説明

フィルムの表面を改質する方法及び装置

【課題】 水、水溶液又は水分散液の帯電微粒子を衝突させることによりフィルムの表面を改質する方法及び装置を提供する。
【解決手段】 フィルムの表面改質装置は、フィルム10aを搬送するロール2と、水、水溶液又は水分散液4を収容するとともに超音波振動子6を浸漬させた容器4と、フィルム10aと水、水溶液又は水分散液4との間に電位差を設ける手段8とを具備し、もって水、水溶液又は水分散液4の超音波振動により発生した帯電微粒子4aをロール2上のフィルム10aに衝突させることにより強固に付着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水、水溶液又は水分散液の帯電微粒子をフィルムに衝突させることによりフィルム表面を改質する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックフィルムに接着性、耐汚染性、易剥離性、反射防止性、防曇性等の機能を付与したり、金属フィルムに耐食性、接着性、耐汚染性、易剥離性等の機能を付与したりするために、樹脂や無機物を塗布法や蒸着法等によりコートすることが行われている。しかし、塗布法では薄膜を形成することができず、また蒸着法は薄膜の形成に優れているが、真空装置を必要とするので高コストである。
【0003】
特開2005-281679号(特許文献1)は、導電板上にプラスチックフィルムを載置し、導電板との間に電位差を設けた噴射ノズルから、樹脂組成物の溶液又は分散液を噴霧し、静電気力によりプラスチックフィルムに付着させる方法を記載している。しかし、噴射ノズルからサブミクロンオーダーの帯電微粒子を発生させることはできないので、この方法では薄膜を形成することができない。
【0004】
【特許文献1】特開2005-281679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って本発明の目的は、水、水溶液又は水分散液の帯電微粒子を衝突させることによりフィルムの表面を改質する低コストな方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、水、水溶液又は水分散液の帯電微粒子を電場によりフィルムに衝突させると、水、水溶液又は水分散液の分子がフィルム表面に強固に付着することを発見し、本発明に想到した。
【0007】
すなわち、フィルムの表面を改質する本発明の方法は、前記フィルムと水、水溶液又は水分散液との間に電位差を設け、水、水溶液又は水分散液を超音波振動させて帯電微粒子を発生させ、前記フィルムに衝突させることにより、前記帯電微粒子を前記フィルムに付着させることを特徴とする。
【0008】
フィルムの表面を改質する本発明の装置は、前記フィルムを搬送するロールと、水、水溶液又は水分散液を収容するとともに超音波振動子を浸漬させた容器と、前記フィルムと水、水溶液又は水分散液との間に電位差を設ける手段とを具備し、もって水、水溶液又は水分散液の超音波振動により発生した帯電微粒子が前記ロール上の前記フィルムに衝突することにより付着することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
水、水溶液又は水分散液の帯電微粒子を電場中でプラスチック等のフィルム表面に衝突させることにより、大気中でも帯電微粒子をフィルム表面に強固に付着させることができる。これにより、帯電微粒子はあたかも蒸着されたようにフィルム表面に付着する。得られた表面改質フィルムは、微粒子の成分に応じて優れた接着性、耐汚染性、易剥離性、反射防止性、防曇性等を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[1] フィルム
表面改質するフィルムは、プラスチックフィルム、金属フィルム、及び金属薄膜を有するプラスチックフィルムのいずれでもよい。プラスチックフィルムは限定的ではなく、例えばポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリ塩化ビニル等からなるものを使用できる。金属フィルムも限定的ではなく、例えばアルミニウム、銅、ステンレススチール等からなるものを使用できる。金属薄膜はアルミニウム、銅等の蒸着又はめっきにより形成することができる。水等の帯電微粒子を強固に付着させるために、フィルム表面に親水性樹脂(例えばポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体)等のプライマー層を設けてもよい。
【0011】
帯電微粒子を強固に付着させるために、プラスチックフィルムの表面にコロナ放電処理又はプラズマ放電処理により水酸基、カルボキシル基等の極性官能基を形成しておいてもよい。またフィルムに多数の微細な線状痕及び/又は穴を形成しておいてもよい。線状痕の深さはフィルムの厚さの1〜40%であるのが好ましく、平均幅は1〜10μmが好ましく、平均間隔は1〜100μmが好ましい。線状痕は、例えばWO2003/091003号に記載されている方法により形成することができる。微細穴の平均開口径は0.5〜20μmが好ましく、平均密度は500個/cm2以上が好ましい。
【0012】
[2] 水、水溶液又は水分散液
水溶液又は水分散液に含有させる物質は樹脂、金属微粒子、無機微粒子、無機塩等であり、用途に応じて適宜選択する。樹脂は、プラスチックフィルム又はプライマー層の樹脂と同じであるのが好ましい。無機微粒子は金属酸化物、カーボン、ダイヤモンド等からなる。無機微粒子はコロイド状であるのが好ましい。水溶液及び水分散液の粘度は超音波振動子で霧化可能である限り制限されない。
【0013】
[3] フィルムの表面改質
図1〜3はフィルムの表面改質装置の一例を示す。この装置は、フィルム10aの巻出機1aと、フィルム10aを帯電させる誘電体(プラスチック又はセラミックス)からなるロール2と、ロール2の内部に配置された電極2aと、ロール2の下側に配置された水、水溶液又は水分散液(以下単に水等という)4を入れた容器5と、容器5内で水等4に浸漬された電極5a及び複数の超音波振動子6と、ロール2及び容器5を覆うカバー7と、フィルム10aと水等4との間に電位差を設けるために電極3及び電極5aに接続した直流電源8と、乾燥炉9と、表面改質したフィルム10bの巻取機1bとを有する。
【0014】
ロール2用のプラスチックは耐食性に優れたポリ塩化ビニル及びフッ素樹脂が好ましい。ロール2の周速は10〜500 m/分が好ましく、10〜300 m/分がより好ましい。
【0015】
超音波振動子6の振動数は1〜10 MHzであるのが好ましい。極力小さな帯電微粒子4aを発生させるため、図4に例示するように複数の超音波振動子6を用いるのが好ましい。水等4は室温でよいが、必要に応じて加熱してもよい。
【0016】
電極3と電極5aとの間に直流電圧(この例では、電極3にマイナス電圧、電極5aにプラス電圧)を印加すると、ロール2に接するフィルム10aは水等4と逆極性に帯電する。サブミクロンオーダーの帯電微粒子4aを得るために、ロール2と水等4との間隔Dは電界強度が200〜1,200 V/mmとなるように設定するのが好ましく、300〜1,000 V/mmがより好ましい。間隔Dは3〜10 cmとするのが好ましい。
【0017】
この状態で水等4を超音波振動子6で振動させると、帯電した水等4の帯電微粒子4aが発生する。90%以上の帯電微粒子4aの粒子径は好ましくは1μm以下であり、より好ましくは500 nm以下であり、例えば1〜100 nmである。帯電微粒子4aの粒子径は、微分型電気移動度分析器を用いて計測した電気移動度からストークスの法則により求めることができる。電場中での超音波振動により、水等4の粒子はレイリー分裂により微細化すると考えられる。
【0018】
帯電微粒子4aは水等4とフィルム10aとの間の電場を高速で移動し、フィルム10aの表面に衝突する。衝突により帯電微粒子4aはさらに微細化すると考えられる。帯電微粒子4aの微細化はフィルム10aの表面への強固な付着に寄与していると考えられる。電場を除去した後でもフィルム10aの表面改質は失われないので、帯電微粒子4aはフィルム10aの表面に化学的に結合しているものと推測される。乾燥炉9での乾燥により、表面改質フィルム10bに吸着しただけの水を除去する。
【0019】
誘電体製ロール2の代わりにステンレススチール等の金属製ロールを用いても良い。その場合、金属製ロールに電極2aを接触させる。金属製ロールをプラスチック、セラミックス等の誘電体でコーティングしても良い。この例では水等4が正に帯電し、フィルム10aが負に帯電するが、逆でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のフィルムの表面改質装置の一例を示す概略図である。
【図2】図1の表面改質装置の要部を示す部分拡大断面図である。
【図3】容器中の超音波振動子の配置の一例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0021】
1a・・・巻出機
1b・・・巻取機
2・・・ロール
2a・・・電極
4・・・水等
4a・・・帯電微粒子
5・・・容器
5a・・・電極
6・・・超音波振動子
7・・・カバー
8・・・直流電源
9・・・乾燥炉
10a・・・フィルム
10b・・・表面改質フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムの表面を改質する方法であって、前記フィルムと水、水溶液又は水分散液との間に電位差を設け、水、水溶液又は水分散液を超音波振動させて帯電微粒子を発生させ、前記フィルムに衝突させることにより、前記帯電微粒子を前記フィルムに付着させることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載のフィルムの表面改質方法において、前記帯電微粒子の90%以上が1μm以下の粒子径を有することを特徴とするフィルムの表面改質方法。
【請求項3】
フィルムの表面を改質する装置であって、前記フィルムを搬送するロールと、水、水溶液又は水分散液を収容するとともに超音波振動子を浸漬させた容器と、前記フィルムと水、水溶液又は水分散液との間に電位差を設ける手段とを具備し、もって水、水溶液又は水分散液の超音波振動により発生した帯電微粒子が前記ロール上の前記フィルムに衝突することにより付着することを特徴とする装置。
【請求項4】
請求項3に記載のフィルムの表面改質装置において、前記帯電微粒子の90%以上が1μm以下の粒子径を有することを特徴とするフィルムの表面改質装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のフィルムの表面改質装置において、前記容器内に複数の超音波振動子が浸漬していることを特徴とするフィルムの表面改質装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−95599(P2010−95599A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266913(P2008−266913)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(391009408)
【Fターム(参考)】