説明

フォーク型ダンパ及び該ダンパの使用方法

相対移動及び相対変形をうける構造体の2個の要素を相互連結し、構造体全体が荷重状態に置かれた時に、制振レベルを増加させる新形態ダンパが開示される。新形態ダンパは、構造体システムの動荷重下で、変位、速度及び加速度の制御を促進する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物、橋、及び他の構造体用制振システムに関する。特に本発明は、相対移動及び相対変形をうける構造体の2個の要素を相互連結し、構造体全体が荷重状態に置かれた時に、制振レベルを増加させる新形態ダンパに関する。新形態ダンパは、構造体システムの動荷重下で、変位、速度及び加速度の制御を促進する。
【背景技術】
【0002】
一般的な構造構成要素、例えば補強コンクリート耐震壁、構造用鋼材筋かい入りラーメン、構造用鋼材又は補強コンクリートモーメントラーメン又はそれらの組み合わせ等を使用する現代の建築物は、低い固有の制振特性を有する。この低い固有の制振に起因して、特に高層ビルは、動荷重によって生じさせられる過剰な振動に影響され易い。過剰な加速及びねじれ速度は、居住者に不快感をもたらし兼ねない一方、過剰な変位は、非構造要素及び構造要素を破損させ兼ねない。この理由により、これらの過剰な振動を制御すると共に、動荷重に対する建築物反応全体を減少させるために、付加的な制振源を供給すれば有利である。
【0003】
この構造体における現用の変位、速度、及び加速度制御システムは、追加ダンパ及び振動吸収装置等の受動システム並びに能動システムからなる。
ヒステリシス、粘性、及び粘弾性ダンパ等の受動追加ダンパは、現在、一般的な筋かい入り構造体で使用されると共に、軸方向への変形下で作動させられる。これは、この一般的な筋かい入り形態下で、筋かい要素が大きな軸方向の変形を受ける幾つかの構造形態に制振を付加するのには効果的であるが、このダンパを作動させるために、水平方向への一次的変形モードが、一般的な筋かい要素の十分な軸方向への変形を生じさせない高層ビル等の他の構造システムでは、あまり効果的ではない。ダンパを作動させるのに十分な程度に変形量を増加させるために、変位量を増幅させるべく、トグル型筋かい又は鋏型筋かいを使用する特別な形態が用いられる。
【0004】
同調質量ダンパ(TMD)及び同調液体ダンパ(TLD)等の振動吸収装置もまた、この構造体の撓み、速度、及び加速度を低減させるために使用される。これらは典型的には、その有効性を最大限にするために、建築物の最上階に装着される機械式振動システムからなる。これは、構成及び建築が高価であることに加えて、建築物内で最も貴重な不動産のいくつかを使用するという欠点を有する。これらはまた、単一の振動モードに同調させられなければならないので、限られた周波数範囲で作用する。
【0005】
能動システムは、外部動力源、駆動力及び大規模ハードウェア及びソフトウェア制御システムを必要とする。その結果、能動システムは構成及び実施が高価であり、また電力事故又は制御システムの故障に影響されやすい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、既存のシステムの少なくとも1つの欠点を克服する新しい構造体用制振システムを提供することにある。特に本発明の目的は、制振システムが構造体に付加的な制振をもたらすことにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一態様から、建築物等の壁などの水平耐荷重構造体の間に装着する制振システムを提供し、この制振システムは、互いに噛み合う平行板の組を含む。第1組は、一端
が一方の壁に取り付けられると共に、その他端で第2組と協働するように適応させられる。第2組は同様に、第2の壁に取り付けるように適応させられる。エネルギ分散材料が、板の夫々の組の部材間に載置される。適当なエネルギ分散材料は当該技術分野において周知であると共に、裂けたり或いは恒久的に変形することなく、構造体に生じる水平方向の変形に耐える程度に十分な力を備える一方、水平方向への変形から吸収されたエネルギを分散させる能力を有する材料を含む。2個の壁が例えば強風で相対的に移動する時に、両方の直交方向への壁の面内相対変形は、板の互いに対する相対変位の結果として、板組の間のエネルギ分散材料の作用によって制振させられる。
【0008】
それ故、本発明の一態様によれば、構造体に使用する制振システムであって、連結手段によって1個以上の第2組の板と連結される1個以上の第1組の板と、第1組の板は、構造体内で第1耐荷重構造要素と係合する第1端部を有し、第2組の板は、構造体内で第2耐荷重構造要素と係合する第2端部を有しており、第2耐荷重構造要素は、第1耐荷重構造要素に近接して配置され、第1組の板を第2組の板に連結させるのに効果的な連結手段を含み、この連結手段はエネルギ分散材料を含む。
【0009】
好適には、2組の板は複数の実質的に平行且つ間隔があけられた板を含み、第1組の板は、第2組の板と互いにかみ合わされる。また好適には、板組は、構造体の特定高さで同じ平面内に配置される2個の異なる水平耐荷重要素(耐震壁、鋼材筋かい、又はモーメントラーメンの一部を形成する柱)の対向する2つの端部に取り付けられる。水平耐荷重要素間の距離を受け入れるために、その長さ方向に伸長するべく、延長要素がダンパのいずれか又は両方の端部に使用されてもよい。
【0010】
本発明の別の態様によれば、構造体の制振増加方法が提供され、上述したような少なくとも1個の制振システムを、構造体の2個の隣接する水平耐荷重構造要素の間に装着する工程を含む。
【0011】
本発明の別の態様によれば、上述したような少なくとも1個の制振システムを含み、より多くの制振を伴う構造体が提供される。
本発明の別のまた更なる効果及び特徴は、添付の図面と合わせて得られる本発明の以下の詳細な説明から、当該技術分野に属する者に理解される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を以下により詳細に、一例としてのみ、添付の図面を参照して説明する。図面では、同じ符号は同じ要素について言及する。
次に図1A〜図1Dを参照すると、中高層ビル建築のための当該分野の現在の状態の例が示され、即ち補強コンクリート耐震壁110(図1A)、構造用鋼材筋かい入りラーメン120(図1B)、構造用鋼材又は補強コンクリートモーメントラーメン130(図1C)、及びそれらの組み合わせ140(図1D)が使用されている。建築物は風又は地震荷重を受けるので、有効な制振をもたらすことなく、連結梁(116,128,134,144)又は水平筋かい(126,148)が変形させられる。
【0013】
図1Aを参照すると、補強コンクリート耐震壁114を使用する構造体110は、耐震壁114の間の開口112に配置される連結梁116を有する。同様に、図1Bに示すように、鋼柱124及び筋かい126を使用する構造体120は、柱124の間の開口122に配置される鋼材連結梁128を有する。柱132及び開口136内の連結梁134のみからなる代替の鋼構造体130が、図1Cに示されている。図1Dに示す最後の構造体は、開口146によって隔離させられると共に、連結梁144によって連結されるコンクリート耐震壁142及び鋼柱150及び筋かい148を備えた組み合わせ構造体140である。
【0014】
図2A〜図2Dにおいて、概ね符号10が付されてここに説明される本発明の一実施形態の制振システム即ちダンパは、図1A〜図1Dに示す構造体の1個以上の連結梁(116,128,134,144)又は水平筋かい要素(126,148)に取って代わる。これにより、ダンパ10は単に連結梁又は水平筋かいに取って代わると共に、連結梁又は水平筋かいによって占有される面積内に嵌合するので、内部空間に損失がない。これによって、建築物が強い風又は地震荷重を受けた時に、ダンパ10が変形させられると共に、システムへ追加の制振をもたらす。
【0015】
図3〜図5を種々参照すると、制振システム10は、第1組の鋼板310からなり、第1組の鋼板310は、第2組の1個以上の同様の鋼板312と互いに噛み合うと共に、エネルギ分散材料の挿入層を介して第2組の鋼板312と連結される。エネルギ分散材料挿入層は、接着層によって鋼板と接着される。2組の板の連結端と反対側の端部は、端部を埋設することにより、又は端部を壁に確実にボルト締めすることにより、一対の隣接する水平耐荷重要素330、即ちコンクリート耐震壁と構造的に係合させられる。板310,312は建築物に必要な構造的結合性をもたらすと共に、水平耐荷重要素330の移動に追従するのに十分な程度の剛性を有することにより、水平耐荷重要素330の2つの端部間の異なる移動を倍加させて、次には2組の板310,312の間で、エネルギ分散材料320を剪断変形させる。図3は、5枚の板312に連結された4枚の板310からなる制振システムの構成の一例を開示する。4枚の板310は、エネルギ分散材料320の円板を介して、5枚の板312に連結される。エネルギ分散材料320が取り付けられた水平耐荷重要素330が水平方向の変形を受けた時に、剪断変形を受ける8層のエネルギ分散材料320がある。
【0016】
使用されるエネルギ分散材料320は、高制振ゴム又は高制振粘弾性材料、又はエネルギを分散させる(変位依存型又は速度依存型)他の材料である。
図4は、本発明に係る制振システム10の他の例を開示しており、第1組の4枚の板410を含む。第1組の4枚の板410は、図3のように、エネルギ分散材料42の大きな矩形形状部分によって、第2組の5枚の板412に連結される。制振効果を最大限にするべく、使用される板の数、及びエネルギ分散材料の長さ、幅、厚み及び形状の変更が、制振システムを特定の用途に同調させるために用いられ得る。また図4は、制振システム10を水平耐荷重要素430に固定するために、板412の一端に固定システム414を開示する。
【0017】
図5は、制振システム10の一形態を開示しており、ダンパ510のエネルギ分散部は別々に構成され、更に硬質の延長要素520に連結され、次には、後で例えば建築現場で、水平耐荷重要素530と構造的に係合されるように構成される。
【0018】
図6は、水平方向の変形を受ける構造体610を開示する。耐震壁614を連結する連結梁616は、制振システム10と共に変形させられる。
それ故、本発明の好適な実施形態は、付加的な制振をもたらすべく、構成に拘わらず、2個以上の水平耐荷重構造要素の間で、両方の直交方向への面内相対変形を利用する。
【0019】
上記実施形態は、現用の制振システムと比較して、相対的に安価な制振システムを提供する。
好適な実施形態は更に、制振システムが装備される建築構造物の建築及び構造形態への大きな変化をもたらすことなく装備され得、また簡単に構成されると共に通常の制振システムへの単純な置換をもたらす制振システムを提供する。
【0020】
ここに説明する本発明の実施形態は、風荷重、地震荷重、及び突風荷重等の水平方向の
荷重を受ける建築物に関する一方、限定的ではない他の構造物を含む本発明の他の有用な用途は、当該技術分野に属する者であれば理解できる。
【0021】
これで、本発明の現在好適な実施形態の説明を終える。前述は例証を目的として提示されており、排他的であるものではなく、また本発明を開示される精確な形態に限定するものではない。上記の教示を鑑みて、多くの変形及び変更が可能であると共に、当該技術分野に属する者であれば理解できる。例えば、第1組及び第2組を構成する板は、鋼材から作られると説明されているが、建築物に必要な構造結合性をもたらすと共に、壁又は梁などの水平耐荷重要素の移動に追従するのに十分な剛性を有する材料、例えば他の金属及び合金、高強度樹脂補強複合物等が使用されてもよい。また、エネルギ分散材料は、多様な材料、例えば天然又は合成ゴム(SBR,ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム等)から選択されてもよく、この選択は当該技術分野の技術内にある。本発明の範囲は、本記載によってではなく、以下の請求の範囲によって限定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1A】一般的な建築物において、連結された耐震壁を示す側面図。
【図1B】一般的な建築物において、構造用鋼筋かい入りラーメンを示す側面図。
【図1C】一般的な建築物において、構造用鋼材又は補強コンクリートモーメントラーメンを示す側面図。
【図1D】一般的な建築物において、水平耐荷重システム、構造用鋼材筋かい入りラーメン及び補強コンクリート耐震壁の組み合わせを示す側面図。
【図2A】高層ビルにおいて壁の間に連結されている2個の耐震壁を示す側面図。
【図2B】高層ビルにおいて筋かい入りラーメンの間に連結された構造用鋼材筋かい入りラーメンを示す側面図。
【図2C】高層ビルにおいて、開示耐モーメントラーメンの間に連結されている構造用鋼材又は補強コンクリートモーメントラーメンを示す側面図。
【図2D】高層ビルにおいて、鋼材筋かい入りラーメン及びコンクリート耐震壁の間に連結されている水平耐荷重システム、補強コンクリート耐震壁に連結された構造用鋼材筋かい入りラーメンの組み合わせを示す側面図。
【図3】5個の鋼板に連結された4個の鋼板及びそれらの間に挟持された4層の高制振材料を含む本発明の一形態を示す一連の図(直交方向、断片、平面及び側面図)。
【図4】2個の耐震壁の間にダンパが連結された、提案された固定システム及び連結域形態の一例を伴うエネルギ分散材料の代替形態を示す一対の図(直交方向及び平面図)。
【図5】ダンパシステムを2個の耐震壁の間に連結されるように構成するために任意の延長部材が使用される発明の一実施形態を示す一対の図(直交方向及び平面図)。
【図6】開示される本発明が壁の間に連結されて、変形をうける2個の耐震壁を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体に使用する制振システムであって、
a)第1組の板と、該第1組の板は、該構造体内で第1耐荷重構造要素と係合する第1端部を有しており、
b)第2組の板と、該第2組の板は、該構造体内で第2耐荷重構造要素と係合する第2端部を有しており、該第2対荷重構造要素は、前記第1対荷重構造要素に隣接して配置されており、
c)前記第1組の板を前記第2組の板に連結し、かつエネルギ分散材料を含む連結手段と
を含むことを特徴とする制振システム。
【請求項2】
前記板組の各々は、複数の実質的に平行且つ間隔があけられた板を含み、前記第1組の板は前記第2組の板と互いに噛み合うことを特徴とする請求項1に記載の制振システム。
【請求項3】
前記第1組の板の各板は、該第1組の板の他の各板と付加的に連結されると共に、前記第2組の板の各板は、該第2組の板の他の各板と付加的に連結されることを特徴とする請求項1又は2に記載の制振システム。
【請求項4】
前記第1端部は、前記第1耐荷重構造要素と連結する硬質延長要素を含むことを特徴とする請求項1乃至3に記載の制振システム。
【請求項5】
構造体の制振を増加させる方法であって、
a)少なくとも1個の制振システムを、第1耐荷重構造要素及び第2耐荷重構造要素の間に挿入する工程と、該第2対荷重構造要素は、該第1耐荷重構造要素に隣接して配置されており、
前記制振システムは、第1耐荷重構造要素と係合する第1端部を備えた第1組の板と、第2耐荷重構造要素と係合する第2端部を備えた第2組の板とを含み、該第1組の板はエネルギ分散材料によって、該第2組の板と連結させられる
ことを特徴とする方法。
【請求項6】
前記挿入工程は、前記構造体の階毎に、少なくとも1個の制振システムを挿入する工程を含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
一層の制振を伴う構造体であって、
第1耐荷重構造要素と、
前記第1耐荷重構造要素に隣接して配置される第2耐荷重構造要素と、
少なくとも1個の制振システムとを含み、該システムは、
前記構造体内において、前記第1耐荷重構造要素との係合する第1端部を備えた第1組の板と、
前記構造体内において、前記第2耐荷重構造要素との係合する第2端部を備えた第2組の板と、
前記第1組の板を前記第2組の板に連結させるのに有効な連結手段とを含み、該連結手段はエネルギ分散材料からなる
ことを特徴とする構造体。
【請求項8】
前記構造体は、該構造体の階毎に、少なくとも1個の前記制振システムを含むことを特徴とする請求項7に記載の構造体。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−513898(P2009−513898A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−536887(P2008−536887)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【国際出願番号】PCT/CA2006/000985
【国際公開番号】WO2007/048217
【国際公開日】平成19年5月3日(2007.5.3)
【出願人】(508129296)ヨールズ パートナーシップ インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】YOLLES PARTNERSHIP INC.
【出願人】(508129300)
【氏名又は名称原語表記】CHRISTOPOULOS,Constantin
【出願人】(508129322)
【氏名又は名称原語表記】MONTGOMERY,Michael
【出願人】(508129311)
【氏名又は名称原語表記】SMITH,Sean
【Fターム(参考)】