説明

フッ素樹脂複合体組成物

【課題】 熱溶融性フッ素樹脂複合体の熱伝導度、ガス・薬液バリヤー性、貯蔵弾性率等の力学物性などが改善された熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明は、熱溶融性フッ素樹脂微粉と層状化合物とを解砕・混合して熱溶融性フッ素樹脂粉末混合組成物を得る工程(I)と、得られた該粉末混合組成物を、溶融混合押出機を用い、せん断応力をかけて溶融混合する工程(II)とにより得られ、上記同様の特性を有する熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物及びその製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導度或いはガス・薬液バリヤー性、貯蔵弾性率等の力学物性に優れた熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物に関する。更に詳しくは、熱溶融性フッ素樹脂微粉と有機化処理された特定の層状化合物からなる熱伝導度或いはガス・薬液バリヤー性、貯蔵弾性率等の力学物性に優れた熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物に関する。本発明はまた、熱溶融性フッ素樹脂微粉と層状化合物とを予め混合して熱溶融性フッ素樹脂微粉中に層状化合物を均一に分散させた後、溶融混合押出機で溶融混合し、せん断応力により層状化合物を熱溶融性フッ素樹脂中に更に分散・層剥離或いはインターカレーションさせることにより得られる、熱伝導度、ガス・薬液バリヤー性、貯蔵弾性率等の力学物性等に優れた熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱溶融性フッ素樹脂であるテトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)などは、優れた耐熱性、耐薬品性、非粘着性などを有しているため、半導体製造装置における薬液供給ラインの保持治具やチューブ用材として使われている。しかし、薬液透過による周辺機器の汚染、環境汚染等の問題のため定期的にチューブを交換する必要がある。そのため、より薬液透過度の低い材料が要求されている。また、酸、アルカリ槽の熱交換チューブとして使用された場合には、熱伝導度が低いため、より熱伝導度が高い材料が要求されている。
【0003】
このような問題を解決するために、様々な分野において、より高い性能を有する樹脂組成物が必要とされており、そのため例えば樹脂に充填剤を分散させることで機械的強度、薬液或いはガス透過性、熱伝導度などを改善することが行われている。特に、高分子材料に層状化合物を分散・層剥離させ、或いは高分子化合物を層状化合物の層間に挿入(インターカレーション)させることにより、機械的特性並びに薬液或いはガス透過性を向上させる手法又は炭素化合物などを高分子材料に分散させて熱伝導度を向上させる試みが多くなされている。
【0004】
例えば、特開2000−190431号公報には、鱗片状充填剤とフッ素樹脂を溶融混合して積層化することでガスや薬液の透過度を低くした多層積層体が記載されている。また、特開平2−10226号公報には、充填剤として層状粘土鉱物を用い、この層状粘土鉱物を有機化し、この層状化合物の層間距離が開いたところにモノマーを挿入し、その後、前記モノマーを重合させた際の重合エネルギーを利用して、層状化合物をナノレベルに分散させる方法が記載されている。しかしながら、上記重合方法においては、充填剤が効率よく分散されるものの重合設備が必要で、生産コストが高くなり経済的とは言えない。更に、上記層状粘土鉱物の層間に挿入されるモノマーは安定して層間内に存在しているものではないため、気体のモノマーは好ましくなく、液体のモノマーに限られる。
【0005】
このような重合方法における問題を改善する方法として、特開平7−47644号や特開平7−70357号の各公報においては、予め層状粘土鉱物を有機カチオンで有機化しておき、更に粘土鉱物を有機溶媒で無限膨潤させて、これを樹脂融液と接触させ、樹脂中に直接層状粘土鉱物をナノレベルに分散される方法が記載されている。しかしながら、これらの方法においては層状化合物を膨潤させるために多量の有機溶剤を使用せざるを得ないが、フッ素樹脂は有機溶媒との相溶性が極めて悪いという問題がある。また、上記有機溶剤により無限膨潤化した層状化合物においても、溶融樹脂との接触工程においてフッ素樹脂の押出し温度で有機溶媒が一部揮発するため、上記層状化合物が無限膨潤状態から膨潤状態へと元に戻ってしまうという問題がある。
【0006】
更に、このような有機溶媒を用いた層状化合物における問題を改善するため、例えば、有機化した層状粘土鉱物と樹脂ペレットとを、直接押出機でせん断応力により溶融混合して有機化した層状粘土鉱物を樹脂マトリックス中に分散させる方法があり、押出機の種類(単軸、2軸)や2軸押出機の混合方法(co-rotating, counter-rotating, intermeshing, non-intermeshing)などを変えて層状化合物を分散させた複合混合物の物性が報告されている。しかし、non-intermeshing式の2軸押出機で溶融混合することにより若干有機化し、層間距離が広くなった層状粘土鉱物を分散させた複合混合物には、機械的物性の大きな改善は見られなかった(Plastic Engineering, P56,2001)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−190431号公報
【特許文献2】特開平2−10226号公報
【特許文献3】特開平7−47644号公報
【特許文献4】特開平7−70357号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Plastic Engineering, P56,2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、通常、層状化合物を構成する単位結晶層が層状に積み重なった形で存在する層状化合物をできるだけ均一に分散させること、分散させた層状化合物の層の一部を更に剥離させるか(以下層剥離と言うことがある)、熱溶融性フッ素樹脂を層状化合物層における層間に挿入(インターカレーション)させ、溶融性フッ素樹脂中に存在する層状化合物層の重量%は同じであっても層状化合物層の数を増やすことによって、熱溶融性フッ素樹脂複合体の熱伝導度、ガス・薬液バリヤー性、貯蔵弾性率等の力学物性などの改善が可能であることに着目し、熱伝導度或いはガス・薬液バリヤー性、貯蔵弾性率等の力学物性等に優れた熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物を提供しうることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、熱伝導度或いはガス・薬液バリヤー性、貯蔵弾性率等の力学物性等に優れた熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物が提供される。すなわち本発明によれば、熱溶融性フッ素樹脂微粉及びテトラフェニルホスホニウムイオンで有機化処理された層状化合物からなる熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物が提供される。このような特定の層状化合物を使用することにより、溶融混合押出機を用いてせん断応力をかけて溶融混合するのみで熱伝導度或いはガス・薬液バリヤー性、貯蔵弾性率等の力学物性等に優れた熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物を得ることができる。
【0011】
本発明によればまた、熱溶融性フッ素樹脂微粉と層状化合物とを混合して熱溶融性フッ素樹脂粉末混合組成物を得る工程(I)と、得られた該粉末混合組成物を、溶融混合押出機を用い、剪断応力をかけて溶融混合する工程(II)とによって得られる熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物が提供される。このような工程(I)、(II)の組み合わせにより、層状化合物として上記のような特定のもの以外のものを使用しても、良好な物性の熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物を得ることができる。工程(I)による混合に加え、剪断応力をかけて溶融混合する工程(II)により、熱溶融フッ素樹脂中に層状化合物がさらに均一に分散・層剥離あるいはインターカレーションされて、熱伝導度、ガス・薬液バリヤー性、貯蔵弾性率等の力学特性等に優れた熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物が得られるものと考えられる。とくに層状化合物として有機ホスホニウムイオン、好ましくはテトラアリールホスホニウムイオン、さらに好ましくはテトラフェニルホスホニウムイオンで有機化処理を行ったものを使用した場合には、優れた物性改善効果が得られる。
【0012】
さらに本発明によれば、熱溶融性フッ素樹脂微粉と層状化合物とを混合して熱溶融性フッ素樹脂粉末混合組成物を得る工程(I)と、得られた該粉末混合組成物を、溶融混合押出機を用い、剪断応力をかけて溶融混合する工程(II)とからなる熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物の製造方法が提供される。
【0013】
以上のいずれの発明においても、好適態様としては、熱溶融性フッ素樹脂微粉として、熱溶融性フッ素樹脂のコロイド状微粒子が凝集した平均粒径が10μm以下の凝集粉末が使用される。さらに熱溶融性フッ素樹脂微粉と層状化合物の混合における好適態様によれば、高速回転混合機が使用される。
【発明の効果】
【0014】
本発明において、層状化合物として、テトラフェニルホスホニウムイオンで有機化処理されたものを使用する場合には、熱溶融性フッ素樹脂微粉と層状化合物を溶融混合押出機で溶融混合するのみでも、良好な熱伝導度、ガス・薬液バリヤー性,貯蔵弾性率等の力学物性を有する熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物を得ることができる。
【0015】
本発明によればまた、熱溶融性フッ素樹脂微粉と層状化合物とを、予め高速回転混合機のようなもので解砕・混合して層状化合物を熱溶融性フッ素樹脂微粉中に均一に分散させた後、溶融混合押出機で溶融混合し、せん断応力により層状化合物を熱溶融性フッ素樹脂中に更に分散・層剥離或いはインターカレーションさせる結果として、熱伝導度、ガス・薬液バリヤー性,貯蔵弾性率等の力学物性に優れた熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1で得られた粉末混合組成物の電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例6で得られた粉末混合組成物の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の熱溶融性フッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(以下、PFAという)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(以下、FEPという)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(以下、EPEという)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(以下、ETFEという)、ポリビニリデンフルオライド(以下、PVDFという)、ポリクロロトリフルオロエチレン(以下、PCTFEという)、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体(以下、ECTFEという)などを挙げることができる。好ましくは、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)のアルキル基が炭素数1〜5、より好ましくは1〜3のものである。
【0018】
これらの熱溶融性フッ素樹脂は、溶融粘度或いは分子量についての制限は特にはないが、射出成形を目的とする場合は、熱溶融性フッ素樹脂の溶融粘度がメルトインデックス(ASTM D 1238:372℃、5kg荷重)で10g/10分〜40g/10分であることが好ましい。
【0019】
本発明において使用される熱溶融性フッ素樹脂微粉としては、平均粒径が0.2μm程度のコロイド状粒子が凝集した平均粒径が10μm以下、好ましくは7μm以下、更に好ましくは5μm以下の凝集粉末を使用するのがよい。このような凝集粉末は、例えば、平均粒径約0.1〜0.3μm程度の熱溶融性フッ素樹脂のコロイド状微粒子を水中に約1〜75重量%含む乳化重合により得られる熱溶融性フッ素樹脂水性分散液に、電解性物質を加え、機械的撹拌下に熱溶融性フッ素樹脂のコロイド状微粒子を凝集させた後、水性媒体と分離し、必要に応じ水洗し乾燥させることにより得ることができる。
【0020】
熱溶融性フッ素樹脂水性分散液中の熱溶融性フッ素樹脂のコロイド状微粒子を凝集させる目的で使用される電解性物質としては、例えばHCl、H2SO4、HNO3、H3PO4、Na2SO4、MgCl2、CaCl2、ギ酸ナトリウム、酢酸カリウム、炭酸アンモニウムなどのような水溶性の無機又は有機の化合物などを例示することができる。好ましくは、熱溶融性フッ素樹脂微粒子を凝集させた後、水性媒体と分離し乾燥させる乾燥工程で揮発可能な化合物、例えばHCl、HNO3などである。
【0021】
これらの電解性物質は、熱溶融性フッ素樹脂の重量に対し1〜15重量%、特に1.5〜10重量%であることが好ましく、水溶液の形で熱溶融性フッ素樹脂水性分散液に添加するのが好ましい。電解性物質の重量が1重量%未満の場合には、熱溶融性フッ素樹脂のコロイド状微粒子を凝集させるのに長時間を要するため生産性が低下する。電解性物質の重量が15重量%を越えても、熱溶融性フッ素樹脂のコロイド状微粒子を凝集させるのに影響はないが、経済的でなく、洗浄工程に時間を要するようになる。
【0022】
熱溶融性フッ素樹脂のコロイド状微粒子を凝集させる装置は、特に限定されるものではないが、周速度で約4m/秒以上を維持できる撹拌手段、例えばプロペラ翼、タービン翼、パドル翼、かい型翼、馬蹄形型翼、螺旋翼などと、排水手段を備えた装置であることが好ましい。
【0023】
このような装置中に熱溶融性フッ素樹脂水性分散液と電解質を所定量加え撹拌することにより、熱溶融性フッ素樹脂のコロイド状微粒子が凝集して凝集粒子となり、水性媒体から分離して浮上、浮揚する。この際、撹拌速度を約4m/秒以上に維持することが好ましい。撹拌速度が4m/秒未満の場合には、熱溶融性フッ素樹脂のコロイド状微粒子を凝集させるのに長時間を要するのに加え、熱溶融性フッ素樹脂の凝集粒子から水性媒体が排出され難くなる傾向となる。撹拌は凝集粒子が水性媒体から分離するまで行われる。
【0024】
このようにして得られた熱溶融性フッ素樹脂凝集粒子は、必要に応じて水洗された後、熱溶融性フッ素樹脂の融点以下の温度で乾燥され、熱溶融性フッ素樹脂微粉となる。該フッ素樹脂微粉は内部の粒子間凝集力が小さいため、回転混合機の高速で回転するブレードにより、1次粒子にまで解砕(破砕)するのに適している。
【0025】
本発明で使用される層状化合物としては、単位結晶層が互いに積み重なった層状構造を有するものであって、その粒径が10μm以下であるものが好ましい。例えば、モンモリロナイト、ヘクトライト、バーミキュライトなどのスメクタイト系粘土鉱物、燐酸ジルコニウム、燐酸チタニウムなどの各種粘土鉱物、Na型四珪素フッ素マイカ、Li型四珪素フッ素マイカ等のマイカ、グラファイトなどから選ばれる少なくとも1種である。マイカ及びグラファイトは、天然のものであっても合成されたものであっても良い。グラファイトは、鱗片状グラファイトであることが好ましい。
【0026】
また、これら層状化合物は、それらの層間の無機イオンに代えてイオン交換や有機物を挿入しそれらの層間距離を広げること(以下、有機化処理と言うことがある)により、高速回転混合機での混合工程或いは溶融混合押出機での溶融混合工程のせん断応力で、層状化合物を層剥離し易くすること、或いは熱溶融性フッ素樹脂を層状化合物にインターカレーションし易くすることが好ましい。
【0027】
有機化処理に用いられる有機物としては、有機オニウムイオンが好ましく、有機オニウムイオンとしてとくに制限はないが、熱溶融性フッ素樹脂の融点より少なくとも10℃以上高い温度において熱分解しない有機オニウムイオンが好ましい。特に、熱溶融性フッ素樹脂の溶融成形温度における熱安定性の面から、通常の有機オニウムイオンとして一般に使われているアンモニウムイオンよりは熱分解温度が高いホスホニウムイオンが好ましく、例えば、テトラエチルホスホニウムイオン、テトラブチルホスホニウムイオン、テトラヘキシルホスホニウムイオン、ジヘキサデシルジメチルホスホニウムイオン、ジオクチルジメチルホスホニウムイオン、セチルトリメチルホスホニウムイオン、セチルトリエチルホスホニウムイオン、セチルジメチルエチルホスホニウムイオン、トリブチルホスホニウムイオン、トリヘキシルホスホニウムイオン、ジオクチルホスホニウムイオン、ヘキサデシルホスホニウムイオン、テトラフェニルホスホニウムイオン、n−ブチルトリフェニルホスホニウムイオン、ベンジルトリフェニルホスホニウムイオンなどが挙げられる。特に、少なくとも300℃以上の熱溶融性フッ素樹脂の溶融成形温度でも熱的に安定な有機オニウムイオンとしては、テトラフェニルホスホニウムイオン、n−ブチルトリフェニルホスホニウムイオン、ベンジルトリフェニルホスホニウムイオンが好ましく、とりわけテトラフェニルホスホニウムイオンが好ましい。すでに述べたように、層状化合物としてテトラフェニルホスホニウムイオンで有機化処理したものを使用する場合には、熱分解開始温度が高く耐熱性に優れているので、溶融混合に時間をかけることができ、溶融混合のみで良好な物性の熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物を得ることができる。この場合においては勿論、上記混合工程(I)と溶融混合工程(II)を組み合わせれば、より優れた物性の熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物を得ることができる。
【0028】
上記層状化合物の混合比率は、熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物の重量あたり、1〜40重量%であることが好ましい。より好ましくは2〜30重量%、さらに好ましくは3〜20重量%である。層状化合物の混合比率が1重量%未満である場合には、熱伝導度或いはガス・薬液バリヤー性の向上効果が少ない。また40重量%を超える場合には、成形性や柔軟性に問題が生じるようになる。熱溶融性フッ素樹脂微粉の混合比率は、層状化合物の上記混合比率に対応して、熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物の重量あたり、好ましくは60〜99重量%、より好ましくは70〜98重量%、さらに好ましくは80〜97重量%である。
【0029】
また、上記有機化処理された層状化合物と熱溶融性フッ素樹脂微粉との親和性を向上させ、溶融混合押出機での溶融混合工程で熱溶融性フッ素樹脂の有機化処理された層状化合物の層間への挿入を促進し、その層間距離を広げ、層剥離を促進させ、熱溶融性フッ素樹脂と層状化合物とをより均一に分散させるために、熱溶融性フッ素樹脂微粉が官能基含有熱溶融性フッ素樹脂を含有すること、すなわち、熱溶融性フッ素樹脂微粉の一部として、官能基含有熱溶融性フッ素樹脂を使用することが好ましい。
【0030】
そのような官能基含有熱溶融性フッ素樹脂としては、カルボン酸基又はその誘導基、水酸基、ニトリル基、シアナト基、カルバモイルオキシ基、ホスホノオキシ基、ハロホスホノオキシ基、スルホン酸基又はその誘導基及びスルホハライド基から選ばれる官能基、例えば−COOH、−CH2COOH、−COOCH、−CONH、−OH、−CHOH、−CN、−CHO(CO)NH2、−CHOCN、−CHOP(O)(OH)2、−CHOP(O)Cl2、−SO2Fなどの官能基を含有する熱溶融性フッ素樹脂が好ましい。
【0031】
このような官能基含有熱溶融性フッ素樹脂は、乳化重合により熱溶融性フッ素樹脂を得た後、これら官能基を付加又は置換するか、或いは熱溶融性フッ素樹脂の重合時に前記官能基を含有するフッ素含有モノマーを共重合させることにより得ることができるが、本発明においては、熱溶融性フッ素樹脂の重合時に前記官能基を含有するフッ素含有モノマーを共重合させたものを用いることが好ましい。
【0032】
共重合に適した前記官能基を含有するフッ素含有モノマーとしては、例えば、
式、
CF2=CF[OCF2CF(CF)]−O−(CF−X
[式中、mは0〜3、nは0〜4、Xは−COOH、−CH2COOH、
−COOCH3、−CONH2、−OH、−CH2OH、−CN、
−CH2O(CO)NH2、−CH2OCN、−CH2OP(O)(OH)2、
−CH2OP(O)Cl2または−SO2Fを表す]
で示される官能基含有フッ素化ビニルエーテル化合物が挙げられ、より具体的には、好ましくは、
式、
CF2=CF−O−CF2CF2−SO2
或いは、式、
CF2=CF[OCF2CF(CF)]O(CF−Y
(式中、Yは−SO2F、−CN、−COOH 又は −COOCH
或いは、式、
CF2=CF[OCF2CF(CF)]O(CF−CH−Z
(式中、Zは−COOH、−OH、OCN、−OP(O)(OH)
−OP(O)Cl2 又は −O(CO)NH
などで表わされるものが挙げられる。
【0033】
このような官能基を含有するフッ素含有モノマーは、官能基含有フッ素樹脂中に、0.5〜10重量%、好ましくは1〜5重量%共重合されていることが好ましい。共重合する官能基を含有するフッ素含有モノマーが0.5重量%未満の場合には、上記有機化処理された層状化合物と熱溶融性フッ素樹脂との親和性を向上させ、溶融混合押出機での溶融混合工程で熱溶融性フッ素樹脂の有機化処理された層状化合物の層間への挿入を促進し、その層間距離を広げ、層剥離を促進させ、熱溶融性フッ素樹脂と層状化合物とをより均一に分散させる効果が少ない。また、共重合する官能基を含有するフッ素含有モノマーが10重量%を越える場合には、官能基含有フッ素樹脂同士の強い相互作用で架橋反応に類似した反応が起こり、粘度が急に増加し化合物の層間への挿入或いは溶融成形が困難になるため、及び官能基含有フッ素樹脂の耐熱性が悪くなる傾向となる。
【0034】
官能基含有熱溶融性フッ素樹脂の粘度或いは分子量は、特に制限はないが、熱溶融性フッ素樹脂の粘度或いは分子量を越えないことが好ましく、熱溶融性フッ素樹脂の粘度或いは分子量と近似していることがより好ましい。
【0035】
熱溶融性フッ素樹脂微粉に対する官能基含有熱溶融性フッ素樹脂の相対的使用量は、官能基の種類や官能基を有するフッ素含有モノマーの含有量によっても若干異なるが、通常は熱溶融性フッ素樹脂微粉99.9〜50重量%に対して0.1〜50重量%、好ましくは熱溶融性フッ素樹脂微粉99〜55重量%に対して1〜45重量%である。また、官能基含有熱溶融性フッ素樹脂は、高速回転混合機で熱溶融性フッ素樹脂微粉と一緒に混合されるのが好ましい。
【0036】
本発明においては、平均粒径10μm以下の熱溶融性フッ素樹脂微粉と平均粒径10μm以下の層状化合物とを予め解砕・混合し、層状化合物を熱溶融性フッ素樹脂微粉中に予め均一に分散させた熱溶融性フッ素樹脂粉末混合組成物を得た後、得られた該粉末混合組成物を、溶融混合押出機を用いて溶融混合することにより、せん断応力で層状化合物を熱溶融性フッ素樹脂中に更に均一に分散・層剥離或いはインターカレーションさせることが好ましい。
【0037】
平均粒径10μm以下の熱溶融性フッ素樹脂微粉と平均粒径10μm以下の層状化合物とを予め解砕・混合し、層状化合物を熱溶融性フッ素樹脂微粉中に予め均一に分散させるための方法は、例えば、先に本出願人が出願した特開2002−284883及び特開2003−82187号の各公報に提案されている。これらの方法に従い、回転数1500rpm以上或いは周速度35m/秒以上、好ましくは回転数3000〜20000rpm或いは周速度70〜115m/秒の高速で回転するブレード或いはカッターナイフを有する高速回転混合機によって、平均粒径10μm以下の熱溶融性フッ素樹脂微粉と平均粒径10μm以下の層状化合物とを解砕・混合することにより、層状化合物を熱溶融性フッ素樹脂微粉中に予め均一に分散させることができる。
【0038】
このような高速回転混合機としては、例えば愛工舎製作所製「カッターミキサー」、或いは日本アイリッヒ社製「アイリッヒ・インテンシブ・ミキサー」などが挙げられる。一方、フッ素樹脂ペレットと充填材などを混合する際に通常用いられるドライ・ブレンダー、或いは粉末を混合する際に通常用いられるヘンシェルミキサーは、その混合能力が劣り、層状化合物を均一に分散させることが難しいが、層状化合物としてテトラフェニルホスホニウムイオンで有機化処理されたものを使用する場合には、このような混合機を用いて、熱溶融性フッ素樹脂微粉と予め混合して、せん断応力をかける溶融混合の原料とすることもできる。
【0039】
上記のような高速回転混合機での混合に際し、静電気による熱溶融性フッ素樹脂微粉の高速回転混合機内壁への付着を防止するため、帯電防止剤、例えばカーボンブラックなどを添加することができる。また、目的に応じて任意に他の添加剤を配合することもできる。
【0040】
本発明の熱溶融性フッ素樹脂微粉と層状化合物からなる熱溶融性フッ素樹脂粉末混合組成物は、溶融混合押出機のホッパーでの食い込みをよくするため、コンパクターで固めたのちに溶融混合押出機で溶融混合されても良い。
【0041】
本発明の溶融混合工程に用いられる溶融混合押出機としては、使用する熱溶融性フッ素樹脂の種類や溶融粘度にもよるが、より効果的に層状化合物を層剥離させ、熱溶融性フッ素樹脂中に分散させるために、2軸押出機を用いることが、せん断応力の面から好ましい。また、2軸押出機による溶融混合温度は、有機化処理した層状化合物の分解を避けるために、360℃を超えない温度が好ましい。
【0042】
本発明における平均粒径10μm以下の熱溶融性フッ素樹脂微粉と平均粒径10μm以下の層状化合物とを予め高速回転混合機で解砕・混合した後、溶融混合押出機で溶融混合する方法は、平均粒径数百μmの溶剤造粒した熱溶融性フッ素樹脂粉末或いは平均粒径数千μmの熱溶融性フッ素樹脂ペレットと充填剤とを溶融混合押出機で溶融混合する通常の混合工程とは異なる。また、従来の直接溶融混合法では、有機化した層状化合物と熱溶融性樹脂を溶融混合機の中で熱溶融性樹脂中に分散させながら層剥離或いはインターカレーションを同時に行わなければならない。しかし、本発明の上記方法では、予め高速回転混合機で熱溶融性フッ素樹脂微粉と有機化した層状化合物粉体を均一に解砕・混合するため、溶融混合機での全体の溶融混合時間を短くすることが出来る。溶融混合押出機では、主に層剥離或いはインターカレーションが行なわれる。従って、熱溶融性フッ素樹脂の様な溶融成型温度が高い樹脂を用いた場合には全体の溶融混合時間を短くすることで、有機化した層状化合物或いは熱溶融性フッ素樹脂より熱安定性が劣る官能基含有熱溶融性フッ素樹脂の分解を防ぐことが出来る。またとくに層状化合物としてテトラフェニルホスホニウムイオンで有機化処理されたものを使用する場合には、熱分解開始温度が高く耐熱性が優れているので溶融混合押出機における溶融混合時間を長く取ることができ、上記解砕・混合工程を省略しても、溶融混合押出機における溶融混合のみで容易に層剥離あるいはインターカレーションを行うことができる。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例、比較例及び参考例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0044】
なお、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)としてはテトラフルオロエチレン・パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)共重合体を使用し、熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物の窒素ガス透過度及び熱伝導度は下記の方法により測定した。
【0045】
(a)窒素ガス透過度
熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物を350℃で溶融圧縮成形することによって作成された厚み約0.3mm、直径130mmのフィルムについて、柴田化学工業製ガス透過度測定装置(S−69型160ml)を使用して、温度23℃で測定した。測定値は10−11cm(STP)cm/cm・sec・cmHgで示した。
【0046】
(b)熱伝導度
熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物を350℃で溶融圧縮成形したビレット(径:35mm、高さ:40mm)から旋盤で切削した直径30mm、高さ7mmの試料について、京都電子工業製ホットデスク法熱物性測定装置(TPA−501型)を使用して、試料押圧トルク70cN・m、温度23℃で測定した。尚、熱伝導度測定は、グラファイト入り熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物についてのみに行った。
【0047】
(c) 貯蔵弾性率
熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物を350℃で溶融圧縮成形することによって作成された厚み約1.5mm試料より、12mm×45mm×1.5mmの試験片を作り、Rheometric Scientific社製ARES動的粘弾性測定装置を使用して、Torsion Mode、1Hz、昇温速度5℃/minで測定した。
【0048】
(実施例1)
乳化重合により得られた30重量%PFA水性分散液(融点307℃、MFR=1.9g/10分)60kgを、ダウンフロータイプのプロペラ型6枚羽根付き撹拌シャフトと排水手段を有する撹拌槽(100L)に入れ、300rpmで撹拌しながら60%硝酸500gを加えた。さらに300rpmで10分間撹拌し、水性分散液が凝集した後、450rpmで20分間撹拌することによりPFA凝集粒子を水性重合媒体上に浮上、浮揚させ、水性重合媒体と分離した。その後水性重合媒体を撹拌槽から排出し、次いで撹拌槽に水を入れてPFA凝集粒子を水洗した後、PFA凝集粒子を160℃で24時間乾燥させ、PFA微粉を得た。得られたPFA微粉の平均粒径は3μmであった。
【0049】
このPFA微粉85重量%と、層状化合物として人工グラファイト(TIMCAL社製、TIMREX KS4、平均粒径2.4μm)15重量%とを高速回転混合機(カッターミキサー、愛工舎製作所製、AC−200S)に投入し、3600rpm(周速度75.3m/s)で20分間混合して粉末混合組成物を得た。得られた粉末混合組成物の電子顕微鏡写真(倍率1万倍)を図1に示す。また、得られた粉末混合組成物を溶融混合2軸押出機(東洋精機製作所製、ラボプラストミル30C150)で350℃、50rpmで溶融混合し、熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物を得た。
【0050】
得られた複合体組成物の窒素ガス透過度、貯蔵弾性率及び熱伝導度を測定した。結果を表1に示す。
【0051】
(実施例2)
PFA微粉を80重量%及び人工グラファイトを20重量%用いた以外は、実施例1と同様にして熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物を得た。得られた複合体組成物の窒素ガス透過度及び熱伝導度を測定した。結果を表1に示す。
【0052】
(実施例3〜5)
PFA微粉を90、85又は80重量%用い、層状化合物として人工グラファイトの代わりに高純度天然グラファイト(株式会社 エスイーシー製、SNO−3、平均粒径3μm)を10、15又は20重量%用いた以外は、実施例1と同様にして熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物を得た。得られた複合体組成物の窒素ガス透過度及び熱伝導度を測定した。結果を表1に示す。
【0053】
(実施例6)
層状粘土化合物として合成フッ素マイカ(コープケミカル製、ソマシフME−100、平均粒径4.6μm)を用い、特開2003−238819号公報に準拠して、テトラフェニルホスホニウムイオンを用い、合成フッ素マイカのイオン交換量が100gあたり80meqになる有機化した合成フッ素マイカを得た。得られたテトラフェニルホスホニウムイオンを使用した合成フッ素マイカの熱分解開始温度は約450℃であった(空気90cc/分、昇温:10℃/分)。
【0054】
得られた合成フッ素マイカ3重量%と、実施例1と同様にして得られたPFA微粉97重量%とを高速回転混合機(カッターミキサー、愛工舎製作所製、AC−200S)に投入し、3600rpm(周速度75.3m/s)で20分間混合して粉末混合組成物を得た。得られた粉末混合組成物の電子顕微鏡写真(倍率1万倍)を図2に示す。また、得られた粉末混合組成物を溶融混合2軸押出機(東洋精機製作所製、ラボプラトミル30C150)で350℃、50rpmで溶融混合し、熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物を得た。得られた複合体組成物の窒素ガス透過度及び貯蔵弾性率を測定した。結果を表2に示す。
【0055】
(実施例7〜8)
ホスホニウムイオンで有機化処理した合成フッ素マイカを5、10重量%用い、PFA微粉を95、90重量%用いた以外は、実施例6と同様にして熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物を得た。得られた複合体組成物の窒素ガス透過度及び貯蔵弾性率を測定した。結果を表2に示す。
【0056】
(実施例9)
実施例1と同様にして得られたPFA微粉75重量%、テトラフルオロエチレンとパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)とCF2=CF[OCF2CF(CF)]OCF2CF2CH2OHとの3元共重合体である官能基含有PFA微粉(PPVE含量3.7重量%、上記水酸基含量モノマー含量1.0重量%、メルトフローレート15g/10分)20重量%、及び実施例6と同様にして得られたホスホニウムイオンで有機化処理した合成フッ素マイカ5重量%を、高速回転混合機(カッターミキサー、愛工舎製作所製、AC−200S)に投入し、3600rpm(周速度75.3m/s)で20分間混合して熱溶融性フッ素樹脂粉末組成物を得た。得られた粉末組成物を溶融混合2軸押出機(東洋精機製作所、ラボプラトミル30C150)で350℃、50rpmで溶融混合し、熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物を得た。得られた複合体組成物の窒素ガス透過度及び貯蔵弾性率を測定した。結果を表2に示す。
【0057】
(実施例10)
実施例1で得られたPFA微粉95重量%及び実施例6で得られたテトラフェニルホスホニウムイオンで有機化処理した合成フッ素マイカ5重量%を、溶融混合2軸押出機(東洋精機製作所、ラボプラトミル30C150)で350℃、50rpmで溶融混合した。得られた混合物の窒素ガス透過度及び貯蔵弾性率熱を測定した。結果を表2に示す。
【0058】
(比較例1)
実施例1と同様にして得られたPFA微粉のみからなる熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物の窒素ガス透過度、貯蔵弾性率及び熱伝導度を測定した。結果を表1、2に示す。
【0059】
(比較例2)
PFAペレット(テフロン(登録商標) PFA 350Jペレット;三井・デュポンフロロケミカル株式会社製)85重量%及び人工グラファイト(TIMCAL社製、TIMREX KS4、平均粒径2.4μm)15重量%を、溶融混合2軸押出機(東洋精機製作所、ラボプラトミル30C150)で350℃、50rpmで溶融混合した。得られた混合物の窒素ガス透過度、貯蔵弾性率及び熱伝導度を測定した。結果を表1に示す。
【0060】
(比較例3)
人工グラファイトの代わりに、実施例6と同様にして得られたホスホニウムイオンで有機化処理した合成フッ素マイカを5重量%用いた以外は、比較例2と同様にして混合物を得た。得られた混合物の窒素ガス透過度及び貯蔵弾性率を測定した。結果を表2に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
図1から明らかなように、高速回転混合機で混合した粉末混合組成物では、平均粒径2.4μmnの鱗片状のグラファイト粒子が平均粒径0.2μmのPFA一次粒子で完全に被われていることがわかる。従って、本発明では、溶融混合を行う前の高速回転混合機による粉末混合の段階で鱗片状のグラファイトをPFA粉末中に均一に分散させることが出来る。また、表1からは、粉末混合組成物を更に溶融混合して得られた本発明の熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物は、熱溶融性フッ素樹脂微粉単独の場合(比較例1)より熱伝導度及び貯蔵弾性率が高く、窒素ガス透過度が低いことがわかる。また、本発明の熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物(実施例1,実施例4)は、同一組成のPFAペレットを用いた混合物(比較例2)よりも熱伝導度及び貯蔵弾性率が高く、窒素ガス透過度が低いことがわかる。
【0063】
図2から明らかなように、高速回転混合機で混合して粉末混合組成物では、合成フッ素マイカが平均粒径0.2μmのPFA一次粒子で完全に被われていることがわかる。従って、本発明では、溶融混合を行う前の高速回転混合機による粉末混合の段階で合成マイカのような層状化合物をPFA粉末中に均一に分散させることが出来る。従って、予め高速回転混合機で熱溶融性フッ素樹脂微粉と有機化した層状化合物粉体を均一に粉砕・混合した後、溶融混合押出し機では主に層剥離或いはインターカレーションを行うため、層状化合物を樹脂溶融体に分散させる時間が短くなるため、全体の溶融混合時間を短くすることが出来る。また、熱溶融性フッ素樹脂の様な溶融成型温度が高い樹脂を用いた場合には溶融混合時間を短くすることで有機化した層状化合物或いは熱溶融性フッ素樹脂より熱安定性が劣る官能基含有熱溶融性フッ素樹脂の分解や劣化を防ぐことが出来る。また、表2からは、粉末混合組成物を更に溶融混合して得られた本発明の熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物は、熱溶融性フッ素樹脂微粉単独の場合(比較例1)より窒素ガス透過度が低く貯蔵弾性率が高いことがわかる。更に、熱溶融性フッ素樹脂の一部代わりに官能基含有熱溶融性フッ素樹脂を用いた熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物は(実施例9)、官能基含有熱溶融性フッ素樹脂を含まない場合(実施例7)より窒素ガス透過度が低く貯蔵弾性率が高いことがわかる。
【0064】
また層状化合物として、テトラフェニルホスホニウムイオンで有機化処理されたものを使用する場合には、解砕・混合工程を経なくても、窒素ガス透過度が低く貯蔵弾性率が高い複合体組成物を得ることができる(実施例10)。
【0065】
従って、本発明の熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物は、耐薬品性及び高熱伝導度が要求される酸、アルカリ槽などでの熱交換チューブ、あるいは半導体製造工程や各種の化学プロセスにおいて、薬液の移送設備や貯蔵容器などのための成形材料として、あるいは配管やタンクなどのライニング材料として、有用である。また、荷重がかかることで、高い弾性率或いは機械的な強度が要求される成型体にも有用である。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明において、層状化合物として、テトラフェニルホスホニウムイオンで有機化処理されたものを使用する場合には、熱溶融性フッ素樹脂微粉と層状化合物を溶融混合押出機で溶融混合するのみでも、良好な熱伝導度、ガス・薬液バリヤー性,貯蔵弾性率等の力学物性を有する熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物を得ることができる。
【0067】
本発明によれば、熱溶融性フッ素樹脂微粉と層状化合物とを、予め高速回転混合機のようなもので解砕・混合して層状化合物を熱溶融性フッ素樹脂微粉中に均一に分散させた後、溶融混合押出機で溶融混合し、せん断応力により層状化合物を熱溶融性フッ素樹脂中に更に分散・層剥離或いはインターカレーションさせる結果として、熱伝導度、ガス・薬液バリヤー性,貯蔵弾性率等の力学物性に優れた熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物を得ることができる。
【0068】
これら原料、解砕・混合条件、溶融混合条件などを適宜選択することにより、層状化合物を含まない熱溶融性フッ素樹脂に比較して、窒素ガス透過度において0.60倍以下、及び/又は熱伝導度において2倍以上、及び/又は25℃での貯蔵弾性率において1.5倍以上の値を示す熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物を容易に得ることができる。
【0069】
本発明のフッ素樹脂複合体組成物から最終的に成形される成形品の種類は、特に限定されることはなく、例えば、チューブ類、シート類、棒類、繊維類、パッキング類、ライニング類など、熱伝導度、ガス・薬液バリヤー性、より高い熱変形温度、高い貯蔵弾性率或いは曲げ弾性率等を必要とする成形品が対象となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱溶融性フッ素樹脂微粉と層状化合物とを混合して熱溶融性フッ素樹脂粉末混合組成物を得る工程(I)と、得られた該粉末混合組成物を、溶融混合押出機を用い、剪断応力をかけて溶融混合する工程(II)とからなる熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物の製造方法。
【請求項2】
熱溶融性フッ素樹脂微粉が、熱溶融性フッ素樹脂のコロイド状微粒子が凝集した平均粒径10μm以下の凝集粉末である請求項1に記載の熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物の製造方法。
【請求項3】
熱溶融性フッ素樹脂微粉と層状化合物の混合を、ブレード或いはカッターナイフの周速度35m/秒以上の高速回転混合機で行なうこと特徴とする請求項1又は2に記載の熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物の製造方法。
【請求項4】
熱溶融性フッ素樹脂微粉と層状化合物とを混合して熱溶融性フッ素樹脂粉末混合組成物を得る工程(I)と、得られた該粉末混合組成物を、溶融混合押出機を用い、せん断応力をかけて溶融混合する工程(II)により得られる熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物。
【請求項5】
層状化合物が、オニウムイオンで有機化処理されたものである請求項4に記載の熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物。
【請求項6】
層状化合物が、平均粒径10μm以下であって、粘土鉱物、マイカ及びグラファイトから選ばれる少なくとも1種である、請求項4又は5に記載の熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物。
【請求項7】
窒素ガス透過度が、層状化合物を含まない熱溶融性フッ素樹脂の窒素ガス透過度の0.60倍以下である、請求項4〜6のいずれかに記載の熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物。
【請求項8】
25℃での貯蔵弾性率が、層状化合物を含まない熱溶融性フッ素樹脂の1.5倍以上である、請求項4〜7のいずれかに記載の熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物。
【請求項9】
熱伝導度が、層状化合物を含まない熱溶融性フッ素樹脂の2倍以上である、請求項4〜8のいずれかに記載の熱溶融性フッ素樹脂複合体組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−74399(P2011−74399A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6783(P2011−6783)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【分割の表示】特願2005−502758(P2005−502758)の分割
【原出願日】平成16年2月19日(2004.2.19)
【出願人】(000174851)三井・デュポンフロロケミカル株式会社 (59)
【Fターム(参考)】