説明

フォトレジスト用剥離液

【課題】大面積の基板上のCu若しくはCu合金層をウェットエッチングすることによって配線等とする際に、Cu用のエッチャントに曝され、変質し剥離しにくくなったフォトレジストをCu層にダメージを与えないように剥離し、なおかつ、Cu層の上に堆積させる層との間の接着力を低下させないフォトレジスト用剥離液を提供する。
【解決手段】三級アルカノールアミンが1〜9質量%、極性溶媒を10〜70質量%、水を10〜40質量%からなるフォトレジスト用剥離液は、若干の銅の腐食はあるものの、Cu層上に堆積させる層との接着性もよく、実用としては、問題がなかった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトレジスト用剥離液に関する。特に、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)のCu又はCu合金配線基板製造に好適に使用されるフォトレジスト用剥離液に関する。
【背景技術】
【0002】
ICやLSI等では、半導体素子の高集積化とチップサイズの縮小化に伴い、配線回路の微細化及び多層化が進み、半導体素子で用いる金属膜の抵抗(配線抵抗)と配線容量に起因する配線遅延などが課題となり、配線抵抗を改善するためにアルミニウム(Al)よりも抵抗の少ない銅(Cu)が用いられるようになっている。
【0003】
一方、液晶ディスプレイ等のFPDでは配線材料としてAlが採用されてきたが、近年の基板大型化や高精細化や有機EL対応のため、半導体素子同様に、配線抵抗を下げる必要があり、Alよりも抵抗の少ないCu、Cu合金等を配線材料として用いられることが試みられている。CuはAlに比べ、表面に生成する酸化被膜の保護性が弱いため、水溶液中では腐食しやすいという課題があり、半導体ではプラズマを使ったドライプロセスで腐食を防止している。
【0004】
しかし、FPDは半導体よりも基板サイズが大きく、プラズマを使ったドライプロセスの適用が困難なため、Cu配線が形成された基板、あるいはCu配線と無機材料層とが形成された基板の腐食防止と、フォトレジスト膜、フォトレジスト変質膜の剥離性をバランスよく達成するためのフォトレジスト用剥離液の開発が行われている。
【0005】
特許文献1では、(a)含窒素有機ヒドロキシ化合物が10〜65重量%、(b)水溶性有機溶媒が10〜60重量%、(c)水が5〜50重量%、防食剤として(d)ベンゾトリアゾール系化合物が0.1〜10重量%からなるフォトレジスト用剥離液が開示されており、(a)含窒素有機ヒドロキシ化合物としては25℃の水溶液における酸解離定数(pKa)が7.5〜13のアミン類が好ましいとされている。
【0006】
しかし、このような組成ではフォトレジスト用剥離液のpHは11以上のアルカリ溶液であり、液中の溶存酸素によって、銅配線はHCuOやCuOイオンを生成して容易に溶解、すなわち腐食する。また、防食剤の(d)ベンゾトリアゾール系化合物は強アルカリ溶液中では重合度の高いポリマー皮膜を作れず、防食性が弱いため、添加量を増やさなければならず、過剰に添加されたベンゾトリアゾール系化合物がCu配線上に残留し、異物として残ってしまうおそれがある。
【0007】
特許文献2では、(a)一級または二級のアルカノールアミンを5〜45重量%、(b)極性有機溶剤及び水を50〜94.95重量%、(c)マルトールやウラシルや4−ヒドロキシ−6−メチル−2−ピロンなどからなる群から選択される少なくとも1種の複素環式化合物を0.05〜10重量%からなるフォトレジスト用剥離液が提案されている。このような組成の場合でも、フォトレジスト用剥離液のpHは11以上の強アルカリであり、銅配線は腐食しやすく、過剰に防食剤(c)を添加すると、防食剤(c)がCu配線上に残留し、異物として残ってしまうおそれがある。
【0008】
特許文献3では基板上に銅配線パターンを形成した後、その銅配線パターンにベンゾトリアゾールを2×10−6〜10−1mol・m含有する水溶液により洗浄する半導体装置の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3514435号公報
【特許文献2】特開2008−216296号公報
【特許文献3】特許第3306598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1では、Cuのエッチングにはドライエッチング処理を行って評価されている。CuのエッチャントとAlのエッチャントが異なるものであることは知られており、特にCuをウェットエッチングする酸化剤系のエッチング液では、レジスト層は変質され、剥離しにくくなる。すなわち、特許文献1で開示されたフォトレジスト用剥離液は、Cu若しくはCu合金をウェットエッチング処理する工程で用いるフォトレジスト用剥離液としては単純には適用できない。
【0011】
特許文献2は、この点考慮されており、まさに、大面積の基板上のCu若しくはCu合金をウェットエッチングする際に用いるフォトレジスト用剥離液を開示している。しかし、剥離液の主剤として用いている一級又は二級のアルカノールアミンは強アルカリを示すため、腐食防止剤として添加する複素環式化合物はその作用が弱まる。そのため、複素環式化合物は0.05〜10wt%とかなり多い組成となっている。
【0012】
特許文献2が検討していないのは、腐食防止剤として添加するこれらの複素環式化合物は、Cuとの間に不溶性の化合物を形成して、腐食を防止するが、同時にCu層の上に成膜処理される層との間の接着性を低下させる点である。つまり、0.05〜10wt%の量の腐食防止剤は、Cu層の上に形成される層との接着性を低下させるという課題がある。
【0013】
特許文献3は、Cu膜上のフォトレジストを剥離する際の洗浄過程でCuが洗浄剤と接触した際に腐食されるのを防止するのに、BTAがCuとの間に不溶性の化合物を形成する点を開示しており、また過剰なBTAの添加によりBTAが析出する点を開示しているが、基本的にCuは異方性ドライエッチングにおける処理である。また、特許文献2同様、Cuに乗せる次の層と接着性を低下させるという課題があり、この接着性まで考慮したものではない。
【0014】
このような従来のBTAを添加したCu配線基板においての剥離液組成物は、BTAがCuとの間に不溶性の化合物を形成し、Cu層の上に形成される層との接着性を低下させるという課題を有していた。
【0015】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、大面積の基板上のCu若しくはCu合金層をウェットエッチングすることによって配線等とする際に、Cu用のエッチャントに曝され、変質し剥離しにくくなったフォトレジストをCu層にダメージを与えないように剥離し、なおかつ、Cu層の上に堆積させる層との間の接着力を低下させないフォトレジスト用剥離液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記のフォトレジスト用剥離液は、主剤として三級アミンを用い、且つ、水を用いた水系剥離液であり、ベンゾトリアゾール系化合物に代表される腐食防止剤を含まない組成物であることが特徴である。
【0017】
より具体的には、本発明のフォトレジスト用剥離液は、
三級アルカノールアミンが1〜9質量%、極性溶媒を10〜70質量%、水を10〜40質量%からなることを特徴とする。
【0018】
また、上記フォトレジスト用剥離液では、
前記三級アルカノールアミンは、N−メチルジエタノールアミン(MDEA)であることを特徴とする。
【0019】
また、上記フォトレジスト用剥離液では、
前記極性溶媒は、ジエチレングリコールモノブチルエーテルと、プロピレングリコールの混合溶媒であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明のフォトレジスト用剥離液は、主剤として用いるアミン類に三級アミンを用いる。三級アミンは一級もしくは二級のアミン類と比べ、比較的塩基度が低い。また、使用する量が剥離液全量に対して少ない。そのため、レジストを剥離する際に銅を腐食させる程度が極めて少ない。
【0021】
また、腐食防止剤が含まれていないので、レジストを剥離した後の銅表面には、不純物が残存していない。そのため、銅膜の上に他の膜を形成しても、膜層間の剥離は生じない。一方、レジストの剥離性は実用上問題ないレベルである。また、微量の添加物が含まれていないので、再生処理を行いやすいという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のフォトレジスト用剥離液は、三級アルカノールアミンが1〜9質量%、極性溶媒を10〜70質量%、水を10〜40質量%からなる。
【0023】
三級アルカノールアミンとしては、具体的に以下のものが好適に利用できる。トリエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジブチルエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−ブチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン等である。これらは、複数種類を混合して用いてもよい。
【0024】
極性溶媒としては、水と親和性のある有機溶媒であればよい。また上記の三級アルカノールアミンや後述するジエチレングリコールモノブチルエーテルとの混合性が良好であればより好適である。
【0025】
このような水溶性有機溶媒としては、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ビス(2−ヒドロキシエチル)スルホン、テトラメチレンスルホン等のスルホン類;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド等のアミド類;N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−プロピル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシメチル−2−ピロリドン、N−ヒドロキシエチル−2−ピロリドン等のラクタム類;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジイソプロピル−2−イミダゾリジノン等のイミダゾリジノン類;エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどのジエチレングリコールモノアルキルエーテル(アルキルは炭素原子数1〜6の低級アルキル基)等の多価アルコール類、およびその誘導体が挙げられる。これらの中で、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、ジエチレングリコールモノブチルエーテルの中から選ばれる少なくとも1種が、より一層の剥離性、基板に対する防食性等の点から好ましく用いられる。これらの成分は複数種類を混合して用いてもよい。中でも、ジエチレングリコールモノブチルエーテルとプロピレングリコールの混合溶媒が特に好ましい。なぜなら、pHが中性領域であり、Cu層の腐食がなく、且、剥離するフォトレジストへの浸透性が優れているからである。
【0026】
本発明のフォトレジスト用剥離液での三級アルカノールアミンの配合量としては、剥離液全量に対して1〜9質量%である。9質量%以上含まれると、Cu層に腐食が生じてしまうからである。また1質量%以下では、フォトレジストを剥離することができなくなるからである。このように本発明では、三級アルカノールアミンの配合量は比較的少ない。
【0027】
極性溶媒の比率は剥離液全量に対して10〜70質量%である。また水は10〜40質量%である。極性溶媒と水は使用する温度において、三級アルカノールアミンとの混合液である剥離液の粘度が好適になるように調製してよい。
【0028】
本発明では、腐食防止剤として特に添加しない。銅の腐食防止のために添加した腐食防止剤が銅の表面に残留し、銅層の上に積層する層との接着力が低下することを回避するためである。すなわち、レジストを剥離することと、剥離した銅表面を腐食しないことを、剥離液と温度管理によって実用上問題ないように両立させる。したがって、剥離液を使用する際の温度管理は厳格に行われる。本発明の下記実施例では、剥離液および被処理対象は40℃になるように厳格に管理されている。
【実施例】
【0029】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。まず、サンプルの準備および評価方法を説明する。
【0030】
<評価基板の作製方法>
本発明のフォトレジスト用剥離液の効果を示すために、以下の手順で評価基板を作製した。これは通常6インチウエハーを用いた処理であり、スピンプロセッサと呼ばれる。まず、6インチウエハー形状のガラス基板(厚さ1mm)にITO(Indium Tin Oxide:透明電極)をスパッタ法により成膜した。厚みは0.2nm(2,000オングストローム)とした。
【0031】
次にITO膜の上にゲート線用のCu膜を蒸着法で約0.3nmの厚みに成膜した。次にポジ用のレジストを厚さ1μmの厚みにスピナーで塗布した。レジスト膜を成膜後、100℃の環境下で2分のプリベークを行った。
【0032】
次にフォトマスクを使って露光した。フォトマスクは幅5μmの直線状のパターンを用いた。そして、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)を使って現像を行った。これで、感光した部分のフォトレジストが除去された。
【0033】
40℃に昇温させた酸化剤系のエッチャントを用いて、1分間エッチングした。この処理で、フォトレジストが残った部分以外のCu膜は除去された。処理が終わった基板は純水の流水で1分間洗浄を行った。洗浄後の基板は8,000rpmのスピン乾燥装置で1分間乾燥させ保管した。なお、この際にフィルタを通した0.5m/sの流速の窒素ガスを回転中心から吹き付けた。
【0034】
<Cu防食性>
Cu防食性については以下のような手順を実施した。まず、ゲート線(Cu層で作ったもの)が長手方向となるように基板を10mm×60mmの短冊状に割断した。表1で示す組成で調製した剥離液20mlをバイアル瓶(30ml)に分注した。そして剥離液をバイアル瓶に入ったままウォーターバスにて40℃に昇温させた。そして40℃になった剥離液中に用意した評価基板を入れ30分浸漬させた。なお、この評価は、剥離液がCuをどの程度腐食するかを調べるための実験であるので、30分と長い時間浸漬させた。
【0035】
浸漬後剥離液から評価基板を引き上げて、純水の流水で1分間洗浄した。洗浄後は0.8m/sの流速のドライエアにて2分間乾燥した。ドライエアはフィルタを通してあるが、温度は室温であった。処理後の基板はSEM(Scanning Electron Microscope)で表面および断面を観察し、バイアル瓶に残った剥離液は原子吸光分析によってCu濃度を分析した。
【0036】
SEMでの観察には以下のような基準で評価を行った。SEMによる6,000倍の平面観察および50,000倍の断面観察で、腐食が見られなかったものを「腐食なし」として丸印とした。また線幅、膜厚ともに減少したが、配線は残っている状態のものを「腐食あり」として三角印とした。また、配線が無くなっているものは、激しい「腐食あり」としてバツ印とした。それぞれのサンプルの評価結果は表1に示した。
【0037】
<剥離性>
フォトレジストの剥離性は、Cuの防食性と同じ手順で評価を行った。具体的には以下のように行った。まず、ゲート線(Cu層で作ったもの)が長手方向となるように基板を10mm×60mmの短冊状に割断した。表1で示す組成で調製した剥離液20mlをバイアル瓶(30ml)に分注した。そして剥離液をバイアル瓶に入ったままウォーターバスにて40℃に昇温させた。そして40℃になった剥離液中に用意した評価基板を入れ30分浸漬させた。
【0038】
浸漬後剥離液から評価基板を引き上げて、純水の流水で1分間洗浄した。洗浄後は0.8m/sの流速のドライエアにて2分間乾燥した。ドライエアはフィルタを通してあるが、温度は室温であった。処理後の基板はSEMで表面を観察した。
【0039】
SEMでの観察では以下のような基準で剥離性を評価した。SEMによる6,000倍の平面観察によって評価基板全長(60mm)に渡ってレジストの残渣がなかった場合は、「残渣無し」として丸印とした。また、残渣がある場合、若しくはCuの腐食が激しく評価する意味がない場合は「評価せず」としてマイナス記号(「−」)とした。
【0040】
<レジスト溶解性>
剥離液に対してレジスト溶解性を以下のように評価した。本実施例では、フォトレジストは酸化剤系のエッチャントに曝されているので、変性しており、容易には剥離できない。まず、ゲート線(Cu層で作ったもの)が長手方向となるように基板を20mm×60mmの短冊状に割断した。表1で示す組成で調製した剥離液50mlをバイアル瓶(50ml)に分注した。そして剥離液をバイアル瓶に入ったままウォーターバスにて40℃に昇温させた。そして40℃になった剥離液中に用意した評価基板を入れ、レジストが浮き上がってくるまでの時間をストップウォッチで測定した。
【0041】
レジスト溶解性は以下の基準で評価を行った。評価基板を剥離液に浸漬させてから30秒以内にレジストが溶解した場合は、「十分な溶解力を有している」として丸印とした。また30秒以上かかった場合は、「フォトレジストの溶解度は十分でない」としてバツ印とした。
【0042】
<膜剥がれ>
酸化剤系エッチャントに曝されて変性したフォトレジストを十分に溶解し、Cu膜を腐食させなかったとしても、Cu膜表面に腐食防止剤が残留して、その上に堆積した層との接着性が悪いと、実用的とは言えない。そこで、Cu膜の表面に腐食防止剤が実用上問題ない程度に少ない、言い換えると、実用上問題なくCu層の上に膜を堆積することができる程度を膜剥がれとして以下の評価を行った。
【0043】
まず、ゲート線(Cu層で作ったもの)が長手方向となるように基板を10mm×60mmの短冊状に割断した。表1で示す組成で調製した剥離液20mlをバイアル瓶(30ml)に分注した。そして剥離液をバイアル瓶に入ったままウォーターバスにて40℃に昇温させた。そして40℃になった剥離液中に用意した評価基板を30秒間浸漬させた。次に剥離液から取り出し、純水の流水で1分間洗浄した。洗浄後、室温で0.8m/sの流速のドライエアにて2分間乾燥した。
【0044】
そして、基板のCu膜が形成されている面に絶縁膜(SiO)をスパッタ法で、0.1μm成膜した。そして絶縁膜上に金を0.01μm程度さらにスパッタで成膜し、1,000倍の倍率でSEM観察した。膜剥がれは以下のような基準で評価を行った。Cu膜上に一体となって成膜出来ている場合は、「膜剥がれなし」として丸印とした。またCu膜のエッジ部分や平坦な部分の一部にでもSiOの剥がれや孔と認められるものがあった場合は「膜剥がれあり」としてバツ印とした。Cu膜上の絶縁膜は、完全に絶縁できていないと、ショートの原因となり、すぐに不良に繋がるため、厳しく評価を行う必要がある。
【0045】
以上の評価に加え、剥離液の組成、pHを含めて表1に示す。なお表1に示す組成では腐食防止剤を「防食剤」と記した。アミン類としては、比較のために、一級アルカノールアミンであるモノエタノールアミン(MEA)と、三級アルカノールアミンであるN−メチルジエタノールアミン(MDEA)を用いた。また、比較例として腐食防止剤としては、ベンゾトリアゾール(BTA)、ピロカテコール、ソルビトールを入れた。以下に実施例および各比較例の組成および評価結果を説明する。
【0046】
(実施例1)
剥離液の組成を以下のように調製した。アミン類としてMDEA(N−メチルジエタノールアミン)を5質量%、極性溶媒としてBDG(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)を40質量%、PG(プロピレングリコール)を24質量%、水を31質量%とした。pHは10.5であった。本実施例には防食剤は含まれていない。
【0047】
銅の防食性は評価として三角であったが、レジストの剥離性、レジストの溶解性、銅層の上に積層する絶縁膜の膜剥がれともに評価は丸であった。なお、剥離液中の銅の溶出量は0.79ppmであったが、実用上まったく問題なかった。
【0048】
(比較例1)
剥離液の組成を以下のように調製した。アミン類としてMDEAを5質量%、極性溶媒としてBDGを40質量%、PGを24質量%、腐食防止剤としてBTAを1質量%、ソルビトールを1質量%加え、水は29質量%とした。pHは9.1であった。
【0049】
銅の防食性および、レジストの剥離性は評価が丸となった。しかし、レジストの溶解性および、銅層の上に積層する絶縁膜の膜剥がれともに評価はバツであった。なお、剥離液中の銅の溶出量は0.05ppmであった。これはレジスト溶解性が悪かったために銅層の表面を剥離液が浸食しなかったためである。銅の防食性は向上したが、レジストが剥離できず、銅層の上部に積層した絶縁膜が剥がれた。
【0050】
(比較例2)
剥離液の組成を以下のように調製した。アミン類としてMDEAを5質量%、極性溶媒としてBDGを40質量%、PGを24質量%、腐食防止剤としてBTAを0.5質量%加え、水は30.5質量%とした。pHは9.3であった。
【0051】
銅の防食性および、レジストの剥離性は評価が丸となった。しかし、レジストの溶解性および、銅層の上に積層する絶縁膜の膜剥がれともに評価はバツであった。なお、剥離液中の銅の溶出量は0.05ppmであった。これはレジスト溶解性が悪かったために銅層の表面を剥離液が浸食しなかったためである。銅の防食性は向上したが、レジストが剥離できず、銅層の上部に積層した絶縁膜が剥がれた。
【0052】
(比較例3)
剥離液の組成を以下のように調製した。アミン類としてMDEAを5質量%、極性溶媒としてBDGを40質量%、PGを24質量%、腐食防止剤としてBTAを0.1質量%加え、水は30.9質量%とした。pHは10.0であった。
【0053】
銅の防食性および、レジストの剥離性は評価が丸となった。しかし、レジストの溶解性および、銅層の上に積層する絶縁膜の膜剥がれともに評価はバツであった。なお、剥離液中の銅の溶出量は0.05ppmであった。これはレジスト溶解性が悪かったために銅層の表面を剥離液が浸食しなかったためである。銅の防食性は向上したが、レジストが剥離できず、銅層の上部に積層した絶縁膜が剥がれた。
【0054】
(比較例4)
剥離液の組成を以下のように調製した。アミン類としてMEA(モノエタノールアミン)を5質量%、極性溶媒としてBDGを42質量%、PGを18質量%、腐食防止剤としてピロカテコールを5質量%加え、水は30質量%とした。pHは10.3であった。
【0055】
銅の防食性が評価バツとなった。銅の表面は激しく腐食して銅層が無くなっており、剥離性の評価はできなかった。レジストの剥離性は評価が丸となった。もちろん、銅層自体が無くなっているので、絶縁膜の剥離性の評価はするに値しなかった。
【0056】
(比較例5)
剥離液の組成を以下のように調製した。アミン類としてMEA(モノエタノールアミン)を5質量%、極性溶媒としてBDGを42質量%、PGを18質量%、腐食防止剤としてBTAを0.05質量%加え、水は34.95質量%とした。pHは11.5であった。
【0057】
銅の防食性が評価バツとなった。銅の表面は激しく腐食して銅層が無くなっており、剥離性の評価はできなかった。レジストの剥離性は評価が丸となった。もちろん、銅層自体が無くなっているので、絶縁膜の剥離性の評価はするに値しなかった。
【0058】
(比較例6)
剥離液の組成を以下のように調製した。アミン類としてMEA(モノエタノールアミン)を20質量%、極性溶媒としてBDGを60質量%だけとし、腐食防止剤としてピロカテコールを5質量%加え、水は15質量%とした。pHは11.2であった。
【0059】
銅の防食性が評価バツとなった。銅の表面は激しく腐食して銅層が無くなっており、剥離性の評価はできなかった。レジストの剥離性は評価が丸となった。もちろん、銅層自体が無くなっているので、絶縁膜の剥離性の評価はするに値しなかった。
【0060】
【表1】

【0061】
以上のように、本発明のフォトレジスト用剥離液は、腐食剤を含まないので、銅層を幾分かは腐食するものの、銅層上に積層する絶縁層との付着性もよく、実用上は問題がなかった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のフォトレジスト用剥離液は、ウェットエッチングによって、Cuを導線とし製造するもの、特に大面積でなおかつ微細な加工が必要となる、液晶ディスプレイ、太陽電池、有機ELなどFPD一般に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三級アルカノールアミンが1〜9質量%、極性溶媒を10〜70質量%、水を10〜40質量%からなるフォトレジスト用剥離液。
【請求項2】
前記三級アルカノールアミンは、N−メチルジエタノールアミン(MDEA)である請求項1に記載されたフォトレジスト用剥離液。
【請求項3】
前記極性溶媒は、ジエチレングリコールモノブチルエーテルと、プロピレングリコールの混合溶媒である請求項1または2のいずれかの請求項に記載されたフォトレジスト用剥離液。

【公開番号】特開2012−225959(P2012−225959A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90546(P2011−90546)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【出願人】(506087819)パナソニック液晶ディスプレイ株式会社 (443)
【Fターム(参考)】