説明

フラットスクリーン用ガラス基板

本発明は、その化学組成が、別途定められる範囲内で下記の成分(質量百分率で表した)、すなわちSiO2を58〜72質量%、TiO2を0.8〜3質量%、B2O3を2〜15質量%、Al2O3を10〜25質量%、CaOを5〜12質量%、MgOを0〜3質量%、BaOを0〜6質量%、SrOを0〜4質量%、ZnOを0〜3質量%、およびR2Oを0〜1質量%含むガラス基板に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットスクリーンの製造に用いることができ、かつ低含量のアルカリ金属酸化物を含むアルミノケイ酸塩型の組成を有するガラス基板に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットスクリーンは様々な技術により生産することができる。それらのなかで主なものは、PDP(プラズマディスプレイパネル)およびLCD(液晶ディスプレイ)の技術である。これら2つの技術はガラス基板の使用を必要とするが、それら技術は基板にきわめて様々な特性を課す結果、それらの化学組成をそれらそれぞれに特定的に適合させなければならない。
【0003】
LCD技術では、エレクトロニクス半導体産業で使用する技術によって薄膜トランジスタを付着させるための基板として薄いガラスシートを使用する製造工程が用いられ、そのなかには高温付着、フォトリソグラフィ、および化学エッチングの技術がある。これらの工程の結果としてガラスの特性に関して、特にそれらの機械的、化学的、および熱的抵抗に関して非常に多くの要求条件があとに続く。
【0004】
シリコンの薄膜を付着するために用いられる高温を考慮すると、ガラスの熱安定性がその変形も避けるために最も重要である。したがって最低600℃の、また最低650℃さえもの低いアニーリング温度が必要とされる。この温度は一般に「歪点」と呼ばれ、ガラスが1014.5ポアズに等しい粘度を有する温度に相当する。温度の関数としてのガラス基板のきわめて高い寸法変動を避けるには低い膨張係数もまた必要である。しかしシリコンの膨張係数とガラスの膨張係数の完全な合致もガラスとシリコンの間の力学的歪の発生を避けるのに不可欠である。したがってガラス基板の膨張係数は、温度範囲25〜300℃で測定して25から35×10-7/℃の間でなければならない。
【0005】
シリコンをエッチングするために使用される化学作用(腐食)がガラス基板、特にその表面を分解してはならない。これらの腐食は酸によって行われるので、ガラス基板は酸腐食に対してきわめて高い抵抗性を有することが不可欠である。
【0006】
フラットスクリーンのサイズ拡大が絶えず続くことを考慮すると基板の質量をできるだけ減らすこともまた重要である。これは、使用されるガラスについては低密度に対する要求と言い換えられる。ヤング率と同じように低密度もまた大型基板の反りを防止し、したがってスクリーンの製造工程のあらゆる段階の間の上記基板の取扱いを容易にする役割を果たす。
【0007】
ガラスの幾つかの特性もまた、そのガラス基板の工業的実現可能性の点で重要である。具体的には高すぎる高温粘度は、それがエネルギー消費を増加させ、かつガラス溶融炉の寿命を低下させることになるので経済的重要性を持つことになる。平坦なガラスシートの形成の実現可能性を台無しにすることになるので、ガラスは非常に高い温度において失透しないこと(したがって液相線温度は限定されなければならない)、および/または高い結晶化速度で失透しないことが不可欠である。
【0008】
本明細書と部分的に合致する組成物が国際特許出願WO00/32528号および米国特許2004/43887号中に見られ、それらは主にシリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、酸化ホウ素(B2O3)、および酸化カルシウム(CaO)から構成される。これらのガラスは、アルカリ金属酸化物を含まず、酸化カルシウム以外の二価酸化物を少量含み、有利にはまったく含まない。しかしながら得られるヤング率の値は不十分であり、60から70 GPaの範囲にわたる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、密度、熱安定性、および膨張係数に関してはその良好な特性を保持しながらヤング率を増大させることによって前述の文書に記載の組成物を改良することである。本発明の別の目的は、原料に起因する、またそのガラス基板の製造のために供給されるエネルギー量に起因するコストの点で経済的な組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一主題は、以下に定められる範囲内で下記の成分(質量百分率で表す)、
SiO2 58〜72
TiO2 0.8〜3
B2O3 2〜15
Al2O3 10〜25
CaO 5〜12
MgO 0〜3
BaO 0〜6
SrO 0〜4
ZnO 0〜3、および
R2O 0〜1
を含む化学組成を有するガラス基板であり、R2Oはアルカリ金属酸化物(主に、ナトリウム、カリウム、およびリチウムの酸化物)を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
シリカ(SiO2)は大多数の産業用ガラスの必須成分である。これはガラスのすべての特性に影響を及ぼす網目形成成分である。低すぎるシリカの量(58%未満)は、失透に関してガラスの安定性の低下と、酸腐食に対する非常に低い抵抗性と、非常に高い密度と、非常に高い膨張係数とを同時にひき起すことになる。シリカの含有率は60%以上、さらには62%以上、また63%でさえあることが好ましい。一方、高すぎる(72%を超える)含量は、結果として許容できない粘度の増加をもたらし、ガラスの溶融工程を困難にする。したがって本発明によるガラスのシリカ含有率は、有利には70%以下、さらには68%以下、また66%でさえある。
【0012】
酸化チタン(TiO2)は、本発明によるガラス基板の組成の必須成分である。本発明者等は、ヤング率の増加に及ぼすこの酸化物の強い影響を実証した。この影響は0.8%の値で感知され始まるが、1%を超える含有率、さらには1.2%以上の含有率が好ましい。一方、高すぎる含量は、許容できない黄変を伴うガラスの光の透過の低下をもたらす。したがって酸化チタンの含有率は3%以下、また有利には2%以下でなければならない。きわめて少量の酸化コバルト(CoO)、有利には約5から50 ppm、特に10から20 ppmの添加は、この黄変を減らす助けとなる可能性がある。米国特許第5,851,939号は、酸化カルシウムが低く酸化ストロンチウムに富み、かつ耐酸性を改良するために酸化チタンを含有するガラス組成物について記載しているが、ヤング率の増加に及ぼすこの酸化物の明確な影響については述べていない。
【0013】
酸化ホウ素(B2O3)もまた網目形成成分であり、液相線温度、密度、および膨張係数を低減させる助けとなる。これはまた、高温粘度を下げ、したがってガラスの融解を容易にする点でシリカより有利である。したがって本発明によるガラス基板は、酸化ホウ素を少なくとも2%、また有利には少なくとも6%、さらには少なくとも8%、9.5%、また10%さえ含む。しかしながら高すぎる酸化ホウ素含量は、使用される原料のコストおよび歪点に負の影響を有する。これらの理由で酸化ホウ素の含有率は15%以下、また有利には13%、さらには12%以下でなければならない。
【0014】
アルミナ(Al2O3)は、歪点およびヤング率の増大を可能にする。したがってその含有率は、有利には12%以上、さらには14%以上である。しかし高いアルミナ含量は、高温粘度を非常に増大させ、また酸性媒体中での腐食抵抗およびガラスの失透抵抗を低下させる(特に液相線温度を上昇させることにより)という不利点を有する。したがって本発明によるガラスのアルミナ含有率は、有利には22%以下、さらには20%以下、また18%でさえある。14から15%の間のアルミナ含有率が良好な妥協点を構成する。
【0015】
石灰(CaO)はガラスの高温粘度を低下させるのに不可欠である。したがってその含有率は5%以上、好ましくは6%以上、さらには7%または8%以上、また8.5%でさえある。一方、高すぎる含量は低膨張係数を得るには不利になる。10%以下の含有率が好ましい。本発明によるガラスは、前述の米国特許第5,851,939号を読んだとき予想できるような酸性媒体中での抵抗性の低下を目にすることなく、高いCaO含有率、特に厳密には8%を超える含有率の使用を可能にする。高歪点と低膨張係数の間のきわめて良好な妥協点を得ることを可能にする一つの好ましい実施形態によれば、11%以上、さらには12%以上であり、かつ13%以下の酸化ホウ素の含量を、9%以下で、かつ6%以上、さらには7%以上である石灰の含量と組み合わせる。
【0016】
マグネシア(MgO)は、本発明の随意的な成分である。ヤング率に及ぼすその有益な影響は、液相線温度および結晶速度の増大によって示される失透特性の急激な低下により残念ながら相殺される。したがってMgO含有率は、好ましくは2%以下、さらには1%未満、また0.5%でさえある。一つの好ましい実施形態によればこのガラスは、避けるのが困難な不純物(0.1%未満)を除いて酸化マグネシウムを含有しない。
【0017】
酸化バリウム(BaO)および酸化ストロンチウム(SrO)はガラスの密度に有害な影響を有し、その一方および/または他方の含有率を3%以下、特に2%以下、さらには1%以下、あるいは0.5%または0.1%にさえ抑えることにより有利な結果をもたらす。本発明によるガラスは、不可避な不純物を除いて酸化ストロンチウムおよび/または酸化バリウムを含有しないことが有利である。
【0018】
酸化亜鉛(ZnO)もまた、そのガラスシートを「フロート」法により生産する場合に望ましくない反応を起こすので、本発明によるガラス組成物から欠けていることが有利である。この方法は還元性雰囲気下でガラスを融解スズ浴上に注ぐ。特に非常に高い含量のZnOを含有するガラスの場合、このスズ浴の酸化を避けるのに必要な還元性条件がこの金属性の酸化亜鉛の還元物を生じ、これがガラスシート上に膜を形成する。
【0019】
本発明によるガラスは、好ましくはジルコニウム、亜鉛、ストロンチウム、およびバリウムの酸化物を含有しない。
【0020】
アルカリ金属酸化物(R2Oはこれら酸化物を集合的に表し、その中にはナトリウム、カリウム、およびリチウムの酸化物が見出される)を、きわめて低い含有率、好ましくは0.5%未満、また0.1%、0.05%、または0.01%にさえ抑えなければならない。ゼロ量のアルカリ金属酸化物(原料に由来する痕跡を除いて)が大いに好ましい。これは、アルカリ金属酸化物がガラスの表面に移動し、その基板上に付着されるシリコンの半導体特性をかなり低下させるためである。
【0021】
一つの好ましい実施形態によれば本発明によるこの基板は、以下に定められる範囲内で下記の成分(質量百分率で表す)、
SiO2 60〜70
TiO2 1.2〜2
B2O3 6〜13
Al2O3 12〜18
CaO 5〜10
MgO 0〜3
BaO、SrO、ZnO <0.1、および
R2O <0.1
を含む化学組成を有する。
【0022】
本発明によるガラス基板は、上記で列挙したもの以外の成分を含有することができる。それらは故意に導入される清澄剤、または故意でなく一般に不純物の形で持ち込まれる他の酸化物の場合があり、それは本発明の基板による考察対象の技術的問題の解決方法を実質上変更しない。一般には本発明によるガラス中の不純物の含有率は約5%以下、また3%以下でさえあり、さらには2%または1%である。
【0023】
本発明によるガラス組成物は、ガラスを精錬する、すなわち溶融段階の間にガラスの塊中に入るガス状介在物を除去するためのものである化学薬剤を好ましくは含む。使用されるこれら清澄剤は、例えばヒ素またはアンチモンの酸化物、フッ素または塩素などのハロゲン類、スズまたはセリウムの酸化物、硫酸塩類、あるいはこのような化合物の混合物である。酸化スズと塩素の組合せが特に効果的であることが分かっており、したがって本発明の脈略内ではこれが好ましい。本発明による組成物は、ヒ素またはアンチモンの酸化物の高い毒性のため、それらを含有しないことが有利である。
【0024】
本発明によるガラス基板はまた、少量の他の酸化物、例えば酸化ジルコニウム、あるいはランタンまたはイットリウムなどの希土類元素の酸化物を含有することができるが、原料に含まれる不純物に由来する、またはガラス融解炉の成分である耐熱材料に含まれる元素の溶解に由来する痕跡を除いて一般にはこれらを含有しない。本発明によるガラスが酸化ジルコニウム(ZrO2)を含有する場合、ヤング率をさらに向上させることができるが、この酸化物の存在により液相線温度が強く影響を受けるので、その含有率は3%以下、さらには2%以下である。
【0025】
本発明によるガラス基板は、好ましくは膨張係数が35×10-7/℃以下、さらには33×10-7/℃以下である。それらの歪点は、有利には630℃以上、また650℃でさえある。酸化チタンの使用のせいで本発明による基板のヤング率は一般に70 GPaを超え、さらには72 GPaを超える。ガラスが形成される粘度、すなわち約10000ポアズに対応する温度(この温度は「T(log 4)」で表される)は、好ましくは1350℃以下である。
【0026】
本発明の別の主題は、ガラス炉中で適切な組成のガラス処理単位を溶融する段階、および融解スズ浴上に注ぐこと(フロート法)によってガラスシートを形成する段階を含む、本発明による基板を得るための連続プロセスである。この溶融温度は、有利には1700℃未満、さらには1650℃未満である。
【0027】
本発明の最後の主題は、特に本発明のガラス基板を含むLCD(液晶ディスプレイ)またはOLED(有機発光ダイオード)型のフラットスクリーンである。
【実施例】
【0028】
本発明の利点を下記の非限定的な実施例を用いて例示し、表1および2に示す。
【0029】
比較例C1は、国際出願WO00/32528号による教示を代表するガラスであり、この同出願の実施例10から13、および17に近く、また工業的に生産されるLCDスクリーンの組成物に相当する。
【0030】
実施例1から3は、本発明の教示に対応する。
【0031】
表1は、質量百分率で表される化学組成に加えて下記の物理的性質を示す。
−ASTM C 1259−01規格に従って測定され、単位GPaで表したヤング率、
−NF B30−103規格に従って測定され、単位10-7/℃で表した25から300℃の間の膨張係数、
−いわゆる「アルキメデス」の方法に従って測定した密度(単位g/cm-3)、
−NF B30−105規格に従って測定される歪点(単位℃で表わされ、粘度が1014.5ポアズ(1013.5 Pa・s)になる温度にほぼ対応する)、
−NF B30−105規格に従って測定され、「アニーリング点」として知られる上側のアニーリング温度(単位℃で表わされ、粘度が1013ポアズ(1012 Pa・s)になる温度にほぼ対応する)、
−T(log 4)(ISO 7884−2規格に従って測定される)で示される粘度が104ポアズ(103 Pa・s)(ガラスがフロート法の間に融解金属浴上に注がれる粘度にほぼ対応する)になる温度、および
−厚さ1 mmのガラス試料を通して測定される波長400 nmの光の透過率。
【0032】
【表1】

【0033】
本発明による試料と比較試料の間の比較は、その他の特性を大きく変えないまま、酸化チタンがヤング率の向上に及ぼす有益な作用を証明している。
【0034】
表2は、本発明による組成物の他の実施例を示す。
【0035】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下に定められる範囲内で下記の成分(質量百分率で表す)、
SiO2 58〜72
TiO2 0.8〜3
B2O3 2〜15
Al2O3 10〜25
CaO 5〜12
MgO 0〜3
BaO 0〜6
SrO 0〜4
ZnO 0〜3、および
R2O 0〜1
を含む化学組成(R2Oはアルカリ金属酸化物を表す)を有することを特徴とする、ガラス基板。
【請求項2】
1.2%から2%の間の質量含有率で酸化チタン(TiO2)を含む、請求項1に記載のガラス基板。
【請求項3】
62%以上の質量含有率で酸化ケイ素(SiO2)を含む、請求項1〜2の一項に記載のガラス基板。
【請求項4】
9.5%以上の質量含有率で酸化ホウ素(B2O3)を含む、請求項1〜3の一項に記載のガラス基板。
【請求項5】
12%から18%の間の質量含有率でアルミナ(Al2O3)を含む、請求項1〜4の一項に記載のガラス基板。
【請求項6】
7%以上の質量含有率で石灰(CaO)を含む、請求項1〜5の一項に記載のガラス基板。
【請求項7】
7から9%の間の質量含有率の石灰(CaO)と、11から13%の間の含有率の酸化ホウ素(B2O3)とを含む、請求項1〜6の一項に記載のガラス基板。
【請求項8】
マグネシア(MgO)を含まないことを特徴とする、請求項1〜7の一項に記載のガラス基板。
【請求項9】
3%を超えない含有率で酸化バリウム(BaO)を含む、請求項1〜8の一項に記載のガラス基板。
【請求項10】
3%を超えない含有率で酸化ストロンチウム(SrO)を含む、請求項1〜9の一項に記載のガラス基板。
【請求項11】
酸化バリウム(BaO)および/または酸化ストロンチウム(SrO)を含まないことを特徴とする、請求項1〜10の一項に記載のガラス基板。
【請求項12】
5から50 ppmの間の質量含有率で酸化コバルトを含む、請求項1〜11の一項に記載のガラス基板。
【請求項13】
以下に定められる範囲内で下記の成分(質量百分率で表す)、
SiO2 60〜70
TiO2 1.2〜2
B2O3 6〜13
Al2O3 12〜18
CaO 5〜10
MgO 0〜3
BaO、SrO、ZnO <0.1、および
R2O <0.1
を含む化学組成を有する、請求項1に記載のガラス基板。
【請求項14】
ガラス炉中で適切な組成のガラス処理単位を溶融する段階と、融解スズ浴上に注ぐことによってガラスシートを形成する段階とを含む、請求項1〜13の一項に記載の基板を得るための連続プロセス方法。
【請求項15】
請求項1〜13の一項に記載のガラス基板を含むフラットスクリーン。

【公表番号】特表2008−542164(P2008−542164A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−512883(P2008−512883)
【出願日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際出願番号】PCT/FR2006/050459
【国際公開番号】WO2007/000540
【国際公開日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【出願人】(500374146)サン−ゴバン グラス フランス (388)
【Fターム(参考)】