説明

フォトクロミック材料及びそれを用いた液状組成物

【課題】 ジアリールエテン系フォトクロミック化合物による良好な色調を呈すると共に発色時の色濃度が濃く、しかも、変色感度に優れた実用性を備えたフォトクロミック材料を提供する。
【解決手段】 ジアリールエテン系フォトクロミック化合物と、融点或いは軟化点が40℃以下であり、且つ、沸点が200℃以上の芳香族化合物及び/又はエステル化合物とをカプセルに内包してなるフォトクロミック材料、或いは、ジアリールエテン系フォトクロミック化合物と、融点或いは軟化点が40℃以下であり、且つ、沸点が200℃以上の芳香族化合物及び/又はエステル化合物とを樹脂粒子中に分散してなるフォトクロミック材料、及び、前記フォトクロミック材料を液媒体中に分散してなる液状組成物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフォトクロミック材料及びそれを用いた液状組成物に関する。更に詳細には、変色感度、耐光堅牢性及び発色濃度を向上させたジアリールエテン系フォトクロミック化合物を含むフォトクロミック材料及びそれを用いた液状組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ジアリールエテン系フォトクロミック化合物を含む材料としては、ジアリールエテン系フォトクロミック化合物をスチレン樹脂又は芳香族化合物に溶解、固着させたもの(例えば、特許文献1参照)、ジアリールエテン系フォトクロミック化合物をマイクロカプセルに内包させたもの(例えば、特許文献2参照)、ジアリールエテン系フォトクロミック化合物と光安定剤を併用したもの(例えば特許文献3)が開示されている。
【特許文献1】特開平11−258348号公報
【特許文献2】特開2004−326048号公報
【特許文献3】特開2002−313695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ジアリールエテン系フォトクロミック化合物をスチレン樹脂に溶解させると、該樹脂が固体であるためフォトクロミック化合物が変色し難くなり、よって、変色感度が損なわれる虞がある。また、トルエン等の芳香族化合物に溶解させると、該芳香族化合物は沸点が低いため蒸発を生じ易く、よって、安定性に欠けると共に組成変化を起こし、一部は溶出して種々の機能に影響を及ぼす虞がある。
また、ジアリールエテン系フォトクロミック化合物を微小カプセルに内包する試みは、酸素や水分への影響を低減させる点で効果が認められるが、内包物には依然として樹脂等のバインダーを併用していることから、該樹脂によって変色感度、耐光性、着色時の濃度が不十分であった。
更に、ジアリールエテン系フォトクロミック化合物と種々の光安定剤を併用する試みは、光安定剤の種類によっては逆に光劣化を促進させる傾向があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明者らはジアリールエテン系フォトクロミック化合物を溶解する樹脂の種類により発色時の色濃度や発色時の色調が損なわれたり、或いは、フォトクロミック化合物の構造変化によって生じる発消色機能を阻害する固体樹脂に該化合物を溶解して変色感度が損なわれることのない、種々の用途に利用可能な構成を検討した結果、熱による変色も無く、暗所にて変色性を示さないジアリールエテン系フォトクロミック化合物を用いた材料において、特定の芳香族化合物又はエステル化合物中に前記ジアリールエテン系フォトクロミック化合物を溶解して用いることで、発色時に良好な色調を呈し、しかも、発色時の色濃度が濃いと共に、変色感度に優れたフォトクロミック材料が得られることを見出した。
即ち、本発明は、ジアリールエテン系フォトクロミック化合物と、融点或いは軟化点が40℃以下であり、且つ、沸点が200℃以上の芳香族化合物及び/又はエステル化合物とをカプセルに内包してなるフォトクロミック材料、或いは、ジアリールエテン系フォトクロミック化合物と、融点或いは軟化点が40℃以下であり、且つ、沸点が200℃以上の芳香族化合物及び/又はエステル化合物とを樹脂粒子中に分散してなるフォトクロミック材料を要件とする。
更には、前記芳香族化合物が、重量平均分子量200乃至6000のスチレン系オリゴマーであること、前記エステル化合物が、脂肪族エステル化合物又は芳香族エステル化合物であること、一般式(A)で示されるフェノール系化合物を含んでなること等を要件とする。
【化1】

(式中、R’、R’’はそれぞれ水素原子又は炭素数1乃至4の炭化水素基を示し、R’’’は炭化水素基を示す。)
更には、前記フォトクロミック材料を液媒体中に分散してなる液状組成物を要件とする。更には、前記液媒体が筆記具インキのビヒクルであることを要件とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、ジアリールエテン系フォトクロミック化合物による良好な色調を呈すると共に発色時の色濃度が濃く、しかも、変色感度に優れた実用性を備えたフォトクロミック材料を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
前記ジアリールエテン系フォトクロミック化合物を以下に例示するが、本発明に用いられるジアリールエテン系フォトクロミック化合物はこれらに限定されるものではない。
ジアリールエテン系フォトクロミック化合物の基本骨格としては一般式(1)で示される化合物が挙げられる。
【化2】

前記一般式(1)の環Aは、フッ化(フルオロ化)又はペルフルオロ化されていてもよい炭化水素環又は複素環を示す。
【0007】
前記一般式(1)で示される化合物を、一般式(2)又は(3)で具体的に例示する。
【化3】

前記一般式(2)で示される化合物は、5個の炭素原子を含むフッ化又はペルフルオロ化されていてもよい環を有する。
【化4】

前記一般式(3)で示される化合物は、4個の炭素原子を含む無水環を形成してなり、Xは酸素原子又はNR基(ここで、Rは炭素数2乃至16のアルキル及び/又はヒドロキシアルキル基である)を示す。
【0008】
更に、別のジアリールエテン系フォトクロミック化合物の基本骨格としては一般式(4)で示される化合物が挙げられる。
【化5】

前記一般式(4)で示される化合物のA1基及びA2基は、二重結合に対して常にシス形にあり、互いに独立した置換或いは非置換のアルキル基、脂肪酸エステル基、ニトリル基を示す。
【0009】
前記一般式(4)で示される化合物を、一般式(5)及び(6)で具体的に例示する。
【化6】

【化7】

前記一般式(6)で示される化合物のR1及びR2はそれぞれメチル基又はエチル基を示す。
【0010】
前記した一般式(1)乃至(6)で示される化合物中のB基とC基は、同一或いは異なっていてもよく、次の構造式で示される基を例示できる。
【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

〔式中、YとZは、同一或いは異なっていてもよく、酸素原子又は硫黄原子或いは硫黄、窒素またはセレニウムの酸化形を示し、DとEは、同一或いは異なっていてもよく、炭素原子又は窒素原子を示し、R3乃至R17は、同一或いは異なっていてもよく、水素、直鎖又は分枝状の炭素数1乃至16のアルキル又はアルコキシ基、ハロゲン、直鎖又は分枝状の炭素数1乃至4のフルオロ又はペルフルオロ基、カルボン酸基、炭素数1乃至16のアルキルカルボン酸基、炭素数1乃至16のモノ又はジアルキルアミノ基、ニトリル基、フェニル基、ナフタレン基、複素環(ピリジン、キノリン、チオフェン、フラン、インドール、ピロール、セレノフェン、チアゾール、ベンゾチオフェン等)を示す。但し、DとEが窒素原子の場合、R5とR6は存在しない。二重結合とB、C基の間には、結合に対してオルト位に、例えばCH、CN又はCOのような水素以外の基が常に存在しなければならならず、R3又はR4は水素以外でなければならず、同様にR7又はR8は水素以外でなければならない。R13乃至R17については、隣接する基と環を結んだナフタレン骨格であってもよい。〕
【0011】
前記B基及びC基について更に具体的には、
【化13】

【化14】

【化15】

等が挙げられる。
【0012】
前記一般式(2)又は(3)で示される化合物を更に詳しく説明すると、
マレイン酸無水物系化合物としては、
3,4−ビス(1,2−ジメチル−3−インドリル)フラン−2,5−ジオン、
3,4−ジ(2−メチル−3−ベンゾチオフェン)フラン−2,5−ジオン等があげられる。
シクロペンテン系化合物としては、
1−(1,2−ジメチルインドリル)−2−(2−シアノ−3,5−ジメチル−4−チエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1−(1,2−ジメチル−3−インドリル)−2−(3−シアノ−2,5−ジメチル−4−チエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1−(1,2,−ジメチル−3−インドリル)−2−(2−メチル−3−ベンゾチエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1,2−ビス(5−(4−メトキシフェニル)−2,4−ジメチル−3−チエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1,2−ビス(5−(2−(4−メトキシフェニル)−1−エテニル)−2,4−ジメチル−3−チエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1,2−ビス(5−(2−(4−シアノフェニル)−1−エテニル)−2,4−ジメチル−3−チエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1,2−ビス(2,4−ジメチル−5−(2−(2−キノリル)−1−エテニル)−3−チエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1,2−ビス(2,4−ジメチル−5−(2−(4−ピリジル)−1−エテニル)−3−チエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1,2−ビス(2,4−ジメチル−5−(2−(1−ナフチル)−1−エテニル)−3−チエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1,2−ビス(5−(2−(4−メトキシフェニル)−1−エテニル)−2−メチル−4−オクチル−3−チエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1,2−ビス(5−(2−(4−t−ブチルフェニル)−1−エテニル)−2,4−ジメチル−3−チエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1,2−ビス(2,4−ジメチル−5−(2−(2−ベンゾチアジル)−1−エテニル)−3−チエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1−(6−(2−(4−メトキシフェニル)−1−エテニル)−2−メチル−3−ベンゾチエニル)−2−(5−(4−(4−ジメチルアミノフェニル)−1,3−ブタジエニル)−2,4−ジメチル−3−チエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1−(6−(4−(4−メトキシフェニル)−1,3−ブタジエニル)−2−メチル−3−ベンゾチエニル)−2−(5−(4−(4−メトキシフェニル)−1,3−ブタジチエニル)−2,4−ジメチル−3−チエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1,2−ビス(6−(4−(4−メトキシフェニル)−1,3−ブタジエニル)−2−メチル−3−ベンゾチエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1,2−ビス(6−(2−(4−メトキシフェニル)−1−エテニル)−2−メチル−3−ベンゾチエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1−(6−(2−(4−ジメチルアミノフェニル)−1−エテニル)−2−メチル−3−ベンゾチエニル)−2−(5−(2−(4−シアノフェニル)−1−エテニル)−2,4−ジメチル−3−チエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1−(6−(2−(4−メトキシフェニル)−1−エテニル)−2−メチル−3−ベンゾチエニル)−2−(5−(2−(4−シアノフェニル)−1−エテニル)−2,4−ジメチル−3−チエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1−(6−(2−(4−メトキシフェニル)−1−エテニル)−2−メチル−3−ベンゾチエニル)−2−(5−(2−(4−メトキシフェニル)−1−エテニル)−2,4−ジメチル−3−チエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1−(6−(4−(4−メトキシフェニル)−1,3−ブタジエニル)−2−メチル−3−ベンゾチエニル)−2−(5−(2−(4−メトキシフェニル)−1−エテニル)−2,4−ジメチル−3−チエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1−(6−(2−(4−メトキシフェニル)−1−エテニル)−2−メチル−3−ベンゾチエニル)−2−(2,4−ジメチル−(5−(4−(4−メトキシフェニル)−1,3−ブタジエニル))−3−チエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1−(1,2−ジメチル−3−インドリル)−2−(2−シアノ−3−メトキシ−5−メチルチエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン
1,2−ビス(2−メチル−5−フェニル−3−チエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1,2−ビス(2,4−ジメチル−5−フェニル−3−チエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1,2−ビス(2−フェニル−5−メチル−4−チアゾイル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1,2−ビス(2−メチルベンゾチオフェン−3−イル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1,2−ビス(3−メチルベンゾチオフェン−2−イル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1,2−ビス(3−メチル−2−チエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1,2−ビス(2−メチル−6−ニトロ−3−ベンゾチエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1−(3−メチル−2−チエニル)−2−(2−メチル−3−チエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1,2−ビス(5−(4−メチルフェニル)−2−メチル−3−チエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1−(2,4−ジメチル−5−フェニル−3−チエニル)−2−(2−メチル−5−フェニル−3−チエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1,2−ビス(2,4−ジメチル−5−(4−メトキシフェニル)−3−チエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1−(2−メチル−5−(4−メチルフェニル)−3−チエニル)−2−(2,4−ジメチル−5−(4−メチルフェニル)−3−チエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1−(2−メチル−5−(4−メトキシフェニル)−3−チエニル)−2−(2,4−ジメチル−5−(4−メトキシフェニル)−3−チエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1−(3−メチル−2−チエニル)−2−(5−メチル−2−フェニル−4−チアゾイル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1−(3−メチルベンゾチオフェン−2−イル)−2−(5−メチル−2−フェニル−4−チアゾイル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1−(2−メチルベンゾチオフェン−3−イル)−2−(5−メチル−2−フェニル−4−チアゾイル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1−(2−メチル−5−メチル−ベンゾチオフェン−3−イル)−2−(5−メチル−2−フェニル−4−チアゾイル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1−(2−メチル−5−フェニル−ベンゾチオフェン−3−イル)−2−(5−メチル−2−フェニル−4−チアゾイル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1−(3−メチル−5−メチル−ベンゾチオフェン−2−イル)−2−(5−メチル−2−フェニル−4−チアゾイル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1−(3−メチル−5−フェニル−ベンゾチオフェン−2−イル)−2−(5−メチル−2−フェニル−4−チアゾイル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1−(3−メチル−6−メチル−ベンゾチオフェン−2−イル)−2−(5−メチル−2−フェニル−4−チアゾイル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1−(3−メチル−6−フェニル−ベンゾチオフェン−2−イル)−2−(5−メチル−2−フェニル−4−チアゾイル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1−(2−メチル−6−メチル−ベンゾチオフェン−3−イル)−2−(5−メチル−2−フェニル−4−チアゾイル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン、
1−(2−メチル−6−フェニル−ベンゾチオフェン−3−イル)−2−(5−メチル−2−フェニル−4−チアゾイル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン等が挙げられる。
【0013】
前記一般式(5)又は(6)で示される化合物を更に詳しく説明すると、
マレイン酸系化合物としては、2,3−ジ(2−メチルベンゾチエニル)−マレイン酸ジメチル等が挙げられる。
ジシアノエチレン系化合物としては、1,2−ビス(2,3,5−トリメチル−4−チエニル)−1,2−ジシアノエチレン、1,2−ビス(2−メチル−3−ベンゾチエニル)−1,2−ジシアノエチレン等が挙げられる。
【0014】
前記ジアリールエテン系フォトクロミック化合物は、沸点が200℃以上の芳香族化合物及び/又はエステル化合物に溶解して用いられる。
前記芳香族化合物として好ましくは重量平均分子量が200乃至6000、好ましくは200乃至4000のスチレン系オリゴマーである。
スチレン系オリゴマーの重量平均分子量が200未満の場合、含有モノマーが多くなり、安定性に欠けるため耐光性向上効果を発現し難くなる。
また、重量平均分子量が6000を越えると、軟化点が高くなり、光照射により色残りが発生し易く、且つ、発色濃度が低くなり、変色感度は鈍くなる傾向にある。
前記芳香族化合物を以下に例示するが、本発明に用いられる芳香族化合物はこれらに限定されるものではない。
なお、重量平均分子量は、GPC法(ゲル浸透クロマトグラフ法)により測定する。
芳香族化合物としては、カクタスP−180、ソルベッソ200等の芳香族有機溶剤が挙げられる。
前記スチレン系オリゴマーとしては、低分子量ポリスチレン、スチレン−α−メチルスチレン系共重合体、α−メチルスチレン重合体、α−メチルスチレンとビニルトルエンの共重合体、α−ピネン重合体、β−ピネン重合体、d−リモネン重合体等が挙げられる。
スチレン−α−メチルスチレン系共重合体としては、理化ハーキュレス(株)製、商品名:ピコラスチックA5(重量平均分子量317)、ピコラスチックA25(重量平均分子量348)等が用いられる。
α−メチルスチレン重合体としては、理化ハーキュレス(株)製、商品名:クリスタレックス3025等が用いられる。
前記スチレン系オリゴマーは単独で用いてもよいし、2種類以上を併用して用いることもできる。
一方、融点又は軟化点が40℃以下であり沸点が200℃以上のエステル化合物として好ましくは脂肪族エステル化合物又は芳香族エステル化合物である。
前記エステル化合物を以下に例示するが、本発明に用いられるエステル化合物はこれらに限定されるものではない。
前記脂肪族エステルとしては、カプリル酸n−デシル、カプリン酸セチル、カプリン酸ステアリル、ラウリン酸n−オクチル、ラウリン酸ラウリル、ラウリン酸ミリスチル、ミリスチン酸n−ブチル、ミリスチン酸n−デシル、ミリスチン酸ラウリル、パルミチン酸n−ブチル、パルミチン酸n−デシル、ステアリン酸n−ブチル、ステアリン酸n−デシル、ステアリン酸ラウリル、ステアリン酸ネオペンチル、パルミチン酸ネオペンチル、ステアリン酸2−エチルブチル、パルミチン酸シクロヘキシルメチル等が用いられる。
前記芳香族エステル化合物としては、ミリスチン酸ベンジル、安息香酸セチル、ステアリン酸4−イソプロピルベンジル等が用いられる。
【0015】
前記フォトクロミック化合物と芳香族化合物及び/又はエステル化合物の重量比は、1:1〜1:10000であることが好ましく、より好ましくは1:5〜1:500である。
前記重量比を満たすことによって、耐光性向上効果に優れ、且つ、フォトクロミック化合物は十分な発色濃度を示すことができる。
【0016】
前記フォトクロミック化合物と芳香族化合物及び/又はエステル化合物は、微小カプセルに内包させてフォトクロミック材料(可逆光変色性微小カプセル顔料)を形成したり、熱可塑性又は熱硬化性樹脂中に分散してフォトクロミック材料(可逆光変色性樹脂粒子)を形成する。
なお、前記微小カプセルは、平均粒子径0.5〜50μm、好ましくは1〜30μm、より好ましくは、1〜10μmの範囲が実用性を満たす。
前記微小カプセルの平均粒子径が50μmを越えると、インキ、塗料等の液状組成物へのブレンドに際して、分散安定性に欠ける。
一方、平均粒子径が0.5μm未満では、高濃度の発色性を示し難くなる。
前記マイクロカプセル化は、従来より公知のイソシアネート系の界面重合法、メラミン−ホルマリン系等のin Situ重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライング法等があり、用途に応じて適宜選択される。更に微小カプセルの表面には、目的に応じて更に二次的な樹脂皮膜を設けて耐久性を付与させたり、表面特性を改質させて実用に供することもできる。
【0017】
本発明においては、前記フォトクロミック化合物と、芳香族化合物及び/又はエステル化合物と共に一般式(A)で示されるフェノール系化合物を含有させることができ、発色濃度が更に濃くなり、また、耐光性が更に向上する効果を有する。
なお、一般式(A)のR’、R’’はそれぞれ水素原子、直鎖又は分枝を有する炭素数1乃至4の炭化水素基から選ばれ、R’’’は直鎖又は分枝を有する炭化水素基である。
前記フェノール系化合物としては、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフォン、2,2′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、1,1′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、1,1′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルプロパン、4,4′−(2−エチルヘキサン−1,1−ジイル)ジフェノール、4,4′−(1−メチルエチリデン)−ビス(2−メチル−フェノール)、2,2′−メチレンビス(4−メチルフェノール)、2,2′,6,6′−テトラメチル−4,4′−メチレンジフェノール、ペンタエリスリトールテトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、チオジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサン−1,6−ジイルビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオナミド〕、ジエチル〔〔3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル〕メチル〕ホスフォネート、3,3′,3″,5,5′,5″−ヘキサ−tert−ブチル−a,a′,a″−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス〔3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート〕、ヘキサメチレンビス〔3−(3,5―ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)−トリオン、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)〔〔3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル〕メチル〕ブチルマロネート等を例示できる。
【0018】
前記フォトクロミック材料は、液媒体(各種添加剤を含むビヒクル)中に分散してスクリーン印刷、オフセット印刷、プロセス印刷、グラビヤ印刷、コーター、タンポ印刷等に用いられる印刷インキ、刷毛塗り、スプレー塗装、静電塗装、電着塗装、流し塗り、ローラー塗り、浸漬塗装等に用いられる塗料、インクジェット用インキ、マーキングペン用、ボールペン用、万年筆用、筆ペン用等の筆記具又は塗布具用インキ、クレヨン、絵の具、化粧料、繊維用着色液等の液状組成物として利用できる。
前記ジアリールエテン系フォトクロミック組成物は、液媒体中に0.5〜70重量%、好ましくは1〜50重量%の範囲で含有させることができ、視覚効果を満たす。
0.5重量%未満では、低発色濃度であり、光変色による視覚効果を十分に発現でき難い。一方、70重量%以上添加しても含有量に相応する発色濃度が得られ難い。
ここで、非光変色性染料又は顔料を含有して有色(1)から有色(2)へと色変化させることができる。
【0019】
前記ジアリールエテン系フォトクロミック化合物の色材としての発色性を効果的に発現させて高視覚濃度の筆跡を形成させるためには、ビヒクルは下記測定方法による350nm〜400nmの波長域における乾燥塗膜の光反射率が20%以上であることが好ましく、また、エマルジョン型バインダーを適用した、バインダー自体が溶剤に非溶解状態にある系では反射率30%以上であることが好ましく、バインダーがビヒクルに溶解状態にある系では反射率40%以上であることが好ましい。
測定方法は、試料ビヒクルを、白色合成紙(白色顔料がブレンドされたポリオレフィン系合成紙)上にバーコーターを使用して約50nmの厚みに塗布し、常温で乾燥して乾燥塗膜を形成して測定試料とし、前記白色合成紙を比較対照試料として、分光光度計〔(株)日立製作所製、自記分光光度計U−3210型〕を使用して、350nm〜400nmの波長域の反射率を測定して求める。
【0020】
ビヒクルの光反射率が20%未満では、フォトクロミック化合物に対する紫外線の照射効果の有効な発現を阻害し、本来のフォトクロミック化合物の発色濃度を有効に発現させて視覚させる効果に乏しい。
従って、ビヒクルを構成するバインダー樹脂や各種添加物は、紫外線吸収性のないもの、或いは、紫外線吸収性を有するとしても、前記照射効果を阻害しない程度のものが適用される。
なお、紫外線吸収剤等の光安定剤についても、前記照射効果を阻害しない程度であればビヒクル中に添加することができる。
【0021】
以下に本発明のフォトクロミック材料を適用する筆記具用インキとそれを収容する筆記具について説明する。
ビヒクル中に含まれるバインダー樹脂としては、ポリアクリル酸エステル、スチレン−アクリル酸共重合体、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、α−オレフィン−マレイン酸共重合体、シリコーン樹脂、ポリエステル、ポリウレタンの水分散体等の各種合成樹脂エマルジョン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルブチラール等の水溶性樹脂、スチレン−マレイン酸共重合体、エチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体等のアルカリ可溶性樹脂や、ケトン樹脂、ケトン−ホルムアルデヒド樹脂、アミド樹脂、アルキッド樹脂、ロジン変性樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ポリビニルピロリドン、α−及びβーピネン・フェノール重縮合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アクリル樹脂等の油溶性樹脂を例示できる。
更には、剪断減粘性付与剤、例えば、特定のHLB値を有するノニオン系界面活性剤、キサンタンガム、ウェランガム、構成単糖がグルコースとガラクトースの有機酸修飾ヘテロ多糖体であるサクシノグリカン(平均分子量約100乃至800万)、グァーガム、ローカストビーンガム、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸アルキルエステル類、メタクリル酸のアルキルエステルを主成分とする分子量10万〜15万の重合体、グルコマンナン、寒天やカラゲニン等の海藻より抽出されるゲル化能を有する炭水化物、ベンジリデンソルビトール又はその誘導体、架橋性アクリル酸重合体等を単独或いは混合して配合して、粘度が40〜160mPa・s(EMD型回転粘度計による回転数100rpmでの値、25℃)の剪断減粘性インキを調製して、筆記時における筆記先端の剪断力、例えば、ボールペン形態にあっては、筆記時のボールの高速回転による高剪断力による、ボール近傍のインキを低粘度化してスムーズに流出させることができる。
更には、高分子凝集剤、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、水溶性多糖類、非イオン性水溶性セルロース誘導体等を適用した、粘度が3〜20mPa・s(25℃)の凝集系インキを調製することができ、例えば、マーキングペン形態にあっては、前記水溶性高分子凝集剤の緩い橋架け作用により、緩い凝集状のマイクロカプセル形態、或いは樹脂粒体の形態の顔料が懸濁状態にあるインキが、毛細間隙を有する部材中で懸濁状態が破壊されることなく、長期間、安定的に保持させ、筆記先端から流出させることができる。
前記水溶性多糖類としては、トラガントガム、グァーガム、プルラン、サイクロデキストリンが挙げられ、非イオン性水溶性セルロース誘導体としては、メチルセルローズ、ヒドロキシセルローズ、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルローズ、ヒドロキシエチルメチルセルローズ、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。
【0022】
溶剤としては、水性インキの場合は水と必要により水溶性有機溶剤が用いられる。
前記水溶性有機溶剤としては、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセリン、ソルビトール、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、チオジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、スルフォラン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。
なお、本発明のインキ組成物は、主溶剤として有機溶剤を用いた油性インキであってもよい。
【0023】
その他、必要により潤滑剤、pH調整剤、防腐剤或いは防黴剤、湿潤剤、消泡剤、分散剤等の各種添加剤を使用することもできる。
【0024】
前記フォトクロミック材料は、筆記先端部(チップ)を装着したマーキングペン、ボールペン、筆ペン等に充填して実用に供される。
マーキングペンに充填する場合、マーキングペン自体の構造、形状は特に限定されるものではなく、例えば、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップ等のマーキングペンチップを装着し、軸筒内部に収容した繊維束からなるインキ吸蔵体にインキを含浸させ、チップにインキを供給する構造、軸筒内部に直接インキを収容し、櫛溝状のインキ流量調節部材や繊維束からなるインキ流量調節部材を介在させる構造、軸筒内部に直接インキを収容して、弁機構により前記チップに所定量のインキを供給する構造のマーキングペンが挙げられる。
ボールペンに充填する場合、ボールペン自体の構造、形状は特に限定されるものではなく、例えば、軸筒内部に収容した繊維束からなるインキ吸蔵体にインキを含浸させ、ボールペンチップにインキを供給する構造、軸筒内部に直接インキを収容し、櫛溝状のインキ流量調節部材や繊維束からなるインキ流量調節部材を介在させる構造、軸筒内にインキ組成物を充填したインキ収容管を有し、該インキ収容管はボールを先端部に装着したボールペンチップに連通しており、さらにインキの端面には逆流防止用の液栓が密接している構造のボールペンを例示できる。
【0025】
前記ボールペンチップについて更に詳しく説明すると、金属製のパイプの先端近傍を外面より内方に押圧変形させたボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、或いは、金属材料をドリル等による切削加工により形成したボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、金属又はプラスチック製チップ内部に樹脂製のボール受け座を設けたチップ、或いは、前記チップに抱持するボールをバネ体により前方に付勢させたもの等を適用できる。
又、前記ボールは、超硬合金、ステンレス鋼、ルビー、セラミック、樹脂、ゴム等の0.1〜3mm、好ましくは0.3〜1.5mm、より好ましくは0.5〜1.0mmのものが適用できる。
なお、本発明のインキを充填する筆記具は、ボールと同様の転動作用により筆跡を形成させる、ローラー等の転動機構を筆記先端部に備えたものを含む。
【0026】
インキ組成物を収容するインキ収容管は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等の樹脂や金属からなる成形体が用いられる。
前記インキ収容管にはチップを直接連結する他、接続部材を介して前記インキ収容管とチップを連結してもよい。
尚、チップとインキ収容管からなるレフィルを軸筒内に収容してボールペンを構成する他、先端部にチップを装着した軸筒内に直接インキを充填してボールペンを構成することもできる。
【0027】
前記インキ収容管に収容したインキ組成物の後端にはインキ逆流防止体を充填することもできる。
前記インキ逆流防止体組成物は不揮発性液体又は難揮発性液体からなる。
具体的には、ワセリン、スピンドル油、ヒマシ油、オリーブ油、精製鉱油、流動パラフィン、ポリブテン、α−オレフィン、α−オレフィンのオリゴマーまたはコオリゴマー、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、脂肪酸変性シリコーンオイル等があげられ、一種又は二種以上を併用することもできる。
【0028】
前記不揮発性液体及び/又は難揮発性液体には、ゲル化剤を添加して好適な粘度まで増粘させることが好ましく、表面を疎水処理したシリカ、表面をメチル化処理した微粒子シリカ、珪酸アルミニウム、膨潤性雲母、疎水処理を施したベントナイトやモンモリロナイトなどの粘土系増粘剤、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛等の脂肪酸金属石鹸、トリベンジリデンソルビトール、脂肪酸アマイド、アマイド変性ポリエチレンワックス、水添ひまし油、脂肪酸デキストリン等のデキストリン系化合物、セルロース系化合物を例示できる。
更に、前記液状のインキ逆流防止体組成物と、固体のインキ逆流防止体を併用することもできる。
なお、筆記具の形態は前述したものに限らず、相異なる形態のペン体を装着させたり、相異なる色調のインキを導出させるペン体を装着させたツインタイプの筆記具であってもよい。
【実施例】
【0029】
以下にフォトクロミック材料の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例中の部は、重量部を示す。
実施例1
フォトクロミック材料の調製
ジアリールエテン系フォトクロミック化合物A(1,2−ビス(2−メチル−5−フェニル−3−チエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン)1部、スチレン−α−メチルスチレン共重合体(重量平均分子量317、商品名:ピコラスティックA5)50部を内包物として混合した後、膜材として芳香族イソシアネートプレポリマー20部、酢酸エチル20部からなる溶液に前記内包物を混入し、15%ゼラチン水溶液100重量部に投入して微小滴になるように攪拌し、70℃で1時間反応を行った。
次いで、液温を90℃に保って3時間攪拌を続け、マイクロカプセル分散液を調整した後、遠心分離法によりマイクロカプセル形態のフォトクロミック材料を得た。
【0030】
以下の表1に実施例1乃至13、比較例1乃至8のフォトクロミック材料の組成を示す。表中の括弧内の数字は重量部を示す。
なお、表中の材料について以下に示す。
ジアリールエテン系フォトクロミック化合物B:1,2−ビス(5−メチル−2−フェニル−4−チアゾイル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン(ピンク色)、
ジアリールエテン系フォトクロミック化合物C:1−(2,4−ジメチル−5−(4−メチル−フェニル)−3−チエニル)−2−(2−メチル−5−(4−メチル−フェニル)−3−チエニル)−3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロペンテン(青色)、
イルガノックス1076(商品名):オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、
イルガノックス1035(商品名):チオジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、
イルガノックス259(商品名):ヘキサメチレンビス〔3−(3,5−−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、
イルガノックス3114(商品名):1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、
イルガノックス1520(商品名):4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾールであり、
イルガノックス1222(商品名):ジエチル〔〔3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル〕メチル〕ホスフォネート、
ピコラスティックA75(商品名):軟化点が75℃のスチレン−α−メチルスチレン共重合体、
実施例2乃至11、比較例5乃至8は表中の組成を内包液として、実施例1と同様の方法によりマイクロカプセル形態のフォトクロミック材料を作製した。
実施例12については、表中の実施例12の組成を内包液として混合した後、エチレン−無水マレイン酸共重合体(米国モンサント化学社製、商品名:EMA−31、分子量75000〜90000)の10%水溶液100部に、尿素10部、レゾルシン1部、水55部を添加し、水酸化ナトリウムの20%水溶液を添加してpHを3.5に調整した後、前記内包液を攪拌しながら投入し、油滴の平均粒子径が約3μmになるまで乳化した。
次に、前記溶液に37%ホルムアルデヒド水溶液25部を加え、温度を65℃に調整したまま2時間放置した後、遠心分離法によりマイクロカプセル形態のフォトクロミック材料を得た。
実施例13については、表中の実施例13の組成物を内包液として、スチレン樹脂15部、トルエン40部からなる混合溶液に前記内包液を混入し、10%ポリビニルアルコール水溶液100重量部に投入して微小滴になるように攪拌し、70℃で1時間反応を行った。次いで、液温を90℃に保って10時間攪拌を続け、微小樹脂粒子分散液を調整した後、遠心分離法により樹脂粒子形態のフォトクロミック材料を得た。
【0031】
【表1】

【0032】
試験試料の作製
前記実施例1乃至13のフォトクロミック材料40部、アクリル系樹脂エマルジョン60部、粘度調整剤2部、消泡剤1部を均一に分散、混合しインキを調製し、スクリーン印刷により基材(白色合成紙)に印刷して試験試料1乃至13を作製した。
【0033】
試験試料14(比較例1)
比較例1のフォトクロミック材料101部をバーコーターにて白色合成紙上にウェット膜が厚み90μmになるように塗工した後、乾燥させて試験試料を得た。
【0034】
試験資料15(比較例2)
比較例2のフォトクロミック材料101部、シリコーン系樹脂添加剤1部を均一に分散した後、スクリーン印刷により、白色合成紙上に印刷した。
【0035】
試験資料16(比較例3)
比較例3の組成101部、シリコーン系樹脂添加剤1部を均一に分散した後、スクリーン印刷により、白色合成紙上に印刷した。
【0036】
試験資料17(比較例4)
比較例4の組成101部、シリコーン系樹脂添加剤1部を均一に分散した後、スクリーン印刷により、白色合成紙上に印刷した。
【0037】
試験試料の作製
前記比較例5乃至8のフォトクロミック材料40部、アクリル系樹脂エマルジョン60部、粘度調整剤2部、消泡剤1部を均一に分散、混合しインキを調製し、スクリーン印刷により基材(白色合成紙)に印刷して試験試料18乃至21を作製した。
【0038】
初期発色濃度試験
前記各試験試料を光源〔東芝ライテック(株)製、電球形蛍光ランプ、商品名:ネオボール5ブラックライトEFD15BLB〕から10cm離して1分間光照射した後、色差計〔東京電色(株)製、TC−3600)にて、明度値(Y値から換算)を測定した。
なお、明度値は数字が大きい程、色濃度が低く、小さい程、色濃度が高い。
耐光性試験
各試験試料を卓上型耐光性試験機(ヘレウス社製、SUNTEST CPS)を用いて照度140000luxにて1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、光照射した後、前記色差計にて、明度値を測定した。
【0039】
以下の表に各試験試料の初期発色濃度、及び、耐光性試験結果を示す。
【0040】
【表2】

【0041】
なお、表中の耐光性試験の評価に関する記号は以下のとおりである。
◎:初期と比較して100〜80%の色濃度を保持している。
○:初期と比較して80〜60%の色濃度を保持している。
△:初期と比較して60〜40%の色濃度を保持している。
▲:初期と比較して40〜20%の色濃度を保持している。
×:初期と比較して20〜0%の色濃度を保持している。
【0042】
発色感度試験
東芝ライテック(株)製、電球形蛍光ランプ、商品名:ネオボール5ブラックライトEFD15BLBを用いて、530μW/cmの強度の位置に試験試料を置き、時間毎に発色濃度を東京電飾社製MODEL TC−3600にてY値を測定し、明度値に変換した。
消色感度試験
紫外線照射により完全発色させた試験試料を色差計(東京電飾社製、MODEL TC−3600)に設置されたランプ(東芝ネオハロゲンミニJ12V2020W−AXS)にて4600Luxの条件下で照射して時間毎に消色濃度を東京電飾社製MODEL TC−3600にてY値を測定し、明度値に変換した。
【0043】
図1乃至6に各試験試料の発色感度試験、及び、消色感度試験結果を示す。
なお、試験は試験試料1、1−1、2、2−1、15、16、18を用いた。
試験試料1−1については、実施例1のフォトクロミック材料40部、アクリル系樹脂エマルジョン60部、粘度調整剤2部、消泡剤1部を均一に分散、混合しインキを調製し、スクリーン印刷により基材(白色ケント紙)に印刷して作製した。
試験試料2−1については、実施例2のフォトクロミック材料40部、アクリル系樹脂エマルジョン60部、粘度調整剤2部、消泡剤1部を均一に分散、混合しインキを調製し、スクリーン印刷により基材(白色ケント紙)に印刷して作製した。
【0044】
応用例1
実施例2のフォトクロミック材料10部を、アクリル樹脂(ロームアンドハース社製、商品名:パラロイドB−72)の15%キシレン溶液に均一に分散し、更にキシレン及びメチルイソブチルケトンを用いて希釈して液状組成物(塗料)を得た。
前記塗料を用いて白色の軟質塩化ビニル製シート(厚さ200μm)上にスプレーガンにて塗装し、フォトクロミック塗装物を得た。
前記と塗装物に太陽光を照射するとピンク色になり、この状態は暗所でも消色することなく、通常の使用状態では消色しなかった。
次に前記ピンク色の塗装物を、紫外線吸収能を有する無色透明のポリエステル樹脂製ケースに収容して太陽光を照射すると、太陽光に含まれる紫外光はケースにより遮断され、それ以外の光(可視光)が照射されるため、徐々に変色して白色になり、この状態は、室内、暗所のいずれの場所で放置しても変色することなく、その状態を維持していた。
その後、ケースから取り出して太陽光を照射すると太陽光に含まれる紫外光によって白色からピンク色に変化し、この状態は屋外、室内、暗所のいずれの場所でも変色することなく、その状態を維持した。
この色変化は繰り返し行うことができた。
【0045】
応用例2(図7参照)
液状組成物(筆記具用インキ)の調製
実施例7のフォトクロミック材料(予め青色に発色させたもの)12.0部、キサンタンガム(剪断減粘性物質)0.33部、水64.86部、尿素11.0部、グリセリン11.0部、ノニオン系浸透性付与剤(サンノプコ社製、商品名:ノプコSW−WET−366)0.55部、変性シリコーン系消泡剤(サンノプコ社製、商品名:ノプコ8034)0.13部、防黴剤〔ゼネカ(株)製、商品名:プロキセルXL−2〕0.13部からなる液状組成物2(剪断減粘系色彩記憶性光変色性インキ)を調製した。
前記インキの粘度をEMD型粘度計にて25℃で測定した結果、測定回転数1rpmで1020mPa・s、100rpmで84mPa・sの値を示し、剪断減粘指数nは0.48であった。また、前記インキのうち、マイクロカプセル顔料を除いたビヒクルの皮膜の光反射率は400nmで97%、350nmで90%であった。
筆記具の作製
前記インキ2をインキ収容管3(内径3.3mmのポリプロピレン製パイプ)に吸引充填し、樹脂製接続部材4を介してボールペンチップ5と連結させた。
なお、前記ボールペンチップ5は、0.5mmのステンレス鋼ボールを収容したボールペンチップを用いた。
次いで、前記インキ収容管3の尾部より、ポリブテンベースの粘弾性を有するインキ追従体6(液栓)を充填し、光遮蔽性の軸筒7、口金8、光遮蔽性のキャップ9を取り付けた後、遠心処理により脱気処理を行ない、筆記具1(ボールペン)を得た。
前記ボールペンを用いて紙面に筆記すると青色の筆跡を形成することができ、前記筆跡は暗所でも消色することなく、通常の使用状態では消色しなかった。
次に前記青色の筆跡が形成された紙面上に、紫外線吸収能を有する無色透明のポリエステル樹脂製フィルムの下層に粘着層を設けてラベル(色彩変換手段)を貼着して太陽光を照射すると、太陽光に含まれる紫外光はシートにより遮断され、それ以外の光(可視光)が照射されるため、筆記像は徐々に変色して無色になり、この状態は、室内、暗所のいずれの場所で放置しても変色することなく、その状態を維持していた。
その後、ラベルを剥離して太陽光を照射すると太陽光に含まれる紫外光によって筆跡は無色から青色に変化し、この状態は屋外、室内、暗所のいずれの場所でも変色することなく、その状態を維持した。
この色変化は繰り返し行うことができた。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施例のフォトクロミック材料と比較例のフォトクロミック材料の発色感度試験結果を表したグラフである。
【図2】本発明の一実施例のフォトクロミック材料と比較例のフォトクロミック材料の消色感度試験結果を表したグラフである。
【図3】本発明の他の実施例のフォトクロミック材料と比較例のフォトクロミック材料の発色感度試験結果を表したグラフである。
【図4】本発明の他の実施例のフォトクロミック材料と比較例のフォトクロミック材料の消色感度試験結果を表したグラフである。
【図5】本発明の他の実施例のフォトクロミック材料と比較例のフォトクロミック材料の発色感度試験結果を表したグラフである。
【図6】本発明の他の実施例のフォトクロミック材料と比較例のフォトクロミック材料の消色感度試験結果を表したグラフである。
【図7】本発明のフォトクロミック材料を含む液状組成物を収容した筆記具の縦断面説明図である。
【符号の説明】
【0047】
1 筆記具
2 液状組成物
3 インキ収容管
4 接続部材
5 ポールペンチップ
6 インキ追従体
7 軸筒
8 口金
9 キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアリールエテン系フォトクロミック化合物と、融点或いは軟化点が40℃以下であり、且つ、沸点が200℃以上の芳香族化合物及び/又はエステル化合物とをカプセルに内包してなるフォトクロミック材料。
【請求項2】
ジアリールエテン系フォトクロミック化合物と、融点或いは軟化点が40℃以下であり、且つ、沸点が200℃以上の芳香族化合物及び/又はエステル化合物とを樹脂粒子中に分散してなるフォトクロミック材料。
【請求項3】
前記芳香族化合物が、重量平均分子量200乃至6000のスチレン系オリゴマーである請求項1又は2記載のフォトクロミック材料。
【請求項4】
前記エステル化合物が、脂肪族エステル化合物又は芳香族エステル化合物である請求項1又は2記載のフォトクロミック材料。
【請求項5】
一般式(A)で示されるフェノール系化合物を含んでなる請求項1乃至4のいずれかに記載のフォトクロミック材料。
【化1】

(式中、R’、R’’はそれぞれ水素原子又は炭素数1乃至4の炭化水素基を示し、R’’’は炭化水素基を示す。)
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のフォトクロミック材料を液媒体中に分散してなる液状組成物。
【請求項7】
前記液媒体が筆記具インキのビヒクルである請求項6記載の液状組成物。’

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−112922(P2007−112922A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−306843(P2005−306843)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(000111890)パイロットインキ株式会社 (832)
【Fターム(参考)】