説明

フィラメントワインディング装置およびフィラメントワインディング方法

【課題】ライナ等の被巻回部材の周囲に繊維束を平滑に巻回できるようにする。
【解決手段】繊維給糸口81を、軸回りに相対回転する被巻回部材20の軸方向に相対移動させ、繊維給糸口81から繊維束70を給糸して被巻回部材20の周囲に巻回するフィラメントワインディングの際、被巻回部材20の周囲に既に巻回された繊維束70を検出し、該検出結果に基づき、当該繊維束70の次に巻回する繊維束70の位置を制御する。繊維束70を検出する繊維束検出部82は、例えば、既に巻回された繊維束70を色により識別して検出するもの、あるいは、既に巻回された繊維束70の側部が形成する段差70gを検出するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラメントワインディング装置およびフィラメントワインディング方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、フィラメントワインディング時の繊維巻回手法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
水素等の貯蔵に利用されるタンクとして、ライナの外周にフープ層とヘリカル層とが交互に積層されたFRP層を備えるものが利用されている。フープ層は、繊維束(例えば炭素繊維束)がフープ巻(タンク胴体部においてタンク軸にほぼ垂直に巻く巻き方)されて形成された層であり、ヘリカル層は、繊維束がヘリカル巻(タンク軸にほぼ平行であり、タンクドーム部まで巻く巻き方)されて形成された層である(本願の図2参照)。このように繊維束を巻回する際に利用されるフィラメントワインディング装置ないし方法においては、従来、あらかじめ作成したプログラムにしたがった制御(プログラム制御)によって繊維束を巻回することが一般に行われている。
【0003】
また、フィラメントワインディングの際、FRP層の外殻におけるM値(繊維方向伸度/繊維直角方向伸度)が2以下であることが必須の条件となる場合がある。このような場合、外殻表面の歪み測定を実施し、これにより、当該M値の計算に必要なFRP製外殻の繊維方向および繊維直角方向の破断伸度を求めるという技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−219393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のごとき従来技術においては、繊維束の歪みを測定することができるが、対象となる被巻回部材の周囲に当該繊維束を平滑に巻回することができないという点で問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、ライナ等の被巻回部材の周囲に繊維束を平滑に巻回することのできるフィラメントワインディング装置およびフィラメントワインディング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するべく本発明者は種々の検討を行った。タンクを成形する際、フープ層あるいはヘリカル層内で繊維束を平滑に巻回することができないと、繊維束どうしの重なりが発生し、あるいは繊維束間に空隙(ボイド)が生じ、同一層内での強度が不均一となることがある。この場合、当該層でのCF(炭素繊維)の強度発現率が低下し、ひいてはタンクの性能が劣化してしまう可能性がある。この点についてさらに検討すると、従来技術においては、あらかじめ決められた経路に繊維束を巻き付けるようにフィラメントワインディング装置のアイ口(繊維給糸口)が動作していることが関与している。特にこの点に着目した本発明者は、かかる課題の解決に結び付く新たな知見を得るに至った。
【0008】
本発明はかかる知見に基づくもので、繊維給糸口を、軸回りに相対回転する被巻回部材の軸方向に相対移動させ、繊維給糸口から繊維束を給糸して被巻回部材の周囲に巻回するフィラメントワインディング装置において、被巻回部材の周囲に既に巻回された繊維束を検出する繊維束検出部と、次に巻回する繊維束の位置を制御する制御部と、を備えるというものである。
【0009】
このフィラメントワインディング装置においては、被巻回部材に既に巻回された直近の繊維束の位置を検出し、当該繊維束に隣接させるべき次の繊維束の巻回位置をこの検出結果に基づいて制御することが可能である。したがって、繊維束が重なり合うことによって凹凸が生じたり、繊維束間の隙間が増大して空隙(ボイド)が形成されたりすることを回避し、繊維束を平滑に巻回することができる。
【0010】
このようなフィラメントワインディング装置における繊維束検出部は、例えば、既に巻回された繊維束を色により識別して検出するものである。あるいは、繊維束検出部は、既に巻回された繊維束の側部が形成する段差を検出するものである。
【0011】
また、本発明にかかる方法は、繊維給糸口を、軸回りに相対回転する被巻回部材の軸方向に相対移動させ、繊維給糸口から繊維束を給糸して被巻回部材の周囲に巻回するフィラメントワインディング方法において、被巻回部材の周囲に既に巻回された繊維束を検出し、該検出結果に基づき、当該繊維束の次に巻回する繊維束の位置を制御するというものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ライナ等の被巻回部材の周囲に繊維束を平滑に巻回することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態における高圧タンクの構造を示す断面図および部分拡大図である。
【図2】本発明の一実施形態における高圧タンクの構造を示す断面図である。
【図3】高圧タンクの口金付近の構造例を示す断面図である。
【図4】平滑ヘリカル層におけるヘリカル巻の一例を示す斜視図である。
【図5】平滑ヘリカル層におけるヘリカル巻の一例を示す、タンク軸方向に沿った投影図である。
【図6】フィラメントワインディング装置のアイ口(繊維給糸口)を使ってライナの外周に繊維を巻き付ける様子を示す図である。
【図7】フープ層を形成する繊維束を巻回する際のフィラメントワインディング装置の平面図である。
【図8】図7に示したフィラメントワインディング装置の側面図である。
【図9】ヘリカル層を形成する繊維束を巻回する際のフィラメントワインディング装置の平面図である。
【図10】図9に示したフィラメントワインディング装置の側面図である。
【図11】撮像装置による図8中の破線部分の画像例を示す図である。
【図12】繊維束の側部に形成される段差を撮像装置によって撮像した際の画像例を示す図である。
【図13】(A)設計どおり平滑に積層された状態の繊維束、(B)設計よりも幅が広く一部が重なった状態の繊維束、(C)設計よりも幅が狭く空隙(ボイド)が生じた状態の繊維束 を示す図である。
【図14】従来のヘリカル巻の一例を参考として示す斜視図である。
【図15】従来のヘリカル巻の一例を参考として示す、タンク軸方向に沿った投影図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0015】
図1〜図13に本発明にかかるフィラメントワインディング装置およびフィラメントワインディング方法の実施形態を示す。以下では、燃料電池システム等において利用される水素燃料供給源としての高圧水素タンク(以下、高圧タンクともいう)1を挙げ、当該高圧タンク1をFRP成形する場合を例示しつつ説明する。
【0016】
高圧タンク1は、例えば両端が略半球状である円筒形状のタンク本体10と、当該タンク本体10の長手方向の一端部に取り付けられた口金11を有する。なお、本明細書では略半球状部分をドーム部、筒状胴体部分をストレート部といい、それぞれ符号1d,1sで表す(図1、図2等参照)。また、本実施形態で示す高圧タンク1は両端に口金11を有するものであるが、説明の便宜上、当該高圧タンク1の要部を示す図3中のX軸の正方向(矢示する方向)を先端側、負方向を基端側として説明を行う。このX軸に垂直なY軸の正方向(矢示する方向)がタンク外周側を指している。
【0017】
タンク本体10は、例えば二層構造の壁層を有し、内壁層であるライナ20とその外側の外壁層である樹脂繊維層(補強層)としての例えばFRP層21を有している。FRP層21は、例えばCFRP層21cのみ、あるいは該CFRP層21cおよびGFRP層21gによって形成されている(図1参照)。
【0018】
ライナ20は、タンク本体10とほぼ同じ形状に形成される。ライナ20は、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、またはその他の硬質樹脂などにより形成されている。あるいは、ライナ20はアルミニウムなどで形成された金属ライナであってもよい。
【0019】
ライナ20の口金11のある先端側には、内側に屈曲した折返し部30が形成されている。折返し部30は、外側のFRP層21から離間するようにタンク本体10の内側に向けて折り返されている。
【0020】
口金11は、略円筒形状を有し、ライナ20の開口部に嵌入されている。口金11は、例えばアルミニウム又はアルミニウム合金からなり、例えばダイキャスト法等により所定の形状に製造されている。口金11は射出成形された分割ライナに嵌め込まれている。口金11は例えばインサート成形によりライナ20に取り付けられてもよい。口金11にはバルブアッセンブリ50が設けられる(図2参照)。
【0021】
また、口金11は、例えば先端側(高圧タンク1の軸方向の外側)にバルブ締結座面11aが形成され、そのバルブ締結座面11aの後方側(高圧タンク1の軸方向の内側)に、高圧タンク1の軸に対して環状の凹み部11bが形成されている。凹み部11bは、軸側に凸に湾曲しR形状になっている。この凹み部11bには、同じくR形状のFRP層21の先端部付近が気密に接触している。
【0022】
例えばFRP層21と接触する凹み部11bの表面には、例えばフッ素系の樹脂などの固体潤滑コーティングCが施されている。これにより、FRP層21と凹み部11bとの間の摩擦係数が低減されている。
【0023】
口金11の凹み部11bのさらに後方側は、例えばライナ20の折返し部30の形状に適合するように形成され、例えば凹み部11bに連続して径の大きい鍔部(ツバ部)11cが形成され、その鍔部11cから後方に一定径の口金円筒部11dが形成されている。
【0024】
FRP層21は、例えばフィラメントワインディング成形(FW成形)により、ライナ20の外周面と口金11の凹み部11bに、樹脂を含浸した繊維(補強繊維)70を巻き付け、当該樹脂を硬化させることにより形成されている。FRP層21の樹脂には、例えばエポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が用いられる。また、繊維70としては、炭素繊維(CF)、金属繊維などが用いられる。フィラメントワインディング成形の際には、タンク軸を中心としてライナ20を回転させながら繊維70のガイドをタンク軸方向に沿って動かすことにより当該ライナ20の外周面に繊維70を巻き付けることができる。なお、実際には複数本の繊維70が束ねられた繊維束がライナ20に巻き付けられることが一般的であるが、本明細書では繊維束である場合を含めて単に繊維と呼ぶ。
【0025】
次に、タンク1における繊維(例えば炭素繊維CF)70の構造的曲げを低減するための繊維巻きパターンについて説明しておく(図2等参照)。
【0026】
上述したように、タンク1は、ライナ20の外周に繊維(例えば炭素繊維)70を巻き付け、樹脂を硬化させることにより形成されている。ここで、繊維70の巻き付けにはフープ巻とヘリカル巻があり、樹脂がフープ巻された層によってフープ層(図2において符号70Pで示す)が、ヘリカル巻された層によってヘリカル層(図4、図5において符号70Hで示す)がそれぞれ形成される。前者のフープ巻は、タンク1のストレート部(タンク胴体部分)に繊維70をコイルスプリングのように巻くことによって当該部分を巻き締め、気体圧によりY軸正方向へ向かう力(径方向外側へ拡がろうとする力)に対抗するための力をライナ20に作用させるものである。一方、後者のヘリカル巻はドーム部を巻き締め方向(タンク軸方向の内側向き)に巻き締めることを主目的とした巻き方であり、当該ドーム部に引っ掛かるようにして繊維70をタンク1に対し全体的に巻き付けることにより、主として当該ドーム部の強度向上に寄与する。なお、コイルスプリングのように巻かれた繊維70の弦巻(つるまき)線(ネジにおけるネジ山の線)と、当該タンク1の中心線(タンク軸12)とのなす角度(のうちの鋭角のほう)が、図2において符号αで示す、本明細書でいう繊維70の「タンク軸(12)に対する巻角度」である(図2参照)。
【0027】
これら種々の巻き付け方のうち、フープ巻は、ストレート部において繊維70をタンク軸にほぼ垂直に巻くものであり、その際の具体的な巻角度は例えば80〜90°である(図2参照)。ヘリカル巻(または、インプレ巻)は、ドーム部にも繊維70を巻き付ける巻き方であり、タンク軸に対する巻角度がフープ巻の場合よりも小さい(図2参照)。ヘリカル巻を大きく2つに分ければ高角度ヘリカル巻と低角度ヘリカル巻の2種類があり、そのうち高角度ヘリカル巻はタンク軸に対する巻角度が比較的大きいもので、その巻角度の具体例は70〜80°である。一方、低角度ヘリカル巻は、タンク軸に対する巻角度が比較的小さいもので、その巻角度の具体例は5〜30°である。なお、本明細書においては、これらの間となる30〜70°の巻角度でのヘリカル巻を中角度ヘリカル巻と呼ぶ。さらに、高角度ヘリカル巻、中角度ヘリカル巻、低角度ヘリカル巻により形成されるヘリカル層をそれぞれ高ヘリカル層(符号70HHで示す)、中ヘリカル層、低ヘリカル層(符号70LHで示す)と呼ぶ。また、高角度ヘリカル巻のドーム部1dにおけるタンク軸方向の折り返し部分を折返し部と呼ぶ(図2参照)。
【0028】
続いて、繊維70を巻くためのフィラメントワインディング(FW)装置について説明する(図6、図8参照)。図6、図8に示すフィラメントワインディング装置80は、タンク軸を中心としてライナ20を回転させながら、繊維70の繊維給糸口(以下、「アイ口」という)81をタンク軸方向に沿って往復動させることにより当該ライナ20の外周に繊維70を巻き付けるものである。ライナ20の回転数に対するアイ口81の動きの相対速度を変化させることによって繊維70の巻角度を変えることができる。
【0029】
フィラメントワインディング装置80には、ライナ20の周囲に既に巻回された繊維70を検出し、当該検出結果をフィードバックして、次に巻回する繊維70の位置を制御するための機能が備え付けられていることが好ましい。一般に、フィラメントワインディング装置80は、繊維70をその表面が平滑となるよう巻回し、フープ層(あるいはヘリカル層)が平滑な状態で積層されるように設定されている(図13(A)参照)。しかし、設定とは異なる場合、例えば繊維70の実際の幅が設定よりも広くなっているような場合、繊維70の一部が隣の繊維70に重なった状態で巻回されてしまい、表面に凹凸が生じることがある(図13(B)参照)。また、これとは逆に繊維70の実際の幅が設定よりも狭くなっている場合には、繊維70間に隙間が生じて空隙(ボイド)が形成されることがある(図13(C)参照)。この点、上述のような繊維70を検出する機能、検出結果をフィードバックする機能を備えたフィラメントワインディング装置80においては、実際の繊維幅が設定値と異なっている場合に適宜対応して凹凸や空隙(ボイド)を抑制することが可能である。例えば本実施形態のフィラメントワインディング装置80は、ライナ20に既に巻回された直近の繊維70を検出する繊維(束)検出部としての撮像装置82と、次に巻回する繊維70の位置などを制御する制御装置(制御部)83とを備えている(図7等参照)。
【0030】
撮像装置82は、既に巻回された直近の繊維70を撮像して位置を検出するためのカメラやモニタ等の装置からなる。例えば本実施形態では撮像装置82としてCCDカメラを用い、ライナ20の外周にて繊維70が新たに巻き付けられる部分を含む領域を撮像してモニタリングする(なお、図7等では撮像領域を楕円等で示している)。本実施形態の場合、撮像装置82による画像は、繊維70が既に巻回されている部分は黒色で表示され、繊維70がまだ巻回されていないライナ20の表面はライナ表面の色(例えば白色)で表示されたものとなる(図11参照)。このように、新たに巻き付けられる部分のモニタ画像を利用すれば、繊維70の幅に広狭がある場合にも、ライナ20の周回毎に直近の繊維70の位置をフィードバックして次の繊維70を隣接させることが可能となる。なお、繊維70の色は特に黒色に限定されることはなく、ライナ表面の色と識別しうる種々の色を採用することができる。また、必要に応じて繊維70の色を途中で変えることも好ましい。こうした場合、2層目以降の繊維70の色と、既に巻回されている繊維70の色とを識別することができる。また、フープ層70Pとヘリカル層70Hとで繊維70の色を変えるということもできる。
【0031】
撮像装置82は、向きあるいは検出位置が可変であることが好ましい。ライナ20の外周に繊維70を巻回するにつれて巻回位置が変わり、また、アイ口81から給糸される繊維70の当該アイ口81に対する角度も変わる。これに対しては、撮像装置82の向きと検出位置の一方または両方を適宜変えることによって、ライナ20に既に巻回された直近の繊維70をより正確に検出することが可能である。例えば本実施形態では、撮像装置82をアイ口81に一体化し、撮像装置82が当該アイ口81とともにタンク軸方向に移動する構成としている(図7、図8等参照)。このようなフィラメントワインディング装置80によれば、ライナ20の外周に巻回された直近の繊維70の近傍を撮像しやすい(図7、図8参照)。しかも、アイ口81をタンク軸方向に移動させるための機構やアクチュエータを利用することができるので有利である。
【0032】
さらに、本実施形態の撮像装置82は、図8等において符号80xで示す軸(繊維70の供給方向に沿った前後軸)を中心として回動可能に設けられている。また、この場合に、撮像装置82が例えば棒状の支持部材84を介してアイ口81に支持されていることも好ましい。当該支持部材84を倒すように撮像装置82を回動させれば、当該支持部材84を利用して撮像装置82をドーム部1寄りに位置させることができる(図9、図10参照)。
【0033】
加えて、本実施形態の撮像装置82は、撮像エリア(センサ測定領域)を適宜変えることができるよう、その向きが可変となるように構成されている。例えば、上述した支持部材84に対して、当該支持部材84の長手方向軸を中心に回動可能に設けられた撮像装置82は、ヘリカル巻の際にドーム部1dに巻回されている繊維70やその近傍を向いて撮像することが可能である(図9、図10参照)。さらに、撮像装置82が、上下方向の向きを変えるように回動可能に構成されていることも好ましい(図8等参照)。特に図示していないが、このほか、支持部材84を伸縮させて撮像装置82の高さ等を変化させうるようにしてもよい。上述のように角度を変えるための機構は、例えば軸受やサーボモータ等を利用して構成することができる。
【0034】
この撮像装置82によれば、繊維70が既に巻回されている部分が黒色で表示され、繊維70がまだ巻回されていないライナ20の表面がライナ表面色(例えば白色)で表示された画像を撮像することによって直近の繊維70の位置を制御装置83にフィードバックすることができるが(図11参照)、このほか、繊維70の側部に形成される段差70gを検出してフィードバックすることもできる。すなわち、繊維70が既に巻かれた部分がそうでない部分との段差70gを撮像し、当該段差70gの位置に基づいて直近の繊維70の位置を制御装置83にフィードバックすることもできる(図12参照)。この場合、新たに巻回する繊維70を、段差70gを形成している直近の繊維70の側部に隣接させるように制御することによって当該繊維70の重なりや空隙(ボイド)が生じるのを抑制することができる。このように繊維70の段差70gを検出する場合、撮像装置82は、ライナ20の外周を接線方向から撮像する位置に配置されることが好ましい(図8参照)。
【0035】
以上説明した本実施形態のフィラメントワインディング装置80によれば、撮像装置(繊維束検出部)82を利用し、ライナ20の周回毎に直近の繊維70の位置をフィードバックすることによって、次に巻回する新しい繊維70を既に巻回されている繊維70に隣接させながら隙間なく巻回することができる。したがって、繊維束が重なり合うことによって凹凸が生じたり、繊維間の隙間が増大して空隙(ボイド)が形成されたりすることを回避し、繊維70を平滑に巻回することができる。
【0036】
しかも、フィラメントワインディング時、繊維70を常時モニタリングし、検出結果を順次フィードバックして必要な補正ができるようにした本実施形態のフィラメントワインディング装置80によれば、繊維70の幅に広狭にかかわらず当該繊維70を隙間なく平滑に巻回することが可能である。したがって、このフィラメントワインディング装置80を用いた場合にはプログラム制御用のプログラムが不要であり、繊維幅を計算してあらかじめプログラムを作成するといった従前の手間を省略することができるという利点もある。
【0037】
また、以上のように各繊維70を平滑に巻回することにより、タンク強度を向上させることもできる。すなわち、ヘリカル層70H、フープ層70Pとも、内側に位置する層(ライナ20寄りの層)ほどタンク強度への寄与度が大きく、特に、ストレート部1sを巻き締めて耐圧力を十分に作用させるという点において最内層のフープ層70Pの役割が大きい。この点、より内側のヘリカル層70Hを平滑なヘリカル層とすることにより、該平滑ヘリカル層70Hの外側に隣接するフープ層70Pをも平滑に形成することが可能となり、当該フープ層70Pをタンク強度の向上に大きく寄与させることができる。
【0038】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば上述した各実施形態では、撮像装置82の好ましい設置形態の一例としてアイ口81と一体化した場合を例示したが、特にこのような形態に限られることはなく、アイ口81とは別体とした構成としてもよい(図8参照)。特に図示していないが、こうした場合、アイ口81をタンク軸方向に移動させるための機構やアクチュエータ等とは別の装置を利用し、撮像装置82を当該アイ口81の動きから独立して移動させることができる。
【0039】
また、上述した実施形態では撮像装置82の具体例としてCCDカメラを示したが、これも好適な一例にすぎない。撮像装置82は、既に繊維70が巻回された部分とこれから繊維70が巻回される部分とを区別するに足る画像が得られるものであればよく、したがってCCDカメラ以外のカメラやモニタ等を用いることも当然に可能である。
【0040】
また、上述した実施形態では撮像装置82が単一である場合を例示して説明したが、もちろん、一つのフィラメントワインディング装置80において複数の撮像装置82を用いるようにしてもよい。こうした場合には、ある撮像装置82によって繊維70の色とライナ表面の色の違いに基づくデータを検出し、別の撮像装置82によって繊維70間の段差70gに基づくデータを検出することも可能である。
【0041】
また、ここまでの実施形態では、燃料電池システム等において利用可能な水素タンクに本発明を適用した場合を例示して説明したが、水素ガス以外の流体を充填するためのタンクに本発明を適用することももちろん可能である。
【0042】
さらに、本発明を、タンク(圧力容器)以外の物、例えば、FRP層を有する長尺物や構造物などの筒体(筒状の部分を含む)に適用することも可能である。一例を挙げれば、心棒(例えばマンドレルのようなもの)や型の外側にヘリカル巻やフープ巻によって繊維70を巻き付け、ヘリカル層70Hやフープ層70Pを有するFRP層21を形成する場合に、平滑ヘリカル層70Hを形成することとすれば、繊維70の構造的曲げを低減させる、疲労強度を向上させる、1層あたりの厚みを薄くする、といった、上述した実施形態におけるのと同様の作用効果を実現することが可能となる。筒体の具体例としては、ゴルフクラブのシャフトやカーボンバットといった運動用具、釣竿等のレジャー用具、さらにはプラント設備等のエンジニアリング製品、建築資材などの構造物といったものを挙げることができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、FRP層を有するタンク、さらには長尺物や構造物などの筒体に適用して好適なものである。
【符号の説明】
【0044】
20…ライナ(被巻回部材)、70…繊維(繊維束)、70g…段差、80…フィラメントワインディング装置、81…アイ口(繊維給糸口)、82…撮像装置(繊維束検出部)、83…制御装置(制御部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維給糸口を、軸回りに相対回転する被巻回部材の軸方向に相対移動させ、前記繊維給糸口から繊維束を給糸して前記被巻回部材の周囲に巻回するフィラメントワインディング装置において、
前記被巻回部材の周囲に既に巻回された繊維束を検出する繊維束検出部と、
次に巻回する繊維束の位置を制御する制御部と、
を備えるフィラメントワインディング装置。
【請求項2】
前記繊維束検出部は、既に巻回された前記繊維束を色により識別して検出するものである、請求項1に記載のフィラメントワインディング装置。
【請求項3】
前記繊維束検出部は、既に巻回された前記繊維束の側部が形成する段差を検出するものである、請求項1に記載のフィラメントワインディング装置。
【請求項4】
前記繊維束検出部は、前記繊維給糸口に一体化された撮像装置である、請求項1から3のいずれか一項に記載のフィラメントワインディング装置。
【請求項5】
前記繊維束検出部は、検出方向が可変に設けられた撮像装置である、請求項1から4のいずれか一項に記載のフィラメントワインディング装置。
【請求項6】
繊維給糸口を、軸回りに相対回転する被巻回部材の軸方向に相対移動させ、前記繊維給糸口から繊維束を給糸して前記被巻回部材の周囲に巻回するフィラメントワインディング方法において、
前記被巻回部材の周囲に既に巻回された繊維束を検出し、該検出結果に基づき、当該繊維束の次に巻回する繊維束の位置を制御するフィラメントワインディング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−253789(P2010−253789A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106201(P2009−106201)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】