説明

フィルムコンデンサ素子の製造方法およびその製造装置

【課題】フィルムがロール状に積層された構造から成るフィルムコンデンサ素子の絶縁抵抗値を充分に高めることができる製造方法および製造装置を提供すること。
【解決手段】フィルムコンデンサ素子Cの製造方法は、ロール状に積層されているフィルム間の空気に含まれる水分を取り除く水分除去工程を有している。この水分除去工程は、フィルムコンデンサ素子Cを所定の温度に昇温させる第1の工程と、第1の工程において昇温させたフィルムコンデンサ素子Cを真空乾燥させる第2の工程と、第1の工程において昇温させたフィルムコンデンサ素子Cをプレスする第3の工程を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムコンデンサ素子の製造方法およびその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フィルムがロール状に積層された構造から成るフィルムコンデンサ素子の製造工程において、この積層されているフィルム間の空気に含まれる水分(以下、単に「フィルム内の水分」と記す)を取り除く水分除去工程を有するフィルムコンデンサ素子の製造方法が既に知られている。ここで、下記特許文献1には、熱プレスによって、フィルム内の水分を取り除く技術が開示されている。これにより、フィルムコンデンサ素子の耐湿性を向上させることができるため、フィルムコンデンサ素子の絶縁抵抗値を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−21411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した熱プレスでは、フィルム内の水分を充分に取り除くことができなかった。したがって、フィルムコンデンサ素子の耐湿性を充分に向上させることができず、フィルムコンデンサ素子の絶縁抵抗値を充分に高めることができないという問題が発生していた。
【0005】
本発明は、このような課題を解決しようとするもので、その目的は、フィルムがロール状に積層された構造から成るフィルムコンデンサ素子の絶縁抵抗値を充分に高めることができる製造方法および製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の目的を達成するためのものであって、以下のように構成されている。
請求項1に記載の発明は、ロール状に積層されているフィルム間の空気に含まれる水分を取り除く水分除去工程を有するフィルムコンデンサ素子の製造方法であって、前記水分除去工程は、前記フィルムコンデンサ素子を所定の温度に昇温させる第1の工程と、前記第1の工程において昇温させた前記フィルムコンデンサ素子を真空乾燥させる第2の工程と、前記第1の工程において昇温させたフィルムコンデンサ素子をプレスする第3の工程を備えていることを特徴とする製造方法である。
この製造方法によれば、フィルムコンデンサ素子に対して真空乾燥を施すことができる(第2の工程)。そのため、フィルムコンデンサ素子において、フィルム内の水分を気化により取り除くことができる。このとき、真空乾燥を施す前に、フィルムコンデンサ素子を昇温させている(第1の工程)。そのため、フィルムコンデンサ素子そのものの熱によって、気化した水分が氷になることを防止できる。したがって、フィルム内の水分を気化により充分に取り除くことができる。結果として、フィルムコンデンサ素子の耐湿性を充分に向上させることができるため、フィルムコンデンサ素子の絶縁抵抗値を充分に高めることができる。また、フィルムコンデンサ素子に対してプレスを施すことができる(第3の工程)。このとき、プレスを施す前に、フィルムコンデンサ素子を昇温させている(第1の工程)。そのため、フィルムコンデンサ素子Cをプレスによって変形させ易い。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のフィルムコンデンサ素子の製造方法であって、前記第2の工程と前記第3の工程とは、前記フィルムコンデンサ素子を移動させることなく行われていることを特徴とする製造方法である。
この製造方法によれば、フィルムコンデンサ素子に対する真空乾燥を施す作業とプレスを施す作業とは、同じ場所で行われている。そのため、これら両作業の間で、フィルムコンデンサ素子を移動させるための手間、時間等を省略できる。したがって、これら両作業を異なる場所で行う場合と比較すると、これらの作業の効率性を高めることができる。
【0008】
また、請求項3に記載の発明は、ロール状に積層されているフィルム間の空気に含まれる水分を取り除く水分除去手段を有するフィルムコンデンサ素子の製造装置であって、前記フィルム除去手段は、前記フィルムコンデンサ素子を所定の温度に昇温させる恒温槽と、前記フィルムコンデンサ素子を真空乾燥させる真空槽と、前記フィルムコンデンサ素子をプレスするプレス機と、から構成されていることを特徴とする製造装置である。
この製造装置によれば、請求項1と同様の作用効果を得ることができる。
【0009】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のフィルムコンデンサ素子の製造装置であって、前記プレス機は、前記真空槽の内部に配置されていることを特徴とする製造装置である。
この製造装置によれば、請求項2と同様の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の実施例に係るフィルムコンデンサ素子の製造装置の全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を、図1を用いて説明する。まず、フィルムコンデンサ素子の製造装置1の構成から説明する。このフィルムコンデンサ素子の製造装置1は、恒温槽2と、真空槽3とから構成されている。以下に、これら恒温槽2と真空槽3とを個別に説明していく。
【0012】
はじめに、恒温槽2から説明していく。恒温槽2は、ケース状に形成されたケーシング10と、このケーシング10内部に設けられた運搬冶具12と、この運搬冶具12にフィルムコンデンサ素子Cを送り込むための入口置場14と、この運搬冶具12からフィルムコンデンサ素子Cを取り出すための出口置場16とから構成されている。なお、この運搬冶具12に送り込まれるフィルムコンデンサ素子Cは、入口置場14に送り込まれる前の上流工程(PPから形成されているフィルムの切断工程、蒸着工程、フィルムの積層工程など)において、フィルムをロール状に積層して円状に成形されている。
【0013】
ケーシング10には、その外部と後述する入口置場14とを遮蔽可能な入口扉14aと、その外部と後述する出口置場16とを遮蔽可能な出口扉16aとが設けられている。これにより、入口置場14および出口置場16とに対してフィルムコンデンサ素子Cを出し入れするときのみ、ケーシング10を開放できる。そのため、後述する運搬冶具12からの熱がケーシング10から漏れることを抑制できる。
【0014】
運搬冶具12は、入口置場14に送り込まれたフィルムコンデンサ素子Cを出口置場16に送り込むまでに、所定の温度(例えば、80℃〜90℃)に昇温させることができるように構成されている。この入口置場14は、上述した上流工程から送り込まれたフィルムコンデンサ素子Cを運搬冶具12に送り込むことができるように構成されている。一方、出口置場16は、運搬冶具12で昇温させたフィルムコンデンサ素子Cを後述する真空槽3の入口置場20aへ送り込むことができるように構成されている。恒温槽2は、このように構成されている。
【0015】
次に、真空槽3を説明する。この真空槽3は、床フロア(図示しない)に組み付けられている架台20と、この架台20に組み付けられているケース状に形成されたケーシング22と、このケーシング22の内部に設けられているプレス機24とから構成されている。
【0016】
架台20の入口側の置き場である入口置場20aは、恒温槽2の出口置場16から送り込まれたフィルムコンデンサ素子Cを後述するプレス機24に送り込むことができるように構成されている。この入口置場20aには、隔壁20cが設けられている。これにより、運搬冶具12からの熱を遮蔽できる。
【0017】
一方、架台20の出口側の置き場である出口置場20bは、プレス機24でプレスされたフィルムコンデンサ素子Cを下流工程(図示しない、枠組みエージング工程)へ送り込むことができるように構成されている。この出口置場20bにも、隔壁20cが設けられている。これにより、昇温させたフィルムコンデンサ素子Cと作業者(図示しない)とが接触することを防止できる。
【0018】
ケーシング22には、その内部を真空状態(例えば、3kPa以下の状態)にできる公知の真空発生手段(例えば、図示しない、真空発生装置)が設けられている。また、ケーシング22には、その内部と入口置場20aとを遮蔽可能な入口扉26と、その内部と出口置場20bとを遮蔽可能な出口扉28とが設けられている。これにより、フィルムコンデンサ素子Cをプレス機24に出し入れするときのみ、ケーシング22を開放できる。そのため、真空状態にしたケーシング22の内部に空気が入り込むことを防止できる(真空の精度を高めることができる)。
【0019】
プレス機24は、入口置場20aから送り込まれたフィルムコンデンサ素子Cを円状から俵状に押し潰すことができる(プレスできる)ように構成されている。これにより、積層されているフィルム間の空気をフィルム間から押し出すことができる。真空槽3は、このように構成されている。
【0020】
これら恒温槽2と真空槽3とからフィルムコンデンサ素子の製造装置1は構成されている。なお、フィルムコンデンサ素子Cの各送り込みは、公知の押し出し手段(例えば、シリンダ等)によって行われている。
【0021】
次に、上述したフィルムコンデンサ素子の製造装置1の動作を説明する。まず、上流工程から入口扉14aを介して恒温槽2の入口置場14へフィルムコンデンサ素子Cを送り込む作業を行う。次に、送り込まれたフィルムコンデンサ素子Cを恒温槽2の入口置場14から運搬冶具12へ送り込む作業を行う。
【0022】
すると、送り込まれたフィルムコンデンサ素子Cは、昇温された後に、恒温槽2の出口置場16へ送り込まれる。この記載が、特許請求の範囲に記載の「第1の工程」に相当する。次に、送り込まれたフィルムコンデンサ素子Cを恒温槽2の出口置場16から出口扉16aを介して真空槽3の入口置場20aへ送り込む作業を行う。
【0023】
次に、送り込まれたフィルムコンデンサ素子Cを入口扉26を介してプレス機24の内部(プレス機24において、プレスが行われる位置)へ送り込む作業を行う。次に、真空発生手段を動作させてケーシング22の内部を真空状態にする作業を行う。これにより、フィルムコンデンサ素子Cに対して真空乾燥を施すことができる。この記載が、特許請求の範囲に記載の「第2の工程」に相当する。
【0024】
次に、真空乾燥を施したフィルムコンデンサ素子Cを円状から俵状に押し潰す作業(プレス機24を作動させる作業)を行う。この記載が、特許請求の範囲に記載の「第3の工程」に相当する。次に、押し潰したフィルムコンデンサ素子Cをプレス機24の内部から出口扉28を介して真空槽3の出口置場20bへ送り込む作業を行う。最後に、送り込まれたフィルムコンデンサ素子Cを真空槽3の出口置場20bから下流工程へ送り込む作業を行う。この一連の作業により、フィルムコンデンサ素子の製造装置1の1サイクルの動作が完了する。なお、この一連の作業は、図1からも明らかなように、順次行われている。
【0025】
本発明の実施例に係るフィルムコンデンサ素子の製造方法および製造装置1は、上述した製造方法および製造装置によって行われている。この製造方法および製造装置によれば、フィルムコンデンサ素子Cに対して真空乾燥を施すことができる(第2の工程)。そのため、フィルムコンデンサ素子Cにおいて、フィルム内の水分を気化により取り除くことができる。このとき、真空乾燥を施す前に、フィルムコンデンサ素子Cを昇温させている(第1の工程)。そのため、フィルムコンデンサ素子Cそのものの熱によって、気化した水分が氷になることを防止できる。したがって、フィルム内の水分を気化により充分に取り除くことができる。結果として、フィルムコンデンサ素子Cの耐湿性を充分に向上させることができるため、フィルムコンデンサ素子Cの絶縁抵抗値を充分に高めることができる。また、フィルムコンデンサ素子Cに対してプレスを施すことができる(第3の工程)。このとき、プレスを施す前に、フィルムコンデンサ素子Cを昇温させている(第1の工程)。そのため、フィルムコンデンサ素子Cをプレスによって変形させ易い。
【0026】
また、この製造方法および製造装置によれば、フィルムコンデンサ素子Cに対する真空乾燥を施す作業とプレスを施す作業とは、同じ場所(真空槽3の内部)で行われている。そのため、これら両作業の間で、フィルムコンデンサ素子Cを移動させるための手間、時間等を省略できる。したがって、これら両作業を異なる場所で行う場合と比較すると、これらの作業の効率性を高めることができる。
【0027】
上述した内容は、あくまでも本発明の一実施の形態に関するものであって、本発明が上記内容に限定されることを意味するものではない。
実施例では、フィルムコンデンサ素子Cに対して真空乾燥を施した後に、フィルムコンデンサ素子Cを押し潰す(プレスする)例を説明した。しかし、これに限定されるものでなく、フィルムコンデンサ素子Cに対して真空乾燥を施すと同時に、フィルムコンデンサ素子Cを押し潰しても構わない。また、フィルムコンデンサ素子Cを押し潰した後に、フィルムコンデンサ素子Cに対して真空乾燥を施しても構わない。
【0028】
また、実施例では、プレス機24において、フィルムコンデンサ素子Cを1個づつ押し潰す例を説明した。しかし、これに限定されるものでなく、フィルムコンデンサ素子Cを複数個同時に押し潰しても構わない。
【0029】
また、実施例では、フィルムコンデンサ素子Cのフィルムは、PPから形成されている例を説明した。しかし、これに限定されるものでなく、PVDF、蒸着重合の膜でも構わない。
【符号の説明】
【0030】
1 フィルムコンデンサ素子の製造装置
2 恒温槽
3 真空槽
C フィルムコンデンサ素子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロール状に積層されているフィルム間の空気に含まれる水分を取り除く水分除去工程を有するフィルムコンデンサ素子の製造方法であって、
前記水分除去工程は、
前記フィルムコンデンサ素子を所定の温度に昇温させる第1の工程と、
前記第1の工程において昇温させた前記フィルムコンデンサ素子を真空乾燥させる第2の工程と、
前記第1の工程において昇温させたフィルムコンデンサ素子をプレスする第3の工程を備えていることを特徴とするフィルムコンデンサ素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のフィルムコンデンサ素子の製造方法であって、
前記第2の工程と前記第3の工程とは、前記フィルムコンデンサ素子を移動させることなく行われていることを特徴とするフィルムコンデンサ素子の製造方法。
【請求項3】
ロール状に積層されているフィルム間の空気に含まれる水分を取り除く水分除去手段を有するフィルムコンデンサ素子の製造装置であって、
前記フィルム除去手段は、
前記フィルムコンデンサ素子を所定の温度に昇温させる恒温槽と、
前記フィルムコンデンサ素子を真空乾燥させる真空槽と、
前記フィルムコンデンサ素子をプレスするプレス機と、から構成されていることを特徴とするフィルムコンデンサ素子の製造装置。
【請求項4】
請求項3に記載のフィルムコンデンサ素子の製造装置であって、
前記プレス機は、前記真空槽の内部に配置されていることを特徴とするフィルムコンデンサ素子の製造装置。







【図1】
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【公開番号】特開2013−38252(P2013−38252A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173789(P2011−173789)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(308013436)小島プレス工業株式会社 (386)
【Fターム(参考)】