説明

フィルムコンデンサの製造方法及びフィルムコンデンサ

【課題】封止成形体の耐衝撃性や信頼性に優れるとともに、静電容量の変動も十分に抑制することができるフィルムコンデンサの製造方法を提供する。
【解決手段】金型内にフィルムコンデンサ素子を設置した後、金型を閉じ、フィラー充填量40〜85質量%、DSC測定での反応開始温度が90℃〜120℃の液状エポキシ樹脂組成物を金型内に注入し、樹脂を硬化させる射出成型法により製造することを特徴とするフィルムコンデンサの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフィルムコンデンサの製造方法及びフィルムコンデンサに関し、液状のエポキシ樹脂を用いて射出成型したフィルムコンデンサの製造方法及び該方法によって得られる静電容量の変化率が小さく、耐衝撃性、外観に優れたフィルムコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のフィルムコンデンサの製造方法は、箔タイプ、メタライズタイプ共に、まずフィルムを巻き取ってフィルムコンデンサ素子を形成した後、このフィルムコンデンサ素子に対して熱プレスを行いフィルム間の間隔を狭めて容量の増加を図り、さらにエポキシ樹脂で樹脂ディップを、真空引きにてフィルムコンデンサ素子内部の空気を樹脂と置換しながら行いフィルム間に樹脂を含浸させる方法(特許文献1)が一般的であった。
【0003】
その後、フィルムコンデンサ素子を収納可能なキャビティ凹部を有する射出成形金型を設け、フィルムコンデンサ素子をキャビティ凹部に収納し、射出成形金型を型締めしてフィルムコンデンサ素子を被包するキャビティを形成後、該キャビティ内にポリフェニレンスルフィド樹脂を射出し、キャビティ内に収納されたフィルムコンデンサ素子を樹脂封止してフィルムコンデンサ素子の外被を形成すると共に、フィルムコンデンサ素子の巻回されたフィルム間に樹脂を含浸する方法(特許文献2)も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平5−77324号公報
【特許文献2】特開平7−161578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前者の方法では、容量を増加させるために熱プレスを行っているが、この処理によりフィルムコンデンサ素子を形成するフィルムに熱ストレスや加圧ストレスが加わりフィルムが劣化して、静電容量の安定性や耐衝撃性の低下を招くという問題がある。
【0006】
また、後者の方法に至ってはPPS(ポリフェニレンスルフィド)の射出成形では100〜250kg重/cmと高圧で、かつ、300℃と高温な条件が必要であるため、フィルムコンデンサ素子の破損する可能性を防止するために、本封止の前に予備封止を要する等の問題があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、コンデンサ特性、とりわけ静電容量の安定性が良好で、外観上良好でボイドの発生もなく、耐衝撃性、信頼性に優れたフィルムコンデンサ及びそのようなフィルムコンデンサを簡便な方法で、かつ、歩留りよく得ることのできるフィルムコンデンサの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、フィルムコンデンサの製造について研究を重ねた結果、特定の樹脂組成物を用いることにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明のフィルムコンデンサの製造方法は、金型内にフィルムコンデンサ素子を設置した後、金型を閉じ、射出成型方法によって、前記金型内に樹脂組成物を注入し、該樹脂組成物を硬化させるフィルムコンデンサの製造方法であって、前記樹脂組成物が、フィラー充填量が40〜85質量%であり、示差走査熱量測定(DSC)での反応開始温度が80℃〜120℃の液状エポキシであることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明のフィルムコンデンサは、本発明のフィルムコンデンサの製造方法で製造されたフィルムコンデンサである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るフィルムコンデンサの製造方法を用いると、熱硬化性樹脂による成形体自体がケースとしての性能を発揮するので、封止、ケース成形を一括してでき、製造工数を削滅することができる。その結果、製造コスト低下に寄与できる。
【0012】
さらに本発明の製造方法によれば、熱プレス工程を省略できることから、フィルムコンデンサ素子の劣化が防止でき静電容量の安定性が良好で、かつ、耐衝撃性、信頼性に優れ、その上外観の優れたフィルムコンデンサが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のフィルムコンデンサの製造方法を説明する図である。
【図2】本発明のフィルムコンデンサの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のフィルムコンデンサの製造方法及びフィルムコンデンサについて、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明はそれらの図面により何ら限定されるものではない。
【0015】
図1は、本発明のフィルムコンデンサの製造方法を説明する図である。ここで、フィルムコンデンサの製造に用いる金型は下金型1と上金型2とから構成され、この金型には下金型1及び上金型2にそれぞれ凹部が形成されており、この凹部がキャビティとなっている。このキャビティに溶融した樹脂組成物を用いて射出成型を行い、フィルムコンデンサを製造する。
【0016】
まず、図1(a)に示したように、所定形状の凹部を有し温度制御がなされた下金型1の凹部内にフィルムコンデンサ素子3を配置し、その上に液状エポキシ樹脂組成物4の射出ノズル5を有する上金型2を被せ、下金型1との接合部を気密にシールするとともに、下金型1と上金型2とで形成されるキャビティ内を真空ポンプ等(図示を省略)により減圧吸引し、10Torrまで達せしめる。ここで、射出ノズル5は、先端部5cが上金型2に設けられた樹脂をキャビティへ導入するためのスプルー2aに接続されており、ノズル全体が上下に昇降可能に構成されている。また、ノズル本管5a内に同心的に配設されたプランジャ5bを上昇および下降させることで、ノズル先端部5cを開放および閉塞することができるようになっている。
【0017】
そして、図1(b)に示したように、キャビティ内が一定の減圧度に保たれたら、射出ノズル5の先端部5cを開き、液状のエポキシ樹脂組成物4を、下金型1と上金型2との間のキャビティ内に射出する。射出によりキャビティ内を液状のエポキシ樹脂組成物4で充填した後、下金型1及び上金型2を適当な温度に加熱して硬化させると共にフィルムコンデンサ素子3の電極端子3aは、上金型2と下金型1との間で隙間なく扶持される。
【0018】
硬化が完了したら、下金型1と上金型2を型開きして、成形品であるフィルムコンデンサを取出す。ここで得られるフィルムコンデンサ11は、例えば、図2に示したように、フィルムコンデンサ素子3が液状のエポキシ樹脂組成物の硬化物12で覆われて保護された構成となっており、電極3aは、その端部が硬化物12の外に突出して、他の機器等と接続できるようになっている。
【0019】
ここで、フィルムコンデンサ素子3は、フィルムと電極箔を巻回して形成されたコンデンサであり、金属製の電極3aをその上下面から平行に、コンデンサ本体に対して逆方向に伸びるように突出している。図示したフィルムコンデンサ素子3は、一例であり、本発明におけるフィルムコンデンサ素子3としては、公知のフィルムコンデンサ素子であれば、特に限定せずに用いることができる。
【0020】
このように射出成型を用いた本発明の製造方法においては、フィルムコンデンサ3への液状エポキシ樹脂組成物4の供給と封止成形とを続けて効率的に行うことができ、未充填部やボイドがなく、かつ、外観が良好な封止成形体を得ることができる。
【0021】
上記のように熱硬化性樹脂を用いる場合、射出温度を低温に設定した後、高温の金型へ充填して硬化させることが好ましい。
【0022】
射出充填の条件としては、射出温度は50〜70℃が好ましい。50℃未満であると流動性が悪くなる。一方、70℃より大きいと、射出ノズル内で一部硬化反応が進行する点で好ましくない。充填速度は0.2〜5.0L/minであることが好ましい。0.2L/min未満であると生産性の観点から好ましくない。一方、5.0L/minであると封止成形体に樹脂巻き込みボイドが発生する可能性があり好ましくない。
【0023】
加圧条件としては、0.2〜10MPaであることが好ましい。0.2MPa未満であると、未充填部分やボイドが生じる。一方、10MPaより大きいと、フィルムコンデンサ素子の破損が生じる。
【0024】
なお、射出ノズル等は樹脂を維持する所望の温度まで樹脂を加温できるヒータ等の加温手段を装着していてもよい。
【0025】
樹脂組成物の加熱硬化は90〜110℃で5〜25分程度行うのが好ましい。この範囲内であると硬化反応が緩慢に進行し、フィルムコンデンサ素子の空隙に樹脂組成物が均一に含浸充填される。
【0026】
金型の温度としては90〜120℃が好ましい。90℃以下では硬化不足が生じる。一方、120℃より大きいとフィルムコンデンサ素子が熱により破損してしまう。下金型1と上金型2は、ステンレス鋼等の耐熱性及び耐食性を有する金属からなるものが好ましい。
【0027】
さらに成形型から取り出して必要に応じて後硬化させることが好ましく、例えば、100℃、2時間の条件下で行われる。
【0028】
次に、本発明のフィルムコンデンサの製造方法で使用する液状のエポキシ樹脂組成物について詳細に説明する。
【0029】
本発明の主題は、安定した静電容量を示し、耐衝撃性、信頼性に優れ、かつ、外観が良好なフィルムコンデンサを提供することにある。本発明者らは、フィラーを40〜85質量%含有しており、かつ、樹脂組成物の示差走査熱量測定(DSC)での反応開始温度が80〜120℃の液状エポキシ樹脂組成物を使用し、この樹脂組成物によってフィルムコンデンサ素子の周りを封止成形することで、上記特性を満足するフィルムコンデンサが得られることを見出したものである。
【0030】
ここで、本発明で用いる液状のエポキシ樹脂組成物は、(a)エポキシ基を有する液状のエポキシ樹脂と、(b)酸無水物硬化剤と、(c)硬化促進剤と、(d)フィラーと、を含有して構成され、必要に応じてその他添加剤を配合してなる。
【0031】
ここで、(a)エポキシ基を有する液状のエポキシ樹脂としては、1分子あたり1つより多くのエポキシ基を有するものであり、1分子あたり2個のエポキシ基を有するものであることが好ましい。このようなエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルエーテル等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0032】
なかでも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とグリシジルエーテルとの併用が特に好ましい。グリシジルエーテルの配合量としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂100重量部に対して10〜40重量部、より好ましくは15〜35重量部が好ましい。
【0033】
10重量部未満では粘度が低下せず、その結果、含浸性が良好とならない。40重量部を超えて配合した場合には硬化物の耐熱性が低下し目的とする硬化物特性が得られない。
【0034】
(b)酸無水物硬化剤としては、エポキシ樹脂の硬化剤として公知の酸無水物硬化剤であればよく、この酸無水物硬化剤の具体例としては、テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物等が挙げられる。
【0035】
この(b)酸無水物硬化剤の配合量は、エポキシ樹脂及びグリシジルエーテルのエポキシ当量に対して0.7〜1.3倍の当量が好ましい。この範囲外で配合した場合には耐衝撃性、信頼性が低下してしまい好ましくない。
【0036】
(c)硬化促進剤としては、特に制限はなく、従来エポキシ樹脂の硬化促進剤として使用されているものの中から、任意のものを適宜選択して用いることができる。
【0037】
例えば、芳香族ジメチルウレア、脂肪族ジメチルウレア、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア(DCMU)、3−(3−クロロ−4−メチルフェニル)−1,1−ジメチルウレア、2,4−ビス(3,3−ジメチルウレイド)トルエン等のウレア類、ベンジルジメチルアミン、1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7、トリエチルアミン等の第3級アミン系化合物、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール化合物、トリフェニルホスフィン塩等の有機ホスフィン塩化合物が挙げられる。これらの硬化促進剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
この(c)硬化促進剤の使用量は、硬化促進性及び硬化樹脂物性のバランスなどの点から、(a)成分のエポキシ樹脂100質量部に対し、通常0.1〜10質量部程度、好ましくは0.4〜5質量部の範囲で選定される。
【0039】
(d)フィラーは、樹脂組成物中に配合されるフィラーであれば特に限定されるものではなく、例えば、シリカ、アルミナ、窒化珪素、窒化硼素、マグネシア、ベーマイト、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、タルク等が挙げられる。これらのフィラーは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。一般には、シリカ粉末が使用され、特に、球状シリカ粉末と、アスペクト比が5以上の針状、燐片状又は板状フィラーとの併用が好ましい。
【0040】
ここで、(d)フィラーは、樹脂組成物中に40〜85質量%含有するものである。フィラー量が、40質量%以下であると硬化物収縮によるフィルムコンデンサ素子や電極などの構造体の歪み、破損が発生しやすくなり、一方、85質量%以上であると射出時の流動性が低下し、未充填箇所が発生したりするため好ましくない。前記範囲内であると硬化物の耐熱衝撃性、機械的強度、難燃性が良好となる。
【0041】
この(d)フィラー中に、アスペクト比が5以上の針状、燐片状及び板状フィラーから選択される少なくとも1種を併用する場合には、樹脂組成物中に5〜20重量%含有することが好ましく、残りはシリカ粉末とすることが好ましい。
【0042】
その使用可能なアスペクト比の範囲は、硬化物の要求特性に従いアスペクト比を設定することができるが、アスペクト比が5以上のものが好適である。アスペクト比が5以上のフィラーを上記含有率で添加することにより、フィラーが塊状にならず、硬化物中に均一に分散でき、耐熱衝撃性が良好となり、高強度の成形体とすることができる。
【0043】
アスペクト比が5以上の針状、燐片状、または板状フィラーとしては、とりわけマグネシアウィスカーやべーマイトが好ましい。マグネシアウィスカーは硬化物の補強性に優れ、ベーマイトは液状エポキシ樹脂組成物の成形温度よりも高い温度で水和水の放出が可能な難燃剤である点で特に好ましい。
【0044】
なお、この液状のエポキシ樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、カップリング剤(例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等)、離型剤(例えば、合成ワックス、天然ワックス、直鎖脂肪族の金属塩、酸アミド、エステル類等)、着色剤(例えば、カーボンブラック、コバルトブルー等)、低応力付与剤(例えば、シリコーンオイル、シリコーンゴム等)、消泡剤等がさらに配合されていてもよい。
【0045】
上記のような配合からなる本発明の液状のエポキシ樹脂組成物は、示差走査熱量測定(DSC)での反応開始温度が80〜120℃の液状エポキシ樹脂組成物が必須の要件である。ここで、示差走査熱量測定(DSC)における反応開始温度は、硬化前の樹脂の反応開始温度をDSC測定機(セイコーインスツルメンツ社製)を用いて10℃/minで昇温させたときに得られるDSC曲線から、発熱量がピークの半分となる温度における接線とベースラインとの交点の温度を反応開始温度とする。
【0046】
この示差走査熱量測定(DSC)が、80℃以下であると射出ノズル、スプルー等に硬化物が付着し、該部分に目詰まりが発生してしまう。また、120℃以上であると硬化不良により製品特性が悪化するので好ましくない。
【0047】
さらに、この液状エポキシ樹脂組成物は、100℃でのゲルタイムが5〜30分であることが好ましい。このゲルタイムが、5分以下であると硬化物にボイドが発生しやすくなり、30分以上であると硬化物の形状の保持性が悪くなる。
【0048】
樹脂組成物を12個のフィルムコンデンサ素子(60mm×35mm、厚さ60mm)が配置されたキャビティ内に前記条件によって注入、次いで硬化させる射出成形法により、コンデンサ装置(200mm×250mm、厚さ70mm)を製造することができる。
【0049】
このような製造方法においては、下金型内に保持されたフィルムコンデンサ素子3へ一定の減圧下で上部に射出機構を有する上金型を用いて、液状エポキシ樹脂組成物の供給と封止成形とを続けて効率的に行うことができ、未充填部やボイドがない外観が良好なコンデンサ装置を得ることができ、さらに静電容量の安定性、耐衝撃性、信頼性のいずれの諸特性においても優れている。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
(実施例1〜8及び比較例1〜5)
表1及び表2に示す配合組成(質量部)の各原料を均一に撹拌混合して液状のエポキシ樹脂組成物を調製した。
【0052】
次いで、下金型1の凹部にフィルムコンデンサ素子3を収容し、上金型2を合わせ、先に調整した液状のエポキシ樹脂組成物4を図1の射出ノズル5のノズル本管5a内に導入し、下金型1と上金型2との間のキャビティ内を真空ポンプにて10Torrまで達せしめた。次いで、プランジャ5bを上昇させ、キャビティ内に充填速度0.5L/min、射出温度60℃で樹脂組成物を射出充填した後、0.5MPa下、下金型1及び上金型2を加熱し、100℃で20分の条件により樹脂組成物を加熱硬化させると共にフィルムコンデンサ素子3の電極端子3aは、上金型2と下型部1との間で隙間なく挟持した。その後、金型を開放して(成形型から硬化物を取り出して)100℃、2時間の条件下で後硬化を行い、フィルムコンデンサを製造した。各例における諸特性の評価結果を表1及び表2に併せて示した。
【0053】
なお、使用した各原料成分は以下の通りである。
[液状エポキシ樹脂]
(1)R140P(三井化学社製のビスフェノールA型エポキシ樹脂、商品名;エポキシ当量 188)
(2)SR−16H(阪本薬品社製のグリシジルエーテル、商品名;エポキシ当量 157)
[酸無水物]
HN2000(日立化成社製のメチルテトラヒドロ無水フタル酸、商品名;酸無水物当量 166)
[硬化剤]
D230(三井化学ファイン社製のポリオキシプロピレンジアミン、商品名)
[消泡剤]
TSA720(モメンテイブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製、商品名)
[シランカップリング剤]
A−187(日本ユニカー社製の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、商品名)
【0054】
[フィラー]
(1)HS−106(マイクロン社製の球状溶融シリカ、商品名;球状、アスペクト比 1.5)
(2)RD−8(TATUMORI社製の破砕シリカ、商品名;不定形、アスペクト比 2)
(3)Talc SSS(日本タルク社製の板状タルク、商品名;板状、アスペクト比 3)
(4)モスハイジ(宇部マテリアルズ社製のマグネシアウィスカー、商品名;針状、アスペクト比 30)
(5)BMT(河合石灰工業社製の板状ベーマイト、商品名;板状、アスペクト比 5−15)
(6)BMF(河合石灰工業社製の燐片状ベーマイト、商品名;燐片状、アスペクト比 40−50)
[触媒]
(1)2E4MZ(四国化成社製のイミダゾール、商品名)
(2)U−CAT2313(サンアプロ社製のアミン、商品名)
(3)Px−4MP(日本化学工業社製の有機ホスフォニウム塩、商品名)
(4)BDMA(花王社製の三級アミン、商品名)
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
<樹脂組成物>
(1)反応開始温度
硬化前の樹脂の反応開始温度をDSC測定機(セイコーインスツルメンツ社製)において10℃/minで昇温させたときに得られるDSC曲線において、発熱量がピークの半分となる温度における接線とベースラインとの交点の温度を反応開始温度とした。
(2)ゲルタイム
JIS C 2105の試験管法に準拠して、硬化前の樹脂を試験管中に10g量り取り、100℃のオイルバス中にて樹脂組成物がゲルになるまでの時間を測定した。
【0058】
<硬化物>
(3)ガラス転移点
樹脂組成物を100℃、5時間の条件で硬化させて作製した試料について、TMA/SS150(セイコーインスツルメンツ社製)により、室温から200℃まで昇温して(昇温スピード 10℃/分)、熱膨張曲線を測定し、変位点の中点から求めた。
(4)静電容量
成型後のフィルムコンデンサにおいて、デジタルマルチメーターPC720M(三和電気計器社製)により初期特性としての静電容量を測定し、成形前のコンデンサの容量値に対して、以下の基準で評価した。
○:95%以上の静電容量値
×:95%未満の静電容量値
(5)ボイド
成型後のフィルムコンデンサを任意に切断し、切断面におけるボイドの有無を目視で確認し、以下の基準で評価した。
○:ボイド有り
×:ボイドなし
【0059】
(6)冷熱サイクル試験
成型後のフィルムコンデンサにおいて気相で、−40℃と115℃との温度による冷熱サイクル試験を各5分で行い、1000サイクル前後の静電容量の変化率から、以下の基準で評価した。
○:変化率5%未満
×:変化率5%以上
(7)耐衝撃試験
最大100G×3回(3方向)圧力を与えたのち、クラック・割れ・かけ等を確認し、以下の基準で評価した。
○:クラック、割れ、かけ発生なし
△:一部クラックあり
×:クラック、割れ、かけ発生
【0060】
表1から明らかなように、実施例1〜8において、DSC測定での反応開始温度が80℃〜120℃の液状エポキシ樹脂組成物を用いることで、初期の静電容量と、冷熱サイクル試験後の静電容量の変化、すなわち静電容量の変化率が小さく、耐衝撃性も有し、さらに外観の良好な封止成形体を得ることができた。
【0061】
これに対し、表2に示したように、反応開始温度が前記範囲外である比較例1および2では、静電容量の変化率が大きかった。また、フィラー充填量が40重量%以下の比較例3では、耐衝撃性も悪く、静電容量の変化率が大きかった。
【符号の説明】
【0062】
1…下金型、2…上金型、3…フィルムコンデンサ素子、4…液状のエポキシ樹脂組成物、5…射出ノズル、11…フィルムコンデンサ、12…硬化物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型内にフィルムコンデンサ素子を設置した後、金型を閉じ、射出成型方法によって、前記金型内に樹脂組成物を注入し、該樹脂組成物を加熱硬化させるフィルムコンデンサの製造方法であって、
前記樹脂組成物が、フィラー含有量が40〜85質量%であり、示差走査熱量測定(DSC)での反応開始温度が80℃〜120℃の液状のエポキシ樹脂組成物であることを特徴とするフィルムコンデンサの製造方法。
【請求項2】
前記液状のエポキシ樹脂組成物が、(a)1分子あたり1つより多くのエポキシ基を有するエポキシ樹脂と、(b)酸無水物硬化剤と、(c)硬化促進剤と、(d)フィラーと、を含有するものであって、100℃での試験管法ゲルタイムが5〜30分であることを特徴とする請求項1記載のフィルムコンデンサの製造方法。
【請求項3】
前記(c)硬化促進剤が、アミン類、イミダゾール化合物類及び有機ホスフォニウム塩類から選択される少なくとも1種を含有するものであり、前記(d)フィラーが、アスペクト比が5以上の針状、燐片状及び板状フィラーから選択される少なくとも1種を、樹脂組成物中に5〜20質量%含有するものであって、かつ、全フィラー充填量が樹脂組成物中に40〜85質量%含有するものである、ことを特徴とする請求項1又は2記載のフィルムコンデンサの製造方法。
【請求項4】
前記加熱硬化を90〜110℃で5〜25分行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のフィルムコンデンサの製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項記載のフィルムコンデンサの製造方法で製造されたフィルムコンデンサ。

【図1】
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【図2】
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