説明

フィルムコーティング層とフィルムコーティング製品及びその製造方法

【課題】フィルムコーティング層表面について、光沢があり、ヒビ割れが無く、優れた艶を有し、フィルムコーティング層の原料に由来する不要な着色が少なく、フィルムコーティング製品とした時の崩壊性に優れ、フィルムコーティング製品の製造に要する時間が短い、などの特徴を有する新しいフィルムコーティング層、フィルムコーティング製品およびそれらの製造方法を提供すること。
【解決手段】ワキシコーンスターチ由来のヒドロキシアルキル化デキストリン、マルチトール含有量が固形物換算で15.0重量%以上99.0重量%以下である糖アルコール組成物、HLB値が11〜14であるグリセリン脂肪酸エステル、以上の3成分を用いることにより達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワキシコーンスターチ由来のヒドロキシアルキル化デキストリン、マルチトール含有量が固形物換算で15.0重量%以上99.0重量%以下である糖アルコール組成物、HLB値が11〜14であるグリセリン脂肪酸エステル、の3成分を主成分とするフィルムコーティング層と、該フィルムコーティング層により芯材が被覆されたフィルムコーティング製品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルムコーティングとは、コーティングされるべき芯材や裸錠に対して、その表面に薄い膜状の物質を形成させるコーティング処理の一つであり、コーティングに用いられる素材に応じ、芯材や裸錠の表面の平滑化、耐水性の付与、欠けの防止、形状維持などの様々な目的で実施されている。
【0003】
例えば、菓子や食品素材や医薬品などを芯材とする糖衣掛け製品の製造では、糖衣部を美しく仕上げるために芯材の周囲を予め平滑にする目的で、フィルムコーティング処理が施されることがある。また、糖衣掛け製品の製造では、糖衣液と呼ばれる糖類や糖アルコール類を含有する水溶液が用いられるが、この糖衣液に含まれる水分の芯材や裸錠への影響を低減させる目的で、フィルムコーティング処理が施されることもある。
【0004】
上述で指摘した糖衣とは、糖類を主原料とした場合にはシュガーコーティング、糖アルコール類を主原料とした場合にはシュガーレスコーティングと称されることもあり、またその形状や品質により、噛んだ時にカリカリやパリパリといったクランチ性を伴うハード糖衣や硬質糖衣、あるいはソフトで軟らかい噛み心地となるソフト糖衣や軟質糖衣などと称されることがあるが、これら全ての意味を包含するものである。
【0005】
フィルムコーティングは、糖衣掛けの前処理として採用されることが多かったが、近年では、フィルムコーティングそのものの物性が改良されはじめており、上述の特徴を併せ持つフィルムコーティングを、芯材や裸錠の最終仕上げに採用する動きが増え始めている。具体的には、フィルム化剤としてトウモロコシ蛋白やシェラックなどを用いる方法の他、新たなフィルムコーティングに適用可能な素材や製造技術として、酵母細胞壁やヒドロキシプロピルメチルセルロースをフィルム化剤として使用する、特許文献1や特許文献2が提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、平均粒子径200〜1000μmの粒状のヒドロキシプロピルメチルセルロースおよび/またはメチルセルロースであり、粒子径75μm以下の粒子の濃度が30重量%以下であるコーティング基剤に対し、5〜30重量%の常温で液状の可塑剤および1〜30重量%の顔料が含まれていることを特徴とする速溶性コーティング剤組成物が、フィルムになる速溶性コーティング剤組成物として開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、酵素処理した酵母から可溶性菌体内成分を除去した菌体残さからなる酵母細胞壁画分を主成分とすることを特徴とするコーティング剤、及び該コーティング剤から形成されるコーティングフィルムについて開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開平9−59147号公報
【特許文献2】特開2000−44878号公報
【0009】
しかしながら、従来のフィルムコーティングを形成する素材の多くは、フィルムコーティングの形成に必要な成分が溶解したコーティング溶液とした時に、その粘度が高く取扱性が困難になり易いことや、所望のフィルムコーティング層が形成されるまでに時間を要してしまうことなどの問題がある。
【0010】
また、フィルムコーティングを形成する素材の中には、元々着色しているものや、製造過程において茶色、焦げ色、褐色などに着色し易いものなどがあり、フィルムコーティング製品とした時の見栄えが優れないことや、フィルムコーティング層への所望の着色が困難となることなどの問題がある。また、フィルムコーティング層の表面の艶について、従来の素材で得られるものでは必ずしも十分とは言えず、さらなる改良が求められている。
【0011】
また、従来のフィルムコーティングでは、水に不溶性あるいは難溶性の素材が使用されることがあるため、フィルムコーティング製品の崩壊性が好ましくない、フィルムコーティングされた製品を噛み砕いても口どけが悪い、口腔内に好ましくない残存感を与え摂取感が好ましくない、などの影響を与えてしまう。よって、崩壊性の優れたフィルムコーティング製品の開発も求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、形成されたフィルムコーティング層表面について、光沢があり、ヒビ割れが無く、優れた艶を有し、フィルムコーティング層の原料に由来する不要な着色が少ないことから所望の着色が容易であり、フィルムコーティング製品とした時の崩壊性に優れ、フィルムコーティング製品の製造に要する時間が短い、などの特徴を有する新しいフィルムコーティング層、フィルムコーティング製品およびその製造方法を開発することにある。
【0013】
本発明者は、上記課題の解決を鋭意検討した結果、フィルムコーティング層を形成する主成分として、ワキシコーンスターチ由来のヒドロキシアルキル化デキストリン、マルチトール含有量が固形物換算で15.0重量%以上99.0重量%以下である糖アルコール組成物、HLB値が11〜14であるグリセリン脂肪酸エステルの3成分を組合せて使用することで、係る課題を改善もしくは解決して本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の課題を解決するための手段は、下記のとおりである。
【0015】
第一に、ワキシコーンスターチ由来のヒドロキシアルキル化デキストリン、およびマルチトール含有量が固形物換算で15.0重量%以上99.0重量%以下である糖アルコール組成物、およびHLB値が11〜14であるグリセリン脂肪酸エステル、の3成分を主成分とするフィルムコーティング層である。
【0016】
第二に、固形物換算した含有率が、ヒドロキシアルキル化デキストリンが70.0〜95.0重量%、糖アルコール組成物が3.0〜28.0重量%、およびグリセリン脂肪酸エステルが0.1〜10.0重量%である第一に記載のフィルムコーティング層である。
【0017】
第三に、ヒドロキシアルキル化デキストリンが、ヒドロキシプロピル化デキストリンである、第一又は第二に記載のフィルムコーティング層である。
【0018】
第四に、ヒドロキシアルキル化デキストリンのデキストロース当量(DE)が0.1以上5.0未満である、第一から第三の何れか一つに記載のフィルムコーティング層である。
【0019】
第五に、ヒドロキシアルキル化デキストリンが、架橋剤により架橋されたものである、第一から第四の何れか一つに記載のフィルムコーティング層である。
【0020】
第六に、ヒドロキシアルキル化デキストリンを、固形分濃度30重量%、温度30℃の水溶液とした時、該水溶液の粘度が50〜350cpである、第一から第五の何れか一つに記載のフィルムコーティング層である。
【0021】
第七に、糖アルコール組成物を、固形分濃度70重量%、温度25℃の水溶液とした時、該水溶液の粘度が150〜1500cpである、第一から第六の何れか一つに記載のフィルムコーティング層である。
【0022】
第八に、第一から第七の何れか一つに記載されたフィルムコーティング層により芯材が被覆された、フィルムコーティング製品である。
【0023】
第九に、固形物換算した含有率が、ワキシコーンスターチ由来のヒドロキシアルキル化デキストリンが70.0〜95.0重量%、マルチトール含有量が固形物換算で15.0重量%以上99.0重量%以下である糖アルコール組成物が3.0〜28.0重量%、グリセリン脂肪酸エステルが0.1〜10.0重量%の範囲で構成されるコーティング溶液を調製し、調製された該コーティング溶液をフィルムコーティング層で被覆されるべき芯材に対して塗布する工程と、芯材周囲に塗布された該コーティング溶液の乾燥工程を、所望のフィルムコーティング層が形成されるまで行うことを特徴とする、フィルムコーティング製品の製造方法である。
【0024】
本発明でコーティング溶液とは、フィルムコーティング層を形成するために必要な原料が含まれた水溶液状物を指す。また、フィルムコーティング層とは、コーティング溶液の芯材周囲への塗布と、塗布されたコーティング溶液の乾燥により、コーティング溶液中の固形成分を固化させ、これらコーティング溶液の塗布と乾燥の工程を、所望の厚さもしくは重量の固化物が芯材周囲に形成されるまで継続して実施して得られる、薄い層状でフィルム様に芯材を覆う固化物を指す。フィルムコーティング層は、コーティング溶液から非晶質状に固化するため透明感があり、滑らかで艶のある表面を有する。これは、糖類や糖アルコール類の結晶化によって構成されるハード糖衣やソフト糖衣とは異なる。
【0025】
本発明に係るフィルムコーティング層では、第一の成分としてヒドロキシアルキル化デキストリンが採用される。
【0026】
ヒドロキシアルキル化デキストリンの調製に当たっては、澱粉をヒドロキシアルキル化し、その後、公知の方法で所望のデキストロース当量(DE;dextrose equivallent)を有するまで加水分解処理する方法と、予め澱粉を加水分解して所望のDEを有するデキストリンを調製し、その後、得られたデキストリンに対してヒドロキシアルキル化処理して調製する方法の、何れの方法を採用しても良い。しかしながら、調製の容易さや調製後の品質の安定性を考慮すると、先に澱粉のヒドロキシアルキル化を行う前者の調製方法が好ましいと言える。
【0027】
ヒドロキシアルキル化デキストリンの調製で行われる澱粉の加水分解処理は、酸、アルカリ、加熱処理、酵素処理など、所望のDE値まで澱粉が加水分解される方法であれば特に制限は無いが、所望のDEを有したデキストリンの調製が容易であることから、α−アミラーゼに代表される酵素処理による加水分解処理が好ましい。また、ヒドロキシアルキル化デキストリンのデキストリン部のDEは、ヒドロキシアルキル化の置換度や架橋の有無によって異なるが、凡そのDEは0.1以上5.0未満であり、好ましくは0.5以上3.5以下であり、その中でも特に好ましくは1.0以上2.5以下であり、最も好ましくは1.2以上2.0以下である。
【0028】
ヒドロキシアルキル化デキストリンの調製では、上述の通り、酸を用いて所望のDEを有するまで澱粉を加水分解して、デキストリンを調製することも可能である。一方で、日本国内の当業者で酸処理澱粉と称される物質が存在する。これはThinboiling Starch, Modified Starchと訳される事もある物質で、分類としては化工澱粉の一種として挙げられるが、名前の通り、澱粉を鉱酸溶液で処理して得られる物質の一つであるため、酸加水分解によって調製が可能なデキストリンと混同が生じる恐れがある。しかしながら、酸処理澱粉とデキストリンは、分類上の違いだけでなく、物質や物性の面でも相違点を有しており、例えば、前者の酸処理澱粉は、澱粉粒子の非晶質部の一部が分解されるが、澱粉の粒子構造そのものは残されており、ヨウ素澱粉反応に対して紫色に変化する呈色反応が認められる。また、酸処理澱粉は実質的に澱粉の構造が残存しているため、分解度をDEで定義することは極めて困難である。一方、後者のデキストリンは、澱粉の粒子構造は残存しておらず、DEで定義できるような分解度を有する。よって本発明では、本発明で採用されるヒドロキシアルキル化デキストリンと、酸処理ヒドロキシアルキル化澱粉もしくはヒドロキシアルキル化酸処理澱粉と称される物質とは、全く相違する物質として扱われる。
【0029】
本発明で採用されるヒドロキシアルキル化デキストリンについて、その調製に用いられる原料澱粉は、ワキシコーンスターチのみが採用される。ワキシコーンスターチ以外の各種澱粉、例えば、ハイアミロースコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉、サゴ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉等の各種澱粉類を原料澱粉とした場合は、本発明の特徴を有した好ましいフィルムコーティング製品を形成することは困難である。
【0030】
ヒドロキシアルキル化デキストリンは、原料となるワキシコーンスターチもしくはワキシコーンスターチ由来のデキストリンに対して、各種アルキレンオキサイド、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等を作用させてヒドロキシアルキル化を行うことによって得られる。これらの中でも、フィルムコーティング層とした時の品質の好ましさから、ヒドロキシプロピル化されたデキストリンが好ましい。ヒドロキシアルキル化の程度を表す置換度については、架橋処理の有無、デキストリンのDE値などにより若干変動させても良いが、本発明の実施を妨げない限り特に制限は無い。なお、置換度とは、澱粉のグルコース残基1個当りの置換基の平均値で求められる値であり、置換度をDS(degree of substitution)と表すことがある。本発明で好ましい置換度を例示すると、DS0.01〜0.36程度、更に好ましい範囲はDS0.03〜0.20であり、その中でも特に好ましいのは、DS0.06〜0.18程度である。なお、本発明では必要以上に置換度を高める必要性は無いが、前述で示した数値以上に置換度を高めても特に差し支えは無い。
【0031】
ヒドロキシアルキル化デキストリンは、架橋剤を反応させて架橋構造を付与させた、ヒドロキシアルキル化架橋デキストリンとすることで、デキストリン部の老化を抑制し、それに伴いコーティング溶液とした時の白濁防止や、コーティング溶液の経時的な粘度上昇の抑制が可能である。また、経時的に安定であることからコーティング溶液の作り置きが可能となるなど、工業的規模で実施するような場合に、好ましい効果をもたらすことができる。架橋剤としては、エピクロロヒドリン、トリメタリン酸ナトリウム、アジピン酸トリメタリン酸ナトリウム/トリポリリン酸ナトリウム、アクロレイン、シアヌリッククロライド、アジピン酸/酢酸混合無水物、オキシ塩化燐、ホルマリン、ジエポキシド化合物、ジアルデヒド化合物など、澱粉の水酸基と反応して架橋構造を形成し得る試薬であれば何れも採用可能である。なお、上記架橋剤によって得られる架橋構造物の中でも、リン酸架橋された、ヒドロキシアルキル化リン酸架橋デキストリンが、特に好ましいと言える。
【0032】
ヒドロキシアルキル化架橋デキストリンの調製で、架橋反応を行う時期は特に問われない。例えば、ヒドロキシアルキル化反応を行う前の澱粉やデキストリンに対して架橋反応を行い、一旦、架橋澱粉もしくは架橋デキストリンを形成させてからヒドロキシアルキル化を行い、最後に必要に応じて、所望のDEを有するまで加水分解処理を行う調製方法を採用しても良い。また別の方法として、澱粉やデキストリンに対しヒドロキシアルキル化反応させ、ヒドロキシアルキル化澱粉もしくはヒドロキシアルキル化デキストリンとした後、架橋反応を行う調製方法を採用することも可能である。そして、最後に必要に応じて、所望のDEを有するまで加水分解処理を行う調製方法を採用しても良い。また、これらの反応を行う際、架橋反応の程度については、本発明の実施を妨げない範囲であれば特に制限は無い。なお、本発明では、澱粉を出発原料とし、次いでヒドロキシアルキル化処理によりヒドロキシアルキル化澱粉を調製し、次いで架橋剤により架橋構造を有したヒドロキシアルキル化架橋澱粉を調製し、最後に所望のDEを有するまで加水分解反応を行い、ヒドロキシアルキル化架橋デキストリンとする調製方法が、調製反応の制御し易さや、品質の安定性などの面で好ましい。
【0033】
本発明に係るフィルムコーティング層の好ましい原料形態としては、ワキシコーンスターチを出発原料とし、ヒドロキシプロピル化によって置換度0.01以上、好ましくは置換度0.06乃至0.18程度のヒドロキシプロピル化澱粉とし、次いでリン酸架橋し、最後に酵素加水分解処理によってDEが0.1以上5.0未満、好ましくは1.2程度乃至DEが2.0程度に調製された、ワキシコーンスターチ由来のヒドロキシプロピル化リン酸架橋デキストリンが例示できる。
【0034】
ヒドロキシアルキル化デキストリンは、ヒドロキシアルキル基の種類及びその置換度、架橋剤の有無、デキストリン部のDE値、等の各種要素によって様々な物性に調製することが可能であるが、本発明に係る効果が好適に発現する一つの目安として、ヒドロキシアルキル化デキストリンの水溶液を調製し、その時の水溶液の粘度で評価することができる。具体的には、固形分濃度30重量%、温度30℃のヒドロキシアルキル化デキストリン水溶液を調製し、そのときの粘度をB型粘度計で測定した時の下限値の目安は、好ましくは50cp以上、更に好ましくは100cp以上、その中でも特に好ましくは140cp以上、最も好ましくは150cp以上である。また、粘度範囲の上限値の目安は、好ましくは350cp以下、更に好ましくは320cp以下、その中でも特に好ましくは300cp以下、最も好ましくは270cp以下である。水溶液とした時に上述の粘度を有するようなヒドロキシアルキル化デキストリンを採用することで、本発明に係る好ましい効果をもたらすことができる。
【0035】
本発明に係るフィルムコーティング層では、第二の成分としてマルチトールを所定割合で含有する糖アルコール組成物が採用される。具体的には、糖アルコール組成物中のマルチトール含有量が、固形物換算で15.0重量%以上99.0重量%以下である糖アルコール組成物である。また、糖アルコール組成物の好ましい形態としては、固形物換算したときのマルチトール含有量が50.0重量%以上99.0重量%以下の、マルチトールを主成分とする糖アルコール組成物である。そして、マルチトールを主成分とする糖アルコール組成物の中で好ましくは、固形物換算でマルチトール含有量が60.0重量%以上99.0重量%以下の糖アルコール組成物である。その中で更に好ましくは固形物換算でマルチトール含有量が70.0重量%以上99.0重量%以下の糖アルコール組成物である。その中でも特に好ましくは、固形物換算でマルチトール含有量が80.0重量%以上99.0重量%以下の糖アルコール組成物である。その中で最も好ましくは、固形物換算でマルチトール含有量が90.0重量%以上98.0重量%未満の糖アルコール組成物である。
【0036】
本発明に係る糖アルコール組成物では、マルチトールを除く残余の成分として、マルチトール以外の糖アルコール類を、固形物換算で1.0重量%以上85.0重量%以下含有していることが要求される。本発明に係る糖アルコール組成物において、マルチトール以外の糖アルコール類の好ましい含有割合は、上述の好ましいマルチトール含有量に応じ適宜変更を受けることは言うまでも無い。即ち、本発明に係る糖アルコール組成物において、マルチトール以外の糖アルコール類の好ましい含有量は、固形物換算で1.0重量%以上50.0重量%以下であり、それよりも好ましくは固形物換算で1.0重量%以上40.0重量%以下であり、更にそれよりも好ましくは固形物換算で1.0重量%以上30.0重量%以下であり、その中でも特に好ましくは固形物換算で1.0重量%以上20.0重量%以下であり、最も好ましくは固形物換算で2.0重量%以上10.0重量%以下の含有量となる。
【0037】
本発明に係る糖アルコール組成物で、マルチトール以外の糖アルコール類として採用することができる物質としては、ソルビトール、マンニトール、エリスリトール、キシリトール、ラクチトール、パラチニット(登録商標)、リビトール、アラビトール、セロビイトール、イソマルチトール、マルトトリイトール、マルトテトライトール、その他各重合度別の還元マルトオリゴ糖、還元デキストリン、キシロビイトール、キシロトリイトール、キシロテトライトール、その他各重合度別の還元キシロオリゴ糖、マンノビイトール、マンノトリイトール、マンノテトライトール、その他各重合度別の還元マンノオリゴ糖、以上の群から選ばれる一種または二種以上の混合物が例示できる。
【0038】
本発明に係る糖アルコール組成物の好ましい形態として、澱粉原料を由来として調製される物質で、固形物換算で15.0重量%以上99.0重量%以下のマルチトールを含有する、還元澱粉加水分解物、還元麦芽糖水飴、マルチトール含蜜結晶、以上の群から選ばれる一種または二種以上の混合物が例示できる。なお、還元澱粉加水分解物は、還元澱粉糖化物、還元水飴と称される物質と同義であり、これらの物質も包含する。また、これらの中で最も好ましいのは、マルチトール含蜜結晶である。なお、固形物換算したマルチトール含有量が、マルチトール含蜜結晶と同程度のマルチトール純度を有する物質であれば、粉末化品、液状品の区別なく何れも採用可能である。
【0039】
本発明に係る糖アルコール組成物に代わり、純度が99.0重量%を超える結晶マルチトールを単独で利用する場合、それ単独では、フィルムコーティング層に十分な可塑性を与えることができず、形成されたフィルムコーティング層にヒビ割れが生じる要因となり得ることから好ましいくない。しかしながら、上述のマルチトール以外の糖アルコール類、還元澱粉加水分解物、還元麦芽糖水飴、マルチトール含蜜結晶などと混ぜ合わせて、本発明の実施を妨げない範囲のマルチトール含有量を有した糖アルコール組成物に調製されれば、純度が99.0重量%を超える結晶マルチトールを用いることも何ら差し支えが無い。
【0040】
本発明に係る糖アルコール組成物では、上述の通り、糖アルコール組成物中のマルチトール含有量が非常に重要な要素であるが、さらにその際、一定範囲の粘度を有することが重要である。具体的には、糖アルコール組成物を固形分濃度70重量%の水溶液とし、液温を25℃とした時のB型粘度計による測定値が、150〜1500cpであり、好ましくは160〜1200cpであり、更に好ましくは170〜600cpであり、その中でも特に好ましくは250〜400cpである。上述の粘度範囲を満足する糖アルコール組成物を採用することで、得られるフィルムコーティング層の表面が滑らかに仕上がり易い、製造後のフィルムコーティング層にひびが入り難い、製造過程でのフィルムコーティング層の剥がれが少ない、短い時間でフィルムコーティング製品の製造が可能になるなどの好ましい効果が得られる。
【0041】
上述の粘度範囲を外れ、粘度が低い糖アルコール組成物を採用した場合、コーティング溶液の結着性が十分でないためと思われるが、コーティングされるべき芯材周囲にコーティング溶液が十分に付着しない、製造過程でフィルムコーティング層の剥がれが生じ易い、形成されたフィルムコーティング層表面にひびが入り易い、などの恐れがあり好ましくない。また、上述の粘度範囲を外れ、粘度が高い糖アルコール組成物を採用した場合、コーティング溶液の結着性が強すぎるためと思われるが、形成過程にあるフィルムコーティング層が、コーティング溶液が付着している周辺の芯材との結着と脱離を繰り返す間に、形成されたフィルムコーティング層が剥がれてしまうことや、芯材同士の結着が大量に発生して芯材がダマのように固まってしまうことなどの恐れがあり好ましくない。
【0042】
本発明に係る糖アルコール組成物は、還元澱粉加水分解物やマルチトール含蜜結晶として市販されている糖アルコール製品をそのまま採用することが可能である。例えば、東和化成工業株式会社製の「アマミール」、「PO−30」、「PO−40」、「PO−60」、「アマルティシロップ」、「アマルティMR」の各名称で販売されている糖アルコール製品、日研化成株式会社製の「エスイー20」、「エスイー30」、「エスイー57」、「エスイー600」、「スイートG2」の各名称で販売されている糖アルコール製品、林原商事株式会社製の「HS−30」、「HS−40」、「HS−60」、「粉末マビット」の各名称で販売されている糖アルコール製品、セレスター社製の「C☆Maltidex」シリーズで商品コードが「16303」、「16311」、「16322」、「16330」の各名称で販売されている糖アルコール製品、ロケットフレール社製の、「LYCASIN HBC」、「LYCASIN 80/55」、「POLYSORB 75/08/55」、「MALTISORB 75/77」、「FD−300」の各名称で販売されている糖アルコール製品、上野製薬株式会社製の「MU−65」、「MU−75」、「MU−90」の各名称で販売されている糖アルコール製品、などの各社製品が例示できる。なお、上述の中でも、行番号0035〜0040に記載の要件をより高い条件で満足する糖アルコール製品が、より好ましくなることは言うまでも無い。更に好ましい製品を具体的に例示すると、東和化成工業株式会社製の「アマルティMR」、林原商事株式会社製の「粉末マビット」、ロケットフレール社製の「FD−300」、上野製薬株式会社製の「MU−90」など、各社から販売されるマルチトール含蜜結晶タイプの製品が挙げられる。また、これらマルチトール含蜜結晶製品の中でもマルチトール含有量の高い、東和化成工業株式会社製の「アマルティMR」、林原商事株式会社製の「粉末マビット」が、極めて好ましい糖アルコール組成物として例示できる。
【0043】
本発明に係る糖アルコール組成物は、上述の糖アルコール類のように、食品、食品添加物、医薬品などの各種用途で市販されている程度の品質であれば良く、それらの原料や製造方法に特に影響を受けることは無い。また、本発明の実施を妨げない限り、上記の糖類および糖アルコール類は液状品、固形状品、スラリー状品、半固化物質品、結晶品、含蜜結晶品、非晶質粉末の何れであっても良く、含水結晶もしくは無水結晶の何れであっても良い。
【0044】
本発明に係るフィルムコーティング層では、第三の成分としてHLB値が11〜14であるグリセリン脂肪酸エステルが採用される。なお、更に好ましくはHLB値が12以上、その中でも特に好ましくはHLB値が13以上のグリセリン脂肪酸エステルが採用される。
【0045】
グリセリン脂肪酸エステルに採用される脂肪酸の種類は、本発明の実施を妨げない限り特に制限は無いが、ステアリン酸、オレイン酸、ラウリン酸などが好ましい脂肪酸として例示でき、さらに好ましくはステアリン酸、オレイン酸、最も好ましくはステアリン酸が例示できる。
【0046】
本発明では、ワキシコーンスターチ由来のヒドロキシアルキル化デキストリン、マルチトール含有量が固形物換算で15.0重量%以上99.0重量%以下である糖アルコール組成物、HLB値が11〜14であるグリセリン脂肪酸エステル、以上の3成分を主成分とするが、その他に、フィルムコーティング層を形成を妨げない範囲で、種々の添加剤を使用しても良い。
【0047】
本発明の実施を妨げない範囲であれば、フィルムコーティング層の添加剤として、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、プルラン、水溶性プルラン誘導体、ゼラチン、アラビアガム、澱粉、カラヤガム、キサンタンガム、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、酸化澱粉、酸処理澱粉、ヒドロキシプロピル化澱粉、タルク、カオリン、炭酸カルシウム、卵殻カルシウム、貝殻カルシウムなどの各種基剤を1種又は2種以上組合せて使用しても良い。
【0048】
本発明の実施を妨げない範囲であれば、フィルムコーティング層の添加剤として、ミントフレーバー、各種フルーツフレーバー、チョコレートフレーバー、コーヒーフレーバー、紅茶フレーバー、バニラフレーバーなどの各種香料類、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、チロシン、イソロイシン、アルギニン、グルタミン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン、システイン、スレオニン、メチオニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、トリプトファン、アスパラギン、セリンなどの各種アミノ酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、グリコン酸、酒石酸、酢酸、無水酢酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、アスコルビン酸、アルギン酸、グルコン酸、ニコチン酸などの各種有機酸やそれらの塩、アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムK、ステビアなどの各種高甘味度甘味料、二酸化チタン、食用色素などの各種着色料、ビタミン類、食物繊維類などが例示でき、これらを1種又は2種以上組合せて使用しても良い。
【0049】
本発明で、フィルムコーティング層を構成する第一の成分であるヒドロキシアルキル化デキストリンの含有量は、フィルムコーティング層を構成する固形物質重量で換算して、70.0〜95.0重量%、好ましくは75.0〜90.0重量%、更に好ましくは76.0〜88.0重量%、最も好ましくは81.0〜83.0重量%である。
【0050】
本発明で、フィルムコーティング層を構成する第二の成分であるマルチトール含有量が固形物換算で15.0重量%以上99.0重量%以下である糖アルコール組成物の含有量は、フィルムコーティング層を構成する固形物質重量で換算して、3.0〜28.0重量%、好ましくは9.0〜22.0重量%、更に好ましくは10.0〜21.0重量%、最も好ましくは15.0〜17.0重量%である。
【0051】
本発明で、フィルムコーティング層を構成する第三の成分であるHLB値が11〜14であるグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、フィルムコーティング層を構成する固形物質重量で換算して、0.1〜10.0重量%、好ましくは0.5〜7.0重量%、更に好ましくは1.0〜5.0重量%、最も好ましくは2.0〜3.0重量%である。
【0052】
フィルムコーティング層を構成する各成分の含有量が上述の範囲を外れた場合、フィルムコーティング層表面にヒビ割れ、艶の低下、フィルムコーティング層の形成が遅れ、製造中にフィルムコーティング層が芯材からの剥離、などの好ましくない影響が生じる恐れがある。
【0053】
本発明に係るフィルムコーティング製品の芯材として適用可能な物質は、フィルムコーティング層の形成を著しく妨げるような物質でない限り制限は無く、コーティング製品の芯材としての使用が公知である素材であれば、本発明においても適用することが可能である。具体的な芯材として、例えば、ガム、キャンデー、トローチ、タブレット、グミ、チョコレート、ゼリー、パン、ケーキ、プレッツェル、クラッカー、タフィー、団子、揚げ菓子、スナック菓子、ポテトチップ、甘納豆、ポップコーンなどの各種菓子類、各種果実類や各種野菜類や各種豆類とそれらの乾物類、その他にも、医薬品類などを芯材として利用することが可能であり、その形状も特に問われない。また、電気製品、導線、ビニル製品、プラスチック製品、金属製品、回路基盤、半導体、容器、磁器、陶器などの食品や医薬品以外の諸分野においても、被覆化の対象となり得る形態であれば、本発明に係る芯材となり得る。
【0054】
本発明に係るフィルムコーティング層あるいはフィルムコーティング製品の製造において、芯材はその形成過程で任意の方向に移動もしくは回転し続けており、その状態で連続的もしくは断続的にコーティング溶液が芯材に塗布され、それと平行して行われる芯材の乾燥は連続的に行われ、これらコーティング溶液の塗布と乾燥を、所望の厚さもしくは重量のフィルムコーティング層が形成されるまで継続して実施する方法が挙げられる。また好ましくは、コーティング溶液の塗布と乾燥が同時に且つ連続的に行われ、更に好ましくは、その条件において乾燥が優位に進むようコーティング溶液の塗布と乾燥の条件が設定され、芯材に対して所望の厚さもしくは重量のフィルムコーティング層が形成されるまで継続して実施する方法が挙げられる。
【0055】
本発明に係るフィルムコーティング層やフィルムコーティング製品を製造する上で、上述の工程を好適に実施することが可能な装置として、全自動コーティング機(装置名:ハイコーターラボ/HC−LABO、フロイント産業株式会社製)が挙げられる。なお、本発明では、前述した装置と実質的に同等の性能を有する装置であれば、本発明の実施を妨げない限り採用可能である。また、前述した装置と同等の性能を有するものでなくとも、前述した装置に準じた性能を有する装置か、実質的にフィルムコーティングの製造を可能とする装置であれば、本発明の実施を妨げない限り、それらの装置も採用可能である。
【0056】
フィルムコーティング製品の調製で上述の全自動コーティング機を用いる場合、フィルムコーティングされる芯材は、装置内で任意の方向に回転しながらコーティング溶液が塗布されるため、芯材周囲に比較的均一にコーティング溶液が付着する。また、コーティング溶液の塗布と平行して連続的な乾燥処理を受けるため、芯材周囲に均一に付着したコーティング溶液は、そのまま比較的短時間の間に固化しはじめ、付着したコーティング溶液の固化物が芯材周囲に均一に形成される。後は、これらコーティング溶液の塗布と乾燥を、所望の厚さもしくは重量のフィルムコーティング層が形成されるまで継続して実施することで、フィルムコーティング製品を調製することが可能となる。
【0057】
本発明においてコーティング溶液の塗布とは、コーティング溶液が芯材表面あるいは周囲に掛けられる、もしくは接触するよう行われる方法であれば、本発明の実施を妨げない限りその方法に特に制限はなく、塗布、噴霧、散布、液掛、浸漬などの技術用語あるいはこれらと実質的に同等の意味で表される何れの手段、方法も包含する。
【0058】
フィルムコーティング製品を調製する際、コーティング溶液の固形分濃度は、芯材に対して連続的もしくは断続的に実施されるコーティング溶液の塗布工程と、連続的に実施される乾燥工程との組合せにより、所望する品質のフィルムコーティング層が得られる条件であればよい。本発明で採用できるコーティング溶液の好ましい固形分濃度は5〜30重量%であり、更に好ましくは10〜25重量%であり、その中でも特に好ましくは14〜23重量%であり、最も好ましくは15〜17重量%である。
【0059】
従来、フィルムコーティング層の形成において、シェラックなどの水不溶性成分を添加しない場合に当業者が一般的に採用するコーティング溶液の固形分濃度は、8〜10重量%程度である。本発明で採用されるコーティング溶液は、水不溶性成分を添加しない条件であるにも関らず、10重量%以上、好ましくは14重量%以上、更に好ましくは15重量%以上の高い固形分濃度のコーティング溶液としても、フィルムコーティング層の形成過程で芯材がダマになったり、形成したフィルムコーティング層の剥離が生じ難いなど、コーティング層の形成が好適に実施できるという特徴を有している。これは、本発明で採用されるコーティング溶液が、高い皮膜性を有しているにも関わらず、フィルムコーティングの形成を阻害し難い適度な粘度と固化性を有しているからである。
【0060】
本発明では、形成されたフィルムコーティング層の量を表す指標として、「コーティング層被覆率」と言う用語が採用される。コーティング層被覆率とは、芯材の固形分重量を100%として、それに対して形成されたフィルムコーティング層の固形分重量割合である。これは、形成されたフィルムコーティング層の固形分重量を、芯材の固形分重量で除して求められる値と同義である。コーティング層被覆率という用語は、当業者間ではコーティング率と呼ばれることもあり、コーティング層の厚さや被覆の程度を示す指標として使用されている。フィルムコーティング層の重量の測定方法としては、形成されたフィルムコーティング層を芯材から分離して、当該部分の重量を直接測定してもよいが、フィルムコーティング製品の重量からコーティング前の芯材重量を引いた値をフィルムコーティング層の重量とし、その値を基にコーティング層被覆率を求めても良い。
【0061】
本発明に係るフィルムコーティング製品は、芯材がフィルムコーティング層により有意な量で被覆されていれば良く、0.1%以上のコーティング層被覆率であれば、フィルムコーティング層の形成は認められる。また、本発明においてコーティング層被覆率の上限は特になく、例えばコーティング層被覆率が100%であっても本発明の実施は可能である。しかしながら必要以上にコーティング層被覆率を高めても、得られる効果に大幅な改善は無く、製造時間も長くかかり、経済的ともいえない。よって、本発明で採用されるコーティング層被覆率は0.1%以上であり、好ましくは0.5〜30.0%、更に好ましくは1.0〜10.0%、その中でも特に好ましくは2.0〜5.0%、最も好ましくは約3.0%である。
【0062】
本発明では、芯材に対して所望のフィルムコーティング層を形成させるために要する時間が少ないという特徴を有している。具体的には、市販の乳糖模擬錠(錠剤直径:10mm、R:8.5mm、H:1.63mm、平均重量:360mg/錠、サンケーヘルス株式会社製)を芯材として、コーティング層被覆率が3%であるフィルムコーティング製品を製造する上で、短時間での形成に好ましい条件下でフィルムコーティング層の形成作業を実施した場合、その形成に要する時間は40分以下、好ましくは38分以下、更に好ましくは33分以下、その中でも特に好ましくは31分以下、最も好ましくは30分以下という短時間で製造が可能である。
【発明の効果】
【0063】
本発明に係るフィルムコーティング製品は、形成されたフィルムコーティング層表面について、光沢があり、ヒビ割れが無く、優れた艶を有し、フィルムコーティング層の原料に由来する不用な着色が少なく、そのため着色剤に由来する色合いとズレの少ない着色が可能であるなどの特徴を持つ。更に、フィルムコーティング製品とした時の崩壊性に優れ、フィルムコーティング製品の製造に要する時間が短いなどの特徴を有する。
【0064】
本発明に係るフィルムコーティング製品に由来する好ましい特徴は、芯材として乳糖模擬錠(錠剤直径:10mm、R:8.5mm、H:1.63mm、平均重量:360mg/錠、サンケーヘルス株式会社製)を用い、フィルムコーティング製品の平均重量が371mg/錠となるまでコーティング作業を行い、コーティング層被覆率の平均値が3%であるフィルムコーティング製品を調製し、その後、ジッパー付のアルミ製保存袋(商品名:ラミジップAL16、株式会社生産日本社製)に入れて封をし、室温で24時間静置させたものを検体とし、それを各種評価試験により評価した場合に、以下の通り評価される効果を有する。
【0065】
本発明に係るフィルムコーティング製品は、フィルムコーティング層表面の仕上がりが非常に滑らかで、形成されたフィルムコーティング層にヒビ割れは殆ど見られない。これは、フィルムコーティング層を形成する固化成分の相互作用により、安定的に固化状態を維持しているためと思われる。本発明では、フィルムコーティング層表面のヒビ割れの少なさを確認するため、調製されたフィルムコーティング製品から任意に20検体取出して、相対湿度9%のデシケータ内で、室温下で1ヶ月保管し、フィルムコーティング層表面のヒビ割れの有無を確認したところ、本発明品については、一切ヒビ割れが生じていないことが確認された。即ち、本発明に係るフィルムコーティング製品について、表面のフィルムコーティング層にヒビ割れが生じる割合は、20検体あたり1検体未満という非常に優れた結果を示すことが確認できる。
【0066】
本発明では、形成されたフィルムコーティング層が滑らかであり、光沢のあるフィルムコーティング製品を得ることができる。本発明では、フィルムコーティング製品の光沢を評価する手法として、光沢計(装置名:GLOSS METER VG−2000、日本電色工業株式会社製)が用いられた。該光沢計による光沢度測定では、本装置に備え付けられている中心部に6mmの円形の孔が開けられた専用の試料台(装置名:φ6アタッチメント)を用い、75度鏡面光沢方法により、入射角75°、受光角75°の測定条件で行われた。一つの製品につき5検体の光沢度を測定し、その平均値を製品の光沢度とした。その結果、本発明では、光沢度が10.0以上、好ましくは12.0以上、更に好ましくは14.0以上、その中でも特に好ましくは15.0以上、最も好ましくは16.0以上と評価されるフィルムコーティング製品とすることができ、高い光沢を有するフィルムコーティング製品であることが確認できる。
【0067】
本発明では、形成されたフィルムコーティング層が滑らかで、ヒビ割れがなく、高い光沢を有するため、最終的に得られるフィルムコーティング製品を目視で確認した場合、好ましい艶を有することが確認できる。
【0068】
本発明では、フィルムコーティング層の形成に用いられる原料が無色で、化学的な安定性も高いため、フィルムコーティング層の形成過程で着色は殆ど見られず、ほぼ無色透明のフィルムコーティング層の形成が可能である。よって、コーティング溶液中に着色剤を添加してフィルムコーティング製品を調製した場合、鮮やかな色彩を有したフィルムコーティング製品を形成することが可能である。ここで、フィルムコーティング製品としたときの色付きに関しては、訓練されたパネリストにより、JIS−Z−8721準拠の標準色票光沢版(発行:財団法人日本規格協会、製作:財団法人日本色彩研究所)に記載された色票と対比して評価する方法が挙げられ、本発明品は特定の色相(H)において高い明度(V)と彩度(C)を有していることが認められる。具体的には、本発明に係る実施例に記載された条件で黄色の着色剤を用いた場合には、色相が5Yで表され、明度が8、彩度が10以上、で表される色票に相当する着色を得ることが可能である。
【0069】
本発明に係るフィルムコーティング製品のモデル製品は、水に対して速やかに溶解する優れた崩壊性を示す。本発明では、フィルムコーティング製品の崩壊性を評価する指標として、崩壊度試験器(装置名:NT−2H、富山産業株式会社製)を用いた崩壊試験を行い、フィルムコーティング製品の崩壊に要する時間から、各コーティング製品の崩壊度を評価する方法が採用される。崩壊度の測定は、第14改正日本薬局方解説書(2001,廣川書店刊行)のB−619頁〜B−628頁に記載の「58.崩壊試験法」に記載された方法に準じて実施される。詳細には、崩壊度試験器に備え付けられている専用のバスケットを受け軸に取り付け、崩壊度試験器内に設置されたビーカー中で、1分間29〜32往復、振幅53〜57mmで滑らかにバスケットが上下運動を行うように調節される。バスケットが最も下がったとき、バスケット底部の網面がビーカーの底から25mmになるようにし、ビーカーに入れる試験液の量は、バスケットが最も下がった時に、バスケットの上面が液の表面に一致するようにし、試験液の温度は37±2℃に保たれる。試験液には純水を用い、測定対象となるフィルムコーティング製品は、バスケット内にある6本のガラス管内にそれぞれ1検体ずつ入れられる。バスケットはあらかじめ温度及び液量を調節したビーカー中の試験液に浸し、一定時間上下運動を行い続け、ガラス管内に残留物が認められなくなるまでに要する時間を崩壊時間として測定する。本発明では、一つの製品に付き6検体の試験を行い、その平均値から崩壊時間を求め、フィルムコーティング製品の崩壊性が評価される。
【0070】
上述の崩壊試験の結果、本発明に係るフィルムコーティング製品の崩壊時間は、30分以下、好ましくは25分以下、更に好ましくは23分以下であり、崩壊性の優れたフィルムコーティング製品であることが確認できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0071】
以下に、本発明に係るフィルムコーティング層とフィルムコーティング製品及びその製造方法の詳細について、実施例を交えて詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の例に限定されるものではない。
【0072】
実施例および比較例で使用するワキシコーンスターチ由来のヒドロキシアルキル化デキストリンとして、市販品(商品名:PENON PKW、日澱化學株式会社)を使用した。これは、ワキシコーンスターチにプロピレンオキサイドを反応させてヒドロキシプロピル化し、置換度0.06のヒドロキシプロピル化澱粉としたものを、リン酸架橋し、酵素分解により加水分解処理された、DEが2.0のワキシコーン由来のヒドロキシプロピル化リン酸架橋デキストリンである。このヒドロキシプロピル化リン酸架橋デキストリンについて、固形分濃度30重量%、温度30℃の水溶液とした時の粘度は150cpであった。
【0073】
実施例および比較例で使用する糖アルコール組成物は、何れも東和化成工業株式会社から販売されている市販品で、マルチトール含蜜結晶の形態で販売されている「アマルティMR」(商品名、登録商標)と、還元澱粉糖化物の形態で販売されている「アマミール」(商品名、登録商標)、「PO−60」、「PO−30」、「PO−20」(何れも商品名)を使用した。還元澱粉糖化物は何れも液状品で固形分濃度は70重量%である。これらの糖アルコールの糖組成と、固形分濃度70重量%液温25℃における粘度値は、表1に記載した。表中のDPは糖重合度(Degree of Polymerization)を表し、DP=1は主としてソルビトールを、DP=2はマルチトールを、DP=3は主としてマルトトリイトールを、DP≧4は主としてマルトテトライトールと重合度5以上の糖類の水素化物を指す。
【0074】
実施例および比較例で使用する乳化剤は、HLB値が13.4のグリセリン脂肪酸エステル(商品名:MSW−7S、含水率:60%、阪本薬品工業株式会社製)、HLB値が11.6のグリセリン脂肪酸エステル(商品名:MS−5S、阪本薬品工業株式会社製)、HLB値が11.0のショ糖脂肪酸エステル(商品名:S−1170、三菱化学フーズ株式会社製)、HLB値が5.0のショ糖脂肪酸エステル(商品名:S−570、三菱化学フーズ株式会社製)を使用した。なお、MSW−7Sは含水率60%のペースト状物質であり、それ以外の乳化剤は何れも粉末品である。
【0075】
実施例および比較例では、フィルムコーティング層の着色を目的として、着色剤が使用される。着色剤は市販品(商品名:黄色5号、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)を使用し、それを固形分濃度1.0重量%の着色剤含有水溶液としたものを、コーティング溶液に添加する方法で使用した。以下、この溶液を1%着色剤溶液と称す。
【0076】
フィルムコーティング製品の調製に当り使用される芯材には、市販の乳糖模擬錠(錠剤直径:10mm、R:8.5mm、H:1.63mm、平均重量:360mg/錠、サンケーヘルス株式会社製)を用いた。
【0077】
【表1】

【実施例】
【0078】
(発明品1)
コーティング溶液の原料として、ワキシコーンスターチ由来のヒドロキシアルキル化デキストリンとして市販品(商品名:PENON PKW)を使用し、糖アルコール組成物として市販のマルチトール含蜜結晶(商品名:アマルティMR)を使用し、乳化剤としてHLB値が13.4のグリセリン脂肪酸エステル(商品名:MSW−7S、含水率60%)を使用した。コーティング溶液の調製では、上述のPENONを13.0重量部、マルチトール含蜜結晶を2.5重量部、グリセリン脂肪酸エステルを1.0重量部、水を84.5重量部の割合で配合した。次いで、フィルムコーティングの色付けを目的として、1%着色剤溶液を0.5重量部添加し、固形分濃度が15.7重量%のコーティング溶液を調製した。
フィルムコーティング製品の芯材となる乳糖模擬錠500g分を、全自動糖衣機(装置名:ハイコーターラボ/HC−LABO、フロイント産業株式会社製)に入れ、給気温度:75℃、給気風量:0.8立方メートル/分、給気圧力:0.15MPa、パン回転数20rpm、コーティング溶液の温度25℃、コーティング溶液の供給速度4.0g/分、以上の製造条件で、芯材のコーティング層被覆率が3%となる、平均重量が371mg/錠のフィルムコーティング製品が得られるまでコーティング作業を実施した。コーティング作業終了後、全自動糖衣機内の給気温度:75℃、給気風量:0.8立方メートル/分、給気圧力:0.15MPaの条件で3分間乾燥処理し、さらにその後、給気温度を30℃に変更した他は同じ条件で10分間冷却処理を行った。次いで、冷却処理されたフィルムコーティング製品は、ジッパー付のアルミ製保存袋(商品名:ラミジップAL16、株式会社生産日本社製)に入れて封をし、室温で24時間静置させ、フィルムコーティング製品(発明品1)を調製した。
本発明品1の調製に当り、コーティング層被覆率が3%となるまでに要するコーティング時間は30分であった。
【0079】
(発明品2)
コーティング溶液の調製にあたり、発明品1と同一の原料を用いて、その配合割合をPENON18.5重量部、マルチトール含蜜結晶3.5重量部、グリセリン脂肪酸エステル1.0重量部、水78.0重量部、1%着色剤溶液0.5重量部の割合に変更して配合し、固形分濃度が22.1重量%のコーティング溶液を調製した。
以下、上述のコーティング溶液を用いる他は、発明品1と同一の方法により、フィルムコーティング製品(発明品2)を調製した。本発明品2の調製に当り、コーティング層被覆率が3%となるまでに要するコーティング時間は26分であった。
【0080】
(発明品3)
コーティング溶液の調製にあたり、発明品1と同一の原料を用いて、その配合割合をPENON8.4重量部、マルチトール含蜜結晶1.6重量部、グリセリン脂肪酸エステル1.0重量部、水90.0重量部、1%着色剤溶液0.5重量部の割合に変更して配合し、固形分濃度が10.3重量%のコーティング溶液を調製した。
以下、上述のコーティング溶液を用いる他は、発明品1と同一の方法により、フィルムコーティング製品(発明品3)を調製した。本発明品3の調製に当り、コーティング層被覆率が3%となるまでに要するコーティング時間は36分であった。
【0081】
(発明品4)
コーティング溶液の調製にあたり、発明品1と同一の原料を用いて、その配合割合をPENON13.0重量部、マルチトール含蜜結晶3.5重量部、グリセリン脂肪酸エステル1.0重量部、水83.5重量部、1%着色剤溶液0.5重量部の割合に変更して配合し、固形分濃度が16.7重量%のコーティング溶液を調製した。
以下、上述のコーティング溶液を用いる他は、発明品1と同一の方法により、フィルムコーティング製品(発明品4)を調製した。本発明品4の調製に当り、コーティング層被覆率が3%となるまでに要するコーティング時間は29分であった。
【0082】
(発明品5)
コーティング溶液の調製にあたり、発明品1と同一の原料を用いて、その配合割合をPENON13.0重量部、マルチトール含蜜結晶1.5重量部、グリセリン脂肪酸エステル1.0重量部、水85.5重量部、1%着色剤溶液0.5重量部の割合に変更して配合し、固形分濃度が14.7重量%のコーティング溶液を調製した。
以下、上述のコーティング溶液を用いる他は、発明品1と同一の方法により、フィルムコーティング製品(発明品5)を調製した。本発明品5の調製に当り、コーティング層被覆率が3%となるまでに要するコーティング時間は31分であった。
【0083】
(発明品6)
コーティング溶液の調製にあたり、発明品1と同一の原料を用いて、その配合割合をPENON13.0重量部、マルチトール含蜜結晶2.5重量部、グリセリン脂肪酸エステル0.5重量部、水84.5重量部、1%着色剤溶液0.5重量部の割合に変更して配合し、固形分濃度が15.5重量%のコーティング溶液を調製した。
以下、上述のコーティング溶液を用いる他は、発明品1と同一の方法により、フィルムコーティング製品(発明品6)を調製した。本発明品6の調製に当り、コーティング層被覆率が3%となるまでに要するコーティング時間は30分であった。
【0084】
(発明品7)
コーティング溶液の調製にあたり、発明品1と同一の原料を用いて、その配合割合をPENON13.0重量部、マルチトール含蜜結晶2.5重量部、グリセリン脂肪酸エステル2.0重量部、水84.5重量部、1%着色剤溶液0.5重量部の割合に変更して配合し、固形分濃度が15.9重量%のコーティング溶液を調製した。
以下、上述のコーティング溶液を用いる他は、発明品1と同一の方法により、フィルムコーティング製品(発明品7)を調製した。本発明品7の調製に当り、コーティング層被覆率が3%となるまでに要するコーティング時間は33分であった。
【0085】
(発明品8)
コーティング溶液の調製にあたり、発明品1と同一の原料の他に、ワキシコーン由来のヒドロキシプロピル化澱粉(商品名:クリアテクストVB−3、日本食品化工株式会社製)をフィルムコーティングの助剤として用いて、その配合割合をPENON12.5重量部、ヒドロキシプロピル化澱粉0.5重量部、マルチトール含蜜結晶2.5重量部、グリセリン脂肪酸エステル1.0重量部、水84.5重量部、1%着色剤溶液0.5重量部の割合に変更して配合し、固形分濃度が15.7重量%のコーティング溶液を調製した。
以下、上述のコーティング溶液を用いる他は、発明品1と同一の方法により、フィルムコーティング製品(発明品8)を調製した。本発明品8の調製に当り、コーティング層被覆率が3%となるまでに要するコーティング時間は30分であった。
【0086】
(発明品9)
コーティング溶液の調製にあたり、乳化剤としてHLB値が13.4のグリセリン脂肪酸エステル(商品名:MSW−7S)に代わって、HLB値が11.6のグリセリン脂肪酸エステル(商品名:MS−5S)を使用した他は、発明品1と同一の原料を用いて、その配合割合をPENON13.0重量部、マルチトール含蜜結晶2.5重量部、グリセリン脂肪酸エステル0.4重量部、水84.5重量部、1%着色剤溶液0.5重量部の割合に変更して配合し、固形分濃度が15.8重量%のコーティング溶液を調製した。
以下、上述のコーティング溶液を用いる他は、発明品1と同一の方法により、フィルムコーティング製品(発明品9)を調製した。本発明品9の調製に当り、コーティング層被覆率が3%となるまでに要するコーティング時間は35分であった。
【0087】
(発明品10)
コーティング溶液の調製にあたり、糖アルコール組成物としてマルチトール含蜜結晶に代わって還元澱粉糖化物(商品名:PO−60)を使用した他は、発明品1と同一の原料を用いて、その配合割合をPENON13.0重量部、還元澱粉糖化物3.57重量部、グリセリン脂肪酸エステル1.0重量部、水83.43重量部、1%着色剤溶液0.5重量部の割合に変更して配合し、固形分濃度が15.7重量%のコーティング溶液を調製した。
以下、上述のコーティング溶液を用いる他は、発明品1と同一の方法により、フィルムコーティング製品(発明品10)を調製した。本発明品10の調製に当り、コーティング層被覆率が3%となるまでに要するコーティング時間は30分であった。
【0088】
(発明品11)
コーティング溶液の調製にあたり、糖アルコール組成物としてマルチトール含蜜結晶に代わって還元澱粉糖化物(商品名:アマミール)を使用した他は、発明品1と同一の原料を用いて、その配合割合をPENON13.0重量部、還元澱粉糖化物3.57重量部、グリセリン脂肪酸エステル1.0重量部、水83.43重量部、1%着色剤溶液0.5重量部の割合に変更して配合し、固形分濃度が15.7重量%のコーティング溶液を調製した。
以下、上述のコーティング溶液を用いる他は、発明品1と同一の方法により、フィルムコーティング製品(発明品11)を調製した。本発明品11の調製に当り、コーティング層被覆率が3%となるまでに要するコーティング時間は30分であった。
【0089】
(発明品12)
コーティング溶液の調製にあたり、糖アルコール組成物としてマルチトール含蜜結晶に代わって還元澱粉糖化物(商品名:PO−30)を使用した他は、発明品1と同一の原料を用いて、その配合割合をPENON13.0重量部、還元澱粉糖化物3.57重量部、グリセリン脂肪酸エステル1.0重量部、水83.43重量部、1%着色剤溶液0.5重量部の割合に変更して配合し、固形分濃度が15.7重量%のコーティング溶液を調製した。
以下、上述のコーティング溶液を用いる他は、発明品1と同一の方法により、フィルムコーティング製品(発明品12)を調製した。本発明品12の調製に当り、コーティング層被覆率が3%となるまでに要するコーティング時間は38分であった。
【0090】
(対照品1)
コーティング溶液の調製にあたり、糖アルコール組成物としてマルチトール含蜜結晶に代わって、マルチトール含有量の低い還元澱粉糖化物(商品名:PO−20)を使用した他は、発明品1と同一の原料を用いて、その配合割合をPENON13.0重量部、還元澱粉糖化物3.57重量部、グリセリン脂肪酸エステル1.0重量部、水83.43重量部、1%着色剤溶液0.5重量部の割合に変更して配合し、固形分濃度が15.7重量%のコーティング溶液を調製した。
以下、上述のコーティング溶液を用いる他は、発明品1と同一の方法により、フィルムコーティング製品(対照品1)の調製を試みたが、製造過程で形成されたフィルムコーティング層が、他の芯材と結着して剥がれてしまい、均一なフィルムコーティング層を有したフィルムコーティング製品を得ることはできなかった。
【0091】
(対照品2)
コーティング溶液の調製にあたり、乳化剤としてHLB値が13.4のグリセリン脂肪酸エステル(商品名:MSW−7S)に代わって、HLB値が11.0のショ糖脂肪酸エステル(商品名:S−1170、三菱化学フーズ株式会社製)を使用した他は、発明品1と同一の原料を用いて、その配合割合をPENON13.0重量部、マルチトール含蜜結晶2.5重量部、ショ糖脂肪酸エステル0.4重量部、水84.5重量部、1%着色剤溶液0.5重量部の割合に変更して配合し、固形分濃度が15.8重量%のコーティング溶液を調製した。
以下、上述のコーティング溶液を用いる他は、発明品1と同一の方法により、フィルムコーティング製品(対照品2)を調製した。本対照品2の調製に当り、コーティング層被覆率が3%となるまでに要するコーティング時間は54分であった。
【0092】
(対照品3)
コーティング溶液の調製にあたり、乳化剤としてHLB値が13.4のグリセリン脂肪酸エステル(商品名:MSW−7S)に代わって、HLB値が5.0のショ糖脂肪酸エステル(商品名:S−570、三菱化学フーズ株式会社製)を使用した他は、発明品1と同一の原料を用いて、その配合割合をPENON13.0重量部、マルチトール含蜜結晶2.5重量部、ショ糖脂肪酸エステル0.4重量部、水84.5重量部、1%着色剤溶液0.5重量部の割合に変更して配合し、固形分濃度が15.8重量%のコーティング溶液を調製した。
以下、上述のコーティング溶液を用いる他は、発明品1と同一の方法により、フィルムコーティング製品(対照品3)を調製した。本対照品3の調製に当り、コーティング層被覆率が3%となるまでに要するコーティング時間は44分であった。
【0093】
(対照品4)
コーティング溶液の調製にあたり、ワキシコーンスターチ由来のヒドロキシアルキル化デキストリンに代わり、DEが5〜7のマルトデキストリン(商品名:フジスター#5、日本食品化工株式会社製)を使用した他は、発明品1と同一の原料を用いて、その配合割合をマルトデキストリン13.0重量部、マルチトール含蜜結晶2.5重量部、グリセリン脂肪酸エステル1.0重量部、水84.5重量部、1%着色剤溶液0.5重量部の割合に変更して配合し、固形分濃度が15.7重量%のコーティング溶液を調製した。
以下、上述のコーティング溶液を用いる他は、発明品1と同一の方法により、フィルムコーティング製品(対照品4)の調製を試みたが、製造過程でコーティング溶液の固化が進まず芯材同士が多数結着し、フィルムコーティング層が形成されなかったため、フィルムコーティング製品を得ることはできなかった。
【0094】
(対照品5)
コーティング溶液の原料として、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名:TC−5、信越化学株式会社製)、グリセリン脂肪酸エステル(商品名:MSW−7S)、グリセリン(試薬特級、和光純薬工業株式会社製)、1%着色剤溶液を用いた。それぞれ、ヒドロキシプロピルメチルセルロース10.0重量部、グリセリン脂肪酸エステル1.0重量部、グリセリン1.0重量部、水89.0重量部、1%着色剤溶液0.5重量部の割合で配合し、コーティング溶液を調製した。
以下、上述のコーティング溶液を用いる他は、発明品1と同一の方法により、フィルムコーティング製品(対照品5)を調製した。本対照品5の調製に当り、コーティング層被覆率が3%となるまでに要するコーティング時間は45分であった。
【0095】
(対照品6)
コーティング溶液の原料として、ビール酵母細胞壁含有溶液(商品名:イーストラップ、キリンビール株式会社製)、グリセリン(試薬特級、和光純薬工業株式会社製)、1%着色剤溶液を用いた。それぞれ、ビール酵母細胞壁含有溶液99.0重量部、グリセリン1.0重量部、1%着色剤溶液0.5重量部の割合で配合しコーティング溶液を調製した。
以下、上述のコーティング溶液を用いる他は、発明品1と同一の方法により、フィルムコーティング製品(対照品6)を調製した。本対照品6の調製に当り、コーティング層被覆率が3%となるまでに要するコーティング時間は36分であった。
【0096】
(対照品7)
コーティング溶液の原料として、トウモロコシ蛋白粉末(商品名:ツエインDP、昭和産業株式会社製)、グリセリン(試薬特級、和光純薬工業株式会社製)、95vol%エタノール水溶液(エタノールは試薬特級、和光純薬工業株式会社製)、1%着色剤溶液を用いた。それぞれ、トウモロコシ蛋白粉末8.0重量部、グリセリン1.0重量部、95vol%エタノール水溶液77.0重量部、水14.0重量部、1%着色剤溶液0.5重量部の割合で配合しコーティング溶液を調製した。
以下、上述のコーティング溶液を用いる他は、発明品1と同一の方法により、フィルムコーティング製品(対照品7)を調製した。本対照品7の調製に当り、コーティング層被覆率が3%となるまでに要するコーティング時間は40分であった。
【0097】
(対照品8)
コーティング溶液の原料として、シェラック(商品名:ラックグレース20E、日本シェラック株式会社製)、1%着色剤溶液を用いた。それぞれ、シェラック100.0重量部、1%着色剤溶液0.5重量部の割合で配合しコーティング溶液を調製した。
以下、上述のコーティング溶液を用いる他は、発明品1と同一の方法により、フィルムコーティング製品(対照品8)を調製した。本対照品8の調製に当り、コーティング層被覆率が3%となるまでに要するコーティング時間は60分以上であった。
【0098】
【表2】

【0099】
【表3】

【0100】
【表4】

【0101】
【表5】

【0102】
【表6】

【0103】
【表7】

【0104】
【表8】

【0105】
上記調製例に記載した方法によって調製された発明品1〜12及び対照品1〜8について、評価試験1:フィルムコーティング層表面のヒビ割れ、評価試験2:フィルムコーティング層表面の光沢度、評価試験3:フィルムコーティング層の着色性、評価試験4:フィルムコーティング製品の崩壊度、以上の4項目を評価した。評価試験の実施方法及び評価基準は以下の通りである。
【0106】
(評価試験1)フィルムコーティング層表面のヒビ割れ
各調製例で得られた発明品及び対照品について、それぞれの製品を任意に20検体取出して、相対湿度9%のデシケータ内で、室温下で1ヶ月保管したものについて、目視によりフィルムコーティング層表面のヒビ割れの有無について確認を行い、ヒビ割れの生じたフィルムコーティング製品の数をカウントした。
【0107】
(評価試験2)フィルムコーティング層表面の光沢度
各調製例で得られた発明品及び対照品について、それぞれの製品を任意に5検体取出して、光沢計(装置名:GLOSS METER VG−2000、日本電色工業株式会社製)により、フィルムコーティング製品の光沢度を測定した。該光沢計による光沢度測定では、本装置に備え付の中心部に6mmの円形の孔が開けられた専用の試料台(装置名:φ6アタッチメント)を試料台として用い、75度鏡面光沢方法により、入射角75°、受光角75°の測定条件で5検体測定し、その平均値を製品の光沢度とした。
【0108】
(評価試験3)フィルムコーティング層の艶と着色性
各調製例で得られた発明品及び対照品について、それぞれの製品を任意に5検体取出して、フィルムコーティング層表面の艶と、1%着色剤溶液による黄色の発色具合について、訓練されたパネリストによる目視での評価を行った。黄色の発色具合は、JIS−Z−8721準拠の標準色票光沢版(発行:財団法人日本規格協会、製作:財団法人日本色彩研究所)に記載された各色票と、各調製例で得られた製品を、訓練されたパネリストが対比して、各製品のHV/Cを求める方法で評価した。なおHはHue(色相)、VはValue(明度)、CはChroma(彩度)を現す。
【0109】
(評価試験4)フィルムコーティング製品の崩壊度
各調製例で得られた発明品及び対照品について、それぞれの製品を任意に6検体取出して、崩壊度試験器(装置名:NT−2H、富山産業株式会社製)を用いて、崩壊度を測定した。崩壊度の測定は、第14改正日本薬局方解説書(2001,廣川書店刊行)のB−619頁〜B−628頁に記載の「58.崩壊試験法」に記載された方法に準じて実施される。詳細には、崩壊度試験器に備え付けられている専用のバスケットを受け軸に取り付け、崩壊度試験器内に設置されたビーカー中で、1分間29〜32往復、振幅53〜57mmで滑らかにバスケットが上下運動を行うように調節される。バスケットが最も下がったとき、バスケット底部の網面がビーカーの底から25mmになるようにし、ビーカーに入れる試験液の量は、バスケットが最も下がった時に、バスケットの上面が液の表面に一致するようにし、試験液の温度は37±2℃に保たれる。試験液には純水を用い、測定対象となるフィルムコーティング製品は、バスケット内にある6本のガラス管内にそれぞれ1検体ずつ入れられる。バスケットはあらかじめ温度及び液量を調節したビーカー中の試験液に浸し、一定時間上下運動を行い続け、ガラス管内に残留物が認められなくなるまでに要する時間を崩壊時間として測定する。本発明では、1製品に付き6検体の試験を行い、その平均値から崩壊時間を求め、フィルムコーティング製品の崩壊性を評価した。
【0110】
各調製例で得られた発明品及び対照品のそれぞれについて実施した、上記評価試験1〜4の結果を表9に示す。
【0111】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワキシコーンスターチ由来のヒドロキシアルキル化デキストリン、およびマルチトール含有量が固形物換算で15.0重量%以上99.0重量%以下である糖アルコール組成物、およびHLB値が11〜14であるグリセリン脂肪酸エステル、の3成分を主成分とするフィルムコーティング層。
【請求項2】
固形物換算した含有率が、ヒドロキシアルキル化デキストリンが70.0〜95.0重量%、糖アルコール組成物が3.0〜28.0重量%、およびグリセリン脂肪酸エステルが0.1〜10.0重量%である請求項1記載のフィルムコーティング層。
【請求項3】
ヒドロキシアルキル化デキストリンが、ヒドロキシプロピル化デキストリンである、請求項1又は2に記載のフィルムコーティング層。
【請求項4】
ヒドロキシアルキル化デキストリンのデキストロース当量(DE)が0.1以上5.0未満である、請求項1から3の何れか一つに記載のフィルムコーティング層。
【請求項5】
ヒドロキシアルキル化デキストリンが、架橋剤により架橋されたものである、請求項1から4の何れか一つに記載のフィルムコーティング層。
【請求項6】
ヒドロキシアルキル化デキストリンを、固形分濃度30重量%、温度30℃の水溶液とした時、該水溶液の粘度が50〜350cpである、請求項1から5の何れか一つに記載のフィルムコーティング層。
【請求項7】
糖アルコール組成物を、固形分濃度70重量%、温度25℃の水溶液とした時、該水溶液の粘度が150〜1500cpである、請求項1から6の何れか一つに記載のフィルムコーティング層。
【請求項8】
請求項1から7の何れか一つに記載されたフィルムコーティング層により芯材が被覆された、フィルムコーティング製品。
【請求項9】
固形物換算した含有率が、ワキシコーンスターチ由来のヒドロキシアルキル化デキストリンが70.0〜95.0重量%、マルチトール含有量が固形物換算で15.0重量%以上99.0重量%以下である糖アルコール組成物が3.0〜28.0重量%、グリセリン脂肪酸エステルが0.1〜10.0重量%の範囲で構成されるコーティング溶液を調製し、調製された該コーティング溶液をフィルムコーティング層で被覆されるべき芯材に対して塗布する工程と、芯材周囲に塗布された該コーティング溶液の乾燥工程を、所望のフィルムコーティング層が形成されるまで行うことを特徴とする、フィルムコーティング製品の製造方法。

【公開番号】特開2007−254299(P2007−254299A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−77292(P2006−77292)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(000223090)東和化成工業株式会社 (25)
【Fターム(参考)】