説明

ファン制御装置

【課題】エンジンの温度を所定の範囲内に保ちつつ燃費を向上することの可能なファン制御装置を提供する。
【解決手段】ファン制御装置20は、入力部21を介して入力されるエンジン冷却液の温度、燃料噴射量、車両の速度、アクセル開度、エンジン回転速度に基づいて車両の運転状態を通常状態、高負荷状態、発進・加速状態の中から推定する。そして、エンジン冷却液の温度に対するファン14の駆動量が規定された通常マップ24a、高負荷マップ24b、発進・加速マップ24cから推定した運転状態に対応するマップを選択する。そして、上記エンジン冷却液の温度に基づいて、推定された運転状態に対応するマップからファン14の駆動量を選択し、ファン14の回転速度の目標値を演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの出力により回転するファンの回転速度を制御するファン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両用のエンジンには、一般に、エンジン冷却液の冷却効率を高めるため、エンジンの出力軸にファンクラッチを介してファンが連結されている。こうしたファンでは、通常、エンジン冷却液の冷却が不要なときにまでファンが作動すると、エンジンの出力損失が大きくなるばかりか、エンジン冷却液の温度が過度に低下して燃費の向上が妨げられることとなる。そこで、上述したファンの回転数を制御するファン制御装置には、こうした問題を解決するために、例えば特許文献1に記載のようなファンクラッチの制御方法が提案されている。
【0003】
特許文献1に記載のファンクラッチの制御方法は、エンジン冷却液の温度やエンジンオイルの温度に閾値が設定され、各温度の測定値が閾値を超えたか否かによって、ファンクラッチの接続と切断とが制御される。こうした制御方法によれば、エンジン冷却液の温度やエンジンオイルの温度が閾値を超えるときにファンが駆動されるため、エンジン出力の損失が抑えられるとともにエンジン冷却液及びエンジンオイルの各々が所定の温度範囲に維持されやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−3131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、エンジン冷却液の温度の変化やエンジンオイルの温度の変化とは、車両の運転状態によって大きく異なることが少なくない。この点、上述のようなファンクラッチの制御方法では、ファンクラッチの接続と切断とが上記温度の閾値に基づいて切り替るため、例えば温度が急激に上昇する場合でも該温度が過度に高くならないように、所定の温度範囲において温度の閾値が低温側に設定されることが余儀なくされている。そのため、温度が急激に上昇することのない場合には、エンジン冷却液の温度やエンジンオイルの温度に対して必要とされる以上の回転速度でファンが駆動される場合があり、燃費を向上させるうえで依然として改善の余地が残されるものであった。
【0006】
本発明は、上記実情を鑑みてなされたものであり、その目的は、エンジンの温度を所定の範囲内に保ちつつ燃費を向上することの可能なファン制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様の一つは、車両のエンジンを冷却するためのファンの回転を制御するファン制御装置であって、前記車両の運転状態を推定する運転状態推定部と、エンジン冷却液の温度と前記ファンの駆動量とが対応付けられた制御マップを前記運転状態ごとに記憶する記憶部と、前記運転状態推定部の推定した前記運転状態に対応する前記制御マップと前記エンジン冷却液の温度とから前記ファンの回転速度を演算する回転速度演算部とを備え、前記運転状態推定部は、前記車両が発進して加速している運転状態である発進・加速状態、前記エンジン冷却液における温度の上昇が相対的に大きい運転状態である高負荷状態、前記エンジン冷却液における温度の上昇が相対的に小さい運転状態である通常状態のうちのいずれか1つを推定する。
【0008】
本発明の態様の一つによれば、車両の運転状態ごとの制御マップとエンジン冷却液の温度とからファンの回転速度が設定される。その結果、エンジン冷却液の温度の上昇に見合った回転速度でファンを回転することが可能である。そのため、エンジンの冷却に必要とされる回転速度以上の回転速度でファンが駆動される場合に比べて、ファンの駆動にともなうエンジン出力の損失を抑えること、ひいてはエンジンの温度を所定の範囲内に保ちつつ燃費の向上を図ることが可能となる。また、エンジンの冷却に必要とされる回転速度以上の回転速度でファンが駆動される場合に比べて、エンジン冷却液が高温に維持されやすくなると共に、エンジンオイルも高温に維持されやすくなることから、エンジンフリクションによるエンジン出力の損失を抑えることが可能にもなる。
【0009】
また、車両が発進して加速している上記発進・加速状態では、エンジン冷却液の温度が他の運転状態と比べて、十分に低い場合が少なくない。一方、このような発進・加速状態とは、通常、低速高負荷状態にあるため、単に負荷状態に応じて運転状態が推定されるとなれば、このような発進・加速状態に対しても、高負荷状態と同様の制御マップが利用されることになる。この点、上述した態様であれば、発進・加速状態と高負荷状態に対して各別の制御マップが利用されることになる。それゆえに、上述した効果がより顕著なものとなる。
【0010】
本発明の態様の一つは、前記記憶部には、前記高負荷状態に対応する前記制御マップである高負荷マップと、前記通常状態に対応する前記制御マップである通常マップと、前記発進・加速状態に対応する前記制御マップである発進・加速マップとが記憶され、前記高負荷マップには、前記エンジン冷却液の温度が第1設定温度以上の範囲で前記ファンの駆動量が対応付けられ、前記通常マップには、前記エンジン冷却液の温度が前記第1設定温度よりも高い第2設定温度以上の範囲で前記ファンの駆動量が対応付けられている。
【0011】
本発明の態様の一つによれば、エンジン冷却液の温度の上昇が相対的に大きい高負荷状態では、エンジン冷却液の温度の上昇が相対的に小さい通常状態に比べて、エンジン冷却液の温度が低い状態から、ファンが駆動されることになる。その結果、高負荷状態におけるエンジンの冷却と通常状態における燃費の向上とを、より高い確率で実現することが可能である。
【0012】
本発明の態様の一つによれば、前記発進・加速マップには、前記エンジン冷却液の温度の全範囲で、前記ファンの停止、若しくは、前記高負荷マップ及び前記通常マップにおいて同じ温度に対応付けられている駆動量以下の駆動量が設定されている。
車両が発進して加速している運転状態では、エンジン冷却液の温度が他の運転状態と比べて、十分に低い場合が少なくなく、また、エンジンの出力が特に必要とされる運転状態でもある。この点、本発明の態様の一つによれば、こうした発進・加速状態では、ファンが停止している、若しくは、他の運転状態よりもファンの回転が抑えられているため、燃費の向上が図られることに加え、ファンの駆動にともなうエンジン出力の損失が低減されることから、車両の加速性能が低下することを抑えることが可能でもある。
【0013】
本発明の態様の一つは、前記運転状態推定部が、前記発進・加速状態の推定に際し、前記エンジン冷却液の温度が所定温度未満であることを条件として有する。
本発明の態様の一つによれば、エンジン冷却液の温度が所定温度未満であることを条件の一つとして発進・加速状態の推定が行われるため、エンジン冷却液の温度が所定温度以上であれば、たとえ他の条件が満たされるとしても、該運転状態が発進・加速状態として推定されることはない。その結果、発進・加速マップにおいて、ファンの停止、若しくはファンの回転が他の運転状態よりも抑えられる駆動量が設定されるとしても、エンジン冷却液がファンの停止、若しくはファンの回転が抑えられることにより過度に上昇することを、より確実に抑えることが可能である。
【0014】
本発明の態様の一つは、前記運転状態推定部が、エンジン冷却液の温度、燃料噴射量、前記車両の速度、アクセル開度、エンジン回転速度に基づいて前記運転状態を推定する。
本発明の態様の一つによれば、エンジン冷却液の温度、燃料噴射量、車両の速度、アクセル開度、及びエンジン回転速度に基づいて運転状態が推定される。そのため、これらのパラメータから選択されたパラメータにより運転状態が推定される態様と比べて、運転状態の推定結果に関する精度が高められることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態におけるファン制御装置を制御対象となるファンを備えたエンジンとともに機能的に示す機能ブロック図。
【図2】同実施形態のファン制御装置が採用する通常マップの設定の態様を示すグラフ。
【図3】同実施形態のファン制御装置が採用する高負荷マップの設定の態様を示すグラフ。
【図4】同実施形態のファン制御装置が実行する運転状態推定処理の処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のファン制御装置を具体化した一実施形態について、図1〜図4を参照して説明する。
[ファン制御装置の構成]
図1に示されるように、エンジン11とラジエーター12との間には、電子制御式のファンクラッチ13を介してエンジン11の出力軸11aに接続されたファン14が配設されている。ファンクラッチ13の接続と切断とは、ファン制御装置20(以下、単に制御装置20という)によってPWM制御(Pulse Width Modulation:パルス幅変調制御)される。そして、ファン14とエンジン11の出力軸11aとが接続されている間、出力軸11aの回転力がファン14に伝達されて出力軸11aとともにファン14が回転する。
【0017】
制御装置20は、図示されないCPU、各種制御プログラムや各種データが格納されたROM、各種データが一時的に格納されるRAM等によって構成され、ROMに格納された各種制御プログラムに基づいて各種処理を実行する。
【0018】
制御装置20の入力部21には、エンジン冷却液の現在の温度T(以下、冷却液温度Tという)を示す検出信号が温度検出センサー31から入力され、また、燃料噴射量Qを示す検出信号が燃料噴射量センサー32から所定の制御周期で入力される。また、入力部21には、アクセル開度Acを示す検出信号がアクセル開度センサー33から入力され、また、エンジン11が搭載された車両の車速vを示す検出信号が車速センサー34から入力され、さらにまたエンジン回転速度Neを示す検出信号がエンジン回転速度センサー35から所定の制御周期で入力される。
【0019】
制御装置20の主制御部22は、運転状態推定部を構成するとともに、入力部21に入力された冷却液温度T、燃料噴射量Q、アクセル開度Ac、車速v、エンジン回転速度Ne、これら5つの情報に基づいて、車両の運転状態を推定する運転状態推定処理を実行する。なお、主制御部22は、車両の運転状態が下記3つの運転状態のいずれであるかを推定する。
【0020】
・エンジン冷却液の温度上昇が相対的に小さい運転状態である通常状態
・エンジン冷却液の温度上昇が相対的に大きい運転状態である高負荷状態
・発進あるいは加速している運転状態である発進・加速状態
制御装置20の記憶部23には、ファン14の回転速度であるファン回転速度FSのエンジン回転速度Neに対する比率である駆動比率Rと、冷却液温度Tとを関連付けた制御マップが、上述した3つの運転状態の各々に対して各別に記憶されている。すなわち、記憶部23には、通常状態に対応する通常マップ24a、高負荷状態に対応する高負荷マップ24b、及び発進・加速状態に対応する発進・加速マップ24cが記憶されている。制御マップに設定された駆動比率Rは、エンジン冷却液が目標温度になる際のファン14のファン回転速度FSに基づく値であって、各種の実験結果やシミュレーション結果に基づいて上述した運転状態とエンジン回転速度Neごとに規定された値である。
【0021】
図2に示されるように、通常マップ24aでは、冷却液温度Tが増えるに連れて駆動比率Rが段階的に増えるように、互い異なる6つの駆動比率Rが、下記6つの温度範囲の各々に対して設定されている。
【0022】
・冷却液温度Tが第2設定温度である90℃未満:駆動比率R=0.0%
・冷却液温度Tが90℃以上92℃未満:駆動比率R=32.5%
・冷却液温度Tが92℃以上94℃未満:駆動比率R=45.0%
・冷却液温度Tが94℃以上95℃未満:駆動比率R=60.0%
・冷却液温度Tが95℃以上96℃未満:駆動比率R=90.0%
・冷却液温度Tが96℃以上:駆動比率R=100%
図3に示されるように、高負荷マップ24bでは、これもまた冷却液温度Tが増えるに連れて駆動比率Rが段階的に増えるように、互い異なる5つの駆動比率Rが、下記5つの温度範囲の各々に対して設定されている。また、高負荷マップ24bでは、駆動比率Rが0.0%よりも大きくなる冷却液温度Tが、通常マップ24aと比べて低く、同じ冷却液温度Tにて、通常マップ24aと同じ駆動比率R、あるいは通常マップ24aよりも高い駆動比率Rが設定されている。
【0023】
・冷却液温度Tが第1設定温度である89℃未満:駆動比率R=0.0%
・冷却液温度Tが89℃以上91℃未満:駆動比率R=35.0%
・冷却液温度Tが91℃以上93℃未満:駆動比率R=50.0%
・冷却液温度Tが93℃以上95℃未満:駆動比率R=60.0%
・冷却液温度Tが95℃以上96℃未満:駆動比率R=90.0%
・冷却液温度Tが96℃以上:駆動比率R=100%
また、発進・加速マップ24cでは、冷却液温度Tに関わらず、駆動比率Rが0.0%に設定されている。
【0024】
制御装置20の主制御部22は、駆動量選択部として、運転状態推定処理にて選択した運転状態の制御マップと冷却液温度Tとに基づいて駆動比率Rを選択する。そして、主制御部22は、回転速度演算部として、該主制御部22の選択した駆動比率Rとエンジン回転速度Neとに基づいて、ファン回転速度FSの目標値である目標回転速度TFSを算出し、該算出した目標回転速度TFSをPWM制御部25に出力する。
【0025】
PWM制御部25には、上記目標回転速度TFSの他、ファン14の現在の回転速度を示す検出信号が所定の制御周期で入力される。PWM制御部25は、ファン14の現在の回転速度と目標回転速度TFSとに基づくフィードバック制御によりデューティ比を演算し、該演算したデューティ比に基づく駆動信号をファンクラッチ13に出力する。
【0026】
[ファン制御装置の作用]
次に、制御装置20が実行する運転状態推定処理の処理手順について図4を参照して説明する。なお、運転状態推定処理は、運転状態が上述した3つの運転状態のいずれであるかを推定する処理であって、所定の制御周期ごとに繰り返して実行される。
【0027】
まず、主制御部22は、予め設定された第1設定車速v1、例えば20km/hと車速vとを比較し、車速vが第1設定車速v1以上であるか否かを判断する(ステップS11)。車速vが第1設定車速v1未満であると判断された場合(ステップS11:NO)、主制御部22は、予め設定された第1設定開度Ac1、例えば10%とアクセル開度Acとを比較し、アクセル開度Acが第1設定開度Ac1以上であるか否かを判断する(ステップS12)。
【0028】
アクセル開度Acが第1設定開度Ac1以上であると判断された場合(ステップS12:YES)、主制御部22は、予め設定された第3設定温度T3、例えば93℃と冷却液温度Tとを比較し、冷却液温度Tが第3設定温度T3以下であるか否かを判断する(ステップS13)。そして、冷却液温度Tが第3設定温度T3以下であると判断された場合(ステップS13:YES)、主制御部22は、車両の運転状態が発進・加速状態であると推定(ステップS14)して一連の処理を終了する。
【0029】
このように、主制御部22は、下記条件1〜条件3が満たされるとき、車両が発進している状態である、すなわち運転状態が上記発進・加速状態であると推定する。
(条件1)車速vが第1設定車速v1未満であること。
(条件2)アクセル開度Acが第1設定開度Ac1以上であること。
(条件3)冷却液温度Tが第3設定温度T3以下であること。
一方、車速vが第1設定車速v1以上であると判断された場合(ステップS11:YES)、また、ステップS12においてアクセル開度Acが第1設定開度Ac1未満であると判断された場合(ステップS12:NO)、主制御部22は、ステップS15の処理を進める。すなわち、主制御部22は、予め設定された設定回転速度Ne1、例えば1300rpmとエンジン回転速度Neとを比較し、エンジン回転速度Neが設定回転速度Ne1以下であるか否かを判断する。
【0030】
エンジン回転速度Neが設定回転速度Ne1よりも大きいと判断された場合(ステップS15:NO)、主制御部22は、上記第1設定車速v1よりも大きく予め設定された第2設定車速v2、例えば50km/hと車速vとを比較し、車速vが第2設定車速v2以下であるか否かを判断する(ステップS16)。車速vが第2設定車速v2以下であると判断された場合(ステップS16:YES)、主制御部22は、予め設定された第2設定開度Ac2、例えば70%とアクセル開度Acとを比較し、アクセル開度Acが第2設定開度Ac2以下であるか否かを判断する(ステップS17)。そして、アクセル開度Acが第2設定開度Ac2以下であると判断された場合(ステップS17:YES)、主制御部22は、ステップS13の処理を進める。
【0031】
このように、主制御部22は、下記条件4〜条件7が満たされるとき、車両が加速している状態である、すなわち運転状態が上記発進・加速状態であると推定する。
(条件4)エンジン回転速度Neが設定回転速度Ne1よりも大きいこと。
(条件5)車速vが第2設定車速v2以下であること。
(条件6)アクセル開度Acが第2設定開度Ac2以下であること。
(条件7)冷却液温度Tが第3設定温度T3以下であること。
他方、エンジン回転速度Neが設定回転速度Ne1以下であると判断された場合(ステップS15:YES)、また、ステップS16において車速vが第2設定車速v2よりも大きいと判断された場合(ステップS16:NO)、主制御部22は、ステップS18の処理を進める。また、ステップS17においてアクセル開度Acが第2設定開度Ac2よりも大きいと判断された場合、また、ステップS13において冷却液温度Tが第3設定温度T3よりも大きいと判断された場合にも(ステップS13:NO)、主制御部22は、ステップS18の処理を進める。
【0032】
ステップS18にて、主制御部22は、予め設定された設定噴射量Q1、例えば10cc/secと燃料噴射量Qとを比較し、燃料噴射量Qが設定噴射量Q1以上である状態が一定期間FP、例えば10sec以上継続しているか否かを判断する。設定噴射量Q1以上である状態が一定期間FP継続していると判断された場合(ステップS18:YES)、主制御部22は、車速vと第1設定車速v1とを比較し、車速vが第1設定車速v1以上であるか否かを判断する(ステップS19)。
【0033】
車速vが第1設定車速v1以上であると判断された場合(ステップS19:YES)、主制御部22は、第3設定温度T3よりも小さく予め設定された第2設定温度T2、例えば89℃と冷却液温度Tとを比較し、冷却液温度Tが第2設定温度T2以上であるか否かを判断する(ステップS20)。そして、冷却液温度Tが第2設定温度T2以上であると判断された場合(ステップS20:YES)、主制御部22は、車両の運転状態を高負荷状態と推定(ステップS21)して一連の処理を終了する。
【0034】
一方、設定噴射量Q1以上である状態が一定期間FP継続していないと判断された場合(ステップS18:NO)、また、ステップS19にて車速vが第1設定車速v1未満であると判断された場合(ステップS19:NO)、主制御部22は、ステップS22の処理を進める。ステップS22にて主制御部22は、一定期間FPにおける冷却液温度Tの上昇幅ΔTが予め設定された設定上昇幅ΔT1、例えば2℃以上であるか否かを判断する。
【0035】
上昇幅ΔTが設定上昇幅ΔT1以上であると判断された場合(ステップS22:YES)、主制御部22は、ステップS20の処理を進める。そして、温度上昇幅ΔTが設定上昇幅ΔT1未満であると判断された場合(ステップS22:NO)、また、ステップS20において冷却液温度Tが第1設定温度T1未満であった場合(ステップS20:NO)、主制御部22は、車両の運転状態を通常状態と推定して一連の処理を終了する(ステップS23)。
【0036】
このように、主制御部22は、上記条件1〜条件3が満たされず、また上記条件4〜条件7が満たされないとき、下記条件8〜条件10が満たされる、あるいは下記条件8,9が満たされずとも下記条件10,11が満たされることを前提として、運転状態が上記高負荷状態であると推定する。例えば、燃料が継続的に供給された状態で冷却液温度Tが第1設定温度T1以上になる状態、また燃料が継続的に供給された状態での低速走行時に上昇幅ΔTが大きい状態、また燃料が継続的に供給されていないにも関わらず上昇幅ΔTが大きい状態、これらが高負荷状態として推定される。そして、主制御部22は、上記条件1〜条件11に基づき、上記発進・加速状態と上記高負荷状態とに属さない運転状態を通常状態と推定する。
【0037】
(条件8)燃料噴射量Qが設定噴射量Q1以上である状態が一定期間FP継続していること。
(条件9)車速vが第1設定車速v1以上であること。
(条件10)冷却液温度Tが第1設定温度T1以上であること。
(条件11)上昇幅ΔTが設定上昇幅ΔT1以上であること。
上述したように制御装置20は、冷却液温度T、燃料噴射量Q、アクセル開度Ac、車速v、エンジン回転速度Ne、これら5つの情報に基づいて、エンジン11を搭載した車両の運転状態を推定する。そして、制御装置20は、推定された運転状態に関連付けられた制御マップと上記冷却液温度Tとに基づいて駆動比率Rを決定する。制御装置20は、決定された駆動比率Rと上記エンジン回転速度Neとに基づいて、ファン14の目標回転速度TFSを算出する。そして、制御装置20は、算出された目標回転速度TFSとファン14の現在の回転速度とに基づくフィードバック制御によりファン回転速度FSを制御する。これにより、ファン14は、車両の運転状態及び冷却液温度Tに応じた回転速度で駆動される。
【0038】
以上説明したように、本実施形態の制御装置20によれば、以下に列挙する効果が得られるようになる。
(1)車両の運転状態ごとの制御マップと冷却液温度Tとからファン14のファン回転速度FSが設定される。その結果、エンジン冷却液の温度の上昇に見合った回転速度でファン14を回転することが可能である。そのため、エンジン11の冷却に必要とされる回転速度以上の回転速度でファンが駆動される場合に比べて、ファン14の駆動にともなうエンジン出力の損失を抑えること、ひいてはエンジン11の温度を所定の範囲内に保ちつつ燃費の向上を図ることが可能となる。
【0039】
(2)しかも、エンジン11の冷却に必要とされる回転速度以上の回転速度でファン14が駆動される場合に比べて、冷却液温度Tが高温に維持されやすくなると共に、エンジンオイルも高温に維持されやすくなることから、エンジンフリクションによるエンジン出力の損失も抑えることができる。
【0040】
(3)また、車両が発進して加速している発進・加速状態では、冷却液温度Tが他の運転状態と比べて、十分に低い場合が少なくない。一方、このような発進・加速状態とは、通常、低速高負荷状態にあるため、単に負荷状態に応じて運転状態が推定されるとなれば、このような発進・加速状態に対しても、高負荷状態と同様の制御マップが利用されることになる。この点、上述した実施形態であれば、発進・加速状態と高負荷状態に対して各別の制御マップが利用されることになる。それゆえに、上述した効果がより顕著なものとなる。
【0041】
(4)各運転状態に応じた制御マップが予め記憶されていることから、たとえ冷却液温度Tが同じであっても、通常状態、高負荷状態、発進・加速状態に応じたファン回転速度FSでファン14を回転させることができる。
【0042】
(5)通常マップ24aと高負荷マップ24bとを比較すると、高負荷マップ24bでは、より低い温度でファン14が駆動されるとともに、同じ温度であっても通常マップ24aにおける駆動比率R以上の駆動比率Rが設定されている。こうした構成によれば、高負荷状態におけるエンジン11の冷却と通常状態における燃費の向上とを、より高い確率で実現することが可能である。
【0043】
(6)車両が発進して加速している運転状態では、冷却液温度Tが他の運転状態と比べて、十分に低い場合が少なくなく、また、エンジンの出力が特に必要とされる運転状態でもある。この点、上述したように、発進・加速状態では、ファン14が停止されているため、燃費の向上が図られることに加え、車両の加速性能が低下することを抑えることが可能でもある。
【0044】
(7)しかも、冷却液温度Tが第3設定温度T3より大きな場合(ステップS13:NO)には、たとえ車両が加速中であっても、発進・加速状態を選択しない。そのため、発進・加速時におけるファン14の停止によりエンジン冷却液が過度に上昇することを抑えつつ、車両の加速性能が低下することを抑えることができる。
【0045】
(8)設定噴射量Q1以上である状態が一定期間FP継続する場合、あるいは一定期間FPにおける冷却液温度Tの上昇幅ΔTが設定上昇幅ΔT1以上である場合に、該運転状態が高負荷状態と推定される。こうした条件を設定することにより、制御マップが頻繁に切り替わることを抑えることが可能である。
【0046】
なお、上記実施形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・上記運転状態推定処理に用いられるパラメータは、エンジン冷却液の温度、燃料噴射量、前記車両の速度、アクセル開度、及びエンジン回転速の少なくとも1つのパラメータであってもよく、これら以外のパラメータが用いられる構成であってもよい。
【0047】
・上記運転状態推定処理において、ステップS13を割愛してもよい。こうした構成であっても、上記(1)〜(6)に準じた効果を得ることは可能である。
・上記実施形態において、発進・加速マップには、高負荷マップ及び前記通常マップにおいて同じ冷却液温度Tに対応付けられている駆動比率R以下の駆動比率Rが対応付けられていてもよい。すなわち、上記運転状態推定処理にて運転状態が発進・加速状態であると推定された場合に、ファン14の回転が高負荷状態及び通常状態よりも抑えられる構成であってもよい。こうした構成であっても、運転状態が高負荷状態あるいは通常状態である場合に比べてファンの回転が抑えられることから、上記(1)〜(5)に準じた効果に加え、上記(6)に準じた効果も得ることは可能である。
【0048】
・通常マップ24a及び高負荷マップ24bには、同じ冷却液温度Tからファン14が駆動されるように駆動比率Rが設定されていてもよい。また、通常マップ24aにおいてファン14が駆動される開始温度が、高負荷マップ24bにおいてファン14が駆動される開始温度よりも高い構成であって、通常マップ24aにおける駆動比率Rが、高負荷マップ24bにおける駆動比率Rよりも低い構成であってもよい。要は、通常状態で通常マップ24aが利用されることにより燃費の向上を図ることが可能な構成であればよい。こうした構成であっても、上記(1)〜(4)に準じた効果を得ることは可能である。
【0049】
・各運転状態に複数の制御マップが対応付けられていてもよい。例えば、高負荷状態における制御マップが第1高負荷マップ、第2高負荷マップで構成されているとき、エンジン回転速度Neに閾値を設けて、この閾値を境に第1高負荷マップ、第2高負荷マップが切り替わるようにしてもよい。こうした構成によれば、エンジン冷却液をより高精度に制御することができることから、さらなる燃費の向上が見込まれる。
【0050】
・また、各運転状態に複数の制御マップが対応付けられているとき、制御マップに規定される駆動量は、駆動比率Rに限らず、目標回転速度TFSそのものであってもよい。
・ファン14は、ファンクラッチ13によってエンジン11の出力軸11aの回転力が伝達されることによって駆動されるものに限らず、エンジンの出力軸11aの回転により発電された電力で駆動されるような電動ファンであってもよい。
【符号の説明】
【0051】
Ac…アクセル開度、FP…一定期間、FS…ファン回転速度、Ne…エンジン回転速度、Q…燃料噴射量、R…駆動比率、TFS…目標回転速度、T…冷却液温度、ΔT…上昇幅、v…車速、11…エンジン、11a…出力軸、12…ラジエーター、13…ファンクラッチ、14…ファン、20…制御装置、21…入力部、22…主制御部、23…記憶部、24a…マップ、24b…高負荷マップ、24c…発進・加速マップ、25…PWM制御部、31…温度検出センサー、32…燃料噴射量センサー、33…アクセル開度センサー、34…車速センサー、35…エンジン回転速度センサー、36…ファン回転速度検出センサー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジンを冷却するためのファンの回転を制御するファン制御装置であって、
前記車両の運転状態を推定する運転状態推定部と、
エンジン冷却液の温度と前記ファンの駆動量とが対応付けられた制御マップを前記運転状態ごとに記憶する記憶部と、
前記運転状態推定部の推定した前記運転状態に対応する前記制御マップと前記エンジン冷却液の温度とから前記ファンの回転速度を演算する回転速度演算部とを備え、
前記運転状態推定部は、
前記車両が発進して加速している運転状態である発進・加速状態、
前記エンジン冷却液における温度の上昇が相対的に大きい運転状態である高負荷状態、
前記エンジン冷却液における温度の上昇が相対的に小さい運転状態である通常状態のうちのいずれか1つを推定する
ことを特徴とするファン制御装置。
【請求項2】
前記記憶部には、
前記高負荷状態に対応する前記制御マップである高負荷マップと、
前記通常状態に対応する前記制御マップである通常マップと、
前記発進・加速状態に対応する前記制御マップである発進・加速マップとが記憶され、
前記高負荷マップには、
前記エンジン冷却液の温度が第1設定温度以上の範囲で前記ファンの駆動量が対応付けられ、
前記通常マップには、
前記エンジン冷却液の温度が前記第1設定温度よりも高い第2設定温度以上の範囲で前記ファンの駆動量が対応付けられている
請求項1に記載のファン制御装置。
【請求項3】
前記発進・加速マップには、
前記エンジン冷却液の温度の全範囲で、前記ファンの停止、若しくは、前記高負荷マップ及び前記通常マップにおいて同じ温度に対応付けられている駆動量以下の駆動量が設定されている
請求項2に記載のファン制御装置。
【請求項4】
前記運転状態推定部は、
前記発進・加速状態の推定に際し、前記エンジン冷却液の温度が所定温度未満であることを条件として有する
請求項3に記載のファン制御装置。
【請求項5】
前記運転状態推定部は、
エンジン冷却液の温度、燃料噴射量、前記車両の速度、アクセル開度、エンジン回転速度に基づいて前記運転状態を推定する
請求項1〜4のいずれか一項に記載のファン制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−47470(P2013−47470A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185621(P2011−185621)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】