説明

フェライト磁性材料

【課題】Coの含有量を低減しても、高い残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)を得ることのできるフェライト磁性材料を提供する。
【解決手段】Sr、La、Ce、Fe、Co及びMnを構成元素として含む六方晶構造を有するフェライトを主成分とし、この主成分におけるSr、La、Ce、Fe、Co及びMnそれぞれの金属元素の総計の構成比率が、組成式:Sr1−x(La1−mCe(Fe12−y(Co1−nMnで示されることを特徴とするフェライト磁性材料。
ただし、上記組成式において、
m、n、x、y及びzは、
0<m≦0.65、
0≦n≦0.90、
0.08≦x≦0.30、
0≦y≦0.25、
1.01≦z≦1.08である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物磁性材料に関し、特にSr、La及びCoを含有するM型フェライト磁石材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化物永久磁石材料としては、一般に六方晶系のマグネトプランバイト型(M型)Srフェライト又はBaフェライトが主に用いられている。これらのM型フェライトは、比較的安価で高い磁気特性を有するという特徴から、焼結磁石やボンディッド磁石として利用され、例えば家電製品や自動車等に搭載されるモーターなどに応用されている。
近年、電子部品の小型化、高性能化への要求が高まっており、それに伴ってフェライト焼結磁石への小型化、高性能化が強く要求されている。例えば、特開平11−154604号公報(特許文献1)には、従来のM型フェライト焼結磁石では達成不可能であった高い残留磁束密度と高い保磁力とを有するフェライト焼結磁石が提案されている。このフェライト焼結磁石は、少なくともSr、La及びCoを含有し、六方晶M型フェライトの主成分を有するものである。また、特開平11−97226号公報(特許文献2)、特開平11−195516号公報(特許文献3)にSr、Pr及びCo又はSr、Nd及びCoを有する六方晶M型フェライトについて開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−154604号公報
【特許文献2】特開平11−97226号公報
【特許文献3】特開平11−195516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらのフェライト焼結磁石においても保磁力及び飽和磁化の両方の特性改善がさらに要求されている。また、これらのフェライト焼結磁石はCoを含有させることにより、保磁力(HcJ)及び残留磁束密度(Br)を向上させているが、Coが高価であるためにフェライト焼結磁石のコストアップを招いている。
そこで本発明は、Coの含有量を低減しても、高い残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)を得ることのできるフェライト磁性材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、Sr、La及びCoを含有する六方晶M型フェライト焼結磁石の磁気特性向上について検討の結果、Laの一部を所定量のCe、Pr及びNdの少なくとも1種の元素で置換することが有効であることを知見した。さらに本発明者等は、Coの一部を所定量のMnで置換しても磁気特性を低減させることがなく、高価なCoの含有量を低減できることを知見した。
以上の知見に基づく本願の第1の発明は、Sr、La、Ce、Fe、Co及びMnを構成元素として含む六方晶構造を有するフェライトを主成分とし、この主成分におけるSr、La、Ce、Fe、Co及びMnそれぞれの金属元素の総計の構成比率が、組成式:Sr1−x(La1−mCe(Fe12−y(Co1−nMnで示されることを特徴とするフェライト磁性材料である。
ただし、上記組成式において、m、n、x、y及びzは、0<m≦0.65、0≦n≦0.90、0.08≦x≦0.30、0≦y≦0.25、1.01≦z≦1.08である。
【0006】
以上の知見に基づく本願の第2の発明は、Sr、La、R、Fe、Co及びMnを構成元素として含む六方晶構造を有するフェライトを主成分とし、この主成分におけるSr、La、R、Fe、Co及びMnそれぞれの金属元素の総計の構成比率が、組成式:Sr1−x(La1−m(Fe12―y(Co1−nMnで示されることを特徴とするフェライト磁性材料である。
ただし、上記組成式において、m、n、x、y及びzは、0<m<0.65、0<n≦0.90、0.08≦x≦0.30、0≦y≦0.25、1.01≦z≦1.08である。また、RはPr及びNdの少なくとも1種である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、Sr、La及びCoを含有する六方晶M型フェライトにおけるLaの一部をCe、Pr及びNdの少なくとも1種で置換すると、Co含有量を低減しても高い磁気特性を得ることができる。Ce、Pr及びNdの中ではCeが最も安価であるため、Laの一部をCeで置換することが、フェライト磁性材料の低コスト化にとって最も有効である。
また、本発明によれば、Coの一部をより安価なMnで置換することによって高価なCo量を低減しても高い磁気特性を得ることができるため、フェライト磁性材料の低コスト化にとって有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明のフェライト磁性材料を詳細に説明する。
第1の発明に係るフェライト磁性材料は、Sr、La、Ce、Fe、Co及びMnを構成元素として含む六方晶構造を有するフェライトを主成分とし、この主成分におけるSr、La、Ce、Fe、Co及びMnそれぞれの金属元素の総計の構成比率が、組成式:Sr1−x(La1−mCe(Fe12−y(Co1−nMnで示されることを特徴とするフェライト磁性材料である。
ただし、上記組成式において、
m、n、x、y及びzは、
0<m≦0.65、
0≦n≦0.90、
0.08≦x≦0.30、
0≦y≦0.25、
1.01≦z≦1.08である。
なお、上記組成式は、M型フェライトを示す一般式に基づいているが、酸素の表記を省略している。
【0009】
また、第2の発明に係るフェライト磁性材料は、Sr、La、R、Fe、Co及びMnを構成元素として含む六方晶構造を有するフェライトを主成分とし、この主成分におけるSr、La、R、Fe、Co及びMnそれぞれの金属元素の総計の構成比率が、組成式:Sr1−x(La1−m(Fe12−y(Co1−nMnで示されることを特徴とするフェライト磁性材料である。
ただし、上記組成式において、
m、n、x、y及びzは、
0<m≦0.65、
0<n≦0.90、
0.08≦x≦0.30、
0≦y≦0.25、
1.01≦z≦1.08である。
なお、第1の発明はMnの含有を任意としているのに対して、第2の発明はMnの含有を必須とする。第2の発明はCeに比べて高価なPr、Ndを含むため、その分Coの一部を安価なMnで置換することを必須として、フェライト磁性材料の低コスト化に資するためである。
【0010】
以下、上記組成式の限定理由について説明する。
(La1−mCe)(x):
上記組成式においてxが大きくなるにつれて、残留磁束密度(Br)は大きくなるのに対して保磁力(HcJ)は小さくなり、0.08≦x≦0.30の範囲において高い残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)を得ることができる。好ましいxの値は0.10≦x≦0.25、より好ましいxの値は0.10≦x≦0.20である。
【0011】
Ce又はR(m):
mが0を超えると磁気特性が向上するが、mが0.65を超えると、残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)が低下する。そこで本発明は0<m≦0.65とする。好ましいmの値は0.10≦m≦0.60、さらに好ましいmの値は0.20≦m≦0.50である。
【0012】
Mn(n):
CoのMnによる置換量を示すnは、0.90を超えるとMnを置換しない場合よりも磁気特性が低下してしまう。そこで本発明では、nを0<n≦0.90とする。好ましいnの値は0.20≦n≦0.85、さらに好ましいnの値は0.30≦n≦0.70である。
【0013】
Co+Mn(y):
Co及びMnの総量を示すyが小さすぎると飽和磁化向上効果及び/又は異方性磁場向上効果が不充分となってくる。しかし、yが大きすぎると、六方晶M型フェライト中に置換固溶できない過剰なCo及びMnが存在することになる。また、Co及びMnが置換固溶できる範囲であっても、異方性定数(K1)や異方性磁場(Ha)の劣化が大きくなってくる。そこで本発明は0≦y≦0.25とする。好ましいyの値は0.02≦y≦0.20、さらに好ましくは0.04≦y≦0.18である。
【0014】
z:
組成式Sr1−x(La1−mCe/R(Fe12−y(Co1−nMnにおいて、zが小さすぎるとSrやLa、Ceを含む異相が増加するため、またzが大きすぎるとα−FeやCo、Mnを含むスピネルフェライト相等の異相が増加するため、磁気特性が低下する。したがって本発明におけるzは、1.01≦z≦1.08とすることが好ましい。好ましいzの値は1.02≦z≦1.07、さらに好ましいzの値は1.03≦z≦1.06である。
【0015】
Sr:
本発明は、Srを用いることを必須とする。ただし、六方晶M型フェライトの一般式であるMFe1219において、MとしてSrとともに用いられることが知られているBa及び/又はPbで、Srの一部、例えばSrの30原子%以下程度置換することを本発明は許容する。また、原料の純度によって、Ba及び/又はPbは不純物として0.1wt%程度混入することがあり、本発明はこのような形態をも包含する。
【0016】
上記組成式において、酸素Oの存在を考慮すると、Sr1−x(La1−mCe(Fe12−y(Co1−nMn19又はSr1−x(La1−m(Fe12−y(Co1−nMn19の組成式で示すことができる。酸素Oの原子数は19となっているが、これは、Coがすべて2価、La、Ce及びRがすべて3価であって、かつx=y、z=1のときの、酸素Oの化学量論組成比を示したものである。x、y、zの値によって、酸素Oの原子数は異なってくる。また、例えば焼成雰囲気が還元性雰囲気の場合は、酸素Oの欠損(ベイカンシー)ができる可能性がある。さらに、FeはM型フェライト中においては通常3価で存在するが、これが2価などに変化する可能性もある。また、Coも価数が変化する可能性があり、さらにLa、Ce及びRにおいても3価以外の価数をとる可能性があり、これらにより金属元素に対する酸素Oの比率は変化する。上記組成式では、x、y、zの値によらず酸素Oの原子数を19と表示してあるが、実際の酸素Oの原子数は、これから多少偏倚した値であってもよい。
【0017】
本発明によるフェライト磁性材料の組成は、蛍光X線定量分析などにより測定することができるが、主成分及び副成分以外の成分の含有を排除するものではない。また、上記主相の存在は、X線回折や電子線回折などにより確認できる。
【0018】
本発明によるフェライト磁性材料には、副成分として、Si成分及びCa成分を含有することができる。Si成分及びCa成分は、六方晶M型フェライトの焼結性の改善、磁気特性の制御及び焼結体の結晶粒径の調整等を目的として添加される。
【0019】
本発明のフェライト磁性材料がフェライト焼結体の形態をなす場合、その平均結晶粒径は、好ましくは2.0μm以下、より好ましくは1.5μm以下、さらに好ましくは1.0〜1.5μmである。結晶粒径は走査型電子顕微鏡によって測定することができる。
【0020】
また、本発明のフェライト磁性材料がフェライト粒子の形態をなす場合、その1次粒子の平均粒径が1μmを超えていても、従来に比べ高い保磁力を得ることができる。1次粒子の平均粒径は、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下であり、さらに好ましくは0.1〜1μmである。平均粒径が大きすぎると、フェライト粒子中の多磁区粒子の比率が高くなって保磁力が低くなり、平均粒径が小さすぎると、熱擾乱によって磁性が低下したり、磁場中成形時の配向性や成形性が悪くなる。
フェライト粒子は、通常、これをバインダで結合したボンディッド磁石に用いられる。バインダとしては、通常ニトリルゴム(NBRゴム)、塩素化ポリエチレン、ナイロン12(ポリアミド樹脂)、ナイロン6(ポリアミド樹脂)等が用いられる。
【0021】
次に、本発明のフェライト磁性材料の好ましい製造方法について述べる。
始めに、フェライト粒子の製造方法について説明する。
フェライト粒子の製造方法としては、固相反応法、共沈法や水熱合成法等の液相法、ガラス析出化法、噴霧熱分解法、及び気相法等の各種の方法を用いることができる。この中で、ボンディッド磁石用のフェライト粒子の製造方法として、現在工業的に最も広く行われているのは固相反応法である。
固相反応法では、原料として、Fe、Sr、La、Ce、Co及びSi、Caを含む粉末を用い、これらの粉末の混合物を焼成(仮焼)することにより製造される。この仮焼体においては、フェライトの一次粒子は凝集しており、所謂「顆粒」状態となっている。このため、その後粉砕を行う場合が多い。粉砕は、乾式又は湿式にて行われるが、その場合にフェライト粒子に歪みが導入されて磁気特性(主に保磁力)が劣化するため、粉砕後にアニール処理が行われる場合が多い。
【0022】
仮焼は、空気中において例えば1100〜1400℃で1秒間〜10時間、特に1秒間〜3時間程度行えばよい。このようにして得られた仮焼体は、実質的にマグネトプランバイト型のフェライト構造をもち、その一次粒子の平均粒径は、好ましくは0.1〜5.0μm、より好ましくは0.5〜3.0μmである。平均粒径は走査型電子顕微鏡により測定すればよい。
次いで、上述したように、仮焼体を粉砕ないし解砕してフェライト粒子の粉末とする。そして、このフェライト粒子をボンディッド磁石として利用する場合は樹脂、金属、ゴム等の各種バインダと混練し、磁場中又は無磁場中で成形する。その後、必要に応じて硬化を行なってボンディッド磁石とする。
【0023】
次に、フェライト焼結体について説明する。
フェライト焼結体は、上記フェライト粒子の製造法で述べた各種の方法で製造したフェライト粒子を成形し、焼結することにより製造することができる。なお、フェライト焼結体を製造する過程の磁場中成形法には乾式成形と湿式成形があるが、以下では乾式成形を例に説明する。
原料粉末を仮焼して得られる仮焼体は一般に顆粒状、塊状等になっており、そのままでは所望の形状に成形ができないため、粉砕する。また、所望の最終組成に調整するための原料粉末、及び添加物等を混合するために、粉砕工程が必要である。粉砕工程は、粗粉砕工程と微粉砕工程に分かれる。
【0024】
前述のように、仮焼体は一般に顆粒状、塊状等であるので、これを粗粉砕することが好ましい。粗粉砕工程では、振動ミル等を使用し、平均粒径が0.5〜10μmになるまで処理される。なお、ここで得られた粉末を粗粉砕粉と呼ぶことにする。
粗粉砕粉を湿式アトライタ、ボールミル、ジェットミル等によって粉砕し、平均粒径0.08〜3.0μm、好ましくは0.1〜2.0μm、より好ましくは0.2〜1.5μm程度に粉砕する。微粉砕工程は、粗粉砕粉をなくすこと、後添加物を充分に混合すること、及び磁気特性向上のために焼結体の結晶粒子を微細化すること等を目的として行われる。得られた微粉砕粉の比表面積(BET法により求められる)としては、5〜10m/g程度とすることが好ましい。粉砕時間は、粉砕方法にもよるが、例えば湿式アトライタでは30分間〜10時間、ボールミルによる湿式粉砕では10〜40時間程度、処理すればよい。
【0025】
微粉砕工程を湿式で行った場合には、微粉砕工程で得られたスラリを乾燥する。乾燥方法はロータリーキルン、スプレードライヤ、恒温槽等を用いる。乾燥温度は80〜400℃程度で行うことが好ましい。乾燥温度が高すぎると微粉砕した磁性粉末がネックグロースをおこし、成形時の磁場配向を阻害する傾向が見られる。また、乾燥が不十分だと、後工程の解砕時に装置に目詰まりが発生する等の問題が生じる。
【0026】
スラリ乾燥の際に微粉砕粒子同士が強力に凝集してしまう。凝集した粒子を一次粒子に近い状態にまで解砕する。解砕方法としてアトマイザを用いる。解砕処理が十分に行われていないと、磁場中成形時の磁場配向を阻害するため、十分な残留磁束密度(Br)が得られなくなる。
【0027】
解砕終了後の原料粉末にバインダを加え混合する。
乾式成形法を行う上で、接着剤(バインダを用いる。バインダの理想としては、接着作用に優れ、かつ粒子が磁気的に容易軸方向に整列することを阻害しない事が望まれている。従来からパラフィンワックス、樟脳等、種々のものが利用されている。
バインダの添加量は0.2〜1.5wt%程度が好ましい。添加量が少なすぎると、バインダとしての効果は発揮されず、保型力が弱くなってしまう。また、添加量が多すぎると、粒子が磁気的に容易軸方向に整列することを阻害され、残留磁束密度(Br)等の磁気特性が劣化してしまう。また、焼結時の有機物の炭化により、焼結体にクラックが発生し、あるいは焼結体の密度低下による残留磁束密度(Br)等の磁気特性が劣化してしまう。
【0028】
また、バインダが用いられるとともに、ステアリン酸等の成形助剤を添加することが好ましい。成形助剤の添加量は、0.02〜0.5wt%程度が好ましい。添加量が少なすぎると、成形助剤としての効果が発揮されず、成形体にクラックが発生する等の問題が生じる。また、添加量が多すぎると、残留する有機物が焼結時に炭化することにより、焼結体にクラックが発生し、あるいは焼結体の密度低下による残留磁束密度(Br)等の磁気特性が劣化してしまう。
成形助剤の添加方法としては、バインダと磁性粉末を混合した後に添加することが望ましい。バインダと磁性粉末のまわりに成形助剤が存在することにより、成形助剤の役割である摩擦の低減、流動性の向上、成形性の向上等の効果が顕著にあらわれる。ただし、バインダ添加前、あるいは同時に添加を行うこともできる。
【0029】
原料粉末とバインダ、成形助剤を混合する際、液体状あるいは固体状で混合する方法がとられる。液体状のバインダを用いた場合、凝集が生じやすく原料粉末の配高度が低下する傾向が見られる。また、固体状のバインダを用いた場合には、均一に混合しにくいという問題が見られる。混合の際には、ヘンシェルミキサ、ブレンダ等の混合機を用いてバインダを十分に攪拌する。攪拌する際には、温度を加えても良い。
【0030】
バインダを混合した材料は金型に入れられ、印加磁界中でプレスされる。これにより、原料粉末(磁性粉末粒子)の容易磁化方向をそろえ、磁気特性を向上させることができる。磁場中成形には、前述したように湿式成形と乾式成形があるが、ここでは乾式成形について説明してきた。ただし、本発明が湿式成形を適用できることは言うまでもない。
磁場中乾式成形における、印加磁界は3〜12kOe(239〜955kA/m)程度、成形圧力は0.1〜5ton/cm程度とされる。この様に形成された成形物は通常、次工程の焼成工程により焼成される。
【0031】
得られた成形体を焼成し、焼結体とする。焼成は、通常、空気中等の酸化性雰囲気中で行われる。焼成条件は特に限定されないが、通常、例えば5℃/分程度で昇温し、安定温度は1100〜1300℃、より好ましくは1150〜1250℃で、安定時間は0.5〜3時間程度とすれば良い。
また、バインダ、成形助剤等を添加した場合、100〜500℃程度の範囲で、例えば2.5℃/分程度の昇温速度とすることで脱脂処理を行い、バインダ、成形助剤を充分に除去することが好ましい。
【0032】
以上の製造方法において、La、Ce及びRの添加時期については特に限定されるものではなく、必要に応じて適切な時期に添加されれば良い。なお、本発明において、原料配合時に添加することを前添加、仮焼粉の粉砕時に添加することを後添加と定義し、以下同様とする。
また、Co、さらにはMnの添加時期についても特に限定されるものではなく、必要に応じて適切な時期に添加されれば良いが、後添加されることが好ましい。
【0033】
次に、本発明のフェライト磁性材料は、薄膜磁性層として用いることができる。薄膜磁性層の形成には、通常、スパッタリング法を利用することが好ましい。スパッタリング法を用いる場合、上記焼結磁石をターゲットとして用いてもよく、少なくとも2種の酸化物ターゲットを用いる多元スパッタリング法を利用してもよい。スパッタリング膜形成後、六方晶マグネトプランバイト構造を形成するために、熱処理を施す場合もある。
【実施例1】
【0034】
出発原料として酸化鉄(Fe)、酸化コバルト(Co)、酸化マンガン(Mn)、炭酸ストロンチウム(SrCO)、酸化セリウム(CeO)、酸化プラセオジム(Pr11)、酸化ネオジウム(Nd)、酸化サマリウム(Sm)及び水酸化ランタン(La(OH))を用意した。
これらの主成分を構成する出発原料を、焼成後の主成分が以下の式となるように秤量した。
組成式:
Sr1−x(La1−m(Fe12−0.077(Co1−0.75Mn0.750.0771.03319
x=0.14、m=0〜0.43(表1に示す)
上記出発原料のうち、酸化鉄(Fe)、炭酸ストロンチウム(SrCO)及び水酸化ランタン(La(OH))の一部を混合し、さらに、上記主成分に対して0.3wt%の酸化ケイ素(SiO)を副成分として添加した。この混合原料を湿式アトライタで1時間混合、粉砕してスラリ状の原料組成物を得た。このスラリを乾燥後、大気中1300℃で2.5時間保持する仮焼を行った。なお、水酸化ランタン(La(OH))については、一部を前添加し、残部を後添加する。
【0035】
得られた仮焼粉を小型ロッド振動ミルで15分間粗粉砕した。得られた粗粉砕粉に対して、前述の水酸化ランタン(La(OH))の残部、酸化コバルト(Co)、酸化マンガン(Mn)を加えた(後添加)。また、得られた粗粉砕粉に対して、酸化セリウム(CeO)、酸化プラセオジム(Pr11)、酸化ネオジウム(Nd)及び酸化サマリウム(Sm)を各々加えた(後添加)。その後、上記主成分に対して0.3wt%の酸化ケイ素(SiO)及び1.5wt%の炭酸カルシウム(CaCO)(後添加)を添加し、湿式ボールミルにて25時間微粉砕した。
次いで、得られた微粉砕スラリを恒温槽において100℃、16時間保持して乾燥した。乾燥後にバインダであるカンファを0.7wt%、成形助剤であるステアリン酸カルシウムを0.05wt%添加し、アトマイザとミキサを使用し、解砕、混合を行って成形用組成物を得た。次いで、この成形用組成物を7.5kOe(592.5kA/m)の磁場中で乾式成形した。成形圧力は1.0ton/cm(98MPa)とした。得られた成形体を1230℃で1時間焼成し、直径26mm×高さ10mmの円柱状試料を得た。
【0036】
得られた焼結体の上下面を加工した後、最大印加磁場25kOeのB−Hトレーサを使用して残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)を測定した。その結果を表1、図1及び図2に示す。なお、表1には、焼結体密度(Df)、飽和磁化(4πIs、σs)、配向度(Br/4πIs)及び焼結体の平均結晶粒径(粒径)を併記している。
表1及び図1に示すように、Laの一部をCe、Pr、Nd及びSmのいずれかの元素で置換することにより、残留磁束密度(Br)が向上する。ただし、表1及び図2に示すように、Laの一部をSmで置換した磁石は、保磁力(HcJ)が低下する。このように、Laの一部をCe、Pr及びNdのいずれかの元素で置換すると、残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)ともに向上することができる。ただし、置換量mが大きくなると残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)ともに、置換しない場合よりも低くなるため、本発明では置換量mを0.90以下とする。
【0037】
【表1】

【実施例2】
【0038】
実施例2は、Laの置換元素としてCeを選択し、その添加時期の影響を調査した結果を示す。
焼成後の主組成が以下の組成式となるように秤量し、実施例1と同様の条件で円柱状焼結体を作製した。ただし、酸化セリウム(CeO)の添加時期を、仮焼前(表2に前添加と表示)及び仮焼後(表2に後添加と表示)とし、実施例1と同様に残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)を測定した。その結果を表2に示す。
組成式:
Sr1−x(La1−mCe(Fe12−0.077(Co1−0.75Mn0.750.0771.03319
x=0.14、m=0.29
【0039】
【表2】

【0040】
表2に示すように、Ceの添加タイミングにかかわらず、Laの一部をCeで置換することにより残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)が向上することが確認された。また、Ceを添加したものはどれも焼結後の結晶粒径がCe無添加に比べ小さくなっていることが確認された。Ce置換による結晶粒径の微細化が保磁力向上に起因していることが確認された。
【実施例3】
【0041】
実施例3では、mの好ましい範囲を確認した。
焼成後の主成分が以下の組成式となるように秤量し、酸化セリウム(CeO)を前添加とした以外は実施例1と同様の条件で円柱状焼結体を作製し、実施例1と同様に残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)を測定した。その結果を表3、図3及び図4に示す。
組成式:
Sr1−x(La1−mCe(Fe12−0.077(Co1−0.75Mn0.750.0771.03319
x=0.14、m=0〜0.86
【0042】
【表3】

【0043】
表3、図3及び図4に示すように、mが0.65以下の範囲で、Laの一部をCeで置換しない場合よりも残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)が高くなる。したがって、本発明ではmを、0<m≦0.65とする。好ましいmは0.10≦m≦0.60、さらに好ましいmは0.20≦m≦0.50である。
【実施例4】
【0044】
実施例4では、xの好ましい範囲を確認した。
焼成後の主成分が以下の組成式となるように秤量した以外は、実施例1と同様の条件で円柱状焼結体を作製し、実施例1と同様に保磁力(HcJ)及び残留磁束密度(Br)を測定した。その結果を表4、図5及び図6に示す。
組成式:
Sr1−x(La1−mCe(Fe12−0.077(Co1−0.75Mn0.750.0771.03319
x=0.08〜0.30、m=0.20〜0.75
【0045】
【表4】

【0046】
図5及び図6より、3900G以上の残留磁束密度(Br)及び3000Oe以上の保磁力(HcJ)を得るためには、0.08≦x≦0.30の範囲とする。xは、さらに好ましくは0.10≦x≦0.25、より好ましくは0.10≦x≦0.20とする。
【実施例5】
【0047】
実施例5では、Coの一部をMnで置換する量(n)を変動させて、磁気特性へ与える影響を確認した。
焼成後の主成分が以下の組成式となるように秤量した以外は、実施例1と同様の条件で円柱状焼結体を作製し、実施例1と同様に保磁力(HcJ)及び残留磁束密度(Br)を測定した。その結果を表5、図7及び図8に示す。
組成式:
Sr1−x(La1−mCe(Fe12−y(Co1−nMn1.03319
x=0.08〜0.20、m=0.20〜0.50
y=0.02〜0.24、n=0〜0.92
【0048】
【表5】

【0049】
表5及び図7に示すように、Coの一部をMnで置換する量nが大きくなると残留磁束密度(Br)は増加する傾向にあるが、nが大きくなりすぎると残留磁束密度(Br)が急激に低下する。一方、表5及び図8に示すように、Coの一部をMnで置換する量nが大きくなるほど保磁力(HcJ)は増加する傾向にある。xの値によって変動するが、nが0<n≦0.90の範囲において3900G以上の残留磁束密度(Br)及び3000Oe以上の保磁力(HcJ)を得ることができる。好ましいnは0.20≦n≦0.85、より好ましいnは0.30≦n≦0.70である。
【実施例6】
【0050】
焼成後の主成分が以下の組成式となるように秤量した以外は、実施例1と同様の条件で円柱状焼結体を作製し、実施例1と同様に保磁力(HcJ)及び残留磁束密度(Br)を測定した。その結果を表6、図9及び図10に示す。
組成式:
Sr1−x(La1−mCe(Fe12−y(Co1−0.75Mn0.751.03319
x=0.14,0.28、m=0,0.29
y=0.02,0.08,0.16
【0051】
【表6】

【0052】
表6から、Laの一部をCeで置換することにより、少ないCo量において高い残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)が得られることがわかる。より具体的には、図9に示すように残留磁束密度(Br)に関してはCo量が0.10程度と同等の特性を得ることができ、図10に示すように保磁力(HcJ)に関してはCo量が0.07程度と同等の特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】Ce置換量mと残留磁束密度(Br)との関係を示すグラフである。
【図2】Ce置換量mと保磁力(HcJ)との関係を示すグラフである。
【図3】Ce置換量mと残留磁束密度(Br)との関係を示すグラフである。
【図4】Ce置換量mと保磁力(HcJ)との関係を示すグラフである。
【図5】(La+Ce)量xと残留磁束密度(Br)との関係を示すグラフである。
【図6】(La+Ce)量xと保磁力(HcJ)との関係を示すグラフである。
【図7】Mn置換量nと残留磁束密度(Br)との関係を示すグラフである。
【図8】Mn置換量nと保磁力(HcJ)との関係を示すグラフである。
【図9】Co量yと残留磁束密度(Br)との関係を示すグラフである。
【図10】Co量yと保磁力(HcJ)との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sr、La、Ce、Fe、Co及びMnを構成元素として含む六方晶構造を有するフェライトを主成分とし、
この主成分におけるSr、La、Ce、Fe、Co及びMnそれぞれの金属元素の総計の構成比率が、
組成式:Sr1−x(La1−mCe(Fe12−y(Co1−nMnで示されることを特徴とするフェライト磁性材料。
ただし、上記組成式において、
m、n、x、y及びzは、
0<m≦0.65、
0≦n≦0.90、
0.08≦x≦0.30、
0≦y≦0.25、
1.01≦z≦1.08である。
【請求項2】
Sr、La、R、Fe、Co及びMnを構成元素として含む六方晶構造を有するフェライトを主成分とし、
この主成分におけるSr、La、R、Fe、Co及びMnそれぞれの金属元素の総計の構成比率が、
組成式:Sr1−x(La1−m(Fe12−y(Co1−nMnで示されることを特徴とするフェライト磁性材料。
ただし、上記組成式において、
m、n、x、y及びzは、
0<m≦0.65、
0<n≦0.90、
0.08≦x≦0.30、
0≦y≦0.25、
1.01≦z≦1.08であり、
RはPr及びNdの少なくとも1種の元素である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−297233(P2007−297233A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−125825(P2006−125825)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】