説明

ピロロキノリンキノン粉体

【課題】
嵩密度を制御し、製剤化や輸送に適した粒度分布を有するPQQ粉体を提供し、かつ簡単な装置を用いて簡便に製造する方法を提供する。
【解決手段】レーザー回折散乱式粒度分布測定法による個数基準に基づく累積90%径が25μm以上、200μm未満であることを特徴とするピロロキノリンキノン粉末。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学式1で表されるピロロキノリンキノン(以下PQQと記す)構造の物質で、このフリー体、塩を取り扱う。
【化1】

【背景技術】
【0002】
PQQは新しいビタミンの可能性があることが提案されて(例えば、非特許文献1参照)、健康補助食品、化粧品などに有用な物質として注目を集めている。さらには細菌に限らず、真核生物のカビ、酵母に存在し、補酵素として重要な働きを行っている。また、PQQについて近年までに細胞の増殖促進作用、抗白内障作用、肝臓疾患予防治療作用、創傷治癒作用、抗アレルギ−作用、逆転写酵素阻害作用およびグリオキサラ−ゼI阻害作用−制癌作用など多くの生理活性が明らかにされている。このPQQは、有機化学的合成法(非特許文献2)または発酵法(特許文献1)などの方法により得たPQQをクロマトグラフィーに供し、流出液中のPQQ区分を濃縮して、晶析により結晶化し(特許文献2)、乾燥して得ることができる。しかし、こうして得られる結晶はフリー体もしくは塩であるが、これらの嵩密度は結晶化条件によって変動しやすい。
【0003】
一般に、粒子が細かすぎる場合、粉体流動特性が悪化するために装置への充填などの操作が困難となるだけでなく、嵩密度が低下するため梱包容器の大型化や個数の増加につながり、生産、輸送、利用における不利益が生じる。また、粉体の嵩密度を一定にすることは錠剤の製造においては必須である。
【0004】
これまで、PQQ粉体の、粒子径、嵩密度など、粉体物性に関する報告はなかった。そのため、嵩密度が0.4g/ml以上にするための粉体の粒子径に関する情報はなかった。そのため、適切な粒度分布による安定した高い嵩密度を有する粉体と、その製造技術の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1-218597号公報
【特許文献2】特許2072284号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】nature,vol422, 24April,3003, p832
【非特許文献2】JACS、第103巻、第5599〜5600頁(1981)
【非特許文献3】JACS、第111巻、第6822〜6828頁(1989)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、嵩密度を制御し、製剤化や輸送に適した粒度分布を有するPQQ粉体を提供すること、そしてその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、以下に示す項目によって解決できることを見出した。
・ レーザー回折散乱式粒度分布測定法による個数基準に基づく累積90%径が25μm以上、200μm未満であることを特徴とピロロキノリンキノン粉末。
・ ピロロキノリンキノンの質量に対して水の質量が5以上150%未満の存在下で混錬処理する工程と、乾燥する工程と、粉砕する工程と、を含むことを特徴とするピロロキノリンキノン粉末の製造方法
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造法は、純度が高く、安定であるPQQの結晶の優れた性質、特にPQQジナトリウム塩の性質を保ちつつ、嵩密度や粉体流動特性が悪いという課題を解決することができる。また上記の製造法は、簡単な装置を用いて簡便に行うことができるので、工業的な生産に適している。
【0010】
さらに、上記の製造法で、個数基準に基づく累積90%径が25μm以上200μm未満であり、嵩密度が0.4g/ml以上1.7g/ml未満のPQQジナトリウム塩粉体を製造することができる。この粉体は粒度分布がシャープで、嵩密度が非常に高く、粉体流動特性も良好であり、製剤化や輸送、生産の面で大きな利点を有している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施例および比較例を以て本発明の内容をさらに詳しく説明する。ただし本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0012】
本発明におけるPQQ粉末はフリー体、塩どちらでもかまわない。塩としてはナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウムの塩で単独、混合どちらでも良い。カルボン酸の塩としてはモノ、ジ、トリのどれでも良く、好ましくはジナトリウム塩の粉体である。
【0013】
本発明における粒子分布の算出は、下記のレーザー回折法(フラウンホーファー回折)により測定を行った。
【0014】
(レーザー回折法(フラウンホーファー回折)による粒子分布測定)
HELOSレーザー回折分光器(SympaTec社)、RODOS 乾燥分散機(SympaTec社)、Vibri振動チャンネル, Messrs.(SympaTec社)を用いて、サンプル供給量を50〜100mg、焦点距離を 100mm (測定範囲:0.9−175μm)、分散ガスを空気で、個数基準に基づき累積90%径を算出した。
【0015】
嵩密度を使用しやすい0.4から1.7g/mlのPQQの乾燥粉体は、上記レーザー回析法により求めた粒子分布から算出した個数基準に基づく累積90%粒子径が、25μm以上、200μm未満であることが必要である。嵩密度を0.4から0.6の一般的な粉体と同様に制御するには25μm以上、80μm未満に制御する必要がある。さらに、非常に高い嵩密度の0.8以上が必要であれば140μm以上200μm未満にすればよい。25μm以下の粒子径の場合、嵩密度が小さくなりすぎる。さらに200μm以上の大きさにした場合、粒子が大きいため、溶解速度が小さくなる危険性がある。
【0016】
本発明で規定する嵩密度はタッピングを行う嵩密度で規定しているが、粒子径の機能としてはタッピング操作をしなくても制御できることは自明である。
【0017】
本発明は累積90%径が25μm以上、200μm未満であることを特徴とするが、この粒子は分級するだけ、もしくは分級し混合することで製造可能である。
【0018】
さらに再現性良く粒子の生産効率を上げる製造方法は、上記のサイズに二次粒子を作製することである。
【0019】
通常の造粒の際、経口用固形製剤を製造する際に一般的に使用される各種添加剤を加えても良いが、純度を維持するにはこれらを使用しないことで造粒することがのぞまれる。つまり、必要に応じて添加剤として良く使用される乳糖、ショ糖、トレハロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、カルシウム、澱粉類などを使用してもかまわないが、純度を高くするには使用しない方法が好ましい。
【0020】
二次粒子作成方法としては、例えば、粉末に結合剤及び溶媒を加えて造粒する湿式造粒法、もしくは粉末を圧縮して造粒する乾式造粒法などが利用できる。
【0021】
本発明の場合、水存在下、混練処理をして、乾燥することが好ましい。水の存在は初期の粉末に含有する水分を利用してもよく、乾燥した粉末に添加しても良い。水の質量は、用いたPQQの乾燥粉体の質量に対して150%以上では粉体を圧縮するには泥水のようになってしまうため好ましくなく、5%以上150%未満となるようにするのが好ましい。より好ましくは10%以上45%未満である。
【0022】
本発明の場合、水と共に水溶性有機溶媒を含む水溶液を粉末に加えて二次粒子を作製することができる。例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、メトキシエタノール、ジエチレングリコール、メトキシジエチレングリコール、グリセリン、メトキシプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、乳酸エチル、ヒドロキシイソブチル酸メチル等があげられる。このうち好ましくはアルコールが好ましく、より好ましくはエタノールである。上記の有機溶剤は水の質量に対し0から90%の濃度で存在すればいいが、より好ましくは0から40%である。この有機溶剤は分散剤として、粉体全体に水を浸透させるために使用するが、初期のPQQの量にあわせて適時考えればよい。
【0023】
二次粒子作製の際の温度は、液が凍結しなければ特に制限はないが、0℃以上90℃未満が好ましく、より好ましくは、0℃以上50℃未満である。
【0024】
こうして得られた造粒物を乾燥する。乾燥温度はPQQ結晶が変化しない限り特に制限はないが、低温では乾燥速度が低下し、高温では変性等の危険性があるため、−80℃以上、180℃未満が好ましく、より好ましくは、5℃以上100℃未満である。より好ましくは真空乾燥で行う。
【0025】
混合する際には、プラネタリーミキサーやスクリュー型混合機などを用いる混合撹拌造粒法、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、バーチカルグラニュレータなどを用いる高速混合撹拌造粒法、ローラーコンパクター、打錠成型機などを用いる圧縮造粒法、円筒造粒機、ロータリー型造粒機、スクリュー押し出し造粒機、ペレットミル型造粒機などを用いる押し出し造粒法、それ以外にも、転動造粒法、流動層造粒法、破砕造粒法、噴霧造粒法などの操作方法を利用できる。
【0026】
造粒物は乾燥した後、粉砕する。粉砕装置としては、乾式粉砕装置、例えばピンミル、ジェットミル、ボールミル、ハンマーミル、カッターミルなどを用いることができる。粉砕後、60meshの篩で分級した後、篩下を採取することで、求める粉体を取得する。
具体的な操作は、PQQの乾燥粉体の場合、攪拌、あるいは流動させつつ、水を徐々に添加しながら造粒する。乾燥した造粒物は、上記のいずれかの乾式粉砕装置を用いて粉砕し、60meshの篩で分級した後、篩下を採取する。
【0027】
こうして取得したPQQの乾燥粉体は、先に述べたレーザー回折法(フラウンホーファー回折)により求めた粒度分布から算出した個数基準に基づく累積90%径が、25μm以上200μm未満であり、嵩密度が0.4g/ml以上1.7g/ml未満である。
【実施例】
【0028】
(PQQジナトリウム塩の水含有量の測定)
カールフィッシャー式水分計(KF774、メトローム)にカールフィッシャー試薬(ハイドラナールAGオーブン、Fluka)を使用して水分測定を行った。
重量M1(g)の試験サンプル(造粒前のPQQジナトリウム塩粉末)を180℃に加熱して含まれる水を完全に蒸発させ、発生した水蒸気をヘッドスペースサンプラーによりカールフィッシャー試薬と反応させ、粉に含まれる水分量M2(g)をカールフィッシャー法によって定量した。式M2/M1x100を用いて、水分量(%)を計算した。
【0029】
(造粒後の粉砕、分級、分析)
乾燥した造粒物を、ハンマー式ヘッド(IKA、 MF10.2)を取り付けた連続式ミル(IKA、MF10)に入れ、回転数3000rpm、スクリーン孔径1mmで粉砕した。粉砕物を、電磁式ふるい振とう機(レッチェ、AS-200)を用い、60meshのふるいを通して粗粒を除き、PQQジナトリウム塩の粉末を得た。
【0030】
(嵩密度の測定)
分級後に形成された1mm程度の二次粒子を除去するために、目開き425μmのふるいを取り付けた上部漏斗の下に、粉体の受け器となる円筒形(容積Vc 36.0mL、内径30mm)のステンレス製カップを置いた。試験サンプル(PQQジナトリウム塩粉末)をふるいに通し、過剰の粉体が溢れるまでカップへ流下させた。カップの上面に垂直に立てて接触させたへラの刃を滑らかに動かし、圧密やカップからの粉体の溢流を防ぐためにへラを垂直にしたままで、カップの上面から過剰の粉体を注意深くすり落とした。カップの側面からも試料をすべて除去し,粉体の質量M3を0.1%まで測定した。カップに量りとった粉体を、容量50mL、最小目盛り1mLのメスシリンダーに取り、メスシリンダー底面を50-60回/分で機械的にタップした。嵩体積が減少しなくなったときの嵩体積Vを最小目盛りまで読み取りタップ体積とした。式M3/Vを用いて嵩密度(g/ml)を計算した。
【0031】
<実施例1>
PQQジナトリウム塩の乾燥粉末200g(水含有量7%)にせん断力の強い羽根(平面ビーター)を取り付けた、上部攪拌式ミキサー(Delongi、KM4005型)を使用し、攪拌速度100rpmで30分間かけて水100g添加した。その後、造粒物を回収し、50℃で2日間減圧乾燥した。乾燥した造粒物を粉砕・分級した。嵩密度0.75g/ml、及び累積90%径128.9μmであった。
【0032】
<実施例2>
装置で使用する羽をせん断力の弱い羽根(ドゥーフック)に替え、水50gを添加した以外は実験例1と同様の実験を行った。嵩密度0.45 g/ml、及び累積90%径37.9μmであった。
【0033】
<実施例3>
水90gを添加し、攪拌速度300rpmとした以外は実験例1と同様の実験を行った。嵩密度0.47 g/ml、及び累積90%径27.1μmであった。
【0034】
<実施例4>
水80g 、攪拌速度300rpmとした以外は実験例1と同様の実験を行った。嵩密度0.52 g/ml、及び累積90%径70.0μmであった。
【0035】
<実施例5>
攪拌転動造粒機を使用し、攪拌速度500rpmで15分間かけてエタノール13gと水87gの混合液を添加した以外は実験例1と同様の実験を行った。嵩密度0.98g/ml、及び累積90%径149.5μmであった。
【0036】
<実施例6>
水含有量70%のウエットケーキであるPQQジナトリウム塩200gを、均一になるようステンレス製のバットに入れてビニールシートをかぶせ、上から円柱状の棒を用いて約20kg/10cm2の圧力で押しつぶしながら混錬した。嵩密度0.42g/ml、及び累積90%径55.0μmであった。
【0037】
<実施例7>
PQQジナトリウム塩の乾燥粉末200g(水含有量10%)をローラーコンパクター(を用いたロール圧縮法により、4.0 MPa(圧縮シリンダー、ゲージ圧)の圧力で圧縮成型し、得られた造粒物を、実施例1と同様の方法で粉砕・分級した。嵩密度0.53g/ml、及び累積90%径55.0μmであった。
【0038】
<比較例1>
PQQジナトリウム塩の乾燥粉末200g(水含有量7%)を造粒せず、そのまま粉砕・分級した。嵩密度0.17g/ml、及び累積90%径8.4μmであった。
【0039】
<比較例2>
水含有量70%のウエットケーキであるPQQジナトリウム塩200gを造粒せず、50℃で2日間減圧乾燥後、粉砕・分級した。嵩密度0.23g/ml、及び累積90%径16.3μmであった。
【0040】
<比較例3>
比較例2の原材料を−70℃、減圧下で2日間凍結乾燥した。粉砕・分級した。嵩密度0.16g/ml、及び累積90%径13.9μmであった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によって得られるピロロキノリンキノン粉体は、健康補助食品、化粧品、医薬品等の分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による個数基準に基づく累積90%径が25μm以上、200μm未満であることを特徴とするピロロキノリンキノン粉末。
【請求項2】
嵩密度が0.4 g/ml以上、1.7 g/ml未満であることを特徴とする請求項1に記載のピロロキノリンキノン粉末。
【請求項3】
ジナトリウム塩であることを特徴とする請求項1のピロロキノリンキノン粉末。
【請求項4】
ピロロキノリンキノンの質量に対して水の質量が5以上150%未満の存在下で混錬処理する工程と、乾燥する工程と、粉砕する工程と、を含むことを特徴とするピロロキノリンキノン粉末の製造方法
【請求項5】
前記混錬処理において、前記水の質量に対して有機溶剤が90%以下の濃度で含まれていることを特徴とする請求項4に記載のピロロキノリンキノン粉末の製造方法

【公開番号】特開2011−98911(P2011−98911A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254792(P2009−254792)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】