説明

ファン選定方法及び装置

【課題】 予め用意しておくデータが少なくて済み、しかも簡単な演算でファンを選定できるファン選定装置を提供する。
【解決手段】 演算手段4により予想される総消費電力と予想される空気温度上昇分とを計算式に入力して必要換気風量を演算する。パラメータ範囲決定手段5が、冷却に必要な適正な風量比のパラメータ範囲を定める。必要風量算出手段7は、適正な風量比のパラメータ範囲の上限値で必要換気風量を除算して必要最小風量を算出し、適正な風量比のパラメータ範囲の下限値で必要換気風量を除算して必要最大風量を算出する。選定手段8は、必要最小風量と必要最大風量との間に入る風量を得るのに必要な最大風量を発生するファンを、データベース9から探して必要なファンとして選定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱する電気機器を内部に有する筐体の内部を1台以上のファンを用いて冷却するために必要なファンを選定するためのファン選定方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特開2004−246728号公報(特許文献1)には、異なる性能を有する複数のファンについて、各ファンを電子機器に搭載した場合の適正度をファンデータに基づいてファン毎に計算し、この計算により求めたパラメータに基づいて、電子機器に搭載するファンの候補順位を決定する方法及びシステムが開示されている。具体的には、まず電子機器内の発熱体の発熱量と筐体の許容温度上昇値等の仕様を決定する。次に、筐体の内部温度を許容温度以内に冷却するためのファンの必要風量を算出する。必要風量の算出には、筐体に設ける通風口の大きさは特に考慮されていない。そして複数のファンの静圧−風量曲線(PQ曲線)と出力曲線をグラフ化する。このグラフ化の際に、PQ曲線から通風抵抗を求め、この通風抵抗からファンを搭載した機器のインピーダンス曲線をグラフ化し、インピーダンス曲線とPQ曲線とからファンの作動点を求める。ファン稼働時の通風抵抗と電子機器の筐体の通風抵抗とが合致していれば、電子機器においてファンは問題なく動作すると判断する。そしてグラフ化した出力曲線から各ファンの最大出力時の風量をパラメータとして算出する。最後に必要風量と最大出力時の風量とを比較して電子機器に搭載するファンを選定する。
【特許文献1】特開2004−246728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の技術では、グラフ化によって、なぜファンが設定されなかったかを設計者自身が判断できるようにしている。しかし従来の技術では、必要風量の算出には、筐体に設ける通風口の大きさは特に考慮されていないので、筐体の構造の相違がファン選定の誤りの原因となることがある。また複数のファンのそれぞれについて静圧−風量曲線、出力曲線をグラフ化するためにファンについての詳細なデータを準備しておく必要がある。また具体的には、ファンを搭載した機器のインピーダンス曲線を求めるための演算が必要になるなど、かなり複雑な演算を必要とする。そのため従来の技術では、電子機器の設計者が設計条件を詳細に決定しておく必要がある。このように従来の技術では、ファンについてのデータを詳細に準備しなければならず、データの入力や更新に手間がかかるという問題がある。またグラフ化及びファン選定のために、複雑な演算を必要とするため、簡単にファンの選定を行うことできない問題がある。また従来の技術では、一部の条件が決められていない状態で、簡易にファンの選定を行うことができない問題がある。
【0004】
本発明の目的は、予め用意しておくデータが少なくて済み、しかも簡単な演算でファンを選定できるファン選定方法及び装置並びにこれらに用いるプログラムを提供することにある。
【0005】
本発明の他の目的は、筐体の構造を考慮した上で、ファンを搭載する電子機器のインピーダンス曲線を求める等の解析を必要とすることなく簡単にファンを選定できるファン選定方法及び装置を提供することにある。
【0006】
本発明の別の目的は、不十分な条件でもファンの選定を簡易に行うことができるファン選定方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、発熱する電気機器を内部に有する筐体の内部を1台以上のファンを用いて冷却するために必要なファンを選定するためのファン選定方法を、準備ステップと、演算ステップと、パラメータ範囲決定ステップと、選定ステップとから構成する。まず準備ステップでは、筐体に設けられた通風口の開口面積Sとファンの通気口の断面積Sとの面積比S/Sを変えた場合における、1台以上のファンを動作させたときの実効風量Qと1台以上のファンの最大風量Qとの風量比の変化を示すパラメータ・データと、使用可能な複数種類のファンについての最大風量Qを含むファンデータについてのデータベースとを用意する。本発明においては、少なくとも最大風量Qについてのファンデータをデータベースに備えていればよい。ここで前述の「通風口」とは、ファンによる換気効果を得るために冷却対象となる筐体に設けられる外気の吸い込み口、あるいは、内気の吐き出し口からファンを取り付けるために筐体に設けられた通気口を除いた全ての外気の吸い込み口、あるいは内気の吐き出し口を意味する。したがって「筐体の通風口の開口面積」とは、筐体に設けられたすべての通風口の開口面積の合計値から、ファンを取り付けるために設けられた通気口の面積を除いたものとなる。また「ファンの通気口の断面積」とは、正確には回転する羽を備えたインペラが回転する風洞の断面積であり、複数台のファンを用いる場合には、複数台のファンの風洞の断面積の合計値である。しかし便宜的にファンのフレームの断面積(ファンの取り付け口の断面積)をこのファンの通気口の断面積とみなしてもよい。複数台のファンを使用する場合には、使用する複数台のファンのフレームの断面積の合計値をファンの通気口の断面積とみなすことになる。発明者の研究によると、筐体の通風口の開口面積Sとファンの通気口の断面積Sとの面積比S/Sと、1台以上のファンを動作させたときの実効風量(実際に送風できる風量)Qと1台以上のファンの最大風量(ファンの性能から出せる最大の風量)Qとの風量比との間には、筐体の大きさに関わらず、相対的な関係があることが判った。すなわち面積比が大きくなるほど、風量比が大きくなり、面積比が小さくなるほど風量比が小さくなる関係があることが判った。そして発明者は、この関係を利用することにより、複雑な計算をすることなく、また多くのファンデータを用意することなく、ファンを選定できることを見出した。
【0008】
そこで本発明では、まず演算ステップにおいて、電気機器の総消費電力Pと、冷却しない場合の筐体内の空気温度上昇分ΔTaと、冷却に必要な必要換気風量Qvとの関係を示す計算式に、予想される総消費電力と予想される空気温度上昇分とを入力することにより必要換気風量を演算する。ここで計算式の一例としては、例えばP=1150・Qv・ΔTaを用いることができる。なおこの式は熱計算から求めたものであるが、この式だけを利用する場合にのみ本発明が限定されるものではない。
【0009】
またパラメータ範囲決定ステップでは、使用を予定する筐体に設けられた通風口の開口面積と使用を予定する1台以上のファンの通気口の断面積との面積比を求めて、この面積比と前述のパラメータ・データとから冷却に必要な適正な風量比のパラメータ範囲を定める。例えば、面積比をある程度の幅を持った複数の面積比領域に属するものであると考えると、この複数の面積比領域の各領域の下限値と上限値に対応する風量比の下限値と上限値によって、前述の適正な風量比のパラメータ範囲が定まることになる。複数の面積比領域は、使用の対象となる複数のファンの最大風量を考慮して、冷却に必要な適正な風量比のパラメータ範囲が定まるように定めることになる。
【0010】
そして選定ステップでは、まず適正な風量比のパラメータ範囲の上限値で必要換気風量を除算して得た必要最小風量Qminと、適正な風量比のパラメータ範囲の下限値で必要換気風量を除算して得た必要最大風量Qmaxとを求める。そして必要最小風量Qminと必要最大風量Qmaxとの間に入る風量を得るのに必要な最大風量Qを発生するファンを、データベースから探して必要なファンとして選定する。なおn台(nは2以上の整数)のファンを用いる場合には、n台のファンとしては(Q/n)の最大風量を発生するものを選択することになる。このように本発明においては、風量比のパラメータ範囲の下限値と上限値とを用いて必要最小風量Qminと必要最大風量Qmaxを定めて、その間に入る最大風量Qを発生することができるファンを選択するので、予め用意しておくデータが少なくて済み、しかも簡単な演算だけでファンの選定をすることができる。
【0011】
なお演算ステップでは、予想される総消費電力として、使用を予定する筐体表面からの対流放熱量を電力に換算した電力換算値及び/または使用を予定する筐体表面からの放射放熱量を電力に換算した電力換算値を、ファンによって冷却すべき熱量を電力に変換した電力変換値に加算した値を用いると、演算精度が高くなる。なお筐体表面からの対流放熱量及び放射放熱量を得るためには、筐体の寸法データ及び筐体の表面の放射率データが必要になる。なおこれらのデータを用いて、演算ステップにおいて電気機器の総消費電力を計算する場合には、例えば下記の式を用いることができる。
【0012】
P=(2.8STOP+2.2SSIDE+1.5SBOT)×(ΔTa/2)1.25
+σεSTOT[ΔTa/2+T+273.15)+(T+273.15)
×[(ΔTa/2+T+273.15)+(T+273.15)]×(ΔTa/2)
+1150・Qv・ΔTa
上記式において、STOPは筐体上面の表面積、SSIDEは筐体垂直面の表面積、SBOTは筐体底面の表面積、STOTは筐体全面の表面積、ΔTaは筐体の内部の空気温度上昇分、Taは筐体の内部空気温度(ΔTa+周囲空気温度)、Tは筐体周囲空気温度(外気温度)、σはステファンボルツマン定数(=5.67×10−8)、εは筐体表面の放射率である。またQvは必要換気風量である。なお長さの単位はmであり、温度の単位は℃であり、風量の単位はm/sである。これらの式において、1項目が筐体表面からの対流放熱量を電力に換算した電力換算値を算出する式であり、2項目が筐体表面からの放射放熱量を電力に換算した電力換算値を算出する式である。なお筐体の寸法が全て与えられていないときには、第1項の計算は無視し、筐体表面の放射率が判らないときには、2項目の式は無視すればよい。
【0013】
またパラメータ範囲決定ステップでは、使用を予定する筐体内の通気状態が良好な状態を係数1として、通気状態が悪くなるほど係数を小さくし、通気状態に応じて係数を面積比に乗算した値に基づいて適正な風量比の範囲を定めている。使用を予定する筐体内の通気状態については、予め通気状態を悪くする複数の条件を列挙しておき、何件の悪条件を備えているかにより、通気状態の程度を変化させている。例えば、1つの悪条件を備えているときには、1から0.1を引いて係数0.9とし、2つの悪条件を備えているときには1から0.1×2を引いて係数0.8とするようにして、通気状態に応じて係数を小さくする。このようにして通気状態を考慮した演算を行い、演算精度を高めている。
【0014】
なおパラメータ範囲決定ステップで、使用を予定する筐体に設けられた通風口の開口面積と使用を予定する1台以上のファンの通気口の断面積との面積比とが不明な場合には、予め定めた標準的なパラメータ範囲を用いることができる。この標準的なパラメータ範囲の定め方は任意であるが、一般的な設計基準を参考にして定めるのが好ましい。
【0015】
更に選定ステップにおいて、適当なファンの選定ができない場合には、その理由を通知する通知ステップを更に実施するようにしてもよい。このようにするとファンが選定できない理由が分かるため、条件を変更して再度、ファンの選定作業を行うことが容易になる利点が得られる。
【0016】
本発明をファン選定装置として表現すると、発熱する電気機器を内部に有する筐体の内部を1台以上のファンを用いて冷却するために必要なファンを選定するためのファン選定装置は、パラメータ・データ記憶手段と、データベースと、入力手段と、演算手段と、
パラメータ範囲決定手段と、必要風量算出手段と、選定手段とからファン設定装置を構成することができる。パラメータ・データ記憶手段は、筐体に設けられた通風口の開口面積Sとファンの通気口の断面積Sとの面積比を変えた場合における、1台以上のファンを動作させたときの実効風量Qと1台以上のファンの最大風量Qとの風量比の変化を示すパラメータ・データを記憶する。データベースは、使用可能な複数種類のファンについての最大風量Qを含むファンデータを蓄積する。入力手段は、選定条件を入力するために使用される。演算手段は、電気機器の総消費電力と、冷却しない場合の筐体内の空気温度上昇分と、冷却に必要な必要換気風量との関係を示す計算式に、入力手段から予想される総消費電力と予想される空気温度上昇分とが入力されると必要換気風量を演算する。そしてパラメータ範囲決定手段は、入力手段から入力された使用を予定する筐体に設けられた通風口の開口面積と使用を予定する1台以上のファンの通気口の断面積との面積比を求めて、該面積比とパラメータ・データとから冷却に必要な適正な風量比のパラメータ範囲を定める。そして必要風量算出手段は、パラメータ範囲決定手段が決定した適正な風量比のパラメータ範囲の上限値で必要換気風量を除算して必要最小風量Qminを算出し、適正な風量比のパラメータ範囲の下限値で必要換気風量を除算して必要最大風量Qmaxを算出する。選定手段は、必要風量算出手段で算出した必要最小風量Qminと必要最大風量Qmaxとの間に入る風量を得るのに必要な最大風量Qを発生するファンを、データベースから探して必要なファンとして選定する。なお選定ステップで適当なファンの選定ができない場合に、その理由を通知する通知手段を備えている。
【0017】
さらに本発明をコンピュータを用いて実現する場合に用いるプログラムは、下記の要件を具備する。すなわちこのプログラムは、筐体に設けられた通風口の開口面積Sとファンの通気口の断面積Sとの面積比を変えた場合における、1台以上のファンを動作させたときの実効風量Qと前記1台以上のファンの最大風量Qとの風量比の変化を示すパラメータ・データと、使用可能な複数種類のファンについての最大風量Qを含むファンデータについてのデータベースとを利用可能にする機能と;電気機器の総消費電力と、冷却しない場合の筐体内の空気温度上昇分と、冷却に必要な必要換気風量との関係を示す計算式に、予想される総消費電力と予想される空気温度上昇分とを入力することにより必要換気風量を演算する演算機能と;使用を予定する筐体に設けられた通風口の開口面積と使用を予定する1台以上のファンの通気口の断面積との面積比を求めて、面積比と前記パラメータ・データとから冷却に必要な適正な風量比のパラメータ範囲を定めるパラメータ範囲決定機能と;適正な風量比のパラメータ範囲の上限値で必要換気風量を除算して得た必要最小風量Qminと、適正な風量比のパラメータ範囲の下限値で必要換気風量を除算して得た必要最大風量Qmaxとの間に入る風量を得るのに必要な最大風量Qを発生するファンを、データベースから探して必要なファンとして選定する選定機能とをコンピュータに実行させるように構成されている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、予め用意しておくデータが少なくて済み、しかも簡単な演算だけでファンの選定をすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下図面を参照して本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。図1は、本発明の方法を実施する本発明のファン選定装置をネットワークに接続された各クライアントのパソコンPCを端末装置として利用して実現する場合の構成を示している。サーバSVの内部に本発明の方法を実施する本発明のファン選択装置の主要部が構成されている。図2は、端末装置としのパソコンPCを図示しないキーボード及びマウスなどの入力手段1とディスプレイDSからなる表示手段2として利用し、その他の手段をサーバSV内に構築した実施形態の一例の構成を示すブロック図である。パソコンPCは、サーバSVにアクセスすることにより、必要な画面表示をディスプレイDSからなる表示手段2に表示する。サーバSV内には、図2に示す制御部3、演算手段4、パラメータ範囲決定手段5、パラメータ・データ記憶手段6、必要風量算出手段7、選定手段8及びデータベース9が構築される。なお図3は、図2のサーバSV内に構築される各手段をサーバSV内に構築する場合に用いるプログラムのアルゴリズムを示すフローチャートである。そして図4は、入力手段1からファン選定のための条件を入力する際に表示手段2に表示する入力表示画面を表示している。この入力表示画面は、制御部3からの指令に基づいて表示手段2の表示画面に表示される。なお表示画面の画像データは、データベース9内に記憶されている。
【0020】
図4に示すように、本実施の形態では、(A)周囲温度(筐体周囲の最高空気温度)、(B)筐体内の許容温度、(C)筐体の発熱量(筐体内部の電子機器の発熱量を電力量に変換した値)、(D)ファンの設定(電源電圧、ファンのフレームサイズ、フレーム厚寸法、ファンの材質、ファンの種別)、(E)並列に設置されるファンの台数、(F)筐体表面の放射率、(G)筐体の高さ寸法、(H)筐体の奥行き寸法、(I)筐体の幅寸法、(J)筐体の通風口の面積、そして(K)筐体の通風条件が入力条件となる。但し、本実施の形態では、これら全ての条件を入力しなくてもファンの選定が可能である。入力条件として必須の項目は、(A)周囲温度、(B)筐体内の許容温度、(C)筐体の発熱量、(E)ファンの設置台数である。
【0021】
入力手段1から上記全ての条件が入力されるものとして以下説明する。図4に示す条件入力欄に条件が入力されて選定実効のアイコンがクリックされると選定処理が開始される。最初に演算手段4は、筐体の内部に配置される電気機器の総消費電力Pと、冷却しない場合の筐体内の空気温度上昇分(筐体内の許容温度−筐体の周囲温度)と、冷却に必要な必要換気風量との関係を示す下記の計算式に、入力手段から予想される総消費電力と予想される空気温度上昇分(筐体内の許容温度−筐体の周囲温度)とが入力されると必要換気風量Qvを演算する。全ての条件が入力される場合には、予想される総消費電力Pとして、使用を予定する筐体表面からの対流放熱量を電力に換算した電力換算値及び使用を予定する筐体表面からの放射放熱量を電力に換算した電力換算値を、ファンによって冷却すべき熱量を電力に変換した電力変換値(筐体の発熱量)に加算した値を用いることになる。この場合に用いられる計算式は、下記の式である。
【0022】
P=(2.8STOP+2.2SSIDE+1.5SBOT)×(ΔTa/2)1.25
+σεSTOT[ΔTa/2+T+273.15)+(T+273.15)
×[(ΔTa/2+T+273.15)+(T+273.15)]×(ΔTa/2)
+1150・Qv・ΔTa
上記式において、STOPは筐体上面の表面積、SSIDEは筐体垂直面の表面積、SBOTは筐体底面の表面積、STOTは筐体全面の表面積、ΔTaは筐体の内部の空気温度上昇分、Taは筐体の内部空気温度(ΔTa+周囲空気温度)、Tは筐体周囲空気温度(外気温度)、σはステファンボルツマン定数(=5.67×10−8)、εは筐体表面の放射率である。またQvは必要換気風量である。なお長さの単位はmmであり、温度の単位は℃であり、風量の単位はm/sである。
【0023】
この式において、1項目が筐体表面からの対流放熱量を電力に換算した電力換算値を算出する式であり、2項目が筐体表面からの放射放熱量を電力に換算した電力換算値を算出する式である。なお筐体の寸法(G)〜(I)が全て与えられていないときには、第1項の計算は無視し、筐体表面の放射率(F)が判らないときには、2項目の式は無視することになる。したがって必須の項目だけが入力されているときに実際に使用される計算式は、P=1150・Qv・ΔTaである。この式から必要換気風量Qv=P÷(1150×ΔTa)となる。
【0024】
パラメータ範囲決定手段5は、入力手段1から入力された使用を予定する筐体に設けられた通風口の開口面積S(J)と使用を予定する1台以上のファンの通気口の断面積S[この実施の形態では、ファンの設定条件(D)のフレームサイズの二乗をファンの通気口の断面積とする]との面積比S/Sを求めて、この面積比とパラメータ・データ記憶手段6に記憶したパラメータ・データとから冷却に必要な適正な風量比(実効風量/最大風量)のパラメータ範囲を定める。ここでの「筐体の通風口」とは、筐体に設けられる「外気の吸い込み口」あるいは「内気の吐き出し口」のことである。筐体にファンの取り付け口を設ける場合において、その取り付け口に外気を筐体内に引き込むファンを取り付ける場合には、そのファンの取り付け口を除いて筐体に設けられる他の通風口がすべて「内気の吐き出し口」になる。またファンの取り付け口に内気を筐体の外部に吐き出すファンを取り付ける場合には、そのファンの取り付け口を除いて筐体に設けられる他の通風口がすべて「外気の吸い込み口」になる。また「ファンの通気口の断面積」とは、正確には回転する羽を備えたインペラが回転する風洞の断面積であるが、ファンのフレームの断面積をこのファンの通気口の断面積としてもよい。パラメータ・データは、筐体に設けられた通風口の開口面積Sとファンの通気口の断面積Sとの面積比S/Sを変えた場合における、1台以上のファンを動作させたときの実効風量Qと1台以上のファンの最大風量Qとの風量比の変化を示すデータである。図5は、このパラメータ・データの一例をグラフ化して示している。パラメータ・データ記憶手段6には図5に示すようなパラメータ・データが記憶されている。
【0025】
筐体の通風口の開口面積Sとファンの通気口の断面積Sとの面積比と、1台以上のファンを動作させたときの実効風量(実際に送風できる風量)Qと1台以上のファンの最大風量(ファンの性能から出せる最大の風量)Qとの風量比との間には、筐体の大きさに関わらず、図5に示すような相対的な関係がある。すなわち面積比が大きくなるほど、風量比が大きくなり、面積比が小さくなるほど風量比が小さくなる関係がある。そこで本発明では、この関係を利用することにより、複雑な計算をすることなく、また多くのファンデータを用意することなく、ファンを選定することを可能にした。なお図5において、面積比が0〜0.25の範囲をエリア(面積比領域)1とし、面積比が0.25〜0.5の範囲をエリア(面積比領域)2とし、面積比が0.5〜0.75の範囲をエリア(面積比領域)3とし、面積比が0.75〜1.25の範囲をエリア(面積比領域)4と定めている。そしてこれらのエリア(面積比領域)の下限値と上限値に対応する風量比の下限値と上限値とによって、前述の適正な風量比のパラメータ範囲を定めている。エリア1〜4と適正な風量比のパラメータ範囲は、例えば以下のように定めることができる。
【0026】
負荷が大きい場合(エリア1):風量比のパラメータ範囲0.35〜0.5
負荷がやや大きい場合(エリア2):風量比のパラメータ範囲0.5〜0.667
負荷が標準の場合(エリア3):風量比のパラメータ範囲0.667〜0.75
負荷が軽い場合(エリア4):風量比のパラメータ範囲0.75〜0.95
なおこのエリア(面積比領域)は、使用の対象となるファンの最大風量を考慮して、冷却に必要な適正な風量比のパラメータ範囲が定まるように定めることになる。
【0027】
必要風量算出手段7は、パラメータ範囲決定手段5が決定した適正な風量比のパラメータ範囲(PM1〜PM2)の上限値(PM2)で必要換気風量Qvを除算(Qv/PM2)して必要最小風量Qminを算出し、適正な風量比のパラメータ範囲の下限値(PM1)で必要換気風量Qvを除算(Qv/PM1)して必要最大風量Qmaxを算出する。
【0028】
そして選定手段8は、必要風量算出手段7で算出した必要最小風量Qminと必要最大風量Qmaxとの間に入る風量を得るのに必要な最大風量Qを発生するファンを、データベース9から探して必要なファンとして選定する。なおファンの台数がn台の場合には、最大風量Qは、ファンの最大風量×ファンの個数となる。したがって選定するファンの最大風量は、Qmin/n<最大風量<Qmax/nの関係を満たすものである。データベース9には、使用可能な複数種類のファンについての最大風量Qを含むファンデータと表示用データ等が蓄積されている。図6は、ファンの選定結果の一例を示している。図6の選定結果では、選定されたファンの特性が表示される。そしてこの例では図6に示したカタログ表示のアイコンをクリックすると、図7のカタログが表示される。この図7に示されたカタログに示されたものが、実際に使用できるファンとなる。図6及び図7は、ファン選定のためだけの表示態様であるが、ファンの選定からファンの購入に導入する場合には、図8に示すように選定したファンのカタログに購入フォームへ行くための選択表示を表記するようにすればよい。
【0029】
また演算した結果、データベース9に登録されているファンの中に、選定結果の条件を満足するファンが存在しない場合には、図9に示すように、ファン選定のための条件とファンが満たすべき条件を表示するとともに、適当なファンが選定できない理由が表示される。この理由の表示がなされることにより、条件を変更して再度、ファンの選定作業を行うことが容易になる。
【0030】
なお図10は、上記実施の形態において実際に実行されている各演算の内容と演算の流れを示す図である。なお図10においては表示を簡単にするために、筐体の各部の表面面積を示す符号を上記の説明とは異なる符号(S1〜S3)に変えて表現してある。またRは、面積比である。
【0031】
なおパラメータ範囲決定手段5は、入力手段1からの入力では、使用を予定する筐体に設けられた通風口の開口面積と使用を予定する1台以上のファンの通気口の断面積との面積比とが不明な場合に、予め定めた標準的なパラメータ範囲を用いることとする。この標準的なパラメータ範囲は、一般的な設計基準を参考にして定め、下限値をPM1=0.66とし、上限値をPM2=0.75としている。
【0032】
また本実施の形態では、パラメータ範囲決定手段5は、更に図4に示した筐体の通風状況(K)を考慮してパラメータ範囲を決定する。具体的には、使用を予定する筐体内の通気状態が良好な状態を係数1として、通気状態が悪くなるほど係数を小さくし、通気状態に応じて係数を面積比に乗算した値に基づいて適正な風量比の範囲を定めるようにしている。この例では、使用を予定する筐体内の通気状態については、予め通気状態を悪くする複数の悪条件3つを列挙してある。そして3つの悪条件のうち、何件の悪条件を備えているかにより、通気状態の程度を定めるようにしている。この例では、筐体の通風状況(K)欄のチェックボックスにチェックが入った数で係数を変えている。例えば、1つの悪条件にチェックが入ると、1から0.1を引いて係数0.9とし、2つの悪条件にチェックが入ると1から0.1×2を引いて係数0.8とするようにして、通気状態に応じて係数を小さくしている。このようにすると通気状態を考慮して演算をすることができるので、演算精度を高めることができる。
【0033】
上記実施の形態で実施されている本発明のファン選定方法の実施の形態では、準備ステップと、演算ステップと、パラメータ範囲決定ステップと判定ステップと、選定ステップと、報知ステップとを実施する。まず準備ステップは、図2のパラメータ・データ記憶手段6及びデータベース9を準備することである。演算ステップは、図2の演算手段4における動作ステップであり、図3に示したプログラムのフローチャートで見れば、ステップST3で実施されている。そしてパラメータ範囲決定ステップは、図2のパラメータ範囲決定手段5における動作ステップであり、図3に示したプログラムのフローチャートで見れば、ステップST4乃至6で実施されている。さらに選定ステップは、図2で見れば必要風量算出手段7及び選定手段8における動作ステップであり、図3に示したプログラムのフローチャートで見れば、ステップST7乃至9で実施されている。そして報知ステップは、ステップST10で実施されている。このステップST10が、報知手段を構成することになる。
【0034】
上記実施の形態では、ネットワークを利用して複数の端末装置を構成するパソコンPCからサーバSVにアクセスできる構成を採用している。しかし1台の専用コンピュータを用いて、本発明のファン選定装置を実現してもよいのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の方法を実施する本発明のファン選定装置をネットワークに接続された各クライアントのパソコンPCを端末装置として利用して実現する場合の構成を示す図である。
【図2】本発明のファン選定装置の実施形態の一例の構成を示すブロック図である。
【図3】図2のサーバSV内に構築される各手段をサーバSV内に構築する場合に用いるプログラムのアルゴリズムを示すフローチャートである。
【図4】入力手段からファン選定のための条件を入力する際に表示手段に表示する入力表示画面の例を示す図である。
【図5】パラメータ・データの一例を示す図である。
【図6】表示手段に表示される選定結果の一例を示す図である。
【図7】表示手段に表示されるカタログの一例を示す図である。
【図8】ファンのカタログに購入フォームへ行くための選択表示を表記した例を示す図である。
【図9】ファンが選定できないことを表示する例を示す図である。
【図10】実施の形態において実際に実行されている各演算の内容と演算の流れを示す図である。
【符号の説明】
【0036】
1 入力手段
2 表示手段
3 制御部
4 演算手段
5 パラメータ決定手段
6 パラメータ・データ記憶手段
7 必要風量算出手段
8 選定手段
9 データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱する電気機器を内部に有する筐体の前記内部を1台以上のファンを用いて冷却するために必要なファンを選定するためのファン選定方法であって、
前記筐体に設けられた通風口の開口面積Sと前記ファンの通気口の断面積Sとの面積比S/Sを変えた場合における、前記1台以上のファンを動作させたときの実効風量Qと前記1台以上のファンの最大風量Qとの風量比の変化を示すパラメータ・データと、使用可能な複数種類のファンについての最大風量Qを含むファンデータについてのデータベースとを用意する準備ステップと、
前記電気機器の総消費電力と、冷却しない場合の前記筐体内の空気温度上昇分と、冷却に必要な必要換気風量との関係を示す計算式に、予想される総消費電力と予想される空気温度上昇分とを入力することにより前記必要換気風量を演算する演算ステップと、
使用を予定する筐体に設けられた通風口の開口面積と使用を予定する1台以上のファンの通気口の断面積との面積比を求めて、該面積比と前記パラメータ・データとから冷却に必要な適正な風量比のパラメータ範囲を定めるパラメータ範囲決定ステップと、
前記適正な風量比のパラメータ範囲の上限値で前記必要換気風量を除算して得た必要最小風量Qminと、前記適正な風量比のパラメータ範囲の下限値で前記必要換気風量を除算して得た必要最大風量Qmaxとの間に入る風量を得るのに必要な最大風量Qを発生するファンを、前記データベースから探して前記必要なファンとして選定する選定ステップとを実施することを特徴とするファン選定方法。
【請求項2】
前記演算ステップでは、前記予想される消費電力として、前記使用を予定する筐体表面からの対流放熱量を電力に換算した電力換算値及び/または前記使用を予定する筐体表面からの放射放熱量を電力に換算した電力換算値をファンによって冷却すべき熱量を電力に変換した電力変換値に加算した値を用いる請求項1に記載のファン選定方法。
【請求項3】
前記パラメータ範囲決定ステップでは、前記使用を予定する筐体内の通気状態が良好な状態を係数1として、通気状態が悪くなるほど前記係数を小さくし、通気状態に応じて前記係数を前記面積比に乗算した値に基づいて前記適正な風量比の範囲を定めることを特徴とする請求項1に記載のファン選定方法。
【請求項4】
前記パラメータ範囲決定ステップでは、前記使用を予定する筐体に設けられた前記通風口の開口面積と前記使用を予定する1台以上のファンの通気口の断面積との前記面積比とが不明な場合には、予め定めた標準的な前記パラメータ範囲を用いることを特徴とする請求項1に記載のファン選定方法。
【請求項5】
前記選定ステップで適当なファンの選定ができない場合には、その理由を通知する通知ステップを更に実施する請求項1に記載のファン選定方法。
【請求項6】
発熱する電気機器を内部に有する筐体の前記内部を1台以上のファンを用いて冷却するために必要なファンを選定するためのファン選定装置であって、
前記筐体に設けられた通風口の開口面積Sと前記ファンの通気口の断面積Sとの面積比S/Sを変えた場合における、前記1台以上のファンを動作させたときの実効風量Qと前記1台以上のファンの最大風量Qとの風量比の変化を示すパラメータ・データを記憶するパラメータ・データ記憶手段と、
使用可能な複数種類のファンについての最大風量Qを含むファンデータを蓄積したデータベースと、
選定条件を入力する入力手段と、
前記電気機器の総消費電力と、冷却しない場合の前記筐体内の空気温度上昇分と、冷却に必要な必要換気風量との関係を示す計算式に、前記入力手段から予想される総消費電力と予想される空気温度上昇分とが入力されると前記必要換気風量を演算する演算手段と、
前記入力手段から入力された使用を予定する筐体に設けられた通風口の断面積と使用を予定する1台以上のファンの通気口の断面積との面積比を求めて、該面積比と前記パラメータ・データとから冷却に必要な適正な風量比のパラメータ範囲を定めるパラメータ範囲決定手段と、
前記パラメータ範囲決定手段が決定した前記適正な風量比のパラメータ範囲の上限値で前記必要換気風量を除算して必要最小風量Qminを算出し、前記適正な風量比のパラメータ範囲の下限値で前記必要換気風量を除算して必要最大風量Qmaxを算出する必要風量算出手段と、
前記必要風量算出手段で算出した前記必要最小風量Qminと前記必要最大風量Qmaxとの間に入る風量を得るのに必要な最大風量Qを発生するファンを、前記データベースから探して前記必要なファンとして選定する選定手段とを備えていることを特徴とするファン選定装置。
【請求項7】
前記演算手段では、前記予想される消費電力として、前記使用を予定する筐体表面からの対流放熱量を電力に換算した電力換算値及び/または前記使用を予定する筐体表面からの放射放熱量を電力に換算した電力換算値をファンによって冷却すべき熱量を電力に変換した電力変換値に加算した値を用いる請求項6に記載のファン選定装置。
【請求項8】
前記パラメータ範囲決定手段では、前記使用を予定する筐体内の通気状態が良好な状態を係数1として、通気状態が悪くなるほど前記係数を小さくし、通気状態に応じて前記係数を前記面積比に乗算した値に基づいて前記適正な風量比の範囲を定めることを特徴とする請求項6に記載のファン選定装置。
【請求項9】
前記パラメータ範囲決定手段では、前記使用を予定する筐体に設けられた通風口の開口面積と前記使用を予定する1台以上のファンの通気口の断面積との前記面積比とが不明な場合には、予め定めた標準的な前記パラメータ範囲を用いることを特徴とする請求項6に記載のファン選定装置。
【請求項10】
前記選定ステップで適当なファンの選定ができない場合には、その理由を通知する通知手段を更に備えている請求項6に記載のファン選定装置。
【請求項11】
発熱する電気機器を内部に有する筐体の前記内部を1台以上のファンを用いて冷却するために必要なファンの選定をコンピュータに行わせるためのプログラムであって、
前記筐体に設けられた通風口の開口面積Sと前記ファンの通気口の断面積Sとの面積比S/Sを変えた場合における、前記1台以上のファンを動作させたときの実効風量Qと前記1台以上のファンの最大風量Qとの風量比の変化を示すパラメータ・データと、使用可能な複数種類のファンについての最大風量Qを含むファンデータについてのデータベースとを利用可能にする機能と、
前記電気機器の総消費電力と、冷却しない場合の前記筐体内の空気温度上昇分と、冷却に必要な必要換気風量との関係を示す計算式に、予想される総消費電力と予想される空気温度上昇分とを入力することにより前記必要換気風量を演算する演算機能と、
使用を予定する筐体に設けられた通風口の開口面積と使用を予定する1台以上のファンの通気口の断面積との面積比を求めて、該面積比と前記パラメータ・データとから冷却に必要な適正な風量比のパラメータ範囲を定めるパラメータ範囲決定機能と、
前記適正な風量比のパラメータ範囲の上限値で前記必要換気風量を除算して得た必要最小風量Qminと、前記適正な風量比のパラメータ範囲の下限値で前記必要換気風量を除算して得た必要最大風量Qmaxとの間に入る風量を得るのに必要な最大風量Qを発生するファンを、前記データベースから探して前記必要なファンとして選定する選定機能とを前記コンピュータに実現させるように構成されていることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−278437(P2006−278437A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−91581(P2005−91581)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【特許番号】特許第3686079号(P3686079)
【特許公報発行日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(000180025)山洋電気株式会社 (170)
【Fターム(参考)】