フィトエストロゲン製剤およびその使用
神経学的な健康の増進及びADなどの年齢に関連する神経変性の予防のための選択したフィトエストロゲン医薬組成物及び使用の方法を開発した。これらの選択したフィトエストロゲン製剤は、多くの植物由来エストロゲン様分子及び/又はそれらの構造的類似体を含み、ERαよりもERβに対する結合優先性及び脳内でのアゴニスト活性を示す。これらのERβ選択的フィトエストロゲン製剤は、血液脳関門を通過し、生殖組織における増殖機構を活性化することなく、脳内のエストロゲンに関連する神経栄養及び神経保護機構を促進し、したがって、他のエストロゲンに関連する問題となる側面がない。製剤は、好ましくは化合物の組合せを含み、毎日、持続、遅延又は週1回/月1回投与用に調剤することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本研究は、国立精神衛生研究所組織内研究プログラム(National Institute of Mental Health Intramural Research Program (P.J.S.))および補助金第MH67159(R.D.B.)号、国立老化研究所(National Institute of Aging)補助金第AG06647(J.H.M.)号、同第AG16765(J.H.M.,A.C.G.)号、同第AG14751号および同第AG026572(R.D.B.)号、ならびにKenneth T. and Eileen L.Norris基金(R.D.B.)により支援された。
【0002】
本願は、2006年8月1日にラベル番号ER455959795USの速達郵便により郵送された米国特許出願第60/819,849号、2007年2月14日に出願された同第60/889,920号、および2007年6月11日に出願された同第60/943,190号に対する優先権を主張する。
【0003】
人口統計学は、我々がADの罹患率の破壊的な増加に直面していることを示唆し、脳に対する安全かつ有効なET及びHT療法を開発するため基礎及びトランスレーショナルな神経科学に対する早急な必要性を強調している。
【背景技術】
【0004】
AD患者のうち、68%が女性であり、32%が男性である(非特許文献1)。女性は男性より余命が長いので、ADの女性の絶対数は男性を超えている。しかし、女性には二重の危険が存在する。7つの性特異的試験のメタ解析の結果から、女性は同年齢の男性よりADを発現する可能性が1.5倍高いと結論付けられており(非特許文献2)、これは、女性においてADの発生率が明らかに増加することを示したCache County解析によって裏付けられた(非特許文献3)。
【0005】
新千年紀の初頭に米国においては、50歳超の女性がほぼ4200万人おり、そのうち、3100万人超の女性が55歳を超えている(North American Menopause Society、2004年)。全世界には現在、50歳以上の女性が4億7000万人を超え、そのうちの30%が80歳代まで生きると予測されている(North American Menopause Society、2004年)。これらの女性は、生涯の1/3から1/2を閉経状態で過ごすと予想することができる。ADの罹患率に関する報告は様々であるが、70歳代の中期から後期の米国女性1800万人のうち、500万人もがADに罹患していると思われ、この数字は年齢が高くなると劇的に増加する(Brookmeyerら、1998年)。ADの罹患率の予測される指数関数的な増加により、家族及び社会に対する予想される影響と相まって、すぐにでもADの発症を予防又は遅延させる戦略を策定する緊急の必要が強調されている。
【0006】
脳内の性腺ステロイドの作用の主として肯定的な基礎科学所見と、高齢の閉経後又はアルツハイマー病(AD)を有する閉経後女性における最近のエストロゲン又はホルモン療法(「ET/HT」)臨床試験の有害な転帰とがあまりにも一致しないことにより、基礎及び臨床科学で用いられる性腺ホルモン作用及びモデル系が厳しく再評価されている。Women’s Health Initiative Memory Study(「WHIMS」)試験の否定的結果に関与すると思われる1つの重要な因子は、閉経後10年を超えた高齢時に女性においてET/HTが開始されたことであった。基礎科学解析及び臨床試験のデータから、ニューロン/脳におけるエストロゲンの作用の「健常細胞バイアス」が示されており、ET/HTは、年齢に関連する認知低下及びアルツハイマー病(「AD」)などの神経変性障害に対する有効な予防的治療戦略としての役割を果たすが、有効な治療戦略でないことが示唆される。現在広く処方されているETである結合型ウマエストロゲン(「CEE」)は、200種類の成分を含む非常に複雑なETである。CEEが最適の治療効果をもたらすかどうかが疑われた。HTの妥当性を問う他の重要な問題は、最適の組成である。プロゲスチン、及びETとの併用での投与の時期は、いまだ決まっていない。さらに、ET/HTは、閉経後女性において長年にわたり使用され、閉経に伴う問題の一部を遅延又は逆転させてきたが、疫学及び臨床研究により、この療法に関連する潜在的長期リスクが発見された。最近ET/HTに関連するリスクが明らかにされたことにより、脳、骨及び心血管系におけるエストロゲンの有用な作用を促進すると同時に、他の器官、特に乳房及び子宮組織における有害な作用を誘発しないエストロゲン代替物の開発への関心が著しく高まった。
【0007】
エストロゲンの2つの核受容体(ER)であるERα及びERβが同定された。中枢神経系において、ERα及びERβは両方とも、げっ歯類及びヒト脳の海馬及び皮質において発現する。以前の研究において、ERα及びERβは両方とも、ラット海馬ニューロンにおけるエストロゲンの作用機序を活性化することによってニューロンの生存を同等に促進できることが示された。ERβが、エストロゲン誘導性ニューロン形態形成性、脳の発育及び認知の基礎となる機構の活性化のための重要な必要物であることを示す証拠が増えている。一方、ERαは、乳房及び子宮などの生殖器官におけるエストロゲンの作用の性的特性を媒介する上でより優勢である。合わせて考えると、これらのデータから、乳房及び子宮における不都合なエストロゲンによる増殖作用の活性化を避けながら、記憶機能及びアルツハイマー病(AD)などの年齢に関連する神経変性に対するニューロン防御機構を増進するための薬理学的標的としてのERβの治療適用の可能性が立証されるが、脳内のERβの活性化を欠くため、有効性が低下するという犠牲を払うことになる。ERβに関連する他の可能性のある治療上の利点としては、エストロゲンの血管保護作用の調節並びにうつ病、結腸癌、前立腺癌、肥満、白血病及び不妊症などの疾患を標的にするインターベンションの発展などが挙げられる。しかし、ERαは骨密度のエストロゲン調節を媒介することが示されたので、ERβ選択的リガンドの潜在的な欠点は、骨におけるERαの活性化を欠くことである。
【0008】
2つのエストロゲン受容体(「ER」)サブタイプERα及び/又はERβの脳及び/又はニューロンにおけるエストロゲンの作用の媒介における特異的役割に関して依然として論争が存在するが、ERβが脳の発育、神経組織発生並びにニューロンの形成性及び生存のエストロゲンによる改善の調節に重要な役割を果たしていることが広く示された。さらに、ERαに比較して、ERβは、生殖組織におけるエストロゲン作用の性的特性を媒介する点について有効性が低く、乳房及び子宮における不都合な発情性増殖作用の活性化を避ける。したがって、ERβは、記憶機能及び神経保護を増進するための潜在的により安全な治療標的である。しかし、脳内のERαの活性化を欠くため、この安全は、有効性が低下するという犠牲を払ってのものである可能性がある。ERβ標的療法の他の潜在的な利点は、エストロゲンの心臓保護作用のその調節から生じる。ERβ選択的リガンドは、炎症、うつ病、不安、結腸癌、前立腺癌、肥満、白血病及び不妊症を予防又は治療するための有効な療法も提供する可能性がある。
【0009】
閉経後女性における神経機能を増進し、ADなどの年齢に関連する神経変性を予防するための有効なERβ選択的エストロゲン代替物代償療法の探索において、長期投与でより低い毒性プロファイルを有する可能性がある天然に存在する分子又は類似体を特定し、開発することは特に興味深い。いくつかの植物由来のエストロゲン様分子(「フィトエストロゲン」と呼ばれる)がERα及びERβサブタイプに結合し、これらの分子の一部がERβに対して中等度の結合選択性を有し、複数の組織においてエストロゲン様作用を及ぼすことが知られている。
【0010】
脳内のフィトエストロゲンの治療上の有効性は、議論の的である。一方で、単独で投与した場合、フィトエストロゲンは、中等度に神経保護性であるように思われた。他方で、最近の臨床試験で、フィトエストロゲンの混合物を含むダイズタンパク質栄養補助食品は、60歳以上で投与を開始したとき、閉経後女性における認知機能の改善を示さなかったことが明らかになった。フィトエストロゲンの臨床試験で、イソフラボンの複合製剤を含むダイズタンパク質栄養補助食品は、60歳以上で投与したとき、閉経後女性における認知機能を改善しなかったことが報告され、非特許文献4も、閉経後女性において年齢関連ニューロン再組織化が起った閉経の10年以上後に開始したとき、ET/HTは神経機能に対して恩恵をもたらさないことを示した。WHIMS試験の場合と同様に、年齢及びホルモン「歴」は、これらの否定的結果の原因であった重要な因子となり得る。
【0011】
単独で投与したとき、多くのフィトエストロゲンは神経変性傷害からニューロンを保護する効果をもたらしたことから、脳内のフィトエストロゲンの混合物の作用の有効性に実質的に影響を及ぼし得る他の問題は、フィトエストロゲンの製剤である(非特許文献5)。ダイズ抽出物又はダイズタンパク質栄養補助食品は、一般的に複数のフィトエストロゲン分子を含み、それらのいくつかは、ERα選択的アゴニストであるものや、ERβ選択的アゴニストであるものもあれば、またERα又はERβを活性化することに関して無効であるものもある可能性があるが、ERα及び/又はERβフィトエストロゲンアゴニストのER結合の阻害物質として機能し得る。ダイズ由来製剤などのフィトエストロゲンの複合製剤が脳内のエストロゲンの有用な作用を促進することに関して無効であることは、同じ状況におけるERα及びERβの両方の活性化によると考えられる、可能なER拮抗作用に加えて、種々のフィトエストロゲンの間の拮抗作用によっても生じる可能性がある。ERα選択的アゴニストとERβ選択的アゴニストとの併用投与は、種々の神経保護測定においていずれかのアゴニスト単独の投与より有効性が低い。
【0012】
ERαとERβは、多くの状況において、1つの受容体が他の受容体の作用に拮抗し得る陰/陽関係を有する(非特許文献6、非特許文献7)。試験によりこの所見が確認され、ERα選択的アゴニストPPTとERβ選択的アゴニストDPNとの併用投与は、興奮毒性傷害(excitotoxic insults)からの海馬ニューロンの保護に関してPPT又はDPN単独より有効性が低かった。この分析に基づいて、フィトエストロゲンの混合物(すなわち、ダイズタンパク質補助食品)の投与が無効であることは、ERα選択的又はERβ選択的であり得る異なるフィトエストロゲンの間の拮抗作用に一部起因すると推定することができる。これらの知見は、ERαとERβはニューロンの生存のエストロゲンによる促進に寄与するが、同じ状況における両ERサブタイプERαとERβの同時の活性化は有効性を減ずる可能性があることを示している。さらに、ERα選択的アゴニストとERβ選択的アゴニストとの併用投与によってもたらされるホモダイマーとヘテロダイマーの異なる比及び異なる機能も、両アゴニストの併用によってもたらされる有効性の低下の原因である可能性がある。
【0013】
ERβ選択的フィトエストロゲン製剤の開発により、生殖組織におけるERαの活性化に伴う有害な影響を最小限にすると同時に、脳におけるERβの活性化に伴う治療上の恩恵を最大限にすることができる。さらに、ERβの選択的標的化により、複合ダイズ由来製剤で発生する可能性がある拮抗作用が減弱する可能性がある。この天然に存在する理想的な製剤は、神経学的能力を失い、記憶機能を失う危険にさらされている集団、すなわち、閉経後女性における神経学的機能を増進し、ADを予防することに関して莫大な治療上の価値を有する。現在までのところ、そのようなフィトエストロゲン製剤は存在しない。したがって、一般的に、また特に脳内で機能する製剤である新規な選択したフィトエストロゲン製剤を発見し、開発する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Brookmeyerら、1998年、Am J Public Health、第88巻、13372頁
【非特許文献2】Gaoら、1998年、Arch Gen Psychiatry、第55巻、809頁
【非特許文献3】Zandiら、2002年、JAMA、第288巻、21239頁
【非特許文献4】Kreijkamp−Kaspersら、JAMA、2004年、第292巻、65〜74頁
【非特許文献5】Zhaoら、Exp. Biol. Med.、2002年、第227巻、509〜519頁
【非特許文献6】Weihuaら、FEBS Lett.、2003年、第546巻、17〜24頁
【非特許文献7】Gustafsson J. A.、Trends Pharmacol. Sci.、2003年、第24巻、479〜485頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明の目的は、生殖組織におけるERαの活性化に伴う有害な影響を最小限にすると同時に、脳におけるERβの活性化に伴う治療上の恩恵を最大限にするERβ選択的フィトエストロゲン製剤を提供することである。
【0016】
本発明のさらなる目的は、有効成分が天然物質から分離されている、そのような組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
神経学的な健康の増進及びADなどの年齢に関連する神経変性の予防のための選択したフィトエストロゲン医薬組成物及び使用の方法を開発した。これらの選択したフィトエストロゲン製剤は、多くの植物由来エストロゲン様分子及び/又はそれらの構造的類似体を含み、ERαよりもERβに対する結合優先性及び脳内でのアゴニスト活性を示す。これらのERβ選択的フィトエストロゲン製剤は、血液脳関門を通過し、生殖組織における増殖機構を活性化することなく、脳内のエストロゲンに関連する神経栄養及び神経保護機構を促進し、したがって、他のエストロゲンに関連する問題となる側面がない。選択したフィトエストロゲン製剤は、神経学的健康を維持し、年齢に関連する認知低下及びADなどの神経変性障害を予防するために女性及び男性に対して治療上有用である。
【0018】
これらは、ニューロン損傷を予防若しくは軽減し、ニューロン再生をもたらし、又は生存能力を維持し、抗アポトーシスタンパク質の発現を増大させ、かつ/又はアルツハイマー病のインジケータを低下させるのに有効な用量で経腸、経皮、経粘膜、鼻内又は非経口投与される。製剤は、好ましくは化合物の組合せを含み、毎日、持続、遅延又は週1回/月1回投与用に調剤することができる。好ましい実施形態において、これらは、閉経期又は閉経後の女性、最も好ましくは閉経期初期の女性に投与する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】17β−エストラジオール並びにPhytoSERMゲニステイン、ダイゼイン、エコール及びIBSO03569の化学構造を示す図である。
【図2A】G、D、E、I又はG+D、G+D+E若しくはG+D+E+Iの組合せのERα及びERβに関する競合結合曲線(モル濃度対蛍光偏光(mP))を示す図である。
【図2B】G、D、E、I又はG+D、G+D+E若しくはG+D+E+Iの組合せのERα及びERβに関する競合結合曲線(モル濃度対蛍光偏光(mP))を示す図である。
【図3】カルセインAM染色の測定による初代海馬ニューロンにおける超生理学的グルタミン酸塩(100μM)誘発性神経毒性に対する用量反応関係解析(4つのすべての分子ゲニステイン(G)、ダイゼイン(D)、エコール(E)及びIBSO03569(I)又は併用投与したG+D、G+D+E若しくはG+D+E+Iについて100nM)から明らかになった最大神経保護効果をもたらした濃度で単独投与したときの4種のERβ選択的フィトエストロゲン様分子の神経保護有効性を示すグラフである。
【図4】図4A. 初代海馬ニューロンにおける抗アポトーシスタンパク質 Bcl−2の発現に対するG+D、G+D+E又はG+D+E+I(4つの分子すべてについて100nM)として併用投与したときの4つのERβ選択的フィトエストロゲン様分子の影響を示すグラフである。図4B. 初代海馬ニューロンにおける抗アポトーシスタンパク質Bcl−xLの発現に対するG+D、G+D+E又はG+D+E+Iとして併用投与したとき(4つの分子すべてについて100nM)の4つのERβ選択的フィトエストロゲン様分子の影響を示すグラフである。
【図5】初代海馬ニューロンにおける抗β−アミロイドタンパク質、インスリン分解酵素(「IDE」)の発現に対するG+D、G+D+E又はG+D+E+Iとして併用投与したとき(4つのすべての分子について100nM)の4つのERβ選択的フィトエストロゲン様分子の影響を示すグラフである。
【図6】初代海馬ニューロンにおける棘マーカーであるスピノフィリンの発現に対するG+D、G+D+E又はG+D+E+Iとして併用投与したとき(4つのすべての分子について100nM)の4つのERβ選択的フィトエストロゲン様分子の影響を示すグラフである。
【図7A】ラット初代海馬ニューロンにおけるグルタミン酸塩誘発性神経毒性に対するG、D、E及びI単独並びに配合物:G+D、G+D+E又はG+D+E+Iの神経保護有効性を示すグラフである。
【図7B】ラット初代海馬ニューロンにおけるβアミロイド1〜42誘発性神経毒性に対するG、D、E及びI単独並びに配合物:G+D、G+D+E又はG+D+E+Iの神経保護有効性を示すグラフである。
【図7C】対照生/死細胞におけるβアミロイド1〜42誘発性神経毒性に対するG、D、E及びI単独並びに配合物:G+D、G+D+E又はG+D+E+Iの神経保護有効性を示すグラフである。
【図7D】死細胞におけるβアミロイド1〜42誘発性神経毒性に対するG、D、E及びI単独並びに配合物:G+D、G+D+E又はG+D+E+Iの神経保護有効性を示すグラフである。
【図8A】成体卵巣摘出ラット由来の海馬組織におけるネプリリシン(「NEP」)の発現に対するG、D、E及びI単独並びに配合物:G+D、G+D+E及びG+D+E+Iの影響を示すグラフである。
【図8B】成体卵巣摘出ラット由来の海馬組織におけるインスリン分解酵素(「IDE」)の発現に対するG、D、E及びI単独並びに配合物:G+D、G+D+E及びG+D+E+Iの影響を示すグラフである。
【図8C】成体卵巣摘出ラット由来の海馬組織におけるネプリリシン(「NEP」)の発現に対するG、D、E及びI単独並びに配合物:G+D、G+D+E及びG+D+E+Iの影響を示すグラフである。
【図9A】成体卵巣摘出ラットにおける前脳ミトコンドリアシトクロムcオキシダーゼ(COX)活性に対するG、G+D+E及びG+D+E+Iの影響を示すグラフである。
【図9B】成体卵巣摘出ラットにおける前脳ミトコンドリアシトクロムcオキシダーゼ(COX)活性に対するG、G+D+E及びG+D+E+Iの影響を示すグラフである。
【図9C】成体卵巣摘出ラットにおける前脳ミトコンドリアシトクロムcオキシダーゼ(COX)活性に対するG、G+D+E及びG+D+E+Iの影響を示すグラフである。
【図9D】成体卵巣摘出ラットにおける前脳ミトコンドリアシトクロムcオキシダーゼ(COX)活性に対するG、G+D+E及びG+D+E+Iの影響を示すグラフである。
【図9E】成体卵巣摘出ラットにおける前脳ミトコンドリアシトクロムcオキシダーゼ(COX)活性に対するG、G+D+E及びG+D+E+Iの影響を示すグラフである。
【図10A】成体卵巣摘出ラットにおける前脳ミトコンドリア呼吸活性の増加率に対するG、G+D+E及びG+D+E+Iの影響を示すグラフである。
【図10B】成体卵巣摘出ラットにおける前脳ミトコンドリア呼吸活性の増加率に対するG、G+D+E及びG+D+E+Iの影響を示すグラフである。
【図10C】成体卵巣摘出ラットにおける前脳ミトコンドリア呼吸活性の増加率に対するG、G+D+E及びG+D+E+Iの影響を示すグラフである。
【図10D】成体卵巣摘出ラットにおける前脳ミトコンドリア呼吸活性の増加率に対するG、G+D+E及びG+D+E+Iの影響を示すグラフである。
【図10E】成体卵巣摘出ラットにおける前脳ミトコンドリア呼吸活性の増加率に対するG、G+D+E及びG+D+E+Iの影響を示すグラフである。
【図11A】神経栄養及び神経保護の結果につながるエストロゲンの作用機序を示す概略図である。膜結合部位(mER)を介しての17−β−エストラジオール(E2)の作用が、ニューロン形成性、形態形成、神経組織発生及び神経の生存の増大につながる複数の反応に必要なカスケードを活性化する。膜部位においてE2により誘導されるシグナリングの順序は次の通りである:(1)mERへのE2の結合、(2)E2−mERがp85と複合してPI3Kを活性化する、(3)カルシウム非依存性PKCの活性化、(4)L型カルシウムチャンネルのリン酸化、(5)カルシウム流入の誘導、(6)カルシウム依存性PKCの活性化、(7)Srcキナーゼの活性化、(8)MEK/ERK1/2経路の活性化、(9)核へのERKの転位、(10)CREBの活性化及びリン酸化、(11)ミトコンドリアの活力を増強する抗アポトーシス遺伝子Bcl−2及びBcl−xl並びにシナプス成長を促進するスピノフィリンの転写の増大、(12)同時に、アポトーシス促進タンパク質BADをリン酸化し、阻害するAktの活性化をもたらすPI3Kのエストロゲン活性化。略語:AMPAR、AMPA受容体;C、シトクロムオキシダーゼ;F0、F1、ATPアーゼサブユニット;LTD、長期うつ病;LTP、長期相乗作用;NAD、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド;NADH、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド;VDCC、電位依存性カルシウムチャンネル。
【図11B】神経栄養及び神経保護の結果につながるエストロゲンの作用機序を示す概略図である。ミトコンドリアにおけるエストロゲン誘導性神経保護機構の有効範囲。エストロゲン活性化細胞シグナル伝達カスケードは、カルシウム負荷耐性の増大、電子伝達連鎖効率の増大及び抗酸化防御機構の促進をもたらすミトコンドリア機能の増強を促進する。これらの作用は、二次メッセンジャーシグナリングカスケードの活性化により開始される、核及びミトコンドリアをエンコードする遺伝子の調節により媒介される。略語:AMPAR、AMPA受容体;C、シトクロムオキシダーゼ;F0、F1、ATPアーゼサブユニット;LTD、長期うつ病;LTP、長期相乗作用;NAD、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド;NADH、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド;VDCC、電位依存性カルシウムチャンネル。
【図11C】神経栄養及び神経保護の結果につながるエストロゲンの作用機序を示す概略図である。NeuroSERM設計及び治療上の使用の概念図。エストロゲン恩恵仮説の健常細胞バイアスと一致して、選択的な分子は、ニューロンがまだ健常である間の神経変性傷害の前に投与される。NeuroSERM曝露は、アルツハイマー病及びパーキンソン病などの年齢に関連する疾患に関連する神経変性傷害に対する神経防御を促進するBcl−2付加によりミトコンドリアによって表される神経生存機構の増強をもたらすと思われる。デザイナーNeuroSERM分子はエストロゲン作用の膜部位を標的にするが、PhytoSERM分子はエストロゲン受容体βを優先的に標的にする。略語:AMPAR、AMPA受容体;C、シトクロムオキシダーゼ;F0、F1、ATPアーゼサブユニット;LTD、長期うつ病;LTP、長期相乗作用;NAD、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド;NADH、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド;VDCC、電位依存性カルシウムチャンネル。
【発明を実施するための形態】
【0020】
I.定義
「エストロゲン受容体」は、本明細書で用いるように、イソ型及びその変異型を含むが、これらに限定されない、エストロゲンに結合する核受容体遺伝子ファミリーにおけるタンパク質を意味する。ヒトエストロゲン受容体は、アルファ及びベータイソ型(本明細書では「ERα」及び「ERβ」と呼ぶ)を含む。
【0021】
「エストロゲン受容体モジュレーター」は、本明細書で用いるように、本明細書に記載するERα及び/又はERβトランス活性化検定を用いて測定したとき約50μM以下のERα、ERβ及び/又は他のエストロゲン受容体イソ型に対するIC50又はEC50を有するエストロゲン受容体又はエストロゲン受容体イソ型のエストロゲン受容体アゴニスト又は拮抗物質として作用することができる化合物を意味する。より一般的には、エストロゲン受容体モジュレーターは約10μM以下のIC50又はEC50値を有する(アゴニスト又は拮抗物質)。代表的な化合物は、エストロゲン受容体を介して作用又は拮抗活性を示すと予測される。化合物は、ERα及び/又はERβトランス活性化検定を用いて測定したとき、好ましくは約10μM、より好ましくは約500nM、より好ましくは約1nM、最も好ましくは500pMのERα及び/又はERβに対する拮抗物質又はアゴニストIC50又はEC50を示す。「IC50」は、標的(例えば、ERα又はERβ)の活性を最大レベルの半分に低下又は阻害する化合物の濃度である。「EC50」は最大効果の半分を提供する化合物の濃度である。
【0022】
「選択的エストロゲン受容体モジュレーター」(又は「SERM」)は、本明細書で用いるように、エストロゲン受容体(例えば、ERα、ERβ又は他のエストロゲン受容体イソ型)のアゴニスト又は拮抗物質としての活性を組織依存的又は受容体依存的に示す化合物を意味する。したがって、生化学、分子生物学及び内分泌学当該分野の当業者に明らかなように、SERMとして機能する化合物は、一部の組織、例えば、骨、脳及び/又は心血管においてエストロゲン受容体アゴニストとして、他の組織型、例えば、乳房及び/又は子宮組織において拮抗物質として作用することができる。
【0023】
「フィトエストロゲン」は、エストロゲンのように作用するか、又はエストロゲン受容体に結合するダイズなどの植物又は全穀粒などの植物産物の天然に存在する化合物を意味する。
【0024】
本明細書で用いるように、「NeuroSERM」という用語は、エストロゲンの作用の膜部位を標的とする化合物を意味する。
【0025】
本明細書で用いるように、「PhytoSERM」という用語は、エストロゲン受容体ベータを優先的に標的とする天然起源化合物を意味する。
【0026】
本明細書で用いるように、「類似体」という用語は、他のもの(基準化合物)と類似の構造を有するが、特定の成分、官能基、原子等に関して異なっている化合物を意味する。
【0027】
本明細書で用いるように、「誘導体」という用語は、化学反応によって親化合物から生成する化合物を意味する。
【0028】
II.組成物
1つ又は複数のフィトエストロゲンを含む組成物を本明細書で述べる。多くのフィトエストロゲンが分離され、同定され、すべてがエストロゲン受容体結合選択性を有するさらなる類似体が作製された。1つの実施形態において、ERβ結合選択性を有し、個別に投与するとき神経保護活性を示す2つ以上の植物由来エストロゲン様分子及び/又は構造類似体を含む組成物についてである。これらの組成物は、エストロゲン欠乏関連症状及び障害、特に年齢関連認知低下及びアルツハイマー病(「AD」)などの神経変性疾患を予防するのに有用である。
【0029】
A.PhytoSERM
本明細書で述べる組成物は、ERβに対して結合優先性を示す1つ又は複数のフィトエストロゲン又は天然起源選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)を含む。PhytoSERMは、実施例1で述べるように同定することができる。適切なphytoSERMは、ゲニステイン、ダイゼイン、エコール、IBSO03569及びその組合せを含むが、これらに限定されない。ゲニステイン、ダイゼイン、エコール及びIBSO03569の構造を図1に示す。その他のものは、表1に示す。好ましい化合物は、血液脳関門を通過する。
【0030】
実施例2により示すように、2つ以上のPhytoSERMの併用は、1つのPhytoSERMの投与より有効である。
【0031】
化合物は、無機又は有機酸から得られる塩の形で用いることができる。これらの塩は、次のもの、すなわち、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、クエン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、ショウノウ酸塩、ショウノウスルホン酸塩、ジグルコン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、グルコヘプタン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサマート(hexamate)、フマル酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2−ヒドロキシエタンスルホン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、2−ナフタレンスルファミン酸塩、シュウ酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、硫酸塩、3−フェニルプロピオン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩及びウンデカン酸塩を含むが、これらに限定されない。また、塩基性窒素含有基は、塩化、臭化及びヨウ化メチル、エチル、プロピル及びブチルのような低級ハロゲン化アルキル、硫酸ジメチル、ジエチル、ジブチル及びジアミルのような硫酸ジアルキル、塩化、臭化及びヨウ化デシル、ラウリル、ミリスチル及びステアリルのような長鎖ハロゲン化物、臭化ベンジル及びフェネチルのようなハロゲン化アラルキル等の作用物質により第四級化することができる。それにより、水溶性若しくは油溶性又は分散性生成物が得られる。
【0032】
薬学的に許容できる酸付加塩を生成させるために用いることができる酸の例としては、塩酸、硫酸及びリン酸のような無機酸、並びにシュウ酸、マレイン酸、コハク酸及びクエン酸のような有機酸が挙げられる。塩基性付加塩は、化合物の最終分離及び精製時にin situで、或いはカルボン酸部分を薬学的に許容できる金属陽イオンの水酸化物と、炭酸塩若しくは重炭酸塩のような適切な塩基と、又はアンモニアと、又は有機第一級、第二級若しくは第三級アミンと反応させることにより別個に調製することができる。薬学的に許容できる塩は、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム及びアルミニウム塩のようなアルカリ及びアルカリ土類金属に基づく陽イオン、並びにアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミン等を含むが、これらに限定されない無毒性アンモニウム、第四級アンモニウム及びアミン陽イオンを含むが、これらに限定されない。塩基付加塩の生成に有用な他の代表的な有機アミンとしては、ジエチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン及びピペラジンが挙げられる。
【0033】
化合物が血液脳関門を通過する助けとなる適切な担体を加えることができる。
【0034】
B.追加の活性物質
化合物は単独の活性薬剤として投与することができるが、それらを本明細書に記載する1つ又は複数の他の化合物と組み合わせて、かつ/又はエストロゲン受容体媒介性障害の治療及び/又は予防に用いられる他の作用物質と組み合わせて用いることもできる。或いは、持続的な治療及び予防効果を得るために、化合物をこのような1つ又は複数の作用物質とともに逐次的に投与することができる。適切な作用物質は、他のSERM並びに伝統的エストロゲンアゴニスト及びアンタゴニストを含むが、これらに限定されない。
【0035】
エストロゲン受容体媒介性障害の治療用の化合物との併用に有用な代表的な作用物質としては、例えば、タモキシフェン、4−ヒドロキシタモキシフェン、ラロキシフェン、トレミフェン、ドロロキシフェン、TAT−59、イドキシフェン、RU58,688、EM139、ICI164,384、ICI182,780、クロミフェン、MER−25、DES、ナフォキシデン、CP−336,156、GW5638、LY139481、LY353581、ズクロミフェン、エンクロミフェン、エタモキシトリフェトール、酢酸デルマジノン、ビスホスホン酸塩が挙げられる。1つ又は複数の化合物と併用することができる他の作用物質は、4−ヒドロキシムドロステネジオン、プロメスタン、エキゼメスタン、アミノグルエチミド、ログレチミド、ファドロゾール、ボロゾール、レトロゾール及びアナストロゾールのようなアロマターゼ阻害薬を含むが、これらに限定されない。
【0036】
本明細書に記載する化合物との併用に有用なさらに他の作用物質は、アルキル化剤、抗生物質、ホルモン抗腫瘍薬及び抗代謝薬のような抗腫瘍薬を含むが、これらに限定されない。例として、骨粗鬆症を治療又は予防するのに用いられる化合物が挙げられる。他の成分としては、ビタミン、栄養補助食品、抗酸化剤、補酵素等が挙げられる。
【0037】
追加の活性物質は、PHYSICIANS’ DESK REFERENCE (PDR) 第53版(2003年)に示されているような治療量、又は当業者に知られているような治療上有用な量で一般的に用いることができる。化合物及び他の治療上活性のある物質は、推奨最大臨床用量又はより低い用量で投与することができる。組成物中の活性化合物の用量は、投与経路、疾患の重症度及び患者の反応に応じて、所望の治療反応を得るために変化させることができる。併用投与は、別個の組成物として、又は両作用物質を含む単一剤形として行うことができる。併用投与するとき、治療薬を同時又は異なる時点に投与する別個の組成物として調合することができ、或いは治療薬を単一組成物として投与することができる。
【0038】
C.薬剤組成物
化合物は、経腸、経皮、経粘膜、鼻内又は非経口投与することができる。経口剤用賦形剤は、下で簡単に述べるように当業者に知られており、即時、持続、遅延又はパルス状放出を可能にするために用いることができる。化合物は、経皮パッチ、デポーを介して、ゲル剤、ローション剤、軟膏剤、リポソーム製剤、懸濁剤、泡剤、噴霧剤又は坐剤などの局所用担体を用いて膣又は直腸に、肺又は鼻腔経路により、口腔粘膜を介して頬又は舌下に投与することもできる。これらの製剤のすべてに対して適切な賦形剤が知られている。化合物は、生理食塩水、滅菌水若しくはリン酸緩衝生理食塩水、又はiv、im、皮下若しくはip注射用の適切な油に溶解又は懸濁することができる。
【0039】
薬学的に許容できる適切な賦形剤としては、例えば、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、単糖、二糖、デンプン、ゼラチン、セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、デキストロース、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、ポリビニルピロリドン、低融点ワックス及びイオン交換樹脂、並びにそれらのいずれか2つ以上の組合せのような加工剤並びに薬物送達モジュレーター及び促進剤が挙げられる。薬学的に許容できる他の適切な賦形剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、Mack Pub. Co.、New Jersey(1991年)に記載されている。
【0040】
エストロゲン受容体調節化合物を含む薬剤組成物は、例えば、液剤、懸濁剤又は乳剤などの意図する投与方法に適するあらゆる形態であってよい。液体担体は、一般的に液剤、懸濁剤及び乳剤を調製するのに用いられる。使用を考慮される液体担体としては、例えば、水、生理食塩水、薬学的に許容できる有機溶媒、薬学的に許容できる油又は脂肪、並びにその2つ以上の混合物が挙げられる。液体担体は、可溶化剤、乳化剤、栄養素、緩衝剤、保存剤、懸濁化剤、粘稠化剤、粘度調整剤又は安定化剤などの薬学的に許容できる他の適切な添加剤を含んでいてもよい。適切な有機溶媒としては、例えば、エタノールなどの一価アルコール及びグリコールなどの多価アルコールが挙げられる。適切な油としては、例えば、ダイズ油、ヤシ油、オリーブ油、ベニバナ油、綿実油が挙げられる。非経口投与について、担体はオレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピルのような油性エステルであってもよい。組成物は、微粒子、マイクロカプセル、リポソーム被包剤、並びにそのいずれか2つ以上の組合せの形態であってもよい。
【0041】
化合物は、従来の無毒性の薬学的に許容できる所望の担体、佐剤及び媒体を含む投与単位製剤で経口、非経口、舌下、吸入噴霧により、直腸、膣又は局所投与することができる。局所投与は、経皮パッチ又はイオン泳動器具のような経皮投与の使用も含んでいてよい。本明細書で用いるような非経口という用語は、皮下注射、静脈内、筋肉内、胸骨内注射、又は注入法を含む。
【0042】
注射用製剤、例えば、滅菌済み注射用水性又は油脂性懸濁剤は、適切な分散又は湿潤剤及び懸濁化剤を用いて既知の技術に従って調合することができる。滅菌済み注射用製剤は、例えば、1,3−プロパンジオール中溶液のような非経口で許容できる無毒性の希釈剤又は溶媒中滅菌済み注射用溶液又は懸濁液であってもよい。用いることができる許容できる媒体及び溶媒の主なものは、水、リンゲル液及び等張性塩化ナトリウム溶液である。さらに、滅菌済み固定油は、溶媒又は懸濁化媒体として通常用いられる。この目的のために、合成モノ又はジグリセリドなどのあらゆる刺激の少ない固定油を用いることができる。さらに、オレイン酸のような脂肪酸は、注射剤の調製に有用であり得る。
【0043】
薬物の直腸又は膣投与用の坐剤は、薬物を、常温で固体であるが、直腸温で液体であり、したがって、直腸内で融解し、薬物を放出するココアバター及びポリエチレングリコールのような適切な非刺激性賦形剤と混合することによって調製することができる。
【0044】
経口投与用の固形剤形は、カプセル剤、錠剤、丸剤、散剤及び顆粒剤などであってよい。そのような固形剤形において、活性化合物は、スクロース、ラクトース又はデンプンのような少なくとも1つの不活性希釈剤と混合してもよい。そのような剤形は、通常の慣行と同様に、不活性希釈剤以外の追加の物質、例えば、ステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤を含んでいてもよい。カプセル剤、錠剤及び丸剤の場合、剤形は緩衝剤を含んでいてもよい。錠剤及び丸剤は、さらに腸溶性コーティングを用いて調製することができる。
【0045】
経口投与用の液体剤形は、水のような当該分野で一般的に用いられている不活性希釈剤を含む、薬学的に許容できる乳剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤及びエリキシル剤を含んでいてよい。そのような組成物は、湿潤剤、乳化及び懸濁化剤、シクロデキストリン並びに甘味料、着香剤及び香料のような佐剤も含んでいてよい。
【0046】
化合物は、リポソームの形態で投与することもできる。当該分野で公知のように、リポソームは、一般的にリン脂質又は他の脂質物質から得られる。リポソームは、水性媒体中に分散している単又は多層状水和液晶により形成されている。リポソームを形成することができる無毒性で、生理学的に許容できる代謝性脂質を用いることができる。リポソームの形態の本発明の組成物は、化合物に加えて、安定化剤、保存剤、賦形剤を含んでいてよい。好ましい脂質は、天然及び合成のリン脂質及びホスファチジルコリン(レシチン)である。リポソームを生成させる方法は、当該分野で公知である(Prescott、1976年)。
【0047】
経皮パッチは、ニコチン、ニトログリセリン及び避妊薬の送達用のものがよく周知である。これらは、これらの製剤についても用いることができる。皮下又は腹腔内に埋め込まれるデポー剤は、避妊薬を送達する方法と同様に用いることもできる。
【0048】
III.投与の方法
化合物は、経腸、非経口、肺、鼻、粘膜及び他の局所投与経路を含む様々な方法で投与することができる。例えば、投与の適切な方式としては、経口、皮下、経皮、経粘膜、イオン泳動、静脈内、筋肉内、腹腔内、鼻内、硬膜下、直腸、膣及び吸入が挙げられる。
【0049】
ヒト又は動物患者におけるエストロゲン受容体媒介性障害を治療かつ/又は予防するために、有効な量の化合物又は組成物を投与する。エストロゲン受容体活性の調節は、対照と比較して、又は予測されるエストロゲン受容体活性と比較して、エストロゲン受容体活性の検出できる抑制又はアップレギュレーションをもたらす。化合物の有効な量は、本明細書に記載する検定法により、当業者に知られている他の活性検定法により、或いはエストロゲン受容体媒介性障害に罹患した患者における症状の予防及び/又は軽減を検出することにより、エストロゲン受容体活性を検出できるほどに調節するのに十分な量を含む。
【0050】
有効な量は、化合物を投与するときにも決定される。エストロゲン/ホルモン療法(ET/HT)は、女性における閉経過渡期(menopausal transition)に治療するときに、ADを発現するリスクの低下を伴った(Brinton R.D.、Impact of estrogen therapy on Alzheimer’s disease: a fork in the road?、CNS Drugs、2004年、第18巻、405〜422頁)。例えば、Cache County研究の結果は、閉経時にET/HTを受け、10年間継続した女性はADを発現するリスクが3分の1であることを示しているが、Zandiら、JAMA 2002年、第288巻、2123〜2129頁、Women’s Health Initiative Memory Studyからの最近のデータは、閉経期の後期に療法を開始する女性はADを発現する、より高いリスクを有することを示している(Espelandら、Women’s Health Initiative Memory Study、JAMA、2004年、第291巻、2959〜2968頁;Shumakerら、JAMA、2004年、第291巻、2947〜2958頁)。これらの臨床所見は、エストロゲン作用の健常細胞バイアスを示す、脳内のエストロゲン誘導性分子機構の基礎科学分析と一致している。
【0051】
治療することができるエストロゲン受容体媒介性障害は、エストロゲン受容体活性が関連付けられる、或いはエストロゲン受容体の阻害が、治療すべき疾患において特徴的に不完全である経路を介するシグナリングを増強又は遅らせる生物学的又は医学的障害を含む。状態又は障害は、異常なエストロゲン受容体活性により引き起こされ得るか、又は特徴付けられ得る。代表的なエストロゲン受容体媒介性障害としては、例えば、骨粗鬆症、アテローム動脈硬化症、エストロゲン媒介性癌(例えば、乳癌及び子宮内膜癌)、ターナー症候群、両性前立腺過形成(すなわち、前立腺肥大)、前立腺癌、コレステロール上昇、再狭窄、子宮内膜症、子宮平滑筋腫疾患、ほてり、並びに皮膚及び/又は膣萎縮が挙げられる。治療することができる他のエストロゲン受容体媒介性状態としては、記憶喪失及び認知症を含む神経疾患及び障害、並びにアルツハイマー病を含む神経変性疾患が挙げられる。
【0052】
一時的記憶に対するエストロゲンの潜在的に有益な作用に加えて、いくつかの証拠が、HTが認知症(ADを含む)及び軽度認知障害(MCI)のリスクを低下することを示唆している。MCIは、一部の人における正常認知と認知症との間の過渡的状態を示すと考えられる状態であり、MCIから認知症への転換率は毎年12%である。観察研究は、HTを受けた女性患者はHTを受けなかった女性患者と比較して認知症のリスクの30%の低下を享受することを繰返し実証している[オッズ比範囲、0.306(Yaffeら、1998年、JAMA、第279巻、688頁;Hogervorstら、2003年、Cochrane Database Syst Rev CD003122)]。したがって、観察研究は、生殖機能の減退は認知症の修正可能なリスクファクターであるか、或いはHT/ETは認知症を発現するリスクの一部からの保護の役割を果たすことを示唆している。
【0053】
いくつかの最近の観察研究で、HT/ETが開始される生殖の老化の段階が認知症のリスクを変化させることが確認された。これらの研究において、後期閉経過渡期又は閉経後早期にHT/ETを受ける女性はHT/ETをより遅く開始する女性より認知リスクを低くする(Zandiら、2002年、JAMA、第288巻、21239頁;Hendersonら、J Neurol Neurosurg Psychiatry、第76巻、103頁、2005年)。したがって、閉経に対するHT/ETを開始する時期は、観察研究とRCTとの間の別の状況での所見の不一致を説明する1つの因子であると提案された(Resnick及びHenderson、2002年、JAMA、第288巻、21702頁;Mansonら、2006年、Menopause、第13巻、139頁)。以下にレビューする最近の前臨床試験は、この報告におけるETの時期の重要性を強調している。
【0054】
患者の成功を収める治療は、エストロゲン受容体媒介性医学的又は生物学的障害に罹患した患者の症状の予防、低減又は軽減の誘導をもたらすことができる。したがって、例えば、治療は、乳房若しくは子宮内膜腫瘍及び/又はそのような癌に関連する様々な臨床マーカーの減少をもたらすことができる。アルツハイマー病の治療は、例えば、認知症の亢進の率の低下を測定することにより検出される疾患の進行の率の低下をもたらすことができる。
【0055】
歴史的に、生殖機能の減退は、女性に中年に発生する気分障害の発症に役割を果たさないという推定が存在していた。閉経過渡期におけるうつ病の症状も、一過性であり、臨床的影響がほとんどないと却下されるような軽微な重症度のものであると推定された。しかし、最近の試験は、これらの推定が不正確であることを示唆している。第一に、いくつかの地域社会に基づく縦断的研究で、閉経過渡期におけるうつ病とほてりとの相対的非依存性が報告された。すなわち、両方が生涯のこの段階で発生するが、うつ病はほてりによって全く引き起こされない(Avisら、2001年、Soc Sci Med、第52巻、345頁)。第二に、うつ病の既往歴を有さない女性を追跡した最近の縦断的研究で、後期閉経過渡期における初回発症うつ病のリスクの増大が示された(Schmidtら、2004年、Am J Psychiatry、第161巻、22384頁;Cohenら、2006年、Arch Gen Psychiatry、第63巻、385頁;Freemanら、2006年、Arch Gen Psychiatry、第61巻、62頁)。最後に、重症及び軽症うつ病は中年女性にとって臨床的に重要である。その理由は、両方が、中年女性の健康に関連性がある他のいくつかの医学的状態(例えば、心血管疾患、認知症及び代謝症候群)のリスクの増大を伴うからである(Wassertheil−Smollerら、2004年、Arch Intern Med、第164巻、289頁)。
【0056】
大多数の女性は閉経過渡期にうつ病を発現せず、したがって、生殖の老化はうつ病の症状又はうつ病の症候群と一様には関連しない。それにもかかわらず、多くの研究で閉経は女性におけるうつ病を発現するリスクの増大に関連しないと結論されたが、他のいくつかの縦断的な地域社会に基づく研究で、閉経過渡期とうつ病のリスクの増大との関連が報告された(Schmidt、2005年、Am J Med、第118巻、54頁)。実際、最近の5つの縦断的研究すべてにおいて、閉経過渡期におけるうつ病のリスクの増大が実証され、オッズ比は閉経前と比較して1.8〜2.9であった(Brombergerら、2001年、Am J Public Health、第91巻、14352頁;Freemanら、2004年、Arch Gen Psychiatry、第61巻、62頁、2006年、Arch Gen Psychiatry、第63巻、375頁;Schmidtら、2004年、Am J Psychiatry、第161巻、22384頁;Cohenら、2006年、Arch Gen Psychiatry、第63巻、385頁)。これらのデータは、最終月経期間にまつわる事象が一部の女性が臨床的に重要なうつ病を発現する素因をつくる可能性があることを示唆している。いくつかの要因がこれらの女性におけるうつ病を促進すると思われるが、うつ病が出現する閉経過渡期の段階(すなわち、後期)による内分泌事象が示唆された。後期過渡期は、エストラジオール分泌が増加する可能性がある初期周閉経期(early perimenopause)よりも長期にわたる性機能低下によって特徴付けられる。したがって、認められるうつ病の出現の時期は、周閉経期うつ病の病態生理における周閉経期に関連する内分泌機構(エストラジオール停止及び/又は長期にわたる性機能低下の最近の発症)を示唆する。
【0057】
うつ病の発症における卵巣ホルモン分泌の減退の潜在的役割を検討する努力において、周閉経期及び閉経後うつ病を有する女性におけるHT/ETの施行の気分に対する効果が検討された。エストラジオールの抗うつ有効性が、二重盲検プラセボ対照試験に参加するように無作為に割り付けられた重症及び軽症うつ病の標準化診断基準を満たした女性の3つの比較的最近のRCTにおいて検討された(Schmidtら、2000年;Soaresら、2001年、Arch Gen Psychiatry、第58巻、529頁;Morrisonら、2004年、Biol Psychiatry、第55巻、406頁)。周閉経期女性において、エストラジオールの短期投与(3週間)により、ベースライン及びプラセボ条件と比較してうつ病スコアを有意に低下させた。1つの試験において、治療著効又は有効反応がエストラジオール投与周閉経期女性の80%に認められたのに対して、プラセボ投与では22%に認められた(Schmidtら、2000年)。周閉経期うつ病におけるETの有効性は、気分に対するエストロゲンの効果を検討した試験(Zweifel及びO’Brien、1997年、Psychoneuroendocrinology、第22巻、189頁)の最近のメタ解析における観測効果サイズ(0.69)と一致している。エストラジオールに対する治療反応は、重症及び軽症うつ病並びにほてりを有する及び有さない女性で認められた。したがって、周閉経期うつ病におけるETの有効性は、ほてりの苦痛を低減するその能力の産物のみではない。周閉経期うつ病におけるこれらの試験と対照的に、同様の条件下でのエストラジオールの投与では、閉経後5年の、うつ病女性患者における気分の改善がなかった(Morrisonら、2004年)。したがって、うつ病におけるエストラジオールの効果は周閉経期女性に限られている可能性がある。さらに、認知症の経過に対するエストラジオールの潜在的効果と同様に、女性が示し、かつ/又はETを開始する生殖の老化の段階が、観察される結果を変化させる。
【0058】
要約すると、大多数の女性は閉経過渡期又はその後にうつ病を発現しない。それにもかかわらず、生殖状態及び気分をモニターした最近の前向き試験で、一部の女性について、周閉経期に関連する事象がうつ病の発症のリスクを増大させることが実証された。うつ病のこれらの症状の発現における卵巣機能の役割は、最終月経期に対するそれらの発症の時期と短期ETの抗うつ有効性により示唆される。
【0059】
単一剤形を製造するために担体材料と組み合わせることができる有効成分の量は、エストロゲン媒介性疾患、治療を受ける宿主及び個々の投与方法によって異なる。しかし、個々の患者に固有の用量レベルは、用いる個々の化合物の活性、年齢、体重、一般健康状態、性、食事、投与の時間、投与経路、排泄の速度、薬物併用及び治療を受ける個々の疾患の重症度などの様々な因子に依存することは理解されよう。所定の状況における予防上又は治療上有効な量は、常用の実験により容易に決定することができ、普通の臨床医の技術及び判断の範囲内にある。
【0060】
例示目的のための、予防上又は治療上有効な量は、通常、1回又は複数回で投与することができる、約0.01mg/kg/日から約100mg/kg/日、好ましくは約0.1mg/kg/日から約20mg/kg/日、また最も好ましくは約1mg/kg/日から約10mg/kg/日のエストロゲン受容体調節化合物である。
【0061】
IV.キット
キットは、投与する製剤を含むものを提供することができる。製剤は、1日1回又は1日複数回投与することができる。製剤は、経腸、非経口又は局所投与することができる。キットは、投与する活性物質(複数可)、賦形剤及び担体、並びに製剤の投与の指示書を一般的に含む。キットはまた、注射器などの製剤を投与するのに用いられる装置/用具を含み得る。
【0062】
本発明は、以下の非限定的実施例を参照することによってさらに理解されるであろう。
【実施例】
【0063】
(実施例1)
PhytoSERMの同定
ERβは、記憶機能及びニューロンの生存のエストロゲン誘発性増進に関連付けられた。ゲニステインと結合したヒトERβ LBDの最適化複合体構造に基づいて、植物ベースERβ選択的リガンドの存在を測定するために、天然起源化学データベースに対するコンピュータ援用の構造に基づく仮想スクリーニングを行った。データベーススクリーニングから得られた12の代表的ヒットを両ERに対するそれらの結合プロファイルについて評価したところ、そのうちの3つがERαに比べてERβに対する100倍以上の結合選択性を示した。
【0064】
材料及び方法
分子の同定
データベース中の化合物の同定
すべての計算作業は、IRIX6.5オペレーティングシステム(Silicon Graphic Inc.)を搭載したSGI Octaneワークステーションで実施した。最初に、ゲニステインと複合したヒトERβ LBDの3D結晶学的構造をProtein Data Bank(PDB ID:1QKM)からダウンロードした。複合体の構造をAccelrys分子モデリングソフトウエアパッケージInsightII 2000(Accelrys Inc.)により固定し、エネルギーを最小化した。約25000の植物ベースの天然分子又は誘導体を含む内部2D天然起源化学物質コレクションをAccelrysモデリングシフトウエアパッケージCatalyst9.8(Accelrys Inc.)を用いて3D多立体配座データベースに変換した。
【0065】
受容体ドッキング部位は、受容体におけるゲニステインの結合位置に基づいて定義し、ゲニステインの中心炭素の10Å以内のすべての原子と指定した。CCDC(Cambridge Crystallographic Data Center)により販売された自動化リガンドドッキングプログラムであるGOLD2.0(Genetic Optimization for Ligand Docking)を適用して、幾何学的及び化学的特徴に基づく、受容体結合部位とのそれらの相補性に基づいて計算し、分子をランク付けした。
【0066】
データベーススクリーニングの前に、ゲニステインを試験リガンドとして用いた最初のバリデーションを行った。バリデーション試験の目的は、当プログラムがこの試験における固有の標的システムに適用できるかどうかを判断するために、受容体におけるリガンドの実験的に観察された結合様式を明らかにすることに関するドッキングプログラムのアルゴリズムの有効性を評価することであった。さらに、バリデーション試験を用いて、後のデータベーススクリーニングのための最適のパラメーターの設定を決定した。仮想ライブラリスクリーニングのために最適化された最速デフォルト包括的アルゴリズムパラメーターを用いて、試験複合体について20のドッキング実験を行い、GoldScore適合関数を適用した。バリデーション試験により、GOLDは、指定のパラメーター設定に基づいて、結合に非常に重要な寄与水素結合ドナー(His475におけるND1)を捕捉し、実験的測定において認められたものとゲニステインの結合配向性及び立体配座に関するほぼ一致した解を再現するのに有効であったことが示された(図1)。観察された実験上の位置とGOLD解との間の二乗平均平方根(RMS)偏差を計算したところ、RMSDは最高順位及び最悪の解と比較してそれぞれ0.3299及び0.4483であった。すべての解の平均RMSDは0.3566であり、これは、プログラムディベロッパー(プログラムマニュアルと呼ぶ)により定義された主観的分類に基づき良好な予測とみなされ、このプログラムは、信頼でき、ERβに対するデータベーススクリーニングに適用できることが示唆される。
【0067】
バリデーション試験で決定されたパラメーター設定を用いて、3D天然起源化学物質データベースをインプットし、フレキシブルなドッキング法(完全リガンド及び部分タンパク質)で準備されたERβ結合部位にドッキングし、GoldScore適合関数に基づいて採点した。500種の得られた最高評点の分子を、InsightIIにおける受容体の状況の視覚スクリーニングにより選別した。視覚分析に基づいて、100種の分子が、GOLDによって予測された結合様式をより正確にするためのより複雑で、予測的なリガンドドッキングプログラムであるAffinityによるさらなる分析を受けた。検討に供する候補分子の選択に用いた基準は、次の通りであった。すなわち、(a)ドナー原子であるHis475におけるND1との水素結合の形成、(b)構造に出現する疎水性と親水性のバランス(例えば、受容体との立体的及び静電的相補性を増大させるために、分子は潜在的に2つの比較的親水性側面及び疎水性中心を有するべきである)、(c)受容体における分子の結合姿勢、及び(d)構造の多様性である。最後に、上の基準を満たしていた分子をそれらの薬物類似性(5のLipinskiの法則)及び血液脳関門(BBB)透過特性についてコンピュータにより予測した。
【0068】
ヒトERα及びERβのリガンド結合ドメインは、約60%相同である。構造モデリング及び突然変異分析は、リガンド結合ポケットに沿った2つの変異アミノ酸残基であるERαにおけるLeu384及びMet421(ERβにおけるそれぞれMet336及びIle373で置換される)がいずれかの受容体サブタイプに対する選択的リガンドの差別的結合の基礎にある重要な分子成分であることを示している(Sunら、Mol. Endocrinol.、2003年、第17巻、247〜258頁)。このわずかな構造の変動は、ER特異的リガンドの設計及び発見の基礎としての役割を果たしている。残基の両対の化学的特徴の類似性は、この差に基づいて選択的リガンドを発見するための実質的な難題である。既知の天然起源のERβ選択的リガンドのうち、ゲニステインは依然として最も選択的である。しかし、Katzellenebogenの施設で開発された化合物DPNによって明らかなように、ERβに対してゲニステインより大きい選択性を示すますます多くの合成化合物が出現しつつある。コンピュータ援用の構造に基づく仮想データベーススクリーニングは、ベンチでの検討に供するための多数の化合物からの主要な候補の小グループを合理的に強調するための効率のよいアプローチを提供する。
【0069】
結合親和力及び選択性の測定
データベーススクリーニングから得られた候補分子の結合親和力及び選択性は、精製バキュロウイルス発現ヒトERβ又はERα及び蛍光エストロゲンリガンドEL Red(PanVera Corp.)を用いて蛍光偏光競合結合検定により測定した。試験分子を検定緩衝液で2×濃度に連続希釈した(200μM〜200pM)。ERβ(30nM)又はERβ(60nM)とEL Red(2nM)のプレインキュベート済み2×複合体50μLを96ウエル非結合表面黒色マイクロプレート(Corning Life Sciences)の各ウエルに100μLの最終容積で加えた。ER及びEL Redを含む陰性対照(0%阻害に相当する)及び遊離EL Redのみを含む陽性対照(100%阻害に相当する)を含めた。室温で2時間のインキュベーションの後に、偏光値をTecan GENios Proリーダーを用いて535nm/590nm励起/放射で測定し、試験分子濃度の対数に対してプロットした。IC50値(ERからEL Redの半分を置換する試験分子の濃度)を非線型最小二乗分析を用いてプロットから決定した。
【0070】
結果
His475におけるND1と水素結合を形成することができる31種の分子を選択し、受容体とのファンデルワールス(VDW)定数(構造における環の数)及び静電相互作用(水素結合の数)に有利な化学的特徴に基づいて3つのカテゴリーに分類した。受容体との強いVDW相互作用を有するが、水素結合に寄与しない10分子をカテゴリーIVに分類した。これらの分子は、その構造における4つの環からなり、エストロゲン受容体に高い親和力で結合する内因性エストロゲンである17β−エストラジオールに認められるような受容体結合部位の中心との疎水性相互作用を促進する可能性があるそれらの構造に3又は4、5又は6員環を含む。
【0071】
表1にERα及びERβへの試験分子のIC50結合結果並びに4つのカテゴリーから選択された代表的分子の結合選択性を要約する。
【0072】
【表1】
予想通り、陰性対照ステロイドであるプロゲステロンは、いずれのERにも結合しない。陽性天然起源エストロゲン対照として、ゲニステインは、ERαに対するより47.2倍大きい結合選択性であるが、17β−エストラジオールの1/4の親和力でERβに結合することが認められた。試験した12種の分子のうち、5種の分子1、2、5、7及び8は、ERαよりERβに対して結合選択性を示し、そのうちの3種、すなわち2、5及び8が100倍以上の選択性を示した。予備的な構造と結合活性との関係の解析により、中心疎水性骨格構造及び結合した2つの極性「アーム」が両ERに対するリガンドの結合親和力に寄与していることが明らかになった。VDW接触の増大は、分子の中心の疎水性の特徴に主として由来する。例えば、桁が異なる結合親和力とよく相関するゲニステイン(−60.75)及び分子9(−58.04)に対する17β−エストラジオール(−67.98)のVDW値によって示されるように、環の数は受容体に対する分子の結合親和力を増加させる。それに対して、分子の2つの極性「アーム」に由来する水素結合は、結合に対しても必須である。分子4及び6によって示されるように水素結合の1つの「アーム」、又は10及び12によって示されるように水素結合の2つの「アーム」の欠如は、後2者の分子は受容体との強いVDW相互作用を引き起こすことができる(VDW値はそれぞれ−72.58及び−69.19)としても、非常に弱い結合又は全く結合しない原因となる。合成ERβ選択的アゴニストPPT(Staufferら、J. Med. Chem.、2000年、第43巻、4934〜4947頁)及び合成ERβ選択的アゴニストDPN(Meyersら、J. Med. Chem.、2001年、第44巻、4230〜4251頁)のモデリング複合体構造において示されているように、結合選択性に関して、また両ER(Zhaoら、2004年、Abstract Book;The Keystone Symposia:Nuclear Receptors:Steroid Sisters、Keystone、CO;2004年2月)に関して、分子3及び11によって示されているように、比較的、より大きい分子サイズはERαに対するよりもERβに対する結合選択性に有利である。
【0073】
これらの分析は、より活性かつ選択性のERサブタイプ選択的リガンドの将来の探索及び設計について明らかにする。さらに、データベース検索により得られた12種の代表的分子のうちの3種がERαに対するよりもERβに対して100倍以上の選択性を示したことから、ERβと優先的に相互作用する可能性のある分子の発見において本試験に適用したこのコンピュータ援用仮想スクリーニングアプローチの有効性が実証される。
【0074】
(実施例2)
神経変性の予防のためのERβ選択的PhytoSERM併用の前臨床確認
神経変性及びアルツハイマー病(AD)の予防に関連するニューロン生存及び分子/機能マーカーに対する単独又は併用投与したときのERb選択的PhytoSERMの影響を検討した。
【0075】
材料及び方法
17β−エストラジオールをSteraloids(Newport、RI)から購入した。ゲニステイン、ダイゼイン及びエコールをIndofine Chemical(Hillsborough、NJ)から購入した。IBSO03569をInterBioScreen(Moscow、Russia)から購入した。これらの化合物の構造を図1に示す。
【0076】
in vitro投与:試験化合物(又は組合せ)を最初に分析的に純粋なDMSO(10mM)に溶解し、投与直前にNeurobasal培地で作業濃度に希釈した。
【0077】
in vivo投与:試験化合物(又は組合せ)を最初に分析的に純粋なDMSOに溶解し、トウモロコシ油(950mlのトウモロコシ油中50mlのDMSO)で17β−エストラジオールについては100mg/ml、PhytoSERMについては10mg/mlの作業濃度に希釈した。
【0078】
in vitro検定
ERα結合検定
ERα受容体(約0.2mg/ml、Affinity Bioreagents)をpH7.4のリン酸緩衝生理食塩水(「PBS」)で約2×103mg/mlに希釈した。次いで、50μlのEPα−PBS溶液をフラッシュプレート(flashplate)の各ウエルに加えた。プレートを密封し、暗所に4℃で16〜18時間保存した。使用直前に緩衝受容体溶液を除去し、プレートをウエル当たり200μlのPBSで3回洗浄した。受容体がウエル表面から脱出することを避けるために、洗浄は一般的に試薬のウエルへの緩やかな分注により行った。
【0079】
ライブラリーのスクリーニングのために、20mM Tris−HCl、1mM EDTA、10%グリセロール、6mM モノチオグリセロール、5mM KCl、pH7.8中150μlの1nM 3H−エストラジオール(New England Nuclear、Boston、Mass)を50μlの試験化合物(同じ緩衝液中)と96ウエルマイクロタイタープレート中で混合して、0.6nMの最終エストラジオール濃度を得た。さらに、標準曲線を作製するために、1〜2nMのIC50を中央としたいくつかの希釈度のエストラジオールも個々のウエルに加えた。プレートを緩やかに振とうして試薬を混合した。ウエルのそれぞれから合計150μlをプレコートしたERαプレートの対応するウエルに加えた。プレートを密封し、ウエル中の成分を室温で4時間又は4℃で一夜インキュベートした。インキュベーション後にリガンドに結合した受容体をシンチレーションカウンターを用いて直接読み取った。受容体に結合したリガンドの量を直接、すなわち、遊離のリガンドから結合したものを分離せずに測定した。結合及び遊離リガンドの推定が必要な場合には、上清をウエルから除去し、シンチレーション液を加え、ウエルを液体シンチレーションカウンターで別個にカウントした。
【0080】
ERβ結合検定
ERβ受容体(約0.2mg/ml、Affinity Bioreagents)をpH7.4のリン酸緩衝生理食塩水(「PBS」)で約2×103mg/mlに希釈した。次いで、50μlのERβ−PBS溶液をフラッシュプレート(flashplate)の各ウエルに加えた。プレートを密封し、暗所に4℃で16〜18時間保存した。使用直前に緩衝受容体溶液を除去し、プレートをウエル当たり200μlのPBSで3回洗浄した。受容体がウエル表面から脱出することを避けるために、洗浄は一般的に試薬のウエルへの緩やかな分注により行った。
【0081】
ライブラリーのスクリーニングのために、20mM Tris−HCl、1mM EDTA、10%グリセロール、6mM モノチオグリセロール、5mM KCl、pH7.8中150μlの1nM 3H−エストラジオール(New England Nuclear、Boston、Mass)を50μlの試験化合物(同じ緩衝液中)と96ウエルマイクロタイタープレート中で混合して、0.6nMの最終エストラジオール濃度を得た。さらに、標準曲線を作製するために、1〜2nMのIC50を中央としたいくつかの希釈度のエストラジオールも個々のウエルに加えた。プレートを緩やかに振とうして試薬を混合した。ウエルのそれぞれから合計150μlをプレコートしたERβプレートの対応するウエルに加えた。プレートを密封し、ウエル中の成分を室温で4時間又は4℃で一晩インキュベートした。インキュベーション後に受容体に結合したリガンドをシンチレーションカウンターを用いて直接読み取った。リガンドに結合した受容体の量を直接、すなわち、遊離のリガンドから結合したものを分離せずに測定した。結合及び遊離リガンドの推定が必要な場合には、上清をウエルから除去し、シンチレーション液を加え、ウエルを液体シンチレーションカウンターで別個にカウントした。
【0082】
ERα/ERβトランス活性化検定
トランスフェクトCHO細胞の構築
トランスフェクトCHO細胞は、American Type Culture Collection(「ATCC」、Rockville、Md.)から入手したCHO KI細胞から得た。トランスフェクト細胞を次の4つのプラスミドベクターを含むように修飾した。(1)ヒトエストロゲン受容体のDNAを含むpKCRE、(2)ネオマイシン耐性をもたらすタンパク質のDNAを含むpAG−60−neo、(3)ラットオキシトシンプロモーター及びホタルルシフェラーゼタンパク質のDNAを含むpRO−LUC及び(4)ハイグロマイシン耐性をもたらすタンパク質のDNAを含むpDR2。これらの遺伝学的に修飾されたCHO細胞を用いたすべての形質転換は、COGEM(Commissie Genetische Modificatie)のガイドラインに従ってrec−VMT包含のもとに実施する。スクリーニングは、エストラジオールの非存在下(発情原性)又はエストラジオールの存在下(非発情原性)で実施する。
【0083】
ニューロン機能を評価するための検定
ニューロン培養の調製
海馬ニューロンの初代培養を胎生18日目(E18d)ラット胎児から得た。簡単に述べると、ラット胎児の脳から切り離した後、海馬をハンクスの平衡塩類溶液(137mM NaCl、5.4mM KCl、0.4mM KH2PO4、0.34mM Na2HPO4.7H2O、10mMグルコース及び10mM HEPES)中0.02%トリプシンで37℃で5分間処理し、先端熱加工パスツールピペットに繰返し通して解離させた。形態分析のために2×104から4×104個の細胞を蓋付き35mmペトリ皿中のポリ−D−リシン(10μg/ml)被覆22mmカバーガラス上で平板培養し、生化学的分析のために1×105個/mlの細胞を96ウエル培養プレートのポリ−D−リシン被覆24ウエル上、又は3〜5×105個/mlの細胞を0.1%ポリエチレンイミン被覆60mmペトリ皿上で平板培養した。神経細胞は、最初の3日間は加湿10%CO2大気中で37℃でB27、5U/mlペニシリン、5μg/mlストレプトマイシン、0.5mMグルタミン及び25μMグルタミン酸塩を添加したフェノールレッド不含有Neurobasal培地(NBM、Invitrogen Corporation、Carlsbad、CA)中37℃で、その後はグルタミン酸塩を含まないNBM中で成長させた。血清不含有Neurobasal培地中で成長させた培養は、約99.5%のニューロンと0.5%のグリア細胞を生む。
【0084】
神経保護の測定
グルタミン酸塩曝露
初代海馬ニューロンを化合物で48時間前処理した後、100mM NaCl、2.0mM KCl、2.5mM CaCl2、1.0mM MgSO4、1.0mM NaH2PO4、4.2mnM NaHCO3、10.0mMグルコース及び12.5mnM T−LEPESを含むHEPES緩衝液中で室温で5分間100μMグルタミン酸塩に曝露させた。グルタミン酸塩への曝露後直ちに、培養をHEPES緩衝液で1回洗浄し、試験化合物を含む新たなNeurobasal培地と交換した。培養を培養インキュベータに戻し、翌日に細胞生存能を測定する前に24時間インキュベートした。
【0085】
ウエスタンイムノブロッティング
CREBリン酸化
核溶解物を次のように調製した。簡単に説明すると、ポリ−D−リシン被覆培養皿上で成長させた海馬ニューロンを化合物で適切な期間処理し、冷PBSで1回洗浄し、1mlのPBS中にこすり落とした。次いで、細胞を5000rpmで5分間遠心分離し、ペレットを細胞質抽出緩衝液(10mM HEPES、1mM EDTA、60mM KCl、0.075%Igepal並びにプロテアーゼ及びホスファターゼ阻害剤カクテル)に溶解し、200μlピペットチップに通して懸濁した。4℃で30〜45rpmでのインキュベーションの後、試料を5000rpmで5分間遠心分離して、上清中細胞質抽出物を得た。上清細胞質抽出物を除去し、核抽出緩衝液(20mM TrisHCl、1.5mM MgCl2、420mM NaCl、0.2mM EDTA、25%グリセロール、0.5%Igepal並びにプロテアーゼ及びホスファターゼ阻害剤カクテル)をペレットに加えた後、5MNaClを加えて核膜を破壊した。4℃で30〜45rpmでのインキュベーションの後、試料を12000rpmで10分間遠心分離して、核抽出物を含む上清を得た。
【0086】
BCA法によりタンパク質濃度を測定した。適切な容積の2×試料緩衝液をタンパク質試料に加え、試料を95℃で5分間沸騰させた。試料(ウエル当たり25μgタンパク質)を10%SDS PAGEゲル上に加え、90Vでの標準的電気泳動により分離した。次いで、タンパク質を4℃で32Vで一夜電気泳動によりImmobilon−P PVDF膜に転移させた。膜を0.05% Tween20を含むPBS(PBS−T)中10%乾燥脱脂粉乳中で室温で1時間ブロックし、ホスホ−CREB(pSER133、マウスモノクローナル、1:2000;Cell Signaling Technology、Beverly、MA)、CREB(ウサギポリクローナル、1:1000;Cell Signaling Technology、Beverly、MA)、スピノフィリン(ウサギポリクローナル、1:1000;Upstate Biotecholagy、Lake Placid、NY)、アクチン(マウスモノクローナル、1:1000;Santa Cruz Biotechnology,Inc.、Santa Cruz、CA)又はヒストンH1(マウスモノクローナル、1:250;Santa Cruz Biotechnology,Inc.、Santa Cruz、CA)に対する適切な一次抗体とともに抗体供給業者により指定された温度及び時間でインキュベートした。すべての一次抗体を1%ウマ血清(マウスモノクローナル抗体用)又はヤギ血清(ウサギポリクローナル用)を含むPBS−Tに溶解した。PBS−Tで洗浄した後、膜を、1%ウマ血清を含むPBS−T中西洋ワサビペルオキシダーゼ結合抗マウスIgG(1:5000;Vector Laboratories,Inc.、Burlingame、CA)又は1%ヤギ血清を含むPBS−T中抗ウサギIgG(1:5000;Vector Laboratories,Inc.、Burlingame、CA)とともに1時間インキュベートした。免疫反応性バンドをTMI3検出キット(Vector Laboratories,Inc.、Burlingame、CA)により可視化し、Un−Scan−Itゲル画像ソフトウエア(Silk Scientific,Inc.、Orem、UT)を用いて定量した。転移後、等タンパク質ローディングを保証するためにゲルをクーマシーブルー(Bio−rad Laboratories、Hercules、CA)で染色した。
【0087】
Bcl−2及びBcl−xlの発現
PBS中0.005% SDS、0.1% Igepal、0.2mMオルトバナジン酸ナトリウム、0.2mMフッ化フェニルメチルスルホニル及びプロテアーゼ阻害剤混合物を含む氷冷溶解緩衝液中で細胞を4℃で45分間インキュベートすることにより溶解する前に、初代海馬ニューロンを化合物で48時間前処理した。細胞溶解物を10000rpmで4℃で10分間遠心分離し、上清中のタンパク質の濃度をBCA Protein Asaay(Pierce Biotechnology,Inc.、Rockford、IL)を用いて測定した。25μgの総タンパク質を試料緩衝液を含む15μlの2×SDSで希釈し、水で最終容積を30μlとした。95〜100℃の熱板上で5分間変性した後、1レーン当たり25μlの混合物を10% SDS−ポリアクリルアミドミニゲル上に載せた後、90Vで電気泳動した。次いで、タンパク質をゲルからポリジフッ化ビニリデン膜(Millipore Corp.、Bedford、MA)に電気転移した。非特異的結合部位を0.05% Tween(商標)−20を含むPBS(PBS−Tween(商標))中5%乾燥脱脂粉乳でブロックした。膜を、1%ウマ血清を含むPBS−Tween(商標)(Vector Laboratories,Inc.、Burlingame、CA)で1:250に希釈したBcl−2(Zymed Laboratories,Inc.、S.San Francisco、CA)に対する一次モノクローナル抗体とともに4℃で一夜インキュベートし、次いで、1%ウマ血清を含むPBS−Tween(商標)で1:5000に希釈した二次西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合ウマ抗マウスIgG(Vector Laboratories,Inc.、Burlingame、CA)とともに室温で2時間インキュベートし、ペルオキシダーゼのTMB基質(Vector Laboratories,Inc.、Burlingame、CA)で膜を顕色化してBcl−2タンパク質を可視化した。β−アクチン(Santa Cruz Biotechnology,Inc.、Santa Cruz、CA)レベルを測定して等タンパク質ローディングを確認し、高範囲Precision Protein Standards(Bio−Rad Laboratories、Hercules、CA)を用いてタンパク質サイズを測定した。画像デジタル化ソフトウエアUn−Scan−Tt version5.1(Silk Scientific,Inc.、Orem、UT)を用いた光学密度分析により、バンドの相対強度を定量化した。
【0088】
統計処理
群間の統計的に有意な差は、一元配置分散分析(ANOVA)と続くNewman−Keuls事後解析により判定した。
【0089】
in vivo検定
発情原性、抗発情原性に関する未熟ラット子宮栄養バイオアッセイ
抗エストロゲン様活性は、1日当たり0.2μgの17−β−エストラジオール(「E2」)の投与に起因する子宮湿重量の増加を抑制する試験化合物の能力により測定した。E2対照群と比較して特定の投与群における子宮重量の統計的に有意な低下は、抗発情原性を示唆する。
【0090】
体重範囲が35〜50gの140匹の雌子動物(19日齢)を試験のために選択した。子動物の体重が約35〜50gであった19日齢時に、子動物を投与子動物に体重順序無作為化した。死亡、罹病、飼料及び水の利用性、一般的外観及び毒性徴候に関する観察を1日2回行った。試験に用いなかった子動物は、哺育母動物とともに安楽死させた。初期体重は、19日齢時の投与の開始直前に測定した。最終体重は、22日齢時の剖検時に測定した。
【0091】
投与は19日齢時に開始し、20日齢及び21日齢まで継続した。各動物に3日間連日1日3回の皮下(「sc」)注射した。対照及び中から高レベル用量試験群のそれぞれにおける3匹のラットをケタミン/キシラジン混合物で麻酔した。22ゲージ針と10USPヘパリンナトリウム/mlでフラッシュした5ml注射器を用いて下行大静脈を経て放血することにより、ラットの血液を採取し、次いで、5mlの上部が緑色の血漿チューブ(ヘパリンナトリウム(凍結乾燥)、72USP単位)に移した。遠心分離により血漿試料を採取し、−70℃で凍結し、質量分析を用いて分析して、血清中の試験化合物の存在及び量を測定した。血液化学も分析して、他の血液パラメーターを測定した。ラットの子宮を摘出し、重量を測定した。残りのラットは、CO2中での窒息により屠殺した。これらのラットの子宮を摘出し、傷をつくり、液体を拭って除去し、重量を0.1mgまで測定した。
【0092】
試験化合物が最終体重に有意に影響を及ぼすかどうかを判断するために、パラメトリック一元配置分散分析(ANOVA)を行った(SIGMASTATversion2.0、Jandel Scientific、San Rafael、Califにより市販されている)。log10変換データについてパラメトリックANOVAを用いて投与群にわたり子宮湿重量を比較して、エストロゲン作用及び拮抗活性を評価した。パラメトリックAWQVAの正規性及び分散に均一性の仮定を満たすように、データを変換した。F値を求め、Student−Newman−Kuelの多重範囲(multiple range)検定を行って、投与群間の有意差の存在を判断した。試験化合物が17−β−エストラジオール刺激性子宮栄養反応を完全に抑制しない場合、試験化合物は混合エストロゲンアゴニスト/拮抗物質として作用すると判断される。
【0093】
動物の使用は、南カリフォルニア大学(University of Southern California)の施設内動物管理使用委員会により承認された(プロトコール番号:10780)。胎生18日目にSprague−Dawleyラット(Harlan、Indianapolis、IN)胎児を用いて、in vitro実験用の初代海馬ニューロン培養を得た。若齢成体(14〜16週齢、体重270〜290g)雌卵巣摘出Sprague−Dawleyラット(Harlan)をin vivo実験に用いた。
【0094】
in vitro神経保護及び関連機械学的(mechanistic)試験を胎生18日目ラット胎児から得た初代海馬ニューロンについて行った。成体雌卵巣摘出ラットを用いて、in vitro所見をin vivo環境、並びに脳ミトコンドリア機能及び子宮重量に対するPhytoSERMの影響の評価と関連付けた。
【0095】
卵巣摘出術後の2週間の手術回復期間中、投与の前に、ラットをphytoSERM減飼料TD96155(Harlan Teklad)を与えて飼育した。ラットに1日1回、媒体(対照)、17β−エストラジオール(70μg/kgBW)、ゲニステイン(6mg/kgBW)又はphytoSERM配合物(6mg/kgBW)を計2回皮下注射した。ここで用いた用量は、ヒトに用いられるものと同じである。
【0096】
2回目の注射後に、屠殺及び脳切開の前に動物を24時間絶食させた。海馬及び皮質組織を1半球から採取し、生化学的分析に備えて保存した。小脳を含まない残りの脳組織、松果体及び脳幹をミトコンドリアの分離のために用い、その後直ちにミトコンドリアの呼吸活性の測定を行った。ミトコンドリア試料の残りをシトクロムcオキシダーゼ活性の測定のために保存した。子宮を摘出し、脂肪及び結合組織から切り離し、湿及び乾燥重量を記録した。
【0097】
結果
試験したPhytoSERMを図1に示す。
【0098】
ERβ及びERαに対する選択的結合
図2にERβ及びERαに対する4つの既知ERリガンドの競合結合曲線を示す。結合曲線からこれらのリガンドについて決定されたIC50は、ラジオリガンドアッセイのような代替法を用いて以前に報告された値と一致しており、両ERへの小分子の結合プロファイルの測定におけるこの検定法の信頼性が実証された。
【0099】
図2A及び2BにERα及びERβに対する競合結合曲線を示す。データは、全長ヒトERα及びERβを用いて蛍光偏光に基づく競合結合検定法により取得し、試験化合物(又は配合物)の連続希釈濃度の対数に対してプロットした。プロゲステロンを陰性対照とした。17β−エストラジオールを陽性対照とした。配合製剤は、等モルの含めた個々のphytoSERMから構成されていた。G:ゲニステイン;D:ダイゼイン;E:エコール;I:IBSO03569。17β−エストラジオールは、ERα又はERβに対する結合優先性を有さない。偏光の最大変化の半分をもたらす試験分子の濃度は、そのIC50に等しい。用量範囲内で非収束であることは、いずれかの分子が受容体に結合しないか、又は結合親和力が非常に低いことの予測となる。
【0100】
表2にERα及びERβに対する結合データを示す。
【0101】
【表2】
神経保護効果
表3及び図3にLDH放出の測定による、初代海馬ニューロンにおける超生理学的グルタミン酸塩(100μM)誘発性神経毒性に対する4種のERβ選択的フィトエストロゲン様分子の用量依存的神経保護効果を示す。##P<0.01媒体単独処理培養との比較;*P<0.05及び**P<0.01グルタミン酸塩単独処理培養との比較。
【0102】
【表3A】
【0103】
【表3B】
図3にカルセインAM染色の測定による、初代海馬ニューロンにおける超生理学的グルタミン酸塩(100μM)誘発性神経毒性に対する用量反応分析から明らかにされた最大神経保護効果をもたらした濃度(4分子すべてについて100nM)で単独投与又は併用投与したときの4つのERβ選択的フィトエストロゲン様分子の神経保護効果を示す。結果は、神経保護有効性によって示す。
【0104】
NE=(Vtreatment−Vglutamate)/(Vcontrol−Vglutamate)×100% (1)
ここで、Vtreatmentはフィトエストロゲン処理培養からの個々の値であり、Vglutamateはグルタミン酸塩単独処理培養からの平均値であり、Vcontrolは媒体処理対照培養からの平均値である。##P<0.01媒体単独処理培養との比較;*P<0.05及び**P<0.01グルタミン酸塩単独処理培養との比較。
【0105】
図3及び表3に示すデータは、4つのERβ選択的フィトエストロゲン様分子は、個別に投与するとき、濃度依存的であり、初代ニューロンにおける興奮毒性グルタミン酸塩誘発性神経毒性に対して保護をもたらすが、これらの効果は、中等度であり、内因性エストロゲン17β−エストラジオール(E2)と比較してエストロゲン受容体に対する弱い結合により生じる。図3にこれらのフィトエストロゲンの3つ又は4つの併用投与が1つのフィトエストロゲンの投与又は2つのフィトエストロゲンの併用投与と比較してはるかに大きい神経保護効果をもたらしたことを示している。
【0106】
抗アポトーシスタンパク質Bcl−2及びBcl−xLの発現
これらの結果は、初代ニューロンにおける抗アポトーシスタンパク質Bcl−2及びBcl−xLの発現のウエスタン分析から得られた結果と類似している。図4A〜4Bに成体卵巣摘出ラットから得られたラット初代海馬ニューロン及び海馬組織におけるBcl−2及びBcl−XLの発現に対する影響を示す。7分裂にわたり成長させた初代海馬ニューロンを試験化合物(又は配合物)で48時間処理した後、ウエスタンブロット分析を行った。成体卵巣摘出ラットに1日1回、試験化合物(又は配合物)を計2回の皮下注射により投与した。2回目の注射の24時間後にラットを屠殺した。海馬組織をホモジナイズした後、ウエスタンブロット分析を行った。配合製剤は、(A)における等モル及び(B)における等重量のG:ゲニステイン;D:ダイゼイン;E:エコール;及びI:IBSO03569を含む個別のphytoSERMから構成されていた。
【0107】
ニューロンを4つのフィトエストロゲンの配合物とともに48時間インキュベートすることにより、E2によって誘発されたものと同等の両タンパク質の発現の有意な増大が誘発された。これは、初代海馬ニューロンにおける抗アポトーシスタンパク質Bcl−2及びBcl−xLの発現に対する併用投与したときの4つのERβ選択的フィトエストロゲン様分子(4つのすべての分子について100nM)の影響を示す図4に示す。**P<0.01媒体単独処理培養との比較。比較すると、2つのフィトエストロゲンの併用は、図4A及び図4Bにも示すように、両タンパク質の発現の有意な増大をもたらすには十分ではなかった。
【0108】
Bcl−2ファミリー抗アポトーシスタンパク質のアップレギュレーションは、E2によって誘発される神経保護機構に関連していた。これらのデータは、複数のERβ選択的フィトエストロゲンの併用は神経変性傷害に対してのニューロンの生存の改善をもたらす神経保護機構を活性化するために有効であることを示している。エストロゲン受容体とp85/PI3Kとの相互作用も、Bcl−2とのヘテロ二量体化及びBcl−2の不活性化を妨げるためにアポトーシス促進タンパク質Bcl−2関連死タンパク質(BAD)をリン酸化するpAktを増大させる。皮質ニューロンにおいて、エストラジオールは核へのpAktの転位を誘発した。最近の分析は、エストラジオールがPI3Kシグナリング経路を介して皮質及び海馬ニューロンの同じ集団におけるAkt及びERK1/2カスケードを活性化することを示している。ミトコンドリアが細胞死カスケードを活性化することを妨げる2つの経路の同時の活性化は、ニューロンの生存を促進する可能性がある。
【0109】
抗β−アミロイドタンパク質IDEの発現の増大
図5に初代海馬ニューロンにおける抗β−アミロイドタンパク質、インスリン分解酵素(「IDE」)の発現に対する併用投与したとき(4つのすべての分子について100nM)の4つのERβ選択的フィトエストロゲン様分子の影響を示す。**P<0.01媒体単独処理培養との比較。図5に初代ニューロンにおける抗β−アミロイド(抗−Aβ)タンパク質、インスリン分解酵素(IDE)の発現に対する、E2をともなうフィトエストロゲンのこれらの様々な併用影響を示す。データは、2つ、3つ又は4つのフィトエストロゲンからなる3種の併用のすべてがニューロンにおけるIDE発現を有意に増大させたことを示した。それらのうち、3つのフィトエストロゲンの併用は、最大のニューロン反応を誘発し、有効性はE2並びに2つのフィトエストロゲンの併用より大きかった。
【0110】
ADの1つの神経病理学的特徴は、Aβプラークと呼ばれる細胞外Aβペプチドの有意な沈着であることは明らかである。Aβクリアランス及び/又は分解の障害がAD脳におけるAβプラークの形成に一部寄与していることが示された。インスリン及びいくつかの調節ペプチドを分解することのほかに、メタロプロテアーゼ酵素であるIDEは、脳内のAβペプチド単量体の分解に重要な役割を果たしていることが示された。IDEの慢性的なアップレギュレーションは、脳内の定常状態Aβレベルを低下させ、アルツハイマー型病状の発生を最終的に予防することに対する新規な有効な治療アプローチである。したがって、これらのデータは、複数のERβ選択的フィトエストロゲンの併用投与は抗Aβ機構を活性化し、結果として、脳を長期の健康な状態に維持する可能性を有することを示している。
【0111】
スピノフィリンのアップレギュレーション
図6に初代海馬ニューロンにおける棘マーカーであるスピノフィリンの発現に対する併用投与したとき(4つのすべての分子について100nM)の4つのERβ選択的フィトエストロゲン様分子の影響を示す。**P<0.01媒体単独処理培養との比較。ニューロン樹状突起棘の頭部に濃縮されているタンパク質であるスピノフィリンは、樹状突起の形態及びグルタミン酸作動性シナプス活性の調節に重要な役割を果たすことが示された。スピノフィリンのアップレギュレーションは、ニューロンシナプスの形成性のエストロゲン調節と相関付けられた。したがって、これらの結果は、これらのフィトエストロゲンの併用が神経栄養を促進させ、それにより、脳がシナプスにおいて活性な状態に留まることを持続させ、認知低下及び記憶喪失を予防するのに有効であることを示している。
【0112】
グルタミン酸塩に対する神経保護
図7A〜7Dにラット初代海馬ニューロンにおけるグルタミン酸塩(図7A)及びアミロイド1−42誘発性神経毒性に対する化合物の神経保護効果を示す。7分裂にわたり成長させた初代海馬ニューロンを試験化合物(又は配合物)で48時間前処理した後、100mMグルタミン酸塩に5分間曝露させた。カルセインAM染色によりニューロンの生存能を分析する前に、ニューロンをさらに24時間インキュベートした。試験化合物(又は配合物)で48時間前処理した後、ニューロンを3mM β−アミロイド1−42に2日間曝露させた。ニューロンの生存能は、培地中に放出されたLDH及び死細胞プロテアーゼ並びに完全な生存ニューロンにもっぱら入る生細胞プロテアーゼの活性の蛍光定量測定によって分析した。
【0113】
結果は、試験化合物(又は配合物)により予防され、式によって定量化された神経毒誘発性毒性のパーセントと定義される神経保護有効性(NE)として示す。
【0114】
NE=(Vtreatment−Vneurotoxin)/(Vcontrol−Vneurotoxin)×100%
ここで、Vtreatmentは試験化合物(又は配合物)処理培養からの個々の値であり、Vneurotoxinはグルタミン酸塩又はβ−アミロイド1−42単独処理培養からの平均値であり、Vcontrolは媒体処理対照培養からの平均値である。##P<0.01は媒体処理対照培養との比較;*P<0.05及び**P<0.01はグルタミン酸塩又はβ−アミロイド1−42単独処理培養との比較;δP<0.05はE2処理培養との比較;ζP<0.05はゲニステイン処理培養との比較;ΨP<0.05及びΨΨP<0.01は配合物(G+D)処理培養との比較;ΦP<0.05は配合物(G+D+E+I)処理培養との比較。配合製剤は、等モルの含めた個々のphytoSERMから構成されていた。G:ゲニステイン;D:ダイゼイン;E:エコール;I:IBSO03569。
【0115】
IDE/NEP発現に対する影響
図8A〜8Cに成体卵巣摘出ラットから得られた(A)ラット初代海馬ニューロン及び(B)海馬組織におけるインスリン分解酵素(IDE)/ネプリリシン(NEP)発現に対する影響を示す。(A)7DIVにわたり成長させた初代海馬ニューロンを試験化合物(又は配合物)で48時間処理した後、ウエスタンブロット分析を行った。(B)成体卵巣摘出ラットに1日1回、試験化合物(又は配合物)を計2回の皮下注射により投与した。2回目の注射の24時間後にラットを屠殺した。海馬組織をホモジナイズした後、ウエスタンブロット分析を行った。結果は、タンパク質発現の増加倍率として示し、対照のパーセント、n≧4として表す。*P<0.05及び**P<0.01は媒体処理対照培養又は動物との比較;δP<0.05及びδδP<0.01はE2処理培養との比較;ΨΨP<0.01は配合物(G+D)又はゲニステイン処理培養との比較;ΦP<0.05は配合物(G+D+E+I)処理培養との比較。配合製剤は、(A)における等モル及び(B)における等重量のG:ゲニステイン;D:ダイゼイン;E:エコール;及びI:IBSO03569を含む個別のphytoSERMから構成されていた。
【0116】
前脳ミトコンドリアに対する影響
図9A〜9Eに成体卵巣摘出ラットにおける前脳ミトコンドリアシトクロムcオキシダーゼ(COX)活性に対する影響を示す。ラットに1日1回、試験化合物(又は配合物)を計2回の皮下注射により投与した。2回目の注射の24時間後にラットを屠殺した。前脳ミトコンドリアを分離した後、免疫捕獲法を用いてCOX活性の分光光度測定を行った。550nmにおける比色吸光度を115分間にわたり5分ごとに記録した。COX活性は、還元シトクロムcの酸化の初期速度として示し、直線範囲内の2時点間(<20分)の初期勾配を計算して求めた。(上パネル)吸光度の経時変化;(下パネル)ミトコンドリアCOX活性の増加%、n≧4;*P<0.05及び**P<0.01は媒体投与対照動物との比較;ΨP<0.05はゲニステイン投与動物との比較。配合製剤は、E2:17b−エストラジオール;G:ゲニステイン;D:ダイゼイン;E:エコール;I:IBSO03569を含む等重量の個別のphytoSERMから構成されていた。
【0117】
図10A〜10Eに成体卵巣摘出ラットにおける前脳ミトコンドリア呼吸活性に対する影響を示す。ラットを上のように処理した。前脳ミトコンドリアを分離した後、直ちに酸素電極を用いて呼吸活性のポリグラフ測定を行った。基礎の記録の後に、基質、マレイン酸塩/グルタミン酸の添加の後にミトコンドリア状態4呼吸を測定した。状態3呼吸は、ADPの添加後に測定した。状態3での酸素取込みの速度と状態4での酸素取込みの速度と比としての呼吸コントロール比(RCR)を計算した。(図12A〜12D)酸素取込みの経時変化;(図12E)ミトコンドリア呼吸活性の増加%、n≧4;*P<0.05及び**P<0.01は媒体投与対照動物との比較;ΨP<0.05はゲニステイン投与動物との比較。配合製剤は、E2:17b−エストラジオール;G:ゲニステイン;D:ダイゼイン;E:エコール;及びI:IBSO03569を含む等重量の個別のphytoSERMから構成されていた。Mito:ミトコンドリア;Mal/Glut:マレイン酸塩/グルタミン酸。
【0118】
子宮重量に対する影響
表4に成体卵巣摘出ラットにおける子宮重量に対する影響を示す。エストロゲン様刺激に対する子宮重量の変化を用いて、子宮組織に対する試験化合物のエストロゲン様特性を評価することができる。下で述べる1つの実施例において、エストロゲンの低い内因性レベルを有する未熟雌ラットに試験化合物を3日間毎日(皮下)投与した。化合物は、皮下注射用に適宜調合した。対照として、17β−エストラジオールのみを1つの投与群に投与した。媒体対照投与群も試験に含めた。最終投与の24時間後に、動物を剖検し、子宮を摘出し、傷を付け、ブロットし、重量を測定した。媒体対照群と比較したときの特定の投与群の子宮重量の統計的に有意な増加は、発情原性の証拠を示すものである。
【0119】
【表4】
要約
in vitro及びin vivo分析により、選択した試験phytoSERMの併用は、神経毒で惹起したときのニューロンの生存を持続させ、ニューロン/脳における神経保護及びβ−アミロイドの代謝/クリアランスに重要な役割を果たすものとしてのタンパク質の発現を促進し、脳ミトコンドリアの機能を増大させることに関する有効性の有意な増大をもたらしたことが実証された。特に、ゲニステイン、ダイゼイン及びエコールの等重量での併用は、ニューロン/脳検定法において17b−エストラジオールと同等又はより大きい最大有効性をもたらした。これと対照的に、そのような併用は、17b−エストラジオールによって著しく増加した子宮重量に対して影響を示さなかった。
【0120】
本試験は、選択したERβ選択的PhytoSERMの併用が単独投与及び代替配合製剤より治療上有効であり得ることを示している。特に、本試験は、閉経後女性における神経変性及びADの予防並びに更年期症状の管理に対するゲニステイン、ダイゼイン及びエコールの等重量での併用の可能性を示唆している。
【0121】
図11A〜11Cは、神経栄養及び神経保護の結果につながるエストロゲンの作用機序を示す概略図である。膜結合部位(mER)を介しての17−β−エストラジオール(E2)の作用が、ニューロン形成性、形態形成、神経組織発生及び神経の生存の増大につながる複数の反応に必要なカスケードを活性化する。膜部位においてE2により誘導されるシグナリングの順序は次の通りである:(1)mERへのE2の結合、(2)E2−mERがp85と複合してPI3Kを活性化する、(3)カルシウム非依存性PKCの活性化、(4)L型カルシウムチャンネルのリン酸化、(5)カルシウム流入の誘導、(6)カルシウム依存性PKCの活性化、(7)Srcキナーゼの活性化、(8)MEK/ERK1/2経路の活性化、(9)核へのERKの転位、(10)CREBの活性化及びリン酸化、(11)ミトコンドリアの活力を増強する抗アポトーシス遺伝子Bcl−2及びBcl−xl並びにシナプス成長を促進するスピノフィリンの転写の増大、(12)同時に、アポトーシス促進タンパク質BADをリン酸化し、阻害するAktの活性化をもたらすPI3Kのエストロゲン活性化。
【0122】
ミトコンドリアにおけるエストロゲン誘導性神経保護機構の有効範囲。エストロゲン活性化細胞シグナリングカスケードは、カルシウム負荷耐性の増大、電子伝達連鎖効率の増大及び抗酸化防御機構の促進をもたらすミトコンドリア機能の増強を促進する。これらの作用は、二次メッセンジャーシグナル伝達カスケードの活性化により開始される、核がコードする遺伝子及びミトコンドリアがコードする遺伝子両方の調節により媒介される。
【0123】
これらの機構及び本明細書におけるデータは、エストロゲン恩恵仮説の健常細胞バイアスと一致して、選択的な分子は、ニューロンがまだ健常である間の神経変性傷害の前に投与し得、phytoSERM曝露は、アルツハイマー病及びパーキンソン病などの年齢に関連する疾患に関連する神経変性傷害に対する神経防御を促進するBcl−2付加によりミトコンドリアによって表される神経生存機構の増強をもたらすことを示している。
【0124】
これらの試験は、記憶機能を維持し、年齢に関連する神経変性傷害及びADを予防するために併用するとき、選択したERβ選択的フィトエストロゲンが治療上有望なものであることを例証している。ERαの活性化を最小限にし、又は避けると同時に、ERβの活性化を最適化する、これらのERβ選択的フィトエストロゲン製剤は、現在のET/HTで認められるような生殖組織における増殖反応の誘発を伴うことなく、神経学的健康、機能を維持し、ADを予防するための有効なエストロゲン代替物代償療法としての役割を果たすはずである。さらに、ERβの活性化がニューロンにおけるApoE mRNA及びタンパク質発現を有意に減少させることを示す最も最近のデータに照らして、ERβ選択的フィトエストロゲン製剤は、ApoE4キャリヤーにおけるADの重大なリスクファクターを低減するための存続できる特別な戦略としての役割を果たす可能性がある。
【技術分野】
【0001】
本研究は、国立精神衛生研究所組織内研究プログラム(National Institute of Mental Health Intramural Research Program (P.J.S.))および補助金第MH67159(R.D.B.)号、国立老化研究所(National Institute of Aging)補助金第AG06647(J.H.M.)号、同第AG16765(J.H.M.,A.C.G.)号、同第AG14751号および同第AG026572(R.D.B.)号、ならびにKenneth T. and Eileen L.Norris基金(R.D.B.)により支援された。
【0002】
本願は、2006年8月1日にラベル番号ER455959795USの速達郵便により郵送された米国特許出願第60/819,849号、2007年2月14日に出願された同第60/889,920号、および2007年6月11日に出願された同第60/943,190号に対する優先権を主張する。
【0003】
人口統計学は、我々がADの罹患率の破壊的な増加に直面していることを示唆し、脳に対する安全かつ有効なET及びHT療法を開発するため基礎及びトランスレーショナルな神経科学に対する早急な必要性を強調している。
【背景技術】
【0004】
AD患者のうち、68%が女性であり、32%が男性である(非特許文献1)。女性は男性より余命が長いので、ADの女性の絶対数は男性を超えている。しかし、女性には二重の危険が存在する。7つの性特異的試験のメタ解析の結果から、女性は同年齢の男性よりADを発現する可能性が1.5倍高いと結論付けられており(非特許文献2)、これは、女性においてADの発生率が明らかに増加することを示したCache County解析によって裏付けられた(非特許文献3)。
【0005】
新千年紀の初頭に米国においては、50歳超の女性がほぼ4200万人おり、そのうち、3100万人超の女性が55歳を超えている(North American Menopause Society、2004年)。全世界には現在、50歳以上の女性が4億7000万人を超え、そのうちの30%が80歳代まで生きると予測されている(North American Menopause Society、2004年)。これらの女性は、生涯の1/3から1/2を閉経状態で過ごすと予想することができる。ADの罹患率に関する報告は様々であるが、70歳代の中期から後期の米国女性1800万人のうち、500万人もがADに罹患していると思われ、この数字は年齢が高くなると劇的に増加する(Brookmeyerら、1998年)。ADの罹患率の予測される指数関数的な増加により、家族及び社会に対する予想される影響と相まって、すぐにでもADの発症を予防又は遅延させる戦略を策定する緊急の必要が強調されている。
【0006】
脳内の性腺ステロイドの作用の主として肯定的な基礎科学所見と、高齢の閉経後又はアルツハイマー病(AD)を有する閉経後女性における最近のエストロゲン又はホルモン療法(「ET/HT」)臨床試験の有害な転帰とがあまりにも一致しないことにより、基礎及び臨床科学で用いられる性腺ホルモン作用及びモデル系が厳しく再評価されている。Women’s Health Initiative Memory Study(「WHIMS」)試験の否定的結果に関与すると思われる1つの重要な因子は、閉経後10年を超えた高齢時に女性においてET/HTが開始されたことであった。基礎科学解析及び臨床試験のデータから、ニューロン/脳におけるエストロゲンの作用の「健常細胞バイアス」が示されており、ET/HTは、年齢に関連する認知低下及びアルツハイマー病(「AD」)などの神経変性障害に対する有効な予防的治療戦略としての役割を果たすが、有効な治療戦略でないことが示唆される。現在広く処方されているETである結合型ウマエストロゲン(「CEE」)は、200種類の成分を含む非常に複雑なETである。CEEが最適の治療効果をもたらすかどうかが疑われた。HTの妥当性を問う他の重要な問題は、最適の組成である。プロゲスチン、及びETとの併用での投与の時期は、いまだ決まっていない。さらに、ET/HTは、閉経後女性において長年にわたり使用され、閉経に伴う問題の一部を遅延又は逆転させてきたが、疫学及び臨床研究により、この療法に関連する潜在的長期リスクが発見された。最近ET/HTに関連するリスクが明らかにされたことにより、脳、骨及び心血管系におけるエストロゲンの有用な作用を促進すると同時に、他の器官、特に乳房及び子宮組織における有害な作用を誘発しないエストロゲン代替物の開発への関心が著しく高まった。
【0007】
エストロゲンの2つの核受容体(ER)であるERα及びERβが同定された。中枢神経系において、ERα及びERβは両方とも、げっ歯類及びヒト脳の海馬及び皮質において発現する。以前の研究において、ERα及びERβは両方とも、ラット海馬ニューロンにおけるエストロゲンの作用機序を活性化することによってニューロンの生存を同等に促進できることが示された。ERβが、エストロゲン誘導性ニューロン形態形成性、脳の発育及び認知の基礎となる機構の活性化のための重要な必要物であることを示す証拠が増えている。一方、ERαは、乳房及び子宮などの生殖器官におけるエストロゲンの作用の性的特性を媒介する上でより優勢である。合わせて考えると、これらのデータから、乳房及び子宮における不都合なエストロゲンによる増殖作用の活性化を避けながら、記憶機能及びアルツハイマー病(AD)などの年齢に関連する神経変性に対するニューロン防御機構を増進するための薬理学的標的としてのERβの治療適用の可能性が立証されるが、脳内のERβの活性化を欠くため、有効性が低下するという犠牲を払うことになる。ERβに関連する他の可能性のある治療上の利点としては、エストロゲンの血管保護作用の調節並びにうつ病、結腸癌、前立腺癌、肥満、白血病及び不妊症などの疾患を標的にするインターベンションの発展などが挙げられる。しかし、ERαは骨密度のエストロゲン調節を媒介することが示されたので、ERβ選択的リガンドの潜在的な欠点は、骨におけるERαの活性化を欠くことである。
【0008】
2つのエストロゲン受容体(「ER」)サブタイプERα及び/又はERβの脳及び/又はニューロンにおけるエストロゲンの作用の媒介における特異的役割に関して依然として論争が存在するが、ERβが脳の発育、神経組織発生並びにニューロンの形成性及び生存のエストロゲンによる改善の調節に重要な役割を果たしていることが広く示された。さらに、ERαに比較して、ERβは、生殖組織におけるエストロゲン作用の性的特性を媒介する点について有効性が低く、乳房及び子宮における不都合な発情性増殖作用の活性化を避ける。したがって、ERβは、記憶機能及び神経保護を増進するための潜在的により安全な治療標的である。しかし、脳内のERαの活性化を欠くため、この安全は、有効性が低下するという犠牲を払ってのものである可能性がある。ERβ標的療法の他の潜在的な利点は、エストロゲンの心臓保護作用のその調節から生じる。ERβ選択的リガンドは、炎症、うつ病、不安、結腸癌、前立腺癌、肥満、白血病及び不妊症を予防又は治療するための有効な療法も提供する可能性がある。
【0009】
閉経後女性における神経機能を増進し、ADなどの年齢に関連する神経変性を予防するための有効なERβ選択的エストロゲン代替物代償療法の探索において、長期投与でより低い毒性プロファイルを有する可能性がある天然に存在する分子又は類似体を特定し、開発することは特に興味深い。いくつかの植物由来のエストロゲン様分子(「フィトエストロゲン」と呼ばれる)がERα及びERβサブタイプに結合し、これらの分子の一部がERβに対して中等度の結合選択性を有し、複数の組織においてエストロゲン様作用を及ぼすことが知られている。
【0010】
脳内のフィトエストロゲンの治療上の有効性は、議論の的である。一方で、単独で投与した場合、フィトエストロゲンは、中等度に神経保護性であるように思われた。他方で、最近の臨床試験で、フィトエストロゲンの混合物を含むダイズタンパク質栄養補助食品は、60歳以上で投与を開始したとき、閉経後女性における認知機能の改善を示さなかったことが明らかになった。フィトエストロゲンの臨床試験で、イソフラボンの複合製剤を含むダイズタンパク質栄養補助食品は、60歳以上で投与したとき、閉経後女性における認知機能を改善しなかったことが報告され、非特許文献4も、閉経後女性において年齢関連ニューロン再組織化が起った閉経の10年以上後に開始したとき、ET/HTは神経機能に対して恩恵をもたらさないことを示した。WHIMS試験の場合と同様に、年齢及びホルモン「歴」は、これらの否定的結果の原因であった重要な因子となり得る。
【0011】
単独で投与したとき、多くのフィトエストロゲンは神経変性傷害からニューロンを保護する効果をもたらしたことから、脳内のフィトエストロゲンの混合物の作用の有効性に実質的に影響を及ぼし得る他の問題は、フィトエストロゲンの製剤である(非特許文献5)。ダイズ抽出物又はダイズタンパク質栄養補助食品は、一般的に複数のフィトエストロゲン分子を含み、それらのいくつかは、ERα選択的アゴニストであるものや、ERβ選択的アゴニストであるものもあれば、またERα又はERβを活性化することに関して無効であるものもある可能性があるが、ERα及び/又はERβフィトエストロゲンアゴニストのER結合の阻害物質として機能し得る。ダイズ由来製剤などのフィトエストロゲンの複合製剤が脳内のエストロゲンの有用な作用を促進することに関して無効であることは、同じ状況におけるERα及びERβの両方の活性化によると考えられる、可能なER拮抗作用に加えて、種々のフィトエストロゲンの間の拮抗作用によっても生じる可能性がある。ERα選択的アゴニストとERβ選択的アゴニストとの併用投与は、種々の神経保護測定においていずれかのアゴニスト単独の投与より有効性が低い。
【0012】
ERαとERβは、多くの状況において、1つの受容体が他の受容体の作用に拮抗し得る陰/陽関係を有する(非特許文献6、非特許文献7)。試験によりこの所見が確認され、ERα選択的アゴニストPPTとERβ選択的アゴニストDPNとの併用投与は、興奮毒性傷害(excitotoxic insults)からの海馬ニューロンの保護に関してPPT又はDPN単独より有効性が低かった。この分析に基づいて、フィトエストロゲンの混合物(すなわち、ダイズタンパク質補助食品)の投与が無効であることは、ERα選択的又はERβ選択的であり得る異なるフィトエストロゲンの間の拮抗作用に一部起因すると推定することができる。これらの知見は、ERαとERβはニューロンの生存のエストロゲンによる促進に寄与するが、同じ状況における両ERサブタイプERαとERβの同時の活性化は有効性を減ずる可能性があることを示している。さらに、ERα選択的アゴニストとERβ選択的アゴニストとの併用投与によってもたらされるホモダイマーとヘテロダイマーの異なる比及び異なる機能も、両アゴニストの併用によってもたらされる有効性の低下の原因である可能性がある。
【0013】
ERβ選択的フィトエストロゲン製剤の開発により、生殖組織におけるERαの活性化に伴う有害な影響を最小限にすると同時に、脳におけるERβの活性化に伴う治療上の恩恵を最大限にすることができる。さらに、ERβの選択的標的化により、複合ダイズ由来製剤で発生する可能性がある拮抗作用が減弱する可能性がある。この天然に存在する理想的な製剤は、神経学的能力を失い、記憶機能を失う危険にさらされている集団、すなわち、閉経後女性における神経学的機能を増進し、ADを予防することに関して莫大な治療上の価値を有する。現在までのところ、そのようなフィトエストロゲン製剤は存在しない。したがって、一般的に、また特に脳内で機能する製剤である新規な選択したフィトエストロゲン製剤を発見し、開発する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Brookmeyerら、1998年、Am J Public Health、第88巻、13372頁
【非特許文献2】Gaoら、1998年、Arch Gen Psychiatry、第55巻、809頁
【非特許文献3】Zandiら、2002年、JAMA、第288巻、21239頁
【非特許文献4】Kreijkamp−Kaspersら、JAMA、2004年、第292巻、65〜74頁
【非特許文献5】Zhaoら、Exp. Biol. Med.、2002年、第227巻、509〜519頁
【非特許文献6】Weihuaら、FEBS Lett.、2003年、第546巻、17〜24頁
【非特許文献7】Gustafsson J. A.、Trends Pharmacol. Sci.、2003年、第24巻、479〜485頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明の目的は、生殖組織におけるERαの活性化に伴う有害な影響を最小限にすると同時に、脳におけるERβの活性化に伴う治療上の恩恵を最大限にするERβ選択的フィトエストロゲン製剤を提供することである。
【0016】
本発明のさらなる目的は、有効成分が天然物質から分離されている、そのような組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
神経学的な健康の増進及びADなどの年齢に関連する神経変性の予防のための選択したフィトエストロゲン医薬組成物及び使用の方法を開発した。これらの選択したフィトエストロゲン製剤は、多くの植物由来エストロゲン様分子及び/又はそれらの構造的類似体を含み、ERαよりもERβに対する結合優先性及び脳内でのアゴニスト活性を示す。これらのERβ選択的フィトエストロゲン製剤は、血液脳関門を通過し、生殖組織における増殖機構を活性化することなく、脳内のエストロゲンに関連する神経栄養及び神経保護機構を促進し、したがって、他のエストロゲンに関連する問題となる側面がない。選択したフィトエストロゲン製剤は、神経学的健康を維持し、年齢に関連する認知低下及びADなどの神経変性障害を予防するために女性及び男性に対して治療上有用である。
【0018】
これらは、ニューロン損傷を予防若しくは軽減し、ニューロン再生をもたらし、又は生存能力を維持し、抗アポトーシスタンパク質の発現を増大させ、かつ/又はアルツハイマー病のインジケータを低下させるのに有効な用量で経腸、経皮、経粘膜、鼻内又は非経口投与される。製剤は、好ましくは化合物の組合せを含み、毎日、持続、遅延又は週1回/月1回投与用に調剤することができる。好ましい実施形態において、これらは、閉経期又は閉経後の女性、最も好ましくは閉経期初期の女性に投与する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】17β−エストラジオール並びにPhytoSERMゲニステイン、ダイゼイン、エコール及びIBSO03569の化学構造を示す図である。
【図2A】G、D、E、I又はG+D、G+D+E若しくはG+D+E+Iの組合せのERα及びERβに関する競合結合曲線(モル濃度対蛍光偏光(mP))を示す図である。
【図2B】G、D、E、I又はG+D、G+D+E若しくはG+D+E+Iの組合せのERα及びERβに関する競合結合曲線(モル濃度対蛍光偏光(mP))を示す図である。
【図3】カルセインAM染色の測定による初代海馬ニューロンにおける超生理学的グルタミン酸塩(100μM)誘発性神経毒性に対する用量反応関係解析(4つのすべての分子ゲニステイン(G)、ダイゼイン(D)、エコール(E)及びIBSO03569(I)又は併用投与したG+D、G+D+E若しくはG+D+E+Iについて100nM)から明らかになった最大神経保護効果をもたらした濃度で単独投与したときの4種のERβ選択的フィトエストロゲン様分子の神経保護有効性を示すグラフである。
【図4】図4A. 初代海馬ニューロンにおける抗アポトーシスタンパク質 Bcl−2の発現に対するG+D、G+D+E又はG+D+E+I(4つの分子すべてについて100nM)として併用投与したときの4つのERβ選択的フィトエストロゲン様分子の影響を示すグラフである。図4B. 初代海馬ニューロンにおける抗アポトーシスタンパク質Bcl−xLの発現に対するG+D、G+D+E又はG+D+E+Iとして併用投与したとき(4つの分子すべてについて100nM)の4つのERβ選択的フィトエストロゲン様分子の影響を示すグラフである。
【図5】初代海馬ニューロンにおける抗β−アミロイドタンパク質、インスリン分解酵素(「IDE」)の発現に対するG+D、G+D+E又はG+D+E+Iとして併用投与したとき(4つのすべての分子について100nM)の4つのERβ選択的フィトエストロゲン様分子の影響を示すグラフである。
【図6】初代海馬ニューロンにおける棘マーカーであるスピノフィリンの発現に対するG+D、G+D+E又はG+D+E+Iとして併用投与したとき(4つのすべての分子について100nM)の4つのERβ選択的フィトエストロゲン様分子の影響を示すグラフである。
【図7A】ラット初代海馬ニューロンにおけるグルタミン酸塩誘発性神経毒性に対するG、D、E及びI単独並びに配合物:G+D、G+D+E又はG+D+E+Iの神経保護有効性を示すグラフである。
【図7B】ラット初代海馬ニューロンにおけるβアミロイド1〜42誘発性神経毒性に対するG、D、E及びI単独並びに配合物:G+D、G+D+E又はG+D+E+Iの神経保護有効性を示すグラフである。
【図7C】対照生/死細胞におけるβアミロイド1〜42誘発性神経毒性に対するG、D、E及びI単独並びに配合物:G+D、G+D+E又はG+D+E+Iの神経保護有効性を示すグラフである。
【図7D】死細胞におけるβアミロイド1〜42誘発性神経毒性に対するG、D、E及びI単独並びに配合物:G+D、G+D+E又はG+D+E+Iの神経保護有効性を示すグラフである。
【図8A】成体卵巣摘出ラット由来の海馬組織におけるネプリリシン(「NEP」)の発現に対するG、D、E及びI単独並びに配合物:G+D、G+D+E及びG+D+E+Iの影響を示すグラフである。
【図8B】成体卵巣摘出ラット由来の海馬組織におけるインスリン分解酵素(「IDE」)の発現に対するG、D、E及びI単独並びに配合物:G+D、G+D+E及びG+D+E+Iの影響を示すグラフである。
【図8C】成体卵巣摘出ラット由来の海馬組織におけるネプリリシン(「NEP」)の発現に対するG、D、E及びI単独並びに配合物:G+D、G+D+E及びG+D+E+Iの影響を示すグラフである。
【図9A】成体卵巣摘出ラットにおける前脳ミトコンドリアシトクロムcオキシダーゼ(COX)活性に対するG、G+D+E及びG+D+E+Iの影響を示すグラフである。
【図9B】成体卵巣摘出ラットにおける前脳ミトコンドリアシトクロムcオキシダーゼ(COX)活性に対するG、G+D+E及びG+D+E+Iの影響を示すグラフである。
【図9C】成体卵巣摘出ラットにおける前脳ミトコンドリアシトクロムcオキシダーゼ(COX)活性に対するG、G+D+E及びG+D+E+Iの影響を示すグラフである。
【図9D】成体卵巣摘出ラットにおける前脳ミトコンドリアシトクロムcオキシダーゼ(COX)活性に対するG、G+D+E及びG+D+E+Iの影響を示すグラフである。
【図9E】成体卵巣摘出ラットにおける前脳ミトコンドリアシトクロムcオキシダーゼ(COX)活性に対するG、G+D+E及びG+D+E+Iの影響を示すグラフである。
【図10A】成体卵巣摘出ラットにおける前脳ミトコンドリア呼吸活性の増加率に対するG、G+D+E及びG+D+E+Iの影響を示すグラフである。
【図10B】成体卵巣摘出ラットにおける前脳ミトコンドリア呼吸活性の増加率に対するG、G+D+E及びG+D+E+Iの影響を示すグラフである。
【図10C】成体卵巣摘出ラットにおける前脳ミトコンドリア呼吸活性の増加率に対するG、G+D+E及びG+D+E+Iの影響を示すグラフである。
【図10D】成体卵巣摘出ラットにおける前脳ミトコンドリア呼吸活性の増加率に対するG、G+D+E及びG+D+E+Iの影響を示すグラフである。
【図10E】成体卵巣摘出ラットにおける前脳ミトコンドリア呼吸活性の増加率に対するG、G+D+E及びG+D+E+Iの影響を示すグラフである。
【図11A】神経栄養及び神経保護の結果につながるエストロゲンの作用機序を示す概略図である。膜結合部位(mER)を介しての17−β−エストラジオール(E2)の作用が、ニューロン形成性、形態形成、神経組織発生及び神経の生存の増大につながる複数の反応に必要なカスケードを活性化する。膜部位においてE2により誘導されるシグナリングの順序は次の通りである:(1)mERへのE2の結合、(2)E2−mERがp85と複合してPI3Kを活性化する、(3)カルシウム非依存性PKCの活性化、(4)L型カルシウムチャンネルのリン酸化、(5)カルシウム流入の誘導、(6)カルシウム依存性PKCの活性化、(7)Srcキナーゼの活性化、(8)MEK/ERK1/2経路の活性化、(9)核へのERKの転位、(10)CREBの活性化及びリン酸化、(11)ミトコンドリアの活力を増強する抗アポトーシス遺伝子Bcl−2及びBcl−xl並びにシナプス成長を促進するスピノフィリンの転写の増大、(12)同時に、アポトーシス促進タンパク質BADをリン酸化し、阻害するAktの活性化をもたらすPI3Kのエストロゲン活性化。略語:AMPAR、AMPA受容体;C、シトクロムオキシダーゼ;F0、F1、ATPアーゼサブユニット;LTD、長期うつ病;LTP、長期相乗作用;NAD、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド;NADH、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド;VDCC、電位依存性カルシウムチャンネル。
【図11B】神経栄養及び神経保護の結果につながるエストロゲンの作用機序を示す概略図である。ミトコンドリアにおけるエストロゲン誘導性神経保護機構の有効範囲。エストロゲン活性化細胞シグナル伝達カスケードは、カルシウム負荷耐性の増大、電子伝達連鎖効率の増大及び抗酸化防御機構の促進をもたらすミトコンドリア機能の増強を促進する。これらの作用は、二次メッセンジャーシグナリングカスケードの活性化により開始される、核及びミトコンドリアをエンコードする遺伝子の調節により媒介される。略語:AMPAR、AMPA受容体;C、シトクロムオキシダーゼ;F0、F1、ATPアーゼサブユニット;LTD、長期うつ病;LTP、長期相乗作用;NAD、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド;NADH、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド;VDCC、電位依存性カルシウムチャンネル。
【図11C】神経栄養及び神経保護の結果につながるエストロゲンの作用機序を示す概略図である。NeuroSERM設計及び治療上の使用の概念図。エストロゲン恩恵仮説の健常細胞バイアスと一致して、選択的な分子は、ニューロンがまだ健常である間の神経変性傷害の前に投与される。NeuroSERM曝露は、アルツハイマー病及びパーキンソン病などの年齢に関連する疾患に関連する神経変性傷害に対する神経防御を促進するBcl−2付加によりミトコンドリアによって表される神経生存機構の増強をもたらすと思われる。デザイナーNeuroSERM分子はエストロゲン作用の膜部位を標的にするが、PhytoSERM分子はエストロゲン受容体βを優先的に標的にする。略語:AMPAR、AMPA受容体;C、シトクロムオキシダーゼ;F0、F1、ATPアーゼサブユニット;LTD、長期うつ病;LTP、長期相乗作用;NAD、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド;NADH、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド;VDCC、電位依存性カルシウムチャンネル。
【発明を実施するための形態】
【0020】
I.定義
「エストロゲン受容体」は、本明細書で用いるように、イソ型及びその変異型を含むが、これらに限定されない、エストロゲンに結合する核受容体遺伝子ファミリーにおけるタンパク質を意味する。ヒトエストロゲン受容体は、アルファ及びベータイソ型(本明細書では「ERα」及び「ERβ」と呼ぶ)を含む。
【0021】
「エストロゲン受容体モジュレーター」は、本明細書で用いるように、本明細書に記載するERα及び/又はERβトランス活性化検定を用いて測定したとき約50μM以下のERα、ERβ及び/又は他のエストロゲン受容体イソ型に対するIC50又はEC50を有するエストロゲン受容体又はエストロゲン受容体イソ型のエストロゲン受容体アゴニスト又は拮抗物質として作用することができる化合物を意味する。より一般的には、エストロゲン受容体モジュレーターは約10μM以下のIC50又はEC50値を有する(アゴニスト又は拮抗物質)。代表的な化合物は、エストロゲン受容体を介して作用又は拮抗活性を示すと予測される。化合物は、ERα及び/又はERβトランス活性化検定を用いて測定したとき、好ましくは約10μM、より好ましくは約500nM、より好ましくは約1nM、最も好ましくは500pMのERα及び/又はERβに対する拮抗物質又はアゴニストIC50又はEC50を示す。「IC50」は、標的(例えば、ERα又はERβ)の活性を最大レベルの半分に低下又は阻害する化合物の濃度である。「EC50」は最大効果の半分を提供する化合物の濃度である。
【0022】
「選択的エストロゲン受容体モジュレーター」(又は「SERM」)は、本明細書で用いるように、エストロゲン受容体(例えば、ERα、ERβ又は他のエストロゲン受容体イソ型)のアゴニスト又は拮抗物質としての活性を組織依存的又は受容体依存的に示す化合物を意味する。したがって、生化学、分子生物学及び内分泌学当該分野の当業者に明らかなように、SERMとして機能する化合物は、一部の組織、例えば、骨、脳及び/又は心血管においてエストロゲン受容体アゴニストとして、他の組織型、例えば、乳房及び/又は子宮組織において拮抗物質として作用することができる。
【0023】
「フィトエストロゲン」は、エストロゲンのように作用するか、又はエストロゲン受容体に結合するダイズなどの植物又は全穀粒などの植物産物の天然に存在する化合物を意味する。
【0024】
本明細書で用いるように、「NeuroSERM」という用語は、エストロゲンの作用の膜部位を標的とする化合物を意味する。
【0025】
本明細書で用いるように、「PhytoSERM」という用語は、エストロゲン受容体ベータを優先的に標的とする天然起源化合物を意味する。
【0026】
本明細書で用いるように、「類似体」という用語は、他のもの(基準化合物)と類似の構造を有するが、特定の成分、官能基、原子等に関して異なっている化合物を意味する。
【0027】
本明細書で用いるように、「誘導体」という用語は、化学反応によって親化合物から生成する化合物を意味する。
【0028】
II.組成物
1つ又は複数のフィトエストロゲンを含む組成物を本明細書で述べる。多くのフィトエストロゲンが分離され、同定され、すべてがエストロゲン受容体結合選択性を有するさらなる類似体が作製された。1つの実施形態において、ERβ結合選択性を有し、個別に投与するとき神経保護活性を示す2つ以上の植物由来エストロゲン様分子及び/又は構造類似体を含む組成物についてである。これらの組成物は、エストロゲン欠乏関連症状及び障害、特に年齢関連認知低下及びアルツハイマー病(「AD」)などの神経変性疾患を予防するのに有用である。
【0029】
A.PhytoSERM
本明細書で述べる組成物は、ERβに対して結合優先性を示す1つ又は複数のフィトエストロゲン又は天然起源選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)を含む。PhytoSERMは、実施例1で述べるように同定することができる。適切なphytoSERMは、ゲニステイン、ダイゼイン、エコール、IBSO03569及びその組合せを含むが、これらに限定されない。ゲニステイン、ダイゼイン、エコール及びIBSO03569の構造を図1に示す。その他のものは、表1に示す。好ましい化合物は、血液脳関門を通過する。
【0030】
実施例2により示すように、2つ以上のPhytoSERMの併用は、1つのPhytoSERMの投与より有効である。
【0031】
化合物は、無機又は有機酸から得られる塩の形で用いることができる。これらの塩は、次のもの、すなわち、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、クエン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、ショウノウ酸塩、ショウノウスルホン酸塩、ジグルコン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、グルコヘプタン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサマート(hexamate)、フマル酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2−ヒドロキシエタンスルホン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、2−ナフタレンスルファミン酸塩、シュウ酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、硫酸塩、3−フェニルプロピオン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩及びウンデカン酸塩を含むが、これらに限定されない。また、塩基性窒素含有基は、塩化、臭化及びヨウ化メチル、エチル、プロピル及びブチルのような低級ハロゲン化アルキル、硫酸ジメチル、ジエチル、ジブチル及びジアミルのような硫酸ジアルキル、塩化、臭化及びヨウ化デシル、ラウリル、ミリスチル及びステアリルのような長鎖ハロゲン化物、臭化ベンジル及びフェネチルのようなハロゲン化アラルキル等の作用物質により第四級化することができる。それにより、水溶性若しくは油溶性又は分散性生成物が得られる。
【0032】
薬学的に許容できる酸付加塩を生成させるために用いることができる酸の例としては、塩酸、硫酸及びリン酸のような無機酸、並びにシュウ酸、マレイン酸、コハク酸及びクエン酸のような有機酸が挙げられる。塩基性付加塩は、化合物の最終分離及び精製時にin situで、或いはカルボン酸部分を薬学的に許容できる金属陽イオンの水酸化物と、炭酸塩若しくは重炭酸塩のような適切な塩基と、又はアンモニアと、又は有機第一級、第二級若しくは第三級アミンと反応させることにより別個に調製することができる。薬学的に許容できる塩は、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム及びアルミニウム塩のようなアルカリ及びアルカリ土類金属に基づく陽イオン、並びにアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミン等を含むが、これらに限定されない無毒性アンモニウム、第四級アンモニウム及びアミン陽イオンを含むが、これらに限定されない。塩基付加塩の生成に有用な他の代表的な有機アミンとしては、ジエチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン及びピペラジンが挙げられる。
【0033】
化合物が血液脳関門を通過する助けとなる適切な担体を加えることができる。
【0034】
B.追加の活性物質
化合物は単独の活性薬剤として投与することができるが、それらを本明細書に記載する1つ又は複数の他の化合物と組み合わせて、かつ/又はエストロゲン受容体媒介性障害の治療及び/又は予防に用いられる他の作用物質と組み合わせて用いることもできる。或いは、持続的な治療及び予防効果を得るために、化合物をこのような1つ又は複数の作用物質とともに逐次的に投与することができる。適切な作用物質は、他のSERM並びに伝統的エストロゲンアゴニスト及びアンタゴニストを含むが、これらに限定されない。
【0035】
エストロゲン受容体媒介性障害の治療用の化合物との併用に有用な代表的な作用物質としては、例えば、タモキシフェン、4−ヒドロキシタモキシフェン、ラロキシフェン、トレミフェン、ドロロキシフェン、TAT−59、イドキシフェン、RU58,688、EM139、ICI164,384、ICI182,780、クロミフェン、MER−25、DES、ナフォキシデン、CP−336,156、GW5638、LY139481、LY353581、ズクロミフェン、エンクロミフェン、エタモキシトリフェトール、酢酸デルマジノン、ビスホスホン酸塩が挙げられる。1つ又は複数の化合物と併用することができる他の作用物質は、4−ヒドロキシムドロステネジオン、プロメスタン、エキゼメスタン、アミノグルエチミド、ログレチミド、ファドロゾール、ボロゾール、レトロゾール及びアナストロゾールのようなアロマターゼ阻害薬を含むが、これらに限定されない。
【0036】
本明細書に記載する化合物との併用に有用なさらに他の作用物質は、アルキル化剤、抗生物質、ホルモン抗腫瘍薬及び抗代謝薬のような抗腫瘍薬を含むが、これらに限定されない。例として、骨粗鬆症を治療又は予防するのに用いられる化合物が挙げられる。他の成分としては、ビタミン、栄養補助食品、抗酸化剤、補酵素等が挙げられる。
【0037】
追加の活性物質は、PHYSICIANS’ DESK REFERENCE (PDR) 第53版(2003年)に示されているような治療量、又は当業者に知られているような治療上有用な量で一般的に用いることができる。化合物及び他の治療上活性のある物質は、推奨最大臨床用量又はより低い用量で投与することができる。組成物中の活性化合物の用量は、投与経路、疾患の重症度及び患者の反応に応じて、所望の治療反応を得るために変化させることができる。併用投与は、別個の組成物として、又は両作用物質を含む単一剤形として行うことができる。併用投与するとき、治療薬を同時又は異なる時点に投与する別個の組成物として調合することができ、或いは治療薬を単一組成物として投与することができる。
【0038】
C.薬剤組成物
化合物は、経腸、経皮、経粘膜、鼻内又は非経口投与することができる。経口剤用賦形剤は、下で簡単に述べるように当業者に知られており、即時、持続、遅延又はパルス状放出を可能にするために用いることができる。化合物は、経皮パッチ、デポーを介して、ゲル剤、ローション剤、軟膏剤、リポソーム製剤、懸濁剤、泡剤、噴霧剤又は坐剤などの局所用担体を用いて膣又は直腸に、肺又は鼻腔経路により、口腔粘膜を介して頬又は舌下に投与することもできる。これらの製剤のすべてに対して適切な賦形剤が知られている。化合物は、生理食塩水、滅菌水若しくはリン酸緩衝生理食塩水、又はiv、im、皮下若しくはip注射用の適切な油に溶解又は懸濁することができる。
【0039】
薬学的に許容できる適切な賦形剤としては、例えば、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、単糖、二糖、デンプン、ゼラチン、セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、デキストロース、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、ポリビニルピロリドン、低融点ワックス及びイオン交換樹脂、並びにそれらのいずれか2つ以上の組合せのような加工剤並びに薬物送達モジュレーター及び促進剤が挙げられる。薬学的に許容できる他の適切な賦形剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、Mack Pub. Co.、New Jersey(1991年)に記載されている。
【0040】
エストロゲン受容体調節化合物を含む薬剤組成物は、例えば、液剤、懸濁剤又は乳剤などの意図する投与方法に適するあらゆる形態であってよい。液体担体は、一般的に液剤、懸濁剤及び乳剤を調製するのに用いられる。使用を考慮される液体担体としては、例えば、水、生理食塩水、薬学的に許容できる有機溶媒、薬学的に許容できる油又は脂肪、並びにその2つ以上の混合物が挙げられる。液体担体は、可溶化剤、乳化剤、栄養素、緩衝剤、保存剤、懸濁化剤、粘稠化剤、粘度調整剤又は安定化剤などの薬学的に許容できる他の適切な添加剤を含んでいてもよい。適切な有機溶媒としては、例えば、エタノールなどの一価アルコール及びグリコールなどの多価アルコールが挙げられる。適切な油としては、例えば、ダイズ油、ヤシ油、オリーブ油、ベニバナ油、綿実油が挙げられる。非経口投与について、担体はオレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピルのような油性エステルであってもよい。組成物は、微粒子、マイクロカプセル、リポソーム被包剤、並びにそのいずれか2つ以上の組合せの形態であってもよい。
【0041】
化合物は、従来の無毒性の薬学的に許容できる所望の担体、佐剤及び媒体を含む投与単位製剤で経口、非経口、舌下、吸入噴霧により、直腸、膣又は局所投与することができる。局所投与は、経皮パッチ又はイオン泳動器具のような経皮投与の使用も含んでいてよい。本明細書で用いるような非経口という用語は、皮下注射、静脈内、筋肉内、胸骨内注射、又は注入法を含む。
【0042】
注射用製剤、例えば、滅菌済み注射用水性又は油脂性懸濁剤は、適切な分散又は湿潤剤及び懸濁化剤を用いて既知の技術に従って調合することができる。滅菌済み注射用製剤は、例えば、1,3−プロパンジオール中溶液のような非経口で許容できる無毒性の希釈剤又は溶媒中滅菌済み注射用溶液又は懸濁液であってもよい。用いることができる許容できる媒体及び溶媒の主なものは、水、リンゲル液及び等張性塩化ナトリウム溶液である。さらに、滅菌済み固定油は、溶媒又は懸濁化媒体として通常用いられる。この目的のために、合成モノ又はジグリセリドなどのあらゆる刺激の少ない固定油を用いることができる。さらに、オレイン酸のような脂肪酸は、注射剤の調製に有用であり得る。
【0043】
薬物の直腸又は膣投与用の坐剤は、薬物を、常温で固体であるが、直腸温で液体であり、したがって、直腸内で融解し、薬物を放出するココアバター及びポリエチレングリコールのような適切な非刺激性賦形剤と混合することによって調製することができる。
【0044】
経口投与用の固形剤形は、カプセル剤、錠剤、丸剤、散剤及び顆粒剤などであってよい。そのような固形剤形において、活性化合物は、スクロース、ラクトース又はデンプンのような少なくとも1つの不活性希釈剤と混合してもよい。そのような剤形は、通常の慣行と同様に、不活性希釈剤以外の追加の物質、例えば、ステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤を含んでいてもよい。カプセル剤、錠剤及び丸剤の場合、剤形は緩衝剤を含んでいてもよい。錠剤及び丸剤は、さらに腸溶性コーティングを用いて調製することができる。
【0045】
経口投与用の液体剤形は、水のような当該分野で一般的に用いられている不活性希釈剤を含む、薬学的に許容できる乳剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤及びエリキシル剤を含んでいてよい。そのような組成物は、湿潤剤、乳化及び懸濁化剤、シクロデキストリン並びに甘味料、着香剤及び香料のような佐剤も含んでいてよい。
【0046】
化合物は、リポソームの形態で投与することもできる。当該分野で公知のように、リポソームは、一般的にリン脂質又は他の脂質物質から得られる。リポソームは、水性媒体中に分散している単又は多層状水和液晶により形成されている。リポソームを形成することができる無毒性で、生理学的に許容できる代謝性脂質を用いることができる。リポソームの形態の本発明の組成物は、化合物に加えて、安定化剤、保存剤、賦形剤を含んでいてよい。好ましい脂質は、天然及び合成のリン脂質及びホスファチジルコリン(レシチン)である。リポソームを生成させる方法は、当該分野で公知である(Prescott、1976年)。
【0047】
経皮パッチは、ニコチン、ニトログリセリン及び避妊薬の送達用のものがよく周知である。これらは、これらの製剤についても用いることができる。皮下又は腹腔内に埋め込まれるデポー剤は、避妊薬を送達する方法と同様に用いることもできる。
【0048】
III.投与の方法
化合物は、経腸、非経口、肺、鼻、粘膜及び他の局所投与経路を含む様々な方法で投与することができる。例えば、投与の適切な方式としては、経口、皮下、経皮、経粘膜、イオン泳動、静脈内、筋肉内、腹腔内、鼻内、硬膜下、直腸、膣及び吸入が挙げられる。
【0049】
ヒト又は動物患者におけるエストロゲン受容体媒介性障害を治療かつ/又は予防するために、有効な量の化合物又は組成物を投与する。エストロゲン受容体活性の調節は、対照と比較して、又は予測されるエストロゲン受容体活性と比較して、エストロゲン受容体活性の検出できる抑制又はアップレギュレーションをもたらす。化合物の有効な量は、本明細書に記載する検定法により、当業者に知られている他の活性検定法により、或いはエストロゲン受容体媒介性障害に罹患した患者における症状の予防及び/又は軽減を検出することにより、エストロゲン受容体活性を検出できるほどに調節するのに十分な量を含む。
【0050】
有効な量は、化合物を投与するときにも決定される。エストロゲン/ホルモン療法(ET/HT)は、女性における閉経過渡期(menopausal transition)に治療するときに、ADを発現するリスクの低下を伴った(Brinton R.D.、Impact of estrogen therapy on Alzheimer’s disease: a fork in the road?、CNS Drugs、2004年、第18巻、405〜422頁)。例えば、Cache County研究の結果は、閉経時にET/HTを受け、10年間継続した女性はADを発現するリスクが3分の1であることを示しているが、Zandiら、JAMA 2002年、第288巻、2123〜2129頁、Women’s Health Initiative Memory Studyからの最近のデータは、閉経期の後期に療法を開始する女性はADを発現する、より高いリスクを有することを示している(Espelandら、Women’s Health Initiative Memory Study、JAMA、2004年、第291巻、2959〜2968頁;Shumakerら、JAMA、2004年、第291巻、2947〜2958頁)。これらの臨床所見は、エストロゲン作用の健常細胞バイアスを示す、脳内のエストロゲン誘導性分子機構の基礎科学分析と一致している。
【0051】
治療することができるエストロゲン受容体媒介性障害は、エストロゲン受容体活性が関連付けられる、或いはエストロゲン受容体の阻害が、治療すべき疾患において特徴的に不完全である経路を介するシグナリングを増強又は遅らせる生物学的又は医学的障害を含む。状態又は障害は、異常なエストロゲン受容体活性により引き起こされ得るか、又は特徴付けられ得る。代表的なエストロゲン受容体媒介性障害としては、例えば、骨粗鬆症、アテローム動脈硬化症、エストロゲン媒介性癌(例えば、乳癌及び子宮内膜癌)、ターナー症候群、両性前立腺過形成(すなわち、前立腺肥大)、前立腺癌、コレステロール上昇、再狭窄、子宮内膜症、子宮平滑筋腫疾患、ほてり、並びに皮膚及び/又は膣萎縮が挙げられる。治療することができる他のエストロゲン受容体媒介性状態としては、記憶喪失及び認知症を含む神経疾患及び障害、並びにアルツハイマー病を含む神経変性疾患が挙げられる。
【0052】
一時的記憶に対するエストロゲンの潜在的に有益な作用に加えて、いくつかの証拠が、HTが認知症(ADを含む)及び軽度認知障害(MCI)のリスクを低下することを示唆している。MCIは、一部の人における正常認知と認知症との間の過渡的状態を示すと考えられる状態であり、MCIから認知症への転換率は毎年12%である。観察研究は、HTを受けた女性患者はHTを受けなかった女性患者と比較して認知症のリスクの30%の低下を享受することを繰返し実証している[オッズ比範囲、0.306(Yaffeら、1998年、JAMA、第279巻、688頁;Hogervorstら、2003年、Cochrane Database Syst Rev CD003122)]。したがって、観察研究は、生殖機能の減退は認知症の修正可能なリスクファクターであるか、或いはHT/ETは認知症を発現するリスクの一部からの保護の役割を果たすことを示唆している。
【0053】
いくつかの最近の観察研究で、HT/ETが開始される生殖の老化の段階が認知症のリスクを変化させることが確認された。これらの研究において、後期閉経過渡期又は閉経後早期にHT/ETを受ける女性はHT/ETをより遅く開始する女性より認知リスクを低くする(Zandiら、2002年、JAMA、第288巻、21239頁;Hendersonら、J Neurol Neurosurg Psychiatry、第76巻、103頁、2005年)。したがって、閉経に対するHT/ETを開始する時期は、観察研究とRCTとの間の別の状況での所見の不一致を説明する1つの因子であると提案された(Resnick及びHenderson、2002年、JAMA、第288巻、21702頁;Mansonら、2006年、Menopause、第13巻、139頁)。以下にレビューする最近の前臨床試験は、この報告におけるETの時期の重要性を強調している。
【0054】
患者の成功を収める治療は、エストロゲン受容体媒介性医学的又は生物学的障害に罹患した患者の症状の予防、低減又は軽減の誘導をもたらすことができる。したがって、例えば、治療は、乳房若しくは子宮内膜腫瘍及び/又はそのような癌に関連する様々な臨床マーカーの減少をもたらすことができる。アルツハイマー病の治療は、例えば、認知症の亢進の率の低下を測定することにより検出される疾患の進行の率の低下をもたらすことができる。
【0055】
歴史的に、生殖機能の減退は、女性に中年に発生する気分障害の発症に役割を果たさないという推定が存在していた。閉経過渡期におけるうつ病の症状も、一過性であり、臨床的影響がほとんどないと却下されるような軽微な重症度のものであると推定された。しかし、最近の試験は、これらの推定が不正確であることを示唆している。第一に、いくつかの地域社会に基づく縦断的研究で、閉経過渡期におけるうつ病とほてりとの相対的非依存性が報告された。すなわち、両方が生涯のこの段階で発生するが、うつ病はほてりによって全く引き起こされない(Avisら、2001年、Soc Sci Med、第52巻、345頁)。第二に、うつ病の既往歴を有さない女性を追跡した最近の縦断的研究で、後期閉経過渡期における初回発症うつ病のリスクの増大が示された(Schmidtら、2004年、Am J Psychiatry、第161巻、22384頁;Cohenら、2006年、Arch Gen Psychiatry、第63巻、385頁;Freemanら、2006年、Arch Gen Psychiatry、第61巻、62頁)。最後に、重症及び軽症うつ病は中年女性にとって臨床的に重要である。その理由は、両方が、中年女性の健康に関連性がある他のいくつかの医学的状態(例えば、心血管疾患、認知症及び代謝症候群)のリスクの増大を伴うからである(Wassertheil−Smollerら、2004年、Arch Intern Med、第164巻、289頁)。
【0056】
大多数の女性は閉経過渡期にうつ病を発現せず、したがって、生殖の老化はうつ病の症状又はうつ病の症候群と一様には関連しない。それにもかかわらず、多くの研究で閉経は女性におけるうつ病を発現するリスクの増大に関連しないと結論されたが、他のいくつかの縦断的な地域社会に基づく研究で、閉経過渡期とうつ病のリスクの増大との関連が報告された(Schmidt、2005年、Am J Med、第118巻、54頁)。実際、最近の5つの縦断的研究すべてにおいて、閉経過渡期におけるうつ病のリスクの増大が実証され、オッズ比は閉経前と比較して1.8〜2.9であった(Brombergerら、2001年、Am J Public Health、第91巻、14352頁;Freemanら、2004年、Arch Gen Psychiatry、第61巻、62頁、2006年、Arch Gen Psychiatry、第63巻、375頁;Schmidtら、2004年、Am J Psychiatry、第161巻、22384頁;Cohenら、2006年、Arch Gen Psychiatry、第63巻、385頁)。これらのデータは、最終月経期間にまつわる事象が一部の女性が臨床的に重要なうつ病を発現する素因をつくる可能性があることを示唆している。いくつかの要因がこれらの女性におけるうつ病を促進すると思われるが、うつ病が出現する閉経過渡期の段階(すなわち、後期)による内分泌事象が示唆された。後期過渡期は、エストラジオール分泌が増加する可能性がある初期周閉経期(early perimenopause)よりも長期にわたる性機能低下によって特徴付けられる。したがって、認められるうつ病の出現の時期は、周閉経期うつ病の病態生理における周閉経期に関連する内分泌機構(エストラジオール停止及び/又は長期にわたる性機能低下の最近の発症)を示唆する。
【0057】
うつ病の発症における卵巣ホルモン分泌の減退の潜在的役割を検討する努力において、周閉経期及び閉経後うつ病を有する女性におけるHT/ETの施行の気分に対する効果が検討された。エストラジオールの抗うつ有効性が、二重盲検プラセボ対照試験に参加するように無作為に割り付けられた重症及び軽症うつ病の標準化診断基準を満たした女性の3つの比較的最近のRCTにおいて検討された(Schmidtら、2000年;Soaresら、2001年、Arch Gen Psychiatry、第58巻、529頁;Morrisonら、2004年、Biol Psychiatry、第55巻、406頁)。周閉経期女性において、エストラジオールの短期投与(3週間)により、ベースライン及びプラセボ条件と比較してうつ病スコアを有意に低下させた。1つの試験において、治療著効又は有効反応がエストラジオール投与周閉経期女性の80%に認められたのに対して、プラセボ投与では22%に認められた(Schmidtら、2000年)。周閉経期うつ病におけるETの有効性は、気分に対するエストロゲンの効果を検討した試験(Zweifel及びO’Brien、1997年、Psychoneuroendocrinology、第22巻、189頁)の最近のメタ解析における観測効果サイズ(0.69)と一致している。エストラジオールに対する治療反応は、重症及び軽症うつ病並びにほてりを有する及び有さない女性で認められた。したがって、周閉経期うつ病におけるETの有効性は、ほてりの苦痛を低減するその能力の産物のみではない。周閉経期うつ病におけるこれらの試験と対照的に、同様の条件下でのエストラジオールの投与では、閉経後5年の、うつ病女性患者における気分の改善がなかった(Morrisonら、2004年)。したがって、うつ病におけるエストラジオールの効果は周閉経期女性に限られている可能性がある。さらに、認知症の経過に対するエストラジオールの潜在的効果と同様に、女性が示し、かつ/又はETを開始する生殖の老化の段階が、観察される結果を変化させる。
【0058】
要約すると、大多数の女性は閉経過渡期又はその後にうつ病を発現しない。それにもかかわらず、生殖状態及び気分をモニターした最近の前向き試験で、一部の女性について、周閉経期に関連する事象がうつ病の発症のリスクを増大させることが実証された。うつ病のこれらの症状の発現における卵巣機能の役割は、最終月経期に対するそれらの発症の時期と短期ETの抗うつ有効性により示唆される。
【0059】
単一剤形を製造するために担体材料と組み合わせることができる有効成分の量は、エストロゲン媒介性疾患、治療を受ける宿主及び個々の投与方法によって異なる。しかし、個々の患者に固有の用量レベルは、用いる個々の化合物の活性、年齢、体重、一般健康状態、性、食事、投与の時間、投与経路、排泄の速度、薬物併用及び治療を受ける個々の疾患の重症度などの様々な因子に依存することは理解されよう。所定の状況における予防上又は治療上有効な量は、常用の実験により容易に決定することができ、普通の臨床医の技術及び判断の範囲内にある。
【0060】
例示目的のための、予防上又は治療上有効な量は、通常、1回又は複数回で投与することができる、約0.01mg/kg/日から約100mg/kg/日、好ましくは約0.1mg/kg/日から約20mg/kg/日、また最も好ましくは約1mg/kg/日から約10mg/kg/日のエストロゲン受容体調節化合物である。
【0061】
IV.キット
キットは、投与する製剤を含むものを提供することができる。製剤は、1日1回又は1日複数回投与することができる。製剤は、経腸、非経口又は局所投与することができる。キットは、投与する活性物質(複数可)、賦形剤及び担体、並びに製剤の投与の指示書を一般的に含む。キットはまた、注射器などの製剤を投与するのに用いられる装置/用具を含み得る。
【0062】
本発明は、以下の非限定的実施例を参照することによってさらに理解されるであろう。
【実施例】
【0063】
(実施例1)
PhytoSERMの同定
ERβは、記憶機能及びニューロンの生存のエストロゲン誘発性増進に関連付けられた。ゲニステインと結合したヒトERβ LBDの最適化複合体構造に基づいて、植物ベースERβ選択的リガンドの存在を測定するために、天然起源化学データベースに対するコンピュータ援用の構造に基づく仮想スクリーニングを行った。データベーススクリーニングから得られた12の代表的ヒットを両ERに対するそれらの結合プロファイルについて評価したところ、そのうちの3つがERαに比べてERβに対する100倍以上の結合選択性を示した。
【0064】
材料及び方法
分子の同定
データベース中の化合物の同定
すべての計算作業は、IRIX6.5オペレーティングシステム(Silicon Graphic Inc.)を搭載したSGI Octaneワークステーションで実施した。最初に、ゲニステインと複合したヒトERβ LBDの3D結晶学的構造をProtein Data Bank(PDB ID:1QKM)からダウンロードした。複合体の構造をAccelrys分子モデリングソフトウエアパッケージInsightII 2000(Accelrys Inc.)により固定し、エネルギーを最小化した。約25000の植物ベースの天然分子又は誘導体を含む内部2D天然起源化学物質コレクションをAccelrysモデリングシフトウエアパッケージCatalyst9.8(Accelrys Inc.)を用いて3D多立体配座データベースに変換した。
【0065】
受容体ドッキング部位は、受容体におけるゲニステインの結合位置に基づいて定義し、ゲニステインの中心炭素の10Å以内のすべての原子と指定した。CCDC(Cambridge Crystallographic Data Center)により販売された自動化リガンドドッキングプログラムであるGOLD2.0(Genetic Optimization for Ligand Docking)を適用して、幾何学的及び化学的特徴に基づく、受容体結合部位とのそれらの相補性に基づいて計算し、分子をランク付けした。
【0066】
データベーススクリーニングの前に、ゲニステインを試験リガンドとして用いた最初のバリデーションを行った。バリデーション試験の目的は、当プログラムがこの試験における固有の標的システムに適用できるかどうかを判断するために、受容体におけるリガンドの実験的に観察された結合様式を明らかにすることに関するドッキングプログラムのアルゴリズムの有効性を評価することであった。さらに、バリデーション試験を用いて、後のデータベーススクリーニングのための最適のパラメーターの設定を決定した。仮想ライブラリスクリーニングのために最適化された最速デフォルト包括的アルゴリズムパラメーターを用いて、試験複合体について20のドッキング実験を行い、GoldScore適合関数を適用した。バリデーション試験により、GOLDは、指定のパラメーター設定に基づいて、結合に非常に重要な寄与水素結合ドナー(His475におけるND1)を捕捉し、実験的測定において認められたものとゲニステインの結合配向性及び立体配座に関するほぼ一致した解を再現するのに有効であったことが示された(図1)。観察された実験上の位置とGOLD解との間の二乗平均平方根(RMS)偏差を計算したところ、RMSDは最高順位及び最悪の解と比較してそれぞれ0.3299及び0.4483であった。すべての解の平均RMSDは0.3566であり、これは、プログラムディベロッパー(プログラムマニュアルと呼ぶ)により定義された主観的分類に基づき良好な予測とみなされ、このプログラムは、信頼でき、ERβに対するデータベーススクリーニングに適用できることが示唆される。
【0067】
バリデーション試験で決定されたパラメーター設定を用いて、3D天然起源化学物質データベースをインプットし、フレキシブルなドッキング法(完全リガンド及び部分タンパク質)で準備されたERβ結合部位にドッキングし、GoldScore適合関数に基づいて採点した。500種の得られた最高評点の分子を、InsightIIにおける受容体の状況の視覚スクリーニングにより選別した。視覚分析に基づいて、100種の分子が、GOLDによって予測された結合様式をより正確にするためのより複雑で、予測的なリガンドドッキングプログラムであるAffinityによるさらなる分析を受けた。検討に供する候補分子の選択に用いた基準は、次の通りであった。すなわち、(a)ドナー原子であるHis475におけるND1との水素結合の形成、(b)構造に出現する疎水性と親水性のバランス(例えば、受容体との立体的及び静電的相補性を増大させるために、分子は潜在的に2つの比較的親水性側面及び疎水性中心を有するべきである)、(c)受容体における分子の結合姿勢、及び(d)構造の多様性である。最後に、上の基準を満たしていた分子をそれらの薬物類似性(5のLipinskiの法則)及び血液脳関門(BBB)透過特性についてコンピュータにより予測した。
【0068】
ヒトERα及びERβのリガンド結合ドメインは、約60%相同である。構造モデリング及び突然変異分析は、リガンド結合ポケットに沿った2つの変異アミノ酸残基であるERαにおけるLeu384及びMet421(ERβにおけるそれぞれMet336及びIle373で置換される)がいずれかの受容体サブタイプに対する選択的リガンドの差別的結合の基礎にある重要な分子成分であることを示している(Sunら、Mol. Endocrinol.、2003年、第17巻、247〜258頁)。このわずかな構造の変動は、ER特異的リガンドの設計及び発見の基礎としての役割を果たしている。残基の両対の化学的特徴の類似性は、この差に基づいて選択的リガンドを発見するための実質的な難題である。既知の天然起源のERβ選択的リガンドのうち、ゲニステインは依然として最も選択的である。しかし、Katzellenebogenの施設で開発された化合物DPNによって明らかなように、ERβに対してゲニステインより大きい選択性を示すますます多くの合成化合物が出現しつつある。コンピュータ援用の構造に基づく仮想データベーススクリーニングは、ベンチでの検討に供するための多数の化合物からの主要な候補の小グループを合理的に強調するための効率のよいアプローチを提供する。
【0069】
結合親和力及び選択性の測定
データベーススクリーニングから得られた候補分子の結合親和力及び選択性は、精製バキュロウイルス発現ヒトERβ又はERα及び蛍光エストロゲンリガンドEL Red(PanVera Corp.)を用いて蛍光偏光競合結合検定により測定した。試験分子を検定緩衝液で2×濃度に連続希釈した(200μM〜200pM)。ERβ(30nM)又はERβ(60nM)とEL Red(2nM)のプレインキュベート済み2×複合体50μLを96ウエル非結合表面黒色マイクロプレート(Corning Life Sciences)の各ウエルに100μLの最終容積で加えた。ER及びEL Redを含む陰性対照(0%阻害に相当する)及び遊離EL Redのみを含む陽性対照(100%阻害に相当する)を含めた。室温で2時間のインキュベーションの後に、偏光値をTecan GENios Proリーダーを用いて535nm/590nm励起/放射で測定し、試験分子濃度の対数に対してプロットした。IC50値(ERからEL Redの半分を置換する試験分子の濃度)を非線型最小二乗分析を用いてプロットから決定した。
【0070】
結果
His475におけるND1と水素結合を形成することができる31種の分子を選択し、受容体とのファンデルワールス(VDW)定数(構造における環の数)及び静電相互作用(水素結合の数)に有利な化学的特徴に基づいて3つのカテゴリーに分類した。受容体との強いVDW相互作用を有するが、水素結合に寄与しない10分子をカテゴリーIVに分類した。これらの分子は、その構造における4つの環からなり、エストロゲン受容体に高い親和力で結合する内因性エストロゲンである17β−エストラジオールに認められるような受容体結合部位の中心との疎水性相互作用を促進する可能性があるそれらの構造に3又は4、5又は6員環を含む。
【0071】
表1にERα及びERβへの試験分子のIC50結合結果並びに4つのカテゴリーから選択された代表的分子の結合選択性を要約する。
【0072】
【表1】
予想通り、陰性対照ステロイドであるプロゲステロンは、いずれのERにも結合しない。陽性天然起源エストロゲン対照として、ゲニステインは、ERαに対するより47.2倍大きい結合選択性であるが、17β−エストラジオールの1/4の親和力でERβに結合することが認められた。試験した12種の分子のうち、5種の分子1、2、5、7及び8は、ERαよりERβに対して結合選択性を示し、そのうちの3種、すなわち2、5及び8が100倍以上の選択性を示した。予備的な構造と結合活性との関係の解析により、中心疎水性骨格構造及び結合した2つの極性「アーム」が両ERに対するリガンドの結合親和力に寄与していることが明らかになった。VDW接触の増大は、分子の中心の疎水性の特徴に主として由来する。例えば、桁が異なる結合親和力とよく相関するゲニステイン(−60.75)及び分子9(−58.04)に対する17β−エストラジオール(−67.98)のVDW値によって示されるように、環の数は受容体に対する分子の結合親和力を増加させる。それに対して、分子の2つの極性「アーム」に由来する水素結合は、結合に対しても必須である。分子4及び6によって示されるように水素結合の1つの「アーム」、又は10及び12によって示されるように水素結合の2つの「アーム」の欠如は、後2者の分子は受容体との強いVDW相互作用を引き起こすことができる(VDW値はそれぞれ−72.58及び−69.19)としても、非常に弱い結合又は全く結合しない原因となる。合成ERβ選択的アゴニストPPT(Staufferら、J. Med. Chem.、2000年、第43巻、4934〜4947頁)及び合成ERβ選択的アゴニストDPN(Meyersら、J. Med. Chem.、2001年、第44巻、4230〜4251頁)のモデリング複合体構造において示されているように、結合選択性に関して、また両ER(Zhaoら、2004年、Abstract Book;The Keystone Symposia:Nuclear Receptors:Steroid Sisters、Keystone、CO;2004年2月)に関して、分子3及び11によって示されているように、比較的、より大きい分子サイズはERαに対するよりもERβに対する結合選択性に有利である。
【0073】
これらの分析は、より活性かつ選択性のERサブタイプ選択的リガンドの将来の探索及び設計について明らかにする。さらに、データベース検索により得られた12種の代表的分子のうちの3種がERαに対するよりもERβに対して100倍以上の選択性を示したことから、ERβと優先的に相互作用する可能性のある分子の発見において本試験に適用したこのコンピュータ援用仮想スクリーニングアプローチの有効性が実証される。
【0074】
(実施例2)
神経変性の予防のためのERβ選択的PhytoSERM併用の前臨床確認
神経変性及びアルツハイマー病(AD)の予防に関連するニューロン生存及び分子/機能マーカーに対する単独又は併用投与したときのERb選択的PhytoSERMの影響を検討した。
【0075】
材料及び方法
17β−エストラジオールをSteraloids(Newport、RI)から購入した。ゲニステイン、ダイゼイン及びエコールをIndofine Chemical(Hillsborough、NJ)から購入した。IBSO03569をInterBioScreen(Moscow、Russia)から購入した。これらの化合物の構造を図1に示す。
【0076】
in vitro投与:試験化合物(又は組合せ)を最初に分析的に純粋なDMSO(10mM)に溶解し、投与直前にNeurobasal培地で作業濃度に希釈した。
【0077】
in vivo投与:試験化合物(又は組合せ)を最初に分析的に純粋なDMSOに溶解し、トウモロコシ油(950mlのトウモロコシ油中50mlのDMSO)で17β−エストラジオールについては100mg/ml、PhytoSERMについては10mg/mlの作業濃度に希釈した。
【0078】
in vitro検定
ERα結合検定
ERα受容体(約0.2mg/ml、Affinity Bioreagents)をpH7.4のリン酸緩衝生理食塩水(「PBS」)で約2×103mg/mlに希釈した。次いで、50μlのEPα−PBS溶液をフラッシュプレート(flashplate)の各ウエルに加えた。プレートを密封し、暗所に4℃で16〜18時間保存した。使用直前に緩衝受容体溶液を除去し、プレートをウエル当たり200μlのPBSで3回洗浄した。受容体がウエル表面から脱出することを避けるために、洗浄は一般的に試薬のウエルへの緩やかな分注により行った。
【0079】
ライブラリーのスクリーニングのために、20mM Tris−HCl、1mM EDTA、10%グリセロール、6mM モノチオグリセロール、5mM KCl、pH7.8中150μlの1nM 3H−エストラジオール(New England Nuclear、Boston、Mass)を50μlの試験化合物(同じ緩衝液中)と96ウエルマイクロタイタープレート中で混合して、0.6nMの最終エストラジオール濃度を得た。さらに、標準曲線を作製するために、1〜2nMのIC50を中央としたいくつかの希釈度のエストラジオールも個々のウエルに加えた。プレートを緩やかに振とうして試薬を混合した。ウエルのそれぞれから合計150μlをプレコートしたERαプレートの対応するウエルに加えた。プレートを密封し、ウエル中の成分を室温で4時間又は4℃で一夜インキュベートした。インキュベーション後にリガンドに結合した受容体をシンチレーションカウンターを用いて直接読み取った。受容体に結合したリガンドの量を直接、すなわち、遊離のリガンドから結合したものを分離せずに測定した。結合及び遊離リガンドの推定が必要な場合には、上清をウエルから除去し、シンチレーション液を加え、ウエルを液体シンチレーションカウンターで別個にカウントした。
【0080】
ERβ結合検定
ERβ受容体(約0.2mg/ml、Affinity Bioreagents)をpH7.4のリン酸緩衝生理食塩水(「PBS」)で約2×103mg/mlに希釈した。次いで、50μlのERβ−PBS溶液をフラッシュプレート(flashplate)の各ウエルに加えた。プレートを密封し、暗所に4℃で16〜18時間保存した。使用直前に緩衝受容体溶液を除去し、プレートをウエル当たり200μlのPBSで3回洗浄した。受容体がウエル表面から脱出することを避けるために、洗浄は一般的に試薬のウエルへの緩やかな分注により行った。
【0081】
ライブラリーのスクリーニングのために、20mM Tris−HCl、1mM EDTA、10%グリセロール、6mM モノチオグリセロール、5mM KCl、pH7.8中150μlの1nM 3H−エストラジオール(New England Nuclear、Boston、Mass)を50μlの試験化合物(同じ緩衝液中)と96ウエルマイクロタイタープレート中で混合して、0.6nMの最終エストラジオール濃度を得た。さらに、標準曲線を作製するために、1〜2nMのIC50を中央としたいくつかの希釈度のエストラジオールも個々のウエルに加えた。プレートを緩やかに振とうして試薬を混合した。ウエルのそれぞれから合計150μlをプレコートしたERβプレートの対応するウエルに加えた。プレートを密封し、ウエル中の成分を室温で4時間又は4℃で一晩インキュベートした。インキュベーション後に受容体に結合したリガンドをシンチレーションカウンターを用いて直接読み取った。リガンドに結合した受容体の量を直接、すなわち、遊離のリガンドから結合したものを分離せずに測定した。結合及び遊離リガンドの推定が必要な場合には、上清をウエルから除去し、シンチレーション液を加え、ウエルを液体シンチレーションカウンターで別個にカウントした。
【0082】
ERα/ERβトランス活性化検定
トランスフェクトCHO細胞の構築
トランスフェクトCHO細胞は、American Type Culture Collection(「ATCC」、Rockville、Md.)から入手したCHO KI細胞から得た。トランスフェクト細胞を次の4つのプラスミドベクターを含むように修飾した。(1)ヒトエストロゲン受容体のDNAを含むpKCRE、(2)ネオマイシン耐性をもたらすタンパク質のDNAを含むpAG−60−neo、(3)ラットオキシトシンプロモーター及びホタルルシフェラーゼタンパク質のDNAを含むpRO−LUC及び(4)ハイグロマイシン耐性をもたらすタンパク質のDNAを含むpDR2。これらの遺伝学的に修飾されたCHO細胞を用いたすべての形質転換は、COGEM(Commissie Genetische Modificatie)のガイドラインに従ってrec−VMT包含のもとに実施する。スクリーニングは、エストラジオールの非存在下(発情原性)又はエストラジオールの存在下(非発情原性)で実施する。
【0083】
ニューロン機能を評価するための検定
ニューロン培養の調製
海馬ニューロンの初代培養を胎生18日目(E18d)ラット胎児から得た。簡単に述べると、ラット胎児の脳から切り離した後、海馬をハンクスの平衡塩類溶液(137mM NaCl、5.4mM KCl、0.4mM KH2PO4、0.34mM Na2HPO4.7H2O、10mMグルコース及び10mM HEPES)中0.02%トリプシンで37℃で5分間処理し、先端熱加工パスツールピペットに繰返し通して解離させた。形態分析のために2×104から4×104個の細胞を蓋付き35mmペトリ皿中のポリ−D−リシン(10μg/ml)被覆22mmカバーガラス上で平板培養し、生化学的分析のために1×105個/mlの細胞を96ウエル培養プレートのポリ−D−リシン被覆24ウエル上、又は3〜5×105個/mlの細胞を0.1%ポリエチレンイミン被覆60mmペトリ皿上で平板培養した。神経細胞は、最初の3日間は加湿10%CO2大気中で37℃でB27、5U/mlペニシリン、5μg/mlストレプトマイシン、0.5mMグルタミン及び25μMグルタミン酸塩を添加したフェノールレッド不含有Neurobasal培地(NBM、Invitrogen Corporation、Carlsbad、CA)中37℃で、その後はグルタミン酸塩を含まないNBM中で成長させた。血清不含有Neurobasal培地中で成長させた培養は、約99.5%のニューロンと0.5%のグリア細胞を生む。
【0084】
神経保護の測定
グルタミン酸塩曝露
初代海馬ニューロンを化合物で48時間前処理した後、100mM NaCl、2.0mM KCl、2.5mM CaCl2、1.0mM MgSO4、1.0mM NaH2PO4、4.2mnM NaHCO3、10.0mMグルコース及び12.5mnM T−LEPESを含むHEPES緩衝液中で室温で5分間100μMグルタミン酸塩に曝露させた。グルタミン酸塩への曝露後直ちに、培養をHEPES緩衝液で1回洗浄し、試験化合物を含む新たなNeurobasal培地と交換した。培養を培養インキュベータに戻し、翌日に細胞生存能を測定する前に24時間インキュベートした。
【0085】
ウエスタンイムノブロッティング
CREBリン酸化
核溶解物を次のように調製した。簡単に説明すると、ポリ−D−リシン被覆培養皿上で成長させた海馬ニューロンを化合物で適切な期間処理し、冷PBSで1回洗浄し、1mlのPBS中にこすり落とした。次いで、細胞を5000rpmで5分間遠心分離し、ペレットを細胞質抽出緩衝液(10mM HEPES、1mM EDTA、60mM KCl、0.075%Igepal並びにプロテアーゼ及びホスファターゼ阻害剤カクテル)に溶解し、200μlピペットチップに通して懸濁した。4℃で30〜45rpmでのインキュベーションの後、試料を5000rpmで5分間遠心分離して、上清中細胞質抽出物を得た。上清細胞質抽出物を除去し、核抽出緩衝液(20mM TrisHCl、1.5mM MgCl2、420mM NaCl、0.2mM EDTA、25%グリセロール、0.5%Igepal並びにプロテアーゼ及びホスファターゼ阻害剤カクテル)をペレットに加えた後、5MNaClを加えて核膜を破壊した。4℃で30〜45rpmでのインキュベーションの後、試料を12000rpmで10分間遠心分離して、核抽出物を含む上清を得た。
【0086】
BCA法によりタンパク質濃度を測定した。適切な容積の2×試料緩衝液をタンパク質試料に加え、試料を95℃で5分間沸騰させた。試料(ウエル当たり25μgタンパク質)を10%SDS PAGEゲル上に加え、90Vでの標準的電気泳動により分離した。次いで、タンパク質を4℃で32Vで一夜電気泳動によりImmobilon−P PVDF膜に転移させた。膜を0.05% Tween20を含むPBS(PBS−T)中10%乾燥脱脂粉乳中で室温で1時間ブロックし、ホスホ−CREB(pSER133、マウスモノクローナル、1:2000;Cell Signaling Technology、Beverly、MA)、CREB(ウサギポリクローナル、1:1000;Cell Signaling Technology、Beverly、MA)、スピノフィリン(ウサギポリクローナル、1:1000;Upstate Biotecholagy、Lake Placid、NY)、アクチン(マウスモノクローナル、1:1000;Santa Cruz Biotechnology,Inc.、Santa Cruz、CA)又はヒストンH1(マウスモノクローナル、1:250;Santa Cruz Biotechnology,Inc.、Santa Cruz、CA)に対する適切な一次抗体とともに抗体供給業者により指定された温度及び時間でインキュベートした。すべての一次抗体を1%ウマ血清(マウスモノクローナル抗体用)又はヤギ血清(ウサギポリクローナル用)を含むPBS−Tに溶解した。PBS−Tで洗浄した後、膜を、1%ウマ血清を含むPBS−T中西洋ワサビペルオキシダーゼ結合抗マウスIgG(1:5000;Vector Laboratories,Inc.、Burlingame、CA)又は1%ヤギ血清を含むPBS−T中抗ウサギIgG(1:5000;Vector Laboratories,Inc.、Burlingame、CA)とともに1時間インキュベートした。免疫反応性バンドをTMI3検出キット(Vector Laboratories,Inc.、Burlingame、CA)により可視化し、Un−Scan−Itゲル画像ソフトウエア(Silk Scientific,Inc.、Orem、UT)を用いて定量した。転移後、等タンパク質ローディングを保証するためにゲルをクーマシーブルー(Bio−rad Laboratories、Hercules、CA)で染色した。
【0087】
Bcl−2及びBcl−xlの発現
PBS中0.005% SDS、0.1% Igepal、0.2mMオルトバナジン酸ナトリウム、0.2mMフッ化フェニルメチルスルホニル及びプロテアーゼ阻害剤混合物を含む氷冷溶解緩衝液中で細胞を4℃で45分間インキュベートすることにより溶解する前に、初代海馬ニューロンを化合物で48時間前処理した。細胞溶解物を10000rpmで4℃で10分間遠心分離し、上清中のタンパク質の濃度をBCA Protein Asaay(Pierce Biotechnology,Inc.、Rockford、IL)を用いて測定した。25μgの総タンパク質を試料緩衝液を含む15μlの2×SDSで希釈し、水で最終容積を30μlとした。95〜100℃の熱板上で5分間変性した後、1レーン当たり25μlの混合物を10% SDS−ポリアクリルアミドミニゲル上に載せた後、90Vで電気泳動した。次いで、タンパク質をゲルからポリジフッ化ビニリデン膜(Millipore Corp.、Bedford、MA)に電気転移した。非特異的結合部位を0.05% Tween(商標)−20を含むPBS(PBS−Tween(商標))中5%乾燥脱脂粉乳でブロックした。膜を、1%ウマ血清を含むPBS−Tween(商標)(Vector Laboratories,Inc.、Burlingame、CA)で1:250に希釈したBcl−2(Zymed Laboratories,Inc.、S.San Francisco、CA)に対する一次モノクローナル抗体とともに4℃で一夜インキュベートし、次いで、1%ウマ血清を含むPBS−Tween(商標)で1:5000に希釈した二次西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合ウマ抗マウスIgG(Vector Laboratories,Inc.、Burlingame、CA)とともに室温で2時間インキュベートし、ペルオキシダーゼのTMB基質(Vector Laboratories,Inc.、Burlingame、CA)で膜を顕色化してBcl−2タンパク質を可視化した。β−アクチン(Santa Cruz Biotechnology,Inc.、Santa Cruz、CA)レベルを測定して等タンパク質ローディングを確認し、高範囲Precision Protein Standards(Bio−Rad Laboratories、Hercules、CA)を用いてタンパク質サイズを測定した。画像デジタル化ソフトウエアUn−Scan−Tt version5.1(Silk Scientific,Inc.、Orem、UT)を用いた光学密度分析により、バンドの相対強度を定量化した。
【0088】
統計処理
群間の統計的に有意な差は、一元配置分散分析(ANOVA)と続くNewman−Keuls事後解析により判定した。
【0089】
in vivo検定
発情原性、抗発情原性に関する未熟ラット子宮栄養バイオアッセイ
抗エストロゲン様活性は、1日当たり0.2μgの17−β−エストラジオール(「E2」)の投与に起因する子宮湿重量の増加を抑制する試験化合物の能力により測定した。E2対照群と比較して特定の投与群における子宮重量の統計的に有意な低下は、抗発情原性を示唆する。
【0090】
体重範囲が35〜50gの140匹の雌子動物(19日齢)を試験のために選択した。子動物の体重が約35〜50gであった19日齢時に、子動物を投与子動物に体重順序無作為化した。死亡、罹病、飼料及び水の利用性、一般的外観及び毒性徴候に関する観察を1日2回行った。試験に用いなかった子動物は、哺育母動物とともに安楽死させた。初期体重は、19日齢時の投与の開始直前に測定した。最終体重は、22日齢時の剖検時に測定した。
【0091】
投与は19日齢時に開始し、20日齢及び21日齢まで継続した。各動物に3日間連日1日3回の皮下(「sc」)注射した。対照及び中から高レベル用量試験群のそれぞれにおける3匹のラットをケタミン/キシラジン混合物で麻酔した。22ゲージ針と10USPヘパリンナトリウム/mlでフラッシュした5ml注射器を用いて下行大静脈を経て放血することにより、ラットの血液を採取し、次いで、5mlの上部が緑色の血漿チューブ(ヘパリンナトリウム(凍結乾燥)、72USP単位)に移した。遠心分離により血漿試料を採取し、−70℃で凍結し、質量分析を用いて分析して、血清中の試験化合物の存在及び量を測定した。血液化学も分析して、他の血液パラメーターを測定した。ラットの子宮を摘出し、重量を測定した。残りのラットは、CO2中での窒息により屠殺した。これらのラットの子宮を摘出し、傷をつくり、液体を拭って除去し、重量を0.1mgまで測定した。
【0092】
試験化合物が最終体重に有意に影響を及ぼすかどうかを判断するために、パラメトリック一元配置分散分析(ANOVA)を行った(SIGMASTATversion2.0、Jandel Scientific、San Rafael、Califにより市販されている)。log10変換データについてパラメトリックANOVAを用いて投与群にわたり子宮湿重量を比較して、エストロゲン作用及び拮抗活性を評価した。パラメトリックAWQVAの正規性及び分散に均一性の仮定を満たすように、データを変換した。F値を求め、Student−Newman−Kuelの多重範囲(multiple range)検定を行って、投与群間の有意差の存在を判断した。試験化合物が17−β−エストラジオール刺激性子宮栄養反応を完全に抑制しない場合、試験化合物は混合エストロゲンアゴニスト/拮抗物質として作用すると判断される。
【0093】
動物の使用は、南カリフォルニア大学(University of Southern California)の施設内動物管理使用委員会により承認された(プロトコール番号:10780)。胎生18日目にSprague−Dawleyラット(Harlan、Indianapolis、IN)胎児を用いて、in vitro実験用の初代海馬ニューロン培養を得た。若齢成体(14〜16週齢、体重270〜290g)雌卵巣摘出Sprague−Dawleyラット(Harlan)をin vivo実験に用いた。
【0094】
in vitro神経保護及び関連機械学的(mechanistic)試験を胎生18日目ラット胎児から得た初代海馬ニューロンについて行った。成体雌卵巣摘出ラットを用いて、in vitro所見をin vivo環境、並びに脳ミトコンドリア機能及び子宮重量に対するPhytoSERMの影響の評価と関連付けた。
【0095】
卵巣摘出術後の2週間の手術回復期間中、投与の前に、ラットをphytoSERM減飼料TD96155(Harlan Teklad)を与えて飼育した。ラットに1日1回、媒体(対照)、17β−エストラジオール(70μg/kgBW)、ゲニステイン(6mg/kgBW)又はphytoSERM配合物(6mg/kgBW)を計2回皮下注射した。ここで用いた用量は、ヒトに用いられるものと同じである。
【0096】
2回目の注射後に、屠殺及び脳切開の前に動物を24時間絶食させた。海馬及び皮質組織を1半球から採取し、生化学的分析に備えて保存した。小脳を含まない残りの脳組織、松果体及び脳幹をミトコンドリアの分離のために用い、その後直ちにミトコンドリアの呼吸活性の測定を行った。ミトコンドリア試料の残りをシトクロムcオキシダーゼ活性の測定のために保存した。子宮を摘出し、脂肪及び結合組織から切り離し、湿及び乾燥重量を記録した。
【0097】
結果
試験したPhytoSERMを図1に示す。
【0098】
ERβ及びERαに対する選択的結合
図2にERβ及びERαに対する4つの既知ERリガンドの競合結合曲線を示す。結合曲線からこれらのリガンドについて決定されたIC50は、ラジオリガンドアッセイのような代替法を用いて以前に報告された値と一致しており、両ERへの小分子の結合プロファイルの測定におけるこの検定法の信頼性が実証された。
【0099】
図2A及び2BにERα及びERβに対する競合結合曲線を示す。データは、全長ヒトERα及びERβを用いて蛍光偏光に基づく競合結合検定法により取得し、試験化合物(又は配合物)の連続希釈濃度の対数に対してプロットした。プロゲステロンを陰性対照とした。17β−エストラジオールを陽性対照とした。配合製剤は、等モルの含めた個々のphytoSERMから構成されていた。G:ゲニステイン;D:ダイゼイン;E:エコール;I:IBSO03569。17β−エストラジオールは、ERα又はERβに対する結合優先性を有さない。偏光の最大変化の半分をもたらす試験分子の濃度は、そのIC50に等しい。用量範囲内で非収束であることは、いずれかの分子が受容体に結合しないか、又は結合親和力が非常に低いことの予測となる。
【0100】
表2にERα及びERβに対する結合データを示す。
【0101】
【表2】
神経保護効果
表3及び図3にLDH放出の測定による、初代海馬ニューロンにおける超生理学的グルタミン酸塩(100μM)誘発性神経毒性に対する4種のERβ選択的フィトエストロゲン様分子の用量依存的神経保護効果を示す。##P<0.01媒体単独処理培養との比較;*P<0.05及び**P<0.01グルタミン酸塩単独処理培養との比較。
【0102】
【表3A】
【0103】
【表3B】
図3にカルセインAM染色の測定による、初代海馬ニューロンにおける超生理学的グルタミン酸塩(100μM)誘発性神経毒性に対する用量反応分析から明らかにされた最大神経保護効果をもたらした濃度(4分子すべてについて100nM)で単独投与又は併用投与したときの4つのERβ選択的フィトエストロゲン様分子の神経保護効果を示す。結果は、神経保護有効性によって示す。
【0104】
NE=(Vtreatment−Vglutamate)/(Vcontrol−Vglutamate)×100% (1)
ここで、Vtreatmentはフィトエストロゲン処理培養からの個々の値であり、Vglutamateはグルタミン酸塩単独処理培養からの平均値であり、Vcontrolは媒体処理対照培養からの平均値である。##P<0.01媒体単独処理培養との比較;*P<0.05及び**P<0.01グルタミン酸塩単独処理培養との比較。
【0105】
図3及び表3に示すデータは、4つのERβ選択的フィトエストロゲン様分子は、個別に投与するとき、濃度依存的であり、初代ニューロンにおける興奮毒性グルタミン酸塩誘発性神経毒性に対して保護をもたらすが、これらの効果は、中等度であり、内因性エストロゲン17β−エストラジオール(E2)と比較してエストロゲン受容体に対する弱い結合により生じる。図3にこれらのフィトエストロゲンの3つ又は4つの併用投与が1つのフィトエストロゲンの投与又は2つのフィトエストロゲンの併用投与と比較してはるかに大きい神経保護効果をもたらしたことを示している。
【0106】
抗アポトーシスタンパク質Bcl−2及びBcl−xLの発現
これらの結果は、初代ニューロンにおける抗アポトーシスタンパク質Bcl−2及びBcl−xLの発現のウエスタン分析から得られた結果と類似している。図4A〜4Bに成体卵巣摘出ラットから得られたラット初代海馬ニューロン及び海馬組織におけるBcl−2及びBcl−XLの発現に対する影響を示す。7分裂にわたり成長させた初代海馬ニューロンを試験化合物(又は配合物)で48時間処理した後、ウエスタンブロット分析を行った。成体卵巣摘出ラットに1日1回、試験化合物(又は配合物)を計2回の皮下注射により投与した。2回目の注射の24時間後にラットを屠殺した。海馬組織をホモジナイズした後、ウエスタンブロット分析を行った。配合製剤は、(A)における等モル及び(B)における等重量のG:ゲニステイン;D:ダイゼイン;E:エコール;及びI:IBSO03569を含む個別のphytoSERMから構成されていた。
【0107】
ニューロンを4つのフィトエストロゲンの配合物とともに48時間インキュベートすることにより、E2によって誘発されたものと同等の両タンパク質の発現の有意な増大が誘発された。これは、初代海馬ニューロンにおける抗アポトーシスタンパク質Bcl−2及びBcl−xLの発現に対する併用投与したときの4つのERβ選択的フィトエストロゲン様分子(4つのすべての分子について100nM)の影響を示す図4に示す。**P<0.01媒体単独処理培養との比較。比較すると、2つのフィトエストロゲンの併用は、図4A及び図4Bにも示すように、両タンパク質の発現の有意な増大をもたらすには十分ではなかった。
【0108】
Bcl−2ファミリー抗アポトーシスタンパク質のアップレギュレーションは、E2によって誘発される神経保護機構に関連していた。これらのデータは、複数のERβ選択的フィトエストロゲンの併用は神経変性傷害に対してのニューロンの生存の改善をもたらす神経保護機構を活性化するために有効であることを示している。エストロゲン受容体とp85/PI3Kとの相互作用も、Bcl−2とのヘテロ二量体化及びBcl−2の不活性化を妨げるためにアポトーシス促進タンパク質Bcl−2関連死タンパク質(BAD)をリン酸化するpAktを増大させる。皮質ニューロンにおいて、エストラジオールは核へのpAktの転位を誘発した。最近の分析は、エストラジオールがPI3Kシグナリング経路を介して皮質及び海馬ニューロンの同じ集団におけるAkt及びERK1/2カスケードを活性化することを示している。ミトコンドリアが細胞死カスケードを活性化することを妨げる2つの経路の同時の活性化は、ニューロンの生存を促進する可能性がある。
【0109】
抗β−アミロイドタンパク質IDEの発現の増大
図5に初代海馬ニューロンにおける抗β−アミロイドタンパク質、インスリン分解酵素(「IDE」)の発現に対する併用投与したとき(4つのすべての分子について100nM)の4つのERβ選択的フィトエストロゲン様分子の影響を示す。**P<0.01媒体単独処理培養との比較。図5に初代ニューロンにおける抗β−アミロイド(抗−Aβ)タンパク質、インスリン分解酵素(IDE)の発現に対する、E2をともなうフィトエストロゲンのこれらの様々な併用影響を示す。データは、2つ、3つ又は4つのフィトエストロゲンからなる3種の併用のすべてがニューロンにおけるIDE発現を有意に増大させたことを示した。それらのうち、3つのフィトエストロゲンの併用は、最大のニューロン反応を誘発し、有効性はE2並びに2つのフィトエストロゲンの併用より大きかった。
【0110】
ADの1つの神経病理学的特徴は、Aβプラークと呼ばれる細胞外Aβペプチドの有意な沈着であることは明らかである。Aβクリアランス及び/又は分解の障害がAD脳におけるAβプラークの形成に一部寄与していることが示された。インスリン及びいくつかの調節ペプチドを分解することのほかに、メタロプロテアーゼ酵素であるIDEは、脳内のAβペプチド単量体の分解に重要な役割を果たしていることが示された。IDEの慢性的なアップレギュレーションは、脳内の定常状態Aβレベルを低下させ、アルツハイマー型病状の発生を最終的に予防することに対する新規な有効な治療アプローチである。したがって、これらのデータは、複数のERβ選択的フィトエストロゲンの併用投与は抗Aβ機構を活性化し、結果として、脳を長期の健康な状態に維持する可能性を有することを示している。
【0111】
スピノフィリンのアップレギュレーション
図6に初代海馬ニューロンにおける棘マーカーであるスピノフィリンの発現に対する併用投与したとき(4つのすべての分子について100nM)の4つのERβ選択的フィトエストロゲン様分子の影響を示す。**P<0.01媒体単独処理培養との比較。ニューロン樹状突起棘の頭部に濃縮されているタンパク質であるスピノフィリンは、樹状突起の形態及びグルタミン酸作動性シナプス活性の調節に重要な役割を果たすことが示された。スピノフィリンのアップレギュレーションは、ニューロンシナプスの形成性のエストロゲン調節と相関付けられた。したがって、これらの結果は、これらのフィトエストロゲンの併用が神経栄養を促進させ、それにより、脳がシナプスにおいて活性な状態に留まることを持続させ、認知低下及び記憶喪失を予防するのに有効であることを示している。
【0112】
グルタミン酸塩に対する神経保護
図7A〜7Dにラット初代海馬ニューロンにおけるグルタミン酸塩(図7A)及びアミロイド1−42誘発性神経毒性に対する化合物の神経保護効果を示す。7分裂にわたり成長させた初代海馬ニューロンを試験化合物(又は配合物)で48時間前処理した後、100mMグルタミン酸塩に5分間曝露させた。カルセインAM染色によりニューロンの生存能を分析する前に、ニューロンをさらに24時間インキュベートした。試験化合物(又は配合物)で48時間前処理した後、ニューロンを3mM β−アミロイド1−42に2日間曝露させた。ニューロンの生存能は、培地中に放出されたLDH及び死細胞プロテアーゼ並びに完全な生存ニューロンにもっぱら入る生細胞プロテアーゼの活性の蛍光定量測定によって分析した。
【0113】
結果は、試験化合物(又は配合物)により予防され、式によって定量化された神経毒誘発性毒性のパーセントと定義される神経保護有効性(NE)として示す。
【0114】
NE=(Vtreatment−Vneurotoxin)/(Vcontrol−Vneurotoxin)×100%
ここで、Vtreatmentは試験化合物(又は配合物)処理培養からの個々の値であり、Vneurotoxinはグルタミン酸塩又はβ−アミロイド1−42単独処理培養からの平均値であり、Vcontrolは媒体処理対照培養からの平均値である。##P<0.01は媒体処理対照培養との比較;*P<0.05及び**P<0.01はグルタミン酸塩又はβ−アミロイド1−42単独処理培養との比較;δP<0.05はE2処理培養との比較;ζP<0.05はゲニステイン処理培養との比較;ΨP<0.05及びΨΨP<0.01は配合物(G+D)処理培養との比較;ΦP<0.05は配合物(G+D+E+I)処理培養との比較。配合製剤は、等モルの含めた個々のphytoSERMから構成されていた。G:ゲニステイン;D:ダイゼイン;E:エコール;I:IBSO03569。
【0115】
IDE/NEP発現に対する影響
図8A〜8Cに成体卵巣摘出ラットから得られた(A)ラット初代海馬ニューロン及び(B)海馬組織におけるインスリン分解酵素(IDE)/ネプリリシン(NEP)発現に対する影響を示す。(A)7DIVにわたり成長させた初代海馬ニューロンを試験化合物(又は配合物)で48時間処理した後、ウエスタンブロット分析を行った。(B)成体卵巣摘出ラットに1日1回、試験化合物(又は配合物)を計2回の皮下注射により投与した。2回目の注射の24時間後にラットを屠殺した。海馬組織をホモジナイズした後、ウエスタンブロット分析を行った。結果は、タンパク質発現の増加倍率として示し、対照のパーセント、n≧4として表す。*P<0.05及び**P<0.01は媒体処理対照培養又は動物との比較;δP<0.05及びδδP<0.01はE2処理培養との比較;ΨΨP<0.01は配合物(G+D)又はゲニステイン処理培養との比較;ΦP<0.05は配合物(G+D+E+I)処理培養との比較。配合製剤は、(A)における等モル及び(B)における等重量のG:ゲニステイン;D:ダイゼイン;E:エコール;及びI:IBSO03569を含む個別のphytoSERMから構成されていた。
【0116】
前脳ミトコンドリアに対する影響
図9A〜9Eに成体卵巣摘出ラットにおける前脳ミトコンドリアシトクロムcオキシダーゼ(COX)活性に対する影響を示す。ラットに1日1回、試験化合物(又は配合物)を計2回の皮下注射により投与した。2回目の注射の24時間後にラットを屠殺した。前脳ミトコンドリアを分離した後、免疫捕獲法を用いてCOX活性の分光光度測定を行った。550nmにおける比色吸光度を115分間にわたり5分ごとに記録した。COX活性は、還元シトクロムcの酸化の初期速度として示し、直線範囲内の2時点間(<20分)の初期勾配を計算して求めた。(上パネル)吸光度の経時変化;(下パネル)ミトコンドリアCOX活性の増加%、n≧4;*P<0.05及び**P<0.01は媒体投与対照動物との比較;ΨP<0.05はゲニステイン投与動物との比較。配合製剤は、E2:17b−エストラジオール;G:ゲニステイン;D:ダイゼイン;E:エコール;I:IBSO03569を含む等重量の個別のphytoSERMから構成されていた。
【0117】
図10A〜10Eに成体卵巣摘出ラットにおける前脳ミトコンドリア呼吸活性に対する影響を示す。ラットを上のように処理した。前脳ミトコンドリアを分離した後、直ちに酸素電極を用いて呼吸活性のポリグラフ測定を行った。基礎の記録の後に、基質、マレイン酸塩/グルタミン酸の添加の後にミトコンドリア状態4呼吸を測定した。状態3呼吸は、ADPの添加後に測定した。状態3での酸素取込みの速度と状態4での酸素取込みの速度と比としての呼吸コントロール比(RCR)を計算した。(図12A〜12D)酸素取込みの経時変化;(図12E)ミトコンドリア呼吸活性の増加%、n≧4;*P<0.05及び**P<0.01は媒体投与対照動物との比較;ΨP<0.05はゲニステイン投与動物との比較。配合製剤は、E2:17b−エストラジオール;G:ゲニステイン;D:ダイゼイン;E:エコール;及びI:IBSO03569を含む等重量の個別のphytoSERMから構成されていた。Mito:ミトコンドリア;Mal/Glut:マレイン酸塩/グルタミン酸。
【0118】
子宮重量に対する影響
表4に成体卵巣摘出ラットにおける子宮重量に対する影響を示す。エストロゲン様刺激に対する子宮重量の変化を用いて、子宮組織に対する試験化合物のエストロゲン様特性を評価することができる。下で述べる1つの実施例において、エストロゲンの低い内因性レベルを有する未熟雌ラットに試験化合物を3日間毎日(皮下)投与した。化合物は、皮下注射用に適宜調合した。対照として、17β−エストラジオールのみを1つの投与群に投与した。媒体対照投与群も試験に含めた。最終投与の24時間後に、動物を剖検し、子宮を摘出し、傷を付け、ブロットし、重量を測定した。媒体対照群と比較したときの特定の投与群の子宮重量の統計的に有意な増加は、発情原性の証拠を示すものである。
【0119】
【表4】
要約
in vitro及びin vivo分析により、選択した試験phytoSERMの併用は、神経毒で惹起したときのニューロンの生存を持続させ、ニューロン/脳における神経保護及びβ−アミロイドの代謝/クリアランスに重要な役割を果たすものとしてのタンパク質の発現を促進し、脳ミトコンドリアの機能を増大させることに関する有効性の有意な増大をもたらしたことが実証された。特に、ゲニステイン、ダイゼイン及びエコールの等重量での併用は、ニューロン/脳検定法において17b−エストラジオールと同等又はより大きい最大有効性をもたらした。これと対照的に、そのような併用は、17b−エストラジオールによって著しく増加した子宮重量に対して影響を示さなかった。
【0120】
本試験は、選択したERβ選択的PhytoSERMの併用が単独投与及び代替配合製剤より治療上有効であり得ることを示している。特に、本試験は、閉経後女性における神経変性及びADの予防並びに更年期症状の管理に対するゲニステイン、ダイゼイン及びエコールの等重量での併用の可能性を示唆している。
【0121】
図11A〜11Cは、神経栄養及び神経保護の結果につながるエストロゲンの作用機序を示す概略図である。膜結合部位(mER)を介しての17−β−エストラジオール(E2)の作用が、ニューロン形成性、形態形成、神経組織発生及び神経の生存の増大につながる複数の反応に必要なカスケードを活性化する。膜部位においてE2により誘導されるシグナリングの順序は次の通りである:(1)mERへのE2の結合、(2)E2−mERがp85と複合してPI3Kを活性化する、(3)カルシウム非依存性PKCの活性化、(4)L型カルシウムチャンネルのリン酸化、(5)カルシウム流入の誘導、(6)カルシウム依存性PKCの活性化、(7)Srcキナーゼの活性化、(8)MEK/ERK1/2経路の活性化、(9)核へのERKの転位、(10)CREBの活性化及びリン酸化、(11)ミトコンドリアの活力を増強する抗アポトーシス遺伝子Bcl−2及びBcl−xl並びにシナプス成長を促進するスピノフィリンの転写の増大、(12)同時に、アポトーシス促進タンパク質BADをリン酸化し、阻害するAktの活性化をもたらすPI3Kのエストロゲン活性化。
【0122】
ミトコンドリアにおけるエストロゲン誘導性神経保護機構の有効範囲。エストロゲン活性化細胞シグナリングカスケードは、カルシウム負荷耐性の増大、電子伝達連鎖効率の増大及び抗酸化防御機構の促進をもたらすミトコンドリア機能の増強を促進する。これらの作用は、二次メッセンジャーシグナル伝達カスケードの活性化により開始される、核がコードする遺伝子及びミトコンドリアがコードする遺伝子両方の調節により媒介される。
【0123】
これらの機構及び本明細書におけるデータは、エストロゲン恩恵仮説の健常細胞バイアスと一致して、選択的な分子は、ニューロンがまだ健常である間の神経変性傷害の前に投与し得、phytoSERM曝露は、アルツハイマー病及びパーキンソン病などの年齢に関連する疾患に関連する神経変性傷害に対する神経防御を促進するBcl−2付加によりミトコンドリアによって表される神経生存機構の増強をもたらすことを示している。
【0124】
これらの試験は、記憶機能を維持し、年齢に関連する神経変性傷害及びADを予防するために併用するとき、選択したERβ選択的フィトエストロゲンが治療上有望なものであることを例証している。ERαの活性化を最小限にし、又は避けると同時に、ERβの活性化を最適化する、これらのERβ選択的フィトエストロゲン製剤は、現在のET/HTで認められるような生殖組織における増殖反応の誘発を伴うことなく、神経学的健康、機能を維持し、ADを予防するための有効なエストロゲン代替物代償療法としての役割を果たすはずである。さらに、ERβの活性化がニューロンにおけるApoE mRNA及びタンパク質発現を有意に減少させることを示す最も最近のデータに照らして、ERβ選択的フィトエストロゲン製剤は、ApoE4キャリヤーにおけるADの重大なリスクファクターを低減するための存続できる特別な戦略としての役割を果たす可能性がある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液脳関門を通過する、エストロゲン受容体βに選択的、優先的に結合する2つ以上の天然に存在する化合物を含む、神経障害又は老化の治療又は予防を必要とする個体への投与用の製剤。
【請求項2】
2つ以上の天然に存在する化合物がゲニステイン、ダイゼイン、エコール、IBSO03569及びその組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
1つ又は複数の賦形剤又は担体をさらに含む、請求項1に記載の製剤。
【請求項4】
他の選択的エストロゲン受容体モジュレーター、エストロゲンアゴニスト、エストロゲンアンタゴニスト、抗腫瘍剤、アルキル化剤、抗生物質、ホルモン、抗代謝剤、抗骨粗鬆症薬、ビタミン、栄養補助食品、抗酸化剤及び補酵素からなる群から選択される1つ又は複数の追加の活性物質をさらに含む、請求項1に記載の製剤。
【請求項5】
経腸、非経口又は局所投与用に調合されている、請求項1に記載の製剤。
【請求項6】
有効な量の請求項1から5のいずれかに記載の製剤を患者に投与することを含む、エストロゲンの欠乏に関連する1つ又は複数の症状を軽減又は予防する方法。
【請求項7】
患者が閉経後の女性である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
エストロゲン欠乏関連リスクが神経疾患又は障害である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記神経疾患が神経変性疾患である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記神経変性疾患が認知欠損又は記憶喪失である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記神経変性疾患がアルツハイマー病である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
有効な量の請求項1に記載の製剤を、それを必要とする患者に投与することを含む、ほてりをさらに治療又は予防するための、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
有効な量の請求項1に記載の製剤を、それを必要とする患者に投与することを含む、エストロゲン欠乏に関連する認知低下を治療又は予防するための、請求項6に記載の方法。
【請求項14】
有効な量の請求項1に記載の製剤を、それを必要とする患者に投与することを含む、エストロゲン欠乏に関連する骨粗鬆症を治療又は予防するための、請求項6に記載の方法。
【請求項1】
血液脳関門を通過する、エストロゲン受容体βに選択的、優先的に結合する2つ以上の天然に存在する化合物を含む、神経障害又は老化の治療又は予防を必要とする個体への投与用の製剤。
【請求項2】
2つ以上の天然に存在する化合物がゲニステイン、ダイゼイン、エコール、IBSO03569及びその組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
1つ又は複数の賦形剤又は担体をさらに含む、請求項1に記載の製剤。
【請求項4】
他の選択的エストロゲン受容体モジュレーター、エストロゲンアゴニスト、エストロゲンアンタゴニスト、抗腫瘍剤、アルキル化剤、抗生物質、ホルモン、抗代謝剤、抗骨粗鬆症薬、ビタミン、栄養補助食品、抗酸化剤及び補酵素からなる群から選択される1つ又は複数の追加の活性物質をさらに含む、請求項1に記載の製剤。
【請求項5】
経腸、非経口又は局所投与用に調合されている、請求項1に記載の製剤。
【請求項6】
有効な量の請求項1から5のいずれかに記載の製剤を患者に投与することを含む、エストロゲンの欠乏に関連する1つ又は複数の症状を軽減又は予防する方法。
【請求項7】
患者が閉経後の女性である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
エストロゲン欠乏関連リスクが神経疾患又は障害である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記神経疾患が神経変性疾患である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記神経変性疾患が認知欠損又は記憶喪失である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記神経変性疾患がアルツハイマー病である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
有効な量の請求項1に記載の製剤を、それを必要とする患者に投与することを含む、ほてりをさらに治療又は予防するための、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
有効な量の請求項1に記載の製剤を、それを必要とする患者に投与することを含む、エストロゲン欠乏に関連する認知低下を治療又は予防するための、請求項6に記載の方法。
【請求項14】
有効な量の請求項1に記載の製剤を、それを必要とする患者に投与することを含む、エストロゲン欠乏に関連する骨粗鬆症を治療又は予防するための、請求項6に記載の方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図9E】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図10E】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図9E】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図10E】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【公表番号】特表2009−545605(P2009−545605A)
【公表日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−522917(P2009−522917)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【国際出願番号】PCT/US2007/073505
【国際公開番号】WO2008/016768
【国際公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(592048844)ユニバーシティ オブ サザン カリフォルニア (26)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【国際出願番号】PCT/US2007/073505
【国際公開番号】WO2008/016768
【国際公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(592048844)ユニバーシティ オブ サザン カリフォルニア (26)
【Fターム(参考)】
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