説明

フィルム剥離方法

【課題】 基材と、基材の片面又は両面に貼付されたフィルムとを備えるシート材の厚さが極めて薄い場合であっても、基材からフィルムを確実に剥離することができるフィルム剥離方法を提供する。
【解決手段】 導電性ペーストが充填されたビアホールを有する基材と、その基材の片面又は両面に貼付された保護フィルムとを備えるシート材を、その厚さ方向が鉛直方向と略垂直となるように保持し、その状態で基材から保護フィルムを剥離する。これによれば、シート材の厚さが極めて薄い場合であっても、シート材が自重によって弛んだ状態となることが抑止されるため、基材の折れやペースト取られ等を防止して、基材から保護フィルムを確実に剥離することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、IVH(Interstitial Via Hole)付き多層印刷配線板の製造工程等において使用されるフィルム剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一例として、IVH付き多層印刷配線板は、次のように作製される。まず、ガラス布或いはアラミド繊維布等の基材の表裏両面にプラスチックフィルムを加熱・圧着してシート材を得る。続いて、プラスチックフィルムが表裏両面に貼付された基材の所定の位置にレーザ光線の照射等によって貫通穴を形成し、その貫通穴に印刷等によって導電性ペーストを充填する。その後、プラスチックフィルムを基材から剥離して、導電性ペーストが充填されたビアホールを有する基材を得る。そして、その基材を用いて、銅張積層板又は多層基板の工法や回路パターンニング等によってIVH付き多層印刷配線板を作製する。
【0003】
上述したプラスチックフィルムの剥離は、次のようなフィルム剥離方法によって行われるのが従来一般的である(例えば、特許文献1参照)。すなわち、シート材を水平に保持した状態で移送させ、シート材の先端の非接触部分を真空吸引し、プラスチックフィルムをめくりあげて基材の先端を露出させる。続いて、基材の先端を取出しチャックで狭持し、プラスチックフィルムと基材とを同期した所定の速度で移動させることでプラスチックフィルムを基材から剥離する。
【特許文献1】特許第3473337号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来一般的なフィルム剥離方法にあっては、シート材の移送方向に対して垂直方向(幅方向)におけるシート材の両縁部(例えば、10〜15mm程度)をローラ又はチャックで挟持し、シート材を水平に保持した状態でシート材を移送させるため、幅方向に十分な張力をかけることができず、シート材が自重によって弛んだ状態となってしまう。このようなシート材の弛みは、100μm以下というようにシート材の厚さが薄くなるほど、剛性の低下によって顕著となることが確認されている。
【0005】
そして、シート材が弛んだ状態でプラスチックフィルムを基材から剥離すると、姿勢が不安定であるため、剥離時の幅方向への張力が不均一となり、その結果、基材に折れが発生したり、ビアホール内の導電性ペーストがプラスチックフィルムと一緒にもっていかれる現象(以下、「ペースト取られ」という)が発生したりする問題がある。また、シート材が弛んだ状態では、基材の先端を取出しチャックで狭持することができない問題もある。
【0006】
そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、基材と、基材の片面又は両面に貼付されたフィルムとを備えるシート材の厚さが極めて薄い場合であっても、基材からフィルムを確実に剥離することができるフィルム剥離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係るフィルム剥離方法は、基材と、基材の片面又は両面に貼付されたフィルムとを備えるシート材を、その厚さ方向が鉛直方向と略垂直となるように保持し、その状態で基材からフィルムを剥離することを特徴とする。
【0008】
このフィルム剥離方法によれば、シート材の厚さが極めて薄い場合であっても、シート材が自重によって弛んだ状態となることが抑止されるため、基材の折れやペースト取られ等の発生を防止して、基材からフィルムを確実に剥離することができる。
【0009】
本発明に係るフィルム剥離方法においては、シート材の保持は、少なくとも対向する二辺をチャックすることで行われてもよいし、真空吸着によって行われてもよい。
【0010】
本発明に係るフィルム剥離方法は、シート材の厚さが10μm〜100μmである場合や、基材の厚さが5μm〜60μmである場合に特に有効である。
【0011】
本発明に係るフィルム剥離方法においては、基材は、樹脂に含浸された繊維で形成されている場合や、プリプレグである場合があり、基材がプリプレグである場合には、プリプレグは、導電性部材が充填された貫通穴を有する場合がある。また、フィルムは、プラスチックフィルムである場合や、ポリエチレンフィルムである場合がある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、基材と、基材の片面又は両面に貼付されたフィルムとを備えるシート材の厚さが極めて薄い場合であっても、基材からフィルムを確実に剥離することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
本実施形態におけるフィルム剥離方法は、例えば、IVH付き多層印刷配線板の製造工程等において使用され、次のように実施される。すなわち、導電性ペーストが充填されたビアホールを有する基材と、その基材の片面又は両面に貼付(添付)された保護フィルムとを備えるシート材を、その厚さ方向が鉛直方向と略垂直となるように保持し、その状態で基材から保護フィルムを剥離する。
【0015】
このとき、シート材の保持は、チャッキング装置を用いて、少なくとも対向する二辺(例えば、基材の上下二辺)をチャックすることで行われることが好ましい。更に、シート材の保持は、鉛直方向に立設された真空吸着台を用いて、真空吸着によって行われることがより好ましい。これらによれば、シート材の厚さ方向が鉛直方向と略垂直となるようにシート材を確実に保持することができる。
【0016】
上述したフィルム剥離方法によれば、シート材の厚さが極めて薄い場合であっても、シート材が自重によって弛んだ状態となることが抑止されるため、基材の折れやペースト取られ等の発生を防止して、基材から保護フィルムを確実に剥離することができる。
【0017】
ところで、シート材を水平に保持した場合におけるシート材の自重による弛みは、100μm以下というようにシート材の厚さが薄くなるほど、剛性の低下によって顕著となることが確認されている。そのため、上述したフィルム剥離方法は、シート材の厚さが10μm〜100μmである場合や、基材の厚さが5μm〜60μmである場合に特に有効である。
【0018】
なお、基材は、樹脂に含浸された繊維で形成されている場合や、プリプレグである場合があり、基材がプリプレグである場合には、プリプレグは、導電性の樹脂等の導電性部材が充填された貫通穴を有する場合がある。また、保護フィルムは、プラスチックフィルムである場合や、ポリエチレンフィルムである場合がある。これらの場合にも、上述したフィルム剥離方法を好適に使用することが可能である。
【実施例1】
【0019】
[実施例1]
図1に示されるように、厚さ:50μm、外形寸法:512mm×612mmのプリプレグ(基材)1に、厚さ:21μm、外形寸法:514mm×612mmのプラスチックフィルム(フィルム)2を加熱・圧着してシート材を得た。その後、シート材に形成したビアホール(貫通穴)3に導電性ペースト(導電性部材)を充填して導電性ペースト入りのシート材4を作製した。
【0020】
続いて、シート材4の上下二辺(対向する二辺)においてプリプレグ1からプラスチックフィルム2の一部2aを10mm程度剥離してチャッキング代を設け、チャッキング装置5を用いてチャッキング代をチャックして、シート材4を鉛直方向下向きに懸垂させた。これにより、シート材4は、その自重によって真っ直ぐに垂れ下がった。その状態において、シート材4に対して仰角45℃の角度でプリプレグ1からプラスチックフィルム2を剥離したところ、プリプレグ1の折れ等が発生することなく安定的に剥離を実施することができた。
【0021】
[実施例2]
図2に示されるように、実施例1と同様のシート材4を準備し、鉛直方向に立設された真空吸着台6を用いて、シート材4の周縁部を吸着パッド7によって真空吸着することでシート材4を保持した。その状態において、シート材4に対して仰角45℃の角度でプリプレグ1からプラスチックフィルム2を剥離したところ、プリプレグ1の折れ等が発生することなく安定的に剥離を実施することができた。この真空吸着台6を用いる方法は、チャッキング装置5を用いる方法のようにチャッキング代を設ける必要がないため、より好適である。
【0022】
[比較例1]
図3に示されるように、実施例1と同様のシート材4を準備し、シート材4の左右二辺でプリプレグ1からプラスチックフィルム2の一部2aを10mm程度剥離してチャッキング代を設け、チャッキング装置5を用いてチャッキング代をチャックして、612mm幅の間隔をあけてシート材4を支持台8上に水平に載置した。その状態において、シート材4に対して仰角45℃の角度でプリプレグ1からプラスチックフィルム2を剥離した。このとき、チャッキング装置5に張力をかけず、端部を抑える程度にした。これは、従来の剥離搬送保持方法の「コンベアの張力をかけない状態」を再現するためである。
【0023】
次に、実施例1及び比較例1のフィルム剥離方法を使用して、それぞれ50枚のシート材4に対して剥離実験を行った。評価は、50枚のプリプレグ1における折れの発生率、及び4000個のビアホール3におけるペースト取られの発生率で行った。その結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
表1に示されるように、折れの発生率については、実施例1のフィルム剥離方法では0%であったのに対し、比較例1のフィルム剥離方法では4%であった。また、ペースト取られの発生率については、実施例1のフィルム剥離方法では0.06%であったのに対し、比較例1のフィルム剥離方法では1.8%であり、実施例1のフィルム剥離方法の30倍であることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例1のフィルム剥離方法を示す概略図である。
【図2】実施例2のフィルム剥離方法を示す概略図である。
【図3】比較例1のフィルム剥離方法を示す概略図である。
【符号の説明】
【0027】
1…プリプレグ(基材)、2…プラスチックフィルム(フィルム)、3…ビアホール(貫通穴)、4…シート材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の片面又は両面に貼付されたフィルムとを備えるシート材を、その厚さ方向が鉛直方向と略垂直となるように保持し、その状態で前記基材から前記フィルムを剥離することを特徴とするフィルム剥離方法。
【請求項2】
前記シート材の保持は、少なくとも対向する二辺をチャックすることで行われることを特徴とする請求項1記載のフィルム剥離方法。
【請求項3】
前記シート材の保持は、真空吸着によって行われることを特徴とする請求項1記載のフィルム剥離方法。
【請求項4】
前記シート材の厚さは10μm〜100μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載のフィルム剥離方法。
【請求項5】
前記基材の厚さは5μm〜60μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載のフィルム剥離方法。
【請求項6】
前記基材は、樹脂に含浸された繊維で形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載のフィルム剥離方法。
【請求項7】
前記基材はプリプレグであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載のフィルム剥離方法。
【請求項8】
前記プリプレグは、導電性部材が充填された貫通穴を有することを特徴とする請求項7記載のフィルム剥離方法。
【請求項9】
前記フィルムはプラスチックフィルムであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項記載のフィルム剥離方法。
【請求項10】
前記フィルムはポリエチレンフィルムであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項記載のフィルム剥離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−283761(P2007−283761A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−67106(P2007−67106)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】