説明

ピストン機関及びスターリングエンジン

【課題】ピストンとシリンダとが接触するおそれを低減すること。
【解決手段】ピストン20は、シリンダ30内を往復運動する。ピストン20とシリンダ30との間には、気体軸受GBが形成される。ピストン20は、頂面20Ttから頂面反対側端部20Btに向かってピストン側段差部Kpまでの外径が、ピストン側段差部Kpから頂面反対側端部20Btまでの外径よりも小さく形成される縮径部21を備える。そして、この縮径部21には、環状部材50が嵌め合わされる。環状部材50は、ピストン20の縮径部21の材料よりも熱膨張率が小さい材料で作られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンリングや潤滑油を使用しないでシリンダ内をピストンが往復運動するピストン機関及びスターリングエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、乗用車やバス、トラック等の車両に搭載される内燃機関の排熱や工場排熱を回収するために、理論熱効率に優れたスターリングエンジンが注目されてきている。特許文献1には、高温側ピストンの頂面側の外径を、スカート側の外径よりも小さくすることにより、高温側ピストンの頂面側に段差部を設けたスターリングエンジンが開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2005−106012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示されたスターリングエンジンでは、段差部においてピストンとシリンダとのクリアランスが急激に狭くなっており、この段差部の熱膨張によって、段差部でピストンとシリンダとが接触するおそれがある。本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ピストンの頂面側でピストンとシリンダとの間のクリアランスを拡大することにより、ピストンの熱膨張によるピストンとシリンダとの接触を回避する構成において、ピストンとシリンダとの間のクリアランスが拡大する部分の段差部でピストンとシリンダとが接触するおそれを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するために、本発明に係るピストン機関は、シリンダ内を往復運動するピストンを備えるピストン機関において、前記ピストンの頂面から前記ピストンの頂面反対側端部に向かって所定位置までの部分の外径が、前記所定位置から前記ピストンの頂面反対側端部の外径よりも小さく形成される縮径部と、前記縮径部に嵌め合わされる環状部材と、を含むことを特徴とする。このピストン機関は、環状部材によってピストンの径方向における熱膨張が抑制されるので、ピストンの熱膨張によるピストンとシリンダとの接触を回避する構成において、ピストンとシリンダとの間のクリアランスが拡大する部分の段差部でピストンとシリンダとが接触するおそれを低減できる。
【0006】
本発明の好ましい態様としては、前記ピストン機関において前記環状部材は、前記縮径部における前記ピストンを構成する材料よりも熱膨張率の小さい材料で構成されることが望ましい。
【0007】
本発明の好ましい態様としては、前記ピストン機関において、前記環状部材の外径は、前記所定位置から前記頂面反対側端部までにおける前記ピストンの外径と同一であることが望ましい。
【0008】
本発明の好ましい態様としては、前記ピストン機関において、前記ピストンと前記シリンダとの間には、気体軸受が介在することが望ましい。
【0009】
上述の目的を達成するために、本発明に係るスターリングエンジンは、作動流体を加熱するヒータと、前記ヒータと接続されるとともに前記作動流体が通過する再生器と、前記再生器に接続されるとともに前記作動流体を冷却するクーラーとを含んで構成される熱交換器と、前記熱交換器を通過した作動流体が流入し、流出するシリンダと、前記シリンダ内を往復運動するピストンと、前記ピストンの頂面から前記ピストンの頂面反対側端部に向かって所定位置までの部分の外径が、前記所定位置から前記ピストンの頂面反対側端部の外径よりも小さく形成される縮径部と、前記縮径部における前記ピストンを構成する材料よりも熱膨張率の小さい材料で構成されて、前記縮径部に嵌め合わされる環状部材と、前記シリンダと前記ピストンとの間に介在する気体軸受と、を含むことを特徴とする。このスターリングエンジンは、ピストンの縮径部における材料よりも熱膨張率の小さい材料で構成される環状部材によってピストンの径方向における熱膨張が抑制されるので、ピストンの熱膨張によるピストンとシリンダとの接触を回避する構成において、ピストンとシリンダとの間のクリアランスが拡大する部分の段差部でピストンとシリンダとが接触するおそれを低減できる。
【0010】
本発明の好ましい態様としては、前記スターリングエンジンにおいて、前記環状部材の外径は、前記所定位置から前記頂面反対側端部までにおける前記ピストンの外径と同一であることが望ましい。
【0011】
本発明の好ましい態様としては、前記スターリングエンジンにおいて、前記ピストンは、近似直線機構によって支持されることが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、ピストンの頂面側でピストンとシリンダとの間のクリアランスを拡大することにより、ピストンの熱膨張によるピストンとシリンダとの接触を回避する構成において、ピストンとシリンダとの間のクリアランスが拡大する部分の段差部でピストンとシリンダとが接触するおそれを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
ピストンあるいはシリンダに設けた段差部で、ピストンとシリンダとのクリアランスが急激に狭くなることに起因して、ピストンの側周部の表面温度がピストンの頂面反対側から頂面に向かって急激に上昇することが見出された。そして、ピストンの側周部の表面温度が急激に上昇することにより、ピストンの径方向における熱膨張が他の部分よりも大きくなり、これによってピストンとシリンダとが接触するおそれがあることが見出された。本発明は、かかる点に着目して完成されたものである。
【0014】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)によりこの発明が限定されるものではない。また、以下の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
【0015】
なお、以下においては、ピストン機関の一例としてスターリングエンジンを取り上げるが、ピストン機関はこれに限定されるものではない。また、ピストン機関であるスターリングエンジンを用いて、車両等に搭載される内燃機関の排熱を回収する例を説明するが、排熱の回収対象は内燃機関に限られない。例えば工場やプラント、あるいは発電施設の排熱を回収する場合にも本発明は適用できる。
【0016】
本実施形態は、ピストンの熱膨張によるピストンとシリンダとの接触を回避するため、ピストンの頂面側においてピストン−シリンダ間のクリアランスを拡大する構成を備えるピストン機関に適用される。そして、本実施形態は、ピストンの頂面からピストンの頂面反対側端部に向かって所定位置までの部分の外径が、前記所定位置からピストンの頂面反対側端部の外径よりも小さく形成される縮径部に、環状部材を嵌め合わせる点に特徴がある。
【0017】
図1は、本実施形態に係るピストン機関であるスターリングエンジンの構成を示す断面図である。図2は、本実施形態に係るピストン機関であるスターリングエンジンが備える気体軸受の構成例、及びピストンの支持構造を示す説明図である。本実施形態に係るピストン機関であるスターリングエンジン100は、いわゆるα型の直列2気筒スターリングエンジンである。本実施形態において、スターリングエンジン100は、内燃機関の排ガスExを通過させる通路として機能するヒータケース3に熱交換器108を配置して、内燃機関の排ガスExから熱エネルギーを回収する、排熱回収装置として用いられる。
【0018】
スターリングエンジン100は、高温側シリンダ30H内に収められた高温側ピストン20Hと、低温側シリンダ30L内に収められた低温側ピストン20Lとが直列に配置されている。なお、以下において、高温側シリンダ30Hと低温側シリンダ30Lとを区別しない場合にはシリンダ30といい、高温側ピストン20Hと低温側ピストン20Lとを区別しない場合にはピストン20という。
【0019】
高温側シリンダ30Hと低温側シリンダ30Lとは、基準体である基板111に、直接又は間接的に支持、固定されている。本実施形態に係るスターリングエンジン100においては、この基板111が、スターリングエンジン100の各構成要素の位置基準となる。このように構成することで、前記各構成要素の相対的な位置精度を確保できる。また、後述するように、本実施形態に係るスターリングエンジン100は、高温側シリンダ30Hと高温側ピストン20Hとの間、及び低温側シリンダ30Lと低温側ピストン20Lとの間に気体軸受GBを介在させる。
【0020】
本実施形態に係るスターリングエンジン100は、基準体である基板111に、高温側シリンダ30Hと低温側シリンダ30Lとを直接又は間接的に取り付けることにより、ピストンとシリンダとのクリアランスを精度よく保持することができる。これによって、気体軸受GBの機能を十分に発揮させることができる。さらに、スターリングエンジン100の組み立ても容易になる。
【0021】
高温側シリンダ30Hと低温側シリンダ30Lとの間には、略U字形状のヒータ(加熱器)105と再生器106とクーラー107とで構成される熱交換器108が設けられる。このように、ヒータ105を略U字形状にすることによって、内燃機関の排気通路内のような比較的狭い空間にも、ヒータ105を容易に配置できる。また、このスターリングエンジン100のように、高温側シリンダ30Hと低温側シリンダ30Lとを直列に配置することにより、内燃機関の排ガス通路のような筒状の空間にもヒータ105を比較的容易に配置することができる。
【0022】
ヒータ105の一方の端部は高温側シリンダ30H側に配置され、他方の端部は再生器106側に配置される。ヒータ105は、作動流体(本実施形態では空気)を加熱する。再生器106は、一方の端部がヒータ105側に配置され他方の端部はクーラー107側に配置されて、ヒータ105又はクーラー107から流入する作動流体が通過する。クーラー107の一方の端部は再生器106側に配置され、他方の端部は低温側シリンダ30L側に配置される。クーラー107は、作動流体を冷却する。高温側シリンダ30H及び低温側シリンダ30Lは、熱交換器108を通過した作動流体が流入し、流出する。
【0023】
高温側シリンダ30H、低温側シリンダ30L及び熱交換器108内には作動流体が封入されており、ヒータ105から供給される熱によってスターリングサイクルを構成し、スターリングエンジン100を駆動する。ここで、例えば、ヒータ105、クーラー107は、熱伝導率が高く耐熱性に優れた材料のチューブを複数束ねて構成することができる。クーラー107は空冷としてもよいし、水冷としてもよい。また、再生器106は、例えば、多孔質の蓄熱体で構成する。なお、ヒータ105、クーラー107及び再生器106の構成は、この例に限られるものではなく、排熱回収対象の熱条件やスターリングエンジン100の仕様等によって、好適な構成を選択できる。
【0024】
高温側ピストン20Hと低温側ピストン20Lとは、高温側シリンダ30Hと低温側シリンダ30L内に気体軸受GBを介して支持されている。すなわち、ピストンリングを介さず、潤滑油を用いないで、ピストンをシリンダ内に支持する構造である。これによって、ピストン20とシリンダ30との間の摩擦を低減して、スターリングエンジン100の効率を向上させることができる。また、ピストン20とシリンダ30との摩擦を低減することにより、例えば、内燃機関の排熱回収のような低熱源、低温度差の運転条件下でスターリングエンジン100を使用する場合でも、スターリングエンジン100により排熱から熱エネルギーを回収できる。
【0025】
気体軸受GBを構成するため、図2に示すように、ピストン20(高温側ピストン20H、低温側ピストン20L)とシリンダ30(高温側シリンダ30H、低温側シリンダ30L)との間には、所定のクリアランスtcを設ける。クリアランスtcは、ピストン20の全周にわたって数μm〜数10μmとする。高温側ピストン20H及び低温側ピストン20Lの往復運動は、コネクティングロッド61によって出力軸であるクランク軸110に伝達され、ここで回転運動に変換される。
【0026】
ここで、気体軸受GBは、ピストン20の径方向(横方向、スラスト方向)の力に耐える能力(負荷能力)が低いため、ピストン20のサイドフォースFsを実質的に0にすることが好ましい。このため、シリンダ30の軸線(中心軸)に対するピストン20の直線運動精度を高くする必要がある。これを実現するため、本実施形態において、高温側ピストン20H及び低温側ピストン20Lは、図2に示す近似直線機構(例えばグラスホッパ機構)60によって支持される。本実施形態では、例えば、近似直線機構60によってサイドフォースFsの大部分を支持し、ピストン20の往復運動が近似直線運動から外れる際に発生する分のサイドフォースFsを気体軸受GBによって支持する。本実施形態では、近似直線機構60にグラスホッパ機構を用いる。
【0027】
近似直線機構60は、一端部がスターリングエンジン100の筐体100Cへ回動可能に取り付けられる第1腕62と、同じく一端部がスターリングエンジン100の筐体100Cへ回動可能に取り付けられる第2腕63と、一端部がコネクティングロッド61の端部と回動可能に連結され、他端部が第2腕63の他端部と回動可能に連結される第3腕64とで構成される。コネクティングロッド61は、クランク軸110と回動可能に取り付けられる端部とは異なる端部が、第3腕64の端部と回動可能に連結される。また、第1腕62の他端部は、第3腕63の両端部の間に、回動可能に連結される。
【0028】
このような近似直線機構60を用いれば、高温側ピストン20H及び低温側ピストン20Lを略直線状に往復運動させることができる。その結果、ピストン20のサイドフォースFsがほとんど0になるので、負荷能力の小さい気体軸受GBによっても十分にピストン20を支持できる。なお、ピストン20を支持する近似直線機構はグラスホッパ機構に限られるものではなく、ワットリンク等を用いてもよい。
【0029】
ここで、近似直線機構の一種であるグラスホッパ機構は、他の直線近似機構に比べて、同じ直線運動精度を得るために必要な機構の寸法が小さくて済む。このため、近似直線機構60としてグラスホッパ機構を用いると、スターリングエンジン100全体がコンパクトになるという利点がある。特に、スターリングエンジン100を車両に搭載される内燃機関の排熱回収に用い、内燃機関の排ガスの通路に熱交換器108を配置するというような、限られたスペースにスターリングエンジンを設置する場合、スターリングエンジン100の全体がコンパクトである方が設置の自由度は向上する。また、グラスホッパ機構は、同じ直線運動精度を得るために必要な機構の質量が他の機構よりも軽量で済むため、熱効率を向上させる点で有利である。さらに、グラスホッパ機構は、構成が比較的簡単であるため、製造・組み立てが容易であり、また製造コストも低減できるという利点もある。
【0030】
図1に示すように、スターリングエンジン100を構成する高温側シリンダ30H、高温側ピストン20H、コネクティングロッド61、クランク軸110等の構成要素は、筐体100Cに格納される。スターリングエンジン100の筐体100Cは、クランクケース114Aと、シリンダブロック114Bとを含んで構成される。筐体100C内には気体が充填される。本実施形態において、前記気体は、スターリングエンジン100の作動流体と同一である。筐体100C内に充填される気体は、圧力調整手段であるポンプ115により加圧される。ポンプ115は、例えば、スターリングエンジン100の排熱回収対象である内燃機関によって駆動してもよいし、例えば電動機のような駆動手段を用いて駆動してもよい。
【0031】
スターリングエンジン100は、ヒータ105とクーラー107との温度差が同じ場合、作動流体の平均圧力が高い程、高温側と低温側との圧力差が大きくなるので、より高い出力が得られる。スターリングエンジン100は、筐体100C内に充填される気体を加圧することにより、作動空間MS内の作動流体を高圧に保持して、スターリングエンジン100からより多くの出力を取り出すように構成してある。これによって、排熱回収のように低質な熱源しか用いることができない場合でも、より多くの出力をスターリングエンジン100から取り出すことができる。ここで、スターリングエンジン100の出力は、筐体100C内に充填される気体の圧力に略比例して大きくなる。
【0032】
スターリングエンジン100は、筐体100Cにシール軸受116が取り付けられており、クランク軸110はシール軸受116により支持される。スターリングエンジン100は、筐体100C内に充填される気体を加圧するが、シール軸受116により、筐体100C内に充填される気体の漏れを最小限に抑えることができる。クランク軸110の出力は、例えば、オルダムカップリングのようなフレキシブルカップリング119を介して筐体100Cの外部へ取り出される。
【0033】
図1、図2に示すように、本実施形態においては、高温側ピストン20H及び低温側ピストン20Lの側周部に設けた給気口HEから気体(本実施形態では作動流体と同じ空気)Aを吹き出して、気体軸受GBを形成する。図1、図2に示すように、高温側ピストン20H及び低温側ピストン20Lの内部には、それぞれ高温側ピストン内空間20HI及び低温側ピストン内空間20LIが形成される。両者を区別しない場合には、単にピストン内空間20Iという。
【0034】
高温側ピストン20Hには、高温側ピストン内空間20HIへ気体Aを供給するための気体導入口HIが設けられており、低温側ピストン20Lには、低温側ピストン内空間20LIへ気体Aを供給するための気体導入口HIが設けられている。それぞれの気体導入口HIには、気体供給管118が接続されている。気体供給管118の一端は、気体軸受用ポンプ117に接続されており、気体軸受用ポンプ117から吐出される気体Aを高温側ピストン内空間20HI及び低温側ピストン内空間20LIへ導く。
【0035】
高温側ピストン内空間20HI及び低温側ピストン内空間20LIへ導入された気体Aは、高温側ピストン20H及び低温側ピストン20Lの側周部に設けた給気口HEから流出して、気体軸受GBを形成する。なお、この気体軸受GBは、静圧気体軸受であるが、本実施形態において、気体軸受GBの構造はこれに限定されるものではなく、動圧気体軸受であってもよい。
【0036】
また、高温側ピストン20H及び低温側ピストン20Lの頂面に気体取り込み孔を設けて、この気体取り込み孔から高温側ピストン内空間20HI及び低温側ピストン内空間20LIへ作動流体である気体Aを取り込み、給気口HEから流出させて気体軸受GBを構成してもよい。なお、本実施形態の気体軸受GBは静圧気体軸受であるが、動圧気体軸受を用いてもよい。
【0037】
図3は、スターリングエンジンの運転中におけるピストンの表面温度及び熱膨張を示す説明図である。図3は、スターリングエンジン(例えば図1に示すようなα型のスターリングエンジン)のピストン(高温側のピストン)200の表面温度(ピストン表面温度)Tp、ピストン200及びシリンダ(高温側のシリンダ)300の径方向における熱膨張のシミュレーション結果を示している。
【0038】
図3の中央は、ピストン200の側周部の表面温度(ピストン表面温度)Tpを示しており、ピストン200の頂面200Ttに近づくにしたがってピストン表面温度Tpは上昇する。また、Tp_Kは、ピストン側段差部Kpでのピストン表面温度である。図3の左側は、スターリングエンジンを運転する前におけるピストン200及びシリンダ300の熱膨張の状態を示す。また、図3の右側は、スターリングエンジンの運転中におけるピストン200及びシリンダ300の熱膨張の状態を示す。図3の左側及び右側におけるRは、ピストンの中心軸(シリンダの中心軸と同じ)からの距離を示す。
【0039】
スターリングエンジンの運転中においては、スターリングエンジンの作動流体がピストン200の頂面200Ttへ定常的に熱を与えることにより、頂面200Ttから側周部200Sに向かう熱の流れが発生し、図3の中央に示すようなピストン表面温度Tpの温度勾配が形成される。このピストン200は、後述するピストン側段差部Kp及びシリンダ側段差部Ksを設け、ピストン200とシリンダ300とのクリアランスを気体軸受GBが形成される領域よりも拡大して、ピストン200の頂面200Tt側の熱膨張を回避する。
【0040】
ここで、ピストン側段差部Kpにおいては、ピストン200とシリンダ300とのクリアランスが急激に変化する。具体的には、ピストン側段差部Kpで、ピストン側段差部Kpよりも頂面反対側端部200Bt側でピストン200とシリンダ300とのクリアランスが急激に縮小する。これに起因して、図3の中央に示すように、ピストン側段差部Kpでは頂面反対側端部200Bt側から頂面200Ttへ向かうにしたがってピストン表面温度Tpは急激に上昇する。ここで、図3のTp_Kが、ピストン側段差部Kpの温度である。
【0041】
その結果、スターリングエンジン運転中においては、図3の右側に示すように、ピストン200の径方向に向かうピストン側段差部Kpの熱膨張が他の部分よりも大きくなり、ピストン200とシリンダ300とのクリアランスを気体軸受GBが形成される領域よりも拡大させたとしても、ピストン側段差部Kpでピストン200とシリンダ300とが接触してしまう。そこで、本実施形態では、ピストンの頂面からピストンの頂面反対側端部に向かって所定位置までの部分の外径が、前記所定位置から前記ピストンの頂面反対側端部の外径よりも小さく形成された縮径部に環状部材を嵌め合わせて取り付ける構造とすることにより、ピストン側段差部Kpの径方向に向かう熱膨張を抑制する。次に、この構造について詳細に説明する。
【0042】
図4−1は、本実施形態に係るピストン機関であるスターリングエンジンが備えるピストン及びシリンダの構成を示す拡大図である。図4−2は、本実施形態に係るピストンに取り付けられる環状部材を示す平面図である。図5−1は、本実施形態に係るピストンの構成を示す模式図である。図5−2は、本実施形態に係るシリンダの構成を示す模式図である。図4−1、図4−2、図5−1、図5−2は、図1に示すスターリングエンジン100の高温側ピストン20H及び高温側シリンダ30Hであるが、次の説明では、便宜上単にピストン20、シリンダ30という。本実施形態に係るピストンとシリンダとの構成は、特に高温側ピストン20H及び高温側シリンダ30Hに適用することが好ましいが、図1に示す低温側ピストン20L及び低温側シリンダ30Lに適用してもよい。
【0043】
シリンダ30内を往復運動するピストン20は、頂面20Ttと、頂面20Ttに接続する側周部20Sと、を含んで構成される。ピストン20の頂面20Ttは、ピストン20が作動流体と接する面である。また、ピストン20の頂面20Ttと反対側の端部が、ピストン20の頂面反対側端部20Btとなる。シリンダ30の頂部側端部30Ttには、図1に示す熱交換器108のヒータ105の一端部が接続されている。シリンダ30の頂部側端部30Ttは、シリンダ30の二つの端部のうち、ピストン20が上死点にきたときに、ピストン20の頂面20Ttと最も近接する端部である。シリンダ30の頂部側端部30Ttと反対側の端部は、シリンダ30の頂部反対側端部30Btである。また、ピストン20の側周部20Sと対向するシリンダ30の面は、シリンダ内周面30Sとなる。
【0044】
ピストン20の頂面20Tt側の側周部20Sには、段差部(ピストン側段差部)Kpが設けられる。ピストン側段差部Kpは、ピストン20の頂面20Ttからピストン20の頂面反対側端部20Btに向かった所定位置に設けられる。ここで、ピストン20の頂面20Ttからピストン側段差部Kpまでの距離はL1である。ピストン20の頂面20Ttからピストン側段差部Kpまでにおけるピストン20の外径Dp1は、ピストン側段差部Kpからピストン20の頂面反対側端部20Btまでにおけるピストン20の外径Dp2よりも小さい。すなわち、ピストン20は、その頂面20Ttからピストン20の頂面反対側端部20Btに向かって所定位置までの部分の外径Dp1が、前記所定位置からピストン20の頂面反対側端部20Btの外径Dp2よりも小さく形成される縮径部21を有する。この縮径部21によって、ピストン20の頂面20Tt側の側周部20Sは、ピストン20の頂面20Tt側の外径が小さくなるような階段状に形成される。
【0045】
また、本実施形態において、上死点でのピストン20の頂面20Tt側の側周部20Sに対向するシリンダ30のシリンダ内周面30Sには、段差部(シリンダ側段差部)Ksが設けられる。シリンダ30の頂部側端部30Ttからシリンダ側段差部Ksまでの距離はL2であり、L1<L2となる。また、シリンダ30の頂部側端部30Ttからシリンダ側段差部Ksまでにおけるシリンダ30の内径はDs1であり、シリンダ側段差部Ksからシリンダ30の頂部反対側端部30Btまでにおけるシリンダ30の内径はDs2である。なお、本実施形態において、シリンダ側段差部Ksは設けなくてもよい。
【0046】
上述したようにピストン20とシリンダ30とを構成することにより、ピストン20の頂面20Ttからピストン20の頂面反対側端部20Btに向かって所定距離L1の位置までの部分(ピストン側段差部Kp)におけるピストン20とシリンダ30との間には、クリアランスtceが形成される。また、前記所定距離L1の位置からピストン20の頂面反対側端部20Btまでにおけるピストン20とシリンダ30との間には、クリアランスtcが形成される。そして、クリアランスtceはクリアランスtcよりも大きくなる(tce>tce)。ここで、クリアランスtceは(Ds1−Dp1)/2であり、クリアランスtcは(Ds2−Dp2)/2である。そして、所定距離L1の位置から頂面反対側端部20Btまでにおいてピストン20とシリンダ30との間に形成されるクリアランスtcには、気体軸受GBが介在する。
【0047】
図1に示す高温側ピストン20Hの頂面は、ヒータ105で加熱された高温の作動流体と接触するので熱膨張する。ピストン側段差部Kpによってピストン20の頂面20Tt側の側周部20Sが階段状に形成されたピストン20は、上述したように、ピストン20の径方向に向かうピストン側段差部Kpの熱膨張が他の部分よりも大きくなるので、ピストン20とシリンダ30とが接触するおそれがある。そこで、本実施形態では、図4−1、図5−1に示すように、ピストン20の頂面20Tt側に形成された縮径部21に、図4−2に示す環状部材50を嵌め合わせて取り付けて、ピストン20の径方向に向かうピストン側段差部Kpの熱膨張を抑制する。これによって、ピストン20が径方向へ熱膨張することによるピストン20とシリンダ30との接触を回避する。
【0048】
環状部材50の外径はDroであり、内径はDriである。環状部材50はピストン20の頂面20Tt側に形成された縮径部21にはめ込まれて取り付けられるので、環状部材50の内径Driは、縮径部21の外径Dp1以下に設定される。例えば、環状部材50をしまり嵌めでピストン20の縮径部21へ取り付ける場合、環状部材50の内径Driは、縮径部21の外径Dp1よりも小さくする。この場合、環状部材50を加熱して環状部材50の温度をピストン20の縮径部21の温度よりも高くする焼き嵌めを用いるか、ピストン20の縮径部21を冷却して縮径部21の温度を環状部材50の温度よりも低くする冷やし嵌めを用いる。
【0049】
環状部材50は、ピストン20の縮径部21を構成する材料よりも熱膨張率が小さい材料で構成される。これによって、ピストン20の径方向に向かう縮径部21の熱膨張を効果的に抑制できる。本実施形態では、例えば、ピストン20の縮径部21にはステンレス鋼を用い、環状部材50にはステンレス鋼よりも熱膨張率が小さいチタン(Ti)あるいはチタン合金を用いる。
【0050】
また、環状部材50の外径Droと、ピストン20の気体軸受GBが形成される領域、すなわち、ピストン側段差部Kpからピストン20の頂面反対側端部20Btまでの領域におけるピストン20の外径Dp2以下とする。好ましくは、環状部材50の外径Droと、ピストン20の気体軸受GBが形成される領域の外径Dp2とを同じ大きさとする。ピストン20の径方向に向かう熱膨張を環状部材50で規制する場合、環状部材50は自身の熱膨張、及びピストン20の熱膨張を規制する際に発生する環状部材50の周方向へ向かう応力によって、環状部材50も径方向へ大きくなる。すなわち、環状部材50の外径Droは、ピストン20が熱膨張する前よりも大きくなる。
【0051】
したがって、環状部材50の外径Droを、ピストン20の気体軸受GBが形成される領域の外径Dp2以下とすることにより、環状部材50の外径Droが大きくなっても、環状部材50とシリンダ30との接触を回避できる。また、環状部材50の外径Droと、ピストン20の気体軸受GBが形成される領域の外径Dp2とを同じ大きさとすれば、ピストン20の側周部20Sの表面と、環状部材50の側面50Sとが面一となる。その結果、気体軸受GBが形成される領域は、環状部材50の厚さLr分増加するので、気体軸受GBの負荷能力がその分増加する。ここで、環状部材50の厚さLrは、ピストン中心軸Zp方向における環状部材50の寸法である。なお、環状部材50の厚さLrは、ピストン中心軸Zp方向における縮径部21の寸法L1以下とする。
【0052】
図6は、本実施形態に係るスターリングエンジンの運転中におけるピストンの表面温度及び熱膨張を示す説明図である。図6は、図1に示すスターリングエンジン100が備える高温側ピストン20Hのピストン表面温度Tp、高温側ピストン20H及び高温側シリンダ30Hの径方向における熱膨張のシミュレーション結果を示している。ここで、図6は、図4−1、図5−2に示す環状部材50を縮径部に取り付けた高温側ピストン20Hでの結果である。なお、図6は、図1に示すスターリングエンジン100の高温側ピストン20H及び高温側シリンダ30Hについてのものであるが、次においては、説明の便宜上、単にピストン20、シリンダ30という。
【0053】
図7は、ピストンの熱膨張を示す説明図である。図7は、環状部材50の有無におけるピストン20の径方向に向かう熱膨張量を、ピストン表面温度との関係で示してある。熱膨張量は、ピストン表面温度が−50℃のときにおけるピストン中心軸Zpからピストン側段差部Kpまでの距離を基準とした場合の値をピストン表面温度に対して記述したものである。すなわち、ピストン表面温度が−50℃のときにおける熱膨張量が0になる。図7中の実線de_rは、図4−1、図4−2、図5−1に示す環状部材50を取り付けた場合の熱膨張量であり、図7中の点線de_wrは、環状部材50を取り付けない場合の熱膨張量である。また、図7は、ピストン20をSUS303で製造し、環状部材50をチタンで製造した場合のシミュレーション結果である。
【0054】
図6の中央は、ピストン20の表面温度(ピストン表面温度)Tpを示している。図6の左側は、図1に示すスターリングエンジン100を運転する前におけるピストン20及びシリンダ30の熱膨張の状態を示す。また、図6の右側は、図1に示すスターリングエンジン100の運転中におけるピストン20及びシリンダ30の熱膨張の状態を示す。図5の左側及び右側におけるRは、図3に示すピストン中心軸Zp(シリンダ中心軸Zsと同じ)からの距離を示す。
【0055】
図1に示すスターリングエンジン100の運転中においては、作動流体がピストン20の頂面20Ttへ定常的に熱を与えることにより、頂面20Ttから側周部20Sに向かう熱の流れが発生し、図6の中央に示すようなピストン表面温度Tpの温度勾配が形成される。この場合、上述したように、ピストン側段差部Kpにおいては、ピストン20とシリンダ30とのクリアランスが急激に変化することに起因して、図6の中央に示すように、ピストン側段差部Kpでは頂面20Ttへ向かうにしたがってピストン表面温度Tpは急激に上昇する。
【0056】
環状部材50を取り付けない場合、例えば、ピストン表面温度が110℃付近では、ピストンとシリンダとはおよそ3μmのかじりが発生する。すなわち、ピストン中心軸Zpからピストン側段差部Kpまでの距離は、シリンダ中心軸Zs(ピストン中心軸Zpと一致する)からシリンダの内周面までの距離よりも約3μm大きくなる。しかし、図7に示すように、例えば、ピストン表面温度が110℃付近において、縮径部21よりも熱膨張率の低い環状部材50が縮径部21に取り付けられたピストン20(図4−1、図5−2)では、環状部材50を取り付けない場合と比較して、熱膨張量はおよそ6μm小さくなる。すなわち、ピストン表面温度Tp=110℃付近において、δ=(de_wr−de_r)がおよそ6μmとなる。
【0057】
その結果、環状部材50をピストン20に取り付けた場合、例えば、ピストン表面温度が110℃付近では、ピストン中心軸Zpからピストン側段差部Kpまでの距離は、シリンダ中心軸Zs(ピストン中心軸Zpと一致する)からシリンダの内周面までの距離よりも約3μm小さくなる。このように、縮径部21よりも熱膨張率の低い環状部材50が縮径部21に取り付けられたピストン20では、ピストン20の径方向に向かう熱膨張(特にピストン側段差部Kpの熱膨張)が、環状部材50によって規制される。その結果、図6の左側に示すように、ピストン20のピストン側段差部Kpとシリンダ30(特にシリンダ側段差部Ks)との接触が回避される。したがって、図1に示すスターリングエンジン100の運転中に、ピストン20の径方向に向かうピストン側段差部Kpの熱膨張が発生しても、ピストン側段差部Kpにおけるピストン20とシリンダ30との接触を回避できるので、スターリングエンジン100が安定して運転される。
【0058】
図8−1は、ピストン表面温度とピストンの材料及び環状部材の材料のひずみとの関係を示す説明図である。図8−2は、ピストン表面温度とピストンの材料及び環状部材の材料の応力との関係を示す説明図である。環状部材50をピストン20の縮径部21へ嵌め合わせて取り付けて、ピストン20の径方向に向かう熱膨張を抑制する場合、環状部材50には引張応力が発生して引張ひずみが発生し、ピストン20には圧縮応力が発生して圧縮ひずみが発生する。図8−1、図8−2は、図4−1、図5−1に示す環状部材50を嵌め合わせて取り付けたピストン20についてのシミュレーション結果を示している。シミュレーションの条件は次の通りである。
(1)ピストン20の材料はステンレスであり、より具体的にはSUS303、環状部材50の材料はチタンとする。
(2)ピストン表面温度Tpは、−50℃〜150℃とする。Tp=−50℃で環状部材50の内径Driとピストン20の縮径部21における外径Dp1とが一致するような関係で環状部材50をピストン20に嵌め合わせる。そして、図1に示すスターリングエンジン100の使用条件を考慮して、Tp=150℃とする。
(3)ピストン20の縮径部21の外径は85.5mm、縮径部21におけるピストン20の径方向厚さは0.75mmとする。
(4)環状部材50の径方向における寸法は0.25mmとする。なお、環状部材50の径方向における寸法は、図4−2の(Dro−Dri)/2で求めることができる。
(5)ピストン20、環状部材50の最大公差は10μmとする。
(6)最大締め代は20μmとする。ここで、最大締め代は、環状部材50をピストン20へ組み付ける前において、環状部材50が最小公差で製造でき、かつピストン20の縮径部21が最大公差で製造された場合の、縮径部21の外径と環状部材50の内径との差である。
【0059】
図8−1のεmax_tiはTiの最大ひずみ、εu_tiは公差上限におけるTiのひずみ、ε_tiは公差が0である場合におけるTiのひずみ、εmax_suはSUS303の最大ひずみ、εu_suは公差上限におけるSUS303のひずみ、ε_suは公差が0である場合におけるSUS303のひずみである。図8−2のσ_0.2_tiはTiの0.2%耐力、σu_tiは公差上限におけるTiの応力、σ_tiは公差が0である場合におけるTiの応力、σ_0.2_suはSUS303の0.2%耐力、σu_suは公差上限におけるSUS303の応力、σ_suは公差が0である場合におけるSUS303の応力である。
【0060】
図8−1から分かるように、上記条件の下では、環状部材50を構成するチタンのひずみ及びピストン20を構成するSUS303のひずみは、ともに弾性領域である。また、上記条件の下では、環状部材50を構成するチタンに発生する応力及びピストン20を構成するSUS303に発生する応力は、ともに0.2%耐力よりも小さい値である。このように、図1に示すスターリングエンジン100の使用条件を考慮した上記条件の下では、環状部材50及びピストン20ともに強度上の問題はなく使用できる。
【0061】
図9は、本実施形態に係るスターリングエンジンを内燃機関の排熱回収に用いる場合の構成例を示す模式図である。本実施形態では、スターリングエンジン100の出力を、スターリングエンジン用変速機5を介して内燃機関用変速機4へ入力し、内燃機関1の出力と合成して取り出す。
【0062】
本実施形態において、内燃機関1は、例えば、乗用車やトラック等の車両に搭載されて、前記車両の動力源となる。内燃機関1は、前記車両の走行中においては主たる動力源として出力を発生する。一方、スターリングエンジン100は、排ガスExの温度がある程度の温度にならないと、必要最低限の出力を生み出すことができない。したがって、本実施形態において、スターリングエンジン100は、内燃機関1の排出する排ガスExの温度が所定温度を超えたら内燃機関1の排ガスExから熱エネルギーを回収して出力を発生し、内燃機関1とともに前記車両を駆動する。このように、スターリングエンジン100は、前記車両の従たる動力源となる。
【0063】
スターリングエンジン100が備えるヒータ105は、内燃機関1の排気通路2内に配置される。なお、排気通路2内には、スターリングエンジン100の再生器(図1参照)106を配置してもよい。スターリングエンジン100が備えるヒータ105は、排気通路2に設けられる中空のヒータケース3内に設けられる。
【0064】
本実施形態において、スターリングエンジン100を用いて回収した排ガスExの熱エネルギーは、スターリングエンジン100で運動エネルギーに変換される。スターリングエンジン100の出力軸であるクランク軸110には、動力断続手段であるクラッチ6が取り付けられており、スターリングエンジン100の出力は、クラッチ6を介してスターリングエンジン用変速機5に伝達される。
【0065】
内燃機関1の出力は、内燃機関1の出力軸1sを介して内燃機関用変速機4に入力される。そして、内燃機関用変速機4は、内燃機関1の出力と、スターリングエンジン用変速機5から出力されるスターリングエンジン100の出力とを合成して、変速機出力軸9に出力し、デファレンシャルギヤ10を介して駆動輪11を駆動する。
【0066】
ここで、動力断続手段であるクラッチ6は、内燃機関用変速機4とスターリングエンジン100との間に設けられる。本実施形態では、スターリングエンジン用変速機5の入力軸5sとスターリングエンジン100のクランク軸110との間に設けられる。クラッチ6は、係合、解放することによって、スターリングエンジン100のクランク軸110と、スターリングエンジン用変速機5の入力軸5sとの機械的な接続を断続する。ここで、クラッチ6は、機関ECU50によって制御される。
【0067】
クラッチ6を係合すると、スターリングエンジン100のクランク軸110と内燃機関1の出力軸1sとは、スターリングエンジン用変速機5及び内燃機関用変速機4を介して直結される。これによって、スターリングエンジン100の発生する出力と内燃機関1の発生する出力とは、内燃機関用変速機4で合成され、変速機出力軸9から取り出される。一方、クラッチ6を開放すると、内燃機関1の出力軸1sはスターリングエンジン100のクランク軸110と切り離されて回転する。
【0068】
図9に示すスターリングエンジン100が備えるピストン(少なくとも高温側ピストン)は、上述した構成を備える。これによって、高温の作動流体から定常的に熱を受けて径方向へ熱膨張しても、ピストン、シリンダの少なくとも一方に設けられる段差部におけるピストンとシリンダとのクリアランスの急激な減少を抑制して、ピストンとシリンダとの接触を回避できる。その結果、車両に搭載されるスターリングエンジン100が振動を受けてピストンとシリンダとのクリアランスが変化したとしても、ピストンの径方向に向かう熱膨張に起因して発生する、前記段差部におけるピストンとシリンダとのクリアランスの急激な減少の影響が低減される。
【0069】
これによって、車両の走行中にスターリングエンジン100を運転している場合には、ピストンとシリンダとが接触するおそれを低減できるので、スターリングエンジン100を安定して運転できるとともに、ピストンやシリンダの耐久性低下を抑制できる。このように、本実施形態に係るスターリングエンジン100を、車両に搭載された内燃機関1の排熱回収に用いる場合には、安定して排熱を回収できるとともに、十分な耐久性を確保できる。
【0070】
以上、本実施形態では、ピストンの頂面側でピストン−シリンダ間のクリアランスを拡大する構成において、ピストンとシリンダとの少なくとも一方に形成される段差部からピストンの下死点の方向(すなわちピストンの頂面とは反対側の端部の方向)に向かって所定の範囲を、ピストンとシリンダとのクリアランスが徐々に狭くなるテーパー形状に形成する。これによって、段差部でピストンの径方向に向かう大きな熱膨張が発生した場合に、ピストンとシリンダとが接触するおそれを抑制して、安定してピストン機関を運転できる。特に、ピストンとシリンダとの間に気体軸受を介在させる構成においては、ピストンとシリンダとのクリアランスが非常に小さいため、ピストンの熱膨張によってピストンとシリンダとが接触しやすい。しかし、本実施形態によれば、ピストンとシリンダとが接触するおそれを抑制して、確実に気体軸受の機能を発揮させることができるので好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上のように、本発明に係るピストン機関及びスターリングエンジンは、ピストンリングを用いないで気体軸受によってピストンをシリンダ内に支持するピストン機関に有用であり、特に、ピストンとシリンダとの接触を回避することに適している。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本実施形態に係るピストン機関であるスターリングエンジンの構成を示す断面図である。
【図2】本実施形態に係るピストン機関であるスターリングエンジンが備える気体軸受の構成例、及びピストンの支持構造を示す説明図である。
【図3】スターリングエンジンの運転中におけるピストンの表面温度及び熱膨張を示す説明図である。
【図4−1】本実施形態に係るピストン機関であるスターリングエンジンが備えるピストン及びシリンダの構成を示す拡大図である。
【図4−2】本実施形態に係るピストンに取り付けられる環状部材を示す平面図である。
【図5−1】本実施形態に係るピストンの構成を示す模式図である。
【図5−2】本実施形態に係るシリンダの構成を示す模式図である。
【図6】本実施形態に係るスターリングエンジンの運転中におけるピストンの表面温度及び熱膨張を示す説明図である。
【図7】ピストンの熱膨張を示す説明図である。
【図8−1】ピストン表面温度とピストンの材料及び環状部材の材料のひずみとの関係を示す説明図である。
【図8−2】ピストン表面温度とピストンの材料及び環状部材の材料の応力との関係を示す説明図である。
【図9】本実施形態に係るスターリングエンジンを内燃機関の排熱回収に用いる場合の構成例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0073】
20 ピストン
20Bt 頂面反対側端部
20H 高温側ピストン
20L 低温側ピストン
20S 側周部
20Tt 頂面
21 縮径部
30 シリンダ
30Bt 頂部反対側端部
30H 高温側シリンダ
30L 低温側シリンダ
30S シリンダ内周面
30Tt 頂部側端部
50 環状部材
50S 側面
100 スターリングエンジン
100C 筐体
105 ヒータ
106 再生器
107 クーラー
108 熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内を往復運動するピストンを備えるピストン機関において、
前記ピストンの頂面から前記ピストンの頂面反対側端部に向かって所定位置までの部分の外径が、前記所定位置から前記ピストンの頂面反対側端部の外径よりも小さく形成される縮径部と、
前記縮径部に嵌め合わされる環状部材と、
を含むことを特徴とするピストン機関。
【請求項2】
前記環状部材は、前記縮径部における前記ピストンを構成する材料よりも熱膨張率の小さい材料で構成されることを特徴とする請求項1に記載のピストン機関。
【請求項3】
前記環状部材の外径は、前記所定位置から前記頂面反対側端部までにおける前記ピストンの外径と同一であることを特徴とする請求項1又は2に記載のピストン機関。
【請求項4】
前記ピストンと前記シリンダとの間には、気体軸受が介在することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のピストン機関。
【請求項5】
作動流体を加熱するヒータと、前記ヒータと接続されるとともに前記作動流体が通過する再生器と、前記再生器に接続されるとともに前記作動流体を冷却するクーラーとを含んで構成される熱交換器と、
前記熱交換器を通過した作動流体が流入し、流出するシリンダと、
前記シリンダ内を往復運動するピストンと、
前記ピストンの頂面から前記ピストンの頂面反対側端部に向かって所定位置までの部分の外径が、前記所定位置から前記ピストンの頂面反対側端部の外径よりも小さく形成される縮径部と、
前記縮径部における前記ピストンを構成する材料よりも熱膨張率の小さい材料で構成されて、前記縮径部に嵌め合わされる環状部材と、
前記シリンダと前記ピストンとの間に介在する気体軸受と、
を含むことを特徴とするスターリングエンジン。
【請求項6】
前記環状部材の外径は、前記所定位置から前記頂面反対側端部までにおける前記ピストンの外径と同一であることを特徴とする請求項5に記載のスターリングエンジン。
【請求項7】
前記ピストンは、近似直線機構によって支持されることを特徴とする請求項5又は6に記載のスターリングエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6】
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【図7】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−127519(P2009−127519A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−303285(P2007−303285)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】