説明

フタロシアニン誘導体、フタロシアニン誘導体の製造方法および色素増感型太陽電池

【課題】長波長側の吸収端が長く、可視光領域における光を吸収し、より吸収波長領域が拡大したフタロシアニン誘導体、該フタロシアニン誘導体の製造方法および色素増感型太陽電池を提供する。
【解決手段】フタロシアニン誘導体は、下記一般式(I)で表される。ただし、一般式(I)中において、X1はチオフェン骨格を有する電子供与基であり、X4は電子吸引基、X2およびX3は電子供与基または電子吸引基のいずれかの置換基であり、nはX1ないしX4のそれぞれについて独立して選択可能である1以上の整数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フタロシアニン誘導体、該フタロシアニン誘導体の製造方法、および該フタロシアニン誘導体を光吸収物質として使用する色素増感型太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、地球環境にかかる負荷が極めて低いことから、クリーンなエネルギー供給源として、より一層の普及が期待されている。特に、色素増感型太陽電池は、比較的簡単な構造のため、量産し易く、また、低コストかつ低エネルギーで製造できることから注目されている。
【0003】
一般的に、色素増感型太陽電池は、透明導電膜基板上に形成した半導体多孔質膜(二酸化チタン等)に光増感色素を吸着させた光極と、透明導電膜基板上に白金または炭素等からなる還元触媒を形成した対極とを対向させ、両極間にヨウ素やヨウ化物イオン等の酸化・還元種を含む有機電解液を充填して構成されている。
【0004】
このような色素増感型太陽電池の光吸収物質として、フタロシアニン誘導体が使用される場合がある。フタロシアニン誘導体を色素増感型太陽電池の光吸収物質として適用した場合、一般的に太陽電池としての変換効率が高くなる。例えば、特許文献1に、そのような色素増感型太陽電池に使用されるフタロシアニン誘導体およびその製造方法について記載されている。
【0005】
特許文献1のフタロシアニン誘導体では、金属を配位したフタロシアニンの外周ベンゼン環に、電子供与基と電子吸引基とを非対称に導入することを特徴としている。具体的には、電子供与基は、−R、−ORまたは−NRR’(RまたはR’は、直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、フェニル基または1以上の水素がアルキル基で置換されたフェニル基)であると記載されており、また、電子吸引基は、−Yまたは−Y(YはCOOH、COOR、SOHおよびPOHからなる群からそれぞれ選択される置換基;mは1以上の整数)であると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−231040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載されている実施例での分析データおよび吸光度スペクトルによると、当該フタロシアニン誘導体および当該フタロシアニン誘導体を用いた光電セルの吸光度スペクトルは、長波長側の吸収端が750nm以下であり、かつ550nm前後の可視光領域に吸収を示さないということがわかる。すなわち、このような吸光波形では、全太陽光スペクトルのうちの一部分の波長の光しか吸収することができず、色素増感型太陽電池としての性能が得られにくい。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、長波長側の吸収端が長く、可視光領域における光を吸収し、より吸収波長領域が拡大したフタロシアニン誘導体、該フタロシアニン誘導体の製造方法および色素増感型太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係るフタロシアニン誘導体は、下記一般式(I)で表されることを特徴とする。
【化1】


(ただし、一般式(I)中において、X1は下記化2で表されるチオフェン骨格を有する電子供与基であり、X4は−Yまたは−Yで表される電子吸引基であり(YはCOOH、COOR、SOH、POHの少なくとも一つを有し、mは1以上の整数を示す)、X2およびX3は電子供与基または電子吸引基のいずれかの置換基であり、nはX1ないしX4のそれぞれについて独立して選択可能である1以上の整数であり、MはZn、Cu、Ni、Co、Ru、Al、Rh、Os、Pb、SnまたはPのいずれかである。)
【化2】

【0010】
前記X2または前記X3は、前記X1または前記X4のいずれかの置換基と等しいことがさらに好ましい。
【0011】
前記X1は、直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、フェニル基、1以上の水素がアルキル基置換されたフェニル基のいずれか一つを有することがより好ましい。
【0012】
前記X1は、下記化3、化4、化5または化6のいずれかであることが好ましい。
【化3】


【化4】


【化5】


【化6】


(ただし、上記化3ないし化6において、RおよびR’は、水素、直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、フェニル基、または、1以上の水素がアルキル基で置換されたフェニル基のいずれかを示す。)
【0013】
前記X4は、下記化7、化8、化9、化10、化11、化12または化13のいずれかであることが好ましい。
【化7】


【化8】


【化9】


【化10】


【化11】


【化12】


【化13】

【0014】
前記X2および前記X3は、前記X1と同じ置換基であることがより好ましい。
【0015】
前記X1は、下記化14、化15、化16または化17のいずれかであることがさらに好ましい。
【化14】


【化15】


【化16】


【化17】

【0016】
前記フタロシアニン誘導体は、下記一般式(II)、(III)、(IV)、(V)、(VI)、(VII)または(VIII)のいずれかで表されることが最も好ましい。
【化18】


【化19】


【化20】


【化21】


【化22】


【化23】


【化24】

【0017】
本発明の第2の観点に係るフタロシアニン誘導体の製造方法は、第1の観点に係るフタロシアニン誘導体の製造方法であって、
下記一般式(IX)および(X)のフタロニトリル誘導体を反応させる工程を含むことを特徴とする。
【化25】


【化26】


(ただし、一般式(IX)および(X)中において、X1は下記化27で表されるチオフェン骨格を有する電子供与基であり、X4は−Yまたは−Yで表される電子吸引基であり(YはCOOH、COOR、SOH、POHの少なくとも一つを有し、mは1以上の整数を示す)、nはX1またはX4のそれぞれについて独立して選択可能である1以上の整数である。)
【化27】

【0018】
本発明の第3の観点に係るフタロシアニン誘導体の製造方法は、第1の観点に係るフタロシアニン誘導体の製造方法であって、
下記一般式(IX)および(XI)のフタロニトリル誘導体を反応させる工程と、前記一般式(XI)のZを−Yまたは−Yで表される電子吸引基に置換する1または複数の工程と、を含むことを特徴とする。
【化28】


【化29】


(ただし、一般式(IX)および(XI)中において、X1は下記化30で表されるチオフェン骨格を有する電子供与基であり、Zは1または複数の工程の反応によって最終的に−Yまたは−Yで表される電子吸引基に置換可能なものであり(YはCOOH、COOR、SOH、POHの少なくとも一つを有し、mは1以上の整数を示す)、nはX1またはZについてそれぞれ独立して選択可能である1以上の整数である。)
【化30】

【0019】
本発明の第4の観点に係る色素増感型太陽電池は、第1の観点に係るフタロシアニン誘導体を光吸収物質として使用することを特徴とする。
【0020】
前記フタロシアニン誘導体が、二酸化チタンナノ粒子焼結体に吸着していることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、長波長側の吸収端が長く、可視光領域における光を吸収し、より吸収波長領域が拡大したフタロシアニン誘導体、該フタロシアニン誘導体の製造方法および色素増感型太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】色素増感型太陽電池の基本構成を示す図である。
【図2】フタロシアニン誘導体エタノール溶液の紫外可視光吸収スペクトルの測定結果のデータを示す図である。
【図3】二酸化チタンナノ粒子焼結体に吸着させた状態での紫外可視光吸収スペクトルの測定結果のデータを示す図である。
【図4】図3の紫外可視光吸収スペクトルの測定結果のピーク吸光度が等しくなるよう規格化したデータを示す図である。
【図5】太陽電池セルの光電変換効率スペクトルの測定結果のデータを示す図である。
【図6】太陽電池セルの電流電圧特性の測定結果のデータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0024】
(フタロシアニン誘導体)
本実施の形態に係るフタロシアニン誘導体は、下記一般式(I)で表される。
【化31】

【0025】
ただし、一般式(I)中において、X1は下記化32で表されるチオフェン骨格を有する電子供与基である。また、X4は−Yまたは−Yで表される電子吸引基である(YはCOOH、COOR、SOH、POHの少なくとも一つを有し、mは1以上の整数を示す)。X2およびX3は、例えばチオフェン骨格を有する電子供与基、または、前述したX4のように表される電子吸引基のいずれかの置換基である。好ましくは、X2またはX3は、X1またはX4のいずれかの置換基と等しい。nはX1ないしX4のそれぞれについて独立して選択可能である1以上の整数である。
【化32】

【0026】
つまり、フタロシアニン骨格における4つのベンゼン環に対し、電子供与基と電子吸引基とを非対称に導入することで、電子供与基から電子吸引基への電子の流れを形成すること、電子吸引基として、上述の置換基を採用することで、色素増感型太陽電池に汎用される酸化チタンなどの半導体に対し強固に結合させることを組み合わせている。従って、電子供与基から電子吸引基への電子の流れを形成すると共に、電子吸引基により酸化チタンなどに結合させることで、フタロシアニン誘導体が吸収した光により発生するエネルギーを効果的に伝えることが可能になり、色素増感型太陽電池に適用した場合に高い電池性能を発揮できる(特許文献1参照)。さらに、電子供与基としてチオフェンを基本骨格とした置換基を用いることで、フタロシアニン環本体の共役系がチオフェン置換基にまで拡張し、吸収波長領域を長波長領域にまで拡大させることが可能である(実施例2参照)。
【0027】
また、上記一般式(I)中のX4(−Yまたは−Y)のYにおいて、好ましくはCOOH(カルボキシル基)を有する。これは、本発明のフタロシアニン誘導体を色素増感型太陽電池の光吸収物質として使用する際に、より高い効果を生じる為である。
【0028】
具体的には、二酸化チタンナノ粒子焼結体上に本実施の形態に係るフタロシアニン誘導体を吸着させた際に、X4置換基のカルボキシル基が二酸化チタンと結合することで、フタロシアニン誘導体の電気的な状態がさらに変化し、溶液状態では観察されない500nmから600nm付近の可視光領域における吸収が現れ、かつ900nm付近のより長い長波長領域まで吸収が拡張する為である(実施例2参照)。
【0029】
さらに、上記一般式(I)中のX1では、好ましくは直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、フェニル基、1以上の水素がアルキル基置換されたフェニル基のいずれか一つを有する。また、より好ましくは、X1は下記化33、化34、化35または化36のいずれかである。なお、下記化33ないし化36において、RおよびR’は、水素、直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、フェニル基、1以上の水素がアルキル基置換されたフェニル基のいずれかを示す。
【化33】


【化34】


【化35】


【化36】

【0030】
上記一般式(I)中のX4は、好ましくは下記化37、化38、化39、化40、化41、化42または化43のいずれかである。
【化37】


【化38】


【化39】


【化40】


【化41】


【化42】


【化43】

【0031】
さらに好ましくは、X1は下記化44、化45、化46または化47のいずれかである。
【化44】


【化45】


【化46】


【化47】

【0032】
なお、上記一般式(I)中において、MはZn、Cu、Ni、Co、Ru、Al、Rh、Os、Pb、SnまたはPのいずれかである。これらの元素がMとして導入される場合の酸化数としては、Zn(II)、Cu(II)、Ni(II)、Co(II)、Ru(II)、Al(III)、Rh(III)、Os(II)、Pb(IV)、Sn(IV)およびP(V)を例示することができる。これらの元素のうち、最も好ましくはZnである。Mの価数が4を超える場合には、ピリジンもしくはその誘導体、またはその他の配位子が配位した構造を採用することができる。
【0033】
従って、上述の好適な特徴を採用すると、本実施の形態に係るフタロシアニン誘導体のうち最も好ましくは、下記一般式(II)、(III)、(IV)、(V)、(VI)、(VII)または(VIII)のいずれかで表される。これらの構造式で示されるフタロシアニン誘導体を、以下、それぞれ、フタロシアニン誘導体A、B、C、D、E、FおよびGと示す。
【化48】


【化49】


【化50】


【化51】


【化52】


【化53】


【化54】

【0034】
(フタロシアニン誘導体の製造方法)
以下、本実施の形態に係るフタロシアニン誘導体の製造(合成)方法について例を挙げ、簡単に説明する。なお、本実施の形態での(出発)原材料および中間合成化合物ならびに有機合成経路は一例であり、当業者であれば他の方法を用いても当該フタロシアニン誘導体の製造(合成)は可能である。
【0035】
基本的にフタロシアニン(フタロシアニン誘導体)は、4分子のフタロニトリルを塩基触媒(ジアザビシクロウンデセン(DBU)等)の存在下において加熱し、環化させて合成することができる。本発明に係るフタロシアニン誘導体は、主に2種類の置換基が3対1の比率で導入されたフタロシアニン誘導体である為、概ね原材料比率を3対1として2種類のフタロニトリルを環化し、例えばカラムクロマトグラフィー等により分離精製して本発明に係るフタロシアニン誘導体を得ることが可能である(下記化55参照)。しかし、原理的には各置換基が導入される場所を制御することはできず、確率により決定される場合が多い。
【化55】

【0036】
フタロシアニン誘導体B、C、D、E、FおよびGの合成経路について簡単に説明する(フタロシアニン誘導体Aの具体的な製造方法については実施例1において説明する)。まず、フタロシアニン誘導体Bでは、例えば、下記化56および化57に示すように、エステル化して保護しておいたカルボキシル基部分を最後に加水分解することによって合成可能である。
【化56】


【化57】

【0037】
フタロシアニン誘導体CおよびDでは、例えば、それぞれ下記化58および化59に示すように、カルボキシル基部分は保護せずにそのまま合成することが可能である。
【化58】


【化59】

【0038】
フタロシアニン誘導体Eでは、例えば、下記化60および化61に示すように、フタロシアニン環を環化後、カルボキシル基部分を導入することによって合成することが可能である。このようにフタロシアニン環を環化後、カルボキシル基部分を導入する場合には、下記化60において示す合成式中のI(ヨウ素)の部分は限定されず、例えばBr(臭素)、Mg(マグネシウム)やその誘導体(グリニャール試薬)、B(ホウ素)やその誘導体(ホウ素酸またはその無水物)等でも構わない。
【化60】


【化61】

【0039】
フタロシアニン誘導体Fでは、例えば、下記化62および化63に示すように、フタロシアニン環を環化後、カルボキシル基部分を導入することによって合成することが可能である。
【化62】


【化63】

【0040】
フタロシアニン誘導体Gでは、例えば、下記化64および化65に示すように、エステル化して保護しておいたカルボキシル基部分を最後に加水分解することによって合成可能である。
【化64】


【化65】

【0041】
(色素増感型太陽電池)
次に、本発明に係るフタロシアニン誘導体を光吸収物質として使用する、色素増感型太陽電池について説明する。本実施の形態では、光吸収物質であるフタロシアニン誘導体に特徴を有する為、色素増感型太陽電池の構造については公知のものであれば構わない。以下、その一例について簡単に説明する。図1は、色素増感型太陽電池の基本構成を示す図である。
【0042】
図1に示すように、色素増感型太陽電池1は、光極2、対極3、スペーサ4により光極2と対極3との間に形成される間隙に充填される電解質5を備えている。光極2は、透明電極6と半導体電極7とから構成されている。透明電極6は、光極透明基板8と、光極透明基板8の半導体電極7側をコートするように形成された光極透明導電膜9とから構成されている。光極透明基板8は、光を透過する透明な基板材料等から構成されている。光極透明導電膜9は透明な導電材料から構成されている。
【0043】
半導体電極7は、例えば、二酸化チタン等の金属酸化物からなる半導体層から構成され、その表面に本発明に係るフタロシアニン誘導体が吸着している。例えば、当該フタロシアニン誘導体に結合したカルボキシル基と、半導体電極7の金属酸化物とをエステル結合させることにより、半導体電極7の表面に吸着している。
【0044】
対極3は、電解質5中の酸化還元対に高効率で電子を渡すことができる材料、例えば、対極透明基板10上の対極透明導電膜11に白金等の還元触媒(図示せず)を形成し、還元触媒を電解質5の側に向けて配置させたもの等が用いられる。スペーサ4は、光極2と対極3との間に間隙が形成できるものであればよく、樹脂フィルムまたはシリカビーズ等を用いることができる。電解質5は、光励起され半導体への電子注入を果した後の色素を還元するための酸化還元種を含むヨウ素系レドックス溶液が好ましく用いられている。色素増感型太陽電池1はこのような構造を持つために、光極2と対極3との間に光電流が流れる。
【0045】
このような構造を持つ色素増感型太陽電池のうち、最も好ましくは、光吸収物質である本発明のフタロシアニン誘導体が二酸化チタンナノ粒子焼結体(透明導電膜付きガラス基板に二酸化チタンナノ粒子ペーストをスクリーン印刷法によって塗布し、焼成することによって得られる光極)に吸着している色素増感型太陽電池である。理由はフタロシアニン誘導体に係る実施の形態において述べたとおりである。
【0046】
このように、本発明によれば、長波長側の吸収端が長く、可視光領域における光を吸収し、より吸収波長領域が拡大したフタロシアニン誘導体、および該フタロシアニン誘導体を用いた色素増感型太陽電池を提供することができる。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を示し、本発明をさらに詳しく説明する。なお、以下の実施例は、本発明の好適な一例を示すものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0048】
(実施例1)
実施例1では、実施の形態において述べたフタロシアニン誘導体Aの合成方法について詳細に説明する。
【0049】
まず、4−ニトロフタロニトリル(500mg、2.89mmol)、ジエチルマロネート(462mg、2.89mmol)およびKCO(1.18g、8.67mmol)を、15mlのジメチルスルフォキシドに溶解した。これを、乾燥窒素気流下、80度において、4時間攪拌しつつ加熱を行った。その後、室温まで放冷し、ろ過した。ろ液を氷水と混合し、ジクロロメタンによって抽出を行った。その後、有機層を分離し、減圧下において溶媒を留去することで得られた固形物をシリカゲルカラムにより精製し、4−(1,1−ジカルベトキシ)−フタロニトリルを得た(下記化66参照)。
【化66】

【0050】
さらに、4−(1,1−ジカルベトキシ)−フタロニトリル(800mg、2.80mmol)を、KOH(156mg、2.80mmol)を溶解したエタノールに加え、乾燥窒素気流下において室温で3時間攪拌した。その後、エタノールを留去し、4−(1,1−ジカルベトキシ)−フタロニトリルカリウム塩を得た。
【0051】
アセトンとアセトニトリルとの2:1の混合溶液180mlに、得られた4−(1,1−ジカルベトキシ)−フタロニトリルカリウム塩(1.260g、3.88mmol)を加えて攪拌し、懸濁させたところでエチルブロモアセテート(0.5ml、4.49mmol)を加えた。これを、乾燥窒素気流下において20時間還流した。その後、室温まで放冷し、ろ過を行い、溶媒を留去して油状の残渣を得た。これを、細かく砕いた氷上に空け黄色の固形物を得た。この固形物を収集し、蒸留水で洗浄し、さらにヘキサンで洗浄後、乾燥させ、4−(1,1,2−トリカルベトキシエチル)−フタロニトリルを得た(下記化67参照)。
【化67】

【0052】
次に、3−イオドフタロニトリル(500mg、1.97mmol)、ヘキシルチオフェンブロモ酸ピナコールエステル(639mg、2.17mmol)およびテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0.19mmol)を、10mlの乾燥テトラヒドロフランが入ったフラスコに量り入れ、さらに、炭酸ナトリウム水溶液(10mlの水中において3.48gr、41.49mmol)を加えた。これを乾燥窒素気流下において加熱し、12時間還流後、室温まで放冷した。その後、ろ過を行い、ろ液から溶媒を留去して得られた合成物をシリカゲルカラムを用いて精製し、ヘキシルチオフェンフタロニトリルを得た(下記化68参照)。
【化68】

【0053】
さらに、先に合成した4−(1,1,2−トリカルベトキシエチル)−フタロニトリル(252mg、0.680mmol)と、前述のヘキシルチオフェンフタロニトリル(600mg、2.04mmol)と、Zn(OAc)2HOと、触媒量のジアザビシクロウンデセン(DBU)とを、20mlの乾燥1−ペンタノールに溶解した。これを乾燥窒素気流下において20時間還流を行い、その後、減圧により溶媒を留去した。ここで得られた固形物をシリカゲルカラムを用いて精製し、トリスヘキシルチオフェンモノトリエステルフタロシアニンZn(II)を得た。
【0054】
合成したトリスヘキシルチオフェンモノトリエステルフタロシアニンZn(II)100mgを25mlのエタノールに溶解し、ここに50mgの金属Naを加え、室温において7日間攪拌を行った。その後、溶媒を減圧下において留去し、得られた固形物をエタノールに再度溶解し、希塩酸を用いてpH3に調整した。このようにして得られた固形物をろ別し、これを減圧乾燥することによって、フタロシアニン誘導体Aを合成した(下記化69参照)。
【化69】

【0055】
(実施例2)
実施例2では、実施例1において合成したフタロシアニン誘導体Aを用いた種々の評価について詳細に説明する。
【0056】
実施例1において合成したフタロシアニン誘導体Aを評価するため、従来のフタロシアニン誘導体(特許文献1参照)との比較評価を行った。本実施例において使用した従来のフタロシアニン誘導体の構造式を下記化70に示す。
【化70】

【0057】
まず、フタロシアニン誘導体Aおよび従来の従来のフタロシアニン誘導体の0.01mMエタノール溶液を作成し、紫外可視吸光スペクトルを測定した。図2は、フタロシアニン誘導体エタノール溶液の紫外可視光吸収スペクトルの測定結果のデータを示す図である。図2に示すように、フタロシアニン誘導体Aは、全体的に、従来のフタロシアニン誘導体(比較例)の吸光波形を長波長側にシフトしたような波形を示すことが見て取れた。また、より高い吸光度(absorption)を示していることも見て取れた。
【0058】
次に、二酸化チタンナノ粒子焼結体に吸着させた状態における、フタロシアニン誘導体Aの紫外可視吸光スペクトルについても同様に測定、比較評価した。ここで使用した二酸化チタンナノ粒子焼結体は、透明導電膜付きのガラス基板に二酸化チタンナノ粒子ペーストをスクリーン印刷法によって塗布し、500度で焼成することによって得た。測定は、このガラス基板を対象とする色素のエタノール溶液に浸漬し、規定時間静置した後に取り出し、すすぎ後乾燥させたもので行った(特許文献1参照)。
【0059】
図3は、二酸化チタンナノ粒子焼結体に吸着させた状態での紫外可視光吸収スペクトルの測定結果のデータを示す図である。図3に示すように、フタロシアニン誘導体Aは、全域にわたり高い吸光度(absorption)を示すとともに、従来のフタロシアニン誘導体(比較例)ではほとんど吸収のない400から600nmの可視光領域および700から900nmの近赤外領域にも吸収を示すことがわかった。これらの領域の吸収は、溶液状態ではほとんど吸収の見られない領域であり、フタロシアニン誘導体Aが二酸化チタンに吸着した状態において吸光スペクトルが変化したことがわかる。
【0060】
図4は、図3の紫外可視光吸収スペクトルの測定結果のピーク吸光度が等しくなるよう規格化したデータを示す図である。図4から、前述したフタロシアニン誘導体Aと従来のフタロシアニン誘導体との二酸化チタンナノ粒子焼結体に吸着させた状態での吸光スペクトルが、400から600nmの可視光領域および700から900nmの近赤外領域において大きく異なっていることがよりわかる。さらに、フタロシアニン誘導体Aの方は600から700nmの領域においても幅広い吸収を示しており、400から900nmの領域において全体的により多くの光を吸収することができるということが確認できた。
【0061】
さらに、前述の二酸化チタンナノ粒子焼結体に吸着させたフタロシアニン誘導体Aおよび従来のフタロシアニン誘導体を使用して作製した太陽電池セルの光電変換効率(IPCE)についても測定した。なお、太陽電池セルの構造については、色素増感型太陽電池に係る実施の形態において述べた構造におけるセル単位のものと同様である。
【0062】
図5は、太陽電池セルの光電変換効率スペクトルの測定結果のデータを示す図である。やはり、前述の吸収スペクトル測定の実施例の結果から予想されるように、セルの光電変換効率でも従来の従来のフタロシアニン誘導体のセルに対し、フタロシアニン誘導体Aのセルの方が高い光電変換効率を示した。
【0063】
また、各々の太陽電池セルの電圧電流特性についても測定した。図6は、太陽電池セルの電流電圧特性の測定結果のデータを示す図である。図6に示すように、セルの電流密度(Current_d(mA/cm))電圧(Voltage(V))特性でも、従来のフタロシアニン誘導体のセルに対し、フタロシアニン誘導体Aのセルの方が高い短絡電流密度、高い解放電圧を示すことが確認できた。このように、フタロシアニン誘導体A、ならびに本発明に係るフタロシアニン誘導体を使用した太陽電池セルは、従来のフタロシアニン誘導体と比較してより高い性能を持つということが示された。
【0064】
以上、実施の形態および実施例について説明したが、本発明は上述した実施の形態および実施例に限定されることはなく、本発明の範囲内で種々の実施形態が可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 色素増感型太陽電池
2 光極
3 対極
4 スペーサ
5 電解質
6 透明電極
7 半導体電極
8 光極透明基板
9 光極透明導電膜
10 対極透明基板
11 対極透明導電膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されることを特徴とする、フタロシアニン誘導体。
【化1】


(ただし、一般式(I)中において、X1は下記化2で表されるチオフェン骨格を有する電子供与基であり、X4は−Yまたは−Yで表される電子吸引基であり(YはCOOH、COOR、SOH、POHの少なくとも一つを有し、mは1以上の整数を示す)、X2およびX3は電子供与基または電子吸引基のいずれかの置換基であり、nはX1ないしX4のそれぞれについて独立して選択可能である1以上の整数であり、MはZn、Cu、Ni、Co、Ru、Al、Rh、Os、Pb、SnまたはPのいずれかである。)
【化2】

【請求項2】
前記X2または前記X3は、前記X1または前記X4のいずれかの置換基と等しいことを特徴とする、請求項1に記載のフタロシアニン誘導体。
【請求項3】
前記X1は、直鎖状または分岐状のアルキル基、フェニル基、1以上の水素がアルキル基置換されたフェニル基のいずれか一つを有することを特徴とする、請求項1または2に記載のフタロシアニン誘導体。
【請求項4】
前記X1は、下記化3、化4、化5または化6のいずれかであることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のフタロシアニン誘導体。
【化3】


【化4】


【化5】


【化6】


(ただし、上記化3ないし化6において、RおよびR’は、水素、直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、フェニル基、または、1以上の水素がアルキル基で置換されたフェニル基のいずれかを示す。)
【請求項5】
前記X4は、下記化7、化8、化9、化10、化11、化12または化13のいずれかであることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のフタロシアニン誘導体。
【化7】


【化8】


【化9】


【化10】


【化11】


【化12】


【化13】

【請求項6】
前記X2および前記X3は、前記X1と同じ置換基であることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のフタロシアニン誘導体。
【請求項7】
前記X1は、下記化14、化15、化16または化17のいずれかであることを特徴とする、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のフタロシアニン誘導体。
【化14】


【化15】


【化16】


【化17】

【請求項8】
前記フタロシアニン誘導体は、下記一般式(II)、(III)、(IV)、(V)、(VI)、(VII)または(VIII)のいずれかで表されることを特徴とする、請求項1ないし7のいずれか1項に記載のフタロシアニン誘導体。
【化18】


【化19】


【化20】


【化21】


【化22】


【化23】


【化24】

【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載のフタロシアニン誘導体の製造方法であって、
下記一般式(IX)および(X)のフタロニトリル誘導体を反応させる工程を含むことを特徴とする、フタロシアニン誘導体の製造方法。
【化25】


【化26】


(ただし、一般式(IX)および(X)中において、X1は下記化27で表されるチオフェン骨格を有する電子供与基であり、X4は−Yまたは−Yで表される電子吸引基であり(YはCOOH、COOR、SOH、POHの少なくとも一つを有し、mは1以上の整数を示す)、nはX1またはX4のそれぞれについて独立して選択可能である1以上の整数である。)
【化27】

【請求項10】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載のフタロシアニン誘導体の製造方法であって、
下記一般式(IX)および(XI)のフタロニトリル誘導体を反応させる工程と、前記一般式(XI)のZを−Yまたは−Yで表される電子吸引基に置換する1または複数の工程と、を含むことを特徴とする、フタロシアニン誘導体の製造方法。
【化28】


【化29】


(ただし、一般式(IX)および(XI)中において、X1は下記化30で表されるチオフェン骨格を有する電子供与基であり、Zは1または複数の工程の反応によって最終的に−Yまたは−Yで表される電子吸引基に置換可能なものであり(YはCOOH、COOR、SOH、POHの少なくとも一つを有し、mは1以上の整数を示す)、nはX1またはZについてそれぞれ独立して選択可能である1以上の整数である。)
【化30】

【請求項11】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載のフタロシアニン誘導体を光吸収物質として使用することを特徴とする、色素増感型太陽電池。
【請求項12】
前記フタロシアニン誘導体が、二酸化チタンナノ粒子焼結体に吸着していることを特徴とする、請求項11に記載の色素増感型太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−167189(P2012−167189A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29231(P2011−29231)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(306017184)カウンシル オブ サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ (4)
【Fターム(参考)】