フォトニック結晶面発光レーザおよびその製造方法
【課題】電子漏れが抑制でき、光閉じ込めの向上を図ることができ、非発光を抑制することが可能なフォトニック結晶面発光レーザを提供する。
【解決手段】基板上に、n型クラッド層、活性層、電子ブロック層、2次元フォトニック結晶層がこの順に積層されているフォトニック結晶面発光レーザであって、
2次元フォトニック結晶層は、第一のp型半導体によるバンドギャップの異なる複数の層を備え、
第一のp型半導体による複数の層のバンドギャップは、電子ブロック層を構成する第二のp型半導体のバンドギャップよりも小さく、複数の層の積層方向に向かって段階的ないしは連続的にそのバンドギャップが減少するように積層され、
積層された層の面内方向の高屈折率部と低屈折率部とによる2次元フォトニック結晶層の該低屈折率部には、
電子ブロック層の表面を覆うように、第二のp型半導体よりもアクセプタドープ濃度の小さい第三のp型半導体が設けられている。
【解決手段】基板上に、n型クラッド層、活性層、電子ブロック層、2次元フォトニック結晶層がこの順に積層されているフォトニック結晶面発光レーザであって、
2次元フォトニック結晶層は、第一のp型半導体によるバンドギャップの異なる複数の層を備え、
第一のp型半導体による複数の層のバンドギャップは、電子ブロック層を構成する第二のp型半導体のバンドギャップよりも小さく、複数の層の積層方向に向かって段階的ないしは連続的にそのバンドギャップが減少するように積層され、
積層された層の面内方向の高屈折率部と低屈折率部とによる2次元フォトニック結晶層の該低屈折率部には、
電子ブロック層の表面を覆うように、第二のp型半導体よりもアクセプタドープ濃度の小さい第三のp型半導体が設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトニック結晶面発光レーザおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フォトニック結晶を半導体レーザに適用した例が多く報告されている。例えば、特許文献1には、活性層の近傍に2次元フォトニック結晶を形成した面発光レーザが開示されている。
この2次元フォトニック結晶は、半導体層に円柱状の空孔等が周期的に設けられており、2次元的に周期的な屈折率分布を持っている。周期的な屈折率分布により、活性層で生成される光が共振し、定在波を形成してレーザ発振する。
【0003】
このような特許文献1のフォトニック結晶面発光レーザについて、図13を用いて説明する。
図13は特許文献1に記載されているフォトニック結晶面発光レーザの断面図である。
基板の上には、n型クラッド層が形成されており、その上に活性層が設けられている。
また、活性層の上には、p型伝導層が設けられている。p型伝導層は、電子ブロック層と、フォトニック結晶層と、p型コンタクト層を有する。そして、p型電極とn型電極が素子の上下に設けられている。
電子ブロック層は、フォトニック結晶層よりもバンドギャップの大きなp型半導体からなる層であり、n型クラッド層から活性層に注入された電子がp型伝導層に漏れること(電子漏れ)を防ぐために設けられている。
フォトニック結晶面発光レーザにおいては、フォトニック結晶による光の共振が強いほどレーザ発振を起こしやすい。フォトニック結晶による光の共振の強さは、フォトニック結晶層に集中する電場強度(光閉じ込め)によって決定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−165255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示すフォトニック結晶面発光レーザにおいては、つぎのような課題を有している。
すなわち、このようなフォトニック結晶面発光レーザにおいては、電子漏れを抑制する一方、光閉じ込めの向上を図り、非発光再結合を抑制することが難しい。その理由を以下で説明する。
電子漏れの大きさは、p型伝導層を構成するp型半導体のバンドギャップとドープ濃度によって決定される。
電子漏れを抑制するには、p型伝導層を構成するp型半導体のバンドギャップを大きくするか、アクセプタドープ濃度を増やせばよい。
p型半導体のバンドギャップを大きくした場合、窒化ガリウム、ガリウム砒素のような一般的な化合物半導体を用いると、光閉じ込めが弱くなってしまう。
なぜならば、一般の化合物半導体の場合、バンドギャップが大きいほど屈折率が小さい。
従って、バンドギャップの大きいp型半導体を用いるほど、フォトニック結晶層周辺の屈折率が低下し、フォトニック結晶層に集中する電場強度、即ち光閉じ込めが低下する。
【0006】
一方p型半導体のアクセプタドープ濃度を上げた場合、非発光再結合の増大を招く。
フォトニック結晶レーザにおいては、空孔表面の欠陥準位を介した再結合が、非発光再結合の主な要因となっている。
表面の欠陥準位は、不純物濃度、即ちp型半導体においてはアクセプタドープ濃度が大きいほど大きい。
従って、アクセプタドープ濃度を上げると、非発光再結合が増大してしまう。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、電子漏れを抑制することができる一方、光閉じ込めの向上を図ることができ、また非発光再結合を抑制することが可能となるフォトニック結晶面発光レーザおよびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のフォトニック結晶面発光レーザは、基板上に、n型クラッド層、活性層、電子ブロック層、2次元フォトニック結晶層が、少なくともこの順に積層されているフォトニック結晶面発光レーザであって、
前記2次元フォトニック結晶層は、第一のp型半導体により形成されたバンドギャップの異なる複数の層を備え、
前記第一のp型半導体による複数の層のバンドギャップは、前記電子ブロック層を構成する第二のp型半導体のバンドギャップよりも小さく、該複数の層の積層方向に向かって段階的ないしは連続的にそのバンドギャップが減少するように積層され、
該積層された層の面内方向に形成された高屈折率部と低屈折率部とによる2次元フォトニック結晶層の該低屈折率部には、
前記電子ブロック層の表面を覆うように、前記第二のp型半導体よりもアクセプタドープ濃度の小さい第三のp型半導体が設けられていることを特徴とする。また、本発明のフォトニック結晶面発光レーザの製造方法は、上記したフォトニック結晶面発光レーザを製造するフォトニック結晶面発光レーザの製造方法であって、
前記電子ブロック層の表面を覆うように、前記第三のp型半導体を設けるに際し、
V族原子を含むガス雰囲気中で加熱する熱処理により、該電子ブロック層の表面を該第三のp型半導体によって覆うようにする工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電子漏れを抑制することができる一方、光閉じ込めの向上を図ることができ、また非発光再結合を抑制することが可能となるフォトニック結晶面発光レーザおよびその製造方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態及び実施例におけるフォトニック結晶面発光レーザの構成例を説明する概略図。
【図2】本発明の実施形態におけるフォトニック結晶面発光レーザと比較例とについて説明する図。
【図3】本発明の実施形態及び実施例におけるフォトニック結晶面発光レーザの層構成を示した図。
【図4】本発明の実施形態におけるフォトニック結晶面発光レーザの変形例を示した図。
【図5】本発明の実施形態におけるフォトニック結晶面発光レーザと比較例の光閉じ込め係数の計算結果を示した図。
【図6】本発明の実施形態におけるフォトニック結晶面発光レーザの変形例を示した図。
【図7】本発明の実施例1における熱処理前後における孔形状変化を示す電子顕微鏡写真。
【図8】本発明の実施例1における熱処理工程後のアクセプタ濃度分布を示す電子顕微鏡写真。
【図9】本発明の実施例2におけるフォトニック結晶面発光レーザの概略図。
【図10】本発明の実施例2におけるフォトニック結晶面発光レーザの層構成を示した図。
【図11】本発明の実施例2におけるフォトニック結晶面発光レーザの変形例を示した図。
【図12】本発明の実施例2におけるフォトニック結晶面発光レーザの製造工程を示した図。
【図13】従来例におけるフォトニック結晶面発光レーザの構成を説明する概略図。
【図14】比較例のフォトニック結晶面発光レーザの構成例を説明する概略図。
【図15】比較例のフォトニック結晶面発光レーザの層構成を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
[実施形態]
本発明の実施形態として、基板上に、n型クラッド層、活性層、電子ブロック層、2次元フォトニック結晶層が、少なくともこの順に積層されているフォトニック結晶面発光レーザの構成例について説明する。
図1は本実施形態のフォトニック結晶面発光レーザを説明する断面図である。
本実施形態のフォトニック結晶面発光レーザ100は、基板101上に、n型クラッド層102、活性層103、p型伝導層104が設けられている。
p型伝導層104は、電子ブロック層105と、フォトニック結晶層106と、p型コンタクト層107を有する。
そして、p型電極108とn型電極109が素子の上下に設けられている。複数の層によるフォトニック結晶層106は、電子ブロック層105に近いほうから、フォトニック結晶層110、フォトニック結晶111の2つの層からなっている。
そして、p型伝導層104を構成するp型半導体のバンドギャップは、電子ブロック層105よりもフォトニック結晶層110の方が小さく、フォトニック結晶層110よりもフォトニック結晶層111の方が小さい。
すなわち、フォトニック結晶層106を構成する第一のp型半導体のバンドギャップは、電子ブロック層105を構成する第二のp型半導体のバンドギャップよりも小さいバンドギャップとされている。
さらに、本実施例ではフォトニック結晶層106内において、電子ブロック層側から外側(積層方向)に向かって、段階的に第一のp型半導体のバンドギャップが減少するように変化している。
【0012】
フォトニック結晶層106には、第一のp型半導体からなる高屈折率部中に、空孔からなる低屈折率部が周期的に形成されている。
そして、電子ブロック層105の表面は、上記2次元周期構造の低屈折率部(空孔)に設けられた被覆層112によって覆われている。
被覆層112は、電子ブロック層105を構成する第二のp型半導体よりもアクセプタドープ濃度の小さい第三のp型半導体からなっている。
以上に示す構成により、実施形態に示すフォトニック結晶面発光レーザ100では、電子漏れの抑制、光閉じ込めの向上、非発光再結合の抑制を両立することが出来る。
【0013】
以下に、図14に示すような三つのフォトニック結晶レーザを比較例に用いて説明する。
一つ目は、電子漏れの防止を目的として、フォトニック結晶層106全体を、フォトニック結晶層110を構成するp型半導体(大ドープ濃度、大バンドギャップ)で構成した比較例Aである。
二つ目は、光閉じ込めの向上を目的として、フォトニック結晶層106全体を、フォトニック結晶層111を構成するp型半導体(小バンドギャップ)で構成した比較例Bである。
三つ目は、フォトニック結晶層106全体を、フォトニック結晶層110を構成するp型半導体とバンドギャップが同じで、被覆層112を構成するp型半導体とドープ濃度が同じp型半導体で構成した比較例Cである。
すなわち、比較例Cはフォトニック結晶106全体をドープ濃度の低いp型半導体(小ドープ濃度)で構成した比較例である。
【0014】
図2(a)は、フォトニック結晶レーザ100、比較例A、比較例B、比較例Cの注入電流に対する光出力(IL特性)を計算した結果である。
計算に用いたレーザの層構成は図3および図15に示す通りであり、フォトニック結晶レーザ100の構成は実施例1に示すフォトニック結晶レーザの構成である。
図2(a)より、比較例Aは、比較例B、比較例Cよりも、注入電流が大きい時の光出力が大きい。注入電流が大きい時の光出力が大きいことは、活性層から電子が漏れ出しにくいことを示す。
従って、図2(a)の結果は、比較例Aは、比較例B、比較例Cよりも、電子漏れが抑制できていることを示す。これは、前述した「バンドギャップが大きく、アクセプタドープ濃度が大きいp型半導体を用いるほど電子漏れが抑制できる」という説明を支持している。
【0015】
また、図2(a)より、フォトニック結晶レーザ100はどの比較例よりも、高注入電流時の光出力が大きい。つまり、フォトニック結晶レーザ100は、どの比較例に対しても電子漏れが抑制できている。
この理由について、図2(b)に示すバンド図を用いて説明する。
比較例の中で最も電子漏れ抑制の効果が大きいのは比較例Aであることから、フォトニック結晶レーザ100と比較例Aとの比較を行う。
図2(b)中に示された、伝導帯端と電子の擬フェルミ準位エネルギーとの差は、電子にとっての実効的な障壁の高さを示しており、この差が大きいほど電子漏れが抑制できる。
比較例Aでは、電子ブロック層105とフォトニック結晶層106(=フォトニック結晶層110)の界面において障壁が高くなっており、この部分が電子漏れを抑制している。
一方、フォトニック結晶レーザ100では、電子ブロック層105とフォトニック結晶層110の界面に加えて、フォトニック結晶層110とフォトニック結晶層111の界面も、障壁が高くなっている。
従って、本発明の方が電子漏れを抑制する障壁が実効的に厚く、電子漏れ抑制の効果が大きい。
【0016】
フォトニック結晶層110とフォトニック結晶層111の界面付近のバンドは、p型半導体のヘテロ接合におけるバンド曲がりを反映している。
つまり、フォトニック結晶層111を構成するp型半導体のバンドギャップが、フォトニック結晶層110を構成するp型半導体のバンドギャップよりも小さいために、電子漏れを比較例Aよりも抑制できる。
従って、フォトニック結晶層110とフォトニック結晶層111の層の厚みは、図3に示す厚みに限るものではなく、厚みによらず、電子漏れ抑制の効果が得られる。
また、図1のようにフォトニック結晶層がフォトニック結晶層110とフォトニック結晶111の2層のみである必要はない。
相対的に活性層に近い側のp型半導体層のバンドギャップが大きければ、図4(a)のように、フォトニック結晶層が3層以上設けられていても良い。
層数を増やすほど電子漏れをより抑制できるため、好ましい。
特に、電子ブロック層105側から外側に向かって、第一のp型半導体のバンドギャップが連続的に減少するように変化していると更に好ましい(図4(b))。
【0017】
図5は、フォトニック結晶レーザ100と、比較例A、比較例Bのフォトニック結晶層への光閉じ込め係数を計算した結果である。なお、計算に用いたレーザの層構成は、同様に図3に示す通りである。
前述したように、フォトニック結晶層付近の屈折率が大きいほど、光閉じ込め係数が大きい。比較例Aは比較例Bに比べて、フォトニック結晶層106を構成するp型半導体のバンドギャップが大きい。一般の半導体レーザに用いられる化合物半導体では、バンドギャップが大きい材料ほど屈折率が小さい。従って、比較例Aは比較例Bに比べて、フォトニック結晶106を構成するp型半導体の屈折率が低いため、光閉じ込め係数が小さい。
すなわち、比較例Aのように電子漏れを抑制するために、フォトニック結晶層106を構成するp型半導体のバンドギャップを単に大きくすると、光閉じ込め係数が小さくなってしまう。
しかしながら、フォトニック結晶レーザ100では、比較例Bと比較して、同等以上の光閉じ込め係数が得られる。この理由は二つある。
一つ目は、フォトニック結晶層106全体のバンドギャップが大きい比較例Aと異なり、フォトニック結晶レーザ100ではフォトニック結晶層110のみのバンドギャップが大きいためである。
そのため、フォトニック結晶レーザ100では、フォトニック結晶層106全体の有効屈折率が、比較例Aほどには下がらない。
二つ目は、フォトニック結晶層106中に被覆層112が設けられていることである。
被覆層112が設けられていることにより、フォトニック結晶層106全体の有効屈折率が上がる。
そのため、フォトニック結晶レーザ100では、フォトニック結晶層106全体を、フォトニック結晶層111を構成する高屈折率のp型半導体で構成した比較例Bと比較しても、同等以上の光閉じ込め係数が得られる。
【0018】
被覆層112は、電子ブロック層105の上面だけでなく、図6(a)のように更に孔の側面を覆っていても良いし、図6(b)のようにフォトニック結晶層110の空孔部を全て埋めてしまっていても良い。
光閉じ込めの観点からは、被覆層112の充填率が高いほど、フォトニック結晶層106全体の有効屈折率が高くなるため好ましい。
被覆層112を構成する第三のp型半導体のバンドギャップと、フォトニック結晶層110を構成する第一のp型半導体のバンドギャップとは、同じであっても良い。
フォトニック結晶層110を構成する第一のp型半導体と被覆層112を構成する第三のp型半導体は、ドープ濃度が異なるために屈折率が異なり、図1の113の部分もフォトニック結晶として働くからである。
但し、被覆層112を構成する第三のp型半導体のバンドギャップが、電子ブロック層105に隣接する部分における第一のp型半導体のバンドギャップと、異なっていた方が更に好ましい。
フォトニック結晶層110を構成する第一のp型半導体と、被覆層112を構成する第三のp型半導体との屈折率差が大きいほど、光の共振が強く、レーザ発振しやすくなるためである。
【0019】
最後に、非発光再結合について、フォトニック結晶レーザ100、比較例A、比較例Cの比較を行う。
前述したように、空孔表面に位置するp型半導体のアクセプタドープ濃度が大きいほど、非発光再結合が多い。
比較例Aは、比較例Cに比べてフォトニック結晶層106を構成するp型半導体のアクセプタドープ濃度が大きいため、空孔表面における非発光再結合が大きい。すなわち、比較例Aのように電子漏れを抑制するために、p型伝導層を構成するp型半導体のアクセプタドープ濃度を単に大きくすると、非発光再結合が増大してしまうことを意味する。
しかしながら、フォトニック結晶レーザ100では、比較例Cと同等か、それ以上に非発光再結合を抑制できる。この理由は二つある。
一つ目は、フォトニック結晶レーザ100では、フォトニック結晶層106の下部において空孔表面に露出したp型半導体は、アクセプタドープ濃度の小さい被覆層112であるからである。
p型伝導層中における電子濃度は活性層から離れるほど小さくなるため、主に非発光再結合が発生するのはフォトニック結晶層106の下部である。
フォトニック結晶レーザ100では、フォトニック結晶層106の下部が、比較例Cと同じくアクセプタドープ濃度の小さいp型半導体からなる被覆層112で形成されているため、比較例Cと同等の非発光再結合に抑制できる。
二つ目は、被覆層112が電子ブロック層105よりもアクセプタドープ濃度の小さいp型半導体であるため、被覆層112と電子ブロック層105の間が弱い逆バイアス状態になるためである。
逆バイアスにより、電子が電子ブロック層105から被覆層112に流れるのが妨げられ、結果として空孔表面における非発光再結合が抑制できる。
一方、比較例Cでは、被覆層112が存在しないために、逆バイアスが生じない。従って、フォトニック結晶レーザ100は、比較例Cに比べて同等か、それ以上に非発光再結合を抑制できる。
被覆層112は、電子ブロック層105の上面を覆っていれば、非発光再結合を抑制できる。但し、図6(a)のようにフォトニック結晶層106中の空孔側面も覆っていた方が、空孔側面における非発光再結合が抑制できるため、更に好ましい。
【0020】
以上より、本発明を適用したフォトニック結晶レーザ100は、電子漏れの抑制、光閉じ込めの向上、非発光再結合の抑制を両立できるフォトニック結晶レーザとなっている。
本実施形態の面発光レーザにおける半導体や活性層は、一般の半導体レーザに使用されるものを使用することができる。
例えば、GaAs、AlGaAs、GaInP、AlGaInP、GaN、InGaN、AlGaNなどである。但し、GaN、InGaN、AlGaNなどの窒化物半導体を用いた場合、電子漏れや表面再結合が特に大きいため、窒化物半導体からなるフォトニック結晶レーザに用いた方が、本発明の効果が大きい。
【実施例】
【0021】
以下に、本発明の実施例について説明する。以下の実施例は、実施形態1で述べた、フォトニック結晶面発光レーザの構造および製造方法を具体的に示すものである。
[実施例1]
実施例1におけるフォトニック結晶面発光レーザ100の断面図は図1である。そして、それぞれの層の組成、ドープ濃度、膜厚、フォトニック結晶の構成は図3に示してある。
実施形態で説明したしたように、本実施例に示すフォトニック結晶レーザ100は、比較例A、比較例B、比較例Cと比較して、電子漏れの抑制、光閉じ込めの向上、非発光再結合の抑制を両立できるフォトニック結晶レーザとなっている。実施例1におけるフォトニック結晶面発光レーザ100の製造方法を説明する。まず、n型GaN基板上に、MOCVD法を用いて、窒化物半導体を図3に示す層構成になるように、p−Al0.15Ga0.85N電子ブロック層105まで順次積層する。
ついで、後にフォトニック結晶層110となるp−Al0.08Ga0.92Nを110nm、後にフォトニック結晶層111となるp−GaNを110nm、同じくMOCVD法を用いて積層する。
ドーパントはドナーとしてSi、アクセプタとしてMgを用いる。ここからフォトニック結晶の形成に移る。
【0022】
まず、CVDによってSiO2からなる膜を成膜する。
次に、電子線リソグラフィによってレジストからなるフォトニック結晶パターンを作製する。続いてレジストをマスクとし、CF4ガスを用いてSiO2をドライエッチングする。
その後、残ったSiO2をマスクとし、Cl2ガスを用いてGaN、Al0.08Ga0.92Nをエッチングし220nmの孔を形成する。
最後にフッ酸でSiO2を除去する。このようにして、基板面内方向に周期的に配列された空孔が形成される。即ち、フォトニック結晶層110とフォトニック結晶層111が形成される。
【0023】
その後、V族原子である窒素原子を含むNH3ガス雰囲気中で、基板を900℃まで加熱する。この時、ガスの流量は、N2ガスを5slm、NH3ガスを10slmとした。
基板温度が900℃に到達したら温度を900℃に保ち30分間熱処理する。
この工程で、電子ブロック層105よりもドープ濃度の小さいp−GaNからなる被覆層112が、電子ブロック層105の表面およびフォトニック結晶層106の空孔の側面に形成される。その理由を説明する。
AlNを結晶成長する際の成長温度は1400℃以上であり、本工程のように900℃に基板を加熱した場合、フォトニック結晶レーザ100中のAl原子はほとんど動かない。
【0024】
一方、GaNを結晶成長する際の成長温度は約1000℃であるが、900℃でもGa原子がわずかに表面拡散し、マストランスポートを起こす。
したがって、本熱処理工程では、フォトニック結晶層111の表面からGa原子がマストランスポートを起こし、電子ブロック層105の表面およびフォトニック結晶層106の空孔の側面にGa原子が移動する。
その後、Ga原子はNH3ガス中の窒素原子と反応し、電子ブロック層105の表面及びフォトニック結晶106の空孔の側面にp−GaNからなる被覆層が形成される。
【0025】
図7は、上述の製造工程のように電子線描画とドライエッチを用いて、GaN中に作製した孔の電子線写真である。
図7(a)が本熱処理工程を行う前の電子顕微鏡写真、図7(b)が本熱処理工程後の電子線顕微鏡写真である。
両者を比較すると、熱処理工程の前後で、孔の形が変化しているのがわかる。特に孔底の形状が変化しており、Ga原子が本熱処理工程にてマストランスポートを起こしていることがわかる。
なお、熱処理工程における加熱温度は850℃以上であればよい。図7(c)、図7(d)は、前述した熱処理工程において、加熱温度を850℃に変更した際の電子顕微鏡写真である。
図7(c)が熱処理工程前、図7(d)が熱処理工程後である。
図7より、900℃の場合よりは孔の形の変化が小さいものの、850℃で熱処理を行った場合でも孔底の形状変化は生じていることがわかる。
実施例1では、フォトニック結晶層111をp−GaNとしたが、p−AlGaNであってもよい。
なぜなら、フォトニック結晶層111がp−AlGaNであっても、Al原子は動かず、Ga原子のみが選択的にマストランスポートを起こすためである。
すなわち、フォトニック結晶層111はp−AlxGa(1-x)N(0<=x<1)であればよい。
【0026】
つぎに、アクセプタであるMgの動きに注目する。
図8は、上述の製造工程のように電子線描画とドライエッチ、熱処理工程を用いて作製した空孔の電子線顕微鏡写真である。
なお、図中の鎖線より下の領域300がアンドープ(ud−)GaN、上の領域301がMgをドープしたp−GaNである。
ud−GaN300に比べてMgドープされた領域301は明るく見えている。電子線顕微鏡写真のコントラストは、凹凸形状、組成、結晶性、磁性、電位などを反映したものである。
図7では、領域300と領域301のMg組成の違い及びそれによって生じる電位差によるものである。Mg濃度が高いほど明るく見えるので、電子線顕微鏡写真の明暗からMg濃度を推測することができる。
図8より、熱処理工程によってGa原子がマストランスポートした部分(点線の円で囲った部分)のMg濃度が低いことが分かる。従って、本熱処理工程によって形成されるp−GaN被覆層112のドープ濃度を、電子ブロック層105より小さくすることが可能となる。
【0027】
以上のように、実施例1に示す製造方法では、窒素を含む雰囲気中で加熱する熱処理工程のみで、電子ブロック層105の表面およびフォトニック結晶層106の空孔の側面に、被覆層112を形成することができる。
被覆層112を形成する他の工程としては、実施例2に示すように、多段階の再成長を用いる方法がある。
しかし、再成長させない部分をマスクで覆う必要があるなど、製造工程が複雑となる。従って、熱処理工程のみで被覆層112を形成可能な、実施例1に示す製造工程にて製造することが好ましい。
なお、被覆層112の形状は、熱処理工程の条件によって変えることが出来る。例えば、熱処理工程の温度を高くすれば、マストランスポートする原子の量が増えるため、被覆層112が大きくなり、図6(a)や図6(b)のような構造が作製できる。
【0028】
また、被覆層112はp−GaN、フォトニック結晶層110はp−Al0.08Ga0.92Nと、両者はバンドギャップが異なるp型半導体から形成されている。前述したように、被覆層112とフォトニック結晶層110を構成するp型半導体のバンドギャップが異なっていた方が、屈折率差によってレーザ発振しやすくなるため好ましい。
製造工程の最後に、再度MOCVDによってp型コンタクト層107を成長させる。
そして、電子線蒸着によってNi10nm/Au40nmからなるp型電極108とTi20nm/Al100nmからなるn型電極109を付けることで、フォトニック結晶レーザ100を製造することができる。
実施例1においては、2層からなるフォトニック結晶層106を例示したが、MOCVD法の成長条件を変えれば、図4のように3層以上のフォトニック結晶層106を製造できることは明らかである。
【0029】
[実施例2]
実施例2におけるフォトニック結晶面発光レーザ200の断面図は図9である。
そして、それぞれの層の組成、ドープ濃度、膜厚、フォトニック結晶の構成は図10に示してある。
実施例2に示すフォトニック結晶面発光レーザ200は、実施例1に示すフォトニック結晶面発光レーザ100に対して、フォトニック結晶層206の構成のみが異なる。図9、図10において、実施例1と同じ構成を持つ層には、図1、図3と同一の符号を付加している。
フォトニック結晶層206は、p−Al0.08Ga0.92Nフォトニック結晶層210と、フォトニック結晶層210よりもp型半導体の充填率が低いp−GaNフォトニック結晶層211からなる。
フォトニック結晶層211のp型半導体の充填率を、フォトニック結晶層210よりも低くした方が、p型電極108による吸収が少なくなるため好ましい。これは以下の理由による。
【0030】
p型電極108による吸収を減らすには、電場分布をp型電極108から遠ざければよい。
フォトニック結晶層211よりもフォトニック結晶層210の方がp型電極より遠いため、フォトニック結晶層211よりもフォトニック結晶210側に電場分布を寄せればよい。
したがって、フォトニック結晶層210の有効屈折率よりも、フォトニック結晶層211の有効屈折率を低くすれば良いことが分かる。
有効屈折率は、p型半導体の材料屈折率と充填率で決定されるため、フォトニック結晶層211のp型半導体の充填率をフォトニック結晶層210よりも小さくすれば、p型電極108による吸収を減らすことができる。
実施例2では、フォトニック結晶層206が2層からなる構成を示したが、3層以上からなっていても良い。
図11のように電子ブロック層105から外側に向かって、p型半導体の充填率が減少するように変化していれば、p型電極108による吸収を減らすことができる。
【0031】
つぎに、実施例2におけるフォトニック結晶面発光レーザ200の製造方法を説明する。
まず、実施例1と同様に、MOCVD法によって、p−Al0.15Ga0.85N電子ブロック層105まで順次積層する。
その後にフォトニック結晶層210となるp−Al0.08Ga0.92Nを110nm、MOCVD法を用いて積層する(図12(a))。
次に、実施例1と同様に電子線リソグラフィとドライエッチングによってフォトニック結晶層210を作製する(図12(b))。
続いて、フォトニック結晶層210の空孔以外の上面をマスクし、MOCVD法によって、電子ブロック層105の上面に被覆層112を作製する(図12(c))。
この際、被覆層112のアクセプタドープ濃度が電子ブロック層105のアクセプタドープ濃度よりも小さくなるように、Mg源であるCP2Mgの流量を、電子ブロック層105を成長する際のCP2Mgの流量よりも少なくしておく。
マスクを除去後、今度は後にフォトニック結晶層211となるp−GaNを110nm、MOCVDを用いてフォトニック結晶層210上に再成長させる(図12(d))。
【0032】
続いて、同様に電子線リソグラフィとドライエッチングによってフォトニック結晶層211を作製する(図12(e))。
この際、フォトニック結晶211の方が、フォトニック結晶210よりも孔径が大きくなるように作製する。
最後に、再度MOCVDによってp型コンタクト層107を成長させ、電子線蒸着によってp型電極108とn型電極109を付けることで、フォトニック結晶レーザ200を製造することができる(図12(f))。
実施例2に示す製造工程は、実施例1よりも製造工程が複雑だが、フォトニック結晶層210とフォトニック結晶層211の孔径を独立に制御することが可能である。
【符号の説明】
【0033】
100:フォトニック結晶面発光レーザ
101:基板
102:n型クラッド層
103:活性層
104:p型伝導層
105:電子ブロック層
106:フォトニック結晶層
107:p型コンタクト層
108:p型電極
109:n型電極
112:被覆層
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトニック結晶面発光レーザおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フォトニック結晶を半導体レーザに適用した例が多く報告されている。例えば、特許文献1には、活性層の近傍に2次元フォトニック結晶を形成した面発光レーザが開示されている。
この2次元フォトニック結晶は、半導体層に円柱状の空孔等が周期的に設けられており、2次元的に周期的な屈折率分布を持っている。周期的な屈折率分布により、活性層で生成される光が共振し、定在波を形成してレーザ発振する。
【0003】
このような特許文献1のフォトニック結晶面発光レーザについて、図13を用いて説明する。
図13は特許文献1に記載されているフォトニック結晶面発光レーザの断面図である。
基板の上には、n型クラッド層が形成されており、その上に活性層が設けられている。
また、活性層の上には、p型伝導層が設けられている。p型伝導層は、電子ブロック層と、フォトニック結晶層と、p型コンタクト層を有する。そして、p型電極とn型電極が素子の上下に設けられている。
電子ブロック層は、フォトニック結晶層よりもバンドギャップの大きなp型半導体からなる層であり、n型クラッド層から活性層に注入された電子がp型伝導層に漏れること(電子漏れ)を防ぐために設けられている。
フォトニック結晶面発光レーザにおいては、フォトニック結晶による光の共振が強いほどレーザ発振を起こしやすい。フォトニック結晶による光の共振の強さは、フォトニック結晶層に集中する電場強度(光閉じ込め)によって決定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−165255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示すフォトニック結晶面発光レーザにおいては、つぎのような課題を有している。
すなわち、このようなフォトニック結晶面発光レーザにおいては、電子漏れを抑制する一方、光閉じ込めの向上を図り、非発光再結合を抑制することが難しい。その理由を以下で説明する。
電子漏れの大きさは、p型伝導層を構成するp型半導体のバンドギャップとドープ濃度によって決定される。
電子漏れを抑制するには、p型伝導層を構成するp型半導体のバンドギャップを大きくするか、アクセプタドープ濃度を増やせばよい。
p型半導体のバンドギャップを大きくした場合、窒化ガリウム、ガリウム砒素のような一般的な化合物半導体を用いると、光閉じ込めが弱くなってしまう。
なぜならば、一般の化合物半導体の場合、バンドギャップが大きいほど屈折率が小さい。
従って、バンドギャップの大きいp型半導体を用いるほど、フォトニック結晶層周辺の屈折率が低下し、フォトニック結晶層に集中する電場強度、即ち光閉じ込めが低下する。
【0006】
一方p型半導体のアクセプタドープ濃度を上げた場合、非発光再結合の増大を招く。
フォトニック結晶レーザにおいては、空孔表面の欠陥準位を介した再結合が、非発光再結合の主な要因となっている。
表面の欠陥準位は、不純物濃度、即ちp型半導体においてはアクセプタドープ濃度が大きいほど大きい。
従って、アクセプタドープ濃度を上げると、非発光再結合が増大してしまう。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、電子漏れを抑制することができる一方、光閉じ込めの向上を図ることができ、また非発光再結合を抑制することが可能となるフォトニック結晶面発光レーザおよびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のフォトニック結晶面発光レーザは、基板上に、n型クラッド層、活性層、電子ブロック層、2次元フォトニック結晶層が、少なくともこの順に積層されているフォトニック結晶面発光レーザであって、
前記2次元フォトニック結晶層は、第一のp型半導体により形成されたバンドギャップの異なる複数の層を備え、
前記第一のp型半導体による複数の層のバンドギャップは、前記電子ブロック層を構成する第二のp型半導体のバンドギャップよりも小さく、該複数の層の積層方向に向かって段階的ないしは連続的にそのバンドギャップが減少するように積層され、
該積層された層の面内方向に形成された高屈折率部と低屈折率部とによる2次元フォトニック結晶層の該低屈折率部には、
前記電子ブロック層の表面を覆うように、前記第二のp型半導体よりもアクセプタドープ濃度の小さい第三のp型半導体が設けられていることを特徴とする。また、本発明のフォトニック結晶面発光レーザの製造方法は、上記したフォトニック結晶面発光レーザを製造するフォトニック結晶面発光レーザの製造方法であって、
前記電子ブロック層の表面を覆うように、前記第三のp型半導体を設けるに際し、
V族原子を含むガス雰囲気中で加熱する熱処理により、該電子ブロック層の表面を該第三のp型半導体によって覆うようにする工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電子漏れを抑制することができる一方、光閉じ込めの向上を図ることができ、また非発光再結合を抑制することが可能となるフォトニック結晶面発光レーザおよびその製造方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態及び実施例におけるフォトニック結晶面発光レーザの構成例を説明する概略図。
【図2】本発明の実施形態におけるフォトニック結晶面発光レーザと比較例とについて説明する図。
【図3】本発明の実施形態及び実施例におけるフォトニック結晶面発光レーザの層構成を示した図。
【図4】本発明の実施形態におけるフォトニック結晶面発光レーザの変形例を示した図。
【図5】本発明の実施形態におけるフォトニック結晶面発光レーザと比較例の光閉じ込め係数の計算結果を示した図。
【図6】本発明の実施形態におけるフォトニック結晶面発光レーザの変形例を示した図。
【図7】本発明の実施例1における熱処理前後における孔形状変化を示す電子顕微鏡写真。
【図8】本発明の実施例1における熱処理工程後のアクセプタ濃度分布を示す電子顕微鏡写真。
【図9】本発明の実施例2におけるフォトニック結晶面発光レーザの概略図。
【図10】本発明の実施例2におけるフォトニック結晶面発光レーザの層構成を示した図。
【図11】本発明の実施例2におけるフォトニック結晶面発光レーザの変形例を示した図。
【図12】本発明の実施例2におけるフォトニック結晶面発光レーザの製造工程を示した図。
【図13】従来例におけるフォトニック結晶面発光レーザの構成を説明する概略図。
【図14】比較例のフォトニック結晶面発光レーザの構成例を説明する概略図。
【図15】比較例のフォトニック結晶面発光レーザの層構成を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
[実施形態]
本発明の実施形態として、基板上に、n型クラッド層、活性層、電子ブロック層、2次元フォトニック結晶層が、少なくともこの順に積層されているフォトニック結晶面発光レーザの構成例について説明する。
図1は本実施形態のフォトニック結晶面発光レーザを説明する断面図である。
本実施形態のフォトニック結晶面発光レーザ100は、基板101上に、n型クラッド層102、活性層103、p型伝導層104が設けられている。
p型伝導層104は、電子ブロック層105と、フォトニック結晶層106と、p型コンタクト層107を有する。
そして、p型電極108とn型電極109が素子の上下に設けられている。複数の層によるフォトニック結晶層106は、電子ブロック層105に近いほうから、フォトニック結晶層110、フォトニック結晶111の2つの層からなっている。
そして、p型伝導層104を構成するp型半導体のバンドギャップは、電子ブロック層105よりもフォトニック結晶層110の方が小さく、フォトニック結晶層110よりもフォトニック結晶層111の方が小さい。
すなわち、フォトニック結晶層106を構成する第一のp型半導体のバンドギャップは、電子ブロック層105を構成する第二のp型半導体のバンドギャップよりも小さいバンドギャップとされている。
さらに、本実施例ではフォトニック結晶層106内において、電子ブロック層側から外側(積層方向)に向かって、段階的に第一のp型半導体のバンドギャップが減少するように変化している。
【0012】
フォトニック結晶層106には、第一のp型半導体からなる高屈折率部中に、空孔からなる低屈折率部が周期的に形成されている。
そして、電子ブロック層105の表面は、上記2次元周期構造の低屈折率部(空孔)に設けられた被覆層112によって覆われている。
被覆層112は、電子ブロック層105を構成する第二のp型半導体よりもアクセプタドープ濃度の小さい第三のp型半導体からなっている。
以上に示す構成により、実施形態に示すフォトニック結晶面発光レーザ100では、電子漏れの抑制、光閉じ込めの向上、非発光再結合の抑制を両立することが出来る。
【0013】
以下に、図14に示すような三つのフォトニック結晶レーザを比較例に用いて説明する。
一つ目は、電子漏れの防止を目的として、フォトニック結晶層106全体を、フォトニック結晶層110を構成するp型半導体(大ドープ濃度、大バンドギャップ)で構成した比較例Aである。
二つ目は、光閉じ込めの向上を目的として、フォトニック結晶層106全体を、フォトニック結晶層111を構成するp型半導体(小バンドギャップ)で構成した比較例Bである。
三つ目は、フォトニック結晶層106全体を、フォトニック結晶層110を構成するp型半導体とバンドギャップが同じで、被覆層112を構成するp型半導体とドープ濃度が同じp型半導体で構成した比較例Cである。
すなわち、比較例Cはフォトニック結晶106全体をドープ濃度の低いp型半導体(小ドープ濃度)で構成した比較例である。
【0014】
図2(a)は、フォトニック結晶レーザ100、比較例A、比較例B、比較例Cの注入電流に対する光出力(IL特性)を計算した結果である。
計算に用いたレーザの層構成は図3および図15に示す通りであり、フォトニック結晶レーザ100の構成は実施例1に示すフォトニック結晶レーザの構成である。
図2(a)より、比較例Aは、比較例B、比較例Cよりも、注入電流が大きい時の光出力が大きい。注入電流が大きい時の光出力が大きいことは、活性層から電子が漏れ出しにくいことを示す。
従って、図2(a)の結果は、比較例Aは、比較例B、比較例Cよりも、電子漏れが抑制できていることを示す。これは、前述した「バンドギャップが大きく、アクセプタドープ濃度が大きいp型半導体を用いるほど電子漏れが抑制できる」という説明を支持している。
【0015】
また、図2(a)より、フォトニック結晶レーザ100はどの比較例よりも、高注入電流時の光出力が大きい。つまり、フォトニック結晶レーザ100は、どの比較例に対しても電子漏れが抑制できている。
この理由について、図2(b)に示すバンド図を用いて説明する。
比較例の中で最も電子漏れ抑制の効果が大きいのは比較例Aであることから、フォトニック結晶レーザ100と比較例Aとの比較を行う。
図2(b)中に示された、伝導帯端と電子の擬フェルミ準位エネルギーとの差は、電子にとっての実効的な障壁の高さを示しており、この差が大きいほど電子漏れが抑制できる。
比較例Aでは、電子ブロック層105とフォトニック結晶層106(=フォトニック結晶層110)の界面において障壁が高くなっており、この部分が電子漏れを抑制している。
一方、フォトニック結晶レーザ100では、電子ブロック層105とフォトニック結晶層110の界面に加えて、フォトニック結晶層110とフォトニック結晶層111の界面も、障壁が高くなっている。
従って、本発明の方が電子漏れを抑制する障壁が実効的に厚く、電子漏れ抑制の効果が大きい。
【0016】
フォトニック結晶層110とフォトニック結晶層111の界面付近のバンドは、p型半導体のヘテロ接合におけるバンド曲がりを反映している。
つまり、フォトニック結晶層111を構成するp型半導体のバンドギャップが、フォトニック結晶層110を構成するp型半導体のバンドギャップよりも小さいために、電子漏れを比較例Aよりも抑制できる。
従って、フォトニック結晶層110とフォトニック結晶層111の層の厚みは、図3に示す厚みに限るものではなく、厚みによらず、電子漏れ抑制の効果が得られる。
また、図1のようにフォトニック結晶層がフォトニック結晶層110とフォトニック結晶111の2層のみである必要はない。
相対的に活性層に近い側のp型半導体層のバンドギャップが大きければ、図4(a)のように、フォトニック結晶層が3層以上設けられていても良い。
層数を増やすほど電子漏れをより抑制できるため、好ましい。
特に、電子ブロック層105側から外側に向かって、第一のp型半導体のバンドギャップが連続的に減少するように変化していると更に好ましい(図4(b))。
【0017】
図5は、フォトニック結晶レーザ100と、比較例A、比較例Bのフォトニック結晶層への光閉じ込め係数を計算した結果である。なお、計算に用いたレーザの層構成は、同様に図3に示す通りである。
前述したように、フォトニック結晶層付近の屈折率が大きいほど、光閉じ込め係数が大きい。比較例Aは比較例Bに比べて、フォトニック結晶層106を構成するp型半導体のバンドギャップが大きい。一般の半導体レーザに用いられる化合物半導体では、バンドギャップが大きい材料ほど屈折率が小さい。従って、比較例Aは比較例Bに比べて、フォトニック結晶106を構成するp型半導体の屈折率が低いため、光閉じ込め係数が小さい。
すなわち、比較例Aのように電子漏れを抑制するために、フォトニック結晶層106を構成するp型半導体のバンドギャップを単に大きくすると、光閉じ込め係数が小さくなってしまう。
しかしながら、フォトニック結晶レーザ100では、比較例Bと比較して、同等以上の光閉じ込め係数が得られる。この理由は二つある。
一つ目は、フォトニック結晶層106全体のバンドギャップが大きい比較例Aと異なり、フォトニック結晶レーザ100ではフォトニック結晶層110のみのバンドギャップが大きいためである。
そのため、フォトニック結晶レーザ100では、フォトニック結晶層106全体の有効屈折率が、比較例Aほどには下がらない。
二つ目は、フォトニック結晶層106中に被覆層112が設けられていることである。
被覆層112が設けられていることにより、フォトニック結晶層106全体の有効屈折率が上がる。
そのため、フォトニック結晶レーザ100では、フォトニック結晶層106全体を、フォトニック結晶層111を構成する高屈折率のp型半導体で構成した比較例Bと比較しても、同等以上の光閉じ込め係数が得られる。
【0018】
被覆層112は、電子ブロック層105の上面だけでなく、図6(a)のように更に孔の側面を覆っていても良いし、図6(b)のようにフォトニック結晶層110の空孔部を全て埋めてしまっていても良い。
光閉じ込めの観点からは、被覆層112の充填率が高いほど、フォトニック結晶層106全体の有効屈折率が高くなるため好ましい。
被覆層112を構成する第三のp型半導体のバンドギャップと、フォトニック結晶層110を構成する第一のp型半導体のバンドギャップとは、同じであっても良い。
フォトニック結晶層110を構成する第一のp型半導体と被覆層112を構成する第三のp型半導体は、ドープ濃度が異なるために屈折率が異なり、図1の113の部分もフォトニック結晶として働くからである。
但し、被覆層112を構成する第三のp型半導体のバンドギャップが、電子ブロック層105に隣接する部分における第一のp型半導体のバンドギャップと、異なっていた方が更に好ましい。
フォトニック結晶層110を構成する第一のp型半導体と、被覆層112を構成する第三のp型半導体との屈折率差が大きいほど、光の共振が強く、レーザ発振しやすくなるためである。
【0019】
最後に、非発光再結合について、フォトニック結晶レーザ100、比較例A、比較例Cの比較を行う。
前述したように、空孔表面に位置するp型半導体のアクセプタドープ濃度が大きいほど、非発光再結合が多い。
比較例Aは、比較例Cに比べてフォトニック結晶層106を構成するp型半導体のアクセプタドープ濃度が大きいため、空孔表面における非発光再結合が大きい。すなわち、比較例Aのように電子漏れを抑制するために、p型伝導層を構成するp型半導体のアクセプタドープ濃度を単に大きくすると、非発光再結合が増大してしまうことを意味する。
しかしながら、フォトニック結晶レーザ100では、比較例Cと同等か、それ以上に非発光再結合を抑制できる。この理由は二つある。
一つ目は、フォトニック結晶レーザ100では、フォトニック結晶層106の下部において空孔表面に露出したp型半導体は、アクセプタドープ濃度の小さい被覆層112であるからである。
p型伝導層中における電子濃度は活性層から離れるほど小さくなるため、主に非発光再結合が発生するのはフォトニック結晶層106の下部である。
フォトニック結晶レーザ100では、フォトニック結晶層106の下部が、比較例Cと同じくアクセプタドープ濃度の小さいp型半導体からなる被覆層112で形成されているため、比較例Cと同等の非発光再結合に抑制できる。
二つ目は、被覆層112が電子ブロック層105よりもアクセプタドープ濃度の小さいp型半導体であるため、被覆層112と電子ブロック層105の間が弱い逆バイアス状態になるためである。
逆バイアスにより、電子が電子ブロック層105から被覆層112に流れるのが妨げられ、結果として空孔表面における非発光再結合が抑制できる。
一方、比較例Cでは、被覆層112が存在しないために、逆バイアスが生じない。従って、フォトニック結晶レーザ100は、比較例Cに比べて同等か、それ以上に非発光再結合を抑制できる。
被覆層112は、電子ブロック層105の上面を覆っていれば、非発光再結合を抑制できる。但し、図6(a)のようにフォトニック結晶層106中の空孔側面も覆っていた方が、空孔側面における非発光再結合が抑制できるため、更に好ましい。
【0020】
以上より、本発明を適用したフォトニック結晶レーザ100は、電子漏れの抑制、光閉じ込めの向上、非発光再結合の抑制を両立できるフォトニック結晶レーザとなっている。
本実施形態の面発光レーザにおける半導体や活性層は、一般の半導体レーザに使用されるものを使用することができる。
例えば、GaAs、AlGaAs、GaInP、AlGaInP、GaN、InGaN、AlGaNなどである。但し、GaN、InGaN、AlGaNなどの窒化物半導体を用いた場合、電子漏れや表面再結合が特に大きいため、窒化物半導体からなるフォトニック結晶レーザに用いた方が、本発明の効果が大きい。
【実施例】
【0021】
以下に、本発明の実施例について説明する。以下の実施例は、実施形態1で述べた、フォトニック結晶面発光レーザの構造および製造方法を具体的に示すものである。
[実施例1]
実施例1におけるフォトニック結晶面発光レーザ100の断面図は図1である。そして、それぞれの層の組成、ドープ濃度、膜厚、フォトニック結晶の構成は図3に示してある。
実施形態で説明したしたように、本実施例に示すフォトニック結晶レーザ100は、比較例A、比較例B、比較例Cと比較して、電子漏れの抑制、光閉じ込めの向上、非発光再結合の抑制を両立できるフォトニック結晶レーザとなっている。実施例1におけるフォトニック結晶面発光レーザ100の製造方法を説明する。まず、n型GaN基板上に、MOCVD法を用いて、窒化物半導体を図3に示す層構成になるように、p−Al0.15Ga0.85N電子ブロック層105まで順次積層する。
ついで、後にフォトニック結晶層110となるp−Al0.08Ga0.92Nを110nm、後にフォトニック結晶層111となるp−GaNを110nm、同じくMOCVD法を用いて積層する。
ドーパントはドナーとしてSi、アクセプタとしてMgを用いる。ここからフォトニック結晶の形成に移る。
【0022】
まず、CVDによってSiO2からなる膜を成膜する。
次に、電子線リソグラフィによってレジストからなるフォトニック結晶パターンを作製する。続いてレジストをマスクとし、CF4ガスを用いてSiO2をドライエッチングする。
その後、残ったSiO2をマスクとし、Cl2ガスを用いてGaN、Al0.08Ga0.92Nをエッチングし220nmの孔を形成する。
最後にフッ酸でSiO2を除去する。このようにして、基板面内方向に周期的に配列された空孔が形成される。即ち、フォトニック結晶層110とフォトニック結晶層111が形成される。
【0023】
その後、V族原子である窒素原子を含むNH3ガス雰囲気中で、基板を900℃まで加熱する。この時、ガスの流量は、N2ガスを5slm、NH3ガスを10slmとした。
基板温度が900℃に到達したら温度を900℃に保ち30分間熱処理する。
この工程で、電子ブロック層105よりもドープ濃度の小さいp−GaNからなる被覆層112が、電子ブロック層105の表面およびフォトニック結晶層106の空孔の側面に形成される。その理由を説明する。
AlNを結晶成長する際の成長温度は1400℃以上であり、本工程のように900℃に基板を加熱した場合、フォトニック結晶レーザ100中のAl原子はほとんど動かない。
【0024】
一方、GaNを結晶成長する際の成長温度は約1000℃であるが、900℃でもGa原子がわずかに表面拡散し、マストランスポートを起こす。
したがって、本熱処理工程では、フォトニック結晶層111の表面からGa原子がマストランスポートを起こし、電子ブロック層105の表面およびフォトニック結晶層106の空孔の側面にGa原子が移動する。
その後、Ga原子はNH3ガス中の窒素原子と反応し、電子ブロック層105の表面及びフォトニック結晶106の空孔の側面にp−GaNからなる被覆層が形成される。
【0025】
図7は、上述の製造工程のように電子線描画とドライエッチを用いて、GaN中に作製した孔の電子線写真である。
図7(a)が本熱処理工程を行う前の電子顕微鏡写真、図7(b)が本熱処理工程後の電子線顕微鏡写真である。
両者を比較すると、熱処理工程の前後で、孔の形が変化しているのがわかる。特に孔底の形状が変化しており、Ga原子が本熱処理工程にてマストランスポートを起こしていることがわかる。
なお、熱処理工程における加熱温度は850℃以上であればよい。図7(c)、図7(d)は、前述した熱処理工程において、加熱温度を850℃に変更した際の電子顕微鏡写真である。
図7(c)が熱処理工程前、図7(d)が熱処理工程後である。
図7より、900℃の場合よりは孔の形の変化が小さいものの、850℃で熱処理を行った場合でも孔底の形状変化は生じていることがわかる。
実施例1では、フォトニック結晶層111をp−GaNとしたが、p−AlGaNであってもよい。
なぜなら、フォトニック結晶層111がp−AlGaNであっても、Al原子は動かず、Ga原子のみが選択的にマストランスポートを起こすためである。
すなわち、フォトニック結晶層111はp−AlxGa(1-x)N(0<=x<1)であればよい。
【0026】
つぎに、アクセプタであるMgの動きに注目する。
図8は、上述の製造工程のように電子線描画とドライエッチ、熱処理工程を用いて作製した空孔の電子線顕微鏡写真である。
なお、図中の鎖線より下の領域300がアンドープ(ud−)GaN、上の領域301がMgをドープしたp−GaNである。
ud−GaN300に比べてMgドープされた領域301は明るく見えている。電子線顕微鏡写真のコントラストは、凹凸形状、組成、結晶性、磁性、電位などを反映したものである。
図7では、領域300と領域301のMg組成の違い及びそれによって生じる電位差によるものである。Mg濃度が高いほど明るく見えるので、電子線顕微鏡写真の明暗からMg濃度を推測することができる。
図8より、熱処理工程によってGa原子がマストランスポートした部分(点線の円で囲った部分)のMg濃度が低いことが分かる。従って、本熱処理工程によって形成されるp−GaN被覆層112のドープ濃度を、電子ブロック層105より小さくすることが可能となる。
【0027】
以上のように、実施例1に示す製造方法では、窒素を含む雰囲気中で加熱する熱処理工程のみで、電子ブロック層105の表面およびフォトニック結晶層106の空孔の側面に、被覆層112を形成することができる。
被覆層112を形成する他の工程としては、実施例2に示すように、多段階の再成長を用いる方法がある。
しかし、再成長させない部分をマスクで覆う必要があるなど、製造工程が複雑となる。従って、熱処理工程のみで被覆層112を形成可能な、実施例1に示す製造工程にて製造することが好ましい。
なお、被覆層112の形状は、熱処理工程の条件によって変えることが出来る。例えば、熱処理工程の温度を高くすれば、マストランスポートする原子の量が増えるため、被覆層112が大きくなり、図6(a)や図6(b)のような構造が作製できる。
【0028】
また、被覆層112はp−GaN、フォトニック結晶層110はp−Al0.08Ga0.92Nと、両者はバンドギャップが異なるp型半導体から形成されている。前述したように、被覆層112とフォトニック結晶層110を構成するp型半導体のバンドギャップが異なっていた方が、屈折率差によってレーザ発振しやすくなるため好ましい。
製造工程の最後に、再度MOCVDによってp型コンタクト層107を成長させる。
そして、電子線蒸着によってNi10nm/Au40nmからなるp型電極108とTi20nm/Al100nmからなるn型電極109を付けることで、フォトニック結晶レーザ100を製造することができる。
実施例1においては、2層からなるフォトニック結晶層106を例示したが、MOCVD法の成長条件を変えれば、図4のように3層以上のフォトニック結晶層106を製造できることは明らかである。
【0029】
[実施例2]
実施例2におけるフォトニック結晶面発光レーザ200の断面図は図9である。
そして、それぞれの層の組成、ドープ濃度、膜厚、フォトニック結晶の構成は図10に示してある。
実施例2に示すフォトニック結晶面発光レーザ200は、実施例1に示すフォトニック結晶面発光レーザ100に対して、フォトニック結晶層206の構成のみが異なる。図9、図10において、実施例1と同じ構成を持つ層には、図1、図3と同一の符号を付加している。
フォトニック結晶層206は、p−Al0.08Ga0.92Nフォトニック結晶層210と、フォトニック結晶層210よりもp型半導体の充填率が低いp−GaNフォトニック結晶層211からなる。
フォトニック結晶層211のp型半導体の充填率を、フォトニック結晶層210よりも低くした方が、p型電極108による吸収が少なくなるため好ましい。これは以下の理由による。
【0030】
p型電極108による吸収を減らすには、電場分布をp型電極108から遠ざければよい。
フォトニック結晶層211よりもフォトニック結晶層210の方がp型電極より遠いため、フォトニック結晶層211よりもフォトニック結晶210側に電場分布を寄せればよい。
したがって、フォトニック結晶層210の有効屈折率よりも、フォトニック結晶層211の有効屈折率を低くすれば良いことが分かる。
有効屈折率は、p型半導体の材料屈折率と充填率で決定されるため、フォトニック結晶層211のp型半導体の充填率をフォトニック結晶層210よりも小さくすれば、p型電極108による吸収を減らすことができる。
実施例2では、フォトニック結晶層206が2層からなる構成を示したが、3層以上からなっていても良い。
図11のように電子ブロック層105から外側に向かって、p型半導体の充填率が減少するように変化していれば、p型電極108による吸収を減らすことができる。
【0031】
つぎに、実施例2におけるフォトニック結晶面発光レーザ200の製造方法を説明する。
まず、実施例1と同様に、MOCVD法によって、p−Al0.15Ga0.85N電子ブロック層105まで順次積層する。
その後にフォトニック結晶層210となるp−Al0.08Ga0.92Nを110nm、MOCVD法を用いて積層する(図12(a))。
次に、実施例1と同様に電子線リソグラフィとドライエッチングによってフォトニック結晶層210を作製する(図12(b))。
続いて、フォトニック結晶層210の空孔以外の上面をマスクし、MOCVD法によって、電子ブロック層105の上面に被覆層112を作製する(図12(c))。
この際、被覆層112のアクセプタドープ濃度が電子ブロック層105のアクセプタドープ濃度よりも小さくなるように、Mg源であるCP2Mgの流量を、電子ブロック層105を成長する際のCP2Mgの流量よりも少なくしておく。
マスクを除去後、今度は後にフォトニック結晶層211となるp−GaNを110nm、MOCVDを用いてフォトニック結晶層210上に再成長させる(図12(d))。
【0032】
続いて、同様に電子線リソグラフィとドライエッチングによってフォトニック結晶層211を作製する(図12(e))。
この際、フォトニック結晶211の方が、フォトニック結晶210よりも孔径が大きくなるように作製する。
最後に、再度MOCVDによってp型コンタクト層107を成長させ、電子線蒸着によってp型電極108とn型電極109を付けることで、フォトニック結晶レーザ200を製造することができる(図12(f))。
実施例2に示す製造工程は、実施例1よりも製造工程が複雑だが、フォトニック結晶層210とフォトニック結晶層211の孔径を独立に制御することが可能である。
【符号の説明】
【0033】
100:フォトニック結晶面発光レーザ
101:基板
102:n型クラッド層
103:活性層
104:p型伝導層
105:電子ブロック層
106:フォトニック結晶層
107:p型コンタクト層
108:p型電極
109:n型電極
112:被覆層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、n型クラッド層、活性層、電子ブロック層、2次元フォトニック結晶層が、少なくともこの順に積層されているフォトニック結晶面発光レーザであって、
前記2次元フォトニック結晶層は、第一のp型半導体により形成されたバンドギャップの異なる複数の層を備え、
前記第一のp型半導体による複数の層のバンドギャップは、前記電子ブロック層を構成する第二のp型半導体のバンドギャップよりも小さく、該複数の層の積層方向に向かって段階的ないしは連続的にそのバンドギャップが減少するように積層され、
該積層された層の面内方向に形成された高屈折率部と低屈折率部とによる2次元フォトニック結晶層の該低屈折率部には、
前記電子ブロック層の表面を覆うように、前記第二のp型半導体よりもアクセプタドープ濃度の小さい第三のp型半導体が設けられていることを特徴とするフォトニック結晶面発光レーザ。
【請求項2】
前記第三のp型半導体のバンドギャップが、前記電子ブロック層に隣接する部分における前記第一のp型半導体のバンドギャップと異なることを特徴とする請求項1に記載のフォトニック結晶面発光レーザ。
【請求項3】
前記2次元フォトニック結晶層は、前記2次元フォトニック結晶層の該低屈折率部には、前記第一のp型半導体の側面を覆うように、前記第三のp型半導体が設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフォトニック結晶面発光レーザ。
【請求項4】
前記2次元フォトニック結晶層は、前記複数の層における前記第一のp型半導体の充填率が、
前記複数の層の積層方向に向かって段階的ないしは連続的に減少するように構成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のフォトニック結晶面発光レーザ。
【請求項5】
前記第一のp型半導体、前記第二のp型半導体、前記第三のp型半導体は、いずれも窒化物半導体で構成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のフォトニック結晶面発光レーザ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のフォトニック結晶面発光レーザを製造するフォトニック結晶面発光レーザの製造方法であって、
前記電子ブロック層の表面を覆うように、前記第三のp型半導体を設けるに際し、
V族原子を含むガス雰囲気中で加熱する熱処理により、該電子ブロック層の表面を該第三のp型半導体によって覆うようにする工程を有することを特徴とするフォトニック結晶面発光レーザの製造方法。
【請求項7】
前記第一のp型半導体にAlxGa(1-x)N(0<=x<1)が用いられ、
前記第三のp型半導体にGaNが用いられ、
前記熱処理におけるV族原子に窒素原子が用いられていることを特徴とする請求項6に記載のフォトニック結晶面発光レーザの製造方法。
【請求項8】
前記熱処理における加熱温度が850℃以上であることを特徴とする請求項7に記載のフォトニック結晶面発光レーザの製造方法。
【請求項1】
基板上に、n型クラッド層、活性層、電子ブロック層、2次元フォトニック結晶層が、少なくともこの順に積層されているフォトニック結晶面発光レーザであって、
前記2次元フォトニック結晶層は、第一のp型半導体により形成されたバンドギャップの異なる複数の層を備え、
前記第一のp型半導体による複数の層のバンドギャップは、前記電子ブロック層を構成する第二のp型半導体のバンドギャップよりも小さく、該複数の層の積層方向に向かって段階的ないしは連続的にそのバンドギャップが減少するように積層され、
該積層された層の面内方向に形成された高屈折率部と低屈折率部とによる2次元フォトニック結晶層の該低屈折率部には、
前記電子ブロック層の表面を覆うように、前記第二のp型半導体よりもアクセプタドープ濃度の小さい第三のp型半導体が設けられていることを特徴とするフォトニック結晶面発光レーザ。
【請求項2】
前記第三のp型半導体のバンドギャップが、前記電子ブロック層に隣接する部分における前記第一のp型半導体のバンドギャップと異なることを特徴とする請求項1に記載のフォトニック結晶面発光レーザ。
【請求項3】
前記2次元フォトニック結晶層は、前記2次元フォトニック結晶層の該低屈折率部には、前記第一のp型半導体の側面を覆うように、前記第三のp型半導体が設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフォトニック結晶面発光レーザ。
【請求項4】
前記2次元フォトニック結晶層は、前記複数の層における前記第一のp型半導体の充填率が、
前記複数の層の積層方向に向かって段階的ないしは連続的に減少するように構成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のフォトニック結晶面発光レーザ。
【請求項5】
前記第一のp型半導体、前記第二のp型半導体、前記第三のp型半導体は、いずれも窒化物半導体で構成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のフォトニック結晶面発光レーザ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のフォトニック結晶面発光レーザを製造するフォトニック結晶面発光レーザの製造方法であって、
前記電子ブロック層の表面を覆うように、前記第三のp型半導体を設けるに際し、
V族原子を含むガス雰囲気中で加熱する熱処理により、該電子ブロック層の表面を該第三のp型半導体によって覆うようにする工程を有することを特徴とするフォトニック結晶面発光レーザの製造方法。
【請求項7】
前記第一のp型半導体にAlxGa(1-x)N(0<=x<1)が用いられ、
前記第三のp型半導体にGaNが用いられ、
前記熱処理におけるV族原子に窒素原子が用いられていることを特徴とする請求項6に記載のフォトニック結晶面発光レーザの製造方法。
【請求項8】
前記熱処理における加熱温度が850℃以上であることを特徴とする請求項7に記載のフォトニック結晶面発光レーザの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−4906(P2013−4906A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137481(P2011−137481)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]