説明

フィラメントワインディング装置

【課題】生産効率の向上および低コスト化を可能とする。
【解決手段】フィラメントワインディング装置は、マンドレルMを支持し、マンドレルMの軸方向に往復移動でき、マンドレルMを回転させる支持台2と、マンドレルMに繊維束Rを供給するボビン17を支持し、軸方向に往復移動でき、マンドレルMの周囲を回転するフープ巻装置3と、固定的に設置され、マンドレルMに複数の繊維束Rを供給するヘリカル巻装置4とを備える。フープ巻を行うときには、支持台2は、軸方向及び回転方向に静止しており、フープ巻装置3が、軸方向に移動しながら回転して、マンドレルMの周面に繊維束Rをフープ巻で巻き付け、ヘリカル巻を行うときには、支持台2が、軸方向に移動しながらマンドレルMを回転させて、マンドレルMの周面に繊維束Rをヘリカル巻で巻き付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フープ巻装置及びヘリカル巻装置を備えたフィラメントワインディング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フィラメントワインディング(以下、FWという)法により、圧力タンクなどの中空容器やパイプなどを製造する場合、例えば、樹脂などを含浸させた繊維束をマンドレル(ライナーともいう)の回りに、フープ巻きし、あるいはヘリカル巻きすることにより補強層を形成する、特許文献1に記載のようなFW装置が知られている。
【0003】
【特許文献1】特開平10−119138号公報(段落番号0002、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一群の繊維束をマンドレルに対して同時にヘリカル巻すると、ワインディング処理をより短時間で行うことができ、その分だけ圧力容器などを能率よく製造できる。その限りでは、ヘリカル巻によってマンドレルに巻き付けられる繊維束の本数が多いほど、ワインディング処理に要する時間を短くすることができることになる。
【0005】
上記するFW装置では、例えば、ヘリカル巻き装置により繊維束をマンドレルのまわりにヘリカル巻きする場合、ヘリカル巻きヘッドを構成するヘリカル巻きリングに等角度間隔に取り付けられている糸道ガイド筒内に、繊維束を通してマンドレル上の巻き付け位置に案内している。
【0006】
従来、上記する糸道ガイド筒は、円筒形状のパイプ形状のものが用いられていた。これに対して、案内される繊維束Rは、扁平性を有する扁平状繊維束により構成されている場合もあり、当該扁平性のある繊維束を、従来のような円筒形状の糸道ガイド筒に通すと、図8B1および図8B2に示すように、当該繊維束Rが、糸道ガイド筒を通過する過程において、横断面円形状に型くずれしてしまい、ヘリカル巻きに適した形態の繊維束をマンドレル上に供給案内することができず、へリカル巻きによる製品の安定化を阻害するものであった。
【0007】
そこで、この発明は、ヘリカル巻き装置におけるヘリカル巻きヘッドに組み込まれている糸道ガイド筒の筒孔を、形状的に変更することによって、当該糸道ガイド筒における筒孔を通ってマンドレル上に案内される繊維束の状態を安定化させ、その結果、ヘリカル層を適正に、しかも能率よく形成することができるフィラメントワインディング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、上記する課題を解決するにあたって、具体的には、マンドレルの周面に繊維束をヘリカル巻きに巻き付けるヘリカル巻装置を備えているフィラメントワインディング装置であって、
前記ヘリカル巻装置は、基台に立設される固定フレームと、前記固定フレームで支持されるヘリカル巻ヘッドとを含み、
前記ヘリカル巻ヘッドは、前記マンドレルの軸心に沿って隣接配置されて、周方向へ相対回転自在に連結される複数個のガイドリングと、各ガイドリングの周方向に沿って等間隔おきに配置される一群の糸道ガイド筒とを含むものからなり、
前記糸道ガイド筒が、該糸道ガイド筒内を通過する平状繊維束の平状状態を維持する平状状態維持手段を有するものからなることを特徴とするフィラメントワインディング装置を構成するものである。
【0009】
さらに、この発明において、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のフィラメントワインディング装置であって、前記平状状態維持手段が、糸道ガイド筒の筒孔により構成され、前記糸道ガイド筒の筒孔が、横断面扁平矩形状の扁平角孔であることを特徴とするものである。
【0010】
さらに、この発明において、請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載のフィラメントワインディング装置であって、前記糸道ガイド筒の筒孔が、扁平角孔でなり、前記繊維束の巻き角度に応じて、前記糸道ガイド筒の扁平角孔の向きを制御する向き制御手段を設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明では、マンドレルの周面に繊維束をヘリカル巻きで巻き付けるヘリカル巻装置を備えているフィラメントワインディング装置において、ヘリカル巻きヘッドに取り付けられている糸道ガイド筒に対し、平状の繊維束を平状に維持した状態でマンドレル上に案内する平状状態維持手段を設けたことにより、当該糸道ガイド筒を通ってマンドレル上に案内される繊維束の状態を安定化させた状態で巻き付け位置に供給することができ、その結果、ヘリカル巻き層を適正に、しかも能率よく形成することができるという点において、極めて有効に作用するものといえる。
【0012】
さらに、この発明では、平状状態維持手段が、糸道ガイド筒の筒孔により構成され、糸道ガイド筒の筒孔が、扁平角孔によって構成されるものであり、構造が簡単であり、製造が容易であるなどの点において、極めて有効に作用するものといえる。
【0013】
繊維束の巻き角度に応じて、糸道ガイド筒の扁平角孔の向きを制御する向き制御手段を設けたことにより、巻き角度の如何にかかわりなく、平状に維持した繊維束をマンドレル上の巻き付け位置に供給することができるという点においても極めて有効に作用するものといえる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、この発明の適用になるフィラメントワインディング装置の全体の構成を示す概略的な斜視図である。
【図2】図2Aは、フィラメントワインディング装置の概略的な正面図であり、図2Bは、ヘリカル巻き中の状況を示す概略的な平面図である。
【図3】図3Aは、フープ巻きの構成を説明するための概略的な側面図であり、図3Bと図3Cは、ヘリカル巻きの構成を説明するための概略的な側面図である。
【図4】図4は、図2BにおけるA−A線断面図である。
【図5】図5は、図4におけるB−B線断面図である。
【図6】図6Aは、図7におけるC−C線断面図であるり、図6Bは、図6AにおけるD−D線断面図である。
【図7】図7は、ガイドリングの位置をずらした状態の側面図である。
【図8】図8A1は、この発明になる糸道ガイドに繊維束が通過する状況を示す概略的な斜視図、図8A2は、その横断面図、図8B1は、従来の糸道ガイドに繊維束が通過する状況を示す概略的な斜視図、図8B2は、その横断面図、図8Cは、この発明になる糸道ガイドから繊維束が出て行く有効な状況を示す出口端側側面図、図8D1は、傾斜角を持って引き出される状況を示す出口側側面図、図8D2は、向き制御手段によって、糸道ガイド筒の扁平角孔の向きを回動制御した状態を示す出口端側側面図である。
【図9】図9Aは、前記向き制御手段の第1の実施例を示すものであって、各糸道ガイド筒に対して、これをそれぞれ個別単独に向き制御する構成のものであり、図9Bは、前記向き制御手段の第2の実施例を示すものであって、各糸道ガイド筒に対して、これらを一括して向き制御することができるように構成したものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明になるFW装置について、図1〜図9に示す具体的な実施例に基づいて、詳細に説明する。
【0016】
〔全体構成〕
図1は、FW装置の全体の構成を一部省略して示す概略的な斜視図である。当該FW装置は、巻き付け装置Wと糸供給装置Sとを備えたものからなっている。
【0017】
巻き付け装置Wは、マンドレルMに繊維束Rを巻き付けるための装置であり、糸供給装置Sは、クリール51に複数の給糸パッケージ50を備える。複数の給糸パッケージ50は、繊維束Rを巻き取って収納している。
【0018】
前記繊維束Rとしては、例えば、ガラス繊維等の繊維材料や合成樹脂とを用いた繊維材料からなる。前記繊維束供給装置Sは、各給糸パッケージ50から引き出された繊維束Rを巻き付け装置Wへ供給する。
【0019】
繊維束Rは、予め熱硬化性の合成樹脂材が含浸されている。なお、繊維束Rは、樹脂が含浸されていない場合もある。その場合は、前記巻き付け装置Wと前記繊維束供給装置Sとの間に、樹脂含浸装置(図示省略)が設けられており、樹脂含浸装置が、クリール50から引き出された繊維束Rに樹脂を塗布して、巻き付け装置Wへ供給する。
【0020】
巻き付け装置Wの両側(図1において手前および奥)には、複数本のマンドレルM(巻き付け前のマンドレルをM1とし、巻き付け後のマンドレルをM2とする)が並べれらている。巻き付け装置Wの前方側(図1において手前)には、巻き付け前のマンドレルM1が、該巻き付け装置Wの後方側(図1において奥)には、巻き付け装置Wにより繊維束Rを巻き付けた後のマンドレルM2が並べられる。そして、巻き付け装置Wの一端側(図1において左)に、マンドレルM1、M2が配置される。
【0021】
図2Aおよび図2BにおいてFW装置における巻き付け装置Wは、左右に長い基台1と、該基台1の上部に配置されていて、マンドレルMを支持する支持台2と、フープ巻き装置3と、ヘリカル巻き装置4と、マンドレル交換装置5などで構成する。支持台2およびフープ巻き装置3は、それぞれ図示していない駆動機構で基台1の長手方向に沿って往復駆動できる。ヘリカル巻き装置4は、基台1の中央位置に固定してあり、前記繊維束供給装置Sで支持された一群の給糸パッケージ50から送給される繊維束RをマンドレルMに送給案内する。
【0022】
最終製品が圧力容器である場合のマンドレルMは、高強度アルミニウム材、ステンレス材などの金属製容器からなる。必要があれば、プラスチック製の容器でマンドレルMを構成することもある。この実施例ではマンドレルMが、図3に示すように中央の円筒部Maと、円筒部Maの左右両端に連続するドーム部Mbと、ドーム部Mbの頂部に突設される口部Mdとを一体に備えている場合について説明する。繊維束Rは、例えばガラス繊維や炭素繊維の束からなり、先の給糸パッケージ50に巻き込まれた状態の繊維束Rには、予め熱硬化性樹脂が含浸させてある。なお、給糸パッケージから繰り出された繊維束Rに樹脂を含浸させたのち、ヘリカル巻き装置4に送給してもよい。
【0023】
前記支持台2は、基台1上の前後一対のレール7で移行案内されるベース8と、ベース8の両側端に立設される支持腕9、9と、両支持腕9、9の上端対向面に設けられるチャック10などで構成する。マンドレルMの左右両側には一対の取付治具11が固定してあり、これらの取付治具11を先のチャック10で掴み固定することにより、マンドレルMが左右の支持腕9、9の間に支持される。片方のチャック10は、図示していない駆動構造で回転駆動されてマンドレルMを同行回転させる。両支持腕9、9は、マンドレルMの交換を容易化するために、ベース8に対して起立姿勢から横臥姿勢へ倒伏できるように組み付けてある。
【0024】
フープ巻き装置3は、基台1上のレール14で移行案内されるフレーム15と、フレーム15で回転自在に支持される円盤状の巻掛テーブル16と、巻掛テーブル16を回転駆動する駆動機構(図示していない)などで構成する。巻掛テーブル16の一側には、フープ巻き時に繊維束を供給する複数個のボビン17が、テーブル周縁に沿って等間隔おきに配置してある。巻掛テーブル16の板面中央には、マンドレルMの往復移動を許す円形の開口が形成してある。この開口の開口面とマンドレルMとが直交する状態で、巻掛テーブル16を回転駆動しながらフープ巻き装置3の全体を往復移動させることにより、マンドレルMの周面にフープ巻き層を形成することができる。
【0025】
図2Aないし図4においてヘリカル巻き装置4は、基台1に立設される固定フレーム20と、固定フレーム20で支持されるヘリカル巻きヘッド21と、繊維束の一群をヘリカル巻ヘッド21へ向かって変向案内するガイドローラー(ガイド構造)22などで構成する。固定フレーム20の板面中央には、マンドレルMの往復移動を許す円形の開口20aが形成され(図5参照)、開ロ20aの周囲の板面に先のガイドローラー22が配置してある。繊維束供給構造から供給される繊維束Rは、固定フレーム20の前後両側に配置した変向ローラー23で案内されたのち、張力調整構造24を通過してヘリカル巻ヘッド21へと送給される。張力調整構造24は、後述する左右のガイドリング27、28に対応して、固定フレーム20の前後両側に一対ずつ配置してある(図2B参照)。
【0026】
ヘリカル巻きヘッド21は、隣接配置される2個のガイドリング27、28と、各ガイドリング27、28の周方向に沿って等間隔おきに配置される一群の糸道ガイド筒31と、可動側のガイドリング28を回転操作する位相切換構造32などで構成する。この実施例では、図面を簡略化するために各ガイドリング27、28に装着される糸道ガイド筒31の数を12個に限っているが、実際には数十個から百数十個もの一群の糸道ガイド筒31をガイドリング27、28に装着する。なお、ヘリカル巻を行う場合の繊維束Rの適正本数は、マンドレルMの直径寸法と、繊維束Rの巻付幅および巻付角度(図3に符号θで示す角度)を変数にして算出することができる。
【0027】
〔フープ巻き・ヘリカル巻き〕
図3は、フープ巻きおよびヘリカル巻きを示す側面図である。図3Aに示すように、フープ巻きは、マンドレル軸方向Mcに対して略直角に繊維束Rを巻き付ける。図3Bおよび図3Cに示すように、ヘリカル巻きは、マンドレル軸方向Mcに対して所定の角度θ(θ1,θ2)で繊維束Rを巻き付ける。前述の通り、フープ巻きヘッド3により、フープ巻きが行われ、ヘリカル巻きヘッド4により、ヘリカル巻きが行われる。
【0028】
上記のガイドリング27、28のうち、一方のガイドリング27は固定フレーム20に設けた開口20aの周縁壁に固定し、他方のガイドリング28は、固定されたガイドリング27に対して回転自在に連結する。可動側のガイドリング28の側端には補助フレーム30が固定してある。補助フレーム30の板面中央には、マンドレルMの往復移動を許す円形の開口30aが形成され、開口30aの周囲の板面にガイドローラー22が配置してある(図5参照)。
【0029】
前記糸道ガイド筒31は、各ガイドリング27、28に取り付けてある。詳しくは、固定側のガイドリング27においては、糸道ガイド筒31を、その筒出口31aが可動側のガイドリング28の内面内方を指向する状態に傾斜させている。また、可動側のガイドリング28においては、糸道ガイド筒31を、その筒出口31aが固定側のガイドリング27の内面内方を指向する状態に傾斜させている。このように、各ガイドリング27、28における糸道ガイド筒31の傾斜角度を同じにし、傾斜する向きを逆向きとすることにより、各糸道ガイド筒31の筒出口31aを可能な限り接近する状態で配置することができる。これにより、両筒出口31a、31aは、後述する第1状態において各ガイドリング27、28の隣接方向の中央部分で隣接する。
【0030】
この発明において、前記糸道ガイド筒31は、該糸道ガイド筒31内を通過する平状繊維束Rの平状状態を維持する平状状態維持手段Cmを有するものからなっている。この発明において、前記平状状態維持手段Cmは、糸道ガイド筒31の筒孔により構成され、前記糸道ガイド筒31の筒孔が、横断面でみた場合、扁平矩形状の扁平角孔31cにより構成されている。
【0031】
さらに、前記糸道ガイド筒31の詳細について、図8に基づいて説明する。従来の糸道ガイド筒31は、図8B1および図8B2に示すように、円形の孔31dを持つ直線状の円筒体によって構成されていた。この従来の糸道ガイド筒31では、平状の繊維束Rが、糸道ガイド筒31の入口側31bから出口側31aに向けて通過する際、その通過の過程において、図8B2に示すように平状状態から丸状状態に型くずれしてしまい、適正なヘリカル巻きができなかった。
【0032】
この発明では、従来の上記する問題点を解決するべく、当該糸道ガイド筒31を、図8A1および図8A2に示すように、当該筒孔を扁平角孔31cにより形成する。このように、糸道ガイド筒31の筒孔を扁平角孔31cにより形成することにより、平状の繊維束Rが、糸道ガイド筒31の入口側31bから出口側31aに向けて通過する際、その通過の過程において、図8A1および図8A2に示すように平状状態を維持したままの状態で案内することができ、適正なヘリカル巻きを行うことができる。
【0033】
なお、この発明になる扁平角孔31cを有する糸道ガイド筒31では、繊維束Rの巻き角度θ(図2および図3参照)に応じて、当該糸道ガイド筒31の出口端31a側から、繊維束Rが引き出される方向X1と、糸道ガイド筒31の扁平角孔31cの長辺軸線Ax2とが略直交する関係、すなわち、繊維束Rが引き出される方向X1と、糸道ガイド筒31の扁平角孔31cの短辺軸線Ax1とが略一致する関係(図8C参照)にあると、平状の繊維束Rをそのままの平状状態で、マンドレルMの巻き付け部に供給でき、適正なヘリカル巻きを行うことができる。
【0034】
一方、これに対して、巻き角度θを変えてヘリカル巻きを行う際、前記糸道ガイド筒31の出口端31a側から、繊維束Rが引き出される方向X1が、糸道ガイド筒31における扁平角孔31cの短辺軸線Ax1に対して角度α傾いた場合には、糸道ガイド筒31の筒孔、扁平角孔31cで形成したものであっても、図8D1に示すように、平状の繊維束Rが型くずれしてしまう。
【0035】
そこで、この発明では、さらに、上記図8D1に示すような平状の繊維束Rの型くずれを防止するため、前記繊維束Rの巻き角度θに応じて変位する繊維束Rの引き出し方向X1に対して、前記糸道ガイド筒31における扁平角孔31cの向き、すなわち、前記引き出し方向X1と、該引き出し方向X1に対する糸道ガイド筒31における扁平角孔31cの長辺軸線Ax2とが略直交する関係(前記引き出し方向X1と、糸道ガイド筒31における扁平角孔31cの短辺軸線Ax1とが略一致する関係)に向きを制御する向き制御手段60が設けられている。
【0036】
前記向き制御手段60について、図9に示す具体的な実施例に基づいて説明する。図9Aは、前記向き制御手段60の第1の実施例を示すものであり、各糸道ガイド筒31に対して、これをそれぞれ個別単独に向き制御することができるように構成したものである。この実施例では、前記向き制御手段60は、各糸道ガイド筒31の入口端31b側に設けた平ギヤ61と、モータ63により回転駆動する平ギヤ62とを噛合させて構成したものである。この場合、各モータ63は、例えば、パルスモータなどにより構成され、図示しないモータ駆動制御手段により、同期駆動するようにも構成することができる。
【0037】
図9Bは、前記向き制御手段60の第2の実施例を示すものであり、各糸道ガイド筒31に対して、これらを一括して向き制御することができるように構成したものである。この実施例では、前記向き制御手段60は、各糸道ガイド筒31の入口端31b側に設けたベベルギヤ64と、軸66の一端にベベルギヤ65を備え、他端に平ギヤ67を備え、前記ベベルギヤ65を前記ベベルギヤ64に噛合させ、前記平ギヤ67を大径平ギヤ68に噛合させ、前記大径平ギヤ68の回転により、平ギヤ67、軸66、ベベルギヤ65、およびベベルギヤ64を介して、前記各糸道ガイド筒31を一斉に回動させるようにしたものである。
【0038】
マンドレルMの軸心に沿って隣接配置した両ガイドリング27、28は、図6Aに示すように連結する。固定側リング27の接合部にリング周面より小径の連結軸34を形成し、可動側リング28の接合部の内面に連結軸34に外嵌する連結穴35を形成する。さらに、可動側リング28の接合部分の周囲4箇所に、連結穴35で開口する位置決め溝36を形成する(図6B参照)。両リング27、28を接合して連結穴35と連結軸34を嵌合し、さらに位置決め溝36に挿通した六角穴付ボルト37を連結軸34にねじ込むことにより、両リング27、28が相対回転可能に連結される。これにより、可動側のガイドリング28が、固定側のガイドリング27に対して分離不能に、しかも位置決め溝36と六角穴付ボルト37によって規定される範囲内で往復回転変位可能に連結される。
【0039】
図7に示すように、位相切換構造32は、可動側のガイドリング28を切り換え操作するエアーシリンダー(操作器)40と、隣接する両ガイドリング27、28の間に設けられる位置決め構造とで構成する。前記エアーシリンダー40のピストンロッドの端部は、補助フレーム30の下部に設けたブラケット42にピン43で連結され、前記エアーシリンダー40のシリンダー側の端部はブラケット44にピン45で連結する。後者のブラケット44は、固定フレーム20、あるいは基台1に固定する。これにより、図7に実線で示す状態から仮想線で示すようにピストンロッドを伸長変位させると、補助フレーム30および可動側のガイドリング28を反時計回転方向へ回転操作することができる。また、ピストンロッドをシリンダー内へ退入移動させると、補助フレーム30および可動側のガイドリング28を時計回転方向へ回転操作することができる。位置決め構造は、先に説明した位置決め溝36と六角穴付ボルト37とが兼ねている。
【0040】
上記のように、両ガイドリング27、28を相対回転可能に連結し、さらに位相切換構造32で可動側のガイドリング28を回転操作することにより、両ガイドリング27、28に設けた糸道ガイド筒31の位相を、二つの状態に切り換えることができる。そのひとつは、図4に示すように、各ガイドリング27、28における糸道ガイド筒31の位相位置が一致する第1状態である。二つめは、各ガイドリング27、28における糸道ガイド筒31の位相位置が周方向へ均等にずれる第2状態(図7に実線と想像線で示す状態)である。第1状態から第2状態に切り換えたときの糸道ガイド筒31のずれ量は、各ガイドリング27、28における糸道ガイド筒31の周方向の隣接ピッチの半分となる。この第2状態においては、固定フレーム20と正対するときに視認される糸道ガイド筒31の個数は24個となる。
【0041】
第1状態においては、同じ位相位置にある糸道ガイド筒31から繊維束Rが供給されるので、繊維束Rの供給本数は擬似的に12本となる。また、第2状態においては、各ガイドリング27、28の糸道ガイド筒31の位相がずれるため、第1状態のときの繊維束Rの数の2倍の供給本数でヘリカル巻が行われる。
【0042】
因みに、繊維束Rの巻付角度が小さい場合には、多数本の繊維束を互いに重なることもなく同時に巻き付けることができる。しかし、巻付角度が大きくなるに従い、隣接する繊維束Rが互いに重ならない状態で同時に巻き付けられる本数は減少する。したがって、繊維束RのマンドレルMに対する巻付角度を変更する場合には、可動側のガイドリング28を位相切換構造32で操作して、繊維束Rの供給状態を第1状態と第2状態とに切り換えることにより、マンドレルMに供給される繊維束Rの本数を変更できる。このように、繊維束Rの供給状態を変更することにより、巻付角度が二つに異なるヘリカル巻き処理を、段取り変更の手間を省いて連続して行えることになる。なお、繊維束Rの巻付角度は、マンドレルMの駆動回転数と支持台2の送り速度を選定することで変更でき、マンドレルMの形状と、繊維束Rの大きさおよび供給本数によって決定される。
【0043】
先に説明したように、第1状態における各ガイドリング27、28の糸道ガイド筒31の位相位置は一致している。しかし、各ガイドリング27、28をマンドレルMの軸心に沿って隣接配置する関係で、各ガイドリング27、28における糸道ガイド筒31の軸心方向の位置にずれが生じてしまう。とくに、図5に仮想線で示すように、糸道ガイド筒31が各ガイドリング27、28の直径線に沿って放射状に装着してある場合には、各糸道ガイド筒31の筒中心軸の位置が、マンドレルMの軸心方向に大きく位置ずれする。
【0044】
この位置ずれは、各糸道ガイド筒31から送給される繊維束Rの巻付角度に影響を及ぼす。具体的には、固定側ガイドリング27の糸道ガイド筒31で送給案内される繊維束Rの巻付角度が、可動側ガイドリング28の糸道ガイド筒31で送給案内される繊維束Rの巻付角度より大きくなる。繊維束RがマンドレルMに外接する位置と、各糸道ガイド筒31の筒出口31aとの間の距離が、先のずれ寸法分だけ異なるためである。
【0045】
このように、マンドレルMの軸心方向に隣接する糸道ガイド筒31から供給される繊維束Rの巻付角度が僅かに異なると、繊維束Rの巻付角度が大きな第1状態において問題を生じる。各糸道ガイド筒31から供給される繊維束Rの巻付角度が少しずつ違う状態でヘリカル巻を行うので、繊維束Rが内外に重ならず、周方向へずれた状態でマンドレルMに巻き付けられるからである。その結果、巻層の表面に凹凸が生じる。因みに、巻付角度が小さな第2状態においては、糸道ガイド筒31の軸心方向の位置ずれの影響が殆ど現われないので、実用上問題のない状態のヘリカル巻層を形成できる。
【0046】
上記の第1状態における繊維束Rのずれを解消するために、先に説明したように各ガイドリング27、28に設けられる各糸道ガイド筒31の筒出ロ31a、31aを、両リング27、28の隣接方向の中央部分において接近配置させている。両筒出口31aの隣接間隔は小さければ小さいほどよいが、可動側のガイドリング28の回動変位を円滑に行える余裕隙間を備えている必要がある。
【0047】
以下、ワインディング装置の巻き付け動作を説明する。フープ巻を行う場合には、巻掛テーブル16をマンドレルMの円筒部の一側端に位置させ、各ボビン17から繰り出された繊維束Rを、粘着テープでマンドレルMの表面に固定する。このとき、複数本の繊維束Rを、マンドレルMの周面に沿って隙間なく平行に配置する。この状態で、巻掛テーブル16を回転駆動しながら、フレーム15をマンドレルMの円筒部の他側端へ向かって移動させて、一層めのフープ巻層H1を形成する。引き続き、フレーム15をマンドレルMの円筒部の一側端(巻付始端側)へ反転移動させることにより、二層めのフープ巻層H1を形成できる。さらにフープ巻層H1を形成する場合には、先と同様にして巻付処理を必要回数行う。
【0048】
フープ巻層H1の外面にヘリカル巻層H2を形成する場合には、図2Aに示すようにフープ巻装置3を基台1の一側端に退避させる。ヘリカル巻装置4は、可動側のガイドリング28をエアーシリンダー40で回転操作して第1状態に保持し、各ガイドリング27、28における糸道ガイド筒31の位相位置を一致させておく。並行して支持台2を移動操作し、マンドレルMの口部の基端をヘリカル巻装置4のガイドリング27、28の内面に臨ませ、各糸道ガイド筒31から引き出された繊維束Rを粘着テープで口部の周面に固定する。このとき、各ガイドリング27、28において位相が一致する糸道ガイド筒31から引き出された繊維束Rを、内外に重なる状態で口部の周面に固定する。
【0049】
上記の準備作業が終了したのち、チャック10およびマンドレルMを回転駆動しながら支持台2を一定速度で移動させて、先のフープ巻層H1の外面にヘリカル巻層H2を形成する。このときの繊維束Rの供給状態は第1状態であるので、繊維束Rの巻付角度が大きな状態でヘリカル巻が行われる。本発明においては、位相が一致する糸道ガイド筒31の筒出口31aを可能な限り近接させている。したがって、巻付角度が大きい状態でヘリカル巻を行っても、位相が一致する糸道ガイド筒31から送給される繊維束Rを、内外に重ねた状態で巻装でき、各繊維束Rが周方向へずれることはなく、適正にヘリカル巻層H2を形成できる。図2Bに、ヘリカル巻装置4より右側のマンドレルMの表面にフープ巻層H1が形成され、ヘリカル巻装置4より左側のフープ巻層H1の外面にヘリカル巻層H2が形成された状態を示している。
【0050】
マンドレルMの全体が、図2Bに示す状態から、ヘリカル巻ベッド21を一方向にくぐり抜け、さらに逆方向にくぐり抜けた状態では、内外に二層のヘリカル巻層H2が形成されている。同様にして、支持台2をそれまでとは逆向きに移動させながらヘリカル巻を行うことにより、先のヘリカル巻層H2の外面に、二層のヘリカル巻層H2が形成される。さらにヘリカル巻層H2を形成する場合には、先と同様にして巻付処理を必要回数行う。
【0051】
巻付角度が大きなヘリカル巻処理に連続して、巻付角度が小さなヘリカル巻処理を連続して行うことができる。その場合には、可動側のガイドリング28をエアーシリンダー40で時計回転方向へ変位操作して第2状態に保持し、各ガイドリング27、28における糸道ガイド筒31の位相位置を異ならせておく。各糸道ガイド筒31の位相位置を周方向へ均等にずらすことにより、全ての繊維束Rは、先のヘリカル巻層H2の周面に沿って隙間なく平行に配置される。この状態で、チャック10およびマンドレルMを回転駆動しながら支持台2を一方向へ一定速度で移動させることにより、巻付角度が小さなヘリカル巻層H2を形成することができる。
【0052】
また、支持台2をそれまでとは逆向きに移動させながらヘリカル巻を行うことにより、巻付角度が小さなヘリカル巻層H2を同様に形成することができる。ヘリカル巻処理が終了したら、繊維束Rを切断したのち、切断端を口部に粘着テープで固定する。以上のようにして、フープ巻とヘリカル巻とを交互に行ったのち、マンドレルMを支持台2から取り外して加熱処理し、繊維束Rに含浸させた樹脂を硬化させることにより、補強層とマンドレルMとからなる圧力容器が得られる。
【0053】
上記の実施例以外に、糸道ガイド筒31は直線筒状に形成する必要はなく、その筒出口31aの側が、隣接する糸道ガイド筒31の側へ向かって曲げてあってもよい。位相切換構造32は、隣接するガイドリング27、28の間に設けることができる。可動側のガイドリング28を回転操作する操作器40は、エアーシリンダー以外にソレノイドや電動シリンダーなどを適用することができる。位置決め構造は、各ガイドリングの連結構造とは別の専用の構造として形成することができる。
【符号の説明】
【0054】
W 巻き付け装置
S 繊維束供給装置
M マンドレル
R 繊維束
Cm 平状状態維持手段
60 向き制御手段
20 固定フレーム
21 ヘリカル巻ヘッド
27 ガイドリング
28 ガイドリング
31 糸道ガイド筒
31a 筒出口
31b 筒入口
31c 扁平角孔
32 位相切換機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンドレルの周面に繊維束をフープ巻及びヘリカル巻で巻き付けるフィラメントワインディング装置において、
前記マンドレルを支持し、前記マンドレルの軸方向に往復移動でき、前記マンドレルを回転させる支持台と、
前記マンドレルに前記繊維束を供給するボビンを支持し、前記軸方向に往復移動でき、前記マンドレルの周囲を回転するフープ巻装置と、
固定的に設置され、前記マンドレルに複数の前記繊維束を供給するヘリカル巻装置と、を備え、
フープ巻を行うときには、前記支持台は、前記軸方向及び回転方向に静止しており、前記フープ巻装置が、前記軸方向に移動しながら回転して、前記マンドレルの周面に前記繊維束をフープ巻で巻き付け、
ヘリカル巻を行うときには、前記支持台が、前記軸方向に移動しながら前記マンドレルを回転させて、前記マンドレルの周面に前記繊維束をヘリカル巻で巻き付けることを特徴とするフィラメントワインディング装置。
【請求項2】
前記フープ巻装置は、前記軸方向に往復移動可能なフレームと、前記フレームに支持され、前記マンドレルの周囲を回転する巻掛テーブルと、を備えることを特徴とする請求項1に記載のフィラメントワインディング装置。
【請求項3】
前記ヘリカル巻装置は、基台に立設される固定フレームと、前記固定フレームに支持されるヘリカル巻ヘッドと、を備え、
前記ヘリカル巻ヘッドは、前記マンドレルの周囲に配置され、周方向に相対回転可能に前記軸方向に連結される複数のガイドリングを備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフィラメントワインディング装置。
【請求項4】
前記複数のガイドリングは、前記固定フレームに固定される固定側のガイドリングと、前記固定側のガイドリングに対して相対回転可能に連結される可動側のガイドリングと、からなり、
前記可動側のガイドリングが相対的に回転することで、前記繊維束の前記マンドレルへの供給状態が切り換えられることを特徴とする請求項3に記載のフィラメントワインディング装置。
【請求項5】
前記ヘリカル巻ヘッドは、前記各ガイドリングに取り付けられ、前記各ガイドリングの周方向に沿って等間隔おきに配置される複数の糸道ガイド筒を備えることを特徴とする請求項3または請求項4に記載のフィラメントワインディング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−78959(P2013−78959A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−21281(P2013−21281)
【出願日】平成25年2月6日(2013.2.6)
【分割の表示】特願2008−165351(P2008−165351)の分割
【原出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】