説明

ビームプロファイルモニター

【課題】 本発明は,追加的な装置を要せず,汎用性が高く,迅速な演算を行うことができるビームプロファイルモニターを提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明のビームプロファイルモニターは,ビームスイープ手段と,アパーチャーと,ビーム検出手段と,台形波形取得手段と,ビームプロファイル取得手段とビーム照射積算プロファイル取得手段を有する。
ビームプロファイルモニターは,台形波形マッピングデータを用いてビームプロファイルを求めるため,追加的な装置を必要とすることない。さらに,台形波形マッピングデータは,情報量が小さいので演算処理を迅速に行うことができる。しかも,本発明のビームプロファイルモニターは,ビームスイープ手段,アパーチャー,及び検出系が存在すれば,全てのビーム系において利用できるため,汎用性が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,ビームプロファイルモニターに関する。
【背景技術】
【0002】
リソグラフィ技術においては,たとえば,レジスト中での電子ビーム等の荷電粒子線の散乱の多様な要因に依存して,ビームプロファイル(ビーム形状)が変化する。よって,ビームプロファイルを適切に把握することは,たとえば,超小型集積回路を設計する際などに有効である。このため,適切なビームプロファイルモニターの開発が望まれた。
【0003】
特公平7−24208号公報には,イオン注入均一性監視装置が開示されている。このイオン注入均一性監視装置は,加速されたイオンビームを,X軸走査電極及びY軸走査電極を用いてX軸方向及びY軸方向に走査しながらウエハに照射するイオン注入装置に用いられるものである。
【0004】
特開平5−94800号公報には,イオンビームスポツト形状認識方法が開示されている。このイオンビームスポツト形状認識方法は,イオンビームの走査電圧とイオンビームのビームスポットの移動距離との関係を求めた後,ビームスポットの中心点とファラデーの中心点とが一致するようにイオンビームを複数の走査方向に走査する。そして、ファラデーによって検出されるビーム電流と各走査方向におけるビームスポットの距離を求める。
【0005】
特公平7−46592号公報には,ビ−ム絞り込み制御方法が開示されている。このビ−ム絞り込み制御方法は,ビームマスクの開口を通過したイオンビームのビーム電流値をイオンビームのビームスポット中心位置と対応づけて測定し,ビームスポット中心位置を横軸にとるとともにビーム電流値を縦軸にとったグラフに測定したビーム電流値をビームスポット中心位置と対応づけてプロットすることにより台形波形を作り,この台形波形を微分して微分波形を作り,台形波形の各斜辺に対応する微分波形の高さPHと幅PWとの比PH/PWを求め,この比PH/PWが最大となるようにトリムポテンショメータおよびバランスポテンショメータを交互に調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平7−24208号公報
【特許文献2】特開平5−94800号公報
【特許文献3】特公平7−46592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特公平7−24208号公報に開示されたイオン注入均一性監視装置は,計測点間をビームが連続的に通過する。このため,XY位置計測ポイントに対応する計測値をマトリクスに代入しても,適切なデータをえることはできない。
【0008】
特開平5−94800号公報及び特公平7−46592号公報に開示された方法は,ビームの約半分の面積がアパーチャーの各端面で得られる。このため,得られたデータは,ビームのプロファイルを反映した形にはなるものの,ビームのプロファイルを得ることはできない。
【0009】
そこで,本発明は,追加的な装置を要せず,汎用性が高く,迅速な演算を行うことができるビームプロファイルモニターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の側面は,ビームプロファイルモニターに関する。このビームプロファイルモニターは,ビームスイープ手段と,アパーチャーと,ビーム検出手段と,台形波形取得手段と,ビームプロファイル取得手段とを有する。
【0011】
ビームスイープ手段は,ビームの軌道を掃引するための手段である。アパーチャーは,マスクに設けられた単一孔である。すなわち,本発明のビームプロファイルモニターは,孔を有するマスクを備える。ビームスイープ手段により掃引されたビームがアパーチャーを通過する。ビーム検出手段は,アパーチャーを経たビームの位置を検出するための手段である。台形波形取得手段は,ビーム検出手段が検出したビームの位置に関する情報を用いてメッシュマッピングすることにより台形波形マッピングデータを得るための手段である。ビームプロファイル取得手段は,台形波形取得手段が取得した台形波形マッピングデータと,マスク演算を施した行列データとを用いて,ビームプロファイルを得るための手段である。
【0012】
本発明のビームプロファイルモニターは,ビームの位置に関する情報を用いてメッシュマッピングすることにより台形波形マッピングデータを得て,このデータを用いてビームプロファイルを求めるため,追加的な装置を必要とすることなく,簡便にビームプロファイルを得ることができる。さらに,台形波形マッピングデータは,情報量が小さいので,記憶コストを軽減でき,ビームプロファイルを求める処理も迅速に行うことができる。しかも,本発明のビームプロファイルモニターは,ビームスイープ手段,アパーチャー,及び検出系が存在すれば,全てのビーム系において利用できるため,汎用性が高い。
【0013】
本発明のビームプロファイルモニターの好ましい態様は,ビームプロファイル取得手段が,ビームプロファイル補正手段を有するものである。そして,ビームプロファイル補正手段は,ビームプロファイルモデル式を記憶するビームプロファイル記憶手段と,ビームプロファイルモデル式を読み出して,台形波形取得手段が取得した台形波形マッピングデータ,マスク演算を施した行列データ,及びビームプロファイルモデル式を用いて,ビームプロファイルを補正する。
【0014】
このビームプロファイルモニターは,ビームプロファイルモデル式を読み出してビームプロファイルの近似解を迅速に求めることができる。このため,このビームプロファイルモニターは,たとえば,ビーム強度が頻繁に変化する系やノイズが多い系において特に有効に用いることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のビームプロファイルモニターは,ビームの位置に関する情報を用いてメッシュマッピングすることにより台形波形マッピングデータを得て,このデータを用いてビームプロファイルを求めるため,追加的な装置を必要とすることなく,簡便にビームプロファイルを得ることができる。しかも,本発明のビームプロファイルモニターは,ビームスイープ手段,アパーチャー,及び検出系が存在すれば,全てのビーム系において利用できるため,汎用性が高い。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の第1の側面は,ビームプロファイルモニターに関する。このビームプロファイルモニターは,ビームスイープ手段と,アパーチャーと,ビーム検出手段と,台形波形取得手段と,ビームプロファイル取得手段とを有する。ここで,ビームプロファイルの例は,ビーム照射積算プロファイルの空間分布である。ビーム照射積算プロファイルの例は,イオン注入装置におけるドーズ量(注入された不純物の総量)である。すなわち,本発明は,ビーム照射積算プロファイル取得手段をさらに有するものが好ましい。
【0017】
ビームスイープ手段は,ビームの軌道を掃引するための手段である。ビームの軌道を掃引するための手段は既に知られている。ビームスイープ手段の例は,電場又は磁場をビームに印加して,ビームの軌道を掃引するものである。本発明において,ビームは荷電粒子を含むものであることが好ましい。荷電粒子の例は,陰イオン分子又は陽イオン分子である。
【0018】
アパーチャーは,マスクに設けられた単一孔である。すなわち,本発明のビームプロファイルモニターは,孔を有するマスクを備える。ビームスイープ手段により掃引されたビームがアパーチャーを通過する。この孔を有するマスクは,リソグラフの技術分野で通常用いられている。
【0019】
ビーム検出手段は,アパーチャーを経たビームの位置および強度を検出するための手段である。ビーム検出手段のうちアパーチャーを経たビームの位置は,ビームスイープ手段によるビームの軌道の変化に関する情報を用いて,ビームの位置を検出するものである。ビーム検出手段のうちビーム強度を検出する手段の例は,リソグラフの技術分野で用いられている光検出器である。この検出器は,強度情報を測定できるものである。
【0020】
台形波形取得手段は,ビーム検出手段が検出したビームの位置および強度に関する情報を用いてメッシュマッピングすることにより台形波形マッピングデータを得るための手段である。
【0021】
ビームの位置および強度に関する情報を用いてメッシュマッピングすると得られる波形が台形状となる。このため,得られたデータを台形波形マッピングデータとよぶ。台形波形マッピングデータは,特公平7−46592号公報に開示されたと同様にして得ることができる。すなわち,イオンビームのビーム電流値をイオンビームのビームスポット中心位置と対応づけて測定し,ビームスポット中心位置を横軸にとるとともにビーム電流値を縦軸にとったグラフに測定したビーム電流値をビームスポット中心位置と対応づけてプロットすることにより台形波形をえることができる。本発明では(X1,Y1)及び(X2,Y2)の2点間に直線Lを引き,メッシュ内に含まれる直線の断片ΔL1と測定値Iを掛けた値をそのメッシュ配列に記憶し,これを毎回積算する。
【0022】
ビームプロファイル取得手段は,台形波形取得手段が取得した台形波形マッピングデータと,マスク演算を施した行列データとを用いて,ビームプロファイルを得るための手段である。マスク演算を施した行列データは,あらかじめ記憶部に記憶されている。そして,ビームプロファイル取得手段は,マスク演算を施した行列データを読み出すとともに,台形波形マッピングデータを用いて連立方程式を解く演算を行うことによりビームプロファイルを得る。
【0023】
本発明のビームプロファイルモニターの好ましい態様は,ビームプロファイル取得手段が,ビームプロファイル補正手段を有するものである。そして,ビームプロファイル補正手段は,ビームプロファイルモデル式を記憶するビームプロファイル記憶手段と,ビームプロファイルモデル式を読み出して,台形波形取得手段が取得した台形波形マッピングデータ,マスク演算を施した行列データ,及びビームプロファイルモデル式を用いて,ビームプロファイルを補正する。
【0024】
この際,ビームプロファイル補正手段は,台形波形マッピングデータ,マスク演算を施した行列データ,及びビームプロファイルモデル式を用いて,非線形連立方程式を立て,反復法演算を行い,値を収束させることによりビームプロファイルを補正する。このようにして,ビームプロファイル取得手段は,ビームプロファイルの近似解を得る。すなわち,この態様では,ビームが各端面全てにおいて取り得る積算電流値を非線形連立方程式で近似する。また,得られたビームプロファイルの近似解を再度台形波形マッピングデータと掛け合わせることによりターゲットのマップ上にビームの照射積算プロファイルを得ることができる。
【実施例1】
【0025】
XY スキャン型イオン注入装置において本発明のビームプロファイルモニターを実装した。
この装置は,対向する平行平板の対に三角波を印加し,荷電粒子を上下(Y 方向)左右(X 方向)にスキャンし,ターゲットであるシリコンウェハにボロン、リン等の不純物をドーピングするための装置である。またマスクは円形の穴形状であった。検出器は,ウエハに流れる全電流をモニターしていた。
【0026】
X スキャン、Y スキャンの位置(位置情報)とウエハに流れる電流値(強度信号)をADコンバータでデジタル信号としてコンピュータで演算処理した。取り込んだ位置情報を演算しメッシュマッピングし,台形波形マッピングデータを得た。
【0027】
台形波形マッピングデータと最適なマスク演算を施した行列データから連立方程式を作成し,コンピュータを用いて数値解析的に解きビームプロファイルを得た。
【実施例2】
【0028】
次に,ビームプロファイルモデル式を用いてビームプロファイルを得た。すなわち,ビームプロファイルモデル式を記憶しておき,ビームプロファイルを求める際に,台形波形マッピングデータ,マスク演算を施した行列データ,及びビームプロファイルモデル式を用いて非線形連立方程式を作成し反復法で収束させることで,もっともらしいビームプロファイルを得た。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のビームプロファイルモニターは汎用性が高い。このため,ビームプロファイルの計測を必要とされる全ての系において利用されうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビームの軌道を掃引するためのビームスイープ手段と,
前記ビームスイープ手段により掃引されたビームが通過するアパーチャーと,
前記アパーチャーを経たビームの位置および強度を検出するためのビーム検出手段と,
前記ビーム検出手段が検出したビームの位置および強度に関する情報を用いてメッシュマッピングすることにより台形波形マッピングデータを得るための台形波形取得手段と,
前記台形波形取得手段が取得した台形波形マッピングデータと,マスク演算を施した行列データとを用いて,ビームプロファイルを得るためのビームプロファイル取得手段と,
を有するビームプロファイルモニター。
【請求項2】
前記ビームプロファイル取得手段は,
さらに,ビームプロファイル補正手段を有し,
前記ビームプロファイル補正手段は,
ビームプロファイルモデル式を記憶するビームプロファイル記憶手段と,
前記ビームプロファイル記憶手段が記憶するビームプロファイルモデル式を読み出して,
前記台形波形取得手段が取得した台形波形マッピングデータ,前記マスク演算を施した行列データ,及び前記ビームプロファイルモデル式を用いて,ビームプロファイルを補正する,
請求項1に記載のビームプロファイルモニター。



【公開番号】特開2011−100585(P2011−100585A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253552(P2009−253552)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(509306421)
【Fターム(参考)】