説明

フッ素含有またはケイ素含有プリズムを有するプリズム再帰反射物品

約13×10パスカル未満の弾性率を有する透明ポリマー本体部分と、約14×10パスカルを超える弾性率を有し、共有結合したフッ素またはケイ素を有するポリマーを含む、内部反射性で開放空気に露出したキューブコーナー光学素子の層とを含む、プリズム再帰反射物品。従来使用されていた裏面カバーフィルムを除去することができ(それによって、費用、重量、剛性、およびシール脚形成による再帰反射性の低下が減少する)、湿潤条件、汚れた条件、または湿潤条件および汚れた条件の両方における再帰反射性を少なくとも部分的に維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、履物、衣類、標識、および路面表示などの用途に使用するためのプリズム再帰反射物品に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、プリズム再帰反射物品は、入射光を再帰反射するために多数のキューブコーナー光学素子を使用している。典型的には、この物品は透明であり、平滑な前面と、キューブコーナー素子が突出する裏面とを有する。入射光は、物品の前面に入り、物品を透過して、キューブコーナー素子小面によって内部反射し、物品を透過して戻り、前面から出て、光源に向かって戻る。キューブコーナー小面における反射は、キューブコーナー素子がより低屈折率の媒体(たとえば空気)内に入れられる場合には全反射によって、あるいは蒸着アルミニウムコーティングまたは屈折率の一致しない多層薄膜コーティングなどの適切な反射構造でキューブコーナー素子がコーティングされている場合には鏡面反射によって生じうる。種々のプリズム再帰反射物品およびそれらの製造が、たとえば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10、特許文献11、特許文献12、特許文献13、特許文献14、特許文献15、特許文献16、特許文献17、特許文献18、特許文献19、特許文献20、特許文献21、特許文献22、特許文献23、特許文献24、特許文献25、特許文献26、特許文献27、特許文献28、特許文献29、特許文献30;特許文献31、特許文献32、特許文献33、特許文献34、特許文献35、特許文献36、特許文献37、特許文献38、特許文献39、特許文献40、特許文献41、特許文献42、特許文献43、特許文献44、特許文献45、特許文献46、特許文献47、特許文献48、特許文献49、特許文献50、特許文献51、特許文献52、特許文献53、特許文献54、特許文献55、特許文献56、特許文献57、および特許文献58;特許文献59および特許文献60;ならびに特許文献61に言及または開示されている。
【0003】
微細構造の層または領域を有する種々の他の物品は、たとえば、特許文献62、特許文献63、特許文献64、特許文献65、特許文献66、特許文献67、特許文献68、特許文献69、特許文献70、特許文献71、特許文献72、特許文献73、特許文献74、特許文献75、特許文献76、特許文献77、および特許文献78;特許文献79、特許文献80、および特許文献81;特許文献82;ならびに特許文献83に言及または開示されている。
【特許文献1】米国特許第3,684,348号明細書
【特許文献2】米国特許第3,689,346号明細書
【特許文献3】米国特許第3,712,706号明細書
【特許文献4】米国特許第3,811,983号明細書
【特許文献5】米国特許第3,817,596号明細書
【特許文献6】米国特許第3,830,682号明細書
【特許文献7】米国特許第3,975,083号明細書
【特許文献8】米国特許第4,025,159号明細書
【特許文献9】米国特許第4,202,600号明細書
【特許文献10】米国特許第4,243,618号明細書
【特許文献11】米国特許第4,332,847号明細書
【特許文献12】米国特許第4,349,598号明細書
【特許文献13】米国特許第4,668,558号明細書
【特許文献14】米国特許第4,576,850号明細書
【特許文献15】米国特許第4,588,258号明細書
【特許文献16】米国特許第4,618,518号明細書
【特許文献17】米国特許第4,672,089号明細書
【特許文献18】米国特許第4,775,219号明細書
【特許文献19】米国特許第4,801,193号明細書
【特許文献20】米国特許第4,895,428号明細書
【特許文献21】米国特許第4,938,563号明細書
【特許文献22】米国特許第5,069,577号明細書
【特許文献23】米国特許第5,138,488号明細書
【特許文献24】米国特許第5,213,872号明細書
【特許文献25】米国特許第5,229,882号明細書
【特許文献26】米国特許第5,236,751号明細書
【特許文献27】米国特許第5,264,063号明細書
【特許文献28】米国特許第5,376,431号明細書
【特許文献29】米国特許第5,415,911号明細書
【特許文献30】米国特許第5,450,235号明細書
【特許文献31】米国特許第5,491,586号明細書
【特許文献32】米国特許第5,512,219号明細書
【特許文献33】米国特許第5,557,836号明細書
【特許文献34】米国特許第5,558,740号明細書
【特許文献35】米国特許第5,564,870号明細書
【特許文献36】米国特許第5,592,330号明細書
【特許文献37】米国特許第5,600,484号明細書
【特許文献38】米国特許第5,614,286号明細書
【特許文献39】米国特許第5,637,173号明細書
【特許文献40】米国特許第5,648,145号明細書
【特許文献41】米国特許第5,691,846号明細書
【特許文献42】米国特許第5,831,766号明細書
【特許文献43】米国特許第5,888,618号明細書
【特許文献44】米国特許第5,930,041号明細書
【特許文献45】米国特許第5,939,182号明細書
【特許文献46】米国特許第6,015,214号明細書
【特許文献47】米国特許第6,132,861号明細書
【特許文献48】米国特許第6,172,810B1号明細書
【特許文献49】米国特許第6,191,200B1号明細書
【特許文献50】米国特許第6,258,443B1号明細書
【特許文献51】米国特許第6,265,061B1号明細書
【特許文献52】米国特許第6,274,221B2号明細書
【特許文献53】米国特許第6,350,035B1号明細書
【特許文献54】米国特許第6,503,564B1号明細書
【特許文献55】米国特許第6,685,323B1号明細書
【特許文献56】米国特許第6,802,616B2号明細書
【特許文献57】米国特許第6,815,043B2号明細書
【特許文献58】米国特許第6,817,724B2号明細書
【特許文献59】米国特許出願公開第2003/0170426A1号明細書
【特許文献60】米国特許出願公開第2003/0198814A1号明細書
【特許文献61】国際公開第97/31357号パンフレット
【特許文献62】米国特許第4,609,587号明細書
【特許文献63】米国特許第609,587号明細書
【特許文献64】米国特許第4,755,425号明細書
【特許文献65】米国特許第5,073,404号明細書
【特許文献66】米国特許第5,508,084号明細書
【特許文献67】米国特許第5,559,634号明細書
【特許文献68】米国特許第5,812,317号明細書
【特許文献69】米国特許第6,127,020号明細書
【特許文献70】米国特許第6,386,699B1号明細書
【特許文献71】米国特許第6,541,591B2号明細書
【特許文献72】米国特許第6,582,759B1号明細書
【特許文献73】米国特許第6,590,711B1号明細書
【特許文献74】米国特許第6,649,249B1号明細書
【特許文献75】米国特許第6,632,508B1号明細書
【特許文献76】米国特許第6,660,389B2号明細書
【特許文献77】米国特許第6,734,227B2号明細書
【特許文献78】米国特許第6,815,040B2号明細書
【特許文献79】米国特許出願公開第2003/0134949A1号明細書
【特許文献80】米国特許出願公開第2003/0203186A1号明細書
【特許文献81】米国特許出願公開第2003/0235678A1号明細書
【特許文献82】国際公開第99/57185号パンフレット
【特許文献83】特開平08−309929号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
より低屈折率の媒体中にキューブコーナー素子が入れられているプリズム再帰反射物品の場合、裏面カバーフィルムまたはその他の一般に不浸透性の構造は、通常、キューブコーナー素子の一部にシールまたはその他の方法で接着され、残りのキューブコーナー素子は、キューブコーナー素子、裏面カバーフィルム、およびシーリング構造によって形成されるチャンバーまたはセルの内側の媒体中に入ったままとなる。たとえば、図4は、前面152、本体部分154、空気の入ったキューブコーナー素子156、および裏面カバーフィルム158を有する、従来技術のプリズム再帰反射物品150を示している。裏面カバーフィルム158は、シール脚(seal legs)162においてキューブコーナー素子160に熱溶接される。シールされたセルまたはチャンバー164の中の空気は、空気の入ったキューブコーナー素子において、より低屈折率の媒体となり、小面166および168などの小面においてキューブコーナー素子156内で全反射が可能となる。セル164および裏面カバーフィルム158は、湿気、汚れ、またはその他の汚染物質からキューブコーナー素子を保護し、再帰反射性の維持に役立つ。しかし、裏面カバーフィルム158によって、物品150の重量、費用、および剛性が大きく増加し、シール脚162によって、再帰反射に利用可能なキューブコーナー素子の数が減少する。
【0005】
可撓性が望まれる実施形態(たとえば、反射性の履物または衣類の用途、あるいは巻き上げ式標識の場合)においては、本体部分154および裏面カバーフィルム158は、キューブコーナー素子材料よりも軟質で可撓性のフィルムから作製することができる。しかし、裏面カバーフィルム158の可撓性がかなり高い場合でさえも、裏面カバーフィルムが存在することで物品150全体の剛性が大きく増加しうる。
【0006】
裏面カバーフィルム158を除去することはできる。しかし、その結果得られる再帰反射物品は、露出したキューブコーナー素子が濡れたり汚れたりすると、再帰反射性の大部分またはすべてが失われることがある。これは、屋外、競技用衣類、防火、および水中の用途において特に問題となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
低弾性率の透明本体部分と、共有結合したフッ素またはケイ素を有するポリマーから少なくとも部分的に形成された高弾性率で開放空気に露出した内部反射性のキューブコーナー光学素子とからプリズム再帰反射物品を形成することによって、可撓性物品を形成することができ、裏面カバーフィルムを除去することができ(それによって費用、重量、剛性、およびシール脚の形成による再帰反射性の低下を減少させることができ)、湿潤条件、汚れた条件、または湿潤条件と汚れた条件との両方における再帰反射性を少なくとも部分的に維持することができる。低弾性率の透明本体部分および高弾性率のキューブコーナー素子を使用することで、本体部分およびキューブコーナー素子の性質は、完成した再帰反射物品中のそれぞれの機能に関して個別に最適化させることができる。共有結合したフッ素またはケイ素を有するポリマーから少なくとも部分的に形成されたキューブコーナー光学素子を成形することによって製造された物品は、フルオロ界面活性剤などの移動性化学種を含有するキューブコーナー光学素子を成形することで物品を製造した場合よりも、金型汚染を起こりにくくすることができる。共有結合したフッ素またはケイ素を有するポリマーから少なくとも部分的に形成されたキューブコーナー光学素子から製造された物品は、露出したキューブコーナー小面を単に表面処理するだけで得られるであろう耐久性よりも、高い耐久性を得ることができる。したがって、一態様において、本発明は、約13×10パスカル未満の弾性率を有する透明ポリマー本体部分と、約14×10パスカルを超える弾性率を有し、共有結合したフッ素またはケイ素を有するポリマーを含む、内部反射性で開放空気に露出したキューブコーナー光学素子の層とを含む、プリズム再帰反射物品を提供する。
【0008】
別の態様においては、本発明は、約13×10パスカル未満の弾性率を有する透明本体部分を提供するステップと、その上に、約14×10パスカルを超える弾性率を有し、共有結合したフッ素またはケイ素を有するポリマーから少なくとも部分的に形成された、内部反射性で開放空気に露出したキューブコーナー光学素子の層を形成するステップと、キューブコーナー光学素子を開放空気に露出した状態で残すステップとを含む、プリズム再帰反射物品の製造方法の製造方法を提供する。
【0009】
本発明のこれらの態様およびその他の態様は、添付の図面および本明細書から明らかとなるであろう。しかし、いかなる場合においても、以上の要約は、請求される主題を限定するものとして構成されたものではなく、この主題は、添付の特許請求の範囲によってのみ定義され、手続処理中には修正可能である。
【0010】
種々の図面中の類似の参照記号は、類似の要素を示している。図面中の要素の縮尺は一定ではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
単語「一つの(a)」、「一つの(an)」、および「その(the)」は、「少なくとも1つ」と同じ意味で使用され、説明される要素の1つ以上を意味する。本開示の物品中の種々の位置に関して「頂上(atop)」、「〜の上(on)」、「最上の(uppermost)」、「下にある(underlying)」などの方向付けの単語を使用することによって、水平に配置され下方に面する透明本体部分に対する要素の相対位置を表している。本開示の物品は、それらの製造中または製造後に空間内のいずれかの特定の方向を有するべきであると、本発明者らが意図しているものではない。
【0012】
語句「屈折率」(index of refraction)および「屈折率」(refractive index)は、真空中と、その材料中の電磁波の位相速度の比を表す材料の性質を意味する。単語「光」は可視光を意味する。1つの光路中の2つ以上の要素に関して使用される場合、語句「光学的関連」は、その光路に沿って透過する光の有意な部分が、それらの要素を通過することを意味する。「再帰反射」物品は、光源またはその付近の観察者または検出器が反射光を見たり検出したりすることができるように、斜めから入射する光を、入射方向と平行な方向またはそれに近い方向に反射する。「透明」再帰反射素子は、垂直軸に沿って測定して約400nm〜約700nmの間の対象波長領域において少なくとも100nmの帯域幅で少なくとも約5%(より好ましくは少なくとも約10%、20%、または50%)の一方向透過率を有する。キューブコーナー光学素子に関して使用される場合、語句「内部反射」は、キューブコーナー素子裏面上の反射コーティング(たとえば、金属化コーティング、反射顔料を含有するコーティング、または屈折率の一致しない複数のコーティング層の積層体)によるのではなく、主としてキューブコーナー素子裏面上の空気界面によって、入射光を反射する要素を意味する。
【0013】
キューブコーナー素子に関して使用される場合、語句「空気の入った」は、密封されたセル内の空気と接触する裏面を有する要素を意味する。キューブコーナー素子に関して使用される場合、語句「開放空気に露出した」および「開放空気への露出」は、周囲空気に接触したポリマーの裏面を有する要素であって、金属化されたり、密封セル中に入ったりはしていない要素を意味する。
【0014】
単語「ポリマー」は、ホモポリマーおよびコポリマー、ならびに、たとえば、同時押出によって、またはエステル交換などの反応によって混和性ブレンド中に形成されうるホモポリマーまたはコポリマーを含んでいる。用語「コポリマー」は、ランダムコポリマーおよびブロックコポリマーの両方を含んでいる。「架橋」ポリマーは、通常は分子または基の架橋を介した共有化学結合によって複数のポリマー鎖が互いに結合して、網状ポリマーを形成するポリマーを意味する。一般に架橋ポリマーは不溶性であることを特徴とするが、適切な溶媒の存在下で膨潤する場合がある。キューブコーナー光学素子に関して使用される場合、語句「フッ素含有またはケイ素含有ポリマーから少なくとも部分的に形成された」は、共有結合したフッ素またはケイ素を有するポリマーを内部に有する光学素子を意味し、単に移動性で未結合のフッ素含有またはケイ素含有化学種(たとえば、フルオロ界面活性剤またはシロキサン界面活性剤)を含有することができるキューブコーナー光学素子や、露出面が単に局所的なフッ素含有またはケイ素含有コーティングを有することができるキューブコーナー光学素子とは区別される。
【0015】
図1は、三面体の角錐型プリズムを形成するよう配置された開放空気に露出した3つの平面状小面18によってそれぞれ画定される複数のキューブコーナー素子16を有する再帰反射物品10の一部を示している。キューブコーナー光学素子16は、シーティングの一辺上に規則的な配列で適合した組として配置されており、図面のページから外側に突出するように示されている。平面状小面18は、たとえば、互いに実質的に垂直であってよい(部屋の角と同様)。小面18の間の角度は、通常は、配列内の各キューブコーナー素子で同じであり、約90°である。しかし、この角度は、米国特許第4,775,219号明細書などに記載されるように、90°からずれていてもよい。各キューブコーナー素子16の頂点20は、米国特許第3,684,348号明細書などに記載されるように、キューブコーナー素子底面の中心と垂直方向で位置合わせされる場合もあるが、米国特許第4,588,258号明細書などに記載されるようにこの頂点が傾いていてもよい。したがって、本開示の発明は、いずれかの特定のキューブコーナー形状に限定されるものではなく、現在知られている、またはこれ以降開発されるあらゆる形状を使用することもできる。
【0016】
図2は、図1の線2−2に沿った、再帰反射物品10の断面図を示している。再帰反射物品10は、前面または入射面13とおよび裏面15とを有する本体部分12を有する。本体部分12は、約13×10パスカル未満の弾性率を有する。内部反射キューブコーナー光学素子16の層が、裏面15から突出し、本体部分12と光学的に関連している。小面18の裏面は、開放空気に対して露出している。キューブコーナー光学素子16は、約14×10パスカルを超える弾性率を有し、共有結合したフッ素またはケイ素を有するポリマーから少なくとも部分的に形成されている。ポリマー中にフッ素原子またはケイ素原子が存在すると、キューブコーナー光学素子16と接触しうる水滴または油滴の付着および拡散が減少することなどによって、素子16が水または油の一方または両方に対して露出する場合の再帰反射性の低下が軽減される。キューブコーナー光学素子16は、水、鉱油、または水と鉱油との両方が、素子16に適用された場合に拡散するのではなくビードを形成する(bead up)ように、望ましくは十分低い表面エネルギーを有する。望ましくは、物品10の裏面が降雨またはその他の液体に曝露した場合に、入射光Iは、本体部分12に前面13から入り、キューブコーナー光学素子16内まで通過して、キューブコーナー小面18で反射され、反射光ビームRで示される入射ビームとほぼ同じ方向に再度向かうことができる。
【0017】
本体部分12は、種々の好適な可撓性で、好適には光透過性のポリマー材料から製造することができる。前述の米国特許第5,691,846号明細書において「オーバーレイフィルム」(overlay film)として記載されている材料が好ましい。たとえば、本体部分12は、望ましくは、可塑化ポリ塩化ビニルフィルム、脂肪族または芳香族のポリウレタンフィルム、アイオノマーのエチレンコポリマーフィルム、低密度ポリエチレンフィルム、ポリエチレンコポリマーフィルム(たとえば、酸官能性またはアクリル官能性のポリマーフィルム)、あるいはそれらの組み合わせから製造することができる。
【0018】
キューブコーナー光学素子16は、種々の好適な剛性光透過性ポリマー材料から製造することができる。たとえば、キューブコーナー光学素子16全体を、フルオロポリマーから製造することができる。フルオロポリマーは、再帰反射シーティングの本体層フィルム(たとえば、米国特許第3,684,348号明細書参照)、ならびに金属化または封入されたキューブコーナー光学素子(たとえば、米国特許第6,258,443B1号明細書参照)において有用であると従来言われているが、開放空気に露出したキューブコーナー光学素子の製造には使用されていないと思われる。キューブコーナー光学素子16全体を、シロキサンポリマーから製造することもできる。「ハード」セグメントと「ソフト」ポリシロキサンセグメントとを有するポリマーは、モノリス再帰反射シーティング(たとえば、米国特許第4,668,558号明細書参照)の製造に従来使用されているが、低弾性率の透明本体部分と高弾性率のキューブコーナー光学素子とを有する再帰反射物品中の開放空気に露出したキューブコーナー光学素子の製造には使用されていないと思われる。キューブコーナー光学素子16は、種々の他の熱可塑性または熱硬化性材料(たとえば、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリウレタン、未可塑化ポリ塩化ビニル、およびエポキシアクリレート)から製造することもでき、これらの材料を、フッ素またはケイ素含有ポリマーメルト添加剤、あるいは共重合性フッ素またはケイ素含有モノマー、オリゴマーまたはポリマーに加えた後、キューブを形成することができる。当業者であれば、共有結合したフッ素またはケイ素を有するポリマーから少なくとも部分的に形成されたキューブコーナー光学素子より本開示の再帰反射物品を形成するために他の方法を使用できることは理解できるであろう。
【0019】
単独で使用したり、熱可塑性または熱硬化性樹脂への添加剤として使用したりすることができ、それらからキューブコーナー光学素子が形成される代表的なフッ素含有またはケイ素含有材料(すなわち「キューブ樹脂」)としては、フッ素含有およびケイ素含有アクリレートおよびメタクリレート(たとえば、アクリル酸またはメタクリル酸パーフルオロアルキル、たとえば、アクリル酸メチルパーフルオロブチルスルホンアミドエチル、メタクリル酸メチルパーフルオロブチルスルホンアミドエチル、および次式のオリゴマー:
O[CFCF(CF)O]nCF(CF)CONHC−OCO−C(CH)=CH
(上式中、nは、たとえば6〜7であってよい);ポリジメチルシロキサンアクリレートおよびメタクリレート、たとえばポリエーテル改質ポリジメチルシロキサンアクリレートおよびポリエーテル改質ポリジメチルシロキサンメタクリレート);ならびにポリエーテル改質ポリジメチルシロキサンが挙げられる。
【0020】
図3は、本開示の方法により再帰反射物品(連続再帰反射シーティングの形態)をキャスティングし硬化させるための装置の概略図であり、この装置は全体的に30で示されている。図3に示されるように、可撓性本体層フィルム31が供給リール32から引き出される。高弾性率のフッ素またはケイ素含有キューブ樹脂34が、低弾性率本体フィルム31の上面にコーティングダイ36から適用される。本体フィルム31およびそれに適用されたキューブ樹脂層は、ゴムで覆われたニップローラー33によって、パターンが形成された工具ロール35に押し付けられる。工具ロール35中のキューブコーナー素子を形成する空隙37の上に延在するキューブ樹脂の厚さが存在する場合、その厚さは、ニップローラー33のニップ幅またはニップ圧を設定することによって調節することができる。たとえば、延在する樹脂厚さを最小限にしたり厚さが無くなったりするようにニップを設定することによって、完成した再帰反射シーティング中の個別のキューブコーナー光学素子の間のランド部分の破壊を促進することができる。この破壊によって、個別のキューブコーナー素子を隣接するキューブコーナー素子から分断することができ、完成した再帰反射シーティングをより可撓性にすることができる。
【0021】
成形された熱可塑性キューブ樹脂は、当業者に周知である種々の方法(たとえば、冷却されパターン形成された工具ロール)を使用して冷却して、完成キューブコーナー素子を形成することができる。熱硬化性キューブ樹脂は、当業者に周知である種々の方法(たとえば、電子ビーム曝露などの好適な放射線源;紫外線、可視光線、または赤外線などの化学線;あるいはキューブ樹脂の性質に依存したその他の好適なエネルギー源への曝露によって)を使用して1つ以上の段階で硬化させて、完成キューブコーナー素子を形成することができる。たとえば、キューブ樹脂が空隙37内に埋め込まれているときに、1つ以上の第1の放射線源39を使用して、本体層フィルム31を通して熱硬化性キューブ樹脂に照射することができる。この第1または主要の硬化ステップは、キューブコーナー光学素子を実質的に完全に硬化させることができるし、あるいは、キューブコーナー光学素子が寸法安定性となり、工具ロール35からの支持がもはや不要となる程度まで、キューブ樹脂を単に部分的に硬化させることもできる。次に、ローラー41でシーティングを工具ロール35から取り外して、キューブコーナー素子を露出させることができ、この完成した再帰反射シーティング43を巻き取りリール45で巻き取ることができる。
【0022】
場合により、キューブ樹脂の性質に依存して選択される1つ以上の二次的な硬化処理を使用することで、キューブコーナー光学素子のアレイをさらに硬化させ、それらの本体層フィルムへの結合を強化することができる。この2つの部分に分かれた硬化方法によって、プロセスおよび材料の最適化が可能となる。たとえば、紫外線吸収剤(より高い耐久性および耐候性を付与するため)を含有する本体層を有する再帰反射シーティングは、放射線源39を使用して透明本体層フィルムを通した可視光の1次硬化処理を行い、次に工具ロール35からシーティングを取り外し、場合により選択される第2の放射線源47を使用して、露出したキューブコーナー素子に対して紫外線の第2の硬化処理を行うことによって、製造することができる。
【0023】
場合により、本体層フィルム31は、構造的および機械的耐久性を本体層フィルム31に付与する好適なキャリアフィルム(図3中には示していない)によって、キャスティングおよび硬化の間に支持することができ、このキャリアフィルムは、完成した再帰反射シーティング43を巻き取りリール45で巻き取る前に本体層フィルム31から除去される。このようなキャリアフィルムの使用は、低弾性本体層フィルムの場合に特に好ましい。
【0024】
本開示の方法は、再帰反射シーティングを工具ロール35から取り外した後に、加熱処理を行うこともできる。このような加熱によって、本体層フィルムまたはキューブコーナー光学素子の内部に生じうる応力が緩和し、未反応の水分および副反応生成物が除去される。通常、このような処理は、高温、たとえばキューブ樹脂のガラス転移温度より高温までシーティングを加熱することを伴う。
【0025】
完成した再帰反射物品は、そのまま使用することもできるし、あるいは、キューブコーナー光学素子を開放空気に対して露出したままにする好適な支持体上に取り付けることもできる。多種多様な支持体を使用することができ、それらは当業者には周知である。代表的な支持体としては、織布、不織布、または編物(たとえば、衣類および履物に使用される)、プラスチック、皮革、金属、タイル、コンクリート、メーソンリー、および木材が挙げられる。多種多様な取付技術を使用することができ、それらは当業者には周知である。代表的な取付技術としては、縫製、接着剤、溶接(たとえば超音波溶接)、および固定具(たとえばリベット)が挙げられる。
【0026】
以下の例示的実施例において本発明をさらに説明するが、特に明記しない限り、これらの実施例におけるすべての部数およびパーセント値は、重量を基準としている。
【実施例】
【0027】
実施例1
24.75部のエベクリル(EBECRYL)(商標)3700ビスフェノールAエポキシジアクリレート(UCBケミカルズ・インコーポレイテッド(UCB Chemicals,Inc.))、49.5部のトリメチロールプロパントリアクリレート、24.75部のヘキサンジオールジアクリレート、および1部のダロキュア(DAROCURE)(商標)4265光開始剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ・インコーポレイテッド(Ciba Specialty Chemicals,Inc.))から、対照キューブ樹脂を形成した。3部のBYK(商標)UV3510ポリエーテル改質ポリジメチルシロキサン(ビックケミーUSAインコーポレイテッド(Byk−Chemie USA,Inc.))を、97部の上記対照キューブ樹脂に加えることによって、改質キューブ樹脂を調製した。3.5のハンド値および約10パスカル未満の弾性率を有する厚さ0.25mmの可塑化透明ポリ塩化ビニル本体層フィルム(アキレスUSA・インコーポレイテッド(Achilles USA,Inc.)のNo.KGC193)を、図3に示すような装置に取り付けた。対照キューブ樹脂および改質キューブ樹脂を、本体層フィルムに対してUV硬化させて、高さ0.9mmの開放空気に露出したキューブコーナー光学素子を有する未封止の再帰反射シーティングを形成した。対照シーティングのキューブ側を水に曝露すると、水がキューブコーナー光学素子の裏面を濡らし、再帰反射性が大きく低下した。改質キューブ樹脂シーティングを水に曝露すると、水はキューブコーナー光学素子を濡らさなかった。その代わり、適用した水は水滴となり、液体との接触面積が最小限となり、再帰反射性は大部分が保存された。鉱油、ケロシン、ミネラルスピリット、およびイソプロパノールを使用してこれらの試験を繰り返すと、これらすべてが、対照シーティングおよび改質シーティングの両方を濡らすことが分かった。
【0028】
実施例2
実施例1の方法を使用して、3部の共重合性材料BYK(商標)UV3500ポリエーテル改質ポリジメチルシロキサンアクリレート(ビックケミーUSAインコーポレイテッド(Byk−Chemie USA,Inc.))を97部の上記対照キューブ樹脂に加えることによって、改質キューブ樹脂を調製した。この改質キューブ樹脂を、本体層フィルムに対してUV硬化させて、高さ0.9mmの開放空気に露出したキューブコーナー光学素子を有する未封止の再帰反射シーティングを形成した。この改質キューブ樹脂シーティングを水に曝露すると、水はキューブコーナー光学素子を濡らさなかった。その代わり、適用した水は水滴となり、液体との接触面積が最小限となり、再帰反射性は大部分が保存された。鉱油、ケロシン、ミネラルスピリット、およびイソプロパノールを使用してこれらの試験を繰り返すと、これらすべてが、改質シーティングを濡らすことが分かった。
【0029】
実施例3
実施例1の方法を使用して、10部または25部の、共重合性材料のアクリル酸メチルパーフルオロブチルスルホンアミドエチルまたはメタクリル酸メチルパーフルオロブチルスルホンアミドエチルを、90部または75部の上記対照キューブ樹脂に加えることによって、4種類の改質キューブ樹脂を調製した。これらの改質キューブ樹脂を、本体層フィルムに対してUV硬化させて、高さ0.9mmの開放空気に露出したキューブコーナー光学素子を有する未封止の再帰反射シーティングを形成した。水はこれらのキューブコーナー光学素子を濡らさなかった。その代わり、適用した水は水滴となり、液体との接触面積が最小限となり、再帰反射性は大部分が保存された。鉱油、ケロシン、ミネラルスピリット、およびイソプロパノールを使用してこれらの試験を繰り返すと、これらすべてが、改質シーティングを濡らすことが分かった。
【0030】
対照シーティングおよび改質シーティングのそれぞれを、安全ベストに使用される軽量ポリエステル編物に縫い付けた後、水シャワー試験を行い、欧州規格(European Standard)EN−471(「業務用高視認性安全作業衣−試験方法および要求事項」(High visibility warning clothing for professional use−Test methods and requirements))の付録D(Annex D)(「湿潤時の再帰反射性能の測定方法」(Method of measuring wet retroreflective performance))に準拠して再帰反射性を測定した。次に、試料について、ISO 6330(「織物−織物試験のための家庭での洗浄および乾燥の手順」(Textiles−Domestic washing and drying procedures for textile testing))に準拠して、60℃洗浄サイクルの後、50℃乾燥サイクルを使用して、洗濯を行い、次に再帰反射性を再測定した。これらの試料について、4回のさらなる60℃洗浄サイクルの後、1回の50℃乾燥サイクル(したがって、洗浄サイクルの総数は5回になる)を行い、さらに再帰反射測定を行った。再帰反射性結果は、次式で計算される分率で表した:
性能の改善=((改質−対照)/対照)×100
キューブコーナー光学素子の弾性率値は、ナノメカニカル分析を使用して求めた。洗濯後の再帰反射性および弾性率の結果を以下の表Iに示す:
【0031】
表I

【0032】
1回の洗濯後には、未改質対照試料に対して、すべての試料で性能の改善が見られた。実験3−3試料は、5回の洗浄後でも、未改質対照試料に対する性能の改善が見られた。
【0033】
本明細書に引用されているすべての参考文献は、それらの記載内容全体が明示的に本開示に援用される。本開示の例示的実施形態が議論され、本開示の範囲内の実現可能な変形に対する参照が行われている。本開示の範囲から逸脱しない本開示のこれらおよびその他の変形および修正は当業者には明らかであり、本開示が、本明細書に記載の例示的実施形態に限定されるものではないことを理解されたい。したがって、本発明は、特許請求の範囲によってのみ限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】開示されるキューブコーナー再帰反射物品10中の開放空気に露出したキューブコーナー素子裏面の一部の概略平面図である。
【図2】線2−2に沿ったキューブコーナー再帰反射物品10の断面図である。
【図3】開示される方法を実施するための例示的装置の概略図である。
【図4】裏面カバーフィルムによって封止されたセルの中に入ったキューブコーナー光学素子を有する従来技術のプリズム再帰反射物品の断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
13×10パスカル未満の弾性率を有する透明ポリマー本体部分と、14×10パスカルを超える弾性率を有し、共有結合したフッ素またはケイ素を有するポリマーを含む、内部反射性で開放空気に露出したキューブコーナー光学素子の層とを含む、プリズム再帰反射物品。
【請求項2】
前記キューブコーナー光学素子がフルオロポリマーを含む、請求項1に記載の再帰反射物品。
【請求項3】
前記キューブコーナー光学素子が、アクリル酸パーフルオロアルキルまたはメタクリル酸パーフルオロアルキルのポリマーまたはコポリマーを含む、請求項2に記載の再帰反射物品。
【請求項4】
前記キューブコーナー光学素子がポリシロキサンを含む、請求項1に記載の再帰反射物品。
【請求項5】
前記キューブコーナー光学素子が、ポリエーテル改質ポリジメチルシロキサンアクリレートまたはポリエーテル改質ポリジメチルシロキサンメタクリレートのポリマーまたはコポリマーを含む、請求項4に記載の再帰反射物品。
【請求項6】
前記キューブコーナー光学素子が熱可塑性であり、前記キューブコーナー光学素子がフッ素含有ポリマーメルト添加剤を含む、請求項1に記載の再帰反射物品。
【請求項7】
前記キューブコーナー光学素子が熱可塑性であり、前記キューブコーナー光学素子がケイ素含有ポリマーメルト添加剤を含む、請求項1に記載の再帰反射物品。
【請求項8】
前記キューブコーナー光学素子に適用したときに、水または鉱油が拡散するのではなく、ビードを形成する、請求項1に記載の再帰反射物品。
【請求項9】
前記キューブコーナー光学素子に適用したときに、水および鉱油が拡散するのではなく、ビードを形成する、請求項1に記載の再帰反射物品。
【請求項10】
前記キューブコーナー光学素子が前記開放空気に曝露したままの状態で前記再帰反射物品が取り付けられる支持体をさらに含む、請求項1に記載の再帰反射物品。
【請求項11】
前記支持体が布を含む、請求項10に記載の再帰反射物品。
【請求項12】
13×10パスカル未満の弾性率を有する透明本体部分を提供するステップと、その上に、14×10パスカルを超える弾性率を有し、共有結合したフッ素またはケイ素を有するポリマーを含む、内部反射性で開放空気に露出したキューブコーナー光学素子の層を形成するステップと、キューブコーナー光学素子を開放空気に露出した状態で残すステップとを含む、プリズム再帰反射物品の製造方法。
【請求項13】
共重合性フッ素含有モノマー、オリゴマー、またはポリマーを含む重合性樹脂混合物から前記キューブコーナー光学素子を形成するステップを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記重合性樹脂混合物がアクリル酸パーフルオロアルキルまたはメタクリル酸パーフルオロアルキルを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記アクリル酸パーフルオロアルキルまたはメタクリル酸パーフルオロアルキルが、アクリル酸メチルパーフルオロブチルスルホンアミドエチルまたはメタクリル酸メチルパーフルオロブチルスルホンアミドエチルを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
共重合性ケイ素含有モノマー、オリゴマー、またはポリマーを含む重合性樹脂混合物から前記キューブコーナー光学素子を形成するステップを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記重合性樹脂混合物がポリエーテル改質ポリジメチルシロキサンを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記重合性樹脂混合物が、ポリエーテル改質ポリジメチルシロキサンアクリレートまたはポリエーテル改質ポリジメチルシロキサンメタクリレートを含む請求項16に記載の方法。
【請求項19】
フッ素含有ポリマーメルト添加剤を含む熱可塑性樹脂混合物から前記キューブコーナー光学素子を形成するステップを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
ケイ素含有ポリマーメルト添加剤を含む熱可塑性樹脂混合物から前記キューブコーナー光学素子を形成するステップを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
前記キューブコーナー光学素子が前記開放空気に曝露したままの状態で前記再帰反射物品を支持体上に取り付けるステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項22】
前記支持体が布を含む、請求項21に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−525862(P2008−525862A)
【公表日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−549553(P2007−549553)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【国際出願番号】PCT/US2005/047070
【国際公開番号】WO2006/071863
【国際公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】