説明

フノリ乾燥物

【課題】フノリ乾燥物及びその製造方法、並びにフノリ乾燥物を含有し食感が改善された麺類及びパン類を提供することを目的とする。
【解決手段】(1)フノリ科に属する海藻を、該海藻を含有するpH7〜9の溶液中でゾル化させた後に乾燥させたことを特徴とするフノリ乾燥物、(2)フノリ科に属する海藻を、該海藻を含有するpH7〜9の溶液中でゾル化させてゾル状の海藻入り溶液を得る工程と、得られたゾル状の海藻入り溶液を乾燥し乾燥物を得る工程とを有することを特徴とするフノリ乾燥物の製造方法、及び(3)上記(1)に記載のフノリ乾燥物を含有することを特徴とする麺類、又はパン類。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麺類及びパン類の食感を改善することができるフノリ乾燥物、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、麺類やパン類の食感改良を目的として、麺類やパン類にフノリ又はその加工品を添加することが行われており、例えば、そば粉もしくはそば粉と小麦粉の混合物に、海藻にその約8.5倍〜10倍重量の水を加え加熱処理して得られるのり状溶液を、前者75〜80重量部に対し後者25〜20重量部の割合で加えて混捏し、製麺した後、これを冷凍することを特徴とする冷凍そばの製造方法(特許文献1参照)、消石灰をまぶして水中でもみ洗いをして砂やごみを除去したふのりを熱湯に投入してとろ火で数時間攪拌しながらあん練状に煮詰めた後余熱が冷えるまで攪拌し、容器に移してあん練状に冷却固化せしめ、このあん練状のふのり10〜40%を小麦粉に加え、薄い食塩水にて加減し乍ら混練し、この原料を使用し、常法により製麺することを特徴とする緑色うどんの製造法(特許文献2参照)、フノリ原藻を水洗し、漂白、乾燥して得られたフノリ乾燥物を主体とした液状、粉末状又は顆粒状からなる食品添加用フノリ(特許文献3参照)、フノリ科に属する海藻をゾル化して乾燥させた乾燥物を含有することを特徴とする麺類の製造方法(特許文献4参照)、などが開示されている。
【0003】
また、フノリの精製方法として、フノリをアルカリ処理する工程と、処理されたフノリを水にいれて加熱沸騰させて多糖類を抽出する工程と、得られた多糖類抽出液を濾過して清澄液を得る工程と、得られた清澄液をスプレードライ、ドラムドライ、フリーズドライまたはアルコール沈澱後沈澱物を分離して乾燥する工程とを有することを特徴とするフノリの精製方法(特許文献5参照)が開示されている。
【0004】
しかしながら、麺類及びパン類の食感をさらに改善することができる優れた方法の開発が求められている。
【0005】
【特許文献1】特開昭50−111247号公報
【特許文献2】特開昭56―109559号公報
【特許文献3】特開平8−228号公報
【特許文献4】特開2007―104959号公報
【特許文献5】特開平7−247301号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、フノリ乾燥物及びその製造方法、並びにフノリ乾燥物を含有し食感が改善された麺類及びパン類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、麺類及びパン類の食感改善に対して鋭意検討を行った結果、フノリ科に属する海藻を、該海藻を含有するpH7〜9の溶液中でゾル化させた後に乾燥させたフノリ乾燥物が、麺類やパン類への優れた食感改善効果を示すことを見出し、このようなフノリ乾燥物を麺類、パン類に添加することで、上記課題が解決されることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)フノリ科に属する海藻を、該海藻を含有するpH7〜9の溶液中でゾル化させた後に乾燥させたことを特徴とするフノリ乾燥物、
(2)フノリ科に属する海藻を、該海藻を含有するpH7〜9の溶液中でゾル化させてゾル状の海藻入り溶液を得る工程と、得られたゾル状の海藻入り溶液を乾燥し乾燥物を得る工程とを有することを特徴とするフノリ乾燥物の製造方法、及び、
(3)上記(1)に記載のフノリ乾燥物を含有することを特徴とする麺類、又はパン類、
からなっている。
【0009】
本発明はまた、
(4)上記(1)に記載のフノリ乾燥物を麺類材料に添加することを特徴とする麺類の食感改善方法、及び、
(5)上記(1)に記載のフノリ乾燥物をパン類材料に添加することを特徴とするパン類の食感改善方法、
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフノリ乾燥物を添加して製造された麺類は、食感、具体的には滑らかさ及び粘弾性に優れ、本発明のフノリ乾燥物を添加して製造されたパン類は、食感、具体的には、保湿感、口どけ感及びモチモチ感に優れており、保存してもこれらの良好な食感が損なわれない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
フノリ乾燥物
本発明のフノリ乾燥物は、フノリ科に属する海藻を、該海藻を含有するpH7〜9の溶液中でゾル化させた後に乾燥させたものである。
【0012】
フノリ科に属する海藻
本発明において、フノリ科に属する海藻は、紅藻類カクレイト目フノリ科に属する海藻であり、例えばマフノリ、フクロフノリ又はハナフノリ等が挙げられる。フノリ科に属する海藻は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
また、本発明の効果を損なわない範囲で、フノリ科に属する海藻とともに、ゾル化させ得る他の海藻を併用することもできる。併用可能な海藻としては、紅藻類に属する他のノリ科海藻、例えばスギノリ科ツノマタ、キリンサイ、オゴノリ科オゴノリ、ウシケノリ科ウシケノリ、ウシケノリ科スサビノリ、テングサ科ユイキリ、カクレイト科ムカデノリ、カクレイト科カタノリ又はカクレイト科ツルツル等が挙げられる。
上記他の海藻を併用する場合、他の海藻の添加量は、フノリ科に属する海藻1に対して他の海藻を1(質量比)未満とすることが好ましい。また、本発明の効果を充分に奏するためには、フノリ科に属する海藻1に対して他の海藻を0.3(質量比)未満とすることがより好ましい。
【0013】
フノリ乾燥物の製造方法
本発明のフノリ乾燥物は、以下の工程1及び2を行うことにより製造し得る。このようなフノリ乾燥物の製造方法も、本発明の1つである。
また、本発明のフノリ乾燥物の好ましい態様は、該乾燥物の粉末(以下改質されたフノリ粉砕物と称する)である。改質されたフノリ粉砕物は、以下の工程1及び2に加えて、工程3を行うことにより製造し得る。
工程1:フノリ科に属する海藻を、該海藻を含有するpH7〜9の溶液中でゾル化させてゾル状の海藻入り溶液を得る工程。
工程2:得られたゾル状の海藻入り溶液を乾燥し、乾燥物を得る工程。
工程3:工程2で得た乾燥物を細かく砕いて粉末形状とし、乾燥物の粉末を得る工程。
【0014】
工程1において、ゾル化させる海藻は、全藻のまま用いてもよく、例えばチョッパー等で細切されたものを用いてもよく、あるいは細切されたものを更にマスコロイダー等で粉砕したものを用いてもよい。また、海藻は、生の海藻を用いてもよく、乾燥海藻を用いてもよい。乾燥海藻を用いる場合には、ゾル化に先立ち、乾燥海藻を例えば食塩水等に約10分〜2時間浸し膨潤させた後、食塩水で洗浄してから用いるのが好ましい。
【0015】
本工程においては、フノリ科に属する海藻を、該海藻を含有するpH7〜9の溶液中でゾル化させることによりゾル状の海藻入り溶液を得ることができればよい。例えば、まずフノリ科に属する海藻を含有するpHが7〜9の溶液を調製し、次いで該溶液中のフノリ科に属する海藻を溶かしてゾル状にすることによりゾル状の海藻入り溶液を得ることができる。ゾル化させる方法としては特に限定されないが、例えば、フノリ科に属する海藻を含有するpHが7〜9の溶液を加熱することによりフノリ科に属する海藻をゾル化させるのが好ましい。
【0016】
フノリ科に属する海藻を含有するpHが7〜9の溶液を調製する方法としては特に限定されず、例えば、フノリ科に属する海藻に水及びアルカリ剤を加えて、該アルカリ剤により溶液のpHを7〜9に調整すればよい。この際、フノリ科に属する海藻に水及びアルカリ剤を加える順序としては特に限定されず、例えば、フノリ科に属する海藻に所定量の水及びアルカリ剤を添加して溶液を調製してもよく、あらかじめ所定量の水とアルカリ剤とを混合してアルカリ剤の水溶液を調製しておき、該水溶液をフノリ科に属する海藻に添加してもよい。また、まずフノリ科に属する海藻に所定量の水を添加し、次いでアルカリ剤を添加して溶液のpHを調整してもよい。
【0017】
フノリ科に属する海藻をゾル化させる溶液のpHは7〜9であるが、より好ましくはpH約7.6〜8.6である。溶液のpHが低すぎると、得られるフノリ乾燥物を麺類、パン類に添加した際の食感改善効果が弱い場合があり、pHが高すぎると、得られるフノリ乾燥物がエグ味、苦味などの味を呈する場合があるため香味面で好ましくない。溶液のpHが上記範囲であれば、味が良く、しかも麺類やパン類に添加した際に優れた食感改善効果を発揮するフノリ乾燥物を得ることができる。
本明細書中、pH数値には、フノリ科に属する海藻に水及びアルカリ剤を加えた溶液を均一に混ぜ合わせ、約30分間後に溶液部分(溶液温度:20〜25℃)をガラス電極法pHメーターで測定した数値が採用される。
【0018】
フノリ科に属する海藻をゾル化させるときに加える水の量は、海藻100質量部(乾燥物換算)に対して、通常約500〜3,000質量部、好ましくは約800〜2,500質量部とすればよい。上記範囲であれば、海藻をゾル化させることができ、かつ次工程で実用的な時間内に乾燥させることができる。
【0019】
pH調整に使用するアルカリ剤としては、溶液のpHを約7〜9に調整できればよく、有機酸のアルカリ金属塩、例えばクエン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、コハク酸ナトリウムなど;リン酸のアルカリ金属、例えば、ポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、リン酸2ナトリウム、リン酸3ナトリウム、ポリリン酸カリウム、ピロリン酸カリウム、リン酸2カリウム、リン酸3カリウムなど;炭酸のアルカリ金属塩、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなど;アルカリ金属の水酸化物、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられ、好ましくは、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらのアルカリ剤は、その種類、目的とするpH値によってその使用量が変わり得るが、例えば、炭酸水素ナトリウムを使用してpHが約7〜9の溶液を得るためには、海藻100kg(乾燥物換算)と水2000kgとに対して、一般に約3.4〜5.0kg、好ましくは約3.8〜4.6kgの炭酸水素ナトリウムを使用するのが好ましい。また、これらのアルカリ剤は、結晶、水和物、無水物のいずれの形態のものも使用することができる。
【0020】
ゾル化させるときには、公知の手段、例えばプロペラ攪拌機等を用いて上記溶液を撹拌するのが好ましい。
加熱によりゾル化させる場合、加熱温度は、通常約60〜100℃、好ましくは約80〜100℃とすればよく、加熱時間は、通常約30〜360分、好ましくは約60〜360分とすればよい。上記範囲であれば、十分に海藻をゾル化することができる。
【0021】
工程2において、乾燥を行う手段としては、公知の手段を用いてよく、例えば常圧ドラム乾燥法又は真空ドラム乾燥法等のいずれの手段を用いてもよい。コスト、生産性等の面から常圧ドラム乾燥法が好ましい。
【0022】
常圧ドラム乾燥法とは、常圧下で、例えばスチーム等の熱媒体により加熱され回転するドラム表面に、ゾル化させた海藻の溶液(被乾燥処理材料)をフィルム状に付着させ、ドラムが1回転する間に被乾燥処理材料を迅速に蒸発乾燥させる方法をいう。ドラム表面で乾燥した乾燥物は、スクレーパーナイフ等によりドラム表面から簡単にかき取られ得る。この常圧ドラム乾燥法を用いる場合、ドラム表面温度は特に限定されないが、通常約80〜200℃、好ましくは約100〜180℃、より好ましくは約120〜140℃とすればよい。上記範囲であれば、ゾル化した海藻溶液を焦がすことなく十分に乾燥させることができる。
【0023】
上記常圧ドラム乾燥法における乾燥時間は、特に限定されないが、数秒〜数分間という短時間乾燥が好ましい。乾燥時間は、好ましくは約1分間以下、より好ましくは約45秒以下、さらに好ましくは約6〜30秒間とすればよい。上記時間範囲であれば、風味や色調などの品質が変化し難い。このため、常圧ドラムの回転数は、特に限定されないが、通常約1〜10rpm(revolution per minute;毎分回転数)、好ましくは約2〜10rpmである。
上記常圧ドラム乾燥法は、例えばドラムドライヤー(回転熱ドラム式蒸発乾燥装置)等を用いることにより実施し得る。
【0024】
上記方法で得られたフノリ乾燥物は、そのまま使用することができるが、粉砕して用いることにより、麺類やパン類の原材料と均一に混合し易くなるため、好ましい。
工程3において、工程2においてかき取られた乾燥物を細かく砕いて粉末形状とする手段としては、公知の手段を用いることができる。例えば、粉砕機又は乳鉢等を用いて細かく砕いて粉末形状とすることができる。粉末形状とすることにより、麺類又はパン類の原材料と均一な混合を容易に行うことができる。得られた粉末(改質されたフノリ粉砕物)は、例えば約3.5〜100メッシュ(篩目開約5.6mm〜150μm)、好ましくは約20〜100メッシュ(篩目開約0.85mm〜150μm)の篩を用いて篩分されるサイズであることが好ましい。
【0025】
麺類の食感改善方法
上記フノリ乾燥物を麺類材料に添加することにより、麺類の食感を改善することができる。つまり、上記フノリ乾燥物を麺類材料に添加して麺類を製造すると、良好な食感の麺類を得ることができる。このような、上記フノリ乾燥物を含有する麺類も本発明の1つである。また、フノリ乾燥物を麺類材料に添加する麺類の食感改善方法も、本発明の1つである。好ましくは、改質されたフノリ粉砕物を麺類材料に添加する。改質されたフノリ粉砕物を用いる麺類の食感改善方法について説明する。
改質されたフノリ粉砕物は、麺類製造工程のいずれかの段階で、麺類材料に添加される。通常は、改質されたフノリ粉砕物を麺類原料に添加して麺生地を得、次いで麺生地を成形し、成形した麺生地をさらに加熱調理することにより麺類が製造される。
具体的には、穀粉類を主原料とし、これに麺類の種類によって例えば澱粉や、食塩又はかん水等の添加物を加え、さらに改質されたフノリ粉砕物を添加して麺生地を得、これを用いて混合、圧延、切出しの各工程を経た後に最終麺類の形態に合わせて茹で、蒸し、乾燥等の工程を行うことによって所望する麺類を得ることができる。
【0026】
麺生地は、改質されたフノリ粉砕物に穀粉類とその他の原料とを加えることにより調製してもよく、また、穀粉類に、改質されたフノリ粉砕物を加え、その後にその他の原材料を加えることにより調製してもよい。また、穀粉類とその他の原材料の混合物に、改質されたフノリ粉砕物を水でゾル化状とした溶液を加えてもよい。
【0027】
本発明の麺類に使用される穀粉類としては、一般に製麺原料となり得る穀粉類であれば特に限定されず使用し得る。穀粉類としては、例えば、小麦粉(例えば、強力粉、薄力粉、準強力粉、中力粉等)、大麦粉、ライ麦粉、そば粉、とうもろこし粉、米粉、あわ粉、ひえ粉又ははと麦粉等が挙げられる。穀粉類は、1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0028】
本発明の麺類に使用される製麺原料には、製造される麺の種類により、澱粉やその他の添加物を配合することができる。
澱粉としては、例えば馬鈴薯澱粉、とうもろこし澱粉、ワキシコーン、タピオカ澱粉、小麦澱粉若しくは米澱粉等の澱粉又はそれらの加工澱粉等が挙げられる。加工澱粉とは、天然の澱粉に物理的及び/又は化学的処理を施した機能性澱粉をいい、例えば、α化澱粉、酸化澱粉、酸処理澱粉、デキストリン、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、架橋澱粉又はアセチル化澱粉等が挙げられる。これら澱粉は、単独で用いてもよいし、また2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
その他の添加物としては、例えば、抹茶;胡麻;柚子、紫蘇、唐辛子等の香辛料;山芋、長芋等;胡麻油、菜種油、大豆油、コーン油、オリーブ油等の植物油;食塩;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のかん水;スパイス類、エキス類、グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム等の呈味類;活性グルテン、加水分解グルテン、小麦グルテニン、小麦グリアジン等の小麦由来蛋白質;鶏卵、卵白、乳性蛋白質等の小麦以外由来の蛋白質類;焼成カルシウム類;澱粉リン酸エステルナトリウム、カゼインナトリウム、L−リジン塩酸塩等の食品添加物;プロピレングリコール、D−ソルビット等の湿潤剤;グアニル酸、コハク酸等の有機酸類;グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、大豆リン脂質等の界面活性剤;アラビアガム、プルラン、キサンタンガム、グアーガム、ローカストビーンガム、大豆多糖類等の増粘剤;クチナシ色素(クロシン)、ビタミンB2(リボフラビン)、カロブ豆の胚芽粉末等の着色料;水等の添加物を配合することができる。これら添加物は、単独で用いてもよいし、また2種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
本発明の麺類は、穀粉類に、所望により澱粉やその他の添加物(以下、単に添加物ということもある)を加え、さらに上記で製造された改質されたフノリ粉砕物を加え、加水し、混捏して麺生地を調製するのが好ましい。なお、前記麺生地の調製は、改質されたフノリ粉砕物に穀粉類と添加物を加えて実施してもよく、また、穀粉類に改質されたフノリ粉砕物を加え、その後に添加物を加えて実施してもよい。
また、穀粉類と添加物の混合物に、改質されたフノリ粉砕物を水でゲル化状とした溶液を加えてもよい。
【0031】
混捏は、ミキサー等を用いる公知の手段で行うことができる。麺生地は、その後熟成させることが好ましい。熟成に必要な温度は、約15℃〜室温(約20〜35℃)が好ましい。熟成に必要な時間は、温度により異なるが、約30分〜24時間程度が好ましい。次いで熟成させた麺生地を成形する。成形の方法としては特に限定されず、麺棒を使って手で延ばし、包丁で線切りするか、又は、麺生地を対の回転ロールや製麺機の間を数回(約2〜5回程度)に分けて通して所定の厚み(例えば、そばの場合は約1〜2mm程度)にまで圧延し、さらに切り刃ロールに通して線切りするのが好ましい。また、圧延、線切りの代わりに、熟成させた麺生地を少しずつ引き延ばして、麺線とすることもでき、また熟成させた生地を例えばシリンダーに押し込んで、先端の金型から圧力をかけて押し出し麺線とすることもできる。また、熟成させた麺生地をナイフ等で削ぎ切り等することにより平面状の麺とすることもできる。次いで、得られた麺を、例えば茹でるか蒸す等の手段で加熱することにより所望とする麺類が製造される。加熱後の麺類は、乾燥し、乾麺としてもよい。
【0032】
本発明の麺類における改質されたフノリ粉砕物の使用量は、製麺原料の穀粉類100質量部に対し乾燥物換算で約0.1〜5質量部の範囲であることが好ましく、約0.4〜4質量部がさらに好ましい。上記範囲であれば、十分に食感改善効果が得られ、かつ海藻臭が強くなり過ぎることがない。
【0033】
改質されたフノリ粉砕物は、麺類原料に混合するだけで、麺類の食感を良好に改善できる。しかし、フノリ科に属する海藻を該海藻を含有するpH7〜9の溶液中でゾル化させることなく乾燥し、粉砕した海藻の乾燥物を同様に製麺原料に混合しても、また該乾燥物を仕込み水に分散させた状態で製麺原料に用いても、このような本発明の効果は得られない。
【0034】
本発明の麺類としては、特に限定されないが、例えば、そば、うどん、きしめん、中華麺、素麺、冷麦又はスパゲッティ等が挙げられる。これらの麺類は最終商品形態に応じて、乾麺、生麺、半生麺、即席麺、茹麺、蒸麺又は冷凍麺等の状態に調製して用いることができる。
【0035】
パン類の食感改善方法
上記フノリ乾燥物をパン類材料に添加することにより、パン類の食感を改善することができる。つまり、上記フノリ乾燥物をパン類材料に添加してパン麺類を製造すると、良好な食感のパン類を得ることができる。このような、上記フノリ乾燥物を含有するパン類も本発明の1つである。また、このようなフノリ乾燥物をパン類材料に添加するパン類の食感改善方法も、本発明の1つである。好ましくは、改質されたフノリ粉砕物をパン類材料に添加する。改質されたフノリ粉砕物を用いるパン類の食感改善方法について説明する。
改質されたフノリ粉砕物は、パン類製造工程のいずれかの段階で、パン類材料に添加される。通常は、改質されたフノリ粉砕物をパン類原料に添加してパン生地を得、パン生地を発酵させ成形し、さらに加熱調理することによりパン類が製造される。
具体的には、穀粉類を主原料とし、穀粉類以外の原材料を加え、さらに改質されたフノリ粉砕物を加え、加水し、混捏してパン生地を調製すればよい。
パン生地は、改質されたフノリ粉砕物に穀粉類とその他の原料を加えることにより調製してもよく、また、穀粉類に、改質されたフノリ粉砕物を加え、その後にその他の原材料を加えることにより調製してもよい。また、穀粉類とその他の原材料の混合物に、改質されたフノリ粉砕物を水でゾル化状とした溶液を加えてもよい。
調製したパン生地を発酵させ、成形して、加熱調理する。加熱調理方法は、パン類の種類によって異なり、焼く、蒸す、蒸し焼きにする、油で揚げるなどの方法が挙げられる。
【0036】
また、パン生地を発酵させた後、又は発酵させつつ、改質されたフノリ粉砕物をパン類材料に添加することもできる。本発明において、パン類材料には、加工を加えないパン類原料そのものの他、パン生地にしたものや、発酵させたものも含まれる。
本発明のパン類に使用される穀粉類としては、一般に製パン原料となり得る穀粉類であれば特に限定されず使用し得る。穀粉類としては、例えば、小麦粉(例えば、強力粉、薄力粉、準強力粉、中力粉等)、大麦粉、ライ麦粉、そば粉、とうもろこし粉、米粉、あわ粉、ひえ粉、又ははと麦粉等が挙げられる。中でも、小麦粉が好ましく、強力粉がより好ましい。穀粉類は、1種又は2種以上を混合して用いることができる。
穀粉類以外のパン類の原材料としては、イースト、イーストフード、油脂類(ショートニング、ラード、マーガリン、バター、液状油等)、水、化工澱粉、乳製品、食塩、卵製品、糖類、乳化剤、調味料(グルタミン酸ソーダ類や核酸類)、保存料、ビタミン、カルシウム等の強化剤、蛋白質、アミノ酸、化学膨張剤、フレーバー等が挙げられる。
【0037】
本発明のパン類は、中種法により製造することが好ましい。標準中種法の食パンの一般的な作製方法例として以下の方法が挙げられる。小麦粉の一部にイースト、イーストフード、水を混捏して中種生地とする。中種生地を所定の時間、温度、湿度で発酵させた後、残りの小麦粉、糖類、食塩、脱脂粉乳などの原材料と改質されたフノリ粉砕物と共に混捏して、ある程度生地が作製できた後にショートニング、マーガリン、バター等の油脂組成物を加え、さらに混捏して本捏生地を作製する。この本捏生地を所定の質量に分割した後、生地の形を整えて型に詰め、所定の時間、温度、湿度にて発酵を行う。
その後、焼成を行うことで食パンが作製される。
【0038】
改質されたフノリ粉砕物の使用量は、製パン原料の穀粉類100質量部に対して、乾燥質量換算で、約0.1〜4質量部が好ましく、約0.2〜2質量部がより好ましく、約0.5〜2質量部がさらにより好ましい。上記範囲であれば、十分に食感改善効果が得られ、かつ海藻臭が強くなり過ぎることがない。
【0039】
改質されたフノリ粉砕物は、パン類原料に混合するだけで、パン類の食感を良好に改善できる。しかし、フノリ科に属する海藻を該海藻を含有するpH7〜9の溶液中でゾル化させることなく乾燥し、粉砕した海藻の乾燥物を同様に製パン原料に混合しても、また該乾燥物を仕込み水に分散させた状態で製パン原料に用いても、このような本発明の効果は得られない。
【0040】
本発明のパン類としては、食パン、ロールパン、菓子パン、ドーナツ、調理パン等が挙げられる。食パンとしては白食パン、フランスパン、バラエティーブレッド、イングリッシュマフィン等が挙げられ、ロールパンとしては、テーブルロール、バターロール、ドックロール(コッペパン)、スィートロール、バンズ等が挙げられ、菓子パンとしては、アンパン、クリームパン、ジャムパン、カレーパン等のフィリング類をパンに詰めたもの、レーズンパン、メロンパン、クロワッサン、デニッシュペストリー、ブリオッシュ等が挙げられ、ドーナツとしては、アンドーナツ、カレードーナツ等のイーストドーナツ等が挙げられ、調理パンとしては、ハンバーガー、ホットドック、ピザ等が挙げられる。中でも、本発明方法は、食パンの製造に適している。
【0041】
実施例
以下、実施例及び比較例をあげて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下に記載の%は、質量%を示す。
【0042】
<フノリ乾燥物の作製>
[実施例1]
乾燥フクロフノリ(北海道産、水分14.1%)1000gに、10%食塩水10Lを加え、1時間浸し膨潤させた。その後、ステンレス製ザルで水切りし、得られたフクロフノリをチョッパーで約6mmに裁断した。裁断したフクロフノリを新たに10%食塩水10Lで洗浄した後、ステンレス製ザルで水切りを行い5.5kgの裁断したフクロフノリ(水分84.5質量%)を得た。水15.5kgに炭酸水素ナトリウム(商品名:重炭酸ナトリウム;旭硝子社製)42gを溶解し、裁断したフクロフノリを入れ30分間撹拌後、ガラス電極式pHメーター(型式:F−51;HORIBA社製)で溶液のpHを測定したところpH7.6であった。裁断したフクロフノリを加えたpH調整した溶液を加熱し80℃に昇温してから1時間加熱混合しながらゾル化させた後、マスコロイダー(型式:MKZA6−5;増幸産業社製)で細かく粉砕した。得られたゾル状の海藻入り溶液を80℃に保ちながらドラムドライヤー(型式:30型;カツラギ工業社製)を用いて、ドラム表面温度130℃で、回転数3.5rpmで乾燥した。得られたフノリ乾燥物を、超遠心粉砕機(型式:ZM100;レッチェ社製)で粉砕し、20メッシュ(JIS規格)で篩別し、改質されたフノリ粉砕物(実施例品1)950g(水分4.8%)を得た。
【0043】
[実施例2]
実施例1の製造方法において、炭酸水素ナトリウム42gを炭酸水素ナトリウム21gに代えた以外は、実施例1と同様の操作を行って改質されたフノリ粉砕物(実施例品2)を945g得た。フクロフノリをゾル化させる溶液のpHは7.3であった。
【0044】
[実施例3]
実施例1の製造方法において、炭酸水素ナトリウム42gを炭酸ナトリウム18gに代えた以外は、実施例1と同様の操作を行って改質されたフノリ粉砕物(実施例品3)を947g得た。フクロフノリをゾル化させる溶液のpHは8.8であった。
【0045】
[比較例1]
実施例1の製造方法において、炭酸水素ナトリウム42gを加えない以外は、実施例1と同様の操作を行ってフノリ粉砕物(比較例品1)を940g得た。フクロフノリをゾル化させる溶液のpHは5.8であった。
【0046】
[比較例2]
実施例1の製造方法において、炭酸水素ナトリウム42gを炭酸ナトリウム42gに代えた以外は、実施例1と同様の操作を行ってフノリ粉砕物(比較例品2)を956g得た。フクロフノリをゾル化させる溶液のpHは10.3であった。
【0047】
<麺類の作製>
[試験例1〜5]そばの製造
ミキサー一体型製麺機(型式:MG−77;スズキ麺工社製)に表1に示す質量のそば粉及び強力粉、並びに実施例品(1〜3)又は比較例品(1、2)を加え、3分間混合した後に、表1に示す質量の食塩を水に溶解させた食塩水を加え10分間混捏した。その後圧延複合後30℃にて30分間生地を熟成させた後、製麺機で圧延を3回繰り返し、最終麺厚を1.7mmとし、これを切刃18角で切出し、約25cmに裁断しそばを得た。このそばを、熱湯水で2分30秒茹で上げた後、水洗いして茹でそばを得た。
【0048】
【表1】

【0049】
[試験例6〜10]うどんの製造
ミキサー一体型製麺機(型式:MG−77;スズキ麺工社製)に表2に示す質量の中力粉と実施例品(1〜3)又は比較例品(1、2)とを加え、3分間混合した後に、表2に示す質量の食塩を水に溶解させた食塩水を加えて、10分間混捏した。得られた生地を用いて、混捏後製麺機にて圧延を2回繰り返し、最終麺厚を2.5mmとし、これを切刃12角で切り出し、約25cmに裁断しうどんを得た。このうどんを、熱湯水で13分茹で上げた後、水洗いして茹でうどんを得た。
【0050】
【表2】

【0051】
<麺類の評価>
試験例1〜10で得られた麺類を用い、表3の評価基準をもとに滑らかさ、粘弾性、及び香味の各項目の評価を行った。各項目の評価は、パネラーが男性10人及び女性10人の計20人で行い、20名の評点の平均値を表4の基準に従って記号化し、結果を表5及び6に示した。
【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
【表5】

【0055】
【表6】

【0056】
結果より、比較例品1又は2を使用した麺は、滑らかさ、粘弾性がやや悪い、又は悪い評価であった。特に比較例品2を用いた麺は、香味が悪いものであった。
実施例品1〜3のいずれかの改質されたフノリ粉砕物を使用した麺は各項目共に極めて良好、又は良好な評価であった。
【0057】
<パン類の作製>
[試験例11〜15]中種法による食パンの製造
竪型ミキサー(型式:マイティ60:30Lボウル使用;愛工舎製作所社製)に、後掲の表7に示す20倍量の中種原材料を入れ、ボウルを氷水で冷やし生地の温度が24℃になるように調整しながら、低速3分間、中速1分間で混捏して中種生地とした。この生地を27℃、75%RHの発酵室にて、4時間放置(発酵)させた。次に、上記発酵させた中種生地およびショートニング以外の表7の20倍量の本捏原材料を竪型ミキサーに入れ、ボウルを氷水で冷やし生地温度を27℃に調整しながら、低速3分、中速2分、高速1分混捏後、表7の20倍量のショートニングを添加し、低速2分、高速4分混捏して本捏生地とした。
【0058】
本捏生地を27℃の発酵室で20分間放置(フロアータイム)後、分割機(型式:DQE;オシキリ社製)を使用して250gに分割し、ラウンダー(型式:RQ;オシキリ社製)を使用し、生地の丸めを行った。この生地を20分間室温(20℃)にて放置(ベンチタイム)後、モルダー(型式:WF;オシキリ社製)を使用し、成形を行い、容積6300mlの食パン型に250gの生地を6個型詰めした。
成形した生地を38℃ 80%RHの発酵室に入れ、パン生地が型の体積の85%に到達するまで発酵させた後、発酵室から取り出し、型に蓋をつけオーブン(型式:ニューコンポ;三幸機械社製)を使用し、上火200℃、下火210℃の条件下、35分間焼成しパンを作製した。
【0059】
【表7】

【0060】
[食パンの評価]
試験例11〜15で得られた食パンを焼成後1時間常温に放置した後、ビニール袋に密閉し、次いで20℃で3日間放置した後、厚さ20mmにスライスし、表8の評価基準をもとに保湿感、口溶け感、モチモチ感及び香味の各項目の評価を行った。
各項目の評価は、パネラーが男性10人、女性10人の計20人で行い、20名の評点の平均値を表4の基準に従って記号化し、結果を表9に示した。
【0061】
【表8】

【0062】
【表9】

【0063】
結果より、比較例品1又は2を使用したパンは、口溶け感、ソフト感がやや悪い評価であり、特に比較例品2を使用したパンの香味は悪い評価であった。
実施例品1〜3のいずれかの改質されたフノリ粉砕物を使用したパンは、各評価共に非常に良好、又は良好な評価であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フノリ科に属する海藻を、該海藻を含有するpH7〜9の溶液中でゾル化させた後に乾燥させたことを特徴とするフノリ乾燥物。
【請求項2】
フノリ科に属する海藻を、該海藻を含有するpH7〜9の溶液中でゾル化させてゾル状の海藻入り溶液を得る工程と、得られたゾル状の海藻入り溶液を乾燥し乾燥物を得る工程とを有することを特徴とするフノリ乾燥物の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のフノリ乾燥物を含有することを特徴とする麺類、又はパン類。

【公開番号】特開2009−225665(P2009−225665A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70926(P2008−70926)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(591124385)理研食品株式会社 (14)
【Fターム(参考)】