説明

ピラゾロピリミジン化合物及びその用途

【課題】低分子のGIP機能阻害剤、更には、GIPの機能阻害に基づく肥満の予防又は改善剤を提供する。
【解決手段】以下の式


(式中、R1,R2はそれぞれ、ハロゲン原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、置換されていても良い、C1-6アルキル基又はC1-6アルキルオキシ基、−NR6R7を、R6,R7はそれぞれ水素、置換されていても良いC1-6アルキル基、R3は水素、C1-5アルキル基、R4は水素、置換されていても良い、C1-10アルキル基又はC1-10アルケニル基もしくはフェニル基、アミノ基、-COOR8、R8は水素、C1-6アルキル基、R5は水素、置換されていても良いC1-6アルキル基を示す。ただし、R1,R2,及びR5は同時に水素ではない。)
で表されるピラゾロピリミジン化合物又はその医薬的に許容される塩からなる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規ピラゾロピリミジン化合物、及び当該化合物を有効成分とするGIPの機能阻害剤、更には、肥満の予防又は改善剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
グルコースディペンデント-インスリノトロピックポリペプチド、別名ガストリックインヒビトリーポリペプチド(以下GIPと略す)は、グルカゴン・セクレチンファミリーに属する消化管ホルモンの一つである。GIPは、グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)とともにインクレチンと称され、摂食時に小腸に存在するK細胞より分泌され、膵β細胞においてグルコースによるインスリン分泌を促進することによって、摂食に伴う栄養素の体内動態を調節している。その他には、GIPには胃運動の抑制、腸液分泌刺激があるといわれている。しかしながら、発見当初の胃酸分泌抑制作用は現在では疑問視されている。GIP受容体遺伝子は、膵β細胞、脂肪細胞以外にも幅広く発現しており、GIPは他の組織での作用も有することが想定されるが、その詳細については明らかではない。
【0003】
一方、肥満は、現代日本人の食生活の欧米化により増加しており、脂肪肝、糖尿病、痛風、高血圧、動脈硬化等の生活習慣病の危険因子となっている。医学的には、肥満は、遺伝的および環境的原因による相対的なカロリーの過剰摂取の結果、脂肪の異常蓄積を来した病態と認識され、医療の対象とされている。肥満の治療は、食事療法と運動療法を組み合わせて行われ、食欲抑制剤を使用することは少ない。肥満の改善剤としては、現在我が国で臨床使用されているものは、マジンドール(サノレックス)だけであり、そのほかにはβ3アドレナリン受容体作動薬や中枢性作動薬、消化吸収阻害薬、脂質合成阻害薬、レプチンなどについて研究が展開されている。
【0004】
高度肥満症の食事・運動療法の補助薬として市販されているマジンドールは中枢性の食欲抑制薬であるが、臨床効果が不十分である上に、中枢性であるがために依存性の問題点が指摘されている。この他にも作用メカニズムの違う中枢性の食欲抑制薬が開発されているが、血圧増加、不安、頭痛などの中枢性の副作用が懸念される。脂質などの吸収抑制作用がメインであるリパーゼ阻害剤(オルリスタット)は重篤な副作用の報告はないものの、脂肪便や放屁などの副作用が報告されている。また、レプチンは摂食量減少とエネルギー消費亢進による体重増加抑制作用を有するとして、肥満の治療薬になりうると期待されたが、臨床試験の結果、治療効果に限界が認められた。β3受容体アゴニストも抗肥満薬として期待されているが、高い受容体選択性が必須であり、選択性が不十分であると心臓などに対する副作用が懸念される。
このように、様々な作用メカニズムに基づく抗肥満薬が市販・研究開発中であるが、十分な体重抑制作用と安全性を兼ね備えた薬剤は未だない。
【0005】
GIPと肥満との関係については殆ど研究がなされていなかったが、最近になって、その関係が明らかになりつつある。GIPの機能を探求する過程で、GIP受容体遺伝子欠損マウスを用いて高脂肪食負荷試験を行い、野生型マウスで発症する肥満が、GIP 受容体遺伝子欠損マウスにおいては抑制される事を見出した[K. Miyawakiら,”Inhibition of GIP Signaling Prevents Obesity”, abstract #335-PP, the 61st Scientific Sessions of American Diabetes Association (2001)]。これらGIP 受容体遺伝子欠損マウスは、通常食を与えた場合は野生型マウスと体重変化の差が認められなかったことから、GIPの機能を阻害することによる悪い影響はないと考えられる。
これらのことから、GIPが今までに提唱されていない新しい機序で肥満の原因となっていることが示唆され、GIPの機能を阻害する化合物、例えばGIP受容体拮抗剤やGIP産生抑制剤は、抗肥満作用を有し且つ安全な薬剤として有望である。
【0006】
GIPの機能を阻害する化合物としては、GIP受容体拮抗剤として、例えば、GIP(6-30)-NH2 (Regulatory Peptide 69巻 151頁-154頁,1997年)や、GIP(7-30)-NH2( Am J Physiol 1999年 276巻E1049頁-54頁)が挙げられる。しかし、これらは長鎖ペプチドであり、経口吸収性や血中安定性に問題があり、これを抗肥満剤とするのは適当ではない。
【0007】
また、GIPの機能を阻害する低分子化合物としては、3−ブロモ−5−メチル−2−フェニルピラゾロ[1,5-a]ピリミジン−7−オール(BMPP)(WO 01/87341)が知られている。しかしながら、BMPPはGLP-1およびグルカゴンに対する阻害活性も有し、GIP選択性が十分ではなく、この化合物を直ちに医薬品とするのは適当ではない。以上のように、GIPに対する選択性が十分な低分子化合物の機能阻害剤は未だ知られていない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、低分子のGIP機能阻害剤、更には、GIPの選択的な機能阻害に基づく、新しい作用メカニズムの肥満の予防又は改善剤を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、GIPがその受容体を発現した細胞に作用して起こる現象を阻害する薬剤を開発するため鋭意研究し、ピラゾロピリミジン化合物がGIPの機能を阻害する活性を有することを見出した。更に、これらの知見に基づいて研究した結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明によれば、以下の式
【化3】

(式中、R1, R2は同時にあるいは別々に、水素、ハロゲン原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、置換されていても良いC1-6アルキル基、置換されていても良いC1-6アルキルオキシ基、または−NR6R7を示し、R6, R7は同時にあるいは別々に水素または置換されていても良いC1-6アルキル基を示し、R3は水素またはC1-6アルキル基を、R4は水素、置換されていても良いC1-10アルキル基、置換されていても良いC1-10アルケニル基、置換されていても良いフェニル基、トリフルオロメチル基、または-COOR8を示し、R8は水素またはC1-6アルキル基を示し、R5は水素、置換されていても良いC1-6アルキル基、または置換されていても良いフェニル基を示す。ただし、R1, R2,及びR5は少なくとも一つは水素ではない。)
で表される化合物、またはその医薬的に許容される塩が提供され、これらの化合物は、本明細書中で以後“本発明化合物”と呼ぶ。本発明はまた、前記本発明化合物を有効成分とする、GIP機能阻害剤であるとともに、肥満の予防又は改善剤である。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明のピラゾロピリミジン化合物について、以下に詳細に説明する。本発明のピラゾロピリミジン化合物は、次式、
【化4】

(式中、R1, R2は同時にあるいは別々に、水素、ハロゲン原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、置換されていても良いC1-6アルキル基、置換されていても良いC1-6アルキルオキシ基、または−NR6R7を示し、R6, R7は同時にあるいは別々に水素または置換されていても良いC1-6アルキル基を示し、R3は水素またはC1-6アルキル基を、R4は水素、置換されていても良いC1-10アルキル基、置換されていても良いC1-10アルケニル基、置換されていても良いフェニル基、トリフルオロメチル基、または-COOR8を示し、R8は水素またはC1-6アルキル基を示し、R5は水素、置換されていても良いC1-6アルキル基、または置換されていても良いフェニル基を示す。ただし、R1, R2,及びR5は少なくとも一つは水素ではない。)
で表される化合物、またはその医薬的に許容される塩である。R1, R2,及びR5は少なくとも一つは水素ではないのは、GIP選択性を持たせるためである。
【0012】
これら本発明化合物の中でも、次式、
【化5】

(式中、R1〜R5は前記と同じ意味を有する。)
で示される化合物が活性面、GIP選択性面から好ましいと考えられる。さらに、これらの化合物の中で、R1,R2が同時にあるいは別々に、水素、置換されていても良いC1-6アルキル基、または置換されていても良いC1-6アルキルオキシ基であり、R3が水素であり、R4が置換されていても良いC1-10アルキル基であり、R5が水素または置換されていても良いC1-6アルキル基である化合物がより好ましい。これらの中でも、R1,R2,及びR4がメチル基であり、R3,R5が水素である式(II)の化合物が最適である。以下に、置換基等について、更に詳細に説明する。
【0013】
ここで、R1, R2における置換されていても良いC1-6アルキル基とは、C1-6アルキル基の任意の水素が-COOR9、-NR10R11、-CONHR12、-OR13、ハロゲン原子、フェニル基等により置換されていることを意味する。C1-6アルキル基とは、具体的には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、シクロペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル基等の直鎖又は分枝鎖状あるいは環状アルキル基が挙げられる。これらの中でも、C1-3アルキル基が好ましい。同様に、置換されていても良いC1-6アルキルオキシ基とは、C1-6アルキルオキシ基の任意の水素が-COOR9、-NR10R11、-CONHR12、-OR13、ハロゲン原子、フェニル基等により置換されていることを意味する。C1-6アルキルオキシ基とは、具体的には、メチルオキシ、エチルオキシ、プロピルオキシ、イソプロピルオキシ、シクロプロピルオキシ、ブチルオキシ、イソブチルオキシ、tert-ブチルオキシ、ペンチルオキシ、シクロペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、シクロヘキシルオキシ基等の直鎖又は分枝鎖状あるいは環状アルキルオキシ基が挙げられる。これらの中でも、C1-3アルキルオキシ基が好ましい。尚、R9は水素またはC1-6アルキル基を、R10, R11は同時にあるいは別々に水素またはC1-6アルキル基を、R12, R13は水素またはC1-6アルキル基を意味する。R9〜R13におけるC1-6アルキル基とは、具体的には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、シクロペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル基等の直鎖又は分枝鎖状あるいは環状アルキル基が挙げられる。これらの中でも、C1-3アルキル基が好ましい。また、R,RにおけるC1-6アルキル基とは、具体的には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、シクロペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル基等の直鎖又は分枝鎖状あるいは環状アルキル基が挙げられる。これらの中でも、C1-3アルキル基が好ましい。更に、R1,R2にハロゲン原子を選択する場合は、塩素が好ましい。
【0014】
R3におけるC1-6アルキル基としては、具体的には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、シクロペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル基等の直鎖又は分枝鎖状あるいは環状アルキル基が挙げられる。これらの中でも、C1-3アルキル基が好ましい。
【0015】
R4における置換されていても良いC1-10アルキル基、置換されていても良いC1-10アルケニル基とは、C1-10アルキル基、C1-10アルケニル基の任意の水素が、オキソ、ハロゲン原子、ニトロ、C1-6アルキルオキシ(好ましくはC1-3アルキルオキシ)、-COOR9、-NR10R11、-CONHR12、-OR13、フェニル基により置換されていることを意味する。C1-10アルキル基、C1-10アルケニル基としては、具体的には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソプロピル、シクロプロピル、ビニル、tert-ブチル、2−メトキシエチル、2−エトキシエチル、2−ブテニル、2−または3−ペンテニル、ペンチル、シクロペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル、オクチル、デシル基等が挙げられる。中でも、C1-6アルキル基、C1-6アルケニル基が好ましい。アルケニル基については、更に、C4-5アルケニル基が好ましい。尚、R9〜R13については、前述のとおりである。R4における置換されていても良いフェニル基とは、フェニル基の任意の水素が、好ましくは1〜3個の任意の水素がそれぞれ同時にあるいは別々に、ハロゲン原子、ニトロ、アミノ、C1-6アルキル(好ましくはC1-3アルキル)、C1-6アルキルオキシ(好ましくはC1-3アルキルオキシ)、フェニル基で置換されているフェニル基を意味する。また、R8のC1-6アルキル基としては、具体的には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、シクロペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル基等の直鎖又は分枝鎖状あるいは環状アルキル基が挙げられる。中でも、C1-3アルキル基が好ましい。
【0016】
R5における置換されていても良いC1-6アルキル基とは、C1-6アルキル基の任意の水素が、-COOR9または-NR14R15等により置換されていることを意味する。C1-6アルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、シクロペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル基等の直鎖又は分枝鎖状あるいは環状アルキル基が挙げられる。中でも、C1-3アルキル基が好ましい。尚、R9は前記と同じ意味を有し、R14、R15は同時にまたは別々に水素、C1-6アルキル基を意味し、またはR14、R15及び窒素原子とで脂環式複素環基を形成していても良い。脂環式複素環基に含まれるヘテロ原子の種類及び個数は限定されない。例えば、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子からなる群から選ばれる1または2以上のヘテロ原子を環構成原子として含んでいても良い。脂環式複素環基としては、たとえば、ピロリジニル基、モルホリル基、チオモルホリル基、ピロリニル基、ピペラジニル基、ジヒドロイソインドリル基、ジヒドロインドリル基、テトラヒドロキノリル基、フタリル基等が挙げられる。R5における置換されていても良いフェニル基とは、フェニル基の任意の水素が、好ましくは1〜3個の任意の水素がそれぞれ同時にあるいは別々に、ハロゲン原子、ニトロ、アミノ、C1-6アルキル(好ましくはC1-3アルキル)、C1-6アルキルオキシ(好ましくはC1-3アルキルオキシ)、フェニル基等で置換されているフェニル基を意味する。
【0017】
本発明のGIP機能阻害剤において含有されるピラゾロピリミジン化合物は、特開平7−2860に記載の方法、J. Heterocyclic Chem., Vol.31, 1333(1994)に記載の方法、あるいはこれに準ずる方法で製造することができる。以下に反応工程式を挙げて、本発明化合物の製造方法を説明する。
【0018】
【化6】
[反応工程式−1]

(式中、R1〜R5は前記と同じ意味を表す。)
上記反応工程式−1において、3−アミノピラゾール誘導体(III)と、β−ケトカルボン酸誘導体(IV)との縮合反応は、適当な溶媒中、室温〜還流温度の範囲で実施される。ここで用いられる溶媒としては、酢酸、エタノール、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド等を例示できる。ここでは、3−アミノピラゾール誘導体(III)に対して1〜10倍モル量の化合物 (IV)が使用され、反応は0.5〜10時間を要して完了し、所望の化合物(I)を得ることができる。また、官能基の保護基を脱離する必要があれば、保護基に応じた脱離方法により脱保護して、所望の化合物を得ることもできる。たとえば、カルボン酸エステルの加水分解は、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム等のアルカリと共に、適当な溶媒中、室温〜還流温度の範囲で実施される。ここで用いられる溶媒としては、エタノール、メタノール、テトラヒドロフラン等、またはこれらの溶媒と水との適当な比率の混合溶媒を例示できる。ここでエステルに対して1〜10倍モル量のアルカリが使用され、反応は0.5〜72時間を要して完了し、所望のカルボン酸を得ることができる。
【0019】
【化7】
[反応工程式−2]

(式中、R1〜R3は前記と同じ意味を有する。)
一方、原料として用いる3−アミノピラゾール誘導体(III)は、反応工程式―2に示す方法で製造することができる。まず、化合物(V)とアルキルニトリル誘導体との反応により、化合物(VI)を得ることができる。この反応は、エタノール、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン等の溶媒中、化合物(V)に対して等モル量〜小過剰量の塩基、例えば、ナトリウムエトキシド、水素化ナトリウム、金属ナトリウム等の存在下に、化合物(V)に対して等モル量〜小過剰量のアルキルニトリル誘導体を用いて、室温〜還流温度の条件下、0.5〜20時間を要して実施できる。
上記に引き続き、化合物(VI)を適当な溶媒、例えば、水、エタノール、テトラヒドロフラン中で、ヒドラジンと反応させて実施することができる。用いるヒドラジンは水和物でもよく、化合物(VI)に対して、等モル量〜小過剰量程度用いることができる。反応は、室温〜還流温度の条件で0.5〜20時間程度で終了する。
【0020】
上記それぞれの工程により得られる目的化合物は、通常の分離、精製手段により容易に単離することができる。このような単離手段としては、一般に慣用される各種の手段のいずれをも採用することができ、その例としては、再結晶、再沈、溶媒抽出、シリカゲルクロマトグラフィー等を例示できる。
【0021】
本発明化合物中には、医薬的に許容される酸付加塩とすることができるものもあり、これらの塩も本発明化合物に含まれる。上記酸付加塩を形成させ得る酸としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸等の無機酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸等の有機酸を例示でき、この酸付加塩の形成反応は常法に従うことができる。
【0022】
本発明の化合物は、GIPの機能阻害剤として提供されるだけでなく、肥満の予防又は改善剤としても提供される。その投与形態としては、「日本薬局方」製剤総則記載の各種投与形態が目的に応じて選択できる。例えば、錠剤の形態に成形するに際しては、通例、当該分野で用いられる経口摂取可能な成分を選択すればよい。例えば、乳糖、結晶セルロース、白糖、リン酸カリウム等の賦形剤がそれにあたる。更に、所望により、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、凝集防止剤等、通例製剤分野で常用される種々の添加剤を配合してもよい。
【0023】
本発明製剤中に含有されるべき一般式(I)で表される有効成分化合物の量は、特に限定されず広範囲より適宜選択される。有効成分化合物の投与量は、その用法、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度により適宜選択されるが、通常、本発明化合物の量が一日、体重1kg当り約0.01〜500mg程度と考えられる。また、本発明製剤は、一日に1〜4回に分けて投与することができる。しかしながら、投与量、回数は、治療すべき症状の程度、投与される化合物の選択及び選択された投与経路を含む関連する状況に鑑みて決定され、それ故、上記の投与量範囲及び回数は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0024】
以下に、実施例および参考例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0025】
【実施例1】
5−(3−メチルフェニル)-2H-ピラゾール−3−イルアミン
3−メチル安息香酸エチル10.9g、プロピオニトリル4.10gおよびナトリウムエトキシド6.80gのテトラヒドロフラン10ml懸濁物を油浴上で20時間還流した。室温に冷却した後、水100mlを加え濃塩酸でpH2に調整し、ジエチルエーテル(100mlx2)で抽出した。ジエチルエーテルを水洗(20mlx2)後、硫酸ナトリウムで乾燥させ減圧濃縮して、淡褐色シロップ状物として、3−オキソ−3−(3−メチルフェニル)プロピオニトリル10.1g(収率95.3%)を得た。
得られた3−オキソ−3−(3−メチルフェニル)プロピオニトリル5.00g、ヒドラジン水和物3.15gの水50ml懸濁物を油浴上で20時間還流した。室温に冷却した後、ジエチルエーテル(100mlx2)で抽出した。ジエチルエーテルを水洗(20mlx2)後、硫酸ナトリウムで乾燥させ減圧濃縮して、淡褐色シロップ状物として、目的とする5−(3−メチルフェニル)-2H-ピラゾール−3−イルアミン4.10g(収率75.4%)を得た。
ESI/MS(m/z):174(M+H)+. 1H-NMR(CDCl3)δ(ppm):2.36(3H,s,CH3), 6.52(1H,s, CH), 7.12-7.35 (4H,m, aromaticH).
【0026】
実施例1の方法を参考に、下記の反応式に従って化合物を製造した。製造した化合物とデータを表1に示した。
【化8】

【表1】

【0027】
【実施例26】
2−(3−メチルフェニル)−5−メチルピラゾロ[1,5-a]ピリミジン−7−オール
2−(3−メチルフェニル)−2H−ピラゾール−3−イルアミン100mg、アセト酢酸メチル67mgの酢酸3ml懸濁物を6時間環流した。室温に冷却した後、減圧濃縮して酢酸エチルに懸濁し、濾取して白色粉状物として目的とする2−(3−メチルフェニル)−5−メチルピラゾロ[1,5-a]ピリミジン−7−オール92.0mg(収率66%)を得た。
ESI/MS(m/z): 240(M+H)+、238(M-H)-.1H-NMR(DMSO-d6)δ(ppm):2.30(3H, s, CH3), 2.38(3H, s, CH3), 5.58(1H, s, aromatic H), 6.53(1H, s, aromatic H), 7.20-7.22(1H, d, J=7.7Hz, aromatic H), 7.33-7.36(1H, t, J=7.7Hz, aromatic H), 7.74-7.76(1H, d, J=7.7Hz, aromatic H), 7.80(1H, s, J=7.7Hz, aromatic H).融点:>300℃(分解)
【0028】
【実施例27】
2−(3,5−ジメチルフェニル)−5−メチルピラゾロ[1,5-a]ピリミジン−7−オール
2−(3,5−ジメチルフェニル)−2H−ピラゾール−3−イルアミン100mg、アセト酢酸メチル62mgの酢酸3ml懸濁物を6時間環流した。室温に冷却した後、減圧濃縮して酢酸エチルに懸濁し、濾取して白色粉状物として目的とする2−(3,5−ジメチルフェニル)−5−メチルピラゾロ[1,5-a]ピリミジン−7−オール75.6mg(収率57%)を得た。
ESI/MS(m/z):254(M+H)+、252(M-H)-.1H-NMR(DMSO-d6)δ(ppm):2.30(3H, s, CH3), 2.34(6H, s, Ph(CH3)2), 5.57(1H, s, aromatic H), 6.50(1H, s, aromatic H), 7.03(1H, s, aromatic H), 7.58(2H, s, aromatic H).融点:270℃(分解)
【0029】
実施例26の方法を参考に、下記それぞれの反応式に従って化合物を製造した。製造した化合物とデータを表2として示した。
【0030】
【化9】

【表2―1】

【表2―2】

【表2―3】

【0031】
【実施例78】
(2−(3,5−ジメチルフェニル)−7−ヒドロキシ−5−メチル−ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン−6−イル)酢酸
(2−(3,5−ジメチルフェニル)−7−ヒドロキシ−5−メチル−ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン−6−イル)酢酸メチルエステル150mgのメタノール5.0ml懸濁物に5N NaOH1.0mlを加え、室温にて48時間撹拌した。6N HClを加えてpH2に調整した後、水10mlを加え、生成した結晶を濾取し乾燥して、白色粉末状物として目的とする129mg(収率90%)を得た。
ESI/MS(m/z):310(M-H)-. 1H-NMR(DMSO)δ(ppm):2.30(3H, s, CH3), 2.34(6H, s, CH3), 3.47(2H, s, CH2), 6.52(1H, s, aromatic H), 7.03(1H, s, aromatic H),7.60(2H, s, aromatic H), 12.3(1H, s, OH).
【0032】
【実施例79】
2−(2−(3,5−ジメチルフェニル)−7−ヒドロキシ−5−メチル−ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン−6−イル)プロピオン酸
実施例31における(2−(3,5−ジメチルフェニル)−7−ヒドロキシ−5−メチル−ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン−6−イル)酢酸メチルエステルの代わりに、(2−(3,5−ジメチルフェニル)−7−ヒドロキシ−5−メチル−ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン−6−イル)プロピオン酸エチルエステルを用いる他は、実施例31と同じ処理を行うことによって、目的とする2−(2−(3,5−ジメチルフェニル)−7−ヒドロキシ−5−メチル−ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン−6−イル)プロピオン酸136mg(収率98%)を得た。ESI/MS(m/z):324(M-H)-. 1H-NMR(DMSO)δ(ppm):2.34(6H, s, CH3), 2.36(3H, s, CH3), 2.42(2H, t, J=7.2Hz, CH2), 2.67(2H, t, J=7.2Hz, CH2), 6.47(1H, s, aromatic H), 7.03(1H, s, aromatic H),7.59(2H, s, aromatic H), 12.2(1H, s, OH).
【0033】
【実施例80】
6−(3−アミノプロピル)−2−(3,5−ジメチルフェニル)−5−メチルピラゾロ[1,5-a]ピリミジン−7−オール
2−(3−(2−(3,5−ジメチルフェニル)−7−ヒドロキシ−5−メチル−ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン−6−イル)プロピル)イソインドール−1,3−ジオン150mgのDMF1.0ml溶液に無水ヒドラジン12mgを加え、油浴上100℃にて16時間撹拌した。減圧濃縮した後、シリカゲルカラムクロマト(クロロホルム/メタノール系)にて精製して、目的とする6−(3−アミノプロピル)−2−(3,5−ジメチルフェニル)−5−メチルピラゾロ[1,5-a]ピリミジン−7−オール53.4mg(収率51%)を得た。
ESI/MS(m/z):311(M+H)+. 1H-NMR(DMSO)δ(ppm):1.5-1.6 (2H, m, CH2), 1.74(6H, s, CH3), 2.34(3H, s, CH3), 2.4-2.5(2H, m, CH2), 3.0-3.1(2H, m, CH2), 6.45(1H, s, aromatic H), 7.03(1H, s, aromatic H),7.59(2H, s, aromatic H.
【0034】
【薬理試験例1】
GIP機能阻害剤(GIP受容体拮抗剤等)のスクリーニングには、GIP刺激時の細胞内情報伝達物質であるcAMPの産生阻害活性を指標とした以下の方法を用いた。
久保田らの方法(Diabetes 45 : 1701-1705, 1996)に従い、GIPcDNAをCHO細胞に導入したヒトGIPレセプター発現細胞を用いた。1mMイソブチルメチルキサンチン、5.6mM グルコース、0.5%牛血清アルブミンを含むリン酸緩衝生理食塩液pH7.4中で、37℃、30分間、薬剤存在下あるいは非存在下で100 pM GIPの刺激によりcAMPを産生させた。その後、cAMPアッセイシステム(PE バイオシステムズ)を用い、添付のLysis Bufferにて細胞を溶解し、細胞内に蓄積したcAMP量の測定を行い、検体によるGIP機能阻害活性を求めた。また、GIP受容体とは全く無関係な作用についても検証するために、GIP受容体遺伝子を導入しないCHO細胞を用いて、5μM forskolinで刺激した際のcAMP生成に対する検体の阻害作用も確認した。阻害活性はそれらのIC50値(GIPによるcAMPの産生を50%阻害するために必要な化合物の濃度)によって表した。GIP受容体遺伝子を導入しないCHO細胞においては、cAMP生成に対して阻害活性を示さないが、GIP受容体発現細胞において、GIP刺激によるcAMP生成を阻害する化合物を活性化合物とした。結果を表7に示す。表中の実施例番号が施された化合物は、GIP受容体遺伝子を導入しないCHO細胞においてはcAMP生成に対して阻害活性を示さないが、GIP受容体発現細胞においてGIP刺激によるcAMP生成を阻害した。すなわちGIPの機能を阻害したことを表す。
【0035】
【表3】

【0036】
【薬理試験例2】
本発明化合物の受容体選択性を確認するために、GIPと同様にグルカゴン・セクレチンファミリーに属するGLP-1及びglucagonの受容体を発現させたCHO細胞を用いて、それぞれGLP-1(60pM)又はglucagon(300 pM)で刺激した際のcAMP生成に対する検体の阻害活性を確認した。陽性対照としては、500 nM GIP(7-30)-NH2(tGIP)及びWO 01/87341記載のBMPPを使用した。表3に示した活性を有する化合物の内、いくつかの化合物は、GLP-1受容体またはglucagon受容体を発現させた細胞において、それぞれGLP-1又はglucagonで刺激した際のcAMP生成に対して阻害活性を示さなかった。結果を表4に示す。化合物27はグルカゴンに対する阻害活性はIC50=90μMである。GIPの阻害活性はIC50=7.7μMであるので、比較すると10倍以上の開きがあり、高い選択性が認められる。また、化合物27以外の化合物はGPL-1及びグルカゴンに対して全く阻害活性が認められない。
【0037】
【表4】

【0038】
【薬理試験例3】
本発明化合物について、3T3-L1細胞を用いた、GIPによるcAMP生成の阻害試験を行った。3T3-L1の継代培養には10% CS含有D-MEM(4.5g/liter glucose)を用いた。脂肪細胞への分化誘導は、24ウェルマイクロプレート上で行った。まず細胞をコンフルエントの状態にした後、100nM デキサメタゾン,500μM イソブチルメチルキサンチン,170nM インスリンを含む 10% FBS含有D-MEMで2日間処理を行ない、続いて2日間170nM インスリンを含む10% FBS 含有D-MEM中で培養することで分化誘導を行った。5日目以降は10% FBS含有D-MEMのみで培養した。インスリンのみの培地に換えた分化3日目前後より、細胞内に脂肪滴が形成され、以後経日的に脂肪滴が成長する模様が光顕レベルで確認された。
細胞内cAMPのアッセイは脂肪蓄積過程にある分化5〜8日目の細胞を用いて行なった。測定は、基本的にはGIP受容体発現細胞を用いたGIP受容体拮抗剤のスクリーニング法に準じて実施した。即ち、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)で2回洗浄後、1mM イソブチルメチルキサンチンを含む0.5%BSA添加HBSS(assay buffer)中で、25℃,15分間のプレインキュベーションを行なった。その後assay bufferにGIP等の刺激物および被検物質を加え、37℃,30分間の本インキュベーションを行なった。反応終了後、細胞内に産生蓄積したcAMP 量の測定をcAMPアッセイシステム(PE バイオシステムズ)を用いて実施した。阻害活性はそれらのIC50値(GIPによるcAMPの産生を50%阻害するために必要な化合物の濃度)によって表した。尚、比較対照として、WO 01/87341記載のBMPPを用いた。
実施例番号27及び70の化合物は、3T3-L1細胞において、GIPによるcAMP生成を阻害し、その活性はそれぞれIC50=1.9及び4.1であった。結果を表5に示す。
【0039】
【表5】

【0040】
【薬理試験例4】
本発明化合物について、高カロリー餌摂取マウスにおける、抗肥満作用を試験した。C57BL/6J雌性マウス((株)日本クレア)を馴化後(使用時19週令)使用した。マウスには通常餌(CRF-1粉末餌((株)オリエンタル酵母)),高カロリー餌(HCD:CRF-1に牛脂を8:2の割合で混合したもの)または高カロリー餌に化合物27を2000ppmで混合したものを与え、体重増加を観察した。実験例数は各群9例とした。
結果を図1に示す。通常食を与えた群では体重が増加しなかったが,高カロリー餌群では13日間で平均3.8g増加した。一方,高カロリー餌+化合物群では体重が増加せず,化合物27が高カロリー餌による肥満を有意に抑制した。このときの摂餌量は,通常餌群,高カロリー餌群,高カロリー餌+化合物群でそれぞれ5.7,4.9,5.8(g/mouse/day)であり、化合物による摂食抑制作用は認められなかった。このように、本特許化合物の肥満抑制効果をマウスにおいて確認できた。
【0041】
【発明の効果】
本発明は、今までにない、GIPの機能阻害という新しいメカニズムに基づく肥満の予防又は改善剤を提供する。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例27化合物の肥満抑制効果を示す線図である。Normalが、通常食を与えたマウスの体重変化を、HCDが、高カロリー食を与えたマウスの体重変化を、HCD+No.27が、高カロリー食に実施例27化合物を同時に与えたマウスの体重変化を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
【化1】

(式中、R1,R2は同時にあるいは別々に、水素、ハロゲン原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、置換されていても良いC1-6アルキル基、置換されていても良いC1-6アルキルオキシ基、または−NR6R7を示し、R6,R7は同時にあるいは別々に水素または置換されていても良いC1-6アルキル基を示し、R3は水素またはC1-6アルキル基を、R4は水素、置換されていても良いC1-10アルキル基、置換されていても良いC1-10アルケニル基、置換されていても良いフェニル基、トリフルオロメチル基、または-COOR8を示し、R8は水素またはC1-6アルキル基を示し、R5は水素、置換されていても良いC1-6アルキル基、または置換されていても良いフェニル基を示す。ただし、R1, R2, 及びR5は少なくとも一つは水素ではない。)
で表される化合物、またはその医薬的に許容される塩である化合物。
【請求項2】
一般式
【化2】

(式中、R1〜R5は前記と同じ意味を有する。)
で表される請求項1に記載の化合物、またはその医薬的に許容される塩である化合物。
【請求項3】
R1,R2が同時にあるいは別々に、水素、置換されていても良いC1-6アルキル基、または置換されていても良いC1-6アルキルオキシ基であり、R3が水素であり、R4が置換されていても良いC1-10アルキル基であり、R5が水素または置換されていても良いC1-6アルキル基である、請求項2に記載の化合物、またはその医薬的に許容される塩である化合物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の化合物を有効成分とする、GIPの機能阻害剤。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の化合物を有効成分とする、肥満の予防又は改善剤。

【図1】
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【公開番号】特開2006−213598(P2006−213598A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−74998(P2003−74998)
【出願日】平成15年3月19日(2003.3.19)
【出願人】(000144577)株式会社三和化学研究所 (29)
【Fターム(参考)】