説明

フラワーペースト類

【課題】保水剤を使用した水分含量の高いベーカリー生地であって、分割、丸め、成形時に粘つきがなく良好な物性を呈するベーカリー生地、及び、ソフトでしっとりしていながら、ねちゃつきの感じられない良好な食感のベーカリー製品を提供すること。
【解決手段】水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維を0.5〜12質量%含有してなることを特徴とするフラワーペースト類、該フラワーペースト類を練込んでなるベーカリー生地、及び、該ベーカリー生地を加熱処理してなるベーカリー製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分割、丸め、成形時に粘つきがなく良好な物性を呈するベーカリー生地、及び斯かるベーカリー生地を得ることができるフラワーペースト類に関する。上記ベーカリー生地は、ソフトでしっとりしていながら、ねちゃつきの感じられない良好な食感のベーカリー製品を得ることができるものである。
【背景技術】
【0002】
澱粉類を使用したベーカリー製品の食感に対してはさまざまな要求があるが、ソフト性としとり感は最も多い要求である。一般的にソフトでしとり感のあるベーカリー製品を得るためには水の添加量(吸水量)を増加すればよい。しかし、単純に吸水量を増加させた場合、未糊化の状態の澱粉類の水の保持力(吸水量)には限界があるため、その吸水量を上回った吸水量になると、ベーカリー生地が粘ついたり流動状となってしまい、扱いにくくなってしまう。ベーカリー製品の中でも、特にパンにおいては、生地の扱いやすさや焼成品の保型性の点で好ましい吸水量の許容範囲が狭いため、大きく吸水量を増加させることは困難であり、小麦粉100質量部に対し吸水量が70質量部以上となると、得られるパン生地は保型性を失い流動状となり、各種の成形を行うことが困難となる。そのため、このような吸水量の多いパン生地(多加水パン生地)を用いて得られるパンはチャバタ等の特殊なパンに限定されてしまう。
【0003】
一方、吸水量を増やす代わりに、増粘多糖類や食物繊維等の保水性の高い副原料(保水剤)を添加して、焼成中の水分の逸失を抑制する方法もまた一般的に行われている(例えば特許文献1〜7参照)。そして、その添加方法としては、ベーカリー生地に粉末として添加する方法、配合水の一部又は全部でゲル化あるいは膨潤させてから添加する方法がある。しかし、これらの方法では、澱粉類の水和に要する水分が不足したり、焼成中に澱粉類の糊化に利用できる水分が不足したりするため、良好な食感のベーカリー製品が得られにくいことに加え、ねちゃついた食感のベーカリー製品になってしまう問題があった。
【0004】
そのため、保水剤を液状油中に分散させてパン生地に添加し、練り込む方法が提案された(例えば特許文献8参照)。しかし、この方法では、確かにソフトな食感のパンは得られるが、基本的に水分含量は従来のパンとほぼ同一であるため、従来のパン以上にしっとりとした食感のパンは得られなかった。
【0005】
そこで、上記2種の方法を併用した方法(保水性の高い副原料を添加し且つ吸水量を増加させる方法)が多く提案されてきた。即ち、ビートファイバーを粉末として添加する方法(例えば特許文献9参照)、寒天(例えば特許文献10参照)を粉末として添加する方法、グルコマンナンと水で形成されたゲルを添加する方法(例えば特許文献11参照)等の保水剤を使用して吸水量を増加させる方法が提案されている。
【0006】
しかし、保水剤を粉末の状態でベーカリー生地に添加する方法であると、吸水量をあまり増やすことができず、また、生地もべとつきやすく、経時的に生地が締まってきたり、さらには、澱粉類よりも先に保水剤に水分が吸収されてしまうので十分なグルテン形成ができなかったり、焼成時に澱粉の糊化に十分な水が得られないため、得られるベーカリー製品の食感や体積が悪化する問題もある。また、保水剤をゲル化してから添加する方法では、生地中に均質に分散させにくいことに加え、ゲル中の保水剤の濃度を高くしないと生地がべとつきやすいという問題があった。
【0007】
さらに、パン生地を製造する際は、フランスパン等の小麦粉の風味を味わうパン等の特殊な場合を除いて、通常グルテン膜の保護と伸展性改良のために油脂を使用する。該油脂のパン生地への添加はその目的上、ミキシングによりグルテンが形成されてから、マーガリンやショートニング等の可塑性油脂を練り込むことにより行う必要があるが、その際、水分含量の高い生地においては、生地がやわらかすぎてこれらの可塑性油脂を生地中に均質に短時間に練り込むことが困難であった。
【0008】
このように、保水剤を使用し且つ吸水量を増加させる方法においては、生地の物性を良好な状態に保つことができなかったり、十分な吸水増加を望むためには、保水剤を多く添加する必要があり、そのため、保水剤に起因するねちゃついた食感になってしまう等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−289145号公報
【特許文献2】特開平10−179012号公報
【特許文献3】特開平10−262541号公報
【特許文献4】特開平10−56947号公報
【特許文献5】特開2004−187526号公報
【特許文献6】特開2007−236322号公報
【特許文献7】特開2009−017848号公報
【特許文献8】特開2005−000048号公報
【特許文献9】特開平10−276663号公報
【特許文献10】特開平11−046668号公報
【特許文献11】特開2006−320207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、保水剤を使用した水分含量の高いベーカリー生地であって、分割、丸め、成形時に粘つきがなく良好な物性を呈するベーカリー生地、及び、ソフトでしっとりしていながら、ねちゃつきの感じられない良好な食感のベーカリー製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、保水剤を使用して水分含量の高いパン生地を製造する際、保水剤として特定の食物繊維を使用する場合には、保水剤は水で膨潤させてから添加するか、油脂中に分散させるか、あるいは粉体と混合してから添加するという従来法ではなく、該食物繊維を含有する澱粉ゲルの形態でパン生地に練込むと、ベーカリー生地の粘つきが低減され、且つ、得られるパンのねちゃついた食感が顕著に低減することを知見した。
【0012】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維を0.5〜12質量%含有してなることを特徴とするフラワーペースト類を提供するものである。
また、本発明は、該フラワーペースト類を練込んでなるベーカリー生地を提供するものである。
また、本発明は、該ベーカリー生地を加熱してなるベーカリー製品を提供するものである。
さらに、本発明は、水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維を含有するフラワーペースト類を、澱粉類含有生地に練込使用することを特徴とするベーカリー製品の品質改良方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のフラワーペースト類を使用して得られたベーカリー生地は、分割、丸め、成形時に良好な物性を呈し、また、本発明のベーカリー生地を用いて得られたベーカリー製品は、ソフトでしっとりしていながら、ねちゃつきがない食感であり、しかも、キメの細かい内相であり且つ耐老化性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について、好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
【0015】
まず、本発明のフラワーペースト類で使用する「水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維」について述べる。
よく知られているように、食物繊維とは、栄養学的に「ヒトの消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分の総体」と定義され、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維に分類される。水溶性食物繊維としては、ポリデキストロース、アルギン酸、アルギン酸塩、ペクチン、グルコマンナン、アガロース(寒天)、キサンタンガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、グアーガム、難消化性デキストリン等が代表的であり、また、不溶性食物繊維としては、小麦フスマ、セルロース、リグニン、キチン、キトサン、ヘミセルロース、穀物ファイバー、果実ファイバー等が代表的である。
【0016】
食物繊維の食品における利用は、栄養学的なものを除くと、増粘剤やゲル化剤としての利用が主となっている。これは、食物繊維が一般的に分子量の多い多糖類であることによる。ここで、水溶性食物繊維は、溶解度の差により冷水可溶性と冷水不溶性に分類されることはあるものの、いずれも熱水には可溶であるため、その使用方法として特に難しい点はないが、不溶性食物繊維の場合は、その使用方法に若干のコツが必要になっている。
【0017】
即ち、例えばセルロースのように、水に対する溶解性が極端に低い食物繊維の場合は、微細粉末として使用することが行われている。また、穀物ファイバー、果実ファイバーのように、一部水溶性食物繊維を含むものの不溶性食物繊維が主成分であるがために不溶性食物繊維に分類されている「複合型食物繊維」の場合は、水に対して完全に溶解はしないものの、膨潤により多量の水分を保持することで増粘させることが可能であることから、時間をかけて十分に膨潤させることにより増粘安定剤としての利用も行われている。
【0018】
本発明のフラワーペースト類で使用する「水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維」は、このような「複合型食物繊維」であり、具体的には、アップルファイバー、シトラスファイバー、オレンジファイバー、キャロットファイバー、トマトファイバー、バンブーファイバー、シュガービートファイバー、コーンファイバー、小麦ファイバー、大麦ファイバー、ライ麦ファイバー、大豆ファイバー、コンニャクファイバー、低置換度カルボキシメチルセルロース、米ぬか、キチン、キトサン等を挙げることができる。これらの食物繊維は、単独で用いてもよく、2種以上を適宜組合せて用いてもよい。
【0019】
これらの中でも保水性が高いことに加え、水分含量の高い場合であっても、べとつきが少ないパン生地とすることができる点で、アップルファイバー、シトラスファイバー、オレンジファイバー、シュガービートファイバー、コーンファイバー、小麦ファイバー、大豆ファイバー、コンニャクファイバー、低置換度カルボキシメチルセルロースのうちの一種又は二種以上を使用することが好ましく、保水性が特に高いことからシトラスファイバー、オレンジファイバー、小麦ファイバー、コンニャクファイバー、低置換度カルボキシメチルセルロースのうちの一種又は二種以上を使用することがより好ましく、シトラスファイバー及び/又は低置換度カルボキシメチルセルロースを使用することがさらに一層好ましい。最も好ましくは、乳化性を有することから、安定したフラワーペースト類を製造可能なことに加え、特に多加水パン生地から得られたパンの食感が優れている点で、低置換度カルボキシメチルセルロースを使用する。
【0020】
上記低置換度カルボキシメチルセルロースは、セルロースに対しカルボキシメチルエーテル化法により、グルコース単位当たりのカルボキシメチルエーテル基置換度が0.01〜0.4、好ましくは0.03〜0.38となるようにカルボキシメチル基をエーテル結合して得られるものである。一般のカルボキシメチルセルロース(置換度が0.4超)が水溶性であるのに対し、この低置換度カルボキシメチルセルロースは、水不溶性でありながら膨潤性を有するという特徴を有する。
【0021】
尚、水溶性食物繊維とセルロースのような膨潤性のない不溶性食物繊維を単に混合して使用しても本発明の効果は得られない。これは、上記「水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維」においては、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維とが複合体として存在しているためと考えられる。また、本発明において、カルボキシメチルセルロースにはカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を含むものとする。
【0022】
本発明のフラワーペースト類は、上記水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維を0.5〜12質量%、好ましくは1〜8質量%、さらに好ましくは2〜6質量%含有する。該食物繊維の含有量が0.5質量%未満であると、該食物繊維の膨潤による本発明の効果が見られないため、ベーカリー生地の吸水量を増加させることができない。また、水相中の該食物繊維の含有量が12質量%超であると、フラワーペースト類を安定して製造できないことに加え、ベーカリー生地中にフラワーペースト類を均質に練り込むことが困難となる。
【0023】
本発明のフラワーペースト類は、澱粉類の糊化による糊化澱粉によるボディーを有するものであり、その種類としては、例えば、フラワーペースト、カスタード、濃縮スープ等が挙げられる。
【0024】
本発明のフラワーペースト類に使用する澱粉類としては、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、全粒粉等の小麦粉類、ライ麦粉、大麦粉、米粉等のその他の穀粉類、アーモンド粉、へーゼルナッツ粉、カシューナッツ粉、オーナッツ粉、松実粉等の堅果粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、モチ米澱粉等の澱粉や、これらの澱粉を酵素処理、α化処理、分解処理、エーテル化処理、エステル化処理、架橋処理、微細化、グラフト化処理等の中から選ばれた1種又は2種以上の処理を施した化工澱粉等が挙げられる。
本発明では、上記水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維を必須成分として含有するため、フラワーペースト類の粘度をパン生地に練込可能な程度に抑制する観点から、上記澱粉類として、膨潤抑制澱粉を使用することが好ましい。
【0025】
上記膨潤抑制澱粉としては、アミロース含量が好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上であるハイアミロース澱粉や、リン酸架橋処理、乳化剤処理、湿熱処理等によって、澱粉ミセルを強化した化工澱粉等が挙げられる。尚、上記ハイアミロース澱粉の澱粉種については、米やコーンが一般的であるが、特に限定されない。また、上記化工澱粉の原料澱粉としては、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉等の市販の澱粉質材料等を用いることができる。また、これらの澱粉質材料をあらかじめ、エーテル処理、酸化処理又はエステル化処理したものも、上記原料澱粉として使用することができる。本発明では、上記膨潤抑制澱粉として、馬鈴薯澱粉及び/又はコーン澱粉を原料澱粉としたリン酸架橋澱粉を使用すると、より体積が大きく、ソフトでありながら歯切れが良好なパン類が得られる点で好ましい。
【0026】
尚、本発明のフラワーペースト類には、上記膨潤抑制澱粉に加え、一般のフラワーペースト類で使用する未糊化未化工の澱粉類を併用することもできるが、その添加量はフラワーペースト類中、2質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは1質量%以下であり、使用しないことが最も好ましい。該澱粉類の含有量が2質量%を超えると、得られるフラワーペースト類の粘性が高まったり、硬くなったりするため、パン生地に練込使用する際にグルテン構造の生成を阻害したりグルテン構造を破壊するため、得られるパン類の体積が小さく、硬い食感になってしまう。
【0027】
上記膨潤抑制澱粉を含めた上記澱粉類の含有量は、上記フラワーペースト類中、1〜20質量%が好ましく、より好ましくは1〜10質量%、さらに好ましくは1〜5質量%である。
【0028】
また、本発明のフラワーペースト類は、増粘安定剤を含有することができる。
上記増粘安定剤としては、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
上記増粘安定剤の含有量は、本発明のフラワーペースト類中、好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。
【0029】
また、本発明のフラワーペースト類は、油脂を含有することが好ましい。
上記油脂としては、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、オリーブ油、キャノーラ油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂及び動物油脂、並びにこれらに水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂等が挙げられる。これらの油脂は、単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0030】
上記油脂の含有量は、本発明のフラワーペースト類中、好ましくは3〜40質量%、より好ましくは5〜30質量%、さらに好ましくは5〜20質量%である。該油脂の含有量が3質量%未満では、得られるパン生地の伸展性が悪化するおそれがあり、その場合、得られるパン類の体積が減少し、また食感や老化耐性が悪化してしまうおそれもある。また、40質量%超では、得られるパン生地が、べとつきやすく、油分が分離しやすくなる。
尚、本発明のフラワーペースト類に、油脂を含有する副原料を使用した場合は、上記油脂の含有量には、それらの副原料に含まれる油脂分も含めるものとする。
【0031】
また、本発明のフラワーペースト類は、糖類を含有することができる。
上記糖類は、上記澱粉類のような高分子の糖類以外の単糖類、二糖類、オリゴ糖等の低分子の糖類であれば特に限定されず、例えば、上白糖、グラニュー糖、粉糖、液糖、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、乳糖、酵素糖化水飴、還元澱粉糖化物、異性化液糖、ショ糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、還元乳糖、ソルビトール、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖等が挙げられる。これらの糖類は、単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
上記糖類の含有量は、本発明のフラワーペースト類中、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0032】
また、本発明のフラワーペースト類は、実質的にトランス酸を含まないことが好ましい。水素添加は、油脂の融点を上昇させる典型的な方法であるが、水素添加油脂は、完全水素添加油脂(極度硬化油脂)を除いて、通常、構成脂肪酸中にトランス酸が10〜50質量%程度含まれている。一方、天然油脂中にはトランス酸が殆ど存在せず、反芻動物由来の油脂に10質量%未満含まれているにすぎない。近年、化学的な処理、特に水素添加に付されていない油脂組成物、即ち実質的にトランス酸を含まない油脂組成物であって、適切なコンシステンシーを有するものも要求されている。ここでいう「実質的にトランス酸を含まない」とは、油脂の全構成脂肪酸中、トランス酸の含有量が好ましくは10質量%未満、さらに好ましくは5質量%以下、最も好ましくは1質量%以下であることを意味する。本発明においては、油脂として、上記極度硬化油脂、天然油脂、並びに該天然油脂に分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂から選択される1種又は2種以上を組み合わせて用いることにより、実質的にトランス酸を含まないフラワーペースト類を簡単に得ることができる。
【0033】
また、本発明のフラワーペースト類は、合成乳化剤を含有しないことが好ましい。
上記の合成乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等が挙げられる。
【0034】
本発明のフラワーペースト類には、上記合成乳化剤でない乳化剤を用いることができる。該乳化剤としては、例えば、大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄、乳脂肪球皮膜蛋白質が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0035】
その他、本発明のフラワーペースト類には、通常フラワーペースト類の原料として使用し得る成分を使用することが可能であり、例えば、水、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、牛乳・練乳・脱脂粉乳・カゼイン・ホエーパウダー・バター・クリーム・ナチュラルチーズ・プロセスチーズ・発酵乳等の乳や乳製品、ステビア・アスパルテーム等の甘味料、β−カロチン・カラメル・紅麹色素等の着色料、トコフェロール・茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白等の植物蛋白、ホエー蛋白濃縮物・トータルミルクプロテイン等の乳蛋白や動物蛋白、卵及び各種卵加工品、着香料、乳製品、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、香辛料抽出物、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0036】
本発明のフラワーペースト類は、水分を30〜85質量%、特に50〜85質量%含有することが好ましい。ここでいう水分には、水の他、上記の乳や乳製品、卵及び各種卵加工品等の水分を含む原料に由来する水分も含める。
【0037】
次に、本発明のフラワーペースト類の好ましい製造方法について述べる。
本発明のフラワーペースト類は、水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維を含有するフラワーペースト原料を、均質化処理した後、加熱することによって得ることができる。
【0038】
具体的には、まず、水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維、油脂、糖類、水等のフラワーペースト原料を、加熱溶解、乳化混合して予備乳化組成物を作成する。該予備乳化組成物を作成する際、水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維は、水相に添加するのが好ましい。尚、増粘安定剤を添加する場合は、作業性の点から、該予備乳化組成物の作成の際、油相に添加するのが好ましい。
【0039】
得られた予備乳化組成物は、バルブ式ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミル等の均質化装置により、好ましくは圧力0〜800kg/cm2 範囲で、均質化した後、加熱する。加熱は、インジェクション式、インフージョン式等の直接加熱方式、あるいはプレート式、チューブラー式、掻き取り式等の間接加熱方式を用いたUHT、HTST、バッチ式、レトルト、マイクロ波加熱等の加熱滅菌若しくは加熱殺菌処理、あるいは直火等を用いた加熱調理により行なうことができるが、膨潤抑制澱粉の糊化度を適度に抑制することが可能な点で、100〜140℃でのUHT、HTST等の加熱滅菌若しくは加熱殺菌処理を使用することが好ましい。
【0040】
また、加熱後には、必要により、再度均質化してもよい。また、加熱後には、必要により、急速冷却、徐冷却等の冷却操作を施したり、エージングを行ってもよい。更に、得られた本発明のフラワーペースト類は、必要により、冷蔵状態もしくは冷凍状態で保存してもよい。
【0041】
次に本発明のベーカリー生地について述べる。
本発明のベーカリー生地は、上記の本発明のフラワーペースト類を練込んでなるものであり、従来の保水剤を使用したベーカリー生地に比べて粘つきが低減されているものである。
【0042】
上記のベーカリー生地としては、例えば、クッキー生地、パイ生地、シュー生地、サブレ生地、スポンジケーキ生地、バターケーキ生地、ケーキドーナツ生地等の菓子生地や、食パン生地、フランスパン生地、デニッシュ生地、スイートロール生地、イーストドーナツ生地等のパン生地が挙げられるが、本発明のベーカリー生地は、吸水量を増加させた際のベーカリー生地物性の改良効果が特に優れている点、得られるベーカリー製品のソフト性向上効果が高い点から、パン生地であることが好ましい。特に、本発明のベーカリー生地は多加水パン生地であることが好ましい。
【0043】
ここで、本発明における多加水パン生地は、パン生地に使用する澱粉類(フラワーペースト類に含まれる澱粉類を含む)100質量部に対し水を65〜150質量部、好ましくは65〜100質量部、さらに好ましくは70〜90質量部含むものである。尚、上記の多加水パン生地における水の含有量は、ベーカリー生地の調製に使用される天然水や水道水に加え、本発明のフラワーペースト類中の水分や、後記のその他の原料中の水分も含めたものである。
【0044】
本発明のベーカリー生地における本発明のフラワーペースト類の練込量は、ベーカリー生地の種類に応じ適宜選択可能であるが、例えば、菓子生地であれば、菓子生地に含まれる澱粉類(フラワーペースト類に含まれる澱粉類を含む)100質量部に対し好ましくは2〜100質量部、より好ましくは4〜50質量部、さらに好ましくは4〜25質量部となるようにする。また、パン生地である場合は、パン生地に含まれる澱粉類(フラワーペースト類に含まれる澱粉類を含む)100質量部に対し好ましくは2〜50質量部、より好ましくは4〜20質量部、さらに好ましくは4〜10質量部となるようにする。
【0045】
本発明のベーカリー生地には、原材料として水及び澱粉類が使用される。本発明のベーカリー生地に使用する水としては、特に限定されず、天然水や水道水等が挙げられる。本発明のベーカリー生地に使用する澱粉類としては、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、全粒粉等の小麦粉類、ライ麦粉、大麦粉、米粉等のその他の穀粉類、アーモンド粉、へーゼルナッツ粉、カシューナッツ粉、オーナッツ粉、松実粉等の堅果粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、モチ米澱粉等の澱粉や、α化処理、分解処理、エーテル化処理、エステル化処理、架橋処理、微細化、グラフト化処理等の中から選ばれた1種又は2種以上の処理を施した化工澱粉等が挙げられる。
【0046】
本発明のベーカリー生地には、必要に応じ、一般の製菓・製パン材料として使用することのできるその他の原料を使用することができる。該その他の原料としては、例えば、油脂、イースト、糖類、全卵・卵黄・卵白・加塩全卵・加塩卵黄・加塩卵白・加糖全卵・加糖卵黄・加糖卵白・乾燥全卵・乾燥卵黄・凍結全卵・凍結卵黄・凍結卵白、凍結加糖全卵・凍結加糖卵黄・凍結加糖卵白・酵素処理全卵・酵素処理卵黄等の卵類、ゲル化剤や増粘安定剤、ステビア・アスパルテーム・スクラロース・アセスルファムカリウム等の甘味料、β−カロチン・カラメル・紅麹色素等の着色料、トコフェロール・茶抽出物等の酸化防止剤、デキストリン、カゼイン・ホエー・クリーム・脱脂粉乳・醗酵乳・牛乳・全粉乳・ヨーグルト・練乳・加糖練乳・全脂練乳・脱脂練乳・濃縮乳・純生クリーム・ホイップ用クリーム(コンパウンドクリーム)・植物性ホイップ用クリーム等の乳や乳製品、ナチュラルチーズ・プロセスチーズ・クリームチーズ・ゴーダチーズ・チェダーチーズ等のチーズ類、原料アルコール、焼酎・ウイスキー・ウオッカ・ブランデー等の蒸留酒、ワイン・日本酒・ビール等の醸造酒、各種リキュール、グリセリン脂肪酸エステル・グリセリン有機酸脂肪酸エステル・ソルビタン脂肪酸エステル・ショ糖脂肪酸エステル・ショ糖酢酸イソ酪酸エステル・ポリグリセリン脂肪酸エステル・ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル・プロピレングリコール脂肪酸エステル・ステアロイル乳酸カルシウム・ステアロイル乳酸ナトリウム・ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド・レシチン・リゾレシチン等の乳化剤、膨張剤、無機塩類、食塩、ベーキングパウダー、イーストフード、生地改良剤、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品、ハーブ、豆類、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、保存料、苦味料、酸味料、pH調整剤、日持ち向上剤、酵素、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、調味料、香辛料、香料、野菜類・肉類・魚介類等の食品素材、コンソメ・ブイヨン等の植物及び動物エキス、食品添加物等を挙げることができる。
【0047】
上記油脂としては、例えば、ショートニング・マーガリン・バター等の可塑性油脂組成物や、サラダ油・流動ショートニング・溶かしバター等の流動状油脂組成物、また、粉末油脂等が挙げられる。また、油脂組成物が乳化物である場合、その乳化形態は、油中水型、水中油型、及び二重乳化型のいずれでも構わない。
【0048】
上記の糖類としては、上白糖、グラニュー糖、粉糖、ブドウ糖、果糖、蔗糖、麦芽糖、乳糖、酵素糖化水飴、還元澱粉糖化物、異性化液糖、蔗糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、還元乳糖、還元水飴、ソルビトール、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、はちみつ等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0049】
上記その他の原料は、本発明の目的を損なわない限り、任意に使用することができるが、上記澱粉類100質量部に対して合計で好ましくは100質量部以下、より好ましくは50質量部以下となる範囲で使用する。
【0050】
次に、本発明のベーカリー生地の製造方法について述べる。
本発明のベーカリー生地は、ベーカリー生地製造の際に、上記の本発明のフラワーペースト類をベーカリー生地中に均質に練込むことによって得ることができ、上記の本発明のフラワーペースト類を使用する以外は、一般的なベーカリー生地の製造方法によって得ることができる。
【0051】
本発明のフラワーペースト類のベーカリー生地への添加時期や添加方法は特に限定されず、ベーカリー生地に使用する水や、牛乳・クリーム等の水分を多く含有する原材料と同様に使用することができる。
【0052】
本発明のベーカリー生地は、上述のように多加水パン生地であることが好ましいため、以下、本発明のベーカリー生地が多加水パン生地である場合について詳しく述べる。
【0053】
本発明の多加水パン生地に使用する水としては、上述のベーカリー生地に使用する水と同様のものを使用することができる。
本発明の多加水パン生地に使用する澱粉類としては、上述のベーカリー生地に使用する澱粉類と同様のものを使用することができるが、本発明の多加水パン生地においては、澱粉類中、好ましくは小麦粉類を50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは100質量%使用する。
本発明の多加水パン生地は、必要に応じ、一般の製パン材料として使用することのできるその他の原料を使用することができる。該その他の原料としては、上述のベーカリー生地に使用するその他の原料と同様のものを使用することができる。
【0054】
本発明の多加水パン生地における油脂の含有量は、多加水パン生地における澱粉類(フラワーペースト類に含まれる澱粉類を含む)100質量部に対し、油脂純分として、好ましくは5〜50質量部、より好ましくは5〜20質量部である。尚、ここでいう油脂純分は、前記の油脂のほか、本発明のフラワーペースト類中の油分及びその他の原料中の油分も含めたものである。
本発明の多加水パン生地における糖類の含有量は、多加水パン生地における澱粉類(フラワーペースト類に含まれる澱粉類を含む)100質量部に対し、固形分として、好ましくは5〜50質量部、より好ましくは5〜20質量部である。
上記その他の原料は、本発明の目的を損なわない限り、任意に使用することができるが、上記澱粉類(フラワーペースト類に含まれる澱粉類を除く)100質量部に対して合計で好ましくは100質量部以下、より好ましくは50質量部以下となる範囲で使用する。
【0055】
本発明の多加水パン生地は、多加水パン生地製造の際に、本発明のフラワーペースト類を多加水パン生地中に均質に練込むことによって得ることができ、本発明のフラワーペースト類を使用する以外は、一般的なパン生地の製造方法によって得ることができる。
尚、上記本発明のフラワーペースト類の多加水パン生地への添加時期や添加方法は特に限定されず、パン生地に使用する水と同様に使用することができ、中種法の場合は中種生地に練込使用しても本捏生地に添加してもよい。
【0056】
次に、本発明のベーカリー製品について述べる。
本発明のベーカリー製品は、上記の本発明のベーカリー生地を、適宜、成形し、必要に応じホイロ、リタード、レストをとった後、加熱したものである。
【0057】
上記成形においては、どのような形状に成形してもよく、型詰めを行っても構わない。これらの成形は、手作業で行っても、連続ラインを用いて全自動で行っても構わない。
【0058】
上記加熱としては、例えば、焼成、フライ、蒸し、蒸し焼きが挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上の処理を行うことができる。
焼成する場合の加熱条件は、ベーカリー製品の種類によって異なるが、例えばオーブンを使用する場合、好ましくは150〜240℃で4〜40分、さらに好ましくは180〜230℃で8〜30分である。また、フライする場合の加熱条件は、好ましくは180〜260℃で1〜10分、さらに好ましくは200〜250℃で2〜5分である。
【0059】
本発明のベーカリー製品は、ソフトでしっとりしていながら、ねちゃつきのない良好な食感を有する。特に多加水パン生地から得られたパンである場合は、水分含量の高いパン生地を使用していながら、それらの特徴に加え、腰持ちも良好である。
【0060】
さらに、本発明のベーカリー製品の品質改良方法について述べる。
本発明のベーカリー製品の品質改良方法は、水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維を含有するフラワーペースト類を、澱粉類含有生地に練込使用することで、ソフトでしっとりしていながら、ねちゃつきのない良好な食感を有するベーカリー製品とするものである。水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維を含有するフラワーペースト類としては、前述の本発明のフラワーペースト類を使用すればよい。特にベーカリー製品がパンである場合は、水分含量の高いパン生地を使用していながら腰持ちが良好であり、且つ、ソフトでしっとりしていながら、ねちゃつきのない良好な食感を有するパンを得ることができる。
尚、本発明のベーカリー製品の品質改良方法において、特に詳述しなかった点については、前述の本発明のフラワーペースト類、ベーカリー生地及びベーカリー製品における説明を適宜適用することができる。
【実施例】
【0061】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、これらの実施例等により制限されるものではない。
【0062】
<フラワーペーストの製造>
〔実施例1〕
60℃に加温したパーム油のランダムエステル交換油脂9質量%を油相とした。一方、60℃に加温した水79質量%にコーン由来のリン酸架橋デンプン3質量%、蛋白質濃縮ホエイパウダー1質量%、脱脂粉乳7質量%を溶解し、さらに低置換度カルボキシメチルセルロース(日本製紙ケミカル製、商品名「サンローズSLD−FM」、置換度=0.2〜0.3)1質量%を添加・分散した水相を用意した。該油相と水相を65℃で加熱溶解、混合、乳化、均質化後、加熱殺菌し、厚さ0.2mmポリエチレン製の包材にピロー充填後、22℃まで冷却し、合成乳化剤無添加で、ペースト状であるフラワーペーストAを得た。
【0063】
〔実施例2〕
実施例1における水の配合量を79質量%から77質量%に、低置換度カルボキシメチルセルロース1質量%を3質量%に変更した以外は実施例1の配合・製法でフラワーペーストBを得た。
【0064】
〔実施例3〕
実施例1における水の配合量を79質量%から75質量%に、低置換度カルボキシメチルセルロース1質量%を5質量%に変更した以外は実施例1の配合・製法でフラワーペーストCを得た。
【0065】
〔実施例4〕
実施例1における水の配合量を79質量%から73質量%に、低置換度カルボキシメチルセルロース1質量%を7質量%に変更した以外は実施例1の配合・製法でフラワーペーストDを得た。
【0066】
〔実施例5〕
実施例1における水の配合量を79質量%から75質量%に、低置換度カルボキシメチルセルロース1質量%を5質量%に、コーン由来のリン酸架橋デンプン3質量%からコーンスターチ3質量%に変更した以外は実施例1の配合・製法でフラワーペーストEを得た。
【0067】
〔実施例6〕
低置換度カルボキシメチルセルロースに代えて、シトラスファイバー(鳥越製粉製、商品名「シトリファイ100FG」)を使用した以外は、実施例3の配合・製法と同様にして、フラワーペーストFを得た。
【0068】
〔実施例7〕
低置換度カルボキシメチルセルロースに代えて、小麦ファイバー(三晶株式会社製、商品名「VITAGEL WF200」)を使用した以外は、実施例3の配合・製法と同様にして、フラワーペーストGを得た。
【0069】
〔比較例1〕
低置換度カルボキシメチルセルロースを無添加とし、水を75質量%から80質量%に変更した以外は、実施例3の配合・製法と同様にして、比較例のフラワーペーストHを得た。
【0070】
〔比較例2〕
低置換度カルボキシメチルセルロースを水溶性の増粘多糖類であるキサンタンガムに変更した以外は、実施例3の配合・製法と同様にして、比較例のフラワーペーストIを得た。
【0071】
以上で得られた実施例1〜7及び比較例1〜2のフラワーペーストA〜Iを用い、ベーカリー生地製造試験及びベーカリー試験を行った。以下に、これらの試験について詳しく説明する。
【0072】
上記フラワーペーストA〜Iを使用した場合の最適吸水量を設定するため、先ず下記の「ベーカリー生地製造試験」を行った。
即ち、先ず、フラワーペーストA〜G、Iを、ベーカリー生地に使用する澱粉類100質量部あたり(以下「対粉」と記載することがある)5質量部練込使用した場合に、生地状態が、食物繊維無添加の比較例1のフラワーペーストHを使用した場合と同様の物性となる吸水量(最適吸水量)を求める。食物繊維無添加のフラワーペーストHを対粉5質量部使用した場合、最適な生地物性となる水の添加量は対粉57質量部であった。そこで、水の添加量を対粉57質量部、59質量部、61質量部、63質量部、65質量部、67質量部、69質量部、71質量部、73質量部、75質量部とした10種のパン生地を、各フラワーペーストを使用してそれぞれ製造し、その生地物性(成型時の伸展性とべたつき)を評価し、最適吸水量を設定した。各フラワーペーストを用いた場合の最適吸水量を表1に記載した。尚、生地物性評価が同一である場合は、生地吸水量の多い方を最適吸水量とした。また、あわせて、最適吸水量のパン生地中の総吸水量(得られたベーカリー生地に含まれる全水分の合計値)についても表1に記載した。そして、設定された最適吸水量の水を使用して改めて下記の「ベーカリー試験」を行い、得られたパンの評価を行った。
【0073】
以下、ベーカリー生地製造試験及びベーカリー試験の詳細な方法について述べる。
<ベーカリー生地製造試験>
強力粉100質量部、生イースト(水分含量70質量%)3質量部、イーストフード0.1質量部、上白糖6質量部、食塩1.8質量部、脱脂粉乳2質量部、フラワーペースト5質量部及び水(57・59・61・63・65・67・69・71・73・75質量部の10点)をミキサーボウルに投入し、フックを使用し、低速で3分、中速で2分、高速で1分ミキシングした。ここで、練込油脂(水分含量17質量%、油分含量80質量%のマーガリン)5質量部を投入し、フックを使用し、低速で3分、中速で3分、高速で1分ミキシングを行ない、食パン生地を得た。得られた食パン生地の捏ね上げ温度は28℃であった。
ここで、フロアタイムを20分とった後、350gに分割し丸めを行なった際の生地物性について、粘つきもなく、伸展性が良好であり、良好な作業性であった吸水量のパン生地を得た場合、そのときの水の使用量を最適吸水量と判断した。
【0074】
<ベーカリー試験>
上記ベーカリー生地製造試験における水の添加量を、上記ベーカリー生地製造試験で決定した最適吸水量とした以外は、上記ベーカリー生地製造試験の配合・製造で食パン生地を得た。
ここで、フロアタイムを20分とった後、350gに分割・丸目を行なった。次いで、ベンチタイムを20分とった後、モルダー成形し、ワンローフ型に入れ、38℃、相対湿度85%で50分ホイロをとった後、200℃に設定した固定窯に入れ35分焼成してワンローフ型食パンを得た。
得られたワンローフ型食パンの体積、内相、食感(ソフト性及び歯切れ)について、下記評価基準に従って4段階で評価し、それらの結果を表2に記載した。また、得られたワンローフ型食パンの一部は、5℃の冷蔵庫で2日保管した後、食パンの2日後の食感について、下記評価基準により評価を行ない、これを老化耐性の評価とし、同様に結果を表2に記載した。
【0075】
(評価基準)
・外観(体積)
◎:1550ml〜
○:1450〜1549ml
△:1350〜1449ml
×:〜1349ml
・内相(キメ)
◎:気泡膜が薄く、とても細やかで均一である。
○:気泡膜が薄く、均一である。
△:不均一で、やや目が詰まっている。
×:気泡膜が厚く、不均一で、目が詰まっている。
・食感(ソフト性)
◎:きわめて良好
○:良好
△:やや悪い
×:悪い
・食感(歯切れ)
◎:きわめて良好
○:良好
△:ややねちゃつく
×:ねちゃつきが激しい
・2日後の食感
◎:ソフトで歯切れも良好である。
○:ソフトである。
△:硬い食感でありやや悪い。
×:硬い食感でヒキが強く極めて悪い。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維を0.5〜12質量%含有してなることを特徴とするフラワーペースト類。
【請求項2】
上記水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維が、低置換度カルボキシメチルセルロースである請求項1記載のフラワーペースト類。
【請求項3】
請求項1又は2記載のフラワーペースト類を練込んでなるベーカリー生地。
【請求項4】
パン生地である請求項3記載のベーカリー生地。
【請求項5】
多加水パン生地である請求項4記載のベーカリー生地。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれかのベーカリー生地を加熱してなるベーカリー製品。
【請求項7】
水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維を含有するフラワーペースト類を、澱粉類含有生地に練込使用することを特徴とするベーカリー製品の品質改良方法。

【公開番号】特開2011−223899(P2011−223899A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94716(P2010−94716)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】