説明

フッ素ゴムの架橋接着方法および架橋フッ素ゴム

【課題】スチーム暴露後においてもフッ素ゴムと金属の強固な接着力を保持しているフッ素ゴムの架橋接着方法およびそれから得られた金属と接着した架橋フッ素ゴムの提供。
【解決手段】
金属基材にフッ素ゴムを架橋接着させるにあたり、該基材にシランカップリング剤、シランカップリング剤の加水分解物または部分縮合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の溶液を塗布し、乾燥後、該基材を温度200〜300℃で焼成した後、フッ素ゴム組成物を架橋接着させるフッ素ゴムの架橋接着方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属基材へのフッ素ゴムの架橋接着方法および架橋フッ素ゴムに関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素ゴムは、耐スチーム性、耐水性、耐プラズマ性、耐熱性、耐薬品性などに優れるという特長を活かして、汎用ゴム材料では耐久性が乏しく適用できないような環境下に用いることができ、シール、ホース、防振部材、チューブ、ベルト等として使用されている。これらの用途においては、フッ素ゴムが金属基材と接着して用いられることが少なくない。
従来、パーオキサイド化合物を加硫剤として含有するフッ素ゴムと金属基材との接着は、シランカップリング剤、エポキシ系などの接着剤を用いて行われている。シランカップリング剤で接着する場合、フッ素ゴムを金属基材に接着する前に、金属基材の表面にシランカップリング剤含有接着剤を塗布し、乾燥した後、焼付けされる。
【0003】
一般的なシランカップリング剤は、沸点を持ったモノマーの場合が多く、蒸気圧を持っている為、シランカップリング剤を含有している接着剤を金属基材に塗布した後、200℃以上のような高温で焼き付けると、シランカップリング剤が揮発してしまい、良好な接着効果を発揮できないという懸念がある。そこで、焼付け温度を80〜150℃で、5〜30分間程度にする焼付け処理が行われていた。しかし、この条件では、フッ素ゴムは、金属基材への接着性が十分でなかった。
【0004】
金属基材への接着性を改良するために、フッ素ゴムの組成面からのアプローチも行われている。金属基材の表面にシランカップリング剤含有接着剤を塗布し、乾燥した後、焼付け処理し、続いてその処理面に、フッ素ゴム、加硫剤及びアルキレングリコール、グリセリン及びアルキルセロソルブから選ばれる1種以上を含有する特殊なフッ素ゴム組成物を置き、加圧下に加硫することにより、金属基材にフッ素ゴムを接着する方法が提案されている(特許文献1を参照。)。この文献においても、実施例には、金属基材の表面にシランカップリング剤含有接着剤を塗布し、乾燥した後の焼付け温度は、120℃であることが記載されている。
【0005】
しかし、この文献の方法では、フッ素ゴム−金属との接着力はスチーム環境に暴露すると低くなるという問題があった。そこで、金属基材にブラスト処理などの前処理をして、物理的相互作用を利用してフッ素ゴムと金属基材とを接着させている。しかし、このような方法では製造工程の工程数が多くなること、処理に発生する金属粉などの異物によるフッ素ゴムへの混入などが課題となっている。
また、ステンレス鋼などの金属基材には、接着剤を塗布したうえで、架橋剤を含むフッ素ゴム組成物を架橋接着させる方法が提案されている(例えば、特許文献2を参照。)。しかし、この接着方法では、優れた耐スチーム性が求められる環境下での使用時に接着力が著しく低下するという問題があった。
【0006】
フッ素ゴム以外の合成ゴムでは、エチレン/プロピレンゴム(EPDM)やアクリル酸エステル類とエチレンとの共重合ゴム(AEM)と金属との耐温水接着力を向上させるために、フェノール樹脂系/塩素化ポリエチレン系の接着剤を用いて接着する方法が提案されている(例えば、特許文献3を参照。)。しかし、このフェノール樹脂系/塩素化ポリエチレン系の接着剤をフッ素ゴムと金属基材との接着に適用しても、フッ素ゴムと金属基材との接着は困難であった。
【0007】
最近、フッ素ゴム塗料と金属基材との接着において、耐熱水性を向上させるために接着剤として、エポキシ樹脂−アミン系硬化剤を含有する下塗り剤が提案された。この提案において、該下塗り剤にはエポキシ樹脂が含有されており、該下塗り剤は、200℃にて硬化されている(例えば、特許文献4を参照。)。しかしながら、この方法で得たフッ素ゴムと金属基材との接着物品は、耐スチーム性が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭64−54037公報
【特許文献2】特開平6−157686公報
【特許文献3】特開2004−27068公報
【特許文献4】特開2008−308509公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の従来技術の有する問題点を解決し、耐スチーム性に優れるフッ素ゴムと金属基材との架橋接着方法および該架橋接着方法で得られた架橋フッ素ゴムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記の構成を有するフッ素ゴムの架橋接着方法、および、その方法で得られた架橋フッ素ゴムを提供する。
[1]金属基材にフッ素ゴム組成物を架橋接着させるにあたり、該金属基材にシランカップリング剤、該シランカップリング剤の加水分解物およびその部分縮合物からなる群から選ばれる1種以上を含有する溶液を塗布し、乾燥後、該基材を温度200〜300℃で焼付けした後、フッ素ゴム組成物を架橋接着させることを特徴とするフッ素ゴムの架橋接着方法。
[2]前記フッ素ゴム組成物の架橋が、有機過酸化物を用いたパーオキシド架橋である[1]に記載のフッ素ゴムの架橋接着方法。
[3]前記シランカップリング剤が、アミノ基含有シランカップリング剤とビニル基含有シランカップリング剤からなる群から選ばれる1種以上である[1]または[2]に記載のフッ素ゴムの架橋接着方法。
【0011】
[4]前記焼成時間が、1〜120分間である、[1]〜[3]のいずれかに記載のフッ素ゴムの架橋接着方法。
[5]前記シランカップリング剤、該シランカップリング剤の加水分解物およびその部分縮合物からなる群から選ばれる1種以上を含有する溶液を塗布する際の金属基材の温度が、0〜80℃以下である、[1]〜[4]のいずれかに記載のフッ素ゴムの架橋接着方法。
[6][1]〜[5]のいずれかに記載のフッ素ゴムの架橋接着方法で得られる架橋フッ素ゴムであって、135℃のスチーム雰囲気下に70時間保持するプレッシャークッカー試験後に金属基材と架橋フッ素ゴムとの剥離界面におけるフッ素ゴムの凝集破壊の割合が80%以上であることを特徴とする架橋フッ素ゴム。
【発明の効果】
【0012】
本発明の架橋接着方法によれば、架橋フッ素ゴムと金属基材とのスチーム環境下でも接着力に優れる、架橋フッ素ゴムが得られる。すなわち、本発明のフッ素ゴムと金属基材との架橋フッ素ゴムは、スチーム暴露後においても優れた接着力を保持する。また、本発明の架橋接着方法により得られた架橋フッ素ゴムは、耐スチーム性、耐水性、耐プラズマ性、耐熱性、耐薬品性などに優れる。したがって、本発明の架橋フッ素ゴムは、これらの特性を活かして、オイルシールなどの複合部品、特にエンジン、ポンプ、ロールなど耐薬品性、耐スチーム性、耐熱性が要求される分野に適用される物品として特に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の架橋接着に用いられるフッ素ゴム組成物は、フッ素ゴムと架橋剤とを含む。
フッ素ゴム中のフッ素含有量としては、40質量%〜75質量%が好ましく、45質量%〜75質量%がより好ましく、50質量%〜75質量%が最も好ましい。この範囲にあるとフッ素ゴムは、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性、耐スチーム性に優れる。
【0014】
フッ素ゴムの具体例としては、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン/クロロトリフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/プロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/プロピレン/フッ化ビニリデン共重合体、テトラフルオロエチレン/プロピレン/フッ化ビニル共重合体、テトラフルオロエチレン/プロピレン/トリフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/プロピレン/ペンタフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/プロピレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/プロピレン/エチリデンノルボルネン共重合体、ヘキサフルオロプロピレン/エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体等が挙げられる。
【0015】
フッ素ゴムとしては、テトラフルオロエチレン/プロピレン系共重合体、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、テトラフルオロエチレン/プロピレン/フッ化ビニリデン系共重合体からなる群から選ばれる1種以上が好ましい。
テトラフルオロエチレン/プロピレン系共重合体の共重合組成については、40/60〜70/30(モル比)が好ましく、45/55〜65/35(モル比)がより好ましく、50/50〜60/40(モル比)が最も好ましい。
フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体の共重合組成については、60/40〜95/5(モル比)が好ましく、70/30〜90/10(モル比)がより好ましく、75/25〜85/15(モル比)が最も好ましい。
フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体の共重合組成については、50/5/45〜65/30/5(モル比)が好ましく、50/15/35〜65/25/10(モル比)がより好ましく、50/20/30〜65/20/15(モル比)が最も好ましい。
【0016】
テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)の共重合組成については、50/50〜95/5(モル比)が好ましく、55/45〜85/15(モル比)がより好ましく、60/40〜80/20(モル比)が最も好ましい。パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)としては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、パーフルオロ(メトキシエチルエーテル)、パーフルオロ(メトキシエチルエーテル)、パーフルオロ(メトキシエチルエーテル)、パーフルオロ(プロポキシエチルエーテル)が挙げられる。特に、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)が好ましい。
【0017】
テトラフルオロエチレン/プロピレン系共重合体の市販品の例としては、「AFLAS150P」(旭硝子社製、テトラフルオロエチレン/プロピレン2元共重合体)等が挙げられる。
本発明に用いられるフッ素ゴムの架橋剤としては、従来公知のものはすべて使用できるが、架橋ゴムが耐スチーム性に優れることから有機過酸化物が好ましい。有機過酸化物としては、加熱、酸化還元系の存在下で容易にラジカルを発生するものであれば使用できるが、半減期が、1分間となる温度が130〜220℃であるものが好ましい。
【0018】
その具体例としては、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,5,5−トリメチルシクロへキサン、2,5−ジメチルへキサン−2,5−ジヒドロパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ)−p−ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−へキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−へキシン−3、ジベンゾイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)へキサン、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート等が挙げられる。中でもα,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ)−p−ジイソプロピルベンゼンが好ましい。該有機過酸化物は、フッ素ゴムのパーオキシド架橋性に優れる。
【0019】
本発明に用いられるフッ素ゴム組成物は、架橋助剤を含有することが好ましい。
該架橋助剤としては、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアクリルホルマール、トリアリルトリメリテート、ジプロパルギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタールアミド、トリアリルホスフェート等が挙げられる。中でも、トリアリルイソシアヌレートが好ましい。
フッ素ゴム組成物において、上記有機過酸化物の含有量は、フッ素ゴム100質量部当たり0.1〜5質量部、好ましくは約0.2〜4質量部、最も好ましくは0.5〜3質量部、である。この範囲にあると、有機過酸化物の架橋効率が高く、無効分解の生成量も抑制できる。
【0020】
上記架橋助剤の含有量は、フッ素ゴムの100質量部に対して、好ましくは0.1〜30質量部、より好ましくは1〜20質量部、最も好ましくは3.5〜10質量部である。含有量が少なすぎると、架橋速度が遅く、架橋度も低い。多すぎると、架橋ゴムの伸びが低い場合がある。この範囲にあると、架橋速度が速く、得られる架橋ゴムの架橋度が高く、架橋ゴムは特性に優れる。
【0021】
本発明に用いられるフッ素ゴム組成物は、カーボンブラック、その他添加剤を含有することも好ましい。
カーボンブラックとしては、特に制限はなく、通常、ゴムの充填剤として用いられているものであれば使用できる。その具体例としては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、グラファイト等が挙げられる。中でも、ファーネスブラックがより好ましく、その具体例としては、HAF−LS、HAF、HAF−HS、FEF、GPF、APF、SRF−LM、SRF−HM、MT等が挙げられる。中でもMTカーボンがより好ましい。
【0022】
カーボンブラックは、架橋ゴムを補強する効果を有する。カーボンブラックの含有量は、フッ素ゴム100質量部に対して、好ましくは5〜100質量部、より好ましくは10〜50質量部、である。カーボンブラックの含有量が少なすぎると架橋により得られる架橋物の強度が低い場合があり、多すぎると架橋ゴムの伸びが低い場合がある。この範囲あると、強度と伸びとのバランスが良好である。
【0023】
その他の添加剤としては、カーボンブラック以外の充填剤、加工助剤、滑剤、潤滑剤、難燃剤、帯電防止剤、着色剤、充填剤等が挙げられる。
カーボンブラック以外の充填剤としては、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体等のフッ素樹脂、ガラス繊維、炭素繊維、ホワイトカーボン等が挙げられる。カーボンブラック以外の充填剤の含有量は、フッ素ゴム100質量部に対し、好ましくは5〜200質量部、より好ましくは10〜100質量部、である。
加工助剤としては、高級脂肪酸のアルカリ金属塩等があげられ、ステアリン酸塩、ラウリン酸塩が好ましい。加工助剤の使用量は、フッ素ゴム100質量部に対し、好ましくは0.1〜20質量部、より好ましくは0.2〜10質量部、最も好ましくは1〜5質量部である。
【0024】
本発明に用いられるフッ素ゴム組成物の製造方法としては、フッ素ゴム、架橋剤、架橋助剤、および必要に応じてカーボンブラックやその他添加剤を、2本ロール、バンバリーミキサー、ニーダー等の混練機を用いて混練する方法が好ましい。また、溶剤に溶解、分散した状態で行う方法も採用できる。
各成分の混合の順序は特に制限されないが、まず、混練時の発熱によって、反応や分解しにくい成分である充填剤等をフッ素ゴムと十分に混錬した後、反応しやすい成分あるいは分解しやすい成分である有機過酸化物等を、混練し配合することが好ましい。混練時には、混練機を水冷して、有機過酸化物が分解しにくい温度である120℃以下を維持することが好ましい。
【0025】
本発明において、シランカップリング剤、該シランカップリング剤の加水分解物およびその部分縮合物からなる群から選ばれる1種以上が、金属基材と架橋フッ素ゴム組成物の接着剤として作用する。
シランカップリング剤としては、フッ素ゴム組成物と架橋接着するように極性官能基または反応性官能基を分子構造内に1つ以上含有しているものであればよい。中でも加水分解物が水存在下でも安定な構造をとるアミノ基含有シランカップリング剤が好ましい。また、アミノ基含有シランカップリング剤と他のカップリング剤とを組み合わせて用いることも好ましい。
【0026】
前記シランカップリング剤としては、アミノ基含有シランカップリング剤、ビニル基含有シランカップリング剤及びメタクリロイロキシ基含有シランカップリング剤からなる群から選ばれる1種以上であることが好ましく、アミノ基含有シランカップリング剤とビニル基含有シランカップリング剤の混合物であることがより好ましい。
【0027】
アミノ基含有シランカップリング剤の具体例としては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−メチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−メチル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−メチル−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N,N’−ジメチル−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N,N’−ジメチル−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。中でも、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシランが好ましい。
【0028】
メタクリロイロキシ基含有シランカップリング剤としては、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。中でも、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。
ビニル基含有シランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシランビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシランビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等が挙げられる。中でも、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが好ましい。
【0029】
シランカップリング剤の加水分解物およびその部分縮合物は、シランカップリング剤をアルコールなどの有機溶媒に溶解し、水あるいは酢酸水などの酸性水を加えることで製造することができる。添加する水の量を調整した後に、場合によっては加熱反応させ、加水分解、縮合反応させると、保存性が良好な安定した、シランカップリング剤の加水分解物およびその部分縮合物を製造することができる。
【0030】
本発明においては、シランカップリング剤、該シランカップリング剤の加水分解物およびその部分縮合物からなる群から選ばれる1種以上が、接着剤として作用するが、シランカップリング剤の加水分解物およびその部分縮合物が好ましく、これらの混合物がより好ましい。
【0031】
以下、シランカップリング剤、該シランカップリング剤の加水分解物およびその部分縮合物からなる群から選ばれる1種以上を、シランカップリング剤等という。シランカップリング剤等は、溶液として金属基材に塗布される。
溶液に用いる溶媒は特に、限定されない。作業条件などにより適宜選択される。その溶媒としては、メタノール、エタノール、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、メチルセルソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、水、ヘキサン等が挙げられる。好ましくは、メタノール、エタノール、メチルエチルケトン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブの水溶性溶媒である。溶媒としては、上記のうち1種類のみ使用しもよいが、2種類以上混合して使用すると均一な接着剤層を形成する上で好ましい。
【0032】
上記シランカップリング剤の溶液には、必要に応じてシリケート類、チタネート類、その他のカップリング剤、顔料などの添加剤を混合してもよい。
上記溶液のシランカップリング剤等の濃度は、特に限定されないが、0.1〜50質量%が好ましく、1〜40質量%がより好ましく、5〜30質量%が最も好ましい。この範囲にあると均一なシランの縮合体塗膜になりやすく、接着力が良好である。
【0033】
該シランカップリング剤を含有する溶液の市販品の具体例としては、横浜高分子研究所製「MP−204」、「MP−205」等を、ロード・ファー・イースト社製「ケムロック607」、「ケムロックY4310−1」、「ケムロックAP−133」等が挙げられる。
本発明は、上記のシランカップリング剤等を含有する溶液を、ディッピング、スピンコート、スプレー、ハケ塗り、ロールコート等の方法で金属基材の表面に塗布した後、焼付けして金属基材表面上にシランカップリング剤等の接着剤層を形成する。
【0034】
シランカップリング剤等を金属基材に塗布される時の金属基材の温度は、0〜80℃が好ましく、10〜50℃がより好ましい。金属の温度が80℃超では、接着剤が塗布された直後に溶剤が蒸発し易く接着剤の塗膜のムラにつながるほか、接着剤の塗膜の強度が不足し、接着力低下につながる場合がある。0℃未満では、空気中の水蒸気が金属基材表面に結露する場合がある。水分が結露すると、均一な塗膜が出来ないため、接着ムラにつながる。
シランカップリング剤の塗布量は、特に制限ないが、塗布して得られる乾燥膜厚が0.1〜10μmが好ましく、0.5〜5μmがより好ましく、1〜3μmがさらに好ましい。乾燥膜厚が10μm超になると、接着力を低下させることがある。
【0035】
本発明において、金属基材へシランカップリング剤等の溶液を塗布後に、乾燥し、焼付けする。
乾燥温度は、通常、40℃以下が好ましく、0〜30℃がより好ましい。室温での乾燥は、十分風乾させる程度でよく、金属基材表面上の水分が除去できるようにすることが好ましい。乾燥時間は、特に制限なく、適宜選定すればよい。
焼付け温度は、200〜300℃であり、好ましくは205〜280℃であり、より好ましくは210〜270℃であり、特に好ましくは210〜260℃である。この温度範囲で焼付けすることで、スチーム暴露後にも優れた接着力が保持される。焼付け時間は、1〜120分間が好ましく、5〜60分間がより好ましく、10〜30分間が最も好ましい。
【0036】
焼付け温度および時間が上記範囲内であれば、シランカップリング剤等の加水分解により生成するシラノール基間での脱水縮合反応が高い割合でおこり、シロキサン(Si−O−Si)結合によるネットワークが生成し、熱水やスチーム等の過酷な環境下でも劣化しにくい強固な骨格を形成すると考えられる。したがって、この様な強固な接着剤層を形成している場合には、剥離試験時に、架橋フッ素ゴム組成物と金属基材との剥離が架橋フッ素ゴム層の凝集破壊として観察される。
【0037】
焼付け温度が200℃未満では、スチーム等の過酷な環境での暴露後の接着力が不十分であり、架橋フッ素ゴム組成物と金属基材とは界面剥離により剥離することが観察される。これは、シラノール基間の脱水縮合反応が充分に起こらないため、接着剤層が強固な骨格とならないためと推定される。
【0038】
本発明の架橋フッ素ゴムは、135℃のスチーム雰囲気下に70時間保持するプレッシャークッカー試験後に金属基材と架橋フッ素ゴムとを剥離して、剥離界面におけるフッ素ゴムの凝集破壊の割合が80%以上であることが好ましい。
ここで、凝集破壊の割合とは、剥離界面における架橋フッ素ゴムと金属基材間の剥離が界面剥離ではなく、架橋フッ素ゴムの凝集破壊となり、金属基材上に架橋フッ素ゴムが残った面積(架橋フッ素ゴムと金属基材との界面剥離が見られなかった面積)の、全剥離面積(界面剥離面積と凝集破壊面積の合計)に対する割合をいい、以下、この割合を凝集破壊面積率(%)という。ここで、凝集破壊面積率が80%以上であれば接着力に優れているといえる。
【0039】
本発明の架橋接着方法において、上記架橋性フッ素ゴム組成物を、シランカップリング剤等を塗布し焼き付けた金属基材の表面に置き、加熱することにより、フッ素ゴム組成物を架橋し成形すると共に金属基材とフッ素ゴムとを接着させる。成形法としては、押出成形、射出成形、トランスファー成形、プレス成形などにより、成形し架橋接着することが好ましい。特に、プレス成形などの加圧成形がより高い接着力が得られるので好ましい。加熱加圧条件は、成形品の形状や使用する架橋剤の分解温度等によって決定されるが、通常、120〜200℃、5〜120分間、0.5〜20MPa程度が好ましい。
【0040】
本発明の金属基材と架橋フッ素ゴム組成物が接着した架橋フッ素ゴムにおいて、上記架橋接着(一次架橋ともいう。)で得られた架橋フッ素ゴムを、必要により、電気、熱風、蒸気などを熱源とするオーブンなどでさらに加熱して、さらに架橋を進行させる(二次架橋ともいう。)ことも好ましい。二次架橋時の温度としては、好ましくは150〜280℃、より好ましくは180〜260℃、最も好ましくは200〜250℃、である。二次架橋時間は、好ましくは1〜48時間、より好ましくは、4〜24時間である。十分に二次架橋することにより、架橋フッ素ゴムに含有される有機過酸化物の残渣などが分解、揮散されて、低減されるうえ、架橋フッ素ゴムの物性が安定するので好ましい。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、以下の実施例、比較例で使用したフッ素ゴム組成物としては、以下の配合剤および表1に記載の配合比率を用いた。
(1)フッ素ゴム
AFLAS 150P:旭硝子社製、テトラフルオロエチレン/プロピレン2元共重合体。過酸化物架橋タイプ、フッ素含有量は57質量%。以下、FEPMという。
Daiel G−902:ダイキン社製、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン3元共重合体、過酸化物架橋タイプ、フッ素含有量は71質量%。以下、FKMという。
(2)架橋助剤
TAIC:日本化成社製、トリアリルイソシアネート。
【0042】
(3)有機過酸化物
パーブチルP:日油社製、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ)−p−ジイソプロピルベンゼン。
パーヘキサ25B:日油社性、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)へキサン
(4)充填剤
MTカーボン:CANCARB社製。
(5)加工助剤
ステアリン酸カルシウム:キシダ化学社製。
【0043】
【表1】

【0044】
(実施例1)
厚さ2.0mm、幅25mm、および長さ60mmのSUS316製金属試験片をアセトンで脱脂後、蒸留水で洗浄した。
洗浄した金属試験片を50℃の乾燥機で30分間乾燥後、20℃の恒温室に放置し、金属試験片温度が約20℃になるように調節した。
金属試験片の接着面にシランカップリング剤を含有する横浜高分子研究所製架橋接着剤「MP−204」(アミノ基含有シランカップリング剤の含有量:1〜5質量%)を乾燥膜厚が1μmになるように刷毛で1回塗り、室温で10分間風乾して、金属試験片の表面の水分を除去した。次いで、250℃の乾燥機で15分間の焼付けを行った後、室温で30分間、空冷させた。
【0045】
170℃に予熱した金型に焼き付け処理した金属試験片を敷き、表1に記載のFEPM組成物をのせて15MPaの加圧下、170℃で20分間のプレス架橋を行い、金属上に2mmの架橋FEPM層が積層された接着試験片を得た。
得られた接着試験片を、JIS K6256に準じて「剛板と架橋FEPMの90度はく離試験」を行い、その最大はく離強度および剥離界面における金属基材表面における凝集破壊面積率を測定した結果を表2に示した。平山製作所製プレッシャークッカーを使用し、温度135℃、70時間の条件で耐スチーム試験を行った後に、再度、上記のはく離試験を行った。その結果も表2に示した。
【0046】
(実施例2)
焼付け温度を210℃に、焼付け時間を30分間に変更した以外は、実施例1と同様して接着試験片を作成し、実施例1と同様にして試験を行った。その結果を表2に示した。
(実施例3)
焼付け温度を200℃に、焼付け時間を60分間に変更した以外は、実施例1と同様して接着試験片を作成し、実施例1と同様にして試験を行った。その結果を表2に示した。
(実施例4)
接着剤をロード・ファー・イースト社製「Chemlok607」(アミノ基含有シランカップリング剤の含有量:10〜15質量%)に、焼付け温度を200℃に、焼付け時間を60分間に変更した以外は、実施例1と同様して接着試験片を作成し、実施例1と同様にして試験を行った。その結果を表2に示した。
【0047】
(実施例5)
FEPMをFKMに変更し、表1に記載のFKM組成物を用いて、焼付け時間を30分間に変更した以外は、実施例1と同様して接着試験片を作成し、実施例1と同様にして試験を行った。その結果を表2に示した。
(実施例6)
接着剤として、メタノールの99g、水の1g、エチレングリコールモノエチルエーテル(関東化学社製)の1g、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製:KBM903)の10gを混合し、室温で2時間攪拌して、調合接着剤1を得た。調合接着剤1中、3−アミノプロピルトリメトキシシランの含有割合は、9.0質量%であった。その調合接着剤1を使用し、焼付け時間を10分間とした以外は、実施例1と同様して接着試験片を作成し、実施例1と同様にして試験を行った。その結果を表3に示した。
【0048】
(実施例7)
接着剤として、メタノールの99g、水の1g、エチレングリコールモノエチルエーテル(関東化学社製)の1g、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製:KBM903)の10g、ビニルトリメトキシシラン(信越化学社製:KBM1003)の1gを混合し、室温で2時間攪拌して、調合接着剤2を得た。調合接着剤2中、3−アミノプロピルトリメトキシシランの含有割合は、8.9質量%であり、全シランカップリング剤に占める、3−アミノプロピルトリメトキシシランの含有割合は、91質量%であった。その調合接着剤2を使用し、焼付け時間を15分間とした以外は、実施例1と同様して接着試験片を作成し、実施例1と同様にして試験を行った。その結果を表3に示した。
【0049】
(実施例8)
接着剤として、メタノールの99g、水の1g、エチレングリコールモノエチルエーテル(関東化学社製)の1g、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製:KBM903)の5g、ビニルトリメトキシシラン(信越化学社製:KBM1003)の5gを混合し、室温で2時間攪拌して、調合接着剤3を得た。調合接着剤3中、3−アミノプロピルトリメトキシシランの含有割合は、4.5質量%であり、全シランカップリング剤に占める、3−アミノプロピルトリメトキシシランの含有割合は、50質量%であった。その調合接着剤3を使用し、焼付け時間を15分間とした以外は、実施例1と同様して接着試験片を作成し、実施例1と同様にして試験を行った。その結果を表3に示した。
【0050】
(比較例1)
焼付けをしなかった以外は、実施例1と同様に試験を行った。その結果を表4に示した。
(比較例2)
焼付け温度150℃に、焼付け時間を30分間に変更した以外は、実施例1と同様に試験を行った。その結果を表4に示した。
【0051】
(比較例3)
特許文献4に従い、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポシキ当量:218g/eq)に対し、アミン系硬化剤(製品名「ジアミノジフェニルスルフォン」、三井東圧化学製)をエポキシ当量1g/eqに対し1H
+ g/eqとなる割合で配合し、上記エポキシ樹脂と上記アミン系硬化剤との合計質量が3%になるようメチルエチルケトン〔MEK〕に溶かして、接着剤を得た。該接着剤を使用し、焼付け温度を200℃に、焼付け時間を5分間とした以外は、実施例1と同様に試験を行った。その結果を表4に示した。
【0052】
(比較例4)
焼付け時間を60分間とした以外は、比較例3と同様に試験を行った。その結果を表4に示した。
(比較例5)
焼付け温度を190℃とした以外は、実施例5と同様に試験を行った。その結果を表5に示した。
【0053】
(比較例6)
接着剤として、東洋化学研究所社製「メタロックS−10A」(アミノ基含有シランカップリング剤の含有量:12〜14質量%)を用い、焼付け温度を120℃とし、焼付け時間を10分間とした以外は、比較例1と同様して接着試験片を作成し、比較例1と同様にして試験を行った。その結果を表5に示した。
【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

【0057】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のフッ素ゴムと金属基材の架橋接着方法により得られた架橋フッ素ゴムは、スチーム暴露後においても優れた金属基材と架橋フッ素ゴム組成物とが優れた接着力を保持し、耐スチーム性、耐水性、耐プラズマ性、耐熱性、耐薬品性などにも優れる。特に、耐薬品性、耐スチーム性、耐熱性が要求される分野に使用される、オイルシールなどの複合部品、特にパイプ、チュープ、タンク、バルブ、エンジン、ポンプ、ロールなどとして有効である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材にフッ素ゴム組成物を架橋接着させるにあたり、該金属基材にシランカップリング剤、該シランカップリング剤の加水分解物およびその部分縮合物からなる群から選ばれる1種以上を含有する溶液を塗布し、乾燥後、該基材を温度200〜300℃で焼付けした後、フッ素ゴム組成物を架橋接着させることを特徴とするフッ素ゴムの架橋接着方法。
【請求項2】
前記フッ素ゴム組成物の架橋が、有機過酸化物を用いたパーオキシド架橋である請求項1に記載のフッ素ゴムと金属の架橋接着方法。
【請求項3】
前記シランカップリング剤が、アミノ基含有シランカップリング剤およびビニル基含有シランカップリング剤からなる群から選ばれる1種以上である請求項1または2に記載のフッ素ゴムの架橋接着方法。
【請求項4】
前記フッ素ゴム組成物の架橋時間が、1〜120分間である、請求項1〜3のいずれかに記載のフッ素ゴムの架橋接着方法。
【請求項5】
前記シランカップリング剤、該シランカップリング剤の加水分解物およびその部分縮合物からなる群から選ばれる1種以上を含有する溶液を塗布する際の金属基材の温度が、0〜80℃である、請求項1〜4のいずれかに記載のフッ素ゴムの架橋接着方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のフッ素ゴムの架橋接着方法で得られる架橋フッ素ゴムであって、135℃のスチーム雰囲気下に70時間保持するプレッシャークッカー試験後に金属基材と架橋フッ素ゴムとを剥離して、剥離界面における架橋フッ素ゴム組成物の凝集破壊の割合が、80%以上であることを特徴とする架橋フッ素ゴム。




【公開番号】特開2010−202804(P2010−202804A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51082(P2009−51082)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】