説明

フッ素ガス測定方法及び装置

【課題】フッ素ガス濃度の変化に迅速且つ正確に対応することができるとともに、標準フッ素ガスを用いることなく測定部の前処理を行うことのできるフッ素ガス測定方法及び装置を提供する。
【解決手段】発光式フッ素ガス濃度計を用いて試料ガス中のフッ素ガス濃度を測定するフッ素ガス測定方法において、前記発光式フッ素ガス濃度計の試料ガスと接する部分にフッ化キセノンを用いてフッ化層を形成した後、あるいは、前記発光式フッ素ガス濃度計をフッ化キセノンを用いて校正した後、試料ガス中のフッ素ガス濃度を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素ガス測定方法及び装置に関し、詳しくは、除害装置の排ガス等に含まれる微量のフッ素ガス濃度を測定するためのフッ素ガス測定方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種ガス中に含まれるフッ素ガスの濃度をリアルタイムに計測することが可能なフッ素ガス濃度計として、特定の物質、例えば有機物とフッ素ガスとの選択的発光反応を利用したフッ素ガス濃度計が市販されている。このフッ素ガス濃度計は、前記発光反応がガス中に含まれるフッ素ガスの濃度に依存することから、発生した光の強度を光電子倍増管などで増幅してフッ素ガス濃度を検出するものであり、フッ素ガスそのものを高感度且つリアルタイムに計測できる分析器として有望視されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
また、上述のようなフッ素ガス濃度計を用いてフッ素ガスの濃度を計測する際に、フッ素ガス濃度計の応答性や安定性を向上させるとともに、フッ素ガス濃度の変化にも迅速に対応させるために、試料ガス中のフッ素ガス濃度を測定する直前に、標準フッ素ガスを用いて測定部の前処理(試料ガスと接する部分のフッ化及び校正)を実施することも提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【非特許文献1】三洋貿易株式会社、科学機器事業部、メーカー別製品案内、米 URS Corporation、フッ素ガス濃度計。[平成19年4月3日検索]、インターネット<URL:http://www.sanyo-si.com/product/u_urs_001.html>
【特許文献1】特開2007−107904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記フッ素ガス濃度計を使用して、フッ素ガスを全く含まない窒素ガス(A)から、フッ素ガスを200ppm含む窒素ガス(B)に切り換えて発光強度を連続的に測定した結果、図8に示すような結果が得られた。すなわち、フッ素ガスを全く含まない窒素ガス(A)からフッ素ガスを含む窒素ガス(B)へ切り換えた直後は、発光強度が瞬時に跳ね上がり、その後、緩やかに減少している。ガスの切り換え直後は、フッ素ガス濃度計への流量変動もあり、その流量が安定するまでに数秒は要するが、以後は流量も安定し、且つ、ガス中のフッ素ガス濃度も一定となっているはずである。正確且つリアルタイムなフッ素ガス濃度を測定するためには、発光強度は、瞬時に一定となることが望ましいが、実際の発光強度は、ガスの切り換えから6時間経過しても一定とはならず、減少傾向のままとなっていた。
【0005】
また、同じフッ素ガス濃度計の検量線データを約1ヶ月にわたって取得したところ、図9に示す結果となった。図9のデータは、最大濃度として200ppmのフッ素ガスを含む窒素ガスを用いたものであるが、同じ濃度における発光強度は日々減少し、約1ヶ月では、約1/2.5にまで低下してしまった。このことから、このフッ素ガス濃度計を使用する場合、正確なフッ素ガス濃度を得るためには、頻繁に校正を行う必要があるといえる。さらに、図9の検量線データを見ると、低濃度域では非直線となっていることから、検量線の作成においては、複数濃度のフッ素ガスを含むガスをフッ素ガス濃度計に導入して多点校正を実施する必要があるといえる。
【0006】
一定濃度のフッ素ガスを金属配管に流した際、ガス中でのフッ素濃度の変動を抑える方法としては、高濃度のフッ素ガスを、濃度を変化させることなく、その配管に一定の流量,圧力及び温度にて一定時間流すことによる金属配管内面のフッ素不働態化処理が知られている。フッ素ガスと接する部分の材質が単純な系においては、この方法は有効といえるが、フッ素ガスと接する部分にフッ素ガスと選択的発光反応を起す有機物や発光した光を光電子増倍管へ導くためのサファイヤガラス等の窓材を含むものでは、高濃度のフッ素ガスを長時間流すことは、前記有機物の急激な劣化による発光強度の低下や窓材の劣化による分析感度の低下(発生した光の透過量の低下)を招くことになり、前記フッ化処理は、前述のようなフッ素ガス分析計の有効な処理方法とはいえない。
【0007】
また、特許文献1に記載されているように、標準フッ素ガスを用いて測定部の前処理を行うものでは、標準フッ素ガスを測定場所に持ち込むことが必須となるが、標準フッ素ガスが毒性高圧ガスであることから、輸送手段や使用する設備が整備されている環境では有効であるものの、環境が整備されていない場合、輸送やガスラインの整備に手間やコストが掛かっていた。
【0008】
そこで本発明は、前述のようなフッ素ガス濃度計の応答性や安定性を向上させるとともに、フッ素ガス濃度の変化にも迅速且つ正確に対応することができ、標準フッ素ガスを用いることなく測定部の前処理を簡単且つ確実に行うことができるフッ素ガス測定方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明のフッ素ガス測定方法の第1の構成は、発光式フッ素ガス濃度計を用いて試料ガス中のフッ素ガス濃度を測定するフッ素ガス測定方法において、前記発光式フッ素ガス濃度計の試料ガスと接する部分にフッ化キセノンを用いてフッ化層を形成した後、試料ガス中のフッ素ガス濃度を測定することを特徴としている。
【0010】
さらに、本発明のフッ素ガス測定方法の第2の構成は、発光式フッ素ガス濃度計を用いて試料ガス中のフッ素ガス濃度を測定するフッ素ガス測定方法において、前記発光式フッ素ガス濃度計をフッ化キセノンを用いて校正した後、試料ガス中のフッ素ガス濃度を測定することを特徴としている。
【0011】
また、本発明のフッ素ガス測定装置は、試料ガス中のフッ素ガス濃度を発光反応によって測定する測定部と、該測定部に試料ガスを導入する測定ガス導入経路とを備えたフッ素ガス測定装置において、不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、固体のフッ化キセノンをガス化させて供給するフッ化キセノン供給部と、前記不活性ガス供給部から圧力調整手段及び流量調整手段の少なくともいずれか一方を介して導出した前記不活性ガスを前記フッ化キセノン供給部へ導入する不活性ガス導入経路と、前記フッ化キセノン供給部からフッ化キセノンを同伴した不活性ガスを導出するフッ化キセノン導出経路と、試料ガスを導入する試料ガス導入経路と、前記試料ガス導入経路を介して前記測定部に導入するガスの経路を、前記フッ化キセノン導出経路と前記試料ガス導入経路とのいずれか一方に切り換える測定ガス切換手段とを備えていることを特徴とするフッ素ガス測定装置。
【0012】
さらに、前記フッ化キセノン供給部は、前記不活性ガス導入経路及びフッ化キセノン導出経路が接続した密閉容器と、該密閉容器内に収納されたフッ化キセノン充填容器と、前記密閉容器内の温度を制御する温度制御手段とを備えており、前記フッ化キセノン充填容器は、加圧成形したフッ化キセノンが充填される筒状体であって、天井部が開口するとともに、底部には、充填された前記フッ化キセノンの重量とバランスして容器開口からフッ化キセノンの上面までの距離を一定に保つための高さ調整手段を備えていることを特徴としている。
【0013】
また、前記不活性ガス導入経路と前記フッ化キセノン導出経路とを前記フッ化キセノン供給部を通らずに接続するバイパス経路を備えるとともに、該バイパス経路の両端に、前記不活性ガスの流れを前記フッ化キセノン供給部側とバイパス経路側とに切り換えるガス流路切換手段をそれぞれ備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明のフッ素ガス測定方法及びフッ素ガス測定装置によれば、フッ化キセノンを含むガスにより、配管内面に予めフッ化層を形成しておくことができ、また、同ガスによって検量線のチェックや作成を容易に行うことができるので、標準フッ素ガスを用いることなく、試料ガス中のフッ素ガス濃度を正確に測定することができる。また、フッ化キセノン供給部に含まれるフッ化キセノンの量は、除害装置出口ガス等の微量フッ素ガスを計測する場合では、1g程度で良く、フッ化キセノン供給部はガスライン前後の2つの切換手段を含めても、その大きさを100mm×100mm×100mm程度に抑えることができ、分析システム全体を、例えば、600mm×400mm×400mm程度にコンパクト化することができる。
【0015】
さらに、本発明で使用するフッ化キセノンは固体であり、フッ化キセノンを充填したフッ化キセノン供給部での継手の閉め忘れや、締め付け力不足のためにフッ化キセノンが作業環境へ拡散することがあっても、標準フッ素ガスに比較すると遙かに緩やか且つ狭い範囲で拡散することから、危険度を低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は本発明の一形態例を示すフッ素ガス測定装置の系統図である。このフッ素ガス測定装置は、試料ガス中のフッ素ガス濃度を発光反応によって測定する測定部11及び該測定部11に試料ガスを導入する測定ガス導入経路12を備えるとともに、フッ素を含まない不活性ガスを供給する不活性ガス供給部13と、固体のフッ化キセノンをガス化させて供給するフッ化キセノン供給部14と、前記不活性ガス供給部13から圧力調整手段15及び流量調整手段16を介して導出した前記不活性ガスを前記フッ化キセノン供給部14へ導入する不活性ガス導入経路17と、前記フッ化キセノン供給部14からフッ化キセノンを同伴した不活性ガスを導出するフッ化キセノン導出経路18と、測定対象となる試料ガスを導入する試料ガス導入経路19と、前記試料ガス導入経路19を介して前記測定部11に導入するガスの経路を、前記フッ化キセノン導出経路18と前記試料ガス導入経路19とのいずれか一方に切り換える測定ガス切換手段20とを備えている。
【0017】
さらに、本形態例に示すフッ素ガス測定装置は、前記不活性ガス導入経路17と前記フッ化キセノン導出経路18とを前記フッ化キセノン供給部14を通らずに接続するバイパス経路21を備えるとともに、該バイパス経路21の両端に、前記不活性ガスの流れを前記フッ化キセノン供給部側とバイパス経路側とに切り換えるガス流路切換手段22,23をそれぞれ備えている。また、測定部11の前後には、該測定部11を流れるガス流量を設定するための流量調整器24と流量計25とが設けられている。
【0018】
測定ガス導入経路12は、試料源からの距離をできるだけ短くすることが望ましい。また、測定部11、測定ガス導入経路12、流量調整器24及び流量計25は、前述のような発光反応を利用したフッ素ガス濃度計に付属していれば、それらをそのまま使用することが可能である。また、フッ素ガス濃度計は、その測定値が試料ガス流量に依存していないので、試料ガス流量変動が毎分0.1〜10リットル程度の範囲であれば、流量調整器24及び流量計25を省略することができる。さらに、測定対象となる試料ガスの圧力が大気圧付近の場合は、測定部11からの排気経路にダイヤフラムポンプ等を配置し、試料ガスを測定部11に吸引導入するように形成することもできる。
【0019】
不活性ガス供給部13は、フッ素ガスを含まず、且つ、測定部11でのフッ素ガスの測定に悪影響を及ぼす成分を含まない不活性ガス、例えば高純度の窒素ガスやアルゴンガス等を供給できれば良く、これらの不活性ガスをボンベに充填したものを利用したり、別の設備で使用している不活性ガスを引き込んで利用したりすることができる。圧力調整手段15には、一次側及び二次側の圧力に応じた一般的な圧力調整器を使用することができ、流量調整手段16にも、圧力、流量調整範囲、流量調整精度に応じて、一般的に使用されているマスフローコントローラを使用することができる。ガス流路切換手段22,23及び測定ガス切換手段20は、通常用いられている多方弁、例えば三方弁を使用することができ、各経路にそれぞれ設けた弁を連動して開閉することによってガス流路を切り換えるように形成することもできる。
【0020】
前記フッ化キセノン供給部14は、前記不活性ガス導入経路17及びフッ化キセノン導出経路18が接続した密閉容器31と、該密閉容器31内に収納されたフッ化キセノン充填容器32と、前記密閉容器31内の温度を制御する温度制御手段33とを備えている。この温度制御手段33は、密閉容器31の温度を測定する熱電対等の温度検出器34と、密閉容器31を加熱するブロックヒーター等の加熱器35と、温度検出器34が検出した温度に基づいて加熱器35を制御する電子温度調節器等の制御部36とを有しており、密閉容器31内の温度を室温から100℃程度まで温度制御することが可能に形成されている。
【0021】
前記フッ化キセノン充填容器32内に充填するフッ化キセノンは、金型及びプレス機を用いてフッ化キセノンの粉末を円柱又は角柱状に加圧成型したものであって、加圧成型時の圧力を10MPa以上に設定し、フッ化キセノン粒子間の隙間(空間)がなく、緻密で均一な構造としたものを用いることが好ましい。前記フッ化キセノン充填容器32は、加圧成型したフッ化キセノンの外面形状に対応した内面形状を有する筒状体であって、天井部が密閉容器31内に開口するとともに、底部に高さ調整手段37を備えている。
【0022】
高さ調整手段37は、時間と共に減少するフッ化キセノンの重量とバランスして容器開口からフッ化キセノンの上面までの距離を一定に保つためのものであって、例えば、受け皿38を介して適当な弾性を有するばね39を設けることにより、フッ化キセノンの重量減少に伴ってばね39の復元力で受け皿38を上昇させるように形成することができる。これにより、フッ化キセノン充填容器32内に充填されたフッ化キセノンが減少しても、フッ化キセノンと前記不活性ガスとの接触状態を常に一定に保つことができ、フッ化キセノンの供給量をあらかじめ設定した供給量に保つことができる。
【0023】
次に、このフッ素ガス測定装置を使用して試料ガス中のフッ素ガス濃度を測定する手順の一例を説明する。まず、試料ガスの測定を行う前に、測定ガス切換手段20より下流側の部品、配管及び測定部11内をフッ化キセノンを同伴した不活性ガスによってフッ化(フッ素不働態化)してフッ化層を形成する前処理を行う。すなわち、測定ガス切換手段20をフッ化キセノン導出経路18側、ガス流路切換手段22,23をフッ化キセノン供給部14側にそれぞれ切り換えた後、フッ化キセノン供給部14からフッ化キセノン導出経路18に導出されるガス中のフッ化キセノン濃度を、試料ガス中で予測される最大、又はそれ以上のフッ素ガス濃度におけるフッ素ガス濃度計の発光強度と同等の発光強度を与える濃度になるように、圧力調整手段15,流量調整手段16,フッ化キセノン供給部14の温度制御手段33をそれぞれ調整する。なお、測定部11に導入するガス流量は、毎分0.1〜10リットルとなるように調整し、測定部11における圧力は大気圧程度、温度は室温20℃〜40℃程度としておくことが好ましい。
【0024】
フッ化キセノン導出経路18に導出されるフッ化キセノン含有ガス中のフッ化キセノン濃度が安定した後、この状態を30分程度継続することが望ましい。その後、フッ化キセノン含有ガス中のフッ化キセノン濃度が、試料ガス中で予測される最小のフッ素ガス濃度における測定部11の発光強度と同等の発光強度を与える濃度になるように、圧力調整手段15,流量調整手段16及びフッ化キセノン供給部14の温度を調整する。この状態を、測定部11から得られる測定値が安定するまで継続する。継続時間は、各経路の長さなどに応じて異なるが、少なくとも3時間程度は継続することが望ましい。
【0025】
このようにして測定部11の測定値が安定したら、フッ化キセノン含有ガスによる測定部11のフッ化ガス濃度計の発光強度が、試料ガス中で予測される最大のフッ素ガス濃度における発光強度以下で、且つ、最小のフッ素ガス濃度における発光強度以上となる範囲に流量調整手段16を調整し、フッ化キセノン濃度を調整したフッ化キセノン含有ガスを測定部11に導入して校正に使用するデータを取得する。この操作を、フッ化キセノン濃度を変えて複数回繰り返し、得られたデータから検量線を作成する。
【0026】
配管等のフッ素不働態化では、高濃度フッ素ガスを流して測定ガス切換手段20より下流側の部品、配管及び測定部11内をすべて反応させてしまえば、それより低濃度のフッ素ガスを通気してもすぐに安定する。また、窒素等の不活性ガスを通気しても不働態膜(フッ化層)が容易に無効になることはない。ただし、低濃度のフッ化キセノン含有ガスを通気させることにより、測定値をさらに安定化させることができる。
【0027】
このようにして測定ガス切換手段20より下流側の部品、配管及び測定部11内をフッ素不働態化させるとともに、複数のフッ素ガス濃度の測定データに基づいて検量線を作成する前処理を行った後、測定ガス切換手段20を試料ガス導入経路19側に切り換え、試料ガスを測定部11に導入して試料ガス中のフッ素ガス濃度を測定する。これにより、試料ガス中のフッ素ガス濃度を迅速且つ正確に測定することができる。
【0028】
すなわち、試料ガス中のフッ素ガス濃度を測定する前に、所定のフッ素ガス濃度のガス(フッ化キセノン含有ガス)を流通させて測定対象の試料ガスが流れる部品、配管及び測定部11内を予めフッ化させて不働態化しておくので、試料ガス中のフッ素ガスが部品や配管の内面に接触して反応することを抑制することができ、試料ガス中のフッ素ガス濃度を保った状態で測定部11に導入することができる。これにより、試料ガス導入時の測定部11の測定値(発光強度)が短時間に安定化し、正確なフッ素ガス濃度を迅速に得られることになる。
【0029】
また、一般的なガス分析器では、校正用として標準ガスのボンベを接続し、該ボンベからの標準ガスをそのまま使用して校正を行っているが、測定対象ガスの濃度は標準ガスに設定された濃度のみとなるため、多点校正への対応はできなかった。一方、本形態例に示すように、温度制御手段33を備えたフッ化キセノン供給部14と、圧力調整手段15及び流量調整手段16を有する不活性ガス供給部13とを設置し、その蒸気圧を温度により制御されたフッ化キセノン蒸気と流量調整した不活性ガスとを混合することにより、任意のフッ化キセノン濃度のフッ化キセノン含有ガスを得ることができるので、測定部11の多点校正を簡単且つ確実に行うことができる。
【0030】
さらに、試料測定を行っているときに、測定ガス切換手段20を切り換えるだけで、測定部11に導入するガスを試料ガスからフッ化キセノン含有ガスに切り換えることができるので、フッ化キセノン含有ガス中のフッ化キセノン濃度を予め設定した一定の濃度としておくことにより、試料測定中に検量線のチェックを容易に行うことができる。この検量線チェックで検量線がずれたことが判明したときには、流量調整手段16の調整やフッ化キセノン供給部14の温度調整により、フッ化キセノン濃度が異なるフッ化キセノン含有ガスを測定部11に順次導入して各測定値データを取得することにより、その場で検量線を補正して再作成することができるので、検量線の頻繁な校正も容易に行うことが可能である。
【0031】
加えて、本発明では、毒性高圧ガスであるフッ素標準ガスを使用しないため、毒性高圧ガスを輸送及び使用するための手段を準備する必要がない。また、上記形態例では、分析システム全体の大きさを600mm×400mm×400mm程度にすることができ、分析システムをコンパクト化することができる。さらに、フッ化キセノンを充填したフッ化キセノン供給部14にライン継手の締め忘れや締結力不足があったとしても、フッ素標準ガスに比べてフッ化キセノンガスの作業環境への拡散は、遙かに緩やかで、且つ、狭い範囲であることから、分析システムを取り扱う際の危険度を低減することができる。
【0032】
実施例1
図1に示した構成のフッ素ガス測定装置を使用し、試料ガス中のフッ素濃度の最大値が100ppm、最小値が5ppmであると仮定して前述のようなフッ化キセノン(XeFを使用)による前処理(フッ化及び検量線作成)を行った後、フッ素標準ガスを窒素ガスにより正確に希釈して窒素ガス中のフッ素ガス濃度を5ppm、50ppm及び100ppmにそれぞれ調整した試料ガスを試料ガス導入経路19から測定部11に切換導入したときの測定部11の指示値を記録した。この指示値は、フッ化キセノンを用いて作成した検量線の発光強度をフッ素濃度に換算したものである。なお、測定部11におけるガスの流量は、毎分0.2〜4リットル、圧力は大気圧、温度は40℃とした。さらに,フッ化キセノン供給部14には、粉末状のフッ化キセノンを投入して封入した状態とした。
【0033】
その結果、図3に示すように、フッ素ガス濃度の変化に伴い、測定部11の指示値が短時間で安定することがわかる。すなわち、前記図8に示すような急激な発光強度の増加や、それに続く長時間にわたる緩やかな発光強度の減少は見られず、極めて良好な応答性を示していることがわかる。ただし、各濃度での安定指示値,希釈率から正確に算出したフッ素ガス濃度と比較すると、若干ずれている結果となった。
【0034】
実施例2
図1に示した構成のフッ素ガス測定装置を使用すると共に、フッ化キセノンと不活性ガスとの接触面積が常に一定であり、且つ、フッ化キセノン粒子間の隙間がなく、均一緻密な構造にしてフッ化キセノン供給部へフッ化キセノンを封入し(図2においてばね39を省略した状態)、実施例1と同様にフッ素ガス濃度を測定した。
【0035】
その結果、図4に示すように、フッ素ガス濃度の変化に伴い、測定部11の指示値は、短時間で安定し、極めて良好な応答性を示していることがわかる。また、各濃度での安定指示値の希釈率から正確に算出したフッ素ガス濃度とのずれは改善され、実施例1よりも正確な測定値となっていることがわかる。
【0036】
実施例3
図1に示した構成のフッ素ガス測定装置を使用すると共に、図2に示したように、フッ化キセノンをと不活性ガスとの接触面積及びフッ化キセノンを入れた容器正面の開口部とフッ化キセノン正面との距離が共に常に一定となり、且つ、フッ化キセノン自体が均一緻密な構造となるようにして、フッ化キセノン供給部へフッ化キセノンを封入し、実施例1と同様にフッ素ガス濃度を測定した。
【0037】
その結果、図5に示すように、フッ素ガス濃度の変化に伴い、測定部11の指示値は、短時間で安定し、極めて良好な応答性を示していることがわかる。また、各濃度での安定指示値の希釈率から正確に算出したフッ素ガス濃度とのずれは、実施例2よりもさらに改善され、極めて正確な測定値となっていることがわかる。
【0038】
以上の結果から、本発明は、測定部(フッ素ガス濃度計)の応答性や安定性を向上させるとともに、フッ素ガス濃度の変化にも迅速に対応することができるフッ素ガス測定装置を、フッ素標準ガス(毒性高圧ガス)を用いることなく提供することができる。また、本発明において、フッ化キセノンと不活性ガスとの接触面積を常に一定とするとともに、フッ化キセノン粒子間の隙間を無くして均一緻密な構造としたり、フッ化キセノンを入れた容器開口とフッ化キセノン表面との距離を常に一定とすることにより、試料ガス中のフッ素濃度をより正確に計測できることが分かる。
【0039】
比較例1
前記特許文献1に記載された構成のフッ素ガス測定装置を用い、フッ素標準ガスの代わりに、濃度1%のC標準ガスを使用し、前処理(フッ化)を行った後、測定部へ導入するガスをフッ素ガスを全く含まない窒素ガス(A)から、フッ素ガスを200ppm含む窒素ガス(B)に切り換えて測定部の発光強度を連続的に測定した。
【0040】
その結果、図6に示すように、フッ素ガスを全く含まない窒素ガス(A)からフッ素ガスを含む窒素ガス(B)へ切り換えた直後に発光強度が瞬時に跳ね上がり、その後、緩やかに減少している。つまり、発光強度の変化は前述の図8と同様で、フッ素標準ガスやフッ化キセノンを使った前処理を実施しない場合と同様であり、フッ化キセノンと同様のフッ化物であるCを使用した前処理は、応答性や安定性への寄与は見られないことがわかる。
【0041】
比較例2
比較例1における濃度1%のC標準ガスを、濃度1%のCOF標準ガスに代えた以外は比較例1と同様の操作を行った。その結果、図7に示すように、フッ素ガスを全く含まない窒素ガス(A)からフッ素ガスを含む窒素ガス(B)へ切り換えた直後に発光強度が瞬時に跳ね上がり、その後、緩やかに減少している。つまり、発光強度の変化は図8と同様で、フッ素標準ガスやフッ化キセノンを使った前処理を実施しない場合と同様であり、フッ化キセノンと同様のフッ化物であるCOFでの測定部等の前処理は、応答性や安定性に全く寄与しないことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一形態例を示すフッ素ガス測定装置の系統図である。
【図2】同じくフッ化キセノン供給部の説明図である。
【図3】実施例1における測定結果を示す図である。
【図4】実施例2における測定結果を示す図である。
【図5】実施例3における測定結果を示す図である。
【図6】比較例1における測定結果を示す図である。
【図7】比較例2における測定結果を示す図である。
【図8】従来のフッ素ガス濃度計を使用したときの測定結果を示す図である。
【図9】従来のフッ素ガス濃度計を使用したときの検量線データを示す図である。
【符号の説明】
【0043】
11…測定部、12…測定ガス導入経路、13…不活性ガス供給部、14…フッ化キセノン供給部、15…圧力調整手段、16…流量調整手段、17…不活性ガス導入経路、18…フッ化キセノン導出経路、19…試料ガス導入経路、20…測定ガス切換手段、21…バイパス経路、22,23…ガス流路切換手段、24…流量調整器、25…流量計、31…密閉容器、32…フッ化キセノン充填容器、33…温度制御手段、34…温度検出手段、35…加熱手段、36…制御部、37…高さ調節手段、38…受け皿、39…ばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光式フッ素ガス濃度計を用いて試料ガス中のフッ素ガス濃度を測定するフッ素ガス測定方法において、前記発光式フッ素ガス濃度計の試料ガスと接する部分にフッ化キセノンを用いてフッ化層を形成した後、試料ガス中のフッ素ガス濃度を測定することを特徴とするフッ素ガス測定方法。
【請求項2】
発光式フッ素ガス濃度計を用いて試料ガス中のフッ素ガス濃度を測定するフッ素ガス測定方法において、前記発光式フッ素ガス濃度計をフッ化キセノンを用いて校正した後、試料ガス中のフッ素ガス濃度を測定することを特徴とするフッ素ガス測定方法。
【請求項3】
試料ガス中のフッ素ガス濃度を発光反応によって測定する測定部と、該測定部に試料ガスを導入する測定ガス導入経路とを備えたフッ素ガス測定装置において、不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、固体のフッ化キセノンをガス化させて供給するフッ化キセノン供給部と、前記不活性ガス供給部から圧力調整手段及び流量調整手段の少なくともいずれか一方を介して導出した前記不活性ガスを前記フッ化キセノン供給部へ導入する不活性ガス導入経路と、前記フッ化キセノン供給部からフッ化キセノンを同伴した不活性ガスを導出するフッ化キセノン導出経路と、試料ガスを導入する試料ガス導入経路と、前記試料ガス導入経路を介して前記測定部に導入するガスの経路を、前記フッ化キセノン導出経路と前記試料ガス導入経路とのいずれか一方に切り換える測定ガス切換手段とを備えていることを特徴とするフッ素ガス測定装置。
【請求項4】
前記フッ化キセノン供給部は、前記不活性ガス導入経路及びフッ化キセノン導出経路が接続した密閉容器と、該密閉容器内に収納されたフッ化キセノン充填容器と、前記密閉容器内の温度を制御する温度制御手段とを備えており、前記フッ化キセノン充填容器は、加圧成形したフッ化キセノンが充填される筒状体であって、天井部が開口するとともに、底部には、充填された前記フッ化キセノンの重量とバランスして容器開口からフッ化キセノンの上面までの距離を一定に保つための高さ調整手段を備えていることを特徴とする請求項3記載のフッ素ガス測定装置。
【請求項5】
前記不活性ガス導入経路と前記フッ化キセノン導出経路とを前記フッ化キセノン供給部を通らずに接続するバイパス経路を備えるとともに、該バイパス経路の両端に、前記不活性ガスの流れを前記フッ化キセノン供給部側とバイパス経路側とに切り換えるガス流路切換手段をそれぞれ備えていることを特徴とする請求項3又は4記載のフッ素ガス測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−58372(P2009−58372A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−225834(P2007−225834)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】