説明

フィルム状光導波路の製法

【課題】光伝達が良好なフィルム状の光導波路を効率よく生産することができるフィルム状光導波路の製法を提供する。
【解決手段】1個ないし複数個の光導波路予定部が形成されてなるフィルム体Fから、光導波路Aの光入射端面1および光出射端面2〜4に形成する面を、レーザー光により切断し、光導波路Aの路側面5〜8に形成する面を、金型による打ち抜きにより切断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信,光情報処理,その他一般光学で広く用いられるフィルム状光導波路の製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光導波路は、光導波路デバイス,光集積回路,光配線基板等の光デバイスに組み込まれており、光通信,光情報処理,その他一般光学の分野で広く用いられている。光導波路としては、例えば、アンダークラッド層上に、コア層が所定パターンに形成され、このコア層を包含するようにオーバークラッド層が形成された三層構造のフィルム状のものがあげられる。
【0003】
このようなフィルム状光導波路は、通常、複数個の光導波路予定部が形成されてなるフィルム体から、その光導波路予定部を1片毎に、ダイヤモンドブレード(ダイヤモンド微粒子が分散された回転刃)で切断することにより得られる。
【0004】
また、上記フィルム体をシリコンや石英等の基板上に作製した場合には、上記光導波路予定部は1片毎に、ダイヤモンドブレードにより、基板とともに切断され、光導波路に形成される(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−172839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ダイヤモンドブレードによる切断では、切断面の平滑性を確保することが困難である。特に、切断面のうち光入射端面および光出射端面の平滑性が不充分であると、光損失が悪化し、光伝達に支障をきたす。
【0006】
一方、上記フィルム状光導波路は、フレキシブルであり、様々な光デバイスに組み込むことができるものとして賞用され、また、光デバイスの形状等に対応して、外形(切断面の平面視)を曲線や折線等にすることが要請されている。しかしながら、ダイヤモンドブレードは回転刃であるため、直線的な切断しかできず、上記曲線等の外形にするためには、他の切断方法を採用するしかない。このため、ダイヤモンドブレードにより1片毎に切断するフィルム状光導波路の製法では、生産効率が悪い。
【0007】
そこで、本発明者らは、金型による打ち抜きによる切断方法を試みた。その結果、生産効率は向上するものの、切断により形成された光入射端面および光出射端面の平滑性は充分に向上させることはできなかった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、光伝達が良好なフィルム状光導波路を効率よく生産することができるフィルム状光導波路の製法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明のフィルム状光導波路の製法は、1個ないし複数個の光導波路予定部が形成されてなるフィルム体から、光導波路予定部を1片毎に切断して光入射端面および光出射端面を備えた光導波路に形成するフィルム状光導波路の製法であって、上記切断に際し、上記光入射端面および光出射端面の切断を、レーザー光により行い、上記端面以外の部分の切断を、金型による打ち抜きにより行うという構成をとる。
【0010】
この発明において、「フィルム状光導波路」とは、光が伝搬するコア層を、このコア層よりも屈折率の小さいクラッド層で包含するように構成した薄膜状積層体のことをいう。また、「光入射端面」とは、光が入射する光導波路の一端面のことであり、「光出射端面」とは、光が出射する光導波路の他端面のことである。
【0011】
本発明者らは、上記テスト(試み)の結果に基づき、光伝達が良好なフィルム状光導波路を効率よく生産すべく、1個ないし複数個の光導波路予定部が形成されてなるフィルム体から、光導波路予定部を1片毎に切断する方法について、さらに研究を重ねた。その結果、光入射端面および光出射端面の切断を、レーザー光により行うと、切断面が綺麗に仕上がって平滑性が充分に向上し、得られた光導波路の光伝達が良好になることを突き止めた。そして、これと組み合わせて、上記光入射端面および光出射端面以外の部分(以下「路側面」という)の切断を、金型による打ち抜きにより行うと、路側面の平面視が曲線や折線等であっても、簡単に切断することができ、切断面の高精度化と併せて、光導波路の高生産性を確保できることを見出し、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0012】
本発明のフィルム状光導波路の製法は、1個ないし複数個の光導波路予定部が形成されてなるフィルム体から、光導波路予定部を1片毎に切断する際に、光入射端面および光出射端面の切断を、レーザー光により行い、路側面の切断を、金型による打ち抜きにより行うため、光伝達が良好なフィルム状光導波路を効率よく生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施の形態を図面にもとづいて詳しく説明する。
【0014】
本発明のフィルム状光導波路の製法は、複数個の光導波路予定部Bが形成されてなるフィルム体F(図5参照)から、光導波路Aの路側面5〜8(図7参照)に形成する面を、金型による打ち抜きにより切断し、光導波路Aの光入射端面1および光出射端面2〜4(図7参照)に形成する面を、レーザー光により切断することにより、フィルム状光導波路A(図8参照)を得る方法である。
【0015】
より詳しく説明すると、まず、複数個の光導波路予定部Bが形成されてなる上記フィルム体F(図5参照)を作製する。このフィルム体Fは、従来より行われている製法により、作製することができる。すなわち、まず、アンダークラッド層21(図1参照)として用いるポリイミド樹脂フィルムを準備する。このポリイミド樹脂フィルムは、以降のフィルム体Fの作製工程および光導波路予定部Bの切断工程が連続して行うことができるよう、ロール状に巻装されたロール体とし、そのロール体から繰り出して用いるようにすることが好ましい。また、ポリイミド樹脂フィルム(アンダークラッド層21)の厚みは、1〜30μmの範囲、好ましくは5〜15μmの範囲である。
【0016】
つぎに、図1に示すように、上記ポリイミド樹脂フィルム(アンダークラッド層21)上に、このポリイミド樹脂フィルム(アンダークラッド層21)よりも屈折率の高い材料からなる感光性ポリイミド樹脂前駆体溶液(感光性ポリアミド酸ワニス)を、乾燥後の膜厚が2〜30μm、好ましくは6〜10μmとなるよう塗布し、初期乾燥でコア層22(図3参照)となる感光性ポリイミド樹脂前駆体層22aを形成する。ついで、各光導波路予定部B(図4参照)において所望のパターンが得られるように、図2に示すように、感光性ポリイミド樹脂前駆体層22a上をフォトマスクMで覆い、その上方から紫外線Lを照射する。本発明においては、上記紫外線Lの照射における露光量は5〜50mJ/cm2 で充分な解像が可能である。その後、光反応を完結させるために、Post Exposure Bake(PEB)と呼ばれる露光後の熱処理を行い、現像液を用いて現像を行う(ウェットプロセス法)。そして、現像によって得られた所望のパターンをイミド化するために、通常、熱処理を行う。この際の加熱温度は、一般的に300〜400℃であり、真空下または窒素雰囲気下で脱溶剤と硬化反応(キュア)を行うものである。このようにしてイミド化することにより、図3に示すように、ポリイミド樹脂製のパターンとなるコア層22を形成する。
【0017】
上記現像における現像液としては、特に限定するものではないが、例えば、アルカリ性のアルコール水溶液が用いられる。より具体的には、解像性が良好で、現像速度が制御しやすいという観点から、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドおよびエタノールの混合水溶液が好ましく用いられる。上記混合水溶液におけるテトラメチルアンモニウムヒドロキシドの占める割合は2〜10重量%の範囲に、またエタノールの占める割合は40〜50重量%の範囲にそれぞれ設定することが好ましい。
【0018】
ついで、図4に示すように、上記コア層22上に、上記コア層22よりも屈折率の低い形成材料からなるポリイミド樹脂前駆体溶液を乾燥後の最大の膜厚が1〜30μm、好ましくは5〜15μmとなるよう塗布し、乾燥させることによりポリイミド樹脂前駆体組成物からなる樹脂層を形成する。ついで、不活性雰囲気下、加熱することにより上記樹脂層中の残存溶媒の除去およびポリイミド樹脂前駆体のイミド化を完結させることにより、コア層22を包含するようにポリイミド樹脂製のオーバークラッド層23を形成する。このようにして、各光導波路予定部Bが形成される。
【0019】
このようにして作製されたフィルム体の平面視は、図5に示すようになっており、上記各光導波路予定部Bにおけるコア層22のパターンは、この実施の形態では、一端側(図5では左側)から入射した光が異なる3方向(図5では右上方向,右方向,右下方向)に分かれて伝搬するように形成されたものとなっている。すなわち、上記各光導波路予定部Bの一端面11(図5では左端面)が切断により光導波路Aの光入射端面1(図7参照)に形成され、上記異なる3方向の先端面12〜14が切断により光導波路Aの光出射端面2〜4(図7参照)に形成され、上記コア層22のパターンに沿った各光導波路予定部Bの側面15〜18が切断により光導波路Aの路側面5〜8(図7参照)に形成される。なお、上記コア層22は、切断面(一端面11,先端面12〜14)から少しはみ出すように形成しておく。
【0020】
本発明では、つぎに、これを特定の方法により切断処理する。すなわち、上記フィルム体Fにおける各光導波路予定部Bの側面15〜18を金型による打ち抜きにより切断し、図6に示すように、光導波路A(図7参照)の路側面5〜8に形成する。このように、金型による打ち抜きにより切断すると、切断面(路側面5〜8)の平面視が折線等の非直線状であっても、簡単に切断することができ、光導波路Aの高生産性を確保することができる。
【0021】
つぎに、上記各光導波路予定部Bの一端面11(図6では左端面)をレーザー光により切断し、図7に示すように、光導波路Aの光入射端面1に形成する。また、上記異なる3方向の先端面(他端面)12〜14(図6参照)もレーザー光により切断し、光導波路Aの光出射端面2〜4に形成する。これにより、光を伝搬するコア層22の先端部分が切断され、上記光入射端面1および光出射端面2〜4にコア層22の端面が現れる。このようにして、図8に示すような光導波路Aが得られる。すなわち、レーザー光により切断すると、切断面(光入射端面1,光出射端面2〜4)が綺麗になって平滑性が充分に向上し(高精度な切断面となり)、得られた光導波路Aの光伝達が良好になる。なお、 レーザー光としては、特に限定されないが、エキシマレーザー光等があげられる。また、切断する際の加工精度を上げるために、上記フィルム体をガラス基板やステンレス基板等の平面ステージに一時的に仮固定することが好ましい。この固定方法としては、加熱剥離性粘着シートに固定する方法やエアー吸着による方法等があげられる。
【0022】
なお、上記実施の形態では、上記フィルム体Fの作製において、アンダークラッド層21として、ポリイミド樹脂フィルムを用いたが、これに代えてエポキシ樹脂フィルム等の他の樹脂フィルムを用いてもよい。この場合、コア層22として、感光性エポキシ樹脂等の、上記アンダークラッド層21と同種類の樹脂を用い、オーバークラッド層23としても、エポキシ樹脂等の、上記アンダークラッド層21と同種類の樹脂を用いることが好ましい。
【0023】
また、上記実施の形態では、光導波路予定部Bを切断する際に、光導波路Aの路側面5〜8に形成する面を切断した後に、光導波路Aの光入射端面1に形成する面および光出射端面2〜4に形成する面を切断したが、切断順序を逆にして、光入射端面1に形成する面および光出射端面2〜4に形成する面を切断した後に、路側面5〜8に形成する面を切断してもよい。また、上記実施の形態では、フィルム体Fに光導波路予定部Bを複数個形成したが、1個でもよい。
【0024】
このようにして得られたフィルム状光導波路Aとしては、例えば、直線光導波路,曲がり光導波路,交差光導波路,Y分岐光導波路,スラブ光導波路,マッハツエンダー型光導波路,グレーティング,光導波路レンズ等があげられる。そして、これら光導波路を用いた光デバイスとしては、波長フィルタ,光スイッチ,光分岐器,光合波器,光合分波器,光アンプ,波長変換器,波長分割器,光スプリッタ,方向性結合器,光電気混載基板,さらにはレーザダイオードやフォトダイオードをハイブリッド集積した光伝送モジュール等があげられる。
【0025】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。
【実施例】
【0026】
〔実施例1〕
図5に示すフィルム体を下記のようにして作製した後、光導波路を下記のようにして形成した。
【0027】
〔フィルム体の作製〕
アンダークラッド層として帯状のエポキシ樹脂フィルム(幅250mm、長さ30m、厚み30μm、屈折率1.55)を準備し、その上の光導波路予定部に、感光性エポキシ樹脂を用いて、所定パターンのコア層(幅50μm、高さ50μm、屈折率1.62)を形成した。ついで、そのコア層上に、エポキシ樹脂液を塗布した後硬化させ、オーバークラッド層(厚み30μm、屈折率1.55)を形成した。これにより、複数個の光導波路予定部が形成されてなる帯状のフィルム体(厚み150μm)を作製した。
【0028】
〔光導波路の形成〕
そして、上記フィルム体における光導波路予定部の側面を金型による打ち抜きにより切断し、光導波路の路側面に形成した。つぎに、上記光導波路予定部の一端面をレーザー光により切断し、光導波路の光入射端面に形成し、異なる3方向の先端面もレーザー光により切断し、光導波路の光出射端面に形成し、光導波路を得た。
【0029】
〔比較例1〕
上記実施例1において、光導波路を形成する際に、光導波路予定部の切断を全面、金型による打ち抜きにより行った。それ以外は、上記実施例1と同様にした。
【0030】
〔光損失の測定〕
このようにして得られた実施例1および比較例1のフィルム状光導波路に対して、光入射端面から波長850nmのレーザー光を入射させたときの光損失を測定した。その結果、実施例1の光導波路の光損失は1.5dBであり、比較例1のそれは、30dBであった。すなわち、実施例1では、光伝達が良好なフィルム状光導波路を得ることができた。
【0031】
〔実施例2〕
〔フィルム体の作製〕
アンダークラッド層として帯状のフッ素化ポリイミド樹脂フィルム(幅250mm、長さ30m、厚み20μm、屈折率1.51)を準備し、その上の各光導波路予定部に、感光性ポリイミド樹脂を用いて、所定パターンのコア層(幅8μm、高さ8μm、屈折率1.54)を形成した。ついで、そのコア層上に、ポリアミド酸溶液(ポリイミド樹脂前駆体溶液)を塗布した後イミド化し、ポリイミド樹脂からなるオーバークラッド層(厚み20μm、屈折率1.51)を形成した。これにより、複数個の光導波路予定部が形成されてなる帯状のフィルム体(厚み48μm)を作製した。
【0032】
〔光導波路の形成〕
そして、上記実施例1と同様にして、光導波路を得た。
【0033】
〔比較例2〕
上記実施例2において、光導波路を形成する際に、光導波路予定部の切断を全面、金型による打ち抜きにより行った。それ以外は、上記実施例1と同様にした。
【0034】
〔光損失の測定〕
このようにして得られた実施例2および比較例2のフィルム状光導波路に対して、光入射端面から波長1550nmのレーザー光を入射させたときの光損失を測定した。その結果、実施例2の光導波路の光損失は3dBであり、比較例2のそれは、40dBであった。すなわち、実施例2では、光伝達が良好なフィルム状光導波路を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のフィルム状光導波路の製法の一実施の形態を模式的に示す断面図である。
【図2】上記フィルム状光導波路の製法を模式的に示す断面図である。
【図3】上記フィルム状光導波路の製法を模式的に示す断面図である。
【図4】上記フィルム状光導波路の製法を模式的に示す断面図である。
【図5】上記フィルム状光導波路の製法におけるフィルム体を模式的に示す平面図である。
【図6】上記フィルム状光導波路の製法を模式的に示す平面図である。
【図7】上記フィルム状光導波路の製法を模式的に示す平面図である。
【図8】上記フィルム状光導波路の製法により得られた光導波路を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0036】
A 光導波路
F フィルム体
1 光入射端面
2〜4 光出射端面
5〜8 路側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1個ないし複数個の光導波路予定部が形成されてなるフィルム体から、光導波路予定部を1片毎に切断して光入射端面および光出射端面を備えた光導波路に形成するフィルム状光導波路の製法であって、上記切断に際し、上記光入射端面および光出射端面の切断を、レーザー光により行い、上記端面以外の部分の切断を、金型による打ち抜きにより行うことを特徴とするフィルム状光導波路の製法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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