説明

フィルタ

【課題】フィルタの大幅な小型化を実現する。
【解決手段】フィルタ10は、入力端子21と出力端子22とを接続する線路20と、線路20に接続される共振器30と、線路20に接続されるリアクタンス素子40とを備える。共振器30は、インターディジタル結合された一対の共振器31,32を含み、共振器31の短絡端は線路20に接続されている。フィルタ10の通過周波数において、共振器30とリアクタンス素子40は、線路20とグランドとの間に並列共振回路を等価的に形成する。フィルタ10の遮断周波数において、共振器30は、線路20とグランドとの間に直列共振回路を等価的に形成する。一対の共振器31,32の結合の度合いを強めることで、共振器30の物理的なサイズを大幅に小型化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインターディジタル結合された共振器を備えるフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報通信技術の発展により小型かつ低挿入損失で急峻なスカート特性を有する高性能な帯域通過フィルタが要求されており、阻止域に減衰極を有する帯域通過フィルタの設計開発が行われている。従来、これらの要求を満たす帯域通過フィルタとして、例えば移動体通信等に用いられる楕円関数形の有極型帯域通過フィルタが知られている。特許文献1には、半波長共振器を用いることにより、通過域の低周波側と高周波側のそれぞれに減衰極を形成し、周波数選択性に優れた高周波フィルタが開示されている。非特許文献1には、1/4波長終端開放オープンスタブを用いて減衰極を形成し、急峻なスカート特性を得るための有極型フィルタの合成理論が提案されている。
【特許文献1】特開平11−340706号公報
【非特許文献1】電子情報通信学会論文誌C vol. J89-C No.6 pp.372-384
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1に記載の高周波フィルタでは、共振器の外形サイズは、半波長分の物理的な長さが必要であるので、大幅な小型化を実現する上で技術的制約がある。非特許文献1に記載の有極型フィルタでは、1/4波長分の物理的な長さを有するオープンスタブが必要であるので、大幅な小型化を実現する上で技術的制約がある。
【0004】
そこで、本発明は、上記の問題を解決し、フィルタの大幅な小型化を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、本発明に係わるフィルタは、入力端子と出力端子とを接続する線路と、線路に接続される共振器と、線路とグランドとの間に接続されるリアクタンス素子とを備える。共振器は、インターディジタル結合された一対の第一の共振器を含み、一対の第一の共振器のうち一方の共振器の短絡端は線路に接続されている。
【0006】
フィルタの通過周波数において、共振器とリアクタンス素子は、線路とグランドとの間に並列共振回路を等価的に形成する。「並列共振回路を等価的に形成する」とは、フィルタの通過周波数では、共振器とリアクタンス素子とが全体として、線路とグランドとの間に形成される並列共振回路と等価であることを意味する。通過周波数では、その並列共振回路は、並列共振の状態にあり、入力端子の入力インピーダンスは無限大になるので、入力端子に入力された信号は、線路を介してそのまま出力端子に出力される。
【0007】
一方、フィルタの遮断周波数において、共振器は、線路とグランドとの間に直列共振回路を等価的に形成する。「直列共振回路を等価的に形成する」とは、フィルタの遮断周波数において、共振器が線路とグランドとの間に形成される直列共振回路と等価であることを意味する。遮断周波数では、その直列共振回路は、直列共振の状態にあり、入力端子の入力インピーダンスは、ゼロになるので、入力端子に入力された信号は、全反射し、そのまま入力端子から出力される。
【0008】
ここで、インターディジタル結合された一対の第一の共振器は、フィルタの遮断周波数で共振し、減衰極を形成するように設計されている。インターディジタル結合された一対の第一の共振器の結合の度合いを強めることで、その物理的なサイズを1/4波長以下に小型化することができる。
【0009】
リアクタンス素子として、例えば、キャパシタ(1/4波長より短いオープンスタブを含む)、インダクタンス素子(1/4波長より短いショートスタブを含む)、インターディジタル結合された一対の第二の共振器などを適用することができる。共振器とこれらのリアクタンス素子との組み合わせにより、通過域の低周波数側又は高周波数側の何れか一方又は両方に減衰極を形成することが可能となり、周波数選択性に優れたフィルタを提供できる。
【0010】
また、共振器は、インターディジタル結合された一対の第三の共振器を一組以上更に含んでもよい。一対の第一の共振器と一組以上の一対の第三の共振器は、インターディジタル結合されている。複数組の共振器をインターディジタル結合し、その結合の度合いをより一層強めることで、共振器をより一層小型化することができる。
【0011】
ここで、角周波数をω、通過周波数に対応する角周波数をω0、リアクタンス素子の電気角をθ1、通過周波数に対応するリアクタンス素子の電気角をθ10、共振器の電気角をθ2、通過周波数に対応する共振器の電気角をθ20、フィルタのサセプタンスをB(θ1,θ2)とし、並列共振回路の等価回路をキャパシタC0とインダクタンスL0との並列接続回路から成るものとしたとき、リアクタンス素子及び共振器の回路定数は、ω=ω0,θ1=θ10,θ2=θ20のとき、B(θ1,θ2)=ω00−1/ω00=0、且つω∂B/∂ω=2ω00を満たす値の±10%の範囲内にあれば、実用上十分なフィルタ特性を得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、インターディジタル結合された共振器を用いることにより減衰極を有する急峻なスカート特性を有するフィルタを実現することができると共に、フィルタの大幅な小型化を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、各図を参照しながら本発明に係わる実施形態について説明する。同一の素子については、同一の符号を付すものとし、重複する説明を省略する。
【0014】
図1は本実施形態に係わる有極型帯域通過フィルタ10の回路構成を示す。
有極型帯域通過フィルタ10は、入力端子21と出力端子22とを接続する線路20、接続点23において線路20に接続する共振器30、及び接続点23において線路20に接続するリアクタンス素子40を備える。リアクタンス素子40は、線路20とグランドとの間に接続される。これらの各構成要素は、TEM線路により構成されている。TEM線路は、例えば、ストリップラインなどの導体パターンや誘電体基板内部に形成された貫通導体などで構成することができる。TEM線路とは、電界及び磁界が共に電磁波の進行方向に垂直な断面内にのみ存在する電磁波(TEM波)を伝送する伝送線路である。
【0015】
共振器30は、インターディジタル結合された一対の1/4波長共振器31,32により構成されている。インターディジタル結合とは、一対の1/4波長共振器31,32の一端を開放端、他端を短絡端とし、一方の1/4波長共振器31の開放端と他方の1/4波長共振器32の短絡端とが対向すると共に、一方の1/4波長共振器31の短絡端と他方の1/4波長共振器32の開放端とが対向するように配置して一対の1/4波長共振器31,32を電磁結合させることをいう。同図に示す例では、一方の1/4波長共振器31の短絡端は、接続点23において線路20に接続しており、他方の1/4波長共振器32の短絡端は、グランドに接続している。
【0016】
ここで、一対の1/4波長共振器31,32の短絡端は、必ずしも物理的にグランドに接続している必要はなく、共振時の動作周波数において、短絡端の電界分布をみたときに交流的にゼロ電位となる箇所に接続されていればよい。共振時の動作共振周波数においては、一対の1/4波長共振器31,32は、物理的なグランド電極に接続されていなくとも、その短絡端が交流的にゼロ電位となるので、接続点23は、共振時の動作周波数においては、交流的にゼロ電位となる箇所である。
【0017】
一対の1/4波長共振器31,32は、後述するように強いインターディジタル結合がなされていることで、第1の共振周波数f1で共振する第1の共振モードと、第1の共振周波数f1よりも低い第2の共振周波数f2で共振する第2の共振モードとを有している。より詳しくは、インターディジタル結合していないときの各1/4波長共振器31,32の単体での共振周波数をf3としたとき、単体での共振周波数f3よりも高い第1の共振周波数f1で共振する第1の共振モードと、単体での共振周波数f3よりも低い第2の共振周波数f2で共振する第2の共振モードとを有している。そして、共振器30は、第2の共振周波数f2が動作周波数として設定されている。
【0018】
TEM線路から成る2つの共振器を結合させる手法として、一般にコムライン結合とインターディジタル結合との2種類を挙げることができる。このうち、インターディジタル結合は、非常に強い結合が得られることが知られている。インターディジタル結合とは、一方の共振器の開放端と他方の共振器の短絡端とが対向し、一方の共振器の短絡端と他方の共振器の開放端とが対向するように2つの共振器が対向配置された構造となる結合方法である。
【0019】
インターディジタル結合した一対の1/4波長共振器31,32では、共振状態を2つの固有な共振モードに分けることができる。図2は、一対の1/4波長共振器31,32における第1の共振モードを示し、図3は、一対の1/4波長共振器31,32における第2の共振モードを示している。図2及び図3において、破線で示した曲線は、各共振器における電界Eの分布を示している。
【0020】
第1の共振モードでは、一対の1/4波長共振器31,32のそれぞれにおいて、開放端側から短絡端側に電流iが流れ、それぞれの共振器に流れる電流iの向きが逆方向となる。この第1の共振モードでは、一対の1/4波長共振器31,32で電磁波が同相に励振されている。
【0021】
一方、第2の共振モードでは、一方の1/4波長共振器31では、開放端側から短絡端側に電流iが流れると共に、他方の1/4波長共振器32では、短絡端側から開放端側に電流iが流れ、それぞれの共振器に流れる電流iの向きが同方向となる。即ち、この第2の共振モードでは、電界Eの分布を見ても分かるように、一対の1/4波長共振器31,32で電磁波が逆相に励振されている。この第2の共振モードでは、一対の1/4波長共振器31,32全体の物理的な回転対称軸30Aに対して互いに回転対称な位置で、電界Eの位相が180°シフトしている。
【0022】
ここで、第1の共振モードの共振周波数は、以下の(1)式のf1で表され、第2の共振モードの共振周波数は、以下の(2)式のf2で表される。
【数1】

【数2】

【0023】
ここで、Vcは光速、εrは実効比誘電率、μrは実効比透磁率、lは共振器の物理長、Zeは偶モードの特性インピーダンス、Zoは奇モードの特性インピーダンスを示す。左右対称型のカップリング伝送線路において、その伝送線路に伝搬する伝送モードは、偶モードと奇モードとの2種類の独立なモード(互いに干渉しない)に分解される。
【0024】
以下、図4乃至図5を参照しながら隅モード及び奇モードにおける特性インピーダンスについて説明する。図4(A)は、カップリング伝送線路の奇モードでの電界Eの分布を示し、図4(B)は、偶モードでの電界Eの分布を示している。図4(A),図4(B)において、外周部分はグランド層50、内部には左右対称の導体線路51,52が形成されている。図4(A),図4(B)では、カップリング伝送線路の伝送方向に直交する断面内での電界分布を示しており、信号の伝送方向は紙面に対して直交する方向である。
【0025】
図4(A)に示したように、奇モードでは、導体線路51,52の対称面に対して電界が垂直に交わり、対称面が仮想的な電気壁53Eとなる。図5(A)は、図4(A)と等価な伝送線路を示している。図5(A)に示したように、対称面を実際の電気壁53E(ゼロ電位の壁、グランド)に置き換えることで、1つの導体線路51だけの線路と等価な構造にすることができる。図5(A)に示した線路での特性インピーダンスが、上記(1)式、及び(2)式での奇モードの特性インピーダンスZoとなる。
【0026】
一方、偶モードでは、図4(B)に示したように導体線路51,52の対称面に対して電界が平衡になり、磁界が対称面に対して垂直に交わる。偶モードでは、対称面が仮想的な磁気壁53Hとなる。図5(B)は、図4(B)と等価な伝送線路を示している。図5(B)に示したように、対称面を実際の磁気壁53H(インピーダンス無限大の壁)に置き換えることで、1つの導体線路51だけの線路と等価な構造にすることができる。図5(B)に示した線路での特性インピーダンスが、上記(1)式、及び(2)式での偶モードの特性インピーダンスZeとなる。
【0027】
ここで、一般的に伝送線路の特性インピーダンスZは、以下の(3)式に示すように、信号ラインの単位長さ当たりのグランドに対する容量Cと、信号ラインの単位長さ当たりのインダクタンス成分Lとの比の平方根により表すことができる。
【数3】

【0028】
奇モードでの特性インピーダンスZoは、図5(A)の線路構造から、対称面がグランド(電気壁53E)となりグランドに対する容量Cが大きくなるので、(3)式から、Zoの値が小さくなる。一方、偶モードでの特性インピーダンスZeは、図5(B)の線路構造から、対称面が磁気壁53Hとなるので容量Cが小さくなり、(3)式から、Zeの値が大きくなる。
【0029】
このことを踏まえてインターディジタル結合した一対の1/4波長共振器31,32の共振モードの共振周波数である(1)式及び(2)式を検討する。アークタンジェントの関数は単調増加の関数であるので、(1)式及び(2)式において、tan-1に係る部分が大きくなればなる程、共振周波数は大きくなるし、小さくなればなる程、共振周波数は小さくなる。即ち、奇モードでの特性インピーダンスZoの値が小さくなり、偶モードでの特性インピーダンスZeの値が大きくなって、それらの差が大きくなればなる程、(1)式から第1の共振モードの共振周波数f1は大きくなり、(2)式から第2の共振モードの共振周波数f2は小さくなる。
【0030】
従って、結合する伝送路の対称面の比率を大きくしてやれば、第1の共振周波数f1と第2の共振周波数f2は、図6に示したように互いに離れていくことになる。ここで、図6は、インターディジタル結合された一対の1/4波長共振器31,32における共振周波数の分布状態を示している。一対の1/4波長共振器31,32をインターディジタル結合により強く結合させることで、物理的な1/4波長の長さで決まる共振周波数(インターディジタル結合していないときの各1/4波長共振器単体での共振周波数)f3が2つに分離する。すなわち、共振周波数f3よりも高い第1の共振周波数f1で共振する第1の共振モードと、共振周波数f3よりも低い第2の共振周波数f2で共振する第2の共振モードとの2つのモードが現れる。
【0031】
ここで、伝送路の対称面の比率を大きくするということは、(3)式から奇モードでの容量Cを大きくすることに対応する。容量Cを大きくすることは、線路の結合の度合いを強くすることに対応する。従って、インターディジタル結合された一対の1/4波長共振器31,32において、共振器間の結合を強くすればするほど、第1の共振周波数f1と第2の共振周波数f2とが大きく分離していくことになる。この場合において、第2の共振周波数f2を共振器30の共振周波数に設定することで、共振器30の共振周波数をf3に設定した場合よりも共振器30をより小型化できるというメリットがある。第1の共振周波数f1としては、フィルタ30の通過周波数帯域よりも十分に高いことが望ましい。通過周波数帯域が第1の共振周波数f1に重なると、有極型帯域通過フィルタ10の周波数特性が劣化するためである。
【0032】
尚、図7に示すように、共振器30は、一対の1/4波長共振器を複数組有し、複数段の1/4波長共振器31,32,33,…,3n(nは4以上の偶数)で構成されていても良い。この場合、隣り合う一対の1/4波長共振器がそれぞれインターディジタル結合され、その結果、隣り合う一対の1/4波長共振器によって一対の1/4波長共振器が複数組形成される。例えば、1/4波長共振器31,32によって第1の一対の1/4波長共振器が形成され、1/4波長共振器32,33によって第2の一対の1/4波長共振器が形成される。このように、一対の1/4波長共振器を複数組形成することで、各1/4波長共振器の物理的な長さをより短く設計することができ、より小型化が可能となる。
【0033】
尚、複数段の1/4波長共振器31,32,33,…,3nのうち何れかの短絡端は、必ずしも物理的にグランドに接続している必要はなく、接続点23に接続されていてもよい。その理由は、接続点23は、共振器30の共振時において、交流的にゼロ電位となるためである。
【0034】
次に、有極型帯域通過フィルタ10の周波数特性について検討する。有極型帯域通過フィルタ10は、小型かつ低挿入損失で急峻なスカート特性を有しており、通過域における中心周波数はf0、遮断域における遮断数周波数はftである。接続点23から見た共振器30の入力インピーダンスのリアクタンス成分をX、共振器30の電気角をθとすれば、以下の(4)式〜(5)式が成立する。ここで、fは周波数、μrは実効比透磁率、lは共振器30の物理長である。
【数4】

【数5】

【0035】
また、共振時の電気角をθtとすれば、共振器30の共振条件として、以下の(6)式が成立する。ここで、C0は各1/4波長共振器31,32のグランドに対する単位長さ当たりの容量を示し、Cintは1/4波長共振器31,32間の単位長さ当たりの容量を示す。
【数6】

【0036】
(6)式を変形すると、以下の(7)式〜(10)式が成立する。
【数7】

【数8】

【数9】

【数10】

【0037】
(7)式〜(10)式を用いて(4)式を変形すると、以下の(11)式が成立する。
【数11】

【0038】
共振器30のサセプタンスをY(θ)とすると、(11)式を変形することにより、以下の(12)式が成立する。
【数12】

【0039】
ここで、有極型帯域通過フィルタ10の通過域から減衰域にかけてのスカート特性を急峻なものとするために、通過域の低周波数側又は高周波数側に減衰極を形成するための条件について検討する。(11)式において、θ=θtを代入すると、X=0となる。これは、共振器30が第2の共振モードで共振するときに、共振器30の入力インピーダンスが0になることを示している。図8は共振器30が第2の共振モードで共振するときの有極型帯域通過フィルタ10の等価回路を示しており、リアクタンス素子40の入力インピーダンスがどのような値であろうと、入力端子21から見た入力インピーダンスは0になる。入力端子21の基準インピーダンスをZP、入力インピーダンスをZinとすると、反射係数Γは、以下の(13)式により定義される。
【数13】

【0040】
共振器30が第2の共振モードで共振するときの反射係数は、(13)式においてZin=0を代入し、Γ=(0−Zp)/(0+Zp)=−1となる。反射係数Γ=−1は、入力端子21に入力される信号が全反射することを意味する。この現象を有極型帯域通過フィルタ10のフィルタ特性という観点から見ると、有極型帯域通過フィルタ10は、共振器30の第2の共振モードにおける共振周波数f2において、減衰極を有するフィルタ特性を備えることを意味する。ここで、有極型帯域通過フィルタ10の遮断数周波数ftは、共振周波数f2に等しい。
【0041】
尚、θ=θtのとき、即ち、共振器30が第2の共振モードで共振するとき、接続点23から見た共振器30は、接続点23とグランドとの間で直列共振している。
【0042】
次に、有極型帯域通過フィルタ10が所定のバンド幅の高周波信号(中心周波数f0)を通過域とするための条件について検討する。中心周波数f0における有極型帯域通過フィルタ10の等価回路として、図9に示すような並列共振回路(キャパシタC0とインダクタンスL0とが並列接続された回路)を考察し、中心周波数f0においてその並列共振回路が並列共振するように回路定数を設定すれば、有極型帯域通過フィルタ10は、中心周波数f0の信号を通過させることができる。
【0043】
ここで、共振器30のサセプタンスをY1(θ1)、リアクタンス素子40のサセプタンスをY2(θ2)、有極型帯域通過フィルタ10の合成サセプタンスをB(θ1,θ2)とすれば、以下の(14)式〜(15)式が成立する。ここで、ωは角周波数、θ1は共振器30の電気角、θ2はリアクタンス素子40の電気角である。
【数14】

【数15】

【0044】
中心周波数f0に対応する角周波数をω0とすると、(14)式及び(15)式から以下の(16)式及び(17)式が成立する。
【数16】

【数17】

【0045】
(16)式及び(17)式が同時に成立する場合、有極型帯域通過フィルタ10は、通過域における中心周波数をf0とし、遮断域における遮断数周波数をftとするフィルタ特性を有する。特に、共振特性の鋭い共振器30によって形成される減衰極は、減衰傾度が極めて急峻であるので、通過域から遮断域にかけての遷移域における減衰傾度を大きくとりたい場合に好適である。
【0046】
尚、一対の1/4波長共振器31,32の結合の度合いを強くすると、Cintが増加することになるので、(6)式より電気角θtが小さくなることが理解できる。これは、(4)式より共振器30の物理長を1/4波長よりも大幅に短くできる(小型化できる)ことを意味している。
【0047】
以下、リアクタンス素子40として、キャパシタ、1/4波長より短いオープンスタブ、インダクタンス、1/4波長より短いショートスタブ、インターディジタル結合された一対の1/4波長共振器を適用した場合について、実施例1〜実施例5として説明する。
【0048】
より詳細には、実施例1〜実施例2では、リアクタンス素子40として、容量性素子(キャパシタ、又は1/4波長より短いオープンスタブ)を用い、有極型帯域通過フィルタ10の通過域よりも低周波側に減衰極を形成し、低域側の急峻なスカート特性を実現する例を説明する。
【0049】
実施例3〜実施例4では、リアクタンス素子40として、誘導性素子(インダクタンス、又は1/4波長より短いショートスタブ)を用い、有極型帯域通過フィルタ10の通過域よりも高周波側に減衰極を形成し、高周波側の急峻なスカート特性を実現する例を説明する。
【0050】
実施例5では、リアクタンス素子40として、インターディジタル結合された一対の1/4波長共振器を用い、有極型帯域通過フィルタ10の通過域の低周波側及び高周波側のそれぞれに減衰極を形成し、低周波側及び高周波側の急峻なスカート特性を実現する例を説明する。
【実施例1】
【0051】
図10は実施例1に係わる有極型帯域通過フィルタ10Aの回路構成を示す。
実施例1ではキャパシタ40Aがリアクタンス素子として接続点23に接続している。キャパシタ40Aの容量をCaddとし、有極型帯域通過フィルタ10Aの合成サセプタンスをBとすると、以下の(18)式が成立する。
【数18】

【0052】
(18)式について(16)式及び(17)式を適用して、Cadd,Ze,Zoを求めると、(19)式〜(21)式が得られる。
【数19】

【数20】

【数21】

【0053】
ここで、本実施例の有効性を検証するため、図11に示すチェビチェフバンドパスフィルタ60のフィルタ特性と、図12に示す有極型帯域通過フィルタ70のフィルタ特性との比較検証を試みた。有極型帯域通過フィルタ70は、チェビチェフバンドパスフィルタ60の破線の枠内で囲んだ並列共振回路60Aを有極型帯域通過フィルタ10Aで置換した回路構成を有している。チェビチェフバンドパスフィルタ60は、通過域にリップル(うねり)を持たせることで、遮断周波数近辺の減衰傾度を大きくした特性を有しており、減衰傾度をある程度大きくしたい場合に好適なフィルタである。ここでは、中心周波数f0=1GHz、バンド幅=0.1GHz、リップル0.01dBのチェビチェフバンドパスフィルタ60を用いた。集中定数回路から成るチェビチェフバンドパスフィルタ60の回路定数は、L1=1.2679507nH,C1=20.027419pF,L2=77.212625nH,C2=0.3288812pF,L3=1.2679507nH,C3=20.027419pFである。
【0054】
ここで、遮断周波数を0.8GHz、実効比誘電率を7.3、実効比透磁率を1、共振器30の物理長を10mmとして、(19)式〜(21)式によりCadd,Ze,Zoを求めると、Cadd=6.910440217pF,Ze=205.6924484,Zo=10.92834138である。
【0055】
図13はフィルタ特性の比較結果をグラフにしたものである。横軸は、周波数[GHz]を示し、縦軸は減衰量[dB]を示している。一点鎖線で示すグラフは、チェビチェフバンドパスフィルタ60のポート61の入力反射係数(ポート61から出力される信号をポート61に入力される信号で除した値)の減衰量をdB表示したものである。二点鎖線で示すグラフは、チェビチェフバンドパスフィルタ60のポート61の順方向伝達係数(ポート62から出力される信号をポート61に入力される信号で除した値)の減衰量をdB表示したものである。破線で示すグラフは、有極型帯域通過フィルタ70のポート71の入力反射係数(ポート71から出力される信号をポート71に入力される信号で除した値)の減衰量をdB表示したものである。実線で示すグラフは、有極型帯域通過フィルタ70のポート71の順方向伝達係数(ポート72から出力される信号をポート71に入力される信号で除した値)の減衰量をdB表示したものである。
【0056】
このグラフに示すように、有極型帯域通過フィルタ70には、共振器30の共振作用による減衰極が遮断周波数0.8GHzのポイントで形成されているので、通過域から減衰域にかけての遷移域における減衰傾度を大きくとることができる。その上、有極型帯域通過フィルタ70は、インターディジタル結合された一対の1/4波長共振器31,32の結合の度合いを強めることで、共振器30のサイズをより一層小型化することができる。即ち、有極型帯域通過フィルタ70は、小型かつ低損失で急峻なスカート特性を得ることができる。
【0057】
尚、図14は有極型帯域通過フィルタ70のキャパシタ40Aの容量を10%下げたときのフィルタ特性を示すグラフであり、図15は有極型帯域通過フィルタ70のキャパシタ40Aの容量を10%上げたときのフィルタ特性を示すグラフであり、図16は有極型帯域通過フィルタ70の共振器30のZeを10%下げたときのフィルタ特性を示すグラフであり、図17は有極型帯域通過フィルタ70の共振器30のZeを10%上げたときのフィルタ特性を示すグラフであり、図18は有極型帯域通過フィルタ70の共振器30のZoを10%下げたときのフィルタ特性を示すグラフであり、図19は有極型帯域通過フィルタ70の共振器30のZoを10%上げたときのフィルタ特性を示すグラフである。これらのグラフに示すように、(19)式〜(21)式の計算結果に±10%の誤差が存在しても実用上十分なフィルタ特性を得ることができる。
【実施例2】
【0058】
図20は実施例2に係わる有極型帯域通過フィルタ10Bの回路構成を示す。
実施例2ではオープンスタブ40Bがリアクタンス素子として接続点23に接続している。オープンスタブ40Bは、その物理長が1/4波長より短いと、キャパシタとして機能する。オープンスタブ40Bの特性アドミッタンスをYCとし、有極型帯域通過フィルタ10Bの合成サセプタンスをBとすると、以下の(22)式が成立する。ここで、θ1は共振器30の電気角を示し、θ2はオープンスタブ40Bの電気角を示す。
【数22】

【0059】
ここで、共振器30、及びオープンスタブ40Bのそれぞれについて共振時における電気角をθ10,θ20とし、(22)式について(16)式及び(17)式を適用して、YC,Ze,Zoを求めると、(23)式〜(25)式が得られる。
【数23】

【数24】

【数25】

【0060】
ここで、本実施例の有効性を検証するため、図11に示すチェビチェフバンドパスフィルタ60のフィルタ特性と、図21に示す有極型帯域通過フィルタ80のフィルタ特性との比較検証を試みた。有極型帯域通過フィルタ80は、チェビチェフバンドパスフィルタ60の破線の枠内で囲んだ並列共振回路60Aを有極型帯域通過フィルタ10Bで置換した回路構成を有している。
【0061】
ここで、遮断周波数を0.8GHz、実効比誘電率を7.3、実効比透磁率を1、共振器30の物理長を10mm、オープンスタブ40Bの物理長を2mmとして、(23)式〜(25)式によりYC,Ze,Zoを求めると、YC=0.3811862,Ze=205.7684469,Zo=10.93237914である。
【0062】
図22はフィルタ特性の比較結果をグラフにしたものである。横軸は、周波数[GHz]を示し、縦軸は減衰量[dB]を示している。一点鎖線で示すグラフは、チェビチェフバンドパスフィルタ60のポート61の入力反射係数の減衰量をdB表示したものである。二点鎖線で示すグラフは、チェビチェフバンドパスフィルタ60のポート61の順方向伝達係数の減衰量をdB表示したものである。破線で示すグラフは、有極型帯域通過フィルタ80のポート81の入力反射係数(ポート81から出力される信号をポート81に入力される信号で除した値)の減衰量をdB表示したものである。実線で示すグラフは、有極型帯域通過フィルタ80のポート81の順方向伝達係数(ポート82から出力される信号をポート81に入力される信号で除した値)の減衰量をdB表示したものである。
【0063】
このグラフに示すように、有極型帯域通過フィルタ80には、共振器30の共振作用による減衰極が遮断周波数0.8GHzのポイントで形成されているので、通過域から減衰域にかけての遷移域における減衰傾度を大きくとることができる。その上、有極型帯域通過フィルタ80は、インターディジタル結合された一対の1/4波長共振器31,32の結合の度合いを強めることで、共振器30のサイズをより一層小型化することができる。即ち、有極型帯域通過フィルタ80は、小型かつ低損失で急峻なスカート特性を得ることができる。
【0064】
尚、グラフには示していないが、(23)式〜(25)式の計算結果に±10%の誤差が存在しても実用上十分なフィルタ特性が得られることが本発明者のシミュレーションにより確認されている。
【実施例3】
【0065】
図23は実施例3に係わる有極型帯域通過フィルタ10Cの回路構成を示す。
実施例3では、インダクタンス素子40Cがリアクタンス素子として接続点23に接続している。インダクタンス素子40CのインダクタンスをLaddとし、有極型帯域通過フィルタ10Cの合成サセプタンスをBとすると、以下の(26)式が成立する。
【数26】

【0066】
(26)式について(16)式及び(17)式を適用して、Ladd,Ze,Zoを求めると、(27)式〜(29)式が得られる。
【数27】

【数28】

【数29】

【0067】
ここで、本実施例の有効性を検証するため、図11に示すチェビチェフバンドパスフィルタ60のフィルタ特性と、図24に示す有極型帯域通過フィルタ90のフィルタ特性との比較検証を試みた。有極型帯域通過フィルタ90は、チェビチェフバンドパスフィルタ60の破線の枠内で囲んだ並列共振回路60Aを有極型帯域通過フィルタ10Cで置換した回路構成を有している。
【0068】
ここで、遮断周波数を1.2GHz、実効比誘電率を7.3、実効比透磁率を1、共振器30の物理長を10mmとして、(27)式〜(29)式によりLadd,Ze,Zoを求めると、Ladd=3.995755702nH,Ze=188.6639626,Zo=23.57934289である。
【0069】
図25はフィルタ特性の比較結果をグラフにしたものである。横軸は、周波数[GHz]を示し、縦軸は減衰量[dB]を示している。一点鎖線で示すグラフは、チェビチェフバンドパスフィルタ60のポート61の入力反射係数の減衰量をdB表示したものである。二点鎖線で示すグラフは、チェビチェフバンドパスフィルタ60のポート61の順方向伝達係数の減衰量をdB表示したものである。破線で示すグラフは、有極型帯域通過フィルタ90のポート91の入力反射係数(ポート91から出力される信号をポート91に入力される信号で除した値)の減衰量をdB表示したものである。実線で示すグラフは、有極型帯域通過フィルタ90のポート91の順方向伝達係数(ポート92から出力される信号をポート91に入力される信号で除した値)の減衰量をdB表示したものである。
【0070】
このグラフに示すように、有極型帯域通過フィルタ90には、共振器30の共振作用による減衰極が遮断周波数1.2GHzのポイントで形成されているので、通過域から減衰域にかけての遷移域における減衰傾度を大きくとることができる。その上、有極型帯域通過フィルタ80は、インターディジタル結合された一対の1/4波長共振器31,32の結合の度合いを強めることで、共振器30のサイズをより一層小型化することができる。即ち、有極型帯域通過フィルタ80は、小型かつ低損失で急峻なスカート特性を得ることができる。
【0071】
尚、グラフには示していないが、(27)式〜(29)式の計算結果に±10%の誤差が存在しても実用上十分なフィルタ特性が得られることが本発明者のシミュレーションにより確認されている。
【実施例4】
【0072】
図26は実施例4に係わる有極型帯域通過フィルタ10Dの回路構成を示す。
実施例4では、ショートスタブ40Dがリアクタンス素子として接続点23に接続している。ショートスタブ40Dは、その物理長が1/4波長より短いと、インダクタンス素子として機能する。ショートスタブ40Dの特性アドミッタンスをYCとし、有極型帯域通過フィルタ10DのサセプタンスをBとすると、以下の(30)式が成立する。ここで、θ1は共振器30の電気角を示し、θ2はショートスタブ40Dの電気角を示す。
【数30】

【0073】
ここで、共振器30、及びショートスタブ40Dのそれぞれについて共振時における電気角をθ10,θ20とし、(30)式について(16)式及び(17)式を適用して、YC,Ze,Zoを求めると、(31)式〜(33)式が得られる。
【数31】

【数32】

【数33】

【0074】
ここで、本実施例の有効性を検証するため、図11に示すチェビチェフバンドパスフィルタ60のフィルタ特性と、図27に示す有極型帯域通過フィルタ100のフィルタ特性との比較検証を試みた。有極型帯域通過フィルタ100は、チェビチェフバンドパスフィルタ60の破線の枠内で囲んだ並列共振回路60Aを有極型帯域通過フィルタ10Dで置換した回路構成を有している。
【0075】
ここで、遮断周波数を1.2GHz、実効比誘電率を7.3、実効比透磁率を1、共振器30の物理長を10mm、ショートスタブ40Dの物理長を2mmとして、(31)式〜(33)式によりYC,Ze,Zoを求めると、YC=0.00452492,Ze=188.920899,Zo=23.61145507である。
【0076】
図28はフィルタ特性の比較結果をグラフにしたものである。横軸は、周波数[GHz]を示し、縦軸は減衰量[dB]を示している。一点鎖線で示すグラフは、チェビチェフバンドパスフィルタ60のポート61の入力反射係数の減衰量をdB表示したものである。二点鎖線で示すグラフは、チェビチェフバンドパスフィルタ60のポート61の順方向伝達係数の減衰量をdB表示したものである。破線で示すグラフは、有極型帯域通過フィルタ100のポート101の入力反射係数(ポート101から出力される信号をポート101に入力される信号で除した値)の減衰量をdB表示したものである。実線で示すグラフは、有極型帯域通過フィルタ100のポート101の順方向伝達係数(ポート102から出力される信号をポート101に入力される信号で除した値)の減衰量をdB表示したものである。
【0077】
このグラフに示すように、有極型帯域通過フィルタ100には、共振器30の共振作用による減衰極が遮断周波数1.2GHzのポイントで形成されているので、通過域から減衰域にかけての遷移域における減衰傾度を大きくとることができる。その上、有極型帯域通過フィルタ100は、インターディジタル結合された一対の1/4波長共振器31,32の結合の度合いを強めることで、共振器30のサイズをより一層小型化することができる。即ち、有極型帯域通過フィルタ100は、小型かつ低損失で急峻なスカート特性を得ることができる。
【0078】
尚、グラフには示していないが、(31)式〜(33)式の計算結果に±10%の誤差が存在しても実用上十分なフィルタ特性が得られることが本発明者のシミュレーションにより確認されている。
【実施例5】
【0079】
図29は実施例5に係わる有極型帯域通過フィルタ10Eの回路構成を示す。
実施例5では、インターディジタル結合された一対の1/4波長共振器40Eがリアクタンス素子として接続点23に接続している。共振器30の電気角をθ1とし、共振器40Eの電気角をθ2とし、有極型帯域通過フィルタ10EのサセプタンスをBとすると、以下の(34)式が成立する。
【数34】

【0080】
ここで、共振器30、共振器40Eのそれぞれが接続点23から見てグランドとの間に直列共振するときの電気角をθt1,θt2とし、(34)式について(16)式及び(17)式を適用して、Ze1,Zo1,Ze2,Zo2を求めると、(35)式〜(38)式が得られる。ここで、Ze1は共振器30の偶モードの特性インピーダンスを示し、Zo1は共振器30の奇モードの特性インピーダンスを示し、Ze2は共振器40Eの偶モードの特性インピーダンスを示し、Zo2は共振器40Eの奇モードの特性インピーダンスを示す。
【数35】

【数36】

【数37】

【数38】

【0081】
ここで、本実施例の有効性を検証するため、図11に示すチェビチェフバンドパスフィルタ60のフィルタ特性と、図30に示す有極型帯域通過フィルタ110のフィルタ特性との比較検証を試みた。有極型帯域通過フィルタ110は、チェビチェフバンドパスフィルタ60の破線の枠内で囲んだ並列共振回路60Aを有極型帯域通過フィルタ10Eで置換した回路構成を有している。
【0082】
ここで、共振器40Eの直列共振作用による有極型帯域通過フィルタ110の遮断周波数を0.8GHz、共振器30の直列共振作用による有極型帯域通過フィルタ110の遮断周波数を1.2GHz、実効比誘電率を7.3、実効比透磁率を1、共振器40Eの物理長を10mm、共振器30の物理長を10mmとして、(35)式〜(38)式により、Ze1,Zo1,Ze2,Zo2を求めると、Ze1=358.9428074,Zo1=19.07045963,Ze2=322.622567,Zo2=40.32157507である。
【0083】
図31はフィルタ特性の比較結果をグラフにしたものである。横軸は、周波数[GHz]を示し、縦軸は減衰量[dB]を示している。一点鎖線で示すグラフは、チェビチェフバンドパスフィルタ60のポート61の入力反射係数の減衰量をdB表示したものである。二点鎖線で示すグラフは、チェビチェフバンドパスフィルタ60のポート61の順方向伝達係数の減衰量をdB表示したものである。破線で示すグラフは、有極型帯域通過フィルタ110のポート111の入力反射係数(ポート111から出力される信号をポート111に入力される信号で除した値)の減衰量をdB表示したものである。実線で示すグラフは、有極型帯域通過フィルタ110のポート111の順方向伝達係数(ポート112から出力される信号をポート111に入力される信号で除した値)の減衰量をdB表示したものである。
【0084】
このグラフに示すように有極型帯域通過フィルタ110には、共振器40Eの直列共振作用による減衰極が遮断周波数0.8GHzのポイントで形成され、更に共振器30の直列共振作用による減衰極が遮断周波数1.2GHzのポイントで形成されているので、通過域から減衰域にかけての遷移域における減衰傾度を大きくとることができる。その上、有極型帯域通過フィルタ110は、インターディジタル結合された一対の1/4波長共振器41,42の結合の度合い、及びインターディジタル結合された一対の1/4波長共振器31,32の結合の度合いを強めることで、それぞれの共振器40E,30のサイズをより一層小型化することができる。即ち、有極型帯域通過フィルタ110は、小型かつ低損失で急峻なスカート特性を得ることができる。
【0085】
尚、グラフには示していないが、(35)式〜(38)式の計算結果に±10%の誤差が存在しても実用上十分なフィルタ特性が得られることが本発明者のシミュレーションにより確認されている。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本実施形態に係わる有極型帯域通過フィルタの回路構成図である。
【図2】一対の1/4波長共振器における第1の共振モードの説明図である。
【図3】一対の1/4波長共振器における第2の共振モードの説明図である。
【図4】図4(A)はカップリング伝送線路の奇モードでの電界Eの分布を示す説明図であり、図4(B)はカップリング伝送線路の偶モードでの電界Eの分布を示す説明図である。
【図5】図5(A)は図4(A)と等価な伝送線路を示す説明図であり、図5(B)は図4(B)と等価な伝送線路を示す説明図である。
【図6】インターディジタル結合された一対の1/4波長共振器における共振周波数の分布状態を示す説明図である。
【図7】一対の1/4波長共振器を複数組備える共振器の説明図である。
【図8】遮断周波数における有極型帯域通過フィルタの等価回路図である。
【図9】中心周波数における有極型帯域通過フィルタの等価回路図である。
【図10】実施例1に係わる有極型帯域通過フィルタの回路構成図である。
【図11】従来のチェビチェフバンドパスフィルタの回路構成図である。
【図12】実施例1に係わる有極型帯域通過フィルタの回路構成図である。
【図13】実施例1に係わる有極型帯域通過フィルタのフィルタ特性と従来のチェビチェフバンドパスフィルタのフィルタ特性とを比較するためのグラフである。
【図14】実施例1に係わる有極型帯域通過フィルタのフィルタ特性と従来のチェビチェフバンドパスフィルタのフィルタ特性とを比較するためのグラフである。
【図15】実施例1に係わる有極型帯域通過フィルタのフィルタ特性と従来のチェビチェフバンドパスフィルタのフィルタ特性とを比較するためのグラフである。
【図16】実施例1に係わる有極型帯域通過フィルタのフィルタ特性と従来のチェビチェフバンドパスフィルタのフィルタ特性とを比較するためのグラフである。
【図17】実施例1に係わる有極型帯域通過フィルタのフィルタ特性と従来のチェビチェフバンドパスフィルタのフィルタ特性とを比較するためのグラフである。
【図18】実施例1に係わる有極型帯域通過フィルタのフィルタ特性と従来のチェビチェフバンドパスフィルタのフィルタ特性とを比較するためのグラフである。
【図19】実施例1に係わる有極型帯域通過フィルタのフィルタ特性と従来のチェビチェフバンドパスフィルタのフィルタ特性とを比較するためのグラフである。
【図20】実施例2に係わる有極型帯域通過フィルタの回路構成図である。
【図21】実施例2に係わる有極型帯域通過フィルタの回路構成図である。
【図22】実施例2に係わる有極型帯域通過フィルタのフィルタ特性と従来のチェビチェフバンドパスフィルタのフィルタ特性とを比較するためのグラフである。
【図23】実施例3に係わる有極型帯域通過フィルタの回路構成図である。
【図24】実施例3に係わる有極型帯域通過フィルタの回路構成図である。
【図25】実施例3に係わる有極型帯域通過フィルタのフィルタ特性と従来のチェビチェフバンドパスフィルタのフィルタ特性とを比較するためのグラフである。
【図26】実施例4に係わる有極型帯域通過フィルタの回路構成図である。
【図27】実施例4に係わる有極型帯域通過フィルタの回路構成図である。
【図28】実施例4に係わる有極型帯域通過フィルタのフィルタ特性と従来のチェビチェフバンドパスフィルタのフィルタ特性とを比較するためのグラフである。
【図29】実施例5に係わる有極型帯域通過フィルタの回路構成図である。
【図30】実施例5に係わる有極型帯域通過フィルタの回路構成図である。
【図31】実施例5に係わる有極型帯域通過フィルタのフィルタ特性と従来のチェビチェフバンドパスフィルタのフィルタ特性とを比較するためのグラフである。
【符号の説明】
【0087】
10…有極型帯域通過フィルタ 20…線路 21…入力端子 22…出力端子 23…接続点 30…共振器 31,32…1/4波長共振器 40…リアクタンス素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力端子と出力端子とを接続する線路と、前記線路に接続される共振器と、前記線路とグランドとの間に接続されるリアクタンス素子とを備えるフィルタであって、
前記共振器は、インターディジタル結合された一対の第一の共振器を含み、前記一対の第一の共振器のうち一方の共振器の短絡端は前記線路に接続されている、フィルタ。
【請求項2】
請求項1に記載のフィルタであって、
前記フィルタの通過周波数において、前記共振器と前記リアクタンス素子は、前記線路と前記グランドとの間に並列共振回路を等価的に形成し、
前記フィルタの遮断周波数において、前記共振器は、前記線路と前記グランドとの間に直列共振回路を等価的に形成する、フィルタ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のフィルタであって、前記リアクタンス素子は、キャパシタである、フィルタ。
【請求項4】
請求項3に記載のフィルタであって、前記キャパシタは、1/4波長より短いオープンスタブである、フィルタ。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載のフィルタであって、前記リアクタンス素子は、インダクタンス素子である、フィルタ。
【請求項6】
請求項5に記載のフィルタであって、前記インダクタンス素子は、1/4波長より短いショートスタブである、フィルタ。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載のフィルタであって、前記リアクタンス素子は、インターディジタル結合された一対の第二の共振器から成り、前記一対の第二の共振器のうち一方の共振器の短絡端は前記線路に接続されている、フィルタ。
【請求項8】
請求項1又は請求項2に記載のフィルタであって、前記共振器は、インターディジタル結合された一対の第三の共振器を一組以上更に含み、前記一対の第一の共振器と前記一組以上の一対の第三の共振器は、インターディジタル結合されている、フィルタ。
【請求項9】
請求項2乃至請求項8のうち何れか1項に記載のフィルタであって、
角周波数をω、前記通過周波数に対応する角周波数をω0、前記リアクタンス素子の電気角をθ1、前記通過周波数に対応する前記リアクタンス素子の電気角をθ10、前記共振器の電気角をθ2、前記通過周波数に対応する前記共振器の電気角をθ20、前記フィルタのサセプタンスをB(θ1,θ2)とし、前記並列共振回路の等価回路をキャパシタC0とインダクタンスL0との並列接続回路から成るものとしたとき、
前記リアクタンス素子及び前記共振器の回路定数は、ω=ω0,θ1=θ10,θ2=θ20のとき、B(θ1,θ2)=ω00−1/ω00=0、且つω∂B/∂ω=2ω00を満たす値の±10%の範囲内にある、フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公開番号】特開2008−219519(P2008−219519A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−54853(P2007−54853)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】