説明

ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーの誘導体化により得られる、表面コーティングのための抗菌コポリマー

少なくともビニルアミン−ビニルアルコールコポリマー、エポキシアルカン、及びビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーと反応可能な反応性部分を含むフルオロカーボンの反応生成物を含む組成物。このような組成物のコーティングを含む物品、抗菌性の撥水性表面の作製方法及び抗菌性で撥水性の組成物の調製方法もまた含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、抗菌性及び撥水性を有するポリマー、このようなポリマーを含有するコーティング、並びにそれによってコーティングされた物品に関する。
【背景技術】
【0002】
感染しやすいホストが汚染表面と接触した際に、種々の微生物による表面汚染が深刻な感染症を引き起こし得る。医学的インプラント、医療機器(例えば、カテーテル)、及び健康管理設備の汚染表面から生じる感染症は、その治療に更に何十億ドルも必要とする。食物加工施設、食物配送センター、及び公共飲食施設並びに場合により家庭内での病原菌で汚染された表面と接触した食品の汚染によっても、深刻な病気及び費用がかさむ食品回収をもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
汚染表面による病気の予防は、単純に表面洗浄することにより実施する(diminished)ことができる。しかし、頻繁に触る表面の清浄度を維持することが困難である、高度に往来がある場所の場合、これは面倒である。市場には、クリーニング後に表面上に抗菌化合物の残渣を残す非常に多くのクリーニング製品がある。これら材料は、短時間では効果的であり得るが、それらは簡単にこすり落ちてしまい、多くの場合、見苦しい濁った外観となり、有り難くない油っぽい感触となる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
少なくともビニルアミン−ビニルアルコールコポリマー、エポキシアルカン、及びビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーと反応可能な反応性部分を含むフルオロカーボンの反応生成物を含む組成物が、本明細書にて開示される。
【0005】
基材、及び基材に隣接したコーティング(このコーティングは、少なくともビニルアミン−ビニルアルコールコポリマー、エポキシアルカン、及びビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーと反応可能な反応性部分を含むフルオロカーボンの反応生成物を包含する)を含む物品もまた本明細書で開示される。
【0006】
抗菌性表面、撥水性表面、又はその両方の作製方法もまた本明細書で開示されるが、この方法は、基材を提供すること、及びコーティング組成物を少なくとも1つの基材表面の一部に適用することであって、コーティング組成物は、極性有機溶媒、水、並びに、ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマー、エポキシアルカン、及びビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーと反応可能な反応性部分を含むフルオロカーボンの反応生成物を含む、適用することを含む。コーティング組成物を基材へと適用した際に、極性有機溶媒は、少なくとも部分的には基材表面を消毒するように機能する。
【0007】
高分子材料の調製方法もまた本明細書で開示され、この方法は、ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーの共溶媒溶液を形成すること(共溶媒は水及び極性有機溶媒を包含する)、エポキシアルカンをビニルアミン−ビニルアルコールコポリマー溶液へと添加すること、反応溶液を形成すること、フルオロカーボンを反応溶液へと添加すること(フルオロカーボンは、ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーと反応可能な反応性部分を包含する)、並びに更なる極性有機溶媒を反応溶液へと添加することを含み、反応溶液中での成分の溶解度を維持するために、更なる極性有機溶媒を添加する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書で使用する全ての科学用語及び専門用語は、特に指示がない限り、当該技術分野において一般的に使用される意味を有する。本明細書にて提供される定義は、本明細書でしばしば使用されるある種の用語の理解を促進しようとするものであり、本開示の範囲を限定するものではない。
【0009】
他に指示がない限り、本明細書及び特許請求の範囲で使用される特徴の大きさ、量、物理特性を表わす数字はすべて、どの場合においても用語「約」によって修飾されるものとして理解されるべきである。それ故に、そうでないことが示されない限り、前述の明細書及び添付の特許請求の範囲で示される数値パラメータは、当業者が本明細書で開示される教示内容を用いて、目標対象とする所望の特性に応じて、変化し得る近似値である。
【0010】
端点による数値範囲の詳述には、その範囲内に組み入れられる全ての数が包含され(例えば1〜5には、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、及び5が包含される)並びにその範囲内のあらゆる範囲が包含される。
【0011】
本明細書及び添付の「特許請求の範囲」で使用されるとき、単数形「a」、「an」及び「the」は、その内容が特に明確に指示しない限り、複数の指示対象を有する実施形態を包含する。本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるとき、用語「又は」は、その内容が特に明確に指示しない限り、一般的に「及び/又は」を包含する意味で用いられる。
【0012】
組成物、このような組成物を包含するコーティング、及び少なくとも部分的にこのような組成物でコーティングされた物品が、本明細書にて開示される。組成物及びこのような組成物を含有するコーティングは、抗菌性、撥水性、又はこれらの組み合わせなどの有利な性質を有する。
【0013】
「抗菌性」又は用語「抗菌」とは、微生物を殺すか又はそれらの成長を阻害する材料を意味する。各種方法及び試験を実施して、材料が抗菌性を有するかどうかを決定することができる。抗菌性としては、抗菌、抗カビ及び抗ウイルス性が挙げられる。代表的試験について議論し、以下の実施例にて利用する。
【0014】
「撥水性」又は用語「撥水剤」とは、少なくとも幾分疎水性である材料を意味する。表面を撥水性にする又はそれに撥水性を与えるコーティングは、コーティングが存在しないもの(it would be without the coating present)よりも、表面をより疎水性にする。表面の疎水性を測定し、したがって、それが撥水性を有するか否かを決定するための1方法は、接触角である。接触角を測定するために、種々の機械及び装置を利用することができる。代表的装置は、以下の実施例にて利用する。
【0015】
本明細書にて開示する組成物は、少なくとも、ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマー、エポキシアルカン、及びフルオロカーボンの反応生成物を含むことができる。
【0016】
コポリマーという用語が本明細書で使用される場合、2種又はそれ以上のモノマーから形成されるポリマーを意味する。コポリマーは、交互コポリマー、周期コポリマー、ランダムコポリマー又はブロックコポリマーであり得る。交互コポリマーは、規則的な交互単位(例えば、A−B−A−)を備えたコポリマーである。周期コポリマーは、繰り返し配列に配置された単位(例えば、(A−B−A−B−B−A−A−A))を備えたコポリマーである。ランダムコポリマーは、モノマー単位のランダム配列を有するコポリマーである。ブロックコポリマーは、共有結合により連結した2つ又はそれ以上のホモポリマーサブユニットを含む。ホモポリマーの結合には、接合ブロックとして知られている中間体、非繰り返しサブユニットを必要とし得る。2つ又は3つの異なるブロックを備えたブロックコポリマーは、それぞれ二元ブロックコポリマー及び三元ブロックコポリマーと呼ばれる。
【0017】
本明細書で利用されるビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーは、交互コポリマー、周期コポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、又はこれらの組み合わせであり得る。本明細書で利用されるビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーは、任意の既知の方法又は出発材料を用いて形成することができる。ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーの代表的形成方法は、米国特許第6,559,227号(その開示は、本明細書に参考として組み込まれる)に見出すことができる。ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーを形成するためのこの代表的方法は、N−ビニルアミド及び酢酸ビニル単位を含む前駆体コポリマーを利用する。N−ビニルアミド単位は、N−ビニルホルムアミドモノマー又はN−ビニルアセトアミドモノマーによって提供することができる。前駆体コポリマーを加水分解して、ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーを形成する。
【0018】
本明細書で使用可能なビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーは、種々の異なる量のビニルアミン及びビニルアルコール単位を有することができる。ビニルアミン単位は、エポキシアルカン及びフルオロカーボン成分が結合することができる反応性基を提供するように機能すると考えられるが、確証はない。ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーは、ポリビニルアルコールに類似した溶解度特性を有し、即ち、それらは水又は水/極性溶媒混合物に可溶性である。ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマー中のビニルアミン単位の量が増加するに伴い、コポリマーは低pHにて水により速やかに溶解するようになる。反応生成物が水に可溶しないことが望まれるような用途の場合、ビニルアルコール単位の相対量は増加する可能性があり、これにより反応生成物の水中での溶解度が減少する傾向がある。
【0019】
一実施形態では、ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーは、ビニルアミン単位対ビニルアルコール単位で、約1:99〜約50:50のモル比を有することができる。一実施形態では、ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーは、ビニルアミン単位対ビニルアルコール単位で、約5:95〜約50:50のモル比を有する。一実施形態では、DIAFIX C−631(CAS登録番号167747−79−7)の商品名で三菱化学株式会社(Mitsubishi Chemical Corporation)から市販されているビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーを利用することができる。DIAFIX C−631は、約13モル%(モル%)のビニルアミン単位及び約87モル%のビニルアルコール単位を有する。その他のビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーもまた利用できた。
【0020】
ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーは所望により、その他のモノマー単位(ビニルアミン及びビニルアルコール以外)を含むことができる。一般に、このような任意のモノマー単位が含まれる場合、量は全モノマー単位を基準として通常30モル%以下である。
【0021】
上述したビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーは、エポキシアルカン及びフルオロカーボンと反応する。ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマー、エポキシアルカン及びフルオロカーボンは、本明細書においては、反応成分又は試薬と称することができる。一般に、エポキシアルカン及びフルオロカーボンは、「変性ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマー」を形成するビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーのビニルアミン単位の少なくともいくつかに共有結合している。
【0022】
エポキシアルカン付加化合物は、最終生成物へ抗菌性を付与することができると考えられるが、確証はない。1種類又は2種類以上(例えば、2種又はそれ以上の混合物)のエポキシアルカンを本明細書で利用することができる。本明細書に記載されたエポキシアルカンは、エポキシド官能基(環原子を3つだけ備えた環状エーテル)及びアルキル官能基(直鎖又は分枝状のいずれか)を含む化合物群である。エポキシアルカンが、ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーと反応する場合、エポキシアルカンのエポキシド基が開環して、エポキシアルカンがビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーのアミン基と反応して、エポキシアルカンがビニルアミン−ビニルアルコールコポリマー主鎖と結合する。
【0023】
エポキシアルカン中の炭素数に関しては、その数は、エポキシド官能基を作りあげている炭素を含む。例えば、エポキシオクタン(C16O;下式I)はCエポキシアルカンであると考えることができる。本明細書で利用可能なエポキシアルカンとしては、少なくとも4個の炭素原子、少なくとも6個の炭素原子、少なくとも8個の炭素原子、又は少なくとも10個の炭素原子を有するようなものを挙げることができる。エポキシアルカンとしては、28個以下の炭素原子、24個以下の炭素原子、20個以下の炭素原子、18個以下の炭素原子、又は12個以下の炭素原子を有するようなものを挙げることができる。例えば、エポキシアルカンは、C〜C28エポキシアルカンであり得る。一実施形態において、本明細書で利用可能なエポキシアルカンとしては、C〜C18エポキシアルカンを挙げることができる。一実施形態において、本明細書で利用可能なエポキシアルカンとしては、C〜C18エポキシアルカンを挙げることができる。一実施形態において、本明細書で利用可能なエポキシアルカンとしては、C〜C12エポキシアルカンを挙げることができる。利用可能な特定の代表的エポキシアルカン(expoxyalkanes)としては、エポキシオクタン(Cエポキシアルカン)、エポキシドデカン(C12エポキシアルカン)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
【化1】

【0025】
上述したように、ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーは、エポキシアルカン及びフルオロカーボンと反応する。1種類又は2種類以上(例えば、2種類以上からなる混合物)のフルオロカーボンを利用することができる。フルオロカーボンは、最終生成物へ撥水性を付与すると考えられるが、確証はない。本明細書で利用されるフルオロカーボンとは、フッ素原子により置き換えられた、炭素原子に結合した少なくとも1個の水素原子を有する炭素含有化合物を意味する。一実施形態において、フルオロカーボンはペルフルオロカーボンであり、これは、アルカン基の一部である炭素原子に直接結合した全ての水素原子がフッ素原子により置き換えられた化合物を意味する。
【0026】
フルオロカーボン化合物が、ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーと反応する場合、フルオロカーボンの反応性部分は、フルオロカーボン化合物をビニルアミン−ビニルアルコールコポリマー主鎖に結合させることができる。本明細書で利用可能な代表的フルオロカーボンとしては、エステル、カルボン酸、又はエポキシを挙げることができる。エステルは、ビニルアミン単位を介したアミド結合によって、フルオロカーボンからビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーへの連結を提供する。カルボン酸もまた、ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーのビニルアミン単位へ、アミド結合を提供する。エポキシは、β−ヒドロキシアルキルフルオロカーボン結合をコポリマーへ提供し得る。一実施形態では、エステルを含むフルオロカーボンが利用される。カルボン酸又はエポキシが利用される実施形態では、より長い反応時間、異なる反応手順、又はこれらの組み合わせが有利又は必要であり得る。当業者は、このような変更を理解しているであろう。
【0027】
本明細書で利用可能なフルオロカーボン化合物は、化合物中の官能基(例えば、エステル、カルボン酸又はエポキシ)のフッ素化された側に存在する炭素数によって記述されることができる。例えば、メチルペルフルオロオクタノエート(C15;下式II)はCフルオロカーボンと考えることができ、これに対して、ペルフルオロオクタン酸メチル(CHF15;下式III)もまた、Cフルオロカーボンと考えることができる。本明細書で利用可能なフルオロカーボンとしては、C〜C18フルオロカーボンを挙げることができる。一実施形態において、本明細書で利用可能なフルオロカーボンとしては、C〜Cフルオロカーボンを挙げることができる。利用可能な特定の代表的フルオロカーボンとしては、例えば、メチルペルフルオロオクタノエート及びヘプタフルオロブチレートが挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
【化2】

【0029】
ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマー上の反応性部位の量及び結合する反応成分の量との関係で、種々の成分の量を考えることができる。エポキシアルカン及びフルオロカーボン化合物は共に一緒になって、ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーのビニルアミン単位と反応すると考えることができる。一般に、エポキシアルカン及び前記フルオロカーボンの組み合わせのモル量は、ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマー中のビニルアミン単位のモル量以下である。エポキシアルカン及びフルオロカーボンの組み合わせの過剰量により、コポリマーに結合しないであろう誘導体を溶液中に生じさせた。ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーが約13モル%のビニルアミン単位を有する一実施形態では、エポキシアルカン及びフルオロカーボンの組み合わせは一般に、約13モル%以下である。一実施形態において、エポキシアルカン及びフルオロカーボンの量は、未反応のエポキシド又はフルオロカーボン部分が残らないように、しかし、未反応のビニルアミン単位が残り得るように選択される。
【0030】
ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーと反応させるエポキシアルカン及びフルオロカーボンの量は、少なくともある程度は最終生成物に所望される性質に基づいて選択することができる。一般に、エポキシアルカン及びフルオロカーボンの量は、エポキシアルカンにより提供された抗菌性と、フルオロカーボンにより提供された撥水性との間でトレードオフとなる。エポキシアルカン対フルオロカーボンのモル比は、少なくとも1:1、少なくとも1.5:1、又は少なくとも2:1であり得る。モル比は、4:1以下、3.5:1以下、又は3:1以下であり得る。一実施形態では、エポキシアルカン対フルオロカーボンのモル比は約4:1〜約1:1である。一実施形態では、エポキシアルカン対フルオロカーボンのモル比は約3:1〜約1:1である。
【0031】
撥水性及び抗菌性の両方であるポリマーの組み合わせは驚くべきものである。疎水性表面が抗菌性となる能力は、それ自体驚くべきことである。非浸出表面が抗菌性であるためには、当業者は通常、抗菌性表面の影響を受けるために、微生物を抗菌性表面と接触させなければならないと想定している。しかし、微生物を含有する水が玉になって盛り上がり易くなり、それによって水層の厚みが増加する疎水性表面では、微生物が抗菌性表面と接触する可能性は低くなる。更に、一旦変性すると、多くの抗菌性ポリマー主鎖がその抗菌性を失う。例えば、四級アンモニウムを変性させた抗菌性ポリマーは、抗菌活性がほとんど無いか又は全く無い。これは、抗菌性部分の隔離をもたらす、ポリマー構造又は化学的相互作用の変化によるものと考えられていた。その考えによれば、驚くべきことに、本明細書にて行われるようなポリマー主鎖の修飾も更に、抗菌性を備えたポリマーを付与する。
【0032】
ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマー、エポキシアルカン及びフルオロカーボン(本明細書では、「反応成分」と呼ばれる)の反応は、当業者に知られているようにして実施することができる。一実施形態では、3種(又はそれ以上)の反応成分を同時に添加することができる。一実施形態では、1種以上の反応成分を反応の進行に伴って段階的に添加することができる。反応成分の相対的反応性、溶解度に関する懸念、本明細書で議論されていないその他の懸念、又はいくつかのこれらの組み合わせゆえに、段階的添加を実施することができる。一実施形態において、ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーをエポキシアルカンと最初に混ぜ合わせて、ビニルアミンエポキシアルカン−ビニルアルコールコポリマー溶液を形成することができ、次に、これをフルオロカーボンと混ぜ合わせて、反応を完結させることができる。
【0033】
一実施形態において、ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーとエポキシアルカンとの反応は、まずコポリマーの溶解度を変化させる。これにより、反応溶液中の極性有機溶媒の量を増加させることを容易にすることができ、又は場合によってはそれを可能にする。フルオロカーボン(多くの場合、有機溶媒中に溶解している)添加時に、極性有機溶媒の相対量が多い程、混合物の相分離を回避する又は最小化するのに有利であり得る。
【0034】
ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマー、エポキシアルカン及びフルオロカーボンの反応は、溶媒中にて実施することができる。単一溶媒、又は2種以上の溶媒を利用することができる。一実施形態において、2種以上の溶媒が利用される。一実施形態において、水及び少なくとも1種の極性有機溶媒が利用される。一実施形態では、水及びアルコールが利用される。利用可能なその他の極性有機溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)及びジメチルスルホキシド(DMSO)が挙げられるが、これらに限定されない。更なる溶媒もまた含まれることができ、例えば、第3溶媒は、1種以上の反応成分を提供する組成物内に含まれることができる。例えば、フルオロカーボンのための溶媒として、ジオキソラン又は類似溶媒を利用することができる。
【0035】
1種以上の反応成分の段階的添加を利用する一実施形態では、複数溶媒系を有利に利用し得る(例えば、水及びアルコールなどの極性有機溶媒)。このような状況では、反応が進行している間、1種以上の反応成分、又はいくつかのこれらの組み合わせを基準にして、2種(又はそれ以上)の溶媒の相対量は変えることができる。例えば、比較的高い含水量を有する溶媒混合液との反応を開始し、漸進的に極性有機溶媒を添加して、最終溶媒が比較的高い極性有機溶媒含有量を有するようにすることが有益であり得る。初期の反応成分が水に比較的可溶性であるが、後で添加した反応成分、最終反応生成物又はその両方が水への可溶性が小さく、極性有機溶媒により可溶性である場合、これは有益であり得る。このようなスキームのいくつかの例では、最初の溶媒混合液は、60〜80重量%の水及び40〜20重量%の極性有機溶媒であり、これは段階的に変性されて、25〜45重量%の水及び75〜55重量%の極性有機溶媒である溶媒混合物となる。このようなスキームのその他の例では、最初の溶媒混合液は、65〜75重量%の水及び35〜45重量%の極性有機溶媒であり、これは段階的に変性されて、30〜40重量%の水及び70〜60重量%の極性有機溶媒である溶媒混合物となる。このようなスキームの特定の例は、約70重量%の水と30重量%のエタノールからなる最初の溶媒混合液によって明示されるが、これは段階的に変性されて、約35重量%の水と65重量%のエタノールからなる溶媒混合液となる。
【0036】
その他の任意成分もまた反応成分へと添加することができる。このような任意成分を添加して、変性ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマー、変性ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーを含有する溶液の種々の変性若しくは変更又は変性ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーを含有するコーティングの性質に影響を及ぼすことができる。代表的成分としては、変性ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーのある種の性質に影響を与え得る添加剤(例えば、架橋剤など)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
変性ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーを含有する溶液(又はコーティング)の種々の変性又は変更に影響を及ぼすために、任意成分もまた添加することができる。変更される代表的性質としては、例えば、溶液又はコーティングの色、溶液又はコーティングの不透明度、ポリマー及びコーティングの溶解度、ポリマー溶液による基材の濡れ及びコーティングの各種基材への接着性が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、酸を組成物へ添加することによって、変性ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーの相分離を最少化することができ、それにより組成物から形成されるコーティングのかすみを低減することができる。任意のタイプの酸を利用することができる。代表的酸類としては、例えば、酢酸及び炭酸(組成物中へCOをバブリングさせることにより形成することができる)が挙げられる。
【0038】
組成物の又はそのコーティングの有効性を変更するために、任意成分もまた添加することができる。例えば、組成物又はそのコーティングの抗菌性を変更することができた。抗菌性を得る又は変更するために含ませることができた代表的成分としては、金属イオン及び四級アンモニウムカチオンが挙げられる。金属イオン(例えば、銀イオン(Ag+))を添加して、抗菌活性を提供する、異なる及び追加の方法を提供することができた。金属イオン又は四級アンモニウムカチオンの添加により、浸出コーティング(leaching coating)として機能するコーティングをも有利に作製することができたが、これは金属イオン又は四級アンモニウムカチオンが時間の経過とともにコーティングから浸出できたためである。
【0039】
反応の進行に伴って少なくとも1種の溶媒を段階的添加することを含む、抗菌性ポリマー材料の調製方法もまた本明細書で開示される。少なくとも1種の溶媒を段階的に添加することは、反応の進行に伴い、反応成分、変性ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマー又はこれらの組み合わせの溶解度を維持するように機能することができる。一実施形態において、このような方法は、ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーの共溶媒溶液を形成すること(共溶媒は、少なくとも水及び極性有機溶媒を含む)、エポキシアルカンをビニルアミン−ビニルアルコールコポリマー溶液へと添加すること、反応溶液を形成すること、フルオロカーボンを反応溶液へと添加すること、並びに更なる極性有機溶媒を反応溶液へと添加することを含むことができ、ここで、反応溶液中での成分、変性ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマー又はこれらの組み合わせの溶解度を維持するために、更なる極性有機溶媒が添加される。
【0040】
一実施形態では、エポキシアルカンを極性有機溶媒中に添加でき、これは共溶媒中の極性有機溶媒と同一であり得るがそうである必要はない。一実施形態では、フルオロカーボンを極性有機溶媒中に添加でき、これは共溶媒中の極性有機溶媒と同一であり得るがそうである必要はない。一実施形態において、エポキシアルカンが添加される場合、フルオロカーボンが添加される場合、又はその両方の場合において、極性有機溶媒を更に添加することができる。一実施形態では、異なる時間で、エポキシアルカンが添加される場合、フルオロカーボンが添加される場合、又はこれらの組み合わせの場合に、極性有機溶媒を更に添加することができる。
【0041】
エタノール(又は別のアルコール)及び水の混合物である最終溶媒混合液は、その上にそれを適用する表面を消毒するという利点を提供できるコーティング組成物中にそれを含ませることができるがゆえに、追加の利益を提供することができる。例えば、溶媒混合液は、55〜75重量%のエタノール及び45〜25重量%の水又は60〜70重量%のエタノール及び40〜30重量%の水を含むことができる。より具体的には、約65重量%のエタノール及び35重量%の水の溶媒混合液は、表面に(反応生成物と共に又はそれ無しで)適用した際に消毒剤として機能することができる。
【0042】
コーティングを形成するために、本明細書にて開示する組成物を利用することができる。組成物は、溶液(その中で反応成分の反応を行った)から直接コーティングしたり、更に処理したりすることができる。一実施形態において、組成物は、反応溶液(任意の溶媒又は溶媒類、及び追加の成分を含む)を任意の更なる処理をすることなく適用することによってコーティングする。組成物は、抗菌性及び撥水性であることが所望される任意の基材又は任意の基材の一部の上にコーティングすることができる。
【0043】
本明細書にて開示された組成物でコーティングすることができる基材は、実質上無限である。代表的基材としては、ガラス、セラミックス、金属、金属酸化物、天然及び人工石、コンクリートを含むがこれらに限定されない無機材料、並びにポリマー材料、織布及び不織布、木材、皮膚、並びに食品表面を含むがこれらの限定されない有機材料が挙げられる。
【0044】
基材の任意の部分(基材の1つ以上の表面の一部、基材の全ての表面の一部、又は基材の全ての表面の全ての部分)は、本明細書にて開示する組成物でコーティングすることができる。一般に、本明細書にて開示する組成物を、基材の少なくとも一表面の少なくとも一部に一旦適用したら、それは、基材に隣接した(又は直接隣接した)コーティング又は層を形成する。コーティングは、任意の有用な厚みを持つことができる。一実施形態において、コーティングは、約0.005〜約1ミル(約0.13〜約25.4マイクロメートル)の厚みを有することができる。一実施形態において、より少ない材料を利用するので、より薄いコーティングは有利であり得る。
【0045】
反応生成物のコーティングは更に、架橋され得る。架橋材料は、非架橋コーティングよりも大きな耐久性を提供し得るが、それにより表面をクリーニングすることがより難しくなり得る。既知の架橋方法を利用することができる。例えば、コーティングは物理的に架橋又は化学的に架橋され得る。架橋は、例えば、熱、圧力、又は放射線により開始され得る。本明細書で利用される当業者により一般に利用される多数の化学的架橋剤としては、例えば、ビス(又は多官能性)エポキシド、ビス(又は多官能性)アルデヒド、ビス(又は多官能性)イソシアネート、及びビス(又は多官能性)酸無水物が挙げられるが、これらに限定されない。特定の架橋剤の選択は、所望の架橋レベル、架橋させるポリマー、溶液の可使時間に関する懸念、その他因子、又はこれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない多数の因子に依存し得る。
【0046】
本明細書にて開示する組成物から形成されるコーティングは、抗菌性、撥水性、又はそれらの組み合わせを有することができる。
【0047】
一実施形態では、本明細書にて開示する組成物から形成されるコーティングは、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、又はこれらの組み合わせを少なくとも90%低減させることができる。一実施形態では、本明細書にて開示する組成物から形成されるコーティングは、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、又はこれらの組み合わせを少なくとも95%低減させることができる。一実施形態では、本明細書にて開示する組成物から形成されるコーティングは、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、又はこれらの組み合わせを少なくとも99%低減させることができる。一実施形態では、本明細書にて開示する組成物から形成されるコーティングは、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、又はこれらの組み合わせを少なくとも99.9%低減させることができる。一実施形態では、本明細書にて開示する組成物から形成されるコーティングは、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、又はこれらの組み合わせを少なくとも99.99%低減させることができる。一実施形態では、このような低減は黄色ブドウ球菌及び緑膿菌の両方についてのものである。
【0048】
一実施形態では、本明細書にて開示する組成物から形成されるコーティングは、親水性表面をより疎水性にする。例えば、本明細書にて開示する組成物から形成されるコーティングは、ガラス表面をより疎水性にする。一実施形態では、本明細書にて開示する組成物から形成されるコーティングは、ガラス表面を、少なくとも約50%より疎水性に、少なくとも約60%より疎水性に、又は少なくとも約70%より疎水性にすることができる。一実施形態では、本明細書にて開示する組成物から形成されるコーティングは、ポリエチレン(PET)表面をより疎水性にする。一実施形態では、本明細書にて開示する組成物から形成されるコーティングは、ポリエチレン(PET)表面を少なくとも約5%より疎水性にする。一実施形態では、本明細書にて開示する組成物から形成されるコーティングは、ポリエチレン(PET)表面を少なくとも約10%より疎水性にする。
【0049】
一実施形態では、本明細書にて開示する組成物から形成されるコーティングはまた、表面を防汚性にする。本発明で使用する場合、用語「汚れ(fouling)」とは、微生物及び小さな有機体の基材上での付着及び成長を意味する。したがって、用語「防汚性」とは、汚れを予防、低減及び/又は除去する効果を意味する。表面に防汚性を与えるコーティングは、例えば、暖房、換気及び空調(HVAC)システム、水分配システムの表面、製造装置の表面(例えば、製紙などの著しい湿気にさらされるようなもの)、家庭内の表面(household surfaces)(例えば、タイルグラウト、ドレイン)並びに海洋表面(marine surface)を含むがこれらに限定されない多数の用途にとって重要であり得る。
【0050】
抗菌性表面、撥水性表面、又はこれらの組み合わせの作製方法もまた、本明細書で開示されている。一般に、方法は、基材を提供すること、並びに少なくとも、ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマー、エポキシアルカン、及びフルオロカーボンを含むコーティングを適用することを包含する。コーティングは、一般に利用されるコーティング方法にて適用することができる。選択される特定のコーティング方法は、コーティングされる特定の基材に少なくともある程度は依存し得る。
【0051】
代表的コーティング方法としては、ナイフコーティング、浸漬(ディップ)コーティング、ギャップコーティング、カーテンコーティング、回転スクリーンコーティング、反転ロールコーティング、グラビアコーティング、測定棒(マイヤーバー)コーティング、スロットダイ(押出成形)コーティング、及びスプレーコーティングが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態において、選択される特定のコーティング方法は、コーティングされる特定の基材の特性に少なくともある程度は依存し得る。選択されるコーティング方法に影響を与え得る特性としては、表面の規則性又は不規則性(例えば、不規則表面を有する基材は、有利には、浸漬コーティングを使用したコーティングであってよく、これに対して非常に規則的な表面を有する基材は、有利には、別の方法でコーティングしてよい)、基材を構成する材料、基材のサイズ及び本明細書で議論されていない基材のその他のフィーチャーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0052】
一実施形態において、コーティング組成物は、少なくとも1つの基材表面の少なくとも一部へ適用することができ、このようなコーティング組成物は、極性有機溶媒、水、並びにビニルアミン−ビニルアルコールコポリマー、エポキシアルカン及びフルオロカーボンの反応生成物を含むことができる。上述したように、このような多成分溶媒系は、置換コポリマーの溶解度に関して、利点を提供することができる。コーティング組成物は、可変%の固形分を有することができる。コーティング組成物中の固形分%が、コーティング組成物の粘度及び所望のコーティング方法を使用したコーティング組成物のコーティング能力に影響を与え得る。低分子量を有する反応生成物を含むコーティング組成物では、一般に利用されるコーティング方法を使用して、固形分%の大きいものをコーティングすることができる。一実施形態において、コーティング組成物は、約50重量%以下の固形分%を有することができる。一実施形態において、コーティング組成物は、約40重量%以下、30重量%以下、25重量%以下、20重量%以下、15重量%以下、又は10重量%以下の固形分%を有することができる。固形分は典型的には、少なくとも0.01重量%、少なくとも0.1重量%、少なくとも0.5重量%、又は少なくとも1重量%である。一実施形態において、コーティング組成物は、約0.01%〜約50%の固形分%を有することができる。一実施形態において、コーティング組成物は、約0.1重量%〜約20重量%又は約0.1重量%〜約10重量%の固形分%を有することができる。
【0053】
アルコール及び水、例えば、エタノール及び水を含むコーティング組成物では、コーティング組成物の適用は、それを適用する基材表面を少なくとも部分的に消毒するように機能することができる。エタノール及び水の混合物は、水及びその他の極性有機溶媒の混合物と同様に(更なる成分を含有するか否かにかかわりなく)、それ自体で抗菌性を有することができる。したがって、エタノール及び水を含有するコーティング組成物の適用は、基材表面の少なくとも部分の少なくとも一部を直ちに消毒するように機能することができる。本性質は、置換コポリマーの現行の抗菌性と組み合わせて、有利な抗菌性を基材へ付与することができる。
【0054】
コーティングは、多くの場合透明であり、基材の外観を変化することなく基材へと適用することができる。即ち、各種基材の表面は、基材の外観を変更することなく、抗菌性、撥水性、又はこれらの組み合わせにすることができる。
【0055】
本明細書にて開示するポリマー抗菌性コーティングは、表面上でのより長い耐久性であって、したがって、表面に接触するもの(例えば、手、クリーニング材料など)への転移の可能性がより少なくなること、製造するための単純さ及び安さであって、したがって、それらを多数の接触表面上で利用するのに費用効果の高いものであること、並びに、抗菌性及び撥水性を提供するという組み合わせを含むがこれらに限定されない多数の利点を提供することができる。
【実施例】
【0056】
材料及び方法
特に言及されない限り、全ての化学物質は、アルドリッチ(Aldrich)から入手され、更に精製することなく使用された。
【0057】
DIAFIX C631/エポキシオクタン(3:1)ベースコポリマー溶液は、20グラムのエタノールを60グラムの10重量% DIAFIX C−631(三菱化学株式会社(Mitsubishi Chemical Corporation)(日本、東京))水溶液中に添加し、混合物を素早く攪拌させることによって調製した。混合物を穏やかな還流まで撹拌しながら加熱し、次に別の20グラムのエタノールを1.0グラムのエポキシオクタンと共に15分間にわたって添加した。本混合物を還流状態にて1時間攪拌し、次に別の20グラムのエタノールを1.0グラムのエポキシオクタンと共に30分間かけて素早く撹拌させながら滴下して加えた。混合物を穏やかな還流状態にて48時間攪拌し、次に更に38グラムのエタノールを添加した。ベースコポリマー溶液の溶媒混合液は、約65重量%エタノール及び35重量%の水であり、溶液は5重量%の固形分(DIAFIX/エポキシオクタン)を含んでいた。
【0058】
実施例1は、メチルペルフルオロオクタノエートの5重量%ジオキソラン溶液0.9グラムと共に、フラスコ中にDIAFIX/エポキシオクタンの5% 65:35エタノール−水溶液12グラムを入れることによって調製した。エステルは、DIAFIX中の未反応アミン基と速やかに反応する(使用したエポキシオクタンの量を基準として、最初のアミン基の約12%が利用可能である)。添加したフルオロカーボンの量は、それが残存未反応アミンの約75%と反応するように選択した。
【0059】
実施例2は、メチルヘプタフルオロ−ブチレートの5%ジオキソラン溶液0.45グラムと共に、フラスコ中にDIAFIX/エポキシオクタンの5% 65:35エタノール12グラムを入れることによって調製した。エステルは、ポリマー中の未反応アミン基と速やかに反応する(使用したエポキシオクタンの量を基準として、最初のアミン基の約12%が利用可能である)。添加したフルオロカーボンの量は、残存未反応アミンの約75%と反応する。
【0060】
コーティングは幾分濁っていたが、酢酸又はカルボン酸などの酸を添加してpHを下げることによって透明化することができた。乾燥プロセス中に除去されやすいために弱酸が所望された。強酸は、乾燥中に除去されない場合があり、前ポリマーを塩形態で残し、コーティングの水溶性を変化させることがある。二塩基又はより多塩基の酸は、溶液の個化を引き起こす可能性があるため避けた。
【0061】
抗菌性
実施例1及び2は、4番ロッドを使用して、マイヤーバーによりポリエチレン(PET)基材上へとコーティングした。コーティングは、1時間110℃にて乾燥させた。JIS Z2801(日本工業規格−抗微生物活性試験)を応用した以下の試験プロトコルを用いて、それらの抗菌性を評価した。
【0062】
約4cm×4cmの正方形の試験材料を無菌ペトリ皿に配置した。複製試験試料に、水性懸濁液中の検証微生物(黄色ブドウ球菌ATCC #6538又は緑膿菌ATCC#9027)を一晩培養して0.2% tryptic soy broth(TSB)(Becton,Dickinson and Co.(Sparks,MD)から入手)に1:5000希釈したものを、それぞれ0.4mL播種した。次に、2cm×2cmの正方形のポリエステルフィルムを接種材料の上に置いて、しっかりと均一に表面を覆うようにした。同様に播種した対照試料(ポリエステルフィルム)を直ちに回収し、これを以下に記載のように摂種レベル1(t=0)として設定した。
【0063】
次いで試験試料を、37℃にて80%以上の相対湿度で、18〜24時間にわたって培養した。培養後、各試料をそのペトリ皿から取り出し、10mLの滅菌済みのDifco Dey Engley中和培養液(NB)(Becton,Dickinson and Co.から入手)に移した。中和培養液を使用して、抗菌剤を中和して、それらが残存する、生きているバクテリアの成長を阻害しないようにした。NBと試験材料とを含有する試験管を60秒間にわたって超音波浴に配置し、次に、ボルテックスミキサーで60秒間にわたって混合して細菌を材料からNB中に放出させた。
【0064】
生存可能なバクテリアを、リン酸塩‐緩衝生理食塩水(PBS)でNBを希釈することにより数え上げてから、プレーティングし、培養及び計数した。PBSには、KHPO4(0.24g)、NaHPO(1.44g)、NaCl(8g)及びKCl(0.2g)(それぞれPBS1Lあたり)を含有させ、かつPBSのpHは7.2に調整してあった。溶液をTSB寒天上に蒔いた。プレートを37℃にて24〜48時間にわたって培養し、次にコロニー形成単位(CFU)を計数した。この試験方法の検出限界は、10CFU/試料であるとみなされた。抗菌活性についてのJIS Z2801試験の結果は、表1、2及び3にまとめられている。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
試験の検出限界
【0068】
【表3】

【0069】
試験の検出限界
抗菌性試験の結果(表1、2、及び3)は、PETフィルム上にコーティングされた両ポリマーは、log単位で4つ超、又は99.99%超、黄色ブドウ球菌を効果的に減少させ、かつlog単位で5つ超、又は99.999%超、緑膿菌を効果的に減少させたことを示す。
【0070】
抗真菌(Anifungal)性
ドロッパーを使用して、実施例1及び実施例2のコーティングをワットマン4番濾紙(カタログ番号1004−055)の試験片に適用した。更に、実施例1及び2をそれぞれ、マイヤーロッド・4番を使用して、100%ビニルシャワーカーテン(メインステイズ(mainSTAYS)(商標)ホーム、ウォルマート・ストアーズ・インク(Wal-Mart Stores, Inc.))のセクション上にコーティングした。濾紙及びビニルシャワーカーテンの対照試料は、エタノールコーティングのみを使用して調製した。適用後、全てのコーティングは100℃に設定した乾燥オーブン内で3時間硬化させた。
【0071】
ASTM G21−96に適合する以下の試験プロトコルを使用して、上記のようにコーティングした、実施例1及び2の抗真菌性を評価した。約1平方インチ(6.45cm)の試料を、固化された栄養塩類寒天上にコーティング面を上にして置いた。栄養塩類寒天の組成物(1リットル当たり)は、以下の通りであった。0.7gの二水素オルトリン酸カリウム(KHPO)、0.7gの一水素オルトリン酸カリウム(KHPO)、0.7gの硫酸マグネシウム(MgSO.7HO)、1.0gの硝酸アンモニウム(NHNO)、5mgの塩化ナトリウム(NaCl)、2mgの硫酸第一鉄(FeSO.7H0)、2mgの硫酸亜鉛(ZnSO.7H0)、1mgの硫酸マンガン(MnSO.HO)、及び15gのDifco粒状寒天。栄養塩類寒天媒体は、一覧表に記載されている成分を1Lの超純水と混ぜ合わせ、20分121℃にてオートクレービングすることにより調製した。
【0072】
約10スポア/mL(水中)の混合スポア接種材料を調製した。接種材料に含まれている真菌類は、次の通りである。アスペルギルス・ニガー(ATCC# 16404)、ペニシリウム・フニクロスム(ATCC# 11797)、ケトミウム・グロボーサム(ATCC# 6205)、トリコデルマ・ビレンス(ATCC# 9645)、黒酵母(ATCC# 15233)、クロカワカビ(ATCC# 76226)。このスポア懸濁液を標準スプレーボトルに入れ、表面全体がぬれるまで接種材料を噴霧することによって試料に播種した。
【0073】
播種した試料を、28℃にて28日間、85%以上の相対湿度にて培養した。次に、以下の尺度に従って試料を評価した。試料上で成長がない場合は「0」、10%未満の領域でわずかに成長がある場合は「1」、基材の10〜30%の領域で軽度の成長がある場合は「2」、基材の30〜60%の領域で中程度から緩やかな成長がある場合は「3」、60〜100%の領域で大きな成長がある場合は「4」。これらの定性的評価は、カビの生育を助ける材料の性質及び対照に対してその成長を阻止し又は減少させるための処理能力を示す。
【0074】
【表4】

【0075】
対照と比較して濾紙基材上での成長は明確に阻害された。ビニルシャワーカーテン対照は、極小のカビの生育のみを示したが、実施例1又は2のいずれかによりコーティングされた場合、成長は見られなかった。
【0076】
撥水性
超純水を使用し、VCAオプティマ・ゴニオメーター(ASTプロダクツ、マサチューセッツ州ビレリカ(Billerica))で、実施例1及び2の疎水性を試験した。両ポリマーのコーティングは、テフロン(登録商標)シート上、ポリエチレンテレフタレート(PET)シート上、顕微鏡用ガラススライド(1N NaOH内で洗浄した)上及びコットンワイプ(テックス−ワイプTX 309)上に作製した。接触角測定は、基材上のみで実施し、かつコーティング基材上の異なる2カ所で、実施例1及び2の2種類の異なったコーティング配合物上について実施した。データは表5に要約される。
【0077】
【表5】

【0078】
これらのデータは、実施例1又は実施例2のいずれかがPET上にコーティングされた場合、接触角がそれぞれ19%及び8.6%増加し、コーティングPETがわずかにより疎水性であることを示したことを表している。この違いは、ガラス上ではるかに明白であり、実施例1及び2についてそれぞれ接触角が81.7%及び77.7%増加した。これは、これらコーティングが親水性基材に撥水性を付与することを示す。テフロン(登録商標)についても更に試験を行ったが、この場合、コーティング基材は、実施例1の基材で7.7%、実施例2の基材で27.2%だけわずかに疎水性がより小さくなった。これは、テフロン(登録商標)などの非常に疎水性が高い材料が、実施例1又は2のいずれかをコーティングすることによってわずかにより親水性になることを示している。最後に、コットンワイプでコーティングして試験した。非コーティング生地は水を吸収し、その接触角測定が不可能であったが、コーティング後は水がコットンワイプの表面上に数珠状となり、接触角が120度超となって、本材料が生地に撥水性を付与するために利用できることを示した。
【0079】
したがって、抗菌性組成物及び物品の実施形態が開示されている。本開示が、開示されたもの以外の実施形態で実施されうることは当業者には理解されよう。開示された実施形態は、図示の目的のために示され、制限のために示されてはおらず、本開示は以下の「特許請求の範囲」によってのみ制限される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも
ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマー、
エポキシアルカン、及び
前記ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーと反応可能な反応性部分を含むフルオロカーボン、の反応生成物を含む、組成物。
【請求項2】
前記ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーが、ビニルアミン単位対ビニルアルコール単位で、約1:99〜約50:50のモル比を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーが、ビニルアミン単位対ビニルアルコール単位で、約5:95〜約50:50のモル比を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記エポキシアルカンがC〜C18エポキシアルカンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記エポキシアルカンがC〜C12エポキシアルカンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記フルオロカーボンがC〜C18フルオロカーボンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記フルオロカーボンがC〜Cフルオロカーボンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記フルオロカーボンがエステルである、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記エポキシアルカン及び前記フルオロカーボンの組み合わせのモル量が、前記ビニルアミンのモル量以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
エポキシアルカン対フルオロカーボンの前記モル比が4:1〜1:1である、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
少なくとも1種の溶媒を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
少なくとも1種の酸を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
少なくとも1種の金属イオンを更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
物品であって、
基材と、
前記基材に隣接したコーティングであって、少なくとも
ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマー、
エポキシアルカン、及び
前記ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーと反応可能な反応性部分を含むフルオロカーボン、の反応生成物を含む、コーティングと、を含む、物品。
【請求項15】
前記コーティングが架橋されている、請求項14に記載の物品。
【請求項16】
前記コーティングが、抗菌性、撥水性、又はこれらの組み合わせを有する、請求項14に記載の物品。
【請求項17】
抗菌性表面、撥水性表面、又はその両方の作製方法であって、該方法が、
基材を提供することと、
コーティング組成物を少なくとも1つの前記基材表面へ適用することであって、該コーティング組成物が、
ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマー、
エポキシアルカン、及び
前記ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーと反応可能な反応性部分を含むフルオロカーボン、の反応生成物、
極性有機溶媒、並びに、
水、を含む、適用することと、を含み、
前記コーティング組成物を前記基材へと適用した際に、前記極性有機溶媒が、少なくとも部分的には前記基材の前記表面を消毒するように機能する、作製方法。
【請求項18】
前記コーティング組成物が、前記基材に適用された後に架橋される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
抗菌性ポリマー材料の調製方法であって、該方法が、
ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーの共溶媒溶液を形成することであって、該共溶媒は、水及び第1極性有機溶媒を含む、形成すること、
エポキシアルカンを前記ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマー溶液へと添加すること、反応溶液を形成すること、
フルオロカーボンを前記反応溶液へと添加することであって、該フルオロカーボンは、前記ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマーと反応可能な反応性部分を含む、添加すること、
更なる極性有機溶媒を前記反応溶液へと添加すること、を含み、
前記反応溶液中での前記成分の溶解度を維持するために、前記更なる極性有機溶媒を添加する、調製方法。
【請求項20】
前記反応溶液に添加した前記更なる極性有機溶媒が、前記第1極性有機溶剤と同一の極性有機溶媒である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記エポキシアルカンが、第2極性有機溶媒中の前記ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマー溶液に添加される、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記第2極性有機溶媒が前記第1極性有機溶媒と同一である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記フルオロカーボンが、第3極性有機溶媒中の前記ビニルアミン−ビニルアルコールコポリマー溶液に添加される、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記第3極性有機溶媒が前記第1極性有機溶媒とは異なっている、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記更なる極性有機溶媒を、少なくとも前記エポキシアルカン及びフルオロカーボンが添加される際に添加する、請求項19に記載の方法。
【請求項26】
酸を前記反応溶液へと添加することを更に含む、請求項19に記載の方法。

【公表番号】特表2012−513997(P2012−513997A)
【公表日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−543536(P2011−543536)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際出願番号】PCT/US2009/066491
【国際公開番号】WO2010/077539
【国際公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】