説明

フィルム、フィルムの製造方法、偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルムおよび液晶表示装置

【課題】傾斜構造を有するフィルムを液晶表示装置に組み込んだ問題となる周辺ムラを改善できるフィルムおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂を含有するフィルムを、フィルムの一方の表面の温度と反対側の表面の温度と表裏の温度差が0.5〜20℃となるように制御しながらフィルム幅方向に延伸する工程を含み、前記熱可塑性樹脂を含有するフィルムが、フィルム傾斜方位とフィルム法線を含む面内において該法線に対して傾斜方位側へ40°傾いた方向から測定した波長550nmにおけるレターデーションRe[+40°]と、該法線に対して傾斜方位側へ−40°傾いた方向から測定した波長550nmにおけるレターデーションRe[−40°]とが異なることを特徴とするフィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフィルムの製造方法に関する。また、該製造方法で作成されたフィルム、並びに該フィルムを有する偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルムおよび液晶表示装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ市場の隆盛に伴い、様々なフィルムが開発されている。また、さまざまなフィルムの製造方法が開発されており、熱可塑性樹脂を含有する組成物を挟圧装置に挟んで圧縮力および/またはせん断力を付与して光学フィルムを製造する方法が知られている。
【0003】
まず、挟圧装置間に熱可塑性樹脂を挟圧し、圧縮してフィルムを製造する方法が知られている。この場合、挟圧圧力を上げると、厚み方向に大きな圧縮力が働き、分子鎖が選択的に厚み方向に配向したフィルムが作成できることが知られている。しかしながら、例えば特許文献1には、ロール圧力を上げることで大きな残留歪みを生じさせたフィルムは、光の乱反射や複屈折現象を起こすため、光学的用途や液晶表示装置に使用できないことが開示されている。すなわち、残留歪みを生じさせたフィルムは光学均一性が不十分であるとしている。
【0004】
一方、特許文献2〜4には、せん断力を付与して傾斜型位相差フィルムを製造する方法が開示されている。例えば、特許文献1には、周速度の異なる二つのロール間にフィルムを通すことで、該フィルムにせん断力を付与し、光軸が傾斜したフィルムを作成する方法と、TN型液晶ディスプレイへの応用が記載されている。しかし、前記文献2に記載の方法では、フィルムの光学特性のバラツキが大きいこと、フィルム表面に接触傷が付き易い等の問題があった。また、溶融物に対して適用することも示唆していなかった。これに対し、特許文献3および4では、ゴムロールと周速の異なってもよい金属ロールの2つのロールを用いて溶融物を挟み、せん断力を付与することで、上記問題点を解決し、均一性が向上した光学フィルムが得られることが記載されている。また、せん断力を付与して製造したフィルムは、特許文献1に記載の圧縮力のみを付与して製造したフィルムに比べると、例えばTNモードの液晶表示装置の光学補償能が高まるものであった。
【0005】
しかし、液晶表示装置に単に光軸が傾斜した光学フィルムを使用しただけでは、光学補償の効果は十分ではない上、液晶表示装置に組み込んだ際のその他の性能も十分ではない。例えば、特許文献4ではその実施例で光軸が11.5〜18.2°傾斜した光学フィルムが開示されているが、光軸傾斜角度と液晶表示装置の光学補償との関係については何ら記載されていない。また、実際に、透過型のTNやECB液晶表示装置や、半透過型のTNやECB液晶表示装置の光学補償を行うには、光軸が11.5〜18.2°傾斜した光学フィルムでは液晶セルのリタデーションを補償するには不十分であった。また、このように溶融物にせん断力を付与して製造した光学フィルムであっても、実際に液晶表示装置に組み込んだ際の光学均一性についてはいまだ不十分であった。
【0006】
このように、傾斜構造を有し、実際に液晶表示装置に組み込んだ際の均一性がより良好であり、光学用途に好適なフィルムを製造する方法は従来知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3194904号公報
【特許文献2】特開平6−222213号公報
【特許文献3】特開2003−25414号公報
【特許文献4】特開2007−38646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者が、これらの文献に記載の傾斜構造を有するフィルムを製造する方法を検討したところ、特に液晶表示装置に組み込んだ際に、周囲の色相が変化する額縁ムラのような表示故障(以下、周辺ムラと言う)が生じることがわかった。さらにこのような周辺ムラについては、どのような条件において熱可塑性樹脂にせん断力をかけてフィルムを製膜した場合であっても発生していることを見出した。また、このような傾斜構造を有するフィルムを液晶表示装置に用いた際に発生してしまう周辺ムラについて、特許文献2〜4には開示されておらず、従来検討されていなかった。
【0009】
本発明は上記の課題を考慮してなされたものであり、本発明の第一の目的は、傾斜構造を有するフィルムを液晶表示装置に組み込んだ問題となる周辺ムラを改善できるフィルムおよびその製造方法を提供することにある。また、本発明の第二の目的は、該フィルムを用いた偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルムおよび液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、傾斜構造を有するフィルムを製膜した後、フィルム幅方向に延伸する工程(以下、横延伸工程とも言う)を実施し、さらに前記横延伸工程においてフィルムの一方の表面ともう一方の表面に温度差が生じるように制御しながら横延伸することで、上記の周辺ムラを改善できることを見出した。すなわち、下記製造方法およびその方法で作成されたフィルムが上記課題を解決できることを見出し、以下に記載する本発明を完成するに至った。
【0011】
[1] 熱可塑性樹脂を含有するフィルムを、フィルムの一方の表面の温度と反対側の表面の温度との温度差が0.5〜20℃となるように制御しながらフィルム幅方向に延伸する工程を含み、前記熱可塑性樹脂を含有するフィルムが、フィルム傾斜方位とフィルム法線を含む面内において該法線に対して傾斜方位側へ40°傾いた方向から測定した波長550nmにおけるレターデーションRe[+40°]と、該法線に対して傾斜方位側へ−40°傾いた方向から測定した波長550nmにおけるレターデーションRe[−40°]とが異なることを特徴とするフィルムの製造方法。
[2] 前記Re[+40°]と前記Re[−40°]が、下記式(I)を満たすことを特徴とする[1]に記載のフィルムの製造方法。
10nm≦|Re[+40°]−Re[−40°]|≦300nm 式(I)
[3] 前記熱可塑性樹脂を含有するフィルムが、挟圧装置を構成する第一挟圧面と第二挟圧面の間を通過する直前の熱可塑性樹脂を含有する組成物の温度を下記条件(1)または(2)を満たすように制御しながら、該組成物を前記第一挟圧面と前記第二挟圧面の間を通過させて連続的に挟圧してフィルム状に成形する工程により製造されたことを特徴とする[1]または[2]に記載のフィルムの製造方法。
条件(1):前記熱可塑性樹脂が非晶性樹脂の場合、
Tg+20℃以上(但し、Tgは前記非晶性樹脂のガラス転移温度を
表し、単位:℃である)。
条件(2):前記熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合、
Tc以上(但し、Tcは前記結晶性樹脂の結晶化温度を表し、
単位:℃である)。
[4] 前記熱可塑性樹脂を含有する組成物をダイから溶融押出しする工程と、溶融押出しされた溶融物を前記第一挟圧面と前記第二挟圧面の間を通過させる工程と、を含むことを特徴とする[3]に記載のフィルムの製造方法。
[5] 前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、セルロースアシレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂およびアクリル系樹脂から選択される少なくとも1種であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか1項に記載のフィルムの製造方法。
[6] 前記熱可塑性樹脂が、正の複屈折性を示すことを特徴とする[1]〜[5]のいずれか1項に記載のフィルムの製造方法。
[7] 熱可塑性樹脂を含有し、フィルム傾斜方位とフィルム法線を含む面内において、該法線に対して傾斜方位側へ40°傾いた方向から測定した波長550nmにおけるレターデーションRe[+40°]と、該法線に対して傾斜方位側へ−40°傾いた方向から測定した波長550nmにおけるレターデーションRe[−40°]が、下記式(I)を満たし、かつ、25℃相対湿度60%下でのカール値の絶対値Kcが下記式(II)を満たすことを特徴とするフィルム。
10nm≦|Re[+40°]−Re[−40°]|≦300nm 式(I)
0m-1≦Kc≦50m-1 式(II)
[8] フィルム面内の遅相軸とフィルム傾斜方位のなす角度が30°〜150℃であることを特徴とする[7]に記載のフィルム。
[9] フィルム膜厚方向のレターデーションRthが下記式(III)を満たすことを特徴とする[7]または[8]に記載のフィルム。
40nm≦Rth≦500nm 式(III)
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d 式(III)'
(式(III)中、nx、nyおよびnzは屈折率楕円体の各主軸方位の屈折率を表し、dはフィルム厚みを表す。)
[10] Nzファクターが下記式(IV)を満たすことを特徴とする[7]〜[9]のいずれか一項に記載のフィルム。
1.2≦Nz 式(IV)
Nz=(nx−nz)/(nx−ny) 式(IV)'
[11] [1]〜[6]のいずれか1項に記載のフィルムの製造方法で製造されたことを特徴とするフィルム。
[12] 偏光子と、[7]〜[11]のいずれか1項に記載のフィルムを用いたことを特徴とする偏光板。
[13] [7]〜[11]のいずれか1項に記載のフィルムを用いたことを特徴とする光学補償フィルム。
[14] [7]〜[11]のいずれか1項に記載のフィルムを用いたことを特徴とする反射防止フィルム。
[15] [7]〜[11]のいずれか1項に記載のフィルムを用いたことを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、傾斜構造を有するフィルムを液晶表示装置に組み込んだ問題となる周辺ムラを改善できる。特に、熱可塑性樹脂にせん断力を付与して製造された傾斜構造を有するフィルムにおいて問題となる前記周辺ムラを改善できる。さらに本発明の好ましい態様によれば、液晶ディスプレイに使用した場合に十分な光学補償を実現できるフィルムおよびその製造方法を提供することができる。詳しくは、上記光学特性を有するフィルムは、TNモード、ECBモード、OCBモードの液晶ディスプレイに使用した場合に、十分な光学補償を実現できる。例えば、TNモードの液晶ディスプレイでは、視野角度が狭いため、通常、光学補償を実現する液晶組成物からなる光学補償層が設けられた光学補償フィルムが偏光子に積層されて使用されるが、本発明のフィルムを使用した場合には、液晶組成物からなる光学補償層を利用しなくても、従来の液晶組成物からなる光学補償層を有する光学補償フィルムを利用したものよりも簡便に視野角補償を行うことができる。また、本発明のフィルムの製造方法により、本発明のフィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の半透過型ECBモード液晶表示装置における偏光板の吸収軸、液晶セルの配向方向およびフィルムの遅相軸を表した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0015】
[フィルム]
本発明のフィルムは、熱可塑性樹脂を含有し、フィルム傾斜方位とフィルム法線を含む面内において、該法線に対して傾斜方位側へ40°傾いた方向から測定した波長550nmにおけるレターデーションRe[+40°]と、該法線に対して傾斜方位側へ−40°傾いた方向から測定した波長550nmにおけるレターデーションRe[−40°]が、下記式(I)を満たし、かつ、25℃相対湿度60%下でのカール値の絶対値Kcが下記式(II)を満たすことを特徴とする。
10nm≦|Re[+40°]−Re[−40°]|≦300nm 式(I)
0m-1≦Kc≦50m-1 式(II)
本明細書において、「フィルム法線からθ°傾いた方向」とは、法線方向から傾斜方位にθ°だけフィルム面方向に傾斜させた方向と定義する。即ち、フィルム面の法線方向は、傾斜角度0°の方向であり、フィルム面内の任意の方向は、傾斜角度(θ)の符号の正負を考慮しない場合、傾斜角度90°の方向である。傾斜角度(θ)の符号の正負を考慮する場合、Re[+40°]を測定する方向とRe[−40°]を測定する方向は、フィルム法線に対して、線対称な位置となる。
以下、本発明のフィルムについて説明する。
【0016】
(カール値の絶対値)
本発明のフィルムは、25℃相対湿度60%下でのカール値の絶対値Kcが前記式(II)を満たすことを特徴とする。前記式(II)の範囲、すなわち0〜50m-1にKcを制御することで、液晶表示装置に傾斜構造を有するフィルムを組み込んだ際の周辺ムラを顕著に改善することができる。前記周辺ムラの改善効果は、本発明のフィルムに含まれる熱可塑性樹脂の種類にもよるが、Kcが低下するほど改善される傾向にあり、このような傾向は従来知られていなかった。また、傾斜構造を有するフィルムは、製造する際にせん断力をフィルムに加えられて製造されるため、例えば圧縮力のみを付与してフィルム化した場合よりもKcが非常に高い。いかなる理論に拘泥するものでもないが、本発明のフィルムはカール値が低いため、前記周辺ムラが改善されたものと予想される。
【0017】
前記Kcは、一般的に0〜40m-1であることが好ましく、0〜25m-1であることがより好ましい。また、本発明のフィルムが熱可塑性樹脂として環状オレフィン系樹脂を含む場合、周辺ムラを改善する観点から、0〜25m-1であることが好ましく、0〜20m-1であることがより好ましく、0〜7m-1であることが特に好ましい。本発明のフィルムが熱可塑性樹脂としてポリカーボネート系樹脂を含む場合、周辺ムラを改善する観点から、0〜15m-1であることが好ましく、0〜10m-1であることがより好ましく、0〜3m-1であることが特に好ましい。本発明のフィルムが熱可塑性樹脂としてポリオレフィン系樹脂を含む場合、周辺ムラを改善する観点から、0〜45m-1であることが好ましく、0〜40m-1であることがより好ましく、0〜38m-1であることが特に好ましい。
【0018】
なお、例えばKcが100m-1を超えるようなフィルムは非常に大きくカールしており、変形の履歴が残っているフィルムであり、例えばロールに巻き取って保存した場合であってもKcが経時的に低下したりしてカールが解消することはない。
【0019】
(面内方向のレターデーションRe)
本発明のフィルムにおいて、|Re[+40°]−Re[−40°]|は10〜300nmであり、20〜200nmであることが好ましく、より好ましくは、50〜150nmである。|Re[+40°]−Re[−40°]|が10〜300nmの範囲であることが、視野角補償能をより改善する観点から好ましい。
【0020】
また、本発明のフィルムは、面内方向のレターデーションRe[0°]が0〜300nmであることが好ましく、より好ましくは25〜230nmであり、さらに好ましくは50〜180nmである。
【0021】
Re[0°]、Re[+40°]およびRe[−40°]のバラツキは、液晶ディスプレイに利用した場合に、表示ムラとなって現れるので、そのバラツキは小さいほど好ましく、具体的には、±3nm以内であることが好ましく、±1nm以内であることがさらに好ましい。また、同様に遅相軸の角度のバラツキも、表示ムラの原因となるので、そのバラツキは小さいほど好ましく、具体的には±1°以内であることが好ましく、±0.5°以内であることがさらに好ましく、±0.25°以内であることが特に好ましい。
【0022】
本発明のフィルムは、フィルム膜厚方向のレターデーションRthが下記式(III)を満たすことが好ましい。
40nm≦Rth≦500nm 式(III)
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d 式(III)'
(式(III)中、nx、nyおよびnzは屈折率楕円体の各主軸方位の屈折率を表し、dはフィルム厚みを表す。)
【0023】
さらに、本発明のフィルムは、厚み方向のレターデーションRthが、より好ましくは40〜350nm、さらに好ましくは40〜300nmである。
【0024】
|Re[+40°]−Re[−40°]|、Re[0°]およびRthが前記好ましい範囲のフィルムは、後述する本発明の製造方法によって作製することができる。また、上記好ましい光学特性の光学フィルムを、TNモード、ECBモード、OCBモード等の液晶ディ液晶ディスプレイの光学補償に利用した場合に、視野角特性の改善に寄与し、広視野角化を達成することができる。
【0025】
本発明のフィルムは、Nzファクターが下記式(IV)を満たすことが好ましい。
1.2≦Nz 式(IV)
Nz=(nx−nz)/(nx−ny) 式(IV)'
Nzファクターがこのような範囲である場合、特にTNモードやECBモードおよびOCBモードの液晶表示装置のコントラストを改善することができる。
前記Nzは1.3〜10であることが好ましく、1.5〜3.6であることが特に好ましい。
【0026】
本発明のフィルムは、遅相軸と傾斜方位のなす角度が30°〜150°であることが好ましく、より好ましくは40°〜140°、さらに好ましくは50°〜130°である。このように遅相軸が傾斜方位から傾いていることが、TNなどの液晶モードに使用される際のフィルムの有効使用率向上の観点から好ましく、また、フィルムをロールに巻き取った後に経時させ、その後液晶表示装置に組み込んで液晶表示板として使用した場合に周囲ムラを視認され難くする観点からも好ましい。
【0027】
上記光学特性値は、以下の方法により測定することができる。
本明細書において、ReおよびRthは、光学異方性層、フィルム、積層体等の、フィルム状の測定対象物の、面内のレターデーション(nm)、及び厚み方向のレターデーション(nm)を表す。
Re[0°]は、KOBRA 21ADH又はWR(王子計測機器(株)製)において、波長550nmの光を、フィルム状の測定対象物の法線方向に入射させて測定される。測定波長λnmの選択にあたっては、波長選択フィルターをマニュアルで交換するか、または測定値をプログラム等で変換して測定することができる。
測定されるフィルム状の測定対象物が1軸又は2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合、以下の方法によりRthが算出される。
Rthは、前記Reを面内の遅相軸(KOBRA 21ADH又はWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合には、フィルム状の測定対象物の、面内の任意の方向を回転軸とする)、フィルム状の測定対象物の法線方向に対して、法線方向から−50°から+50°まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長550nmの光を入射させて、レターデーション値を11点測定し、そのレターデーション値と、平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値とを基にKOBRA 21ADH又はWRが算出する。
上記において、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値は、その符号を負に変更した後、KOBRA 21ADH又はWRが算出する。
なお、遅相軸を回転軸として(遅相軸がない場合には、フィルム状の測定対象物の、面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値、及び入力された膜厚値を基に、以下の数式(A)及び式(B)よりRthを算出することもできる。
【数1】

なお、式中、Re[θ]は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表す。
また、式(A)において、nxは、面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表し、dは膜厚を表す。
【0028】
測定されるフィルム状の測定対象物が1軸、又は2軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がない測定対象物の場合には、以下の方法により、Rthが算出される。
Rthは、前記Reを面内の任意に設定した方位(KOBRA 21ADH又はWRに設定できる)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50°から+50°まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長550nmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレターデーション値と、平均屈折率の仮定値、及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADH又はWRが算出する。
上記の測定において、平均屈折率の仮定値は、ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS、INC)、各種光学補償フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについては、アッベ屈折計で測定できる。主な光学補償フィルムの平均屈折率の値を以下に例示すると、セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADH又はWRは、nx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
なお、Re[θ°]、Rth及び屈折率の測定波長は特別な記述がない限り、測定波長550nmでの値である。
本明細書において、フィルムのRe[0°]、Re[+40°]およびRe[−40°]は、フィルム法線方向から測定した(傾斜角度0°での)波長550nmにおけるレターデーション値、該法線に対して傾斜方位側又は仮傾斜方位側へ40°傾いた方向から測定した(傾斜角度40度での)レターデーション値および該法線に対して傾斜方位側又は仮傾斜方位側へ−40°傾いた方向から測定した(傾斜角度−40度での)レターデーション値を表す。
フィルム法線方向から測定した(傾斜角度0°での)波長550nmにおけるレターデーション値、該法線に対して傾斜方位側又は仮傾斜方位側へ40°傾いた方向から測定した(傾斜角度40度での)レターデーション値および該法線に対して傾斜方位側又は仮傾斜方位側へ−40°傾いた方向から測定した(傾斜角度−40度での)レターデーション値を表す。
ここで、傾斜方位は、以下の方法で決定した。
(1)フィルム面内の遅相軸方位を0°、フィルム面内の進相軸方位を90°とし、0°〜90°の間で0.1°刻みで仮傾斜方位を設定する。
(2)フィルム法線に対して各仮傾斜方位側へ40°又は−40°傾いた方向からRe[+40°]とRe[−40°]を測定し、各仮傾斜方位の|Re[+40°]−Re[−40°]|を求める。
(3)|Re[+40°]−Re[−40°]|が最大となる方位を傾斜方位と決定する。
すなわち、本明細書において、「傾斜方位を有する」とは、|Re[+40°]−Re[−40°]|が最大となる方位が存在することを言う。
また、本明細書において、フィルムのRthは傾斜方位を傾斜軸(回転軸)として、KOBRA21ADH、又は、WRが算出したものである。
【0029】
なお、測定波長は550nmとする。なお、一般的な熱可塑性樹脂を溶融製膜法で作成したフィルムは、どの方位で測定しても、|Re[+40°]−Re[−40°]|≒0nmとなる。すなわち、傾斜方位で|Re[+40°]−Re[−40°]|を測定した場合、0nm以上の位相差を発現することが本発明のフィルムの特徴である。
さらに、本発明のフィルムは、フィルム面内の遅相軸とフィルム傾斜方位とが並行であることがTN、ECBモード用の視野角補償フィルムとして使用することができる観点から好ましい。一方、フィルム面内の遅相軸とフィルム傾斜方位とが直交することが、TNモードの視野角補償を行うことができ、さらに、ロールtoロールで偏光板加工を行うことができる観点から好ましい。
【0030】
また、Re[0°]、Re[+40°]およびRe[−40°]のバラツキは、以下の方法により測定することができる。フィルム面の互いに2mm以上離れた任意の10点以上の位置でサンプリングを行い、上記方法でRe[0°]、Re[+40°]およびRe[−40°]を測定し、その最大値と最小値の差を、Re[0°]、Re[+40°]およびRe[−40°]のバラツキとする。
さらに、遅相軸および後述のRthのバラツキも同様に測定される。
【0031】
本発明のフィルムの膜厚は、100μm以下であることが好ましい。液晶ディスプレイ等に用いる場合は、薄型化の観点からは、80μm以下であることが好ましく、60μm以下であることがより好ましく、40μm以下であることが特に好ましい。本発明のフィルムの製造方法では、このような薄手のフィルムを作成でき、従来技術との差異点の一つである。
【0032】
(熱可塑性樹脂)
本発明で用いられる熱可塑性樹脂は、上記光学特性を有する限り特に限定されないが、溶融押出し法を利用して作製する場合は、溶融押出し成形性が良好な材料を利用するのが好ましく、その観点では、環状オレフィン系樹脂、セルロースアシレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル類、透明ポリエチレン、透明ポリプロピレン等のポリオレフィン類、ポリアリレート類、ポリスルホン類、ポリエーテルスルホン類、マレイミド系共重合体類、透明ナイロン類、透明フッ素樹脂類、透明フェノキシ類、ポリエーテルイミド類、ポリスチレン類、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂を選択するのが好ましい。1種の当該樹脂を含有していてもよいし、互いに異なる2種以上の当該樹脂を含有していてもよい。本発明のフィルムでは、前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、セルロースアシレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂およびアクリル系樹脂から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、その中でも正の複屈折性を示すことがより好ましい。また、前記環状オレフィン類は、付加重合によって得られた環状オレフィン類であることが好ましい。
【0033】
特に、正の固有複屈折性を示す、セルロースアシレート系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂は、2つのロールでせん断変形を付加した場合、遅相軸が傾斜方位を向き、|Re[+40°]―Re[−40°]|>0のフィルムを作成することができ、例えば、2つのロールをダイ出口と平行に配置した場合、傾斜方位はフィルム長手方向と同じである。
また、負の固有複屈折性を示す、アクリル系樹脂およびスチレン系樹脂は、上記加工を行った場合、進相軸が傾斜方位を向き、|Re[+40°]―Re[−40°]|>0のフィルムを作成することができる。
【0034】
本発明のフィルムを、視野角補償フィルムとして液晶表示装置に応用する場合には、液晶表示装置の特性や偏光板加工の利便性を考慮にいれて、上記正または負の固有複屈折樹脂を適宜選択して用いることが出来る。
【0035】
本発明では、前記熱可塑性樹脂として、非晶性樹脂を用いても、結晶性樹脂を用いてもよい。本発明に好ましく用いられる前記非晶性樹脂としては、環状オレフィン系樹脂やポリカーボネート系樹脂を挙げることができる。また、本発明に好ましく用いられる前記結晶性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、セルロースアシレート系樹脂を挙げることができる。
【0036】
本発明のフィルムを、視野角補償フィルムとして液晶表示装置に応用する場合には、液晶表示装置の特性や偏光板加工の利便性を考慮にいれて、前記非晶性樹脂または前記結晶性樹脂を適宜選択して用いることが出来る。
【0037】
本発明に使用可能なポリオレフィン系樹脂について説明する。
前記ポリオレフィン系樹脂はポリα−オレフィン系樹脂であることが好ましく、用いられるオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、または、炭素数4〜20のα−オレフィンが挙げられる。前記炭素数4〜20のα−オレフィンとしては、例えば、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等が挙げられる。これらのポリα−オレフィン系樹脂の中でも、ポリプロピレン系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂およびポリエチレン系樹脂が材料コストの観点から好ましく、ポリプロピレン系樹脂がより好ましい。
【0038】
前記ポリプロピレン系樹脂について説明する。
前記ポリプロピレン系樹脂とは、主にプロピレンのユニットからなる重合体であって、一般に結晶性を示し、プロピレンの単独重合体のほか、プロピレンと、他のオレフィン類などの不飽和炭化水素類との共重合体であってもよい。
【0039】
前記ポリプロピレン系樹脂の立体規則性は、アイソタクチック、シンジオタクチック、アタクチックのいずれであってもよい。
【0040】
本発明に用いるポリプロピレン系樹脂は、プロピレンの単独重合体で構成することができるほか、プロピレンを主体とし、それと共重合可能な不飽和炭化水素類からなるコモノマーを共重合させたものであってもよい。
【0041】
プロピレンに共重合される前記コモノマーとしては、例えば、エチレンや、炭素原子数4〜20のα−オレフィンを挙げることができる。この場合のα−オレフィンとして具体的には、次のようなものを挙げることができる。
【0042】
1−ブテン、2−メチル−1−プロペン(以上C4 );
1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン(以上C5 );
1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン(以上C6 );
1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ペンテン、2−メチル−3−エチル−1−ブテン(以上C7 );
1−オクテン、5−メチル−1−ヘプテン、2−エチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、2−メチル−3−エチル−1−ペンテン、2,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2−プロピル−1−ペンテン、2,3−ジエチル−1−ブテン(以上C8 );
1−ノネン(C9 );1−デセン(C10);1−ウンデセン(C11);
1−ドデセン(C12);1−トリデセン(C13);1−テトラデセン(C14);
1−ペンタデセン(C15);1−ヘキサデセン(C16);1−ヘプタデセン(C17);
1−オクタデセン(C18);1−ノナデセン(C19)など。
【0043】
α−オレフィンの中で好ましいものは、炭素原子数4〜12のα−オレフィンであり、具体的には、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン;1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン;1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン;1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ペンテン、2−メチル−3−エチル−1−ブテン;1−オクテン、5−メチル−1−ヘプテン、2−エチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、2−メチル−3−エチル−1−ペンテン、2,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2−プロピル−1−ペンテン、2,3−ジエチル−1−ブテン;1−ノネン;1−デセン;1−ウンデセン;1−ドデセンなどを挙げることができる。共重合性の観点からは、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン及び1−オクテンが好ましく、とりわけ1−ブテン及び1−ヘキセンがより好ましい。
【0044】
前記ポリプロピレン系樹脂として、市販の樹脂を用いることができ、例えば住友化学(株)から販売されているプロピレン系樹脂"住友ノーブレン W151"(商品名)などが挙げられる。
【0045】
本発明に使用可能な環状オレフィン系樹脂の例には、ノルボルネン系化合物の重合により得られたノルボルネン系樹脂が含まれる。また、開環重合および付加重合のいずれの重合方法によって得られる樹脂であってもよい。
付加重合およびそれにより得られる環状オレフィン系樹脂としては、例えば、特許3517471号公報、特許3559360号公報、特許3867178号公報、特許3871721号公報、特許3907908号公報、特許3945598号公報、特表2005−527696号公報、特開2006−28993号公報、特開2006−11361公報、国際公開WO第2006−/004376号公報、国際公開WO第2006−/030797号公報パンフレットに記載されているものが挙げられる。中でも、特許3517471号公報に記載のものが特に好ましい。
開環重合およびそれにより得られる環状オレフィン系樹脂としては、国際公開WO98第98/14499号公報パンフレット、特許3060532号公報、特許3220478号公報、特許3273046号公報、特許3404027号公報、特許3428176号公報、特許3687231号公報、特許3873934号公報、特許3912159号公報に記載のものが挙げられる。中でも、国際公開WO第98/14499号公報パンフレット、特許3060532号公報に記載のものが特に好ましい。
これらの環状オレフィン系樹脂の中でも付加重合によって得られるものが、複屈折の発現性、溶融粘度の観点から好ましく、例えば、「TOPAS #6013」(Polyplastics社製)を用いることができる。
【0046】
本発明に使用可能なセルロースアシレート系樹脂の例には、セルロース単位中の3個の水酸基が、少なくとも一部がアシル基で置換されたいずれのセルロースアシレートも含まれる。当該アシル基(好ましくは炭素数3〜22のアシル基)は、脂肪族アシル基および芳香族アシル基のいずれであってもよい。中でも、脂肪族アシル基を有するセルロースアシレートが好ましく、炭素数3〜7の脂肪族アシル基を有するものがより好ましく、炭素数3〜6の脂肪族アシル基を有するものがさらに好ましく、炭素数は3〜5の脂肪族アシル基を有するものがよりさらに好ましい。これらのアシル基は複数種が1分子中に存在していてもよい。好ましいアシル基の例には、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基などが含まれる。これらの中でも、さらに好ましいものは、アセチル基、プロピオニル基およびブチリル基から選択される1種または2種以上を有するセルロースアシレートであり、よりさらに好ましいものは、アセチル基およびプロピオニル基の双方を有するセルロースアシレート(CAP)である。前記CAPは、樹脂の合成が容易であること、押し出し成形の安定性が高いこと、の点で好ましい。
【0047】
本発明の製造方法を含む溶融押出し法によりフィルムを作製する場合は、用いるセルロースアシレートは、以下の式(S−1)および(S−2)を満足することが好ましい。以下の式を満足するセルロースアシレートは、融解温度が低く、融解性が改善されているので、溶融押出し製膜性に優れる。
式(S−1) 2.0≦X+Y≦3.0
式(S−2) 0.25≦Y≦3.0
前記式(S−1)および(S−2)中、Xはセルロースの水酸基に対するアセチル基の置換度を表し、Yはセルロースの水酸基に対するアシル基の置換度の総和を表す。本明細書でいう「置換度」とは、セルロースの2位、3位および6位のぞれぞれの水酸基の水素原子が置換されている割合の合計を意味する。2位、3位および6位全ての水酸基の水素がアシル基で置換された場合は置換度が3となる。
さらに、下記式(S−3)および(S−4)を満足するセルロースアシレートを用いるのがより好ましい。
式(S−3)2.3≦X+Y≦2.95
式(S−4)1.0≦Y≦2.95
下記式(S−5)および(S−6)を満足するセルロースアシレートを用いるのがさらに好ましい。
式(S−5)2.7≦X+Y≦2.95
式(S−6)2.0≦Y≦2.9
【0048】
セルロースアシレート系樹脂の質量平均重合度および数平均分子量については特に制限はない。一般的には、質量平均重合度が350〜800程度、および数平均分子量が70000〜230000程度である。前記セルロースアシレート系樹脂は、アシル化剤として酸無水物や酸塩化物を用いて合成できる。工業的に最も一般的な合成方法では、綿花リンタや木材パルプなどから得たセルロースをアセチル基および他のアシル基に対応する有機酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)またはそれらの酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸)を含む混合有機酸成分でエステル化してセルロースエステルを合成する。前記式(S−1)および(S−2)を満足するセルロースアシレートの合成方法としては、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)7〜12頁の記載や、特開2006−45500号公報、特開2006−241433号公報、特開2007−138141号公報、特開2001−188128号公報、特開2006−142800号公報、特開2007−98917号公報記載の方法を参照することができる。
【0049】
本発明に使用可能なポリカーボネート系樹脂として、ビスフェノールA骨格を有するポリカーボネート樹脂が挙げられ、ジヒドロキシ成分とカーボネート前駆体とを界面重合法または溶融重合法で反応させて得られるものであり、例えば、特開2006−277914号公報、特開2006−106386号公報、特開2006−284703号公報記載のものが好ましく用いることができる。例えば、市販品として、「タフロンMD1500」(出光興産社製)を用いることができる。
【0050】
また、前記熱可塑性樹脂が共重合体である場合は、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもかまわない。
【0051】
本発明に使用可能なアクリル系樹脂とは、主成分として、アクリル酸、メタクリル酸およびそれらの誘導体を重合して得られる樹脂、およびさらにその誘導体のことをいい、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、公知のメタクリル酸系熱可塑性樹脂等を用いることできる。
アクリル酸、メタクリル酸およびそれらの誘導体を重合して得られる樹脂としては、例えば、下記一般式(1)で表される構造のものを挙げることができる。
【0052】
【化1】

前記一般式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を示す。有機残基とは、具体的には、炭素数1〜20の直鎖状、分枝鎖状、もしくは環状のアルキル基を示す。
【0053】
前記アクリル酸、メタクリル酸およびそれらの誘導体を重合して得られる樹脂の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシエキシルおよび(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルが好ましく、熱安定性に優れる点で(メタ)アクリル酸メチル(以下MMAともいう)がより好ましい。これらのうち一種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらのうち一種の単重合体であっても、2種以上の共重合体であっても、その他の樹脂の共重合体であってもよいが、ガラス転移温度を高める観点からその他の樹脂との共重合体であることが特に好ましい。
前記アクリル系共重合体樹脂の中でも、樹脂を構成する全モノマー中、MMA単位(モノマー)を30モル%以上含むものが好ましく、MMA以外に、ラクトン環単位、無水マレイン酸単位、グルタル酸無水物単位の少なくとも1種の単位を含むことがより好ましく、例えば下記のものを使用できる。
【0054】
(1)ラクトン環単位を含むアクリル樹脂
特開2007−297615号、特開2007−63541号、特開2007−70607号、特開2007−100044号、特開2007−254726号、特開2007−254727号、特開2007−261265号、特開2007−293272号、特開2007−297619号、特開2007−316366号、特開2008−9378号、特開2008−76764号の各公報に記載のものを使用できる。この中でより好ましいのが特開2008−9378号公報に記載の樹脂である。
(2)無水マレイン酸単位を含むアクリル樹脂
特開2007−113109号、特開2003−292714号、特開平6−279546号、特開2007−51233号(ここに記載の酸変性ビニル)、特開2001−270905号、特開2002−167694号、特開2000−302988号、特開2007−113110号、特開2007−11565号各公報に記載のものを使用できる。この中でより好ましいのが、特開2007−113109号公報に記載のものである。また市販のマレイン酸変性MAS樹脂(例えば旭化成ケミカルズ(株)製デルペット980N)も好ましく使用できる。
(3)グルタル酸無水物単位を含むアクリル樹脂
特開2006−241263号、特開2004−70290号、特開2004−70296号、特開2004−126546号、特開2004−163924号、特開2004−291302号、特開2004−292812号、特開2005−314534号、特開2005−326613号、特開2005−331728号、特開2006−131898号、特開2006−134872号、特開2006−206881号、特開2006−241197号、特開2006−283013号、特開2007−118266号、特開2007−176982号、特開2007−178504号、特開2007−197703号、特開2008−74918号、国際公開WO2005/105918等各公報に記載のものを使用できる。この中でより好ましいのが特開2008−74918号公報に記載のものである。
これらの樹脂のガラス転移温度(Tg)は106℃〜170℃が好ましく、より好ましくは110℃〜160℃、さらに好ましくは115℃〜150℃である。
【0055】
本発明に使用可能なスチレン系樹脂とは、主成分としてスチレン及びそれらの誘導体を重合して得られる樹脂及び、その他の樹脂の共重合体を指し、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、公知のスチレン系熱可塑性樹脂等を用いることができ、特に複屈折、フィルム強度、耐熱性を改良できる、共重合体樹脂が好ましい。
共重合体樹脂としては、例えば、スチレン−アクリロニトリル系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、スチレン−無水マレイン酸系樹脂、あるいはこれらの多元(二元、三元等)共重合ポリマーなどが挙げられる。これらの中でも、スチレン−アクリル系樹脂やスチレン−無水マレイン酸系樹脂が耐熱性・フィルム強度の観点から好ましい。
前記スチレン−無水マレイン酸系樹脂は、スチレンと無水マレイン酸との質量組成比が、スチレン:無水マレイン酸=95:5〜50:50であることが好ましく、スチレン:無水マレイン酸=90:10〜70:30であることがより好ましい。また、固有複屈折を調整するため、スチレン系樹脂の水素添加を行うことも好ましく利用できる。
前記スチレン−無水マレイン酸系樹脂としては、例えば、ノバケミカル社製の「Daylark D332」などが挙げられる。
また、スチレン−アクリル系樹脂としては、後述する、旭化成ケミカル社製の「デルペット980N」などを用いることができる。
【0056】
(添加剤)
本発明のフィルムは、上記熱可塑性樹脂以外の材料を含有していてもよいが、上記熱可塑性樹脂の1種または2種以上を主成分(組成物中の全材料中、最も含有割合の高い材料を意味し、当該樹脂を2種以上含有する態様では、それらの合計の含有割合が、他の材料それぞれの含有割合より高いことを意味する)として含有しているのが好ましい。上記熱可塑性樹脂以外の材料としては、種々の添加剤が挙げられ、その例には、安定化剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、可塑剤、微粒子、および光学調整剤が含まれる。
【0057】
安定化剤:
本発明のフィルムは、安定化剤の少なくとも一種を含有していてもよい。安定化剤は、前記熱可塑性樹脂を加熱溶融する前にまたは加熱溶融時に添加することが好ましい。安定化剤は、フィルム構成材料の酸化防止、分解して発生した酸の捕捉、光または熱によるラジカル種基因の分解反応を抑制または禁止する等の作用がある。安定化剤は、解明されていない分解反応などを含む種々の分解反応によって、着色や分子量低下等の変質および揮発成分の生成等が引き起こされるのを抑制するのに有用である。樹脂を製膜するための溶融温度においても安定化剤自身が分解せずに機能することが求められる。安定化剤の代表的な例には、フェノール系安定化剤、亜リン酸系安定化剤(フォスファイト系)、チオエーテル系安定化剤、アミン系安定化剤、エポキシ系安定化剤、ラクトン系安定化剤、アミン系安定化剤、金属不活性化剤(スズ系安定化剤)などが含まれる。これらは、特開平3−199201号公報、特開平5−1907073号公報、特開平5−194789号公報、特開平5−271471号公報、特開平6−107854号公報などに記載があり、本発明ではフェノール系や亜リン酸系安定化剤の少なくとも一方以上を用いることが好ましい。フェノール系安定化剤の中でも、特に分子量500以上のフェノール系安定化剤を添加することが好ましい。好ましいフェノール系安定化剤としては、ヒンダードフェノール系安定化剤が挙げられる。
【0058】
これらの素材は、市販品として容易に入手可能であり、下記のメーカーから販売されている。チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社から、Irganox 1076、Irganox 1010、Irganox 3113、Irganox 245、Irganox 1135、Irganox 1330、Irganox 259、Irganox 565、Irganox 1035、Irganox 1098、Irganox 1425WL、として入手することができる。また、旭電化工業株式会社から、アデカスタブ AO−50、アデカスタブ AO−60、アデカスタブ AO−20、アデカスタブ AO−70、アデカスタブ AO−80として入手できる。さらに、住友化学株式会社から、スミライザーBP−76、スミライザーBP−101、スミライザーGA−80、として入手できる。また、シプロ化成株式会社からシーノックス326M、シーノックス336B、としても入手することが可能である。
【0059】
また、上記の亜リン酸系安定化剤としては、特開2004−182979号公報の[0023]〜[0039]に記載の化合物をより好ましく用いることができる。亜リン酸エステル系安定化剤の具体例としては、特開昭51−70316号公報、特開平10−306175号公報、特開昭57−78431号公報、特開昭54−157159号公報、特開昭55−13765号公報に記載の化合物を挙げることができる。さらに、その他の安定化剤としては、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)17頁〜22頁に詳細に記載されている素材を好ましく用いることができる。
【0060】
上記亜リン酸エステル系安定化剤は、高温での安定性を保つために高分子量であることが有用であり、分子量500以上であり、より好ましくは分子量550以上であり、特には分子量600以上が好ましい。さらに、少なくとも一置換基は芳香族性エステル基であることが好ましい。また、亜リン酸エステル系安定化剤は、トリエステルであることが好ましく、リン酸、モノエステルやジエステルの不純物の混入がないことが望ましい。これらの不純物が存在する場合は、その含有量が5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは3質量%以下であり、特には2質量%以下である。これらは、特開2004−182979号公報の[0023]〜[0039]に記載の化合物などを挙げることが、さらに特開昭51−70316号公報、特開平10−306175号公報、特開昭57−78431号公報、特開昭54−157159号公報、特開昭55−13765号公報に記載の化合物も挙げることができる。亜リン酸エステル系安定化剤の好ましい具体例として下記の化合物を挙げることができるが、本発明で用いることができる亜リン酸エステル系安定化剤はこれらに限定されるものではない。
【0061】
これらは、旭電化工業株式会社からアデカスタブ1178、同2112、同PEP−8、同PEP−24G、PEP−36G、同HP−10として、またクラリアント社からSandostab P−EPQとして市販されており、入手可能である。さらに、フェノールと亜リン酸エステルを同一分子内に有する安定化剤も好ましく用いられる。これらの化合物については、さらに特開平10−273494号公報に詳細に記載されており、その化合物例は、前記安定化剤の例に含まれるが、これらに限定されるものではない。代表的な市販品として、住友化学株式会社から、スミライザーGPがある。これらは、住友化学株式会社から、スミライザーTPL、同TPM、同TPS、同TDPとして市販されている。旭電化工業株式会社から、アデカスタブAO-412Sとしても入手可能である。
【0062】
前記安定化剤は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択される。好ましくは、熱可塑性樹脂の質量に対して、安定化剤の添加量は0.001〜5質量%が好ましく、より好ましくは0.005〜3質量%であり、さらに好ましくは0.01〜0.8質量%である。
【0063】
紫外線吸収剤:
本発明のフィルムは、1種または2種以上の紫外線吸収剤を含有していてもよい。紫外線吸収剤は、劣化防止の観点から、波長380nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ、透明性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。特に好ましい紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系化合物やベンゾフェノン系化合物である。中でも、ベンゾトリアゾール系化合物は、セルロース混合エステルに対する不要な着色が少ないことから好ましい。これらは、特開昭60−235852号、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号、同6−118233号、同6−148430号、同7−11056号、同7−11055号、同7−11056号、同8−29619号、同8−239509号、特開2000−204173号の各公報に記載がある。
紫外線吸収剤の添加量は、熱可塑性樹脂の0.01〜2質量%であることが好ましく、0.01〜1.5質量%であることがさらに好ましい。
【0064】
光安定化剤:
本発明のフィルムは、1種または2種以上の光安定化剤を含有していてもよい。光安定化剤としては、ヒンダードアミン光安定化剤(HALS)化合物が挙げられ、より具体的には、米国特許第4,619,956号明細書の第5〜11欄および米国特許第4,839,405号明細書の第3〜5欄に記載されているように、2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン化合物、またはそれらの酸付加塩もしくはそれらと金属化合物との錯体が含まれる。これらは、旭電化からアデカスタブLA−57、同LA−52、同LA−67、同LA−62、同LA−77として、またチバ・スペシャリティーケミカルズ社からTINUVIN 765、同144として市販されている。
【0065】
これらのヒンダードアミン系光安定化剤は、それぞれ単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらヒンダードアミン系光安定化剤は、勿論、可塑剤、安定化剤、紫外線吸収剤等の添加剤と併用してもよいし、これら添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。その配合量は、本発明の効果を損なわない範囲で決定され、一般的には、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.01〜20質量部程度であり、好ましくは0.02〜15質量部程度、特に好ましくは0.05〜10質量部程度である。光安定化剤は、熱可塑性樹脂組成物の溶融物を調製するいずれの段階で添加してもよく、例えば、溶融物調製工程の最後に添加してもよい。
【0066】
可塑剤:
本発明のフィルムは、可塑剤を含有していてもよい。可塑剤の添加は、機械的性質向上、柔軟性を付与、耐吸水性付与、水分透過率低減等のフィルム改質の観点において好ましい。また、本発明のフィルムを溶融製膜法で製造する場合は、用いる熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも、可塑剤の添加によりフィルム構成材料の溶融温度を低下させることを目的として、または無添加の熱可塑性樹脂よりも同じ加熱温度において粘度を低下させることを目的として、添加されるであろう。本発明のフィルムには、例えばリン酸エステル誘導体、カルボン酸エステル誘導体から選択される可塑剤が好ましく用いられる。また、特開2003−12859号に記載の重量平均分子量が500〜10000であるエチレン性不飽和モノマーを重合して得られるポリマー、アクリル系ポリマー、芳香環を側鎖に有するアクリル系ポリマーまたはシクロヘキシル基を側鎖に有するアクリル系ポリマーなども好ましく用いられる。
【0067】
微粒子:
本発明のフィルムは、微粒子を含有していてもよい。微粒子としては、無機化合物の微粒子や有機化合物の微粒子が挙げられ、いずれでもよい。本発明における熱可塑性樹脂に含まれる微粒子の平均一次粒子サイズは、ヘイズを低く抑えるという観点から5nm〜3μmであることが好ましく、5nm〜2.5μmであることがより好ましく、10nm〜2.0μmであることがさらに好ましい。ここで、微粒子の平均一次粒子サイズは、熱可塑性樹脂を透過型電子顕微鏡(倍率50万〜100万倍)で観察し、粒子100個の一次粒子サイズの平均値を求めることにより決定する。微粒子の添加量は、熱可塑性樹脂に対して0.005〜1.0質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜0.8質量%であり、さらに好ましくは0.02〜0.4質量%である。
【0068】
光学調整剤:
本発明のフィルムは、光学調整剤を含有していてもよい。光学調整剤としてはレターデーション調整剤を挙げることができ、例えば、特開2001−166144号、特開2003−344655号、特開2003−248117号、特開2003−66230号各公報記載のものを使用することができる。光学調整剤を添加することによって、面内のレターデーション(Re)、厚み方向のレターデーション(Rth)を制御することができる。好ましい添加量は0〜10質量%であり、より好ましくは0〜8質量%、さらに好ましくは0〜6質量%である。
【0069】
[フィルムの製造方法]
本発明のフィルムの製造方法は、熱可塑性樹脂を含有するフィルムを、フィルムの一方の表面の温度と反対側の表面の温度との温度差が0.5〜20℃となるように制御しながらフィルム幅方向に延伸する工程(以下、横延伸工程とも言う)を含み、前記熱可塑性樹脂を含有するフィルムが、フィルム傾斜方位とフィルム法線を含む面内において該法線に対して傾斜方位側へ40°傾いた方向から測定した波長550nmにおけるレターデーションRe[+40°]と、該法線に対して傾斜方位とは反対側へ40°傾いた方向から測定した波長550nmにおけるレターデーションRe[−40°]とが異なることを特徴とする。このような傾斜構造を有するフィルムを、その一方の表面の温度と反対側の表面の温度との温度差が0.5〜20℃となるように制御しながらフィルム幅方向に延伸する工程を含むことが、従来の方法と異なる本発明の特徴である。
以下、本発明のフィルムの製造方法(以下、本発明の製造方法ともいう)について詳細に説明する。
【0070】
(熱可塑性樹脂を含有するフィルム)
本発明の製造方法に用いられる熱可塑性樹脂を含有するフィルム(は、以下、未延伸フィルムとも言う)Re[+40°]とRe[−40°]とが異なることを特徴とする。このような傾斜構造を有するフィルムに対して横延伸工程を行うことで、傾斜構造を有するフィルムを液晶表示装置に組み込んだ際に問題となる周辺ムラを改善することができる。
本発明の製造方法では、前記Re[+40°]と前記Re[−40°]が、下記式(I)を満たす前記未延伸フィルムを用いることが、横延伸後の本発明のフィルムの傾斜構造を大きくする観点からより好ましい。
10nm≦|Re[+40°]−Re[−40°]|≦300nm 式(I)
また、本発明の製造方法に用いられる前記未延伸フィルムは、
20nm≦|Re[+40°]−Re[−40°]|≦200nm
を満たすことがより好ましく、
40nm≦|Re[+40°]−Re[−40°]|≦150nm
を満たすことが特に好ましい。
【0071】
本発明の製造方法では、前記未延伸フィルムに含まれる熱可塑性樹脂に制限はなく、上述した本発明のフィルムが含んでいてもよい熱可塑性樹脂を用いることができる。また、前記未延伸フィルムに含まれる前記熱可塑性樹脂が、正の複屈折性を示すことが横延伸後のフィルムの遅相軸方向と傾斜方位を直交させる観点から好ましく、ポリオレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、セルロースアシレート系樹脂およびポリカーボネート系樹脂から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0072】
本発明の製造方法では、前記未延伸フィルムが、例えば非晶性フィルムの場合、挟圧装置を構成する第一挟圧面と第二挟圧面の間を通過する際の熱可塑性樹脂を含有する組成物の温度をTg+20℃以上に制御しながら、該組成物を前記第一挟圧面と前記第二挟圧面の間を通過させて連続的に挟圧してフィルム状に成形する工程により製造されることが、光学特性を均一に制御することができる観点から、好ましい。以下において、まず、本発明の製造方法に用いられる熱可塑性樹脂を含有するフィルム(すなわち、前記未延伸フィルム)の製造方法から説明する。
【0073】
<未延伸フィルムの製造>
(熱可塑性樹脂組成物の供給)
前記未延伸フィルムの製造方法では、熱可塑性樹脂を含有する組成物(「熱可塑性樹脂組成物」という場合がある)を挟圧装置を構成する第一挟圧面と第二挟圧面の間を通過させて連続的に挟圧してフィルム状に成形する工程(以下、挟圧工程とも言う)を含むが、前記挟圧工程において、熱可塑性樹脂を含有する組成物を溶融押出しする工程を含んでも、含まなくてもよい。また、正の複屈折性を示す熱可塑性樹脂を含有する組成物を溶融押出しする工程を含んでも、含まなくてもよい。
溶融押出ししない場合、例えば熱可塑性樹脂組成物と溶媒とを支持体上に流延し、溶液製膜によって前記熱可塑性樹脂組成物をフィルム化し、それを前記挟圧工程に供して、熱可塑性樹脂にせん断力を付与してもよい。
前記未延伸フィルムの製造方法は、前記挟圧工程において、熱可塑性樹脂を含有する組成物を溶融押出しする工程を含み、溶融押出しされた組成物を前記第一挟圧面と前記第二挟圧面の間を通過させて連続的に挟圧してフィルム状に成形することが、より得られるフィルムの光学特性のムラを抑える観点から好ましい。また、熱可塑性樹脂を含有する組成物を供給する供給手段としては特に制限はない。例えば、メルトの具体的な供給手段として、熱可塑性樹脂組成物を溶融してフィルム状に押出す押出機を用いる態様でもよく、押出機およびダイを用いる態様でもよく、熱可塑性樹脂を一度固化してフィルム状とした後に加熱手段により溶融してメルトを形成し、製膜工程に供給する態様でもよい。
本発明のフィルムの製造方法は、前記熱可塑性樹脂を含有する組成物をダイから溶融押出しする工程と、溶融押出しされた溶融物を前記第一挟圧面と前記第二挟圧面の間を通過させる工程とを含むことがより得られるフィルムの光学特性のムラを抑える観点から特に好ましい。
【0074】
熱可塑性樹脂の溶融物にせん断力を付与する場合、溶融押出しをする前に、熱可塑性樹脂組成物をペレット化するのが好ましい。市販品の熱可塑性樹脂(例えば、TOPAS#6013、タフロンMD1500、デルペット980N、DayLark D332等)
は、ペレット化されている場合もあるが、ペレット化されていない場合は以下の方法を用いることができる。
前記熱可塑性樹脂組成物を乾燥した後、2軸混練押出機を用い150℃〜300℃で溶融後、ヌードル状に押出したものを空気中あるいは水中で固化し裁断することにより作製できる。また、押出機による溶融後、水中に口金より直接押出しながらカットするアンダーウオーターカット法等によりペレット化することもできる。ペレット化に利用される押出機としては、単軸スクリュー押出機、非かみ合い型異方向回転二軸スクリュー押出機、かみ合い型異方向回転二軸スクリュー押出機、かみ合い型同方向回転二軸スクリュー押出機などを用いることができる。押出機の回転数は10rpm〜1000rpmが好ましく、より好ましくは20rpm〜700rpmである。押出滞留時間は10秒〜10分、より好ましくは20秒〜5分である。
ペレットの大きさについては特に制限はないが、一般的には10mm3〜1000mm3程度であり、より好ましくは30mm3〜500mm3程度である。
【0075】
溶融押出し前に、ペレット中の水分を減少させることが好ましい。好ましい乾燥温度は40〜200℃、さらに好ましくは60〜150℃である。これにより含水率を1.0質量%以下にすることが好ましく、0.1質量%以下にすることがさらに好ましい。乾燥は空気中で行ってもよく、窒素中で行ってもよく、真空中で行ってもよい。
【0076】
押出機を用いて熱可塑性樹脂の溶融物にせん断力を付与する場合、次に、乾燥したペレットを、押出機の供給口を介してシリンダー内に供給し、混練および溶融させる。シリンダー内は、例えば、供給口側から順に、供給部、圧縮部、計量部とで構成されることが好ましい。押出機のスクリュー圧縮比は1.5〜4.5が好ましく、シリンダー内径に対するシリンダー長さの比(L/D)は20〜70が好ましく、シリンダー内径は30mm〜150mmが好ましい。前記熱可塑性樹脂組成物を供給する供給手段(例えばダイ)の押出し温度(以下、吐出温度とも言う)は、熱可塑性樹脂の溶融温度に応じて決定されるが、一般的には、190〜300℃程度が好ましい。さらに残存酸素による溶融樹脂の酸化を防止するため、押出機内を不活性(窒素等)気流中、あるいはベント付き押出機を用い真空排気しながら実施するのも好ましい。
【0077】
熱可塑性樹脂組成物中の異物濾過のためブレーカープレート式の濾過やリーフ型ディスクフィルターを組み込んだ濾過装置を設けることが好ましい。濾過は1段で行ってもよく、多段濾過で行ってもよい。濾過精度は15μm〜3μmが好ましく、さらに好ましくは10μm〜3μmである。濾材としてはステンレス鋼を用いることが望ましい。濾材の構成は、線材を編んだもの、金属繊維もしくは金属粉末を焼結したもの(焼結濾材)が使用でき、中でも焼結濾材が好ましい。
【0078】
吐出量の変動を減少させ厚み精度を向上させるために、押出機と前記熱可塑性樹脂組成物を供給する供給手段(例えばダイ)の間にギアポンプを設けることが好ましい。これにより前記熱可塑性樹脂組成物を供給する供給手段(例えばダイ)内の樹脂圧力変動巾を±1%以内にすることができる。ギアポンプによる定量供給性能を向上させるために、スクリューの回転数を変化させて、ギアポンプ前の圧力を一定に制御する方法も用いることができる。
【0079】
前記の如く構成された押出機によって溶融され、必要に応じ濾過機、ギアポンプを経由して溶融樹脂が前記熱可塑性樹脂組成物を供給する供給手段(例えばダイ)に連続的に送られる。前記ダイはTダイ、フィッシュテールダイ、ハンガーコートダイの何れのタイプでも構わない。また前記熱可塑性樹脂組成物を供給する供給手段(例えばダイ)の直前に樹脂温度の均一性アップのためスタティックミキサーを入れることも好ましい。
【0080】
前記供給手段がダイである場合、ダイ出口部分のクリアランス(以下、リップギャップとも言う)は一般的にフィルム厚みの1.0〜30倍がよく、好ましくは5.0〜20倍である。具体的には、0.2〜5mmであることが好ましく、0.5〜2mmであることがより好ましく、0.5〜2mmであることが特に好ましい。
本発明の製造方法において、熱可塑性樹脂組成物を挟圧装置間に供給する際に供給手段としてダイを用いる場合、ダイリップの先端の曲率半径は特に制限はなく、公知のダイを用いることができる。
【0081】
前記ダイは5〜50mm間隔で厚み調整可能であることが好ましい。また下流のフィルム厚み、厚み偏差を計算し、その結果をダイの厚み調整にフィードバックさせる自動厚み調整ダイも有効である。
単層製膜装置以外にも、多層製膜装置を用いて製造も可能である。
このようにして、樹脂が供給口から押出機に入ってから前記熱可塑性樹脂組成物を供給する供給手段(例えばダイ)から出るまでの滞留時間は3分〜40分が好ましく、さらに好ましくは4分〜30分である。
【0082】
<挟圧工程>
次に、挟圧装置を構成する第一挟圧面と第二挟圧面の間を通過する際の熱可塑性樹脂を含有する組成物の温度を(例えば非晶性樹脂の場合、Tg+20℃以上に)制御しながら、該組成物を前記第一挟圧面と前記第二挟圧面の間を通過させて連続的に挟圧してフィルム状に成形し、好ましくは冷却固化して、前記未延伸フィルムを得ることが好ましい。この際、第一挟圧面と第二挟圧面のうち、いずれか一方の面と溶融物が先に剥離し、その後もう一方の面と溶融物が剥離することが生産性の安定化の観点から好ましい。
【0083】
(挟圧温度)
本発明の製造方法では、熱可塑性樹脂組成物を挟圧装置に供給する場合において、前記熱可塑性樹脂を含有するフィルムが、挟圧装置を構成する第一挟圧面と第二挟圧面の間を通過する直前の熱可塑性樹脂を含有する組成物の温度を下記条件(1)または(2)を満たすように制御することが好ましい。
条件(1):前記熱可塑性樹脂が非晶性樹脂の場合、
該非晶性樹脂のガラス転移温度Tg+20℃以上。
条件(2):前記熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合、
該結晶性樹脂の結晶化温度Tc以上。
(1)前記熱可塑性樹脂が非晶性樹脂の場合、前記挟圧温度がTg+20℃以上であると熱可塑性樹脂組成物の粘度が十分低くなるため、成形性が良好となり得られるフィルムの光学特性のバラツキ、特にRe(0°)のバラツキを抑制することができる。前記挟圧温度は、Tg+20℃〜Tg+120℃であることが好ましく、Tg+30℃〜Tg+100℃であることがより好ましく、Tg+50℃〜Tg+100℃であることが特に好ましい。なお、挟圧温度がTg+120℃以下であれば、樹脂が劣化しにくい点も好ましい。(2)前記熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合、前記挟圧温度がTc以上であると熱可塑性樹脂組成物の粘度が十分低くなるため、成形性が良好となり得られるフィルムの光学特性のバラツキ、特にRe(0°)のバラツキを抑制することができる。前記挟圧温度は、Tc〜Tc+150℃であることが好ましく、Tc+10℃〜Tc+130℃であることがより好ましく、Tc+20℃〜Tc+120℃であることが特に好ましい。なお、挟圧温度がTc+150℃以下であれば、樹脂が劣化しにくい点も好ましい。さらに、結晶性熱可塑性樹脂のTc以上の温度の状態で挟圧装置を通過させることで、結晶成長を抑制したフィルムを得ることもできる。
前記熱可塑性樹脂組成物を供給する供給手段(例えばダイ)から熱可塑性樹脂組成物を挟圧装置に供給する場合、前記挟圧温度は、いわゆる吐出温度(前記供給手段出口の樹脂温度)とも関連する。例えば熱可塑性樹脂の溶融物にせん断力を付与する場合は前記供給手段出口からの吐出温度を上記範囲に制御し、後述するエアーギャップにおける保温を行うことで前記挟圧温度を達成できる。
【0084】
前記未延伸フィルムの製造方法では、前記挟圧工程において、0.5〜500MPaの圧力で前記熱可塑性樹脂組成物を挟圧することが好ましく、0.5〜300MPaで挟圧することがより好ましく、5〜100MPaで挟圧することが特に好ましく、20〜100MPaで挟圧することがより特に好ましい。このように圧力で前記組成物を挟圧することによって、挟圧装置間を通過する組成物に適度なせん断力をくわえることができ、得られるフィルムの光学特性のバラツキを抑制することができる。また、前記組成物を20〜100MPaで挟圧することで、傾斜構造、すなわち|Re[40°]−Re[−40°]|がより大きくなり、好ましい。
なお、挟圧装置間の圧力は、圧力測定フィルム(富士フイルム社製 中圧用プレスケール等)を挟圧装置間に通すことで測定することが出来る。
【0085】
前記未延伸フィルムの製造方法では、第一挟圧面の移動速度は前記第二挟圧面の移動速度よりも速くすることが好ましく、下記式(V)で定義される前記挟圧装置の第一挟圧面と第二挟圧面の移動速度比を0.60〜0.99に調製し熱可塑性樹脂組成物が挟圧装置を通過する際にせん断応力を付与し、本発明のフィルムを製造することがより好ましい。挟圧装置の移動速度比は、0.60〜0.99とすることが好ましく、0.75〜0.98とすることがより好ましい。
移動速度比=第二挟圧面の移動速度/第一挟圧面の移動速度 (V)
前記熱可塑性樹脂組成物が先に剥離する側の面は、第一挟圧面であっても第二挟圧面であってもよいが、剥離ダンを抑制する観点から、先に先に剥離する側の面は、第一挟圧面(移動速度が速い挟圧面)であることが好ましい。
【0086】
(吐出温度)
前記未延伸フィルムの製造方法では、吐出温度(前記熱可塑性樹脂組成物の供給手段出口の樹脂温度)は、樹脂の成形性向上と劣化抑制の観点から、以下の温度に制御することが好ましい。
(1)前記熱可塑性樹脂が非晶性樹脂の場合、Tg+50℃〜Tg+160℃であることが好ましく、Tg+70℃〜Tg+160℃であることがより好ましく、Tg+90℃〜Tg+140℃であることが特に好ましい。すなわち、Tg+50℃以上であれば、樹脂の粘度が十分低くなるため成形性が良好となり、Tg+160℃以下であれば、樹脂が劣化しにくい。
(2)前記熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合、Tc+30℃〜Tc+160℃であることが好ましく、Tc+50℃〜Tc+160℃であることがより好ましく、Tc+70℃〜Tc+140℃であることが特に好ましい。すなわち、Tc+30℃以上であれば、樹脂の粘度が十分低くなるため成形性が良好となり、Tc+160℃以下であれば、樹脂が劣化しにくい。
【0087】
(エアーギャップ)
前記未延伸フィルムの製造方法では、例えばダイなどの供給手段から熱可塑性樹脂組成物を挟圧装置に供給する場合、エアーギャップ(供給手段の出口から挟圧装置の熱可塑性樹脂組成物着地点までの距離)は、エアーギャップ間における熱可塑性樹脂組成物の保温の観点から、可能な限り近接することが好ましく、具体的には10〜300mmであることが好ましく、より好ましくは、20〜250mm、特に好ましくは、30〜200mmである。
【0088】
(ライン速度)
本発明の製造方法では、エアーギャップでの熱可塑性樹脂組成物の保温の観点から、ライン速度(製膜速度)が2m/分以上であることが好ましく、5m/分以上であることがより好ましく、10m/分以上であることが特に好ましい。ライン速度が速くなると、エアーギャップ中での熱可塑性樹脂組成物の冷却を抑制でき、熱可塑性樹脂組成物の温度が高い状態で、挟圧装置によって、より均一なせん断変形を付与できる。なお、前記ライン速度とは、挟圧装置間を溶融物が通過する速度、および搬送装置におけるフィルム搬送速度を表す。
【0089】
本発明の製造方法では、熱可塑性樹脂組成物の幅は特に制限はなく、例えば200〜2000mmとすることができる。
【0090】
(2つのロールを用いた挟圧工程)
挟圧装置としては、例えば2つのロールの組合せや、特開2000−219752号公報に記載のロールとタッチベルトの組合せ(片面ベルト方式)や、ベルトとベルトの組合せ(両面ベルト方式)等が挙げられる。圧力を付与しやすい観点から2つのロール(例えば、タッチロール(第1ロール)およびチルロール(第2ロール))間を通過させることが好ましい。なお、本明細書では、前記溶融物を搬送するキャスティングロールを複数有している場合、最上流の前記熱可塑性樹脂組成物供給手段(ダイ)に最も近いキャスティングロールのことをチルロールともいう。以下、2つのロールを用いた本発明の製造方法の好ましい態様を説明する。
【0091】
本発明のフィルムの製造方法では、前記供給手段の出口から挟圧装置の熱可塑性樹脂組成物の着地点に特に制限はなく、供給手段から供給された熱可塑性樹脂組成物の着地点と、該タッチロールと該キャストロールとが最も接近する部分における隙間の中点を通る鉛直線との距離がゼロであっても、ずれていてもよい。
前記供給手段から供給された熱可塑性樹脂組成物の着地点とは、供給手段から供給された熱可塑性樹脂組成物が初めてタッチロールあるいはチルロールに接触(着地)する地点を指す。また前記タッチロールとキャストロールの隙間の中点とは、タッチロールとキャストロールの隙間が最も狭くなった所のタッチロール表面とキャストロール表面の中点を指す。
【0092】
前記2つのロール(例えば、タッチロールやキャスティングロール)の表面は、算術平均高さRaが100nm以下であることが好ましく、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは25nm以下である。
【0093】
本発明の製造方法では、前記2つのロールのそれぞれの横幅は特に制限はなく、フィルム状の溶融物の幅に対応して、自由に変更して採用することができる。
【0094】
前記2つのロール間のロール圧力の好ましい範囲は、前記挟圧装置の説明における挟圧装置の挟圧面間において熱可塑性樹脂組成物に挟圧する圧力の好ましい範囲と同様である。
【0095】
本発明の製造方法では、前記範囲のロール圧力を加圧するために、シリンダー設定値を適宜変更することとなる。前記シリンダー設定値は、用いる樹脂材料や2つのロールの材質によっても異なるが、例えば、フィルム状の溶融物の実効幅が200mmの場合、3〜100KNであることが好ましく、3〜50KNであることがより好ましく、3〜25KNであることが特に好ましい。
【0096】
本発明の製造方法では、前記範囲のロール圧力を加圧するために、ロールのショア硬さが45HS以上のロールを使用することが好ましい。好ましい前記2つのロールのショア硬さは50HS以上であり、さらに好ましくは60〜90HSである。
ショア硬さは、JIS Z 2246の方法を用いて、ロール幅方向に5点および周方向に5点測定した値の平均値から求めることができる。
【0097】
前記2つのロールの材質は、金属であることが前記ショア硬さを達成する観点から好ましく、より好ましくはステンレスであり、表面をメッキ処理されたロールも好ましい。また、2つのロールの材質は金属であれば、表面の凹凸が小さく、フィルムの表面に傷が付きにくいため、好ましい。また、2つのロールの材質が金属製且つ剛性である場合、ロール間の圧力を容易に高くすることができ、好ましい。一方、ゴムロールやゴムでライニングした金属ロールは、特に制限なく用いることができるが、前記ロール圧力を達成できることが好ましい。
【0098】
前記2つのロールの材質の一方が弾性ロールであり、もう一方のロールが剛性金属ロールである場合、ロール間を通過させる際に弾性率の相違またはロールの変形のしやすさの相違に基づいて一対のロール表面の間に非対称な変形を生じ、一対のロールを等速回転させた場合にもロールとの接触部分を介してフィルムに対し剪断力を負荷することができ、傾斜構造を付与することができる。この場合ロール間の速度管理が容易で処理精度を高度に維持できるため、必要に応じてこのような構成を用いてもよい。さらに弾性ロール表面を金属コートする場合、両ロールとも金属表面を有することよりともに金属ロールの場合と同様に表面の凹凸が小さく、フィルムの表面に傷が付きにくいため、好ましい。前記弾性ロール表面を金属コートしたロールとしては、例えばシリコンゴムからなるロールの表面に金属ベルトを装着したもの、あるいは金属メッキ処理を施したものが挙げられる。また、金属コートは、その金属層による平滑な表面特性等を利用して、フィルムがロール間を通過する際にその表面が傷付くことの防止できればよく、メッキ層等の金属薄膜でもよい。また、弾性ロールと金属剛性ロールの直径は、フィルム幅等に応じて適宜に決定でき、同じであっても相違していてもよい。
【0099】
なお、ロールが「剛性」であるとは、剛性素材外筒厚み/ロール直径の比が例えば1/80以上程度であることを表し、例えばタッチロールの一部に剛性材料を用いている場合であっても、必ずしも挟圧面もしくはタッチロールが「剛性」であるとは限らない。また、ロールが「弾性」であるとは、剛性素材外筒厚み/ロール直径の比が1/80未満程度であることを表し、例えばタッチロールの一部に剛性材料を用いている場合を含むことがある。すなわち、タッチロール内部に弾性体層のように剛性材料を全く含まない層が形成されているようなロールは、たとえ表面や内部に剛性材料層が形成されていたとしても全体としては弾性変形しうるので、弾性ロールに含まれる。また、芯部がゴムで表面が剛性材料であるロール(外筒として、表面金属リングを有するロール)の場合も、表面の金属は変形しないが、回転軸と表面金属リングの中心がずれるため、弾性ロールに含まれる。
【0100】
前記タッチロールについては、例えば特開平11−314263号公報、特開2002−36332号公報、特開平11−235747号公報、国際公開第97/28950号パンフレット、特開2004−216717号公報、特開2003−145609号公報記載のものを利用できる。
【0101】
さらに、前記未延伸フィルムの製造方法では、熱可塑性樹脂組成物を通過させる2つのロールの周速比を調整することで、熱可塑性樹脂組成物が2つのロールを通過する際にせん断応力を付与し、前記未延伸フィルムを製造することが好ましい。2つのロールの周速比の好ましい範囲は、前記挟圧装置の説明における挟圧面の移動速度比の好ましい範囲と同様である。ここで、2つのロールの周速比とは、遅いロールの周速度/速いロールの周速度を意味する。
【0102】
前記未延伸フィルムを得るためには、前記2つのロールの速度はどちらが速くても構わないが、タッチロールが遅い場合、タッチロール側にバンク(供給された熱可塑性樹脂組成物の余剰分がロール上へ滞留し、形成された滞留物)が形成される。タッチロールは、熱可塑性樹脂組成物が接触している時間が短いため、タッチロール側に形成されたバンクは、十分に冷却することができず、剥離ダンが発生し、面状故障の原因となり易い。よって、遅いロールがチルロール(第2ロール)であり、速いロールがタッチロール(第1ロール)であることが好ましい。
【0103】
さらに、前記未延伸フィルムの製造方法では、前記2つのロールとして、それぞれ直径の大きなロールを用いるのが好ましく、具体的には、直径が200〜1500mm、より好ましくは、300mm〜1000mm、特に好ましくは350mm〜800mm、より特に好ましくは350〜600mm、さらにより好ましくは350〜500nmの2つのロールを使用するのが好ましい。直径の大きなロールを用いると、フィルム状の溶融物とロールの接触面積が広くなり、せん断がかかる時間がより長くなるため、|Re[40°]−Re[−40°]|が大きなフィルムを、しかもRe[0°]、Re[+40°]およびRe[−40°]のバラツキを抑制しつつ製造することができる。なお、本発明の製造方法では、前記2つのロールの直径は等しくても、異なっていてもよい。
【0104】
本発明の製造方法では、前記2つのロールは等速であっても互いに異なる周速度で駆動されていてもよいが、互いに異なる周速で駆動されることが好ましい。前記2つのロールは、連れ周り駆動でも独立駆動でもよいが、Re[0°]、Re[+40°]およびRe[−40°]のバラツキを抑制するためには、独立駆動であることが好ましい。
【0105】
さらに|Re[40°]−Re[−40°]|を大きくするために、2つのロールの表面温度に差をつけてもよい。好ましい温度差は5℃〜80℃であり、より好ましくは20℃〜80℃、さらに好ましくは20℃〜60℃である。その際、2つのロールの温度は、以下の温度に制御することが好ましい。
(1)前記熱可塑性樹脂が非晶性樹脂の場合、前記非晶性樹脂のガラス転移温度Tgを用いて、好ましくはTg−80℃〜Tg+20℃、より好ましくはTg−60℃〜Tg℃、さらに好ましくはTg−40℃〜Tg−5℃に設定する。
(2)前記熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合、前記結晶性樹脂の結晶化温度Tcを用いて、好ましくはTc−120℃〜Tc−20℃、より好ましくはTc−100℃〜Tc−40℃、さらに好ましくはTc−100℃〜Tc−60℃に設定する。
このような温度制御は、タッチロール内部に温調した液体、気体を通すことで達成することができる。
なお、熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、走査型示差熱量計(DSC)を用いて、測定パンに樹脂をいれ、これを窒素気流中で、10℃/分で30℃から300℃まで昇温した後(1st-run)、30℃まで−10℃/分で冷却し、再度10℃/分で30℃から300℃まで昇温した(2nd-run)。2nd-runでベースラインが低温側から偏奇し始める温度をガラス転移温度(Tg)として、求めることができる。
なお、結晶性熱可塑性樹脂の結晶化温度は、走査型示差熱量計(DSC)を用いて、測定パンに樹脂をいれ、これを窒素気流中で、10℃/分で30℃から300℃まで昇温した後、30℃まで−10℃/分で冷却し、ベースラインが高温側から偏奇し始める温度を結晶化温度(Tc)として、求めることができる。
【0106】
また、前記未延伸フィルムの製造方法では、供給手段から供給された熱可塑性樹脂組成物を、2つのロールの少なくとも一方に接触する直前まで、溶融物を保温し、幅方向の温度分布を軽減するのが好ましく、具体的には、幅方向の温度分布を5℃以内にするのが好ましい。温度分布を軽減するためには、前記エアーギャップの少なくとも一部に、断熱機能または熱反射機能のある部材を配置し、該溶融物を外気から遮蔽するのが好ましい。この様に、断熱部材を通路に配置して、前記熱可塑性樹脂組成物を外気から遮蔽することで、外部環境、例えば風、の影響を抑えることができ、熱可塑性樹脂組成物の幅方向の温度分布を抑制することができる。熱可塑性樹脂組成物の幅方向の温度分布は、±3℃以内がより好ましく、±1℃以内がよりさらに好ましい。
さらに、前記遮蔽部材を用いると、熱可塑性樹脂組成物の温度が高い状態、すなわち、溶融粘度が低い状態で、ロール間を通過させることができる効果もある。
なお、熱可塑性樹脂組成物の温度分布は、接触式温度計や非接触式温度計によって測定することができる。
【0107】
前記遮蔽部材は、例えば、2つのロールの両端部よりも内側で、且つ熱可塑性樹脂組成物の供給手段(例えば、ダイ)の幅方向側面と隙間を介して設けられる。遮蔽板は、供給手段の側面に直接固定されてもよいし、支持部材によって支持固定されてもよい。遮蔽部材の幅は、供給手段の放熱による上昇気流を効率的に遮断できるように、例えば、供給手段側面の幅と同等かそれ以上であるのが好ましい。
遮蔽部材と熱可塑性樹脂組成物の幅方向端部との隙間は、ロールの表面に沿って流れ込む上昇気流を効率よく遮蔽する上で狭く形成されることが好ましく、熱可塑性樹脂組成物の幅方向端部から50mm程度であることがより好ましい。なお、熱可塑性樹脂組成物供給手段の側面と遮蔽部材との隙間は、必ずしも設ける必要はないが、遮蔽部材に囲まれた空間内の気流を排出できる程度、例えば10mm以下に形成されることが好ましい。
また、断熱機能および/または熱反射機能を持つ材料として、遮風性や保温性に優れたものが好ましく、例えば、ステンレス等の金属板が好ましく使用できる。
【0108】
よりRe[0°]、Re[+40°]およびRe[−40°]のバラツキをなくす方法として、熱可塑性樹脂組成物がキャスティングロールに接触する際の密着性を上げる方法がある。具体的には、静電印加法、エアナイフ法、エアーチャンバー法、バキュームノズル法などの方法を組み合わせて、密着性を向上させることができる。このような密着向上法は、熱可塑性樹脂組成物の全面に実施してもよく、一部に実施してもよい。
【0109】
このようにして製膜した後、熱可塑性樹脂組成物を通過させる2つのロール(例えばキャスティングロールとタッチロール)以外に、キャスティングロールを1本以上使用して、フィルムを冷却するのが好ましい。タッチロールは、通常は最上流側(熱可塑性樹脂組成物の供給手段、例えばダイ、に近い方)の最初のキャスティングロールにタッチさせるように配置する。一般的には3本の冷却ロールを用いることが比較的よく行われているが、この限りではない。複数本あるキャスティングロールの間隔は、面間で0.3mm〜300mmが好ましく、より好ましくは、1mm〜100mm、さらに好ましくは3mm〜30mmである。
【0110】
さらに加工したフィルムの両端をトリミングすることが好ましい。トリミングで切り落とした部分は破砕し、再度原料として使用してもよい。また片端あるいは両端に厚みだし加工(ナーリング処理)を行うことも好ましい。厚みだし加工による凹凸の高さは1μm〜50μmが好ましく、より好ましくは3μm〜20μmである。厚みだし加工は両面に凸になるようにしても、片面に凸になるようにしても構わない。厚みだし加工の幅は1mm〜50mmが好ましく、より好ましくは3mm〜30mmである。厚みだし加工は室温〜300℃で実施できる。
【0111】
巻き取る前に、片面もしくは両面に、ラミフィルムを付けることも好ましい。ラミフィルムの厚みは5μm〜100μmが好ましく、10μm〜50μmがより好ましい。材質はポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン等、特に限定されない。
【0112】
巻き取り張力は、好ましくは2kg/m幅〜50kg/m幅であり、より好ましくは5kg/m幅〜30kg/m幅である。
【0113】
本発明の製造方法で得られるフィルムの未延伸時の膜厚は、100μm以下であることが好ましい。液晶ディスプレイ等に用いる場合は、薄型化の観点からは、80μm以下であることがより好ましく、60μm以下であることが特に好ましく、40μm以下であることがより特に好ましい。
【0114】
<延伸、緩和処理>
さらに、上記方法により前記本発明のフィルムの製造方法に用いられる未延伸フィルムを製膜した後、本発明のフィルムの製造方法では、前記未延伸フィルムの一方の表面の温度と反対側の表面の温度との温度差が0.5〜20℃となるように制御しながらフィルム幅方向に延伸する工程(横延伸工程)を行う。
また、その他の延伸および/または緩和処理を行ってもよい。例えば、以下の(a)〜(g)の組合せで各工程を実施することができる。
(a) 横延伸
(b) 横延伸→緩和処理
(c) 縦延伸
(d) 縦延伸→緩和処理
(e) 縦(横)延伸→横(縦)延伸
(f) 縦(横)延伸→横(縦)延伸→緩和処理
(g) 横延伸→緩和処理→縦延伸→緩和処理
これらの中で特に好ましいのは、(a)、(b)、(e)〜(g)の工程である。
【0115】
(横延伸工程)
イ)通常の横延伸
本発明の製造方法では、横延伸工程として、通常の横延伸を採用することができる。すなわち、通常の横延伸とは、フィルムの両端をクリップで把持し、テンターを用いオーブン内で加熱しながらクリップを拡幅する横延伸法であり、例えば下記のような方法を使用できる。
実開昭62−35817号、特開2001−138394号、特開平10−249934号、特開平6−270246号、実開平4−30922号、特開昭62−152721号各公報。即ちフィルムの幅方向の両端部をクリップで把持し、横方向に拡幅することで延伸する。
【0116】
特に本発明の製造方法では、前記未延伸フィルムの一方の表面の温度と反対側の表面の温度との温度差が0.5〜20℃となるように制御する。このようにフィルムの両面を異なる温度として横延伸することで、得られたフィルムを液晶表示装置に組み込んだ際の周辺ムラが改善される。いかなる理論に拘泥するものでもないが、このような周辺ムラの改善は、前記未延伸フィルムを製造する際にせん断応力に起因して生じていたカールを、フィルムの両面を異なる温度として横延伸すると打ち消すことができたことに起因したものである。
実際、前記未延伸フィルムを異なる周速差の2つのロール間に熱可塑性樹脂を挟圧して製造した場合は、周速度が早いほうのロールに接していた側により強いせん断力がかかっており、横延伸工程時は、該フィルムの周速度が早いほうのロールに接していた側を低温とし、周速度が遅い方のロールに接していた側を高温として、上記範囲の温度差を付与するように制御することで周辺ムラが改善した。すなわち、本発明の製造方法では、せん断力が多くかかっていた側の面を低温とし、反対側の面を高温とすることが好ましい。同様に、前記未延伸フィルムを異なる弾性の2つのロール間に熱可塑性樹脂を挟圧して製造した場合や、異なる温度差の2つのロール間に熱可塑性樹脂を挟圧して製造した場合も、同様にせん断力が多くかかっていた側の面を低温とし、反対側の面を高温とすることが好ましい。
【0117】
前記未延伸フィルムの一方の表面の温度と反対側の表面の温度との温度差が0.5℃以上であれば、このような該フィルムのせん断力の履歴を十分打ち消せ、得られるフィルムのカールを減少させることができる。また、前記温度差が20℃以下であれば、未延伸フィルムのせん断力の履歴を打ち消した上に、さらに逆の方向にカールしてしまうことがなく、好ましい。
前記温度差は、0.5〜20℃であることが好ましく、1〜15℃であることがより好ましく、1〜10℃であることが特に好ましい。
なお、このようなフィルム表面の温度は、例えば延伸中のフィルムに熱伝対を貼り付けることで測定することができる。
【0118】
横延伸工程におけるフィルムの一方の表面の温度と反対側の表面の温度との温度差制御は、テンター内に所望の温度の風を送ったり、テンター内に加熱手段を設置したりすることで達成することができる。例えばテンターの温度調整用熱風吹き出し口を、クリップによって把持されて横延伸されているフィルムの鉛直上方向と鉛直下方向に配置し、それぞれの吹き出し口から出る熱風の温度を独立に制御することで達成できる。なお、このような制御は公知の方法で行うことができ、複数の加熱装置を用いて制御しても、1つの加熱装置から発生した熱を、ダクトを通す距離の差によって制御してもよい。なお、ダクトがフィルムの一方の表面と反対側の表面に向けて設置されていれば加熱装置の位置はテンター上部であっても、テンター側面部であっても、テンター外部であってもよい。また、前記温度差の制御は、熱風を積極的にフィルムに吹き付ける以外の態様で行ってもよく、クリップによって把持されて横延伸されているフィルムの鉛直上方向と鉛直下方向に単に公知の加熱手段(例えばヒーター)を設置してフィルム上部の雰囲気の温度と、フィルム下部の雰囲気の温度を制御することで行ってもよい。
【0119】
前記横延伸工程における延伸温度は、非環状ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリプロピレン系樹脂)以外の前記熱可塑性樹脂が非晶性樹脂の場合、前記非晶性樹脂のガラス転移温度Tgを用いて、Tg−40℃〜Tg+5℃が好ましく、Tg−30℃〜Tg℃がより好ましく、Tg−20℃〜Tg−3℃以下がさらに好ましい。前記熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合、前記結晶性樹脂のガラス転移温度Tgと結晶化温度Tcを用いてTg−40℃〜Tc−10が好ましく、Tg−30℃〜Tc−15℃がより好ましく、Tg−20℃〜Tc−20℃であることがさらに好ましい。非環状ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリプロピレン系樹脂)を使用する場合に、好ましい延伸温度は、40℃〜100℃であり、より好ましくは50℃〜90℃である。なお、ここで言う延伸温度とは、横延伸工程における高温側のフィルム表面温度と、裏側の低温側のフィルム表面温度のうち、高温側のフィルム表面温度のことを言う。
横延伸工程の延伸時間が1秒〜10分が好ましく、より好ましくは2秒〜5分、さらに好ましくは5秒〜3分である。
延伸温度および延伸時間を上記の範囲内に制御することにより、溶融挟圧工程で形成されるフィルム中に厚み方向の傾斜構造が緩和し難くなり、延伸後のフィルムの傾斜構造を大きく維持することができるとともに、本発明の好ましい範囲内の|Re[+40°]−Re[−40°]|を形成することができる。また、延伸温度および延伸時間を上記の範囲に制御することで、延伸後のフィルムの遅相軸と傾斜方位のなす角度が本発明の好ましい範囲であるフィルムを得ることができる。
【0120】
また、好ましい横延伸倍率はカール値の絶対値Kcを低減させる観点から1.05〜3.5倍である。より好ましくは得られるフィルムの遅相軸を傾斜方位と直交させる観点から1.2〜3.5倍である。さらに好ましくは得られるフィルムのNzファクターを1.2〜3.6の範囲に制御し、液晶表示装置に組み込んだ際のコントラストを改善する観点から、1.2〜1.5倍である。
【0121】
また、本発明の製造方法において横延伸工程は1段階で実施しても多段階で実施してもよいが、1段階で実施することが好ましい。
【0122】
ロ)同時2軸延伸
通常の横延伸と同様、横方向にクリップを拡幅するが、それと同時に縦方向に延伸、収縮するものであり、具体的には下記のような方法を使用できる。
実開昭55−93520号、特開昭63−247021号、特開平6−210726号、特開平6−278204号、特開2000−334832号、特開2004−106434号、特開2004−195712号、特開2006−142595号、特開2007−210306号、特開2005−22087号、特表2006−517608号、特開2007−210306号各公報。
【0123】
ハ)斜め延伸
通常の横延伸と同様、一対のチャックで把持したフィルムを加熱しながら横方向に拡幅し延伸するが、左右のチャックの搬送速度を変えたり、テンターを「く」の字状に屈曲させたり、左右のチャックの長さを変える(例えば、一方のテンター内のチャックの搬送経路を長くする)ことにより、斜め方向に延伸できる。これによりMD方向から30°〜150°、より好ましくは40°〜140°、さらに好ましくは45°〜135°にすることができ、具体的には下記のような方法を使用できる。
特開2002−22944号、特開2002−86554号、特開2004−325561号、特開2008−23775号、特開2008−110573号、特開2000−9912号、特開2003−342384号、特開2004−20701号、特開2004−258508号、特開2006−224618号、特開2006−255892号、特開2008−221834号、特開2003−342384号、国際公開WO2003/102639号各公報。
【0124】
このような延伸の前に予熱、延伸の後に熱固定を行うことで延伸後のRe、Rth分布を小さくし、ボーイングに伴う配向角のばらつきを小さくできる。予熱、熱固定はどちらか一方であってもよいが、両方行うのがより好ましい。これらの予熱、熱固定はクリップで把持して行うのが好ましく、即ち延伸と連続して行うのが好ましい。
【0125】
予熱は延伸温度より1℃〜50℃程度高い温度で行うことができ、好ましく2℃〜40℃以下、さらに好ましくは3℃〜30℃高くすることが好ましい。好ましい予熱時間は1秒〜10分であり、より好ましくは5秒〜4分、さらに好ましくは10秒〜2分である。予熱の際、テンターの幅はほぼ一定に保つことが好ましい。ここで「ほぼ」とは未延伸フィルムの幅の±10%を指す。
【0126】
熱固定は延伸温度より1℃〜50℃低い温度で行うことができ、より好ましく2℃〜40℃、さらに好ましくは3℃〜30℃低くすることが好ましい。さらに好ましくは延伸温度以下でかつTg以下にするのが好ましい。好ましい予熱時間は1秒〜10分であり、より好ましくは5秒〜4分、さらに好ましくは10秒〜2分である。熱固定の際、テンターの幅はほぼ一定に保つことが好ましい。ここで「ほぼ」とは延伸終了後のテンター幅の0%(延伸後のテンター幅と同じ幅)〜−10%(延伸後のテンター幅より10%縮める=縮幅)を指す。延伸幅以上に拡幅すると、フィルム中に残留歪が発生しやすく好ましくない。
【0127】
(縦延伸)
縦延伸は、2対のロール間を加熱しながら出口側の周速を入口側の周速より速くすることで達成できる。この際、間の間隔(L)と延伸前のフィルム幅(W)を変えることで厚み方向のレターデーションの発現性を変えることができる。L/W(縦横比と称する)が2〜50以下(長スパン延伸)ではRthを小さいフィルムを作成し易く、L/Wが0.01〜0.3(短スパン)ではRthが大きいフィルムを作成できる。本実施の形態では長スパン延伸、短スパン延伸、これらの間の領域(中間延伸=L/Wが0.3を超え2以下)のどれを使用してもよいが、配向角を小さくできる長スパン延伸、短スパン延伸が好ましい。さらに高Rthを狙う場合は短スパン延伸、低Rthを狙う場合は長スパン延伸と区別して使用することがより好ましい。
延伸温度は、前記熱可塑性樹脂が非晶性樹脂の場合、前記非晶性樹脂のガラス転移温度Tgを用いて、Tg−40℃〜Tg+5℃が好ましく、Tg−30℃〜Tg℃がより好ましく、Tg−20℃〜Tg−3℃以下がさらに好ましい。前記熱可塑性樹脂が晶性樹脂の場合、前記晶性樹脂のガラス転移温度Tgと結晶化温度Tcを用いてTg−40℃〜Tc−10が好ましく、Tg−30℃〜Tc−15℃がより好ましく、Tg−20℃〜Tc−20℃であることがさらに好ましい。また、好ましい縦延伸倍率は1.2〜3.0倍、より好ましく1.2〜2.5倍、さらに好ましくは1.2〜2.0倍である。
【0128】
さらに、これらの延伸の後に熱緩和処理を行うことで寸法安定性を改良できる。熱緩和は製膜後、縦延伸後、横延伸後のいずれか、あるいは両方で行うことが好ましい。緩和処理は延伸後に連続してオンラインで行ってもよく、延伸後巻き取った後、オフラインで行ってもよい。
上記処理は前記熱可塑性樹脂が非晶性樹脂の場合、前記非晶性樹脂のガラス転移温度Tgを用いて、(Tg−40)℃〜(Tg+5)℃、より好ましく(Tg−30)℃〜(Tg)℃、さらに好ましくは(Tg−20)℃〜(Tg−3℃)℃で行い、前記熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合、前記晶性樹脂の結晶化温度Tcと結晶融解温度Tmを用いてTc−80℃〜Tm−20が好ましく、Tc−70℃〜Tm−25℃がより好ましく,Tc−60℃〜Tm−30℃で行うことがさらに好ましい。熱緩和時間は、1秒〜10分、より好ましくは5秒〜4分、さらに好ましくは10秒〜2分、であり、搬送張力は、0.1kg/m〜20kg/m、より好ましく1kg/m〜16kg/m、さらに好ましくは2kg/m〜12kg/mの張力で搬送しながら実施するのが好ましい。
結晶性樹脂の結晶融解温度(Tm)は、走査型示差熱量計(DSC)を用いて、測定パンに樹脂をいれ、これを窒素気流中で、10℃/分で30℃から昇温し、Tg、Tc以上の温度領域において、ベースラインが低温側から偏奇し始める温度として、求めることができる。
【0129】
[偏光板]
本発明のフィルムに、少なくとも偏光子(以下、偏光膜ともいう)を積層することで、本発明の偏光板を得ることができる。以下において、本発明の偏光板を説明する。本発明の偏光板の例は、偏光膜の一面に、保護フィルムと視野角補償の2つの機能を目的として作成されたものや、TACなどの保護フィルムの上に積層された複合型偏光板が挙げられる。
【0130】
本発明の偏光板は、本発明のフィルムと偏光子を用いたものであれば、特に構成に制限はない。例えば、本発明の偏光板が、偏光子とその両面を保護する二枚の偏光板保護フィルム(透明ポリマーフィルム)からなる場合において、本発明のフィルムを少なくとも一方の偏光板保護フィルムとして用いることができる。また、本発明の偏光板は、その少なくとも一方の面に、他の部材との貼着のための粘着剤層を有してもよい。また、本発明の偏光板において、本発明のフィルムの表面が凹凸構造であれば、アンチグレア性(防眩性)の機能を有することになる。さらに、本発明の偏光板には、本発明のフィルムの表面にさらに反射防止層(低屈折率層)を積層した本発明の反射防止フィルムや、本発明のフィルムの表面にさらに光学異方性層を積層した本発明の光学補償フィルムを用いることも好ましい。
【0131】
一般に液晶表示装置は二枚の偏光板の間に液晶セルが設けられるため、4枚の偏光板保護フィルムを有する。本発明のフィルムは、4枚の偏光板保護フィルムのいずれに用いてもよいが、本発明のフィルムは、液晶表示装置における液晶セルと偏光板との間に配置される保護フィルムとして、特に有利に用いることができる。
【0132】
本発明の偏光板は、セルロースアシレートフィルム、偏光子および本発明のフィルムがこの順に積層している構成であることがより好ましい。また、セルロースアシレートフィルム、偏光子、本発明のフィルムおよび粘着剤層がこの順に積層している構成もより好ましい。
【0133】
(光学フィルム)
本発明の偏光板の光学フィルムには、本発明のフィルムが用いられる。また、前記フィルムには表面処理をしておくこともできる。表面処理方法としては、例えば、コロナ放電、グロー放電、UV照射、火炎処理等の方法が挙げられる。
【0134】
(セルロースアシレートフィルム)
本発明の偏光板のセルロースアシレートフィルムには、公知の偏光板用のセルロースアシレートフィルムが用いられる。例えば、公知のトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(例えば、富士フイルム(株)製フジタックT−60)などを好ましく用いることができる。また、前記ルロースアシレートフィルムには表面処理をしておくこともできる。表面処理方法としては、例えば、けん化処理などが挙げられる。
【0135】
(偏光子)
前記偏光子としては、例えば、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬して延伸したもの等を用いることができる。
【0136】
本発明に用いられる偏光子は、本発明の目的を達成し得るものであれば、任意の適切なものが選択され得る。前記偏光子としては、例えば、親水性高分子フィルムにヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン系配向フィルム等が挙げられる。前記親水性高分子フィルムとしては、例えば、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等が挙げられる。本発明において、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を吸着させた偏光子が好ましい。
【0137】
前記偏光子は、好ましくは、さらにカリウムおよびホウ素の少なくとも一方を含有する。前記偏光子が、カリウムおよびホウ素を含有することによって、好ましい範囲の複合弾性率(Er)を有し、且つ、偏光度が高い偏光子(偏光板)を得ることができる。カリウムおよびホウ素の少なくとも一方を含む偏光子の製造は、例えば、偏光子の形成材料であるフィルムを、カリウムおよびホウ素の少なくとも一方の溶液に浸漬すればよい。前記溶液は、ヨウ素を含む溶液を兼ねてもよい。
【0138】
前記ポリビニルアルコール系フィルムを得る方法としては、任意の適切な成形加工法が採用され得る。前記成形加工法としては、従来公知の方法が適用できる。また、前記ポリビニルアルコール系フィルムには、市販のフィルムをそのまま用いることもできる。市販のポリビニルアルコール系フィルムとしては、例えば、(株)クラレ製の商品名「クラレビニロンフィルム」、東セロ(株)製の商品名「トーセロビニロンフィルム」、日本合成化学工業(株)製の商品名「日合ビニロンフィルム」等が挙げられる。
【0139】
偏光子の製造方法の一例について、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とする高分子フィルム(原反フィルム)は、純水を含む膨潤浴、およびヨウ素水溶液を含む染色浴に浸漬され、速比の異なるロールでフィルム長手方向に張力を付与されながら、膨潤処理および染色処理が施される。つぎに、膨潤処理および染色処理されたフィルムは、ヨウ化カリウムを含む架橋浴中に浸漬され、速比の異なるロールでフィルムの長手方向に張力を付与されながら、架橋処理および最終的な延伸処理が施される。架橋処理されたフィルムは、ロールによって、純水を含む水洗浴中に浸漬され、水洗処理が施される。水洗処理されたフィルムは、乾燥して水分率を調節した後で巻き取られる。このように、偏光子は、原反フィルムを、例えば、元の長さの5倍〜7倍に延伸することで得ることができる。
【0140】
前記偏光子は、接着剤との密着性を向上させるために、任意の表面改質処理が施されていてもよい。前記表面改質処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、グロー放電処理、火炎処理、オゾン処理、UVオゾン処理、紫外線処理等が挙げられる。これらの処理は、単独で、または2つ以上を組み合せて用いてもよい。
【0141】
(粘着剤層)
本発明の偏光板は、最外層の少なくとも一方として粘着剤層を有していても良い(このような偏光板を粘着型偏光板と称することがある)。特に好ましい形態として、前記光学フィルムの偏光子が接着されていない側に、他の光学フィルムや液晶セル等の他部材と接着するための粘着剤層を設けることができる。
【0142】
(偏光板の製造方法)
本発明の偏光板の製造方法を説明する。
本発明の偏光板は、接着剤を用いて前記偏光子の少なくとも片面に本発明のフィルムの片面(表面処理をしてある場合は表面処理面)を貼り合わせることで製造できる。また、セルロースアシレートフィルム、偏光子および本発明のフィルムの順に貼り合わせる場合は、本発明の偏光板は偏光子の両面に接着剤を用いて偏光子とその他のフィルムを張り合わせることで製造できる。本発明の偏光板の製造方法においては、本発明のフィルムが偏光子と直接貼合されていることが好ましい。
【0143】
前記接着剤としては、公知の偏光板製造用接着剤を用いることができる。また、前記偏光子と各フィルムの間に接着剤層を有する態様も好ましい。前記接着剤の具体例としては、ポリビニルアルコールまたはポリビニルアセタール(例、ポリビニルブチラール)の水溶液や、ビニル系ポリマー(例、ポリブチルアクリレート)のラテックスを用いることができる。特に好ましい接着剤は、完全鹸化ポリビニルアルコールの水溶液である。前記ポリビニルアルコール系接着剤は、ポリビニルアルコール系樹脂と架橋剤を含有することが好ましい。
【0144】
本発明の偏光板の製造方法は、上記の方法に限定されず、他の方法を用いることもできる。例えば、特開2000−171635号、特開2003−215563号、特開2004−70296号、特開2005−189437号、特開2006−199788号、特開2006−215463号、特開2006−227090号、特開2006−243216号、特開2006−243681号、特開2006−259313号、特開2006−276574号、特開2006−316181号、特開2007−10756号、特開2007−128025号、特開2007−140092号、特開2007−171943号、特開2007−197703号、特開2007−316366号、特開2007−334307号、特開2008−20891号各公報などに記載の方法を使用できる。これらの中でもより好ましくは特開2007−316366号、特開2008−20891号公報に記載の方法である。
【0145】
偏光膜の他方の表面にも保護フィルムが貼り付けられているのが好ましく、かかる保護フィルムは、本発明のフィルムであってもよい。また、セルロースアシレートフィルム、環状ポリオレフィン系ポリマーフィルム等、従来偏光板の保護フィルムとして用いられている種々のフィルムを利用することができる。
【0146】
このようにして得た本発明の偏光板は、液晶表示装置内で使用するのが好ましく、液晶セルの視認側、バックライト側のどちらか片側に設けても、両側に設けてもよく、限定されない。本発明の偏光板が適用可能な画像表示装置の具体例としては、エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、プラズマディスプレイ(PD)、電界放出ディスプレイ(FED:Field Emission Display)のような自発光型表示装置が挙げられる。液晶表示装置は透過型液晶表示装置、反射型液晶表示装置等に適用される。
【0147】
[液晶表示装置]
本発明のフィルムおよび偏光板は、種々のモードの液晶表示装置に用いることができる。好ましくは、TN(Twisted Nematic)、OCB(Optically Compensatory Bend)、ECB(Electrically Controlled Birefringence)モードの液晶表示装置、中でも、より好ましくは、TN、ECBモード液晶表示に用いることができる。
【0148】
[光学補償フィルム]
本発明のフィルムは、光学用途用フィルムとして好ましく用いることができ、光学補償フィルムとして特に好ましく用いることができる。
【0149】
<積層フィルム>
本発明のフィルムにさらに光学異方性層を付与することで積層フィルムとすることもできる。
【0150】
[反射防止フィルム]
本発明のフィルムの上に反射防止層を付与することで、本発明の反射防止フィルムが得られる。反射防止膜は、一般に、防汚性層でもある低屈折率層と、および低屈折率層より高い屈折率を有する少なくとも一層の層(本明細書中における、高屈折率層、および中屈折率層)とを(透明)支持体上に設けて成る。
【0151】
屈折率の異なる無機化合物(金属酸化物等)の透明薄膜を積層させた多層膜として、化学蒸着(CVD)法や物理蒸着(PVD)法、金属アルコキシド等の金属化合物のゾルゲル方法でコロイド状金属酸化物粒子皮膜を形成後に後処理(紫外線照射:特開平9−157855号公報、プラズマ処理:特開2002−327310号公報)して薄膜を形成する方法が挙げられる。
一方、生産性が高い反射防止膜として、無機粒子をマトリックスに分散されてなる薄膜を積層塗布してなる反射防止膜が各種提案されている。
上述したような塗布による反射防止フィルムに最上層表面が微細な凹凸の形状を有する防眩性を付与した反射防止層から成る反射防止フィルムも挙げられる。
本発明のフィルムは前記いずれの方式にも適用できるが、特に好ましいのが塗布による方式(塗布型)である。
【0152】
(層構成)
(透明)支持体上に少なくとも中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層(最外層)の順序の層構成から成る反射防止膜は、以下の関係を満足する屈折率を有する様に設計される。
高屈折率層の屈折率>中屈折率層の屈折率>透明支持体の屈折率>低屈折率層の屈折率
また、透明支持体と中屈折率層との間に、ハードコート層を設けてもよい。さらには、中屈折率ハードコート層、高屈折率層および低屈折率層からなってもよい。
例えば、特開平8−122504号公報、同8−110401号公報、同10−300902号公報、特開2002−243906号公報、特開2000−111706号公報等が挙げられる。
【0153】
また、各層に他の機能を付与させてもよく、例えば、防汚性の低屈折率層、帯電防止性の高屈折率層としたもの(例、特開平10−206603号公報、特開2002−243906号公報等)等が挙げられる。
【0154】
反射防止膜のヘイズは、5%以下あることが好ましく、3%以下がさらに好ましい。また、膜の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験でH以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。
【0155】
(高屈折率層および中屈折率層)
反射防止膜の高い屈折率を有する層は、平均粒子サイズ100nm以下の高屈折率の無機化合物超微粒子およびマトリックスバインダーを少なくとも含有する硬化性膜から成る。
高屈折率の無機化合物微粒子としては、屈折率1.65以上の無機化合物が挙げられ、好ましくは屈折率1.9以上のものが挙げられる。例えば、Ti、Zn、Sb、Sn、Zr、Ce、Ta、La、In等の酸化物、これらの金属原子を含む複合酸化物等が挙げられる。
このような超微粒子とするには、粒子表面が表面処理剤で処理されること(例えば、シランカップリング剤等:特開平11−295503号公報、同11−153703号公報、特開2000−9908号公報、アニオン性化合物或は有機金属カップリング剤:特開2001−310432号公報等)、高屈折率粒子をコアとしたコアシェル構造とすること(特開2001−166104等)、特定の分散剤併用(例、特開平11−153703号公報、特許番号US6210858B1、特開2002−2776069号公報等)等挙げられる。
マトリックスを形成する材料としては、従来公知の熱可塑性樹脂、硬化性樹脂皮膜等が挙げられる。
さらに、ラジカル重合性および/またはカチオン重合性の重合性基を少なくとも2個以上含有の多官能性化合物含有組成物、加水分解性基を含有の有機金属化合物およびその部分縮合体組成物から選ばれる少なくとも1種の組成物が好ましい。例えば、特開2000−47004号公報、同2001−315242号公報、同2001−31871号公報、同2001−296401号公報等に記載の化合物が挙げられる。
また、金属アルコキドの加水分解縮合物から得られるコロイド状金属酸化物と金属アルコキシド組成物から得られる硬化性膜も好ましい。例えば、特開2001−293818号公報等に記載されている。
高屈折率層の屈折率は、−般に1.70〜2.20である。高屈折率層の厚さは、5nm〜10μmであることが好ましく、10nm〜1μmであることがさらに好ましい。
中屈折率層の屈折率は、低屈折率層の屈折率と高屈折率層の屈折率との間の値となるように調整する。中屈折率層の屈折率は、1.50〜1.70であることが好ましい。
【0156】
(低屈折率層)
低屈折率層は、高屈折率層の上に順次積層して成る。低屈折率層の屈折率は1.20〜1.55である。好ましくは1.30〜1.50である。
耐擦傷性、防汚性を有する最外層として構築することが好ましい。耐擦傷性を大きく向上させる手段として表面への滑り性付与が有効で、従来公知のシリコーンの導入、フッ素の導入等から成る薄膜層の手段を適用できる。
含フッ素化合物の屈折率は1.35〜1.50であることが好ましい。より好ましくは1.36〜1.47である。また、含フッ素化合物はフッ素原子を35〜80質量%の範囲で含む架橋性若しくは重合性の官能基を含む化合物が好ましい。
例えば、特開平9−222503号公報明細書段落番号[0018]〜[0026]、同11−38202号公報明細書段落番号[0019]〜[0030]、特開2001−40284号公報明細書段落番号[0027]〜[0028]、特開2000−284102号公報等に記載の化合物が挙げられる。
シリコーン化合物としてはポリシロキサン構造を有する化合物であり、高分子鎖中に硬化性官能基あるいは重合性官能基を含有して、膜中で橋かけ構造を有するものが好ましい。例えば、反応性シリコーン(例、サイラプレーン(チッソ(株)製等)、両末端にシラノール基含有のポリシロキサン(特開平11−258403号公報等)等が挙げられる。
【0157】
架橋または重合性基を有する含フッ素および/またはシロキサンのポリマーの架橋または重合反応は、重合開始剤、増感剤等を含有する最外層を形成するための塗布組成物を塗布と同時または塗布後に光照射や加熱することにより実施することが好ましい。
また、シランカップリング剤等の有機金属化合物と特定のフッ素含有炭化水素基含有のシランカップリング剤とを触媒共存下に縮合反応で硬化するゾルゲル硬化膜も好ましい。
【0158】
例えば、ポリフルオロアルキル基含有シラン化合物またはその部分加水分解縮合物(特開昭58−142958号公報、同58−147483号公報、同58−147484号公報、特開平9−157582号公報、同11−106704号公報記載等記載の化合物)、フッ素含有長鎖基であるポリ「パーフルオロアルキルエーテル」基を含有するシリル化合物(特開2000−117902号公報、同2001−48590号公報、同2002−53804号公報記載の化合物等)等が挙げられる。
【0159】
低屈折率層は、前記以外の添加剤として充填剤(例えば、二酸化珪素(シリカ)、含フッ素粒子(フッ化マグネシウム,フッ化カルシウム,フッ化バリウム)等の一次粒子平均径が1〜150nmの低屈折率無機化合物、特開平11−3820号公報の段落番号[0020]〜[0038]に記載の有機微粒子等)、シランカップリング剤、滑り剤、界面活性剤等を含有することができる。
低屈折率層が最外層の下層に位置する場合、低屈折率層は気相法(真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法等)により形成されてもよい。安価に製造できる点で、塗布法が好ましい。
低屈折率層の膜厚は、30〜200nmであることが好ましく、50〜150nmであることがさらに好ましく、60〜120nmであることが最も好ましい。
【0160】
(ハードコート層)
ハードコート層は、反射防止フィルムに物理強度を付与するために、透明支持体の表面に設ける。特に、透明支持体と前記高屈折率層の間に設けることが好ましい。
ハードコート層は、光および/または熱の硬化性化合物の架橋反応、または、重合反応により形成されることが好ましい。
前記硬化性官能基としては、光重合性官能基が好ましく、また、加水分解性官能基含有の有機金属化合物は有機アルコキシシリル化合物が好ましい。
これらの化合物の具体例としては、高屈折率層で例示したと同様のものが挙げられる。
ハードコート層の具体的な構成組成物としては、例えば、特開2002−144913号公報、同2000−9908号公報、国際公開第00/46617号パンフレット等記載のものが挙げられる。
高屈折率層はハードコート層を兼ねることができる。このような場合、高屈折率層で記載した手法を用いて微粒子を微細に分散してハードコート層に含有させて形成することが好ましい。
【0161】
ハードコート層は、平均粒子サイズ0.2〜10μmの粒子を含有させて防眩機能(アンチグレア機能)を付与した防眩層(後述)を兼ねることもできる。
ハードコート層の膜厚は用途により適切に設計することができる。ハードコート層の膜厚は、0.2〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.5〜7μmである。
ハードコート層の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験で、H以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。また、JIS K5400に従うテーバー試験で、試験前後の試験片の摩耗量が少ないほど好ましい。
【0162】
(前方散乱層)
前方散乱層は、液晶表示装置に適用した場合の、上下左右方向に視角を傾斜させたときの視野角改良効果を付与するために設ける。前記ハードコート層中に屈折率の異なる微粒子を分散することで、ハードコート機能と兼ねることもできる。
例えば、前方散乱係数を特定化した特開平11−38208号公報、透明樹脂と微粒子の相対屈折率を特定範囲とした特開2000−199809号公報、ヘイズ値を40%以上と規定した特開2002−107512号公報等が挙げられる。
【0163】
(その他の層)
前記の層以外に、プライマー層、帯電防止層、下塗り層や保護層等を設けてもよい。
【0164】
(反射防止フィルムの製造方法)
反射防止フィルムの各層は、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート、マイクログラビア法やエクストルージョンコート法(米国特許2681294号明細書)により、塗布により形成することができる。
【0165】
反射防止膜は、外光を散乱させるアンチグレア機能を有していてもよい。アンチグレア機能は、反射防止膜の表面に凹凸を形成することにより得られる。反射防止膜がアンチグレア機能を有する場合、反射防止膜のヘイズは、3〜30%であることが好ましく、5〜20%であることがさらに好ましく、7〜20%であることが最も好ましい。
【0166】
反射防止膜表面に凹凸を形成する方法は、これらの表面形状を充分に保持できる方法であればいずれの方法でも適用できる。例えば、低屈折率層中に微粒子を使用して膜表面に凹凸を形成する方法(例えば、特開2000−271878号公報等)、低屈折率層の下層(高屈折率層、中屈折率層またはハードコート層)に比較的大きな粒子(粒子サイズ0.05〜2μm)を少量(0.1〜50質量%)添加して表面凹凸膜を形成し、その上にこれらの形状を維持して低屈折率層を設ける方法(例えば、特開2000−281410号公報、同2000−95893号公報、同2001−100004号公報、同2001−281407号公報等)、最上層(防汚性層)を、塗設後の表面に物理的に凹凸形状を転写する方法(例えば、エンボス加工方法として、特開昭63−278839号公報、特開平11−183710号公報、特開2000−275401号公報等記載)等が挙げられる。
【実施例】
【0167】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0168】
<測定法>
(カール値の絶対値)
サンプルフィルムを、フィルム傾斜方位方向に35mm,それと垂直方向に2mmの大きさに切り取った後、''ANSI/ASC PH1.29−1985'' Method−Aに記載のカール板に設置する。
これを25℃相対湿度60%下において1時間調湿後、カール値の絶対値を測定した。なお、カール値は曲率半径(m)の逆数で表す。
【0169】
[製造例1] 環状オレフィン系樹脂のペレットの製造
環状オレフィン共重合体(COC)として、Polyplastics社製の「TOPAS#6013」のペレットを用いた。なお、「TOPAS#6013」は、非晶性であり、正の固有複屈折性を示す。また、当該樹脂のガラス転移点は136℃であった。
【0170】
[製造例2] ポリカーボネート系樹脂のペレットの製造
ポリカーボネート(PC)として、出光興産社製の「タフロンMD1500」のペレットを用いた。なお、「タフロンMD1500」は、非晶性であり、正の固有複屈折性を示す。また、当該樹脂のガラス転移点は142℃であった。
【0171】
[製造例3] ポリオレフィン系樹脂のペレットの製造
ポリプロピレン系樹脂(PP)として、住友化学(株)社製「ノーブレンW151」のペレットを用いた。「ノーブレンW151」は結晶性であり、正の固有複屈折性を示す。ノーブレンW151はエチレン含量が約4.6% のプロピレン−エチレンランダム共重合体であり、温度230℃、荷重2.16kg(21.18N)で測定されるメルトフローレイトが8g/10分であった。また、当該樹脂の結晶化温度は130℃であった。なお、当該樹脂のガラス転移温度は−20℃であった。
【0172】
[製造例4] セルロースアシレート系樹脂のペレットの製造
セルロース・アセテート・プロピオネート(CAP)を特開2006−348123号公報の実施例1に記載の方法に従って製造し、これを常法に従ってペレット化した。なお使用したCAPの組成は、アセチル化度0.15、プロピオニル化度2.60、全アシル置換度2.75、数平均重合度DPn=118で、結晶性であり、正の固有複屈折性を示す。また、当該樹脂の結晶化温度は200℃であった。また、当該樹脂のガラス転移点は135℃であった。
【0173】
[製造例5] アクリル系樹脂のペレットの製造
アクリル系を特開2008−9378号公報[0222]〜[0224]の製造例1に従いメタクリル酸メチル=7500g、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル2500gから合成し、ラクトン化率98%、ガラス転移点134℃のアクリル系化合物を得た。
【0174】
[実施例1]
(未延伸フィルムの作製)
熱可塑性樹脂として下記表1に記載の環状オレフィン共重合体TOPAS#6013(COC)のペレットを用いて、100℃において2時間以上乾燥し、260℃で溶融し、1軸混練押出し機を用い混練し押出した。このとき押し出し機とダイの間にスクリーンフィルター、ギアポンプ、リーフディスクフィルターをこの順に配置し、これらをメルト配管で連結した。これを押出し温度(吐出温度)260℃で幅1900mm、リップギャップ1mmのダイから押出した。
この後、キャストロールとタッチロールで挟圧した部分の中央にメルト(溶融樹脂)を押出した。この時、最上流側の幅1800mm、直径400mmのHCrメッキされた金属製キャストロール(チルロール)に下記表1に記載のタッチ圧力となるようにシリンダーを設定し、幅1000mm、直径350mmのHCrメッキされた金属製タッチロールを接触させた。なお、両ロールの表面粗さRa値は25nm以下であった。タッチ圧力は、中圧用プレスケール(富士フイルム社製)を、メルトのない状態で等周速(5m/分)でともに25℃に制御した二つのロールに挟みこむことで測定し、その値を製膜時の圧力とした。タッチロールおよびチルロールはショア硬度60HSのものを用いた。また、メルトはキャストロールとタッチロールで挟まれる中央部分に落とした。これらのロールを用い、タッチロール周速度、チルロール周速度を下記表1に記載のようにタッチロールの周速度の方が速くなるように設定し、ダイとメルト着地点の距離を100mm、メルト着地点がタッチロールとチルロールの中央部に設定し、搬送速度(チルロール速度)8m/分で製膜した。また、挟圧直前、すなわち着地点上部10mmにおけるメルトの温度を接触式温度計によって測定し、挟圧直前温度として下記表1に記載した。なお、タッチロールの温度をTg−5℃、チルロールの温度をTg−5℃とした。また、製膜の雰囲気は25℃、60%であった。
この後、巻き取り直前に両端(全幅の各5cm)をトリミングした後、両端に幅10mm、高さ20μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけた。また製膜幅は900mmとし、450m巻き取った。
【0175】
(横延伸工程)
上記製膜フィルムを表1記載の条件で横延伸した。このとき、上記未延伸フィルムの作製において、タッチロール側のフィルム表面を下側にし、クリップでフィルム両端を把持するようにした。
延伸倍率、延伸熱風設定温度、延伸設定温度(温度調節用熱風吹き出し口からの熱風の温度)、高温側のフィルム膜面温度、およびフィルム表裏での温度差を下記表1に記載の値として、テンターを用いて延伸した。この時、横延伸工程において、テンター内にフィルム鉛直上方と下方に噴出し口を設置し、温度調節用熱風吹き出し口からの熱風の温度および/または風量を調整することで、前記フィルム裏表での温度差を制御した。また、フィルムの表面および裏面の温度は、フィルム表面に熱電対を貼り付け測定した。延伸後の厚みを下記表1に記載した。
なお、各実施例における延伸工程には、実施例1と同様の通常の横延伸のほか、下記の同時2軸延伸方法や、斜め延伸方法を実施した。
横延伸:特開平10−249934号公報に記載の方法(実施例1と同様)。
同時2軸延伸:特表2006−517608号公報に記載の方法。
斜め延伸:特開2008−110573号公報に記載の方法。
【0176】
(フィルムの光学特性)
得られた実施例1のフィルムの光学特性、カールの絶対値Kcも表1にあわせて記載した。
【0177】
(周辺ムラ)
次に、上記横延伸後のフィルムを接着剤にてガラス板に貼り付け、クロスニコルに配置した偏光板の間に、上記ガラス板に貼り付けたフィルムの遅相軸が偏光板の吸収軸と45°の角度になるように挟み、フィルム鉛直方向から見た際に視認されるガラス端部周辺におけるムラの領域を計測した。これは、液晶表示板に組み込んだ際の額縁ムラに類似した光モレの大きさを反映する。下記基準に従って実施例1のフィルムの周辺ムラを評価し、その結果を下記表1に記載した。
◎:周辺ムラの発生が全く認められず、実用上問題がない場合。
○:周辺ムラの発生がわずかに認められるが、実用上問題がない場合。
×:周辺ムラの発生が認められ、実用上問題がある場合。
【0178】
[実施例2〜21、比較例1〜3]
実施例2〜7、比較例3では,製膜条件を下記表1に記載したように変更した以外は実施例1と同様にして、各実施例および比較例の光学フィルムを得た。また、実施例8〜10では、PCを用いた。実施例11〜15および、比較例1、2では,結晶性樹脂であるPP、CAPを用い、ロール温度をTc−80℃に設定した以外は、実施例1と同様にして、各フィルムを得た。実施例16においてアクリル樹脂は265℃にて溶融した。実施例17〜21では下記表1に記載の挟圧工程条件および延伸工程条件とした以外は請求項1と同様にして、各実施例のフィルムを得た。
各実施例および比較例のフィルムの特性を下記表1に示す。
【0179】
【表1】

【0180】
表1から、実施例1〜21ではいずれも周辺ムラが改善されていることが判明した。
詳しくは、実施例1は横延伸工程の延伸倍率を1.05倍としたものであり、遅相軸方位と傾斜方位がともにMD方向であった。このようなフィルムは直接ECBモードの液晶表示装置に用いることができ、好ましい。実施例1および3の比較から、延伸倍率を変えるとカール値が改善され、さらにNzファクターが好ましい範囲となることがわかった。比較例2および実施例2〜5はフィルム表裏での温度差を検討したものであり、カール値の絶対値Kcの改善と、周辺ムラの改善の間に相関性があること、および本発明の範囲にフィルム表裏での温度差を制御することで周辺ムラが顕著に改善されることがわかった。実施例6および7は、タッチ圧力および延伸倍率を検討したものである。実施例8〜10はPC樹脂にて延伸倍率の検討を行ったものであり、延伸倍率を上げるとKcが改善され、周辺ムラも改善されることがわかった。また、延伸倍率を上げるにつれ、Nzファクターも好ましい範囲となることがわかった。実施例11〜13はPP樹脂において延伸倍率およびフィルム裏表の温度差を共に好ましい範囲に近づけて検討したものであり、順にKcが改善されることがわかった。また、実施例14および15より、延伸温度を上げるとKcも改善されることがわかった。実施例13より、CAP樹脂を用いた場合も本発明の効果が得られることがわかった。実施例16より、アクリル樹脂を用いた場合も本発明の効果が得られることがわかった。実施例17〜21より、延伸方式を変えた場合も本発明の効果が得られることがわかった。
一方、比較例1は横延伸工程を実施しなかったものであり、得られたフィルムのカール値は発明の範囲外であり、さらに液晶表示装置に組み込んだ際に周辺ムラを生じた。比較例2は横延伸工程におけるフィルム裏表の温度差を本発明の製造方法の下限値以下としたものであり、得られたフィルムのカール値は発明の範囲外であり、さらに液晶表示装置に組み込んだ際に周辺ムラを生じた。比較例3は横延伸工程におけるフィルム裏表の温度差を本発明の製造方法の上限値以上としたものであり、得られたフィルムは、その他のフィルムのカールする方向とは逆側(タッチロール側)にカールしてしまい、フィルムがカールし、巻き取り不能となった。
以上より、本発明の製造方法によれば、傾斜構造を有するフィルムを、横延伸工程におけるフィルム裏表の温度差を本発明の範囲として横延伸することで、良好な傾斜構造有し、カール値が小さいフィルムを製造できることがわかった。
また、実施例1〜21より、本発明のフィルムは光学用途に適したフィルムであり、特に光学補償フィルムとして好適に用いることができることがわかった。
【0181】
<TN液晶パネルへの装着と評価>
(TNモード用偏光板の作製)
厚さ80μmのポリビニルアルコール(PVA)フィルムを、ヨウ素濃度0.05質量%、KI濃度3質量%のヨウ素水溶液(30℃)中に60秒浸漬して染色し、次にホウ酸濃度4質量%、KI濃度3.5質量%の水溶液(55℃)中に60秒浸漬している間に元の長さの5.5倍に縦延伸した後、50℃で4分間乾燥させて、厚さ20μmの偏光子を得た。
これとは別に、セルロースアシレートフィルム(富士フイルム(株)製、フジタックT60)を濃度2.0モル/Lで55℃の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬ケン化処理した後、水で十分に水酸化ナトリウムを洗い流した。その後、0.005モル/Lで35℃の希硫酸水溶液に1分間浸漬した後、水に浸漬し希硫酸水溶液を十分に洗い流し、105℃で乾燥した。
実施例1〜21のフィルム表面にコロナ放電処理を行い、ポリビニルアルコール系接着剤を用い、そのままロールtoロールで偏光子の片側に貼り付けた。また、上記ケン化処理したフジタックT60を、ポリビニルアルコール系接着剤を用い、偏光子の反対側に貼り付け、偏光板を得た。
【0182】
(液晶表示装置の作製)
TN型液晶セルを使用した液晶表示装置(AQUOS LC−20C1−S 、シャープ(株)製)に設けられている一対の偏光板を剥がし、代わりに各実施例のフィルムを用いて作製した偏光板を、各実施例フィルムが液晶セル側となるように粘着剤を介して、観察者側およびバックライト側に一枚ずつ貼り付けた。こうして得られた液晶表示装置を用いて、ELDIM社製EZ−contrastにより白表示と黒表示時のコントラスト比が10以上の視野角を測定した。測定された視野角から、以下の方法で表示視認性を評価し、得られた結果を上記表1に記載した。その結果、本発明実施例のフィルムを用いると、TN液晶表示装置に組み込んだ場合、表示視認性が良好であることがわかった。
◎: 液晶セルの白表示と黒表示時のコントラスト比が10以上を示すパネル面に対する法線方向からの傾き角の範囲が、正対方向に対し上下左右ともに60°以上。
○: 液晶セルの白表示と黒表示時のコントラスト比が10以上を示すパネル面に対する法線方向からの傾き角の範囲が、正対方向に対し上下左右ともに50℃以上60°未満。
△: 液晶セルの白表示と黒表示時のコントラスト比が10以上を示すパネル面に対する法線方向からの傾き角の範囲が、正対方向に対し上下左右ともに40℃以上50°未満。
×: 液晶セルの白表示と黒表示時のコントラスト比が10以上を示すパネル面に対する法線方向からの傾き角の範囲が、正対方向に対し上下左右ともに40℃未満。
【0183】
<半透過型ECB液晶パネルへの装着と評価>
(半透過型ECBモード用偏光板の作製)
作成した実施例1のフィルムおよび比較例1のフィルムを用いて偏光板を作製した。具体的には、まず、延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて偏光フィルムを作製した。この偏光フィルムを用いて、図1に示すような配置で、80μmのTACフィルム(富士フイルム社製)、一軸延伸したノルボルネン系高分子フィルムからなる、Re=270nmのλ/2板、本発明1または比較例1のフィルムを貼合わせた。この様にして、実施例1のフィルムを用いた偏光板PL1および比較例1のフィルムを用いたPL2をそれぞれ2枚ずつ作製した。
【0184】
(半透過型ECBモード液晶表示装置の作製と評価)
次に、上記偏光板を用いてECB型の半透過型液晶表示装置を作製した。使用した液晶セルは、液晶材料としてZLI−1695(Merck社製)を用い、液晶層厚は反射電極領域(反射表示部)で2.4μm、透過電極領域(透過表示部)で4.9μmとした。液晶層の基板両界面のプレチルト角は2度であり、液晶セルのΔndは、反射表示部で略150nm、透過表示部で略320nmであった。
この液晶セルの上下に、上記作製した2種の偏光板を、図1に示すように配置した。偏光板P1およびP2中の矢印はそれぞれの吸収軸を、位相差フィルム中の矢印はそれぞれの遅相軸を、ECBセルの矢印はそれぞれの対向面に施されたラビング処理のラビング方向を示す。ここで、12時方向が0°、時計回りが+である。
【0185】
本発明の実施例である液晶表示装置LCD1について、白黒表示時のコントラスト比が10以上の視野角度を求めたところ、LCD1は左右上下のいずれの方向も視野角度280°以上を達成していた。一方、比較例のフィルムを用いたLCD2は、コントラスト比10以上の視野角度が、上下左右のいずれの方向も260°未満であった。
このように、本発明のフィルムを用いると、液晶表示装置に組み込んだ場合、大きな視野角補償を行うことができる。
【0186】
(液晶ディスプレイ用反射防止フィルム)
実施例1の光学フィルムを発明協会公開技報(公技番号2001−1745)の実施例47に従い低反射フィルムを作製し、液晶表示装置に組み込んだところ、良好な光学性能が得られた。
【0187】
(有機EL用反射防止フィルム)
特開平9−127885号公報に従って、実施例1の光学フィルムと直線偏光板を、遅相軸と吸収軸の角度が45度になるように張り合わせ、反射防止フィルムを作成した。その反射防止フィルムを、有機EL表示装置に組み込み、反射防止機能を確認した。さらに、本発明のフィルムの特徴から、非対称な視野角性能を有することを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含有するフィルムを、フィルムの一方の表面の温度と反対側の表面の温度との温度差が0.5〜20℃となるように制御しながらフィルム幅方向に延伸する工程を含み、
前記熱可塑性樹脂を含有するフィルムが、フィルム傾斜方位とフィルム法線を含む面内において該法線に対して傾斜方位側へ40°傾いた方向から測定した波長550nmにおけるレターデーションRe[+40°]と、該法線に対して傾斜方位側へ−40°傾いた方向から測定した波長550nmにおけるレターデーションRe[−40°]とが異なることを特徴とするフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記Re[+40°]と前記Re[−40°]が、下記式(I)を満たすことを特徴とする請求項1に記載のフィルムの製造方法。
10nm≦|Re[+40°]−Re[−40°]|≦300nm 式(I)
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂を含有するフィルムが、挟圧装置を構成する第一挟圧面と第二挟圧面の間を通過する直前の熱可塑性樹脂を含有する組成物の温度を下記条件(1)または(2)を満たすように制御しながら、該組成物を前記第一挟圧面と前記第二挟圧面の間を通過させて連続的に挟圧してフィルム状に成形する工程により製造されたことを特徴とする請求項1または2に記載のフィルムの製造方法。
条件(1):前記熱可塑性樹脂が非晶性樹脂の場合、
Tg+20℃以上(但し、Tgは前記非晶性樹脂のガラス転移温度を
表し、単位:℃である)。
条件(2):前記熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合、
Tc以上(但し、Tcは前記結晶性樹脂の結晶化温度を表し、
単位:℃である)。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂を含有する組成物をダイから溶融押出しする工程と、溶融押出しされた溶融物を前記第一挟圧面と前記第二挟圧面の間を通過させる工程と、を含むことを特徴とする請求項3に記載のフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、セルロースアシレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂およびアクリル系樹脂から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂が、正の複屈折性を示すことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のフィルムの製造方法。
【請求項7】
熱可塑性樹脂を含有し、
フィルム傾斜方位とフィルム法線を含む面内において、該法線に対して傾斜方位側へ40°傾いた方向から測定した波長550nmにおけるレターデーションRe[+40°]と、該法線に対して傾斜方位側へ−40°傾いた方向から測定した波長550nmにおけるレターデーションRe[−40°]が、下記式(I)を満たし、
かつ、25℃相対湿度60%下でのカール値の絶対値Kcが下記式(II)を満たすことを特徴とするフィルム。
10nm≦|Re[+40°]−Re[−40°]|≦300nm 式(I)
0m-1≦Kc≦50m-1 式(II)
【請求項8】
フィルム面内の遅相軸とフィルム傾斜方位のなす角度が30°〜150℃であることを特徴とする請求項7に記載のフィルム。
【請求項9】
フィルム膜厚方向のレターデーションRthが下記式(III)を満たすことを特徴とする請求項7または8に記載のフィルム。
40nm≦Rth≦500nm 式(III)
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d 式(III)'
(式(III)中、nx、nyおよびnzは屈折率楕円体の各主軸方位の屈折率を表し、dはフィルム厚みを表す。)
【請求項10】
Nzファクターが下記式(IV)を満たすことを特徴とする請求項7〜9のいずれか一項に記載のフィルム。
1.2≦Nz 式(IV)
Nz=(nx−nz)/(nx−ny) 式(IV)'
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のフィルムの製造方法で製造されたことを特徴とするフィルム。
【請求項12】
偏光子と、請求項7〜11のいずれか1項に記載のフィルムを用いたことを特徴とする偏光板。
【請求項13】
請求項7〜11のいずれか1項に記載のフィルムを用いたことを特徴とする光学補償フィルム。
【請求項14】
請求項7〜11のいずれか1項に記載のフィルムを用いたことを特徴とする反射防止フィルム。
【請求項15】
請求項7〜11のいずれか1項に記載のフィルムを用いたことを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−152310(P2010−152310A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162092(P2009−162092)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】