説明

フィルム状基板およびその製造方法

【課題】ガスバリア性に優れたフィルム状基板を提供する。
【解決手段】フレキシブルフィルム11と、フレキシブルフィルム11の上に形成され、メチル基が少なくとも1つ付加したSi原子16と、フレキシブルフィルム11に含まれる原子と共有結合したO原子17とで構成されるシロキシ基18を含む密着層12と、密着層12の上に形成され、Si−O結合およびSi−CH結合の少なくともいずれかを含むガスバリア層13と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム状基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の携帯型情報端末等の普及に伴い、これらの端末等に搭載されるディスプレイには薄型化および軽量化が強く求められている。さらに、最近では、これらに加えて耐衝撃性や柔軟性にも優れるディスプレイの需要が高まりつつある。そこで、ディスプレイを構成している現行のガラス基板に代えて、フレキシブルフィルムを用いたフィルム状基板を用いることが検討されている(例えば、特許文献1,2)。
【0003】
しかしながら、フィルム状基板を構成するフレキシブルフィルムは、ガラス基板と比較してガスバリア性が劣る。そのため、ディスプレイが使用状態に置かれると、フレキシブルフィルム上に形成された表示素子が、フレキシブルフィルムを介して浸入してきた水分や酸素に触れることで、経時的に劣化するおそれがある。表示素子の劣化は、ディスプレイの表示領域における非発光部(ダークスポット)の発生や輝度低下等の原因となる。
【0004】
この問題に対処するため、フレキシブルフィルムの上に無機薄膜等からなるガスバリア層を設けたフィルム状基板が検討されている。このようなフィルム状基板の上に表示素子を形成することで、使用環境中に含まれる水分や酸素が、フレキシブルフィルムを介して表示素子に浸入することを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−25732号公報
【特許文献2】特開2006−44231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2をはじめとして、フィルム状基板のガスバリア性を向上させるための様々な技術が提案されているものの、十分なガスバリア性が得られていないというのが現状である。
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、ガスバリア性に優れたフィルム状基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様であるフィルム状基板は、フレキシブルフィルムと、前記フレキシブルフィルムの上に形成され、メチル基が少なくとも1つ付加したSi原子と、前記フレキシブルフィルムに含まれる原子と共有結合したO原子とで構成されるシロキシ基を含む密着層と、前記密着層の上に形成され、Si−O結合およびSi−CH結合の少なくともいずれかを含むガスバリア層と、を備える構成とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によると、ガスバリア性に優れたフィルム状基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】(a)フィルム状基板10の構成を示す部分断面図と、(b)フレキシブルフィルム11,密着層12,ガスバリア層13付近の模式部分拡大図である。
【図2】フレキシブルフィルム11,密着層12,ガスバリア層13付近の模式部分拡大図である。
【図3】フィルム状基板10の製造工程例を示す図である。
【図4】フィルム状基板10の製造工程例を示す図である。
【図5】(a),(b),(c)カルシウムテストに用いた実験用フィルム状基板の構造を示す模式断面図と、(d)カルシウムテストの結果を示す図である。
【図6】変形例(1)に係るフィルム状基板10Aの構成を示す部分断面図である。
【図7】各種フィルム状基板の構造と、各々の基板の水蒸気透過率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪本発明の一態様の概要≫
本発明の一態様に係るフィルム状基板は、フレキシブルフィルムと、前記フレキシブルフィルムの上に形成され、メチル基が少なくとも1つ付加したSi原子と、前記フレキシブルフィルムに含まれる原子と共有結合したO原子とで構成されるシロキシ基を含む密着層と、前記密着層の上に形成され、Si−O結合およびSi−CH結合の少なくともいずれかを含むガスバリア層と、を備える。
【0011】
従来のガスバリア層は、フレキシブルフィルムに対して密着性を有していなかったため、フレキシブルフィルムとガスバリア層との界面で剥離が生じやすく、その結果、ガスバリア性が乏しいという問題がある。
そこで、本発明の一態様であるフィルム状基板では、フレキシブルフィルムとガスバリア層の間に、メチル基が少なくとも1つ付加したSi原子(ケイ素原子)と、フレキシブルフィルムに含まれる原子と共有結合したO原子(酸素原子)とで構成されるシロキシ基を含む密着層が介挿されている。密着層に含まれる上記化合物には、Si−O結合およびSi−CH3結合が含まれるが、ガスバリア層には、これらのSi−O結合、Si−CH3結合のうち少なくともいずれかを含んでいる。すなわち、密着層およびガスバリア層には、Si−O結合およびSi−CH3結合のいずれか、または両方が共通して含まれることになり、その結果、密着層に含まれる結合とガスバリア層に含まれる結合とで相互作用が起こる。
【0012】
また、密着層のSi原子と共有結合しているシロキシ基のO原子は、フレキシブルフィルムに含まれる原子とも共有結合しているため、フレキシブルフィルムと密着層との密着性は高い。したがって、密着層を介して、フレキシブルフィルムとガスバリア層との間で密着性を持たせることができる結果、フィルム状基板のガスバリア性が向上する。
本発明の一態様によると、ガスバリア性に優れたフィルム状基板を提供することができる。
【0013】
また、本発明の一態様に係るフィルム状基板の特定の局面では、前記シロキシ基は、トリメチルシロキシ基である。
また、本発明の一態様に係るフィルム状基板の特定の局面では、前記密着層は、前記メチル基が少なくとも1つ付加したSi原子を含むシロキシ基からなる化合物の単分子膜の厚さ以上、1nmの厚さ以下である。
【0014】
また、本発明の一態様に係るフィルム状基板の特定の局面では、前記フレキシブルフィルムは、樹脂製である。
また、本発明の一態様に係るフィルム状基板の特定の局面では、前記フレキシブルフィルムは、ポリイミド系樹脂を含む。
また、本発明の一態様に係るフィルム状基板の特定の局面では、前記ガスバリア層は、有機−無機ハイブリッドポリマーである。
【0015】
また、本発明の一態様に係るフィルム状基板の特定の局面では、前記ガスバリア層の上に、さらに、アクリル系材料を含む保護層が形成される。
本発明の一態様に係るフィルム状基板の製造方法は、表面にヒドロキシル基が付加したフレキシブルフィルムを準備する第1工程と、前記ヒドロキシル基に対し、メチル基が少なくとも1つ付加したSi原子を有する物質を反応させることにより、前記フレキシブルフィルムの上に、前記Si原子と前記ヒドロキシル基のO原子とで構成されたシロキシ基からなる化合物を含む密着層を形成する第2工程と、前記密着層の上に、Si−O結合およびSi−CH結合の少なくともいずれかを含むガスバリア層を形成する第3工程と、を含む。
【0016】
また、本発明の一態様に係るフィルム状基板の製造方法の特定の局面では、前記第1工程において、前駆体樹脂製フィルムの表面に紫外線を照射することにより、前記フレキシブルフィルムとする。
また、本発明の一態様に係るフィルム状基板の製造方法の特定の局面では、前記前駆体樹脂製フィルムは、ポリイミド系樹脂を含む。
【0017】
また、本発明の一態様に係るフィルム状基板の製造方法の特定の局面では、前記第2工程において、前記物質はヘキサメチルジシラザンであり、気体状の前記ヘキサメチルジシラザンを、常圧で前記ヒドロキシル基と反応させることにより、前記密着層を形成する。
また、本発明の一態様に係るフィルム状基板の製造方法の特定の局面では、前記ガスバリア層は、有機−無機ハイブリッドポリマーである。
【0018】
また、本発明の一態様に係るフィルム状基板の製造方法の特定の局面では、さらに、前記ガスバリア層の上に、アクリル系材料を含む保護層を形成する第4工程を含む。
≪実施の態様≫
[フィルム状基板の構成]
図1(a)は、フィルム状基板10の構成を示す部分断面図である。図1(a)に示すように、フィルム状基板10は、フレキシブルフィルム11、密着層12、ガスバリア層13、保護層14を備える。
【0019】
<フレキシブルフィルム11>
フレキシブルフィルム11はフィルム状基板10の基材となる部分であり、例えば、ポリイミド樹脂、ポリエチレン2,6−ナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル系樹脂等の材料で形成することが出来る。本実施の態様におけるフレキシブルフィルム11は、ポリイミド系樹脂で構成されていることとする。
【0020】
<密着層12,ガスバリア層13>
フレキシブルフィルム11の上には、密着層12が形成されている。密着層12は、フレキシブルフィルム11と後述するガスバリア層13との密着性を向上させる目的で設けられている。
図1(b)は、フレキシブルフィルム11,密着層12,ガスバリア層13付近の模式部分拡大図である。図1(b)に示すように、密着層12は、メチル基が3つ付加したケイ素原子(Si原子)16と、フレキシブルフィルム11に含まれる原子と共有結合した酸素原子(O原子)17とで構成されるシロキシ基18を含む。すなわち、本実施の態様におけるシロキシ基18は、トリメチルシロキシ基である。
【0021】
シロキシ基18における酸素原子17は、フィルム状基板の製造方法の項で述べるように、フレキシブルフィルム11の材料であるポリイミド系樹脂に含まれる原子(フレキシブルフィルム11に含まれる原子)と共有結合した酸素原子である。すなわち、密着層のSi原子と共有結合しているシロキシ基のO原子は、フレキシブルフィルム11に含まれる原子とも共有結合しているため、フレキシブルフィルム11と密着層12との密着性は非常に高いものとなっている。なお、シロキシ基18のO原子17と共有結合した「フレキシブルフィルム11に含まれる原子」とは、シロキシ基18のO原子17に隣接する原子を指しており、フレキシブルフィルム11の材料としてポリイミド系樹脂を用いた場合は、炭素原子である。
【0022】
ここで、密着層12は、メチル基が3つ付加したケイ素原子(Si原子)16を含むシロキシ基18からなる化合物の単分子膜の厚さ以上、1[nm]の厚さ以下であることが望ましい。「メチル基が3つ付加したケイ素原子16を含むシロキシ基18からなる化合物」とは、シロキシ基の酸素原子17から、ケイ素原子16に付加した一のメチル基までの部分23を指す。フィルム状基板10を、発光素子を形成する基板として用い、かつ、発光素子から出射した光をフレキシブルフィルム11側から取り出す場合、出射光が密着層12で吸収されるおそれがある。しかしながら、密着層12を上記のような膜厚にすることにより、密着層12において出射光が吸収されることを抑制し、光取り出し効率の低下を防止することが可能である。
【0023】
図1(a)に戻り、密着層12の上にはガスバリア層13が形成されている。ガスバリア層13は、使用状態においてフレキシブルフィルム11を介して浸入してきた水分や酸素が、フィルム状基板10の上に形成されるデバイス層15に到達するのを抑制する目的で形成されている。ガスバリア層13の膜厚は、例えば、1[μm]程度である。
図1(b)に示すように、ガスバリア層13は、Si−O結合とSi−CH結合を含むように形成されている。本実施の態様におけるガスバリア層13は、例えば、図1(b)に示すような繰り返し単位を有する有機−無機ハイブリッドポリマーで構成されている。
【0024】
ここで、上述したように、密着層12に含まれるシロキシ基18のケイ素原子16には、メチル基が少なくとも1つ付加しているので、密着層12には、少なくともSi−O結合とSi−CH結合が含まれる。すなわち、密着層12とガスバリア層13には、Si−O結合とSi−CH結合が共通して含まれる。
一般的に、同種の結合同士の間では相互作用が生じることが知られている。ここでの「相互作用」とは、例えばファンデルワールス力、水素結合、双極子相互作用等の分子間力等が考えられる。したがって、密着層12に含まれるSi−O結合とガスバリア層13に含まれるSi−O結合との間、および、密着層12に含まれるSi−CH結合とガスバリア層13に含まれるSi−CH結合との間で相互作用を生じさせることができる。この相互作用により、密着層12とガスバリア層13との密着性を向上させることが可能である。また、上述したように、フレキシブルフィルム11と密着層12との密着性も高い。よって、密着層12を介して、フレキシブルフィルム11とガスバリア層13との間で密着性を持たせることができ、その結果、フィルム状基板10において優れたガスバリア性を発揮することできる。
【0025】
図1においては、密着層12に含まれるシロキシ基18がトリメチルシロキシ基であり、また、ガスバリア層13にはSi−O結合とSi−CH結合の両方が含まれることとしたが、本発明はこれに限られない。
図2(a),(b)は、フレキシブルフィルム11,密着層12,ガスバリア層13付近の模式部分拡大図である。
【0026】
図2(a)に示す密着層12Aにおけるシロキシ基18A,18A’のように、ケイ素原子にはメチル基が少なくとも1つ付加していればよく、シロキシ基18A,18A’のケイ素原子に付加した置換基A,B,A’,B’としては、メチル基、エチル基、ヒドロキシル基、アミノ基等が挙げられる。なお、置換基A,B,A’,B’は互いに異なっていてもよいし、全て同一であってもよい。さらに、置換基A,B,A’,B’のうち一部が同一であってもよい。一例として、置換基Aをメチル基,置換基B,A’,B’をヒドロキシル基としたシロキシ基を含む密着層12Bの構造を、図2(b)に示す。
【0027】
なお、ケイ素原子に付加しているメチル基が1つである場合でも、上記の「メチル基が3つ付加したケイ素原子16を含むシロキシ基18からなる化合物」(図1(b))は、シロキシ基の酸素原子17から、ケイ素原子16に付加したメチル基までの部分23である。
上述したように、密着層に含まれるシロキシ基のケイ素原子には、メチル基が少なくとも1つ付加していればよいため、密着層には少なくともSi−O結合とSi−CH結合が含まれる。よって、ガスバリア層13がこのような密着層に対して密着性を持たせるためには、言い換えれば、ガスバリア層13と密着層との間に相互作用を生じさせるためには、ガスバリア層13が、Si−O結合およびSi−CH結合の少なくともいずれかを含んでいればよい。
【0028】
なお、ガスバリア層13を割れに強い層とするためには、Si−CH結合を含んでいることが望ましいが、本発明の実施にあたっての必須の要件ではない。
<保護層14>
図1(a)に戻り、ガスバリア層13の上には、ガスバリア層13の表面を保護する目的で保護層14が設けられている。保護層14の膜厚は、例えば、2[μm]程度である。保護層14に用いる材料としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂等が挙げられる。
【0029】
<デバイス層15>
フィルム状基板10の上(保護層14の上)にはデバイス層15が形成されている。フィルム状基板10を、例えば、ディスプレイを構成する基板として用いる場合、デバイス層15には、液晶表示素子や、自発光による視認性の高さから注目を浴びている有機EL素子等の表示素子が主に形成されている。
【0030】
[フィルム状基板の製造方法]
図3,4を参照しながら、フィルム状基板10の製造方法の一例について説明する。
まず、フレキシブルフィルム11を準備する。具体的には、大気中において、樹脂製フィルム24(フレキシブルフィルム11の前駆体樹脂製フィルム)の表面に対し、例えば、エキシマー紫外線照射装置等を用いて紫外線(UV)を照射する(図3(a))。これにより、表面にヒドロキシル基(OH基)を有するフレキシブルフィルム11を準備することができる(図3(b))。このヒドロキシル基の酸素原子は、樹脂製フィルム24(フレキシブルフィルム11)に含まれる原子と共有結合している。
【0031】
次に、ヒドロキシル基を有するフレキシブルフィルム11を、チャンバー内に載置する。そして、チャンバー内に気体状にしたヘキサメチルジシラザン(HMDS)19を導入し、ヘキサメチルジシラザン19をフレキシブルフィルム11のヒドロキシル基と反応させる(図3(c))。これにより、メチル基が3つ付加したケイ素原子(Si原子)16と、フレキシブルフィルム11が有する酸素原子(O原子)17とで構成されるシロキシ基18を含む密着層12が形成される(図3(d))。
【0032】
図3(c)に示す方法によれば、フレキシブルフィルム11のガラス転移温度以上に加熱する工程を経ることなく密着層12を形成することが可能であるので、フレキシブルフィルム11が変形することを抑制することが可能である。その結果、フレキシブルフィルム11の上に形成する密着層12とガスバリア層13を変形させることなく形成することができる。したがって、密着層12とガスバリア層13の間に隙間ができるのを抑制し、ガスバリア性をより向上させることができる。
【0033】
なお、図2で述べたように、シロキシ基18のケイ素原子16にはメチル基が少なくとも1つ付加していればよい。よって、図3(c)において、メチル基が少なくとも1つ付加したケイ素原子16を含むシロキシ基18を形成するために用いる試薬(以下、「シロキシ基生成剤」と記載する。)は、メチル基が少なくとも1つ付加したSi原子を有する物質であればよい。シロキシ基生成剤としては、例えば、上記のヘキサメチルジシラザン、クロロトリメチルシラン、クロロジメチルシラン等が挙げられる。
【0034】
また、図3においては、シロキシ基生成剤をフレキシブルフィルム11のヒドロキシル基と反応させることでシロキシ基18を形成することとしたが、シロキシ基生成剤と反応させる官能基は上記のヒドロキシル基に限定されない。ヒドロキシル基以外の官能基としては、例えば、アミノ基、カルボキシル基、等が挙げられる。したがって、フレキシブルフィルム11に用いることが可能な材料は、UV照射等の処理によってこれらの官能基を生成することが可能な材料である。このような材料が、フィルム状基板の構成の項で述べたポリイミド系樹脂、ポリエチレン2,6−ナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル系樹脂等に相当する。
【0035】
図4に移り、フィルム状基板10の製造方法の一例についての説明を続ける。
密着層12の形成を終えた半製品(図4(a))をチャンバーから取り出し、密着層12の上に、Si−O結合およびSi−CH結合を含む有機−無機ハイブリッドポリマーからなるガスバリア層13を、インクジェット法、スピンコート法、グラビア印刷法、ディスペンサー法、ノズルコート法、凹版印刷、凸版印刷等の公知の塗布法により成膜する(図4(b))。
【0036】
なお、本工程において形成するガスバリア層13は、Si−O結合およびSi−CH結合の少なくともいずれかを含む膜であればよい。
次に、ガスバリア層13の上にアクリル系材料等からなる保護層14を形成する(図4(c))。以上の工程を経ることでフィルム状基板10が完成する。
フィルム状基板10上(保護層14上)には、表示素子等の各種素子等を含むデバイス層15が形成される(図4(d))。
【0037】
[検証実験]
本実施の態様に係るフィルム状基板10のガスバリア性を確認するため、カルシウムテストを行った。
カルシウムテストに用いたフィルム状基板の構造を図5(a),(b),(c)に示した。図5(a)は、本実施の態様に相当する実験用フィルム状基板の構造を示す模式断面図である。具体的には、保護層14の上にカルシウム層20を形成し、カルシウム層20を覆うようにガラスキャップ21を配置し、ガラスキャップ21と保護層14又はガスバリア層13との間をUV硬化樹脂(エポキシ樹脂)で接着した。図5(b)は比較例1に係る実験用フィルム状基板の構造を示す模式断面図であり、図5(a)に示す実験用フィルム状基板から密着層12を取り去ったものである。図5(c)は比較例2に係る実験用フィルム状基板の構造を示す模式断面図であり、図5(a)に示す実験用フィルム状基板から密着層12および保護層14を取り去ったものである。
【0038】
なお、本実験における密着層12には、トリメチルシロキシ基を有する化合物が含まれている。また、フレキシブルフィルム11にはポリイミド系樹脂を、ガスバリア層13には図1(b)に示す繰り返し単位を有する有機−無機ハイブリッドポリマーを、保護層14にはアクリル系樹脂を用いた。
図5(a),(b),(c)に示す実験用フィルム状基板を、温度25[℃],湿度50[%]の環境下に放置し、所定時間経過時におけるカルシウム層20の抵抗値Rを測定した。
【0039】
図5(d)は、カルシウムテストの結果を示す図であり、横軸は放置時間[hr]、縦軸はカルシウム層20の抵抗値の逆数1/R[a.u.]を示している。ここで、カルシウムは水分や酸素を吸着すると変質し、抵抗値Rが上昇する性質がある。したがって、抵抗値の逆数1/Rの値が小さいフィルム状基板ほど、カルシウム層20の変質が進んでいる、すなわち、ガスバリア性が低いことを示している。
【0040】
まず、本実施の態様の結果(四角のプロット)と比較例1の結果(三角のプロット)を比較すると、本実施の態様に係る実験用フィルム状基板の方が1/Rの値が大きく、カルシウム層20の変質を抑制できていることがわかる。
図5(a),(b)に示す実験用フィルム状基板の構成の違いは、密着層12の有無のみである。ここで、トリメチルシロキシ基を有する化合物は、ガスバリア性が無いことが知られている。しかしながら、図5(d)に示す結果より、このトリメチルシロキシ基を有する化合物を含む密着層12をフレキシブルフィルム11とガスバリア層13の間に介挿することで、カルシウム層20の変質を抑制することができた。したがって、密着層12を介してフレキシブルフィルム11とガスバリア層13との密着性が向上したことにより、カルシウム層20の変質を抑制できた、すなわち、フィルム状基板のガスバリア性が向上したと考えられる。
【0041】
次に、比較例1の結果(三角のプロット)と比較例2の結果(ひし形のプロット)を比較すると保護層14を有する比較例1の実験用フィルム状基板の方が、1/Rの値が大きく、カルシウム層20の変質を抑制できていることがわかる。すなわち、保護層14を設けることで、フィルム状基板のガスバリア性をより向上させることが可能であることが分かる。
【0042】
以上、実施の態様について説明したが、本発明は上記の実施の態様に限られない。例えば、以下のような変形例等が考えられる。
[変形例・その他]
(1)上記の実施の態様においては、ガスバリア層13と保護層14を備えるフィルム状基板10について説明した。図6は本変形例に係るフィルム状基板10Aの構成を示す部分断面図である。図6に示すように、密着層12の上に、ガスバリア層と保護層に代えて、SiN(窒化シリコン)またはSiON(酸窒化シリコン)等からなる封止層22を設けることとしてもよい。SiNまたはSiONを用いる場合、封止層22の膜厚は100〜2000[nm]の範囲内であることが望ましい。
【0043】
図7は、各種フィルム状基板の構造と、各々の基板の水蒸気透過率を測定した結果である。
entry1に係るフィルム状基板は、フレキシブルフィルム11の上に封止層22を積層したものである。entry2に係るフィルム状基板は、フレキシブルフィルム11の上に密着層12,封止層22を順に積層したものである。entry3に係るフィルム状基板は、フレキシブルフィルム11の上にガスバリア層13,保護層14を順に積層したものである。entry4に係るフィルム状基板は、図1に示すフィルム状基板10と同一の構成である。
【0044】
なお、entry2,4において、密着層12には、トリメチルシロキシ基を有する化合物が含まれている。entry1,2において、封止層22にはSiNを用いた。entry3,4において、ガスバリア層13には図1(b)に示す繰り返し単位を有する有機−無機ハイブリッドポリマーを、保護層14にはアクリル系樹脂を用いた。entry1〜4において、フレキシブルフィルム11にはポリイミド系樹脂を用いた。
【0045】
本実験においては、entry1〜4の各フィルム状基板を図7の表に示す条件下に置き、水蒸気透過率の測定を行った。
まず、本変形例に相当するentry1,2の結果を比較すると、フレキシブルフィルム11と封止層22の間に密着層12を介挿することで、水蒸気透過率が8.0×10−3[g/m/day]から3.2×10−3[g/m/day]に低減した。よって、本発明に係る密着層12は、SiNを含む封止層22に対しても、密着性を向上させる効果を有することが示された。
【0046】
一方、上記の実施の態様に相当するentry3,4の結果を比較すると、フレキシブルフィルム11とガスバリア層13の間に密着層12を介挿することで、同じく水蒸気透過率が9.0×10−3[g/m/day]から5.1×10−4[g/m/day]に低減した。本実験からも、上記の実施の態様におけるフィルム状基板が優れたガスバリア性を有していることが示された。
【0047】
(4)上記の変形例(3)で述べたように、ガスバリア層と保護層に代えてSiONからなる封止層を設けることとしてもよい。SiONからなる封止層を設ける場合、当該封止層に含まれるSi−O結合と、密着層12に含まれるSi−O結合との間で相互作用が生じる。したがって、このような構成によっても、フィルム状基板のガスバリア性を向上させることが可能である。
【0048】
(3)上記の実施の態様においては、密着層12およびガスバリア層13としてSi系化合物を用いることとしたが、例えば、ゲルマニウム(Ge)系の化合物を用いることもできる。ただし、密着層12をSi系化合物とする場合にはガスバリア層13もSi系化合物とする、密着層12をGe系化合物とする場合にはガスバリア層13もGe系化合物とするといったように、密着層12とガスバリア層13に用いる化合物の原子種を同一にすることが望ましい。これは、Si系化合物とGe系化合物とで極性や結晶構造が異なるために、密着層12とガスバリア層13との密着性が損なわれるからである。
【0049】
(4)密着層12およびガスバリア層13は、通常の製造過程で混入し得る程度に、微量の不純物を含んでいることとしてもよい。
(5)上記の実施の態様で使用している、材料、数値等は好ましい例を例示しているだけであり、この態様に限定されることはない。また、本発明の技術的思想の範囲を逸脱しない範囲で、適宜変更は可能である。さらに、各図面における部材の縮尺は実際のものとは異なる。なお、数値範囲を示す際に用いる符号「〜」は、その両端の数値を含む。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のフィルム状基板は、例えば、携帯型情報端末等に搭載されるディスプレイ等を構成するフィルム状基板に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
10、10A フィルム状基板
11 フレキシブルフィルム
12 密着層
13 ガスバリア層
14 保護層
15 デバイス層
16 ケイ素原子
17 酸素原子
18 シロキシ基
19 ヘキサメチルジシラザン
20 カルシウム層
21 ガラスキャップ
22 封止層
23 シロキシ基を含む化合物
24 樹脂製フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレキシブルフィルムと、
前記フレキシブルフィルムの上に形成され、メチル基が少なくとも1つ付加したSi原子と、前記フレキシブルフィルムに含まれる原子と共有結合したO原子とで構成されるシロキシ基を含む密着層と、
前記密着層の上に形成され、Si−O結合およびSi−CH結合の少なくともいずれかを含むガスバリア層と、を備える、
フィルム状基板。
【請求項2】
前記シロキシ基は、トリメチルシロキシ基である、
請求項1に記載のフィルム状基板。
【請求項3】
前記密着層は、前記メチル基が少なくとも1つ付加したSi原子を含むシロキシ基からなる化合物の単分子膜の厚さ以上、1nmの厚さ以下である、
請求項1に記載のフィルム状基板。
【請求項4】
前記フレキシブルフィルムは、樹脂製である、
請求項1または2に記載のフィルム状基板。
【請求項5】
前記フレキシブルフィルムは、ポリイミド系樹脂を含む、
請求項4に記載のフィルム状基板。
【請求項6】
前記ガスバリア層は、有機−無機ハイブリッドポリマーである、
請求項1に記載のフィルム状基板。
【請求項7】
前記ガスバリア層の上に、さらに、アクリル系材料を含む保護層が形成される、
請求項1に記載のフィルム状基板。
【請求項8】
表面にヒドロキシル基が付加したフレキシブルフィルムを準備する第1工程と、
前記ヒドロキシル基に対し、メチル基が少なくとも1つ付加したSi原子を有する物質を反応させることにより、前記フレキシブルフィルムの上に、前記Si原子と前記ヒドロキシル基のO原子とで構成されたシロキシ基からなる化合物を含む密着層を形成する第2工程と、
前記密着層の上に、Si−O結合およびSi−CH結合の少なくともいずれかを含むガスバリア層を形成する第3工程と、を含む、
フィルム状基板の製造方法。
【請求項9】
前記第1工程において、
前駆体樹脂製フィルムの表面に紫外線を照射することにより、前記フレキシブルフィルムとする、
請求項8に記載のフィルム状基板の製造方法。
【請求項10】
前記前駆体樹脂製フィルムは、ポリイミド系樹脂を含む、
請求項9に記載のフィルム状基板の製造方法。
【請求項11】
前記第2工程において、
前記物質はヘキサメチルジシラザンであり、
気体状の前記ヘキサメチルジシラザンを前記ヒドロキシル基と反応させることにより、前記密着層を形成する、
請求項8に記載のフィルム状基板の製造方法。
【請求項12】
前記ガスバリア層は、有機−無機ハイブリッドポリマーである、
請求項8に記載のフィルム状基板の製造方法。
【請求項13】
さらに、前記ガスバリア層の上に、アクリル系材料を含む保護層を形成する第4工程を含む、
請求項8に記載のフィルム状基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−22829(P2013−22829A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159750(P2011−159750)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】