説明

ビニル系重合体粒子の製造方法及びビニル系重合体粒子

【課題】残存モノマー量が低減されたビニル系重合体粒子の製造方法、及びその製造方法により得られるビニル系重合体粒子を提供することを課題とする。
【解決手段】水性媒体が、水溶性重合開始剤及び乳化剤を含み、油相が、ビニル系重合性モノマー及び油溶性重合開始剤を含み、油溶性重合開始剤が、ビニル系重合性モノマー100重量部に対して0.02〜0.2重量部使用され、前記水溶性重合開始剤が、油溶性重合開始剤100重量部に対して300〜2000重量部使用され、油溶性重合開始剤及び水溶性重合開始剤が、式20℃≦Y−X≦50℃(式中、Xは水溶性重合開始剤の10時間半減期温度であり、Yは油溶性重合開始剤の10時間半減期温度でありかつ80℃以上105℃以下である)を満たす10時間半減期温度を有し、ビニル系重合体粒子中の残存モノマー量が、ビニル系重合体粒子100重量部に対して1.0重量部以下であることを特徴とするビニル系重合体粒子の製造方法により課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、残存モノマー量が低減されたビニル系重合体粒子の製造方法、及びその製造方法により得られるビニル系重合体粒子に関する。さらに詳しくは、本発明は、ビニル系重合体粒子中の残存モノマー量がビニル系重合体粒子100重量部に対して1.0重量部以下であるビニル系重合体粒子の、重合安定性に優れた製造方法及び該製造方法により得られるビニル系重合体粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニル系重合体粒子は、塗料添加剤、粘着剤、化粧品添加剤、トナー添加剤、光拡散剤、液晶スペーサー、バインダー、レオロジー調節剤、増量剤、塗膜性能改良剤等として広く用いられている。また、ビニル系重合体粒子は、塗料、土木材料のトップコート、シーラー、インクジェット記録材料、電着塗料等の材料としても用いられ、その利用価値は極めて高いことが知られている。
【0003】
他方、このようなビニル系重合体粒子中に未反応の重合性モノマー(本発明において、残存モノマーとも称する)が多量に残存する場合、製品の品質阻害、残存臭気、環境汚染等の問題を引き起こし、それらの状況を放置することは好ましくない。電子写真法、静電記録法、静電印刷法等のために用いられるコピー機、プリンター、ファクシミリ等においては、残存モノマー量が多いと環境面で悪影響を及ぼすため特に好ましくない。
従って、残存モノマーが全く混入していないか、又は残存モノマー量が極めて少ないビニル系重合体粒子の製造方法等の提供が求められている。
【0004】
これらの知見に鑑みて、従来、ビニル系重合体粒子中の残存モノマー量を低減するために、重合工程の終期に重合温度を上げる方法、それに加えて、さらに重合触媒を追加する方法、重合時間を延長する方法、残存モノマー処理剤を添加する方法等が提案されている(特許文献1〜5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−026510号公報
【特許文献2】特許第3061622号公報
【特許文献3】特開2004−018791号公報
【特許文献4】特開2003−321642号公報
【特許文献5】特公平06−010230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、特許文献1〜5について追試を行った。
特許文献1の記載に従って、重合系内に重合触媒を追加した場合、ビニル系重合体粒子中の残存モノマー量を低減することができた。しかしながら、重合触媒の分解によって発生したラジカルにより重合体の分子鎖が切断され、その結果、重合体が低分子量化するという問題も併せて確認された。従って、この方法によっては、所望のビニル系重合体粒子を得ることはできなかった。
【0007】
特許文献2の記載に従って、高温で重合を行った場合、収率の低下、ビニル系重合体粒子の熱劣化等が確認された。また、この方法では、高価なシクロデキストリンを用いるため製造コストが高くなり、さらに、確実に残存モノマー量を低減させることは技術的に困難であった。
【0008】
特許文献3においては、重合温度を複数回変更する、残存モノマー量の低減方法が提案されている。しかしながら、前記の方法では、製造工程が多段階となり、製造コスト面での問題が確認された。また、第一工程で150℃以上の高温で重合反応を行う必要があり、その結果、解重合による得られた重合体の低分子量化も確認された。
【0009】
特許文献4においては、水溶性ラジカル重合開始剤を用いて、アクリル系モノマー、酸性基含有重合性不飽和モノマー等の混合モノマーを乳化重合し、次いでレドックス系重合開始剤を用いて残存モノマーを徹底的に乳化重合する、残存モノマー量の低減方法が開示されている。しかしながら、前記の方法では、製造工程が2段階となり、さらに第2工程の乳化重合を複数回繰り返す必要があった。このため、製造工程は長時間にわたりその効率もよくなかった。
【0010】
特許文献5においては、ゴム弾性体ラテックスの存在下に、特定の比率で水溶性重合開始剤と油溶性重合開始剤とを併用することにより、スチレン系モノマー及びこれと共重合可能なビニル系モノマーからなる混合物を乳化重合させて樹脂を製造する方法が開示されている。しかしながら前記の方法では、重合時の安定性が悪く、さらに残存モノマー量を低減することはできなかった。
【0011】
従って、残存モノマー量を簡便かつ効率的に低減することができるビニル系重合体粒子の製造方法及び残存モノマー量が低減されたビニル系重合体粒子の提供が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かくして本発明によれば、水性媒体中で乳化する油相に含まれるビニル系重合性モノマーを重合させる工程を含むビニル系重合体粒子の製造方法であって、
前記水性媒体が、水溶性重合開始剤及び乳化剤を含み、前記油相が、さらに油溶性重合開始剤を含み、前記油溶性重合開始剤が、ビニル系重合性モノマー100重量部に対して0.02〜0.2重量部使用され、前記水溶性重合開始剤が、前記油溶性重合開始剤100重量部に対して300〜2000重量部使用され、前記油溶性重合開始剤及び前記水溶性重合開始剤が、下記式:
20℃≦Y−X≦50℃
(式中、Xは水溶性重合開始剤の10時間半減期温度であり、Yは油溶性重合開始剤の10時間半減期温度でありかつ80℃以上105℃以下である)
を満たす10時間半減期温度を有し、前記ビニル系重合体粒子中の残存モノマー量が、前記ビニル系重合体粒子100重量部に対して、1.0重量部以下であることを特徴とするビニル系重合体粒子の製造方法が提供される。
【0013】
また本発明によれば、トナー用添加剤として使用されるビニル系重合体粒子も提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法により、ビニル系重合体粒子の課題であったビニル系重合体粒子中の残存モノマー量を容易に低減することができ、併せて、得られる重合体の分子量の低下を防止し、凝集物の生成を抑制することができる。
また、水溶性重合開始剤としてアゾ系水溶性重合開始剤を用いることにより、残存モノマー量をより容易に低減することができる。
さらに、水溶性重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩を用いることにより、残存モノマー量をさらにより容易に低減することができる。
他方、油溶性重合開始剤として過酸化物系油溶性重合開始剤を用いることにより、残存モノマー量をより容易に低減することもできる。
【0015】
本発明の製造方法においては、ビニル系重合性モノマーがスチレン系モノマー及び(メタ)アクリルエステル系モノマーのいずれかである場合、特に残存モノマー量を低減することができる。
また、乳化剤としてN−ポリオキシアルキレン−N,N,N−トリアルキルアンモニウム塩を用いた場合、前記の技術的効果に加えて、所望の平均粒子径を有するビニル系重合体粒子をより効率的に製造することができる。
さらに、ビニル系重合性モノマーを水相中へ滴下供給することにより、さらにより効率的に製造することができる。
他方、本発明により0.05〜1.0μmの平均粒子径の小粒径で、かつ、残存モノマー量の少ないビニル系重合体粒子を製造することもできる。
【0016】
本発明においては、残存モノマー量の極めて少ないビニル系重合体粒子が得られるため、該ビニル系重合体粒子はトナー用の添加剤としても好適に使用し得る。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のビニル系重合体粒子の製造方法は、水性媒体中で乳化する油相に含まれるビニル系重合性モノマーを重合させる工程を含むビニル系重合体粒子の製造方法であって、
前記水性媒体が、水溶性重合開始剤及び乳化剤を含み、前記油相が、さらに油溶性重合開始剤を含み、前記油溶性重合開始剤が、ビニル系重合性モノマー100重量部に対して0.02〜0.2重量部使用され、前記水溶性重合開始剤が、前記油溶性重合開始剤100重量部に対して300〜2000重量部使用され、前記油溶性重合開始剤及び前記水溶性重合開始剤が、下記式:
20℃≦Y−X≦50℃
(式中、Xは水溶性重合開始剤の10時間半減期温度であり、Yは油溶性重合開始剤の10時間半減期温度でありかつ80℃以上105℃以下である)
を満たす10時間半減期温度を有し、前記ビニル系重合体粒子中の残存モノマー量が、前記ビニル系重合体粒子100重量部に対して、1.0重量部以下であることを特徴とするビニル系重合体粒子の製造方法である。
【0018】
以下に本発明のビニル系重合体粒子の製造方法について説明する。
本発明においては、水性媒体中で油相に含まれるビニル系重合性モノマーを乳化重合させることによりビニル系重合体粒子を製造する。
ここで、油相とはビニル系モノマー及び油溶性重合開始剤を含む有機物相を意味し、また、水性媒体とは水溶性重合開始剤及び乳化剤を含む水媒体を意味する。
【0019】
本発明で使用し得るビニル系重合性モノマーとしては、水溶性重合開始剤及び油溶性重合開始剤と反応し得るビニル基を有する重合性モノマーを適宜使用し得る。
また、得られるビニル系重合体粒子の物性、製造工程等に影響を与えない限り、ビニル系重合性モノマーを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
ここで、ビニル系重合性モノマーとしては、残存モノマー量低減の観点から、スチレン系モノマー及び(メタ)アクリル系モノマーのいずれかが好ましい。
スチレン系モノマーとしては、分子内に芳香環を有するスチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロロスチレン等が挙げられる。一方、(メタ)アクリル系モノマーとして、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等が挙げられる。特に、残存モノマー量をより低減できるという点で、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルが好ましい。
【0021】
また、得られる重合体のさらなる高分子量化を図るため、2以上のビニル基を有する架橋剤を併用することもできる。架橋剤としては、二官能性重合性ビニル系モノマー等が挙げられる。具体的には、(メタ)アクリル酸アリル、ジビニルベンゼン、アルキレングリコールジメタクリレート(アルキレンは炭素数2〜4の範囲が好ましい)等が挙げられる。二官能性重合性ビニル系モノマーの混合割合は、ビニル系重合性モノマー100重量部に対して50重量部以下であることが好ましく、0.1〜40重量部であることがより好ましい。
【0022】
本発明においては、重合開始剤として10時間半減期温度の異なる油溶性重合開始剤及び水溶性重合開始剤を併用する。
ここで、油溶性重合開始剤とは、20℃でトルエン、メタノール、酢酸エチル、クロロホルム等の有機溶媒100重量部に対して5重量部以上溶解し得る重合開始剤を意味する。一方、水溶性重合開始剤とは、20℃で水100重量部に対して10重量部以上溶解し得る重合開始剤を意味する。油溶性重合開始剤及び水溶性重合開始剤を併用することにより、ビニル系重合性モノマーを含む重合体粒子中及び水相において重合を進行させることができ、その結果、効率的に残存モノマー量を低減することができる。
【0023】
また、油溶性重合開始剤として、10時間半減期温度が80℃以上105℃以下、好ましくは80℃以上100℃以下、より好ましくは85℃以上95℃以下である油溶性重合開始剤を使用する。半減期温度が80℃未満であると重合速度が速く重合安定性が悪化し、目的の粒子を得ることができないことがある。また、半減期温度が105℃を超える場合、重合開始剤の10時間半減期温度が高いため油溶性重合開始剤が分解せず、重合が進行しないことがある。さらに、系内の重合安定性が悪化し、目的の粒子を得ることができないことがある。
【0024】
前記の油溶性重合開始剤として、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン(10時間半減期温度83.2℃)、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(10時間半減期温度86.7℃)、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロへキサン(10時間半減期温度87.1℃)、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロへキサン(10時間半減期温度90.7℃)、2,2−ジ(4,4−ジ−(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキシル)プロパン(10時間半減期温度94.7℃)、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカルボネート(10時間半減期温度95.0℃)、t−ブチルパーオキシマレイン酸(10時間半減期温度96.1℃)、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート(10時間半減期温度97.1℃)、t−ブチルパーオキシラウレート(10時間半減期温度98.3℃)、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(3−メチルベンゾイルパーオキシ)へキサン(10時間半減期温度98.5℃)、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボネート(10時間半減期温度98.7℃)、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカルボネート(10時間半減期温度99.0℃)、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート(10時間半減期温度99.4℃)、2,5−ジ−メチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)へキサン(10時間半減期温度99.7℃)、t−ブチルパーオキシアセテート(10時間半減期温度101.9℃)、2,2−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ブタン(10時間半減期温度103.1℃)、t−ブチルパーオキシベンゾエート(10時間半減期温度104.3℃)、n−ブチル 4,4−ジ−(t−ブチルパーオキシ)バレレート(10時間半減期温度104.5℃)等の過酸化物系油溶性重合開始剤を用い得る。
一方、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)(10時間半減期温度88℃)、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド](10時間半減期温度96℃)等のアゾ系過酸化物系油溶性重合開始剤も用い得る。
本発明においては、ビニル系重合性モノマーと優れた相溶性を示す過酸化物系油溶性重合開始剤を用いることが好ましい。
【0025】
一方、水溶性重合開始剤として公知のものを使用することができ、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩(10時間半減期温度44℃)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二硫酸二水和物(10時間半減期温度47℃)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩(10時間半減期温度56℃)、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]水和物(10時間半減期温度57℃)、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}二塩酸塩(10時間半減期温度60℃)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン](10時間半減期温度61℃)、2,2’−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−メチルプロパン)二塩酸塩(10時間半減期温度66.5℃)、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}(10時間半減期温度80℃)等のアゾ化合物等を使用し得る。
また、前記過硫酸塩にナトリウムスルホオキシレートホルムアルデヒド、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素アンモニウム、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸アンモニウム、過酸化水素、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム、L−アスコルビン酸及びその塩、第一銅塩、第一鉄塩などの還元剤を重合開始剤に組み合わせて用いるレドックス系重合開始剤等も使用し得る。
【0026】
水溶性重合開始剤として、10時間半減期温度が30℃以上85℃以下である水溶性重合開始剤を使用することが好ましく、50℃以上70℃以下である水溶性重合開始剤を使用することがより好ましい。半減期温度が30℃未満であると重合速度が速く重合安定性が悪化し、目的の粒子を得ることができないことがある。また、半減期温度が85℃を超える場合、重合開始剤の10時間半減期温度が高いため水溶性重合開始剤が分解せず、重合が進行しないことがある。
ここで、水相への優れた相溶性を有するアゾ系水溶性重合開始剤が好ましく、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩がより好ましい。
【0027】
本発明においては、残存モノマー量を十分低減するために、油溶性重合開始剤の使用量は、ビニル系重合性モノマー100重量部に対して、0.02〜0.2重量部、好ましくは0.03〜0.18重量部、より好ましくは0.06〜0.15重量部使用する。
ここで、前記使用量が0.02重量部より低い場合、十分な残存モノマー低減効果を得ることができないことがあり、一方、前記使用量が0.2重量部より高い場合、得られた高分子の低分子量化を引き起こすことがある。
また同様に、水溶性重合開始剤の使用量は油溶性重合開始剤100重量部に対して、300〜2000重量部、好ましくは400〜1800重量部、より好ましくは500〜1600重量部使用する。
【0028】
また、油溶性重合開始剤及び水溶性重合開始剤は、下記式:
20℃≦Y−X≦50℃
(式中、Xは水溶性重合開始剤の10時間半減期温度であり、Yは油溶性重合開始剤の10時間半減期温度でありかつ80℃以上105℃以下である)
を満たす10時間半減期温度を有し、好ましくは、下記式:
25℃≦Y−X≦45℃
(式中、X及びYは前記で定義されたとおりである)
を満たし、より好ましくは、下記式:
30℃≦Y−X≦35℃
(式中、X及びYは前記で定義されたとおりである)
を満たす。
ここで、値(Y−X)が50℃より高い場合、水溶性重合開始剤の10時間半減期温度が低く、水相での重合が不十分となり、水性媒体中での十分な残存モノマー低減効果が得られないことがある。一方、値(Y−X)が20℃より低い場合、重合温度にもよるが、所望の高分子量の重合体を得ることができないことがあり、十分な残存モノマー低減効果を得ることができないことがある。
本発明においては、このような関係を満たす水溶性重合開始剤と油溶性重合開始剤との組合せは、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩と1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロへキサンとの組合せが挙げられる。
【0029】
本発明で用い得る乳化剤として、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤等のいずれかの界面活性剤が挙げられる。また、得られるビニル系重合体粒子の物性、製造工程等に影響を与えない限り、乳化剤を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。さらに、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の高分子系乳化助剤、コロイダルシリカ、アルミナゾル等の無機系乳化助剤等も適宜併用し得る。
【0030】
ここで、カチオン系界面活性剤の具体例としては、アルキルアミン及びその塩、ポリアルキレンオキサイドを有するアンモニウム塩、ピリジニウム塩、アミノアルコール脂肪酸誘導体、ポリアミン脂肪酸誘導体、イミダゾリン、アルキルトリメチルアミン及びそのアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアミン及びそのアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアミン及びそのアンモニウム塩、ピリジニウム塩、アルキルイソキノリニウム塩、塩化ベンゼトニウム等が挙げられる。これらの中では、アンモニウム塩酸塩、アンモニウム硫酸塩、アンモニウムスルホン酸塩、アンモニウムパラトルエンスルホン酸塩、アンモニウム酢酸塩等のアンモニウム塩が好ましい。例えば、ラウリルトリメチルアンモニウム塩酸塩、ステアリルトリメチルアンモニウム塩酸塩、セチルメチルアンモニウム塩酸塩、及びジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、N−ポリオキシアルキレン−N,N,N−トリアルキルアンモニウムパラトルエンスルホン酸塩等が好ましい。
【0031】
ノニオン系界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレン−オキシプロピレンブロックポリマー等が挙げられる。
【0032】
アニオン系界面活性剤の具体例としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、モノアルキルスルホコハク酸塩などの非反応性のアニオン系界面活性剤、ポリオキシエチレン−1−(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウムなどの反応性のアニオン系界面活性剤が挙げられる。本発明ではポリオキシエチレン−1−(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩を使用することが好ましい。
【0033】
両性イオン系界面活性剤の具体例としては、酸性官能基及び塩基性官能基を含むベタイン系界面活性剤等が挙げられる。
【0034】
また、乳化安定化能に優れ、所定の粒子径のビニル系重合体粒子を容易に得ることができるため、乳化剤としてN−ポリオキシアルキレン−N,N,N−トリアルキルアンモニウム塩を用いることがより好ましい。
前記界面活性剤の使用量は、少なすぎると重合安定性が著しく低下することがある。一方、多すぎると水相での重合が起こり易く、微小な粒子が大量に発生し、目的とするビニル系重合体粒子の収率が低下することがある。よって、前記使用量は、重合性モノマー100重量部に対して0.01〜0.5重量部であることが好ましく、0.02〜0.2重量部であることがより好ましい。
【0035】
また、高分子鎖長の調整のために、重合系内に連鎖移動剤を適宜添加してもよい。連鎖移動剤の具体例としては、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン、α−メチルスチレンダイマー、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物、アリルアルコール等のアリル化合物、ジクロロメタン、ジブロモメタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物などが挙げられ、重合性モノマー混合物100重量部に対して、0.1〜5重量部使用することが好ましい。より好ましくは0.3〜3重量部である。
【0036】
本発明の効果を阻害しない範囲で、他のモノマーや添加剤が水性媒体及び油相に添加されてもよい。ここで、添加剤としては、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、消泡剤、増粘剤、熱安定剤、レベリング剤、滑剤、帯電防止剤等が挙げられる。
また、水性媒体には、ビニル系重合体粒子の物性及び乳化重合に悪影響を与えない限り、アルコール等の水溶性有機媒体を適宜加えてもよい。
【0037】
本発明の製造方法により、得られたビニル系重合体粒子中の残存モノマー量が、ビニル系重合体粒子100重量部に対し、1.0重量部以下、好ましくは0.9重量部以下、より好ましくは0.7重量部以下であるビニル系重合体粒子を得ることができる。このことは、本発明の製造方法により残存モノマー量の極めて少ないビニル系重合体粒子を得ることができることを示している。
【0038】
本発明のビニル系重合体粒子は、0.05〜1.0μmの平均粒子径を有することが好ましい。0.05μm未満の場合、ビニル系重合体粒子が凝集し易くなることがある。他方、1.0μmを越える場合、ビニル系重合体粒子の比表面積が小さくなり、例えば静電荷像現像に使用されるトナー用の添加剤として使用する場合、添加量を多くする必要があり得る。
ここで、より好ましい平均粒子径は0.07〜0.8μmである。なお、平均粒子径の測定方法は実施例の欄に詳説する。
【0039】
本発明においては、油相を乳化重合に付することによりビニル系重合体粒子を得ることができる。ここで、乳化重合法として通常実施されている乳化重合法を適宜使用し得る。
【0040】
油相の水性媒体への分散方法として、例えば、水相中にモノマー混合物を直接添加し、プロペラ翼等の攪拌力により水相中に分散させる方法、ローターとステーターから構成される高せん断力を利用する分散機であるホモミキサー、もしくは超音波分散機等を用いて分散させる方法等が挙げられる。
【0041】
次いで、油相が分散された乳液を、加熱することにより乳化重合を実施する。重合反応中は、乳液を攪拌することが好ましく、その攪拌は例えば、液滴の浮上や重合後の粒子の沈降を防止できる程度に緩く行うことが好ましい。
本発明においては、過度な発熱を防止しつつ、安定に乳化重合を進行させるために、油相を水性媒体中へ滴下供給しつつ乳化重合を行うことが好ましい。
【0042】
ここで、重合温度を30〜120℃程度にすることが好ましく、40〜110℃程度とすることがより好ましい。また、この重合温度の保持時間は0.1〜20時間程度であることが好ましい。さらに、窒素、アルゴン等の不活性気体雰囲気下で重合を行うことが好ましい。
【0043】
本発明においては、重合系内への油溶性重合開始剤及び水溶性重合開始剤の添加は、これら重合開始剤を単独で添加してもよく、それぞれビニル系重合性モノマー、水性媒体中に希釈して添加してもよい。また、2以上の複数回に分けてこれら重合開始剤を添加してもよい。さらに効率的に残存モノマーを処理するために、重合終了後にも適宜必要量の重合開始剤を重合系内に添加してもよく、水溶性重合開始剤の場合、重合終了後においてのみ、重合系内に添加してもよい。
【0044】
水性媒体からのビニル系重合体粒子の単離は公知の方法を用いて行うことができる。具体的には、スプレードライヤーに代表される噴霧乾燥法、ドラムドライヤーに代表される加熱された回転ドラムに付着させて乾燥する方法、凍結乾燥法等により行うことができる。
また、乾燥させたビニル系重合体粒子は、粉砕機、解砕機等で凝集物を解すことが好ましい。
【0045】
本発明においては、安定に乳化重合が進行するため、その重合安定性は極めて優れたものである。よって、乾燥後のビニル系重合体粒子中の凝集物生成率は、好ましくは7%以下、より好ましくは5%未満となり得る。凝集物生成率については実施例にて詳説する。
また、同様に、得られる重合体の平均分子量の低下等も認められず、ビニル系重合体粒子の物性は極めて優れたものである。
【0046】
また、本発明のビニル系重合体粒子は、例えば、インキ粘着剤用、接着剤用、人工大理石用等の添加剤、紙処理剤用、化粧品用等の充填材、クロマトグラフィのカラム充填材、静電荷像現像に使用されるトナー用の添加剤、フィルム用のアンチブロッキング剤、光拡散剤等として使用することができる。
特に、本発明で得られるビニル系重合体粒子は、残存モノマー量が低減されているため、トナー用の添加剤として好適に使用し得る。
【実施例】
【0047】
以下実施例を挙げてさらに説明するが、本発明は、これら実施例により限定されるものではない。各種製造条件及び測定方法について以下に説明する。
<平均粒子径>
本発明においては、動的光散乱法あるいは光子相関法により平均粒子径を測定する。すなわち、0.1vol%に調整したビニル系重合体粒子の水系分散液に25℃においてレーザー光を照射し、ビニル系重合体粒子から散乱される散乱光強度をマイクロ秒単位の時間変化で測定する。次いで、検出されたビニル系重合体粒子に起因する散乱強度分布を正規分布に当てはめ、平均粒子径を算出するためのキュムラント解析法により平均粒子径を算出する。平均粒子径は、市販の測定装置で簡便に測定が可能であり、本発明においては、マルバーン社から市販されている「ゼータサイザーナノZS」を測定に使用する。前記測定装置にはデータ解析ソフトが搭載されており、測定データは自動的に解析される。
【0048】
<重合安定性>
ビニル系重合体粒子の水系分散液の全量を目開き100μmのステンレス篩に通し、篩上の残存物を50℃で24時間乾燥させた後、残存物の重量を秤量する。次いで、得られた値(Wa)及び下式を用いることにより、重合安定性に関する凝集物生成率の値を算出する。前記の値が5%未満である場合、重合安定性が極めて優れている(◎)、5〜7%である場合、重合安定性が優れている(○)、7%より高い場合、重合安定性が悪い(×)と判断する。
凝集物生成率(%)=(Wa/重合性モノマー使用量)×100
【0049】
<残存モノマー量測定方法>
試料(ビニル系重合体粒子)0.01gにメタノール5mLを加え、充分に混合させた後、24時間静置させることにより分散液を得る。次いで、遠心分離機で30分間、攪拌回転数18500rpmで分散液を処理することにより不溶物を沈殿させる。超高速液体クロマトグラムLaChromUltra(日立ハイテクノロジーズ社製)で、得られる上澄液2μLを解析することにより、ビニル系重合体粒子に対する残存モノマー量を測定する。測定条件は、カラムとしてLaChromUltra C18 2μmを用い、カラム温度を40℃とする。溶媒は0.05%トリフルオロ酢酸水溶液とアセトニトリルの混合物(50/50 w/w)を使用し、フロー速度を0.6mL/minとする。
【0050】
実施例1
5L容量のオートクレーブに、水400重量部、N−ポリオキシアルキレン−N,N,N−トリアルキルアンモニウム塩(第一工業製薬社製;カチオーゲンD2)の60重量%水溶液0.066重量部を供給し、250rpmの攪拌回転数で攪拌しつつ、80℃に加熱した。次いで、水溶性重合開始剤である2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩(和光純薬工業社製;V−50、10時間半減期温度X=56.0℃)0.80重量部を供給し、メタクリル酸シクロヘキシル100重量部に油溶性重合開始剤である1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロへキサン(日本油脂社製;パーヘキサHC、10時間半減期温度Y=87.1℃)0.10重量部を溶解させた混合液を2時間かけて滴下供給した。滴下終了後、さらに1時間攪拌した後、110℃まで昇温し、さらに4時間攪拌を加えながら重合を行った。その後、反応液を室温まで冷却して、ビニル系重合体粒子の水系分散液を得た。
【0051】
得られたビニル系重合体粒子の平均粒子径は0.16μmであった。次いで、ビニル系重合体粒子を含む水系分散液をスプレードライヤーで、給気温度105℃、排気温度55℃で処理し、その後ジェットミルで処理することによりビニル系重合体粒子の粉末を得た。
このビニル系重合体粒子の凝集物生成率及び残存モノマー量は、それぞれ3.5%及び0.51%であった。
【0052】
実施例2
1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロへキサンの使用量0.10重量部を0.15重量部とした以外は実施例1と同様に実施した。
得られたビニル系重合体粒子の平均粒子径、凝集物生成率及び残存モノマー量は、それぞれ0.21μm、6.0%及び0.43%であった。
【0053】
実施例3
1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロへキサンの使用量0.10重量部を0.05重量部とした以外は実施例1と同様に実施した。
得られたビニル系重合体粒子の平均粒子径、凝集物生成率及び残存モノマー量は、それぞれ0.18μm、2.0%及び0.74%であった。
【0054】
実施例4
メタクリル酸シクロヘキシル100重量部をメタクリル酸イソブチル70重量部及びメタクリル酸t−ブチル30重量部とした以外は実施例1と同様に実施した。
得られたビニル系重合体粒子の平均粒子径、凝集物生成率及び残存モノマー量は、それぞれ0.15μm、2.0%及び0.22%であった。
【0055】
実施例5
1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロへキサンをt−ブチルパーオキシベンゾエート(日本油脂社製;パーブチルZ、10時間半減期温度Y=104.3℃)とした以外は実施例1と同様に実施した。
得られたビニル系重合体粒子の平均粒子径、凝集物生成率及び残存モノマー量は、それぞれ0.17μm、2.0%及び0.81%であった。
【0056】
実施例6
2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩を2,2’−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−メチルプロパン)二塩酸塩(和光純薬工業社製;VA−067、10時間半減期温度X=66.5℃)とした以外は実施例1と同様に実施した。
得られたビニル系重合体粒子の平均粒子径、凝集物生成率及び残存モノマー量は、それぞれ0.16μm、3.5%及び0.50%であった。
【0057】
実施例7
2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩0.80重量部を0.40重量部とした以外は実施例1と同様に実施した。
得られたビニル系重合体粒子の平均粒子径、凝集物生成率及び残存モノマー量は、それぞれ0.18μm、4.0%及び0.88%であった。
【0058】
実施例8
2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩0.80重量部を1.80重量部とした以外は実施例1と同様に実施した。
得られたビニル系重合体粒子の平均粒子径、凝集物生成率及び残存モノマー量は、それぞれ0.17μm、3.0%及び0.41%であった。
【0059】
比較例1
1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロへキサンを使用せずに乳化重合を行ったこと以外は実施例1と同様に実施した。
得られたビニル系重合体粒子の平均粒子径、凝集物生成率及び残存モノマー量は、それぞれ1.87μm、1.5%及び1.6%であった。
【0060】
比較例2
1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロへキサン0.10重量部を0.01重量部としたこと以外は実施例1と同様に実施した。
得られたビニル系重合体粒子の平均粒子径、凝集物生成率及び残存モノマー量は、それぞれ1.32μm、1.5%及び1.4%であった。
【0061】
比較例3
1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロへキサン0.10重量部を0.30重量部としたこと以外は実施例1と同様に実施した。
得られたビニル系重合体粒子の平均粒子径、凝集物生成率及び残存モノマー量は、それぞれ1.56μm、9.0%及び1.3%であった。
【0062】
比較例4
1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロへキサンを過酸化ベンゾイル(日本油脂社製;ナイパーBW、10時間半減期温度Y=73.6℃)とした以外は実施例1と同様に実施した。
得られたビニル系重合体粒子の平均粒子径、凝集物生成率及び残存モノマー量は、それぞれ0.15μm、10.0%及び1.8%であった。
【0063】
比較例5
1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロへキサンをジクミルパーオキサイド(日本油脂社製;パークミルD、10時間半減期温度Y=116.4℃)とした以外は実施例1と同様に実施した。
得られたビニル系重合体粒子の平均粒子径、凝集物生成率及び残存モノマー量は、それぞれ1.74μm、6.0%及び3.5%であった。
【0064】
表1に、実施例及び比較例の原料種等を示す。
表2に、実施例及び比較例で得られたビニル系重合体粒子の評価結果等を示す。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
表2より、実施例1〜8で得られたビニル系重合体粒子は、残存モノマー量が極めて少ないことを示している。また、実施例1〜8で得られたビニル系重合体粒子中に含まれる凝集物量も極めて少なく、本発明の製造方法によれば重合を安定に行うことができることを示している。
また、実施例1〜8で得られたビニル系重合体粒子は、重合体分子量の低下等の問題も認められず、所望の物性を有するビニル系重合体粒子を得ることができた。
【0068】
実施例9
実施例1〜8で得られたビニル系重合体粒子をトナー用の添加剤として使用した場合、ビニル系重合体粒子中の残存モノマー量が極めて少ないため、得られたトナーは品質阻害、臭気問題等を引き起こすことはなかった。従って、本発明によるビニル系重合体粒子を用いることにより良好なトナーを製造することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体中で乳化する油相に含まれるビニル系重合性モノマーを重合させる工程を含むビニル系重合体粒子の製造方法であって、
前記水性媒体が、水溶性重合開始剤及び乳化剤を含み、前記油相が、さらに油溶性重合開始剤を含み、前記油溶性重合開始剤が、ビニル系重合性モノマー100重量部に対して0.02〜0.2重量部使用され、前記水溶性重合開始剤が、前記油溶性重合開始剤100重量部に対して300〜2000重量部使用され、前記油溶性重合開始剤及び前記水溶性重合開始剤が、下記式:
20℃≦Y−X≦50℃
(式中、Xは水溶性重合開始剤の10時間半減期温度であり、Yは油溶性重合開始剤の10時間半減期温度でありかつ80℃以上105℃以下である)
を満たす10時間半減期温度を有し、前記ビニル系重合体粒子中の残存モノマー量が、前記ビニル系重合体粒子100重量部に対して1.0重量部以下であることを特徴とするビニル系重合体粒子の製造方法。
【請求項2】
前記水溶性重合開始剤がアゾ系水溶性重合開始剤である請求項1に記載のビニル系重合体粒子の製造方法。
【請求項3】
前記水溶性重合開始剤が2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩である請求項1又は2に記載のビニル系重合体粒子の製造方法。
【請求項4】
前記油溶性重合開始剤が過酸化物系油溶性重合開始剤である請求項1〜3のいずれか1つに記載のビニル系重合体粒子の製造方法。
【請求項5】
前記ビニル系重合性モノマーがスチレン系モノマー及び(メタ)アクリルエステル系モノマーのいずれかを含む請求項1〜4のいずれか1つに記載のビニル系重合体粒子の製造方法。
【請求項6】
前記乳化剤がN−ポリオキシアルキレン−N,N,N−トリアルキルアンモニウム塩である請求項1〜5のいずれか1つに記載のビニル系重合体粒子の製造方法。
【請求項7】
前記ビニル系重合体粒子が0.05〜1.0μmの平均粒子径を有する請求項1〜6のいずれか1つに記載のビニル系重合体粒子の製造方法。
【請求項8】
前記ビニル系重合性モノマーが水性媒体中へ滴下供給されて、重合される請求項1〜7のいずれか1つに記載のビニル系重合体粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1つに記載の方法により得られ、トナー用添加剤として使用されるビニル系重合体粒子。

【公開番号】特開2011−68775(P2011−68775A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221000(P2009−221000)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】