説明

ピロリ菌付着抑制組成物、並びに飲食物

【課題】 安全性が高く、薬剤耐性菌を誘導しにくく、ピロリ菌抑制作用を有する新規食品由来の組成物を提供すること。
【解決手段】 本発明者らの鋭意研究の結果、大豆から脂質を除去した成分に、胃上皮細胞に対するピロリ菌付着抑制作用があること、及び、ピロリ菌付着抑制作用は、大豆タンパク質成分によるものであることを新規に見出した。また、大豆タンパク質成分について分析した結果、ピロリ菌抑制作用を持つタンパク質成分には、分子量40,000以上600,000以下のものが多く含まれることが明らかになった。そこで、本発明では、大豆に含まれる分子量40,000以上600,000以下のタンパク質成分を少なくとも含有する、ピロリ菌の胃上皮細胞に対する付着を抑制する組成物、並びに前記組成物を含有する飲食物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆に含まれるタンパク質成分を少なくとも含有する、ピロリ菌の胃上皮細胞に対する付着を抑制する組成物、並びに前記組成物を含有する飲食物に関する。
【背景技術】
【0002】
Helicobacter Pylori(以下、本発明において「ピロリ菌」とする)は、オーストラリアのWarrenとMarshallによって、1982年に初めて慢性胃炎患者の胃粘膜から分離培養された細菌で、胃炎や十二指腸潰瘍患者から高率に分離され、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍の原因因子として近年注目されている。
【0003】
ピロリ菌の除菌・抑制により胃炎などを治療する方法として、例えば、3剤併用療法が検討されている。3剤併用療法は、抗菌剤2種(例えば、アモキシシリン及びクラリスロマイシン)と、プロトンポンプ阻害剤(胃上皮の酸分泌を抑制する薬剤)の3剤を用いて、胃炎などを治療する方法である。
【0004】
また、近年、食品成分などからピロリ菌抑制作用のある組成物を探索する試みが行われている。ピロリ菌抑制作用を有する組成物は、ピロリ菌の胃上皮細胞に対する付着を防止するもの、ピロリ菌に対する殺菌作用があるもの、ピロリ菌の増殖を抑制するもの、に大きく分類できる。
【0005】
ピロリ菌の胃上皮細胞に対する付着を防止する組成物として、ラクトフェリ
ン加水分解物(特許文献1)、ココア(非特許文献1)、月見草エキス(非特許文献2)、などが知られている。ピロリ菌に対する殺菌作用がある組成物として、遊離ヒドロキシ脂肪酸(特許文献2)、加水分解タンニン(非特許文献3)、などが知られている。ピロリ菌の増殖を抑制する組成物として、大豆イソフラボン類やサポニン類(特許文献3)、大豆タンパク加水分解物(特許文献4)が知られている。なお、非特許文献4は本発明の実施例に関連する文献である。
【特許文献1】 特開2000−136148号公報
【特許文献2】 特開2002−85012公報
【特許文献3】 特開平11−12172号公報
【特許文献4】 特開2001−335504号公報
【非特許文献1】 Helicobacter Reserch 2002年vol.6 No.2 P25−28
【非特許文献2】 第17回Bacterial Adherence & Biofilm学術集会抄録集 P31(2003年7月開催)
【非特許文献3】 第10回日本ヘリコバクター学会抄録集 P114(2004年7月開催)
【非特許文献4】 日本細菌学雑誌 57(4)P647−649 2002「フローサイトメトリーによるH.pyloriのMKN45細胞への付着の解析」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ピロリ菌の除菌・抑制に用いられている薬剤は、3剤併用療法に用いる薬剤を含め、多くの場合副作用があるという問題があった。また、抗菌剤を用いる場合は、薬剤耐性菌を誘導しやすいという問題があった。
【0007】
一方、ピロリ菌抑制作用を有する食品由来の組成物は、前記薬剤と比較すると安全性は高いが、ピロリ菌抑制効果が充分でないという課題があった。
【0008】
そこで、本発明は、安全性が高く、薬剤耐性菌を誘導しにくく、ピロリ菌抑制作用を有する新規食品由来の組成物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らの鋭意研究の結果、大豆から脂質を除去した成分に、胃上皮細胞に対するピロリ菌付着抑制作用があること、及び、ピロリ菌付着抑制作用は、大豆に含まれるタンパク質成分(以下、「大豆タンパク質成分」とする。)によるものであることを新規に見出した。また、大豆タンパク質成分について分析した結果、ピロリ菌抑制作用を持つタンパク質成分には、分子量40,000以上600,000以下のものが多く含まれることが明らかになった。
【0010】
そこで、本発明では、大豆に含まれる分子量40,000以上600,000以下のタンパク質成分を少なくとも含有する、ピロリ菌の胃上皮細胞に対する付着を抑制する組成物を提供する。
【0011】
本発明に係る組成物は、大豆から抽出された食品由来の組成物であるため、副作用が少なく、安全性が高い。また、ピロリ菌を、殺菌作用若しくは増殖抑制作用により抑制するわけではないので、薬剤耐性菌を誘導しにくく、長期間継続して摂取・投与できるという利点がある。
【0012】
なお、ピロリ菌付着抑制作用を得るためには、本発明に係る組成物中に、分子量40,000以上600,000以下の大豆タンパク質成分が、少なくとも3%以上含まれるものが好ましく、35%以上含むものがより好適である。
【0013】
本発明に係る組成物は、例えば、有機溶媒を用いて、脱皮大豆から油脂成分を除去し、脱脂大豆を得る工程を含む方法により製造することができる。この工程で油脂成分を除去することにより、組成物中における、ピロリ菌付着抑制作用を有する大豆タンパク質成分の濃度を高くすることができる。
【0014】
また、前記脱脂大豆について80%エタノール抽出を行い、その不溶性画分を得る工程、若しくは前記脱脂大豆についてアルカリ抽出を行い、その可溶性画分を得た後、該可溶性成分を酸性処理して大豆タンパク質を沈澱させる工程、を設けることにより、組成物中における、ピロリ菌付着抑制作用を有する大豆タンパク質成分の濃度をさらに高くすることができる。
【0015】
本発明に係る組成物は、飲食物に添加することができる。本発明に係る組成物を飲食物に含有させることにより、長期間継続的に本発明に係る組成物を摂取しやすくなるため、ピロリ菌の感染予防に有効である。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、ピロリ菌の胃上皮細胞への付着を予防又は抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
まず、本発明に係る組成物について、以下説明する。
【0018】
本発明に係る組成物は、大豆に含まれる分子量40,000以上600,000以下のタンパク質成分を少なくとも含有していればよい。即ち、粉状物、錠剤、液状物、液状物を冷凍したもの、などを含み、また、必要に応じて、穀粉(化工)デンプン、デキストリン、調味料、乳化剤、pH調整剤、有機酸、水などと混合して用いてもよい。
【0019】
なお、ピロリ菌付着抑制作用は、加熱又は冷却によって失われることはない。従って、本発明に係る組成物は、単独で用いる場合だけでなく、加熱又は冷却を伴うあらゆる飲食物に添加して用いることができる。
【0020】
次に、本発明に係る飲食物の一例について、以下説明する。
【0021】
本発明に係る飲食物は、本発明に係る組成物を含有していればよい。即ち、例えば、本発明に係る組成物を、粉状物、錠剤、液状物、液状物を冷凍したもの、などのいずれの状態で添加した場合も本発明に係る飲食物に含まれ、また、他の食品成分と混合し、加熱、冷凍、圧縮などの加工を施した場合も、本発明に係る飲食物に含まれる。
【0022】
本発明に係る組成物は、例えば、豆乳、ジュース、乳飲料、茶などの飲料、パン、ケーキなどのスポンジ状食品、豆腐、畜産加工食品、水産加工食品、クッキー、ビスケットなどの固形状食品などに添加できる。
【0023】
また、本発明に係る組成物を、リノール酸、オレイン酸、アラキドン酸などの脂肪酸のように、副作用が少なくかつ殺菌効果のある他の食品材料とともに食品に添加することにより、より効果的なピロリ菌感染抑制作用を得ることができる。
【0024】
なお、本発明に係る組成物は、胃上皮細胞と相互作用してピロリ菌の付着を抑制する効果を有するため、本発明に係る飲食物をピロリ菌感染前に日常的に摂取することにより、感染を予防する効果があると考える。
【0025】
また、既にピロリ菌に感染している場合も、ピロリ菌に対して殺菌効果を有する飲食物又は医薬品と組み合せて摂取することにより、効率よくピロリ菌の除去を行うことができる。さらに、除菌治療を行った患者に対して、治療後に本発明に係る飲食物を摂取させることによって、再感染を予防することができる。
【0026】
本発明に係る大豆タンパク質成分の、ピロリ菌付着抑制作用を得るために必要な一日摂取量は、5gから50gであると推測される。発明者らの研究結果によると、本発明に係る飲食物を製造する場合、一回摂取量分の飲食物に、少なくとも、大豆タンパク質を5gから20g含有させることができる。従って、本発明に係る飲食物は、ピロリ菌付着抑制作用を得るために必要な量を、長期間継続的に摂取しやすいという利点がある。
【0027】
続いて、本発明に係る組成物の製造方法の一例について、以下説明する。なお、本発明に係る組成物は、大豆から抽出された分子量40,000以上600,000以下のタンパク質成分を少なくとも含有していればよく、以下に示す方法で製造された場合に狭く限定されない。
【0028】
本発明に係る組成物は、例えば、脱皮大豆から油脂成分を除去し、脱脂大豆を得ることにより、製造することができる。油脂成分の除去(脱脂)は、例えば、ヘキサン、メチルペンタン、イソプロピルアルコールなどの、単独若しくは混合物からなる有機溶剤を用いて、油脂成分を抽出することにより行うことができる。また、超臨界二酸化炭素などにより、油脂成分を抽出・除去して脱脂大豆を得てもよい。
【0029】
さらに、前記脱脂大豆について80%エタノール抽出を行い、その不溶性画分を得ることにより、イソフラボン類、サポニン類などの脂溶性成分、及び、遊離糖類を除去してもよい。それにより、さらに、本発明に係る大豆タンパク質成分の含量を大きくすることができる。
【0030】
また、前記脱脂大豆についてアルカリ抽出を行い、その可溶性画分を得た後、該可溶性成分を酸性処理して大豆タンパク質を沈澱させることにより、本発明に係る大豆タンパク質成分を高濃度に抽出してもよい。
【0031】
その他、ゲルろ過などのクロマトグラフィーや分子量分画膜などにより、得られた大豆タンパク質成分を分子量によって分画することで、分子量40,000以上600,000以下の成分を濃縮してもよい。
【0032】
なお、いずれの方法で製造する場合も、抽出した大豆タンパク質成分を乾燥などして粉状物などとして取り扱ってもよいし、液状物のまま取り扱ってもよい。また、製造された大豆タンパク質成分に、他の物質を添加・混合してもよいし、圧縮・加熱・溶解などの加工を施してもよい。
【実施例1】
【0033】
本実施例は、本発明に係る大豆タンパク質成分に、ピロリ菌の胃上皮細胞に対する付着を抑制する作用があることを実証した実験である。
【0034】
実験の概要は次の通りである。まず、ピロリ菌を蛍光標識した。次に、
(A)胃上皮細胞と、蛍光標識したピロリ菌と、調製した各サンプルを混合した場合、
(B)胃上皮細胞と、蛍光標識したピロリ菌を混合した場合、
(C)胃上皮細胞のみを懸濁した場合、
のそれぞれについて、フローサイトメトリーを用いて蛍光強度を測定した。そして、測定した蛍光強度に基づき、ピロリ菌の胃上皮細胞に対する付着率を、次の「数1」に示す式で算出した。なお、「フローサイトメトリー」とは、懸濁させた細胞を、シース流を用いて一つずつ測定ゾーンに導くことにより、各細胞における蛍光強度を一つずつ測定する方法である。
【数1】
付着率(%)={(MFI−MFI)/(MFI−MFI}×100
MFI:(A)の場合の蛍光強度
MFI:(C)の場合の蛍光強度
MFI:(B)の場合の蛍光強度
【0035】
具体的な手順を以下に示す。
【0036】
<1.胃上皮細胞及びピロリ菌の調製>
胃上皮細胞は、MKN45細胞(ヒト胃上皮由来細胞株:Human Stomach carcinoma Cell)を用いた。ピロリ菌は、Helicobacter Pylori TK1029株を、7%ウマ脱繊維血添加Brain Heart Infusion寒天培地、37℃条件下で、3日間、微好気培養し、実験に用いた。ピロリ菌は、蛍光標識した。なお、胃上皮細胞の調製方法、及び、ピロリ菌の蛍光標識方法に関する詳細な手順は、非特許文献4記載の方法に従った。
【0037】
<2.サンプルの調製>
脱脂大豆粉、脱脂大豆80%エタノール不溶性画分、高濃度分離大豆タンパク質、酵素処理大豆粉、酵素処理高濃度分離大豆タンパク質、大豆粉80%エタノール抽出物、サポニン、ダイジン、ゲニスチンについて、サンプル調製を行った。以下、詳述する。
【0038】
(1)脱脂大豆粉のサンプル調製について:
まず、脱皮大豆からヘキサン抽出で油脂を除去し、その残渣(不溶性画分)を乾燥後粉砕することにより、脱脂大豆粉を作製した。得られた脱脂大豆粉には、タンパク質が57.3%含有していた。また、脱脂大豆粉に含まれる成分について、ゲルろ過HPLC分析で分子量分布を検討したところ、分子量40,000から600,000のタンパク質が約35%含まれていた。
【0039】
次に、得られた脱脂大豆粉について、熱水抽出を行い、抽出した可溶性画分を固形分濃度100mg/ml水溶液になるように調製し、105℃、15分条件下で、二回オートクレーブ滅菌後、サンプルとして用いた。
【0040】
(2)脱脂大豆80%エタノール不溶性画分のサンプル調製について:
まず、前記脱脂大豆粉について、イソフラボン類、サポニン類などの脂溶性成分、及び、遊離糖類を除去するために、80%エタノール抽出を行い、その残渣(不溶性画分)を乾燥させることにより、「脱脂大豆80%エタノール不溶性画分」を得た。得られた脱脂大豆80%エタノール不溶性画分には、タンパク質が71.6%含まれていた。
【0041】
次に、前記と同様、得られた脱脂大豆80%エタノール不溶性画分について、熱水抽出を行い、抽出した可溶性画分を固形分濃度100mg/ml水溶液になるように調製し、105℃、15分条件下で、二回オートクレーブ滅菌後、サンプルとして用いた。
【0042】
(3)高濃度分離大豆タンパク質のサンプル調製について:
まず、タンパク質含量を上げるため、前記脱脂大豆粉について、アルカリ抽出を行って、可溶性物質を抽出した。次に、遠心分離によって固形成分を除去した後、可溶性物質の抽出液に塩酸を加えてpHを4.3まで低下させ、含有するタンパク質を沈澱させた。次に、上清を除去し、沈殿物を水洗・脱水後乾燥させたものを、「高濃度分離大豆タンパク質」とした。得られた高濃度分離大豆タンパク質には、タンパク質が90.8%含有していた。また、高濃度分離大豆タンパク質に含まれる成分について、ゲルろ過HPLC分析で分子量分布を検討したところ、分子量40,000から600,000のタンパク質が約55%含まれていた。得られた高濃度分離大豆タンパク質は、100mg/ml水溶液になるように調製し、105℃、15分条件下で、二回オートクレーブ滅菌後、サンプルとして用いた。
【0043】
(4)酵素処理大豆粉のサンプル調製について:
まず、前記脱脂大豆粉を湿式粉砕して10%分散液を作製し、pH7.0に調製した後、90℃、20分間加熱した。次に、プロテアーゼ(商品名「スミチームCP」、新日本化学工業株式会社製)を0.3%添加し、60℃、3時間、酵素反応させた後、加熱して酵素を失活させた。次に、スプレードライにより乾燥させ、「酵素処理大豆粉」とした。得られた酵素処理大豆粉には、タンパク質が52.7%含まれており、平均ペプチド鎖長(構成アミノ酸の個数の平均)は9.7だった。また、酵素処理大豆粉に含まれる成分について、ゲルろ過HPLC分析で分子量分布を検討したところ、分子量40,000から600,000のタンパク質が約3%含まれていた。
【0044】
次に、前記と同様、得られた酵素処理大豆粉について、熱水抽出を行い、抽出した可溶性画分を固形分濃度100mg/ml水溶液になるように調製し、105℃、15分条件下で、二回オートクレーブ滅菌後、サンプルとして用いた。
【0045】
(5)酵素処理高濃度分離大豆タンパク質のサンプル調製について:
前記(3)で得られた高濃度分離大豆タンパク質を酵素処理し、高濃度分離大豆タンパク質を分解した。高濃度分離大豆タンパク質にプロテアーゼ(商品名「スミチームCP」、新日本化学工業株式会社製)を添加し、60℃で、1時間若しくは2時間、反応させた。得られた酵素処理高濃度分離大豆タンパク質は、100mg/ml水溶液になるように調製し、105℃、15分条件下で、二回オートクレーブ滅菌後、サンプルとして用いた。
【0046】
(6)脱脂大豆80%エタノール抽出物について:
前記(2)で行った80%エタノール抽出で得られたエタノール抽出画分を乾燥させて「脱脂大豆80%エタノール抽出物」を得た。得られた脱脂大豆80%エタノール抽出物は、100mg/ml水溶液になるように調製し、105℃、15分条件下で、二回オートクレーブ滅菌後、サンプルとして用いた。
【0047】
(7)その他:
サポニンは、大豆由来サポニン(和光純薬株式会社製)を用いた。サポニンは、1mg/ml水溶液になるように調製し、105℃、15分条件下で、二回オートクレーブ滅菌後、サンプルとして用いた。
【0048】
ダイジンは大豆由来ダイジン(和光純薬株式会社製)を用いた。ゲニスチンは大豆由来ゲニスチン(和光純薬株式会社製)を用いた。ダイジン及びゲニスチンは、0.01mg/ml懸濁液になるように調製し、105℃、15分条件下で、二回オートクレーブ滅菌後、サンプルとして用いた。
【0049】
<3.フローサイトメトリー>
前記の通り、フローサイトメトリーにより、(A)胃上皮細胞と、蛍光標識したピロリ菌と、調製した各サンプルを混合した場合、(B)胃上皮細胞と、蛍光標識したピロリ菌を混合した場合、(C)胃上皮細胞のみを懸濁した場合、のそれぞれについて、蛍光強度を測定し、前記「数1」に示す式により、ピロリ菌の胃上皮細胞に対する付着率を算出した。なお、本方法に関する詳細な手順は、非特許文献4記載の方法に従った。
【0050】
結果を表1から表3に示す。なお、表中、「タンパク質含量」は、サンプル中における、分子量40,000から600,000のタンパク質の含有量である。
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
サンプル1〜5では、ピロリ菌の胃上皮細胞に対する付着率が大きく減少した。特に、サンプル1、4、5では、付着率の減少が大きかった。これらの結果は、大豆タンパク質成分が、ピロリ菌付着抑制に有効であることを示している。
【0054】
サンプル1とサンプル6を比較した場合、サンプル6は、サンプル1よりも、付着率が大きかった(ピロリ菌付着抑制作用が小さかった)。同様に、サンプル5とサンプル8を比較した場合も、サンプル8は、サンプル5よりも、付着率が大きかった。サンプル6及びサンプル8は、酵素処理により、大豆タンパク質成分が分解されている。従って、これらの実験結果は、ピロリ菌付着抑制作用が、大豆タンパク質成分によるものであることを、示唆している。
【0055】
サンプル1〜3及びサンプル7〜9では、サンプル中における、分子量40,000から600,000のタンパク質の含有量が少なくなるほど、付着率が増加している。これらの実験結果は、ピロリ菌付着抑制作用が、大豆タンパク質成分のうち、分子量40,000から600,000のものによるものであることを、強く示唆している。
【0056】
サンプル7〜10では、ピロリ菌付着抑制作用が見られなかった。このことは、大豆中のタンパク質成分以外の成分(油脂成分、サポニン、ダイジン、ゲニスチン)ではなく、大豆タンパク質成分に、ピロリ菌付着抑制作用があることを示唆している。
【実施例2】
【0057】
実施例2では、実際に飲食物を製造して、本発明に係る組成物が飲食品に添加可能かどうか、確認した。
【0058】
次の飲食物を、以下の成分組成で作成し、風味を確かめた。
(1)豆乳飲料:豆乳90%、実施例1で作製した高濃度分離大豆タンパク質10%、(2)アイスクリーム:牛乳55%、生クリーム16%、卵黄6%、上白糖13%、実施例1で作製した脱脂大豆粉8%、バニラエッセンス2%、(3)乳酸菌飲料:乳固形分20%発酵乳16%、果糖ブドウ糖液糖13%、ペクチン0.50%、クエン酸0.08%、香料0.15%、実施例1で作製した高濃度分離大豆タンパク質10%、水60.27%、(4)高濃度分離大豆タンパク質を用いたクッキー:小麦粉37%、実施例1で作製した高濃度分離大豆タンパク質14%、砂糖20%、マーガリン20%、全卵粉7.0%、バニラエッセンス1.995%、オレイン酸0.005%、(5)脱脂大豆粉を用いたクッキー:小麦粉37%、実施例1で作製した脱脂大豆粉14%、砂糖20%、マーガリン15%、オレイン酸80%以上含有油5%、全卵粉7%、バニラエッセンス2%、(6)チョコレート:カカオマス19%、カカオバター17%、粉乳13%、実施例1で作製した脱脂大豆粉10%、砂糖41%、レシチン0.50%。
【0059】
その結果、いずれの飲食物の場合も、風味を損ねずに、本発明に係る大豆タンパク質成分を添加することができた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係る組成物は、ピロリ菌付着抑制作用を有するため、ピロリ菌感染予防剤として、有効である。また、本発明に係る組成物は、飲食物に添加できるため、日常的に摂取できるピロリ菌感染予防用飲食物として、有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆に含まれる分子量40,000以上600,000以下のタンパク質成分を少なくとも含有する、ピロリ菌の胃上皮細胞に対する付着を抑制する組成物。
【請求項2】
製造工程中に、有機溶媒を用いて、脱皮大豆から油脂成分を除去し、脱脂大豆を得る工程が含まれることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項3】
製造工程中に、前記脱脂大豆について80%エタノール抽出を行い、その不溶性画分を得る工程が含まれることを特徴とする請求項2記載の組成物。
【請求項4】
製造工程中に、前記脱脂大豆についてアルカリ抽出を行い、その可溶性画分を得た後、該可溶性成分を酸性処理して大豆タンパク質を沈澱させる工程が含まれることを特徴とする請求項2記載の組成物。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項記載の組成物を少なくとも含有する飲食物。

【公開番号】特開2006−188439(P2006−188439A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−382923(P2004−382923)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000187079)昭和産業株式会社 (64)
【Fターム(参考)】