説明

フェノール化合物、フェノール樹脂、フェノール樹脂組成物及びフェノール樹脂成形材料

【課題】硬化物とした場合に耐熱性に優れるフェノール樹脂、フェノール樹脂組成物及びこれを用いたフェノール樹脂成形材料を提供する。また、前記フェノール樹脂を得ることができるフェノール化合物を提供する。また、耐熱性に優れる硬化物を提供する。
【解決手段】ビスマレイミド化合物とアリルフェノール化合物から成るフェノール化合物と、ケトン化合物、ジカルボン酸ハロゲン化物またはレゾール型フェノール樹脂とを反応させて縮合重合することにより得られるフェノール樹脂及び硬化剤を含むフェノール樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール化合物、フェノール樹脂、これを用いたフェノール樹脂組成物、およびフェノール樹脂成形材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に用いられている耐熱性熱硬化性樹脂には、マレイミド樹脂およびフェノール樹脂がある。マレイミド樹脂では、マレイミド基の二重結合をジアミンの付加反応で硬化する樹脂系が主であるが、架橋密度が不十分であるため、成形品とした場合の耐熱性がフェノール樹脂系に比較して劣っているのが一般的である。
マレイミド樹脂において耐熱性を向上させる上で、ノボラック型フェノール樹脂の側鎖にマレイミド基を結合させることで、フェノール性水酸基の効果により、水酸基を含有しないマレイミド樹脂に比べ、架橋密度が増加し、わずかであるがガラス転移温度(Tg、以下同様。)の上昇が確認されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、特許文献1ではフェノール性水酸基により水酸基同士の分子間相互作用が得られるものの、樹脂構造においてマレイミド基が立体的に込み合い、マレイミド基の分子間相互作用が十分に機能せず、耐熱性があまり向上しない。一方、フェノール樹脂においても、当業者で公知のフェノールノボラック樹脂では特許文献1と耐熱性を比較しても大差ないのが現状である。
【特許文献1】特開平5−051425号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、硬化物とした場合に耐熱性に優れるフェノール樹脂、フェノール樹脂組成物及びこれを用いたフェノール樹脂成形材料を提供するものである。また、本発明は、前記フェノール樹脂を得ることができるフェノール化合物を提供するものである。また、本発明は、耐熱性に優れる硬化物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するためマレイミド基同士の分子間相互作用とフェノール性水酸基の効果を同時に発現させる樹脂骨格について鋭意検討した結果、本発明に至ったものである。
すなわち本発明は、第(1)項から第(8)項により達成される。
【0005】
(1) 下記一般式(1)で表されるフェノール化合物である。
【化1】

(式(1)中、R1は芳香族基又はアルキレン基を示す。ただし、フェノール性水酸基を有する2つのベンゼン環上の水素原子は置換基により置換されても良い。)
【0006】
(2) 前記置換基は、一般式(2)で表される置換基である第(1)項に記載のフェノール化合物。
【化2】

(式(2)中、R2、R3及びR4は、水素原子、アルキル基、芳香族基、及び水酸基を有する芳香族基のいずれか1つから選ばれるものであり、3つの置換基R2、R3及びR4のうち少なくとも1つは水酸基を有する芳香族基である。)
【0007】
(3) 下記一般式(3)で表されるフェノール樹脂。
【化3】

(式(1)中、R5は芳香族基又はアルキレン基を示す。ただし、フェノール性水酸基を有する2つのベンゼン環上の水素原子は置換基により置換されても良い。nは2以上1000以下である。)
【0008】
(4) 第(1)項又は第(2)項に記載のフェノール化合物と、ケトン化合物、ジカルボン酸ハロゲン化物またはレゾール型フェノール樹脂とを反応させて縮合重合することにより得られるフェノール樹脂。
(5) 前記ケトン化合物がホルムアルデヒドである第(4)項に記載のフェノール樹脂。
(6) 第(3)項又は第(4)項に記載のフェノール樹脂及び硬化剤を含むフェノール樹脂組成物。
(7) 第(6)項に記載のフェノール樹脂組成物及び充填材を含むフェノール樹脂成形材料。
(8) 第(6)項に記載のフェノール樹脂組成物又は請求項7に記載のフェノール樹脂成形材料を硬化して得られる硬化物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、硬化物とした場合に、耐熱性に優れるフェノール樹脂を提供でき、これを用いたフェノール樹脂組成物及びフェノール樹脂成形材料は、さらに、成形性に優れるものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、前記一般式(1)で表されるフェノール化合物、さらには、前下記一般式(3)で表されるフェノール樹脂である。これらの構造を有する化合物及び樹脂を含むフェノール樹脂組成物及びフェノール樹脂成形材料により得られる硬化物は耐熱性に優れるものとなる。
【0011】
本発明のフェノール化合物は、一般式(1)で表されるものである。
本発明のフェノール化合物は、一般式(1)におけるR1として、芳香族基又はアルキレン基を有するものである。本発明のフェノール化合物におけるR1としての芳香族基の具体例としては、フェニレン基、ナフチレン基、アントラシル基、フェナンスリレン基及びピリレン基などの単環又は縮合多環式芳香族、メチレンビスフェニレン基、イソプロピリデンビスフェニレン、ビフェニレン基及びターフェニレン基などの複数の芳香環を有する基、キシリレン基及びα、α’−ジメチルキシリレン基などのアラルキレン基、ジフェニルエーテル基、ジフェニルスルフィド基及びジフェニルスルホン基などのヘテロ原子含有芳香族基などが挙げられる。これらの芳香族基は、前述芳香環上の水素が、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、イソペンチル基及びネオペンチル基等のアルキル基、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素などのハロゲン原子等により置換されていても良い。
【0012】
また、R1としてのアルキレン基の具体例としては、メチレン基、1,2−エチレン基、1,3−プロピレン基、1,4−ブチレン基、1,5−ペンチレン基及び1,6−ヘキシレン基等の直鎖状アルキレン基、エチリデン基、プロピリデン基、1,2−プロピレン基、ブチリデン基、1,2−ブチレン基、1,3−ブチレン基、2,3−ブチレン基、ペンチリデン基、1,2−ペンチレン基、1,3−ペンチレン基及び1,4−ペンチレン基等の分岐状アルキレン基、1,2−シクロブチレン、1,3−シクロブチレン、1,2−シクロペンチレン基、1,3−シクロペンチレン基、1,2−シクロヘキシレン基、1,3−シクロヘキシレン基及び1,4−シクロヘキシレン等の環状アルキレン基などが挙げられる。これらのアルキレン基はハロゲン、例えばフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等により置換されていても良い。
【0013】
一般式(1)で表される本発明のフェノール化合物において、一般式(1)の構造の両端に有するフェノール性水酸基含有芳香族基は、その芳香族基上に、一般式(2)で表される置換基を有してもよい。
【0014】
【化2】

(式(2)中、R2、R3及びR4は、水素原子、アルキル基、芳香族基、及び水酸基を有する芳香族基のいずれか1つから選ばれるものであり、3つの置換基R2、R3及びR4のうち少なくとも1つは水酸基を有する芳香族基である。)
【0015】
一般式(2)で表される置換基のアルキル基の例として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、イソペンチル基及びネオペンチル基等が挙げられ、芳香族基の例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ジフェニルエーテル基及びジフェニルスルホン基等が挙げられる。
【0016】
また、フェノール性水酸基含有芳香族基の例として、ヒドロキシフェニル基、ジヒドロキシフェニル基、ヒドロキシメチルフェニル基、ビスフェノールF基、ビスフェノールA基、フェノールホルムアルデヒドノボラック樹脂基及びキシリレン変性フェノールノボラック樹脂基、などが挙げられる。ここで、ビスフェノールF基、ビスフェノールA基、フェノールホルムアルデヒドノボラック樹脂基、及びキシリレン変性フェノールノボラック樹脂基とは、ビスフェノールF、ビスフェノールA、フェノールホルムアルデヒドノボラック樹脂、及びキシリレン変性フェノールノボラック樹脂の芳香環の水素を一つ取り除いた原子団を表す。フェノール性水酸基含有芳香族基の中で、特に耐熱性、原料の入手のしやすさから、ヒドロキシフェニル基、ビスフェノールF基が好ましい。
【0017】
本発明の一般式(1)のフェノール化合物は、ビスマレイミド化合物とアリルフェノール化合物を反応させて得ることができる。
上記の反応において、ビスマレイミド化合物に対しアリルフェノール化合物は、モル比2.0以上で反応させることが好ましく、さらに好ましくは2.1以上6.0以下である。
【0018】
また、具体的は反応方法の例としては、ビスマレイミド化合物とアリルフェノール化合物を反応器内にて攪拌しつつ、加熱し反応させることで混合物が得られる。さらに、混合物を精製することで、本発明のフェノール化合物が得られる。
上記反応方法においては、原料を一括して装入する方法や、ビスマレイミド化合物にアリルフェノール化合物を添加して順次反応させる方法など、任意の方法が選択される。
【0019】
反応温度としては120℃以上が好ましく、さらに好ましくは140℃以上180℃以下である。120℃以上であれば、反応が高効率的に進行し一般式(1)の化合物を効率的に得ることができる。精製方法としては特に制限されることはないが、例えば溶剤に溶解させた後、再結晶、およびカラムクロマトグラフィー等で精製することでフェノール化合物が得られる。
【0020】
マレイミド化合物の具体例としては、N,N'−p−フェニレンビスマレイミド、N,N'−m−フェニレンビスマレイミド、N,N'−4,4'−ビフェニレンビスマレイミド、N,N'−4,4'−ジフェニルメタンビスマレイミド、N,N'−4,4'−ジフェニルエーテルビスマレイミド、N,N'−4,4'−ジフェニルスルフォンビスマレイミド、1,4−ビスマレイミドブタン、1,6−ビスマレイミドヘキサン、1,6−ビスマレイミドヘキサン、1,3−ビスマレイミドブタン及び1,4−ビスマレイミドシクロヘキサン等が挙げられる。
【0021】
アリルフェノール化合物の具体例としては、o−アリルフェノール、p−アリルフェノール、o−アリル−m−クレゾール、o−アリル−o−クレゾール、o−アリル−p−クレゾール、p−アリル−m−クレゾール、p−アリル−o−クレゾール、アリルビスフェノールF、アリルビスフェノールA、及びノボラック型アリルフェノール樹脂等が挙げられる。アリルビスフェノールF、及びアリルビスフェノールAとはビスフェノールF、及びビスフェノールAの任意の芳香族水素がアリル基で置換された化合物のことであり、ノボラック型アリルフェノール樹脂とは、フェノールとホルムアルデヒドから公知の方法で合成されたノボラックフェノール樹脂の任意の水素原子が、アリル基で置換された樹脂のことである。
【0022】
本発明のフェノール樹脂は一般式(3)で表されるフェノール樹脂である。
【化3】

(式(1)中、R5は芳香族基又はアルキレン基を示す。ただし、フェノール性水酸基を有する2つのベンゼン環上の水素原子は置換基により置換されても良い。)
【0023】
本発明のフェノール樹脂は、一般式(3)におけるR5として、芳香族基又はアルキレン基を有するものである。これらの芳香族基及びアルキレン基は、一般式(1)におけるR1としての芳香族基及びアルキレン基のそれぞれと同様である。
【0024】
本発明に用いられるフェノール樹脂の具体例として、芳香族基としては、フェニレン基、ナフチレン基、アントラシル基、フェナンスリレン基、ピリレン基などの単環又は縮合多環式芳香族、メチレンビスフェニレン基、ビフェニレン基及びターフェニレン基などの複数の芳香環を有する基、キシリレン基及びα,α’−ジメチルキシリレン基などのアラルキレン基、ジフェニルエーテル基、ジフェニルスルフィド基及びジフェニルスルホン基などのヘテロ原子含有芳香族基などが挙げられる。これらの芳香族基は、前述芳香環上の水素が、アルキル基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基等のアルキル基、及びハロゲン、例えばフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等により置換されていても良い。R1のアルキレン基としては、メチレン基、1,2−エチレン基、1,3−プロピレン基、1,4−ブチレン基、1,5−ペンチレン基、1,6−ヘキシレン基等の直鎖状アルキレン基、エチリデン基、プロピリデン基、1,2−プロピレン基、ブチリデン基、1,2−ブチレン基、1,3−ブチレン基、2,3−ブチレン基、ペンチリデン基、1,2−ペンチレン基、1,3−ペンチレン基、1,4−ペンチレン基等の分岐状アルキレン基、1,2−シクロブチレン、1,3−シクロブチレン、1,2−シクロペンチレン基、1,3−シクロペンチレン基、1,2−シクロヘキシレン基、1,3−シクロヘキシレン基及び1,4−シクロヘキシレン等の環状アルキレン基などが挙げられる。これらのアルキレン基はハロゲン、例えばフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等により置換されていても良い。
【0025】
本発明の一般式(3)で表されるフェノール樹脂は、一般式(1)のフェノール化合物をモノマーとして、これらのモノマー構造同士を結合基により結合した樹脂である。前記結合基としては、単結合、アルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基、ヘテロ原子含有芳香族基及びジアシル基等が挙げられる。結合基としてのアルキレン基としては、メチレン基、1,2−エチレン基、1,3−プロピレン基、1,4−ブチレン基、1,5−ペンチレン基、1,6−ヘキシレン基等の直鎖状アルキレン基、エチリデン基、プロピリデン基、1,2−プロピレン基、ブチリデン基、1,2−ブチレン基、1,3−ブチレン基、2,3−ブチレン基、ペンチリデン基、1,2−ペンチレン基、1,3−ペンチレン基、1,4−ペンチレン基等の分岐状アルキレン基、1,2−シクロブチレン、1,3−シクロブチレン、1,2−シクロペンチレン基、1,3−シクロペンチレン基、1,2−シクロヘキシレン基、1,3−シクロヘキシレン基及び1,4−シクロヘキシレン等の環状アルキレン基などが挙げられる。これらアルキレン基はハロゲン、例えばフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等により置換されていても良い。結合基としてのアリーレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基、アントラシル基、フェナンスリレン基、ピリレン基等の単環又は縮合多環式芳香族基、メチレンビスフェニレン基、イソプロピリデンビスフェニレン基、ビフェニレン基、ターフェニレン基等の複数の芳香環を有する基が挙げられる。結合基としてのアラルキレン基としては、キシリレン基及びα、α’−ジメチルキシリレン基等が挙げられる。結合基としてのヘテロ原子含有芳香族基としてはジフェニルエーテル基、ジフェニルスルフィド基及びジフェニルスルホン基挙げられる。ジアシル基としては、フタロイル基、テレフタロイル基、マロニル基、スクシニル基等があげられる。これらアリーレン基、アラルキレン基、ヘテロ原子含有芳香族基、及びジアシル基の前述芳香環上の水素が、アルキル基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基等のアルキル基、及びハロゲン、例えばフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等により置換されていても良い。
【0026】
一般式(3)で表されるフェノール樹脂における重合度nは2以上1000以下の実数であることを意味するが、一般式(3)で表されるフェノール樹脂において重合度の異なるものの混合物である場合、すなわち、nが複数種の混合物である場合は、その平均値が2以上1000以下であることを意味している。2以上1000以下であれば、保管時において固結することなく、しかも低溶融粘度となるため製造工程でのハンドリング性や成形するために好ましく、さらにnが2以上30以下であることがより好ましい。
【0027】
本発明の一般式(3)で表されるフェノール樹脂は、前記一般式(1)で表される化合物とケトン化合物、またはジカルボン酸ハロゲン化物、またはレゾール型フェノール樹脂とを反応させて、縮合重合することにより得ることができる。具体的なケトン化合物としてはホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、アクロレイン、アセトン等やそれら混合物が挙げられ、ジカルボン酸ハロゲン化物としては、テレフタル酸ジクロライド、[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジカルボニルジクロライド、マロン酸ジクロライド、コハク酸ジクロライド、ペンタンジオイルジクロライド等が挙げられ、レゾール型フェノール樹脂としては液状型レゾール樹脂、固形型レゾール樹脂、及び粉末型レゾール樹脂が挙げられる。
本発明において、前記ケトン化合物、ジカルボン酸ハロゲン化物、及びレゾール型フェノール樹脂は、反応性、原料の入手のしやすさからケトン化合物であるホルムアルデヒドが好ましい。
【0028】
本発明の一般式(3)で表されるフェノール樹脂は、一般式(1)で表されるフェノール化合物に対してケトン化合物、またはジカルボン酸ハロゲン化物をモル比0.3以上1.5以下が好ましく、より好ましくは0.5以上1.2以下の範囲において酸触媒の存在下で加熱して反応を行う。レゾール型フェノール樹脂の場合は、フェノール化合物に対してモル比で0.05以上1.5以下が好ましく、0.2以上、1.2以下の範囲が好ましい。
【0029】
本発明の一般式(3)で表されるフェノール樹脂の製造で用いる酸触媒としては、無機あるいは有機酸、例えば塩酸、硫酸、燐酸などの鉱酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、などの有機スルホン酸、さらに塩化亜鉛、塩化アルミニウム、塩化第二錫、塩化第二鉄などのフリデルクラフツ型触媒、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸などの硫酸エステル、トリフルオロメタンスルホン酸、三フッ化ホウ素などの超強酸等を単独で、あるいは併用して使用することができる。
触媒の使用量は、フェノール化合物とケトン化合物の合計量100重量部に対して、0.0001重量部以上10重量部以下、好ましくは0.001重量部以上1重量部以下である。
【0030】
上記樹脂の製造における反応方法の形態としては、原料を一括して装入する方法や、フェノール化合物と触媒の混合物にケトン化合物、ジカルボン酸ハロゲン化物、及びレゾール型フェノール樹脂を添加して順次反応させる方法など、任意の方法が選択されるが、レゾール型フェノール樹脂の場合は特にレゾール型フェノール樹脂同士のホモカップリングを防ぐため、逐次添加が好まれる。反応温度は70℃以上が好ましく、より好ましくは90℃以上であり、反応温度が70℃以上であれば反応が進行しやすくなる。また、反応時間をできるだけ短くするには、生成する水等を順次系外に除去する必要があり、反応温度は130℃以上250℃以下にしつつ系内を0.0001MPaまで減圧することが好ましい。
【0031】
本発明のフェノール樹脂は軟化点90℃以上220℃以下であり、数平均分子量が500以上10000以下が、固結することなく、しかも低溶融粘度となるため、ハンドリング、成形等で好ましく、さらに好ましくは数平均分子量が700以上5000以下が良い。
【0032】
本発明のフェノール樹脂組成物は、前記フェノール樹脂及び硬化剤を含むものである。
本発明のフェノール樹脂組成物に用いる硬化剤としては、ヘキサメチレンテトラミン、ジメチレンエーテル型フェノール樹脂、ベンジルエーテル型レゾール樹脂、メチロール型レゾール樹脂などが挙げられる。
本発明のフェノール樹脂組成物において、フェノール樹脂100重量部に対して硬化剤の含有量としては、好ましくは1重量部以上200重量部以下であり、より好ましくは1重量部以上100重量部以下である。この範囲であれば、適度な硬化性と十分な架橋密度を発現し得る。
【0033】
本発明のフェノール樹脂組成物の製造方法としては、前記フェノール化合物と硬化剤とを例えば公知のミキサーで混合することによって得ることができ、溶融混合しても良い。
【0034】
本発明のフェノール樹脂成形材料は、前記フェノール樹脂組成物及び充填材を含むものである。前期充填剤として、カーボン、タルク、クレー、アルミナ、炭酸カルシウム、二酸化珪素、ガラス繊維等の無機フィラーや、木粉、パルプ、有機繊維、熱硬化性樹脂積層板、成形品粉砕物等の有機フィラーを含有することができるが、高強度を得るためには、ガラス繊維が望ましい。前記充填剤の配合量は前記フェノール樹脂および前記硬化剤の合計量100重量部に対して0.5重量部以上2000重量部以下であることが好ましい。さらに好ましくは5重量部以上300重量部以下である。0.5重量部以上であれば、成形材料としての強度十分に満たすことができ、2000重量部以下であれば、十分な成形性を有する。
【0035】
本発明のフェノール樹脂成形材料の製造方法としては、前記フェノール樹脂組成物及び充填材、必要に応じて添加剤を混合し、例えば加熱ロールやニーダーなどによって溶融混合して得ることができる。
【0036】
本発明のフェノール樹脂成形材料には、本発明の効果を損なわない範囲で目的、用途に応じ、着色剤、離型剤、導電剤、無機基材、カップリング剤、溶剤等を配合することができる。混練方法としては、ロール、ニーダー、二軸押出機等の混練機を用いて単独又は併用して混練することができる。成形方法としては、トランスファー成形、コンプレッション成形、インジェクション成形等の成形方法によって成形することができる。
【0037】
本発明の熱硬化性樹脂組成物及び熱硬化性樹脂成形材料は、硬化物の大きさや形状等によっても異なるが、例えば、硬化温度を90℃以上、望ましくは120〜300℃に、更には、より硬化時間の短縮が必要とされる場合、160〜250℃程度で、加熱することにより硬化物とすることができる。
【0038】
本発明のフェノール樹脂成形材料は、その硬化物が耐熱性、機械的強度および電気特性等の種々の優れた特性を有していることから、積層板及び接着剤等の従来からの熱硬化性フェノール樹脂組成物が用いられてきた用途や、同様に熱硬化性樹脂成形材料が用いられている、高信頼性の必要な自動車用部品、機構部品及び電機・電子部品等の用途に好適である。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれによりなんら制限されるものではない。
【0040】
(合成例1)
反応容器に、ビスフェノールF200重量部とジメチルスルホキシド(DMSO、以下同様。)400重量部を投入し、攪拌して溶解した後、水酸化ナトリウム82重量部を添加して攪拌を継続した。さらに、系内を40℃に保持しながら、塩化アリル76.6重量部を、一時間かけてゆっくりと滴下した。さらに、40℃で2時間、60℃で1時間反応を行った後、1mol/LのHCl水溶液を、反応溶液が中性となるまで添加した。その後、加熱減圧下において、反応溶液から、純水及びDMSOを留去することで、反応物を得た。この反応物を500mLセパラブルフラスコに装入した後、減圧および窒素封入を3回繰り返し、窒素雰囲気下を作成し、フラスコ内を攪拌しつつ190℃に加熱した。5時間クライゼン転位反応を行うことで、反応物を得た。反応物に、メチルイソブチルケトン(MIBK、以下同様。)300重量部と純水350重量部を加え、MIBK層を抽出し、溶媒を減圧留去することで、モノアリルビスフェノールF212重量部を得た。
【0041】
[フェノール化合物の合成]
≪実施例1≫
N,N'−1,3−フェニレンビスマレイミド(大和化成工業(株)製)268.2重量部とo−アリルフェノール(関東化学(株)製)268.4重量部を、温度計を装着した1Lセパラブルフラスコに装入し、攪拌しながらオイルバスで昇温した。内温140℃を保ち、60分間反応させた後、得られた固体を、ヘキサン/トルエン混合溶媒を用いて再結晶を行い、512重量部の固体を得た。得られた固体の赤外吸収(IR、以下同様。)スペクトルの結果から、3400cm-1に見られるブロードな吸収からフェノール性水酸基があることを確認し、1700cm-1のマレイミド環二重結合由来の吸収が反応後消失していることから、二重結合が反応したことを確認した。また、電界脱離質量分析法(FD−MS、以下同様)の結果より、得られた固体の分子量が536.6であったことから確認した。この化合物を化合物Aとする
【0042】
≪実施例2≫
実施例1において、o−アリルフェノール268.4重量部を、合成例を繰返して得たモノアリルビスフェノールF 480.7重量部に代えた以外は、全て実施例1と同様にして反応を行い、728.2重量部の固体を得た。得られた固体のIRスペクトルの結果から、実施例1と同様にフェノール性水酸基があることを確認し、マレイミド環二重結合が反応したことを確認した。また、FD−MSの結果より、得られた固体の分子量が748.8であったことから確認した。これを化合物Bとする。
【0043】
≪実施例3≫
実施例1において、N,N'−1,3−フェニレンビスマレイミド268.2重量部を、4,4'−ジフェニルメタンビスマレイミド(大和化成工業(株)製)358.4重量部に代えた以外は、全て実施例1と同様にして反応を行い、582.3重量部の固体を得た。得られた固体のIRスペクトルの結果から、実施例1と同様にフェノール性水酸基があることを確認し、マレイミド環二重結合が反応したことを確認したまた、FD−MSの結果より、得られた固体の分子量が626.7であったことから確認した。これを化合物Cとする。
【0044】
≪実施例4≫
実施例1において、N,N'−1,3−フェニレンビスマレイミド268.2重量部を、4,4'−ジフェニルエーテルビスマレイミド(大和化成工業(株)製)360.4重量部に代えた以外は、全て実施例1と同様にして反応を行い、591.0重量部の固体を得た。得られた固体のIRスペクトルの結果から、実施例1と同様にフェノール性水酸基があることを確認し、マレイミド環二重結合が反応したことを確認したまた、FD−MSの結果より、得られた固体の分子量が628.7であったことから確認した。これを化合物Dとする。
【0045】
≪実施例5≫
実施例1において、N,N'−1,3−フェニレンビスマレイミド268.2重量部を、248.3重量部の1,4−ジマレイミドブタン(アルドリッチ社製)に代えた以外は、全て実施例1と同様にして反応を行い、501.5重量部の固体を得た。得られた固体のIRスペクトルの結果から、実施例1と同様にフェノール性水酸基があることを確認し、マレイミド環二重結合が反応したことを確認したまた、FD−MSの結果より、得られた固体の分子量が544.6であったことから確認した。これを化合物Eとする。
【0046】
≪実施例6≫
実施例1において、N,N'−1,3−フェニレンビスマレイミド268.2重量部を、1,4'−ジマレイミドブタン248.3重量部に、o−アリルフェノール268.4重量部を、合成例を繰返して得たモノアリルビスフェノールF 480.7重量部に代えた以外は、全て実施例1と同様にして反応を行い、705.1重量部の固体を得た。得られた固体のIRスペクトルの結果から、実施例1と同様にフェノール性水酸基があることを確認し、マレイミド環二重結合が反応したことを確認したまた、FD−MSの結果より、得られた固体の分子量が756.9であったことから確認した。これを化合物Fとする。
【0047】
[フェノール樹脂の合成]
≪実施例7≫
実施例1で得た化合物A268重量部、37重量%ホルマリン水溶液15重量部、N,Nジメチルホルムアミド(DMF,以下同様)200重量部及びシュウ酸5.0重量部を、攪拌装置、還流冷却器及び温度計を備えたフラスコに投入した。フラスコを徐々に昇温し、系内の温度が95℃に達してから、3時間還流を行った。その後、系内を0.04MPaの減圧下で反応溶液から水及びDMFを除きながら、系内の温度が170℃になるまで昇温し、270重量部の固形フェノール樹脂を得た。東ソー製ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、以下同様)(溶媒はテトラヒドロフラン、カラムはTSK gel SuperHZM−Mを一本、TSK gel SuperHZ3000を一本、TSK gel SuperHZ2000を3本、及びTSK gel SuperHZ100を1本)の結果から、数平均分子量(Mn,以下同様。)は1380であった。これを樹脂Aとする。
【0048】
≪実施例8≫
実施例7において、化合物A268重量部を、実施例2で得た化合物B374重量部に代えた以外は、全て実施例7と同様にして反応を行い、380重量部の固形フェノール樹脂を得た。GPCの結果からMnは1730であった。これを樹脂Bとする。
【0049】
≪実施例9≫
実施例7において、化合物A268重量部を、実施例3で得た化合物C313重量部に代えた以外は、全て実施例7と同様にして反応を行い、321重量部の固形フェノール樹脂を得た。GPCの結果からMnは1680であった。これを樹脂Cとする。
【0050】
≪実施例10≫
実施例7において、化合物A268重量部を、実施例4で得た化合物D314重量部に代えた以外は、全て実施例7と同様にして反応を行い、319重量部の固形フェノール樹脂を得た。GPCの結果からMnは1650であった。これを樹脂Dとする。
【0051】
≪実施例11≫
実施例7において、化合物A268重量部を、実施例5で得た化合物E258重量部に代えた以外は、全て実施例7と同様にして反応を行い、262重量部の固形フェノール樹脂を得た。GPCの結果からMnは1420であった。これを樹脂Eとする。
【0052】
≪実施例12≫
実施例7において、化合物A268重量部を、実施例6で得た化合物F365重量部に代えた以外は、全て実施例7と同様にして反応を行い、371重量部の固形フェノール樹脂を得た。GPCの結果からMnは1690であった。これを樹脂Fとする。
【0053】
[フェノール樹脂組成物の製造]
≪実施例13≫
実施例7を繰返して得た固形樹脂A500重量部及びヘキサメチレンテトラミン20重量部を粉砕機にて粉砕混合し、フェノール樹脂組成物を得た。
【0054】
≪実施例14から20≫
実施例13と同様に表1の配合に基づいてフェノール樹脂組成物を得た。
【0055】
[フェノール樹脂成形材料の製造]
≪実施例21≫
500重量部の樹脂A、600重量部の木粉(大友化成(株)製)、および20重量部のヘキサメチレンテトラミンの混合物を二軸押出機にて混練したのち粉砕することで、フェノール樹脂成形材料を得た。
【0056】
≪比較例1≫
500重量部のp−マレイミドフェノールノボラック(特開平5−051425号公報の記載に準じて合成)と47重量部のヘキサテトラミンとを粉砕機にて粉砕し、粉末状フェノール樹脂組成物を得た。
【0057】
≪比較例2≫
500重量部のp−マレイミドフェノールノボラックと10重量部のジクミルパーオキシドとを粉砕機にて粉砕し、粉末状樹脂組成物を得た。
【0058】
以上の各実施例及び比較例より得られたフェノール樹脂組成物及びフェノール樹脂成形材料を用いて、以下の成形条件及び後硬化条件により、試験用の成形品(100mm×10mm×4mm)を作製し、成形品のTgは熱機械測定装置(TMA)を用い、曲げ強度は万能試験機テンシロンを用い評価を行った。配合および耐熱性、曲げ強度評価結果を表1に示す。
(成形条件)温度180℃、圧力20MPa、時間15分
(後硬化条件)温度180℃1時間、200℃1時間、230℃2時間
【0059】
【表1】

【0060】
表1より明らかなように実施例では、比較例よりも、耐熱性および曲げ強度の優れた成形品を得ることができた。これは、本発明のフェノール樹脂におけるマレイミド基の分子間相互作用により、分子同士が積層しやすくなったことに起因するものと推察される。さらに、樹脂にガラス繊維を配合させることで硬化後の強度も高く、熱履歴後の曲げ強度も高い値であった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のフェノール樹脂、フェノール樹脂組成物及びこれを用いたフェノール樹脂成形材料は、耐熱性に優れる硬化物が得られることにより、耐熱性が要求される用途、例えば、成形材料用素材、積層板用樹脂、摩擦材用粘結剤、砥石粘結材、電子電気部品被覆剤、及びゴム配合剤などの用途に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるフェノール化合物。
【化1】

(式(1)中、R1は芳香族基又はアルキレン基を示す。ただし、フェノール性水酸基を有する2つのベンゼン環上の水素原子は置換基により置換されても良い。)
【請求項2】
前記置換基は、一般式(2)で表される置換基である請求項1に記載のフェノール化合物。
【化2】

(式(2)中、R2、R3及びR4は、水素原子、アルキル基、芳香族基、及び水酸基を有する芳香族基のいずれか1つから選ばれるものであり、3つの置換基R2、R3及びR4のうち少なくとも1つは水酸基を有する芳香族基である。)
【請求項3】
下記一般式(3)で表されるフェノール樹脂。
【化3】

(式(1)中、R5は芳香族基又はアルキレン基を示す。ただし、フェノール性水酸基を有する2つのベンゼン環上の水素原子は置換基により置換されても良い。nは2以上1000以下である。)
【請求項4】
請求項1又は2に記載のフェノール化合物と、ケトン化合物、ジカルボン酸ハロゲン化物またはレゾール型フェノール樹脂とを反応させて縮合重合することにより得られるフェノール樹脂。
【請求項5】
前記ケトン化合物がホルムアルデヒドである請求項4に記載のフェノール樹脂。
【請求項6】
請求項3又は4に記載のフェノール樹脂及び硬化剤を含むフェノール樹脂組成物。
【請求項7】
請求項6に記載のフェノール樹脂組成物及び充填材を含むフェノール樹脂成形材料。
【請求項8】
請求項6に記載のフェノール樹脂組成物又は請求項7に記載のフェノール樹脂成形材料を硬化して得られる硬化物。

【公開番号】特開2009−242471(P2009−242471A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88086(P2008−88086)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】