説明

フェニトイン製剤および創傷治癒におけるその使用

創傷への局所適用に適したフェニトインの製剤は、安定化マトリックス内に捕捉されたフェニトインの貯蔵体およびある量の溶解型フェニトインを含み、前記溶解型フェニトインは安定化マトリックス内に捕捉されたフェニトインと化学的に平衡である。安定化マトリックスは、ゲル・マトリックス、特にゲルのポリマーがフェニトインとイオン対を形成するゲル・マトリックスを含んでもよい。本発明による製剤を使用して、糖尿病および非糖尿病患者の創傷を治療する方法もまた記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、創傷に局所適用するのに適したフェニトインの製剤に関する。特に、本発明は、フェニトインのゲルをベースにした製剤に関する。本発明はまた、創傷の局所治療のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェニトイン(ジフェニルヒダントイン、5,5−ジフェニルイミダゾリジン−2,4−ジオン)の抗痙攣薬としての臨床使用法は良く確立されており、抗てんかん薬として使用されている。これはまた、心臓性抗不整脈特性を有する。フェニトインは、経口的に、または(ナトリウム塩として)注射によって投与することができる。
【0003】
てんかん発作を治療するためにフェニトインは有用であるが、いくつかの副作用があり、それらは文献に詳しく記載されている(非特許文献1参照)。これらの副作用には、胃腸障害、神経系毒性、様々な中枢神経系作用、様々な内分泌作用、男性型多毛症、心臓性不整脈、肝臓障害、感覚過敏反応および他の薬物療法との相互作用が含まれる。
【0004】
しばしば認められる1つの副作用は、保護歯周組織の圧痛および腫脹である(歯肉増殖)。フェニトインは、薬剤誘導性歯肉腫脹の最も一般的な原因である。しかし、これは、シクロスポリンおよびカルシウムチャンネル遮断薬の使用にも関連する(非特許文献2参照)。
【0005】
フェニトインで治療された患者の少なくとも20%およびおそらく約50%までが、副作用として歯肉腫脹を発症する。発症率は、フェニトインの血漿濃度の増加につれて増加する場合がある(非特許文献3参照)。組織増殖に対するこの刺激効果によって、創傷治癒におけるフェニトインの評価は高まった。
【0006】
文献には、フェニトインの適用が、様々な種類の創傷の治癒に有益な特性を示すという臨床研究の結果および治療の症例報告が含まれる。これらには、切創(非特許文献4参照)および骨折(非特許文献5参照)および外傷の臨床研究(非特許文献6参照)、潰瘍(非特許文献7および8参照)および皮膚移植(非特許文献9参照)の実験モデルが含まれる。
【0007】
創傷治癒におけるフェニトインの作用機序はわかっていないが、抗痙攣特性に関連するというよりは、むしろ副作用である歯肉組織腫脹に関連するようである。いくつかの研究によって、フェニトインが、インターロイキン−1b(非特許文献10参照)、ケラチノサイト成長因子(非特許文献11参照)、血小板由来成長因子(非特許文献12参照)、および塩基性繊維芽細胞成長因子(非特許文献13参照)を含む様々なサイトカインおよび成長因子の産生を増加させることが示された。フェニトインは、皮膚繊維芽細胞のいくつかの遺伝子の発現を変更する(非特許文献14参照)。
【0008】
前記研究で使用されたフェニトインまたは塩は、生体外(in vitro)研究の場合は生物学的媒体に含めるか、または添加され、生体内(in vivo)研究もしくは臨床研究の場合は溶液、懸濁液または粉末として局所的に塗布され、あるいは、場合によって、例えば、骨折の研究の場合は、注射によって投与された。該液体または粉末の適用はほとんど、市販の注射液またはカプセルを用いる。このような治療によって利益を得る患者の創傷の治療において、便利かつ適確に使用することができる適切な医薬組成物に、どのようにフェニトインを使用できるかは教示されていない。Lasker(特許文献1参照)は、創傷の治療において、特に感染治療のための殺生物剤として、フェニトインと一緒に銀アンモニウムフェニトイン複合体を使用することを記載している。しかし、これらの目的を実現するために必要な医薬組成物の説明はなされていない。
【0009】
フェニトインは、水にほんのわずかに溶ける。フェニトイン・ナトリウム塩は水に可溶であるが、アルカリ性のpH、通常約12のpH値で、かなりの量が溶液中に留まるのみである。このpHに創傷組織を曝露することは望ましくない。より低いpH値では、不溶のフェニトインの割合が増加する。
【0010】
【特許文献1】米国特許第5571521号明細書
【非特許文献1】Goodman & Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics、 McGraw Hill
【非特許文献2】Desai P & Silver JG, J Can Dent Assoc. 64(4): 263-8, 1998
【非特許文献3】Perlik F et al. Ther Drug Monit. 17(5) 445-8 1995
【非特許文献4】DaCosta ML, Surgery 123(3) 287-93 1998
【非特許文献5】Frymoyer JW, J Trauma 16(5) 368-70, 1976
【非特許文献6】Modaghegh S, et al. Int J Dermatol. 28(5) 347-50 1989
【非特許文献7】Anstead GM, et al. Ann Pharmacother. 30(7-8) 768-75 1996
【非特許文献8】Bansal NK, Int J Dermatol. 32(3): 210-3, 1993
【非特許文献9】Yadav JK, Burns, 19(4): 306-10, 1993
【非特許文献10】Modeer T, et al. Life Sci. 44(1) 35-401 1989
【非特許文献11】Das SJ and Olsen I, Biochem Biophys Res Commun. 13 282(4) 875-81 2001
【非特許文献12】Iacopino AN, et al. J Periodontol. 68(1) 73-83 1997
【非特許文献13】Sasaki T and Maita E, J Clin Periodontol. 25(1) 42- 7 1998
【非特許文献14】Swamy SMK, et al. Biochem Biophys Res Commun. 314 661-666 2004
【非特許文献15】DaCosta et al. Surgery 123(3) 287-93 1998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
フェニトインの創傷治癒促進効果が認められていることを考えれば、当業界では、患者およびその看護者が使いやすく、効果的に、信頼して何度でも使用できる形態でこの特性を提供できる方法が、明らかに必要とされている。適切な滞留時間を確保する手段ならびに創傷をもつ細胞および組織によってこの薬剤が確実に摂取される方法があると好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、創傷の局所適用に適したフェニトインの製剤を提供し、該製剤は安定化マトリックス内に捕捉されたフェニトイン貯蔵体およびある量の溶解型フェニトインを含み、溶解型フェニトインが安定化マトリックス内に捕捉されたフェニトインと化学的に平衡である。
【0013】
この明細書では、「創傷」という用語は、特に別途指示しない限り、糖尿病などの長期疾患に関連した創傷および褥瘡性潰瘍などの固定(immobility)に関連した創傷などの慢性創傷、ならびに外傷が原因の創傷などの急性創傷の両方を意味するものとする。
【0014】
本発明の製剤では、安定化マトリックスは、製剤中のフェニトインを、製剤中で溶解している成分(一般的に、製剤の水性成分であり、自由に治療機能を発揮する成分)と、フェニトインの貯蔵体として作用する成分(溶解型フェニトインが創傷治療する際に消費されるにつれて、溶解型フェニトインを連続的に補給する)とに区分するために機能する。したがって、この製剤はフェニトインの制御された持続放出をもたらし、これらの適度な放出特性を実現するために、一実施形態では、本来溶解性の低いフェニトインを利用する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
好ましい実施形態では、安定化マトリックスはゲルを含み、溶解型フェニトインはゲルの水性成分の中に位置する。このような場合、ゲルのポリマーマトリックスは、フェニトインを物理的または電気化学的に捕捉するように機能する。一般的に、このゲルは、アルギン酸、アルギン酸誘導体、キトサン、キトサン誘導体、メチルセルロース、メチルセルロース誘導体、微結晶性セルロース、カルボキシメチルセルロース塩、ヒドロプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、トラガカントおよびカラギーナンを含む群から選択されたゲル化剤によって形成される。このゲルは酸性ポリマーを含むことが適している。
【0016】
本発明の特に好ましい実施形態では、このゲルはフェニトインとイオン対を形成することができるゲル化剤によって形成される。適切なゲル化剤には、カルボマー(すなわち、CARBOPOL)およびアルギン酸塩が含まれる。このようなゲル化剤には、フェニトイン分子の塩基性基とイオン対を形成し、それによってフェニトイン貯蔵体の安定性を増大させるカルボン酸基が含まれる。
【0017】
一般的に、このゲル形成ゲル化剤は、0.5%から10.0%(w/w)、適切には0.5%から5%、好ましくは0.5%から3%、より好ましくは0.5%から2%、理想的には約1%(w/w)の量で製剤中に存在する。
【0018】
本発明の一実施形態では、安定化マトリックスは、フェニトインを貯蔵体に物理的または化学的に捕捉するように機能する複合剤(complexing agent)によって形成される。適切な安定化剤は、シクロデキストリン、緩衝塩、アミノ酸、小ペプチド、ポリアルギニン、ポリグリシン、ポリリジンおよびグルタミン酸を含む群から選択することができる。特に適切な複合剤は、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンである。一般的に、製剤は複合剤を1%から50%(w/w)、好ましくは20%から40%(w/w)、より好ましくは25%から35%(w/w)の量で含む。本発明の好ましい一実施形態では、製剤は、1種または複数種のゲル化剤と共に複合剤を含む。この点では、カルボマーおよびシクロデキストリンを含む製剤は、特に有利であることがわかった。
【0019】
本発明の一実施形態では、安定化マトリックスは水中油型(o/w)または油中水型(w/o)エマルジョンベースによって形成され、溶解型フェニトインは水相に位置し、フェニトイン貯蔵体は油相に位置する。この安定化マトリックスは、水中油型エマルジョンベースであることが理想的である。このような場合、フェニトイン貯蔵体は、水または水相に分散した油滴内に捕捉されるが、連続相中の溶解型フェニトインとの平衡を維持している。このような製剤は一般的にエマルジョンベースを安定化するための手段となる成分を含む。エマルジョン、特に連続相が実質的に水性である水性エマルジョンのための安定化剤は、当業界では周知である。
【0020】
安定化マトリックスがエマルジョンベースによって形成された本発明の一実施形態では、この製剤はさらに、適切な噴射剤で適切なディスペンサーから分配される際に、製剤が泡立つのを可能にする成分を含むことができる。泡形成に適した成分は当業者には周知で、溶媒、共溶媒、追加の親脂質性成分などを含むことができる。このような場合、泡は、気相、溶解型フェニトインが存在する水相およびフェニトインの貯蔵体を含有する分散親脂質相を含む。フェニトインの貯蔵体は、水相中の溶解型フェニトインと平衡である。したがって、本発明はまた泡形成製剤の発明にも関し、該製剤では、安定化マトリックスがエマルジョンベース(通常、フェニトイン貯蔵体が分散した油相に位置する水中油型エマルジョンベース)によって形成され、かつ、この製剤には適切な噴射剤で適切なディスペンサーから分配されて製剤が泡立つのを可能にする成分が含まれる。本発明はまた泡を分配するのに適したディスペンサーにも関し、本発明の泡形成製剤と適切な噴射剤とを組み合わせ、製剤および噴射剤がディスペンサー内に(通常加圧下で)含まれている。
【0021】
一実施形態では、フェニトインは製剤中に0.5%から10.0%、好ましくは1.0%から7.0%、より好ましくは2.0%から6.0%(w/w)の量で存在する。フェニトインは3.0%から5.0%(w/w)の量で存在することが理想的である。フェニトインは、フェニトイン酸、フェニトイン塩、フェニトインの誘導体またはそれらの混合物を含むことが適している。一実施形態では、フェニトインの誘導体には、商標FOSPHENYTOINとして販売されているようなプロドラッグが含まれる。フェニトイン塩は、フェニトイン・ナトリウムから成ることが理想的である。
【0022】
一般的に、本発明の製剤のpHは、4から12、より好ましくは7から10である。
【0023】
一実施形態では、本発明の製剤は、創傷を治療するための1種または複数種の治療用分子、例えば、抗生物質、抗真菌剤および亜鉛塩を含む群から選択された抗感染症薬を含む。
【0024】
本発明の特に適した一実施形態では、この製剤は、
−フェニトイン塩0.5%から10.0%、
−ゲル化剤0.5%から5.0%、
−水性基剤、および
−任意に、製剤のpHを7と10との間に調節するのに十分な量のアルカリまたは酸または緩衝塩を含む。
【0025】
一般的に、ゲル化剤には、フェニトインとイオン対を形成することができるポリマーが含まれる。このようなゲル化剤の例には、カルボマー(すなわち、CARBOPOL)およびアルギン酸塩が含まれる。
【0026】
この製剤は、さらにフェニトインの複合剤を含むことが適している。好ましい複合剤は、シクロデキストリンである。
【0027】
このゲル化剤は、製剤の0.5%から1.5%(w/w)で含まれることが理想的である。一般的に、このシクロデキストリンは、20%から40%(w/w)で存在してもよい。
【0028】
本発明はまた、創傷用帯具または包帯剤(a bandage or a dressing for wounds)の一部を形成する固形支持体に関し、これらは本発明による製剤を含む。一般的に、この固形支持体は織物材料または不織材料で形成された網状物を含む。本発明はまた、創傷用帯具または包帯剤に関し、これらは本発明による固形支持体を含む。
【0029】
本発明はまた、薬物として使用するための本発明の製剤に関する。
【0030】
本発明はまた、創傷の局所治療で使用するための本発明の製剤に関する。
【0031】
本発明はまた、糖尿病患者の創傷の局所治療で使用するための本発明による製剤に関する。
【0032】
本発明はまた、本発明による製剤を創傷に局所的に投与するステップを含む、個体の創傷の治療方法に関する。
【0033】
本発明はまた、本発明による製剤を創傷に局所的に投与するステップを含む、糖尿病患者の創傷の治療方法に関する。
【0034】
本発明はまた、火傷を負った個体の創傷を治療するための手段を提供する。一実施形態では、本発明は、エアロゾル、ミスト、スプレーなどの形態で液体を送達するようになされたディスペンサーと、製剤に適した噴射剤と共にディスペンサー内に含有されたフェニトイン含有製剤との組合せを提供し、該フェニトイン製剤はフェニトインおよびフェニトイン用溶媒を含む。この点で、本発明はまた、火傷組織に位置する創傷を治療するための薬物の製造において、スプレー、ミストまたはエアロゾルの形態の局所適用に適した液体フェニトイン含有製剤に関し、該液体フェニトイン含有製剤はフェニトインおよびフェニトイン用溶媒を含む。本発明はまた、火傷組織内またはその周囲に位置する創傷の局所的治療方法に関し、該方法はミスト、スプレーまたはエアロゾルの形態で液体フェニトイン含有製剤を創傷に適用するステップを含む。一般的に、この溶媒は、実質的に水性である。一実施形態では、フェニトイン含有製剤はフェニトイン用複合剤を含む。適切な複合剤は、本明細書で前述した。火傷の犠牲者の創傷を治療するためにフェニトインを使用すると、フェニトインのナトリウムチャンネル遮断活性による創傷の麻酔効果という利益が付加される。
【0035】
本発明は、溶解し懸濁したフェニトイン、フェニトイン・ナトリウムおよび遊離フェニトインの間が平衡であるフェニトイン製剤の形態をとる。これら全ての相対的割合は、pH、製剤中のフェニトインおよびフェニトイン・ナトリウムおよび任意の可溶化賦形剤の最初の濃度に左右される。これらの多成分系は、製剤中で溶解型フェニトインと平衡であるフェニトインの徐放性貯蔵体を含み、該貯蔵体はさらに、創傷細胞および組織の周囲の生理液、細胞膜および細胞内環境を含めた、創傷の生理学的環境においても、フェニトインと平衡である。本発明は、pH値が4〜12の範囲、特にpH値が7〜10の範囲であり、溶解型フェニトインと懸濁型フェニトインとの間に平衡が存在するように、フェニトインの遊離物質またはそのナトリウム塩またはこれらの組合せを含有するフェニトインの局所製剤を包含する。
【0036】
本発明は、製剤中および創傷の生理学的環境中の、フェニトイン貯蔵体と遊離フェニトインとの間に平衡が存在する、フェニトインの局所的、長期放出製剤である。この貯蔵体の組成は、創傷に使用できるフェニトインの量および創傷にフェニトインの治療効果を与える時間に影響を与える。
【0037】
製剤の成分は以下の通りである。
1.フェニトインの貯蔵体。これは、フェニトインまたはフェニトインの塩の懸濁物の形態を取ってもよく、フェニトインまたは塩が複合形態または介在(intercalated)形態(シクロデキストリンと混合することによって形成されたものなど)でマトリックスに含まれる貯蔵体であってもよい。
2.製剤中に溶解した遊離フェニトインまたはフェニトインの塩。これは、貯蔵体に含まれるフェニトインと平衡である。各成分中に含まれるフェニトインの相対量は、pHおよびフェニトインの溶解性に影響を及ぼす賦形剤の存在を含めた製剤の成分によって影響を受ける。
【0038】
創傷に適用すると、貯蔵体中のフェニトインまたはその塩、製剤に溶解したフェニトインまたはその塩、創傷の細胞および組織の周囲の生理液中の懸濁型または溶解型のフェニトインまたはその塩と、創傷の細胞膜および細胞内環境中のフェニトイン、との間にさらに一連の平衡状態が確立される。一連の平衡状態を示す図式を図1に示す。
【0039】
創傷に適用した後の本発明の操作を前記の図に示す。フェニトインは全区画に存在し、製剤の様々な成分を調節することによって平衡状態は変化し得る。例えば、全作用期間は貯蔵体中のフェニトインの量に左右され得る。創傷の細胞および組織に使用されるフェニトインの量は、製剤のpHまたは賦形剤の性質および量に左右され得る。
【0040】
本発明のフェニトインおよびフェニトイン・ナトリウムへの適用、ならびにフェニトインおよびシクロデキストリン複合体の懸濁物への適用を前述したので、フェニトインのその他の塩および複合体およびその類縁体への適用性を理解するのは容易であり、創傷の治療に他の治療用分子を取り入れることも想定される。これらの中でも注目されるのは、抗菌物質、例えば、抗生物質、抗真菌剤および亜鉛塩などの抗感染症薬の使用である。
【0041】
本発明の局所製剤は、様々な形態を取ることができる。例えば、クリーム(乳液)、ローション、ゲルおよび水性液は全て考えられる。ミスト、エアロゾルまたは泡スプレーといったスプレーによって適用される製剤も考えられる。これらの形態の違いは、物理的形状および粘度であり、製剤中に存在する乳化剤および粘度調節剤の存在と量によって管理することができる。ゲルは、本発明の特に有用な形態である。これは半固体および液体が豊富で、創傷に適用するために適した適合製剤を形成する。これは様々な粘度で調製することができる。これらの製剤は、溶媒、乳化剤、湿潤剤、皮膚軟化剤、保存剤および最終製品の効率を増加または増強する他の活性成分を含有することができる。溶媒の存在は、放出速度の調節に関与し得る。本発明は、創傷表面にフェニトインを制御放出するために設計された局所製剤を企図する。
【0042】
前述したように、ゲルは本発明の特に有用な形態である。ゲルは基本的に液体から比較的固体までの範囲の、様々な形態および粘度で存在することができることは容易に理解できる。変形可能な多目的容器、適切な単位投与容器から絞り出すか、またはシートとして適用するか、または包帯などの固形マトリックス上に調製することができる。前記は例であって完全なリストの形成を意図するものではないが、その方法を例示するために役立つ。
【0043】
驚くべきことに、単純な水性製剤とは対照的に、カルボマーを使用すると、生理的状態に近接したpH値でのフェニトインの安定かつ円滑な分散をもたらす対イオン効果があることが発見された。したがって、ゲル化剤としてカルボマーを使用することは特に有利で、これらの製剤は本発明の好ましい形態である。
【0044】
驚くべきことに、本発明はまた糖尿病状態における創傷の治療に特に有用であることが示され、これらの創傷に本発明を使用することは好ましいが、これだけに限られるものではないことを発見した。
【0045】
本発明の他の有用な形態は、ローションまたはスプレーとして創傷に適用するために適した液体である。
【0046】
製剤の様々な成分を変更することによって、作用期間の異なる製品を製造することができ、患者および看護者に便利な持続放出製品が考えられる。様々な投与回数は、例えば1日1回から週1回まで、または事実上の単回投与として考えることができる。これらは例であり、投与の頻度または総回数を限定しようとするものではない。
【0047】
本発明は、添付の図およびグラフを参照にして、例としてのみ挙げたいくつかの実施形態についての以下の説明から、より明確に理解されよう。
【実施例1】
【0048】
持続放出フェニトイン・ゲル
カルボマー974 PNF 1gを脱イオン水約80gに添加する。カルボマーを完全に添加後、この製剤を30分間混合する。混合しながらフェニトイン・ナトリウム5gを徐々に添加する。ゲルが濃厚になる。このゲルを混合しながら脱イオン水で100gに調製する。pHは、水酸化ナトリウムで7.4に調節する。
【実施例2】
【0049】
持続放出フェニトイン・ゲル
ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン30gを撹拌しながら脱イオン水約60gに溶解する。フェニトイン・ナトリウム1gをゆっくり添加して懸濁液を形成する。カルボマー974 PNF 1gを1500rpmで混合しながら徐々に添加する。このゲルを混合しながら脱イオン水で100gに調製する。pHは、水酸化ナトリウムで7.4に調節する。
【実施例3】
【0050】
有効性モデル
DaCostaらによって記載されたようなラット背側創傷モデルを使用した(非特許文献15参照)。創傷に、前記実施例2で説明したフェニトイン含有ゲルまたはフェニトインを含まずに製造したゲルのいずれかの一定分量(0.2g)を挿入することによって処置した。10日後、創傷の状態を調べ、比較した。本発明の有益効果は、不活性処置と比較して、創傷引張強さの約30%増加によって表わされる。これはコラーゲン沈着のマーカーであるヒドロキシプロリンの量の増加に伴うものである。
【実施例4】
【0051】
有効性モデル−糖尿病
全層切開創傷については、ストレプトゾトシンを投与することによって糖尿病にしたラットで研究した。創傷を、前記実施例2で説明したフェニトイン含有ゲルまたはフェニトインを含まずに製造したゲルのいずれかの一定分量を塗布することによって処置した。糖尿病動物における創傷治癒の改善(創傷領域の減少によって示される)は、9日目および12日目で偽薬(placebo)処置動物よりも少なくとも50%高かった。
【実施例5】
【0052】
市販製品との比較
オスのスプラーグ・ドーリー・ラット(Sprague−Dawley rats)にストレプトゾトシン(STZ)を1回腹腔内注射することによって糖尿病にさせた。血清グルコースは、STZを投与して1週間後に各糖尿病ラットの尾静脈から採取した静脈血の試料で、グルコメーター(glucometer)およびデキストロスライド(dextroslide)を使用して測定した。この切開創傷モデルでは、図2に示したように、ラットの背面上、肩甲骨下端の下の中央点から等距離のところに対称的に直径20mmの2個の円形創傷を創出した。1日に1回、創傷に局所的に処置を施した。創傷の領域は3日毎に透明なシートに写し取って、その透写図を綿密に調べた。創傷領域を非矩形領域分析(non−rectangular area analysis)で算出した。フェニトインの血清濃度は、実験期間の最後に試料採取することによって測定した。血液は、心臓内穿刺によって採取し、フェニトインを生化学的に分析した。動物は全て、認可された生体臨床医学研究施設内の通常の研究室条件下に収容し、研究は研究所倫理委員会の承認を受けて実施した。
【0053】
通常型糖尿病ラットモデルおよび正常ラットモデルを切開創傷治癒研究のために使用した。各動物に2個の円形創傷を創出し、1つは市販の創傷治癒製品(REGRANEX)で処理し、他方は実施例1の5%フェニトイン・ナトリウムゲルで処理した。Regranexは、バカプレルミンまたはヒト血小板由来成長因子を含有する製剤である。糖尿病動物の治癒のときには有意差はないことがわかった(p=0.29)。
【0054】
毎日フェニトイン・ゲルで処理した動物に残存する創傷領域の割合は、Regranexで処理したものと同等と見なされた(図3)。また、正常ラットモデルの創傷領域の間には有意差はなかった(各日ともp>0.05、図4)。
【実施例6】
【0055】
制御放出特性
ゲルから基本媒体へのフェニトイン・ナトリウムの放出を24時間にわたって調べた。
【0056】
図5は、24時間にわたる5%フェニトイン・ナトリウム1%カルボマー・ゲルからのフェニトイン・ナトリウムの放出特性を示した図である。
【0057】
図6は、24時間にわたる5%フェニトイン・ナトリウム1%カルボマー・ゲルからのフェニトイン・ナトリウムの放出特性を、放出薬剤 対 時間の平方根でプロットして示した図である。
【0058】
適用したゲル中に存在する薬剤の9%は、24時間にわって放出された。
【0059】
図7は、24時間にわたる5%フェニトイン・ナトリウムゲルおよび1%フェニトイン・ナトリウムゲルからのフェニトイン・ナトリウムの放出特性を比較した図である。
【0060】
薬剤の放出速度は、最初の6時間後では薬剤濃度とは無関係のようであり、おそらく懸濁した貯蔵体から溶解相への薬剤の移動速度が一定になったことを示している。
【実施例7】
【0061】
o/wエマルジョン(クリーム)製剤
水中油型フェニトイン製剤は、以下の成分を使用して調製した。フェニトイン・ナトリウム5%、乳化ワックス9%、白色軟質パラフィン15%、液体パラフィン6%、フェノキシエタノール1%、水で100%にする。フェニトイン・ナトリウムをまず油相に混合し、安定化剤を添加し、次に保存用抗酸化剤と共に激しく撹拌しながら水をゆっくり添加した。
【実施例8】
【0062】
フェニトイン泡製剤
フェニトイン含有局所製剤は以下の成分を使用して調製する。
プロピレングリコール、乳化ワックス、ポリオキシ(10)ステアリルエーテル、セチルアルコール、パラヒドロキシ安息香酸メチル、パラヒドロキシ安息香酸プロピル、トロラミン(Trolamine)、精製水、炭水化物噴射剤HP−70(イソブタンおよびプロパンから構成される)およびフェニトイン・ナトリウム。
【0063】
フェニトインを前記成分の混合物に溶解/懸濁し、加圧アルミニウム容器内で保存する。
【実施例9】
【0064】
フェニトイン・スプレー
フェニトイン・ナトリウムおよびβ−シクロデキストリンの物理的混合は、等比例で混合することによって調製する。次に、混練して共に留去することによって固形分散物を調製する。混練分散物は、該薬剤およびβ−シクロデキストリンを一緒に約30分間粉砕することによって調製する。次に、この粉末をアルコールと共に混練して、ペーストのような硬さにして、40℃で1時間乾燥する。得られた混合物を次に適切な噴射剤(ヒドロフルオロカーボン)中に懸濁して、加圧容器に詰める。
【0065】
本発明は、本明細書に前述した実施形態に限定はされず、本発明の精神を逸脱することなく構成および詳細を変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】貯蔵体中のフェニトインまたはその塩、製剤に溶解したフェニトインまたはその塩、創傷の細胞および組織の周囲の生理液中の懸濁型または溶解型のフェニトインまたはその塩と、創傷の細胞膜および細胞内環境中のフェニトイン、との間の一連の平衡状態を示した図である。
【図2】ラット背側創傷モデルを示した図である。
【図3】糖尿病ラットモデルにおいて毎日フェニトイン・ゲルおよびRegranexで処理した動物に残存する創傷領域の割合を示した図である(実施例5参照)。
【図4】正常ラットモデルにおいて毎日フェニトイン・ゲルおよびRegranexで処理した動物に残存する創傷領域の割合を示した図である(実施例5参照)。
【図5】24時間にわたる5%フェニトイン・ナトリウム1%カルボマー・ゲルからのフェニトイン・ナトリウムの放出特性を示した図である(実施例6参照)。
【図6】24時間にわたる5%フェニトイン・ナトリウム1%カルボマー・ゲルからのフェニトイン・ナトリウムの放出特性を、放出薬剤 対 時間の平方根でプロットして示した図である(実施例6参照)。
【図7】24時間にわたる5%フェニトイン・ナトリウムゲルおよび1%フェニトイン・ナトリウムゲルからのフェニトイン・ナトリウムの放出特性を比較した図である(実施例6参照)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定化マトリックス内に捕捉されたフェニトインの貯蔵体およびある量の溶解型フェニトインを含む創傷への局所適用に適したフェニトイン製剤であって、前記溶解型フェニトインは前記安定化マトリックス内に捕捉されたフェニトインと化学的に平衡であることを特徴とする製剤。
【請求項2】
前記安定化マトリックスはゲルを含み、前記溶解型フェニトインは前記ゲルの水性成分中に位置することを特徴とする請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
前記ゲルは、アルギン酸、アルギン酸誘導体、キトサン、キトサン誘導体、メチルセルロース、メチルセルロース誘導体、微結晶性セルロース、カルボキシメチルセルロース塩、ヒドロプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、トラガカントおよびカラギーナンを含む群から選択されたゲル化剤によって形成されることを特徴とする請求項2に記載の製剤。
【請求項4】
前記ゲルは、酸性ポリマーを含むことを特徴とする請求項2または3に記載の製剤。
【請求項5】
前記ゲルは、フェニトインとイオン対を形成することができるゲル化剤によって形成されることを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の製剤。
【請求項6】
前記ゲル化剤はカルボマー・ゲル化剤を含むことを特徴とする請求項5に記載の製剤。
【請求項7】
前記安定化マトリックスは、前記フェニトインを貯蔵体に物理的に捕捉する複合剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の製剤。
【請求項8】
前記ゲルは、前記フェニトインを貯蔵体に物理的に捕捉する複合剤を含むことを特徴とする請求項2に記載の製剤。
【請求項9】
前記複合剤は、シクロデキストリン、緩衝塩、アミノ酸、小ペプチド、ポリアルギニン、ポリグリシン、ポリリジンおよびグルタミン酸を含む群から選択されることを特徴とする請求項7または8に記載の製剤。
【請求項10】
ゲル形成ゲル化剤は、0.5%と5.0%(w/w)の間の量で存在することを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の製剤。
【請求項11】
前記安定化マトリックスは、水中油型(o/w)または油中水型(w/o)エマルジョンベースによって形成され、溶解型フェニトインは水相に位置し、フェニトイン貯蔵体は油相に位置することを特徴とする請求項1に記載の製剤。
【請求項12】
前記安定化マトリックスは油中水型エマルジョンベースであることを特徴とする請求項11に記載の製剤。
【請求項13】
エマルジョンベースを安定化する手段をさらに含むことを特徴とする請求項11または12に記載の製剤。
【請求項14】
前記安定化マトリックスが泡によって形成される請求項11から13のいずれかに記載の製剤であって、適切なディスペンサーから製剤を分配するとき、泡製剤が形成されるように、泡形成成分を含むことを特徴とする製剤。
【請求項15】
前記フェニトインは、製剤中に0.5%と5.0%(w/w)の間の量で存在することを特徴とする前記請求項のいずれかに記載の製剤。
【請求項16】
前記フェニトインは、フェニトイン酸、フェニトイン塩、フェニトイン誘導体またはそれらの混合物を含むことを特徴とする前記請求項のいずれかに記載の製剤。
【請求項17】
フェニトインの前記誘導体は、商標名FOSPHENYTOINとして販売されているものなどのプロドラッグを含むことを特徴とする請求項16に記載の製剤。
【請求項18】
前記フェニトイン塩はフェニトイン・ナトリウムから成ることを特徴とする請求項16に記載の製剤。
【請求項19】
pHは4と12との間であることを特徴とする前記請求項のいずれかに記載の製剤。
【請求項20】
pHは7と10との間であることを特徴とする前記請求項のいずれかに記載の製剤。
【請求項21】
創傷を治療するための1種または複数種の治療分子をさらに含むことを特徴とする前記請求項のいずれかに記載の製剤。
【請求項22】
前記治療分子は、抗生物質、抗真菌剤および亜鉛塩を含む群から選択された抗感染症薬であることを特徴とする請求項21に記載の製剤。
【請求項23】
フェニトイン塩0.5%から10.0%、
ゲル化剤0.5%から5.0%、
水性ベース、および
任意に、製剤のpHを7と10との間に調節するのに十分な量のアルカリまたは酸または緩衝塩を含むことを特徴とする請求項1に記載の製剤。
【請求項24】
前記ゲル化剤は、酸性ゲル形成ポリマーを含むことを特徴とする請求項23に記載の製剤。
【請求項25】
前記ゲル化剤はカルボマーであることを特徴とする請求項23に記載の製剤。
【請求項26】
創傷用帯具または包帯剤の一部を形成する固形支持体であって、請求項1から25のいずれかに記載の製剤を含むことを特徴とする固形支持体。
【請求項27】
織物材料または不織材料で形成された網状物を含むことを特徴とする請求項25に記載の固体支持体。
【請求項28】
請求項25または26に記載の固形支持体を含むことを特徴とする創傷用帯具または包帯剤。
【請求項29】
薬物として使用することを特徴とする請求項1から25のいずれかに記載の製剤。
【請求項30】
創傷の局所治療に使用することを特徴とする請求項1から25のいずれかに記載の製剤。
【請求項31】
糖尿病患者の創傷の局所治療に使用することを特徴とする請求項1から25のいずれかに記載の製剤。
【請求項32】
創傷に局所的に請求項1から25のいずれかの製剤を投与するステップを含むことを特徴とする個体の創傷の治療方法。
【請求項33】
創傷に局所的に請求項1から25のいずれかの製剤を投与するステップを含むことを特徴とする糖尿病患者の創傷の治療方法。
【請求項34】
エアロゾル、ミスト、スプレーなどの形態で液体を送達するのに適合したディスペンサーと、製剤に適した噴射剤と共に前記ディスペンサー内に含有されたフェニトイン含有製剤との組合せであって、前記フェニトイン製剤はフェニトインおよびフェニトイン用溶媒を含むことを特徴とする組合せ。
【請求項35】
前記溶媒は実質的に水性であることを特徴とする請求項33に記載の組合せ。
【請求項36】
前記フェニトイン含有製剤はフェニトインのための複合剤を含むことを特徴とする請求項33または34に記載の組合せ。
【請求項37】
火傷組織に位置する創傷を治療するための薬物の製造において、スプレー、ミストまたはエアロゾルの形態の局所適用に適した液体フェニトイン含有製剤の使用であって、前記液体フェニトイン含有製剤はフェニトインおよびフェニトイン用溶媒を含むことを特徴とする使用。
【請求項38】
前記液体フェニトイン含有製剤は実質的に水性の溶媒を含むことを特徴とする請求項36に記載の使用。
【請求項39】
前記液体フェニトイン含有製剤はフェニトイン用複合剤をさらに含むことを特徴とする請求項36または37に記載の使用。
【請求項40】
液体フェニトイン含有製剤をミスト、スプレーまたはエアロゾルの形態で創傷に適用するステップを含むことを特徴とする、火傷組織内またはその周囲に位置する創傷の局所的治療方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−508339(P2008−508339A)
【公表日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−524261(P2007−524261)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【国際出願番号】PCT/EP2005/008344
【国際公開番号】WO2006/013084
【国際公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(507038157)ロイヤル カレッジ オブ サージャンズ イン アイルランド (4)
【Fターム(参考)】