説明

フッ素ゴム組成物及びその硬化物を含む物品

【解決手段】 重量平均分子量が30,000以上である下記一般式(1)で表される高分子化合物、
【化1】


(但し、nは1以上の整数、Rfは二価のパーフルオロアルキレン基又はパーフルオロオキシアルキレン基、Qは二価の有機基、Zは一価の有機基を示す。)
側鎖にトリフルオロプロピル基を含有するジヒドロキシポリシロキサンで疎水化処理された疎水性シリカ粉末、
パーオキサイド架橋剤、
トリフルオロプロピル基を含有せず、分子中にケイ素原子を含有する処理剤で疎水化処理された疎水性シリカ粉末、及び/又はポリジメチルシロキサンを含有してなる架橋性フッ素ゴム組成物。
【効果】 フィラー配合量が少なくてもロール作業性が良好であり、低硬度の硬化物を得ることができる。また練り後の粘度変化も少ないことから、成型品を量産するには効率がよく、複雑な形状の成型品も安定に製造でき、量産性に優れるため工業的な利用価値が大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロール作業性に優れ、しかも耐溶剤性、耐薬品性、耐熱性、低温特性が良好な硬化物を与えるパーオキサイド架橋可能なフッ素ゴム組成物及びその硬化物を含む物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のフッ化ビニリデン系フッ素ゴムは、耐熱性、耐薬品性、機械的強度などに優れたエラストマーであることから、自動車及び機械産業を中心に広い分野で工業的に使用されている。
【0003】
しかしながら、その耐薬品性は不十分であり、ケトン系、低級アルコール系、カルボニル系、有機酸系などの極性溶剤には容易に膨潤してしまい、アミンを含む薬品には劣化してゴム強度や伸びが極端に低下してしまうという欠点を有している。また、低温特性においても、−20℃以下ではゴム弾性を失ってしまい、シール材として使用できなくなってしまうため、寒冷地での使用には限界があるのが一般的である。
【0004】
そこで、それらの欠点を改善するために、パーフルオロ化合物と含フッ素オルガノ水素ポリシロキサンとを主成分とする含フッ素硬化性組成物が提案されている(特許文献1:特開平08−199070号公報)。
【0005】
しかしながら、これら組成物は、パーフルオロ化合物が低重合度の液状であることから液状の組成物となるため、FIPG工法やLIMS成型などには適しているものの、従来よりゴム成型で用いられている圧縮成型では作業性が劣ってしまう。
【0006】
特に、成型作業性、エアーの巻き込みによる不良の多発などにより、従来のゴム用2枚金型が使用できないことが多く、専用のLIMS金型を新たに作製しなければ安定した生産は困難である。
【0007】
しかし、LIMS金型は、一般的に従来のゴム用2枚金型に比べて高価であり、LIMS成型機への取り付けに手間取ったり、金型取り付け後の機械の調整に時間がかかるなどの問題点があり、多品種少量生産には不向きである。
【0008】
このような背景から、本発明者らは、ゴム用ロール作業が可能で圧縮成型用ゴム金型による成型が可能なタイプのゴム組成物(以下、ミラブルタイプ組成物)をパーフルオロ化合物、含フッ素オルガノヒドロポリシロキサン、フィラー、表面処理剤を主成分とする含フッ素硬化性組成物により製造する方法を提案した(特許文献2:特開2000−007835号公報)。
【0009】
上記提案では、小スケールでのロール作業性には問題がないが、5kg以上の量産スケールではロール混練り作業時の発熱によりゴム組成物温度が上昇し、ロール面への粘着が強くなり、ロール作業性が低下したり、ロール作業後に長期放置したゴム組成物は、粘度が変化して流れにくくなる場合がある。
【0010】
そこで、本発明者らは、更に検討を行い、特定の表面処理剤を使用することによって、量産時のロール作業性を改良できることを見出し、提案した(特許文献3:特開2001−106893号公報)。
【0011】
更には、特殊な表面処理剤を使用せずに、更にロール作業性を改善するために、本発明者らは検討を行った結果、パーオキサイド架橋可能で、ロール作業性に優れ、耐溶剤性、耐薬品性、耐熱性、低温特性に優れた硬化物を与えるミラブルタイプのフッ素ゴム組成物を見出し、提案した(特許文献4:特開2003−201401号公報)。
この提案では、組成物の硬化後の硬度(Shore−A)を60以下にするために、フィラーの配合量を低下させると、再びロール作業性に問題が生じ、低硬度タイプの製造が困難であった。
【0012】
【特許文献1】特開平08−199070号公報
【特許文献2】特開2000−007835号公報
【特許文献3】特開2001−106893号公報
【特許文献4】特開2003−201401号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、パーオキサイド架橋可能で、硬化後の硬度(Shore−A)が60以下であっても、ロール作業性に優れ、耐溶剤性、耐薬品性、耐熱性、低温特性に優れた硬化物を与えるミラブルタイプのフッ素ゴム組成物及びその硬化物含む物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、(A)一般式(1)で示される構造を有し、重量平均分子量が30,000以上である高分子化合物、(B)BET比表面積が50m2/g以上であり、側鎖にトリフルオロプロピル基を含有するジヒドロキシポリシロキサンで疎水化処理された疎水性シリカ粉末、(C)パーオキサイド架橋剤、(D)BET比表面積が50m2/g以上であり、トリフルオロプロピル基を含有せず、分子中にケイ素原子を含有する処理剤で疎水化処理された疎水性シリカ粉末、及び/又はポリジメチルシロキサンを含有する架橋性フッ素ゴム組成物によって、ロール面に対する粘着性が低下してロール作業性が向上すると共に、良好な物性を有するゴム硬化物を与えることを知見し、本発明をなすに至った。
【0015】
即ち、本発明は、
(A)成分:100部(質量部、以下同じ)
(B)成分:1〜100部
(C)成分:硬化有効量
(D)成分:0.1〜20部
を含有してなる架橋性フッ素ゴム組成物及びこの組成物を硬化してなるフッ素ゴム硬化物を部分構造又は全体構造として有する物品を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の組成物は、フィラー配合量が少なくてもロール作業性が良好であり、低硬度の硬化物を得ることができる。また練り後の粘度変化も少ないことから、成型品を量産するには効率がよく、複雑な形状の成型品も安定に製造でき、量産性に優れるため工業的な利用価値が大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(A)成分
(A)成分は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の重量平均分子量が30,000以上、好ましくは50,000以上の下記一般式(1)で表される高分子化合物である。
【0018】
【化1】

(但し、nは1以上の整数、Rfは二価のパーフルオロアルキレン基又はパーフルオロオキシアルキレン基、Qは二価の有機基、Zは一価の有機基を示す。)
【0019】
ここで、nは上記粘度を与える数である。この場合、(A)成分は、通常生ゴム状のものが好ましく、ノナフルオロブチルメチルエーテルに10質量%の濃度で溶解させたときの溶液の動粘度(25℃)が2.0mm2/s以上、より好ましくは5〜50mm2/s、特に10〜40mm2/sであることが好ましい。
【0020】
Rfはそれぞれ独立に、Cm2m(m=2〜15)で示される二価のパーフルオロアルキレン基、又は下記式(2)、(3)、(4)で示される基から選ばれる二価のパーフルオロオキシアルキレン基であることが好ましい。
【0021】
【化2】

(Xはそれぞれ独立にF又はCF3基、rは2〜6の整数、t、uはそれぞれ1又は2、p、qはそれぞれ0〜200の整数、sは0〜6の整数であるが、p、q、sが同時に0とはならない。)
【化3】

(Xは前記と同じ、v、wはそれぞれ1〜50の整数である。)
【化4】

(yは1〜100の整数である。)
【0022】
二価のパーフルオロアルキレン基は直鎖でも分岐していてもよく、例えば−C24−、−C36−、−C48−、−C612−、−C816−、−C1020−、−C24CF(CF3)C48−などが例示される。
【0023】
二価のパーフルオロオキシアルキレン基としては、例えば下記のものが例示される。
【化5】

【0024】
また、Qは下記式(5)で表される基であることが好ましい。
【化6】

(但し、
1は炭素数1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基及びこれらの基の水素原子の一部又は全部をハロゲン原子で置換した基から選ばれる一価炭化水素基、
2は水素原子又はR1と同様の一価炭化水素基、
3は酸素原子又は炭素原子数1〜8のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、これらの基の水素原子の一部をハロゲン原子で置換した基、及び上記アルキレン基とアリーレン基とを組み合わせた基から選ばれる二価炭化水素基、
4はR1と同様の一価炭化水素基、
5はR1と同様の一価炭化水素基、又は炭素原子数2〜20の脂肪族不飽和結合を含有する一価炭化水素基、及びこれらの基の水素原子の一部又は全部をハロゲン原子で置換した基から選ばれる一価炭化水素基であって、Qのうち少なくとも1個のR5が炭素原子数2〜20の脂肪族不飽和結合を含有する一価炭化水素基
である。)
【0025】
1、R2、R4の例示:
1、R4は炭素数1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基及びこれらの基の水素原子の一部又は全部をハロゲン原子で置換した基から選ばれる一価炭化水素基であり、R2は水素原子又はR1と同様の一価炭化水素基である。R1、R2、R4の一価炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などのアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などのシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などのアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基などのアラルキル基、あるいはこれらの基の水素原子の一部又は全部をハロゲン原子で置換したクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフルオロプロピル基などが挙げられる。
【0026】
5の例示:
5はR1と同様の一価炭化水素基、又は炭素原子数2〜20の脂肪族不飽和結合を含有する一価炭化水素基である。R5の脂肪族不飽和結合を含有する一価炭化水素基としては、例えばビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基及び下記構造の基が例示される。
(Siとの結合部位を示すために、化学式中にSiを記す。)
【化7】

【0027】
または、これらの基の水素原子の一部又は全部をハロゲン原子で置換した基として、下記のものが例示される。
(Siとの結合部位を示すために、化学式中にSiを記す。)
【化8】

【0028】
3の二価の有機基の例示:
3は酸素原子又は炭素原子数1〜8の二価炭化水素基である。R3の二価炭化水素基としては、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、メチルエチレン基、ブチレン基、ヘキサメチレン基等のアルキレン基、シクロへキシレン基等のシクロアルキレン基、フェニレン基、トリレン基、キシリレン基等のアリーレン基、これらの基の水素原子の一部をハロゲン原子で置換した基、及び上記アルキレン基とアリーレン基とを組み合わせた基から選ばれる二価炭化水素基などが挙げられる。
【0029】
Zは炭素原子数1〜30、より好ましくは1〜20の一価炭化水素基等の有機基であって、酸素、窒素、硫黄、ケイ素から選ばれる原子を結合途中に有していてもよく、これらの基の水素原子の一部又は全部をハロゲン原子で置換した基であってもよい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基あるいはこれらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子等で置換したクロロメチル基、ブロモエチル基、クロロプロピル基、トリフルオロプロピル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシル基、これらの基の途中に、エーテル結合、アミド結合、エステル結合、ウレタン結合、スルホニルアミド結合、シロキサン結合等を含んだ基を挙げることができる。
【0030】
(B)成分
本発明のフッ素ゴム組成物の(B)成分(疎水性シリカ粉末)は補強性フィラーである。この補強性フィラーは、ロール作業性、機械的強度、熱安定性、耐候性、耐薬品性、難燃性等を向上させたり、硬化時における熱収縮の減少、硬化して得られる弾性体の熱膨張率の低下、ガス透過率を下げるなどの目的で添加されるが、主としてミラブルタイプの組成物にするため、ロール作業性と機械的強度を向上させる目的で配合される。
【0031】
補強性フィラー用のシリカ粉末としては、例えば、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、珪藻土、石英粉末などを挙げることができ、(B)成分の疎水性シリカ粉末は、これらシリカ粉末を、側鎖にトリフルオロプロピル基を含有するジヒドロキシポリシロキサンを表面処理剤として使用し処理したものである。これらの中では、機械的強度の点からヒュームドシリカを処理したものが好ましい。
【0032】
表面処理剤として使用される、側鎖にトリフルオロプロピル基を含有するジヒドロキシポリシロキサンは下記一般式(6)で表される。
【化9】

(ここで、R6は前記R1と同様な基又はトリフルオロプロピル基であるが、少なくとも1個はトリフルオロプロピル基であり、R7は前記R1と同様な基であり、zは0〜1,000の整数である。)
【0033】
この場合、トリフルオロプロピル基の官能基割合(R6及びR7の合計量に対するモル割合)は30%以上、好ましくは50%以上、更に好ましくは80%以上であることが望ましい。
zは好ましくは0〜100、更に好ましくは0〜10である。
【0034】
この場合、表面処理は、揮発性の酸又は塩基存在下、上記シリカ粉末と表面処理剤とを混合加熱することによって製造することができる。上記シリカ粉末100部に対する上記表面処理剤の使用量は2〜50部、特に2〜30部であることが好ましい。
【0035】
補強性フィラーの配合量は、上記ポリマー100部に対して1〜100部であるが、好ましくは10〜50部である。1部未満ではフィラーの補強性が低下すると共に、ロール作業性が低下し、100部を超えるとゴムの柔軟性が失われたり、ロールに巻き付かなくなるなどの不都合が生じる。
【0036】
(C)成分
本発明の(C)成分のパーオキサイド架橋剤としては、例えば、ジベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス−t−ブチルパーオキシヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、1,6−ヘキサンジオール−ビス−t−ブチルパーオキシカーボネートなどが挙げられるが、架橋効率性、保存安定性やスコーチ防止の点から、2,5−ジメチル−2,5−ビス−t−ブチルパーオキシヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、1,6−ヘキサンジオール−ビス−t−ブチルパーオキシカーボネートが好ましい。
【0037】
上記パーオキサイド架橋剤の添加量は、(A)成分を硬化させるに十分な量であればよいが、(A)成分100部に対して0.1〜5部、特に0.5〜3部が好ましい。0.1部に満たないと架橋が不十分になったり、架橋が遅くなる場合があり、5部を超えると物性に悪影響を与える場合がある。
【0038】
(D)成分
本発明の(D)成分は、
(1)BET比表面積が50m2/g以上であり、トリフルオロプロピル基を含有せず、分子中にケイ素原子を含有する処理剤で疎水化処理された疎水性シリカ粉末、又は、
(2)ポリジメチルシロキサン
の2つのうち、どちらか一方を添加すればよい。
【0039】
(1)の疎水性シリカ粉末は、前記と同様な補強性フィラー用のシリカ粉末がケイ素原子を含有する表面処理剤によって疎水化処理されたものである(但し、処理剤にトリフルオロプロピル基は含有しない)。表面処理剤の例としては、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ジメチルビニルクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、ジエチルアミノトリメシルシラン、1,1,2,2−テトラメチル−1,2−ジビニルシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン、ジヒドロキシジメチルポリシロキサン等が挙げられる。
【0040】
この場合、表面処理方法は前記と同様でよく、また表面処理剤の使用量も前記と同様でよい。
【0041】
(2)のポリジメチルシロキサンは、25℃における粘度が0.5mPa・s〜生ゴム状の広範なものでよく、直鎖状あるいは分岐構造を有していてもよい。好ましくは、25℃における粘度が10mPa・s以上のポリジメチルシロキサンがよい。
【0042】
上記(D)成分の配合量は、(A)成分100部に対し0.1〜20部、特に0.1〜10部であることが好ましい。
なお、(D)成分の配合は、(A)成分と(B)成分の配合工程より後に行うのがよい。
【0043】
この組成物には、その実用性を高めるために、内添離型剤、ウェッター、顔料、染料などの種々の添加剤を必要に応じて添加することができる。
【0044】
本発明のフッ素ゴム組成物は、
(a)(A)成分に対し、(B)成分のフィラーを添加する工程、(D)成分を添加する工程、
(b)次いで(C)成分の架橋剤を添加する工程
によって製造することが好ましい。
【0045】
(a)工程は、一般的なゴムの配合に用いられるゴム用ニーダー、加圧ニーダー、バンバリーミキサー、ゴム用2本ロール等を用い、フィラーを添加しながら混練すればよい。
【0046】
これらの配合の際は、常温であっても何ら問題ないが、剪断熱を安定にするなどの目的によりポリマーが分解しない温度範囲で加熱してもよく、その条件は100〜300℃で10分〜8時間程度が望ましい。
【0047】
(b)工程は、(C)成分の架橋剤を配合する工程であるが、装置としてはニーダー、加圧ニーダー、バンバリーミキサーなどは混合発熱により架橋が進行するスコーチ現象の危険があり好ましくなく、分出し作業も行うことができるゴム用2本ロールが望ましく、練り作業時の発熱による架橋の進行を抑えるために冷却設備を有するものがよい。
【0048】
本発明の組成物の硬化条件は、一次キュアーとして100〜200℃で1〜30分が好ましい。100℃未満では硬化時間が長くなってしまうため、工業的生産性に劣る場合があり、200℃を超えるとスコーチ発生の危険性があるため、100〜200℃が好ましく、更には120〜170℃が好適である。その場合の硬化時間は架橋反応が完了する時間を適宜選択すればよい。また、本組成物の物性を安定化させるため、100〜230℃で1〜24時間程度の熱処理で二次キュアーをすることが好ましい。二次キュアーは100℃未満では効果が少なく、230℃を超えると熱分解するおそれがある。更に好ましくは150〜200℃で1〜20時間が好適である。
【0049】
本発明の組成物は種々の用途に利用することができる。即ち、フッ素含有率が高いため、耐溶剤性、耐薬品性に優れ、また、透湿性も低く、低表面エネルギーを有するため、離型性、撥水性に優れており、耐油性を要求される自動車用ゴム部品、具体的にはフューエル・レギュレーター用ダイヤフラム、パルセーションダンパ用ダイヤフラム、オイルプレッシャースイッチ用ダイヤフラム、EGR用ダイヤフラムなどのダイヤフラム類、キャニスタ用バルブ、パワーコントロール用バルブなどのバルブ類、クイックコネクタ用O−リング、インジェクター用O−リングなどのO−リング類、あるいは、オイルシール、シリンダヘッド用ガスケットなどのシール材など、化学プラント用ゴム部品、具体的にはポンプ用ダイヤフラム、バルブ類、O−リング類、ホース類、パッキン類、オイルシール、ガスケットなどのシール材など、インクジェットプリンタ用ゴム部品、半導体製造ライン用ゴム部品、具体的には薬品が接触する機器用のダイヤフラム、弁、O−リング、パッキン、ガスケットなどのシール材など、低摩擦耐磨耗性を要求されるバルブなど、分析、理化学機器用ゴム部品、具体的にはポンプ用ダイヤフラム、弁、シール部品(O−リング、パッキンなど)、医療機器用ゴム部品、具体的にはポンプ、バルブ、ジョイントなど、また、テント膜材料、シーラント、成型部品、押し出し部品、被覆材、複写機ロール材料、電気用防湿コーティング材、センサー用ポッティング材、燃料電池用シール材、積層ゴム布などに有用である。
【実施例】
【0050】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例で部は質量部を示す。また、下記例で使用した物質は下記の通りである。
【0051】
【化10】

8はC4924−又はCH2=CHC4824−であって、その比率は5:5である。
【0052】
【化11】

9はメチル基又はCH2=CHC4824−であって、その比率は3:7である。
【0053】
フィラー1
アエロジルA−300(日本アエロジル社製商品名;表面無処理のヒュームドシリカ)100部を、下記式で示されるトリフルオロプロピル基を含有する処理剤26部で処理したフュームドシリカ。
【化12】

【0054】
フィラー2
VP−NVX300;日本アエロジル社製商品名…ヘキサメチルジシラザンと1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザンの混合処理剤で処理されたヒュームドシリカ。
フィラー3
R976;日本アエロジル社製商品名…ジメチルジクロロシランで処理されたヒュームドシリカ。
シリコーン
ポリジメチルシロキサン生ゴム

パーオキサイド架橋剤
パーブチルI;日本油脂株式会社製商品名…t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート
【0055】
[実施例1〜4]
表1に示す成分を使用し、下記に示す工程によりフッ素ゴム組成物を得た。得られた組成物について以下のような評価を行った。結果を表1に示す。
(a)工程(フィラー配合工程)
上記ポリマーを300cc試験用ニーダーに移して温度を170℃に上昇させ、表1に示すような配合にてフィラー1を添加した。フィラー1の添加終了後、その他のフィラーあるいはシリコーンを添加配合し、同様の温度にて1時間混練りを継続した。
(b)工程(架橋剤配合工程)
(a)工程で得られたコンパウンドをニーダーから取り出し、ゴム用2本ロールに巻き付け、パーオキサイド架橋剤を配合して硬化可能なフッ素ゴム組成物を得た。このときのロール粘着性でロール作業性を評価した。
【0056】
[比較例1〜3]
表1に示す成分を使用し、下記に示す工程によりフッ素ゴム組成物を得た。得られた組成物について以下のような評価を行った。結果を表1に示す。
(a)工程(フィラー配合工程)
上記ポリマーを300cc試験用ニーダーに移して温度を170℃に上昇させ、表1に示すような配合にてフィラーを添加した。フィラーの添加終了後、同様の温度にて1時間混練りを継続した。
(b)工程(架橋剤配合工程)
(a)工程で得られたコンパウンドをニーダーから取り出し、ゴム用2本ロールに巻き付け、パーオキサイド架橋剤を配合して硬化可能なフッ素ゴム組成物を得た。このときのロール粘着性でロール作業性を評価した。
【0057】
[組成物の物性評価方法]
得られた組成物は、ゴム用75トンプレスにて150℃,10分間の条件で2mm厚のゴムシートを作製した後に、200℃,4時間のポストキュアーを行ったものをJISゴム評価方法に従い、物性測定を行った。
[ロール作業性評価方法]
3インチゴム用2本ロールに200gの材料を用いて、ロール混練作業を20分間継続したときのロール作業性を評価した。
◎:ロールへの粘着がなく、良好なロール作業性
○:ロールへの粘着が多少感じられるが、ロールの回転を止めずに作業できる
△:練り時間と共に粘着力が増すが、ロールの回転を止めていれば引き剥がすことが
できる
×:練り時間と共に粘着力が増して、ロールの回転を止めても材料の取り出しが困難
【0058】
【表1】

【0059】
表1の説明
比較例1〜3の組成物は特開2003−201401号公報に基づき実施したものである。従来の処理シリカフィラーを使用した場合、フィラー配合量が30部(比較例1)であればロール作業性は良好であるが、フィラー配合量を20部(比較例2,3)まで減らすと、ロール作業性は極端に低下する。
これに対して、実施例の組成物は、フィラー配合量を20部まで減らしても(実施例1〜3)ロール作業性は良好であった。また、これら組成物を硬化させて得られる硬化物の硬度は60以下であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)重量平均分子量が30,000以上である下記一般式(1)で表される高分子化合物 100質量部、
【化1】

(但し、nは1以上の整数、Rfは二価のパーフルオロアルキレン基又はパーフルオロオキシアルキレン基、Qは二価の有機基、Zは一価の有機基を示す。)
(B)BET比表面積が50m2/g以上であり、側鎖にトリフルオロプロピル基を含有するジヒドロキシポリシロキサンで疎水化処理された疎水性シリカ粉末
1〜100質量部、
(C)パーオキサイド架橋剤 硬化有効量、
(D)BET比表面積が50m2/g以上であり、トリフルオロプロピル基を含有せず、分子中にケイ素原子を含有する処理剤で疎水化処理された疎水性シリカ粉末、及び/又はポリジメチルシロキサン 0.1〜20質量部
を含有してなることを特徴とする架橋性フッ素ゴム組成物。
【請求項2】
式(1)において、Rfが、Cm2m(m=2〜15)で示される二価のパーフルオロアルキレン基又は下記式(2)、(3)、(4)で示される基から選ばれる二価のパーフルオロオキシアルキレン基であり、
【化2】

(Xはそれぞれ独立にF又はCF3基、rは2〜6の整数、t、uはそれぞれ1又は2、p、qはそれぞれ0〜200の整数、sは0〜6の整数であるが、p、q、sが同時に0とはならない。)
【化3】

(Xは前記と同じ、v、wはそれぞれ1〜50の整数である。)
【化4】

(yは1〜100の整数である。)
式(1)において、Qが、下記式(5)で表される基であり、
【化5】

(但し、
1は炭素数1〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基及びこれらの基の水素原子の一部又は全部をハロゲン原子で置換した基から選ばれる一価炭化水素基、
2は水素原子又はR1と同様の一価炭化水素基、
3は酸素原子又は炭素原子数1〜8のアルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、これらの基の水素原子の一部をハロゲン原子で置換した基、及び上記アルキレン基とアリーレン基とを組み合わせた基から選ばれる二価炭化水素基、
4はR1と同様の一価炭化水素基、
5はR1と同様の一価炭化水素基、又は炭素原子数2〜20の脂肪族不飽和結合を含有する一価炭化水素基、及びこれらの基の水素原子の一部又は全部をハロゲン原子で置換した基から選ばれる一価炭化水素基であって、Qのうち少なくとも1個のR5が炭素原子数2〜20の脂肪族不飽和結合を含有する一価炭化水素基
である。)
式(1)において、Zは酸素、窒素、硫黄、ケイ素から選ばれる原子を結合途中に有していてもよい炭素原子数1〜30の一価の有機基である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の組成物を硬化してなるフッ素ゴム硬化物を部分構造又は全体構造として有する物品。
【請求項4】
物品がシール材、O−リング、ダイヤフラム、ホース、又はコーティング材である請求項3記載の物品。

【公開番号】特開2006−22212(P2006−22212A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−201606(P2004−201606)
【出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】