説明

フェノール樹脂組成物及びそれを用いた高耐水性フェノール樹脂硬化物

【課題】加熱処理により、良好な耐熱性や耐薬品性を保持すると共に、耐水性に優れるフェノール樹脂硬化物を与えるフェノール樹脂組成物、及びそれを加熱処理してなる高耐水性フェノール樹脂硬化物を提供する。
【解決手段】
フェノール樹脂と、それに対して架橋性を有する中心金属イオンの配位数が4以上の金属化合物とを含むフェノール樹脂組成物、及び該フェノール樹脂組成物を加熱処理し、該組成物中のフェノール樹脂と金属化合物を反応させてなる高耐水性フェノール樹脂硬化物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール樹脂組成物及びそれを用いた高耐水性フェノール樹脂硬化物に関する。さらに詳しくは、本発明は、フェノール樹脂と、それに対して架橋性を有する金属化合物とを含み、加熱処理により、耐水性に優れる(耐水強度の高い)フェノール樹脂硬化物を与えることができ、天然繊維や合成繊維などの有機質繊維、無機質繊維、あるいは無機粉体などのバインダー等として好適なフェノール樹脂組成物、及びそれを加熱処理してなる高耐水性フェノール樹脂硬化物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂は、硬化物の耐水性、耐熱性、耐薬品性などを活かして、例えば綿、セルロース、パルプ、アラミド、炭素などの有機質繊維や、ガラス、ロックウールなどの無機質繊維、あるいは無機物粉体等のバインダー、さらには塗膜、接着剤などとして古くから用いられている。
フェノール樹脂としては、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂共に用いられているが、多くの場合、レゾール型フェノール樹脂については熱による硬化、酸触媒による硬化、又はメチロール基やフェノール性水酸基等と反応する官能基を有する化合物で架橋させて硬化させることでこれらの性能を発現させるのが一般的である。また、ノボラック型フェノール樹脂については、ヘキサメチレンテトラミンやアミン化合物やグリシジル基を有する化合物、あるいはイソシアネート基、カルボキシル基、メチロール基等を有する化合物で硬化させることが一般的である。フェノール樹脂は3次元架橋により硬化物を形成することである程度の耐水性を有する。
【0003】
しかしながら、このようなフェノール樹脂硬化物は、構造中に親水性のフェノール性水酸基や、メチロ−ル基が残存するために、吸水による耐水強度が低下するのを免れない。したがって、高い耐水性が要求される用途には、硬化物の耐水強度の高いフェノール樹脂組成物が要求される。
このような要求に応えるために、例えばフェノール樹脂をそのバインダー特性を活かした分野に用いる場合、有機質繊維や無機質繊維、あるいは無機物粉体等の成形バインダーについて耐水性を向上させる試みとして、フェノール性水酸基のアシル化やエーテル化、エステル化、アセチル化、エポキシ化等によりフェノール性水酸基を潰す方法が試みられている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、この方法においては、変性することでフェノール樹脂の特徴である耐熱性や耐薬品性などが劣る、製造工程が煩雑で製造に長い時間を要する、原料コストが高くつき経済的に不利である、などの欠点がある。
【0004】
【非特許文献1】「プラスチック材料講座15巻」、フェノール樹脂第56〜61頁、村山新一著、日刊工業新聞社発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況下で、加熱処理により、良好な耐熱性や耐薬品性を保持すると共に、耐水性に優れるフェノール樹脂硬化物を与える工業的に有利なフェノール樹脂組成物、及びそれを加熱処理してなる高耐水性フェノール樹脂硬化物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の好ましい性質を有するフェノール樹脂組成物を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、フェノール樹脂と、それに対して架橋性を有する中心金属イオンの配位数が4以上の金属化合物とを含む組成物により、その目的を達成し得ることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1)フェノール樹脂と、それに対して架橋性を有する中心金属イオンの配位数が4以上の金属化合物とを含むことを特徴とするフェノール樹脂組成物、
(2)金属化合物が、ジルコニウム化合物、アルミニウム化合物、ニッケル化合物及びチタン化合物の中から選ばれる少なくとも一種である上記(1)項に記載のフェノール樹脂組成物、
(3)ジルコニウム化合物が炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、塩基性炭酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウムアンモニウム、蓚酸ジルコニウムアンモニウム、蓚酸ジルコニウムナトリウム、クエン酸ジルコニウムアンモニウム、硫酸ジルコニウム、塩基性硫酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウムナトリウム、硝酸ジルコニウム、燐酸ジルコニウム、プロピオン酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、ヒドロオキシ塩化ジルコニウム、四塩化ジルコニウム、四臭化ジルコニウム、ギ酸ジルコニウム、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、ジルコニウムテトラアルコキシド、水酸化ジルコニウム及び酸化ジルコニウムの中から選ばれる少なくとも一種である上記(2)項に記載のフェノール樹脂組成物、
(4)フェノール樹脂が、分子内にカルボキシル基及び/又はグリシジル基を有する変性フェノール樹脂である上記(1)〜(3)項のいずれかに記載のフェノール樹脂組成物、
(5)フェノール樹脂100質量部当たり、金属化合物を0.2〜100質量部の割合で含む上記(1)〜(4)項のいずれかに記載のフェノール樹脂組成物、及び
(6)上記(1)〜(5)項のいずれかに記載のフェノール樹脂組成物を加熱処理し、該組成物中のフェノール樹脂と金属化合物を反応させてなる高耐水性フェノール樹脂硬化物、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、フェノール樹脂と、それに対して架橋性を有する金属化合物を含み、加熱処理により、良好な耐熱性や耐薬品性を保持すると共に、耐水性に優れるフェノール樹脂硬化物を与えることができ、天然繊維や合成繊維などの有機質繊維、無機質繊維、あるいは無機粉体などのバインダー等として好適なフェノール樹脂組成物、及びそれを加熱処理してなる高耐水性フェノール樹脂硬化物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のフェノール樹脂組成物は、フェノール樹脂と、それに対して架橋性を有する中心金属イオンの配位数が4以上の金属化合物(以下、単に架橋性金属化合物と称することがある。)とを含む組成物である。
前記フェノール樹脂としては、レゾール型及びノボラック型のいずれも用いることができる。これらのフェノール樹脂は、従来公知の方法、例えばレゾール型フェノール樹脂の場合には、フェノール類とアルデヒド類とを、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、トリメチルアミン、トリエチルアミンなどのアルカリ触媒の存在下に、ノボラック型フェノール樹脂の場合には、フェノール類とアルデヒド類とを、シュウ酸、p−トルエンスルホン酸、塩酸、硫酸などの酸触媒の存在下に、それぞれ所定の温度で加熱反応させたのち、常圧濃縮や真空濃縮を行い、取り出すことにより、得ることができる。
【0009】
フェノール類としては、例えばフェノール、クレゾール、キシレノール、p−アルキルフェノール、p−フェニルフェノール、レゾルシノールなどの中から選ばれる少なくとも一種を用いることができ、アルデヒド類としては、例えばホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、フルフラール、アセトアルデヒドなどの中から選ばれる少なくとも一種を用いることができる。
本発明においては、前記フェノール類としてはフェノールが好ましく、アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド及びパラホルムアルデヒドが好ましい。
また、本発明においては、フェノール樹脂として、分子内にカルボキシル基及び/又はグリシジル基を有する変性フェノール樹脂(レゾール型、ノボラック型)を用いることができる。変性方法については、フェノール樹脂にカルボキシル基やグリシジル基を導入し得る方法であればよく、特に制限されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、フェノール樹脂中のフェノール性水酸基やメチロール基の一部に、カルボキシル基含有化合物及び/又はグリシジル基含有化合物を反応させて変性する方法などを用いることができる。
【0010】
本発明のフェノール樹脂組成物において用いられる架橋性金属化合物は、前記のフェノール樹脂に対して架橋性を有する、中心金属イオンの配位数が4以上の金属化合物である。このような金属化合物としては、前記性状を有するものであればよく、特に制限されず、様々な金属化合物を用いることができるが、架橋性、得られるフェノール樹脂硬化物の性状(耐水性、耐熱性、耐薬品性など)、環境衛生上の安全性などの面から、ジルコニウム化合物(配位数8)、アルミニウム化合物(配位数4又は6)、ニッケル化合物(配位数4又は6)及びチタン化合物(配位数6)が好適である。
これらの金属化合物の形態については特に制限はなく、様々な形態の金属化合物、例えばハロゲン化物、水酸化物、酸化物、有機酸塩、アルコキシド、錯化合物(キレート化合物を含む)などを用いることができる。
【0011】
本発明においては、前記金属化合物は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよいが、架橋性や、得られるフェノール樹脂硬化物の耐水性、耐熱性、耐薬品性、無着色性などのバランスの面から、特にジルコニウム化合物が好ましい。
このジルコニウム化合物としては、例えば、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、塩基性炭酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウムアンモニウム、蓚酸ジルコニウムアンモニウム、蓚酸ジルコニウムナトリウム、クエン酸ジルコニウムアンモニウム、硫酸ジルコニウム、塩基性硫酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウムナトリウム、硝酸ジルコニウム、燐酸ジルコニウム、プロピオン酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、ヒドロオキシ塩化ジルコニウム、四塩化ジルコニウム、四臭化ジルコニウム、ギ酸ジルコニウム、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、ジルコニウムテトラアルコキシド(アルコキシル基の炭素数は、好ましくは1〜4)、水酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウムなどが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、六フッ化ジルコニウムカリウム、リン酸ナトリウム・ジルコニウムなども用いることができる。これらのジルコニウム化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0012】
前記金属化合物の架橋機構は、該金属化合物の形態により、異なる。例えば、金属化合物が、分子内に炭酸基、アンモニウム基、配位した水分子などを有し、熱分解性の化合物であれば、フェノール樹脂と共に加熱処理することにより、該金属化合物の置換基や配位した水分子が脱離し、金属原子に空の配位座が形成し、フェノール樹脂中のフェノール性水酸基、メチロール基、カルボキシル基、グリシジル基の酸素原子が、該金属原子の空の配位座に配位した構造をとり、すなわち配位子交換反応により、架橋化が生じ、高分子の巨大化が進むものと考えられる。
また、金属化合物がアルコキシド体や、キレート化合物の一種であるアセチルアセトナート体などである場合、フェノール樹脂と共に加熱処理することにより、フェノール樹脂のフェノール性水酸基、メチロール基、グリシジル基と金属化合物との間でエステル交換反応やキレート交換反応が生じ、また、フェノール樹脂中のカルボキシル基と金属化合物との間でアシレート化反応が生じ、架橋化が進むものと考えられる。
【0013】
このような架橋化により、フェノール樹脂硬化物中の親水性のフェノール性水酸基やメチロール基が低減することにより、耐水性が向上し、高い耐水強度が得られるものと思われる。
特に、本発明のフェノール樹脂組成物を、繊維中に水酸基を含むパルプ繊維などのバインダー等として用いる場合、上記水酸基同士の水素結合の他に、前述の架橋機構により、該パルプ繊維の水酸基が金属化合物によって架橋されるため、より強固な繊維強化バインダーとなる。
前記ジルコニウム化合物においては、フェノール樹脂組成物中に水分を含む場合や、該組成物を天然繊維や合成繊維などの有機質繊維、無機質繊維、あるいは無機紛体などの成形バインダーとして用いるに際し、一部水系ビーターで成形する場合には、ジルコニウム化合物の水溶液や水との溶解性が高いジルコニウム化合物が安定した性能を発揮する。また、成形予備材料のpHに応じてアルカリ性サイドでは炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、水酸化ジルコニウム、酸性サイドでは、酢酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、燐酸ジルコニウム等が安定した性能を発揮する。
【0014】
また、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウムは水溶液の状態で用いられ、そして、前記したように、加熱乾燥過程でアミン、アンモニア、炭酸ガスが脱離してジルコニウムに空の配位座が形成し、フェノール樹脂中のフェノール性水酸基、メチロール基、カルボキシル基、グリシジル基の酸素原子がジルコニウム原子の空の配位座に配位した構造(配位子交換反応)を取り高分子の巨大化が進むものと考えられる。これにより、水との親和性のあるフェノール性水酸基、メチロール基は架橋により消失し、耐水性が向上して高い耐水強度が得られると考えられる。また、ジルコニウム原子がフェノール樹脂の構造中に入ることで耐熱性も向上すると考えられる。
酢酸ジルコニウムについても水溶液の状態で用いられ、ジルコニウム原子に水分子が配位しているが乾燥により水分子は脱離して空の配位座を形成して同様にフェノール樹脂構造中のフェノール性水酸基、メチロール基、カルボキシル基、グリシジル基と架橋して耐水性が向上し耐水強度が得られると考えられる。
【0015】
本発明のフェノール樹脂組成物においては、フェノール樹脂100質量部当たり、架橋性金属化合物を0.2〜100質量部の割合で含むことが好ましい。架橋性金属化合物の含有量が0.2質量部以上であれば、得られるフェノール樹脂硬化物の耐水性向上効果が発揮され、一方、100質量部以下であれば、架橋硬化反応の急激な進行を抑えることができ、例えば天然繊維や合成繊維などの有機質繊維、無機質繊維、あるいは無機紛体などの成形バインダーとして、基材に対して充分な含浸性が得られ、強度も良好となる。該架橋性金属化合物のより好ましい含有量は0.3〜50質量部であり、特に0.5〜40質量部が好ましい。
【0016】
本発明のフェノール樹脂組成物には、前記のフェノール樹脂及び架橋性金属化合物以外に、必要に応じ、水酸基、メチロール基、カルボキシル基、グリシジル基等を有する澱粉、ポリビニルアルコール、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、メチロールメラミン樹脂、メチロール尿素樹脂などの中から選ばれる少なくとも一種を含有させることができる。これにより、得られるフェノール樹脂硬化物は、フェノール樹脂単独とは異なる強度特性(常態強度向上、可とう性など)を有するものとなる。
さらに、必要に応じ、一般的に使用される架橋剤を含有させることができる。この架橋剤としては、例えば分子中に2つ以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物、2つ以上のアミノ基を有するアミン化合物やヘキサメチレンテトラミンなどを挙げることができる。
イソシアネート化合物としては、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート等を溶液状または粉状で用いるのがよい。また2つ以上のアミノ基を有するアミン化合物としてはジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリアミン等を用いることができる。
これらの架橋剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
本発明はまた、前述の本発明のフェノール樹脂組成物を加熱処理し、該組成物中のフェノール樹脂と架橋性金属化合物を反応させてなる高耐水性フェノール樹脂硬化物をも提供する。
このフェノール樹脂硬化物は、フェノール樹脂中のフェノール性水酸基やメチロール基が金属化合物による架橋によって消失し、耐水性が向上して高い耐水強度を有している。また、金属原子がフェノール樹脂構造中に取り込まれることで、耐熱性や耐薬品性も良好である。
本発明のフェノール樹脂組成物は、加熱処理により、前記のような高耐水性を有すると共に、耐熱性や耐薬品性も良好であるフェノール樹脂硬化物が得られることから、例えば天然繊維や合成繊維などの有機質繊維、無機質繊維、あるいは無機紛体などのバインダー等として好適に用いられる。
【実施例】
【0018】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例で得られた成形板の諸特性を、以下に示す要領で求めた。
(1)成形板の含水率
成形板を100×25×6mmにカットして試験片を作製した。
(a)24時間浸漬含水率
前記試験片を、温度20℃の水中に24時間浸漬し、浸漬前の試験片の質量をAg、浸漬後の試験片の質量をBgとした場合、式[(B−A)/A]×100により、含水率(%)を算出した。
(b)強制含水率
温度20℃の水を入れた密閉容器に前記試験片を浸漬して、容器内を3.3kPa(25mmHg)に減圧し、強制的に成形板の含水率を高め、その含水率を上記(a)と同様にして求めた。
(2)成形板の曲げ強度
(c)常態強度
100×25×6mmにカットした成形板の試験片について、TOYO BALDWIN社製の曲げ試験機を用い、スパン長64mm、クロスヘッド速度1mm/minの条件で、常態(環境条件;温度25℃、相対湿度45%)曲げ強度を測定した。
(d)24時間水浸漬耐水強度
前記(1)(a)における水浸漬後の試験片について、上記(c)と同様にして曲げ強度を測定した。
(e)強制含水後の耐水強度
前記1(b)における強制的に含水率を高めた試験片について、上記(c)と同様にして曲げ強度を測定した。
【0019】
製造例1 レゾール型フェノール樹脂Aの製造
フェノール1000g及び50質量%ホルムアルデヒド水溶液1100gを攪拌羽根の付いたセパラブルフラスコに入れ、溶解させた後、攪拌下で触媒として水酸化バリウム30gを添加して温度80℃にて1.5時間反応させた。次いで燐酸でpH4に中和し、減圧脱水を行い、固形のレゾール型フェノール樹脂Aを得た。
【0020】
製造例2 ノボラック型フェノール樹脂Bの製造
フェノール1000g及び50質量%ホルムアルデヒド水溶液500gを攪拌羽根の付いたセパラブルフラスコに入れ、溶解させた後、攪拌下で触媒として蓚酸6gを添加して温度100℃にて6時間反応を行った。次いで常圧脱水、減圧脱水を行い、冷却した後取り出し、ノボラック型フェノール樹脂Bを得た。
【0021】
実施例1
プロペラ攪拌機をセットした水槽容器に水を5000質量部、ロックウール繊維90質量部を入れ解繊し、レゾール型フェノール樹脂A粉砕物2.5質量部、ノボラック型フェノール樹脂粉砕物B7.0質量部、炭酸ジルコニウムアンモニウム40質量%水溶液0.5質量部(固形分0.2質量部)を配合して均一に混合した後、1質量%ポリ塩化アルミニウム10質量部、1質量%ポリアクリルアミド10質量部を配合してロックウール繊維に各配合物を定着させ、次いで金網で抄いてケーキ状物を得た。更に150℃の熱プレス(温度150℃、圧力4.9MPaで40分間加熱プレス)を行い、厚さ6mmの成形板を作製した。得られた成形板について、諸特性を求めた。その結果を第1表に示す。
【0022】
実施例2
実施例1において、炭酸ジルコニウムアンモニウム40質量%水溶液の量を1.0質量部(固形分0.4質量部)に変えた以外は、実施例1と同様にして成形板を作製し、諸特性を求めた。その結果を第1表に示す。
【0023】
実施例3
実施例1において、炭酸ジルコニウムアンモニウム40質量%水溶液0.5質量部(固形分0.2質量部)の代わりに、炭酸ジルコニウムカリウム20質量%水溶液1.0質量%(固形分0.2質量部)を用いた以外は、実施例1と同様にして成形板を作製し、諸特性を求めた。その結果を第1表に示す。
【0024】
実施例4
実施例1において、レゾール型フェノール樹脂Aの量を4.75質量部、ノボラック型フェノール樹脂Bの量を4.75質量部に変更すると共に、炭酸ジルコニウムアンモニウム40質量%水溶液0.5質量部(固形分0.2質量部)の代わりに、炭酸ジルコニウムカリウム20質量%水溶液2.0質量部(固形分0.4質量部)を用いた以外は、実施例1と同様にして成形板を作製し、諸特性を求めた。その結果を第1表に示す。
【0025】
比較例1
実施例1において、炭酸ジルコニウムアンモニウム40質量%水溶液を配合しなかったこと以外は、実施例1と同様にして成形板を作製し、諸特性を求めた。その結果を第1表に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
第1表から明らかなように、実施例1〜4で得られた成形板における24時間水浸漬耐水強度及び強制含水後の耐水強度は、いずれも比較例1で得られた成形板のものよりもはるかに高いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のフェノール樹脂組成物は、フェノール樹脂と、架橋性金属化合物とを含み、加熱処理により、耐水性に優れるフェノール樹脂硬化物を与えることができる。したがって、天然繊維や合成繊維などの有機質繊維、無機質繊維、あるいは無機紛体などのバインダー等として好適に用いられる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール樹脂と、それに対して架橋性を有する中心金属イオンの配位数が4以上の金属化合物とを含むことを特徴とするフェノール樹脂組成物。
【請求項2】
金属化合物が、ジルコニウム化合物、アルミニウム化合物、ニッケル化合物及びチタン化合物の中から選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載のフェノール樹脂組成物。
【請求項3】
ジルコニウム化合物が炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、塩基性炭酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウムアンモニウム、蓚酸ジルコニウムアンモニウム、蓚酸ジルコニウムナトリウム、クエン酸ジルコニウムアンモニウム、硫酸ジルコニウム、塩基性硫酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウムナトリウム、硝酸ジルコニウム、燐酸ジルコニウム、プロピオン酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、ヒドロオキシ塩化ジルコニウム、四塩化ジルコニウム、四臭化ジルコニウム、ギ酸ジルコニウム、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、ジルコニウムテトラアルコキシド、水酸化ジルコニウム及び酸化ジルコニウムの中から選ばれる少なくとも一種である請求項2に記載のフェノール樹脂組成物。
【請求項4】
フェノール樹脂が、分子内にカルボキシル基及び/又はグリシジル基を有する変性フェノール樹脂である請求項1〜3のいずれかに記載のフェノール樹脂組成物。
【請求項5】
フェノール樹脂100質量部当たり、金属化合物を0.2〜100質量部の割合で含む請求項1〜4のいずれかに記載のフェノール樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のフェノール樹脂組成物を加熱処理し、該組成物中のフェノール樹脂と金属化合物を反応させてなる高耐水性フェノール樹脂硬化物。


【公開番号】特開2006−193640(P2006−193640A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−7368(P2005−7368)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】