説明

フッ素樹脂成形体およびその製造方法

【課題】強度が高く、耐薬品性に優れ、半導体等に悪影響を与える成分を発生させ難いフッ素樹脂成形体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】フッ素樹脂(A)および強化繊維(B)を含有する含フッ素樹脂組成物からなる有底筒状または筒状の成形体本体1と、該成形体本体1の内表面に設けられた、ポリテトラフルオロエチレンまたはテトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体から選ばれるフッ素樹脂(C)からなるフッ素樹脂層2とを備えるフッ素樹脂成形体10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂成形体およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、半導体製造プロセスや医療分野等で使用される容器として適したフッ素樹脂成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は、耐薬品性、耐熱性、純粋性に優れていることから、半導体製造プロセスや医療分野等で使用される貯蔵容器、処理容器、洗浄容器等の容器の素材として使用されており、たとえば、半導体製造プロセスにおいては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の洗浄容器が使用されている。
【0003】
近年は、半導体製品、LCD用ガラス基板等が大型化し、また、製品の大量生産化が進行していることに伴い、大型の半導体製品、LCD用ガラス基板等をも処理でき、また、一度に大量の半導体製品等を処理し得る大型の容器が求められている。
【0004】
上記要求に応える手段の一つとして、フッ素樹脂製容器の大型化が考えられるが、大型化されたPTFE製容器には、強度に劣るという問題があった。
また、PTFEは、フッ素樹脂の中では熱膨張率が比較的高いため、温度変化に伴う膨張収縮が比較的大きい。このため、PTFE製容器は、温度変化を伴う半導体製造プロセスで用いた場合には、膨張収縮を繰り返すことによりその溶接部で破断を引き起こしやすい、という問題があった。
【0005】
一方、フッ素樹脂の機械的特性の改善を目的とした、フッ素樹脂に強化繊維が配合されてなる複合材料が従来知られている。
このような複合材料に関する従来技術として、たとえば特開昭54−114559号(特許文献1)には、テトラフルオロエチレン系樹脂粒子、グラファイト繊維、水および有機分散媒を含む混合物を調製し、この混合物から配合物(テトラフルオロエチレン樹脂粒子およびグラファイト繊維)を分離し、乾燥させた後、圧縮成形する技術が開示されている。また、特表平7−503983号公報(特許文献2)には、フレーク状のフッ素樹脂とグラファイト繊維との混合物を加熱加圧成形する、シート状の複合体の製造方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、このような複合材料からなる容器を半導体のウェットプロセスで使用すると、その表面に露出した炭素繊維等の強化繊維が、容器に入れた薬液の浸透により腐食され、容器を劣化させる恐れがある。また、このような容器の内面にライニング材を接着した場合には、半導体製品に悪影響を及ぼす不純物(接着剤)を発生させる恐れがある。
【0007】
なお、特開平5−287700号公報(特許文献3)には、PTFE繊維等のフッ素繊維を主成分とした抄紙原料を立体抄き型を用いて湿式抄造法により成形原体を作製し、得られた該成形原体をフッ素繊維の融点以上の温度で熱処理して予備成形体としたのち、さらに、該予備成形体を製品寸法に対応した雌雄の型に嵌入して熱処理を行って多孔質成形体を製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3900204号
【特許文献2】特開2007−152718号公報
【特許文献3】特開平5−287700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであって、半導体製造プロセスや医療分野等での使用に適した、強度が高く、耐薬品性に優れ、半導体等に悪影響を与える成分を発生させ難いフッ素樹脂成形体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のフッ素樹脂成形体は、
フッ素樹脂(A)および強化繊維(B)を含有する含フッ素樹脂組成物からなる有底筒状または筒状の成形体本体と、
該成形体本体の内表面に設けられた、ポリテトラフルオロエチレンまたはテトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体から選ばれるフッ素樹脂(C)からなるフッ素樹脂層と
を備えることを特徴としている。
【0011】
本発明のフッ素樹脂成形体は、上記強化繊維(B)が炭素繊維であることが好ましい。
本発明のフッ素樹脂成形体の製造方法は、
フッ素樹脂(A)および強化繊維(B)を含有する含フッ素樹脂組成物からなる有底筒状または筒状の成形体本体と、
該成形体本体の内表面に設けられた、ポリテトラフルオロエチレンまたはテトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体から選ばれるフッ素樹脂(C)からなるフッ素樹脂層と
を備えるフッ素樹脂成形体の製造方法であって、
上記含フッ素樹脂組成物を予備成形して、上記成形体本体用の予備成形体を形成する工程(I)、
該予備成形体に上記フッ素樹脂(C)を充填する工程(II)、
該予備成形体および該フッ素樹脂(C)を、加熱かつ加圧し、次いで冷却して、上記成形体本体とその内表面に接合した該フッ素樹脂(C)のブロックとからなる成形体を形成する工程(III)、および
該フッ素樹脂(C)からなるフッ素樹脂層が該成形体本体の内表面に沿って残存するように該ブロックを切削する工程(IV)
を有することを特徴としている。
【0012】
上記工程(I)の好ましい態様としては、
テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体からなるフッ素樹脂繊維(a)および強化繊維(B)(但し、両者の割合は、重量比で(a):(B)=70〜90:10〜30(但し、両者の合計は100である。)である。)を金型に吹き付けて上記予備成形体を形成する工程(Ia)
が挙げられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、強度が高く、耐薬品性に優れ、半導体等に悪影響を与える成分を発生させ難いフッ素樹脂成形体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の有底筒状のフッ素樹脂成形体の概略断面図である。
【図2】図2は、本発明の有底筒状のフッ素樹脂成形体の製造方法を模式的に説明する図である。
【図3】図3(ア)は、本発明の筒状のフッ素樹脂成形体を模式的に示すである。図3(イ)は、図3(ア)中に矢印で示したS1−S2断面で切断した断面図である。
【図4】図4は、本発明の筒状のフッ素樹脂成形体の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について有底筒状の成形体を例にしてさらに詳細に説明する。
〔フッ素樹脂成形体〕
図1を参照しながら説明する。本発明のフッ素樹脂成形体10は、フッ素樹脂(A)および強化繊維(B)を含有する含フッ素樹脂組成物からなる有底筒状の成形体本体1と、該成形体本体の内表面に設けられた、ポリテトラフルオロエチレン(以下「PTFE」ともいう。)またはテトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(以下「PFA」ともいう。)から選ばれるフッ素樹脂(C)からなるフッ素樹脂層2とを備えている。
【0016】
<成形体本体1>
成形体本体1は、フッ素樹脂(A)および強化繊維(B)を含有する含フッ素樹脂組成物からなる。
【0017】
成形体本体1の形状は、本発明のフッ素樹脂成形体10の具体的用途に応じて適宜選択すればよい。
上記フッ素樹脂(A)としては、たとえば、PTFE、PFA、エチレンとテトラフルオロエチレンとの共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、PTFEの一部のフッ素原子が置換基によって置換されてなる樹脂(たとえば変性PTFE)を挙げることができる。これらの中でも溶融粘度が低く強化繊維となじみやすいことからPFA、ETFE、およびFEPが好ましい。
【0018】
また、上記強化繊維(B)としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミニウム繊維、炭化珪素繊維などが挙げられ、その態様としては短繊維、長繊維、ウィスカーなどが挙げられる。
【0019】
これらの中でも、耐薬品性に優れていることから、炭素繊維が好ましい。炭素繊維としては、PAN(ポリアクリルニトリル)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維のいずれも用いることができ、より強度の高い成形体を製造する観点からはPAN系炭素繊維が好ましい。
【0020】
上記強化繊維(B)の繊維長は、好ましくは1〜30mm、さらに好ましくは5〜20mmである。また、上記強化繊維(B)の繊維径は、好ましくは1〜15μmである。繊維長および繊維径が上記範囲にあると、上記フッ素樹脂(A)を補強する効果が十分に発揮される。
【0021】
上記強化繊維(B)は、上記所望の繊維長以上の繊維長を有する強化繊維を上記所望の長さに切ったものであってもよい。
市販の炭素繊維としては、たとえば、東邦テナックス製「STS40 F13」(サイズ剤を除去したもの、繊維径:7μm)を挙げることができる。
【0022】
上記フッ素樹脂(A)と上記強化繊維(B)との重量比((A):(B))は、好ましくは70〜90:10〜30である(但し、両者の合計は100である。)。重量比が上記範囲にある成形体本体1は、強度が特に高い。
【0023】
<フッ素樹脂層2>
フッ素樹脂層2は、PTFEまたはPFAから選ばれるフッ素樹脂(C)からなり、上記成形体本体1の内表面に設けられている。
【0024】
フッ素樹脂層2の厚さは、本発明のフッ素樹脂成形体10の具体的用途に応じて適宜選択すればよい。
<フッ素樹脂成形体10>
本発明のフッ素樹脂成形体10は、上記フッ素樹脂(A)および上記強化繊維(B)を含有する含フッ素樹脂組成物からなる有底筒状の成形体本体1の内表面にPTFEまたはPFAからなるフッ素樹脂層2を備えているため、上記強化繊維(B)がフッ素樹脂成形体の内容物に接触することがない。
【0025】
したがって、たとえばこのフッ素樹脂成形体10を、半導体プロセスにおける洗浄容器として用いた場合であっても、容器に入れた薬液が上記強化繊維(B)を腐食させ、容器10を劣化させることがない。また、接着剤等を介さずに成形体本体1とフッ素樹脂層2とが密着しているため、半導体製品に悪影響を及ぼす不純物(接着剤)を発生させることがない。
【0026】
また、本発明のフッ素樹脂成形体10は、成形体本体1に上記強化繊維(B)を含有しているため、機械強度が高く、有底筒状成形体の薄肉化が可能になり、大型化にも対応可能である。例えば本発明のフッ素樹脂成形体10は2mm厚みでも、従来のフッ素樹脂のみからなる有底筒状成形体の10mm厚み相当の強度をもつ。
【0027】
したがって、本発明のフッ素樹脂成形体10は、半導体製造、処理等のプロセスや医療等に使用される貯蔵容器、処理容器、洗浄容器等の容器として使用することができ、特に大型の半導体製品、LCD用ガラス基板等の処理用容器として、あるいは一度に大量の半導体装置等を処理するための容器として好ましい。
【0028】
〔フッ素樹脂成形体の製造方法〕
上述した本発明のフッ素樹脂成形体の製造方法は、
上記含フッ素樹脂組成物を予備成形して、上記成形体本体用の有底筒状の予備成形体を形成する工程(I)、
該予備成形体に、上記フッ素樹脂(C)を充填する工程(II)、
該予備成形体および該フッ素樹脂(C)を、加熱かつ加圧し、次いで冷却して、上記成形体本体とその内表面に接合した該フッ素樹脂(C)のブロックとからなる成形体を形成する工程(III)、および
該フッ素樹脂(C)からなるフッ素樹脂層が該成形体本体の内表面に沿って残存するように、該ブロックを切削する工程(IV)
を有している。
【0029】
<工程(I)>
工程(I)では、図2に示すように、上記含フッ素樹脂組成物を予備成形して、上記成形体本体1用の有底筒状の予備成形体4を形成する。
【0030】
予備成形体の製造方法としては、たとえばフッ素樹脂組成物を金型に吹き付けて行うスプレーアップ工法や、立体抄き型を用いた湿式抄造法や、フッ素樹脂組成物を金型に吸引することで堆積させる方法や、人手によるハンドレイアップ法が挙げられる。
【0031】
工程(I)の好ましい態様としては、
PFAからなるフッ素樹脂繊維(以下「PFA繊維」ともいう。)(a)および強化繊維(B)(但し、両者の割合は、重量比で(a):(B)=70〜90:10〜30(但し、両者の合計は100である。)である。)を金型に吹き付けて上記予備成形体を形成する工程(Ia)が挙げられる。
【0032】
この工程(Ia)では、成形体本体1のフッ素樹脂原料としてPFA繊維(a)が用いられるため、PFA繊維(a)と上記強化繊維(B)とが絡み合い、有底筒状の予備成形体の形状を安定に保持することができる。また工程(Ia)を採用すれば、複雑な立体形状の予備成形体であっても容易に形成することができる。
【0033】
上記PFAは、テトラフルオロエチレンと式:CF2=CF−O−Rf(式中、Rfはフルオロアルキル基、好ましくは炭素数1〜10のフルオロアルキル基を表す。)で示されるパーフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体である。パーフルオロアルキルビニルエーテルは、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0034】
上記PFAは、好ましくはテトラフルオロエチレン由来の構成単位を99.5〜92質量%およびパーフルオロアルキルビニルエーテル由来の構成単位を0.5〜8質量%含む(但し、PFAの量を100質量%とする。)。
【0035】
上記PFA繊維(a)の平均繊維長は、好ましくは1〜50mm、さらに好ましくは5〜20mmである。また、上記PFA繊維(a)の繊維径は、好ましくは10〜40μmである。繊維長および繊維径が上記範囲にあると、PFA繊維(a)は、上記強化繊維(B)と混合した際に、上記強化繊維(B)と特に良く絡み合うため、予備成形体の形状をより安定に保持することができる。
【0036】
上記PFA繊維(a)は、上記所望の繊維長以上の繊維長を有するPFA繊維を上記所望の長さに切ったものであってもよい。
市販のPFA繊維としては、例えば、東洋ポリマー製の「HASTEX」(繊維径20μm程度)を挙げることができる。
【0037】
上記PFA繊維(a)と上記強化繊維(B)との割合は、重量比で(a):(B)=70〜90:10〜30(但し、両者の合計は100である。)である。
工程(Ia)においては、従来公知のスプレーアップ工法を適用することができる。すなわち、噴射流体に上記PFA繊維(a)および上記強化繊維(B)を供給し、これらを金型に吹き付けて堆積体、すなわち予備成形体を形成することができる。
【0038】
噴射流体に上記PFA繊維(a)および上記強化繊維(B)を別々に供給してもよく、予め上記PFA繊維(a)および上記強化繊維(B)を含む混合物を調製し、この混合物を噴射流体に供給してもよい。予め混合物を調製することにより、より均一な組成の成形体本体1を製造することができる。
【0039】
この混合物として、上記の割合の上記PFA繊維(a)および上記強化繊維(B)ならびに分散媒を含む分散液を調製してもよい。
上記噴射流体としては、水、空気などが挙げられる。上記分散媒としては、水が挙げられ、この分散液には界面活性剤やポリビニルアルコールのように分散性を高める分散剤を混合しても良い。
【0040】
なお、上記のように分散剤を使用する場合は、得られる堆積体から分散剤を水洗等により除去することが好ましい。
上記金型の形状は、製造しようとする成形体本体の形状に対応するように適宜選択すればよい。
【0041】
上記金型としては、噴射流体および/または分散液が効率よく透過可能な金型であればよいが、網状の金型が好ましい。網状の金型を用いると、上記の吹き付けの際に、噴射流体または分散媒の大部分を網目から通過させつつ上記PFA繊維(a)および上記強化繊維(B)を堆積できるため、効率的に予備成形体を形成することができる。
【0042】
上記網状の金型の目開きおよび線径は、上記PFA繊維(a)および上記強化繊維(B)の繊維長や、噴射流体または分散媒の通過などを考慮して適宜設定すれば良く、たとえば目開きが0.5〜10mm、線径が0.25〜1mmであってもよい。
【0043】
また、上記工程(I)においては、上記フッ素樹脂(A)の粉末および強化繊維(B)(但し、両者の割合は、好ましくは重量比で(A):(B)=70〜90:10〜30(但し、両者の合計は100である。)である。)ならびに必要により増粘剤、または分散媒等を混合して混合物を調製し、上記成形体本体に対応する形状の金型の内表面にこの混合物を塗布することにより上記予備成形体を形成してもよい。上記フッ素樹脂(A)の粉末および強化繊維(B)と、増粘剤または分散媒とを混合することで、上記成形体本体に対応する形状の金型の内表面にフッ素樹脂および強化繊維からなる予備成形体を容易に形成することができる。
【0044】
上記増粘剤としては、水糊、ポリビニルアルコール(PVA)などが挙げられ、中でも水糊が好ましい。
上記分散媒としては、水、アルコール水などが挙げられ、水が好ましい。
【0045】
なお水糊等を増粘剤として用いる場合、および水等の分散媒を用いる場合には、まず増粘剤、分散媒等を含む予備成形体が形成される場合がある。このような場合には、該予備成形体から増粘剤、分散媒等を除去することが好ましい。
【0046】
増粘剤、分散媒等を除去する方法としては、水洗、有機溶媒による洗浄、揮散除去させる方法が挙げられる。
上記予備成形体の嵩密度が低く、上記予備成形体を工程(III)で加熱加圧成形することが困難である場合には、工程(II)の前に、上記予備成形体の全体または一部の嵩密度を高めておくことが好ましい。
【0047】
その方法としては、
上記堆積体を部分的に加熱加圧(温度:約290〜350℃、圧力:約0.05〜1MPa)してその部分の嵩密度を高める;
上記堆積体を全体的に加圧(室温、圧力:約0.05〜1MPa)して嵩密度を高める;
などの方法が挙げられる。
【0048】
<工程(II)>
工程(II)においては、図2に示すように、工程(I)で形成された有底筒状の予備成形体4に、PTFEまたはPFAから選択される上記フッ素樹脂(C)を充填する。
【0049】
上記フッ素樹脂(C)の形態としては、たとえば、粉末、繊維、ペレット等が挙げられる。
上記フッ素樹脂(C)の充填量は、上記予備成形体の肉厚、成形体本体の肉厚、工程(III)における加熱加圧成形に用いる金型の形状等を考慮して適宜調節すればよく、一般に、上記フッ素樹脂(C)の充填量が多くなると、形成される成形体本体1とフッ素樹脂層2との密着力が高くなる。
【0050】
<工程(III)>
工程(III)においては、図2に示すように、上記予備成形体および上記フッ素樹脂(C)を、加熱かつ加圧し、次いで冷却する。こうすることで、上記成形体本体1が成形されると共にその内表面に該フッ素樹脂(C)のブロック6が形成される。すなわち、工程(III)では、上記成形体本体1と、フッ素樹脂(C)のブロック6とが一体的に成形される。
【0051】
上記加熱加圧成形時の温度等の条件は、フッ素樹脂(A)およびフッ素樹脂(C)が融解するように設定すれば良い。フッ素樹脂(C)がPTFEである場合には、たとえば、温度を320〜360℃、圧力を5〜25Mpa、時間を1〜120分としてもよい。また、フッ素樹脂(C)がPFAである場合には、たとえば、温度を300〜350℃、圧力を5〜20Mpa、時間を1〜120分としてもよい。
【0052】
工程(III)では、上記予備成形体および上記フッ素樹脂(C)を、形成しようとする成形体本体1の形状に対応する形状の金型に入れるなどして、加熱加圧を行う。
工程(III)においては、フッ素樹脂(C)が融解することにより、フッ素樹脂(C)と上記予備成形体との接触面に均等に圧力が加わるため、上記成形体本体とフッ素樹脂(C)のブロックとが密着してなる成形体が得られる。
【0053】
冷却の際には、加圧したまま徐冷し、十分に冷却(たとえば、室温まで)した後に圧力を開放することが好ましい。このように冷却を行うことによって、上記成形体本体とフッ素樹脂(C)のブロックとの剥離を、より確実に防ぐことができる。
【0054】
<工程(IV)>
工程(IV)においては、図2に示すように、上記フッ素樹脂(C)からなるフッ素樹脂層が該成形体本体の内表面に沿って残存するように該ブロックを切削する。
【0055】
残存させるべき上記フッ素樹脂層の厚さは、本発明のフッ素樹脂成形体の用途等に応じて適宜設定すればよく、たとえば0.5〜5mmであってもよい。
以上、有底筒状のフッ素樹脂成形体について説明したが、本発明は、上記形状に何ら限定されない。
【0056】
本発明のフッ素樹脂成形体は、例えば、図3、4に示すように、底板が一体に具備されていない筒状のフッ素樹脂成形体11および12にも適用可能である。なお、筒状には、円筒、角筒等が含まれる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
炭素繊維(「STS40 F13」(東邦テナックス製))を、サイズ剤を除去するためにアセトンで充分洗浄し、次いで80℃で2時間乾燥した後、12mmの長さに切断した。
【0058】
また、PFA繊維(「HASTEX」(東洋ポリマー製))を、12mmの長さに切断した。
上記のように調製したPFA繊維4gおよび炭素繊維1gを20Lの水に投入し、攪拌し、均一な分散液を調製した。
【0059】
お椀状(最大径60mm×深さ25mm)の金網(目開き:1.40mm、線径:0.717mm(JIS Z 8801))に向けてスプレーガンから水を噴射し、この水流に上記分散液を少量ずつ滴下することにより、PFA繊維および炭素繊維を金網の外面に吹き付け、堆積させ、予備成形体を形成した。
【0060】
次に、上記の予備成形体を金型(内寸76φ×30L 、有底筒状(コップ状))の中に載置し、該予備成形体の内側にPTFE粉末(「M−18」、ダイキン工業(株)製)を約350g充填し、これらを340℃まで加熱し、次いで10MPaに加圧して10分間保持した。加熱をやめて加圧したまま室温になるまでこれらを放置して冷却し、次いで圧力を開放し、得られたコップ型の成形体本体およびその内表面に密着したPTFEのブロック(密度2.1g/cm3)からなる成形体を金型から取り出した。
【0061】
成形体本体の内表面に沿って厚さ1mmのPTFE層が残存するようにPTFEのブロックを切削し、フッ素樹脂成形体を得た。
【符号の説明】
【0062】
1:成形体本体
2:フッ素樹脂層
10:有底筒状フッ素樹脂成形体
3:金型
4:予備成形体
5:PTFEおよびPFAから選択されるフッ素樹脂(C)
6:フッ素樹脂(C)のブロック
11:筒状フッ素樹脂成形体
12:筒状フッ素樹脂成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂(A)および強化繊維(B)を含有する含フッ素樹脂組成物からなる有底筒状または筒状の成形体本体と、
該成形体本体の内表面に設けられた、ポリテトラフルオロエチレンまたはテトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体から選ばれるフッ素樹脂(C)からなるフッ素樹脂層と
を備えるフッ素樹脂成形体。
【請求項2】
上記強化繊維(B)が炭素繊維であることを特徴とする請求項1に記載のフッ素樹脂成形体。
【請求項3】
フッ素樹脂(A)および強化繊維(B)を含有する含フッ素樹脂組成物からなる有底筒状または筒状の成形体本体と、
該成形体本体の内表面に設けられた、ポリテトラフルオロエチレンまたはテトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体から選ばれるフッ素樹脂(C)からなるフッ素樹脂層と
を備えるフッ素樹脂成形体の製造方法であって、
上記含フッ素樹脂組成物を予備成形して、上記成形体本体用の予備成形体を形成する工程(I)、
該予備成形体に上記フッ素樹脂(C)を充填する工程(II)、
該予備成形体および該フッ素樹脂(C)を、加熱かつ加圧し、次いで冷却して、上記成形体本体とその内表面に接合した該フッ素樹脂(C)のブロックとからなる成形体を形成する工程(III)、および
該フッ素樹脂(C)からなるフッ素樹脂層が該成形体本体の内表面に沿って残存するように、該ブロックを切削する工程(IV)
を有することを特徴とするフッ素樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
上記工程(I)が、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体からなるフッ素樹脂繊維(a)および強化繊維(B)(但し、両者の割合は、重量比で(a):(B)=70〜90:10〜30(但し、両者の合計は100である。)である。)を金型に吹き付けて上記予備成形体を形成する工程(Ia)であることを特徴とする請求項3に記載のフッ素樹脂成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−260216(P2010−260216A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111471(P2009−111471)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000229564)日本バルカー工業株式会社 (145)
【Fターム(参考)】