説明

フラックスゲート型地磁気センサ

【課題】フラックスゲート型地磁気センサにあって、いわゆるセルフチェック機能を持たせた。
【解決手段】磁心1に巻回された励磁コイル2と磁心1及び励磁コイル2を囲むように巻回された検出コイル4とを有するフラックスゲート5と、検出コイル2による検出信号を処理し地磁気の強さに相応する出力信号を得る検出回路6と、を有するフラックスゲート型地磁気センサにおいて、磁心1及び励磁コイル2を囲むように巻回された自己診断用励磁コイル20と、この自己診断用励磁コイル20に自己診断信号を送出し自己診断用励磁コイル20での自己診断信号に基づく検出コイル4での検出信号の変化にて自己診断を行う自己診断制御部21と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、船舶、あるいは人工衛星等の移動体に搭載して地磁気を検出するフラックスゲート型地磁気センサに関する。
【背景技術】
【0002】
フラックスゲート型地磁気センサは、例えば図8(a)に例示されるようなフラックスゲート構造を有し、環状の磁心1に励磁コイル2が巻かれ、この励磁コイル2を巻いた磁心1がボビン3内に収納され、このボビン3に検出コイル4が巻回された構造を有する(特許文献1参照)。そして、このフラックスゲートの等価回路としては、図8(b)に示すように励磁コイル2に励磁電流Iを流して磁心1内に磁束Φを発生させ、この磁束Φの変化を互いに逆向きに分割して巻回した二つの検出コイル4にて誘起電圧eあるいは−eとして取り出す回路構成を有し、検出コイル4の端子からは励磁電流Iの磁束Φによる誘起電圧を相殺して地磁気に応じた出力を得る構成となっている。
【0003】
図9は、このフラックスゲート型地磁気センサのフラックスゲートと検出回路とを含めたブロック構成を示す。すなわち、図9でのフラックスゲート5は、磁心1、励磁コイル2、検出コイル4からなり、この図9でのフラックスゲート5に接続されている検出回路6には、磁心1に巻回された励磁コイル2に励磁電流を流すための駆動回路7が存在し、更に、検出コイル4に接続されて検出信号を増幅する増幅回路8、増幅回路8にて増幅された信号を地磁気の極性に対応した極性の直流電圧に変換する同期検波回路9、この同期検波回路9の出力を積分する積分器10、この積分器10の積分出力を出力回路12に出力すると共に検出コイル4にフィードバックさせる抵抗器11が存在する。
【0004】
かかる図9に示す構造にあって、駆動回路7からは、図10(a)に示すような励磁コイル2に磁心1を飽和するに十分な大きさの励磁電流がパルス状に通電される。励磁電流の増加または減少時は、磁心1は非飽和状態であり、励磁電流と磁束密度とが比例の状態にある。この磁心1が非飽和状態の場合においては、パルス状の励磁電流の変化に起因して検出コイル4に磁束密度変化による誘起電圧が生ずる。しかし、検出コイル4は互いに逆方向の接続状態に置かれるため、誘起電圧は相殺されることになる。従って、検出コイル4の出力端子には励磁電流変化による誘起電圧は発生しない。
【0005】
一方、励磁電流が最大又は最小となって磁心1が飽和状態になると、磁束密度も一定となって変化しなくなる。この磁心1が飽和状態の場合においては、磁束密度が変化しない状態によって、検出コイル4には誘起電圧が発生しない。
ところが、外部から地磁気が入力された場合、上述の関係が崩れることとなる。この動きを図8(b)を使って説明する。磁心1にΦという磁束が通っている状態から、地磁気(ΔΦ)が入力されると、検出コイル4の左側(4a)の磁束はΦ+ΔΦ、検出コイル4の右側(4b)の磁束はΦ−ΔΦ、となってバランスが崩れ、左側の磁束が右側の磁束より大きくなる。この結果、磁心1の左側の磁気飽和が起こる時点が磁心1の右側に比べ早くなり、磁心1の左側が磁気飽和している状態で磁心1の右側が磁気変化を生じている状態が生ずる。励磁コイル2と検出コイル4は磁気結合であるから、励磁コイル2で発生させた磁界の変化量に対応して、検出コイル4に電圧が発生するのであるが、上述のように検出コイル4の左側(4a)部が先に磁気飽和し、同右側(4b)部が後に飽和することにより、左側(4a)部と右側(4b)部とで発生する誘起電圧に差が発生することになる。
【0006】
図8(b)における励磁コイル2に対する励磁電流は交流電圧の印加によるので、Φの方向は、印加した周波数に対応して反転することになる。Φの方向が反転したときには、検出コイル4の左側(4a)の磁束は−Φ+ΔΦ、検出コイル4の右側(4b)の磁束は−Φ−ΔΦとなり、今度は磁気飽和の極性が反転し、検出コイル4右側(4b)が先に飽和することになる。
こうして、検出コイル4の出力は、左側(4a)と右側(4b)とを加算したものであるから、結果として、地磁気に対応する誘起電圧が検出コイル4の出力端子に検出信号として現れることになる。
【0007】
そして、この検出信号は、増幅回路8にて増幅され、同期検波回路9にて地磁気の極性に対応した極性の電圧に変換され、積分器10にて積分されて、積分器10からは図10(b)に示す直流信号として出力回路12に出力されると共に検出コイル4に図10(c)に示すようなフィードバック電流として戻される。そして、この検出コイル4へのフィードバック電流により発生した磁束が地磁気による磁束と等しくなる値で検出コイル4からの検出信号を安定状態に置く。この電流値を抵抗11にて電圧に変換し、出力回路12により出力される。こうして、このフラックスゲート型地磁気センサは、励磁コイル2に磁心1を飽和させるようなパルス状の励磁電流を流すことにより、磁心1の飽和、非飽和を繰り返し、この繰り返しの際の地磁気による誘起電圧を取り出し地磁気の強さを計測するようになっている。
【特許文献1】実開平6−25720号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述のフラックスゲート型地磁気センサを搭載する移動体が移動しない場合には、地磁気の変化が生じにくいという性質を持つため、このセンサによるセンシング量が変動しにくい。このため、このセンサの起動時もしくは地磁気の変動しにくい状況では、このセンサが正常に動作しているか否かの判断ができない場合がある。すなわち、従来の地磁気センサは、正常に動作することができるか否かのいわゆるセルフチェック機能を有していない。
本発明は、上述の問題点に鑑み発明されたもので、いわゆるセルフチェック機能を持たせたフラックスゲート型地磁気センサの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明は、磁心に巻回された励磁コイルと磁心及び励磁コイルを囲むように巻回された検出コイルとを有するフラックスゲートと、検出コイルによる検出信号を処理し地磁気の強さに相応する出力信号を得る検出回路と、を有するフラックスゲート型地磁気センサにおいて、磁心及び励磁コイルを囲むように巻回された自己診断用励磁コイルと、この自己診断用励磁コイルに自己診断信号を送出し自己診断用励磁コイルでの自己診断信号に基づく検出コイルでの検出信号の変化にて自己診断を行う自己診断制御部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、自己診断部からの自己診断信号に基づく自己診断用励磁コイルからの磁束を検出コイルにて検出し、この検出信号を自己診断部にて自己診断することにより、地磁気センサの起動時あるいは地磁気が変化しにくい状況でも、セルフチェック機能を有することになり、誤動作の防止、正常動作の確認が可能となり、信頼性の高い地磁気センサを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
ここで、図1乃至図7を参照して本発明のフラックスゲート型地磁気センサの実施形態を説明する。なお、図8、図9と同一部分には同符号を付す。
図1は、本発明の一実施形態を例示するフラックスゲートの一例を示す。図1では、環状の磁心1に励磁コイル2が巻回され、この磁心1及び励磁コイル2を囲むように検出コイル4が巻回されている。検出コイル4は、図8(b)に示すような互いに逆方向に二分割されて巻回されている構成も可能である。
更に、磁心1及び励磁コイル2を囲むようにして検出コイル4と同じ向きに自己診断用励磁コイル20が、検出コイル4に重ねて巻回されている。自己診断用励磁コイル20は、検出コイル4に対して任意の向き(巻線位置)に備えることができるが、この図1では同じ向きに重ねられている。
【0012】
この自己診断用励磁コイル20を含むフラックスゲート5及びそれに関連するブロックを図2に示す。すなわち、フラックスゲート5は、磁心1、励磁コイル2、検出コイル4、及び自己診断用励磁コイル20を備え、励磁コイル2に励磁電流を流す駆動回路(図9参照)及び検出コイル4の出力側の各回路(図9参照)は、検出回路6内にある。
自己診断用励磁コイル20に自己診断信号である励磁電流を流す自己診断制御部21には、この励磁電流の値に相応するデジタル指示出力を出力するためのCPU22、このCPU22にて指示された励磁電流の値に相応するアナログ値にDA変換するためのDAコンバータ23、このDAコンバータ23によるアナログ値に対応した励磁電流値を得る駆動回路24を有し、更に、検出回路6からの検出出力をCPU22にフィードバックさせる検出出力ライン25に接続されたADコンバータ26、このADコンバータ26の出力を上記CPU22にて自己診断用の指示出力と比較して表示するモニタ27を有する。
【0013】
このように自己診断制御部21およびこれにつながる自己診断用励磁コイル20を備えたブロック構造にあって、回路動作波形は図3に示すようになる。図3を参照して回路の動作を説明する。検出回路6内の駆動回路からは、図3(a)に示すように励磁コイル2にて磁心1を飽和するに十分な大きさの励磁電流がパルス状に通電される。検出コイル4からは、地磁気による誘起電圧が検出信号として出力される。
更に、自己診断制御部21の駆動回路24からは、CPU22からのデジタル指示出力に対応して自己診断用励磁コイル20に図3(b)に示す変極点を有する直流電流(励磁電流であり自己診断信号である)が通電され、この自己診断信号である励磁電流に伴う磁束変化による誘起電圧が検出コイル4から検出される。この図3(b)に示す自己診断用励磁コイル励磁電流は、例えば±0.0001Tの磁束密度変化を±10Vにて検出する地磁気センサの場合にあっては例えば±2Vの誘起電圧を検出するような電流変化の値に対応させることができる。従って、検出コイル4にてかかる値の誘起電圧を発生するような直流電流(自己診断信号)を自己診断用励磁コイル20に通電し、自己診断用励磁コイル20にてこのような自己診断信号を発生させるためのデジタル指示信号がCPU22より出力されることになる。ここで、自己診断信号は、当然磁心1を飽和させないようなレベルの信号であり、測定レンジの最大値と最小値との間を越えないレベルの信号である。また、自己診断信号は、変極点を有する直流電流であり、この変極点の存在によって地磁気と区別可能な自己診断をより確実に行うことができる。
【0014】
検出コイル4にて検出された地磁気による磁束変化及び自己診断用励磁コイル20の自己診断信号による磁束変化に応じた各誘起電圧は、検出回路6内において図9に示す増幅回路8、同期検波回路9、積分器10にて増幅、検波、積分される。この検出回路6内の積分出力としては、図3(c)に示すように地磁気による誘起電圧にて自己診断信号による誘起電圧が嵩上げされた波形となる。そして、この図3(c)に示す積分出力に基づき図9に示す抵抗器11を介して検出コイル4に図3(d)に示すフィードバック電流が通電され、このフィードバック電流による磁束により検出コイル4からの図3(c)に相応する検出信号を安定状態に置く。
【0015】
同時に図3(c)に示す積分出力に基づき検出回路6には、図3(e)に示す出力が得られる。この検出回路6(図9の出力回路12)の出力は、自己診断制御部21への検出出力ライン25を通る図3(f)に示すフィードバック信号であり、ADコンバータ26への入力信号となる。そして、このアナログ入力信号が、ADコンバータ26によってAD変換されデジタル信号となってCPU22へ入力される。CPU22では、検出回路6から戻ってきた信号と自己診断用励磁コイル20の駆動回路24への指示とを比較し、検出回路6から検出出力ライン25を通って戻ってきた信号には自己診断信号による磁束変化に地磁気による磁束変化が加算されることになるので、この加算値を検出することにより、この地磁気センサのセルフチェックを行うことができる。このセルフチェックの結果は、CPU22に接続されたモニタ27にて表示することができる。
【0016】
なお、図3では、励磁コイル2の励磁電流波形(a)、自己診断用励磁コイル20の直流電流波形(b)、検出コイル4に磁束を生じるフィードバック電流波形(d)であり、積分器出力(c)、検出回路出力(e)(f)は、電圧波形を示す。
図4は、例えばモニタ27による表示例を示しており、図4(a)は検出回路6の出力に該当し、自己診断信号による自己診断用励磁コイル20の励磁がない状態で検出回路6には地磁気に当たる図9(d)に示す出力のみが得られた場合の出力に該当する。そして、図4(a)の波形は、この地磁気に当たる出力のみが検出回路6からCPU22に戻ってきた場合のモニタ波形である。また、図4(b)は、CPU22から出力される自己診断指示出力をアナログ波形とした場合の直流モニタ波形である。そして、図4(c)は、地磁気による磁束と自己診断信号による磁束とがフラックスゲートに加わった場合の図3(e)(f)の検出出力に該当する波形である。従って、CPU22にて得られた地磁気に当たる検出出力図4(a)と、自己診断出力図4(b)とをモニタし、そして例えばこの図4(c)に示す自己診断信号による磁束変化と地磁気による磁束変化との加算波形が検出回路6からの戻り信号としてモニタすることになれば、正常な自己診断動作が行われており、地磁気センサは正常な動作をしていることになる。
【0017】
一方、図5は、異常波形を例示したものである。図5(a)は、図4(a)と同じ地磁気のみに該当する検出波形であり、図5(b)は、図4(b)と同じ自己診断指示出力のアナログ波形である。地磁気センサが正常な場合は、図4(c)に示す波形となるが、例えば地磁気センサの出力が零に故障した場合には、図5(c)に示すように検出回路6からの加算出力(本来あるべき出力を点線にて示す)が全く発生しない状態となり、また、スケールファクタの異常の場合には、本来あるべき3V〜−1Vの出力が2.25V〜−0.75Vのような出力となってしまっており、モニタ27上にて異常が検出される。また、更に別の点検項目としては、波形のリニアリティを確認することもモニタ上にて可能である。
【0018】
これまでの説明は、図1に示すように検出コイル4と自己診断用励磁コイルが同じ向きに揃ったフラックスゲート構造に基づくものである。しかし、このフラックスゲートの構造は、図1の構造に限らず、具体的に例えば図6に示すような検出コイル4に対して角度θだけ斜めにずらして配置した構造も可能である。なおこの場合には、自己診断用励磁コイル20による磁束は検出コイル4に係数cosθをもって作用する。
図7は、二軸構造のフラックスゲートを例示するものである。図7(a)は、検出コイルを直交した2個の検出コイル4a、4bとし、この直交する検出コイル4a、4bに対して自己診断用励磁コイルも同様に同じ向きに直交する2個の自己診断用励磁コイル20a、20bとしたものである。また、図7(b)は、直交する2個の検出コイル4a、4bに対して1個の自己診断用励磁コイル20を一方の検出コイル4bに対して角度θだけ斜めにずらして配置したものである。この図7(b)の構造は、自己診断用励磁コイル20による磁束が検出コイル4bに係数cosθをもって作用し、検出コイル4aに係数cos(π/2−θ)をもって作用するが、図7(a)の場合に比べて、自己診断用励磁コイル20は一つで済み地磁気センサの小型化に寄与する。
【0019】
図2及び図9に示す構造は、抵抗器11から検出コイル4へのフィードバックラインを備えたものであるが、このフィードバックラインを省き積分器をフィルタに置き換えて構成することもできる。この場合は、図2(d)図10(c)の電流信号は存在しない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態を示すフラックスゲートの構成図である。
【図2】本発明の実施形態のブロック構成図である。
【図3】本発明の実施形態の波形図である。
【図4】モニタにて表示される正常波形図である。
【図5】モニタにて表示される異常波形図である。
【図6】フラックスゲートの他の例の構成図である。
【図7】フラックスゲートの更に他の例の構成図である。
【図8】従来のフラックスゲートの簡略斜視図及び等価回路図である。
【図9】フラックスゲートのブロック構成図である。
【図10】従来のフラックスゲートの波形図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁心に巻回された励磁コイルと上記磁心及び励磁コイルを囲むように巻回された検出コイルとを有するフラックスゲートと、上記検出コイルによる検出信号を処理し地磁気の強さに相応する出力信号を得る検出回路と、を有するフラックスゲート型地磁気センサにおいて、
上記磁心及び励磁コイルを囲むように巻回された自己診断用励磁コイルと、この自己診断用励磁コイルに自己診断信号を送出し上記自己診断用励磁コイルでの自己診断信号に基づく検出コイルでの検出信号の変化にて自己診断を行う自己診断制御部と、を有することを特徴とするフラックスゲート型地磁気センサ。
【請求項2】
上記自己診断制御部において、上記磁心を飽和させない範囲にて自己診断信号が設定されていることを特徴とする請求項1に記載のフラックスゲート型地磁気センサ。
【請求項3】
上記検出コイルは直交する二つのコイルにより構成され、この検出コイルのそれぞれのコイルと同じ向きに二つの自己診断用励磁コイルが構成されていることを特徴とする請求項1に記載のフラックスゲート型地磁気センサ。
【請求項4】
上記検出コイルは直交する二つのコイルにより構成され、この検出コイルに対して斜めに自己診断用励磁コイルが配置されていることを特徴とする請求項1に記載のフラックスゲート型地磁気センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−139459(P2007−139459A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−330397(P2005−330397)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(000231073)日本航空電子工業株式会社 (1,081)
【Fターム(参考)】