説明

フッ化物結晶の製造方法、およびルツボ

【課題】ブリッジマン法によるフッ化物結晶の新規な製造方法、および新規なルツボを提供する。
【解決手段】縦型ブリッジマン法によるフッ化物結晶の製造方法において、原料粉体を充填するルツボ空洞部21の断面形状のうち、最も短い距離を最短径と定義したときに、ルツボ20の空洞部21の断面は、最短径を例えば2.5cm以下と小さくする。前記空洞部の形状は鉛直とは限らず、多くの、たとえばカーブを描いたものや、らせん状のものなど、目的とする用途に合った形状を作製することが可能であり、また、ルツボは、いくつかに分割することもできる。このように分割することにより、最短径が非常に小さなフッ化カルシウム結晶を作製することができる。最短径を小さくすることにより、結晶内に残留する光学的ひずみが小さくなり、実際に使用する小型の結晶を大型結晶から切り出すよりも実用上有利であり、また小型の方が成長速度を早く、転位密度が減少する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化物結晶の製造方法、およびフッ化物結晶を製造するためのルツボに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紫外線発光素子、青色発光素子等の短波長発光素子を使用した発光素子装置においては、図5に示す如く、この紫外線発光素子、青色発光素子等の短波長発光素子1を例えばエポキシ樹脂2で被う如くしていた。
【0003】
また、この紫外線発光素子、青色発光素子等の短波長発光素子1を使用し、波長変換して可視光を得るようにした発光素子装置はこの被覆したエポキシ樹脂2に例えば燐等の元素を混入し黄色の光を得ていた。
【0004】
また従来KrFやArFエキシマレーザ等の紫外線に対しフッ化カルシウム結晶(蛍石)は耐久性に優れていることが知られている(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2001-33379号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
然しながら、この紫外線発光素子、青色発光素子等の短波長発光素子1は光のエネルギーが高く、この短波長発光素子1を被うエポキシ樹脂2等の結合を分解し失透する。その結果、この短波長発光素子1を使用した発光素子装置においては、使用するに従って発光効率が著しく低下する等の不都合があった。
【0007】
更に、この短波長発光素子1を使用した発光素子装置に波長変換すべく、被覆しているエポキシ樹脂2に例えば燐等の元素を混入し、例えば黄色を発光する発光素子装置としたときには、この短波長光のエネルギーによって、使用するに従ってエポキシ樹脂2の分解が進み、発光効率が低下すると共にこの燐原子が、この短波長発光素子1を構成するダイオードの配線の表面に直接被着し、この配線を腐食し、信頼性を著しく低下させる不都合があった。
【0008】
一方、硬度が大きく、耐酸性に優れ、転位密度が小さく、ひずみ量が小さなフッ化カルシウムの開発が望まれている。
【0009】
本発明の第1の目的は、フッ化物結晶の新規な製造方法を提供することであり、第2の目的は、新規なルツボを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のフッ化物結晶の製造方法は、ルツボの空洞部に原料粉体を充填し、このルツボを縦型ブリッジマン炉で加熱するフッ化物結晶の製造方法において、ルツボの空洞部の断面は、最短径が小さいものである。
【0011】
上述のフッ化物結晶の製造方法において、最短径を2.5cm以下とすることができる。
上述のフッ化物結晶の製造方法において、フッ化物結晶はフッ化カルシウムを含む場合がある。
【0012】
本発明のルツボは、フッ化物結晶を製造するために、その空洞部に原料粉体を充填し、縦型ブリッジマン炉で加熱されるルツボにおいて、空洞部の断面は、最短径が小さいものである。
【0013】
上述のルツボにおいて、最短径を2.5cm以下とすることができる。
上述のルツボにおいて、フッ化物結晶がフッ化カルシウムを含む場合がある。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、ルツボの空洞部に原料粉体を充填し、このルツボを縦型ブリッジマン炉で加熱するフッ化物結晶の製造方法において、ルツボの空洞部の断面は、最短径が小さいので、フッ化物結晶の新規な製造方法を提供することができる。
【0015】
フッ化物結晶を製造するために、その空洞部に原料粉体を充填し、縦型ブリッジマン炉で加熱されるルツボにおいて、空洞部の断面は、最短径が小さいので、新規なルツボを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下図面を参照して本発明発光素子装置、受光素子装置及び光学装置の実施の形態の例につき説明する。
【0017】
図1は、本例による発光素子装置を示し、図1において、10は上面に窓10aが設けられた例えばアルミニウム等の金属より成る金属容器を示し、この金属容器10の窓10aに両面にミラー研磨を施したフッ化カルシウム(CaF2 )結晶より成る窓板11を取付ける如くする。この場合、窓板11を金属容器10に貼付けにより取付けるときは有機接着剤を用いた。
【0018】
本例においては、この金属容器10内に、AlN系レーザダイオード等の紫外線発光ダイオード、GaN系化合物半導体の青色発光ダイオード、半導体発光励起紫外線固体レーザ等の短波長発光素子12を発光方向が窓10a方向となる如く設ける。12a及び12bはこの短波長発光素子12のリード端子である。
【0019】
本例においてはこのフッ化カルシウム結晶より成る窓板11の両面に夫々反射防止用及び吸湿防止用の保護膜として酸化シリコン(SiO2 )又は酸化チタン(TiO2 )の薄い膜13をコートする如くする。かくすることにより、この窓板11を構成するフッ化カルシウム結晶の潮解を防止することができる。この場合、この酸化シリコン(SiO2 )又は酸化チタン(TiO2 )の薄い膜13をコートするのはこの窓板11の表面又は裏面のどちらか一方の面であってもよい。
【0020】
また、本例においては、この金属容器10の内部にアルゴン等の不活性ガスを充満し、化学的に安定にする如くする。
【0021】
この窓板11を形成するフッ化カルシウム結晶体は単結晶体でも多結晶体でも良い。このフッ化カルシウム結晶の製造方法は基本的に結晶の成長法である縦型ブリッジマン法で数mm径の円柱状体を形成し、この窓板11としてはこのフッ化カルシウム結晶体を円筒研削、スライス、研磨を施し仕上げにSiO2 又はTiO2 13を厚み約100nm程度、両面にスパッタし、最終的な厚みを約1mmとした。
【0022】
このフッ化カルシウム結晶の窓板11は短波長の光の透過率が良好で図2に示す如く180nm以上の短波長を100%透過すると共にこのフッ化カルシウム結晶の窓板11は高温でも安定であり、1400℃まで安定である。
【0023】
斯る本例による発光素子装置によれば、フッ化カルシウム結晶より形成した窓板11を設けた窓10aを有する金属容器10内に紫外線発光素子、青色発光素子等の短波長発光素子12を配するようにしたので、このフッ化カルシウム結晶より成る窓板11は、1400℃まで安定で、短波長光のエネルギーに対して耐久性が優れており、且つ短波長光の光透過率が良く、信頼性の良い良好な短波長発光の発光素子装置を得ることができる。
【0024】
また図1例の発光素子装置において、フッ化カルシウム結晶より成る窓板11の表面あるいは裏面に蛍光物質を塗布する如くしても良い。
【0025】
この場合、短波長発光素子12として紫外線発光素子を使用したときは紫外光を白色光等の可視光に変換することができると共に上述同様の作用効果が得られる。
【0026】
また、この場合短波長発光素子12として青色発光素子を使用したときは、この青色光を他の可視光に変換することができると共に上述同様の作用効果が得られる。
【0027】
また図1例の発光素子装置において、フッ化カルシウム結晶より成る窓板11にランタン、ネオジウム、セリウム、カドリニウム、サマリウム、ユーロピウム、エルビウム、ホロニウム等のランタン系金属の1種又は複数種を添加してもよい。
【0028】
この場合、紫外線発光素子、青色発光素子等の短波長発光素子12よりの短波長光をこの窓板11により種々の色光に変換し、種々の色光を発光する発光素子装置を得ることができると共に上述同様の作用効果が得られる。
【0029】
次に、この場合の窓板11を得る具体例につき述べる。
到達真空度10-6Torrの真空ブリッジマン炉を用いカーボン製ルツボ内にフッ化カルシウム(CaF2 )原料200gに対し3gの酸化ネオジウム(Nd2 3 )を添加し、原料を溶融した後、約一時間溶融状態を保持し、温度勾配9℃/cm、時速3cmの成長速度で結晶を成長した。
【0030】
このルツボ内には酸化物から排出される酸素ガスを融液から排出するために粒状のZnF2 結晶あるいは粒状テフロン (登録商標)(CFn)を同時にルツボ内に充填した。このルツボの内径は1cmである。
【0031】
成長後アンプルから結晶を取り出したところ単結晶が成長していた。この成長結晶を約20時間、1000℃で真空度10-6Torrの条件で熱処理した。この結晶は青色であった。
【0032】
この結晶を同筒研削、スライス、研磨を施し仕上げにSiO2 又はTiO2 を両面に厚さ約100nmスパッタし、最終的な厚さ約1mmの窓板11を形成した。
【0033】
この窓板11を使用し、図1に示す如き発光素子装置を形成し、この短波長発光素子12として紫外線発光素子を用いたところ、青色光を発光する発光素子装置が得られた。この発光素子装置においても上述同様の作用効果が得られることは勿論である。
【0034】
また上述と同様にしてフッ化カルシウム結晶にセリウムを添加した窓板11を形成し、この窓板11を使用すると共に短波長発光素子12として紫外線発光素子を使用して図1に示す如き発光素子装置を得たところ短波長発光素子12の200nm〜340nmの発光に対して、この発光素子装置の出射光の波長領域が350nm〜590nmの領域と670nm〜770nmの領域とがあり、青色発色と黄色発色が重なり白色を発光した。これは紫外線発光素子を使用して白色LEDを製作できることになる。またフッ化カルシウム結晶にセリウムを添加した窓板11は360nmより短波長の光を強く吸収する特性が見られる。この発光素子装置においても上述同様の作用効果が得られることは勿論である。
【0035】
また上述と同様にしてフッ化カルシウム結晶にランタンを添加した窓板11を形成し、この窓板11を使用すると共に短波長発光素子12として紫外線発光素子を使用して図1に示す如き発光素子装置を得たところ短波長発光素子12の320nmの発光に対して、この発光素子装置の出射光の波長が370nm近傍で極めて強い発光があり、発光波長領域は広く、短波長発光素子12の発光波長370nmに対して、出射光は500nmまでの発光が確認できた。全体として青ぽく発光したが、更に紫外線発光素子を強く発光したときには黄色い発色と重なり白色の発光が得られた。この発光素子装置においても上述同様の作用効果が得られることは勿論である。
【0036】
また上述と同様にしてフッ化カルシウム結晶にサマリウムを添加した窓板11を形成し、この窓板11を使用すると共に短波長発光素子12として紫外線発光素子を使用し図1に示す如き発光素子装置を得たところ発光中心が2つあり、オレンジ色の発光が最も強く見られた。
【0037】
また、図1例の発光素子装置において、フッ化カルシウムの結晶より成る窓板11にイットリウム等の1種又は複数種の不純物準位を形成する不純物を添加してもよい。
【0038】
この場合、紫外線発光素子、青色発光素子等の短波長発光素子12よりの短波長光をこの窓板11により種々の色光に変換し、種々の色光を発光する発光素子装置を得ることができる。斯る発光素子装置においても上述同様の作用効果が得られることは勿論である。
【0039】
また、図3及び図4は夫々本発明の実施の形態の他の例を示す。この図3及び図4につき説明するに図1に対応する部分には同一符号を付して示し、その詳細説明は省略する。
【0040】
図3例に示す発光素子装置においては、AlN系レーザダイオード等の紫外線発光ダイオード、GaN系化合物半導体の青色発光ダイオード、半導体発光励起紫外線固体レーザ等の短波長発光素子12をフッ化カルシウム結晶粒子14aを混入したエポキシ樹脂14で被う如くする。
【0041】
斯る本例によれば、エポキシ樹脂14に光透過率が良く、1400℃まで安定で短波長光のエネルギーに対して耐久性が優れたフッ化カルシウム結晶の粒子14aを混入したので耐分解性が改善される。
【0042】
また、この図3に示す如き発光素子装置において、フッ化カルシウム結晶の粒子14aにランタン、ネオジウム、セリウム、カドリニウム、サマリウム、エルビウム、ユーロピウム、ホロミウム等のランタン系金属の1種又は複数種を添加したり、イットリウム等の不純物準位を形成する不純物を添加してもよい。
【0043】
この場合、紫外線発光素子、青色発光素子等の短波長発光素子12よりの短波長光をこのフッ化カルシウム結晶の粒子14aにより種々の色光に変換し、種々の色光を発光する発光素子装置が得られる。
【0044】
また上述図1及び図3例において、短波長発光素子12の代りに短波長受光素子を設け、受光素子装置としてもよい。この場合フッ化カルシウム結晶より形成した窓板を設けた窓を有する容器内に紫外線発光素子、青色発光素子等の短波長を受光する短波長受光素子を配したので、このフッ化カルシウム結晶より成る窓板は、1400℃まで安定で短波長光のエネルギーに対し耐久性が優れており、且つ短波長光の光透過率が良いので、この短波長発光素子より発光する短波長光を短波長受光素子で良好に検出できる受光素子装置を得ることができる。
【0045】
また図4例は、上面に窓10aが設けられた例えばアルミニウム等の金属より成る金属容器10の窓10aに両面にミラー研磨を施したフッ化カルシウム結晶より成る窓板11を取付ける如くする。
【0046】
このフッ化カルシウムの結晶より成る窓板11の両面に夫々反射防止用及び吸湿防止用の保護膜として酸化シリコン(SiO2 )又は酸化チタン(TiO2 )の薄い膜13をコートする如くする。この場合この酸化シリコン又は酸化チタンの薄い膜13をコートするのはこの窓板11の表面又は裏面のどちらか一方の面であってもよい。
【0047】
本例においては、この金属容器10内にAlN系レーザダイオード等の紫外線発光ダイオード、GaN系化合物半導体の青色発光ダイオード、半導体発光励起紫外線固体レーザ等の短波長発光素子12を発光方向が窓10a方向となる如く設けると共にこの金属容器10内に受光方向が窓10a側となる如く半導体より成る受光素子15を設ける如くする。15a及び15bはこの受光素子15のリード端子である。
【0048】
また、本例においては、この金属容器10の内部にアルゴン等の不活性ガスを充満し、化学的に安定にする如くする。
【0049】
本例においては、フッ化カルシウム結晶より形成した窓板11を設けた窓10aを有する金属容器10内に紫外線発光素子、青色発光素子等の短波長発光素子12及び受光素子15を設けたので、このフッ化カルシウム結晶より成る窓板11は1400℃まで安定で短波長光のエネルギーに対し耐久性が優れており、且つ短波長光の光透過率が良いので、この短波長発光素子12より発光する短波長光のもどり光をこの受光素子15で良好に検出できる光学装置を得ることができる。この図4例においても、図1例同様の作用効果が得られることは勿論である。
【0050】
また上述例では金属容器10を用いた例につき述べたがこの代わりにセラミック容器であっても良い。
尚、本発明は上述例に限ることなく本発明の要旨を逸脱することなく、その他種々の構成が取り得ることは勿論である。
【0051】
つぎに、フッ化物結晶について説明する。
フッ化物結晶は、縦型ブリッジマン炉を使用して作製する。カーボン製のルツボに原料のパウダーを充填し、これを縦型ブリッジマン炉に挿入する。その後、電気炉内を所定圧力まで減圧し、この圧力を保ちながら電気炉を所定温度まで昇温する。この状態で所定時間保温し内部の原料を融解し安定させる。その後、温度はそのままにし、ルツボを所定の速度で所定の距離を降下させる。その後、所定の時間をかけて電気炉温度を室温まで降下させる。
【0052】
フッ化物結晶を構成する主成分について説明する。
フッ化物結晶の主成分としては、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、フッ化ストロンチウム、フッ化マグネシウムなどを用いることができる。上に列挙したものは、単独で用いてもよく、2種以上のものを混合して用いてもよい。
【0053】
フッ化物結晶に添加される成分について説明する。フッ化物結晶に添加される成分としては、金属、ハロゲン化金属を用いることができる。金属またはハロゲン化金属のいずれか一方または双方を添加することができる。
【0054】
金属としては、4A族元素を用いることができる。具体的には、チタン、ジルコニウムなどを用いることができる。
【0055】
金属は、4A族元素に限定されない。そのほか、2A族元素を用いることができる。具体的には、マグネシウム、ストロンチウム、バリウムなどを用いることができる。
【0056】
また、3A族元素を用いることができる。具体的には、イットリウムやランタン系の元素(La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er)などを用いることができる。
【0057】
ハロゲン化金属は、ハロゲン化4A族元素を用いることができる。具体的には、フッ化チタン、フッ化ジルコニウムなどを用いることができる。上に列挙したものは、単独で用いてもよく、2種以上のものを混合して用いてもよい。
【0058】
ハロゲン化金属は、ハロゲン化2A族元素を用いることができる。具体的には、フッ化マグネシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウムなどを用いることができる。上に列挙したものは、単独で用いてもよく、2種以上のものを混合して用いてもよい。
【0059】
ハロゲン化金属は、そのほか、ハロゲン化ランタン系族元素を用いることができる。具体的には、フッ化セリウム、フッ化ランタン、フッ化ユーロビウムなどを用いることができる。上に列挙したものは、単独で用いてもよく、2種以上のものを混合して用いてもよい。
【0060】
フッ化物結晶に添加される成分は、上述の金属、ハロゲン化金属に限定されない。このほか、酸化物としてランタン系酸化物、2A族酸化物などを用いることができる。
尚、本発明は上述例に限ることなく本発明の要旨を逸脱することなく、その他種々の構成が取り得ることは勿論である。
【0061】
つぎに、本発明にかかる参考例について具体的に説明する。ただし、本発明はこれら参考例に限定されるものではないことはもちろんである。
【0062】
参考例1(Ti添加CaF2)
チタンを添加したフッ化カルシウムを作製した。
チタンを添加したフッ化カルシウムの製造方法を説明する。図6A,6B,6Cは、本発明フッ化物結晶の製造に用いるカーボンルツボを示す。空洞部21の直径は1インチ(2.54cm)である。カーボンルツボにCaF2原料のパウダーを充填し、これを縦型ブリッジマン炉に挿入した。カーボンルツボ内にCaF2原料を入れるときにTiを0.1mol%添加し結晶を作製した。結晶方位を決定する場合には種結晶をルツボの底に配置する。結晶方位を決定しない場合には種結晶を用いる必要はない。しかる後、電気炉内を1x10-6 Torr程度の真空にし 真空を保ちながら電気炉を1450℃まで昇温した。この状態で2時間程度保温し内部の原料が温度分布にあわせて融解し安定するようにした。その後温度はそのままにし、前記ルツボを15mm/時間で降下させた。このときの降下距離は計20cmである。成長界面での温度勾配は約15℃/cmである。しかる後約一日かけて電気炉温度を室温まで降下させた。
【0063】
また、上述した方法と同様の方法により、チタンを0.2mol%添加したフッ化カルシウムを作製した。
【0064】
作製されたフッ化カルシウム結晶について、ビッカース硬度、および耐酸性を測定した。結晶の評価としては電気炉の冷却が終わりルツボから取り出した直後の結晶で成長した結晶の中央部を用いた。
【0065】
ビッカース硬度は、ビッカース硬度計を用いて、相対的な変化を測定した。耐酸性は、フッ化カルシウム結晶を塩酸水溶液(濃塩酸を5倍に希釈したもの)に1日間浸漬し、その後エッチピットの深さを測定した。エッチピットの深さは、エッチピットの底に焦点を合わせるのに移動した顕微鏡の移動距離であらわした。
【0066】
参考例2(TiF3添加CaF2)
フッ化チタンを添加したフッ化カルシウムを作製した。
カーボンルツボ内にCaF2原料を入れるときにTiF3を0.1mol%添加する以外は参考例1と同様である。
【0067】
また、参考例1と同様の方法により、フッ化チタンを2mol%添加したフッ化カルシウムと、フッ化チタンを2mol%+フッ化亜鉛0.5mol%添加したフッ化カルシウムを作製した。
【0068】
参考例3(SrF2添加CaF2)
フッ化ストロンチウムを添加したフッ化カルシウムを作製した。
カーボンルツボ内にCaF2原料を入れるときにSrF2を0.1mol%添加する以外は参考例1と同様である。
【0069】
また、参考例1と同様の方法により、フッ化ストロンチウムを0.2mol%,0.6mol%,または2mol%添加したフッ化カルシウムと、フッ化ストロンチウム2mol%+フッ化亜鉛0.5mol%を添加したフッ化カルシウムを作製した。
【0070】
参考例4(MgF2添加CaF2)
フッ化マグネシウムを添加したフッ化カルシウムを作製した。
カーボンルツボ内にCaF2原料を入れるときにMgF2を0.1mol%添加する以外は参考例1と同様である。
【0071】
また、参考例1と同様の方法により、フッ化マグネシウムを0.2mol%,または0.6mol%添加したフッ化カルシウムと、フッ化マグネシウム0.6mol%+フッ化亜鉛0.5mol%を添加したフッ化カルシウムを作製した。
【0072】
参考例5(TiF3,MgF2添加CaF2)
フッ化チタンおよびフッ化マグネシウムを添加したフッ化カルシウムを作製した。
カーボンルツボ内にCaF2原料を入れるときにTiF3とMgF2をそれぞれ0.1mol%添加する以外は参考例1と同様である。
【0073】
比較例1(CaF2)
何も添加しないフッ化カルシウムを作製した。
カーボンルツボ内にCaF2原料のみを入れる以外は参考例1と同様である。
上述のように作製された参考例1〜5、および比較例1のフッ化カルシウム結晶についての、ビッカース硬度、および耐酸性の測定結果は、表1,2に示すとおりである。
【0074】
ビッカース硬度の測定結果は、表1に示すとおりである。
何も添加していないフッ化カルシウム(比較例1)のビッカース硬度は、952.7N/mm2である。
【0075】
チタンを添加したフッ化カルシウム(参考例1)では、チタン0.1mol%および0.2mol%ともに、比較例1の値よりも大きな値が得られている。チタンを添加することにより、ビッカース硬度が増大することが確認できた。
【0076】
フッ化チタンを添加したフッ化カルシウム(参考例2)では、フッ化チタン0.1mol%、フッ化チタン2mol%、およびフッ化チタン2mol%+フッ化亜鉛0.5mol%ともに、比較例1の値よりも大きな値が得られている。フッ化チタンを添加することにより、ビッカース硬度が増大することが確認できた。
【0077】
フッ化ストロンチウムを添加したフッ化カルシウム(参考例3)では、フッ化ストロンチウム0.6mol%、フッ化ストロンチウム2mol%、およびフッ化ストロンチウム2mol%+フッ化亜鉛0.5mol%ともに、比較例1の値よりも大きな値が得られている。フッ化ストロンチウムを添加することにより、ビッカース硬度が増大することが確認できた。
【0078】
フッ化マグネシウムを添加したフッ化カルシウム(参考例4)では、フッ化マグネシウム0.2mol%、フッ化マグネシウム0.6mol%、およびフッ化マグネシウム0.6mol%+フッ化亜鉛0.5mol%ともに、比較例1の値よりも大きな値が得られている。フッ化マグネシウムを添加することにより、ビッカース硬度が増大することが確認できた。
【0079】
フッ化チタンとフッ化マグネシウムを添加したフッ化カルシウム(参考例5)では、フッ化チタン0.1mol%+フッ化マグネシウム0.1mol%において、比較例1の値よりも大きな値が得られている。フッ化チタンとフッ化マグネシウムを添加することにより、ビッカース硬度が増大することが確認できた。
【0080】
結晶の強度に関しては表1に示した以外にもランタン系元素であるセリウムやランタン、ユーロビウム、ネオジウム等を添加しても機械的強度が増加してくる。
【0081】
【表1】

【0082】
耐酸性の測定結果は、表2に示すとおりである。
何も添加していないフッ化カルシウム(比較例1)のエッチング深さは0.1μmである。
チタン0.1mol%、フッ化チタン0.1mol%、フッ化マグネシウム0.1mol%、またはフッ化チタン0.1mol%+フッ化マグネシウム0.1mol%添加したフッ化カルシウム(参考例1,2,4,5)では、エッチング深さが0.02〜0.05μmであり、比較例1よりも小さな値が得られた。チタン、フッ化チタン、フッ化マグネシウム、またはフッ化チタン+フッ化マグネシウムを添加することにより、耐酸性が向上することが確認できた。また、チタン、フッ化チタン、フッ化マグネシウム、またはフッ化チタン+フッ化マグネシウムを添加した結晶では、顕微鏡で観察したエッチピットの大きさが、比較例1に比べて、小さくなることも確認できた。
【0083】
フッ化カルシウム結晶は酸性溶液に比較的腐食されやすく耐酸性が窓材などには要求される。特に酸性雨が長年かかるような状況下では必要である。フッ化カルシウム結晶が溶ける場合には表面にアルカリ元素が現れて中和され腐食が弱まるものと考えられる。カルシウム元素よりも軽くアルカリ性の強い元素を入れれば可能となる。自然界においてフッ化カルシウムが安定に存在する地域(中国大陸)ではマグネシウムの鉱脈と重なっており長年の酸性雨、風説に耐え山脈として存在していることからも、上述の機構が推察できる。
【0084】
【表2】

【0085】
つぎに、フッ化物結晶の製造に用いるルツボについて説明する。
ルツボは、カーボン製である。ルツボには、空洞部が設けられている。空洞部の断面形状は、円形、楕円形、三角形、正方形、長方形、多角形など目的とする製品の形状を採用することができる。
【0086】
ここで、空洞部の断面形状のうち、最も短い距離を最短径と定義する。空洞部の断面は、最短径が小さいことが特徴である。最短径は2.5cm以下であることが好ましい。
【0087】
その理由は、結晶内に残留する光学的ひずみは結晶の断面積の最短径が大きいほど大きくなる傾向があり、実際に使用する大きさの結晶を成長させるほうが大型結晶から実用する大きさの結晶を切り出すよりも実用上有利である。小型の電子機器用の窓としても最大2.5cmが考えられる。
【0088】
また実験結果から結晶系を小型にしたほうが成長速度を早くすることが可能である。実験結果からも小径化したほうが、転位密度などが減少する傾向が見られる。
【0089】
この空洞部の形状は目的とする用途に合った形状を作製することが可能であり、この形状は鉛直とは限らず多くの、たとえばカーブを描いたものや、らせん状のものまで応用が可能である。
【0090】
ルツボは、いくつかに分割することができる。このように分割することにより、最短径が非常に小さなフッ化カルシウム結晶を作製することができる。
尚、本発明は上述例に限ることなく本発明の要旨を逸脱することなく、その他種々の構成が取り得ることは勿論である。
【0091】
つぎに、本発明にかかる実施例について具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことはもちろんである。
【0092】
実施例6
平板状のフッ化カルシウムの結晶を作製した。
図7A,7B,7Cは、平板状結晶作成時のカーボンルツボの一例を示す。ルツボ20は、4つの部分から構成されており、それぞれが分割面22で接している。隣り合う部分の間には、空洞部21が形成されている。この空洞部21の中で、平板状の結晶が作製される。このときの平板の厚みは1〜3mm、幅は1.5cm、長さは15cmである。
【0093】
図8A,8B,8Cは、保持ルツボを示す。保持ルツボ23の内側には、凹部24が形成されている。この凹部24の中に、上述のルツボ20がはめ込まれる。これにより、ルツボ20の4つの部分は、分離することなくしっかりと固定される。
【0094】
平板状のフッ化カルシウム結晶の製造方法を説明する。
再使用可能な組み合わせによる複数個の平板状の空洞部を持った上述のカーボンルツボにCaF2原料のパウダーを充填しこれを縦型ブリッジマン炉に挿入した。その後、電気炉内を1x10-6 Torr程度の真空にし 真空を保ちながら電気炉を1450℃まで昇温した。この状態で2時間程度保温し内部の原料が温度分布にあわせて融解し安定するようにした。その後、温度はそのままにし前記ルツボを15mm/時間で降下させた。このときの降下距離は計20cmである。成長界面での温度勾配は約15℃/cmである。その後、約一日かけて電気炉温度を室温まで降下させた。ルツボを分解し結晶を取り出した。結晶はほぼ単結晶化していた。結晶は割れることなくルツボの空洞の形状に合った形をしていた。
【0095】
作製されたフッ化カルシウム結晶について、転位密度、ひずみ量を測定した。結晶の評価としては電気炉の冷却が終わりルツボから取り出した直後の結晶で成長した結晶の中央部を用いた。
【0096】
転位密度は、(111)面をエッチングし1平方センチメートルのエッチピットの数を計測することにより測定した。結晶のひずみ量としては、結晶を厚さ3mmの大きさに切断し光学的研磨後に光学的歪を測定するためにセナルモン法と呼ばれる光路差を用いてひずみを定量化した。
【0097】
実施例7
円柱(直径3mm)のフッ化カルシウムの結晶を作製した。
図9A,9B,9Cは、円柱結晶作成時のカーボンルツボの一例を示す。ルツボ20は、4つの部分から構成されており、それぞれが分割面22で接している。隣り合う部分の間には、空洞部21が形成されている。この空洞部21の中で、円柱の結晶が作製される。このときの円柱の直径は3mmである。
【0098】
図8A,8B,8Cに示した保持ルツボ23の凹部24の中に、上述のルツボ20がはめ込まれる。
円柱のフッ化カルシウム結晶の製造方法は、実施例6の製造方法と同様である。
【0099】
実施例8
円柱(直径1インチ)のフッ化カルシウムの結晶を作製した。
円柱のフッ化カルシウム結晶の製造に用いるカーボンルツボは、図6A,6B,6Cに示したものを用いた。空洞部21の直径は1インチ(2.54cm)である。
円柱のフッ化カルシウム結晶の製造方法は、実施例6の製造方法と同様である。
【0100】
実施例9
三角柱のフッ化カルシウムの結晶を作製した。プリズムを目的とした結晶を作製した。
図10A,10B,10Cは、三角柱結晶作成時のカーボンルツボの一例を示す。空洞部21の形状は直角三角柱である。直角を挟む辺が約10mmの空洞部21を用いた。
【0101】
三角柱のフッ化カルシウム結晶は、成長後1100℃程度に結晶を1時間ほど保持しそれから室温まで2日ほどかけて冷却したこと以外は、実施例6の製造方法と同様の方法により作製した。このようなルツボを用いても容易に単結晶が得られた。その後、表面のみを研磨し、容易にプリズムを作製することができた。
【0102】
比較例2
円柱(直径2インチ)のフッ化カルシウムの結晶を作製した。
円柱のフッ化カルシウム結晶の製造に用いるカーボンルツボは、図6に示したものと同様のものを用いた。空洞部21の直径は2インチ(5.08cm)である。
【0103】
円柱のフッ化カルシウム結晶の製造方法は、実施例6の製造方法と同様である。
上述で作製したフッ化カルシウムの結晶(実施例6〜8、比較例2)について、測定した転位密度、ひずみ量は表3,4に示すとおりである。
【0104】
転位密度の測定結果は、表3に示すとおりである。円柱(直径2インチ)(比較例2)の転位密度に比較して、平板(実施例6)、円柱(直径3mm)(実施例7)、円柱(直径1インチ)(実施例8)の転位密度は小さな値を示している。このことから、結晶断面の最短径が1インチ(2.54cm)以下では、転位密度の減少に効果があることが確認できた。
【0105】
【表3】

【0106】
ひずみ量の測定結果は、表4に示すとおりである。円柱(直径2インチ)(比較例2)のひずみ量に比較して、平板(実施例6)、円柱(直径3mm)(実施例7)、円柱(直径1インチ)(実施例8)のひずみ量は小さな値を示している。このことから、結晶断面の最短径が1インチ(2.54cm)以下では、ひずみ量の減少に効果があることが確認できた。
【0107】
【表4】

【0108】
本発明に用いられるルツボは、実施例1〜9で用いられたルツボに限定されるものではない。結晶成長界面の面積を少しでも向上させ融液からの気体放散を促進するために傾斜を持った形状の空洞を作成した。このような場合でも問題なく結晶は成長し高品質なものが得られる結果となった。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明発光素子装置の実施の形態の例を示す断面図である。
【図2】本発明の説明に供する線図である。
【図3】本発明の実施の形態の他の例を示す断面図である。
【図4】本発明の光学装置の実施の形態の例を示す断面図である。
【図5】従来の発光素子装置の例を示す断面図である。
【図6】本発明フッ化物結晶の製造に用いるルツボを示す断面図である。
【図7】本発明ルツポの例を示す断面図である。
【図8】本発明ルツボに用いる保持ルツボの例を示す断面図である。
【図9】本発明ルツポの他の例を示す断面図である。
【図10】本発明ルツポの他の例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0110】
10・・・金属容器、10a・・・窓、11・・・窓板、12・・・短波長発光素子、13・・・保護膜、14・・・エポキシ樹脂、14a・・・フッ化カルシウム結晶粒子、15・・・受光素子、20・・・ルツボ、21・・・空洞部、22・・・分割面、23・・・保持ルツボ、24・・・凹部、25・・・支持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルツボの空洞部に原料粉体を充填し、このルツボを縦型ブリッジマン炉で加熱するフッ化物結晶の製造方法において、
前記ルツボの空洞部の断面は、最短径が小さいことを特徴とするフッ化物結晶の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のフッ化物結晶の製造方法において、
前記最短径が、2.5cm以下であることを特徴とするフッ化物結晶の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載のフッ化物結晶の製造方法において、
前記フッ化物結晶は、フッ化カルシウムを含むことを特徴とするフッ化物結晶の製造方法。
【請求項4】
フッ化物結晶を製造するために、その空洞部に原料粉体を充填し、縦型ブリッジマン炉で加熱されるルツボにおいて、
前記空洞部の断面は、最短径が小さいことを特徴とするルツボ。
【請求項5】
請求項4記載のルツボにおいて、
前記最短径が、2.5cm以下であることを特徴とするルツボ。
【請求項6】
請求項4記載のルツボにおいて、
前記フッ化物結晶は、フッ化カルシウムを含むことを特徴とするルツボ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−40684(P2009−40684A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259139(P2008−259139)
【出願日】平成20年10月4日(2008.10.4)
【分割の表示】特願2004−562922(P2004−562922)の分割
【原出願日】平成15年12月24日(2003.12.24)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】