説明

フィブリノーゲンと硫酸化多糖類に基づく製剤

本発明は、フィブリノーゲンと硫酸化多糖類を、1成分組成物として、又はフィブリノーゲンと硫酸化多糖類を別々の成分として含む部品からなるキットとして、含む、製剤を提供する。本発明は、さらに、定義された方法によって得ることができるフィブリン凝塊様構造物、止血パッチ、2成分注射器システム、及び前記製剤、フィブリン凝塊様構造物及びパッチの種々の使用を提供する。本発明は、フィブリノーゲンと硫酸化多糖類を含む製剤、その得られるフィブリン凝塊様構造物、止血パッチ、及びこれらを使用する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィブリノーゲンと硫酸化多糖類を含む製剤、その得られるフィブリン凝塊様構造物、止血パッチ、及びこれらを使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィブリノーゲンに基づく組織接着剤は、傷の密封(sealing)、止血及び創傷治癒促進のために、ヒト又は動物の組織又は器官部分の縫線のない及び/又は縫線を支持する結合に使用される。その作用様式は、すぐに使用できる液体組織接着剤中に含まれる(可溶性)フィブリノーゲンがトロンビンによって(不溶性)フィブリンに転化されるということに基づく。第XIII因子も液体組織接着剤に含有させることができ、トロンビンの作用によって第XIIIa因子に活性化される。これは、形成されたフィブリンを架橋して、組織接着剤の有効性を改善することができる高MWポリマーを形成する。必要なトロンビン活性は、接着される組織(創面)から生じ、又は密封の過程でトロンビンとCa2+イオンを含む溶液の形で組織接着剤に添加することができる。フィブリノーゲンに基づく組織接着剤は、AT−B−359653、AT−B−359652及びAT−B−369990から公知である。フィブリノーゲン及び第XIII因子とは別に、組織接着剤は、フィブロネクチン、アルブミンなどの更なるタンパク質、及び場合によっては抗生物質も含むことができる。特許文献1(Seelich;Immuno AG)は、凍結乾燥形態の、又は急速冷凍液体製剤(冷凍保存)によって生ずる形態の、安定に貯蔵されるフィブリノーゲン製剤を開示している。急速冷凍液体製剤は、急速かつ簡単に元に戻して液化し、すぐに使用できるフィブリノーゲン及び/又は組織接着剤溶液を形成することができる。かかる製剤は、Baxter Healthcare Corporation(CA、USA)によってTisseel(登録商標)Fibrin Sealantとして市販されている。
【0003】
コラーゲンでできた止血パッチなどの止血パッチは、種々の外科的処置において、組織を密封し、出血を抑制するのに使用することができる。止血パッチは、フィブリン糊などの組織接着剤をコーティングして使用することができる。あるいは、TachoComb(登録商標)又はTachoSil(登録商標)(Nycomed)などのトロンビン及びフィブリノーゲンで被覆されたコラーゲンスポンジでできた止血パッチが利用可能である。
【0004】
フィブリンシーラント及び止血パッチは、安全な止血、傷及び/又は組織領域に対する良好なシール接着性、高強度の接着及び/又は傷密封、創傷治癒過程における接着剤の完全な再吸収能力を与え、創傷治癒促進性を有することができる。それでも、通常は、密封組織部分を所望の位置に数分間保持して、硬化フィブリンシーラントを周囲組織に確実にしっかりと接着させる必要がある。フィブリン凝塊形成を改善し、及び/又はフィブリン凝塊構造物を強化する化合物は、フィブリンシーラント及び止血パッチを改善することができる。例えば、強化された凝塊は、線維素溶解されにくく、より安定で長時間持続するであろう。
【0005】
本明細書における既刊の文献の掲載又は考察は、文献が最新技術の一部であり、一般的知識であることを認めるものと解釈すべきではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,962,405号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様においては、本発明は、フィブリノーゲンと硫酸化多糖類を、1成分組成物として、又はフィブリノーゲンと硫酸化多糖類を別々の(separated)成分として含む部品からなるキットとして、含む製剤を提供する。
【0008】
第2の態様においては、本発明は、
(a)本発明の製剤を溶液として提供する工程、
(b)陽イオン含有溶液を、トロンビンを場合によっては含む別個の成分として、又はトロンビンを場合によっては含む本発明の硫酸化多糖類成分と一緒の溶液として、提供する工程、
(c)場合によってはトロンビン溶液を提供する工程、及び
(d)フィブリン凝塊様構造物が得られるように(a)と(b)と場合によっては(c)とを同時に又は続いて任意の順で混合する工程
を含む方法(process)によって得ることができるフィブリン凝塊様構造物を提供する。
【0009】
第3の態様においては、本発明は、
(1)キャリア、及び
(2)硫酸化多糖類である少なくとも1種類の止血剤
を含み、
該キャリアが硫酸化多糖類である場合、該キャリアは該止血剤と同じ硫酸化多糖類ではない、
止血パッチを提供する。
【0010】
第4の態様においては、本発明は、
(a)第1の注射器外筒中の請求項1に記載の1成分組成物、及び
(b)第2の注射器外筒中の、場合によってはトロンビンと一緒の、陽イオン含有製剤
又は
(a’)第1の注射器外筒中の、場合によってはトロンビンと一緒の、請求項1に記載の別々の硫酸化多糖類と陽イオン含有製剤、及び
(b’)第2の注射器外筒中のフィブリノーゲン製剤
を含む、2成分注射器(two−component syringe)システムを提供する。
【0011】
第5の態様においては、本発明は、止血を促進するための、本発明の製剤、本発明のフィブリン凝塊様構造物、又は本発明のパッチの使用を提供する。
【0012】
第6の態様においては、本発明は、創傷治癒のための、本発明の製剤、本発明のフィブリン凝塊様構造物、又は本発明のパッチの使用を提供する。
【0013】
第7の態様においては、本発明は、薬物送達システムとしての使用のための、本発明の製剤、本発明のフィブリン凝塊様構造物、又は本発明のパッチの使用を提供する。
【0014】
第8の態様においては、本発明は、本発明の製剤、本発明のフィブリン凝塊様構造物、又は本発明のパッチを創面に適用することを含む、組織密封又は組織接着の方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、一定フィブリノーゲン濃度(50mg/ml)並びにフコイダン及びCa2+イオンの種々の濃度で得られる凝塊様凝集体の濁度及び外観である。
【図2】図2は、フィブリノーゲン、フコイダン/ペントサンポリスルファート及びCa2+イオンの混合物から得られるゲル様材料の超構造物である。濃度:フィブリノーゲン、50mg/ml;Ca2+、20mM;ペントサンポリスルファート(A)、200μM;A.nodosum LMWフコイダン(B)、200μM;Fucus vesiculosusフコイダン(C)、20μM。横棒は5μmである。
【図3】図3は、ヘパリン処置されたウサギの肝臓表面摩耗モデルにおける純粋コラーゲンパッド(Matristypt(登録商標)(A)と比較したA.nodosumフコイダン/CaCl含有コラーゲンパッド(B)の止血効果である。写真は、出血した傷にパッドを適用後15分で撮影される。
【図4】図4は、フィブリン凝塊形成中の濁度に対するフコイダンの影響である。血塊形成中の濃度:フィブリノーゲン(希釈Tisseel VH S/D):2.5mg/ml;トロンビン0.125IU/ml。PPS−ペントサンポリスルファート、10μM;FAN−フコイダンA.nodosum、LMW:10μM、HMW:0.1μM;FLJ−フコイダンLaminaria japonica、0.1μM;FFV−フコイダンFucus vesiculosus、1μM。
【0016】
【化1】

【図5】図5は、添加フコイダン(A)を含まない、及び1μM Fucus vesiculosusフコイダン(B)を含む、希釈Tisseel VH S/Dフィブリンシーラントから得られるフィブリン凝塊の走査型電子顕微鏡観察である。濃度:フィブリノーゲン2.5mg/ml;トロンビン0.125IU/ml
【発明を実施するための形態】
【0017】
第1の態様においては、本発明は、フィブリノーゲンと硫酸化多糖類を、1成分組成物として、又はフィブリノーゲンと硫酸化多糖類を別々の成分として含む部品からなるキットとして、含む製剤を提供する。
【0018】
フィブリノーゲン製剤は、従来技術で周知である。典型的には、フィブリノーゲン製剤は、凍結乾燥製剤又は凍結溶液である。適切な製剤は、US5,962,405に記載のように製造することができる。US5,962,405は、フィブリノーゲンの溶解性を増加させ、濃縮冷凍保存フィブリノーゲン及び/又は組織接着剤溶液の液化温度並びに室温におけるその粘度を低下させる物質を開示している。かかる物質としては、フィブリノーゲン1g当たり、好ましくは0.03mmolから3mmolの量、最も好ましくは0.07mmolから1.4mmolの量のベンゼン、ピリジン、ピペリジン、ピリミジン、モルホリン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、フラン、チアゾール、プリン化合物又はビタミン、核塩基、ヌクレオシド又はヌクレオチドが挙げられる。これらの物質は、例えば、安息香酸、p−アミノ安息香酸(ビタミンH’)、p−アミノサリチル酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシサリチル酸フェニルアラニン、プロカイン、ナイアシン、ナイアシンアミド、ピコリン酸、ビタミンB(ピリドキシン)、ヒドロキシピリジン、ピリジンジカルボン酸、ピリジンスルホン酸、ピペリジンカルボン酸エステル、ピリミジン、バルビツル酸、ウラシル、ウリジン、ウリジンリン酸、チミン、シトシン、シチジン、ヒドロキシピリミジン、チアミン(ビタミンB)、モルホリン、ピロリドン、イミダゾール、ヒスチジン、ヒダントイン、ピラゾールジカルボン酸、フェナゾン、アデノシン、アデノシンリン酸、イノシン、グアノシンリン酸、α−フランカルボン酸(フラン−2−カルボン酸)、アスコルビン酸(ビタミンC)及びキサントシン(xantosine)である。特に好ましい物質は、ヒスチジン及びナイアシンアミドである。本発明の第1の態様に関連して考察される成分などの組織接着剤溶液に有用である他の成分をフィブリノーゲン製剤に含有させることができる。
【0019】
フィブリノーゲン製剤は、凍結乾燥されている場合、元に戻さなければならない。これは、典型的には、水、典型的には注射用水、又は溶液を添加することによって実施される。溶液は、線維素溶解の阻害剤であるアプロチニンなどの有用な溶質を提供することができる。加温及び/又はかき混ぜ若しくは撹拌を施して、組織接着剤溶液の再形成を改善することができる。フィブリノーゲン製剤が凍結している場合、典型的には、製剤を加温して解凍し、組織接着剤溶液にする。しかし、解凍中又は解凍後に、追加の材料をフィブリノーゲン製剤に添加することができる。
【0020】
適切なフィブリノーゲン溶液及びその製造方法は、US5,962,405に記載されている。すぐに使用できるフィブリノーゲン溶液は、一般にフィブリノーゲン60〜120mg/mlを含む。フィブリノーゲン成分は、場合によっては、さらに、第XIII因子、及び場合によってはフィブロネクチン又は少量のプラスミノゲンを含むことができる。これらは、創傷治癒の過程で有利であり得る。アプロチニン、α−プラスミン阻害剤、α−マクログロブリンなどのプラスミノゲンアクチベーター阻害剤及びプラスミン阻害剤も、場合によっては含有させることができる。一般に、これらの成分は、場合によっては、フィブリノーゲン溶液中に含まれる。フィブリノーゲン溶液は、一般に、遊離カルシウムイオンを含まない。というのは、これは、残留する微量のプロトロンビンの活性化、したがってより早い、望ましくない凝固を引き起こし得るからである。典型的には、カルシウムキレート化剤を組織接着剤溶液に含有させて、残留カルシウムイオンを錯体化する。適切には、クエン酸トリナトリウムなどのクエン酸塩をかかる薬剤として生理的に許容される塩の形で含有させる。したがって、すぐに使用できるフィブリノーゲン溶液は、一般に、1ml当たりフィブリノーゲン70〜120mg、場合によっては第XIII因子0.5〜50U、場合によってはフィブロネクチン0.5から15mg、プラスミノゲン0から150μg及びアプロチニン0から20,000KIU、好ましくはアプロチニン1,000から15,000KIUを含む。例示的な組織接着剤溶液は、Tisseel(登録商標)フィブリンシーラント(Baxter Healthcare Corporation、CA)の密封剤タンパク質溶液であり、これは、ヒトフィブリノーゲン67〜106mg/ml、アプロチニン線維素溶解阻害剤2250〜3750KIU/ml、ヒトアルブミン、トリクエン酸ナトリウム25mmol/l、ヒスチジン、ナイアシンアミド、ポリソルベート80及び注射用水を含む。
【0021】
本明細書では「多糖類」という用語は、複数(すなわち、2個以上)の共有結合糖残基を含むポリマーを指す。結合は、天然でも非天然でもよい。天然の結合としては、例えば、グリコシド結合が挙げられ、一方、非天然結合としては、例えば、エステル、アミド又はオキシム結合部分が挙げられる。多糖類は、広範な平均分子量(MW)値のどれでも有することができるが、一般には少なくとも約300ダルトンである。例えば、多糖類の分子量は、少なくとも約500、1000、2000、4000、6000、8000、10,000、20,000、30,000、50,000、100,000、500,000ダルトン、さらにはそれ以上とすることができる。多糖類の分子量は、高速サイズ排除クロマトグラフィーによって測定することができる。多糖類は、直鎖又は分枝構造を有することができる。多糖類は、より大きい多糖類の分解(例えば、加水分解)によって生成する多糖類の断片を含むことができる。分解は、分解多糖類を生成する酸、塩基、熱又は酵素による多糖類の処理を含めて、当業者に既知である種々の手段のいずれかによって実施することができる。多糖類は、化学的に改変することができ、硫酸化、ポリ硫酸化、エステル化及びメチル化を含めて、ただしそれだけに限定されない修飾を有することができる。
【0022】
原則的には、多糖類の単糖成分上の任意の遊離ヒドロキシル基を硫酸化によって修飾して、本発明の実施に使用することができる硫酸化多糖類を生成することができる。例えば、かかる硫酸化多糖類としては、硫酸化ムコ多糖類(D−グルコサミン及びD−グルクロン酸残基)、カードラン(カルボキシメチルエーテル、硫酸水素塩、カルボキシメチル化カードラン)(Sigma−Aldrich)、硫酸化シゾフィラン(Itoh et al.(1990) Int.J.Immunopharmacol.12:225−223;Hirata et al.(1994)Pharm.Bull.17:739−741)、硫酸化グリコサミノグリカン、硫酸化多糖類−ペプチドグリカン複合体、硫酸化アルキルマルトオリゴ糖(Katsuraya et al.(1994)Carbohydr Res.260:51−61)、硫酸アミロペクチン、N−アセチル−ヘパリン(NAH)(Sigma−Aldrich)、N−アセチル−de−O−硫酸化ヘパリン(NA−de−o−SH)(Sigma−Aldrich)、de−N−硫酸化ヘパリン(De−NSH)(Sigma−Aldrich)、及びDe−N−硫酸化アセチル化ヘパリン(De−NSAH)(Sigma−Aldrich)を挙げることができるが、それだけに限定されない。
【0023】
一クラスとして、硫酸化多糖類は、動物及びヒトにおいて好都合な耐容性プロファイルを有することが多い過度の生物活性を特徴とする。これらのポリアニオン分子は、植物及び動物組織から誘導されることが多く、ヘパリン、グリコサミノグリカン、フコイダン、カラゲナン、ペントサンポリスルファート及びデルマタン又はデキストラン硫酸(Toida et al.(2003)Trends in Glycoscience and Glycotechnology 15:29−46)を含めて、広範なサブクラスを包含する。より低分子量で、より不均一で、化学合成された硫酸化多糖類が報告され、薬剤開発の種々の段階に達している(Sinay(1999)Nature398:377−378;Orgueira et al.(2003)Chemistry9:140−169;Williams et al.(1998)Gen.Pharmacol.30:337−341)。
【0024】
適切には、製剤は、フィブリノーゲン1mgごとに硫酸化多糖類0.01μgから5000μgを含む。典型的には、製剤は、フィブリノーゲン1mgごとに硫酸化多糖類0.01、0.02、0.05、0.10、0.15、0.25、0.5、1、2、5、10、20、50、100、200又は300μgを含む。
【0025】
第2の態様においては、本発明は、
(a)本発明の製剤を溶液として提供する工程、
(b)陽イオン含有溶液を、トロンビンを場合によっては含む別個の成分として、又はトロンビンを場合によっては含む本発明の硫酸化多糖類成分と一緒の溶液として、提供する工程、
(c)場合によってはトロンビン溶液を提供する工程、及び
(d)フィブリン凝塊様構造物が得られるように(a)と(b)と場合によっては(c)とを同時に又は続いて任意の順で混合する工程
を含む方法によって得ることができるフィブリン凝塊様構造物を提供する。
【0026】
陽イオンは、好ましくはカルシウム、マグネシウム、バリウム及びストロンチウムからなる群からの、少なくとも二価であり、最も好ましいカルシウム、例えばCaClである。
【0027】
フィブリン凝塊様構造物は、フィブリノーゲン溶液、硫酸化多糖類溶液、陽イオン、例えばカルシウムイオン、含有溶液を、場合によってはフィブリン凝塊様構造物が形成されるようにトロンビン溶液と一緒に、(同時に又は続いて任意の順で)混合することによって得ることができる。
【0028】
フィブリン凝塊様構造物は、フィブリノーゲンと硫酸化多糖類を含む溶液、陽イオン、例えばカルシウムイオン、含有溶液を、場合によってはフィブリン凝塊様構造物が形成されるようにトロンビン溶液と一緒に、(同時に又は続いて任意の順で)混合することによって得ることもできる。
【0029】
フィブリン凝塊様構造物は、フィブリノーゲン溶液、硫酸化多糖類、及び陽イオン、例えばカルシウムイオン、含有溶液を、場合によってはフィブリン凝塊様構造物が形成されるようにトロンビン溶液と一緒に、(同時に又は続いて任意の順で)混合することによって得ることもできる。
【0030】
フィブリン凝塊様構造物は、フィブリン凝塊様構造物が形成されるように、フィブリノーゲン溶液、別々の溶液としての、又は1つの溶液としての、硫酸化多糖類溶液、並びにトロンビン及び陽イオン、例えばカルシウム、含有溶液を(同時に又は続いて任意の順で)混合することによって得ることもできる。
【0031】
トロンビンは、凍結乾燥製剤又は凍結溶液として提供することができる。凍結乾燥製剤は、加温及び/又はかき混ぜ/撹拌してもしなくても、水又は溶液を添加することによって元に戻すことができる。典型的には、生理的に許容される塩の形のカルシウムイオンが、凍結乾燥物に含まれ、又はトロンビン製剤を元に戻すのに使用される溶液に含まれる。凍結溶液は、典型的には、解凍されてトロンビン溶液を与えるが、解凍中又は解凍後にCaClなどの追加の物質を添加することができる。
【0032】
典型的には、トロンビン溶液は、カルシウムイオン、適切にはCaClを、好ましくは36〜44μmol/mLの濃度で含む。
【0033】
必要なトロンビン活性を含むトロンビン溶液は、密封される組織(創面)に由来することができ、又は外部から添加することができる。適切な外来性トロンビン溶液は当分野で公知である。フィブリンシーラントの形成に使用されるトロンビン溶液の最適トロンビン濃度は、臨床適応症に依存し、典型的には1から1000IU/mlの範囲である。トロンビン含有溶液のトロンビン活性は、今日では、定義上110IU/アンプルである第2国際基準と対比される(Whitton et al,Thromb Haemost2005;93:261−6)。凝固に基づく試験及び発色試験を含めて、トロンビン活性を分析する幾つかのアッセイが利用可能である(Gaffney and Edgell,Thromb Haemost1995;74:900−3)。迅速に止血するために、実際に即時の凝固をもたらす高トロンビン濃度が使用される。例は、ヒトトロンビン400〜625IU/mlを含むTisseel(登録商標)フィブリンシーラント(Baxter Healthcare Corporation、CA)のトロンビン溶液、並びに1000IU/ml活性のヒトトロンビンを含むQuixil(登録商標)及びEvicel(登録商標)フィブリンシーラント(Omrix)のトロンビン溶液である。目的が(例えば、美容又は再建外科において)フィブリンシーラントを糊として使用することである場合には、凝固が起こる前に外科医が操作できる時間を延長するために、より低いトロンビン濃度が使用される。かかる適応症では、トロンビン4IU/mlを含むフィブリンシーラント変種が多数の国々で市販されている。(1IU/ml未満の)はるかに低いトロンビン濃度のフィブリンシーラントは、凝固時間が長すぎると考えられるので、これまで実用化されていない。しかし、硫酸化多糖類が本発明の第1の態様に従って含まれる場合には、1IU/mlなどの低トロンビン濃度のトロンビン溶液を使用することが実行可能であり得る。トロンビン溶液及びその製造方法は、US5,714,370(Eibl and Linnau;Immuno AG)に開示されている。本発明の第1の態様の方法においては、カルシウムイオンは、典型的には、トロンビン溶液中で提供される。カルシウムイオンは、典型的には、CaClとして提供されるが、乳酸カルシウム及び/又はグルコン酸カルシウムなどの別の可溶性生理適合性カルシウム塩をCaClに加えて又はCaClの代替として使用することができる。トロンビン溶液のカルシウム濃度は、典型的には約40mMである。例えば、Tisseel(登録商標)フィブリンシーラント(Baxter Healthcare Corporation、CA)は、36〜44mM CaClを含む。トロンビン溶液及び組織接着剤溶液は、典型的には、混合前に、典型的には37℃に加温される。
【0034】
本発明の製剤は、局所用製剤として使用することができる。「局所用製剤」とは、フィブリン凝塊様構造物が、対象の特定部位、典型的には組織又は創面に形成されることを意味する。そのためには、陽イオン、例えばカルシウムの存在下でフィブリノーゲンと硫酸化多糖類を含む溶液、及び場合によってはトロンビン溶液を、局所的部位で混合するか、又は、外部で混合し、次いで血塊形成が完了する前に局所的部位に導入する。後者の一例は、国際公開第96/22115号(Baxter International Healthcare、IL)のように、フィブリン凝塊を糊として使用して、架橋フィブリンの自立シート様材料を部位に接着させて、手術後の癒着の形成を阻止又は抑制するときである。凝塊は、シート様材料を局所的部位に導入する前に完全に形成されてはならず、さもなければ材料は部位に接着しないであろう。本発明の第1の態様の方法によってin situで形成された凝塊は、心肺バイパスを含む手術及び腹部の鈍的若しくは鋭的外傷によるひ臓傷害の治療における止血の補助として、又は人工肛門形成術の閉鎖の補助として、使用することができる。
【0035】
フィブリン凝塊様構造物は、例えば、止血促進又は組織接着若しくは密封のための接着細胞、特にほ乳動物細胞の培養基として使用することができる。
【0036】
第3の態様においては、本発明は、
(1)キャリア、及び
(2)硫酸化多糖類である少なくとも1種類の止血剤
を含み、
該キャリアが硫酸化多糖類である場合、該キャリアは該止血剤と同じ硫酸化多糖類ではない、
止血パッチを提供する。
【0037】
キャリアは、例えば、コラーゲン、ゼラチン、フィブリノーゲン、フィブリン及び多糖類又はその誘導体若しくは混合物からなる群から選択される生体適合性材料である。好ましくは、コラーゲン又はその誘導体が使用される。
【0038】
多糖類としては、例えば、セルロース及びその誘導体、例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、酸化セルロース、キチン、キトサン、コンドロイチン、ヒアルロン酸、デンプンなどが挙げられる。
【0039】
「誘導体」という用語は、化学的に又は物理的に、例えば熱処理によって、改変された物質を含む。
【0040】
好ましくは、硫酸化多糖類は、止血パッチの活性表面1cmごとに20ngから3mgの量で存在する。
【0041】
硫酸化多糖類は、止血パッチの活性表面に存在することができ、又は止血パッチのマトリックス内に分布する。
【0042】
パッチは、さらに、止血パッチの活性表面にトロンビン及びフィブリノーゲンを含むことができる。
【0043】
「止血パッチ」とは、傷の表面に適用したときに止血を促進する1種類以上の止血剤を場合によっては含むキャリアを意味する。本発明によれば、止血パッチは、硫酸化多糖類である止血剤を含む。「止血剤」とは、止血を促進する薬剤、例えば抗線溶剤、又は凝固促進剤を意味する。キャリアは、典型的には固体であるが、あるいはゲルでもよい。適切なキャリアは、US6,733,774B2(Stimmeder;Nycomed Pharma AS)及びUS7,399,483B2(Stimmeder;Nycomed Pharma AS)に記載されており、コラーゲンスポンジ、及びポリヒアルロン酸、ポリヒドロキシ酸、例えば、乳酸、グルコール(glucolic)酸、ヒドロキシブタン酸、セルロース、ゼラチンなどの生分解性ポリマーでできたキャリアが挙げられる。かかるキャリアは、典型的には、柔軟であり、密度1〜10mg/cmであり、弾性モジュール5〜100N/cmである。特に好ましいキャリアは、適用後約4から6か月以内に酵素によって分解され、外科的除去が不要である。典型的には、キャリアは、超極細繊維を含めた繊維、織物、発泡体又はゲルの形である。キャリアは、硫酸化セルロースなどの硫酸化多糖類とすることができる。しかし、キャリアは、硫酸化多糖類である止血剤と同じ硫酸化多糖類でもよい。適切には、本発明の第3の態様によれば、キャリアが硫酸化多糖類を含む場合、それは止血剤と同じ硫酸化多糖類ではない。
【0044】
被覆キャリアの調製は、活性成分の懸濁液の調製、キャリア上の懸濁液の均一分布、固体組成物への被覆キャリアの乾燥、又はキャリアへの活性成分のゲル/固定化から本質的になることができる。懸濁液は、典型的には、平均直径25〜100μmの粒子を含む。硫酸化多糖類の懸濁液は、典型的には、有機溶媒中で調製される。懸濁液をキャリア上に均一に分布させる方法は、US5,942,278(Hagedorn et al,Nycomed Arzneimittel GmbH,DE)に開示されている。キャリアをフィブリノーゲン及びトロンビンで被覆する方法は、US6,733,774B2に開示されている。これらの方法は、当業者が容易に改作して、硫酸化多糖類を含む止血パッチを得ることができる。
【0045】
あるいは、硫酸化多糖類と酸化セルロースシートなどの止血パッチの繊維との共有結合を行うことができる。この共有結合を行う手段は当分野で周知である。例えば、US2004/0101546(Gorman and Pendharkar)は、止血剤と酸化されたアルデヒド変性セルロースパッチとの共有結合を記述している。
【0046】
止血パッチの表面コーティングの代替として、又はそれに加えて、硫酸化多糖類を止血パッチ全体に分布させることができる。例えば、固体キャリアを硫酸化多糖類溶液に浸漬し、続いて乾燥させることができる。あるいは、硫酸化多糖類の溶液又は懸濁液をモノマー溶液と混合し、次いで重合させて、硫酸化多糖類が全体に均一に分布した固体キャリアを形成することができる。例えば、硫酸化多糖類を酸可溶性コラーゲンと一緒にpH2〜3で溶解させることができる。中和後、ゲルの液相中に硫酸化多糖類を含む、コラーゲン線維のネットワークでできたコラーゲンゲルが形成される。コラーゲンゲルの凍結乾燥後、パッド中に均一に分布した硫酸化多糖類を含むスポンジ状コラーゲンパッドを含む止血パッチが得られる。酸可溶性コラーゲンモノマーの調製、並びに中性pHにおける沈殿及び凍結乾燥は、US6,773,699(Tissue Adhesive Technologies,Inc)に記載されている。コラーゲン膜は、Bunyaratavej P and Wang HL(2001)J.Periodontol.72:215−29に概説されている。
【0047】
代替のキャリアは、国際公開第96/22115号(Delmotte and Krack;Baxter International Healthcare、IL)に開示されている架橋フィブリンの自立シート様材料である。典型的には、かかるキャリアは、特に術後合併症としての癒着形成の防止のために、内部の外傷性障害の治療において生体力学的障壁として使用される。キャリアが本発明の第9の態様による硫酸化多糖類を含むときには、キャリアは止血性を有することができる。
【0048】
硫酸化多糖類の存在は、止血における止血パッチの有効性を増大させる。本明細書に記載のように、硫酸化多糖類は、フィブリン生成を促進し、したがって創面における血塊形成を促進することができる。フィブリノーゲン及びトロンビンは、創面で利用可能であり、又は外部から添加することができる。適切には、硫酸化多糖類は、トロンビンによって媒介されるフィブリン生成を促進することによってフィブリン凝塊の形成に影響を及ぼす量で存在する。止血パッチは、硫酸化多糖類を含まないがそれ以外は組成の類似した止血パッチよりも止血促進に有効である。止血における止血パッチの有効性は、US6,733,774B2に記載の試験などに従って、動物における実験的傷に関して試験することができる。例えば、イヌにおけるひ臓の切開及び穿刺又は上方肝葉先端の切除から48時間後に、剖検を実施し、肉眼観察及び組織学的検査によって二次出血の証拠を探すことができる。止血パッチをブタの実験的ひ臓障害に適用して、出血停止時間を測定することができる。
【0049】
典型的には、硫酸化多糖類は、止血パッチの活性表面に、典型的には20ngから3mg/cm、典型的には0.2から300μg/cm、例えば3から300μg/cmの量で存在する。例えば、キャリアは、硫酸化多糖類で被覆することができる。典型的には、硫酸化多糖類は、固体形態であり、キャリア上に均等に分布し、固定される。
【0050】
あるいは、硫酸化多糖類は、止血パッチのマトリックス内に、典型的には止血パッチの活性表面1cmごとに20ngから3mg、典型的には0.2から300μg/cm、例えば3から300μg/cmの量で分布する。止血パッチの「マトリックス」は、活性表面で終結するキャリアの一部(単数又は複数)である。マトリックスの深さが1cmの場合、硫酸化多糖類は、典型的には、20ng/cmから3mg/cmマトリックスの量で存在する。マトリックスの深さが1mmの場合、硫酸化多糖類は、典型的には、200ng/cmから30mg/cmマトリックスの量で存在する。
【0051】
硫酸化多糖類は、止血パッチのマトリックス中に分布することができ、活性表面上にも存在できることが理解されるであろう。その場合、活性表面上及びマトリックス中の混合硫酸化多糖類は、典型的には、活性表面1cmごとに20ngから3mg、典型的には0.2から300μg/cm、例えば3から300μg/cmである。
【0052】
止血パッチは、硫酸化多糖類以外の止血促進剤を含まなくてもよい。あるいは、止血パッチは、1種類以上の別の活性薬剤、例えば、抗線溶剤又は凝固促進剤を含むことができる。好ましい一実施形態においては、止血パッチの活性表面は、さらに、トロンビン及びフィブリノーゲンを含む。適切には、トロンビンは、1.0〜5.5IU/cm、好ましくは約2.0IU/cmの量で存在し、フィブリノーゲンは2〜10mg/cm、好ましくは4.3〜6.7mg/cmの量で存在する。トロンビン及びフィブリノーゲンを含む止血パッチを製造する方法は、US6,733,774B2に開示されている。
【0053】
更に別の一態様においては、本発明は、本発明の第3の態様による止血パッチを創面に適用することを含む、組織密封又は組織接着方法を提供する。
【0054】
更に別の一態様においては、本発明は、本発明の第3の態様による止血パッチを血液漏出域に適用することを含む、止血を得る方法を提供する。
【0055】
本発明の止血パッチは、特に食道、胃、小腸、大腸、直腸などの胃腸系、肝臓、ひ臓、すい臓、腎臓、肺、副腎、甲状腺、リンパ節などの実質器官における外科的介入、心臓血管手術、気管、気管支又は肺の手術を含めた胸部手術、歯科手術を含めた耳、鼻及び咽頭(ENT)域における外科的介入、婦人科、泌尿器科、骨(例えば、海綿質切除)及び救急手術、神経学的手術、リンパ、胆汁及び脳脊髄(CSF)フィステル、並びに胸部及び肺手術中の空気漏れにおける、止血、組織接着及び組織密封に有用である。本発明は、したがって、上記目的のための本発明の第9の態様の止血パッチの使用にも関する。さらに、止血パッチは、実質的に液密であり、それゆえに、肝臓、ひ臓などの出血性の高い器官の手術、及び例えば胃腸管における手術に極めて有用である。本発明の止血パッチは、典型的には、出血を従来法で抑制できないとき、又は従来法が好ましくない結果を生じ得るときに、適用すべきである。
【0056】
更に別の一態様においては、本発明は、キャリアを硫酸化多糖類で被覆すること、及び/又は硫酸化多糖類をキャリア内に分布させることを含む、本発明による止血パッチを製造する方法を提供する。適切な方法は、上述したとおりである。
【0057】
第4の態様においては、本発明は、
(a)第1の注射器外筒中の請求項1に記載の1成分組成物、及び
(b)第2の注射器外筒中の、場合によってはトロンビンと一緒の、陽イオン含有製剤
又は
(a’)第1の注射器外筒中の、場合によってはトロンビンと一緒の、請求項1に記載の別々の硫酸化多糖類と陽イオン含有製剤、及び
(b’)第2の注射器外筒中のフィブリノーゲン製剤
を含む、2成分注射器システムを提供する。
【0058】
別の一態様においては、本発明は、トロンビン溶液を1個の注射器外筒、フィブリノーゲン含有溶液を第2の注射器外筒、及び硫酸化多糖類溶液を第3の注射器外筒、及びカルシウムイオンをトロンビン中又は硫酸化多糖類溶液中に含む、注射器を提供する。
【0059】
第5の態様においては、本発明は、止血を促進するための、本発明の製剤、本発明のフィブリン凝塊様構造物、又は本発明のパッチの使用を提供する。
【0060】
第6の態様においては、本発明は、創傷治癒のための、本発明の製剤、本発明のフィブリン凝塊様構造物、又は本発明のパッチの使用を提供する。
【0061】
第7の態様においては、本発明は、薬物送達システムとしての使用のための、本発明の製剤、本発明のフィブリン凝塊様構造物、又は本発明のパッチの使用を提供する。
【0062】
第8の態様においては、本発明は、本発明の製剤、本発明のフィブリン凝塊様構造物、又は本発明のパッチを創面に適用することを含む、組織密封又は組織接着の方法を提供する。
【0063】
別の一態様においては、本発明は、本発明の方法によってin vitroで形成された凝塊で被覆されたin vitro表面を提供する。このin vitro表面は、接着細胞、特にほ乳動物細胞の培養基として使用することができる。
【0064】
US2006/134093(Ronfard;DFB Pharmaceuticals Inc,US)は、フィブリノーゲンとトロンビンの混合物によって形成される細胞培養物のためのフィブリン細胞支持体を開示している。フィブリン細胞支持体は、角化細胞などの細胞の培養物を調製すること、再構成された組織の形で培養物を回収すること、及びそれを輸送することに使用することができる。再構成された組織は、特に、皮膚移植としての使用に適切である。本発明の第7及び第8の態様の凝塊及びin vitro表面は、US2006/134093に開示されているように使用することができる。適切な表面は、以下の材料(ポリエステル、PTFE又はポリウレタン)の1種類以上でできた合成膜、1種類以上の生分解性ポリマー(例えば、ヒアルロン酸、ポリ乳酸又はコラーゲン)でできた合成膜、又はシリコーン若しくはVaselineガーゼ包帯、又は創傷被覆材に適切な任意の他の材料からなることができる。
【0065】
本発明の態様のいずれにおいても、硫酸化多糖類は、非抗凝固硫酸化多糖類(NASP)であることが好ましい。本明細書では「NASP」とは、希釈プロトロンビン時間(dPT)又は活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)凝固アッセイにおいて、非分画ヘパリン(MW範囲8,000から30,000;平均18,000ダルトン)のモル抗凝固(凝固時間の統計的に有意な増加)活性の1/3以下、好ましくは1/10未満である抗凝固活性を示す硫酸化多糖類を指す。NASPは、自然源(例えば、褐藻、樹皮、動物組織)から精製及び/又は改変することができ、又は新規合成することができ、100ダルトンから1,000,000ダルトンの分子量範囲とすることができる。NASPではない硫酸化多糖類に比較してin vivoでの抗凝固効果に対する傾向が低いことは、患者に対する抗凝固効果のリスクがそれによって最小化されるので、予防策として望ましい。いずれにしても、フィブリンシーラント及び止血パッチは、局所用途にのみ意図され、したがって血液系への硫酸化多糖類の漏出は緩やかにすべきであり、望ましくないあらゆる抗凝固効果を最小限にすべきである。したがって、抗凝固効果を有する硫酸化多糖類は、特に低濃度で使用することができる。
【0066】
NASPは、試験濃度範囲にわたって凝固時間をさほど増加させない点で「非抗凝固」である。潜在的NASP活性を有する硫酸化多糖類としては、グリコサミノグリカン(GAG)、N−アセチルヘパリン(Sigma−Aldrich、St.Louis、Mo.)及びN−脱硫酸化ヘパリン(Sigma−Aldrich)を含めたヘパリン様分子、スルファトイド(sulfatoid)、ポリ硫酸化オリゴ糖(Karst et al.(2003)Curr.Med.Chem.10:1993−2031;Kuszmann et al.(2004)Pharmazie.59:344−348)、コンドロイチン硫酸(Sigma−Aldrich)、デルマタン硫酸(Celsus Laboratories Cincinnati、Ohio)、フコイダン(Sigma−Aldrich)、ペントサンポリスルファート(PPS)(Ortho−McNeil Pharmaceuticals、Raritan、N.J.)、フコピラノン(fucopyranon)スルファート(Katzman et al.(1973)J.Biol.Chem.248:50−55)、及びGM1474(Williams et al.(1998)General Pharmacology 30:337)、SR80258A(Burg et al.(1997)Laboratory Investigation 76:505)などの新規スルファトイド、新規ヘパリノイド、並びにその類似体が挙げられるが、それだけに限定されない。NASPは、自然源(例えば、褐藻、樹皮、動物組織)から精製及び/又は改変することができ、又は新規合成することができ、100ダルトンから1,000,000ダルトンの分子量範囲とすることができる。潜在的NASP活性を有する追加の化合物としては、過ヨウ素酸塩−酸化型ヘパリン(POH)(Neoparin,Inc.、San Leandro、Calif.)、化学的に硫酸化されたラミナリン(CSL)(Sigma−Aldrich)、化学的に硫酸化されたアルギン酸(CSAA)(Sigma−Aldrich)、化学的に硫酸化されたペクチン(CSP)(Sigma−Aldrich)、デキストラン硫酸(DXS)(Sigma−Aldrich)、ヘパリン由来のオリゴ糖(HDO)(Neoparin,Inc.、San Leandro、Calif.)が挙げられる。
【0067】
好ましいNASPは、フコイダン及びペントサンポリスルファートである。フコイダンは、主としてフコースの硫酸化エステルで構成される多糖類であり、分岐度が可変である。結合は、主にα(1→2)又はα(1→3)であり得る。α(1→4)結合も存在し得る。フコースエステルは、主に4及び/又は2及び/又は3位において硫酸化される。モノ硫酸化フコースが支配的であるが、脱硫酸化フコースも存在し得る。硫酸化フコースエステルに加えて、フコイダンは、非硫酸化フコース、D−キシロース、D−ガラクトース、ウロン酸、グルクロン酸、又はこれらの1種類を超える組合せも含み得る。F−フコイダンはフコースの硫酸化エステルで>95%構成されるが、U−フコイダンは約20%グルクロン酸である。
【0068】
本発明は、フィブリノーゲンを含む組織接着剤溶液をカルシウムイオン及び硫酸化多糖類の存在下でトロンビン溶液と混合することを含む、フィブリン凝塊の調製方法も提供する。
【0069】
特に、硫酸化多糖類の存在は、フィブリン凝塊の凝塊不透明性を増加させる。
【0070】
好ましい一態様においては、この方法は、フィブリン凝塊の局所用製剤向けである。
【0071】
好ましい一態様においては、組織接着剤溶液は、組織接着剤溶液とトロンビン溶液の混合によって形成される組成物中に、例えば、0.6μg/mlから10mg/mlなどの1.2μg/mlから20mg/mlの濃度で、硫酸化多糖類を含む。
【0072】
好ましい一態様においては、組織接着剤溶液及びトロンビン溶液は、複数の外筒を有する注射器の別々の注射器外筒に各々提供される。
【0073】
本発明は、硫酸化多糖類を含むフィブリノーゲン製剤も提供する。
【0074】
好ましくは、フィブリノーゲン製剤は1種類であり、フィブリノーゲン製剤を含む組織接着剤溶液は、1ml当たり4IUトロンビン及び40μmol CaClを含む等体積の溶液と混合すると37℃で10分以内にフィブリン凝塊を形成することができる。
【0075】
本発明のフィブリノーゲン製剤は、好ましくは、フィブリノーゲン1mgごとに硫酸化多糖類0.01μgから300μgを含む。
【0076】
本発明は、硫酸化多糖類を含むトロンビン製剤も提供する。
【0077】
トロンビン製剤は、好ましくは、1種類であり、トロンビン製剤を含むトロンビン溶液は、等体積の組織接着剤溶液と混合すると、50mg/mlフィブリノーゲンを含む組織接着剤溶液が37℃で10分以内にフィブリン凝塊を形成するようにすることができる。どちらの溶液も、カルシウムイオンを含み、好ましくは、トロンビン製剤は、トロンビン1IUごとに硫酸化多糖類1.2ngから20mgを含む。
【0078】
別の一態様においては、本発明のフィブリノーゲン製剤又はトロンビン製剤は、凍結乾燥製剤又は凍結溶液である。
【0079】
本発明は、本発明のフィブリノーゲン製剤を含む組織接着剤溶液を1個の注射器外筒に含む注射器も提供する。
【0080】
注射器は、好ましくは、トロンビン溶液を含む更なる注射器外筒を含む。
【0081】
別の一態様においては、本発明は、トロンビン溶液を1個の注射器外筒、組織接着剤溶液を第2の注射器外筒、及び硫酸化多糖類溶液を第3の注射器外筒に含む、注射器を提供する。
【0082】
本発明は、上記方法によって形成される凝塊も提供する。
【0083】
本発明は、さらに、本発明の方法によって形成された凝塊で被覆されたin vitro表面を提供する。
【0084】
本発明は、
− 本発明による止血パッチを創面に適用することを含む組織密封又は組織接着方法、
− 本発明の止血パッチを血液漏出域に適用することを含む、止血を得る方法、
− キャリアを硫酸化多糖類で被覆すること、及び/又は硫酸化多糖類をキャリア内に分布させることを含む、本発明の止血パッチを製造する方法、
− 止血パッチ、例えば、本発明のパッチにおいて止血機能をもたらす硫酸化多糖類の使用
も提供する。
【0085】
好ましくは、上記製剤における、上記パッチにおける、並びに方法及び使用に対する、硫酸化多糖類は、非抗凝固硫酸化多糖類(NASP)である。
【実施例】
【0086】
本発明をそれに何ら限定を加えずに以下の実施例で更に説明する。
【0087】
(実施例1)
驚くべきことに、本発明者らは、高フィブリノーゲン濃度において、フコイダン及びCa2+イオンの存在下で、巨視的にゲル様の凝集体が急速に形成されるのを観察した。すべてのこれら3種類の化合物は、これらの自己集合性凝集体を得るのに必要である。フィブリノーゲン濃度50mg/mlで得られた材料の粘ちゅう性は、フコイダン及びCa2+イオン濃度の増加とともに明るい乳光から凝塊様外観に変化する(図1)。実験では、指定濃度のフコイダンを含むTisseel VH S/D密封タンパク質溶液0.5mlをまず24ウェル細胞培養プレートのウェルに入れる。CaCl溶液0.5mlを添加して、図1に示す最終濃度にし、フィブリノーゲン溶液と迅速に混合する。得られた混合物の濁度及び粘ちゅう性を評価する。一定フィブリノーゲン濃度50mg/mlにおいて、混合物の濁度は、フコイダン又はペントサンポリスルファート濃度の増加とともに増加する。しかしこの増加は、Ca2+イオンに大きく依存する。それは1mMCa2+濃度では低いが、20mMCa2+濃度では顕著である。フコイダン/ペントサンポリホスファート及びCa2+の高濃度で得られた混合物は、ゲル様であり、細胞培養プレート壁に付着するが、低濃度で得られた混合物は、粘性流体の粘ちゅう性を有する。どちらも、ゲル様材料を得るために、より高濃度のフコイダン/ペントサンポリスルファート及びCa2+イオンが必要である。フコイダン/ペントサンポリスルファート及びCa2+イオンのより高濃度で得られる混合物の均一性の欠如は、自己集合による速すぎる硬化、及び気泡含有のために混合が不十分であることによって説明することができる。
【0088】
(実施例2)
実施例1においてフコイダン/ペントサンポリスルファート及びCa2+イオンの最高濃度で得られるゲル様材料の構造物(図1A、B及びCの右上)を走査型電子顕微鏡(SEM)によって分析する。37℃で1.5時間の凝塊形成時間後、凝塊は、0.1カコジラート緩衝剤pH7.3中の2.5%グルタルアルデヒドからなる固定溶液に移される。凝塊と固定溶液の重量比は1:10である。4℃で12時間後、凝塊を前と同じ重量比で0.1Mカコジラート緩衝剤pH7.3を用いて3回洗浄する。後固定を1%フェロシアン化カリウムを含む0.5%四酸化オスミウム中で2時間実施する。凝塊を蒸留水で洗浄し、2.2ジメトキシプロパンを用いて脱水する。試料をアセトンに移し、液体窒素中で破壊する。試料をヘキサメチルジシラザンを用いて化学的に脱水し、スタブに配置し、パラジウム−金アロイで被覆する。
【0089】
得られた画像を図2に示す。フィブリノーゲン、フコイダン/ペントサンポリスルファート及びCa2+イオンの組合せによって得られる新規のゲル様材料は、図5Aに示すフィブリン凝塊と比較して極めて異なる組織を有することが明らかである。3種類の化合物を一緒にすることによって開始される急速な自発的自己集合プロセスにおいては、接着小胞の3次元構造物が形成される。
【0090】
(実施例3)
フィブリノーゲンと一緒にゲル様材料を形成する、Ca2+イオンと組み合わせたフコイダンの観察された諸性質のために、コラーゲンに基づく止血パッドが調製される。その背後にある考えは、コラーゲンパッドに含まれるこれらの添加剤が、血中フィブリノーゲンと相互作用して、コラーゲンパッドの止血性を増強できることである。厚さ2mmのコラーゲンスポンジ(Matristypt(登録商標)、Dr.Suwelack、Germany)をA.nodosum LMWフコイダン及びCaClを含有する溶液で湿らせ、凍結乾燥させる。浸漬溶液は、凍結乾燥後に0.3mg/cm A.nodosum LMWフコイダン及び0.9mg/cm CaClの濃度がパッド中で得られるような濃度の成分を含む。パッドをウサギ止血モデルに適用して、その止血性を評価する。ウサギを1000IU/kg体重でヘパリン処置する。研磨回転ツールを用いて、肝被膜の擦過によって環状出血させる(直径1.8cm)。この傷を上記パッドで処置する。乾燥パッドを出血した傷にあてる。食塩水に浸漬したガーゼを用いてパッドを傷に2分間押しつける。対照として、Matristypt(登録商標)を同じ動物の別の肝葉に同様に適用する。実験を第2の動物を用いて2回実施する。結果は、両方の動物で同じであり、図3に一方の動物の結果を例示する。図3から認められるように、フコイダン及びCaClを含むコラーゲンパッドに浸漬された血液は、対照よりも濃く見える。これは、成分の作用に起因したパッド中でのより速い凝固によって説明することができる。
【0091】
(実施例4)
濁度の動力学に対するフコイダンの影響は、トロンビンによって触媒されたフィブリン凝塊形成中に増加する。得られた凝塊の最終濁度を、希釈フィブリンシーラントTisseel VH S/D(Baxter)をフィブリノーゲン基質として使用してさらに確認する。Tisseel VH S/D密封タンパク質溶液を(フィブリノーゲン濃度5mg/mlに対応して)1/20希釈し、フコイダン濃度を20μM(ペントサンポリスルファート、Ascophyllum nodosum LMW)、2μM(Fucus vesiculosus)、及び0.2μM(Ascophyllum nodosum HMW、Laminaria japonica)に調節する。(フィブリノーゲン、フィブロネクチン及び第XIII因子を含む)これらの希釈Tisseel VH S/D溶液100μlを96ウェルマイクロプレートのウェル中で、40mM CaClを含む0.25IU/mlトロンビン溶液(Baxter)100μlと混合する。37℃での血塊形成中の濁度増加の測定を混合後1.5時間にわたり630nmで記録する。結果を図4に示す。一部のフコイダン、さらにはペントサンポリスルファートも、トロンビンによって触媒された血塊形成反応を加速し、濁度の増加したフィブリン凝塊の形成に影響を及ぼし得ることが認められる。
【0092】
(実施例5)
フィブリン凝塊の濁度増加は、「粗い」凝塊、すなわち、線維直径の増加したフィブリン凝塊に関連する(Oenick MD Studies on fibrin polymerization and fibrin structure−a retrospective.Biophys Chem.2004 Dec 20;112(2−3):187−92)。
【0093】
Fucus vesiculosus由来のフコイダンを含むフィブリン凝塊、及びフコイダンを含まないフィブリン凝塊を実施例4に記載のように調製する。SEM用試料の調製を実施例2に記載のように行う。
【0094】
(実施例6)
トロンビンによって媒介されるフィブリン形成、及びこの方法に対する硫酸化多糖類の効果を試験するアッセイを開発した。手短に述べると、血塊形成は、フィブリノーゲンを含有する溶液中でトロンビンの添加によって開始され、分光光度的に追跡される。405nmにおける吸光度は、フィブリン凝塊の量及び/又は質に依存する凝塊不透明性を示す。
【0095】
96ウェルマイクロプレート(ポリスチレン、F−bottom;Greiner Bio−One GmbH、Kremsmuenster、Austria)の各ウェルに、希釈緩衝剤(25mM Hepes pH7.35、175mM NaCl、2.5mM CaCl、5mg/ml HSA)で希釈されたヒトフィブリノーゲン(プラスミノゲン、フィブロネクチン、第XIII因子欠乏、American Diagnostica Inc.、Stamford、CT、USA)55μlを添加する。アッセイ体積100μlのフィブリノーゲンの最終濃度は2.5mg/mlである。希釈緩衝剤で希釈された硫酸化多糖類試験試料(又は希釈緩衝剤単独)10μlを混合物に添加し、マイクロプレート恒温器上で37℃で15分間インキュベートする。フィブリン凝塊形成は、37℃に予熱された希釈緩衝剤で希釈された予熱されたヒトトロンビン(Enzyme Research Laboratories、South Bend、IN、USA)(又は希釈緩衝剤単独)35μLの添加によって始まる。予熱された(37℃)マイクロプレートリーダー(Safire(商標)マイクロプレートリーダー;Tecan Trading AG、CH)にマイクロプレートをすぐに移し、血塊形成を405nmにおいて30秒ごとに読みとって60分間追跡する。各時点において、各試料ウェルの吸光度読みを、フィブリノーゲンのみを含むウェルの読みを減算して補正する。
【0096】
初期の実験では、トロンビン濃度は、0.1から8nMであり、硫酸化多糖類はアッセイに含まれない。405nmにおける吸光度は、初期に急速に増加するが、約20から30分で平坦になる。60分におけるA405をトロンビン濃度の各々に対して記録する。結果を下表1に示す。
【0097】
【表1】

トロンビン濃度と60分におけるA405は、トロンビン濃度0から0.5nMではほぼ線形関係にある。トロンビン濃度を増加させても、60分におけるA405の同等の増加はそれ以上得られない。したがって、0.5nMトロンビンの濃度を更なる実験に選ぶ。
【0098】
(実施例7)
トロンビンによって媒介されるフィブリン凝塊形成に対する異なる濃度の6種類の硫酸化多糖類の各々の影響を実施例6に記載の方法によって調べる。硫酸化多糖類の詳細を下表2に示す。
【0099】
【表2】

この実験では、トロンビン濃度は0.5nMであり、A405は60分において記録される。試験した各多糖類では、低濃度は、一般に、60分におけるA405にほとんど効果を示さない。濃度を増加させると、一般に、60分におけるA405が大きく増加する結果になる。増加が認められる濃度は、異なる多糖類間では変わる。例えば、L.japonica由来のフコイダンは、100nMにおいて60分のA405が大きく増加する。対照的に、100nMのペントサンポリスルファートナトリウムは、無視し得る効果しか持たないが、10000nMでは大きい効果を有する。結果を下表3に示す。
【0100】
【表3】

硫酸化多糖類がフィブリン凝塊形成を刺激するnM濃度は広範に変動するが、60分におけるA405が、硫酸化多糖類の非存在下でのアッセイと比較してアッセイにおいて少なくとも2倍になるμg/ml単位の濃度は、異なる多糖類間でほぼ類似している。結果を下表4に示す。
【0101】
【表4】

高濃度、すなわち約50〜100μg/mlの範囲の硫酸化多糖類は、一般に、実施例6において8nMトロンビンの使用によって認められる増加よりも大きい凝塊不透明性の増加をトロンビン濃度0.5nMにおいて引き起こす。したがって、結果は、凝塊不透明性(したがって、フィブリン生成及び/又は凝塊品質)が、トロンビン濃度の増加によってシミュレートすることができないほど、硫酸化多糖類によって改善できることを示唆している。
【0102】
(実施例8)
硫酸化多糖類は、トロンビンに依存したフィブリン生成を改善するために、フィブリンシーラントに含有させることができる。硫酸化多糖類の含有によって改変することができる適切なフィブリンシーラントは、Baxter Healthcare Corporation(CA、USA)製Tisseel(登録商標)フィブリンシーラントである。これは、本発明の最も好ましい実施形態である。
【0103】
密封タンパク質溶液は、Fibrinotherm(登録商標)などの加温撹拌装置を使用して通常の方法で密封タンパク質濃縮物を線維素溶解阻害剤溶液に37℃で溶解させることによって調製される。しかし、多量の硫酸化多糖類を密封タンパク質濃縮物又は線維素溶解阻害剤溶液に含有させて、100から200μg/mlの範囲の密封タンパク質溶液中の最終濃度を与えることができる。トロンビンは、通常の方法によって、CaCl溶液中に戻して、トロンビン溶液にされる。溶液の各々を、すぐ使用できるDuploject(登録商標)注射器の2個の注射器本体の一方に吸引する。フィブリンシーラントは、別の方法によってもすぐ使用できるように調製することができ、例えば、凍結した充填済み注射器として保存し、解凍してすぐに使用することができる。Tisseel(登録商標)フィブリンシーラントの調製に適切な方法のどれでも適切である。
【0104】
すぐ使用できるフィブリンシーラントは、医療専門家によって、例えば、出血の抑制に使用することができる。Duploject(登録商標)注射器からの排出中に溶液が混合されると、硫酸化多糖類は、フィブリン生成を改善するために、100から200μg/mlの濃度範囲で混合物中に存在するであろう。フィブリンシーラントは乾燥された創面に薄層として塗布することができ、密封された部分を所望の位置に約3から5分間保持又は固定することができる。
【0105】
フィブリンシーラントは、Tisseel(登録商標)フィブリンシーラントが適切である任意の適応症に使用することができる。例えば、フィブリンシーラントは、心肺バイパスを含む手術及び腹部の鈍的若しくは鋭的外傷によるひ臓傷害の治療において、止血の補助として使用することができる。あるいは、フィブリンシーラントは、人工肛門形成術の閉鎖の補助として使用することができる。
【0106】
硫酸化多糖類を密封タンパク質溶液成分に含有させる別法として、それをトロンビン溶液に含有させることができる。
【0107】
Tisseel(登録商標)フィブリンシーラントは、通常、早すぎる線維素溶解を防止するためにアプロチニンを含む。しかし、一部の個体は、アプロチニンに過敏である。硫酸化多糖類をTisseel(登録商標)フィブリンシーラントに含有させて、かかる個体に使用されるアプロチニンを省略することができる場合もある。硫酸化多糖類によってもたらされるフィブリン生成の増加又は凝塊質の改善によって、アプロチニンの使用を不要にすることができる。
【0108】
(実施例9)
硫酸化多糖類は、トロンビンに依存したフィブリン生成を改善するために、止血パッチに含有させることができる。
【0109】
例えば、国際公開第96/22115号(Delmotte and Krack;Baxter International Healthcare、IL)に開示されている架橋フィブリンの自立シート様材料は、硫酸化多糖類溶液に、典型的には100から200μg/mlの濃度で、浸漬することができる。フィブリンシートを無菌条件下で乾燥させ、将来の使用のために保存する。
【0110】
フィブリンシートは、その後、外科医によって、フィブリンシートを創面に適用することによって、場合によってはフィブリンシートと創面の間に一層のTisseel(登録商標)フィブリンシーラントを用いて、ひ臓障害などの内部の外傷性障害の治療に使用することができる。硫酸化多糖類は、血塊形成を促進し、したがって出血を抑制し、フィブリンシートは癒着の発生を防止する。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図2A】

【図2B】

【図2C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィブリノーゲンと硫酸化多糖類を、1成分組成物として、又はフィブリノーゲンと硫酸化多糖類を別々の成分として含む部品からなるキットとして、含む、製剤。
【請求項2】
(a)請求項1に記載の製剤を溶液として提供する工程、
(b)陽イオン含有溶液を、トロンビンを場合によっては含む別個の成分として、又は陽イオン含有溶液を、トロンビンを場合によっては含む請求項1に記載の硫酸化多糖類成分と一緒の溶液として、提供する工程、
(c)場合によってはトロンビン溶液を提供する工程、及び
(d)フィブリン凝塊様構造物が得られるように(a)と(b)と場合によっては(c)とを同時に又は続いて任意の順で混合する工程
を含む方法によって得ることができる、フィブリン凝塊様構造物。
【請求項3】
(1)キャリア、及び
(2)硫酸化多糖類である少なくとも1種類の止血剤
を含み、
該キャリアが硫酸化多糖類である場合、該キャリアは該止血剤と同じ硫酸化多糖類ではない、
止血パッチ。
【請求項4】
前記キャリアが、コラーゲン、ゼラチン、フィブリノーゲン、フィブリン及び多糖類又はその誘導体若しくは混合物からなる群から選択される生体適合性材料である、請求項3に記載の止血パッチ。
【請求項5】
2成分注射器システムであって、
(a)該第1の注射器外筒中の請求項1に記載の1成分組成物、及び
(b)該第2の注射器外筒中の、場合によってはトロンビンと一緒の、陽イオン含有製剤
又は
(a’)該第1の注射器外筒中の、場合によってはトロンビンと一緒の、請求項1に記載の別々の硫酸化多糖類と陽イオンを含有する製剤、及び
(b’)該第2の注射器外筒中のフィブリノーゲン製剤
を含む、2成分注射器システム。
【請求項6】
止血を促進するための、請求項1に記載の製剤、請求項2に記載のフィブリン凝塊様構造物、又は請求項3に記載のパッチの使用。
【請求項7】
創傷治癒のための、請求項1に記載の製剤の製剤、請求項2に記載のフィブリン凝塊様構造物、又は請求項3に記載のパッチの使用。
【請求項8】
請求項1に記載の製剤、請求項2に記載のフィブリン凝塊様構造物、又は請求項3に記載のパッチの薬物送達システムとしての使用。
【請求項9】
請求項1に記載の製剤、請求項2に記載のフィブリン凝塊様構造物、又は請求項3に記載のパッチを創面に適用することを含む、組織密封又は組織接着の方法。

【図3】
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【図5A】
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【図5B】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−511548(P2012−511548A)
【公表日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−540116(P2011−540116)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【国際出願番号】PCT/EP2009/066897
【国際公開番号】WO2010/066869
【国際公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【出願人】(501453189)バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム (289)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER HEALTHCARE S.A.
【Fターム(参考)】