な細胞によって分泌される重要なサイトカインである。
【0003】
基底レベルを上回るTNF−αのレベルの上昇は幾つかの疾患状態への介在またはこの悪化に関連付けられており、これらの疾患状態にはパジェット病;骨粗鬆症;多発性骨髄腫;急性および慢性骨髄性白血病;膵臓β細胞破壊;炎症性腸疾患;成人呼吸促進症候群(ARDS);乾癬;クローン病;潰瘍性大腸炎;アナフィラキシー;接触性皮膚炎;喘息;筋変性症;悪液質;ライター症候群;I型およびII型糖尿病;骨吸収症;移植片対宿主反応;虚血再還流障害;アテローム性動脈硬化;脳外傷;多発性硬化症;大脳マラリア;敗血症;敗血症性ショック;毒素ショック症候群;発熱、および感染による筋肉痛が含まれる。HIV−1、HIV−2、HIV−3、サイトメガロウイルス(CMV)、インフルエンザ、アデノウイルス、ヘルペスウイルス(HSV−1、HSV−2を含む)、および帯状疱疹もTNF−αの上昇によって悪化することが知られている。
【0004】
更に、TNF−αは頭部外傷、脳卒中、および虚血においてもその臓器障害に重要な役割を果たすことが報告されている。例えば、頭部外傷ラットにおいて、TNF−αのレベルは打撲を負った半球において増加した(非特許文献1)、中央脳動脈が閉塞された虚血ラットにおいては、TNF−αの mRNAが増加した(非特許文献2)、との報告があり、この点においてもサイトカインが臓器障害に重要な役割を演じていることが示されている。
【0005】
具体的な組織におけるTNF−αの働きとしては、ラット皮質へのTNF−αの投与による毛細血管における好中球の著しい堆積および小血管内での付着を生じることが報告されている。このTNF−αは複雑なサイトカインカスケードにおける上流因子である。結果として、TNF−αのレベルの上昇は他の様々なサイトカイン、例えばIL−1、IL−6、およびIL−8のレベルの上昇につながり得る。よってTNF−αは、他のサイトカイン(IL−1β、IL−6)やケモカインの浸潤を促進し、これが梗塞領域への好中球浸潤を促進することが報告されている(非特許文献3)。
【0006】
IL−6はT細胞やマクロファージ等の細胞により産生されるレクチンであり、液性免疫を制御するサイトカインの一つである。IL−6は1986年に相補的DNA(cDNA)がクローニングされ、その後、IL−6は種々の生理現象や炎症・免疫疾患の発症メカニズムに関与していることが明らかになった。また炎症部位または傷害(例えば虚血)部位でのIL−6の産生が介在する多くの疾患状態の悪化および/または発症が関連付けられている(非特許文献4)。さらに、虚血再還流障害においてもIL−6の抑制が臓器障害改善効果をもたらすことが報告されている(非特許文献5)。これらのことからこのような疾患状態には、例えば喘息、炎症性腸疾患、乾癬、成人呼吸促進症候群、心臓および腎臓再還流傷害、血栓症並びに糸球体腎炎が含まれるといえる。
【0007】
TNF−αの効果を遮断するのに幾つかのアプローチが採用されている。1つのアプローチは、TNF−αの可溶性受容体(例えば、TNFR−55またはTNFR−75)の使用であり、TNF−α介在疾患状態の動物モデルにおいて効力が認められている。第2のアプローチはTNF−αに特異的なモノクローナル抗体、cA2を用いてTNF−αを中和する方法である(非特許文献6)。また、IL−6の抑制が虚血再還流障害における病態を改善することも報告されており(非特許文献5)、これらのアプローチは、タンパク質分離または受容体拮抗のいずれかによってTNF−αおよびIL−6の効果を遮断するというものである。
【0008】
またTNF−αを始めとするサイトカインが介在する疾患の治療に1,4,5−トリ置換イミダゾール、縮合トリアゾール、及びインダゾールなどの複素環化合物を用いることも提案されている(特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Shohamiら、J. Cereb. Blood Flow Metab. 14, 615(1994)
【非特許文献2】Feursteinら、Neurosci. Lett. 165, 125 (1993)
【非特許文献3】Feurstein、Stroke 25, 1481 (1994)
【非特許文献4】Frink Mら、Scand J Trauma Resusc Emerg Med. 2009 Sep 27;17(1):49.
【非特許文献5】Kimizuka Kら、Am J Transplant. 2004 Apr;4(4):482-94.
【非特許文献6】Feldmannら.5 Immunological Reviews, pp.195-223 (1995)
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004-99622号公報
【特許文献2】特表2008-504294号公報
【特許文献3】WO99/33818号公報
【特許文献4】特開2000-191528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、炎症性サイトカイン(特に、TNF−α、IL−6)が介在して発症または悪化する疾患(本発明ではこれを「サイトカイン介在疾患」と称する)の予防または治療に有効な医薬組成物(本発明ではこれを「抗サイトカイン介在疾患剤」と称する)を提供することを目的とする。より詳細には、敗血症性ショック、急性臓器障害や臓器不全を予防または治療したり、また虚血再還流によって生じる各種臓器障害を保護するために有用な医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねていたところ、下記の一般式(1)で示される水溶性ビタミンE誘導体に、細胞刺激因子(リポ多糖体(LPS))によって生じる細胞内シグナル(NF-kB)の活性化抑制を介して、サイトカイン(TNF−α、IL−6)の誘導を有意に抑制する作用があり、その結果、LPS誘導の臓器障害を減じることから、敗血症性ショック、急性臓器障害や臓器不全の予防及び改善に有効であること、また虚血再還流によって生じる各種臓器障害の保護や改善にも有効であること見出した。
【0013】
ちなみに当該ビタミンE誘導体は公知の化合物であるが(例えば特許文献3及び4等参照)、サイトカインとの関連性ならびにサイトカイン介在疾患に対する予防及び治療作用については知られていない。
【0014】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施態様を包含する。
(I-1)下記一般式(I)で示される水溶性ビタミンE誘導体またはその薬理学的に許容
される塩を有効成分とする、抗サイトカイン介在疾患剤:
【0015】
【化1】

【0016】
〔式中、RおよびRは、同一または異なって、水素原子または炭素数1〜3の低級アルキル基を示し、RおよびRは、異なって、水素原子であるか、またはS結合した下記式(1)〜(5)のいずれかに示されるSH化合物若しくはそのエステル(但し、システアミンは除く。)を示し、Rは水酸基、下記式(6)〜(11)のいずれかに示されるN−置換アミノ酸、そのエステル(但し、アミノエタンスルホン酸、アミノエタンスルフィン酸は除く。)または下記式(12)に示されるアミンを示す〕
【0017】
【化2】

【0018】
(I-2)一般式(I)で示される水溶性ビタミンE誘導体が下記(a)〜(o)からなる群から選択されるいずれかである、(I-1)に記載する抗サイトカイン介在疾患剤:
(a)γ-グルタミル-S-[1-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-カルボキシプロピル]システニイルグリシン、
(b)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(c)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-カルボキシフェニル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(d)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル] -3-オキソ-3-[(3-カルボキシプロピル)アミノ] プロピル]システニイルグリシン、
(e)S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ] プロピル]システイン、
(f)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[[2-(1H-インドール-3-イル)エチル]アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(g)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(5-カルボキシペンチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(h)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(トランス-4-カルボキシシクロヘキシルメチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(i)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システイン、
(j)S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]ペニシラミン、
(k)S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システナミン、
(l)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(エトキシカルボニルメチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(m)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン イソプロピルエステル、
(n)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフィノエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(o)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-(2-カルボキシピロリジノ)プロピル]システニイルグリシン。
【0019】
(I-3)サイトカイン介在疾患が、パジェット病;骨粗鬆症;多発性骨髄腫;急性およ慢性骨髄性白血病;膵臓β細胞破壊;炎症性腸疾患;成人呼吸促進症候群(ARDS);乾癬;クローン病;潰瘍性大腸炎;アナフィラキシー;接触性皮膚炎;喘息;筋変性症;悪液質;ライター症候群;I型およびII型糖尿病;骨吸収症;移植片対宿主反応;虚血再還流障害;アテローム性動脈硬化;脳外傷;多発性硬化症;大脳マラリア;敗血症;敗血症性ショック;毒素ショック症候群;発熱、および感染による筋肉痛からなる群から選択されるいずれか少なくとも1つである(I-1)または(I-2)に記載する 抗サイトカイン介在疾患剤。
【0020】
(I-4)抗サイトカイン介在疾患剤が、敗血症性ショック、急性臓器障害または臓器不全の予防又は治療剤である(I-1)または(I-2)に記載する抗サイトカイン介在疾患剤。
【0021】
(I-5)抗サイトカイン介在疾患剤が、敗血症性ショックによる臓器障害または虚血再還流障害に対する臓器若しくは組織の保護剤である(I-1)または(I-2)に記載する抗サイトカイン介在疾患剤。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】LPS処置したラットの肺および肝臓組織の光学顕微鏡画像を示す(実験例1)。AとD:生理食塩水で処理した対照群の代表的な標本(A:肺、D:肝臓)、BとE:LPS(7.5mg/kg)で処理したLPS群の代表的な標本(B: 肺、E:肝臓)、およびCとF:ETS-GS(10mg/kg)およびLPS(7.5mg/kg)で処理した ETS-GS+LPS群の代表的な標本(C:肺、F:肝臓)である。
【図2】図1の肺組織の結果を、鬱血、浮腫、炎症及び出血のパラメーター毎に各群の組織学的スコアで示したものである(黒棒:対照群、白棒:LPS群、斜線棒:ETS-GS+LPS群)。結果は平均値±SDとして示す。* は、LPS群に対して有意差(p<0.05)があることを示す。
【図3】図1の肝臓組織の結果を、組織学的スコアで示したものである。左端から、対照群(黒棒)、LPS群(白棒)、ETS-GS+LPS群(斜線棒)の結果である。データは平均値+SDとして示す。 * はLPS群に対して有意差(p<0.05)があることを示す。
【図4】対照群、LPS群(―■―)およびETS-GS+LPS群(―●―)について、LPS投与後、24時間に亘ってIL-6およびTNF-αの血清濃度を経時的に観察した結果を示す(実験例2)。(A)IL-6の血清濃度 、(B)TNF-αの血清濃度をそれぞれ示す。データは、平均値±SDとして示す。*はLPS群に対して有意差(P<0.05)があることを示す。
【図5】LPSで刺激したマウスマクロファージ様細胞(RAW264.7)におけるIL-6、TNF-α及びHMGB1生成の結果を示す(実験例3)。LPSで刺激された(100ng/ml)マウスマクロファージを、図に示す投与量(0.0001、0.001、0.01、0.1、1、100μg/ml)のETS-GSで20時間同時に処理した。(A)TNF-α生成量(pg/ml)、(B)IL-6生成量(pg/ml)、(C)HMGB1生成量(ng/ml)をそれぞれ示す。データは、平均値±SDとして示す。*はLPS群に対して有意差(P<0.05)があることを示す。
【図6】LPS誘導マウスマクロファージにおける核分画中のNF-κB(p50/p65)のDNA結合活性を示す(実験例5(1))。LPS誘導によって増加したNF-κB(p50/p65)のDNA結合活性が(左から2番目)、ETS-GS処置によって減少することがわかる(左から3番目)。データは、平均値±SDで示す。*はLPS群に対して有意差(P<0.05)があることを示す。
【図7】LPS誘導IkBリン酸化に対するETS-GSの影響を調べた結果を示す(実験例5(2))。
【図8−1】各種タンパク質のLPS誘導リン酸化を調べた結果を示す(実験例5(2))。A:Akt、B:extracellular signal-regulated kinase 1/2 (ERK1/2)のリン酸化、C:c-jun N-terminal kinase (JNK) のリン酸化。黒棒は対照群、白棒はLPS群、灰色棒はETS-GS+LPS群を示す。データは、平均値±SDで示す。*はLPS群に対して有意差(P<0.05)があることを示す。
【図8−2】各種タンパク質のLPS誘導リン酸化を調べた結果を示す(実験例5(2))。D:p38 mitogen-activated protein kinase (MAPK) のリン酸化、E:IκBαのリン酸化。黒棒は対照群、白棒はLPS群、灰色棒はETS-GS+LPS群を示す。データは、平均値±SDで示す。*はLPS群に対して有意差(P<0.05)があることを示す。
【図9】脳虚血再還流処置から24時間後に観察された組織の変化(細胞の壊死、細胞質内空胞形成、出血)を示す、脳組織の染色画像である(実験例6)。
【図10】腎虚血再還流処置から24時間後に観察された組織の変化(尿細管細胞の壊死、細胞質内空胞形成、出血および尿細管の拡大)を示す、腎臓組織の染色画像である(実験例7(1))。AとB):生理食塩水で処理した対照群の代表的な標本(A: 40×倍; B: 100×倍)、CとD:生理食塩水で処理した腎虚血再還流(I/R)群の代表的な標本(C: 40×倍; D: 100×倍)、およびEとF:体重1kg当たり100mgのETS-GSで処理した腎虚血再還流(I/R)群の代表的な標本(E: 40×倍; F: 100×倍)である。
【図11】図10の結果を組織学的スコアで示したものである。各群(左端から対照群、I/R群、ETS-GS処置したI/R群(ETS-GS+I/R群))のスコアを平均値±SDとして示す。* I/R群に対して有意差(p<0.05)があることを示す。
【図12】腎虚血再還流処置から24時間後に観察された組織の透過性電子顕微鏡画像(10,000×倍)を示す(実験例8(2))。対照群(A、B);腎虚血再還流(I/R)群(C、D); ETS-GS処置したI/R群(E、F)。
【図13】腎虚血再還流処置から24時間後に採取したラット腎臓組織中のマロンジアルデヒド濃度(μM)を示す(実験例8)。左端から対照群(黒棒);I/R群(白棒); ETS-GS処理したI/R群(灰色棒)の結果である。データは各群(n=6)の平均値±SDとして示す。* はI/R群に対して有意差(p<0.05)があることを示す。
【図14】肝虚血再還流処置から24時間後に観察された組織の変化(細胞の壊死、核濃縮、出血、小葉体構造の乱れ)を示す、肝臓組織の染色画像である(実験例8)。
【図15】対照群、LPS群およびETS-GS+LPS群について、肝虚血再還流処置から24時間後に採取した血液を対象として測定した、血清中のIL−6濃度(図15(A))、TNF−α濃度(図15(B))を示す。
【図16】対照群、LPS群およびETS-GS+LPS群について、肝虚血再還流処置から24時間後に採取した血液を対象として測定した、血清中のHMGB1濃度を示す。
【図17】対照群、LPS群およびETS-GS+LPS群について、肝虚血再還流処置から24時間後に採取した血液を対象として測定した、血清中のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)濃度(図17(A))、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)濃度(図17(B))、乳酸脱水素酵素(LDH)濃度(図17(C))を示す。
【図18】CLP(cecal ligation and puncture)処置から12時間後に観察した肺組織標本(AとB:疑似手術群、CとD: CLP群、EとF:ETS-GS+CLP群)の光学顕微鏡画像を示す(実験例9(3-1))。
【図19】図18の結果に基づいて、肺障害を4つのパラメーター(鬱血、浮腫、炎症及び出血)の点から組織学的スコアで示したものである。
【図20】CLP処置から12時間後に観察した肺組織標本(上段:左から疑似手術群、CLP群、E-Ant-S-GS+CLP群)および肝組織標本(下段:左から疑似手術群(Sham)、CLP群、E-Ant-S-GS+CLP群)の光学顕微鏡画像を示す(実験例9(3-2))。
【図21】CLP処置から12時間後に採取した肺組織及び肝臓組織中のミエロペルオキシダーゼ活性(MPO活性)を測定した結果を示す(実験例9(4))。
【図22】CLP処置した各群のラット(CLP群、ETS-GS+CLP群)から経時的に血液を採取し、サイトカイン(IL-6及びTNF-α)濃度及びHMGB1濃度を測定した結果を示す(実験例9(5-1))。
【図23】CLP処置した各群のラット(疑似手術群(Sham)、CLP群、E-Ant-S+CLP群)から経時的に血液を採取し、サイトカイン(IL-6)濃度を測定した結果を示す(実験例9(5-2))。
【図24】CLP処置した各群のラット(疑似手術群(Sham)、CLP群、E-Ant-S+CLP群)の肺組織中のPAR1及びHMGB1の発現を測定した結果を示す(実験例9(5-2))。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の抗サイトカイン介在疾患剤は、下記一般式(I)で示される水溶性ビタミンE誘導体またはその薬理学的に許容される塩を有効成分とするものである。
【0024】
【化3】

【0025】
〔式中、RおよびRは、同一または異なって、水素原子または炭素数1〜3の低級アルキル基を示し、RおよびRは、異なって、水素原子であるか、またはS結合した下記式(1)〜(5)のいずれかに示されるSH化合物若しくはそのエステル(但し、システアミンは除く。)を示し、Rは水酸基、下記式(6)〜(11)のいずれかに示されるN−置換アミノ酸、そのエステル(但し、アミノエタンスルホン酸、アミノエタンスルフィン酸は除く。)または下記式(12)に示されるアミンを示す〕
【0026】
【化4】

【0027】
当該ビタミンE誘導体(以下、これを「本化合物」ともいう)は、式(I)で表されるように、ビタミンE(α,β,γ,δ−トコフェロール)マレイン酸(またはフマール酸)とSH化合物とがS結合した化学構造、並びにこれらにさらにアミノ酸またはアミンが結合した化学構造を有している。
【0028】
なお、上記式(I)中、RまたはRで示される低級アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、及びイソプロピル基を挙げることができる。好ましくはメチル基及びエチル基であり、より好ましくはメチル基である。
【0029】
また、上記式(I)中、RまたはRで示されるSH化合物としては、上記式に対応して(1)グルタチオン、(2)γ−グルタミルシステイン、(3)システイン、(4)ペニシラミン、これらのエステルまたは(5)システナミンを挙げることができる。なお、RおよびRは、いずれか一方が水素原子である場合は、他方は水素原子ではなく、SH化合物またはそのエステルである。
【0030】
また、上記式(I)中、Rで示されるN−置換アミノ酸としては、上記式に対応して(6)グリシン(式中n=1)、β−アラニン(式中n=2)、γ−アミノ酪酸(式中n=3)、5−アミノ吉草酸(式中n=4)、ε−アミノカプロン酸(式中n=5)、(7)アントラニル酸、(8)トラネキサム酸、(9)プロリン、これらのエステル、(10)2−アミノエタンスルホン酸、(11)2−アミノエタンスルフィン酸を挙げることができる。なお、本発明において「N−置換アミノ酸」とは、上記の各アミノ酸が、その分子内の窒素原子(N)を介して、式(I)で示される化合物の基本骨格に結合していることを意味する用語である。
【0031】
また、上記式(I)中、Rで示されるアミンとしては、上記式に対応して(12)セロトニンを挙げることができる。
【0032】
本化合物の具体例としては、下記の化合物を挙げることができる。
(a)γ-グルタミル-S-[1-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-カルボキシプロピル]システニイルグリシン、
(b)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(c)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-カルボキシフェニル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(d)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル] -3-オキソ-3-[(3-カルボキシプロピル)アミノ] プロピル]システニイルグリシン、
(e)S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ] プロピル]システイン、
(f)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[[2-(1H-インドール-3-イル)エチル]アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(g)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(5-カルボキシペンチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(h)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(トランス-4-カルボキシシクロヘキシルメチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(i)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システイン、
(j)S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]ペニシラミン、
(k)S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システナミン、
(l)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(エトキシカルボニルメチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(m)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン イソプロピルエステル、
(n)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフィノエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(o)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-(2-カルボキシピロリジノ)プロピル]システニイルグリシン。
【0033】
本化合物は、遊離のものであっても、その薬理学的に許容できる塩であっても、本発明の目的のため適宜に用いることができる。その薬理学的に許容できる塩としては、たとえばナトリウム塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩、およびカルシウム塩やマグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、さらに有機アミン塩としてエタノールアミン塩やリジン塩などが例示される。これら以外の塩であっても薬理学的に許容できる塩であればいずれのものであっても適宜に使用することができる。
【0034】
本化合物の第一の構成成分であるビタミンEとしては、α,β,γ,δ−トコフェロールのいずれもが適宜使用することができる。
【0035】
本化合物の第二の構成成分であるSH化合物としては、上記のように、(1)グルタチオン、(2)γ−グルタミルシステイン、(3)システイン、(4)ペニシラミン、これらのエステルまたは(5)システナミンが用いられる。グルタチオン、γ−グルタミルシステイン、システイン、ペニシラミンのエステルとしては、炭素数2〜6のアルキルエステルが挙げられる。具体的には、メチルエステル、エチルエステル、n−プロピルエステル、iso−プロピルエステル、シクロプロピル、n−ブチルエステル、tert−ブチルエステル、sec−ブチルエステル、n−ペンチルエステル、l−エチルプロピルエステルおよびiso−ペンチルエステルなどが挙げられる。
【0036】
さらに、本化合物の第三の構成成分であるN−置換アミノ酸としては、上記のように、(6)グリシン(式中n=1)、β−アラニン(式中n=2)、γ−アミノ酪酸(式中n=3)、5−アミノ吉草酸(式中n=4)、ε−アミノカプロン酸(式中n=5)、(7)アントラニル酸、(8)トラネキサム酸、(9)プロリン、これらのエステル、(10)2−アミノエタンスルホン酸、(11)2−アミノエタンスルフィン酸が用いられる。
【0037】
N−置換アミノ酸のエステル(但し、アミノエタンスルホン酸、アミノエタンスルフィン酸は除く。)としては、炭素数2〜6のアルキルエステルが挙げられる。具体的には、メチルエステル、エチルエステル、n−プロピルエステル、iso−プロピルエステル、シクロプロピル、n−ブチルエステル、tert−ブチルエステル、sec−ブチルエステル、n−ペンチルエステル、l−エチルプロピルエステルおよびiso−ペンチルエステルなどが挙げられる。
【0038】
本化合物の第四の構成成分であるアミンとしては、(12)セロトニンが用いられる。
【0039】
本化合物は、例えば次の合成経路により、またはこれに準じて適宜合成することができる。
【0040】
【化5】

【0041】
具体的には以下のとおりである。まずビタミンE(II)を無水マレイン酸(III)と炭酸アルカリ(炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなど)または酢酸アルカリ(酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなど)の存在下でアセトン、アセトニトリルまたはテトラハイドフラン(THE)などの無極性溶媒中で加熱して約1〜3時間反応させて、マレイン酸(またはフマール酸)モノトコフェロール(IV)とする。さらに、このように生成した化合物(IV)とアミノ酸(グリシン、β−アラニン、γ−アミノ酪酸、5−アミノ吉草酸、ε−アミノカプロン酸、アントラニル酸、トラネキサム酸、プロリン、これらのエステル、2−アミノエタンスルホン酸、2−アミノエタンスルフィン酸)またはアミン(セロトニン)とを、クロロホルムまたはテトラヒドロフランなどの溶媒中、有機アミン(ピリジン、トリエチルアミンなど)の存在下、クロル炭酸エチルなどによる混合酸無水物法により縮合し、マレイン酸(またはフマール酸)モノトコフェロール(IV)のそれぞれ対応する酸アミド(V)とする。次に、これらの化合物(IV)または(V)と本化合物の構成成分であるSH化合物(グルタチオン、γ−グルタミルシステイン、システイン、ペニシラミン、これらのエステルまたはシステナミン)とを室温下で約3〜6時間、加温下で約1〜3時間付加反応させることにより本化合物(I)を得ることができる。この際の反応溶媒としては、水または水と混和できる溶媒、たとえばアルコール、アセトニトリル、ジオキサンなどが挙げられ、好ましくは水との混合液がよい。
【0042】
このようにして得られた本化合物(I)は、公知の方法により、薬理学的に許容できる塩として得てもよい。
【0043】
後述する実験例2〜4に示すように、ビタミンE、グルタチオンから構成される化合物(上記化合物(a)、以下「EM-GS」ともいう)、ビタミンE、タウリン(アミノエタンスルホン酸)及びグルタチオンから構成される化合物(上記化合物(b)、以下「ETS-GS」ともいう)、及びビタミンE、GABA(γ―アミノ酪酸)及びグルタチオンから構成される化合物(上記化合物(d)、以下「EGABA-GS」ともいう)を始めとする本化合物は、LPSで誘導されたサイトカイン(IL-6およびTNF-α)の生成または分泌を、完全ではないものの抑制することができる。これらのサイトカインは、通常LPSによって強く誘導され、炎症反応の初期の段階で生成分泌される。特にTNF−αは炎症を仲介する主要因子であり、その放出はさらにIK−1βおよびIL−6のような他のサイトカインを活性化し、細胞の損傷に関わることも知られている(Bone RC. Crit Care Med1996;24:163-172)。またTNF−αは、敗血症性ショックと関係する初期のショック状態(つまり低血圧、熱)や臓器不全の病因に極めて重要な役割を果たしている(Russell JA. N Engl J Med2006;355:1699-1713)。実験例2〜4に示すように、上記本化合物は、これらのサイトカインの生成または分泌を顕著に抑制することから、当該化合物によれば、かかるサイトカインが介在して発症したり悪化したりする疾患(サイトカイン介在疾患)を予防または改善できると考えられる。
【0044】
一方、IL−6は敗血症の重篤度や致死によく関連しており、敗血症の予測因子でもある(Remick DG, et al., Shock2002;17:463-467)。IL−6もまた、敗血症性ショックおよび臓器障害の病因に重要な役割を果たすと考えられている(Frink M, et al., Scand J Trauma Resusc Emerg Med. 2009 Sep 27;17(1):49.)。あるデータは、IL−6の上昇制御が、その後に生じるIL−6上昇に関連した細胞毒性や臓器障害に関係していることを示している(Frink M, et al., Scand J Trauma Resusc Emerg Med. 2009 Sep 27;17(1):49.)。さらには、IL−6の制御が臓器障害の軽減作用を有している可能性が示唆されている(Kimizuka K, et al., Am J Transplant. 2004 Apr;4(4):482-94.)。後述する実験例2〜3において、LPSで誘導されたIL−6が、インビボ及びインビトロの両方で、本化合物の投与で減少することが確認された。本化合物投与によるIL−6の抑制は、細胞に対する直接効果、あるいはサイトカイン生成を抑制することによる間接的な効果によるものであるかもしれないが、いずれにしても本化合物によれば、IL−6の生成が抑制され、IL−6による細胞毒性は低下し、敗血症性ショックや臓器障害を改善することができると考えられる。
【0045】
これを裏付ける実験として、後述の実験例1では、本化合物がLPSで誘導した全身性炎症モデルラットにおける肺および肝臓における急性臓器障害が改善することを示している。
【0046】
以上のことから、本化合物は、炎症性サイトカインが介在する様々な疾患、特に全身性炎症及びそれに付随する疾病(例えば、敗血症性ショック、急性臓器障害、臓器不全等)を治療する潜在的可能性を有している。
【0047】
また後述する実験例6〜8の結果は、本化合物の投与によって虚血再還流による腎臓や脳などの組織障害が保護改善されることを示している。従来から、虚血再還流に起因する臓器障害がサイトカイン生成に関係していることが示唆されており、心筋と大脳の虚血再還流(I/R)によってサイトカインが増加することが報告されている(Zhang M, Chen L. Cardiovasc Hematol Disord Drug Targets. 2008 Sep;8(3):161-72.)。前述するよう本化合物は、サイトカイン低減作用を有するが、当該サイトカイン低減作用に基づいて血清サイトカイン濃度を著しく低下させる結果、腎虚血再還流障害や脳虚血再還流障害等の虚血性再還流障害が保護され防止できるものと考えられる。
【0048】
また後述する実験例5の結果は、本薬剤投与により臓器障害における重要な細胞内因子であるNF-kBの抑制効果が示されている。各種臓器障害においてその病態形成には、前述のようにサイトカインの産生が重要であるが、これらの因子の発現には細胞内シグナルであるNF-kBの活性化が重要な役割を担っていることが報告されている(Karrasch T, et al., Inflamm Bowel Dis. 2008 Jan;14(1):114-24.)。前述する本化合物は、NF-kBの活性化をほぼ完全に抑制することから、サイトカインの抑制を生じ、各種臓器障害に対する保護効果が得られたものと考えられる。
【0049】
また、同実験結果より、本化合物によるNF-kBの抑制にはIkB系の抑制を介していることが示されている。各種細胞障害時に活性化されるNF-kBにおいては、IKK系を介した活性化が重要であることが報告されており(Schottelius AJ, et al., J.Biol.Chem 274:31868-31874. 1999.)、本発明においても本化合物が細胞内シグナルであるIKK系の抑制を行ない、最終的な核内蛋白であるNF-kBの抑制が生じていると考えられる。
【0050】
従って、本化合物は、サイトカイン、特にTNFαやIL−6が介在して発症若しくは悪化する疾患(サイトカイン介在疾患)を予防または治療するための有効成分として有用であり、当該本化合物を有効成分とする本発明の医薬組成物は、かかるサイトカイン介在疾患の予防または治療剤、またサイトカイン介在疾患から保護する保護剤として有用である。
【0051】
本発明が対象とするサイトカイン介在疾患としては、パジェット病;骨粗鬆症;多発性骨髄腫;急性および慢性骨髄性白血病;膵臓β細胞破壊;炎症性腸疾患;成人呼吸促進症候群(ARDS);乾癬;クローン病;潰瘍性大腸炎;アナフィラキシー;接触性皮膚炎;喘息;筋変性症;悪液質;ライター症候群;I型およびII型糖尿病;骨吸収症;移植片対宿主反応;虚血再還流障害;アテローム性動脈硬化;脳外傷;多発性硬化症;大脳マラリア;敗血症;敗血症性ショック;毒素ショック症候群;発熱、および感染による筋肉痛を挙げることができる。
【0052】
特に本発明のサイトカイン介在疾患剤は、サイトカインが介在して発生する敗血症性ショック、急性臓器障害または臓器不全を予防又は治療する薬剤として、またさらに虚血再還流障害に対する臓器または組織の保護剤として有効に利用することができる。なお、虚血再還流障害(「虚血再灌流障害」ともいう)とは、虚血状態にある臓器や組織に血液再還流が生じたときに、その臓器や組織内の微小循環において種々の毒性物質の産生が惹起されることで引き起こされる障害である。かかる虚血再還流障害は、例えば脳梗塞、心筋梗塞及び腸間膜血管閉塞症などに対する再還流障害後や、臓器移植後にみられることが多い。その発生機序としては、スーパーオキシドやヒドロキシラジカル等の活性酸素や一酸化窒素などのフリーラジカル産生による障害、及び活性化好中球と血管内皮細胞の相互作用に基づく障害のほか、各種サイトカインなどのケミカルメディエーター産生による障害などが考えられている。虚血再還流障害は、虚血状態に陥った局所だけでなく、二次的に全身の主要臓器にも障害(遠隔臓器障害)をきたすことが知られている。特に脳、肺、肝臓、腎臓などが標的臓器となり、多臓器不全をもたらすこともある。
【0053】
本化合物を抗サイトカイン介在疾患剤の有効成分として用いる場合、目的と必要に応じて、本化合物のうち1種または2種以上を適宜組み合わせて含有させることもできる。本化合物のうち、好ましくは上記化合物(a)γ-グルタミル-S-[1-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-カルボキシプロピル]システニイルグリシン〔R1及びR2はメチル基、R3は水素原子、R4は水酸基、R5は(1)で示されるSH化合物(グルタチオン)である化合物(I)に相当する〕、(b)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン〔R1及びR2はメチル基、R3は(1)で示されるSH化合物(グルタチオン)、R4は(10)で示されるN-置換アミノ酸(2-アミノエタンスルホン酸)、R5は水素原子である化合物(I)に相当する〕、(d)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(3-カルボキシプロピル)アミノ] プロピル]システニイルグリシン〔R1及びR2はメチル基、R3は(1)で示されるSH化合物(グルタチオン)、R4は(6)で示されるN-置換アミノ酸(γ-アミノ酸酪酸:n=3)、R5は水素原子である化合物(I)に相当する〕であり、より好ましくは化合物(b)である。
【0054】
ちなみに、化合物(a)、(b)および(d)の化学的な相違は(a)はビタミンEマレイン酸エステルに対して1位にグルタチオンが付加したものである。(b)、および(d)は2位にグルタチオンがそれぞれ付加し、更に3位のカルボン酸に2−アミノエタンスルホン酸(タウリン)またはγ−アミノ酪酸(GABA)がそれぞれ縮合したものである。
【0055】
本化合物は、抗サイトカイン介在疾患剤として、経口的にあるいは非経口的〔静脈投与、皮下投与、経皮投与、経肺投与、経粘膜投与(点鼻など)、直腸投与など〕に投与される。抗サイトカイン介在疾患剤は、本化合物を、経口または非経口投与に通常用いられる薬学的に許容される担体(賦形剤、結合剤、崩壊剤、崩壊補助剤、滑沢剤、湿潤剤など)や添加剤などと混合し、顆粒剤、散剤、錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、バッカル剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤、乳剤、懸濁剤、クリーム剤、軟膏剤、点眼剤、注射剤、点滴剤、点鼻剤などの所望の形態に製剤化することにより調製することができる。
【0056】
特に本化合物は、水に不溶性のビタミンEと異なり、非吸湿性の安定な結晶であって、且つ、水溶性であるので、経口液剤(アンプル剤、シロップ剤)、注射剤または点眼剤などの水性液剤としての適用も可能である。さらには、外用薬としての使用も可能である。
【0057】
これらの製剤には通常用いられる薬学的に許容される担体、例えば、結合剤(例えば、シロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビット、トラガント、ポリビニルピロリドン)、賦形剤(例えば、乳糖、砂糖、コーンスターチ、リン酸カリウム、ソルビット、グリシン)、潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ)、崩壊剤(例えば、ジャガイモ澱粉)、湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)、増粘剤、分散剤等、またその他の添加剤として、再吸収促進剤、pH調整剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤等を適宜使用してもよい。
【0058】
本化合物を抗サイトカイン介在疾患剤として使用する際の投与量は、使用する本化合物の種類、患者の体重や年齢、対象とする疾患の種類やその状態および投与方法などによっても異なるが、たとえば、本化合物の量に換算して、注射剤の場合は成人1日1回約1mg〜約30mg、錠剤等の経口投与剤の場合は、成人1日数回、1回量約1mg〜約100mg程度投与するのがよい。また、点眼剤等のような粘膜投与剤の場合は、成人1日数回、1回数滴、濃度が約0.01〜5(w/v)%の製剤を投与するのがよい。
【0059】
本化合物を含有する医薬組成物(抗サイトカイン介在疾患剤)には、本発明の目的に反しない限り、その他の抗サイトカイン介在疾患剤または別種の薬効成分を適宜含有させてもよい。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の構成および効果を製造例及び実験例に基づいてより詳細に説明する。但し、これらの実験例等は一例であり、本発明はかかる実験例によって何ら拘束されるものではない。
【0061】
[製造例]
製造例1
(1)γ-グルタミル-S-[1-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-カルボキシプロピル]システニイルグリシン(略称:EM-GS)のモノナトリウム塩の製造
dl−α−トコフェロール4.3g(0.01モル)、無水マレイン酸2.0g(0.02モル)および炭酸ナトリウム2.1g(0.02モル)にアセトン80mlを加えて1時間、加熱還流した後、無機塩を濾別し、溶媒を留去した。残渣油状物に水60mlを加え、さらに塩酸で酸性とした後、酢酸エチルで抽出した。次にこれを水で洗浄した後、酢酸エチルを留去させ、残渣油状物のマレイン酸モノα−トコフェロールエステル約5gを得た。次に70%メタノール100mlに水酸化ナトリウム0.6gおよびグルタチオン3.4g(0.011モル)を加えて溶解し、これに上記のマレイン酸モノα−トコフェロールエステルをメタノール30mlに溶解したものを加えて、40℃、3時間攪拌した。次にこれを冷却し析出した半固型油状物を集め、80%含水メタノールで2〜3回洗い、次にメタノールを加えて結晶化させ、結晶を濾取しアセトンで洗い4.0gを得た。これを水−エタノールから再結晶して、標題の化合物のモノナトリウム塩2.8gを得た。
【0062】
(2)γ-グルタミル-S-[1-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-カルボキシプロピル]システニイルグリシンの製造
dl−α−トコフェロール4.3g、無水マレイン酸3.0gおよび酢酸ナトリウム1.5gにアセトン80mlを加えて3時間、加熱還流した後、溶媒を留去し、残渣油状物に水60mlを加え、さらに塩酸で酸性とした後、ジイソプロピルエーテルで抽出し、水洗後、ジイソプロピルエーテルを留去させ、残渣油状物のマレイン酸モノα−トコフェロールエステル(放置すると結晶化)5.1gを得た。(これをn−ヘキサンから再結晶すると融点70〜72℃の白色結晶3.8gを得ることができる。)次にメタノール80mlに水酸化ナトリウム0.6gを加えて溶解し、これにグルタチオン3.4gおよび上記のマレイン酸モノα−トコフェロールエステルをエタノール30mlに溶解したものを加えて、50℃、3時間攪拌した。次に、これを冷却し析出した白色結晶を濾取し、アセトンで洗浄後、この結晶に水100mlを加えてのり状とし、これに塩酸を加えてpH3とし、析出する白色結晶を濾取、水洗し、乾燥後テトラハイドロフラン/エタノールから再結晶して、標題の遊離酸3.5gを得た。
【0063】
(3)γ-グルタミル-S-[1-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-カルボキシプロピル]システニイルグリシン 2ナトリウム塩の製造
上記(2)で得られた遊離酸を3.5gテトラハイドロフラン60mlに溶かし、これに水酸化ナトリウム/メタノールを徐々に加えてpH6.5とした後、溶媒を留去し、これにメタノールを加えて析出する白色結晶を濾取し、これを水−メタノールから再結晶して、標題の化合物の2ナトリウム塩3.0gを得た。
【0064】
製造例2 γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン(略称:ETS-GS)のナトリウム塩の製造
製造例1の製造過程で得られたマレイン酸モノα−トコフェロールエステル5.3gをクロロホルム30mlに溶かし、これにトリエチルアミン1.2gを加えて−5℃に冷却して置き、これにクロル炭酸エチル1.3gを徐々に滴下した後、15分後にこれにタウリン(2−アミノエタンスルホン酸)1.6gおよび水酸化ナトリウム0.5gをメタノール50mlに溶かしたものを一挙に加えて30分間攪拌し、更に室温にもどして1時間攪拌した。次に溶媒を留去させ、これにアセトンを加えて析出する白色結晶を濾取し、4.0gを得た。更に母液に水酸化ナトリウム/メタノールを加えてpH8として析出する結晶を濾取し1.6gを得た。これらを合わせてメタノール/エタノールから再結晶して、白色結晶のN−(α−トコフェロールマレイニル)アミノエタンスルホン酸ナトリウム塩4.5gを得た。
【0065】
次に、90(V/V)%メタノール溶液60mlに水酸化ナトリウム0.45gおよびグルタチオン3.3gを加えて溶解し、これに上記の化合物4.5gをメタノール50mlに溶解したものを加えて、50℃、3時間攪拌し、冷却後析出した白色結晶を濾取し、メタノールで洗浄し6.0gを得た。これを水200mlに溶かし、これに酢酸銅2.5gを水50ml、酢酸2mlに溶解したものを加えて析出する銅塩を濾取し、水洗後アセトン、メタノールで洗い5.3gを得た。これをテトロラハイドロフラン/メタノール(3:5)の混液100mlに懸濁して置き、これに硫化水素を通じて硫化銅として濾別後、濾液に水酸化ナトリウム/メタノールを加えてpH5として析出する白色結晶を濾取し、メタノールで洗浄して乾燥させて、標題の目的化合物のナトリウム塩3.9gを得た。
【0066】
製造例3 γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-カルボキシフェニル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン(略称:E-Ant-S-GS)のナトリウム塩の製造
製造例1の製造過程で得られたマレイン酸モノα−トコフェロールエステル5.3gをクロロホルム30mlに溶解し、製造例1と同様にトリエチルアミン1.2g、クロル炭酸エチル1.3gを用いて混合酸無水物法によりアントラニル酸1.5g、ピリジン3mlをテトラハイドロフラン40mlに溶かしたものを反応させ、溶媒留去後、塩酸酸性として酢酸エチルで抽出、水洗後、酢酸エチルを留去し、残渣油状物7.5gを得た。
【0067】
一方、メタノール70mlに水酸化ナトリウム0.8gを加えて溶かし、これにグルタチオン3.3gおよび上記の油秋物7.5gをメタノール20mlに溶かしたものを加えて、50℃、3時間攪拌する。次に冷却後、析出した白色結晶を濾取した。これに水50mlを加えてゲル状とし、これに酢酸3mlを加えて析出する白色結晶を濾取し、これを酢酸エチル/エタノールの混液に溶解し、水酸化ナトリウム/メタノール液を加えてPH6.5として析出する白色結晶を濾取し、テトラハイドロフラン/エタノールから再結晶して、標題の目的化合物のナトリウム塩3.7gを得た。
【0068】
製造例4 γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(3-カルボキシプロピル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン(略称:EGABA-GS)のナトリウム塩の製造
製造例1で得たマレイン酸モノα−トコフェロールエステル5.3gをクロロホルム30mlに溶かし、前記と同様にトリエチルアミン1.2g、クロル炭酸エチル1.3gを用いて混合酸無水物法によりγ−アミノ酪酸 (GABA)1.3g、水酸化カリウム0.6gをN,N’−ジメチルホルムアミド50mlに溶解したものを加えて、以下製造例3と同様に反応処理して標題の目的化合物のナトリウム塩4.0gを得た。
【0069】
製造例5 S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システインのナトリウム塩の製造
製造例2で示したN−(α−トコフェロールマレイニル)アミノエタンスルホン酸のナトリウム塩2.4gをメタノール50mlに溶かし、これにL−システイン0.6gを加えて、50℃、2時間攪拌する。次に冷却後析出する白色結晶を濾取し、水/メタノールから再結晶して、白色結晶の標題の目的化合物のナトリウム塩1.8gを得た。
【0070】
製造例6 γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[[2-(1H-インドール-3-イル)エチル]アミノ]プロピル]システニイルグリシンのナトリウム塩の製造
製造例1で得たマレイン酸モノα−トコフェロールエステル5.3g、トリエチルアミン1.2g、クロル炭酸エチル1.3gをクロロホルム中で製造例1と同様に混合酸無水物法によりセロトニン塩酸塩2.4g、トリエチルアミン1.5gをメタノール40mlに溶かしたものを加え、製造例2と同様に反応させ、溶媒を留去後、残渣油状物を酢酸エチルで抽出し、1%酢酸、水で洗った後、酢酸エチルを留去した。これにメタノールを加えて放置し、析出する白色結晶をメタノールから再結晶して、N−(α−トコフェロールマレイニル)セロトニンなる化合物4.5gを得た。次に、これとグルタチオン3.4g、水酸化ナトリウム0.4gにメタノール70mlを加えて、50℃、3時間攪拌後、反応液を30mlまで濃縮し、析出した結晶を濾取し、以下製造例3と同様に処理して、標題の目的化合物のナトリウム塩3.7gを得た。
【0071】
製造例7 γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(5-カルボキシペンチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシンのナトリウム塩の製造
製造例1で得たマレイン酸モノα−トコフェロールエステル5.3g、トリエチルアミン1.2g、クロル炭酸エチル1.3gおよびε−アミノカプロン酸1.5gを用いて、製造例2と同様に混合酸無水物法により反応処理して、溶媒を留去後残渣に水を加え、更に塩酸酸性として酢酸エチルで抽出し水洗後留去した。これをメタノール70mlに溶かし、これにグルタチオン3.3gを加え、さらに水酸化ナトリウム/メタノールでpH6.5として、50℃、3時間攪拌した後冷却し、析出する結晶を濾取し、これに水50mlを加えた。更にこれを酢酸酸性として結晶を濾取し、水洗後THF/エタノールに溶解し、THF留去後、水酸化ナトリウム/メタノールでpH7として析出する白色結晶を濾取し、これをメタノール/エタノールから再結晶して標題の目的化合物の2−ナトリウム塩2.5gを得た。
【0072】
製造例8 γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(トランス-4-カルボキシシクロヘキシルメチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシンのナトリウム塩の製造
製造例1で得たマレイン酸モノα−トコフェロールエステル5.3g、トリエチルアミン1.2g、クロル炭酸エチル1.3gおよびトラネキサム酸(トランス−4−アミノメチルシクロヘキサンカルボン酸)1.7gを用いて、製造例7と同様に反応処理して目的化合物の2−ナトリウム塩2.2gを得た。
【0073】
製造例9 γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システインのナトリウム塩の製造
製造例2で得た中間体、N−(α−トコフェロールマレイニル)アミノエタンスルホン酸ナトリウム塩2.6gおよびγ−グルタミルシステイン1.0gにメタノール50mlを加え、更に水酸化ナトリウム/メタノールでPH6.5として、50℃、3時間攪拌した。次に反応液を20mlまで濃縮し、析出した白色結晶を濾取し、これに水70mlを加えて溶かし、塩酸でpH3として析出する白色結晶を濾取した。次に、これをTHF/エタノールに溶かし、水酸化ナトリウム/メタノールでpH6.5として、THEを留去後、析出した結晶を濾取し、少量のメタノールで洗い、メタノール/エタノールから再結晶して、標題の目的化合物の2−ナトリウム塩1.3gを得た。
【0074】
製造例10 S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]ペニシラミンのナトリウム塩の製造
製造例2で得た中間体、N−(α−トコフェロールマレイニル)アミノエタンスルホン酸ナトリウム塩3.2gおよびD−ペニシラミン0.8gを用いて、製造例5と同様に反応処理して得られる結晶をメタノール/エタノールから再結晶させて、目的化合物のナトリウム塩2.5gを得た。
【0075】
製造例11 S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システナミンの製造
製造例2で得た中間体、N−(α−トコフェロールマレイニル)アミノエタンスルホン酸ナトリウム塩2.4gおよびシステナミン0.5gをメタノール70mlに溶解し、酢酸を加えてpH6とし、50℃、3時間攪拌した。冷後析出した結晶を濾取し、これをメタノールに懸濁しておき、水酸化ナトリウム/メタノールでpH7として溶解後、酢酸酸性として析出する白色結晶を濾取し、メタノールで洗って乾燥させて、白色結晶の標題の目的化合物1.3gを得た。
【0076】
製造例12 γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(エトキシカルボニルメチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシンのナトリウム塩の製造
製造例1で得たマレイン酸モノα−トコフェロールエステル5.3g、トリエチルアミン1.2g、クロル炭酸エチル1.3gおよびグリシンエチル塩酸塩1.5gを用いて、製造例2と同様に混合酸無水物法により反応処理して、溶媒を留去後、酢酸エチルで抽出し、3%炭酸水素ナトリウム、1N−塩酸、水の順で洗浄し、酢酸エチル留去後、残渣油状物約6gを得た。これをメタノール50mlに溶かした。一方、グルタチオン3.3g、水酸化ナトリウム0.5gを70%メタノール50mlに溶かし、上記のメタノール溶液に加えて50℃、2時間攪拌する。次に溶媒を留去しエタノールを加えて析出した結晶を濾取し、これに水50mlを加えて溶解し、これに塩酸を加えて析出する白色結晶を濾取し、THF/エタノール(1:1)に溶解し、製造例7と同様にして標題の目的化合物のナトリウム塩2.0gを得た。
【0077】
製造例13 γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン イソプロピルエステルのナトリウム塩の製造
グルタチオンイソプロピルエステル硫酸塩(γ−グルタミル−システニルグリジンイソプロピルエステル硫酸塩)4.0gを水60mlに懸濁しておき、これに2N−水酸化ナトリウムを徐々に加えてpH4として溶解後、濃縮した。これに80%メタノール100mlを加え、更に製造例2で得た中間体、N−(α−トコフェロールマレイニル)アミノエタンスルホン酸のナトリウム塩4.8gを加えて、50℃、3時間攪拌する。次に溶媒を約60ml留去し、析出する結晶を濾取した。これにTHE−メタノール(1:1)に溶解し、不溶物を濾別した後、溶媒を留去、残渣結晶物にエタノールを加えて結晶を濾取した。これをメタノール/エタノールから再結晶させて白色結晶の標題の目的化合物のナトリウム塩3.6gを得た。
【0078】
製造例14 γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフィノエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシンのナトリウム塩の製造
製造例7のε−アミノカプロン酸の代わりにヒポタウリン(2−アミノエタンスルフィン酸)1.5gを用いて、製造例2と同様に反応処理して、標題の目的化合物のナトリウム塩3.9gを得た。
【0079】
製造例15 γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-(2-カルボキシピロリジノ)プロピル]システニイルグリシンのナトリウム塩の製造
製造例7のε−アミノカプロン酸の代わりにL−プロリン1.5gを用いて、製造例2と同様に反応処理して、標題の目的化合物のナトリウム塩3.9gを得た。
【0080】
[実験例]
下記の実験において、本化合物の一例として、下式で示される化合物を用いた。これらの化合物はいずれも水溶性で、安定であることを特徴とする。
(1)式(VI)で示す構造を有するETS−GS(製造例2のγ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン(上記(b)の化合物)のナトリウム塩):
【0081】
【化6】

【0082】
(2)式(VII)で示す構造を有するEM−GS(製造例1のγ-グルタミル-S-[1-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル] -3-カルボキシプロピル]システニイルグリシン(上記(a)の化合物)のナトリウム塩):
【0083】
【化7】

【0084】
(3)式(VIII)で示す構造を有するEGABA−GS(製造例4のγ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(3-カルボキシプロピル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン(上記(d)の化合物)のナトリウム塩):
【0085】
【化8】

【0086】
(4)式(IX)で示す構造を有するE-Ant-S-GS(製造例3のγ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-カルボキシフェニル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン(上記(c)の化合物)のナトリウム塩):
【0087】
【化9】

【0088】
実験例1〜4
腫瘍壊死因子α(TNF-α)およびインターロイキン-6(IL-6)のような前炎症性サイトカインの過剰発現は、ショックや臓器障害に関与している(Bhatia M, et al., J Pathol2004;202:145-156)。
【0089】
そこで下記の実験例1〜4では、本化合物が、サイトカイン(TNF-α、IL-6)の生成または分泌を阻害し、それにより、リポ多糖体で誘導した全身性炎症モデルラット(敗血症モデルラット)における臓器障害を改善するかどうかについて調べた。
【0090】
なお、この実験には、下記の方法によりETS−GSの存在下または非存在下でLPS処置したラット(LPS誘導敗血症モデル動物)を使用した。
【0091】
なお、データはすべて平均値±SDとして示し、一元配置分散分析(ANOVA)を使用して評価した。 p-値<0.05を統計的有意とした。
【0092】
(1)被験動物
体重250-300gの雄ラット(Wister rat)を使用した。ラットはすべて、実験前後に食物と水を無制限に摂取できるようにした。研究は大分大学医学部の動物研究の倫理委員会によって承認された。すべてのプロトコルは国立衛生研究所(NIH)のガイドラインに沿って行った。麻酔は4%のセボフルラン(丸石製薬(株)製)を用いて行った。
【0093】
(2)被験動物のLPS処置(LPS誘導敗血症モデル動物の調製)
ラットは、無作為に3つのグループに分けた(LPS群、ETS-GS+LPS群、対照群)。1)LPS群には、LPS(7.5mg/kg)を尾静脈に静脈注射、2)ETS-GS+LPS群には、ETS―GS(10mg/kg)およびLPS(7.5mg/kg)を同時に尾静脈に静脈注射、3)対照群には0.9%のNaCl水溶液を尾静脈に静脈注射した。
【0094】
実験例1 LPS処置後の肺および肝臓組織に対するETS−GSの影響
(1)光学顕微鏡分析
LPS投与から24時間後に採取したラットの肺及び肝臓の組織標本(LPS群、ETS-GS+LPS群、対照群)を定法に従ってホルマリンに固定し、パラフィン内に埋設し、ミクロトーム上で切片を作成した。作成した切片をヘマトキシロンとエオシンで染色した。そのサンプルを分析し、村上の技術 (Murakami K, et al., Shock2002;18:236-241)に基づいて肺障害の程度を決定した。肺実質中の24のエリアを、4つのパラメーター(鬱血、浮腫、炎症および出血)に関して0〜4の5段階に類別した(0:無しまたは正常にみえる、1:軽度、2:中度、3:重度、4:非常に重度)。またHeijnenの技術(Heijnen BH, et al., Surgery 2003;134:806-817)に従って肝障害の程度を評価した。肝障害は、6つのパラメーター(細胞質の退色、液胞化、核凝縮、核分割、核フェージングおよび赤血球鬱滞)について0(認められない)から1(軽度)、2(中度)および3(重度)までの4段階にスコア化した。
【0095】
各染色切片を光学顕微鏡で観察した結果を図1に示す。
【0096】
肺の組織変化は対照群(図1A)では観察されなかったが、LPS群の肺組織で顕著な間質性の浮腫および炎症細胞の浸潤がみとめられた(図1B)。ETS−GS処置したLPS群(ETS-GS+LPS群)では、間質性の浮腫および炎症細胞の浸潤が、LPS群と比較して、顕著に低減されていた(図1C)。肺組織に関する組織学的スコアの結果を図2に示す。これからわかるように、LPS群(白棒)の肺組織の組織学的スコアは、対照群(黒棒)のスコアと比較して、すべて著しく高く、ETS-GS+LPS群(斜線棒)のスコアはその中間であった。
【0097】
一方、肝臓組織に関しては、LPS群の肝臓組織で、対照群(図1D)と比較して、顕著な出血および炎症細胞の浸潤が見られた(図1E)。ETS−GS処置したLPS群(ETS-GS+LPS群)では、LPS群と比較して、間質性の出血および炎症細胞の浸潤が、著しく低減していた(図1F)。肝臓組織に関する組織学的スコアの結果を図3に示すが、上記と同様に、LPS群において、対照群と比較して、組織学的スコアはすべて著しく高く、ETS-GS+LPS群のスコアはその中間であった。
【0098】
この結果から、LPS投与で誘導される全身性炎症モデル動物(敗血症モデル動物)における肺組織及び肝臓組織の急性障害が、ETS−GSの投与により有意に予防若しくは改善されることが判明した。
【0099】
実験例2 LPS投与後の血清IL−6およびTNF−αレベルに対するETS−GSの影響
LPSで誘導したサイトカイン(IL-6、TNF-α)に対するETS−GSの影響を調べた。実験はLPS投与後、12時間に亘って血清サンプル(LPS群、ETS-GS+LPS群、対照群)を採取することで実施した。
【0100】
(1)サイトカインの測定
血清中のIL−6およびTNF-αの濃度は、市販のELISAキットとIL−6およびTNF-αのそれぞれに対するラット特異的モノクローナル抗体(Invitrogen社)を用いて分析した。吸光度は540nmで測定した(バイオ・ラッド・ラボラトリーズ)。
【0101】
(2)結果
血清中のTNF-α濃度、IL−6濃度の経時的変化を図4A及びBにそれぞれ示す。
【0102】
血清中のTNF−α濃度は、対照群では増加は認められなかったが(結果示さず)、LPS群とETS-GS+LPS群では増加が認められ、いずれもLPS投与後3時間でピークに達した。しかし、その増加の程度は、LPS群と比較して、ETS-GS+LPS群では著しく低かった(図4A)。同様に、血清中のIL−6濃度は、対照群では増加は認められなかったが(結果示さず)、LPS群およびETS-GS+LPS群ともに、LPS投与後3時間でピークに達した (図4B)。しかし、その増加の程度は、TNF−α濃度と同様に、LPS群と比較して、ETS-GS+LPS群では著しく低かった(図4B)。
【0103】
これらの結果から、LPS投与(LPS刺激)によって誘導されるサイトカイン(IL-6、TNF-α)はいずれもETS-GSにより有意に抑制されることが判明した。
【0104】
実験例3 LPSで刺激したマウスマクロファージによるサイトカイン(IL-6及びTNF-α)及びHMGB1生成に対するETS-GSの影響
マウスマクロファージ細胞株RAW264.7(1×106細胞)を、5%の加熱不活性化したウシ胎仔血清(FBS)、ペニシリン(50units/ml、Gibco BRL) およびストレプトマイシン(50μg/ml、Gibco BRL)を含むRPMI 1640培地(和光純薬工業)中で、5%のCO2の下、37℃で培養して、培地に分泌されたIL−6、TNF−α及びHMGB1(high-mobility group box1 protein)の量を測定した(対照群)。またLPS群として、上記の培地にLPS(100ng/ml)を添加し、またETS-GS+LPS群として、上記の培地にETS-GS(0.0001〜100μg/ml)とLPS(100ng/ml)を添加し、上記と同様に培養して培地に分泌されたIL−6、TNF−α及びHMGB1の量を測定した。なお、HMGB1は、30kDの非ヒストン性染色体関連タンパク質であり(Bianchi ME, et al., Science, 1898;243:1056-1059)、その血清中の濃度は、重度の敗血症や敗血症ショックにより増加することが報告されている(Wang H, et al., Science 1999; 285:248-251)。また、HMGB1は、後期の炎症応答を増幅し、サイトカイン分泌を促進することが知られているが(サイトカインメディエーター)(van Zoelen MA, et al., Shock 2009;31:280-284)、最近、致死性敗血症の末期のメディエーターとして、また虚血再還流障害の初期のメディエーターとして機能することがわかっている(Tsung A, et al., J Exp Med 2005; 201:1135-1143)。
【0105】
TNF-α生成量(pg/ml)を図5(A)に、IL-6生成量(pg/ml)を図5(B)に、HMGB1生成量(ng/ml)を図5(C)それぞれ示す。
【0106】
結果からわかるように、培地にLPSを添加することで(LPS群)(図中、LPS:+、ETS-GS:0)培地に大量のTNF−α、IL−6及びHMGB1が分泌されたが、LPSと共にETS-GSを添加することでその分泌量はいずれも低減した(ETS-GS+LPS群)(図中、LPS:+、ETS-GS:100, 10, 1, 0.1, 0.01, 0.001, 0.0001μg/ml)。ETS-GS添加によるIL-6、TNF-α及びHMGB1分泌の抑制効果は、いずれも用量依存的であり、100μg/mlのETS-GS添加で最も大きかった。
【0107】
これらの結果から、LPS投与(LPS刺激)によって誘導されるHMGB1(サイトカインメディエーター)及びサイトカイン(IL-6、TNF-α)は、いずれもETS-GSにより有意に抑制されることが確認された。
【0108】
実験例4 各種水溶性ビタミンE誘導体による抗サイトカイン効果
上記実験例3と同様の方法で、マウスマクロファージ細胞株RAW264.7を用いて、各種のビタミンE誘導体(ETS-GS、EM-GS、EGABA-GS)の抗サイトカイン効果を調べた。なお、サイトカインとしてTNF-αを用いた。
【0109】
具体的には、RAW264.7細胞培養の上清液中にLPS100ng/mlの添加を行うと同時に各種ビタミンE誘導体(VE誘導体)を表1に示す濃度にて添加し、20時間培養した後の培養液中のTNF-α濃度をELISA法にて検討した。結果を表1に示す。
【0110】
【表1】

【0111】
この結果、EM−GSやEGABA-GSといったビタミンE誘導体も、ETS-GSとほぼ同程度の抗サイトカイン作用(サイトカイン低減作用)を有していることが示された。つまり、これらのビタミンE誘導体はいずれの濃度および誘導体においてもLPSのみの投与(培養液中のTNF-α濃度:812.3 ± 25.6 (pg/ml))に比べて、有意にサイトカインの生成を抑制できることが示された(p<0.05))。
【0112】
実験例5 LPS誘導によるp50/p65DNA結合増加に対するETS-GSの影響
(1)LPSで誘導したp50/p65 DNA結合の増加に対するETS-GSの影響
マウスマクロファージ細胞株RAW264.7(1×106細胞)を、5%の加熱不活性化したウシ胎仔血清(FBS)、ペニシリン(50units/ml、Gibco BRL) およびストレプトマイシン(50μg/ml、Gibco BRL)を含むRPMI 1640培地(和光純薬工業)中で、5%のCO2の下、37℃で1時間培養した(対照群)。またLPS群として、培地にLPS(100ng/ml)を添加し同様に1時間培養した。またETS-GS+LPS群として、培地にLPS(100ng/ml)とともにETS-GS(100μg/ml)を添加し、同様に1時間培養した。
【0113】
斯くして培養したマウスマクロファージ細胞株RAW264.7(対照群、LPS群、ETS-GS+LPS群)を回収した後Nuclear and Cytoplasmic Extraction Reagents(PIERCE)を用いて核内蛋白質のみを抽出し、得られた核溶解物中でのNF-kB(p50/p65)のDNA結合活性を、ELISAに基づく非放射性のNF-kB (p50/p65) transcription factor assay kit (Millipore)を使用して測定した。
【0114】
結果を図6に示す。この結果からわかるように、マウスマクロファージ細胞株RAW264.7の核分画中のNF-kB(p50/p65)のDNA結合活性はLPS刺激後1時間で増加した(図中、白棒、LPS:+、ETS-GS:0)。 しかし、LPSとETS-GSの両方で処置すると、この増加は有意に抑制された(図中、灰色棒、LPS:+、ETS-GS:100μg/ml)。このことから、LPS刺激により増加したRAW264.7細胞核分画中のNF-kB(p50/p65)のDNA結合活性は、ETS-GSによって低減することがわかる。
【0115】
(2)LPSで誘導したタンパク質のリン酸化に対するETS-GSの影響
(2-1)LPSで誘導したIkBリン酸化に対するETS-GSの影響
上記で培養したマウスマクロファージ細胞株RAW264.7(対照群、LPS群、ETS-GS+LPS群)を回収した後Mammalian Extraction Reagents(PIERCE)を用いて細胞蛋白を調製し、細胞質のリン酸化IkBレベルを測定した。リン酸化IkB レベルは、IkBα、リン酸化IkBα、及びβアクチンにそれぞれ特異的な抗体(抗phospho-IKBα (p-IkBα)抗体、IkB alpha抗体:Cell Signaling Technology、抗βアクチン抗体:Abcam)を使用して、ウエスタンブロッティング分析により測定した。
【0116】
なお、ウエスタンブロッティング分析は、各細胞株(対照群、LPS群、ETS-GS+LPS群)から調製したタンパク質をSDS-PAGEゲル電気泳動に供し、まずポリビニリデン・ジフルオリド膜(ミリポア)に転写した。次いで転写した膜を第1抗体(1:1000稀釈)で培養し、第2抗体で培養した後、enhanced chemiluminescence detection kit (Amersham)を使用して発色させて、Hyperfilm ECL(アマシャム)に供した。
【0117】
結果を図7に示す。図に示すようにLPSによる処置は、IkBαをリン酸化し、結果としてIkBαの低下をもたらした(図中、LPS:+、ETS-GS:0)。このIkBαリン酸化、及びそれに伴うIkBαの低下は、ETS-GSを投与することで抑制された(図中、LPS:+、ETS-GS:100μg/ml)。
【0118】
(2-2)AKt、ERK1/2、JNK、MAPK、及びIkBのリン酸化に対するETS-GSの影響
上記で培養したマウスマクロファージ細胞株RAW264.7(対照群、LPS群、ETS-GS+LPS群)を回収した後Mammalian Extraction Reagents(PIERCE)を用いて細胞蛋白を調製し、Aktのレベル、及び各種タンパク質(A:Akt、B:extracellular signal-regulated kinase 1/2 (ERK1/2)、C:c-jun N-terminal kinase (JNK)、D:p38 mitogen-activated protein kinase (p38 MAPK)、E:IκBα)のリン酸化レベルをBio-Plexアッセイにより測定した。結果をそれぞれ図8(A)〜(E)に示す。
【0119】
図8(A)に示すようにLPSによって減少したAktのリン酸化、つまりAktのシグナル活性がETS-GSの投与により回復することがわかった。このことはETS-GSの作用が、P13K-Akt経路の活性化に関係していることを示唆する。P13K-Aktシグナル経路は、抗壊死性でまた抗アポトーシス性である。このことから、ETS-GSは、P13K-Akt経路の活性化を介して、内毒素血症や敗血性ショックの予防及び改善に有効に働くことが示唆される。
【0120】
一方、図8(B)〜(D)に示すように、LPSによって誘導された各種タンパク質(ERK1/2、JNK、p38 MAPK)のリン酸化は、ETS-GSの投与により抑制された。これらのタンパク質(ERK1/2、JNK、及びp38 MAPK)は、MAPKファミリーに属するタンパク質であり、このことからETS-GSの投与によりMAPK経路の活性化が阻害されることが判明された。MAPK経路が活性化することによって、炎症応答を増強するNF-κB(炎症に重要な細胞内メディエーター)が活性化されることから(kyriakis JM et al., Physiol Rev 2001; 81:807-869)、ETS-GSはMAPK経路の活性化を阻害することで抗炎症作用を発揮すると考えられる。
【0121】
また、図8(E)に示すように、LPSによってIκBαのリン酸化が誘導されリン酸化IκBαが増加したが、それは、ETS-GSの投与により顕著に減少した。P13K-Aktの阻害は、IκBαのリン酸化及びNF-κBの核移行を増強する(Diaz-Guerra MJ et al., J Immunol 1999, 162:6184-6190)。加えて、MARK経路とNF-κB活性化との関連性は、ストレスや炎症応答に重要である(Ci X, et al., Inflammation 2010, 33:126-136)。従って、図8(E)に示すように、LPSによって誘導されたIκBαのリン酸化がETS−GS投与により抑制されたことは、ETS−GSがP13K-Aktを誘導し、またMAPKを阻害することを示唆する。
【0122】
以上説明するように、ETS-GSがLPSで誘導した全身性炎症モデルラットにおける肺および肝障害を改善することが判明した。さらに、ETS-GSは、LPS投与によるサイトカインメディエーターであるHMGB1やサイトカイン(IL-6およびTNF-α)の生成または分泌を、完全ではないものの抑制することも判明した。
【0123】
前述するように、これらのサイトカインは、通常LPSによって強く誘導され、炎症反応の初期の段階で生成分泌され、これにより、敗血症性ショックの進展に重要な役割を果たすことが知られている(Nasraway SA. Chest2003;123:451S-459S)。特にTNF-αは炎症を仲介する主要因子であり、その放出はさらにIL-1βおよびIL-6のような他のサイトカインを活性化し、細胞の損傷に関わることも知られている(Bone RC. Crit Care Med1996;24:163-172)。またTNF-αは、敗血症性ショックと関係する初期のショック状態(つまり低血圧、熱)や臓器不全の病因に極めて重要な役割を果たしている(Russell JA. NEngl J Med2006;355:1699-1713)。一方、IL−6は敗血症の重篤度や致死によく関連しており、敗血症の予測因子でもある(Remick DG, et al., Shock2002;17:463-467)。
【0124】
上記実験例2〜4で示したように、ETS-GS、EM−GS、EGABA−GS等の本化合物の投与が、これらのサイトカイン(TNF-αやIL-6)の生成または分泌を顕著に抑制することから、本化合物によって、サイトカインが介在して発症したり悪化したりする疾患(サイトカイン介在疾患)を予防または改善できると考えられる。
【0125】
実験例5でのインビトロ実験において、NF-kB活性化はIkBリン酸化をブロックすることで阻害されることを示した。このことから、本化合物の投与によるサイトカイン(IL-6およびTNF-α)の抑制は、さらにNF-kB不活性化に基づいている可能性がある。
【0126】
結論として、本化合物により、炎症性サイトカインが介在する全身性炎症や臓器障害(急性臓器障害)を改善できる可能性がある。具体的には、上記実験例1〜5の実験結果は、本化合物がNF-kB活性化を抑制することによって、炎症性サイトカインが介在する様々な疾患、特に全身性炎症及びそれに付随する疾病(敗血症性ショック、急性臓器障害、臓器不全等)を治療する潜在的可能性を有することを示している。
【0127】
実験例6〜8
上記実験例1では、LPS投与で誘導された全身性炎症モデル動物(敗血症モデル動物)における急性臓器障害が、ETS-GSの投与により有意に改善されることを示した。
【0128】
急性腎障害の原因は多岐に亘るが、その一つとして虚血再還流を挙げることができる。そこで下記の実験例6〜8では、脳虚血再還流障害、腎虚血再還流障害及び肝虚血再還流障害に対する本化合物の影響をETS-GSを用いて調べた。なお、この実験には、下記の方法によりETS-GSの存在下または非存在下で脳虚血再還流処置、腎虚血再還流処置、または肝虚血再還流処置をしたラット(脳虚血再還流障害モデル動物、腎虚血再還流障害モデル動物、肝虚血再還流障害モデル動物)を使用した。
【0129】
なお、データはすべて平均値±SDとして示し、一元配置分散分析(ANOVA)を使用して評価した。p-値<0.05を統計的有意とした。
【0130】
(1)被験動物
体重250-300gの雄ラット(Wister rat)を使用した。ラットはすべて、実験前後に食物と水を無制限に摂取できるようにした。研究は大分大学医学部の動物研究の倫理委員会によって承認された。すべてのプロトコルは国立衛生研究所(NIH)のガイドラインに沿って行った。麻酔は4%のセボフルラン(丸石製薬(株)製)を用いて行った。
【0131】
(2)被験動物の脳虚血再還流処置(脳虚血再還流障害モデル動物の調製)
ラットは、無作為に3つのグループに分けた(I/R群、ETS-GS+I/R群、対照群)。I/R群には、体重1kg当たり0.9%のNaCl水溶液1.0mlを静脈注射した後に、呼吸を7分間停止することで心肺停止させることで脳を虚血にさせ、その後蘇生を行った(ETS-GS非存在下で脳虚血再還流)。ETS-GS+I/R群には、体重1kg当たり10mg/mlのETS−GS水溶液を1.0ml(10mg/kg)静脈注射した後、呼吸を7分間停止することで心肺停止させることで脳を虚血にさせ、その後蘇生を行った(ETS-GS存在下で脳虚血再還流)。対照群には体重1kg当たり0.9%のNaCl水溶液1.0mlを静脈注射した。
【0132】
(3)被験動物の腎虚血再還流処置(腎虚血再還流障害モデル動物の調製)
ラットは、無作為に3つのグループに分けた(I/R群、ETS-GS+I/R群、対照群)。I/R群には、右の腎臓を外科的に削除し、左の腎動脈を閉塞させた状態で、体重1kg当たり0.9%のNaCl水溶液1.0mlを静脈注射した(ETS-GS非存在下で腎虚血再還流)。ETS-GS+I/R群には、右の腎臓を外科的に削除し、左の腎動脈を閉塞させた状態で、体重1kg当たり10mg/mlのETS-GS水溶液を1.0ml(10mg/kg)静脈注射した(ETS-GS存在下で腎虚血再還流)。対照群には体重1kg当たり0.9% のNaCl水溶液1.0mlを静脈注射した。
【0133】
(4)被験動物の肝虚血再還流処置(虚血再還流障害モデル動物の調製)
ラットは、無作為に3つのグループに分けた(I/R群、ETS-GS+I/R群、対照群)。I/R群には、体重1kg当たり0.9%のNaCl水溶液1.0mlを皮下注射し、その30分後に門脈と肝臓動脈の枝をそれぞれ35mmのクリップで閉塞し、60分間そのままにした後にクリップを外した(ETS-GS非存在下で肝虚血再還流)。ETS-GS+I/R群には、体重1kg当たり0.9%のNaCl水溶液1.0mlとともに、生理食塩水に溶解したETS-GS水溶液を1.0ml(10mg/kg)皮下注射し、その30分後にI/R群と同様に60分間、門脈と肝臓動脈の枝を閉塞し、その後開放した(ETS-GS存在下で肝虚血再還流)。対照群には体重1kg当たり0.9% のNaCl水溶液1.0mlを皮下注射した。
【0134】
実験例6 脳虚血再還流後の脳組織に対するETS-GSの影響
(1)光学顕微鏡による組織分析
脳虚血再還流処置の24時間後に採取したラット脳組織標本(I/R群、ETS-GS+I/R群、対照群)を定法に従って固定し、パラフィン内に埋設し、ミクロトーム上で切片を作成した。作成した切片をヘマトキシロンとエオシンで染色した各染色切片を光学顕微鏡で観察した結果を図9に示す。光学顕微鏡検査の結果、対照群では正常な脳細胞の形態が認められた (図9A)。しかしながら、I/R群では明らかな細胞の壊死、細胞質内の空砲化、出血が認められた(図9B)。しかしこれらの3つの組織変化(細胞の壊死、細胞質内の空砲化、出血)は、ETS-GS処理したI/R群(ETS-GS+I/R群)では顕著に減少していた(図9C)。
【0135】
実験例7 腎虚血再還流後の腎臓組織に対するETS-GSの影響
(1)光学顕微鏡による組織分析
腎虚血再還流処置の24時間後に採取したラット腎臓組織標本(I/R群、ETS-GS+I/R群、対照群)を定法に従って固定し、パラフィン内に埋設し、ミクロトーム上で切片を作成した。作成した切片をヘマトキシロンとエオシンで染色した。そのサンプルを分析し、Erdogan’s 技術(Erdogan H,et al., Urol Res34: 41-46, 2006)に基づいて腎障害の程度を決定した。腎実質中の24のエリアを、4つのパラメーター(尿細管細胞の壊死、細胞質内空胞の形成、出血および尿細管拡張)に基づいて腎障害の程度を類別した。その半定量的スケールを、0〜4の5段階に設定した(0:正常な腎臓、1:微細損傷(0-5%障害)、2:軽度の損害(5-25%障害)、3:中程度の損害(25-75%障害)、4:重度の損害(75-100%障害))。各パラメーターについて平均スコアを求めた。
【0136】
各染色切片を光学顕微鏡で観察した結果を図10に示す。光学顕微鏡検査の結果、対照群では正常な腎細胞の形態が認められた (図10AおよびB)。しかしながら、I/R群では明らかな尿細管細胞の壊死、細胞質内の空砲化、出血および尿細管の拡張が認められた(図10CおよびD)。しかしこれらの4つの組織変化(尿細管細胞の壊死、細胞質内の空砲化、出血および尿細管の拡張)は、ETS-GS処理したI/R群(ETS-GS+I/R群)では顕著に減少していた(図10EおよびF)。図11に示すように、対照群の標本(Renal I/R:-、ETS-GS:-)と比較してI/R群の標本(Renal I/R:+、ETS-GS:-)は、腎障害の組織学的スコアのすべてが著しく高かったのに対して、ETS-GS処理したI/R群(ETS-GS+I/R群)の標本(Renal I/R:+、ETS-GS:+)のスコアはその中間であった(図11;p<0.05)。
【0137】
(2)透過電子顕微鏡分析
腎虚血再還流処置の24時間後に採取したラット腎臓組織標本(I/R群、ETS-GS+I/R群、対照群)を、4%のパラホルムアルデヒド、1%のCaCl2および7%の蔗糖を含む固定液に、4℃で30分間浸漬した。固定した標本を、カミソリ刀で小片にカットし、2%のオスミウムに4℃で2時間浸漬してポスト固定化し、次いで段階的に濃度を変えたエタノールで処理して脱水して、Epok 812(応研商事)中に埋設した。これを超ミクロトーム(Reichert-Nissei Ultracut S)上でダイヤモンド・ナイフを用いて、超薄切片(90-95nm)にカットし、透過電子顕微鏡(JEM-1200 EX II電子顕微鏡:JEOL)で観察した。
【0138】
結果を図12に示す。対照群の腎臓標本は、基底膜に垂直に配向したミトコンドリアを有する完全な尿細管細胞を示した(図12AおよびB)。I/R群では、正常な管状構造が損失し、基底膜からの尿細管細胞の分離および管状の細胞側底膜の崩壊が認められた(図12CおよびD)。また尿細管細胞中に様々なサイズの多数の気泡および液胞が認められた。ミトコンドリアは、異常なクリスタおよび小さな柔毛性粒子を含んで膨脹しているように見えた。さらに、絨毛様突起が、細管の内腔中に流されていた(図12CおよびD)。
【0139】
しかしながら、ETS-GS処理したI/R群(ETS-GS+I/R群)の標本の電子顕微鏡の画像では、尿細管細胞は殆どダメージを受けずに、管状の基底膜および側底膜は完全なままであった(図11EおよびF)。サイズの異なる複数の液胞が、尿細管細胞の中で観察された。正常なミトコンドリアと膨脹したミトコンドリアの両方が観察された(図12EおよびF)。
【0140】
以上の結果は、ETS-GSの投与によって腎虚血再還流による組織障害が抑制できること、また腎虚血再還流障害によるミトコンドリアの形態が改善されることを示している。
【0141】
(3)腎機能に対するETS-GSの影響
腎虚血再還流処置から24時間目にラット(I/R群、ETS-GS+I/R群、対照群)から血液を採取して血清を調製した。血清中の血中尿素窒素(BUN)値およびクレアチニン値を、i-STAT 300F autoanalyzer(扶桑薬品工業製)の標準方法を用いて測定した。
【0142】
結果を表2に示す。
【0143】
表2に示すように、対照群では、クレアチニンとBUNの平均血清濃度は、それぞれ0.357±0.053mg/dlおよび15.286±1.976mg/dlであった。腎臓機能のこれらの値は、I/R群で顕著に増加していた(クレアチニン: 4.800±0.586mg/dl; BUN: 196.889±8.294mg/dl)。これに対してETS-GS処理したI/R群(ETS-GS+I/R群)ではこれらの値がいずれも低下したことから(クレアチニン:3.517±0.392mg/dl、BUN:161.429±5.719mg/dl;p<0.05)、腎虚血再還流処置で低下した腎機能がETS-GS処置により改善することが判明した。
【0144】
【表2】

(4)マロンジアルデヒド分析
ETS-GSの存在下または非存在下で腎虚血再還流した24時間後にラット(I/R群、ETS-GS+I/R群、対照群)から腎臓組織を採取し腎臓組織中のマロンジアルデヒド(MDA)濃度を、チオバルビツール酸反応基質用の市販キット(TBARS; Cayman Chemical)を用いて測定した。530nmの吸光度をELISAリーダ(Bio-Rad Laboratories)を用いて測定した。
【0145】
TBARKアッセイの結果を図13に示す。図13に示すように、腎臓組織中のMDA濃度はI/R群(Renal I/R:+、ETS-GS:-)、すなわち腎虚血再還流後に増加したが、ETS−GS処置したI/R群(ETS-GS+I/R群、Renal I/R:+、ETS-GS:+)では、このMDA誘導が顕著に低下することが明らかになった (図13;p<0.05)。
【0146】
実験例8 肝虚血再還流後の肝臓組織に対するETS-GSの影響
(1)光学顕微鏡による組織分析
肝虚血再還流処置の24時間後に採取したラット肝臓組織標本(I/R群、ETS-GS+I/R群、対照群)を定法に従って固定し、作成した切片をヘマトキシロンとエオシンで染色した各染色切片を光学顕微鏡で観察した結果を図14に示す。光学顕微鏡検査の結果、対照群では正常な肝細胞の形態が認められた (図14A及びB)。しかしながら、I/R群では明らかな細胞の壊死、核濃縮、出血及び小葉状構造の乱れが認められた(図14C及びD)。しかしこれらの3つの組織変化(細胞の壊死、核濃縮、出血、及び小葉状構造の乱れ)は、ETS-GS処理したI/R群(ETS-GS+I/R群)では顕著に減少していた(図14E及びF)。
【0147】
(2)血清サイトカイン量に対するETS-GSの影響
肝虚血再還流処置から24時間目にラット(I/R群、ETS-GS+I/R群、対照群)を4%のセボフルラン麻酔下で犠牲にし、右心室から血液を採取して血清を調製した。血清中の各サイトカイン(IL-6、TNF-α)濃度を、実験例2と同様の方法で、モノクローナル抗体を用いて測定した。結果を図15に示す(A:IL-6、B:TNF-α)。
これからわかるように、いずれのサイトカインも、血中濃度がI/R群で顕著に増加したのに対してETS-GS処理したI/R群(ETS-GS+I/R群)ではこれらの値がいずれも顕著に低下した。このことから、肝虚血再還流処置によってサイトカイン(IL-6、TNF-α)の分泌が誘導されること、また肝虚血再還流処置によって誘導されるサイトカインは、いずれもETS-GSにより有意に抑制されることが判明した。
【0148】
(3)血清HMGB1量に対するETS-GSの影響
上記(2)で肝虚血再還流処置後に各ラット(I/R群、ETS-GS+I/R群、対照群)から採取した血清サンプルについて、血清中のHMGB1[high-mobility group box1 protein]濃度を、当該HMGB1に対するモノクローナル抗体(シノテスト社)を用いてELISA法により測定した。吸光度は540nmで測定した(バイオ・ラッド・ラボラトリーズ)。なお、HMGB1は、30kDの非ヒストン性染色体関連タンパク質であり(Bianchi ME, et al., Science, 1898;243:1056-1059)、その血清中の濃度は、重度の敗血症や敗血症ショックにより増加することが報告されている(Wang H, et al., Science 1999; 285:248-251)。また、HMGB1は、かねてから後期の炎症応答を増幅し、サイトカイン分泌を促進することが知られているが(van Zoelen MA, et al., Shock 2009;31:280-284)、最近、致死性敗血症の末期のメディエーターとして、また虚血再還流障害の初期のメディエーターとして機能することがわかっている(Tsung A, et al., J Exp Med 2005; 201:1135-1143)。
結果を図16に示す。これからわかるように、血清HMGB1濃度は、I/R群で顕著に増加したのに対してETS-GS処理したI/R群(ETS-GS+I/R群)では顕著に低下した。このことから、肝虚血再還流処置によってHMGB1が誘導されること、また肝虚血再還流処置によって誘導されるHMGB1は、ETS-GS処置により有意に抑制されることが判明した。つまり、ETS-GSにより、肝虚血再還流処置によるHMGB1の誘導増加が抑制されて、その結果、サイトカイン分泌が抑えられ、障害から肝細胞を保護することができることが判明した。
【0149】
(4)肝機能に対するETS-GSの影響
上記(2)で肝虚血再還流処置後に各ラット(I/R群、ETS-GS+I/R群、対照群)から採取した血清サンプルについて、血清中のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)濃度、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)濃度、乳酸脱水素酵素(LDH)濃度を、自動分析装置(TBA-200FR NEO:東芝メディカルシステムズ社)を用いて標準方法に従って測定した。血清中のAST、ALT、及びLDH濃度を、それぞれ図17(A)、(B)及び(C)に示す。
これからわかるように、肝機能を示すこれらの値は、I/R群で顕著に増加したのに対してETS-GS処理したI/R群(ETS-GS+I/R群)ではこれらの値がいずれも顕著に低下した。つまり、肝虚血再還流処置で低下した肝機能がETS-GS処置により改善することが判明した。
【0150】
以上の実験例6〜8の結果は、虚血再還流障害後の腎障害、脳障害及び肝障害がETS−GS処置によって改善することを示している。より詳細には、実験例7及び8において、虚血再還流処置によって、(HMGB1を介して)炎症性サイトカインが誘導されること、ETS−GSは当該虚血再還流処置によって誘導されるHMGB1及び炎症性サイトカインを有意に抑制することが確認された。実験例7において、ETS−GSの投与により、虚血再還流処置によって増加した腎臓のMDAレベルが顕著に低下し、ミトコンドリアの形態が非常に改善され、さらに腎虚血再還流障害後の腎機能障害が改善されることが確認された。また実験例8においても、ETS−GS投与により虚血再還流処置によって増加した血清のAST、ALT及びLDH濃度が有意に低下し、虚血再還流によって誘導された肝機能障害が有意に改善されることが確認された。これらのことから、虚血再還流処置による組織の機能低下は、虚血再還流処置によって誘導されるサイトカインの分泌が一因となっており、ETS−GSは、当該サイトカインの分泌を抑制することにより、臓器や組織が虚血再還流障害を受けることから抑制若しくは保護していると考えられる。
【0151】
結論として、上記の実験例から、ETS−GSを始めとする本化合物は、サイトカインの分泌を抑制することで、虚血再還流における障害の発生を阻止する作用を有していると考えられる。つまり、上記の実験例からETS−GSを始めとする本化合物による処置で、虚血再還流によって生じる脳障害、腎障害及び肝障害を保護し防止できることが示された。
【0152】
実験例9 腹膜炎性敗血症に対する本化合物の作用
汎発性腹膜炎に起因する敗血症性ショック状態における致死的な合併症には、急性肺障害や急性肝障害などの多臓器不全症候群があり、その死亡率はいまだ高いのが現状である。敗血症には、サイトカインの活性化と、それに続く活性酸素種の発生が臓器障害の中心的な役割を担っており、その意味でサイトカイン介在疾患といえる。
本実験例9は、CLP手技(Cecal ligation and puncture method)により腹膜炎モデル動物を作製し、当該モデル動物の臓器障害に対する本化合物の影響をETS-GS及びE-Ant-S-GSを用いて調べた。なお、データはすべて平均値±SDとして示し、一元配置分散分析(ANOVA)を使用して評価した。p-値<0.05を統計的有意とした。
【0153】
(1)被験動物
体重250-300gの雄ラット(Wister rat)を使用した。ラットはすべて、実験前後に食物と水を無制限に摂取できるようにした。研究は大分大学医学部の動物研究の倫理委員会によって承認された。すべてのプロトコルは国立衛生研究所(NIH)のガイドラインに沿って行った。麻酔は4%のセボフルラン(丸石製薬(株)製)を用いて行った。
【0154】
(2)腹膜炎モデル動物の作製
ラットは、無作為に3つのグループに分けた(本化合物+CLP群、CLP群、疑似手術群(対照群))。本化合物+CLP群には、まず毎日3週間に亘って本化合物(ETS-GSまたはE-Ant-S-GS)を経口投与(10mg/kg)した。3週間後に麻酔下で開腹し、回盲部近傍で盲腸を結紮し、結紮部遠位で盲腸を18-gauge針で穿刺して便を排出し、腹腔内に盲腸を還納し閉腹した。CLP群には、まず毎日3週間に亘って水を経口投与(1ml/kg)し、次いで3週間後に本化合物+CLP群と同様に、麻酔下で開腹し、回盲部近傍で盲腸を結紮して閉腹した。疑似手術群は、開腹し盲腸を一旦腹腔外に取り出した後、再び腹腔内に還納し閉腹した(疑似の外科的手術処置)。
【0155】
(3)光学顕微鏡による組織分析
CLP処置の12時間後に採取したラット肺または肝臓の組織標本(本化合物+CLP群、CLP群、疑似手術群)を定法に従って固定し、パラフィン内に埋設し、ミクロトーム上で切片を作成した。作成した切片をヘマトキシロンとエオシンで染色した各染色切片を光学顕微鏡で観察した。
【0156】
(3-1)ETS−GSによる効果(肺組織)
図18に本化合物としてETS−GSを用いて試験した場合の肺組織標本(AとB:疑似手術群、CとD: CLP群、EとF:本化合物+CLP群)の光学顕微鏡画像を示す。光学顕微鏡観察の結果、疑似手術群では組織学上の変化は認められなかったが(図18A及びB)、CLP群では明らかな間質浮腫と白血球浸潤が認められた(図18C及びD)。しかしこれらの組織変化は、ETS-GS処理したCLP群(ETS-GS+CLP群)では顕著に減少していた(図18E及びF)。
次いで、そのサンプルを分析し、Murakami’s 技術 (Murakami K,et al., Shock 2002; 18: 236-241)に基づいて肺障害の程度を決定した。肺柔組織の24のエリアを、4つのパラメーター(鬱血、浮腫、炎症及び出血)に基づいて肺障害の程度を類別した。その半定量的スケールを、0〜4の5段階に設定した(0:異常なし、または正常にみえる、1:軽度障害、2:中程度障害、3:高程度障害、4:重度障害)。各パラメーターについて平均スコアを求めた。結果を図19に示す。図19に示すように、疑似手術群の標本(黒棒:Control)と比較してCLP群の標本(白棒)は、肺障害の組織学的スコアのすべてが著しく高かったのに対して、ETS-GS処理したCLP群の標本(斜線棒:ETS-GS+CLP群)のスコアはその半分以下まで低下していた(図19;p<0.05)。
【0157】
(3-2)E-Ant-S-GSによる効果(肺組織及び肝組織)
図20に、本化合物としてE-Ant-S-GSを用いて試験した場合の肺組織標本(上段)と肝組織標本(下段)の光学顕微鏡画像を示す。肺組織について、光学顕微鏡観察の結果、疑似手術群では組織学上の変化は認められなかったが(図20の上段左)、CLP群では明らかな間質浮腫と白血球浸潤が認められた(図20の上段中央)。しかしこれらの組織変化は、E-Ant-S-GS処理したCLP群(E-Ant-S-GS+CLP群)では顕著に減少していた(図20の上段右)。肝組織については、疑似手術群では組織学上の変化は認められなかったが(図20の下段左)、CLP群では明らかな肝細胞の核の濃縮と細胞索の配列に乱れが認められた(図20の下段中央)。しかしこれらの組織変化は、E-Ant-S-GS処理したCLP群(E-Ant-S-GS+CLP群)では顕著に減少していた(図20の下段右)。
【0158】
(4)E-Ant-S-GSによる抗炎症作用(肺組織及び肝組織)
上記(3-2)でCLP処置により組織の変化が認められた肺及び肝組織について、組織中のMPO(myeloperoxidase)活性を測定し、E-Ant-S-GSの抗炎症作用を評価した。結果を図21に示す。これからわかるように、組織中MPO活性は、肺と肝臓の両方において、疑似手術群に比べてCLP群では1.5倍程度増加したのに対して、E-Ant-S-GS投与群(E-Ant-S-GS+CLP群)では疑似手術群と同レベルまで低下していた。このことから、E-Ant-S-GSには抗炎症作用があり、CLP処置によって生じる炎症が、E-Ant-S-GSの投与により抑制若しくは改善できることが判明した。
【0159】
(5)CLP処置後の血清サイトカイン及びHMGB1濃度に対するETS-GS及びE-Ant-S-GSの影響
CLP処置したラット(本化合物[ETS-GS、E-Ant-S-GS]+CLP群、CLP群、疑似手術群(対照群))から経時的に血液を採取して血清を調製した。血清中の各サイトカイン(IL-6、TNF-α)及びHMGB1の濃度を、実験例9と同様の方法で、モノクローナル抗体を用いて測定した。
【0160】
(5-1)ETS−GSの影響
本化合物としてETS−GSを用いた場合の結果を図22に示す(A:IL-6、B:TNF-α、C:HMGB1)。これからわかるように、サイトカイン(IL-6及びTNF-α)及びHMGB1の血中濃度はいずれもCLP処理で顕著に増加したのに対して、ETS-GS処理したCLP群(ETS-GS+CLP群)ではこれらの値がいずれも顕著に低下した。このことから、腹膜炎によって誘導されるHMGB1やサイトカイン(IL-6、TNF-α)は、いずれもETS-GSにより有意に抑制されることが判明した。
【0161】
(5-2)E-Ant-S-GSの影響
本化合物としてE-Ant-S-GSを用いた場合の、CLP後の血清IL−6濃度の経時的変化を図23に示す。これからわかるように、血中IL−6濃度はCLP処理で経時的に漸増するものの、E-Ant-S-GS処理したCLP群(E-Ant-S-GS+CLP群)ではこの漸増幅が顕著に低下した。また、各群(E-Ant-S-GS+CLP群、CLP群、疑似手術群)のラットの肺組織中のHMGB1の発現状況をWestern blottingを用いて調べた結果を図24に示す。これからわかるように、CLP群でHMGB1の発現が激増していたのに対して、E-Ant-S-GS処理したCLP群(E-Ant-S-GS+CLP群)では、その発現量は顕著に低下しており、疑似手術群と同程度であった。このことから、腹膜炎によって誘導されるHMGB1やサイトカイン(IL-6)は、いずれもE-Ant-S-GSの投与により有意に抑制されることが判明した。
さらに図24には、各群(E-Ant-S-GS+CLP群、CLP群、疑似手術群)のラットの肺組織中のPAR1(Protease-Activated Receptor 1)の発現状況をWestern blottingを用いて調べた結果を併せて示す。PARは、プロテアーゼに対する受容体であり、血管内皮細胞や平滑筋組織を含む全身の種々の臓器組織に発現している。なかでもPAR1はトロンビンに対する受容体であり、敗血症などによって発現が増加し、炎症反応の進行に関与していることが知られている。図22の結果は、CLP処置(腹膜炎症)によって増加するPAR1の発現が本化合物(E-Ant-S-GS)の投与により低減することを示している。つまり、本化合物(E-Ant-S-GS)により、腹膜炎性敗血症によるPAR1の発現増加が抑制されて、その結果、炎症反応(血管拡張や好中球の集積湿潤の惹起)が抑えられて、障害から細胞や組織が保護されることができることが判明した。
【0162】
結論として、上記の実験例から、ETS−GSやE-Ant-S-GS等を始めとする本化合物は、サイトカインの分泌を抑制することで、サイトカインが介在する各種の疾患、特に炎症が関係する疾患並びにそれによって生じる臓器や組織の障害の発生を阻止する作用を有していると考えられる。つまり、ETS−GSを始めとする本化合物による処置で、敗血症性ショックや虚血再還流によって生じる各種臓器の障害(急性臓器障害、臓器不全)を保護し防止できると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で示される水溶性ビタミンE誘導体またはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする、抗サイトカイン介在疾患剤:
【化1】

〔式中、RおよびRは、同一または異なって、水素原子または炭素数1〜3の低級アルキル基を示し、RおよびRは、異なって、水素原子であるか、またはS結合した下記式(1)〜(5)のいずれかに示されるSH化合物若しくはそのエステル(但し、システアミンは除く。)を示し、Rは水酸基、下記式(6)〜(11)のいずれかに示されるN−置換アミノ酸、そのエステル(但し、アミノエタンスルホン酸、アミノエタンスルフィン酸は除く。)または下記式(12)に示されるアミンを示す〕
【化2】

【請求項2】
一般式(I)で示される水溶性ビタミンE誘導体が下記(a)〜(o)からなる群から選択されるいずれかである、請求項1に記載する抗サイトカイン介在疾患剤:
(a)γ-グルタミル-S-[1-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメ
チルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-カルボキシプロピル]システニイルグリシン、
(b)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメ
チルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-ス
ルフォエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(c)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメ
チルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-カ
ルボキシフェニル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(d)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメ
チルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル] -3-オキソ-3-[(3-カ
ルボキシプロピル)アミノ] プロピル]システニイルグリシン、
(e)S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)ア
ミノ] プロピル]システイン、
(f)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメ
チルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[[2-(1H-インドール-3-イル)エチル]アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(g)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメ
チルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(5-カルボキシペンチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(h)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメ
チルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(トランス-4-カルボキシシクロヘキシルメチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(i)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメ
チルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-ス
ルフォエチル)アミノ]プロピル]システイン、
(j)S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)
アミノ]プロピル]ペニシラミン、
(k)S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメチルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-スルフォエチル)
アミノ]プロピル]システナミン、
(l)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメ
チルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(エトキシカルボニルメチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(m)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメ
チルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-ス
ルフォエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン イソプロピルエステル、
(n)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメ
チルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-[(2-ス
ルフィノエチル)アミノ]プロピル]システニイルグリシン、
(o)γ-グルタミル-S-[2-[[[3,4-ジヒドロ-2,5,7,8-テトラメチル-2-(4,8,12-トリメ
チルトリデシル)-2H-1-ベンゾピラン-6-イル]オキシ]カルボニル]-3-オキソ-3-(2-カル
ボキシピロリジノ)プロピル]システニイルグリシン。
【請求項3】
サイトカイン介在疾患が、パジェット病;骨粗鬆症;多発性骨髄腫;急性および慢性骨髄性白血病;膵臓β細胞破壊;炎症性腸疾患;成人呼吸促進症候群(ARDS);乾癬;クローン病;潰瘍性大腸炎;アナフィラキシー;接触性皮膚炎;喘息;筋変性症;悪液質;ライター症候群;I型およびII型糖尿病;骨吸収症;移植片対宿主反応;虚血再還流障害;アテローム性動脈硬化;脳外傷;多発性硬化症;大脳マラリア;敗血症;敗血症性ショック;毒素ショック症候群;発熱、および感染による筋肉痛からなる群から選択されるいずれか少なくとも1つである請求項1または2に記載する 抗サイトカイン介在疾患剤。
【請求項4】
抗サイトカイン介在疾患剤が、敗血症性ショック、急性臓器障害または臓器不全の予防又は治療剤である請求項1または2に記載する抗サイトカイン介在疾患剤。
【請求項5】
抗サイトカイン介在疾患剤が、敗血症性ショックによる臓器障害または虚血再還流障害に対する臓器若しくは組織の保護剤である請求項1または2に記載する抗サイトカイン介在疾患剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2011−153139(P2011−153139A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208(P2011−208)
【出願日】平成23年1月4日(2011.1.4)
【出願人】(304028726)国立大学法人 大分大学 (181)
【出願人】(502384060)有限会社オガ リサーチ (14)
【Fターム(参考)】