説明

フォーム残存フロンガスの測定方法

【課題】
フォーム中の残存フロンガスを測定する方法。
【解決手段】
以下の工程により、ポリウレタンフォーム中のフロンを測定する方法であって、
(1)密封容器内に、フロンガスを所定量飛散させ、密封容器内のフロンガス濃度を測定して検量線を作成する第一工程、
(2)ポリウレタンフォームを密封容器内で粉砕してポリウレタンフォームに残存しているフロンガスを飛散させる第二工程、
(3)密封容器内を混合攪拌して密封容器内の気体を抜き取り、ガスクロマトグラフィーでフロンガス濃度を測定し、第一工程で作成した検量線からポリウレタンフォームに残存するフロンガス量を算出する第三工程、
からなることを特徴とする測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質ポリウレタンフォーム(セル)中に残存しているフロンガスの量を測定する方法に関するものであり、押出法ポリスチレンフォーム等の発泡プラスチック中の残存フロンガス量の測定にも応用可能である。
【背景技術】
【0002】
硬質ポリウレタンフォーム等のポリウレタンフォームを製造する際には、発泡剤としてフロンガス系発泡剤が使用されている。主たる発泡剤として用いられているフルオロカーボン類やクロロフルオロカーボン類にはオゾン層破壊等の問題があり、これに代る次世代の発泡剤として、オゾン層を破壊することのないハイドロフルオロカーボン(HFC)が候補に挙げられているが、一方で、このものは強い地球温暖化作用が問題となる。このようなことから、ポリウレタンフォーム中に残存しているフロンガス系発泡剤の量を把握することは、環境面やリサイクル処理の観点で重要となってくる。
【0003】
先行技術として、ポリウレタンフォーム中に残存するフロンガスを回収する方法として特許文献1〜2が示されている。

【特許文献1】特開2001−170936
【特許文献2】特開2005−306776
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、当該技術ではポリウレタンフォーム中のフロンガスの量を正確に定量できるものではなく、独立発泡のセル内部にフロンガスが残存してしまいポリウレタンフォーム中に一定量のフロンガスが残留してしまう問題がある。このような理由から、ポリウレタンフォーム中に残存しているフロンガスの量を的確に把握することは困難であった。また、フロンガスが残存しているポリウレタンフォームを粉砕等により廃棄処理する場合、フロンガスが多量に飛散してしまい、適切なリサイクル処理ができない等の問題も生じてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、これらの課題を達成するために鋭意検討した結果、ポリウレタンフォームを密封容器内で粉砕して、その気中濃度を測定することにより、ポリウレタンフォームに残存するフロンガスを定量することを見出すに至った。
【0006】
すなわち、本願発明は、以下のとおりである。
以下の工程により、ポリウレタンフォーム中のフロンを測定する方法であって、
(1)密封容器内に、フロンガスを所定量飛散させ、密封容器内のフロンガス濃度を測定して検量線を作成する第一工程、
(2)ポリウレタンフォームを密封容器内で粉砕してポリウレタンフォームに残存しているフロンガスを飛散させる第二工程、
(3)密封容器内を混合攪拌して密封容器内の気体を抜き取り、ガスクロマトグラフィーでフロンガス濃度を測定し、第一工程で作成した検量線からポリウレタンフォームに残存するフロンガス量を算出する第三工程、
からなることを特徴とする測定方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、ポリウレタンフォーム中に残存するフロンガスの量を定量することが可能となる。これにより、ポリウレタンフォームをリサイクル処理する際にあらかじめフロンガスの飛散量を把握することが可能となり、固体アルカリ材等の吸着剤にフロンガスを送り込み化学反応により吸着処理を行う際の吸着剤の種類や量の選定が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、密封された容器内で、ポリウレタンフォームを細かに粉砕してフロンガスを飛散させ、密封容器内のフロン濃度ガス濃度を定量することにより、ポリウレタンフォームセル中のフロンガスを定量するものである。
【0009】
本発明で測定可能なフロンガスとしては、ポリウレタンフォームを製造する際に発泡剤として使用される可能性のあるものとしてフルオロカーボン類やクロロフルオロカーボン類が挙げられる。
フルオロカーボン類としては、例えば1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブタン、フッ化メチル、パーフルオロメタン、フッ化エチル、1,1−ジフルオロエタン、1,1,1−トリフルオロエタン(HFC−143a)、ジフルオロメタン、パーフルオロエタン、2,2−ジフルオロプロパン、1,1,1−トリフルオロプロパン、パーフルオロプロパン、ジクロロプロパン、ジフルオロプロパン、パーフルオロブタン、パーフルオロシクロブタン、1,1,1,2,3,3,3ヘプタフルオロプロパン(HFC−227ea)、ペンタフルオロエタン(HFC−125)、1,1−ジフルオロエタン(HFC−152a)等が挙げられる。
クロロフルオロカーボン類としては、1,1−ジクロロ-1-フルオロエタン(HCFC−141b)、1−クロロ−1,1−ジフルオロエタン(HCFC−142b)、1,1−ジクロロ−2,2,2−トリフルオロエタン(HCHC−123)、及び1−クロロ−1,2,2,2−テトラフルオロエタン(HCFC−124)、トリクロロモノフルオロメタン(CFC−11)、ジクロロジフルオロメタン(CFC−12)、トリクロロトリフルオロエタン(CFC−113)、1,1,1−トリフルオロエタン、ペンタフルオロエタン、ジクロロテトラフルオロエタン(CFC−114)、クロロヘプタフルオロプロパン、及びジクロロヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。
【0010】
本発明で分析可能なポリウレタンフォームとしては、前記フロンガスを用いて製造された、冷蔵庫や家屋の断熱材として使用されている硬質ポリウレタンフォーム等が挙げられる。
【0011】
<前準備:ポリウレタンフォーム中のフロンガスの定性>
ポリウレタンフォームに残存するフロンガスを定量するには、まず始めに、ポリウレタンフォーム中に含まれるフロンガスの種類を定性する必要がある。
定性方法としては、ポリウレタンフォームをビニール袋等に入れて手で粉砕し、その後、袋内の気体をサンプリングして質量分析(各メーカーで販売されている質量分析装置が使用でき、特に限定はない。また、GC部については後述のGC測定条件に準ずる)を行い、フロンガスの定性を行う手法が挙げられる。その他、有機溶媒で抽出してサンプリングしたり、ポリウレタンフォームにガスタイトシリンジを直接差し込んでフロンガスをサンプリングする等した後、質量分析計でフロンガスを定性する方法が挙げられる。
【0012】
<第一工程:検量線作成工程>
まず始めに、密封容器の中に定性分析により求められたフロンガスを所定量飛散させる。その後、密封容器内のフロンガスをサンプリングして、ガスクロマトグラフィー(以後GCと略す)に注入してピーク面積を測定する。
その後、同様に異なるフロンガス濃度のサンプル測定を数点行い、密封容器内のフロンガス濃度とGCのピーク面積から検量線を作成する。

密封容器内のフロンガス濃度(mg/L) =密封容器内に飛散させたフロンガス量(mg)/密封容器の容積(L)

y=Ax+B

y :密封容器内のフロンガス濃度(mg/L)
x :GCによるフロンガスのピーク面積
A及びB:検量線サンプル測定結果から二次関数を作成して求めた値

【0013】
本発明において、使用するGC装置としては特に限定はなく、各メーカーのGC装置が使用可能である。検出器としては、熱伝導度型検出器(TCD)、水素炎イオン化検出器(FID)、電子捕捉型検出器(ECD)等が使用可能であるが、低濃度試料が測定可能であることから水素炎イオン化検出器(FID)が好ましい。
【0014】
本発明で使用するカラムとしては、無極性又は微極性の充填剤を用いたカラムを使用することが好ましい。この中でも、無極性であることが好ましく、100%ジメチルポリシロキサン、50%n−オクチル50%メチルポリシロキサンで修飾された充填剤を使用することが特に好ましい。極性を有する充填剤を用いたカラムを使用した場合、カラム充填剤にフロンガスが吸着してピークにテーリング等が発生してしまい、フロンガスの定量精度が落ちてしまう等の問題が生じてしまう。

【0015】
<第二工程:ポリウレタンフォーム粉砕工程>
次に、ポリウレタンフォームと、ポリウレタンフォームを粉砕するための道具としてサンドペーパー等を密封容器内に入れる。その後、ポリウレタンフォームを密封容器内でサンドペーパー等を用いて粉砕して、セル内部に残存しているフロンガスを飛散させる。
【0016】
本発明で使用する密封容器は、密封状態を保ちながら容器内で作業することが可能であり、容器中の気体をサンプリングできるものであれば良い。その中でも、グローブボックス等の気密性の高いものを用いる方が、正確な定量ができる点で好ましい。
【0017】
本発明で使用するサンドペーパーとしては、10〜200番のものがポリウレタンフォームを細かく粉砕するのに適しているので好ましく、20〜100番のものがもっとも好ましい。10番以下だと、粉砕後のポリウレタンフォームの粒径が大きくなってしまうことにより未破壊のセルが残ってしまい、200番以上だとサンドペーパーが目詰まりを起こしポリウレタンフォームを粉砕することが困難になってしまう。
【0018】
粉砕後のフォーム粒子の大きさとしては、直径が600μm以下であることが好ましく、300μm以下であることが最も好ましい。600μmを超えると、フォームセルが破壊されずに、粉砕されたフォームの中に残存するフロンが存在することがあるので、正確な定量を行うことが困難となってしまう。

【0019】
<第三工程:残存フロンガス測定工程>
ポリウレタンフォームを粉砕した後、密封容器内雰囲気を手でかき混ぜて混合撹拌して均一にする。その後、密封容器のサンプリング口から容器内の気体を0.1〜1.0ccサンプリングして、GC測定することによりフロンガスのピーク面積を求める。
その後、第一工程で作成した検量線とピーク面積から密封容器内のフロンガス濃度を求め、フロンガスの飛散量を算出する。
【実施例】
【0020】
<定性分析>
家屋の断熱材より取り出した硬質ポリウレタンフォームA(未知サンプル)を、実施例の分析サンプルとした。硬質ポリウレタンフォームAの一部を市販のビニール袋に入れ手で簡単に粉砕した。その後、30分ほど放置して、ビニール袋内部の気体をガスタイトシリンジで1ccサンプリングして、下記条件で質量分析を行った。この結果、硬質ポリウレタンフォームAに含まれているフロンガスは、「HCFC−141b」であることが判明した。

(質量分析条件)
GC装置 :GC−2010(島津製作所製)
質量分析部 :GCMS−2010 QP2010(島津製作所製)
キャリアガス:ヘリウム
カラム :NB−1(膜厚;0.40μm、長さ;60m、内径;0.25mmID、100%ジメチル−ポリシロキサン修飾、GLサイエンス社製)
カラム温度 :35℃(12min)温調後、5℃/minで昇温して150℃まで加熱気化室 :SPL;180℃、線速度;20cm秒、スプリット比=5
検出器 :FID、180℃
GC注入量 :0.3cc(ガスタイトシリンジ)

【0021】
<第一工程>
(調整例1)
まず始めに、25℃に温調された実験室で、グローブボックス(容積:97.2L、アズワン社製「AS−600P」)内を5分間窒素パージして、密封容器内を窒素雰囲気化する。
次に、定性分析により判明したHCFC−141bを、密封可能なサンプル容器(22mLヘッドスペース用バイアル、パーキンエルマー社製)に500mg秤量して、グローブボックス内に入れ、再度、窒素パージを行いながらグローブボックスを密閉する。その後サンプル容器を開けてHCFC−141bを飛散させ、グローブボックス内の大気を撹拌して雰囲気を均一にした後、サンプリング口よりガスタイトシリンジ(容量3.0cc、メーカー:ハミルトン社製)を差し込んで内部を5回ポンピング置換行った後、1.0cc気体を採取し、GCに0.3cc注入してピーク面積を求めた(S1)。
【0022】
(調整例2〜6)
S1と同様の方法で、表1に従い、濃度の異なる検量線サンプルを作成して、GCによりピーク面積を求めた(S2〜S6)。S1〜S6で求めたピーク面積と、グローブボックス内のHCFC−141bの濃度を以下の式からもとめた値を表1に記載する。

グローブボックス内のHCFC−141b濃度(mg/L)
=HFC−141b(mg)/97.2(L)

横軸にGCのピーク面積<x>をとり、縦軸にグローブボックス内のHCFC−141bの濃度<y(mg/L)>をとったグラフから検量線を作成した。以下に本発明で使用した検量線を示す。
検量線:y=7.0×10−6x−0.0341

【0023】
【表1】



【0024】
今回行ったGC測定条件は以下の通りである。
GC装置 :GC−2010(島津製作所製)
キャリアガス:ヘリウム
カラム :NB−1(膜厚;0.40μm、長さ;60m、内径;0.25mmID、100%ジメチル−ポリシロキサン修飾、GLサイエンス社製)
カラム温度 :35℃(12min)温調後、5℃/minで昇温して150℃まで加熱気化室 :SPL;180℃、線速度;20cm秒、スプリット比=5
検出器 :FID、180℃
GC注入量 :0.3cc(ガスタイトシリンジ)
【0025】
<第二工程>
(実施例1)
HCFC−141bを発泡剤として成形された硬質ポリウレタンフォームAから49.8mm×49.8mm×100.2mmにサンプル(a1)を切り出し、サンドペーパーと一緒にグローブボックス内に入れて窒素パージを行った。
次にゆっくりとサンドペーパー(40番、トラスコシートペーパー、「GBS−40」TRUSCO社製)で硬質ポリウレタンフォームを粉砕して、フォーム内部のHCFC−141bを十分に飛散させた。
【0026】
<第三工程>
硬質ポリウレタンフォームを粉砕した後、グローブボックス内の雰囲気を十分に撹拌させて均一にした。その後、サンプリング口より、ガスタイトシリンジを差し込んで内部を5回ポンピング置換行った後、1.0cc気体を採取し、GCに0.3cc注入してピーク面積を求めた。
【0027】
(実施例2、3)
実施例1と同様に、硬質ポリウレタンフォームAからサンプル(a2)と(a3)を切り出し、フロンガスの測定を行った。結果を表2に記載する。
【0028】
【表2】

【0029】
同一サンプルを測定した実施例1〜3はほぼ同一の分析値を示しており、硬質ポリウレタンフォームAに残存しているHCFCー141bの量は約89.6ml(実施例1〜3の平均値)であることが分かった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程により、ポリウレタンフォーム中のフロンを測定する方法であって、
(1)密封容器内に、フロンガスを所定量飛散させ、密封容器内のフロンガス濃度を測定して検量線を作成する第一工程、
(2)ポリウレタンフォームを密封容器内で粉砕してポリウレタンフォームに残存しているフロンガスを飛散させる第二工程、
(3)密封容器内を混合攪拌して密封容器内の気体を抜き取り、ガスクロマトグラフィーでフロンガス濃度を測定し、第一工程で作成した検量線からポリウレタンフォームに残存するフロンガス量を算出する第三工程、
からなることを特徴とする測定方法。

【公開番号】特開2009−222477(P2009−222477A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65419(P2008−65419)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000230135)日本ポリウレタン工業株式会社 (222)
【Fターム(参考)】