フェーズドアレイアンテナ装置とそのビーム成型方法
【課題】ペンシルビームとファンビームとの切り替えを行う場合に、移送器を常時ONさせた状態で、物理的にアンテナ素子の動作をOFFさせた半開口と同等のビーム幅をもつファンビームを成型する。
【解決手段】100ポートのアンテナ素子11にそれぞれ接続される移相器12は、走査制御器14から指示される移相量に応じて高周波給電回路13からの高周波に所定の移相量を与えて所定の方向にビームを成形する。走査制御器14には、レーダ装置本体からビーム指向方向と全開口/半開口を指示するモード情報が与えられる。上記走査制御器14では、走査角が与えられると、その走査角に基づく位相分布を求め、それぞれの移相器12に対する移相量θmを設定し、全開口か半開口かを判断し、全開口ならばそのまま100ポートに指定する移相量[deg]として決定し、半開口ならばさらに不要なポートに対してランダムな移相量φnを与える。
【解決手段】100ポートのアンテナ素子11にそれぞれ接続される移相器12は、走査制御器14から指示される移相量に応じて高周波給電回路13からの高周波に所定の移相量を与えて所定の方向にビームを成形する。走査制御器14には、レーダ装置本体からビーム指向方向と全開口/半開口を指示するモード情報が与えられる。上記走査制御器14では、走査角が与えられると、その走査角に基づく位相分布を求め、それぞれの移相器12に対する移相量θmを設定し、全開口か半開口かを判断し、全開口ならばそのまま100ポートに指定する移相量[deg]として決定し、半開口ならばさらに不要なポートに対してランダムな移相量φnを与える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば航空機等の飛翔体を捕捉、追尾するレーダ装置に用いられるフェーズドアレイアンテナ装置とそのビーム成型方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種レーダ装置の中で、捜索レーダ装置では、目標物が遠距離且つ小目標の場合を考慮し、この目標物が探知可能な速度でビーム走査するため、近距離の目標物に対しては走査速度が遅くなり、探知性能が劣化するという課題がある。この改善方法としては、遠距離時に使用する成型ビームよりも幅の広いビームを成型することにより、同じ走査速度でも受信感度をあげることができる。このような幅の広いビームを一般にファンビームと称す。
【0003】
ファンビームを成型する方法としては、ビーム幅の広い指向性パターンを得ることを目的として、物理的にアンテナの開口面積を小さくすればよい。フェーズドアレイアンテナ装置を用いる場合には、送受信として動作させるアンテナ素子数を必要数だけに減らすことが一般的である(例えば特許文献1参照)。具体的には、ファンビームを成型したい方向に並んだ素子配列に対して、遠距離捜索時に給電していたアンテナ素子から必要数だけのアンテナ素子への給電だけを残して、他のアンテナ素子への給電を電気的に動作をOFFする。
【0004】
しかしながら、フェーズドアレイアンテナ装置において、通常ビームとファンビームとの切り替えを行うためには、各アンテナ素子の位相を設定する移送器に対して、移相量を指定するビット信号とは別に各移相器のON/OFF動作を制御するビット信号も伝送する必要がある。したがって、例えばレーダ装置の動作モードとして、全開口と半開口の探索動作を1回の繰り返し時間で時分割にて行う要求がある場合は、半開口時に使用しない移相器だけをOFFさせることは難しい。このことから、移送器を常時ONさせた状態で、物理的にアンテナ素子の動作をOFFさせた半開口と同等のビーム幅をもつファンビームの成型方法が求められている。
【特許文献1】特開平10−197629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、従来のフェーズドアレイアンテナ装置にあっては、ペンシルビームとファンビームとの切り替えを短時間に行う要求に対し、移送器を常時ONさせた状態で、物理的にアンテナ素子の動作をOFFさせた半開口と同等のビーム幅をもつファンビームの成型方法が求められている。
【0006】
本発明は上記の要望を実現するためになされたもので、全開口によるペンシルビームと半開口によるファンビームとの切り替えを行う場合に、移送器を常時ONさせた状態で、物理的にアンテナ素子の動作をOFFさせた半開口と同等のビーム幅をもつファンビームを成型することのできるフェーズドアレイアンテナ装置とそのビーム成型方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係るフェーズドアレイアンテナ装置は、線または面状に所定の間隔で配列される複数ポートのアンテナ素子と、前記複数ポートのアンテナ素子それぞれに高周波信号を給電する給電手段と、前記複数ポートのアンテナ素子それぞれの給電線路に介在され、前記高周波信号に指定された移相量を与える複数の移相器と、前記複数の移相器それぞれの移相量を成型ビームの走査に応じて制御する走査制御器とを具備し、前記位相制御器は、成型ビームの指向方向に応じた位相分布で個々の移相器の移相量を制御する第1の制御手段と、前記成型ビームの広がり量に応じて特定のポートのアンテナ素子に対する移相量を独立して制御する第2の制御手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係るフェーズドアレイアンテナ装置のビーム成型方法は、線または面状に所定の間隔で配列される複数ポートのアンテナ素子と、前記複数ポートのアンテナ素子それぞれに高周波信号を給電する給電手段と、前記複数ポートのアンテナ素子それぞれの給電線路に介在され、前記高周波信号に指定された移相量を与える複数の移相器と、前記複数の移相器それぞれの移相量を成型ビームの走査に応じて制御する走査制御器とを具備するフェーズドアレイアンテナ装置に用いられ、前記位相制御器にて、成型ビームの指向方向に応じた位相分布で個々の移相器の移相量を制御すると共に、前記成型ビームの広がり量に応じて特定のポートのアンテナ素子に対する移相量を独立して制御することを特徴とする。
【0009】
すなわち、本発明では、移送器の動作を電気的にOFFすることなく、開口面としては全移送器の動作をONした状態で、等価的に開口面を一部のみ開口とする半開口へと変化させることができる。この発明による利点としては、半開口による捜索モードと全開口による捜索モードを同時に実施する際に、ビーム走査を制御する走査制御器は、各移送器に対して、電源のONを切り替えることなく、単純に移送器への位相変位量を指示する制御信号だけで、開口面積の切り替え、及びビーム幅の異なる成型ビーム同士の切り替えが可能になる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、全開口によるペンシルビームと半開口によるファンビームとの切り替えを行う場合に、移送器を常時ONさせた状態で、物理的にアンテナ素子の動作をOFFさせた半開口と同等のビーム幅をもつファンビームを成型することのできるフェーズドアレイアンテナ装置とそのビーム成型方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0012】
図1は本発明に係るフェーズドアレイアンテナ装置の一実施形態の構成を示すブロック図である。図1において、11はアンテナ素子、12はアンテナ素子11の給電位相を設定する移相器であり、ここでは100ポート#1〜#100が高周波給電回路13に接続されている。各ポートの移相器12には、走査制御器14から個別に移相量を指示する制御信号が与えられる。走査制御器14には、レーダ装置本体からビーム指向方向と全開口/半開口を指示するモード情報が与えられる。
【0013】
上記走査制御器14に設定される処理の流れを図2に示す。まず、走査角[deg]が与えられると、その走査角に基づく位相分布を求め、それぞれの移相器12に対する移相量θm(m=1〜100)を設定する(ステップS1)。次に、全開口か半開口かを判断し(ステップS2)、全開口ならばステップS1で求めた走査角に応じた移相量を100ポートに指定する移相量[deg]として決定する。半開口ならば、個々のポートに移相量としてθm +φn (m,n=1〜100)を与えるものとする(ステップS3)。φnはθm とは独立に制御可能とし、半開口として不要となるポートに対してランダムな移相量を与える。
【0014】
上記構成によるフェーズドアレイアンテナ装置において、以下、従来のビーム成型方法と比較して本発明のビーム成型方法を説明する。
【0015】
まず、従来方法について図3乃至図7を参照して説明する。
【0016】
図3は、図1に示した構成において、従来の全開口によるペンシルビームの成型方法を示している。図3において、100ポートのアンテナ素子11が線状に配列され、任意のポートの素子11には、移送器12を介して振幅Al 、及び移相量θm の高周波が給電される。尚、この例では、振幅は一様分布とする。このとき移相量θm はビームの走査角から決定され、走査制御器14からビット信号により各移送器12に指定される。このときの振幅・位相分布はそれぞれ図4(a),(b)に示すようになる。
【0017】
次に、ファンビームを成型するための半開口について説明する。図5は図1に示した構成において、従来の半開口によるファンビームの成型方法を示している。このときの振幅・位相分布はそれぞれ図6(a),(b)に示すようになる。すなわち、半開口の場合は、図6(a),(b)に示すように、配列の両端25素子ずつをOFFし、中央の50素子をONさせておくことで開口面積を半分にする。これにより、ファンビーム(半開口)のビーム幅は、図7(a)に示すペンシルビーム(全開口)に対して、図7(b)に示すようにほぼ2倍になる。
【0018】
但し、この場合、各移相器を制御する走査制御器14からは、移相量を指定するビット信号とは別に、各移相器のON/OFF動作を制御するビット信号も伝送する必要がある。したがって、例えばレーダ装置の動作モードとして、全開口と半開口の探索動作を1回の繰り返し時間で時分割にて行う要求がある場合は、半開口時に使用しない移相器だけをOFFさせることは難しい。このことから、移送器を常時ONさせた状態で、物理的にアンテナ素子の動作をOFFさせた半開口と同等のビーム幅をもつファンビームの成型方法が求められている。本発明はこの要求を実現する。
【0019】
図8は図1に示した構成において、本発明の全開口によるペンシルビームの成型方法を示している。このときの振幅・位相分布はそれぞれ図9(a),(b)に示すようになる。従来の方法と異なる点は、走査制御器14が各移相器12に対して設定する移相量について、ビーム走査角によって決まる各位相器指定の移相量θm とは別個の移相量φn を有し、θm とφn の合算値が移送器12に移相量として伝送される。φn は、各移送器毎に割り当てられた固定値であり、図8、及び図9(b)に示すように、全開口の場合は全ての値が0°である。
【0020】
図10は図1に示した構成において、本発明の半開口によるファンビームの成型方法を示している。このときの振幅・位相分布はそれぞれ図11(a),(b)に示すようになる。この成型方法では、図10及び図11(a)の振幅分布に示すように、従来の方法で動作をOFFさせていた左右両端の計50素子を全開口時と同様にその動作をON状態のままとし、図11(b)の位相分布に示すように左右両端の50素子に該当するφn (n=1〜25,76〜100)に対して走査角によって決まるθm とは独立して0〜360°の範囲でランダムな移相量を割り当てている。尚、φn (n=26〜75)については全開口と同様に0°とする。
【0021】
以上より図10及び図11に示すビーム成型方法では、アンテナ素子11のポート#1〜#25及び#76〜100については、各々に与えられた移相量がランダムであるため、これら50素子から放射された高周波は空間中で重畳されたときに打ち消し合うように作用する。したがって、ビームを実質的に成型するのは中央の50素子(アンテナ素子配列番号:#26〜#75)、即ち従来の方法で述べたように中央の50素子のみONさせた場合において、各50素子のアンテナ素子から放射される高周波がなす波面によって成型されるビームと等価的に同一となる。
【0022】
次に、本発明によるファンビームと、先に述べた中央の50素子のみ動作させた従来方法によるファンビームとのビームパターンを図12、図13にて比較する。図12は、従来の方法による全開口(図3、図4)と半開口(図5、図6)におけるビームパターンである。本発明によって得られるファンビームは、図6に示した半開口ビームと同一になることが必要となる。図13は、従来の方法により得られる半開口によるファンビームと本発明によって得られるファンビームとのパターン比較結果を示している。図13に示す通り、サイドローブに関しては、ランダム性が不完全であるため、メインローブを中央として左右のレベルがアンバランスとなるが、メインビームに関しては、同一のビーム幅で成型できていることがわかる。
【0023】
以上のように、ファンビームを成型する場合に、従来の方法では開口面積を小さくするために波面形成に不要なアンテナ素子に具備された移相器の動作を電気的にOFFさせていたが、本発明の方法ではこれら波面形成に不要な移相器の動作もONさせておきながら、その不要な移送器についてはランダムな移相量を指定するようにしている。このようにすることで、不要な移送器を介して送受信される高周波は空間上で電力が相殺され、結果的には従来の方法である中央の50素子のみによって得られるビームパターンと等価的に同一となる。すなわち、本発明により、移送器への動作制御のみで開口面積、及びビーム幅を操作できるようになる。
【0024】
尚、上記の実施形態では、線状配列のフェーズドアレイアンテナ装置の場合を例にして説明したが、同様にして面状配列のフェーズドアレイアンテナ装置についても同様に本発明は適用可能である。この場合もファンビームを成型したいビーム幅方向に配列したアンテナ素子及び移送器に対して線状配列と同様に本発明を実施すればよい。
【0025】
また、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係るフェーズドアレイアンテナ装置の一実施形態の構成を示すブロック図。
【図2】図1に示す走査制御器の処理の流れを示すフローチャート。
【図3】図1に示した構成において、従来の全開口によるペンシルビームの成型方法を示す図。
【図4】図3に示す成型方法の場合の振幅・位相分布を示す波形図。
【図5】図1に示した構成において、従来の半開口によるファンビームの成型方法を示す図。
【図6】図5に示す成型方法の場合の振幅・位相分布を示す波形図。
【図7】図3に示す成型方法によるペンシルビームのビーム幅と図5に示す成型方法によるファンビームのビーム幅の関係を示す図。
【図8】図1に示した構成において、本発明の全開口によるファンビームの成型方法を示す図。
【図9】図8に示す成型方法の場合の振幅・位相分布を示す波形図。
【図10】図1に示した構成において、本発明の半開口によるファンビームの成型方法を示す図。
【図11】図10に示す成型方法の場合の振幅・位相分布を示す波形図。
【図12】従来の方法による全開口(図3、図4)と半開口(図5、図6)におけるビームパターンを比較して示す図。
【図13】従来の方法により得られる半開口によるファンビームと本発明によって得られるファンビームとのパターン比較結果を示す図。
【符号の説明】
【0027】
11…アンテナ素子、12…移相器、13…高周波給電回路、14…走査制御器。
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば航空機等の飛翔体を捕捉、追尾するレーダ装置に用いられるフェーズドアレイアンテナ装置とそのビーム成型方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種レーダ装置の中で、捜索レーダ装置では、目標物が遠距離且つ小目標の場合を考慮し、この目標物が探知可能な速度でビーム走査するため、近距離の目標物に対しては走査速度が遅くなり、探知性能が劣化するという課題がある。この改善方法としては、遠距離時に使用する成型ビームよりも幅の広いビームを成型することにより、同じ走査速度でも受信感度をあげることができる。このような幅の広いビームを一般にファンビームと称す。
【0003】
ファンビームを成型する方法としては、ビーム幅の広い指向性パターンを得ることを目的として、物理的にアンテナの開口面積を小さくすればよい。フェーズドアレイアンテナ装置を用いる場合には、送受信として動作させるアンテナ素子数を必要数だけに減らすことが一般的である(例えば特許文献1参照)。具体的には、ファンビームを成型したい方向に並んだ素子配列に対して、遠距離捜索時に給電していたアンテナ素子から必要数だけのアンテナ素子への給電だけを残して、他のアンテナ素子への給電を電気的に動作をOFFする。
【0004】
しかしながら、フェーズドアレイアンテナ装置において、通常ビームとファンビームとの切り替えを行うためには、各アンテナ素子の位相を設定する移送器に対して、移相量を指定するビット信号とは別に各移相器のON/OFF動作を制御するビット信号も伝送する必要がある。したがって、例えばレーダ装置の動作モードとして、全開口と半開口の探索動作を1回の繰り返し時間で時分割にて行う要求がある場合は、半開口時に使用しない移相器だけをOFFさせることは難しい。このことから、移送器を常時ONさせた状態で、物理的にアンテナ素子の動作をOFFさせた半開口と同等のビーム幅をもつファンビームの成型方法が求められている。
【特許文献1】特開平10−197629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、従来のフェーズドアレイアンテナ装置にあっては、ペンシルビームとファンビームとの切り替えを短時間に行う要求に対し、移送器を常時ONさせた状態で、物理的にアンテナ素子の動作をOFFさせた半開口と同等のビーム幅をもつファンビームの成型方法が求められている。
【0006】
本発明は上記の要望を実現するためになされたもので、全開口によるペンシルビームと半開口によるファンビームとの切り替えを行う場合に、移送器を常時ONさせた状態で、物理的にアンテナ素子の動作をOFFさせた半開口と同等のビーム幅をもつファンビームを成型することのできるフェーズドアレイアンテナ装置とそのビーム成型方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係るフェーズドアレイアンテナ装置は、線または面状に所定の間隔で配列される複数ポートのアンテナ素子と、前記複数ポートのアンテナ素子それぞれに高周波信号を給電する給電手段と、前記複数ポートのアンテナ素子それぞれの給電線路に介在され、前記高周波信号に指定された移相量を与える複数の移相器と、前記複数の移相器それぞれの移相量を成型ビームの走査に応じて制御する走査制御器とを具備し、前記位相制御器は、成型ビームの指向方向に応じた位相分布で個々の移相器の移相量を制御する第1の制御手段と、前記成型ビームの広がり量に応じて特定のポートのアンテナ素子に対する移相量を独立して制御する第2の制御手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係るフェーズドアレイアンテナ装置のビーム成型方法は、線または面状に所定の間隔で配列される複数ポートのアンテナ素子と、前記複数ポートのアンテナ素子それぞれに高周波信号を給電する給電手段と、前記複数ポートのアンテナ素子それぞれの給電線路に介在され、前記高周波信号に指定された移相量を与える複数の移相器と、前記複数の移相器それぞれの移相量を成型ビームの走査に応じて制御する走査制御器とを具備するフェーズドアレイアンテナ装置に用いられ、前記位相制御器にて、成型ビームの指向方向に応じた位相分布で個々の移相器の移相量を制御すると共に、前記成型ビームの広がり量に応じて特定のポートのアンテナ素子に対する移相量を独立して制御することを特徴とする。
【0009】
すなわち、本発明では、移送器の動作を電気的にOFFすることなく、開口面としては全移送器の動作をONした状態で、等価的に開口面を一部のみ開口とする半開口へと変化させることができる。この発明による利点としては、半開口による捜索モードと全開口による捜索モードを同時に実施する際に、ビーム走査を制御する走査制御器は、各移送器に対して、電源のONを切り替えることなく、単純に移送器への位相変位量を指示する制御信号だけで、開口面積の切り替え、及びビーム幅の異なる成型ビーム同士の切り替えが可能になる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、全開口によるペンシルビームと半開口によるファンビームとの切り替えを行う場合に、移送器を常時ONさせた状態で、物理的にアンテナ素子の動作をOFFさせた半開口と同等のビーム幅をもつファンビームを成型することのできるフェーズドアレイアンテナ装置とそのビーム成型方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0012】
図1は本発明に係るフェーズドアレイアンテナ装置の一実施形態の構成を示すブロック図である。図1において、11はアンテナ素子、12はアンテナ素子11の給電位相を設定する移相器であり、ここでは100ポート#1〜#100が高周波給電回路13に接続されている。各ポートの移相器12には、走査制御器14から個別に移相量を指示する制御信号が与えられる。走査制御器14には、レーダ装置本体からビーム指向方向と全開口/半開口を指示するモード情報が与えられる。
【0013】
上記走査制御器14に設定される処理の流れを図2に示す。まず、走査角[deg]が与えられると、その走査角に基づく位相分布を求め、それぞれの移相器12に対する移相量θm(m=1〜100)を設定する(ステップS1)。次に、全開口か半開口かを判断し(ステップS2)、全開口ならばステップS1で求めた走査角に応じた移相量を100ポートに指定する移相量[deg]として決定する。半開口ならば、個々のポートに移相量としてθm +φn (m,n=1〜100)を与えるものとする(ステップS3)。φnはθm とは独立に制御可能とし、半開口として不要となるポートに対してランダムな移相量を与える。
【0014】
上記構成によるフェーズドアレイアンテナ装置において、以下、従来のビーム成型方法と比較して本発明のビーム成型方法を説明する。
【0015】
まず、従来方法について図3乃至図7を参照して説明する。
【0016】
図3は、図1に示した構成において、従来の全開口によるペンシルビームの成型方法を示している。図3において、100ポートのアンテナ素子11が線状に配列され、任意のポートの素子11には、移送器12を介して振幅Al 、及び移相量θm の高周波が給電される。尚、この例では、振幅は一様分布とする。このとき移相量θm はビームの走査角から決定され、走査制御器14からビット信号により各移送器12に指定される。このときの振幅・位相分布はそれぞれ図4(a),(b)に示すようになる。
【0017】
次に、ファンビームを成型するための半開口について説明する。図5は図1に示した構成において、従来の半開口によるファンビームの成型方法を示している。このときの振幅・位相分布はそれぞれ図6(a),(b)に示すようになる。すなわち、半開口の場合は、図6(a),(b)に示すように、配列の両端25素子ずつをOFFし、中央の50素子をONさせておくことで開口面積を半分にする。これにより、ファンビーム(半開口)のビーム幅は、図7(a)に示すペンシルビーム(全開口)に対して、図7(b)に示すようにほぼ2倍になる。
【0018】
但し、この場合、各移相器を制御する走査制御器14からは、移相量を指定するビット信号とは別に、各移相器のON/OFF動作を制御するビット信号も伝送する必要がある。したがって、例えばレーダ装置の動作モードとして、全開口と半開口の探索動作を1回の繰り返し時間で時分割にて行う要求がある場合は、半開口時に使用しない移相器だけをOFFさせることは難しい。このことから、移送器を常時ONさせた状態で、物理的にアンテナ素子の動作をOFFさせた半開口と同等のビーム幅をもつファンビームの成型方法が求められている。本発明はこの要求を実現する。
【0019】
図8は図1に示した構成において、本発明の全開口によるペンシルビームの成型方法を示している。このときの振幅・位相分布はそれぞれ図9(a),(b)に示すようになる。従来の方法と異なる点は、走査制御器14が各移相器12に対して設定する移相量について、ビーム走査角によって決まる各位相器指定の移相量θm とは別個の移相量φn を有し、θm とφn の合算値が移送器12に移相量として伝送される。φn は、各移送器毎に割り当てられた固定値であり、図8、及び図9(b)に示すように、全開口の場合は全ての値が0°である。
【0020】
図10は図1に示した構成において、本発明の半開口によるファンビームの成型方法を示している。このときの振幅・位相分布はそれぞれ図11(a),(b)に示すようになる。この成型方法では、図10及び図11(a)の振幅分布に示すように、従来の方法で動作をOFFさせていた左右両端の計50素子を全開口時と同様にその動作をON状態のままとし、図11(b)の位相分布に示すように左右両端の50素子に該当するφn (n=1〜25,76〜100)に対して走査角によって決まるθm とは独立して0〜360°の範囲でランダムな移相量を割り当てている。尚、φn (n=26〜75)については全開口と同様に0°とする。
【0021】
以上より図10及び図11に示すビーム成型方法では、アンテナ素子11のポート#1〜#25及び#76〜100については、各々に与えられた移相量がランダムであるため、これら50素子から放射された高周波は空間中で重畳されたときに打ち消し合うように作用する。したがって、ビームを実質的に成型するのは中央の50素子(アンテナ素子配列番号:#26〜#75)、即ち従来の方法で述べたように中央の50素子のみONさせた場合において、各50素子のアンテナ素子から放射される高周波がなす波面によって成型されるビームと等価的に同一となる。
【0022】
次に、本発明によるファンビームと、先に述べた中央の50素子のみ動作させた従来方法によるファンビームとのビームパターンを図12、図13にて比較する。図12は、従来の方法による全開口(図3、図4)と半開口(図5、図6)におけるビームパターンである。本発明によって得られるファンビームは、図6に示した半開口ビームと同一になることが必要となる。図13は、従来の方法により得られる半開口によるファンビームと本発明によって得られるファンビームとのパターン比較結果を示している。図13に示す通り、サイドローブに関しては、ランダム性が不完全であるため、メインローブを中央として左右のレベルがアンバランスとなるが、メインビームに関しては、同一のビーム幅で成型できていることがわかる。
【0023】
以上のように、ファンビームを成型する場合に、従来の方法では開口面積を小さくするために波面形成に不要なアンテナ素子に具備された移相器の動作を電気的にOFFさせていたが、本発明の方法ではこれら波面形成に不要な移相器の動作もONさせておきながら、その不要な移送器についてはランダムな移相量を指定するようにしている。このようにすることで、不要な移送器を介して送受信される高周波は空間上で電力が相殺され、結果的には従来の方法である中央の50素子のみによって得られるビームパターンと等価的に同一となる。すなわち、本発明により、移送器への動作制御のみで開口面積、及びビーム幅を操作できるようになる。
【0024】
尚、上記の実施形態では、線状配列のフェーズドアレイアンテナ装置の場合を例にして説明したが、同様にして面状配列のフェーズドアレイアンテナ装置についても同様に本発明は適用可能である。この場合もファンビームを成型したいビーム幅方向に配列したアンテナ素子及び移送器に対して線状配列と同様に本発明を実施すればよい。
【0025】
また、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係るフェーズドアレイアンテナ装置の一実施形態の構成を示すブロック図。
【図2】図1に示す走査制御器の処理の流れを示すフローチャート。
【図3】図1に示した構成において、従来の全開口によるペンシルビームの成型方法を示す図。
【図4】図3に示す成型方法の場合の振幅・位相分布を示す波形図。
【図5】図1に示した構成において、従来の半開口によるファンビームの成型方法を示す図。
【図6】図5に示す成型方法の場合の振幅・位相分布を示す波形図。
【図7】図3に示す成型方法によるペンシルビームのビーム幅と図5に示す成型方法によるファンビームのビーム幅の関係を示す図。
【図8】図1に示した構成において、本発明の全開口によるファンビームの成型方法を示す図。
【図9】図8に示す成型方法の場合の振幅・位相分布を示す波形図。
【図10】図1に示した構成において、本発明の半開口によるファンビームの成型方法を示す図。
【図11】図10に示す成型方法の場合の振幅・位相分布を示す波形図。
【図12】従来の方法による全開口(図3、図4)と半開口(図5、図6)におけるビームパターンを比較して示す図。
【図13】従来の方法により得られる半開口によるファンビームと本発明によって得られるファンビームとのパターン比較結果を示す図。
【符号の説明】
【0027】
11…アンテナ素子、12…移相器、13…高周波給電回路、14…走査制御器。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線または面状に所定の間隔で配列される複数ポートのアンテナ素子と、
前記複数ポートのアンテナ素子それぞれに高周波信号を給電する給電手段と、
前記複数ポートのアンテナ素子それぞれの給電線路に介在され、前記高周波信号に指定された移相量を与える複数の移相器と、
前記複数の移相器それぞれの移相量を成型ビームの走査に応じて制御する走査制御器とを具備し、
前記位相制御器は、前記成型ビームの指向方向に応じた位相分布で個々の移相器の移相量を制御する第1の制御手段と、前記成型ビームの広がり量に応じて特定のポートのアンテナ素子に対する移相量を独立して制御する第2の制御手段とを備えることを特徴とするフェーズドアレイアンテナ装置。
【請求項2】
前記走査制御器の第2の制御手段は、前記特定のポートに与える移相量として前記第1の制御手段の指向方向に応じた位相分布による移相量とは相関のない移相量を与えることを特徴とする請求項1記載のフェーズドアレイアンテナ装置。
【請求項3】
前記走査制御器は、前記第2の制御手段の前記独立して制御する移相量を前記第1の制御手段の前記指向方向に応じた移相量に加算することを特徴とする請求項1記載のフェーズドアレイアンテナ装置。
【請求項4】
前記走査制御器の第2の制御手段は、前記特定のポートの確定後はそのポートに与える移相量を固定することを特徴とする請求項2記載のフェーズドアレイアンテナ装置。
【請求項5】
前記走査制御器の第2の制御手段は、前記成型ビームの幅を広げることを目的として、アンテナ実効開口面積を小さくするためにその対象となるポートのアンテナ素子に接続される移送器に対して、前記電子走査とは別に用意した位相分布による移相量を与えることを特徴とするフェーズドアレイアンテナ装置。
【請求項6】
前記別に用意された位相分布は、移相量が0°〜360°の範囲内でランダムに得られた値であることを特徴とする請求項5記載のフェーズドアレイアンテナ装置。
【請求項7】
線または面状に所定の間隔で配列される複数ポートのアンテナ素子と、前記複数ポートのアンテナ素子それぞれに高周波信号を給電する給電手段と、前記複数ポートのアンテナ素子それぞれの給電線路に介在され、前記高周波信号に指定された移相量を与える複数の移相器と、前記複数の移相器それぞれの移相量を成型ビームの走査に応じて制御する走査制御器とを具備するフェーズドアレイアンテナ装置に用いられ、
前記走査制御器にて、成型ビームの指向方向に応じた位相分布で個々の移相器の移相量を制御すると共に、前記成型ビームの広がり量に応じて特定のポートのアンテナ素子に対する移相量を独立して制御することを特徴とするフェーズドアレイアンテナ装置のビーム成型方法。
【請求項8】
前記特定のポートに与える移相量として前記指向方向に応じた位相分布による移相量とは相関のない移相量を与えることを特徴とする請求項7記載のフェーズドアレイアンテナ装置のビーム成型方法。
【請求項9】
前記独立して制御する移相量を前記指向方向に応じた移相量に加算することを特徴とする請求項7記載のフェーズドアレイアンテナ装置のビーム成型方法。
【請求項10】
前記特定のポートの確定後はそのポートに与える移相量を固定することを特徴とする請求項9記載のフェーズドアレイアンテナ装置のビーム成型方法。
【請求項11】
前記成型ビームの幅を広げることを目的として、アンテナ実効開口面積を小さくするためにその対象となるポートのアンテナ素子に接続される移送器に対して、前記電子走査とは別に用意した位相分布による移相量を与えることを特徴とするフェーズドアレイアンテナ装置のビーム成型方法。
【請求項12】
前記別に用意された位相分布は、移相量が0°〜360°の範囲内でランダムに得られた値であることを特徴とする請求項11記載のフェーズドアレイアンテナ装置のビーム成型方法。
【請求項1】
線または面状に所定の間隔で配列される複数ポートのアンテナ素子と、
前記複数ポートのアンテナ素子それぞれに高周波信号を給電する給電手段と、
前記複数ポートのアンテナ素子それぞれの給電線路に介在され、前記高周波信号に指定された移相量を与える複数の移相器と、
前記複数の移相器それぞれの移相量を成型ビームの走査に応じて制御する走査制御器とを具備し、
前記位相制御器は、前記成型ビームの指向方向に応じた位相分布で個々の移相器の移相量を制御する第1の制御手段と、前記成型ビームの広がり量に応じて特定のポートのアンテナ素子に対する移相量を独立して制御する第2の制御手段とを備えることを特徴とするフェーズドアレイアンテナ装置。
【請求項2】
前記走査制御器の第2の制御手段は、前記特定のポートに与える移相量として前記第1の制御手段の指向方向に応じた位相分布による移相量とは相関のない移相量を与えることを特徴とする請求項1記載のフェーズドアレイアンテナ装置。
【請求項3】
前記走査制御器は、前記第2の制御手段の前記独立して制御する移相量を前記第1の制御手段の前記指向方向に応じた移相量に加算することを特徴とする請求項1記載のフェーズドアレイアンテナ装置。
【請求項4】
前記走査制御器の第2の制御手段は、前記特定のポートの確定後はそのポートに与える移相量を固定することを特徴とする請求項2記載のフェーズドアレイアンテナ装置。
【請求項5】
前記走査制御器の第2の制御手段は、前記成型ビームの幅を広げることを目的として、アンテナ実効開口面積を小さくするためにその対象となるポートのアンテナ素子に接続される移送器に対して、前記電子走査とは別に用意した位相分布による移相量を与えることを特徴とするフェーズドアレイアンテナ装置。
【請求項6】
前記別に用意された位相分布は、移相量が0°〜360°の範囲内でランダムに得られた値であることを特徴とする請求項5記載のフェーズドアレイアンテナ装置。
【請求項7】
線または面状に所定の間隔で配列される複数ポートのアンテナ素子と、前記複数ポートのアンテナ素子それぞれに高周波信号を給電する給電手段と、前記複数ポートのアンテナ素子それぞれの給電線路に介在され、前記高周波信号に指定された移相量を与える複数の移相器と、前記複数の移相器それぞれの移相量を成型ビームの走査に応じて制御する走査制御器とを具備するフェーズドアレイアンテナ装置に用いられ、
前記走査制御器にて、成型ビームの指向方向に応じた位相分布で個々の移相器の移相量を制御すると共に、前記成型ビームの広がり量に応じて特定のポートのアンテナ素子に対する移相量を独立して制御することを特徴とするフェーズドアレイアンテナ装置のビーム成型方法。
【請求項8】
前記特定のポートに与える移相量として前記指向方向に応じた位相分布による移相量とは相関のない移相量を与えることを特徴とする請求項7記載のフェーズドアレイアンテナ装置のビーム成型方法。
【請求項9】
前記独立して制御する移相量を前記指向方向に応じた移相量に加算することを特徴とする請求項7記載のフェーズドアレイアンテナ装置のビーム成型方法。
【請求項10】
前記特定のポートの確定後はそのポートに与える移相量を固定することを特徴とする請求項9記載のフェーズドアレイアンテナ装置のビーム成型方法。
【請求項11】
前記成型ビームの幅を広げることを目的として、アンテナ実効開口面積を小さくするためにその対象となるポートのアンテナ素子に接続される移送器に対して、前記電子走査とは別に用意した位相分布による移相量を与えることを特徴とするフェーズドアレイアンテナ装置のビーム成型方法。
【請求項12】
前記別に用意された位相分布は、移相量が0°〜360°の範囲内でランダムに得られた値であることを特徴とする請求項11記載のフェーズドアレイアンテナ装置のビーム成型方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−178034(P2008−178034A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−11885(P2007−11885)
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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