説明

ピロリルピリミジンERKプロテインキナーゼインヒビターのプロドラッグ

本発明は、プロテインキナーゼのインヒビターとして有用な化合物に関する。本発明はまた、該化合物を含む薬学的に重要な組成物、およびその組成物を種々の疾患、状態または障害の処置に使用する方法を提供する。本発明の化合物およびその薬学的に受容可能な組成物は、種々の障害、特に癌などの増殖性障害を処置するため、またはそれらの障害の重篤度を軽減するために有用である。本明細書中に記載されるプロドラッグは、改善された親化合物の物理的かつ/または薬物動態学的特性を与える。本発明が提供する化合物はまた、生物学的現象および病理学的現象におけるキナーゼの研究、ならびにそのようなキナーゼが媒介する細胞内シグナル伝達経路の研究、そして新規キナーゼインヒビターの比較評価のために有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2004年5月14日出願の米国仮特許出願第60/571,283号への優先権を主張するものであり、その内容全体が本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(発明の技術分野)
本発明は、プロテインキナーゼのインヒビターとして有用な化合物に関する。本発明はまた、本発明の化合物を含む薬学的に受容可能な組成物、およびその組成物を種々の障害の治療に使用する方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
標的疾患と関連づけられる酵素および他の生体分子の構造の理解が深まることにより、近年、新規の治療因子の追求が大いに促進されている。広範な研究の対象である酵素のうちの1つの重要な種類は、プロテインキナーゼである。
【0004】
プロテインキナーゼは、構造的に関連する酵素の大ファミリーを構成しており、このファミリーが細胞内における種々のシグナル伝達プロセスの制御を担っている(非特許文献1を参照)。プロテインキナーゼは、それらの構造および触媒機能が保存されているため、1つの共通の祖先遺伝子から進化したと考えられている。ほぼ全てのキナーゼが、類似した250〜300アミノ酸の触媒ドメインを含んでいる。キナーゼは、それらがリン酸化する基質(例えば、タンパク質−チロシン、タンパク質−セリン/トレオニン、脂質など)によりファミリーに分類され得る。これらのキナーゼファミリーのそれぞれと一般的に対応する配列モチーフが同定されている(例えば、非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6を参照)。
【0005】
一般にプロテインキナーゼは、ヌクレオシド三リン酸からシグナリング経路に関与するタンパク質アクセプタへのホスホリル転移をもたらすことにより、細胞内シグナリングを媒介する。これらのリン酸化イベントは分子オン/オフスイッチとして作用し、標的タンパク質の生体作用を調整または調節し得る。これらのリン酸化イベントは、種々の細胞外刺激および他の刺激に応答して最終的にトリガされる。そのような刺激の例としては、環境的ストレスおよび化学的ストレスのシグナル(例えば、浸透圧ショック、熱ショック、紫外線、細菌内毒素およびH)、サイトカイン(例えば、インターロイキン1(IL−1)および腫瘍壊死因子a(TNF−a))、および成長因子(例えば、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)および繊維芽細胞成長因子(FGF))が挙げられる。細胞外刺激は、細胞増殖、細胞移動、細胞分化、ホルモン分泌、転写因子活性化、筋収縮、グルコース代謝、タンパク質合成制御、および細胞周期調節に関連する1つ以上の細胞性応答に作用し得る。
【0006】
多くの疾患が、プロテインキナーゼ媒介性イベントによってトリガされた異常細胞性応答と関連付けられる。これらの疾患としては、自己免疫疾患、炎症性疾患、骨疾患、代謝性疾患、神経系および神経変性疾患、癌、心血管疾患、アレルギーおよび喘息、アルツハイマー疾患およびホルモン関連疾患が挙げられる。したがって、医化学において、治療因子として有効なプロテインキナーゼインヒビターを見出すための実質的な取り組みがなされている。しかしながら、プロテインキナーゼと関連付けられる大半の状態に対して現在利用可能な処置のオプションがないことを考慮すると、これらのタンパク質標的を阻害する新規治療因子の必要性は依然として大きい。
【0007】
哺乳動物細胞は、分裂促進因子活性化タンパク質(MAP)キナーゼファミリーのメンバーが媒介するシグナリングカスケードを活性化することによって細胞外刺激に応答する。これらのメンバーとしては、細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)、p38 MAPキナーゼ、およびc−Jun N末端キナーゼ(JNK)が挙げられる。MAPキナーゼ(MAPK)は、種々のシグナル(成長因子、サイトカイン、紫外線およびストレス誘発因子を含む)によって活性化される。MAPKは、セリン/トレオニンキナーゼであり、それらの活性化は、活性化ループ中のThr−X−Tyrセグメントにおける、トレオニンおよびチロシンの二重のリン酸化によって起こる。MAPKは、転写因子を含む種々の基質をリン酸化して、次いで特定のセットの遺伝子の発現を調節することにより、刺激に対する特定の応答を媒介する。
【0008】
ERK2は、Thr183およびTyr185の両方がMAPキナーゼの上流キナーゼMEK1によってリン酸化される場合に最大活性を達成するプロテインキナーゼであって、広く分布している(非特許文献7;非特許文献8)。活性化の際、ERK2は多くの調節タンパク質(プロテインキナーゼRsk90(非特許文献9)およびMAPKAP2(非特許文献10)を含む)、および転写因子(例えば、ATF2(非特許文献11)、Elk−l(非特許文献11)、c−Fos(非特許文献12)およびc−Myc(非特許文献13))をリン酸化する。ERK2はまた、Ras/Raf依存性経路の下流標的であり(非特許文献14)、潜在的発癌性のこれらのタンパク質からシグナルをリレーする。ERK2は乳癌細胞の負の成長制御における役割を果たすことが示されており(非特許文献15)、ヒト乳癌におけるERK2の高発現(hyperexpression)が報告されている(非特許文献16)。活性ERK2もまた、エンドセリン誘発気道平滑筋細胞の繁殖に関連づけられ、喘息におけるこのキナーゼの役割が示唆される(非特許文献17)。
【0009】
レセプターチロシンキナーゼ(例えば、EGFRおよびErbB2)の過剰発現(非特許文献18;非特許文献19;非特許文献20)、およびRas GTPアーゼタンパク質における活性化突然変異(非特許文献21;非特許文献22)またはB−Raf変異体(非特許文献23;非特許文献24)が、ヒト癌の主要な誘因である。これらの遺伝子改変は、不良な臨床予後と相互に関連し、ヒト腫瘍の広範なパネルにおいてRaf−1/2/3−MEK1/2−ERK1/2シグナル伝達カスケードの活性化を引き起こす。活性ERK(すなわち、RRK1および/またはERK2)は、増殖、分化、足場非依存性細胞生残および新脈管形成の制御と関連づけられる中央シグナリング分子であり、悪性腫瘍の形成および進行に重要な多数のプロセスに寄与している。これらのデータは、ERK1/2インヒビターが多面発現活性(アポトーシス促進(proapoptotic)作用、抗増殖性作用、抗転移性作用、および抗脈管形成作用を含む)を発揮し、ヒト腫瘍の非常に広範なパネルに対して治療機会を与えることを示唆している。
【0010】
ERK MAPK経路の構成的活性化が特定の癌の発癌性に関与することを示す証拠が増大している。Rasの活性化突然変異は全癌のうちの約30%に見出され、膵癌(90%)および結腸癌(50%)など、中には著しく高い突然変異率を潜在的に有する癌もある(ref)。Ras突然変異はまた、メラノーマのうちの9〜15%において同定されているが、構成的活性化を与えるB−Raf体細胞ミスセンス突然変異はそれよりも頻繁に起こり、60〜66%の悪性メラノーマに見出される。Ras、RafおよびMEKの活性化突然変異は、インビトロにおいて繊維芽細胞を発癌性に形質転換し得、RasまたはRaf突然変異は、癌抑制遺伝子(例えば、p16INK4A)の減少とともに、インビボにおいて自然発生腫瘍が発達する原因となり得る。ERK活性の増大はこれらの方法で証明されており、また、適切なヒト腫瘍について広範に報告されている。B−Raf突然変異もしくはN−Ras突然変異またはオートクライン増殖因子活性化の結果として生じるメラノーマにおける高基礎ERK活性については多くの文献で証明されており、急速な腫瘍増殖、細胞生残の増大、およびアポトーシスに対する耐性と関連付けられている。さらに、ERK活性化は、細胞外マトリックス分解性プロテアーゼおよび侵入を促進するインテグリンの両方の発現増大、ならびにE−カドヘリン接着分子のダウンレギュレーションと関連付けられる、メラノーマの高転移性の主要な推進力と考えられている。E−カドヘリン接着分子は、常態ではケラチン合成細胞との相互作用を介してメラニン細胞の増殖を制御する。現在のところ処置不可能な疾患であるメラノーマの処置にとって、ERKが有望な治療標的であることを、これらのデータ全体が示している。
【非特許文献1】Hardie,G.およびHanks,S.、The Protein Kinase Facts Book,I and II、Academic Press、San Diego,CA、1995年
【非特許文献2】Hanks,S.K.,Hunter,T.、FASEB J.、1995年、9:576−596
【非特許文献3】Knightonら、Science、1991年、253:407−414
【非特許文献4】Hilesら、Cell、1992年、70:419−429
【非特許文献5】Kunzら、Cell、1993年、73:585−596
【非特許文献6】Garcia−Bustosら、EMBO J.、1994年、13:2352−2361
【非特許文献7】Andersonら、Nature、1990年、343、651
【非特許文献8】Crewsら、Science、1992年、258、478
【非特許文献9】Bjorbaekら、J.Biol.Chem.、1995年、270、18848
【非特許文献10】Rouseら、Cell、1994年、78、1027
【非特許文献11】Raingeaudら、Mol.Cell Biol.、1996年、16、1247
【非特許文献12】Chenら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1993年、90、10952
【非特許文献13】Oliverら、Proc.Soc.Exp.Biol.Med.、1995年、210、162
【非特許文献14】Moodieら、Science、1993年、260、1658
【非特許文献15】FreyおよびMulder、Cancer Res.、1997年、57、628
【非特許文献16】Sivaramanら、J Clin.Invest.、1997年、99、1478
【非特許文献17】Whelchelら、Am.J.Respir.Cell Mol.Biol.1997年、16、589
【非特許文献18】Arteaga CL、Semin Oncol.、2002年、29、3−9
【非特許文献19】Eccles SA、J Mammary Gland Biol Neoplasia、2001年、6:393−406
【非特許文献20】Mendelsohn JおよびBaselga J、Oncogene、2000年、19、6550−65
【非特許文献21】Nottage MおよびSiu LL、Curr Pharm Des、2002年、8、2231−42
【非特許文献22】Adjei AA、J Natl Cancer Inst、2001年、93、1062−74
【非特許文献23】Davies H.ら、Nature、2002年、417、949−54
【非特許文献24】Broseら、Cancer Res、2002年、62、6997−7000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、プロテインキナーゼのインヒビターとして有用な化合物を開発する必要性が大いにある。特にその活性化が関与する大半の障害に対して現在利用可能な不適切な治療を考慮すると、ERKプロテインキナーゼのインヒビターとして有用な化合物を開発することが特に望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(発明の要旨)
本発明の化合物およびその薬学的に受容可能な組成物が、ERKプロテインキナーゼのインヒビターの有効なプロドラッグであるということが、現在のところ見出されている。これらの化合物またはその薬学的に受容可能な塩は、一般式I:
【0013】
【化7】

を有し、ここでRは以下に定義する通りである。
【0014】
これらの化合物およびその薬学的に受容可能な組成物は、種々の障害、特に癌などの増殖性障害を処置するため、またはそれらの障害の重篤度を軽減するために有用である。本明細書中に記載されるプロドラッグは、改善された親化合物の物理的かつ/または薬物動態学的特性を与える。
【0015】
本発明が提供するこれらの化合物はまた、生物学的現象および病理学的現象におけるキナーゼの研究、ならびにそのようなキナーゼが媒介する細胞内シグナル伝達経路の研究、そして新規キナーゼインヒビターの比較評価のために有用である。
【0016】
(本発明の特定の実施形態の詳細な説明)
(1.本発明の化合物の概要)
本発明は、式I:
【0017】
【化8】

の化合物またはその薬学的に受容可能なその塩であって、ここで:
各Rは、独立して水素、T−C(O)R、T−C(O)OR、T−C(O)−Q−R、T−C(O)−、T−C(O)−(CH−C(O)N(R、T−C(O)(CH−CH(R)N(R、T−P(O)(ORであるが、ただし少なくとも1つのRが水素ではなく;
各Tは独立して、原子価結合かまたは−C(R)O−であり;
各Rは独立して、水素、必要に応じて置換されるC1〜6脂肪族基、または窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択される0〜4個のヘテロ原子を有し、必要に応じて置換される5〜8員の飽和、部分的に不飽和、または完全に不飽和の環であり;
各Rは独立して、水素、C(O)R、C(O)OR、S(O)、OR、必要に応じて置換されるC1〜6脂肪族基、または窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択される0〜4個のヘテロ原子を有し、必要に応じて置換される5〜8員の飽和、部分的に不飽和、または完全に不飽和の環であるか、または;
同じ窒素原子上の2つのRが、それらが結合している窒素原子と一緒になって、窒素原子に加え、窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択される1〜3個のヘテロ原子を有する4〜7員の飽和、部分的に不飽和、もしくは完全に不飽和の環を形成し;
各nが、0〜6であり;
Qは、必要に応じて置換されるC1〜10アルキリデン鎖であり、Qの0〜4個のメチレン単位が、−O−、−N(R)−、−S−、−S(O)−、−S(O)−、または−C(O)−により独立して置換され;そして
Rは水素、または必要に応じて置換されるC1〜6脂肪族である
化合物またはその薬学的に受容可能な塩に関する。
【0018】
(2.化合物および定義)
本発明の化合物は、上記に一般的に説明した化合物を含み、本明細書において開示されるクラス、サブクラス、および種によってさらに明示される。本明細書中で使用される場合、他に示さない限り、以下の定義が適用されるべきである。本発明において化学元素は、CASバージョンの元素周期表(Handbook of Chemistry and Physics、第75版)に従って同定される。さらに、有機化学の一般原理は、「Organic Chemistry」(Thomas Sorrell,University Science Books,Sausalito:1999)、および「March‘s Advanced Organic Chemistry」の第5版(Ed.:Smith,M.B.およびMarch,J.,John Wiley & Sons,New York:2001)に記載されており、これらの内容全体が本明細書に参考として援用される。
【0019】
本明細書中で使用される場合、用語「プロドラッグ」は、活性薬物を放出するために体内変換を必要とし、親薬物分子と比べて改善された物理的および/または送達特性を有する親薬物分子の誘導体についていう。プロドラッグは、親薬物分子と関連付けられる薬学および/または薬理学に基づく特性を向上させるように設計されている。プロドラッグの長所は、生理的pHにおいて非経口投与のための水溶性が親薬物と比較して高められるといったその物理的特性にあり、これにより消化管からの吸収を向上させるか、または長期保存のための薬物安定性を向上させ得る。近年、数種類の生物可逆性(bioreversible)誘導体が、プロドラッグの設計に利用するために開発されている。カルボキシル基または水酸基を含む薬物に対してプロドラッグの1種としてエステルを使用することは当該技術分野において公知であり、例えば、1992年にAcademic Pressから出版されたRichard Silvermanによる「The Organic Chemistry of Drug Design and Drug Interaction」に記載されている。
【0020】
本明細書中で使用される場合、用語「親化合物」は、式Iの化合物であって、その両方のR基が同時に水素である化合物について言う。
【0021】
用語「脂肪族」または「脂肪族基」は、本明細書中で使用される場合、完全に飽和しているかまたは1つ以上の不飽和の単位を含む直鎖(すなわち無枝)もしくは分枝の置換もしくは非置換炭化水素鎖か、あるいは完全に飽和しているかまたは1つ以上の不飽和の単位を含むが芳香族ではなく、その分子の残部へ1点で結合している単環式炭化水素または二環式炭化水素(本明細書中では「炭素環」、「脂環式」または「シクロアルキル」ともいう)を意味する。特に指定のない限り、脂肪族基は1〜20個の脂肪族炭素原子を含む。いくつかの実施形態において、脂肪族基は1〜10個の脂肪族炭素原子を含む。他の実施形態において、脂肪族基は1〜8個の脂肪族炭素原子を含む。さらに他の実施形態において、脂肪族基は1〜6個の脂肪族炭素原子を含み、なお他の実施形態において、脂肪族基は1〜4個の脂肪族炭素原子を含む。いくつかの実施形態において、「脂環式」(または「炭素環」もしくは「シクロアルキル」)は、完全に飽和しているかまたは1つ以上の不飽和の単位を含むが芳香族ではなく、その分子の残部へ1点で結合している単環式C〜C炭化水素、または二環式C〜C12炭化水素であって、該二環系中の個々の環がいずれも3〜7員を有するものについていう。適切な脂肪族基としては、これらに限定されないが、直鎖または分枝で置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、およびそれらの混成物(例えば、(シクロアルキル)アルキル、(シクロアルケニル)アルキル、または(シクロアルキル)アルケニル)が挙げられる。
【0022】
用語「ヘテロ脂肪族」は、本明細書中で使用される場合、1〜2個の炭素原子が1つ以上の酸素、硫黄、窒素、リン、またはケイ素により独立して置換される脂肪族基を意味する。ヘテロ脂肪族基は、置換または非置換で直鎖または分枝の環式または非環式であり得、「複素環」、「ヘテロシクリル」基、「ヘテロ脂環式」基、または「複素環式」基を含み得る。
【0023】
用語「複素環」、「ヘテロシクリル」、「ヘテロ脂環式」、または「複素環式」は、本明細書中で使用される場合、1つ以上の環員が独立して選択されるヘテロ原子である非芳香族の単環系、二環系、または三環系を意味する。いくつかの実施形態において、「複素環」、「ヘテロシクリル」基、「ヘテロ脂環式」基、または「複素環式」基は、3〜14個の環員を有し、1つ以上の環員が、酸素、硫黄、窒素、またはリンから独立して選択されるヘテロ原子であり、その系の各環は3〜7個の環員を含む。
【0024】
用語「ヘテロ原子」は、酸素、硫黄、窒素、リン、またはケイ素(窒素、硫黄、リン、またはケイ素の任意の酸化形態;任意の塩基性窒素の四級化形態または;複素環の置換可能な窒素、例えば、N(3,4−ジヒドロ−2H−ピロリルなどの場合)、NH(ピロリジニルなどの場合)、またはNR(N−置換ピロリジニルの場合)を含む)うちの1種以上を意味する。
【0025】
用語「不飽和の」は、本明細書中で使用される場合、1つの部分が1つ以上の不飽和の単位を有することを意味する。
【0026】
用語「アルコキシ」、または「チオアルキル」は、本明細書中で使用される場合、既定の通りのアルキル基であって、酸素原子(「アルコキシ」)または硫黄原子(「チオアルキル」)を通じて主炭素鎖に結合したものをいう。
【0027】
用語「ハロアルキル」、「ハロアルケニル」、および「ハロアルコキシ」は、場合により、1つ以上のハロゲン原子と置換されたアルキル、アルケニルまたはアルコキシを意味する。用語「ハロゲン」は、F、Cl、Br、またはIを意味する。
【0028】
単独で使用される、または「アラルキル」、「アラルコキシ(aralkoxy)」、もしくは「アリールオキシアルキル」などの場合により大きな部分の一部として使用される用語「アリール」は、総数5〜14個の環員を有する系であって、ここでその系の少なくとも1つの環が芳香族であり、その系の各環が3〜7個の環員を含む単環系、二環系、および三環系についていう。用語「アリール」は、用語「アリール環」と相互交換可能に使用され得る。用語「アリール」はまた、本明細書中以下に定義される通りのヘテロアリール環系のことをいう。
【0029】
単独で使用される、または「ヘテロアラルキル」、もしくは「ヘテロアリールアルコキシ」などの場合により大きな部分の一部として使用される用語「ヘテロアリール」は、総数5〜14個の環員を有する系であって、ここでその系の少なくとも1つの環が芳香族であり、その系の少なくとも1つの環が1つ以上のヘテロ原子を含み、その系の各環が3〜7個の環員を含む単環系、二環系、および三環系についていう。用語「ヘテロアリール」は、用語「ヘテロアリール環」または用語「ヘテロ芳香族」と相互交換可能に使用され得る。
【0030】
アリール(アラルキル、アラルコキシ、アリールオキシアルキルなどを含む)基、またはヘテロアリール(ヘテロアラルキルおよびヘテロアリールアルコキシなど)基は、1つ以上の置換基を含み得る。アリール基またはヘテロアリール基の不飽和炭素原子上の適切な置換基は、ハロゲン;R;OR;SR;1,2−メチレン−ジオキシ;1,2−エチレンジオキシ;Rで必要に応じて置換されるフェニル(Ph);Rで必要に応じて置換される−O(Ph);Rで必要に応じて置換される(CH1〜2(Ph);Rで必要に応じて置換されるCH=CH(Ph);NO;CN;N(R;NRC(O)R;NRC(O)N(R;NRCO;−NRNRC(O)R;NRNRC(O)N(R;NRNRCO;C(O)C(O)R;C(O)CHC(O)R;CO;C(O)R;C(O)N(R;OC(O)N(R;S(O);SON(R;S(O)R;NRSON(R; NRSO;C(=S)N(R;C(=NH)−N(R;または(CH0〜2NHC(O)Rから選択され、ここで各々独立して存在するRは、水素、必要に応じて置換されるC1〜6脂肪族、不飽和5〜6員ヘテロアリールもしくは複素環、フェニル、O(Ph)、またはCH(Ph)から選択される。あるいは上記の定義にかかわらず、同じ置換基もしくは異なる置換基上の独立して存在する2つのRは、各R基が結合している原子(または複数の原子)と一緒になって、窒素、酸素、または硫黄から独立して選択される0〜3個のヘテロ原子を有する3〜8員のシクロアルキル環、ヘテロシクリル環、アリール環、またはヘテロアリール環を形成する。Rの脂肪族基上の任意の置換基は、NH、NH(C1〜4脂肪族)、N(C1〜4脂肪族)、ハロゲン、C1〜4脂肪族、OH、O(C1〜4脂肪族)、NO、CN、COH、CO(C1〜4脂肪族)、O(ハロC1〜4脂肪族)、またはハロC1〜4脂肪族から選択され、ここでRの該C1〜4脂肪族基は、それぞれ非置換である。
【0031】
脂肪族基もしくはヘテロ脂肪族基、または非芳香族複素環は、1つ以上の置換基を含み得る。脂肪族基もしくはヘテロ脂肪族基、または非芳香族複素環の飽和炭素上の適切な置換基は、アリール基またはヘテロアリール基の不飽和炭素について上記に列挙した置換基から選択され、さらに次の:=O、=S、=NNHR、=NN(R、=NNHC(O)R、=NNHCO(アルキル)、=NNHSO(アルキル)、または=NRを含み、ここで各Rは、水素、または必要に応じて置換されるC1〜6脂肪族から独立して選択される。Rの脂肪族基上の任意の置換基は、NH、NH(C1〜4脂肪族)、N(C1〜4脂肪族)、ハロゲン、C1〜4脂肪族、OH、O(C1〜4脂肪族)、NO、CN、COH、CO(C1〜4脂肪族)、O(ハロC1〜4脂肪族)、またはハロ(C1〜4脂肪族)から選択され、ここでRの該C1〜4脂肪族基は、それぞれ非置換である。
【0032】
非芳香族複素環の窒素上の任意の置換基は、R、N(R、C(O)R、CO、C(O)C(O)R、C(O)CHC(O)R、SO、SON(R、C(=S)N(R、C(=NH)−N(R、またはNRSOから選択され;ここでRは、水素、必要に応じて置換されるC1〜6脂肪族、必要に応じて置換されるフェニル、必要に応じて置換されるO(Ph)、必要に応じて置換されるCH(Ph)、必要に応じて置換される(CH1〜2(Ph);必要に応じて置換されるCH=CH(Ph);または、酸素、窒素、もしくは硫黄から独立して選択される1〜4個のヘテロ原子を有する非置換5〜6員のヘテロアリールもしくは複素環である。あるいは上記の定義にかかわらず、同じ置換基もしくは異なる置換基上に独立して存在する2つのRは、各R基が結合している原子(または複数の原子)と一緒になって、窒素、酸素、または硫黄から独立して選択される0〜3個のヘテロ原子を有する3〜8員のシクロアルキル環、ヘテロシクリル環、アリール環、またはヘテロアリール環を形成する。Rの脂肪族基またはフェニル環上の任意の置換基は、NH、NH(C1〜4脂肪族)、N(C1〜4脂肪族)、ハロゲン、C1〜4脂肪族、OH、O(C1〜4脂肪族)、NO、CN、COH、CO(C1〜4脂肪族)、O(ハロC1〜4脂肪族)、またはハロ(C1〜4脂肪族)から選択され、ここでRの該C1〜4脂肪族基は、それぞれ非置換である。
【0033】
用語「アルキリデン鎖」は、完全に飽和しているかまたは1つ以上の不飽和の単位を有し、その分子の残部へ2点で結合している直鎖もしくは分枝炭素鎖をいう。
【0034】
上記に詳細に記載される通り、いくつかの実施形態において、独立して存在する2つのR(もしくはR、または本明細書中で同様に定義される任意の他の変数)は、各変数が結合している原子(または複数の原子)と一緒になって、窒素、酸素、または硫黄から独立して選択される0〜3個のヘテロ原子を有する3〜8員のシクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、またはヘテロアリール環を形成する。独立して存在する2つのR(もしくはR、または本明細書中で同様に定義される任意の他の変数)が、各変数が結合している原子(または複数の原子)と一緒になる場合に形成される例示的な環としては、これらに限定されないが、次の:a)同じ原子に結合し、その原子と一緒になって環を形成する独立して存在する2つのR(もしくはR、または本明細書中で同様に定義される任意の他の変数)、例えば、N(Rであって、ここで存在する両方のRが窒素原子と一緒になって、ピペリジン−1−イル基、ピペラジン−1−イル基、またはモルホリン−4−イル基を形成している独立して存在する2つのR(もしくはR、または本明細書中で同様に定義される任意の他の変数)、およびb)異なる原子に結合し、それら両原子と一緒になって環を形成する独立して存在する2つのR(もしくはR、または本明細書中で同様に定義される任意の他の変数)、例えば、フェニル基が独立して存在する2つのR
【0035】
【化9】

で置換される場合に独立して存在するこれら2つのRが、それらが結合している酸素原子と一緒になって酸素を含む縮合6員環:
【0036】
【化10】

を形成している独立して存在する2つのR(もしくはR、または本明細書中で同様に定義される任意の他の変数)が挙げられる。独立して存在する2つのR(もしくはR、または本明細書中で同様に定義される任意の他の変数)が各変数が結合している原子(または複数の原子)と一緒になる場合に種々の他の環が形成され得るということ、および上記に詳細に記載する例により限定する意図はないということが理解される。
【0037】
他に記載されない限り、本明細書中で描かれる構造は、すべての構造異性体(例えば、鏡像異性体、ジアステレオ異性体、および幾何異性体(または配座異性体))、例えば、各不斉中心についてのR配置およびS配置、(Z)二重結合異性体および(E)二重結合異性体、ならびに(Z)配座異性体および(E)配座異性体をも含むことが意図される。したがって、本発明の化合物の単一の立体異性体ならびに鏡像異性体、ジアステレオ異性体および幾何異性体(または配座異性体)の混合物が、本発明の範囲内にある。他に記載されない限り、本発明の化合物のすべての互変異性体が、本発明の範囲内にある。さらに、他に記載されない限り、本明細書中に描かれる構造は、1つ以上の同位体濃縮原子が存在する点でのみ異なる化合物を含むことも意図される。例えば、重水素もしくは三重水素による水素の置換、または13C−もしくは14C−濃縮炭素による炭素の置換以外では本構造を有する化合物が、本発明の範囲内にある。そのような化合物は、例えば、生物学的アッセイにおける分析ツールまたはプローブとして有用である。
【0038】
(3.例示的な化合物の説明)
特定の実施形態によると、式IのR部分はC(O)Rである。他の実施形態によると、式IのR部分はC(O)Rであって、ここでRは必要に応じて置換されるC1〜6脂肪族基である。そのようなR基の例としては、メチル、CHフェニル(「ベンジル」)、エチル、イソプロピル、t−ブチルなどが挙げられる。本発明の別の局面は、式Iの化合物に関し、ここでRはC(O)Rであり、Rは、窒素、酸素、または硫黄から独立して選択される0〜4個のヘテロ原子を有し、必要に応じて置換される5〜8員の飽和、部分的に不飽和、または完全に不飽和の環である。そのようなR基としては、窒素、酸素、または硫黄から独立して選択される1〜2個のヘテロ原子を有する5〜6員の複素環が挙げられる。そのようなR基の例としては、ピロリジン、モルホリン、チオモルホリン、ピペリジンなどが挙げられる。
【0039】
他の実施形態によると、式IのR部分はC(O)ORである。さらに他の実施形態において、式IのR部分はC(O)ORであって、ここでRは必要に応じて置換されるC1〜6脂肪族基である。そのようなR基の例としては、メチル、ベンジル、エチル、イソプロピル、t−ブチルなどが挙げられる。本発明の別の局面は、式Iの化合物に関し、ここでRはC(O)ORであり、Rは、窒素、酸素、または硫黄から独立して選択される0〜4個のヘテロ原子を有し、必要に応じて置換される5〜8員の飽和、部分的に不飽和、または完全に不飽和の環である。そのようなR基としては、必要に応じて置換されるフェニル、または窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択される1〜2個のヘテロ原子を有する5〜6員の複素環が挙げられる。そのようなR基の例としては、ピロリジン、モルホリン、チオモルホリン、ピペリジンなどが挙げられる。
【0040】
他の実施形態によると、式IのR部分はC(O)−Q−Rである。さらに他の実施形態は、式Iの化合物に関し、ここでRはC(O)−Q−Rであり、Qは必要に応じて置換されるC1〜8アルキリデン鎖であって、ここでQの0〜4個のメチレン単位が−O−、−N(R)−、−S−、−S(O)−、−S(O)−、または−C(O)−により独立して置換され、Rは上記および本明細書中に一般的にそしてクラスおよびサブクラスにおいて定義される通りである。別の実施形態によると、Qは必要に応じて置換されるC1〜8アルキリデン鎖であって、ここでQの2〜4個のメチレン単位は−O−により独立して置換される。そのようなQの基としては、−CHOCHCHO−、−CHOCHCHOCHCHO−などが挙げられる。
【0041】
本発明のさらに別の局面において、RがC(O)−(CH−CH(R)N(Rである式Iの化合物を提供する。特定の実施形態において、nは0〜2である。他の実施形態において、Rは必要に応じて置換されるC1〜6脂肪族基である。そのようなR基の例としては、メチル、ベンジル、エチル、イソプロピル、シクロプロピル、t−ブチルなどが挙げられる。式IのC(O)−(CH−CH(R)N(RのR基としては、水素、および必要に応じて置換されるC1〜6脂肪族基が挙げられる。そのような基の例としては、メチル、ベンジル、エチル、イソプロピル、t−ブチルなどが挙げられる。
【0042】
特定の実施形態において、式IのC(O)−(CH−CH(R)N(R部分はアミノ酸エステルを提供する。そのようなアミノ酸エステルとしては、バリンエステル、ロイシンエステル、イソロイシンエステル、α−t−ブチルグリシンエステル、ジメチルグリシンエステルなどが挙げられる。
【0043】
本発明により企図される別の局面は、式Iの化合物に関し、ここでC(O)−(CH−CH(R)N(R部分が、N−アルキルアミノ酸エステル、特にN−メチルアミノ酸エステルであって、該アミノ酸エステルが上記および本明細書中で記載するアミノ酸エステルを含むN−アルキルアミノ酸エステルを提供する。
【0044】
本発明の特定の実施形態において、式IのR基はP(O)(OR基である。他の実施形態において、P(O)(OR基の各Rは、独立して水素、または必要に応じて置換されるC1〜6脂肪酸基である。そのようなR基の例としては、メチル、ベンジル、エチル、イソプロピル、t−ブチルなどが挙げられる。さらに他の実施形態において、式IのR基はP(O)(OH)である。
【0045】
特定の実施形態において、式IのR基は、C(O)R、C(O)−(CH−CH(R)N(R、C(O)−Q−R、またはP(O)(OH)である。
【0046】
他の実施形態において、式IのR基は、C(O)OR、またはP(O)(ORである。
【0047】
本発明の一局面によると、Tが原子価結合であり、各R基が上記および本明細書中に一般的にそしてクラスおよびサブクラスにおいて定義される通りである式Iの化合物が提供される。
【0048】
本発明の別の局面によると、Tが−C(R)O−であり、各R基が上記および本明細書中に一般的にそしてクラスおよびサブクラスにおいて定義される通りである式Iの化合物が提供される。特定の実施形態において、Tが−CHO−であるといったように−C(R)O−の各R部分は水素である。他の実施形態において、−C(R)O−の各R部分は、独立して水素、メチル、エチル、またはプロピルである。
【0049】
式Iの代表的な化合物が、以下の表1に提示される。
【0050】
(表1.式Iの化合物の例)
【0051】
【化11】

【0052】
【化12】

【0053】
【化13】

【0054】
【化14】

【0055】
【化15】


【0056】
(4.本発明の化合物を提供する一般法)
本発明の親化合物は、当業者に公知の方法に従い、WO02/064586に記載される方法により、調製され得、該開示は本明細書中に参考として援用される。
【0057】
本発明の化合物は、一般に、当業者に公知である類似化合物の合成法および/または擬似合成法、そして以下に続く一般スキームおよび調製実施例により説明されるとおりの合成法および/または擬似合成法によって、調製または単離され得る。
【0058】
特定の典型的な実施形態が、上記および本明細書において描写され、そして記載されるが、本発明の化合物が、当業者に一般的に利用可能な方法による適切な出発物質を使用して、上記に一般的に記載される方法に従い調製され得る。さらなる実施形態が、本明細書においてより詳細に例示される。
【0059】
(5.使用、処方、および投与)
(薬学的に受容可能な化合物)
上記のように、本発明は、プロテインキナーゼのインヒビターである化合物を提供する故、本発明の化合物は、疾患、障害および状態(これらに限定されないが、癌、自己免疫障害、神経変性障害、神経系障害、総合失調症、骨関連障害、肝疾患、および心臓障害を含む)の処置に有用である。したがって、本発明の別の局面において、薬学的に受容可能な組成物が提供され、ここでこれらの組成物は、本明細書中に記載する任意の化合物を含み、必要に応じて、薬学的に受容可能なキャリア、アジュバント、またはビヒクルを含む。特定の実施形態において、これらの組成物は、必要に応じて、1つ以上のさらなる治療因子をさらに含む。
【0060】
本発明の特定の化合物は、処置に対し自由な形態で、または適切な場合にはその薬学的に受容可能な誘導体として存在し得ることも理解される。本発明によると、薬学的に受容可能な誘導体としては、これらに限定されないが、薬学的に受容可能な塩、エステル、そのようなエステルの塩、必要としている患者への投与の際に、直接的にまたは間接的に、本明細書中に別に記載する化合物または代謝産物もしくはその残留物を提供し得る任意の他の付加物または誘導体が挙げられる。
【0061】
本明細書中で使用される場合、用語「薬学的に受容可能な塩」は、不適当な毒性、刺激、アレルギー応答などがなく、健全な医学的判断の範囲内でヒトおよび下等動物の組織と接触する用途に適しており、妥当な受益性/危険性比率に見合う塩についていう。「薬学的に受容可能な塩」は、レシピアントへの投与の際に、直接的にまたは間接的に、本発明の化合物または阻害活性を有する(inhibitorily active)代謝産物もしくはその残留物を提供し得る任意の非中毒性の塩または本発明の化合物のエステルの塩を意味する。本明細書中で使用される場合、用語「阻害活性を有する代謝産物もしくはその塩」は、代謝産物またはその残留物もまた、ERK1プロテインキナーゼまたはERK2プロテインキナーゼのインヒビターであることを意味する。
【0062】
薬学的に受容可能な塩は、当該技術分野において周知である。例えば、S.M.Bergeらは、薬学的に受容可能な塩について、J.Pharmaceutical Sciences,1977,66,1−19に詳細に記載しており、本明細書中に参考として援用される。本発明の化合物の薬学的に受容可能な塩としては、適切な無機酸および無機塩基、ならびに適切な有機酸および有機塩基から誘導される塩が挙げられる。薬学的に受容可能な非毒性酸添加塩の例には、無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸、および過塩素酸)、もしくは有機酸(例えば、酢酸、シュウ酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、またはマロン酸)を用いてまたは当該技術分野において使用される他の方法(例えば、イオン交換)を使用することによって形成されるアミノ基の塩がある。他の薬学的に受容可能な塩としては、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重硫酸塩、ホウ酸塩、酪酸塩、樟脳酸塩、樟脳スルホン酸塩、クエン酸、シクロペンタンプロピオン酸塩、二グルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタン硫酸塩、蟻酸塩、フマル酸塩、グルコヘプトン酸塩、グリセロリン酸塩、グルコン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、ヨウ化水素酸塩、2−ヒドロキシ−エタンスルホン酸塩、ラクトビオン酸塩(lactobionate)、乳酸塩、ラウリン酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩(pamoate)、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3−フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、ウンデカン酸塩、吉草酸塩などが挙げられる。適切な塩基から誘導される塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、およびN(C1〜4アルキル)塩が挙げられる。本発明はまた、本明細書において開示される化合物の任意の塩基性窒素含有基の四級化を想定する。水溶性生成物、油溶性生成物または分散可能生成物が、そのような四級化により得られ得る。代表的なアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩としては、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどが挙げられる。さらなる薬学的に受容可能な塩としては、適切な場合には、対イオン(例えば、ハロゲン化物、水酸化物、カルボン酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、低級アルキルスルホン酸塩、およびアリールスルホン酸塩)を使用して形成される非中毒性アンモニウムカチオン、第四級アンモニウムカチオン、およびアミンカチオンが挙げられる。
【0063】
上記のように、本発明の薬学的に受容可能な組成物は、さらに薬学的に受容可能なキャリア、アジュバント、またはビヒクルを含み、本明細書中で使用される場合、そのような薬学的に受容可能なキャリア、アジュバント、またはビヒクルには、特定の望ましい投薬形態に適するような、あらゆる溶媒、希釈液、もしくは他の液体ビヒクル、分散補助物もしくは懸濁補助物、表面活性剤、等張剤、糊稠剤もしくは乳化剤、保存剤、固体結合剤、潤滑剤などが含まれる。「Remington’s Pharmaceutical Sciences」第16版、E.W.Martin(Mack Publishing Co.,Easton,Pa.、1980年)は、薬学的に受容可能な組成物の形成に使用される種々のキャリア、およびそれらを調整するための公知の技術を開示している。何らかの望ましくない生物学的作用を生むことによるか、他には薬学的に受容可能な組成物の任意の他の成分(または複数の成分)と有害な様式で相互に作用することなどにより、任意の従来のキャリア媒体が本発明の化合物に適合しない場合を除き、その従来のキャリア媒体の使用は本発明の範囲内であることが企図される。薬学的に受容可能なキャリアとして役立ち得る物質のいくつかの例としては、これらに限定されないが、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質(例えば、ヒト血清アルブミン)、緩衝物質(例えば、リン酸塩、グリシン、ソルビン酸、またはソルビン酸カリウム)、飽和植物性脂肪酸の一部のグリセリド混合物、水、塩類または電解質類(例えば、硫酸カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイドシリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸塩、ワックス、ポリエチレン−ポリオキシプロピレン−ブロックポリマー、ラノリン、糖類(例えば、ラクトース、グルコース、およびスクロース);スターチ類(例えば、コーンスターチ、およびポテトスターチ);セルロースおよびその誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、および酢酸セルロース);粉末トララガント;モルト;ゼラチン;タルク;賦形剤(例えば、ココアバター、および坐剤ワックス);油(例えば、ピーナツ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油、およびダイズ油);グリコール(例えば、プロピレングリコール、またはポリエチレングリコール);エステル(例えば、オレイン酸エチル、およびラウリン酸エチル);寒天;緩衝剤(例えば、水酸化マグネシウム、および水酸化アルミニウム);アルギン酸;パイロジェンフリー水、等張性生理食塩水、リンガー液;エチルアルコール;リン酸緩衝溶液;ならびに他の適合性のある非中毒性潤滑剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、およびステアリン酸マグネシウム)が挙げられ、そして着色剤、解除剤、コーティング剤、甘味剤、香味剤、芳香剤、保存剤、および酸化防止剤もまた、処方者の判断により、組成物中に存在し得る。
【0064】
(化合物および薬学的に受容可能な組成物の使用)
さらに別の局面において、必要としている被験体に、本発明の化合物、または本発明の化合物を含む薬学的に受容可能な組成物の有効量を投与する工程を含む、癌、自己免疫障害、神経変性障害、神経系障害、肝疾患、または心臓障害を処置するための方法、またはそれらの重篤度を軽減するための方法を提供する。本発明の特定の実施形態において、化合物または薬学的に受容可能な組成物の「有効量」は、癌、自己免疫障害、神経変性障害、神経系障害、総合失調症、骨関連障害、肝疾患、もしくは心臓障害から選択される疾患、状態、もしくは障害を処置するための有効量、またはそれらの重篤度を軽減するための有効量である。本発明の方法によると、これらの化合物および組成物は、癌、自己免疫障害、神経変性障害、神経系障害、総合失調症、骨関連障害、肝疾患、もしくは心臓障害を処置するのに有効な任意の投与量および投与経路、またはこれらの重篤度を軽減するのに有効な任意の投与量および投与経路を使用して投与され得る。必要とされる正確な量は、被験体の種、年齢、および全身状態(general condition)、感染の重篤度、特定因子、その投与形態などにより、被験体間で異なる。本発明の化合物は、好ましくは、投与を容易にし、かつ投薬量を均一にするための投薬量単位形態で処方される。「投薬量単位形態」という表現は、本明細書中で使用される場合、処置されるべく患者にとって適切な物理的に独立した薬剤単位についていう。しかしながら、本発明の化合物および組成物の一日の合計使用量は、健全な医学的判断の範囲内で担当医により決定されることが理解される。任意の特定の患者または生物体に対して特異的な有効用量レベルは、処置しようとする障害およびその障害の重篤度;使用される特定の化合物の活性;使用される特定の組成物;その患者の年齢、体重、全体的な健康、性別および食生活;投与時間、投与経路、および使用される特定の化合物の分泌率;処置の期間;使用される特定の化合物と組み合せてまたは併用して使用される薬物を含む種々の要因、ならびに医学分野において周知の同様な要因により左右される。用語「患者」は、本明細書中で使用される場合、動物を意味し、好ましくは哺乳動物であり、最も好ましくはヒトである。
【0065】
本発明の薬学的に受容可能な組成物は、処置しようとする感染の重篤度により、経口的に、直腸から、非経口的に、嚢内、膣内、腹腔内から、(粉末、軟膏、または点滴などにより)局所的に、(経口噴霧または鼻内噴霧として)頬(bucally)からなどにより、ヒトおよび他の動物に対して投与され得る。特定の実施形態において、本発明の化合物は、所望の治療効果を得るために、1日に被験体の体重1kg当たり約0.01mg〜約50mg、好ましくは約1mg〜約25mgの投薬量レベルを1日に1回または複数回に分けて、経口的にまたは非経口的に投与され得る。
【0066】
経口投与のための液体投薬形態としては、これらに限定されないが、薬学的に受容可能なエマルション、ミクロエマルション、溶液、懸濁液、シロップ剤、およびエリキシル剤が挙げられる。活性化合物に加え、これらの液体投薬形態は、当該技術分野において一般的に使用される不活性希釈液、例えば、水または他の溶媒、可溶化剤および乳化剤(例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油類(特に、綿実油、落花生油、コーン油、胚芽(germ)油、オリーブ油、ヒマシ油、およびゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール、ソルビタン脂肪酸エステル、およびこれら混合物など)を含み得る。不活性希釈液に加えて、この経口組成物はまた、湿潤剤、乳化剤、および懸濁剤、甘味剤、香味剤、および芳香剤などのアジュバントを含み得る。
【0067】
注射可能な調製物、例えば、滅菌の注射可能な水性懸濁液または油性懸濁液は、適切な分散剤または湿潤剤、および懸濁剤を使用して、公知の技術により処方され得る。この滅菌の注射可能な調製はまた、非中毒性の非経口的に受容可能な希釈剤または溶媒(例えば、1.3−ブタンジオール中の溶液として)中の、滅菌の注射可能溶液、懸濁液またはエマルションであり得る。使用し得る受容可能なビヒクルおよび溶媒としては、水、リンガー溶液、U.S.Pおよび等張性塩化ナトリム溶液が挙げられ得る。加えて、滅菌の不揮発性油は、溶媒または懸濁媒体として従来的に使用される。このために、合成モノグリセリドまたは合成ジグリセリドを含む任意の無刺激性の不揮発性油が使用され得る。加えて、オレイン酸などの脂肪酸が、注射可能物質の調製に使用される。
【0068】
注射可能な処方物は、例えば細菌保持フィルター(bacterial−retaining filter)に通して濾過することにより、または使用前に、滅菌剤を滅菌水または他の滅菌注射可能媒体中に溶解するか、または分散し得る滅菌固体組成物の形態で組み込むことによって滅菌し得る。
【0069】
本発明の化合物の効果を長引かせるために、皮下注射または筋肉注射からの化合物の吸収を遅らせることがしばしば望ましい。これは、水溶性に乏しい結晶性物質または非結晶性物質の懸濁液の使用により達成し得る。次いで、この化合物の吸収速度は、溶解速度に左右され、そしてこの溶解速度は、結晶の大きさおよび結晶形態に左右され得る、あるいは、非経口的に投与される化合物形態の吸収速度の低下は、油状のビヒクル中に化合物を溶解させるかまたは懸濁させることにより達成される。注射可能な蓄積形態は、生分解性のポリマー(例えば、ポリ乳酸−ポリグリコリド)で、化合物のマイクロカプセルマトリックスを形成することにより作製され得る。ポリマーに対する化合物の比率、および使用される特定のポリマーの性質により、化合物の放出速度が制御され得る。他の生分解性ポリマーの例としては、ポリ(オルトエステル)、およびポリ(無水物)が挙げられる。蓄積注射の処方はまた、リポソーム、または体組織に適合するミクロエマルション中に化合物を閉じ込めることによっても調製される。
【0070】
直腸投与または膣投与のための組成物は、好ましくは坐剤であり、この坐剤は、適切な無刺激の賦形剤またはキャリア(例えば、ココアバター、ポリエチレングリコール、または坐剤ワックス)と本発明の化合物とを混合することにより調製し得、周囲温度では固体であるが、体温では液体であり、したがって、直腸または膣腔において融解して活性化合物を放出する。
【0071】
経口投与のための固形投薬形態としては、カプセル剤、錠剤、丸剤、粉剤、および顆粒剤が挙げられる。そのような固形投薬形態では、活性化合物を少なくとも1つの不活性な薬学的に受容可能な賦形剤またはキャリア(例えば、クエン酸ナトリウム、またはリン酸二カルシウム、および/またはa)充填剤または増量剤(例えば、スターチ、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、およびケイ酸)、b)結合剤(binder)(例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリジノン(polyvinylpyrrolidinone)、スクロース、およびアカシア)、c)保湿剤(例えば、グリセロール)、d)崩壊剤(例えば、寒天、カルボン酸カルシウム、ポテトスターチ、タピオカスターチ、アルギン酸、特定のケイ酸塩、およびカルボン酸ナトリウム)、e)溶解遅延剤、(例えば、パラフィン)、f)吸収促進剤(例えば、第四級アンモニウム化合物)、g)湿潤剤(例えば、セチルアルコール、およびモノステアリン酸グリセロール)、h)吸収剤(例えば、カオリン、およびベントナイト粘土)、およびi)潤滑剤(例えば、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固形ポリエチレングリコール、ラルリル硫酸ナトリウム、およびこれらの混合物))と混合される。カプセル剤、錠剤、および丸剤の場合には、この投薬形態は、緩衝剤も含み得る。
【0072】
同様な型の固形組成物はまた、ラクトースもしくは乳糖、そして高分子量のポリエチレングリコールなどを賦形剤として使用する軟質充填ゼラチンカプセルおよび硬質充填ゼラチンカプセル中の充填剤として使用され得る。錠剤、糖衣丸、カプセル剤、丸剤および顆粒剤の固形投薬形態は、コーティング剤および薬莢(例えば、腸溶性コーティング剤および薬剤処方技術分野において周知の他のコーティング剤)を用いて調製し得る。それらは必要に応じて不透明化剤を含み得、活性成分(または複数の活性成分)のみを放出し、好ましくは、腸管の特定部分において放出し、必要に応じて放出を遅らせる組成物であり得る。使用され得る包理組成物の例としては、ポリマー物質およびワックスが挙げられ得る。同様な型の固形組成物もまた、ラクトースもしくは乳糖、そして高分子量のポリエチレングリコールなどを賦形剤として使用する軟質充填ゼラチンカプセルおよび硬質充填ゼラチンカプセル中の充填剤として使用され得る。
【0073】
活性化合物はまた、1種以上の上記賦形剤を用いたミクロ被包性形態であり得る。錠剤、糖衣丸、カプセル剤、丸剤および顆粒剤の固形投薬形態は、コーティング剤および薬莢(例えば、腸溶性コーティング剤、放出制御コーティング剤および薬剤処方技術分野において周知の他のコーティング剤)を用いて調製し得る。そのような固形投薬形態において、活性化合物は、少なくとも1種の不活性希釈剤(例えば、スクロース、ラクトース、またはスターチ)と混合され得る。そのような投薬形態はまた、通常の実施と同様に、不活性な希釈剤とは異なるさらなる物質(例えば、錠剤化潤滑剤、および他の錠剤化助剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、および微結晶性セルロース)を包含し得る。カプセル剤、錠剤、および丸剤の場合には、それらの投薬形態はまた、緩衝剤を含み得る。これらは必要に応じて、不透明化剤を含み得、活性成分(または複数の活性成分)のみを放出し、好ましくは、腸管の特定部分において放出し、必要に応じて放出を遅らせる組成物であり得る。使用され得る包理組成物の例としては、ポリマー物質およびワックスが挙げられ得る。
【0074】
本発明の化合物の局所的投与または経皮的投与のための投薬形態としては、軟膏剤、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、粉末、溶液、スプレー、吸入剤、またはパッチが挙げられる。活性成分は滅菌条件下で、薬学的に受容可能なキャリアおよび必要とされる任意の保存剤、または必要とされ得る緩衝剤と混合される。眼に対する処方物、点耳剤、および点眼剤もまた、本発明の発明の範囲内であると企図される。さらに本発明は、身体への化合物の制御された送達を提供するといったさらなる利点がある経皮パッチの使用を企図する。そのような投薬形態は、適切な媒体中に化合物を溶解させるかまたは分散させることにより作製され得る。吸収改善剤もまた、皮膚面における化合物のフラックスを増大させるために使用され得る。この速度は、速度を制御する膜を提供するかまたはポリマーマトリックスもしくはゲル中にその化合物を分散させることにより、制御され得る。
【0075】
上に一般的に記載されるように、本発明の化合物はERKプロテインキナーゼのインヒビターとして有用である。一実施形態において、本発明の化合物および組成物は、ERK1およびERK2プロテインキナーゼの片方または両方のインヒビターである。特定の原理によって縛られることなく、これらの化合物および組成物は、ERK1およびERK2プロテインキナーゼの片方または両方の活性化が、疾患、状態、または障害に関連付けられる、疾患、状態、障害の処置、またはそれらの重篤度の軽減に特に有用である。ERK1および/またはERK2プロテインキナーゼの活性化が特定の疾患、状態、または障害に関連付けられる場合、この疾患、状態、または障害はまた、「ERK1もしくはERK2媒介性疾患」、状態、または疾患症状についてもいう。したがって、別の局面において、本発明は、ERK1およびERK2プロテインキナーゼの片方または両方の活性化が、該疾患、状態、または障害に関連付けられる疾患、状態、障害を処置するための方法か、またはそれらの重篤度を軽減する方法を提供する。
【0076】
ERK1および/またはERK2プロテインキナーゼのインヒビターとして本発明で利用される化合物の活性は、インビトロ、インビボ、または細胞株中でアッセイされ得る。インビトロアッセイは、活性ERK1または活性ERK2プロテインキナーゼのリン酸化活性またはATPアーゼ活性の阻害を決定するアッセイを含む。代替インビトロアッセイは、ERK1プロテインキナーゼまたはERK2プロテインキナーゼと結合するインヒビターの能力を定量化する。インヒビター結合は、結合前にインヒビターを放射標識付けし、インヒビター/ERK1複合体またはインヒビター/ERK2複合体を単離し、結合した放射標識の量を決定することによって測定され得る。あるいは、インヒビター結合は、公知の放射性リガンドと結合しているERK1プロテインキナーゼまたはERK2プロテインキナーゼとともに新規インヒビターをインキュベートする競合実験を実施することにより決定され得る。
【0077】
用語「測定可能な程度阻害する」は、本明細書中で使用される場合、前記組成物およびERK1プロテインキナーゼまたはERK2プロテインキナーゼを含むサンプルと前記組成物は含まずERK1プロテインキナーゼまたはERK2プロテインキナーゼを含む等価サンプルとの間で見られるERK1プロテインキナーゼまたはERK2プロテインキナーゼ活性の測定可能な変化を意味する。プロテインキナーゼ活性のそのような測定は、当業者に公知であり、以下本明細書において提示する方法を含む。
【0078】
別の実施形態によると、本発明は、患者においてERK1プロテインキナーゼまたはERK2プロテインキナーゼ活性を阻害する方法であって、該患者に本発明の化合物または該化合物を含む組成物を投与する工程を包含する方法に関する。
【0079】
用語「ERK媒介性状態」または「ERK媒介性疾患」は、本明細書中で使用される場合、ERKが役割を果たすことが公知である任意の疾患または他の有害な状態を意味する。用語「ERK媒介性状態」または「ERK媒介性疾患」はまた、ERKインヒビターで処置することにより緩和される疾患または状態を意味する。そのような状態としては、これらに限定されないが、癌、脳卒中、糖尿病、肝肥大、心血管疾患(心肥大を含む)、アルツハイマー疾患、嚢胞性繊維症、ウイルス性疾患、自己免疫疾患、アテローム性動脈硬化症、再狭窄、乾癬、アレルギー性障害(喘息を含む)、炎症、神経系障害、およびホルモン関連疾患が挙げられる。用語「癌」としては、これらに限定されないが、次の癌:乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、前立腺癌、精巣癌、尿路性器(genitourinary tract)癌、食道癌、喉頭癌、神経グリア芽細胞腫、神経芽腫、胃癌、皮膚癌、角化棘細胞腫、肺癌、類表皮癌、大細胞癌、小細胞癌、肺腺癌、骨癌、結腸癌、アデノ−マ、膵臓癌、腺癌、甲状腺癌、濾胞状癌、未分化癌腫、乳頭状癌、精上皮腫、メラノーマ、肉腫、膀胱腫、肝臓腫、胆道癌、腎臓腫、骨髄性障害、リンパ球系障害、ホジキン病、ヘアリーセル、口腔前庭および咽頭(口腔)癌、口唇癌、舌癌、口腔癌、咽頭癌、小腸癌、結腸−直腸癌、大腸癌、直腸癌、脳および中枢神経系腫瘍、ならびに白血病が挙げられる。
【0080】
したがって、本発明の別の実施形態は、ERKの役割を果たすことが公知である1種以上の疾患を処置すること、またはそれらの重篤度を軽減することに関する。特に、本発明は、癌、脳卒中、糖尿病、肝肥大、心血管疾患(心肥大を含む)、アルツハイマー疾患、嚢胞性繊維症、ウイルス性疾患、自己免疫疾患、アテローム性動脈硬化症、再狭窄、乾癬、アレルギー性障害(喘息を含む)、炎症、神経系障害、およびホルモン関連疾患から選択される疾患または状態を処置する方法、またはそれらから選択される疾患または状態の重篤度を軽減する方法であって、必要としている患者に対し、本発明による組成物を投与する工程を包含する方法に関する。
【0081】
別の実施形態によると本発明は、乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、前立腺癌、精巣癌、尿路性器癌、食道癌、喉頭癌、神経グリア芽細胞腫、神経芽腫、胃癌、皮膚癌、角化棘細胞腫、肺癌、類表皮癌、大細胞癌、小細胞癌、肺腺癌、骨癌、結腸癌、アデノ−マ、膵臓癌、腺癌、甲状腺癌、濾胞状癌、未分化癌腫、乳頭状癌、精上皮腫、メラノーマ、肉腫、膀胱腫、肝臓腫、胆道癌、腎臓腫、骨髄性障害、リンパ球系障害、ホジキン病、ヘアリーセル、口腔前庭および咽頭(口腔)癌、口唇癌、舌癌、口腔癌、咽頭癌、小腸癌、結腸−直腸癌、大腸癌、直腸癌、脳および中枢神経系腫瘍から選択される癌、ならびに白血病を処置する方法に関する。
【0082】
別の実施形態は、必要としている患者におけるメラノーマ、乳癌、結腸癌、または膵癌を処置する方法に関する。
【0083】
本発明の化合物および薬学的に受容可能な組成物は、併用療法で使用され得る、つまり化合物および薬学的に受容可能な組成物が、1種以上の他の望ましい治療または医療処置と同時に、それ(ら)に先立って、またはそれ(ら)の後に投与され得ることも理解される。併用レジメンで使用する療法(治療または処置)の特定の組み合わせは、望ましい治療および/または処置と達成されるべき所望の治療効果との適合性を考慮する。また、使用される複数の療法が、同じ障害に対して所望の効果を達成し得る(例えば、発明的化合物が、同じ障害を処置するために使用される別の因子と同時に投与され得る)か、またはそれらが異なる効果(例えば、任意の副作用の制御)を達成し得ることも理解される。本明細書中で使用される場合、特定の疾患または状態を処置または予防するために標準的に投与されるさらなる治療因子は、「処置しようとする疾患または状態に適切である」として公知である。
【0084】
例えば、化学療法因子または他の抗増殖因子を、増殖性疾患および癌を処置するために本発明の化合物と合わせ得る。公知の化学療法因子の例としては、これらに限定されないが、例えば、手術、放射線療法(ほんの一部にすぎないがいくつか例を挙げると、γ放射線、中性子線放射線療法、電子線放射線療法、プロトン療法、近接照射療法、および合成放射性アイソトープ)、内分泌療法、生物学的応答修飾物質(いくつか挙げると、インターフェロン、インターロイキン、および腫瘍壊死因子(TNF))、温熱療法および寒冷療法、任意の副作用を減衰させる因子(例えば、制吐剤)、ならびに他の承認された化学療法薬物(これらに限定されないが、アルキル化薬物(メクロレタミン、クロラムブシル、シクロホスファミド、メルファラン、イホスファミド)、代謝拮抗物質(メトトレキサート)、プリン拮抗物質およびピリミジン拮抗物質(6−メルカプトプリン、5−フルオロウラシル、シタラビル(Cytarabile)、ゲムシタビン、紡錘体毒(ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、パクリタクセル)、ポドフィロトキシン(エトポシド、イリノテカン、トポテカン(Topotecan))、抗生物質(ドキソルビシン、ブレオマイシン、マイトマイシン)、ニトロソ尿素(カルムスチン、ロムスチン)、無機イオン(シスプラチン、カルボプラチン)、酵素(アスパラギナーゼ)、ならびにホルモン(タモキシフェン、ロイプロリド(Leuprolide)、フルタミド、およびメゲストロール)を含む)、GleevecTM、アドリアマイシン、デキサメタゾン、およびシクロホスファミドを含む本発明の発明的抗癌因子と組み合せて使用され得る他の療法または抗癌因子が挙げられる。最新の癌療法のより包括的な考察に関しては、http://www.nci.nih.gov/、http://www.fda.gov/cder/cancer/druglistframe.htmのFDAに承認された腫瘍学薬物の一覧表、およびThe Merck Manual、第17版、1999年を参照されたく、これらの内容全体が本明細書中に参考として援用される。
【0085】
本発明のインヒビターとも合わせ得る因子の他の例としては、これらに限定されないが:アルツハイマー病のための処置(例えば、Aricept(登録商標)、およびExcelon(登録商標);パーキンソン病のための処置(例えば、L−DOPA/カルビドパ、エンタカポン(entacapone)、ロピンロール(ropinrole)、プラミペキソール、ブロモクリプチン、ペルゴリド、トリヘキシフェニジル(trihexephendyl)、およびアマンタジン);多発性硬化症(MS)を処置するための因子(例えば、βインターフェロン(例えば、Avonex(登録商標)、およびRebif(登録商標))、Copaxone(登録商標)、およびミトキサントロン);喘息のための処置(例えば、アルブテロール、およびSingulair(登録商標));総合失調症を処置するための因子(例えば、ジプレキサ(zyprexa)、リスパダール(risperdal)、セロクエル(seroquel)、およびハロペリドール);抗炎症因子(例えば、コルチコステロイド、TNFブロッカー、IL−1、RA、アザチオプリン、シクロホスファミド、およびスルファサラジン);免疫調節因子および免疫抑制因子(例えば、シクロスポリン、タクロリムス、ラパマイシン、ミコフェノール酸モフェチル(mycophenolate mofetil)、インターフェロン、コルチコステロイド、シクロホスファミド、アザチオプリン、およびスルファサラジン);神経栄養因子(例えば、アセチルコリンエステラーゼインヒビター、MAOインヒビター、インターフェロン、抗痙攣薬、イオンチャネルブロッカー、リルゾール(riluzole)、および抗パーキンソン因子);心血管疾患を処置するための因子(例えば、βブロッカー、ACEインヒビター、利尿剤、硝酸塩、カルシウムチャネブロッカー、およびスタチン(statin));肝疾患を処置するための因子(例えば、コルチコステロイド、コレスチラミン、インターフェロン、および抗ウイルス因子);血管障害を処置するための因子(例えば、コルチコステロイド、抗白血病因子、および成長因子);ならびに免疫不全障害を処置するための因子(例えば、γグロブリン)が挙げられる。
【0086】
本発明の組成物中に存在するさらなる治療因子の量は、唯一の活性因子としてその治療因子を含む組成物中で通常的に投与される量にすぎない。本開示による組成物中のさらなる治療因子の量は、唯一の治療活性因子としてその因子を含む組成物中に通常的に存在する量の約50%〜100%の範囲であることが好ましい。
【0087】
代替的な実施形態において、さらなる治療因子を含まない組成物を利用する本発明の方法は、前記患者にさらなる治療因子を別個に投与するさらなる工程を包含する。これらのさらなる治療因子が別個に投与される場合、それらの治療因子は本発明の組成物の投与前に、本発明の組成物の投与と逐次的に、または本発明の組成物の投与に続き、患者に投与され得る。
【0088】
本発明の化合物またはその薬学的に受容可能な組成物はまた、移植可能な医療デバイス(例えば、人工器官、人工弁、代用血管、ステント、およびカテーテル)をコーティングするための組成物中に混合され得る。したがって本発明は、別の局面において、移植可能デバイスをコーティングするための組成物を含み、この組成物は、上記で一般的にそして本明細書においてクラスおよびサブクラスで記載される通りの本発明の化合物、および該移植可能デバイスをコーティングするのに適したキャリアを含む。さらに別の局面において本発明は、上記で一般的にそして本明細書においてクラスおよびサブクラスで記載される通りの本発明の化合物、および該移植可能デバイスをコーティングするのに適したキャリアを含む組成物でコーティングされた移植可能デバイスを含む。
【0089】
血管ステントは、例えば、再狭窄(術後に血管壁が再び狭くなること)を克服するために使用されている。しかしながら、ステントまたは他の移植可能デバイスを使用している患者は、血塊形成または血小板活性化の危険性を負う。これらの好ましくない結果は、キナーゼインヒビターを含む薬学的に受容可能な組成物でデバイスを予めコーティングすることにより、予防または緩和され得る。適切なコーティング剤およびコーティングされた移植可能デバイスの一般的な調製は、米国特許第6,099,562号;第5,886,026号;および第5,304,121号に記載されている。これらのコーティング剤は、代表的には生体適合性のポリマー物質(例えば、ヒドロゲルポリマー、ポリメチルジシロキサン、ポリカプロラクトン、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、エチレン酢酸ビニル、およびそれらの混合物)である。これらのコーティング剤は、組成物中に制御された放出特性を与えるために、必要に応じて、フルオロシリコン、多糖類、ポリエチレングリコール、リン脂質、またはそれらの組み合わせから成る適切なトップコートによりさらに被覆され得る。
【0090】
本発明の別の局面は、生物学的サンプルまたは患者におけるERK1プロテインキナーゼまたはERK2プロテインキナーゼ活性を阻害することに関し、その方法は、本発明の化合物もしくは該化合物を含む組成物を患者に投与する工程、または該生物学的サンプルを本発明の化合物もしくは該化合物を含む組成物と接触させる工程を包含する。用語「生物学的サンプル」は、本明細書中で使用される場合、これらに限定されないが、細胞培養またはそれらの抽出物;哺乳動物から入手した生検された物質またはその抽出物;および血液、唾液、尿、糞便、精液、涙、もしくは他の体液、またはその抽出物を含む。
【0091】
生物学的サンプルにおけるERK1プロテインキナーゼまたはERK2プロテインキナーゼ活性の阻害は、当業者に公知である種々の目的のために有用である。そのような目的の例としては、これらに限定されないが、輸血、臓器移植、生物試料保存、および生物学的アッセイが挙げられる。
【実施例】
【0092】
(合成実施例)
本明細書中で使用される場合、用語「R」は、その化合物と関連づけられる分単位で示すHPLCの保持時間についていう。他に示さない限り、報告される保持時間を得るために利用されるHPLC法は、次の通りである:
カラム:ODS−AQ 55 120A、3.0×150mm
勾配 :水:MeCN、0.1% TFA(90:10→0:100)8分間
流量 :1.0mL/分
検出 :214nm。
【0093】
他に示されない限り、各H NMRは、CDCl中に500MHzで得られ、これらの化合物番号は、表1に列挙する化合物番号に対応する。
【0094】
当業者に公知である種々の方法によって親化合物のヒドロキシル部分を誘導体化することにより、本発明のプロドラッグを調製する。これらの方法としては、これに限定されないが、望ましいカルボン酸(またはその活性誘導体)によるアシル化またはリン酸塩形成が挙げられる。本発明の化合物のヒドロキシル部分が望ましいアミノ酸によりアシル化される場合、アミノ酸のアミノ部分は、適切なアミノ保護基により必要に応じて保護され得る。アミノ保護基は当該技術分野において周知であり、1991年にJohn Wiley and Sonsから出版されたTheodora W.Greene and Peter G.M.Wutsによる「Protecting Goups in Organic Synthesis」に詳細に記載されており、この内容全体が本明細書中に参考として援用される。本発明の化合物の調製を説明する特定の非限定的実施例を以下に提示する。
【0095】
(実施例1)
(3−メチル−2−メチルアミノ−酪酸2−(4−{5−[1−(3−クロロ−フェニル)−2−(3−メチル−2−メチルアミノ−ブチリルオキシ)−エチルカルバモイル]−1H−ピロール−3−イル}−5−メチル−ピリミジン−2−イルアミノ)−ブチルエステル、トリスHCl塩):
t−ブトキシカルボニル−N−メチルバリン(Advanced Chemtech、15.6g、3当量)を、塩化メチレン(100mL)中の3−エチル(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(Chem−Impex、12.95g、3当量)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物(Aldrich、0.91g、0.3当量)、および4−ジメチルアミノピリジン(8.26g、3当量)と合わせ、均一になるまで約15分間攪拌した。親化合物である4−[2−(1−ヒドロキシメチル−プロピルアミノ)−5−メチル−ピリミジン−4−イル]−1H−ピロール−2−カルボン酸[1−(3−クロロ−フェニル)−2−ヒドロキシ−エチル]−アミド(10g、0.225mol、1当量)をDMF(20mL)中の溶液として加え、この反応後にHPLCを実施した。2時間後、この混合物を酢酸エチルで希釈し、0.3N HCl、ブラインおよび飽和炭酸水素ナトリウムで洗浄し、乾燥させ(MgSO)、濾過して真空中で濃縮した。Combiflash(2回分×120gシリカ、ヘキサン/酢酸エチル勾配)による精製で、淡黄色の泡状体(14.9g)としてBocで保護された化合物を得た。Rt=8.90分;MS FIA 870.0(M+1) プロドラッグのBoc脱保護は、メタノール中のサンプルを溶解し、ジエチルエーテル(Aldrich)中の2.0N HClを加えることにより達成した。1時間後、脱保護が完了し、揮発性物質を真空中で除去することにより、黄色固体(9.8g)としてI−20のトリス−塩酸塩を得た。
【0096】
【化16】


【0097】
(実施例2)
(3−メチル−2−メチルアミノ−酪酸2−(4−{5−[1−(3−クロロ−フェニル)−2−(3−メチル−2−メチルアミノ−ブチリルオキシ)−エチルカルバモイル]−1H−ピロール−3−イル}−5−メチル−ピリミジン−2−イルアミノ)−ブチルエステル (I−20)):
上記に示されるHCl塩(1.2g)をMeOH(5mL)および酢酸エチル(100.mL)中に一緒に溶解させ、飽和炭酸水素ナトリウム(×2)およびブラインで洗浄し、次いで乾燥させ(MgSO)、濾過して真空中で濃縮することにより、黄色泡状体(1.0g)を得た。LC/MS 670.1(M+1);以下の表2に列挙したとおりのH NMR。
【0098】
(実施例3)
コハク酸、モノ−[2−(4−{5−[2−(3−カルボキシ−プロピオニルオキシ)−1−(3−クロロ−(S)−フェニル)−エチルカルバモイル]−1H−ピロール−3−イル}−5−メチル−ピリミジン−2−イルアミノ)−(S)−ブチル]エステル(I−18)):
50mLの乾燥ピリジン中の4−[2−(1−ヒドロキシメチル−(S)−プロピルアミノ)−5−メチル−ピリミジン−4−イル]−1H−ピロール−2−カルボン酸[1−(3−クロロ−(S)−フェニル)−2−ヒドロキシ−エチル]−アミド(2.15g、4.85mmol)を含むフラスコに、触媒量のDMAPおよびコハク酸無水物(1.2g、12.1mmol、2.5当量)を加えた。この混合物を80℃で24間加熱し、反応混合物を真空中で濃縮した。この粗物質を分取HPLCにより精製し、表題の化合物(1.5g)を得た。HPLC、R=4.9分。表題の化合物(50.8mg、78.9μmol)をメタノール中の定量の炭酸水素ナトリウム(2.0当量、1.58mLの0.1M溶液)で処理することにより、ビスナトリウム塩を作製した。10分の攪拌後、溶媒をエバポレートし、残りの水分を凍結乾燥により除去し、白色固体(49.3g)としてビスナトリウム塩を得た。
【0099】
【化17】


【0100】
(実施例4)
(2−(S)−アミノ−3−メチル−(S)−ペンタン酸2−(4−{5−[2−(2−(S)−アミノ−3−メチル−(S)−ペンタノイルオキシ)−1−(3−クロロ−(S)−フェニル)−エチルカルバモイル]−1H−ピロール−3−イル}−5−メチルピリミジン−2−イルアミノ)−(S)−ブチルエステル(I−25)):
4−[2−(1−ヒドロキシメチル−(S)−プロピルアミノ)−5−メチル−ピリミジン−4−イル]−1H−ピロール−2−カルボン酸[1−(3−クロロ−(S)−フェニル)−2−ヒドロキシ−エチル]−アミド(1.50g、3.39mmol)を含むフラスコに、20mLのジクロロメタンおよびジイソプロピルエチルアミン(1.8mL、10.2mmol、3.0当量)中のBoc−Ile−OH(1.88g、8.14mmol、2.4当量)を加えた。次いで10分間攪拌後、PyBOP(4.4g、8.5mmol、2.5当量)を加えた。室温で24時間攪拌後、この溶液をジクロロメタンに溶解させ、次いで塩酸(1N)で2回、炭酸水素ナトリウム、およびブラインで洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、この粗生成物を、シリカを用いたクロマトグラフィ(ヘキサン中の酢酸エチル25〜70%の勾配)により精製し、黄色固体(1.84g、HPLC、R=8.5分)としてBocで保護された化合物を得た。Boc基をアセトニトリルで希釈したジオキサン中のHCl(4N)を用いて除去した。室温で1時間攪拌後、溶媒を真空下でエバポレートすることにより、3・HCl塩(HCl present)として表題の化合物(1.43g)を得た。
【0101】
【化18】


【0102】
(実施例5)
(2−(S)−アミノ−3−メチル−酪酸2−(4−{5−[2−(2−(S)−アミノ−3−メチル−ブチリルオキシ)−1−(3−クロロ−(S)−フェニル)−エチルカルバモイル]−1H−ピロール−3−イル}−5−メチル−ピリミジン−2−イルアミノ−(S)−ブチルエステル(I−10)):
200mLのジクロロメタン中のBoc−Val−OH(14.7g、67.8mmol、3.0当量)、DMAP(8.3g、67.8mmol、3.0当量)、およびHOBt(915mg、6.8mmol、0.3当量)を含むフラスコに、EDCI(13.0g、67.8mmol、3.0当量)を加えた。室温で5分間攪拌後、(4−[2−(1−ヒドロキシメチル−(S)−プロピルアミノ)−5−メチル−ピリミジン−4−イル]−1H−ピロール−2−カルボン酸[1−(3−クロロ−(S)−フェニル)−2−ヒドロキシ−エチル]−アミド(10.0g、22.6mmol、1.0当量)をゆっくりと加えた。この反応は1時間後に完了した。この反応混合物をジクロロメタンに溶解させ、塩酸(1N)、水、炭酸水素ナトリウム、およびブラインで洗浄し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた。この粗物質を、シリカを用いたクロマトグラフィ(ヘキサン中の酢酸エチル10〜100%の勾配)により精製し、黄色固体(12.6g、HPLC、R=7.9分)としてBocで保護された化合物を得た。Boc基を100mLのアセトニトリルで希釈したエーテル中のHCl(2N)を用いて除去した。室温で1時間攪拌後、溶媒を真空下でエバポレートすることにより、3・HCl塩として表題の化合物(10.58g)を得た。
【0103】
【化19】


【0104】
(実施例6)
(ピロリジン−2−(S)−カルボン酸2−(4−{5−[2−(ピロリジン−2−カルバモイル)−1−(3−クロロ−(S)−フェニル)−エチルカルバモイル]−1H−ピロール−3−イル}−5−メチル−ピリミジン−2−イルアミノ)−(S)−ブチルエステル(I−28)):
20mLのジクロロメタン中のBoc−Pro−OH(2.18g、10.2mmol、3.0当量)、DMAP(1.24g、10.2mmol、3.0当量)、およびHOBt(137mg、1.0mmol、0.3当量)を含むフラスコに、EDCI(1.95g、10.2mmol、3.0当量)を加えた。室温で5分の攪拌後、(4−[2−(1−ヒドロキシメチル−(S)−プロピルアミノ)−5−メチル−ピリミジン−4−イル]−1H−ピロール−2−カルボン酸[1−(3−クロロ−(S)−フェニル)−2−ヒドロキシ−エチル]−アミド(1.5g、3.39mmol、1.0当量)をゆっくりと加えた。2時間後、この反応混合物をジクロロメタンに溶解させ、塩酸(1N)、炭酸水素ナトリウム、およびブラインで洗浄した。次いで、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、粗物質を、シリカを用いたクロマトグラフィ(ヘキサン中の酢酸エチル10〜80%の勾配)により精製し、黄色固体としてBocで保護された化合物を得た。Boc基を10mLのアセトニトリルで希釈したエーテル中のHCl(2N)を用いて除去した。室温で1時間攪拌後、溶媒を真空下でエバポレートすることにより、3・HCl塩として表題の化合物(1.62g)を得た。
【0105】
【化20】


【0106】
(実施例7)
本発明の他の化合物を、上記実施例1〜6に記載する方法および当該技術分野において公知の方法と実質的に同様な方法により調製した。これらの化合物についての特徴データを以下の表2に総括する。この特徴データには、質量スペクトルデータ、HPLC保持時間(R)、およびH NMRデータが含まれる。表2中の化合物番号は、表1に列挙した化合物番号に対応する。
【0107】
(表2.選択された式Iの化合物についての特性データ)
【0108】
【化21】

【0109】
【化22】

【0110】
【化23】

【0111】
【化24】


【0112】
(実施例8)
本明細書中に記載されるように、本発明の化合物はプロドラッグとして有用であり、したがって親化合物と比較して改善した物理的および/または生理学的特徴を与える。そのような特徴としては、半減期および水溶性が挙げられる。特定の実施形態において、本発明の化合物は、1つ以上の物理的または生物学的特徴に関する改善を提供する。他の実施形態において、本発明の化合物は、1つ以上の物理的および生理学的特徴に関する改善を与える。本発明の特定の化合物と親化合物との比較結果の総括を下記の表3に提示する。この表3中に報告されるすべての薬物動態学データは、ラットについて入手した。
【0113】
本明細書中で使用される場合、語句「相対AUC」は、本発明の化合物についての薬物血中濃度時間曲線下面積および親化合物についての薬物血中濃度時間曲線下面積の定量(ration)についていう。他に示さない限り、データは遊離塩基としての指定化合物について入手した。用語「T1/2(時間)」は、時間単位での化合物の半減期についていう。表3中で使用される場合、用語「溶解度」は、指定のpHにおける1mL当たりmg単位での指定化合物の水溶性についていう。表3中の化合物番号は、表1に列挙した化合物番号に対応する。
【0114】
(表3.代表的な化合物についての物理的および生理学的データ)
【0115】
【化25】

多くの本発明の実施形態を記載したが、これらの基礎的な実施例は本発明の化合物および方法を利用する他の実施形態を提供するために変更され得るということは明らかである。したがって、本発明の範囲は、実施例により示された特定の実施形態というよりも、別添の特許請求の範囲により定義されるということが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
【化1】

の化合物またはその薬学的に受容可能な塩であって、ここで:
各Rは、独立して水素、T−C(O)R、T−C(O)OR、T−C(O)−Q−R、T−C(O)−(CH−C(O)OR、T−C(O)−(CH−C(O)N(R、T−C(O)(CH−CH(R)N(R、T−P(O)(ORであるが、ただし少なくとも1つのRが水素ではなく;
各Tは独立して、原子価結合、または−C(R)O−であり;
各Rは独立して、水素、必要に応じて置換されるC1〜6脂肪族基、または窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択される0〜4個のヘテロ原子を有し、必要に応じて置換される5〜8員の飽和環、部分的に不飽和の環、または完全に不飽和の環であり;
各Rは独立して、水素、C(O)R、C(O)OR、S(O)、OR、必要に応じて置換されるC1〜6脂肪族基、または窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択される0〜4個のヘテロ原子を有し、必要に応じて置換される5〜8員の飽和環、部分的に不飽和の環、または完全に不飽和の環であるか、あるいは;
同じ窒素原子上の2つのRが、それらに結合している窒素原子と一緒になって、該窒素原子に加え、窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択される1〜3個のヘテロ原子を有する4〜7員の飽和環、部分的に不飽和の環、もしくは完全に不飽和の環を形成し;
各nが、0〜6であり;
Qは、必要に応じて置換されるC1〜10アルキリデン鎖であり、Qの0〜4個のメチレン単位が、−O−、−N(R)−、−S−、−S(O)−、−S(O)−、または−C(O)−により独立して置換され;そして
Rは水素、または必要に応じて置換されるC1〜6脂肪族である
化合物。
【請求項2】
請求項1に記載の化合物であって、ここでRが、C(O)Rである、化合物。
【請求項3】
請求項2に記載の化合物であって、ここでRが、必要に応じて置換されるC1〜6脂肪族基である、化合物。
【請求項4】
請求項2に記載の化合物であって、ここでRが、窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択される0〜4個のヘテロ原子を有し、必要に応じて置換される5〜8員の飽和環、部分的に不飽和の環、または完全に不飽和の環である、化合物。
【請求項5】
請求項1に記載の化合物であって、ここでRが、C(O)ORである、化合物。
【請求項6】
請求項5に記載の化合物であって、ここでRが、必要に応じて置換されるC1〜6脂肪族基である、化合物。
【請求項7】
請求項5に記載の化合物であって、ここでRが、窒素、酸素、もしくは硫黄から独立して選択される0〜4個のヘテロ原子を有し、必要に応じて置換される5〜8員の飽和環、部分的に不飽和の環、または完全に不飽和の環である、化合物。
【請求項8】
請求項1に記載の化合物であって、ここでRが、C(O)−Q−Rである、化合物。
【請求項9】
請求項8に記載の化合物であって、ここでが、必要に応じて置換されるC1〜8アルキリデン鎖であって、ここでQの0〜4個のメチレン単位が、−O−、−N(R)−、−S−、−S(O)−、−S(O)−、または−C(O)−により独立して置換される、化合物。
【請求項10】
請求項9に記載の化合物であって、ここでQが必要に応じて置換されるC1〜8アルキリデン鎖であって、ここでQの2〜4個のメチレン単位が、−O−により独立して置換される、化合物。
【請求項11】
請求項1に記載の化合物であって、ここでRが、C(O)−(CH−CH(R)N(Rである、化合物。
【請求項12】
請求項11に記載の化合物であって、ここで:
nが、0〜2であり;
が、必要に応じて置換されるC1〜6脂肪族基であり;そして
各Rが、水素、または必要に応じて置換されるC1〜6脂肪族基である
化合物。
【請求項13】
請求項1に記載の化合物であって、ここでRが、P(O)(ORである、化合物。
【請求項14】
請求項13に記載の化合物であって、ここでRのそれぞれが独立して、水素、または必要に応じて置換されるC1〜6脂肪族基である、化合物。
【請求項15】
請求項1に記載の化合物であって、ここでTが原子価結合である、化合物。
【請求項16】
請求項1に記載の化合物であって、ここでTが、−CHO−である、化合物。
【請求項17】
以下の式:
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

からなる群から選択される、化合物。
【請求項18】
請求項1に記載の化合物、および薬学的に受容可能なアジュバント、ビヒクル、またはキャリアを含む組成物。
【請求項19】
請求項18に記載の組成物であって、ここで該組成物が、化学療法因子もしくは抗増殖因子、抗炎症因子、免疫調節因子もしくは免疫抑制因子、神経系障害を処置するための因子、心血管疾患を処置するための因子、破壊性骨障害を処置するための因子、肝疾患を処置するための因子、抗ウイルス因子、血管障害を処置するための因子、糖尿病を処置するための因子、または免疫不全障害を処置するための因子から選択されるさらなる治療因子をさらに含む、組成物。
【請求項20】
生物学的サンプルにおいてERK1プロテインキナーゼまたはERK2プロテインキナーゼ活性を阻害する方法であって、該方法は、該生物学的サンプルと
a)請求項18に記載の組成物;または
b)請求項1に記載の化合物
とを接触させる工程を包含する、方法。
【請求項21】
患者においてERK1プロテインキナーゼまたはERK2プロテインキナーゼ活性を阻害する方法であって、該方法は、
a)請求項18に記載の組成物;または
b)請求項1に記載の化合物
を該患者に投与する工程を包含する、方法。
【請求項22】
増殖性障害、心臓障害、神経変性障害、自己免疫障害、臓器移植と関連付けられる状態、炎症性障害、免疫媒介性障害、または骨障害から選択される疾患、状態、もしくは障害を処置するか、あるいはこれらの重篤度を軽減することを必要としている患者において、増殖性障害、心臓障害、神経変性障害、自己免疫障害、臓器移植と関連付けられる状態、炎症性障害、免疫媒介性障害、または骨障害から選択される疾患、状態、もしくは障害を処置する方法、あるいはこれらの重篤度を軽減する方法であって:
a)請求項18に記載の組成物;または
b)請求項1に記載の化合物
を該患者に投与する工程を包含する、方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法であって、前記疾患、障害、または状態が、乳癌、卵巣癌、子宮頸癌、前立腺癌、精巣癌、尿路性器癌、食道癌、喉頭癌、神経グリア芽細胞腫、神経芽腫、胃癌、皮膚癌、角化棘細胞腫、肺癌、類表皮癌、大細胞癌、小細胞癌、肺腺癌、骨癌、結腸癌、アデノ−マ、膵臓癌、腺癌、甲状腺癌、濾胞状癌、未分化癌腫、乳頭状癌、精上皮腫、メラノーマ、肉腫、膀胱腫、肝臓腫、胆道癌、腎臓腫、骨髄性障害、リンパ球系障害、ホジキン病、毛様細胞、口腔前庭および咽頭(口腔)癌、口唇癌、舌癌、口腔癌、咽頭癌、小腸癌、結腸−直腸癌、大腸癌、直腸癌、脳腫瘍および中枢神経系腫瘍から選択される癌、あるいは白血病である、方法。
【請求項24】
請求項23に記載の方法であって、前記疾患、障害、または状態が、メラノーマ、あるいは乳癌、結腸癌、または膵臓癌から選択される癌である、方法。

【公表番号】特表2007−537293(P2007−537293A)
【公表日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−513409(P2007−513409)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【国際出願番号】PCT/US2005/016801
【国際公開番号】WO2005/113546
【国際公開日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(598032106)バーテックス ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド (414)
【氏名又は名称原語表記】VERTEX PHARMACEUTICALS INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】130 Waverly Street, Camridge, Massachusetts 02139−4242, U.S.A.
【Fターム(参考)】