説明

フォトマスクおよびその製造方法

【課題】 従来における有機系レジストとクロムの遮蔽膜を用いるフォトマスクは、製造工程が煩雑で、かつ、クロム金属のエッチング後の廃液処理が必要なため、環境負荷が大きく、かつ、コストが高くなるといった問題があり、また、有機系レジストに姻族が添加されている遮蔽膜を用いるフォトマスクにあっては、耐久性や遮蔽性が劣るといった問題があった。
【解決手段】 レーザー光のエネルギーによって表面電位差が生じる表面電位が変位し易い金属原子Xと、酸化されても変化し難い金属原子Yとの組み合わせによる金属レジスト2の遮蔽膜で構成したフォトマスクである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮蔽膜に金属レジストを用いて、工程の簡素化を図ると共にリソグラフの性能向上やコストの低減化を図り、半導体デバイスやエンコーダー等の製造に使用することが可能なフォトマスクおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来におけるフォトマスクの製造としは、図6に示す製造工程で製作されている。すなわち、洗浄された透明基板上にクロム層(遮蔽膜)をスパッタリング法により形成し、該クロム層の上に有機系のフォトレジストを塗布する。次いで、電子ビームやレーザービームによる描画装置で露光し、アルカリ性の現像液などで現像し、フォトレジストのレリーフを作る。
【0003】
次に、フォトレジストのレリーフをマスクとしてクロム層(遮蔽膜)をエッチングするとクロム層のレリーフが作られる。さらに、フォトレジストのレリーフを除去してフォトマスクが製作される。
【0004】
また、有機系フォトレジストに金属の粒子を添加して遮蔽膜にするフォトマスクの製造方法も公知である。このような有機系フォトレジストを用いるフォトマスクおよびその製造方法としては、例えば、特開2006−162797号公報や特開2009−192736号公報に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−162797号公報
【特許文献2】特開2009−192736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記した有機系レジストとクロムの遮蔽膜を用いるフォトマスクは、製造工程が煩雑で、かつ、クロム金属のエッチング後の廃液処理が必要なため、環境負荷が大きく、かつ、コストが高くなるといった問題があり、また、有機系レジストに金属が添加されている遮蔽膜を用いるフォトマスクにあっては、耐久性や遮蔽性が劣るといった問題があった。
【0007】
本発明は前記した問題点を解決せんとするもので、その目的とするところは、フォトマスクの遮蔽膜を金属レジストで構成したことにより、製造工程の簡素化が図れ、また、金属レジスト上へレーザー光のエネルギーによって表面電位差を生じさせるようにすることで、リソグラフの性能、耐久性を向上させることができると共に、コストの低減を図ることができるフォトマスクおよびその製造方法を提供せんとするにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のフォトマスクおよびその製造方法は、前記した目的を達成せんとするもので、請求項1のフォトマスクは、レーザー光のエネルギーによって表面電位差が生じる表面電位が変位し易い金属原子と、酸化されても変化し難い金属原子との組み合わせによる金属レジストの遮蔽膜で構成されたことを特徴とする。
【0009】
請求項2は、前記した請求項1において、酸化剤を流しながら前記金属原子を反応性スパッタリングとしたことを特徴とする。
【0010】
請求項3のフォトマスクの製造方法は、ガラス基板の表面を洗浄する工程と、前記ガラス基板にレーザー光のエネルギーによって表面電位差が生じる金属原子の組み合わせによる金属レジストを形成する工程と、前記遮蔽膜にレーザー光を照射して表面電位差を生じさせる露光工程と、現像液により現像してレーザー光を照射した部分を溶解させて凹凸のある金属レジストのレリーフを形成する工程とからなり、前記金属レジストレリーフを遮蔽膜としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は前記したように、レーザー光のエネルギーによって表面電位差が生じる表面電位が変位し易い金属原子と、酸化されても変化し難い金属原子との組み合わせによる金属レジストの遮蔽膜で構成したことにより、製造工程を簡素化することができると共にコストの低減化を図ることができ、かつ、前記金属レジストの未露光部と露光部の表面電位の関係が未露光部>露光部となることによりリソグラフの性能を良好にしたフォトマスクを製造することができる。
【0012】
また、酸素ガス等の酸化剤を流しながら前記金属原子を反応性スパッタリングとしたことにより、より表面電位差を大きくすることが可能となるので、リソグラフの性能、耐久性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るフォトマスクの製造を説明するための工程を示した断面図である。
【図2】本発明に係る金属レジストを説明するための露光、現像工程を示した断面図である。
【図3】本発明に係る金属レジストを説明するための露光部の表面電位像を示した斜視図である。
【図4】本発明に係る金属レジストを説明するための露光部のエッチング孔径と金属レジスト中のタングステン原子の量との関係を示すグラフである。
【図5】本発明に係るフォトマスクを説明するためのフォトマスクの電子顕微鏡画像であり、(a)は平面画像、(b)は断面画像である。
【図6】従来のフォトマスクの製造工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るフォトマスクの製造方法の一実施例を図1と共に説明する。
先ず、ガラス基板1の表面の油分をアルカリや有機溶剤で洗浄する。次いで、スパッタ装置を用いて、酸化ガスを流しながら反応性スパッタリング法で金属レジスト2をガラス基板1の表面に形成する。
【0015】
次に、金属レジスト2にレーザー光を照射して露光し、その後に現像液で現像してレーザー光を照射した部分を溶解して、凹凸のある金属レジストのレリーフ2′を形成することで、金属レジストレリーフ2′を遮蔽膜とするフォトマスクAが形成される。
【0016】
図2は前記した図1における金属レジストの構成および金属レジストのレリーフを作成する工程を示したものである。
酸化剤、例えば、酸素ガスOを流しながら表面電位が変化し易い金属原子Xと酸化されても変化し難い金属原子Yを含む金属原子に対して反応性スパッタリングを行うと、前記金属原子X,Yは酸素ガスが混ざり合った金属原子XO,YOからなる金属レジスト2の膜が形成される。
【0017】
この金属レジスト2に対してレンズ3により収束されたレーザー光を照射して露光すると、酸素ガスOが混入された前記金属原子XOはXOとなり、また、酸素ガスOが混入された前記金属原子YOはYOとなる。そして、レーザー光が照射されない酸素ガスOが混入された前記金属原子XOとYOの状態のままである。
【0018】
すなわち、未露光部分>露光部分となる表面電位差が生じ、この表面電位差によって現像すると酸化還元反応を起こし、レーザー光による照射部分が現像液に溶解して凹凸のある金属レジストのレリーフが形成されてフォトマスクとなる。
【0019】
なお、金属原子Xとしては、ニッケル、鉄、タングステン、コバルト、銅などがあり、また、金属原子Yとしては、モリブデン、チタン、バナジウムなどがある。
【0020】
次に、金属原子Xとしてタングステン、金属原子Yとしてモリブデンとした場合の金属レジストについて説明するに、前記タングステンとモリブデンの比が8:2のターゲットを用いて、アルゴンガス44sccm、酸素ガス6sccmを流し、0.2KWで反応性スパッタリングを行い80nmの厚さの金属レジストを形成した。
【0021】
次に、波長405nmのレーザー光(10mW、NA0.9)をスポット照射した。そして、プローブ顕微鏡(L−traceにエスアイアイ・ナノテクノジー株式会社製)を用いて表面電位を測定した。その測定結果の三次元像を図3で示した。レーザー光の未露光部と露光部の表面電位差は未露光部>露光部となり、タングステン原子Xとモリブデン原子Yの比が6:4の金属レジストの表面電位差は157mV、タングステン原子Xとモリブデン原子Yの比が9:1の金属レジストの表面電位差は255mVであった。
【0022】
図4は露光部のエッチング孔径と金属レジスト中のタングステン原子の量との関係を示しており、図4において、金属レジストの膜はタングステン原子XとモリブデンYの比が、9:1、8:2、7:3、6:4のターゲットを用いて、アルゴンガス44sccm、酸素ガス6sccmを流し、0.2KWで反応性スパッタリングを行い80nmの厚さの金属レジストを形成した。
【0023】
次に、波長405nmのレーザー光(10mW、NA0.9)をスポット照射した。次いで、有機系アルカリ現像液(NMD−3東京応化工業株式会社製)を用いて10分間現像した後に走査電子顕微鏡(S5200 株式会社日立ハイテクノロジーズ製)で観察し、エッチング孔の直径を計測した。
【0024】
図4の前記ターゲットとして、タングステン原子XとモリブデンYの比が6:4とした場合には現像孔は形成されなかった。その時の表面電位差は157mVであった。タングステン原子Xの量が増えるにつれてエッチング孔径は大きくなる。
【0025】
タングステン原子XとモリブデンYの比が8:2の金属レジストの未露光部と露光部から現像液に溶解したタングステン原子XとモリブデンYの量を誘電結合プラズマ分析法(IPC−ASE ULTIMAZエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製)で測定を行った結果、現像液の水酸基1mol、1cm、1秒間あたりに溶出した量は、未露光部のタングステン原子Xが18.8×10−11mol、モリブデン原子Yが4.65×10−11molであった。露光部タングステン原子Xが171.6×10−11mol、モリブデン原子Yが43.5×10−11molであった。露光部のタングステン原子XとモリブデンYの溶出量は未露光部と比べて約10倍になっていた。
【0026】
未露光部から現像液に溶出するのはタングステン原子XとモリブデンYのイオン化エネルギーの差により局部電池作用が起こったためと推測される。露光部から現像液に溶出する量が促進(選択性)されるのは、未露光部と露光部に表面電位が生じているため、現像液との酸化還元反応がアノードとカソード反応を起こしたものと推測される。
【0027】
図5はフォトマスクの電子顕微鏡での画像であり、金属レジストの膜はタングステン原子XとモリブデンYの比が9:1のターゲットを用いて、アルゴンガスアルゴンガス44sccm、酸素ガス6sccmを流し、0.2KWで反応性スパッタリングを行い80nmの厚さの金属レジストを形成した。
【0028】
次に、波長405nmのレーザー光(10mW、NA0.9)を用いて線速4.0m/sでラインを描き、有機系アルカリ現像液(NMD−3東京応化工業株式会社製)を用いて10分間現像した後、走査電子顕微鏡(S5200 株式会社日立ハイテクノロジーズ製)で断面とラインを観察した。
【0029】
そして、図5よりライン底が約130nmのラインが形成されることが確認できた。また、前記した本発明の製造方法にあっては、リソグラフの性能、製造工程の簡素化、クロムレスによるコストの低減が良好であることが確認された。
【0030】
本発明は前記したように製造工程の簡素化が図れ、また、リソグラフの性能、耐久性を向上させることができると共に、コストの低減を図ることができるフォトマスクを提供することを主眼としているが、エンコーダディスク、リニアースケール、ブラックマトリクス等のクロム金属や早期レジストを使用する電子部品の製造や亜鉛等の元素を用いると透明電極を作ることができるので、従って、タッチパネル等の電子部品製造に応用することが可能である。
【符号の説明】
【0031】
A フォトマスク
X,Y 金属原子
1 ガラス基板
2 金属レジスト
2′ 金属レジストレリーフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光のエネルギーによって表面電位差が生じる表面電位が変位し易い金属原子と、酸化されても変化し難い金属原子との組み合わせによる金属レジストの遮蔽膜で構成されたことを特徴とするフォトマスク。
【請求項2】
酸化剤を流しながら前記金属原子を反応性スパッタリングとしたことを特徴とする請求項1記載のフォトマスク。
【請求項3】
ガラス基板の表面を洗浄する工程と、前記ガラス基板にレーザー光のエネルギーによって表面電位差が生じる金属原子の組み合わせによる金属レジストを形成する工程と、前記遮蔽膜にレーザー光を照射して表面電位差を生じさせる露光工程と、現像液により現像してレーザー光を照射した部分を溶解させて凹凸のある金属レジストのレリーフを形成する工程とからなり、前記金属レジストレリーフを遮蔽膜としたことを特徴とするフォトマスクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−61512(P2013−61512A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200226(P2011−200226)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000127743)株式会社エイト工業 (8)
【Fターム(参考)】